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Posted by 八少女 夕

【小説】大道芸人たち 2 (5)ミュンヘン、弔いの鐘 -3-

3つに分けた「ミュンヘン、弔いの鐘」の最後です。日本でもクラスというのはあるんですが、ヨーロッパだとそれがもっとはっきりしているような思います。お金があるとか、大学に行ったとか、そういう違いの他に、もうひとつ目に見えない壁があるように思います。

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あらすじと登場人物




大道芸人たち Artistas callejeros 第二部
(5)ミュンヘン、弔いの鐘 -3-


 ヴィルは大きく頷いた。

「俺の住所はここに移さなくてはならなくなる。必然的に蝶子もそうなるだろう。よかったら、あんた達二人も、一緒にしておかないか」

「僕に異議はありません。ドイツでもスペインでも」
「あんたがヴィザを用意してくれるなら、俺にも異存はないぜ」

「すぐにスペイン人と結婚するんじゃないの?」
蝶子がちゃかした。

「ヴィザやパスポートのために色仕掛けはしないって言っただろう」
稔が混ぜっ返した。

「パスポートといえば、俺とあんたのは書き換えになる」
ヴィルが蝶子に言った。

「なんで、またパスポートを書き換えるの? 先々週、書き換えたばっかりじゃない」
蝶子は訊いた。

「名前に称号が加わるんだ」
「は?」
「相続するとなると、領土やこの館だけでなくて、爵位もまとめてなんだ」

「え? ただのお金持ちじゃなくて、本当に貴族だったの?」
蝶子は驚いて言った。

「大した称号じゃない。イダルゴのと変わりない。ただ、パスポートにはそう書かれるんだ」
「なんて?」
「あんたは蝶子・フライフラウ・フォン・エッシェンドルフになる」
「あら。教授についてたフライヘルってのは三つ目の名前じゃなかったのね」

「フライヘルってなんだ?」
稔が訊いた。

「英語でいうとバロン、男爵だ」
「へえ、男爵に男爵夫人かよ。すげえ」

「だから、フランス警察が慌てたんですね」
レネも感心していった。

「そういう称号を持った人間が大道芸人なんてしていいわけ?」
蝶子が疑わしそうに訊いた。

「ダメだという法律はないと思うが、ミュンヘンではおおっぴらに公道には立たない方がいいだろうな」
「やっぱり」

「そうだよな。俺たちはこれからでもいつでも英国庭園で稼げるけれど、お前はもう絶対に無理だよな」
「そうね。ちょっと残念。そうと知っていたら例のパーティの前にでもやっておいたのに」

「そんなにあそこで稼ぎたければ、そのうちに『銀の時計仕掛け人形』をやればいい」
ヴィルはすましてワインを飲んだ。

 三人はにやりと笑った。広大な領地を相続しようが、男爵様になろうがヴィルは変わる氣はまったくなさそうだった。

「さてと。今朝の新聞に死亡広告が出たからそろそろ弔問客がぞろぞろやってくる。あんたと俺は、好奇の目にさらされるだろう。覚悟しておいてくれ」

「わかっているわ。こうなったら隠れているわけにいかないもの。私も喪服に着替えてこなくちゃ。まだあるといいけれど」
蝶子は、逃げる時に置いて行った喪服のことを考えた。

「あんたのものはみんな残っている。例の真珠は金庫の中だ。今すぐいるか?」
「まさか。あんなすごい真珠は、葬儀の日だけで十分よ」
結局、教授にもらったプレゼントを再び使うことになっちゃうわね、蝶子は複雑な心境だった。

「俺たちは、どうしている方がいい? さっさとスペインに帰った方がいいか、葬儀までここにいてなんか手伝いをするか」
「ここにいるといい。あんたたちがいるほうが、蝶子も氣が楽だろうから」
ヴィルはそういって出て行った。マイヤーホフが指示を待っているので、のんびりとはしていられなかった。

「大変だなあ。ただの葬式だって、てんてこまいなのに、男爵様の葬式だもんな」
「しかも、失踪していたのに突然呼び出されてですからねぇ。こんな複雑な事情のお葬式、滅多にないかもしれませんね」
稔とレネはひそひそと話した。

 あのヴィルがワインを空にしないで行ってしまった。もったいないから、飲んでしまおう。稔とレネは勝手に解釈して、応接室に残って飲んでいた。

 ヴィルはすぐにミュラーに頼んで仕立て屋を呼んでもらった。仕立て屋は、目を丸くしている稔とレネの寸法をさっさと測り、翌日には二人分の喪服が届けられた。

* * *


 弔問客の中には、市長夫妻をはじめ、あのパーティに招待されていた人々がいた。再び失踪したという噂のアーデルベルトが館に帰っている事には驚かなかった。上流社会ではそういう話は珍しくない。しかし、そのアーデルベルトが、「あの女」と結婚していたという事実には驚愕した。それだけでなく、あの時にアーデルベルトに殴り掛かりそうになっていた、「あの女」の連れの日本人が、喪服を着て葬儀の手伝いをしている。市長夫人は、しばらく瞬きも忘れ、用意してきたお悔やみの美辞麗句を思い出す事も出来なかった。

「わざわざお越しいただきましてありがとうございます、市長夫人。こちらは妻の蝶子です」
アーデルベルト・フォン・エッシェンドルフは、まったくの無表情で妻を紹介した。蝶子は悪びれた様子もなく「はじめまして」と手を出した。それで、市長夫人は、我に返って態度を取り繕った。

「それから、こちらは私どもの親しい友人で、安田氏とロウレンヴィル氏です」
「はじめまして」

 稔とレネも英語で澄まして挨拶した。パーティにいた客たちの呆け面が、判を押したようだったので、彼らが帰る度に稔は別の部屋に隠れて身をよじって笑った。

 ヴィルは、葬儀の厳粛で沈痛な雰囲氣のうちに、蝶子を出来るだけ多くの人間に紹介してしまうつもりだった。ただの社交の中では意地悪い扱いをしようとする人たちも、弔問中には攻撃の手を緩めざるを得ない。この場で優しく「よろしく」と言わせてしまえば、あとはこっちのものだ。

 ヴィルは社交界に積極的に進出するつもりはなかったが、まったく関わらないままでいる事も出来ないのをよくわかっていた。稔とレネも、この際に社交デビューさせてしまえば、あとで彼らが常に側にいる事を、使用人たちを含め、誰にも文句を言わせずに済む。それがヴィルの狙いだった。

 市長夫人はゴシップ女だったらしく、翌日からどう考えても教授と親交があったとは思えないご婦人方が興味津々の心持ちを喪服に包んで、弔問に押し掛けた。教授の音楽の知り合い、弟子たちも次々とやってきた。中には教授に婚約者として蝶子を紹介された事のある人たちもいた。蝶子もヴィルも平然と好奇の目に耐えた。

「僕にはとても我慢できないでしょうね」
レネはヤスミンに打ち明けた。

「そうね。きっとある事ない事言われるんでしょうね。頑張っているわ、二人とも」
ヤスミンは喪服を持参して手伝いにきていた。

「でも、これをやっちゃった方がいいっていうテデスコの判断は間違っていないよな」
稔はようやく慣れてきたアクアヴィットをちびちびとなめながら言った。

 受け取るのは銀行預金だけじゃない。あのときのヴィルの言葉は、こういう事も含んでいたのだ。稔やレネにとってはなんのデメリットもないヴィルの相続だった。だが、こうなってみてはじめて、稔は蝶子とヴィルが戦わざるを得ない事を知った。二人ともそれに耐えうる強靭な神経を持ち、自分たちの人生を切り開けることも。

「フロイライン・四条」
マイヤーホフが、つい以前呼んでいたままの呼び名で蝶子を呼んだとき、ヴィルははっきりと訂正した。
「フラウ・フォン・エッシェンドルフだ」

 その調子が珍しく厳しく、それを感じたマイヤーホフは、平謝りして氣の毒なほどだったので、蝶子は言った。
「蝶子と呼んでくださっていいのよ」

 マイヤーホフはヴィルに対してはファーストネームで呼んでいるのを知っていたからだ。けれど、マイヤーホフは蝶子に親しみを示そうとしなかった。蝶子はそれでマイヤーホフにわだかまりがあるのを知った。ミュラーもそうだった。

 マリアンは蝶子に同情を示していた。いずれにしてもマリアンはエッシェンドルフ教授よりもヴィルの方がずっと蝶子にお似合いだと昔から思っていたのだ。二人が出会うずっと前から。

 いつの間にか、マイヤーホフとミュラーは蝶子を「フラウ・シュメッタリング」と呼ぶようになった。ヴィルは二人の前ではいつも蝶子と呼んでいたので、彼らにしてみれば教授の呼び方を踏襲した嫌みな呼び方のつもりだったのかもしれないが、かつてはヴィルが、今はヤスミンが「シュメッタリング」の呼び方を使っていたので、蝶子にはなんともなかった。

 葬儀には、たくさんの弔問客が来た。二人を力づけようと、ヤスミンはアウグスブルグ軍団に連絡を取り、劇団員が山のようにやってきた。カルロスとサンチェス、それにイネスとマリサ、カデラス氏やモンテス氏もやってきた。稔とレネももちろん二人の近くにいた。

 マイヤーホフや教授と親しかった人たちは、エッシェンドルフが変わり、これまでとは違っていることをはっきりと知った。アーデルベルト様は亡くなられた旦那様のコピーでいるつもりはまったくないのだ。
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Tag : 小説 連載小説

Posted by 八少女 夕

実りの秋

葡萄が実る

夏を惜しんで、「この寒さは何かの間違い」と念仏を唱え続けていましたが、やはりとっくに夏は終わっていたらしいです。暦の上でももう堂々たる秋で、9月の頭からは狩りのシーズンが始まっているので、レストランでもスーパーでもジビエ料理推し(笑)

周りの植生もどんどん秋色になっていて、そろそろ今年のワインが準備される頃になってきました。

普段なら、こういう本格的な秋になる前に遅い夏休みを取って旅行に行くんですが、今年は日本に行く予定があるためにまだ休暇を取っていません。その日本行きも、まもなく。

せっかくですから日本の秋を存分に楽しもうと思っています。
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Posted by 八少女 夕

【キャラクター紹介】番外編・人間以外

久しぶりのキャラクター紹介の記事です。発表済みの作品や、まだ発表していない作品のキャラクターをちょこちょこっと紹介して、作品に親しみを持ってもらおうかな、という姑息な企画の第5回目。

なんですが、今回はちょっと趣向を変えて、人間じゃないキャラクターを並べてみましょう。そんなのほとんどいないと思っていましたが、意外とあちこちにいました。ここでは、かなり重要な役割を果たすキャラクターだけ並べてみました。


【基本情報】
 作品群: 「夜のサーカス」シリーズ
 名前: ヴァロローゾ
 種: ライオン
 居住地: イタリア
 年齢: 本編中では4歳。
夜のサーカスと鬱金色の夕暮れ
 
サーカス「チルクス・ノッテ」で曲芸用に飼われている。何匹か居る中で、ライオン使いのマッダレーナとの相性が一番いい雄ライオンとして登場。ヒロイン、ステラが狼に襲われた時に吠えて追い返してくれた他、ストーリー上のここぞという時に大事な役割を果たす。

* * *


【基本情報】
 作品群: 「タンスの上の俺様」シリーズ
 名前: ニコラ(俺様ネコ)
 種: 猫
 居住地: 日本
 年齢: 不詳。主に仔猫として登場。
Oresama
 
もともとは、招き猫だったが、天命を全うしたので願い通りに猫として生まれ変わったという設定。特に何かができるわけではないのだが、どういうわけだかウルトラ上から目線で、態度が悪い。おそらく、ブログ小説界でもっとも感じが悪く愛されないタイプの猫。意外とグルメ。

* * *


【基本情報】
 作品群: 「ニューヨークの異邦人」シリーズ「郷愁の丘」(未発表)
 名前: ルーシー
 種: 犬、ローデシアン・リッジバック
 居住地: ケニア
 年齢: 5歳
Rhodesian ridgeback głowa rzut z przodu
From Wikimedia Commons, the free media repository
 
現在執筆中の「郷愁の丘」に出てくる。ヘンリー・G・スコット博士の飼い犬で、ケニア東部の「郷愁の丘」とは呼ばれる地域に住んでいる。ルーシーという名前は、1974年に発見された人類の祖先アウストラロピテクス・アファレンシスの化石の愛称から。ローデシアン・リッジバックはライオンにも立ち向かう勇猛な犬で、ルーシーも例に漏れず優秀な番犬。普段は飼い主以外には懐かない。ただし、ヒロインであるジョルジアにははじめから懐いた。すみません、一生懸命書いています。もう少々お待ちください。

* * *


【基本情報】
 作品群: 「樋水龍神縁起」シリーズ
 名前: 樋水龍王神
 種: 龍、もしくは、川
 居住地: 島根県奥出雲樋水村
 年齢: 不詳
 
ここに並べるのはどうかと思ったけれど、ついでに。島根県奥出雲にある架空の樋水村にある樋水龍王神社の主神で樋水川の神格化。神社の奥にある龍王の池と呼ばれる池の誰も見た事がないという瀧壺にとぐろを巻いていると言われている。神出鬼没で水のあるところには自在に出没できるらしい。その辺の川にいることもあれば、ほうれん草やパスタを茹でているお湯の中にもいる一方、どこにもいない空の存在でもある。
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Tag : キャラクター紹介

Posted by 八少女 夕

【小説】大道芸人たち 2 (5)ミュンヘン、弔いの鐘 -2-

3つに分けた「ミュンヘン、弔いの鐘」の第2回です。この4人、いろいろなことを
多数決で即決していくのに慣れていて、今回も大切なことをあっさりと決めています。人生には、時おりこういうことがあります。本当はもっとじっくり考えて決めたいけれど、そういう大問題ほど急いで決めなくてはならないのですよね。そして、後で「あの時がターニングポイントだったんだな」と思ったりするのかもしれません。


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あらすじと登場人物




大道芸人たち Artistas callejeros 第二部
(5)ミュンヘン、弔いの鐘 -2-


「ヴィル? ああ、よかった。連絡がこないので心配していたのよ」
「蝶子。あんたと早急に話をしなくてはならない。だが電話で話せるようなことじゃない。葬儀まではやることがありすぎて、俺はスペインには戻れない。たぶん、あんたはここには来たくないだろうが、ミュンヘンか、それとも少なくともゲルテンドルフあたりにでも来てくれないか」

「いいわよ。明日、そっちに行くわ。平氣よ。迎えなんかいらないわ。道はわかっているもの」
そう答える蝶子を横目で見て、稔とレネは顔を見合わせた。

「行くのかよ」
電話を切った蝶子に稔が問いかけた。

「なにかとても大切な話があるんですって」
「なんだよ、それ。大丈夫なのか?」
「危険があるようには聞こえなかったけれど」

 蝶子の答えに、レネは心配そうに眉をひそめた。稔はじっと考えていたが、やがて言った。
「俺たちも行こう。もしかしたら助けが必要かもしれないし。もし、俺たちに用がなければ、俺たちはミュンヘンで稼げばいいじゃないか」

 レネも力強く頷いた。蝶子はほっとして笑った。
「またサンチェスさんに予約をお願いしてくるわね。すぐ出られるようにしてね」

「今度は、三味線持っていくぞ」
「ミュンヘンに行くって、ヤスミンに電話してこようっと」
三人はばたばたと行動に移った。

* * *


 翌日の午前の便が取れたので、二時にはもう三人はエッシェンドルフの館の前にいた。

 館に行くこと自体は怖くなかった。教授がもういないなら恐れるものはなかった。けれど、使用人たちの前にどんな顔をして入っていっていいのか、蝶子にはわからなかった。

「いいか。俺たちは外で待機している。三十分経ってもお前が戻ってこなかったら、突入するから」
蝶子の緊張の面持ちを見て、稔は言った。蝶子は笑った。
「心強いわ。行ってくるわね」

 以前と同じように手入れの行き届いた石畳の小道を通って、蝶子は玄関に向かった。意を決して呼び鈴を鳴らす。出てきたのは喪服を着たマリアンだった。

「まあ、蝶子様。ようこそ。アーデルベルト様がお待ちですわ」
「ありがとう、マリアン」

「あの、こんなときですけれど……」
「え?」
「ご結婚、おめでとうございます」

 蝶子は困ったように笑った。マリアンは皮肉ではなくて本心から言っているようであった。
「ありがとう」

 そうやって話している時に、階段の上からヴィルが降りてきた。やはり喪服を着ていた。
「蝶子。悪かったな。呼び出したりして」

 蝶子はヴィルに耳打ちした。
「あのね。ヤスとブラン・ベックも来ているの。私が三十分以内に安全に姿を現さない場合、強行突入するって手はずになっているの」

 ヴィルは少しおかしそうに顔を歪めて、そのまま玄関に向かい、外の二人を呼び寄せた。
「大丈夫だ。何の危険もない。今回は丁重に扱ってもらえるぞ。俺たちの待遇は改善されたんだ」

 二人は肩をすくめて、中に入ってきた。
「俺たち、心配だったから一応ついてきたけれど、なんでもないなら英国庭園あたりで稼いでいるぜ」

 稔の言葉にレネも頷いた。だがヴィルは頭を振った。
「いや、あんたたちにも一緒に聞いてもらいたい話なんだ。とにかく俺たちの今後のことに大きく関わってくる話だから」

 そういうと、ヴィルは三人を連れて応接室に向かった。途中で、マリアンに声をかけた。
「この二人のために、寝室を二つ用意しておいてくれないか」

「わかりました。二階の東の二部屋の準備をしておきます」
「ありがとう」

 応接室は広く、優雅な調度が置かれていた。がっしりとした座り心地のいいルイ十六世様式の椅子や重厚な飾り棚が、いかにもドイツという感じで、同じ裕福な館でも華やかで異国的な要素の強いバルセロナのコルタドの館とは好対照だった。

 ヴィルは重い扉を閉じると、棚からアクアヴィットの瓶と小さいグラスを四つ取り出してきた。
「一ダースも注文したのに、あの晩俺が一口飲んだだけで誰も手をつけていないんだ」

 レネがにっこりと笑った。
「まだ、飲んだことないんですよ」

「販売しているのにか?」
「あれが最初で最後の販売だったんで」

 四人はグラスを合わせて、その透明の酒を飲んだ。
「うげ。強い」
稔は目を白黒させた。レネは咳き込んだ。

「これ、12本もあるわけ?」
蝶子も氣が遠くなる思いがした。ヴィルだけが平然と飲んでいたが、一杯でやめて、代わりに白ワインを持ってきた。

「それで?」
蝶子がヴィルの顔を見た。

「俺は今、選択を迫られている。つまり、相続するか放棄するか」
「お蝶はともかく、俺とブラン・ベックに相談する必要はないだろう?」
稔はあっさりと言った。

「そういうわけにはいかない。Artistas callejerosの今後にも関係がある」
ヴィルは答えた。

「それはつまり、相続したら、お蝶とテデスコが抜けるってことか?」
稔の言葉に蝶子はびっくりしてヴィルの顔を見た。

 ヴィルは即座に首を振った。
「抜けるわけはないだろう。だが、活動には影響が出る。もらうのは単なる銀行預金ではないので、受け取るだけ受け取って、年中ほっつき歩いているわけにはいかなくなる」

「というと?」
「コモやバロセロナ、それにマラガの仕事をするぐらいは問題ない。また、秋にピエールを手伝うのも問題なくできる。だが、それ以外は半分くらいになるだろうな。月に一度、数日間はここに戻らなくてはならないだろうし、お偉方とつきあわなくてはならないことも増えると思う」

 蝶子はほっとした。思ったほど悪くないじゃない。
「相続したほうがいいと思う理由もあるんでしょう?」

 蝶子の言葉にヴィルは頷いた。
「以前、大道芸人は若くて健康でなければできないという話をしただろう。今は自由で氣ままな旅さえできればそれでいいが、そのうちに体が利かなくなる。その時に四人とも安心していられる」

「カルちゃんにたかってばかりいる状況も改善できるわね」
「そうだ、それが二つ目だ。彼の事業に協力することも可能になる」

 蝶子はそんなことは考えたこともなかったが、確かにそうかもしれないと思った。

「それから、三つ目だ。俺はあんたたちの才能を街角の小銭集めだけで終わらせるのは残念だと常々思っていた。俺が相続すれば、俺たちの活動の可能性がもっと広がる」

 ヴィルは稔、レネ、それから蝶子の顔を順番に見た。
「だったら、どうして相談する必要があるんだ?」
稔が訊いた。

「これは俺の考えで、あんた達がどう考えるかはわからないからだ。もしこの相続で、Artistas callejerosが壊れるなら、俺は相続を辞退するつもりだ。それほどの価値はないからね」

「いまのところ、壊れるようなことは考えられないよな。先のことはわかんないけれど、俺たちの氣持ち次第で続きもするし、壊れもするんじゃないかな。とくにマイナス要因はないよ。相続すればいいんじゃないか?」
稔が言った。レネも手を挙げて賛成の意を表した。

 ヴィルは蝶子の方を見た。
「あんたには、反対する他の理由があるだろう。ここに関わるのはイヤなんじゃないか?」

 蝶子は少し間を置いてから首を振った。
「日本の諺に『毒を食わらば皿まで』っていうのがあるのよ。こうなったらどんな恥を上塗りしても同じだわ。利点の方が大きいもの、私は意義なしよ」
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Posted by 八少女 夕

鳴らしちゃダメ

レストランのベル

他の国はよくわかりませんが。

もしスイスのレストランで、こういうベルを見かけたら、不用意に鳴らすのはやめましよう。

これを鳴らした人は、その場にいる客の分の全ての代金を払うという伝統があるんだそうです。

あ、もちろん払いたければどうぞご自由に。かなりの確率でクレジットカードの限度額を超えてしまうと思いますけれど。
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Posted by 八少女 夕

なくてもなんとかなる

今日は、ちょっと海外主婦ブログみたいな記事を。

調理中

日本の友達や親戚に会う度に「和食の材料がなくて困るでしょう。私は海外では暮らせないわ」というようなニュアンスのことを言われます。

でも、そうでもないんです。まあ、私自身があまり純和食にこだわらないタイプな上、さほど舌が肥えていないということもあって、まったく困っていません。

少なくともキッコーマンの醤油は、どんな田舎でも買えるんですよ。なんとか醸造の特別なお醤油じゃないと食事ができないって方は別ですけれど、和食と中華料理を作りたい時は、醤油さえあれば、あとはなんとでもなると思っています。

日本酒や紹興酒はありません。白ワインで代用しています。みりんもありません。白ワインとお砂糖、もしくはメープルシロップ、もしくはトカイワインなどで代用します。味噌は都会に行った時に購入した八丁味噌か赤味噌を冷凍庫に入れてあります。この味噌をつかうと豆豉醤や舐面醤などに近い味も作れます。

ここ数年近くのスーパーではオイスターソースを扱わなくなってしまいましたが、ネットで知ったキノコで作る「ベジ・オイスターソース」を使えば同じくらい美味しくなることが判明、わざわざオイスターソースを探しまわるのはやめました。

米酢もないんですが、和洋中どれにも違和感なく使える「ホワイトバルサミコ酢」を使っています。まあ、リンゴ酢でもいいんでしょうが、上質の「ホワイトバルサミコ酢」はまろやかでどんな料理をも邪魔しないのです。

それから鶏ガラスープの素のかわりに、自分で茹でた鶏のスープや粉末の鶏スープの素が使えますし、椎茸が切れていてもポルチーニ茸の乾燥したものを使います。

という具合に、どんな調味料もなんらかの代用品があるんですよね。カレールーや、シチューのルー、調味済みのソースのレトルトパックの類いは手に入りませんので、インスタントのような楽さはありませんが、自分で作った方が奇妙な添加物も摂取せずに済みますよね。

もちろん例えば松茸のお吸い物が食べたければ、代用できるものなどありませんけれど、そこまで限定される食材ってあまりないんですよね。

例えばカツ丼がどうしても食べたくなったとします。こちらでは、いくつかのハードルがあります。例えば日本風のパン粉がない。揚げ物をするとオイルの処理が面倒などなど。材料が揃ったとしても、ヒレ肉を叩くところからやっているとカツ丼一杯のために何時間かかってしまうことか。

でも、こちらにあるシュニッツェルを使って、甘辛いお醤油を使っただし汁で煮込んで卵でとじてしまえばかなりすぐできるし、満足もします。簡単に作れれば、また時々やろうと思いますよね。

調味料や食材もそうですが、日本ではないと購入できない調理器具も、なくてもなんとかなります。

例えば私は炊飯器を持っていません。日本にいた頃から鍋でも炊けたので、最初はそうやって炊いていましたが、途中からシャトルシェフを使って炊くようになりました。実はオーブンでも炊けるのです。時間はかかりますが。

電子レンジも持っていません。これは売っていますけれど、連れ合いが「体に悪い」と嫌がったので使わずに工夫したら問題なく生活できるので、逆らわずに無しの生活を続けています。

都市ガスが走っていないので、調理は電氣コンロです。だから火加減などが東京にいたときと違います。魚焼きグリルなどもないです。でも、「これがないから、これは作れない」というように不満に思ったことは一度もないので、どんな台所でも、自分のお城なら何とかなるものだと思っています。
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Posted by 八少女 夕

【小説】大道芸人たち 2 (5)ミュンヘン、弔いの鐘 -1-

しばらく記念掌編や企画ものを続けて発表していたので、「大道芸人たち 第二部」ずいぶん空いてしまっています。チャプター1はまだ終わっていません。「教授は第二部もでてくるんですか」という質問にうやむやな回答を続けていましたが、ここでようやくはっきりしましたね。

今回も、長いので、3つに分けています。


「大道芸人たち 第二部」をはじめから読むこのブログではじめからまとめて読む
あらすじと登場人物




大道芸人たち Artistas callejeros 第二部
(5)ミュンヘン、弔いの鐘 -1-


 サンチェスの持ってきた電報をじっと見ていたヴィルに、蝶子が心配そうに声をかけた。
「どうしたの?」

 ヴィルは黙って、電報を蝶子に渡した。差出人はエッシェンドルフ教授の秘書のマイヤーホフだった。蝶子の電報を持つ手が震えた。
「チチウエ シス シキュウ レンラクサレタシ」

 ヴィルはカルロスに電話の使用許可を求めた。そして、マイヤーホフにではなく、ミュンヘンのシュタウディンガー博士という医者の診療所に電話をかけた。またしても父親の策略ではないかと思ったからだ。

「アーデルベルト・フォン・エッシェンドルフです。シュタウディンガー先生とお話ができませんか」

 博士は不在だったが、診療所の指示で博士の携帯電話にかけ直した。
「アーデルベルト君か。よく電話してくれた。いま、私はちょうど君のお父さんの館にいるんだ。そうだ。本当にお父さんは亡くなった。心臓発作だ。マイヤーホフ君がどうしても君と連絡を取りたがっている。ここにいるから話してくれないか」
「替わってください」

 ヴィルはしばらくマイヤーホフと話していたが、電話を切ってから蝶子に言った。
「ミュンヘンに行かなくてはならない」

「わかったわ」
「向こうに着いたら、すぐ連絡する。あんたはここにいるんだ」

「連絡がこなかったらまた迎えに行くから」
ヴィルは蝶子の頬に手をやって頷いた。

「で、行っちゃったのかよ?」
マリサとのデートから帰ってきた稔は驚いて言った。

「そうなんです。ミュンヘン行きの飛行機をサンチェスさんがすぐ手配してくれたんで」
レネがイネスの作ったチュロスを食べながら言った。

「大丈夫なのか? またしてもカイザー髭がなんか企んでいるんじゃないのか?」
稔はとことんエッシェンドルフ教授を信用していない。蝶子はそれももっともだと思った。

「信頼できるお医者さんが、本当に亡くなったっておっしゃったみたいなの。でも、連絡がこなかったら、迎えにいかなくちゃいけないでしょうね」
「おいおい。二ヶ月に三回もバイエルンとバルセロナ往復かよ」
「ごめんなさいね。私たちのことで振り回して」

「いいけどさ。だけど、テデスコは複雑な心境だろうな。いくら逃げ出したとは言え父親だからな」
「パピヨンも、大丈夫ですか?」
レネが蝶子を心配した。
「ショックなのは確かだけれど、でも、ヴィルの方が心配だわ」

* * *


「まあ、アーデルベルト様」
家政婦のマリアンが半ば泣いているように迎えでた。

「マイヤーホフはここにいるのか」
「はい。先ほどから応接室で顧問弁護士のロッティガー先生と一緒にお待ちです」
「そうか」

 ヴィルは応接室に向かった。
「お待たせしました」

「ああ、アーデルベルト様、お待ちしていました」
マイヤーホフは心底ほっとしたようだった。
「二度と戻ってくるつもりはなかったんだが」

 ロッティガー弁護士とマイヤーホフのお悔やみの言葉を、ヴィルは軽くいなして、先を続けさせた。
「先日、フロイライン・四条あてに招待状を送ったときの指示メモが残っていたのが幸いでした。アーデルベルト様がみつからなかったら、葬儀も今後の使用人の身の振り方もお手上げなんですよ。他に取り仕切る権限のある方がまったくいませんからね」

「あんたがすればいいじゃないか」
「私は単なる使用人です。法的にも全く何の権限もないんです。たとえば、もう銀行預金が凍結されているので葬儀の準備も私どもでは手配できません。かといって先生ほどの方の葬儀をしないわけにもいきません。また、月末までこういう状態だと、全使用人が給料をもらえませんしね」

 マイヤーホフの言葉に頷いてロッティガー弁護士は続けた。
「アーデルベルト君。君は、お父様の死で自動的にこのエッシェンドルフの領主になったんですよ。わかりますか」
「俺は、親父が遺言状をとっくに書き換えたと思っていましたよ」

 弁護士は首を振った。
「エッシェンドルフ教授があなたが十四歳の時に作成した遺言状は一度も変更されていません。つまり、あなたを跡継ぎとしたその遺言が有効なのです。もちろん、あなたには相続を辞退する権利もありますが、少なくとも葬儀並びにすべての手続きが終わり、彼ら使用人の身の振り方が決まるまでは、煩雑な義務の山からは逃れられないんですよ、残念ながら」

「もちろん、このまま我々が新しい職場を探さずに済むなら、それに超したことはないのですが……」
マイヤーホフが小さく付け加えた。ヴィルはため息をついた。
「わかりました。とにかくすべきことをしましょう」

「なぜこんな急に親父は死んだんだ? 心臓が悪かったのか」
弁護士が帰ると、ヴィルはマイヤーホフに訊いた。

「いいえ。時々不整脈がある程度でしたが、もともと大きな発作があったわけではないのです。それが……」

 マイヤーホフは言いにくそうにしていたが、意を決したように顔を上げた。
「申し上げておいた方がいいでしょうね。どうぞこちらへ」
そういって教授の書斎にヴィルを案内した。そして、デスクの上にあった一枚の書類を見せていった。

「実は、遺言状のことをもう一度きちんと検討したいとおっしゃって、私にいくつかの書類を用意するようにお申し付けになったのです。それで、言われたように準備してお渡ししたところ、これをご覧になって非常にショックを受けられ、それで発作を……」

 それはヴィルの、つまりアーデルベルトの家族証明書だった。結婚したばかりの妻、蝶子の名前が記載されていた。ヴィルは黙ってそれを見ていた。つまり、これが原因で命を落としてしまったというわけか。

「じゃあ、親父は遺言状を変えるつもりだったんだな」
「検討したいとおっしゃっただけです。どうなさるおつもりだったかはロッティガー先生も私も伺っていません」

「だが、あんたたちは、俺が相続するのは腹立たしいだろう。そんな事情では」
「どういたしまして。代わりに私を相続人に指定すると言われていたなら悔しいでしょうが、そんなことはあり得ませんからね。私としては、見知らぬ方に放り出されるよりは、これまでのことを知っているあなたに公正な処遇をしていただくのを期待したいわけでして」

「とにかく、葬儀を進めよう。相続については、いますぐは決められない。もちろん、あんたたちの給料が出ないままなんかにはしておかないから安心してくれ」
「それを聞いて安心しました」
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Tag : 小説 連載小説

Posted by 八少女 夕

メフィスト・ワルツ

ただの音楽と言うカテゴリーがなかったので、BGMのカテゴリーを改造して使うことにしました。

先週の月曜日、チューリヒのトーンハレで行われた津田理子氏のピアノ・コンサートに行ってきました。いろいろとご縁あって、出不精な私がたくさん聴かせていただいている方なんです。いやあ、すごいコンサートでした。

で、難しい曲目がたくさん並んでいたのですが、中でも「ひえ~」と思ってしまったのが、リストの「メフィスト・ワルツ 第一番」でした。

この曲、もちろん録音では聴いた事はありましたが、生で聴くのは初めて。どんな風に弾いているのか目にすると「ありえない」と思ってしまう曲でした。(というか、コンサートで弾くような曲はどれも人間業には見えないですけれどね)

名前が示すように、この曲は「ファウスト伝説」をモチーフに作曲されていて、「村の居酒屋での踊り」といわれるこの第一番は、「農民たちが踊る居酒屋をファウストと訪れた悪魔メフィストフェレスが、ヴァイオリンを弾き始めて農民たちを陶酔に巻き込む」情景を表しているとのこと。

聴いているうちに引き込まれてしまうメロディもすごいのですが、このピアニスト泣かせの超絶技巧の嵐、弾いている人は「あんたが悪魔だよ、リスト」って言いたくならないのかなあと、ちょっと思ってしまいました。

私はピアニストではないので、人ごとで堪能できるんですけれど。

そして、この曲、頭の中で回り続けます。一週間もぐるぐるしています。

どんな曲かご存じない方のために、Youtubeで拾ってきた演奏を。演奏はトリフォノフ氏。この方、すごいですね。

Trifonov, Liszt mephisto-valse
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Posted by 八少女 夕

主人公とヒーローとヒロインと

またしても自作小説に関して語るコーナー。

このブログでは、長編のはじめに、「あらすじと登場人物」を出来るだけ置くようにしています。これは連載の始めに来訪者に「あれ、こんな話なら読んでみようかな」と興味を持っていただくための仕掛けであると同時に、連載途中で「こいつ何者だったっけ」と思われた方が簡単に思い出せるように常にリンクをしておく役割も持たせています。

で、もちろん最初は主要な役割をする人物から書いていくわけですがそこでいつも筆が止まります。

「この作品のヒロイン」はさらっと書けるんですが、「この作品のヒーロー」と書こうとすると「そうか?」と首をひねってしまうんですね。

話をわかりやすくするために過去に連載した長編の話で書きますね。「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」の主人公はマックスです。(異論があろうとなかろうと、マックスなんです。レオポルドじゃありません・笑)でも、あの人のことを「ヒーロー」と書けるであろうか、いや、書けない(漢文翻訳調)

ヒーローという言葉には「英雄」という意味が含まれているように思うんです。でも、うちに出てくる主人公的男、英雄が少なすぎ。というか、ゼロ? 英雄とまでいかなくても、主体的に問題を切り拓いて、少なくともヒロインを救い出していれば「ヒーロー」と書いてもいいように思うんですけれど、そんなことやっている人もほとんど見当たりません。ほとんどじゃないか、全然いません。

「ヒロイン」というのは「ヒーロー」の女性形ですが、別に英雄的役割が期待される単語ではないと思いますし、一般的なヒロインのお約束のように外見的美しさと内面の美しさの両方を兼ね備えているタイプのキャラクターはうちにはいないんですけれど、それでも「ヒロイン」という言葉に疑問を持つほどではないかなと思います。そう思うと「ヒロイン」という言葉のさす範囲は「ヒーロー」よりずっと広いのかもしれませんね。

私が「この作品の主人公」と「この作品のヒロイン」という言葉を遣うのは、「この作品の主人公」が二人いると奇妙かなと思うからで、実は主要な役割を女が持つ場合でもこうやって書くことが多いです。

「大道芸人たち Artistas callejeros」は別で、この話だけは主人公は「Artistas callejeros」と呼ぶグループ4人全員という位置づけになっています。

さて、どうして私の小説のメインキャラクターに、こんなタイプばかりが来るのかなと考えてみました。

おそらく書こうとしているものが「憧れ」を発端としての小説ではないからなのではないかと思います。小説の書き方をものすごく乱暴に二つに分けると「自作小説くらいは好きなものやこうあってほしい世界で構成したい」という方と「自分がみて考えている世界を投影したい」に分けられるように思うんですよ。で、私の小説はきっと後者なんですね。頑張って前者を目指して書き出しても、必ず後者に寄って書き上がってしまうのです。

私は例えば「水戸黄門」の世界も好きです。週に一度、悪代官と悪役商人が懲りずに悪いことをして、それをバッタバッタの殺陣と印籠で制して世界を平和に導く、あのわかりやすい物語性にスカッとします。同様に職業作家や多くのブログのお友だちの書かれる上でいう前者タイプの小説を読むのも好きです。でも、それは私の書きたい物ではないんですね。

私が書いているのは、もしかすると、一種のセラピーなのかもしれません。誰に対してではなく、自分に対しての。

特定のジャンルに分けられる作品を書きたいのではなく、面白い物を書きたいのでもなく、起承転結にあたる完璧な構成の物を書きたいのでもない。ましてや私が愛している人格のことを書きたいわけでもないようなのです。

男でも女でも、私の書く主要人物は美点よりも弱さや欠点、欠点というのが言いすぎならば抱える問題の方が目につきます。

私が書き続けている全ての作品を貫くメインテーマ(漢字で二文字の「○○」)は、私自身に対する客観的なアプローチです。私はそれを私自身の抱える問題とは呼びません。全ての物事にいい面と悪い面があるように、私の対峙する大テーマにもいい面と悪い面があります。私はそれを、自分の生涯に寄り添うパートナーとして、ありのままに受け入れたいと思っているのです。

私小説のように現実の具体的な出来事に対するアプローチではなく、もっと多角的に新しい世界を作り出す楽しみの中で、常に同じテーマに対してそのいい面とよくない面、もっというなら様々な選択と受容を提示しつつ書いているのだと思います。

話は戻ります。こういうタイプの小説の主要人物を語るのにちょうどいい単語って、「主人公」「ヒーロー」「ヒロイン」に他にないんでしょうかね。

今一番メインで書いている小説、どうひっくり返しても「ヒーロー」と「ヒロイン」の物語じゃないんですよね。
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Posted by 八少女 夕

【小説】秋、まつり囃子



今日発表するのは、読み切り短編集「四季のまつり」の第3回、秋の話で「秋祭り」を題材にした掌編です。

第1回と、第2回が両方とも既に書いた作品の外伝だったのですが、この作品は完全な読み切りにしました。モチーフは祭のお囃子で、イメージしたのは「葛西囃子」ですが、すみません、よくわかっていません。

それと、モーリシャスの密輸話が出てきますが、これは連れ合いの友人に起こった実話をモデルにしています。その人は、未だに服役しているみたいです。うまい話には氣をつけましょうってことで。




秋、まつり囃子

 西陣織の袋の紐を回して解いた。それはまるで茶道のお点前のように、定められた動きだ。どうしてもそうしなくてはならないわけではないけれど、誠也がそうしていた姿を忘れないために、私も同じようにする。

 甲斐のご隠居が、じっと私を見つめている。秋祭りは明後日に迫っている。約束の10年。私は誠也の代わりにこの伝統を受け継ぐのだ。

 子供の頃から、秋になると加藤誠也の付き合いは極端に悪くなった。彼だけでなく彼の家族全員の関心がおおとり 神社の祭礼に向いたからだ。

 私の通っていた小学校は、M区の11番目の学区にあった。隣のS区との境界が変則的で、一度S区に入ってそれから再びM区に入る通学路のせいで、同じ通学路を使うのは私と誠也だけだった。誠也は、祭が好きなだけあって氣っ風のいい江戸っ子で2つ歳下の私の面倒をよく看てくれた。帰宅時には待っていてくれたし、クラスのいじめっ子に上履きを隠された時も、談判して取り返してくれた。

 私は、孵ってすぐに犬を見てしまったアヒルみたいに、誠也の後について歩いていれば安心する変な子供になってしまった。

 でも、今、周りの人たちが思い込んでいるような、甘い想いを誠也に抱いたことはない。誰もが私が篠笛を吹くようになったのは、誠也に恋をしているからだという。でも、本当にそんなことじゃないのだ。

 私は残業をしない。「腰掛け女め」とあからさまに嫌味を言う男もいる。言いたければ言えばいい。私には営業時間中にダラダラと暇をつぶし、5時近くなってからようやく仕事を始めているような時間がないのだ。

 可能な限り定刻で上がり、甲斐のご隠居の家に急ぐ。そして、「とんび」つまり篠笛を習う。「屋台」「昇殿」「鎌倉」「四丁目」曲目はこの4つだが、まともに吹けるようになってきたのはここ3年ほどだ。

 私が甲斐のご隠居に教えてほしいと頭を下げたとき、誰もが「冗談もたいがいにしろ」と言った。女の私がお囃子に加わるなんてとんでもないとも言われた。誠也があそこまで吹けたのは6年も精進していたからであって、そんな簡単に代わりができると思うなんて思い上がりだとも言われた。

 最終的に味方をしてくれたのは、他でもない甲斐のご隠居だった。

「今の時代、男だ女だと言っていたら、お囃子の伝統は途切れてしまう。やりたいと言うからには、弱音は吐かないだろう。10年精進できたらわしに代わらせよう。どっちにしても、わしがくたばるまでに他の志願者はもう出てこんだろう」

 私が「とんび」を習い始めて2ヶ月くらい経った頃、誠也のお母さんが私を訪ねてきた。
「秋絵ちゃん。話しておかなくてはいけないことがあるの」

 私は、静かな喫茶店で誠也のお母さんと向かい合った。彼女は、しばらく何でもない世間話をしていて、私は彼女が話を始めるのを待った。やがて、彼女は決心したように私を見た。
「ねえ、秋絵ちゃん。あなたがお囃子の笛を習いだしたことだけれど、誠也の代わりにと思ってくれたんじゃない?」
「はい」

「その……あなたと誠也は……何か約束をしていたの?」
私は首を振った。
「いいえ。誠也はお祭りのことやお囃子のことは、何も」

「ううん。そういう意味ではなくて、その……」
私は、お母さんが示唆していることがわかって、大きく首を振った。
「いいえ。つき合っているとかそういうことはなかったです。それに、誠也にはユキさんという彼女がいますよね」

「そう」 
誠也のお母さんはため息をついた。それから、またためらいがちに訊いた。
「あの子がどうしていなくなったか、知っている?」
「いいえ。いろいろな事を言う人がいますけれど……」

 そう。誠也は死んだとか、ユキさんと駆け落ちしたとか、伝染病で隔離されているとかみんなが勝手なことを言っていた。でも、お葬式もなかったし、ご家族が泣いているような様子もなかった。

 お母さんは、声を顰めた。
「全部違うの。あの子はね、モーリシャスで逮捕されたのよ」

 私は心底驚いた。逮捕? モーリシャス? 

 その後、誠也のお母さんが話してくれたことは、私の想像を大きく超えていた。誠也は、インターネットで知り合った誰かから特別なバイトを引き受けた。それは南アフリカ共和国からモーリシャスにダイアモンドの原石を運ぶだけの簡単なものだった。ただでモーリシャスに行けると知って彼は喜んだ。けれど、その箱にはダイヤの原石ではなくて麻薬が入っていたのだ。

「弁護士さんが言うには、誠也は囮に使われたみたいなの。あらかじめリークして、わずかな量の麻薬を持った人の捕り物をさせておき、その後からもっと大量の麻薬を持った目立たない人間を通らせる手口があるんですって。でも、誠也は現行犯で逮捕されてしまったので、どうにもならないの。彼には懲役20年が求刑されているの」

 私は言葉を失った。お母さんは申しわけなさそうに言った。
「その……もし、秋絵ちゃん、あなたが誠也の帰ってくるのを待っているんだとしたら……ちゃんと話してあげた方がいいと思ったの。待っているうちにあなたの人生を無駄にしてしまうから」

 私は首を振った。
「それは私じゃなくて、ユキさんにおっしゃることじゃありませんか」

 お母さんは悲しそうに肩をすくめた。
「ユキさんね、別の方と婚約したんですって。誠也の自業自得とはいえ、落ち込んでいるあの子に言いにくくて、まだ言っていないんだけれど」

 お母さんは後に、彼が本当に懲役刑になったことを教えてくれた。いつの間にか誠也がどうしたのか噂をする者はいなくなった。人間は簡単に忘れられてしまうんだなと、悲しくなった。私は一度だけ誠也に手紙を書いて、お母さんに送ってもらった。誠也が跡を継ぐはずだった甲斐のご隠居の「とんび」を私が習い始めていること、戻ってきたらいずれ一緒にお囃子をやりたいということを。

 返事はもらわなかった。

 そして、あっという間に10年が経った。甲斐のご隠居は、ようやく私に今度の鷲神社秋祭りのお囃子で演奏することを許してくれた。法被を作り、他の演奏者たちと1年にわたり入念な練習を重ねてきた。はじめは女だからと反対していた大太鼓の長さんも、鉦の大二郎さんとも息のあったお囃子が演奏できるまでになってきた。

 私は日本のお祭りの伝統を受け継ぐのだ。甲斐のご隠居が守ってきた、誠也が夢見ていた、失われてはいけない日本の文化を未来に受け継いでいくのだ。女であろうと、誰かの恋人ではなかろうと、そんなことは関係ない。私はおおとり 様に10年変わらぬお祈りをしてから「とんび」を奏でる。

* * *


 祭礼当日。昨日から少しずつ始まったお祭りの設営は、昼前には全て終わった。射的の屋台ではきれいに並べられた景品を手に入れようと銃を打つ音が聞こえだした。水色の浅いプールには金魚が泳いでいる。それにゴムのヨーヨー同士がこすれる音。風船を膨らます音。カルメ焼きや綿飴の屋台からは砂糖が焦げるいい香りがして、それにイカ焼き、焼きそば、トウモロコシ、今川焼などのたまらない香りが漂う。

 その全てにノスタルジックな祭らしさを加えるのがお囃子だけれど、それをいま演奏している社中にこの私が加わっているのだ。去年までは、脇に控えて甲斐のご隠居の演奏を聴いていた。今年はその位置にいて私たちを見ているのがご隠居だ。

 もちろん夜までずっと私が吹くのではなくて、朝、昼、夜と1回ずつの出番で、残りは今まで通り甲斐のご隠居が吹く。なんといっても「とんび」はお囃子の主導的な役割を担っていて、私のような若輩者が僭越ながらベテランの長さんたちを率いるのだ。

 十年もずっと練習してきただけのことがあって、指の動きも音色も滑らかにできた。それでも、祭の雰囲氣はいつもの練習とは違って、心が昂揚しているのがわかる。通りかかった親子が楽しそうに眺めていく。

 父親と母親は、心配そうに朝一番で見にきたが「思ったよりまともなお囃子になっているぞ」と失礼な驚き方をして帰っていった。

 去年まで実行委員で忙しくしていた誠也のご両親の姿は、今年は見ていなかった。一昨日のリハーサルの時に誠也のお母さんが少しだけ見にきて、何かを言いたそうにしていたけれど、時間がなかったのかそのまま帰ってしまった。

 もしかして、加藤のおばさんは、私が誠也の代わりにここで吹いているのを見るのがつらいのかな。そんな風に初めて考えた。モーリシャスの監獄で20年も過ごすなんて。その間の青春もキャリアも、みな無駄になってしまって。ユキさんと結婚でもしていたら子供はもう小学校に入る頃だ。

 今夜の最後の出番を終えた。「屋台」を威勢良く吹き終えて、五人揃ってお辞儀をした。笛を西陣の袋に収めて神楽殿から退出する。脇で待っていた甲斐のご隠居が「よくやった」と笑って褒めてくれた。

「ありがとうございました」
私は、ようやくほっとして、それから肩がひどく凝っていることに氣がついた。

「練習と違って、本番は、緊張するだろう」
「はい」

「来年は、もう少し出番を増やすからな」
「はいっ。この後は、ご隠居のお囃子を聴いて勉強しますね」

 そういうと、ご隠居は首を振った。
「今日はもういい。お前を待っていた人がいるから、屋台めぐりでもしてくるがいい」

 誰だろう? 私が今夜お囃子で演奏することを知っている人なんてそんなにいないはずなのに。ご隠居が示した方を見たら、ありえない人が立っていた。

「誠也!」
モーリシャスの監獄にいるはずの幼なじみが、立っていた。昔とあまり変わらないジーンズと、チェックのシャツを着ていたけれど、痩せて日に焼け、それにかなり白髪が交じっていた。でも、少なくとも彼はわずかに笑顔を見せていた。

「どうして? 帰って来れたの?」
「うん。判決では15年の実刑だったんだけれど、品行方正のせいか早く出してもらえた」
「いつ帰って来たの?」
「3日前」

 だから今年は加藤家が誰もお祭りの運営にいなかったんだ。息子が帰ってくる準備でそれどころじゃなかったから。

「よかった」
私は、ほっとしてパイプ椅子に座り込んだ。誠也はポケットに手を突っ込んだまま肩をすくめた。

「立派なお囃子デビューだったな、秋絵」
誠也の言葉に、私は顔を上げた。
「そう思う? 私は10年前の誠也の方が上手かったと思うけれど、でも、頑張ったんだよ」

 誠也はポケットからくたびれた封筒を取り出した。見憶えがあった。私が書いた手紙だ。
「これ読んでから、母に頼んで笛を差し入れてもらった。自由時間に練習したよ。何もかもダメになったと思ったけれど、少なくとも帰ったらまた、お前や社中のみんなとお祭りで演奏するんだって、励みになった」

 私は大きく頷いた。嬉しくてしかたなかった。
「来年のお祭りには出られるといいね」
「そうだな。なんか食いにいこうぜ。お祭りの屋台を見たら、ようやく本当に帰って来たんだって実感したよ」

「何が食べたい? 好きなものおごるよ。振興会のみなさんからデビューのお祝いももらったし」
「じゃあ、焼きそばから行くか。それから、お前の好きなりんご飴……」

「うん。でも、その前に神様にお参りしよう。お願い叶えてくれたお礼」
「お願い?」
「誠也が早く無事に帰って来ますようにって。たぶん、みんなが同じお願いして、うるさかったんじゃないかな、おおとり 様」

 誠也は笑った。
「だから早く出て来られたのか。じゃ、もう一度お参りするか」

 私たちは、おおとり 様にたくさんのお礼を言ってから、久しぶりに楽しい祭の宵を楽しんだ。

(初出:2016年9月 書き下ろし)
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Posted by 八少女 夕

芝生のお手入れ

羊たち

日本と違って、スイスでは雑草がボウボウ生えているという光景はあまり見ません。ないわけではないんですが、氣がつくときれいに刈られています。

例えば公道でも数週間に一度芝刈りの車が通って刈っていきます。でも、すぐに回収しません。しばらく放置して乾かしています。そうなんです。刈った草は干し草にして家畜の冬のご飯にするんですね。

そういうわけで、わざわざ生やしてから一斉に刈り取るときもありますが、果樹園などそう簡単には刈り取れない所もあって、そんな時は夏の動物たちのレストランとなるわけです。

果樹の方も家畜の糞が肥料になるので一石二鳥。有機農法になるわけです。

ここのところ毎朝みかけるこの三頭の羊たち。キュートなので停まって眺めてしまいます。


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Posted by 八少女 夕

人生のポイント獲得

あいかわらず、ポケモンGOをやっている私です。ネットニュースを読むと誰も彼もがやっているみたいですが、周りの感触だと実際はそうでもないですよね。とくに創作系ブログをお持ちの方は、けっこう関心が薄い。もちろん今日もポケモンGOの布教で書いている記事ではありません。単にちょっと絡めて考えたことを。

私のように普段まったくゲームをやらない人でもポケモンGOはやっているタイプは、確かにいるようで、「なぜその人たちはハマるのか」というような記事を読んだんですよ。うろ覚えですけれど、要は、「目の前に出現した何かを自分のものにできるチャンスを逃すのががまんならない人間の性質に上手く訴えたゲームだ」というような論調でした。

そうかもしれません。それに、つまらないスズメや芋虫みたいなポケモンでもコツコツと捕まえることで、経験値が上がっていき、レベルアップするってことも。それが普段の生活と直結しているというのも大きいかもしれません。けっこう忙しい生活の中で、ずっとゲーム機の前に座っているわけにはいきませんが、通勤はいずれにせよ毎日するわけでその時間内で楽しめるわけですから。

で、話はようやくこれから本題です。

ゲームにしろ、趣味にしろ、仕事にしろ、人間関係にしろ、「ポイントを獲得してステージが上がる」っていうのは、誰もが求めることなんじゃないかなと思ったんですよ。

ゲームは、簡単ではないかもしれませんが、リセットもできるし放り投げることもできます。趣味もまあ、そうですね。どちらもどのくらいの生き甲斐になっているかによって、その人生における重要性は変わってきますけれど。

職業や家族・人間関係などは、「選択を失敗した」「思ったようにはレベルアップ不可能」と思ってもそんな簡単には放り投げられなくて、ずっと深く悩んだりすることになります。

だからこそ、その代替としての別の「ポイント獲得&ステージ向上」をそれぞれに求めるのかもしれないなと思ったりします。

例えば、Twitterやインスタのフォロアー数、SNSの友達数や「いいね!」の獲得に夢中になってしまうことや、戻りますけれどポケモンの捕獲に目の色を変えてしまうこと、果てはおつき合いする異性の獲得数やステータスをその舞台に選ぶことも。もうひとつ例を挙げると、ブログで小説を発表して、「読んでもらえるか」「感想をいただけるか」「拍手をもらった!」と一喜一憂することもそういう行為なのかもしれません。

いや、反対に小説の方がメインの願いで、代替行為が仕事やら家事だったりする場合もあります。それのどれがよくてどれが悪いというわけではありません。基本的には。誰かに迷惑をかけていない限り、それはその人の人生ですから。

そして、どこかでポイントがたくさん獲得できて、さらにステージがどんどん上がると、他のことはどんどん念頭から追い出されていく、そんな風に感じます。婚外恋愛にうつつを抜かして、家族をないがしろにするなんとこともあるでしょうし、ポケモンGOに夢中になりすぎて仕事が疎かになることもあるでしょう。どこかでは小説がガンガン更新されるようになり、また別のどこかでは連載途中なのに広告が出っぱなしになる。

では、自分はどうなのかなと考えると、まだポケモンGOは仕事や家族や旅行や、そして何よりも小説ほどの価値は持っていないようです。SNSの「いいね!」がなくても焦ることもないですし、異性にモテるなんてことはハナから勝負しようと思ったことも無し。

結局のところ、私は実人生でやりたいことをやって、そこそこのポイントを獲得し、レベルアップしてきて、上にはずーっと上がいようとも氣にせずに暮らせる、かなり恵まれた幸せな状態にいるのかもしれないなと思いました。
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Posted by 八少女 夕

【小説】夜のサーカスとガーゴイルのついた橋

さてリクエスト掌編、当ブログの77777Hit記念立て続けに発表させていただいていますが、77777Hit記念掌編としては6つ目。リクエストはスカイさんにいただきました。

ご希望の選択はこちらでした。

*現代・日本以外
*薬用植物
*一般的な酒類/もしくは嗜好飲料
*橋
*ひどい悪天候(嵐など)
*「夜のサーカス」関係


今回のリクエストは、先週発表したものに引き続き「夜のサーカス関係」でした。もともとこの「夜のサーカス」はスカイさんにいただいたリクエスト掌編が発展してできたお話。とてもご縁が深い作品なのです。今回の舞台は「現代・日本以外」ですので、いつものようにイタリアでメインキャラたちと遊んでもよかったのですが、せっかく団長とジュリアがいなくなっているのですから、たまにはサーカスの連中も海外に行かせるか、ということでドイツにきています。

何しにきたかは、読んでのお楽しみ。題名にもなっているガーゴイルとは、よくヨーロッパの建築についている化け物の形をした石像のことです。私はガーゴイルが結構好き。変なヤツです。

なお、この作品は外伝という位置づけですが「夜のサーカス」本編のネタバレ満載です。本編の謎解きをしたい方はお氣をつけ下さい。



「夜のサーカス Circus Notte」を読む「夜のサーカス」をはじめから読む
あらすじと登場人物




夜のサーカス Circus Notte 外伝
夜のサーカスとガーゴイルのついた橋


 そのキャンプ場は、みすぼらしい外観からの予想を裏切って、立派な設備が整っていた。例えば、カフェテリアにはかなり大画面のテレビがあって、いま話題のニュースも確認できた。

 とはいえ、カフェテリアには大きなトラックの貨物室に乗ってやってきたイタリア人の集団がいるだけで、なぜ彼らがドイツ語放送のニュースを観て騒いでいるのか、カフェテリアの店番のハインツにはわからなかった。

 一人だけドイツ語の達者な女がいて、ニュースをイタリア語に訳して伝えていた。この女だけがログハウスを借りていて、残りの集団はみなそれぞれ持ってきたテントに寝泊まりしていた。この辺りは自然が豊かで、湖で泳いだりサイクリングをしたり、一週間くらい滞在する客は他にもいるが、この連中ときたら朝も晩もカフェテリアでニュースばかりを観ている。だったらイタリアにいた方が面白いだろうにと彼は首を傾げた。だが、彼はイタリア語が全くわからなかったので、興味を失いクロスワードパズルを解くために新聞に意識を戻した。

 アントネッラは、鋭い目つきでテレビを睨みながら、センセーショナルに報道されるいわゆる「アデレールブルグ・スキャンダル」の経過を説明していた。ミュラー夫妻殺人事件の公判に弁護士側の証人として登場したイェルク・ミュラー青年は、有名政治家ミハエル・ツィンマーマンこそがミュラー夫妻殺害の首謀者であると証言した。さらにアデレールブルグ財団設立をめぐるペテンの全容が公判で語られてしまったので、一大センセーションを巻き起こした。

 ツィンマーマンの配下による攻撃から証人ミュラー青年を守るために、警察は24時間態勢の警護をつけ、さらにその滞在先は極秘とされていた。

「なんで僕たちにまで秘密なんだよ」
キャンプ場の閑散としたカフェテリアを見回しながら、マッテオは口を尖らせた。

「知らせれば、こうやってゾロゾロみんながついていき、最終的にヨナタンがチルクス・ノッテにいることがバレちゃうからでしょう」
アントネッラは非難の目を向けた。

「都合良く《イル・ロスポ》がデンマークへ行くって言うからさ」
マルコが笑った。馴染みの大型トラック運転手《イル・ロスポ》ことバッシ氏が、彼らをこの南ドイツの街まで連れてきてくれたのだ。そして、一週間後に再びイタリアへと連れ帰ってくれる約束になっている。

 その場にいたのはマッテオだけでなく、ステラ、マルコ、エミーリオ、ルイージ、それに料理人ダリオまでいた。団長とジュリアが日本へ旅行に行き、チルクス・ノッテは珍しく一斉休暇になっていた。それで彼らは公判のために、シュタインマイヤー氏とともにドイツへと向かったヨナタンことイェルク・ミュラーを追ってドイツへやってきたのだ。ブルーノとマッダレーナも来たがったが、一週間ライオンたちを放置できないため、馬の世話も兼ねて二人は残っていた。

「それにしても、すごい天候になっちゃったわね」
ステラが、暗い外を眺めた。先ほどまでよく晴れていたのに、あっという間にかき曇り、大粒の雹が降り出したのだ。彼らは慌ててまずアントネッラのログハウスに向かったがすぐに6人もの人間が雨宿りするのは無理だとわかった。彼女の自宅同様、あらゆる物が床の上に散乱していたからである。

 それで、ダリオが腕を振るった特製ごった煮スープの鍋を持って、このカフェテリアに飛び込んだというわけだった。カフェテリアの中は、とてつもなくいい香りで満ちていた。普段は持ち込みの飲食は禁止なのだが、店番のハインツにもこの絶品スープを振るまい、さらにビールを多目に注文することで目をつぶってもらうことに成功した。ハインツは、上機嫌でパンを提供してくれた。

 食事が済むと、彼らはハインツに頼んでまたしてもテレビを付けてもらった。
「あっ、あれがツィンマーマンか!」
エミーリオが叫んだ。一同はテレビに意識を戻した。レイバンのサングラスをした背の高い男が、取材陣のフラッシュを避けながら裁判所の入口で待っていた黒塗りの車に乗る所だった。

 あれがヨナタンを利用したあげくに殺そうとした悪い男! ステラは、その有名政治家を睨んだ。

 報道規制が敷かれているのか、事件当時未成年だった証人のイェルク・ミュラー、現在ステラたちがヨナタンと呼んでいる青年は一切の報道で顔が明らかにされていない。一度だけ「法廷から滞在先向かう証人の車」を三流紙がスクープしようと追ったが、車の後部座席の窓にはカーテンがかかっていた。

 ステラはそのスクープとは言えない新聞も買った。ステラが興味を惹かれたのは、その車が通っているのはとある石橋で、氣味の悪い生き物を模したガーゴイルがその柱についていた。そして、それは今朝彼女が散歩した、このキャンプ場から3キロほど離れた所にあった橋のものに酷似していたのだ。

 もしかしてヨナタンもこの辺りに滞在しているのかしら。だったら、散歩の途中にばったりと出会ったりしないかな。

 そのアイデアを告げると、アントネッラは少し厳しい顔をしてステラに言った。
「ねえ。そういう思いつきで、ヨナタンの居場所を突き止めようとなんてしていないわよね」
「逢えたらいいなって思っただけよ」

「でも、なぜ彼が誰にも居場所を知らせないか、わかっているでしょう? ツィンマーマンの配下は血眼になって、ヨナタンを亡き者にするか、ヨナタンに証言させないための策略を練っているの。万が一、あなたたちとヨナタンのつながりを悟られたりしたら、わざわざ危険を冒して証言をしようとしている彼の迷惑になるのよ」

 そういわれると、ステラは自分がいかに思慮が浅かったか思い知らされて項垂れた。早く裁判が終わらないかな。こんなに長くヨナタンと離れているのは久しぶりなんだもの。

 青空が戻ってくると、みな自分のテントに戻った。雹の被害を受けていなかったのは、木の下に張ったステラのテントだけだった。

 他のみなが、テントを張り直して忙しそうだったので、ステラは水着の上にデニムのショートパンツとデニムシャツを着て、小さなリュックを背負うと川の方へと歩いていった。

 例の化け物のようなガーゴイルが沢山ついている橋の方をちらりと眺めた。ちょうど橋の向こうに黒塗りの車が2台停まって、黒いサングラスをして、黒い革ブルゾンや黒い背広を着た男たちが降りてきた。ステラはそっと身を隠すと、男たちの様子を伺った。

「この辺だ。よく探せ!」
一人の男が横柄な口調で命令していた。きっとあの悪者の手下たちだわ。ヨナタンを探して危害を加えようとしているのね。ステラは下唇を噛んだ。

 ステラは、そっと橋の下に移動すると、その裏側を腕の力だけでぶら下がりながら音を立てずに渡り始めた。川までは2mくらいあるが、ふだんサーカスのテントの上を飛び回っているステラには何でもなかった。無事に渡りきると、男たちに見つからないように身を屈めて車に近寄った。

 2台の車を停めてあった所は、セイヨウオトギリソウの自生地だった。背が高いものは1m近くにもなるので、身を隠すのにも丁度よかった。レモンのような香りのする可憐な黄色い花を咲かせる草で、怪我をした時に外用したり、お腹の調子を整えるハーブティーに入れたりもする有用な植物だ。

 この黄色い花は、ステラにはヨナタンとの思い出のある大事な花だった。それを無造作に車で踏みにじるなんて! ステラは「みていらっしゃい」と言うと、リュックからアーミーナイフを取り出すと、それぞれのタイヤをパンクさせた。

「なに、屋敷のようなものがあるって。本当か。あっちなんだな。よし、車で行くぞ」
その声が聞こえた時には、ステラはまた橋の下を伝わって向こう岸に戻っている途中だった。無事に渡りきると、いかにも今、泳ぎにきましたという風情で川の方へ降りて行った。2台ともパンクさせてあった黒い車は、男たちを乗せて発進した途端、変な方向に曲がり、そのままお互いに追突してしまった。

* * *


「変な話もあるものね」
シュタインマイヤー氏からの電話を切ったアントネッラが首を傾げていた。

「なにが変なのさ?」
マッテオが訊いた。

 雹の降った日の二日後、思い思いに休暇を楽しんでいたチルクス・ノッテの面々は、再びキャンプ場のカフェテリアに集い、ダリオが即席で作ったラズベリーの絶品ジェラートに舌鼓を打っていた。もちろんハインツにも振る舞ったので、コーヒーが勝手に出てきた。

「ミハエル・ツィンマーマンの手下がね。あちこちでヨナタンのことを探していたんだけれど、二日前からこの辺りだけを重点的に探すようになったんですって。嗅ぎ付けられないように氣を付けろって言われたわ。でも、どうしてなのかしら。撒き餌はあちこちにしたのに」

「撒き餌ってなんのこと?」
エミーリオが、その場にいた全員の疑問を代弁した。アントネッラは肩をすくめた。

「ヨナタンの乗っている車のフリをした囮の車、バラバラの方向に走らせているのよ。ほら。この近くの特徴のある橋の写真もその一つ」

「え。あれって、囮の車だったの? ヨナタン、この辺にはいないの?」
ステラは驚いて訊いた。

「いないわよ。私もどこにいるかは知らないけれど、少なくともこの辺りじゃないことは知っているわ。でも、どうして、あいつらは、この辺りばかりを重点的に探すようになったのかしら?」

 アントネッラの言葉にステラは申しわけなさそうに首を縮めた。
「もしかして、私のせいかも」
「ステラ? 何かやったの?」
「ええ。ちょっとね。見られていないはずだけれど、車をパンクさせちゃった」

 アントネッラがため息をついた。
「本当に困った子ね。でも、おかげであいつらがヨナタンを襲う確率は限りなく小さくなったからいいかしら。悪いけれど、もう二度とそんなことしないでよ。私たちとヨナタンの関係を知られるわけにはいかないんだから」
「ええ。ごめんなさい。もうやらないわ」

 ステラは内心すこしだけ嬉しかった。ヨナタンの身を守るのに貢献できたのだから。あとは足を引っ張らないように大人しくしていよう。

 イェルク・ミュラーの証言で裁判は、シュタインマイヤー氏の目論んだ通りに進み、ミュラー少年の命を助けた被告のヨナタン・ボッシュは実刑を免れた。一方で、ミュラー夫妻の殺害容疑ならびにアデレールブルグ財団設立に関する詐欺への捜査が始まり、主犯としてミハエル・ツィンマーマンの逮捕状が取られた。

 ステラたちの休暇も終わりが近づいていた。みなテントを畳んで撤収を済ませ、間もなく迎えにくる《イル・ロスポ》の貨物トラックを待った。ハインツは、ダリオと堅く握手をして、相伴に預かったおいしい料理の数々に対しての感謝を述べた。そして、「帰り道で飲んでくれ」とビールを2ダースも渡してくれた。

 通販会社Tutto Tuttoのロゴの入った大きなトラックが、キャンプ場に停まった。車窓から《イル・ロスポ》がそのあだ名の通りひきがえるにそっくりの顔を見せて「乗りなさい」と告げた。

 ヨナタンはいつ帰ってくるのかな。悪者たちにみつからないように、シュタインマイヤーさんがそのうちに届けてくれるんだろうか。早く逢いたいな。こっちではテレビでも、新聞でも、顔は見えなかったけれど、同じ国にいるだけで嬉しかったんだけれどな。ステラは後髪引かれる想いでしぶしぶトラックに乗った。

「早く帰らないと、マッダレーナとブルーノが怒るよな」
マルコが言った。そうよね。あの二人は、来ることもできなかったんだし、文句を言っちゃダメかな。ステラはしょんぼりして、トラックの荷台の扉を閉めた。トラックはすぐに発車した。

 アントネッラが、ステラに言った。
「ほら、この大きな包みを開けてごらんなさい」

 彼女の指差した先にはタンスの絵の描かれた大きな箱があった。「商品じゃないの?」と首を傾げたがよく見ると宛先は「チルクス・ノッテ」だった。ステラはドキドキしながらガムテープを剥がし始めた。マルコとエミーリオ、それにマッテオも続けて手伝いだした。開いた箱の中から、いつもの目立たないシャツとジーンズを身に着けた青年が出てきた。

「ヨナタン!」
みなが一斉に叫ぶと、チルクス・ノッテの道化師はニッコリと笑った。
「ただいま」

 ステラは大喜びで彼に抱きついた。《イル・ロスポ》の運転するトラックは、サーカスの一団を乗せて、一路イタリアへと帰っていった。

(初出:2016年8月 書き下ろし)

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Posted by 八少女 夕

不健康なコーヒータイム

コーヒータイム

会社からフリーな木曜日の午後は、別の仕事して、お掃除して、買い物して、洗濯して、一週間分の野菜などの下ごしらえして、という具合にめいっぱい頑張ります。それに時間があったら小説も書くし。

その分、土日はもう少し楽しんだり休んだりする方に使いたいと思うから。

というわけで、頑張った後に、きれいになったキッチンでほっとひと息。思いっきり不健康でダイエットにも好ましくないものを食べます。普段は、健康にいいものを頑張って手作りしては食べています。ダイエットも通常運転の中で続けています。だから、たまにはいいじゃない。人生は自分のためにあるんだもの。
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Posted by 八少女 夕

サルスベリのこと

サルスベリ Photo by phoenix727(pixabay)
これはpixabayで公開されているパブリックドメイン画像です。作者はphoenix727氏です。

日本では2回ほど引越をしたことがあるらしいが、記憶にある住居は2つ。そのうちのほとんどは東京都の目黒区の現在母が一人で住んでいる家です。この家の2階の南側に私がずっと使っていた部屋があって、庭のサルスベリの樹が見えていました。

私は8月生まれで、夏は私の季節と勝手に決めていました。暑かったり、やたらと蚊に愛される体質だったりで、なぜそんなに夏が好きだったのかわからないけれど、とにかく夏が一番だと思っていた私です。そして、サルスベリの濃いピンクの花は、そんな私に「夏が来た」と宣言してくれる大切な存在でした。

スイスに移住してから、サルスベリの花が咲いているのを一度もみていないなと、ふと思いました。なぜか、そりゃ夏に帰国しないからです。スイスの夏って本当に快適で、たまに「今日は暑くて大変だな」と思う時も木陰に入ってしまえば問題なしという程度なんですよ。イタリア側と違って蚊もほとんどいませんし。私には子供がいないので、学校の夏休みとは何の関係もありません。だから、暑くて湿度が高くてしかも飛行機のチケットが高い夏に一時帰国するメリットは何もないんです。

日本の夏に帰らないから、入道雲も、麦茶も、スイカも、蚊取り線香も、花火もないんです。あ、いま、心がキュウっと痛みました。なんなんだこのノスタルジーは。

そして、サルスベリですよ。こんなに長く花を見ていない……。今年が結婚15周年でしたから、15年も花を見ていないんですね。あの木、まだ大丈夫なのかな。動物と違って樹は、目に見えるように老いたりはしませんが、でも、永遠にあるわけでもないんですよね。

スイスではまったく見ない花だけに、もう二度とあの花を見ることはないのかなと思うと寂しく感じます。
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Posted by 八少女 夕

【小説】夜のサーカスとマリンブルーの輝き

さてリクエスト掌編、当ブログの77777Hit記念立て続けに発表させていただいていますが、77777Hit記念掌編としては5つ目。リクエストは山西左紀さんにいただきました。

ご希望の選択はこちらでした。

*現代日本
*野菜
*地元の代表的な酒/もしくは嗜好飲料
*公共交通機関
*夏
*「夜のサーカス」関係
*コラボ(太陽風シンドロームシリーズ『妖狐』の陽子)


今回のリクエスト、サキさんが指定なさったコラボ用のオリキャラは、もともとlimeさんのお題絵「狐画」にサキさんがつけられたお話なのですが、サキさんらしい特別の設定があって、これをご存じないと意味がないキャラクターです。というわけで、今回はご存じない方は始めにこちらをお読みになることをお薦めします。

山西左紀さんの 狐画(前編)
山西左紀さんの 狐画(後編)

そのかわり、私の方のウルトラ怪しい(っていうか、胡散臭い?)キャラクターは、「知らねえぞ」でも大丈夫です。

「夜のサーカス」はイタリアの話なんですけれど、現代日本とのことですので舞台に選んだのは、一応明石市と神戸市。でも、サキさんのお話がどことはっきり書かない仕様になっていますので、一応こちらもアルファベットにしています。前半の舞台に選んだのは、こちらのTOM-Fさんのグルメ記事のパクリ、もといトリビュートでございます。



「夜のサーカス Circus Notte」を読む「夜のサーカス」をはじめから読む
あらすじと登場人物




夜のサーカス Circus Notte 外伝
夜のサーカスとマリンブルーの輝き


 蒸し暑い夏の午後だった。その日は、僕の個展が終わったので、久しぶりの休みを取りA市方面へ行った。長いほったらかしだった時間の埋め合わせをするように、出来る限り彼女の喜ぶデートがしたかった。

 ようやく僕が出会えた理想の女性。思いもしなかったことで怒らせたり泣かせてしまったりもしたけれど、誤解は解けて、僕たちはとても上手くいっている。少なくとも僕はそう思っている。

 今ひとつ僕の言葉に自信がないのは、陽子にどこかミステリアスな部分があることだ。もちろん、僕が一度経験した、夢のような体験に較べれば受け入れられる程度に謎めいているだけだけれど。

 朝食をとるにはとても遅くなってしまったので、僕たちはブランチをとることにした。彼女の希望で、A市に近い地元で採れた五十種類以上の野菜を使ったビュッフェが食べられるレストランを目指した。

 そこは広大な敷地、緑豊かな果樹園に囲まれている農作業体験施設の一部で、その自然の恵みを体で感じることが出来る。都会派でスタイリッシュな陽子が、農業や食育といったテーマに関心があることを初めて知った僕は、戸惑いを感じると同時に彼女の新しい魅力を感じて嬉しくなった。

 ビュッフェに行くと、僕はどうしても必要以上に食べたくなってしまうのだが、薄味の野菜料理なのでたとえ食べ過ぎてもそんなに腹にはこたえない。もっとも大量に食べているのは僕だけで、陽子はほんのわずかずつを楽しみながら食べていた。そして、早くもコーヒーを飲みながら静かに笑った。

「はじめての体験って、心躍るものね」
「初めて? ビュッフェが?」

 彼女は、一瞬表情を強張らせた後でにっこり微笑むと「ここでの食事が、ってことよ」と言った。それは当然のことだ。馬鹿げた質問をしてしまったなと、僕は反省した。

 そのまま農作業体験をしたいのかと思ったら、彼女は首を振って「海に行って船に乗りたいわ」と唐突に言った。

 海はここから車で三十分も走れば見られるが、船に乗りたいとなると話は別だ。遊覧船のあるK港まで一時間以上かけていかなくてはならない。だが、今日、僕は彼女の願いを何でも叶えてあげたかった。

「よし。じゃあ、せっかくだから、特別におしゃれな遊覧船に乗ろう」
「おしゃれな遊覧船?」
「ああ、クルージング・カフェといって、美しいK市の街並を海から眺めながら、洒落た家具の揃ったフローリングフロアの船室で喫茶を楽しむことが出来る遊覧船があるんだ。あれなら君にも満足してもらえると思う」

 K市の象徴とも言える港は150年の歴史を持つ。20年ほど前に起こった大きな地震で被害を受けた場所も多かった。港では液状化した所もあったが、今では綺麗に復旧している。災害の爪痕は震災メモリアルパークに保存され、その凄まじさを体感できるようになっているが、そこからさほど遠くないクルーズ船乗り場の近くにはショッピングセンターや観覧車などがある観光名所になっている。

 僕は陽子をエスコートしてチケットを購入すると「ファンタジー号」ヘと急いだ。船は出航寸前だったからだ。この炎天下の中、長いこと待たされるのはごめんだ。

 なんとか甲板に辿りつくと、この暑さのせいでほとんど全ての乗客は船内にいた。ところが、見るからに暑苦しい見かけの男が一人、海を眺めながら立っていた。

 その男は外国人だった。赤と青の縞の長袖の上着を身に着けていて、大きな帽子もかぶっていた。くるんとカールした画家ダリのような髭を生やしていて、僕と陽子を見ると丁寧に帽子を取って大袈裟に挨拶をした。

「これは、なんと美しいカップルに出会えた事でしょう、そう言っているわ」
陽子が耳打ちした。僕は、陽子がこの英語ではない言語を理解できるとは知らなかったので驚いて彼女を見つめた。陽子は「イタリア人ですって」と付け加えた。

 怪しいことこの上ない男は、それで僕にはイタリア語がわからず、陽子にだけ通じていることを知ったようだった。全く信用のならない張り付いた笑顔で、たどたどしい日本語を使って話しだした。
「コノコトバ ナラ ワカリマスカ」

 僕は、どきりとした。かつて僕が体験した不思議なことを思い出したのだ。人間とは考えられない異形の姿をしたある女性(異形であっても女性というのだと思う)を、僕は一時期匿ったことがあるのだが、その獣そっくりの耳を持った女性が初めて僕に話しかけてきた時、「コノコエデツウジテイル?」と言われたのだ。

 僕は、この人は日本語も話せるのか感心しながら「日本語がお上手ですね」と答えてみた。すると、男は曖昧な微笑を見せてすまなそうに英語で言った。
「やはり、日本語でずっと話すのは無理でしょうな。英語でいいでしょうか」

 僕は、英語ならそこそこわかる上、たどたどしい日本語よりは結局わかりやすいので、英語で話すことにした。

「日本にいらしたのは観光ですか?」
「ええ。私はイタリアで小さいサーカスを率いているのですが、こともあろうに団員の半分が同じ時期に休みを取りたいと言い出しましてね。それで、まとめて全員休みにしたのですよ。演目が限られた小さな興行で続けるよりは、全員の休みを消化させてしまった方がいいですからね。それで生まれて初めて日本に来たというわけです」

 サーカスの団長か。だからこんな派手な服装をしているのか。
「それにしても暑くないのですか? そんな長袖で」
「私はいつ誰から見られてもすぐにわかるように、常に同じでありたいと思っているのですよ。だからトレードマークであるこの外見を決して変えないというわけなのです」
変わった人だ。僕は思った。

「外見を変えない……。変えたら、同じではなくなるなんてナンセンスだわ」
陽子が不愉快そうに言った。すると、サーカスの団長といった男は、くるりとしたひげを引っ張りながらにやりと笑い、陽子の周りをぐるりと歩いた。

「そう、もちろん服装を変えても、中身は同じでしょう。ごく一般的な場合はね」
「なんですって?」

 男は、陽子には答えずに、僕の方に向き直ると怪しい笑顔を見せた。
「だまされてはいけません。美しい女性というものは、化けるのですよ、あなた」

「それは、どういう意味ですの」
陽子が鋭く言った。

「文字通りの意味ですよ。欲しいものを手に入れるために、全く違う姿になり、それまでしたことのない経験を進んでしたがる。時には宝石のような涙を浮かべてみせる。我々男にはとうていマネの出来ない技ですな」

「聞き捨てならないわ。私のどこが……」
言い募る陽子の剣幕に驚きつつも、僕はあわてて止めに入った。
「この人は一般論を言っているだけだよ。僕は、少なくとも君がそんな女性じゃないことを知っている」

 そういうと、陽子は一瞬だけ黙った後に、力なく笑った。
「そう……ね。一般論に激昂するなんて、馬鹿馬鹿しいことだわ。ねぇ、キャビンに入って、アイスクリームでも食べましょう」

 その場を離れて涼しい船内へと入ろうとする二人に、飄々とした声で怪しい男は言った。
「では、私もご一緒しましょう」

 陽子は眉をひそめて不快の意を示したが、そんなことで怯むような男ではなかった。それに、実のところ空いているテーブルはたった一つで、どうしてもこの男と相席になってしまうのだった。僕は黙って肩をすくめた。

 ユニフォームとして水兵服を着ているウェイトレスがにこやかにやってきて、メニューを示した。
「いらっしゃいませ。何にいたしましょうか」

「何か冷たいものがいいな。陽子、君はアイスクリームがいいと言っていたよね。飲み物は何がいい?」
「ホットのモカ・ラテにするわ」

 僕は吹き出した汗をハンカチで拭いながら、驚いて陽子を見た。ふと同席の二人を見ると、どちらも全く汗をかいた様子がない。いったいどういう事なんだろう。

「私は、このビールにしようかな。こちらの特別メニューにあるのはなんですかな」
サーカス団長の英語にウェイトレスはあわてて、僕の方を見た。それで僕はウェイトレスの代わりに説明をしてやることにした。

「ああ、期間限定で地ビールフェアを開催しているんですよ。このH県で生産しているビールですよ。城崎ビール、メリケンビール、あわぢびーる、六甲ビール、有馬麦酒、山田錦ビール、幕末のビール復刻版、幸民麦酒か。ううむ、これは迷うな。どれも職人たちが手作りしている美味いビールですよ」

「あなたがいいと思うのを選んでください」
そういわれて、僕は悩んだが、一番好きな「あわぢびーる」を選んで 二本注文した。酵母の生きたフレッシュな味は、大量生産のビールにはない美味しさなのだ。

「なるほど、これは美味いですな」
成り行き上、乾杯して二人で飲んでいる僕に陽子が若干冷たい視線を浴びているような氣がして僕は慌てた。
「陽子、君も飲んでみるか?」

「いいえ、私は赤ワインをいただくわ」
陽子は硬い笑顔を僕に向けた。結局、クルーズの運行中、謎の男はずっと僕たちと一緒にいて、陽子の態度はますます冷えていくようだった。

 下船の際に、さっさと降りて行こうとする陽子を追う僕に、サーカスの団長はそっと耳元で囁いた。
「言ったでしょう。女性というのは厄介な存在なのですよ」

 誰のせいだ、そう思う僕に構わずに彼は続けた。
「彼女のことは、放っておいて、どうですか、私と今晩つき合いませんか?」

 僕は、心底ぎょっとして、英語がよくわからなかったフリをしてから彼に別れを告げ、急いで陽子を追った。

 彼女は僕の青ざめた顔を見て「どうしたの」と訊いた。
「どうしたもこうしたも、あの男、どうやら男色趣味があるみたいで誘ってきた。女性を貶めるようなことばかり言っていたのは、それでなんだな」

 それを聞くと、陽子は心底驚いた顔をした。
「まあ……そういうことだったのね、わたしはてっきり……」
「てっきり?」

 彼女は、その僕の質問には答えずに、先ほどよりもずっとやわらかくニッコリと笑った。
「なんでもないわ。ところでせっかくだから、そこにあるホテルのラウンジに行かない? もっと強いお酒をごちそうしてよ」

「いいけれど、僕は車だよ」
「船内でもうビールを飲んでしまったでしょう。あきらめなさい」

 僕は予定していなかった支出のことを考えた。海を眺める高層ホテルの宿泊代ってどれだけするんだろう。それでも、誰よりも大切な陽子が喜ぶことなら……。

 Kの港は波もない穏やかな海のマリンブルーの輝きに満ちていた。

(初出:2016年8月 書き下ろし)


この記事には追記があります。下のRead moreボタンで開閉します。

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【参考】
神戸シーバス クルージングカフェ ファンタジー号

そして、実は、次も「夜のサーカス 外伝」なんです。イタリアに残った連中がなにをしていたかは、来週までのお楽しみ。
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Tag : 小説 読み切り小説 コラボ リクエスト キリ番リクエスト 77777Hit

Posted by 八少女 夕

蝶子のイラスト、いただきました

先日、こちらでご紹介した「大道芸人たち Artistas callejeros」第二部のプロモーション動画を作る時に、ユズキさんが素敵なイラストの数々を描きおろしてくださったのですが、実はその原案段階に別のイラストがあったのですって。

ご自身のブログの記事でその素敵なイラストも発表なさっていたので、お願いして無理やりいただいて参りました!


蝶子 by ユズキさん
このイラストの著作権はユズキさんにあります。無断転用は固くお断りします。

完成品(下にまたしても動画を貼付けました)も素敵でしたが、試作とおっしゃりつつ、こちらも実にいいですよね。彼女らしい表情がいいなあと、何度もニヤニヤと眺めてしまいます。それにドレスの色が、蝶子のテーマカラー。よく読み込んでくださっているなあと、いつも感心しています。

ユズキさん、本当にありがとうございます!






【大道芸人たちを知らない方のために】
「大道芸人たち Artistas callejeros」は当ブログで連載している長編小説です。第一部は完結済みで、第二部のチャプター1を現在連載しています。興味のある方は下のリンクからどうぞ


「大道芸人たち 第一部」をはじめから読む「大道芸人たち 第一部」をはじめから読む
あらすじと登場人物

「大道芸人たち 第二部」をはじめから読む「大道芸人たち 第二部」をはじめから読む
あらすじと登場人物
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Tag : いただきもの

Posted by 八少女 夕

玉ねぎ出来た


冬の終わりに、芽がでてしまった玉ねぎを窓辺のプランターに植えました。
せっかくなので、長ネギ代わりにしようかなと。
実際、長ネギとの違いはほとんどなくて(追記・これは語弊があります。すみません。わけぎみたいな感じです)、何度も中華料理に入ってくれました。
で、ついに花が咲いたので、どうなっているのか、掘ってみたら、ちゃんと玉ねぎができていました。
なるほど! 玉ねぎってこうなっているのか。今回はすぐに食べてしまいましたが、また芽がでたら、また育ててみようと思います。
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Posted by 八少女 夕

【小説】旅の無事を祈って

さてリクエスト掌編、当ブログの77777Hit記念立て続けに発表させていただいていますが、77777Hit記念掌編としては4つ目。リクエストはlimeさんにいただきました。

ご希望の選択はこちらでした。

*中世ヨーロッパ
*薬用植物
*一般的な酒類/もしくは嗜好飲料
*乗用家畜(馬・ロバ・象など)
*雨や雪など風流な悪天候
*「森の詩 Cantum Silvae」関係


中世ヨーロッパをモデルにした架空世界のストーリー『森の詩 Cantum Silvae』は、魔法やかっこいい剣士など一般受けする要素が皆無であるにも関わらず、このブログを訪れる方に驚くほど親しんでいただいているシリーズです。他のどの作品にもまして、地味で活躍しない主人公よりもクセのある脇役たちが好かれるので、勝手にその個性の強い脇役たちが動き出して続編がカオスになりつつあります。

今回、limeさんに「森の詩 Cantum Silvae」関連でとのリクエストをいただきましたので、独立したストーリーでありつつ、「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」で拾えなかった部分と、続編「森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠」に繋げる小さいスピンオフを書いてみました。

ここに出てくる兄妹(馬丁マウロと侍女アニー)以外のキャラクターは全て初登場ですので、「知らないぞ」と悩まれる必要はありません。また、マウロとアニーの事情も全部この掌編の中で説明していますので、本編をご存知ない方でも問題なく読めるはずです。

出てくる修道院はトリネア侯国にあるという設定ですので、センヴリ王国(モデルはイタリア)をイメージした舞台設定になっていますが、この修道院長はドイツに実在したヒルデガルド・フォン・ビンゲンという有名な女性をモデルに組立てています。

そして《ケールム・アルバ》という名前で出てくる大きな山脈のモデルはもちろん「アルプス」です(笑)


【参考】
「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」を読む「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」を読む
あらすじと登場人物

森の詩 Cantum Silvae 外伝



森の詩 Cantum Silvae 外伝
旅の無事を祈って


 時おり子供のような天真爛漫さを見せるその娘を、エマニュエル・ギースはいつも氣にしていた。彼は、ヴァレーズの下級貴族の三男で受け継ぐべき領地や財産を持っていなかったが、生来の機敏さと要領の良さでルーヴランの王城に勤めるようになってからめきめきと頭角を現し、バギュ・グリ候にもっとも信頼される紋章伝令長官アンブローズ子爵の副官の地位を得ていた。

 同郷のその娘は、とある最高級女官の侍女だった。森林管理官の姪で両親を早くに失ったので兄と二人叔母を頼り、その縁で王城に勤めていた。健康で快活なその娘のことを好ましく思い、彼はいつもからかっていた。

「なんだ。そんなにたくさんの菓子を抱えて。食べ過ぎると服がちぎれるぞ」
「これは私が食べるのではありません。里帰りのお土産です」

「おや、そうか。楽しみすぎて戻ってくるのを忘れるなよ」
「まあ、なんて失礼な。私は子供じゃないんですから! ギース様だって侯爵様の名代としてペイ・ノードへいらっしゃるんでしょう。あなた様こそ遊びすぎて戻ってくるのを忘れないようになさいませ」

 彼女のぷくっと膨らんだ頬は柔らかそうだった。触れてみたい衝動を抑えながら、彼はもう少し近くに寄って、こぼれ落ちそうになっている菓子を彼女が抱えている籠の中に戻してやった。

「一刻、家に戻るそなたと違って、私は雪と氷に閉ざされた危険な土地ヘ行くのだぞ。長い旅の無事を祈るくらいの心映えはないのか?」

 娘は不思議そうに彼を見上げて言った。
「ギース様ったら、あなた様の槍はあちこちの高貴な奥方さまから贈られたスダリウム(注・ハンカチのような布)でぎっしりじゃないんですか?」

「まさか。私はそんなに浮ついてはいないよ」
「まあ。槍が空っぽなんて、かわいそうに」

 彼女は楽しそうに言うと、籠を彼に持たせると懐から白いスダリウムを取り出して彼の胸元に無造作に突っ込んだ。
「これでもないよりはマシでしょう? あなた様の旅の安全を!」

 屈託のない笑顔を見せてくれたその娘が、捨て石にされてその主人であった女官とともに異国に送り込まれたのを聞いたのは、彼がペイ・ノードから戻ってきた後だった。

* * *


 マウロは北側にそびえる白い山脈を見上げた。白く雪を抱いたそれは、グランドロンやルーヴランといった王国と、センヴリやカンタリア王国のような南の地域を分ける大きな山脈だ。あまりに高く、壮大で、神々しいために、人びとは「天国への白い階段(Scala alba ad caelum)」転じて《ケールム・アルバ》と呼んでいた。

 彼は国王の使者であるアンブローズ子爵に連れられて、センヴリ王国に属するトリネア侯国の聖キアーラ女子修道院に来ていた。そこではルーヴラン王族出身の福者マリアンナの列聖審査が進んでいる。ルーヴラン国王はそれを有利に進めたかった。それで教皇庁から審査に派遣されているマツァリーノ枢機卿へ芦毛の名馬ニクサルバを贈ることにしたのだ。馬丁であるマウロはその旅に同行することを命じられた。

 ただの馬丁でありながら、マウロは自分が非常に危うい立場にあることを自覚していて、できれば一刻も早くこの勤めから解放されたかった。

 ルーヴラン王国は、永らくグランドロン王国から領地を奪回するチャンスを狙っていた。だが国力に差があり普通に戦を交えても勝てないことは火をみるより明らかだった。それでルーヴラン世襲王女との婚姻を隠れ蓑にグランドロン王国に奇襲をかけようとした。そのために偽の王女が送られたが、その奸計はグランドロンに見破られた。
 
 マウロは親友ジャックと共に、偽王女にされた《学友》ラウラと恋仲であった教師マックスの逃亡を手伝った。死んだ振りをしていたマックスを地下に運んだジャックは身の危険を感じて早くに姿をくらましたが、マウロは侍女である妹アニーの身を案じて城に留まった。

 ラウラ付きの侍女としてグランドロン王国に行ったアニーは一度は戻ってきたものの、バギュ・グリ侯爵に伴われて再びグランドロンへ行った。そして、それきり戻ってくることはなかった。

「勝手にいなくなった。おそらく死んだのだろう」
侯爵はそれ以上の説明をしてくれなかった。

 心酔していたラウラの仇を討とうとしたアニーがグランドロン王の暗殺に成功すればいいと思って自由にさせたに違いないのに、それが失敗すればすぐ自分たちは関係ないと切り捨てる。身勝手で小心者の侯爵をマウロは憎いとすら思った。彼はすぐにも妹を捜しに行きたかったので退職したいと申し出たが、それも許されなかった。

* * *


 ルーヴランやグランドロンのある北側の土地とセンヴリやカンタリアのある南側の土地の間に横たわる長く連なる山脈《ケールム・アルバ》にはすでに深く雪が降り、アセスタ峠を越えることが出来ないので、一行はバギュ・グリ領を通って海からトリネアに入った。

 アンブローズ子爵は船室の奥でギースと話をしていた。
「バギュ・グリ侯は、あの馬丁を殺してくるようにと仰せだ」
「なぜですか」

「侯爵は、グランドロンとの関係を損なわぬために、ラウラ姫をはじめからフルーヴルーウー伯に嫁がせたということにしたいのだ。だからあの偽王女が実はラウラ姫だったことを知っているだけでなく、侯爵がフルーヴルーウー伯やグランドロン王を殺そうとした件も知っているあの兄妹を抹殺したいのだよ。王を狙った妹の方はグランドロンで秘かに始末されたらしいが」

 ギースが下唇を秘かに噛んだが、アンブローズは氣づかなかった。
「とにかく、我々が戻るまでに殺らなくてはならない。だが、他の者たちには、我々が手を下したとわからぬようにせねば。この船の上から突き落としてしまえば簡単じゃないかね」

 ギースは首を振った。
「それはなりません。あの馬の世話はただの召使いにはできません。馬を引き渡すまではお待ちください」

 一行の中で軍馬ニクサルバの世話が出来るのはマウロだけだった。エサや水をやるだけではなく、マッサージをし、蹄鉄や足の状態などのチェックをするには熟練した馬丁である必要があった。アンブローズもそれは認めた。

「だが、あの者は我々を警戒しているだろう。馬がいなくなったら早々に逃げだすんじゃないのか」

 ギースはしばらく考えていたが、やがて言った。
「私におまかせくださいませ。修道院長のマーテル・アニェーゼは、以前からの個人的な知り合いなのです。独自修道会を目指すあの方はルーヴラン王国の支援が喉から手が出るほど欲しいはず。私から上手く事を運ぶように手紙を書きましょう」

 トリネア港につく少し前に、ギースは巨大な軍馬の世話をしているマウロの所へ行った。
「まもなく大役も終わりだな」
「ギース様」

「マウロ。アニーのことは、本当に氣の毒だった」
その言葉を聞くと、馬丁は青ざめて下を向いた。

「グランドロン王の暗殺を企てたのなら、許されるはずはありません。そうわかっていても、ラウラ様のご無念を思うと、何事もなかったように暮らすことは出来なかったのでしょう。止めることも、代わってやることもできなくて、本当にかわいそうなことをしました」

 ギースは、マックスとラウラが生きて、しかもフルーヴルーウー伯爵夫妻の地位におさまっていることを口にはしなかった。今ここでそんな事を言ったら、無為に妹を失い、自らも命の危険に晒されているこの馬丁が怒りと絶望でどんな無茶を始めるかわからない。彼は黙って自分のすべきことを進めることにした。

「マウロ。お前は危険が迫っていることを知っているな」
「ギース様……」

「お前にチャンスをやろう。いいか。あの修道院で馬を渡す時に、具合が悪いと修道女に申し出よ。我々の誰もがいない所に案内されたら、この手紙を院長にお渡しするのだ。お前を助けて逃すように書いておいた」
「ギース様、なぜ? そんなことをしたらあなた様のお立場が……」

 彼は、黙って懐から白い布を取り出した。そのスダリウムをマウロはよく知っていた。刺繍の不得意なアニーが彼にもくれたスダリウムにも、言われなければそうとは到底わからぬ葡萄とパセリの文様がついていた。妹がエマニュエル・ギースを慕っていたような氣配はまったくなかったので彼はとても驚いたが、少なくとも彼がそのスダリウムを肌身離さず持っている意味は明確だった。マウロは心から感謝して、その手紙を受け取った。

* * *


 アンブローズ子爵の一行は、華麗な馬具を身につけたニクサルバを連れて修道院へ入った。大人の身丈の倍近くもあるその軍馬は、さまざまな戦いで名を馳せ、諸侯の垂涎の的だった。その堂々とした佇まいは、馬には目のない枢機卿をはじめとした人びとの賞賛を浴びた。

 長い退屈な引き渡しの儀式の後、修道院の食堂で枢機卿と子爵の一行、そして修道院長マーテル・アニェーゼが午餐を始めた。マウロは、ギースに言われた通りに具合が悪いと若い尼僧に申し出た。

 粗相をされると困ると思ったのか、尼僧はすぐにマウロを案内し、中庭に面した静かな部屋に案内した。
「横になられますか。ただいまお水をお持ちします」

 マウロはあわてて声を顰めて言った。
「あの、具合の方は問題ないのです。実は、伝令副官のギース様から、他の同行者に知られぬように院長にお渡しすべき手紙を預かっているのです」

 それを聞くと尼僧は驚いたが「わかりました」と言って出て行った。

 大きな扉が閉められ、嘘のように静かになった。中庭にある泉ではチョロチョロと水音が響いていた。冷え冷えとしていた。マウロはこれからどうなるのだろうと不安になった。逃げだしたことがわかれば子爵はすぐに追っ手をよこすだろう。そうすれば殺すことももっと簡単になる。貴族でもなければ、裕福な後ろ盾もない者の命は、軍馬のたてがみほどの価値もない。

 そうでなくても、土地勘も友人もないトリネアでどこに逃げればいいというのだろう。追っ手を恐れながらどんな仕事をして生きていけばいいというのだろう。道から外れた多くの貧しい者たちのように、じきに消え失せてしまうのだろうか。

 妹と同じように、この世からいなくなってもすぐに忘れられるのだろう。彼はアニーにもらったスダリウムを取り出して眺めてから目の所へ持っていった。

「何をメソメソしているんだ」
張りのある声がして、振り返ると戸口の所に華奢な少年が立っていた。ここにいるからには修道院つきの召使いなのだろうが、ずいぶん態度が大きい。

男装のエレオノーラ
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「なんでもない。君は誰だ。院長はいらしてくださらないのか」
「私はジューリオだ。院長は頃合いを見て抜け出してくるだろう。あの枢機卿は酒が入るとしつこいんだ。上手くあしらわないと列聖審査にも関わるし、大変なんだぞ」

「そうか。君は、ここで働いているのか。使用人にしては、ルーヴラン語、うまいな」
「トリネアの言葉はセンヴリの言葉よりもルーヴランの言葉に近いんだ。これは普段話している言葉さ。それに、私はここで働いているわけではない」

「じゃあ、なぜここにいるんだ? ここは女子修道院だろう?」
「マーテルお許しがあってここには自由に出入りできるのさ。それよりもお前こそ何しにきたんだ」

「マーテル・アニェーゼに手紙を渡すためだ」
「どの手紙だ、見せてみろ」
「そんなのダメだよ。それに君は読み書きが出来るのか」

 ジューリオと名乗った少年は口を尖らせた。
「失礼な。詩を作ったりするのは得意じゃないが、手紙を読むくらいなんでもないぞ。どのみちマーテルに言えば、私に見せてくれるに決まっているんだぞ。いいから見せてみろ」

 そう言われたので、マウロは懐から手紙を出して彼に渡した。マーテルがどんな反応をするのかわからなかったし、もしかしたらこの少年が逃げる時になんらかの手助けをしてくれるかもしれないと思ったのだ。ジューリオは笑って受け取ると丁寧に手紙を開いた。だが、手紙を読んでいるうちに眉をひそめて真剣な顔になった。マウロは不安な面持ちでそれを見つめた。

「なんて書いてあるんだ? 僕のことを書いてあると思うんだけれど」
ジューリオは、ちらっと彼を見ると頷いた。
「命を狙われているから逃がしてやりたいと書いてある」

 マウロはホッとした。少なくともギースは彼を騙したのではなかったのだ。

 その時、衣擦れの音がして二人の尼僧が入ってきた。一人は先ほどの若い尼僧で、もう一人が枢機卿の隣にいた修道院長だった。彼女はジューリオを見ると驚き、深くお辞儀をした。
「まあ、いらしていたのですか! ごきげんよう、エレオノーラさま。この方のお知り合いなのですか」
「いや。珍しい馬がいると聞いたのでやってきて、たまたまここで知り合ったのさ」

 マウロはぎょっとしてジューリオを見た。
「君は女性だったのか? それに……」

「この方はあなた様がどなたかご存じないのですか、エレオノーラさま」
「私は誰かれ構わず正体を明かすほど無防備ではないのだ」
「しかし、姫さま」

「そのことはどうでもいい。それよりもこの者が持ってきたこの手紙を見てくれ。この手紙を書いたギースという者はマーテル、あなたの友達か?」
「はい。古い知り合いでございます。以前ヴァレーズで流行病にかかった修道女たちを助け、薪の配達を停止した森林管理官に掛け合ってくださったことがございます。立派なお方です」
「そうか。この馬丁はルーヴで少々知りすぎたようで命を狙われている」

 そういうとジューリオことエレオノーラは手紙を院長に渡した。院長は厳しい顔で読んでいたが困ったようにマウロとエレオノーラの顔を見た。
「この方を亡き者にしたように振る舞いながら、フルーヴルーウー伯爵領へと逃してほしいと。神に仕えるこの私に演技とは言えそんなことを」

 エレオノーラは笑った。
「おもしろいではないか。あなたなら上手く切りぬけると期待されているのだ。マウロ、そもそも何を知ってしまったのか話してみろ。我々は口が堅いし、事情によっては、この私ひとりでもお前を助けるぞ」

 マウロは、ルーヴランで起こったことを院長とエレオノーラに話した。罪のない恋人たちと妹に起こった悲しい話に、修道女たちは同情の声を漏らした。妹が下手な刺繍をほどこしたスダリウムを見せながら、ギースが自らの危険を省みずに自分を救ってくれようとしていることも語った。院長はそのスダリウムを手にとった。

「これは珍しい意匠ですが、私どもとも縁の深いデザインです。あの薬酒を持っておいで」
院長は、若い尼僧に言った。やがて尼僧は小振りな壺と盃を三つ盆に載せて戻ってきた。院長は香りのするワインを注ぐとマウロとエレオノーラに渡した。

「これは特別なお酒なのですか?」
マウロが訊くと院長は微笑んだ。
「この修道院の庭で採れた葡萄で作った白ワインにお酢と蜂蜜、そしてパセリが入っています」

「なんだ。珍しくも何ともないではないか」
エレオノーラが不思議そうに覗き込む。院長は笑った。

「珍しいものではございません。けれども、そこにこの修道会の意味と神のご意志があると思っています。滅多に手に入らぬ珍しい植物で作った薬はとても高価で、王侯貴族や裕福な者しか使うことが出来ません。けれど貧しい者たちも健康な体を作ることで病に負けずに生き抜くことが出来るのです。どこでも手に入るものだけで出来たこの飲み物は強壮にいいのですよ。高価な薬を一度だけ使うよりも、日々体を丈夫にすることの方が効果があります。さあ、乾杯しましょう。あなたの妹さんが心を込めて刺繍をしたのと同じように、あなたの長生きを願って」
そう言って乾杯した。マウロはアニーを思って目頭が熱くなった。それから、この院長のもとに彼を逃してくれたギースに感謝して。

「マウロさん。時に私たちは試練の大きさに心砕かれ、父なる神に見捨てられたと感じるかもしれません。けれど、自暴自棄にならず、起こったことの意味を考えてください。あなたたちを利用し見捨てた方々をお恨みに思うお心はよくわかります。けれども、どうか憎しみの連鎖でお命を無駄になさらないでください。妹さんは、お仕えしていた方のために命を投げ出されましたが、同時にあなたとギースさまの幸運と安全を願われました。憎しみが妹さんのその想いよりも尊いはずはございません。ギースさまがあなた様のことをこの私に頼まれたのは、そうお伝えになりたかったからだと思います」

「しかし、なぜフルーヴルーウー伯爵領なのだろう? 腕のいい馬丁ならば、私の所に来てもいいのだが」
エレオノーラが言うと、院長はじろりと彼女を見てから言った。

男姫ヴィラーゴ ジュリアに憧れてらっしゃるあなた様が馬丁を連れて帰るなんて悪い冗談です。お父様がどんなに心配なさることか」
「ははは、そうだった。出奔したジュリア姫の夫になったのは馬丁だったな」

「マウロさん。ギースさまがフルーヴルーウー伯領ヘ行けとお書きになった理由は、私にはわかりませんが、何かご深慮がおありになるのでしょう。つい先日見つかったばかりの伯爵は、岩塩鉱で働く人びとの安全を慮って三人一組で働くようにと決まりを変えられたそうです。おそらく神の意に適うお心を持った方なのでしょう。私が腕のいい馬丁が働き口を求めているという推薦状を書きますので、それを持ってフルーヴルーウー伯爵の元をお訪ねになってみてはいかがですか」

 マウロは院長の言葉に深く頭を下げた。
「はい。ありがとうございます。フルーヴルーウー伯爵領にいれば、ルーヴランでの知り合いに会うことはないでしょうから、ギースさまにもご迷惑はかからないと思います。院長さまのご助力に心から感謝します」

「珍しくもない白ワインやパセリが、私たちの役に立つように、一介の馬丁であってもその天命を全うすることは出来ます。それに、エレオノーラさま。女の役目を全うしつつも活躍をすることは出来るのですよ。私たちはそれぞれに与えられた役割を受け入れることによって、真の力を発揮することが出来るのです」

 この手の説教には飽き飽きしているらしいエレオノーラは、手をヒラヒラさせると言った。
「わかった、わかった。では、私はじゃじゃ馬としての天命を全うすることにしよう。ここで出会ったのも神の思し召しだろう。この者がこの国を無事に出て、フルーヴルーウーへ辿りつけるように、私が手配しよう」

 それを聞いて院長はニッコリと笑った。

 彼女は枢機卿やアンブローズ子爵の元に戻ると、倒れた馬丁は性質の悪い流行病なのでしばらく修道院で預かると告げた。 

 マウロは、姫君エレオノーラの遊興行列に紛れてトリネアの街を出て、雪のちらつく峠を越えてフルーヴルーウー領へと向かった。

 数日後にルーヴランに帰る前に馬丁の様子を知りたいとやってきたアンブローズ子爵に対して、院長は「もうここにはいません」と答えた。ぎょっとしてどこにいると訊く子爵に、彼女は黙って上の方を指差し十字を切った。

 修道院長が十字を切るということは、決して嘘ではないことを知る子爵は、心の中で笑いながらも悲しそうな顔を作り、礼を言って暇乞いをすると一行に帰国を命じた。

 雪はゆっくりと里へと降りてくる。冬の間、トリネアやフルーヴルーウーと、バギュ・グリ領やルーヴランの間には、冬将軍が厳しい境界を作る。一刻でも早く帰らねばならなかった。

 子爵の横にいたギースには院長が指差した先は本物の天国ではなく雪を抱く《ケールム・アルバ》、かの伯爵領との国境であるフルーヴルーウー峠を指していることがわかっていた。

 マウロは、フルーヴルーウー伯爵となったマックス、妹が命よりも大切にしていた伯爵夫人ラウラと再会するだろう。兄がその二人の元で大切に扱われることこそ、アニーが心から望むことに違いない。

 彼は白いスダリウムの入っている左の胸に右手を当てた。

(初出:2016年8月 書き下ろし)

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全くの蛇足で、本編をお読みになった方はご存知のことですが、マウロの妹アニーも命を救われて、ラウラの侍女としてフルーヴルーウー伯爵に仕えています。つまり、マウロは遠からず死んだと思っていた妹とも再会することになります。この話の続きは、現在執筆中の「森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠」にご期待ください。(全然書いていないけれど)
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Posted by 八少女 夕

【キャラクター紹介】エレオノーラ・デ・トリネア

久しぶりのキャラクター紹介の記事です。発表済みの作品や、まだ発表していない作品のキャラクターをちょこちょこっと紹介して、作品に親しみを持ってもらおうかな、という姑息な企画の第4回目。

今回はまだ作品に登場したことのない女性です。でも、近いうちに(って今週ですが)スピンオフの中でフライング的に登場するので、特別に描いていただいたイラストのお披露目を兼ねての紹介します。


【基本情報】
 作品群: 「森の詩 Cantum Silvae」シリーズ
 名前: エレオノーラ・デ・トリネア (Eleonora de Trinea)
 居住地: トリネア侯国の港町トリネア
 年齢: 「森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠」(未発表)では19歳。
 身分: トリネア侯国第一候女

* * *


エレオノーラは、センヴリ王国(モデルはイタリア)に属するトリネア侯国の第一候女です。本来ならば深窓のお姫様でしかるべきなのですが、事情があってとても残念なことになってしまっているじゃじゃ馬姫です。

彼女は、伝説の《男姫》ヴィラーゴ ジュリアにひどく憧れていて、男装で出歩くときのはその男性形であるジューリオと名乗るほどです。馬に乗ったり、剣術などは「そこら辺の男どもには負けない」と自負しているのですが、ダンスをしたり詩を暗唱したりするのは苦手です。

男装のエレオノーラ
このイラストの著作権はうたかたまほろさんにあります。無断転用は固くお断りします。

彼女は一年前に兄をなくしています。侯国を担うにふさわしい跡継ぎと誰からも敬愛されていた兄が突如死去したことで、ただのじゃじゃ馬姫は、トリネア侯国の世継ぎとなってしまいました。

彼女は数年前にグランドロン国王レオポルド二世との縁談がありましたが、話が出たばかりの時に、あっさりと断られています。本来ならばトリネア候が激怒してもおかしくない扱いでしたが、エレオノーラはとても候女として人前に出せる振舞いができないので、候はほっとして話を大きくしませんでした。

上の麗しいイラストは、わたしのリアルの友人でもあるうたかたまほろさんが描きおろしてくれた男装姿のエレオノーラです。ああ、なんて素敵なのかしら。嬉しい~。

そして、この下のプロモーション動画で使われているたくさんのイラストも、まほろさんによります。本編の方は、え~と、もう少しお待ちくださいね。(全然書けていません)



【参考】
「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」を読む森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架
あらすじと登場人物
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