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Posted by 八少女 夕

葬儀の希望

今日は、三月頃に考えていたことを。なんかいろいろと記事がたて込んでいて、アップできなかったんですよね。

父が鬼籍に入ったのはもうじき二十年も前の事になります。「亡くなるには早すぎる」といわれる年齢でした。私はまだしばらくありますが、連れ合いはそろそろそんな年齢になる頃で、それだけ歳をとってくれば当時わからなかった事もわかってくるし、なるほどなあと思う事もあります。

父の葬儀の時に「昔、葬儀ではこれをかけてほしいと言っていました」と母が伝えて、出棺の前のお別れの時にモーツァルトの「フリーメイソンのための葬送音楽(Maurerische Trauermusik)」をループでかけてもらいました。

私の父は、プロテスタントの家庭で育ったのに、私が三歳の時にカトリックに改宗するという変わった事をした人(それを欧米の人に話すとみな驚愕します。改宗の方向が普通と反対なので)で、葬儀ももちろんカトリックの教会でしたが、これ仏教のお葬式だったりしたら「かけてくれと言われても」と困るんじゃないかなあと思います。それに父のチョイスは、さほど悪くはなかったと思いますが、たとえば「ヴェルディのレクイエム。怒りの日をループで」などと遺言されたら実行する方は困るだろうなあと、いろいろと想像してしまいます。

また、ある別の方の話ですが、とある共同体の中でいろいろとトラブルがあって「●●さんにだけは葬儀に来てほしくない」と言い残されたそうです。ところがお嬢さんがそれを共同体のトップの方に申し出てみたところ「そんなことは言うべきではありません」と拒否されてしまったそうで、結局「来ないでほしい」とは言えないままだったらしいのです。そのご本人は堂々といらして目立つところに座っておられたそうで、お嬢さんは悶々とされたとか。

またあるかなり名のある方が、お子さんのご負担を減らそうと「密葬で、四十九日が明けるまで誰にも知らせなくていい」と言い残されたらしいのですが、実際にそうしたところ、結局亡くなられた事が公にわかって、それから引っ切りなしの弔問が始まり大変なことになってしまったんだとか。お通夜やお葬式では、ご記帳やお香典の受け取りも含めてシステム化されていて、それに乗っていればお香典返しも含めてかなり楽にできるようになっているのですが、個別の弔問だけだとそうもいかず、ご家族は悲しむ暇もなくひたすら対応に追われる事になりました。

「結婚式を希望通りにしたくてあれこれ夢見る」というのは、本人がいることで、希望通りに行かなくても本人が納得すればそれで済みますが、お葬式は「そうはいっても」になってしまうこともあるし、しかも本人はもういないのですから、よほどの事でなければあまり希望は言わない方がいいのかもなあと思ってしまいました。

でも、なんか言っちゃうんですよね。「この曲いいなあ。私のお葬式で流して」とか「お葬式しなくていいから南太平洋かなんかで散骨してよ」とか。それを言い残された人があとで困るかどうかなんて全く考えずに。私何回そういうことを言ったかしら?
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Posted by 八少女 夕

【小説】郷愁の丘(3)動物学者 - 2 -

第三回目「動物学者」、長いので三回に分けると前回書いて、三分の一に切ったんですが、この後に二つほど別の小説が入って間が空くので、この話はさっさとここで発表する事にします。ああ、行き当たりばったりだとこういう事に。いつもより長いですが、五千字程度なので、お許しください。すみません。

今回は、いろいろな設定上の情報がたくさん出てきます。(あ、無理に憶えなくても、必要になったら「あらすじと登場人物」を読めばいいのでご安心ください)それに、ようやく主人公の二人が「スコット博士」「ミズ・カペッリ」と呼び合うのを脱出します。やれやれ。でもまだ先は長い……。


郷愁の丘「郷愁の丘」を読む
あらすじと登場人物




郷愁の丘(3)動物学者 - 2 -

 給油を済ませ、小さな村が遠ざかっていくのを振り返り、後方座席のメグとルーシーがともに寝いっているのを目にして彼女は微笑んだ。

「マニャニというのは大きい街ですか?」
ジョルジアが訊くと、彼は笑った。

「ニューヨークと比較したら村以前で集落と言った方がいいでしょうね。それにレイチェルは、少し街から離れた所に住んでいるんです。彼女は、ゾウの研究をしていて、裏庭にゾウが登場するような所に家を買ったんです」

 ジョルジアは、ふと思いついたように言った。
「じゃあ、ミセス・ブラスのお母様はもしかして……」

「ご存知かもしれませんね。レイチェル・ムーア博士です」
アフリカの動物研究者として、彼女は有名人だった。まだ五十代だが、ゾウの権威として認められる研究成果も知られていた。『夕陽の沈むさきに』と題した本人の半伝記映画に出演していたので、さほど動物学にも詳しくないジョルジアでもその名前を知っていた。

「あなたの義理のお母様でもあるんですよね」
ジョルジアが確認すると、彼はわずかに戸惑いを見せた。

「これから引き合わせるから、説明しておいた方がいいでしょうね。父の家はナイロビ郊外にあって、レイチェルの住む家とは別です。父ジェームス・スコットとレイチェルは、表向きはただの親しい友人ということになっています。もちろん同業者やこの辺りの人びとは、誰がマディの父親か知っていますし、二人はお互いの家を行き来しているのですが」

「ジェームス・スコット博士……あの映画にも出ていらっしゃいましたよね。確か、ライオンの権威で、大学の名誉学長をなさっていらっしゃる……。あの方があなたのお父様だったんですか」
「はい。でも、この世界でも僕と彼が親子であることを知らない人の方が多いでしょうね」

「どうして? ご自宅で他の研究者の方と顔を合わせたりはなさらないのですか?」
「僕は、八歳の時から彼とは別に暮らしているんです。今でも彼と会うのは年に一、二度、それも学会で遭う方がずっと多いんです」

 ジョルジアは、もしかしたら悪いことを訊いたのかと不安になって彼を見つめた。彼は顔を向けてまた微笑んだ。
「氣にしないでください。父と喧嘩しているわけではないのです。ただ、あまりにも僕の人付き合いが悪くて、家族ともまともにつき合えないし、父も自分から息子に歩み寄ろうというタイプではないんです。それで氣をもんだマディとレイチェルの方が、機会を作っては僕を家族の会と学会を含めた社会に引っ張りだしてくれているくらいなのです。あの二人には、感謝しています」

 ジョルジアは、また同じことを感じた。この人は、なんて私によく似ているんだろう。家族が嫌いなわけではないし、社会を憎んでいるわけでもないけれど、氣がつくと一人こもってしまう感覚は、彼女にはとても馴染みがあった。

「あなたが住んでいる所は、安心できる居場所なんですね?」
ジョルジアが訊ねると、彼は少し驚いたように彼女の顔を見た。揶揄でもなく、疑惑でもない、真摯な表情を見て、彼は少し間を置いてから力づよく答えた。
「ええ。あそこで僕は初めて安らぐことを知りました。《郷愁の丘》は、僕にとっての約束の地なんです」

「《郷愁の丘》ですって? なんて素敵な名前なの」
ジョルジアが言うと、彼は笑った。
「誰がその名前を付けたのかわかりません。前の持ち主はそんな三流ドラマみたいな名称は恥ずかしいから変えてもいいと言っていましたが、僕はそのままにしたかったんです」

「シマウマがたくさんいるんですか?」
ジョルジアは、訊いた。象の権威のムーア博士は、ゾウの生息地の近くに家を買ったというのだから、彼の自宅の側にも研究対象がいるのかと思ったのだ。

「ええ。シマウマも、ガゼルも、ヌーも。でも、彼らは留まりません、タンザニアヘ行き、それからまた次の年になると帰ってきます。研究には向いています。それに哲学者になるにもいい所かもしれません。あなたも、きっと数日間でしたらお氣に召すでしょう。写真に撮りたい景色がたくさんあるはずですから」

「どうして数日間なんですか?」
「ニューヨークと較べるまでもなく、とても退屈な所と思われるでしょうから。一番近い街まで一時間近くかかるんです。テレビやラジオの電波もよく途切れてしまうし、電氣や水道のといった公的ライフラインも通っていないんです。幸い、敷地内に泉があるので、ガスボンベと発電用のオイルを買うだけでなんとか生活はできますが」

「行ってみたいわ」
「本当ですか?」
「ええ。マリンディよりも、ずっと」

「じゃあ、お連れしましょう。今夜は、レイチェルの所に泊って、明日にでもあなたをムティト・アンディの駅にお連れしようと思っていました。でも、本当は、あなたにお見せしたいと思っていたんです。忘れられない風景や、心をつかむ瞬間を切り取る特別な目をお持ちのあなたなら、なぜあそこが《郷愁の丘》と名付けられたのか、きっとわかるでしょう」

 ジョルジアは遠くを見ている彼の横顔を見つめた。不思議だった。全幅の信頼としか言いようのない心の凪が、朝の砂漠のように鮮烈な陰影を持って横たわっていた。それは論理的ではなく、おかしな安心感だった。これまで独身男性の自宅に行こうとしたことは一度もなかった。ましてや街まで車で一時間も離れている陸の孤島に行くなど、考えたこともなかった。

 もちろんジョルジアは、彼もまた男性であることを忘れるほどナイーヴではなかった。けれど、彼女には失うものもなかった。片想いの相手には存在すらも知られておらず、かつてつき合った相手には女性としての存在を否定された。守る価値のないもののために、疑心暗鬼になる必要などないのだ。

 反対に、スコット博士のことは、もっと良く知りたかった。お互いのことをまだよく知りもしないのに、それでもこれほど近く感じる相手だ。一緒にいると心が安らぐだけではなく、話にも興味が尽きなかった。

 モンバサからマリンディへと向かう二時間、ジョルジアは彼といろいろな話をした。シマウマの縞の現れ方の話から、写真の印画と人間の虹彩に関する話題まで、お互いの専門を交えながら語り合った。

 彼の家族の話は、その二時間にはほとんど出てこなかった。その時は家庭があると思っていたので不思議だったけれど、今は納得していた。彼が独身だと知っていたら、マリンディの別荘への招待にどう答えただろうと彼女は考えた。異母妹マデリンの家族が常に一緒にいるとしても、おそらく彼女はイエスと言わなかったに違いない。

 でも、今、彼と同じ狭い空間を共有しても、彼女は彼に対して他の男性、例えばリチャード・アシュレイに対するような煩わしさや警戒心をまったく抱かなかった。モンバサからマリンディへと向かった二時間の後、彼はジョルジアにとってよく知らない男性ではなくて、ニューヨークで十年来の公私ともに強い信頼関係で結ばれている同僚のベンジャミン・ハドソンと同じような存在に変わっていた。

 マデリンの入院騒ぎを挟んで、再び彼の車で今度はマニャニへと向かうことになった時も、彼女は彼ともっと長い時間を過ごすことになることに躊躇いを感じなかった。彼の家である《郷愁の丘》へ行くことは、それとは少し意味合いが違うが、ジョルジアはこの成り行きに不安は全く感じなかった。彼はマリンディの別荘に誘っただけで、それ以降の行き先の変更は全てジョルジア自身が望んだことだ。

 彼は真面目で紳士的だった。そしてどういうわけだか、彼女が心地よいと感じる距離を知っていた。

 これ以上一センチでも近づけば、彼女が不安に感じる心理的な、もしくは物理的なテリトリーを、多くの人は無自覚に侵す。同僚であるベンジャミン・ハドソンのように長年知っている人や、《Sunrise Diner》のキャシーのように親しくしている人ですら、ジョルジアは時おりそれを感じて身を強張らせた。それが不必要な怯えだと思考ではよくわかっていても、反射的にびくついてしまうのだ。

 その一方で、彼女にはどうやっても近づけない類いの人たちがいる。ジョルジアの方から関心を持ちもう少し親しくなりたいと感じる時に、徹底的な無関心を示して近寄らせない人たちだ。自分からその距離を縮めなければ、親しくはなれないとわかっていても、その見えない壁や遠さを感じてわずかな一歩を踏み出すことが出来ないことが多くあった。

 彼がジョルジアとの間に置く距離は、その二つの距離の間にあった。どんな時でも。ジョルジアは、だから、自分が望む時に少しずつ彼に近づいていくことが出来た。いくつもの窓からそっと覗いてみると、心地よくて興味深い世界が存在している。そして、その世界は決して素っ氣なく扉を閉めて拒否したりはしない。どんな風に覗き込んでも優しく穏やかに歓迎してくれるのだ。

 そして、ジョルジアは新しく知り合う人から逃げるばかりだったこれまでと対照的に、むしろその場に留まり、彼の話をもっと聴き、自分のことを知ってもらいたいと思うようになっていた。

 それまで撮り続けていた子供たちの笑顔の写真を撮るのをやめて、モノクロームの人物写真を撮るようになったきっかけも、ニューヨークの知り合いにはほとんど話せなかったのに、彼には正直に話していた。

 秋の柔らかい陽が射し込む墓地で、彼女は一人の男の姿を偶然撮った。その横顔に浮かび上がった陰影は、自分の心を見つめ直すきっかけとなり、世間の喜ぶ子供の明るい笑顔ばかりを撮り続けていた彼女にとって、作品の方向転換のきっかけとなった。そして、彼女は有名キャスターであったその男に恋をした。

「一度も知り合っていない人にそんな感情を持つなんておかしいと、自分でもわかっているんです。でも、私の作品を創り上げるためには、その感情を無視することは出来ませんでした。自分と向き合わない限りはそれまでの殻を打ち破ることはできなかったんです」

 彼は、彼女の片想いについて、肯定してくれた。
「あなたはちっともおかしくなんかありません。あなたはそのニュースキャスターに迷惑をかけたわけではないんですから、そのことを恥じる必要はありませんよ。それに、恋とは論理ではないでしょう。いつの間にか身動きが取れないほど好きになってしまっている。僕にも似た経験があります」

「知り合ってもいない人に恋をしたことがあるんですか?」
「いや、知り合ってはいます。でも、二度と逢う機会もない程度の知り合いだったから、あなたのケースとほとんど変わりありませんよ」

「その女性への想いは、自然消滅したんですか?」
ジョルジアは訊いた。叶わない想いがいつかは解消された事例があれば、彼女自身が今の虚しい渇望に耐えることも楽になるかもしれないと思ったのだ。

 彼は、しばらく答えるのをためらっていたが、やがて首を振った。
「いいえ、まだ。いつか消えてくれればいいと思っています」

 ジョルジアは、彼が見せた表情の翳りに、悲しさをおぼえた。手の届かないものを想い続けることは苦しい。けれど、それを手放し失うことも、決して心躍ることではないのだ。それは人生に新たに刻まれる静かな敗北だった。それも、とても惨めな。自らを嘲笑して吹き飛ばそうとすれば、もっと激しい痛みとして心の奥に疼きだす、やっかいな感情の嵐。彼女のよく知っている世界だ。

「ミズ・カペッリ。まもなくマリアカニに着きます。給油を兼ねてまた少し休憩しますが、どのくらいお腹が空いていますか」
彼がそう言うと、ジョルジアは笑った。

「メグはとっくに名前で呼んでくれているのに、いつまで礼儀正しくミズ・カペッリなんですか」

 それを聞くと、彼は困ったように口ごもった。
「それは……親しくもない僕に馴れ馴れしくされたら、あなたは嫌だろうと……」

「でも、この数時間で、ずいぶん親しくなったと思うし、私はジョルジアと呼んでいただけたら嬉しいわ。私もスコット博士ではなくて、ヘンリーと呼んで構わないのかしら。そして、堅苦しい話し方をお互いにしないようにしません?」

 彼は、例のはにかんだような笑顔を見せた。ジョルジアはまた一歩彼に近づけたように感じて嬉しかった。彼は、少しの間黙っていたがためらいがちに口を開いた。
「その……もし嫌でなかったら、グレッグと呼んでくれないか」

「グレッグ?」
「ミドルネームがグレゴリーなんだ。とても小さかったとき、可愛がってくれた祖父にそう呼ばれていて……。もちろん、違和感があるならみんながそう呼ぶヘンリーでもいいんだが……」

 ジョルジアは微笑んだ。
「喜んで、グレッグ」
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Posted by 八少女 夕

パスタソースの話

本当は「トラックバックテーマ」カテゴリーに入れるべきなんでしょうけれど、たぶん後で「美味しい話」で探しそうな氣がしたので、こっちに入れておきます。トラックバックテーマで「好きなパスタソースは何ですか?」というのがあったので書く氣になった話です。

パスタ

よく「スイスでは普段何を食べているの?」と訊かれます。日本人が毎日スシを食べているわけではないように、スイスでも毎日チーズ・フォンデュを食べるわけではないのです。で、「肉を焼いて、付け合せにポテトを」なんて回答が多くなるんですけれど、よく考えたら、パスタはものすごくよく食べます。イタリアが近いってこともあるんですけれど、やはり手頃ですから。

で、私がよく作るパスタソースの話。実を言うと、特別なものは何もないです。それにびっくりするくらい工程が簡単なものばかりですね。こういうものじゃないと、なかなか普段の食卓には並べられませんよね。パスタはほぼ一品で完結できる料理なので、お昼ご飯などにもよくしますし、それに、我が家のようにノーアポの客が多い時は、いざという時にこれで誤摩化せるので重宝します。

では、よく作るパスタソースをいくつかご紹介しましょう。

(1)ボロネーゼ
ミートソースと言っちゃうと身も蓋もないですけれど、ひき肉とトマトのソースです。前は市販のものをメインに使っていましたが、今は手作りしています。

現在連載中の「郷愁の丘」でもボロネーゼのスパゲティの話が何回か出てきます。ヒロインはイタリア系アメリカ人で、家族の中で(ティーンの時に暇だった)彼女だけがイタリア人の祖母から先祖伝来のボローニャ風ソースの作り方を習ったという設定です。このソースの一番のファンは彼女の兄で、このソースの事になると理性が吹っ飛ぶという設定もあります。

私が作る場合は、このヒロインが作っているものほどの本格的なものではないです。玉ねぎ、ニンニク、人参、セロリ、ポルチーニ茸のみじん切りとひき肉を炒めてからトマトの水煮の瓶詰めを投入、塩こしょう、ワイン、ローリエなどを加えて三十分くらい煮込む程度です。

(2)海老入りジェノヴェーゼ
ジェノバ風ソースというのは、バジルとニンニクと松の実とオリーブオイルで作ります。もちろん市販品も買えますが、私は年に一度手作りします。夏の間窓辺の家庭菜園としてサラダやカプレーゼに使ったバジルを秋に全部刈って、ミキサーでまとめてソースを作った後、ビニール袋に入れて薄く伸ばして冷凍させます。これがいろいろと使えるのですよ。

何も入れずにソースだけで和えたタリアテッレを、料理の付け合せとして出す事もあるのですが、海老ととてもよく合うので、海老を具にしてメインのパスタとしてお昼ご飯にする事も多いです。

(3)カルボナーラ
これも日本ではおなじみのパスタですよね。普通は卵黄だけを使うんでしょうが、私は卵白を捨てるのが嫌だし、かといって卵白だけをちょうどよく使うという事もないので、全卵で作ります。

ソースを作る前にベーコンと卵白を炒めてパスタと一緒にしてしまいます。それから生クリームと絡めて味を付け、最期に火を止めてから卵黄を絡めます。チーズは焦げるのでお皿に盛ってから各自で好きなだけかけます。

(4)チンクエP
「五つのP」で出来たソース。Pomodoro(トマト)、Panna(生クリーム)、Parmigiano(パルミジアーノ・レッジャーノ・チーズ)、Prezzemolo(パセリ)、Pepe(胡椒)です。

見た目は具のないサーモンピンク色のパスタですけれど、これがこってりしてなかなか美味しいのです。パルミジアーノは、常備していないので、代わりにパダーノを使いますが、これでもちゃんとしたPです。

(5)和風キノコ&バター
普通和風パスタだと刻み海苔がつきものだと思いますが、我が家は連れ合いが海藻を嫌がるので、そこまで和風にはしません。キノコを白ワインで蒸し焼きにしてから、醤油バターで味を付けます。これだけで結構いけるし、連れ合いも喜んで食べます。同じような味が続いて飽きた時に、醤油バターは使えますよ。

こんにちは!トラックバックテーマ担当の梅宮です今日のテーマは「好きなパスタソースは何ですか?」です麺類が好きな方は多いかと思いますが、今回はパスタですパスタってイタリアンなのに和風にアレンジできたり味のバリエーションが豊富ですよね梅宮は魚介がたっぷり、トマト味のペスカトーレが好物です作るのはペペロンチーノが好きですがみなさんが好きなパスタソースは何ですかたくさんの回答、お待ちしておりますトラックバ...
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Posted by 八少女 夕

Baba Yetu

今日は、最近買った音楽の話を。

アフリカが舞台の話を連載中なんですけれど、マイ・サントラ(あ、痛たたた……)代わりにしているiPhoneのプレイリストには、あまりアフリカっぽい曲は入っていません。でも、これだけは別。超アフリカ。めいっぱいケニアです。

もっともこの曲、もともとはゲームのサントラとして作られたらしいので、そのゲームを知っている方からすると「どこがアフリカ?」なのかもしれませんね。


Baba Yetu (The Lord's Prayer in Swahili)-Alex Boyé, BYU Men's Chorus & Philharmonic; Christopher Tin

この曲の歌詞は、スワヒリ語(ケニアの公用語)による「主の祈り」なのです。「主の祈り」はキリスト教で一番大切な祈祷文です。

「Baba Yetu」には、ゲームのオリジナルバージョンをはじめとして、いろいろなアーティストによる動画がありますが、私が一番好きで購入したのがこのアレックス・ボエがリードボーカルを歌っているもの。この方、アメリカでモルモン教の宣教師もしている方のようですが、「あなたは神を信じますか」といきなり言われるよりも、こうやってアフリカの大地でキリスト教とかアニミズムとか関係なく見せて聴かせてくれる方がその偉大さが伝わります。

バックで歌って演奏しているBYU Men's Chorus & Philharmonicの欧米的な合唱と演奏、それにアレックス・ボエのアフリカ的な歌い方がミックスして、私の作品のイメージとしては理想的な曲になっているのです。なんというのでしょうか。黒人の声帯や歌い方は、いわゆるクラッシックな合唱の歌い方とは全く違うのです。これはいいとか悪いとかではなく単純に違うのです。私はどちらも好きなのですが、この曲のリードボーカルとしてはやはりこの歌い方が一番しっくり来ます。

「ライオン・キング」のメイン・テーマである「Circle of Life」もこれに近い音楽ですが、あちらは天下のディ○ニーの映画音楽ですし、そのイメージが強すぎます。歌詞も英語ですし、「欧米によって理想化されたアフリカ」の印象が強すぎて、私には少し「コレじゃない」なんです。

「Baba Yetu」は「主の祈り」ですので「天にまします我らが父よ。願わくは御名の尊まれんことを、御国の来たらんことを、御旨の天に行わるる如く地にも行われんことを」と祈っているわけです。

私がアフリカに行ったとき、果てしない大地を動物たちが悠々と移動して行き、生と死の神秘が目の前で展開され、これでもかと荘厳な光景を目にしました。普段はほとんど意識しない偉大な何かの存在を感じる体験でした。おそらく通勤電車に揺られたり、リア充競争のためにインスタグラムに小洒落たカフェごはんの写真をアップしたり、芸能人の挙動に一喜一憂したりしていると、なかなか感じにくくなっていく、特別な何かです。もちろん「だから人はアフリカに行くべき」と言いたいわけではないのですが。

私の作品「郷愁の丘」では、ニューヨークで生きる一人の女性が、ケニア中部のサバンナに行きます。話の中心はアフリカ体験そのものではないのですが、サバンナで見聞きした事が、彼女の心境に大きく影響する、その切り離せない関係を描きだせたらいいなと思っています。

私の脳内イメージでは、この曲は作品の途中で野生動物がいっぱい出てくるサバンナのシーンと、それから最期のエンディングのクレジット部分にかかる感じです。(映画じゃないって)



【参考】
郷愁の丘「郷愁の丘」
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Posted by 八少女 夕

【小説】郷愁の丘(3)動物学者 - 1 -

タイトルにもなっている《郷愁の丘》という地名は、イタリアのポップグループ、マティア・バザールの歌「Amami」の邦題からイメージして命名しました。かなり年長の方でないとご存知ではないと思いますが、ずっと昔に三菱ギャランという車のCMにこの曲が使われていて、日本で発売された時の邦題は「郷愁の星」というものだったのです。イタリア語の歌詞そのものには、一度も「郷愁の星」という言葉は出て来ないのですが。この歌のイタリア語の歌詞からイメージしたモチーフは、この作品のあちこちに散りばめられています。

という話はさておき、第三回目「動物学者」です。長いので三回に分けます。こうやって分けていると、全然終わらないような氣がしてきたけれど、しばらくこれで行こうと思います。もしかしたら途中から巻くかもしれませんが……。


郷愁の丘「郷愁の丘」を読む
あらすじと登場人物




郷愁の丘(3)動物学者 - 1 -

「お疲れじゃないですか」
ジョルジアは、訊いた。彼はモンバサにジョルジアを迎えに来てマリンディから往復しているので、既に四時間も運転しっぱなしだった。これから四時間再び運転して、こんどはトサボ国立公園内のマニャニまで行かなくてはならない。

 彼は穏やかに微笑んだ。
「慣れていますから。この辺りで運転するとなると、たいていこんな距離になるんですよ」

 スコット博士と二人では絶対に行かないと泣き叫んだメグは、結局、二十分も立たないうちに彼の愛犬ルーシーにもたれかかって寝てしまったので、ジョルジアは再び助手席に座って彼と静かに話をすることになった。

 道は舗装されているものの、状態はよくなかった。アメリカの都市部であればおそらく三十分もあればついたのではないかと思われる距離を、ランドクルーザーは二時間近く使って走っていた。海岸部を離れ、森林部を抜けた頃になって、ようやく空氣が乾いてきた。モンバサやマリンディは興味深いところだったので、ほとんど何も見ないまま去ったのはある意味残念だったが、あの猛烈な湿氣と暑さから解放されたことに、ジョルジアはほっとしていた。マラリアの恐怖も去ったのだろう。

 広大な赤茶けたサバンナの間に時おり現れて、休憩と給油を繰り返す小さな街をジョルジアは見回した。カラフルな建物と看板。アルファベットで書かれているが、スワヒリ語の固有名詞で占められている。そして、半分はアラビア文字だ。特に東部はイスラム教徒が多いので、街ごとにモスクが目立つ。異国にいるのだと強く印象づけられる景観だ。

 癖の強い英語を話す黒人たちは、白人が乗っている車に給油する時に必ず法外な値段をふっかけてくる。スコット博士は穏やかに彼らと交渉して相場の値段を払っていた。これはこの人たちの日常なのだとジョルジアは思った。

 人種のるつぼであるニューヨークの、比較的有色人種が多い地域に住むジョルジアは、親しい友達であるキャシーをはじめとして多くの黒人たちを知っていたが、白人たちと比較してつきあうのにエネルギーを消耗すると思った事はなかった。だが、ここでは全てがニューヨークとは違う。人種差別や人類愛とは関係ないのだ。

 スコット博士が、彼らに対して怒ったり悪態をついたりしない事に、ジョルジアは強い印象を受けた。二年前にジョルジアたちを連れて回ったリチャード・アシュレイは五分に一度は悪態をつくか、冗談を交えながらも不平を漏らしていた。今も状況がわかる度にジョルジアはまたかとため息をつきたくなるのだが、対応している彼自身は繰り返されるジョルジアにとっては試練とも言える状況を黙々と受け入れていた。

 このように、氣候も人びとも文化風俗も違う国で、先祖はヨーロッパから来たという人びとは一種独特のテリトリーの中に生きていた。植民地時代には宗主国から来た彼らは特権階級でアフリカ大陸を根に持つ人びとを奴隷や家畜のように見下して快適な暮らしをしてきた。国が独立し政権が黒人たちの手に渡ると、あからさまな支配は終わったものの私有地の権利やその他の経済的優位性が残ったために、あいかわらずプール付きの豪邸に住む白人と貧しい黒人という構図は消えていない。

 現地で生まれた二世三世以降の白いアフリカ人たちは、今も独特のコミュニティを形成している。そこにあたらしく移住してきた白人たちも加わる事が多い。中には、そういった白人ムラを嫌い、現地の黒人たちの中に一人飛び込む人もいるが、そのまま上手く受け入れてもらえる、もしくは本人が欧米社会とはかけ離れた観念を持つ部族の生活に順応する事はまれで、大抵は失意のうちに欧米に戻る事になる。

 ヘンリー・スコット博士は十九世紀に移住したイギリス人の血を引いているが、自己紹介をする時には「ケニア人です」と言った。ジョルジアが彼と知り合ったのは二年前で、マサイマラ国立公園の近くで撮影をした時に、オーガナイズしたリチャード・アシュレイが連れてきた。

「彼はヘンリー・スコット博士といって、大学で講師もしている動物学者です。サバンナの事をよく知っていてマサイ族との交渉も慣れているんで来てもらいました。普通の観光なら僕一人でも問題ないけれど、子供たちを撮影するなら、マサイ族の長老と交渉しなくちゃいけないんです。で、こればっかりは彼がやった方が成功率が高いんですよ」

 口から生まれてきたようなリチャードよりも交渉のうまい人とはどんな人かと思ったが、スコット博士はまったく弁が立つ人間ではなかった。そうではなくて、長年の付き合いから、彼はマサイの長老たちに信頼されていたのだ。

「彼の本来のフィールドはトサボ国立公園のあたりなんですが、マサイマラでも、アンボセリでもマサイ族の連中と知り合いになっているらしいんです。白人たちの共同体では名前を知らない人もいるくらいに目立たない存在だというのに。パーティにも全然顔を出さないし」

 リチャードがそう話を振ると、当時彼は言葉少なく答えた。
「マサイ族の長老と酒を飲んでゴシップの交換するためににいっているわけじゃない。研究のことで話さなくてはいけないことがあるから。彼らは僕らの知らない事をたくさん知っているんだ」

 ジョルジアが、この人は私の同類だと初めて思ったのは、二年前に出会ったこの時だった。
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Posted by 八少女 夕

スイスにも春が来た

お花見 2017

我が家は賃貸なのですけれど、結構大きい前庭があって、その一部に桜の樹があります。日本のソメイヨシノなどと違って、花見のための木ではなくて果樹なんですけれど、やはり桜が咲くのは嬉しい。

今年は、新しいカメラで撮ってみました。ボケ具合にちょっとドヤ顔な私は、やはり素人だよなあ。でも、思った通りに必要なところにフォーカスが当たって、背景のボケた写真が撮れると、ちょっと嬉しくありません?

お花見 2017

もう一枚。こちらは土曜日にアルプスを越えたイタリア側スイスで撮った一枚。この日はイタリア側は27℃にもなるちょっとした夏日でした。

ああ、いい季節になったなあ。冬が終わると本当に嬉しいです。これから数ヶ月、ヨーロッパはいいですよ。
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Posted by 八少女 夕

キャラクターバトンもらってきました。

今日は、TOM-Fさんからいただいたバトンです。昨日、サキさんもなさっていらっしゃいましたね。誰でやろうかなと悩んだのですが、せっかく連載を始めたばかりなので宣伝を兼ねて「郷愁の丘」がらみがいいなと。

でもねぇ。主役二人が、このバトンで笑いを取るにはあまりにもアレでして。すみませんが、どうでもいいのがおまけで登場します。



「キャラクターバトン」

1、自己紹介

(ジ)ジョルジア・カペッリ。ニューヨーク在住の写真家です。年齢は33歳。独身です。前作「ファインダーの向こうに」に続いての出演です。

(グ)ヘンリー・グレゴリー・スコットです。つい最近登場したばかり、ケニア在住で動物生態学研究者です。38歳、独身。大学の講師などもして糊口を凌いでいますが、普段はサバンナでシマウマの生態調査をしています。

(キ)私はキャシー。ニューヨークの《Sunrise Diner》のウェイトレス。23歳だけど、ボブという夫がいて、一児の母よ。「ニューヨークの異邦人シリーズ」は第一作の「ニューヨークの日本人」から出演している古参です。いつ私が主役になるのかしら?


2、好きなタイプ

(ジ)そういうのは別に……。(作者ツッコミ:TOM-Fさんところのキャラ、某著名ニュースキャスターに惚れているんでしょ!)

(グ)えっ。す、好きなタイプ? そ、それをここで言うのは……。(オタオタしている)

(キ)あなたたちねぇ。別にいま好きな人を告白しなくてもいいんだから、適当な人をあげとけばいいでしょ。私はねぇ。有名人でたとえると、NBAのシャキール・オニールかな?


3、自分の好きな所

(ジ)う〜ん、あえて言うなら一人でいても困らないところ?

(グ)好きなところ……。特別そういうのはないのですが、強いて言うなら人にあまり迷惑をかけないところかな。

(キ)前向きなところ! 誰とでもすぐに友達になれるところも。わりと努力家だし、仕事熱心。子煩悩だけど、いい母親のはず。それに、結構ナイスバディ。あと、面倒見もいいかな。それにね……(あと20分間続く)


4、直したい所

(ジ)世間受けのいい写真ばかり撮ってきたので、いま、もう少し正直に自分の撮りたい物に挑戦しています。「きっとわかってもらえない」と諦めるのをやめたいです。

(グ)あまり人とうまくいかないので、少しは人と上手につきあえるようにしたいと思っています。

(キ)直したいところなんてないわ! 今のままの私を私が愛してあげなくてどうすんのよ!


5、何フェチ?

(ジ)フェチっていわれても。レンズ沼にどっぷりハマり中かな。

(グ)縞しまフェチ……あ、これはジョークです。

(キ)あなたがいうとジョークに聞こえないよ。私はラテックスと鞭! あ、これもジョークだけど、笑えない?


6、マイブーム

(ジ)郊外へのドライブ。一人で行きます。景色のいいところでリラックスしてワインを頼むのが好き。

(グ)灌木の新芽を植木鉢で育てる「マイ・ボンサイ」。愛犬のルーシーにかじられてダメになる事が多いのですが。

(キ)マカロン! 最近美味しいお店を見つけたの。仕事の後に口に放り込むと疲れも取れちゃう。


7、好きな事

(ジ)写真を撮る事かな。

(グ)シマウマの観察記録。

(キ)なんなのよ、あなたたちったら。それは仕事じゃないの。私はスケート! 早く冬にならないかな。今年は娘のアリシア=ミホにも教えはじめるわ。


8、嫌いな事

(ジ)パーティに行くこと。

(グ)会合一般。

(キ)本当になんなの、あなたたち?! 私? 不意の残業。お客さんとお喋りしてつい時間が経っちゃって時間超過するのは好きだけど。


9、読者に一言

(ジ)前回に続き、私がヒロインという地味な小説ですが、暇つぶしにでも読んでいただけると嬉しいです。

(グ)作者がアフリカで経験したことがあちこちに散りばめられた最初の小説です。雰囲氣を感じていただけたらありがたいです。主人公の片割れが僕というのは、なんですけれど……。

(キ)この二人が主役って、先が思いやられるけれど、私に免じて読み続けてくれると嬉しいなあ。「ぐるぐる系」と「ザ・生殺し」がお好きな方には、おすすめの小説よ。(褒めていない)
いつかは、私が主役の話も書いてほしいけれど、あの作者の好みがねぇ……。


10、次を指名する。

(ジ)指名……したいけれど、皆さんいろいろとお忙しいんですよね。

(グ)ご迷惑になったら申し訳ないし。

(キ)あ〜! この人たち、超イライラする! つべこべ言わずに指名するの! この作品と一番縁が深いのはTOM-Fさんだけど、そこからもらったバトンだからね。というわけで、外伝で競演したから彩洋さん。やってね!



キャシーは、あんな事を言っていますが、彩洋さん、お忙しいと思いますので、ご無理なさらずに。で、やりたい方は、どなたでもどうぞ!



「郷愁の丘」に興味のある方はこちらから。
郷愁の丘「郷愁の丘」


【関連作品】

「ファインダーの向こうに」を読む「ファインダーの向こうに」

「ニューヨークの異邦人たち」
「ニューヨークの異邦人たち」
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Posted by 八少女 夕

【小説】郷愁の丘(2)海の街 - 2 -

先週から連載を再開した「郷愁の丘」今回は「海の街」の後編です。モンバサに来たのは、特に理由があったわけではなく、パーティの誘いから逃げたかっただけなのですが、実はジョルジアはほとんどケニアの海岸の観光をしないまままたサバンナに向かう事になります。

とくにスコット家所有の別荘内には、足も踏み入れていないという事態に。ブログのお友だちの彩洋さんのところのキャラは宿泊もしているのに(笑)でも、この別荘の事は、いずれ別の作品(外伝かな?)でちゃんと描写しようと思います。いろいろと設定はあるんですよ。


郷愁の丘「郷愁の丘」を読む
あらすじと登場人物




郷愁の丘(2)海の街 - 2 -

 ひと通り写真を撮り終えて振り向くと、彼は新しいよく冷えたペットボトルの口を緩めてから手渡した。ジョルジアが礼を言って受け取り飲むのを待ってから、彼は愛犬にやった残りのペットボトルから飲んだ。この人は、どこまでも紳士だと彼女は思った。一連の動きには全くわざとらしい所がなく、評価してもらおうと意識しての行動でもないことが感じられた。

「なんて美しい海かしら。私の育ったところも海辺だったけれど、こんなに鮮烈な青じゃなかったわ。素晴らしい所に別荘をお持ちなんですね」
ジョルジアは感心して言った。彼は笑った。

「別荘を持っているのは父です。でも、彼はほとんど来ません。マディに薦められて投機の代わりに買ったようです。使うのはマディばかり。僕はよく運転手兼、鍵の管理人として駆り出されるのです」

 奥様の名前はマディとおっしゃるのですか、そうジョルジアが訊こうとしたときに、携帯電話の呼び出し音が鳴り響いた。ポケットから取り出してちらりと見てから「マディだ、失礼」と言って彼は電話を受けた。

 すぐに緊迫した様相になった。
「なんだって。わかった、大丈夫だ。あと五分もかからない、すぐに行く。メグは? わかった。玄関にいてくれ」

「どうなさったんですか」
ジョルジアは、ペットボトルの蓋を閉めると、ルーシーの水のボールを空にして車に戻った。ルーシーはついて来て、開けられたドアにさっと飛び乗った。エンジンをかけながらスコット博士は説明した。
「マディは、いま妊娠七ヶ月なんですが、急な腹痛に襲われたんだそうです。切迫流産の怖れがあるので、すぐに病院に運ばなくてはならないらしいんです」

 ジョルジアはぎょっとした。
「奥様がそんな大変なときに、迎えにきていただいたりして、済みませんでした」

 すると、スコット博士は首を振った。
「マディは、僕の妻ではありません。それに、夫のアウレリオも今朝はマリンディにいたんですよ。もっとも彼は肝心なときにどこかに行ってしまう才能があって、それをわかっているマディが、最近はマリンディに来る度に僕を呼びつけているんです」

「ご家族っておっしゃっていたので、奥様やお子さんといらしているんだと思っていました」
ジョルジアが言うと、彼はジョルジアの方を見て微笑んだ。

「僕は独身で、マディは妹です。正確に言うと、腹違いの妹ハーフ・シスター です。夫は、ミラノの実業家でアウレリオ・ブラス。娘のメグは五歳になります」

 そう話している間に、車は白い壁と藁葺きの屋根の大きい家の門に入っていった。玄関の所にぐったりと女性が座っていて、その足元に金髪をポニーテールにした少女がいた。

 スコット博士は急いで車から降りると、彼女の方に駆け寄った。ジョルジアも降りると、椅子の脇にあった荷物を持って、車に運び込んだ。荷物と反対側に少女が来て、ジョルジアの手を握った。ジョルジアがその目の高さに屈むとぎゅっと抱きついてきた。母親の危機を感じてよほど怖かったのだろう。

 博士が妹を運転席のすぐ後に座らせ、それからジョルジアからメグを受け取って母親の隣に座らせた。ジョルジアから離されるときに少女は少し抵抗した。

「メグ」
スコット博士が咎めると、彼女は泣きそうな顔をした。ジョルジアは荷物を最後部座席、ルーシーの腰に当たらないようにそっと置いた。そっと撫でると、不安そうな犬はクーンと鳴いた。

 車が出ると、マディは苦しそうに言った。
「はじめまして、ミズ・カペッリ……ごめんなさいね」
「こちらこそ……ミセス・ブラス」

 病院はさほど遠くなく、彼女は玄関で待っていた担架に乗せられて診察室に入った。廊下で抱きついて離れないメグと一緒に待っていると、車を駐車してきたスコット博士が、紐に繋いだルーシーと一緒に入ってきて、謝った。
「ミズ・カペッリ。本当に申し訳ない。せっかくの休暇なのに……」
「そんなことをおっしゃらないでください。先生が中でお待ちです」

 スコット博士は、ノックをして診察室に入っていった。ルーシーはジョルジアの足元に踞った。彼女は、うとうとしだしたメグをさすりながら廊下のベンチでしばらく待っていた。

 やがて、携帯電話で話しながらスコット博士が診察室から出てきた。
「そうですね。それが一番だと僕も思います。アウレリオは、明日直接ここに来るそうです。はい。このままそちらに向かえば夕方にはそちらにつきます。そうするしかないと思います」

 彼は電話を切ると、苦悩に満ちた顔で切り出した。
「ミズ・カペッリ。何とお詫びをしていいのかわからない。僕は、これからメグをここから四時間かかるマディの母親の所に届けなくてはいけないんです。彼女はアンボセリから急いで戻ってきますが、ここに彼女を引き取りにくるには遠すぎるのです。あなたをこれ以上引きずり回すわけにはいかないし、一人で放っておく訳にもいかない。どこかホテルへとご案内しようと思いますが……」

 ジョルジアは、自分でなんとかするので氣にしないで欲しいと言おうとしたが、その前にメグが泣き出した。
「いや! ヘンリーと二人でなんか行かない! ジョルジアと一緒にここにいる! ママはすぐに元氣になるもん」

「メグ! マディはしばらく入院しなくちゃいけないんだ。病院はホテルじゃないし、ミズ・カペッリにお前の世話をさせるわけにはいかないだろう」
「いや!」

 必死になって抱きついてくるメグと、困り果てているスコット博士を見ていたジョルジアは口を開いた。
「私も一緒に行きましょうか。特に予定はないですし、道中の子守りくらいのお役には立てると思います」

 スコット博士と、メグが同時にジョルジアを見た。ルーシーも、黒い鼻を持ち上げて、騒ぎの収まったらしい人間たちを見あげた。

 前よりもさらに強くジョルジアに抱きついている少女を見て、彼はため息をついた。しばらく、言葉を探していたが、やがて済まなそうに頭をさげた。
「そうしていただけたら、助かります」
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Tag : 小説 連載小説

Posted by 八少女 夕

ポルト旅行から帰って来ました

ポルト

土曜日に無事に自宅に帰り着きました。もう五回目のポルト。何度行ってもいい街だなあ。たぶんまた来年も行ってしまうと思います。向こうの人たちも「また来年」と言うし(笑)

そもそもポルトに行くようになったきっかけは、連れ合いが20年前にかつて行った事があってその話を聴いて「私も一度行きたいな」と。それからまさか毎年通う事になるとは思いませんでしたが。

これだけ通うようになったのは街自体を大好きというのもあると思いますが、どう考えても旅行中に出来てしまった独自世界「黄金の枷」ワールドのロケ地なので行くだけでワクワクしてしまうというのもあると思うんです。あ、痛たたた。でも、いいんです。本当の事だもの。

でも、よく考えるとこの街からインスピレーションをもらっているのは実は「黄金の枷」シリーズだけではなく、一見何の関係もないはずの「郷愁の丘」の原イメージも……。本人もすっかり忘れていたのですが、最初にイメージしたヘンリー・グレゴリー・スコットの立ち居振る舞いのモデルにした人がいて、その人を見ながら「あ、こんなところにいた」と思いました。そうか。あの作品の原案もここだったかと……。ま、読者のみなさまには、そんなことは関係ないですけれど。

戦利品

今回は、日本で購入したものすごく使いやすいソフトスーツケースを持っていきました。機内持ち込み可能サイズで、実際に行きは持ち込みました。なんせそのサイズの半分を空けていったんですもの。8キロなかったって事です。帰りは結構重くなりました。

帰りには、空港の免税店でも少し買ったりしたので、チューリヒで預けた荷物を受け取ってからその免税品も突っ込んだら本当にパンパン、そして重くなりました。でも入ってしまったので驚きです。

写真を撮るために買ってきたお土産を並べたのですが、その量に自分でのけぞりました。そんなに買った記憶はないんですけれど。(毎回これだ)

ほとんどは自分用です。いつもの「(オリキャラ・インファンテ323御用達の)Real Saboaria」の石鹸がたくさん右手に見えています。ポートワインの小瓶は、LBV(Late bottled vintage)もので、いわゆるヴィンテージと同じ味なのにお買い得なのです。それに何本かの各種ポルトガル産アルコールの小瓶。CDは今回は4タイトル。二つは自分で狙っていったもので、二つは現地の友達のおすすめです。それに革の小銭入れも見えています。カニの爪のタパスと、作品上で何回か使っているお菓子オヴォシュ・モーレシュも。

戦利品・指輪

これはフィリグラーナ細工の指輪。私は服装はかなり無頓着なんですが、アクセサリーはわりと好きで、今回も何か小さいものを買いたいなと思っていました。初日に見つけて一目惚れして買ったのがこの指輪。銀細工に24金でコーティングしてあります。

以上、戦利品の報告でした。
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Posted by 八少女 夕

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この記事は、2017年のエイプリルフール記事です。

なんだか広告が出てしまっているようなので、広告消しのために記事を書こうと思います。

といっても、なかなかネタもなく……。あまり興味がないかもしれませんが、ちょっとした創作秘話でもここに載せておきますね。

その1。「scriviamo!」をやろうと思ったきっかけ。
2013年3月2日にブログの一周年を迎えるにあたって、何かやらなくちゃって思ったんですよね。当時、すでにいくつかリクエストも受けていたことがあって、「リクエストを受けて書くのはなんとかなる」とわかっていたんです。でも、なんだか私だけがいっぱい書いても、みなさんはあまり興味ないんじゃないかなって思ったんです。あの当時から交流しているブログのお友だちはご自分で創作する方がほとんどでしたし、そういう方は読むだけじゃなくて参加型の方が面白がるんじゃないかなと。

で、こわごわ立ち上げたんです。どなたも参加してくださらなかったら、それはそれでショックだったろうし、反対に対処できないほど多かったらきっと匙を投げてしまっただろうし、最初の年は本当に「賭け」でしたね。

幸い、1年目に17人の方に参加していただいて、それをやり遂げることが出来たので自信がつきました。というわけで、毎年やることになったんですけれど。毎年、皆さんがパワーアップしていらっしゃる(笑)もう、最初から張り合うのは無理だからやめようとは思っているんですが、そのみなさんのパワーに飲み込まれるみたいにして、私自身の作品も、おそらく一人で書いているよりはいいものになっているように思います。

といっても、普段の作品が上手になるわけでもないんですけれどね。

その2。キャラはいつ生まれるか。
キャラクターは、基本的に勝手に生まれます。「こういう話が書きたい」「主人公を設定しなくちゃ」という形で組立てたことは……おそらくないかも。「リゼロッテと村の四季」は少しだけそう言うところはありますが、それ以外の作品は、勝手に話が出来てしまってから、あとから「あ~、文章にするか」という形で書き留めるのですね。

よくあるパターンが、旅行中に何かを見ていて、そこから勝手に妄想が動き出すパターン。最初のものはとても断片的なんですけれど、だんだん本人も信じられないような物語になってしまうことがあります。「黄金の枷」シリーズなどはそのパターンですね。最初は「Infante 323 黄金の枷」のラストシーンがぼんやりと浮かんだだけだったのですが、氣がついたら読者の方々がついていけないようなとんでもない世界観が出来ていました。

その3。BGMはいつ用意するか。
これは、なんか「痛たたた」という話ですけれど。ご存知の方も多いかもしれませんが、私は長編作品を書くとたいていその作品に合わせた音楽をプレイリストにして、通勤中などに聴きまくり創作モードにするんですね。だから、音楽がインスピレーションの元になって生まれたエピソードなどもあります。

作品中に「何でここの描写、こんなに力入れて書いてんの? 大した展開でもないのに」というようなときは、かなりの確率で音楽に合わせて脳内で展開してしまったシーンをひたり切って書いたところだったりします。

基本的には、構想の段階、つまり大雑把にストーリーが決まって、主要シーンがイメージできたのと同じ頃にプレイリストを作ります。後から曲が増えることもありますけれど。

私はどちらかというとインストルメンタル系の曲をよく聴きます。まあ、数曲は歌詞入りのものもありますが、歌詞があるとストーリーがその言葉に引きずられるので、そうならないような曲を無意識に選ぶことの方が多いみたいです。

と、これだけ書いたら、広告は消えるかな?
なんせ、広告が出ちゃったのって初めてなんですよ。本当に新しい記事を書いたら消えるんでしょうか?

この記事には追記があります。下のRead moreボタンで開閉します。

read more




おわかりでしょうが、これはエイプリルフールのジョークです。
もちろん、この広告はfc2の広告じゃありませんよ。クリックしても占いは始まりません。

広告用のGIFに使わせていただいた「森の詩 Cantum Silvae」シリーズ用キャラクターのイラストの著作権はうたかたまほろさんにあります。無断使用は固くお断りします。
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Posted by 八少女 夕

【小説】郷愁の丘(2)海の街 - 1 -

本日からまた小説の連載を始めます。外伝が既に二本も先に出てしまっていて、いろいろとネタバレをしている状態ではありますが、私が書いているのは推理小説ではないので、いいということにしましょう。「郷愁の丘」です。以前に読み切りとして発表した「サバンナの朝」がその本編の第一回で、今日は第二回に当たる「海の街」です。少し長いので来週との二回に分けます。

「郷愁の丘」はかつてこのブログで連載した「ファインダーの向こうに」の続編という位置づけで、ヒロインをはじめとしておなじみのキャラクターがたくさん出てきますが、おそらく前の作品を読んでいなくても話は通じるはずです。今回の話は、舞台のほとんどがニューヨークではなくてケニアに移っています。

ちなみに、ケニアだ、赤道直下だというと、どこに行っても暑くて死にそうのように思われるかもしれませんが、実は多くの場所は高山で過ごしやすいのです。でも、日本の夏にも負けずに暑いところがあります。それがモンバサやマリンディなどの海岸沿いの地域です。マラリア蚊がいるのもこのあたりです。


郷愁の丘「郷愁の丘」を読む
あらすじと登場人物




郷愁の丘(2)海の街 - 1 -

 深い青を瞳に焼き付けたくて、彼女は助手席の窓を開けようとした。

「暑いんですか?」
穏やかな低い声がすぐ横からした。ジョルジアは、運転している彼の方を見た。その横顔からは、窓を開けることへの非難は読みとれなかったが、もしかしたらマラリア蚊が入るから、開けない方がいいのかもしれないと思った。

「海の色をもっと良く見たいと思ったんです」
そうジョルジアが言うと、顔をこちらに向けた。淡い茶色の瞳は優しい光を宿していた。短くきれいに手入れされた口髭の間から見えている口元は、暖かく口角をあげていた。

「すぐに見晴らしのいい海岸に出ます。良かったらそこで車を停めましょう」
その親切な提案に、彼女は「ありがとうございます」と答えた。

 彼はジョルジアの日常から考えると、常軌を逸して親切だった。ナイロビで偶然再会した時に、マリンディの別荘へと招待してくれたこともそうだった。それだけではなく、モンバサから電話を入れて、マリンディまでバスで行くので待ち合わせ場所を教えてほしいと訊くと、彼自身がモンバサまで迎えにくると申し出てくれたのだ。

 普段の彼女はよく知らない人とは距離を置いていた。別荘への招待も断っただろうし、ましてや片道二時間もかかるモンバサとの往復をしてもらうことに警戒心を持って断るのがあたり前だった。そもそも、モンバサに来たのも、パーティにしつこく誘ってくるリチャード・アシュレイの申し出から逃げるための口実だった。

 けれど、今、隣にいるヘンリー・スコット博士には、どういうわけなのか、彼女はまったく警戒心を持たなかった。招待に対しても「喜んで」と即座に返答してしまったぐらいなのだ。

 彼は二年前の写真集の撮影旅行のときに知り合い、世話になった動物学者で、トサボ国立公園の近くに住んでいる。穏やかで誠実な上、口数が少なく、さらに必要以上に人とつき合おうとしない男だった。年齢はまだ四十には届かないようだが、あご髭のためにずっと年長者の印象を与える。

 初めて会った時から、ジョルジアは「彼は無害だ」という印象を持っていた。それは、アメリカ、とりわけニューヨークのような大都市では、決して褒め言葉ではない。むしろ口に出せば嘲笑と受け取られる心配すらある言葉だったが、彼女にとっては大いなる褒め言葉だった。

 彼は沈黙がもたらす平安を知っていた。あの時、車を運転していたリチャードは、沈黙を怖れて必死に何かを話し続け、ジョルジアは疲れて意識を遠くに飛ばした。そして、ふと意識が戻ったとき、バックミラーに映ったスコット博士も同じように違う世界で心を休ませているのに氣がついた。ジョルジアは、思わず後ろを振り返った。ゆっくりと視線を合わせたスコット博士は、ほんのわずかに口元を緩めた。

 リチャードが、郵便局へ寄るために席を外し、二人だけになったときにも、静かにいくつか言葉を交わしたが、そこには「間を持たせるための氣まずい会話」や「退屈な天候の話」などは何もなく、かといって有用な情報がたいていそうであるように脳内に緊張が満ちることもなかった。

 今よりも男性不信の傾向が強かったジョルジアは、仕事でつき合わざるを得なかったほぼ全ての男性と、八割以上の女性との会話に強い緊張を感じていたのだが、彼との会話だけは、まるで家族や親しい同僚としているかのごとくリラックスしたものであることにひどく驚いた。

 その印象が強かったので、彼のことはよく憶えていたのだが、偶然再会した後にもその印象はますます強くなっていた。

 彼女はそれと正反対の感情を知っている。もうやめたいと思っても未だに逃れられない片想いの相手を、テレビのニュースや雑誌の表紙で見かける時のことだ。その著名なニュースキャスターからは自分が見えるはずもなく、それどころかその存在すらも知られていないとわかっていても、動揺し、怯え、熱いとも冷たいともわからぬ何かが血管を駆け巡り、心は締め付けられる。それなのにスコット博士が自分とわずか二十センチも離れていない距離で、車という密室の中に座って微笑んでも、ジョルジアは完全にリラックスしているのだった。

 クーン、と小さい鳴き声がしたので、ジョルジアは思い出して後ろを振り返った。ランドクルーザーの最後部座席に、焦茶色のローデシアン・リッジバックが横たわっている。主人に劣らずもの静かな犬で、ライオン狩りにも使われる勇猛な性格は、ジョルジアの前ではまだ披露していなかった。元来大人しい性格の犬なのかと思ったが、スコット博士はモンバサでジョルジアと初対面をした時の愛犬の様子に驚きを示した。

 そこだけ黒い鼻先をジョルジアの太もものあたりにこすりつけて、彼女を見上げた。その赤茶色の透明な瞳に彼女は、すっかり魅せられてしまった。しゃがんで、そっと頭に触れると、頬にキスをしてきて、ちぎれんばかりに尻尾を振った。
「ルーシーが初対面の人にここまで懐いたのを始めてみました。たいていひどく吠えるんですが」

 ルーシーは、二時間のドライブの間、ほとんど身動きもせずに、座っていた。その存在を忘れてしまうほど静かなのだが、時折あくびをしたり体を伸ばす時の音でジョルジアが振り返ると、こちらを見つめて尻尾を振った。

「ルーシーに、水をあげた方がいいんじゃないでしょうか」
ジョルジアが訊くと、スコット博士はジョルジアの方を見て優しく微笑んだ。
「あなたも喉が乾いたでしょう。すぐそこの角で停まりましょう」

 それから本当に500メートルもいかない角を曲がったときに、ジョルジアは思わず息を飲んだ。そこは波止場になっていて、遮るもののない濃紺のインド洋が広がっていた。地平線はほんのわずかに球面を描き、ここは水の惑星なのだとジョルジアに告げた。

 しばらくサバンナの乾いて赤茶けた世界、埃がアカシアの灌木を覆うアフリカらしい光景ばかりを見ていたせいで、この鮮やかな海の煌めきがよけい眩しく感じられた。ジョルジアは、車の外に出ると、目は海に釘付けになったまま無意識にカメラを探した。

 そして思い出した。休暇で、ほとんどの装備はニューヨークに置いてきたのだ。持っているのはモノクロームのフィルムを装填したライカと、片手に収まるサイズのコンパクトデジタルカメラだけ。もし、この色を撮りたければデジタルカメラを使うしかない。

 立て続けにシャッターを切っているジョルジアを眺めながら、彼は後部のドアを開けてルーシーを出した。犬はすぐにジョルジアの側にやってきてその足元に座った。彼は、ステンレスのボウルをその前に置いてやり、冷えたペットボトルの水を半分ほど入れてやると、残りを持ってジョルジアを待った。
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Posted by 八少女 夕

春のポルトガル

というわけで、またしてもポルトに来ています。もういい加減みなさん「またかよ」と思っていらっしゃるだろうけれど、いいものはいいんです。



とくに、馴染みの人たちができて「あ~、もう一年経ったか、よく来たね」と迎えてくれるのも楽しみの一つになっています。食べ物も美味しいし、街も素敵だし、「黄金の枷」シリーズのロケハンも出来るし、いうことありません。

本当はいろいろな季節に来たいと思うんですが、いつも同じ季節になってしまっています。真冬は寒いし、夏は高いし。そもそも夏はバイクで二週間くらい休暇に行くんですが、さすがにポルトガルまで二週間で往復は、ねぇ。

この時期は、既にいろいろな花も咲き出していますし、散策も凍えないいい感じ。その一方、イモ洗いというほどは観光客もいなくて、私たちの旅にはちょうどいいのです。

脳内イメージは、このBGMで。「四月のポルトガル」という曲ですよ。


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Posted by 八少女 夕

【小説】永遠の結び目

立て続けで恐縮ですが新連載を始める前に「十二ヶ月のアクセサリー」三月分を発表します。三月のテーマは「十字架」です。

今回のストーリーの舞台は念願かなって2015年に行くことが出来たエーヴベリーです。ヨーロッパ最大のストーンサークルで、セント・マイケルズ・レイライン上にある、その手のことが好きな人は一度は行ってみたいところ。でも、なかなか簡単にはいけないんですよ。このストーリーではいろいろと差し障りがあるので土産物屋は三軒と書いてありますが、実際には二軒しかありません。念のため。


短編小説集「十二ヶ月のアクセサリー」をまとめて読む 短編小説集「十二ヶ月のアクセサリー」をまとめて読む



永遠の結び目

 灰色に垂れ込めた雲がどこまでも広がっていた。ようやく日の長さと夜の長さの割合が逆転して、春の訪れを期待できるようになってきたとは言え、枯れた牧草の間から新しい生命の息吹が世界を明るく変えるには少し早かった。牧草地に乾いた風が渡っていく。形の揃わぬ大きな灰色の岩が、その牧草地の所々に立っていて、無言で風の問いかけに答えていた。それは何千年も続いた光景だ。

 美優はバスから降りると頼りなげにその光景を見回した。ここが本当にヨーロッパ最大のストーンサークルなんだろうか。ケチらないでガイドのついたツアーで来た方がよかったかな。

 エーヴベリーはイングランド南西部ウィルトシャーにある。新石器時代の紀元前2600年頃に作られたといわれるこの遺跡は、周縁部に大きなストーンサークル、土手と溝でできた大規模なヘンジ、それに独立した二つの小さいストーンサークルで構成されている。

 有名なストーンヘンジにも使われている巨石はこのエーヴベリー近郊で削りだされた。そして、正確な目的はわからないものの、人びとはここでも地をならし、クレーンもない時代に50トンにもなる巨大な石をひとつ一つ運んでサークルを作り、千年以上に渡って使用していた。

 そのサークルはあまりにも巨大なので、丘の上に立つか、上空から眺めないと全容が掴めない。その目的が忘れ去られてしまった後、人びとは牧草地のど真ん中に立つ巨大な岩をこれ幸いと切り出して建材に使っていたらしい。バスから降りたばかりの日本人には、歯抜けになってしまったサークルの間に立っていることがなかなか理解できなかった。

 ストーンヘンジのように次々と訪れる観光バスをピストン輸送したり、各国語による音声案内や土産物屋で歓迎するような観光地化が進んでいなかったおかげで、美優は日本からずっと心を騒がせていた想いに再び浸ることが出来た。

 ようやくこの地に来たのだ。ずっと私を呼んでいた、不思議な古代の力に導かれて。

 ケルトのドルイド僧たちが活躍した時代と同じように、風は幾ばくかの不安を呼び起こしながら、運命の女神たちのささやきのように岩の間を通っていく。美優はゆっくりと牧草地を進みながら自分の身長の数倍ある巨石に手を触れた。古代からの叡智が、話しかけてくれはしないかと期待して。

 けれど、美優には岩の言葉は聞こえなかった。なぜこれほどまでストーンサークルとケルト文明に心惹かれたのか、そして、居ても立ってもいられない心地でここまで来たのか。

 しばらくヘンジの土手の上から、サークルを眺め、何枚もの似たような写真を撮り終えた後、彼女は釈然としない想いを抱えて、バス停の近くの店に入った。ガイドブックでは、ここには土産物屋は二軒しかないとあったのに、どういうわけか三軒ある。

 ナショナル・トラストの公式ショップを覗いてから、ニューエイジ関係の書籍などが置いてある店をぶらついて、最後に一番小さな店に入った。そこは、暗い狭い店だったが、アーサー王と円卓の騎士を題材にしたポスターやケルトモチーフの土産物がたくさんあって美優の心は騒いだ。

「いらっしゃい。よく来たね」
奥には、伝説の魔女のようなしわくちゃの老婆が座っていて、まるで美優が来るのを待っていたかのようににやりと笑った。

「何かお探しかい」
「いえ。ケルト風のお土産でも買おうかと思って……」

「ケルト神話に興味があるのかい」
「……」

 美優は少しの間迷ったが、せっかくここまで来たのだから何か知ることが出来ないかと思って正直な氣持ちを打ち明けることにした。

「その……私は東京生まれでケルトと関係があるはずはないんですが、いつからか、ここへ来たい、行かなくちゃいけないと思うようになってしまって」
「おやおや」
「呼ばれている……そんな感じがして。でも、なぜだかわからなくて」

 老婆は壁にかかっているTシャツのケルト文様を眺めている美優を見て、なるほどという顔をして見た。

「もしかしてあんたはこれに呼ばれてきたんじゃないかね?」
そういうと、対面ケースの奥に入っている青い天鵞絨の箱をそっと取り出した。中には錆び銀の大きめの十字架が置かれていた。

 普通の十字架ではなく、中心に円がデザインされたケルト十字だ。その円の部分にケルト特有の組紐文様がくっきりと描かれている。100ポンドの札が見えた。

「これはイヴァルのサーキュラーノットがデザインされた十字架だよ。サーキュラーノットは、エタニティーノットともいわれるが、始まりも終わりもない組紐のデザインで、永遠を表すんだ。そして、イヴァルとはイチイの木でね。有名なディアドラとノイシュの悲恋からきているんだよ」

「ディアドラとノイシュ?」
「そうだよ。ディアドラは生まれた時に、絶世の美女に育つが、そのために災いと悲しみを招くと予言された。そこでコンホヴォル王が彼女を引き受けて妻にするために閉じこめて育てさせたんだ。そして、彼女は若く美しい騎士ノイシュを見かけて恋をし、彼に自分を連れて逃げだすようにゲッシュ(誓約)を課したんだよ。そのために戦争が起こり、ノイシュとその兄弟たちは殺されてしまい、ディアドラはコンホヴォル王のもとに連れ戻された。そして、ある日彼女は王とノイシュに手をかけたイーガンの間に馬車に乗せられて笑い者にされたために、悲しみのあまり身を投げて死んでしまったのさ。そして、その墓から生えたイチイの木は、ノイシュの墓のイチイの木と枝を絡ませ、離れなくなったということさ」

「それが、その十字架と関係が?」
「そう。アルスターの神話では、ダーナ神族の女神たちは転生する。千年もかけて何度も転生すると自分がかつてダーナ神族であったことも忘れてしまう。でも、運命の組紐は決して途切れずに、何度も生まれ変わる神々を再びこの地にたぐり寄せるのだよ。私は、どうしてこのイチイの永遠の結び目をもった十字架がここへやってきたのか、ずっと不思議に思っていた。そして、運命に導かれたディアドラがノイシュと再び出会うための道しるべとしておそらくこれを探しにくるはずだと予想していたのだよ」

 美優は震えた。これが、私がずっと心落ち着かなかった理由なんだろうか。そうじゃなかったら、どうしてここにその十字架が来たりするんだろう。

「その、十字架……。特別なルートでここに?」
「そうさ。この店では一度も扱ったことのないモチーフなのだが、ある日突然やってきたんだ。これは妥当な値段で、ロンドンではもっとするはずだが、卑しくもアルスターの子供たちの血を引くこの私は、神々に対する敬意は失っていないのさ。こんなめぐり合わせはアルスター神話の一部だ。おそらく生まれる前から、これはあんたに属していたんだろうさ。だから、他ならぬあんたに100ポンド払ってもらおうとは思わないよ。本来ならタダであげたいところだが、私らも仕入れる時にかなり払っているからね。少しでも足しになるように10ポンドでも15ポンドでも置いていってくれるとありがたいね」

「もちろん、お支払いします」
そういうと、美優は財布を開けて中身を確認した。ロンドンまでの電車賃や夕食代を考えるとあまりたくさんは出せない。考えて20ポンドを払い、他にポストカードなども買った。老婆は頷くと黒い革紐で十字架を重々しく彼女の首にかけてくれた。

 美優には、自分の周りの空氣が突然変わったように思われた。アルスター神話時代からの途切れなかった想いが形をとってその場に現れたようだった。このケルト十字が運命の相手ノイシュがやはり生まれ変わった相手に自分を導いてくれるのだろうか。

* * *


 その日本人が思い詰めた様子で店を出て、バスに乗って去った後、老婆は肩をすくめると代金をレジにしまった。

 裏から出てきた老人がため息をついた。
「お前な。あんな嘘八百を並べ立てて良心は痛まないのか」

 老婆は夫をじろりと睨んで答えた。
「あんたが同じような商品ばかり仕入れるからだよ。私たちに、永遠の命があるとでも思っているのかい? あと何十年土産物屋をやっていくと思っているのさ。ああでもしないと厄介払いできないだろう」

 対面ケースの下には、同じ十字架の入った天鵞絨の箱が十八個並んでいた。他にも大きな指輪が十三個残っていたし、もっと厄介なのはトリスケル・スパイラルの組み合わせでデザインされたやけに目立つ腕輪で、これを四つも売りさばかねばならなかった。

 熱にうなされたような観光客は、世界中から次々とやってくる。ケルト神話をアレンジして少し話をすると、大抵は生まれ変わりだの、アーサー王の遺産と自分の縁を感じて、これらの商品を引き取ってくれる。これまでのところ大抵は十分な金額も置いていってくれていた。

 老人は商売上手な妻が、そのうちに与太話に騙された観光客に袋叩きにされるんじゃないかと思いつつ、黙って店の奥で帳簿を付けることにした。


(初出:2017年3月 書き下ろし)
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Tag : 小説 読み切り小説

Posted by 八少女 夕

Strohwitwe生活の終わり

タイトル、いきなり謎のドイツ語です。すみません。日本語にするとちょっとインパクトが強すぎるので、タイトルからは外しました。写真は本文とは全く関係ないですが、文章だけなのが殺風景なので貼付けました。我が家にも春が来たみたいで、去年の種からルッコラの芽が出てきました。奥は、また芽が出てしまった玉ねぎとわけぎ代わりに使っているチャイブ。

春が来た

Strohwitweを直訳すると「藁の未亡人」ですが、こう書いて意味のわかる方は皆無だと思います。ドイツ語がわかっても直訳だと意味不明。Wadoku.deでは「空閨を守る妻」と上手に訳されていました。要するに「家にいない夫を貞淑に待ち続ける妻」ということらしいですが、「Witwe」というのは未亡人ということで、「夫に出て行かれちまった妻」「夫は死んでいないけれどいないからフリーな妻」というニュアンスでも使うみたいです。軽く言うと「メリー・ウィドー」ならぬ「フリー・ウィドー」ってところでしょうか。なんだそりゃ。

ともあれ、私の連れ合いは七週間アフリカに遊びにいき、その間私はスイスで一人暮らし。これがまた自由でのんびりできて楽しいこと(笑)もちろん仕事に行っているので、その間遊びまくっているわけではありません。それに一ヶ月以上は「scriviamo!」の執筆期間だったので、自由時間のほとんどは書きまくっていました。

でも、二人でいると食事時間を氣にしなくてはいけませんし、土日は一緒に出かけたりするし、掃除をしたくても楽しそうにテレビを観ている人の横で掃除機をかけられないなんてこともあるし、まあ、いろいろと自分の都合だけで動けないじゃないですか。それが七週間、自分のやりたいことばかりしまくっていました。

昔のコマーシャルで「亭主元氣で留守がいい」と言っていたのを思い出しました。本当にそうだと笑ってしまいました。

その「藁の未亡人ライフ」もあと数日でお終い。また二人での生活が始まります。まあ、それはそれでいいんですけれどね(笑)
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Posted by 八少女 夕

大人買いの夢

カテゴリーをなんにしようかなと迷ったんですが、食べる話なので「美味しい話」に突っ込んでおきます。

買い込んだお菓子

子供の頃の私は、あまりわがままも言わない大人しい子供でした。その反動で今や好きなことしかやらないふてぶてしいヤツになっちゃったのかもしれませんが、それはともかく。

今から考えると親の教育方針は筋が通っていて、そうやって育ててくれたことに感謝していますが、子供の頃は他の甘やかされている同級生などを羨ましく思ったりすることもありました。例えば私の親は子供の欲しがるものを際限なく買い与えたりしませんでしたし、食べるものには健康によくて、しかも今から思うと、かなりグルメの先駆けのようなものを食べさせてくれていました。その分、私の裁量で使えるお小遣いは必要最低限で簡単に買い食いなどできませんでした。

小学校一年生から鍵っ子で、電車に乗って私立の小学校に通っていましたから、お金があったら何を買っていたかわかったものではありませんが、小学校三年生の時のひと月のお小遣いはたしか300円でした。一学年上がるごとに100円増えたような記憶があります。中学生になると1000円になりました。いずれにしてもその中から、買い食いをするなり、貯めてカセットテープを買うなど、やりくりをしていました。

で、遠足の時になると「おやつは300円まで」というような学校からの通達が来て、お小遣いとは別に300円もらえたわけです。今の感覚で言うと、ひと月のお給料分が臨時ボーナスでもらえたようなもの。遠足そのものは大嫌いでしたが、お菓子をたくさん買えるのは嬉しかったですね。でも、300円ですからスーパーのお菓子売場を買い占めるほどはないわけです。大好きなマーブルチョコ、カールのチーズ味、れもんこりっと、それとも板チョコを買うかと、売場をぐるぐるしてどの組み合わせで買うと、幸せなおやつ時間を過ごせるか真剣に悩みました。そのくらい真剣に勉強すればいいのに。バターココナッツはおいしいけれど、それだけで300円近かったし遠足のおやつでは高嶺の花でした。

そして、「大人になって、お給料をもらったら、ここにあるお菓子で欲しいものを全部買う」と妙な決意をしていました。「一万円でカールのチーズ味を100袋買う」とか、「鞄に入らないくらいアーモンドチョコレートを買う」とか。かなり情けない野望です。

もちろん、大学生になってアルバイトをしだしてからそのくらいのお金は稼げましたが、まだカールを100袋などという暴挙には至っていません。考えただけで胸焼けが……。あれは美味しいけれど、一袋だからいいんですよね。

日本に一時帰国すると、スーパーのお菓子売場には必ず何回か行きます。連れ合いが煩悩している「コーヒービート」を買うためでもあるのですが、私の思い入れのあるスイスでは買えないお菓子を買って小さな幸福に浸るためです。チェルシーのバタースカッチ味、ギンビスのアスパラガス、ハイレモン、アポロ、ガーナチョコレート。持っていける荷物に限りがありますので、どれもせいぜい一袋ですが「あと三年食べられないから」と理由をこじつけてどんどん買い物かごに放り込みます。

心ゆくまで食べたかったと言えば、八宝菜に載っていたウズラの卵にも煩悩していました。あれを一度でいいから一つじゃなくて嫌になるほど食べてみたかったのです。でも、人からとるのは悪いと我慢していたんですよ。で、来日中、スーパーでウズラの卵の水煮八個入りというのを見つけて買いました。で、心ゆくまで食べたんですけれど、微妙でした。それだけ食べてもありがたくないですね。八宝菜作って八個入りにしても、きっと微妙だったような氣がします。数年前に卵豆腐を一度に二つ食べることもやりましたけれど、夢見ていたほどの幸せじゃなかったし、私は少し学習すべきなのかもしれません。

そんなこんなで、最近の幸せは、自分で作って心ゆくまで楽しむことでしょうか。スイスでは普段は食べられないヒレカツを作ったり、肉まんや春巻きを作るのもそうですし、極上の材料だけで小さめのケーキを作るなど。それに旅先でその土地の美味しいものを食べるのも幸せです。たぶん大人の贅沢はこういうところに行きつくんだろうなと思います。

それでも、また日本に行ったらお菓子をどっさり買い込んじゃうんですけれど。
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Posted by 八少女 夕

空見の日 2017

普段は水曜日に更新する小説を月曜日にしたのには理由があります。基本的に小説は「読んでくださる方が増えるといいなあ」という理由で三日くらい最新記事にしておくのです。でも、本日3月16日は、もぐらさんの主催する「空見の日」でどうしてもこの日に最新記事がアップされるので、小説は二日ほど前倒ししたというわけです。というわけで、来週からは普通に水曜日に小説をアップしますよ。

さて、というわけで「空見の日」です。え〜と、そもそもの由来が今ひとつわかっていないまま、今年で二度目の参加なのですが、要するに「決めた日にみんなで空を見ようね」だと思うんです。

動物も、人間も、妖怪も(?)、みんなで空を見上げて、生きていることに感謝したり、大切な人たちのために祈ったり、そういう時間を持とうということだと思います。

遠方ゆえ普段は皆さんの企画に上手く乗っかれないこともある私ですが、この企画は世界のどこにいても参加できるのが嬉しいですね。

空見の日 2017

スイスの空っぽさを出したくて、あえて白い山と一緒に撮ってみました。ぽかぽかの小春日和ですけれど、まだ山の上の方には雪があります。

空見の日 2017

こちらは、芽吹いてきた木を写し込んで、「春が近いよ」感を出してみました。新しいカメラではピントがかなり意図通りに合わせられるのですよ。もう少し練習が必要かなあ。

空見の日 2017

田舎なので、空の範囲はとても広いのですが、カメラのファインダーに納めるのは難しいですね。こちらは空の面積を増やしたものなんですが、なんか謎の写真になっているなあ。

ともあれ、今年の空見も楽しく参加させていただきました。皆さんはどんな空を見ているのかなあ。
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Posted by 八少女 夕

【小説】人にはふさわしき贈り物を

もう三月になっていますが「十二ヶ月のアクセサリー」二月分を発表します。二月のテーマは「ブローチ」です。

日本でも「●●お宝探偵団」的な番組があるようですが、ドイツ語圏にもその手の番組がいくつかあって、「先祖から受け継いだ」「蚤の市で買った」「離婚した夫が置いていった」などといったいろいろなアンティークや美術品、古い調度などが思いもよらぬ値段をつけてもらっていたり、反対に「これは二束三文です」といわれてがっかりして帰ったりするのが放映されています。今回の小説は、その番組にヒントを得て書き出しました。


短編小説集「十二ヶ月のアクセサリー」をまとめて読む 短編小説集「十二ヶ月のアクセサリー」をまとめて読む



人にはふさわしき贈り物を

 宝石鑑定士の厳しい顔を見て、クルトはこれはだめだな、と心の中で嘆息した。一攫千金を夢見てここまで来たが、どうやら無駄足だったようだ。テレビで毎日のように放映されている「お宝鑑定」では、蚤の市で50ユーロで購入した陶製の壺が4000ユーロにもなったりしている。だから、彼もかねてから価値を知りたかったブローチを持って半日もかけてここまで出てきたのだ。

「残念ながら、これはルビーではありません。ルビーとよく間違えられるスピネルですらないんですよ」
「じゃあ、なんなんですか」
「アルマンディン(鉄礬ざくろ石)またはパイロープ(苦礬ざくろ石)です。どちらかは組成をみないとわかりませんが、どちらにしてもガーネットの中でもっともありふれたタイプの石ですな。もし、両者が入り交じっているとすると半貴石扱いになりますのでもっと価値は下がります」

 そう簡単にうまい話が転がっているわけはないな。

 クルトは、その石を持って帰るつもりになり、鑑定士の方に手を差し出した。
「そうですか。あまり価値のない石ってことなんですね」

 だが、宝石商は何か考え込むように、自分でありふれた宝石と断定したこの赤い石を見ていた。
「何か?」
不安に感じたクルトが訊くと、ためらいがちに答えた。

「カットと、この台座のデザインがですね」
「台座?」

「ええ。この石はスターストーンです。一つの光源のもとでだけ、内包された別種の鉱物に光が反射されて放射状の光が見える石のことをそう呼ぶのです。ほら、こうすると見える。この六本の白い光彩です。普通はこのスターを生かすように滑らかなカボッションに加工するものなんですが、この石はブリリアントカットを施されている」

 クルトは宝石を覗き込んだ。そう言えば一度白い筋のようなものが見えて、傷かと思っていたが違うのか。価値を落とすものじゃないならなんでもいい。

 宝石商はさらに石をひっくり返し、周りを飾っているすっかり黒くなった台座の細工を眺めた。

「この台座もずいぶんと凝っている。これは職人が手作業で作った台座ですが、今どきこのような加工をするととんでもない値段になるんですよ。大きいとは言え、この手のガーネットにねぇ。誰が何のためにこんなわけのわからないことをしたんだろう。このブローチの由来をご存知ですか」

 クルトは、肩をすくめた。
「亡くなった祖母さんが、戦争中に一晩だけ匿った将校にもらったって言っていましたよ。価値のあるものだから大切にするように、一緒に渡された手紙に書いてあったってね」

「手紙? どこにその手紙があるんですか?」
「さあね。祖母さんは、学がなくてよく読めなかった上、戦後の混乱の中でどっかいってしまったって言っていましたよ。少なくとも宝石だけはちゃんととっておいたと威張っていましたけれどねぇ」

「そうですか。いずれにしても、これだけの大きさの石ですからこの程度はお支払いさせていただきますよ。いかがですか」

 クルトは眉をひそめた。ここに来るまで期待していた額の十分の一もない。現金が欲しいのは間違いがないが、もし後から手紙が出てきてもっと価値が上がったということになると悔しいだろう。

「いや、ルビーじゃないかと思っていたのでね。そういう金額でしたら無理して売らなくてもいいんですよ。そちらには大したことのない石でも僕にしてみたらたったひとつ残った祖母さんの形見ですしね」

 彼はそのブローチを布にくるんでから箱にしまうと、持ってきたときよりも明らかに雑な動作でポケットにしまい、その店を出た。わざわざこんなところまで来たのにな。妻に散々に言われるんだろうな。そう思いつつ、村へと帰っていった。

* * *


 まだ春には遠い。彼は暖房の入っていない冷え冷えとした部屋を見回した。エレナは寝息を立てている。生まれて初めて男を知ったというのに泣きもしなかった。それに、この戦火でいつ人生が終わるかもしれない極限の状態にもかかわらず、ぐっすり眠れる神経というのは大したものだ。

 彼は服を着ると窓辺の小さなデスクに座り、満月の明かりを頼りに手紙を書き出した。こんなところを見回りの奴らに見つかったら、終わりだ。だが、これを書くチャンスは今を置いてはもうないだろう。彼はずっと楽観して生きてきた。だが、さすがの運命の女神の恩寵もこんどばかりは尽きたらしい。彼の叩き込まれた考え方からすると、今すべきことはたった一つだった。

 首からかけて肌身離さず持っていた絹の袋を開けた。中からそっと紅いカーバンクルを取り出した。そっとそのブリリアントカットの表面を指でなぞる。彼の存在の唯一の証明と行ってもいい宝物だ。手放すのはつらい。ましてやこの粗野な娘にその運命を託すのは心細い。だが、そうする他はない。彼とともにあれば先祖代々より託された全ての希望が潰えるのだから。

親愛なるエレナ。

 戦争中だからといって、見知らぬ男にこんな目に遭わされたことを恨みに思うかもしれないね。君は、僕を匿ってくれただけでなく、残り少ない食糧をわけてさえくれたのに。でも、僕は一時の欲望に突き動かされたわけでも、君を軽んじてこんなことをしたわけでもない。

 僕には君の助けが必要なんだ。

 僕は、君にはペーター・ポスティッチと名乗ったけれど、本名をアンドレイ・トミスラヴ・ペトロジョルジェヴィチといって今はなきアレクサンドロスベニア王国の正式な継承者なんだ。残念ながら祖父の代に起こった革命のせいで父はポーランドでの亡命生活を余儀なくされた。そして、追って来た狂信的な革命派の残党どもに惨殺された。

 それから僕は、身分を隠して生きてきた。アレクサンドロスベニア王国再興の良機を待ち続けていたが、どうやら僕の代でも悲願は叶わないようだ。僕は、君も知っているように追われている。ずっと親友だと信じていた男に密告され、先祖代々の財宝のほとんどを奪われた上、身分詐称の罪で軍の地位も剥奪された。

 おそらく数日で僕は捕まり、命を落とすことになるだろう。逃げ切りたいとは思うが、もはや僕にはどんなカードも残されていない。だが、アレクサンドロスベニア王家の未来にはまだチャンスがある。昨日、君のお母さんが闇市に出かけ、君と二人でこの家に残された時に、僕は確信したんだ。

 アレクサンドロスベニア国王として、ふさわしい王妃を迎えることが出来ないまま現在に至った今、僕は緊急避難として君に未来を託すことにした。

 もし神が僕を憐れみ、国の再興を許すならば、きっと君は子供を産むだろう。そしてその子供を正しい地位につけるために、僕は君を王妃に迎えようと思う。アレクサンドロスベニア国王であるアンドレイ・トミスラヴ・ペトロジョルジェヴィチは、エレナ・シマンスカにカレクシュザスカ公爵夫人の称号を授与し、アレクサンドロスベニア王妃として迎える。生まれてくる子に神の恩寵あれ。

 世が平和になり、君が世界にこの手紙を公表できるようになったら、君の子供、もしくはその子孫は再びアレクサンドロスベニア王としてあの地を統べることになるだろう。

 ここに君に預ける『アレクサンドロスベニアの血潮』は、代々の王位継承セレモニーで王が身につけるマントを留めた家宝だ。この星のある紅い宝石は、大きいだけでなく非常にユニークだから、この手紙の真贋を証明し、君の子供がふさわしい地位を得るのに大いに貢献するだろう。

 どうかこの戦争を生き延びてわが王朝の命運を引き継いでほしい。君が栄誉にふさわしき母となるよう命ある限り祈る。

心からの感謝を込めて
 アンドレイ・トミスラヴ・ペトロジョルジェヴィチ



 エレナ・シマンスカが目を覚ますと、かくまった青年将校の姿はもうどこにもなかった。闇市から母親が戻ってくる前に彼が姿を消してくれて本当によかった。親切にしてあげたのに、あんなふしだらなことをするなんて。

 お礼のつもりなのか、大きな赤い石のブローチとなんだか難しい言葉がたくさん書かれた手紙が残されていた。学校で書き取りをもっとちゃんとやっておけばよかった。達筆すぎてよく読めないし、読みとれたところも意味がわからない。

 宝石なんだろうとは思うけれど、こんなに大きな石は見た事がなかったし、下手に人に見せると盗んだのかと疑われたり、どうしてもらったのかと訊かれたり、面倒なことになりそうだ。しばらく、誰にも言わないでおこう。あの手紙は、みつかったらお母さんにひどく怒られるだろうから、頃合いを見つけて暖炉のたき付けにでもしてしまおう。

 エレナはブローチを無造作にポケットに突っ込むと、支度をして動員されている工場へと向かった。

(初出:2017年3月 書き下ろし)
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Posted by 八少女 夕

過去のことではなくて

今日は別ののんきな記事を予約投稿しようとしていたのですが、よく考えたら3月11日であまりにもノーテンキかなと思いそちらの記事は別の日にアップすることにしました。

周りを見て、「不謹慎と言われるかもしれないから」という動機で記事を書くのは好きではないのですが、それでも、ここしばらく思っていることを書くのに、この日は最適です。

こちらのドキュメンタリーで、関東大震災の時に何が起こったかを見ました。地震による被害だけでなく、その後起こった火事、それから熱風の竜巻で多くの方が犠牲になったこと。あまりにも痛ましい再現ドラマでしたが、もし同じことが再び起こるならば、その場に残ってはいけないのだと強烈に印象づけてくれる番組でした。東日本大震災の再現ドラマも、いざという時に生死を分ける正しい判断をするために、つらくても放映し、情報を共有した方がいいのでしょうね。

日本に住む方にとっては地震・火山・津波・台風など大きな自然災害は、過去のことや他人事ではなく、明日自分の身に起こるかもしれないつらい現実です。

一昨日、スイスの中央部で地震がありました。私の住む東部では「あれ。脱水機動いていたっけ」と勘違いする程度のわずかな揺れで、おそらく日本なら毎週あるぐらい。アルプス山脈という大きな地殻変動があったところにしては、スイスは地震が少ないのです。歴史上の最大の地震カタストロフィはおそらく中世にあったバーゼルの大地震でしょうか。

少し南に行くと、イタリアでは何度も大きな地震災害が起きていますから、ヨーロッパにいれば安全というわけでもないのですが、四つのプレートの真上に住む日本の方々からしてみたら「安全なところから何か言っているヤツがいる」存在なのかなと思います。

海がないので、津波の被害にあうこともまず考えられません。それだったら、おそらく雪崩に巻き込まれるか、ダムが決壊して巻き込まれる可能性の方がずっと大きいかと思います。

東日本大震災の起こった日、私はスイスにいましたので、あの日がどんなだったかの実感はありません。テレビで観たこと、家族や友人から聞いたことから、頭で理解していただけです。世界が変わってしまったと国中で人びとが悲しみ怯えていたその氣持ちを本当の意味では共有していません。

「311が風化していっている」という話をあちこちで聞きます。まだ被災地は復興していないし、大きな問題が依然として残っているのに、まるで何事もないかのように扱われているという話も聞きますし、私自身が日本に帰国する度にそれを思います。

昨年の一時帰国の時に「シン・ゴジラ」を観に行ったのですが、あの作品を見ながら「その解決策、フクシマに使えたらいいのに」と思った観客はたぶん私だけではないと思います。

目に見えない健康被害を受けている方、行方不明の方を未だ探し続けていらっしゃるご家族、避難先でのいじめに耐える子供たち、風評被害と戦う農家の皆さん、その他、あの震災で人生の青写真が大きく変わってしまった人びとのことを考えると心は痛みます。それでいながら、あまりにも問題が大きすぎて、手を差し伸べることが不可能に思えてしまい、氣がつくと考えないようにしている自分がいます。

見えないように蓋をしても、それは解決にはつながらないことはわかっています。でも、ヨーロッパで暮らしていれば、テロやなだれ込む移民の問題のほうがずっと身近な脅威で、問題意識や何かをしなくてはという想いは、なかなか祖国に向いていきません。ましてや、帰国する度に「なんともない」顔を見せる東京の姿は、よけいに私の忘却に言い訳を与えてしまうのです。

そして、3月11日がめぐってくると、その日だけ殊勝な顔をする自分がいて、そのことに腹立ちを感じます。それは大きな偽善でしかないと思うから。

「○年前のこの日に、あんなことがあったんだよ」と、過去の話として語り継げる、それも、「私は何も出来ないのに、しかも忘れている」という後ろめたさを感じずに話せる日が来てほしいと切に願います。それと同時に、普段は忘れているとしても、何かこちらからでも出来ることがあったら、積極的にしたいなと……また、この日だけ思うしようもない自分なのでした。
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Posted by 八少女 夕

【小説】樋水龍神縁起 東国放浪記  鬼の栖

scriviamo!


「scriviamo! 2017」の第十六弾、最後の作品です。もぐらさんは、オリジナル作品の朗読で参加してくださいました。ありがとうございます!

もぐらさんの朗読してくださった作品『だまされた貧乏神』

もぐらさんは、オリジナル作品、青空文庫に入っている作品、そして創作ブロガーさんたちの作品を朗読して発表する活動をなさっているブロガーさんです。朗読というジャンルは、あちこちにあるようで、自作の詩を朗読なさっていらっしゃるブロガーさんの存在はずっと前より知っていたのですが、小説なども朗読なさるジャンルがあることを、私は去年の今ごろ、もぐらさんによって教えていただきました。

去年は他の方の作品をご朗読くださったのですが、今年はもぐらさんのオリジナル作品でのご参加でした。日本の民話を題材にした作品で、もぐらさんらしい、声の使い分けが素晴らしい、ニヤニヤして、最後はほうっとなる素敵な作品です。

さて、お返しですけれど、どうしようかなと悩みました。もぐらさんの作品に近い、ほっこり民話系の話が書けないかなと弄くり回してみたり、それとももぐらさんがお好きな「バッカスからの招待状」の系統はどうかなと思ったり。

でも、最後は、もともとのもぐらさんのお話をアレンジした、私らしい作品を書こうと決めました。これをやっちゃうと、どうやってもまたもぐらさんに朗読していただけなくなるんですが(長いし、朗読向けではなくなってしまうので)、今回は参加作品が朗読だったから、これでいいことにしようと思います。

それと。実は、このシリーズの話、今年書いてなかったから、どうしても書きたくなっちゃったんです。あ、シリーズへのリンクはつけておきますが、作品中に事情は全部書いてありますので、もぐらさんをはじめ、この作品群をご存じない方もあえて読む必要はありません。自らの慢心が引き起こしたカタストロフィのために都を離れ放浪している平安時代の陰陽師の話で毎回の読み切りになっています。

まったくの蛇足ですが、「貧乏神」は平安時代の言葉で「窮鬼」といいます。そして「福の神」のことはこの作品では「恵比寿神」と言い換えてあります。


【参考】
樋水龍神縁起 東国放浪記
樋水の媛巫女

「scriviamo! 2017」について
「scriviamo! 2017」の作品を全部読む
「scriviamo! 2016」の作品を全部読む
「scriviamo! 2015」の作品を全部読む
「scriviamo! 2014」の作品を全部読む
「scriviamo! 2013」の作品を全部読む



樋水龍神縁起 東国放浪記
鬼の栖
——Special thanks to Mogura-san


 ぽつりぽつりと雨が漏り、建て付けの悪い戸から隙間風が常に入り込む部屋で、次郎は三回目の朝を迎えた。その家は、里からわずかに離れており、馬がようやく濡れずに済むかどうかの廂があるだけの小屋で、次郎はこの家に宿を取らせてほしいと願うか、それとも更に五里ほど歩いてもう少しまともな家を探した方がいいか悩んだ。

 野分(台風)が近づいてきており、一刻も早く主人を屋根の下に案内したかったので、彼はこの里で唯一、見ず知らずの旅人を泊めてもいいと言ったこの家に決めたのだが、その判断を幾度も後悔していた。野分のせいで翌朝すぐに出立することが叶わなかったからだ。

 次郎は、出雲國、深い森に守られた神域である樋水龍王神社の膝元で生まれ育った。神社に仕える両親と同じように若くしてその郎党となった。そして、宮司から数えで五つにしかならぬ幼女である瑠璃媛に仕えるように命じられた。

 瑠璃媛はただの女童ではなく、千年に一度とも言える恐るべき霊力に長けた御巫みかんなぎ で、次郎はそれから十五年以上も敬愛する媛巫女を神のように崇めて仕えてきた。

 けれども、媛巫女瑠璃は、ある日京都からやってきた若き陰陽師と恋に落ちた。そして、その安達春昌は媛巫女を神社より盗み出して逃走した。神社の命を受けて盗人を討伐し、媛巫女を取り戻さんとした次郎は、春昌を守らんとした媛巫女を矢で射抜くことになってしまった。

 そして、媛巫女の最後の命令に従い、贖罪のために放浪する安達春昌に付き従い、帰るあてのない旅をしている。主人はいく先々で一夜の宿を乞い、求めに応じて人びとを苦しめる怪異を鎮めたり、その呪法と知識を用いて薬師を呼べぬ貧しき人びとを癒した。物乞いとさして変わらぬ心細い旅に終わりはなかった。

 時には、今回のごとく心沈む滞在をも忍ばなくてはならない。

 次郎は訝しく思った。この家は確かに貧しいが、これまで一夜の宿を乞うた家でもっとも悲惨な状態にあるわけではなかった。ほとんど水に近い粥しか食べられなかった家もあれば、火がおこせない家や、ひどい皮膚の病で直視できない者たちのところに滞在したこともあった。だが、この家にいた三日ほど一刻も早く出立したいと思ったことはなかった。

 この家には年老いて痩せ細った父親と、年頃のぎすぎすとした娘が二人で住んでいた。父親は、近くの庄屋の家の下男として朝から晩まで懸命に働いていたが、生活は苦しく疲れて悲しげであった。

 娘は、口をへの字にむすび、眉間に皺を寄せて、その庄屋がいかに強欲で情けがない者であるかと罵り、貧しいためにろくなものも食べられないとことあるごとに不満を口にしていた。

「私だって、もっといい食事をお出ししたいんですよ。でも、そんなことどうやってもできません。魚を穫りに行きたくても、こんなひどい野分では到底無理です。それに、ずっとまともなものも食べていないから、こんなに痩せて力もありません。こんな姿では婿に来てくださる方だってありはしません。世には大きいお屋敷に住み、美味しいものを食べて、綺麗に着飾る姫君もいるというのに、本当に不公平だわ」

 そういいながら、すばやく春昌と次郎の持ち物を見回し、この滞在のあとに何を置いていってもらえるか値踏みした。ろくなものを持っていないとわかると、たちまちぞんざいな態度になったが、春昌に陰陽の心得があるとわかると再び猫なで声を出し、また少し丁寧な態度になって下がった。

 そんな娘の態度に次郎は落ち着かなかったが、春昌は特に何も言わずに野分が去るのを待っていた。

 三日目の朝に、ようやく嵐は過ぎ去り、外は再び紺碧の空の広がる美しい秋の景色が広がった。空氣はひんやりとし、野分の残した水滴が、樹々に反射してきらきらと輝いていた。いつの間にか、あちこちの葉が黄色くなりかけている。何と美しい朝であることか。くすんで暗く落ち着かないこの家にやっと暇を乞えると思うと、次郎の心も晴れ晴れとした。

 馬の世話を済ませ、男に暇乞いを願い出ると、旦那様に願いたいことがあると言った。それで次郎は主人にそれを取り次いだ。滞在した部屋で支度を済ませていた春昌のもとにやってきた男はひれ伏して、娘から聞いたことがあり、お力を添えていただけないかと恐る恐る頼んだ。

「飢え死にしそうな貧しさなのに、三日間もお泊めしたんですから、私どものために一肌脱いでいただきたいわ」
おそらく娘はそう言ったのであろう。次郎はその様相を想像しながら控えていた。

「旦那様は陰陽師であられると伺いました。私どものような貧しいものが、都の陰陽師の方とお近づきになっていただくことは本来ならありえませぬし、このように貧しいのでお支払いも出来ませぬが、どうやったら私どもがこの貧しさから抜け出して幸せになれるのか、わずかでもお知恵を拝借できませぬでしょうか」

「そなたの娘は、この貧しさを何のせいだと思っているのか?」
春昌は静かに訊いた。

「はい。娘は、この家には、富の袋に穴を空け、どれほど働いても人を幸せにしないようにする鬼が棲んでいると申すのです。私は誰かそのような者が部屋にいたのを見たことはございませぬが、娘は、鬼とはあたり前の人間のように目に見えるのではなく、陰陽師のような特別な人にしか見えないのだと申します。ですから、私は是非お伺いしてみたかったのでございます」

 春昌は、ため息をつくと言った。
「それは、窮鬼と呼ばれる存在のことです。古文書には、すだれ眉毛に金壷眼を持った痩せて青ざめた姿で、破れた渋団扇を手にしている老いた男の姿で現れたとあります」
「さようでございますか。娘が申すようにそのような鬼が私どもの暮らしに穴をあけるのでございましょうか」

 男の問いに、春昌はすぐに答えなかった。次郎は主人の瞳に、わずかの間、憐れみとも悲しみともつかぬ色が浮かぶのを見た。彼はだが再び口を開いた。

「ここに、窮鬼がいるのはまことです。窮鬼を完全に駆逐するのは容易いことではありません。私がお手伝いすれば家から出すことは出来ますが、二度と戻らぬようにすることはことはできませぬ」

 次郎は驚いた。傲慢と慢心を罰せられてこのような心もとない旅に出る宿命を背負ったとしても、春昌の陰陽師としての力が並ならぬことは、疑う余地もなかった。初めて樋水龍王神社にやってきた時は、右大臣に伴われ「いずれは陰陽頭になるかもしれぬお人だ」と聞かされていたし、神に選ばれた希有な力を持つ媛巫女も彼の才識に感服していた。それだけでなく、この旅の間に遭遇したあまたの怪異を、次郎の目の前で春昌は常にいとも容易く鎮めてきた。それなのにこの度のこの歯切れの悪さはいったいどうしたことであろうか。

 瑠璃媛や春昌のように、邪鬼を祓ったり穢れを清めたりすることはできなかったが、次郎もまたこの世ならぬものをぼんやりと見る事の出来る力を授かって生まれてきた。この家は風が吹きすさび、いかにも貧しく心沈むが、禍々しき物の怪が潜んでいる時のあの底知れぬ恐ろしさを感じることはなかった。類いまれなき陰陽師である主人が、どうしてそのような弱き鬼を退治することが出来ぬのであろうか。

「わずかでもお力をお借りすることが出来ましたら、私めは幸せなのです。娘も旦那様の呪術をその眼で見れば、これこれのことをしていただいたと、納得すると思います」
男はひれ伏した。

 次郎にもこの男の事情が飲み込めた。このまま二人を何もせずにこの家から出せば、あの娘は不甲斐ない父親をいつまでも責め立てるに違いない。

 春昌は「やってみましょう」と言い、娘の待つ竃のところへ行き、味噌があれば用意するように言った。

「味噌でございますか? ありますけれど、大切にしているのでございますが。でも、どうしても必要と言うのでしたら……」
娘は眉間の皺を更に深くして味噌の壷を渋々取り出した。それは大きな壺だった。貧しくて何もないからと味もついていない粥を出したくせに、こんなに味噌を隠していたのかと次郎は呆れた。

 春昌はわずかに味噌を紙にとり包むと、父親と娘についてくるように言った。そして、竃のある土間、父親と娘が寝ていた部屋、春昌たちが滞在した部屋を順に回ると、何かを梵語で呟きながら不思議な手つきで味噌を挟んだ紙を動かしつつ、天井、壁、床の近くを動かした。それから、その味噌を挟んだ紙を持ったまま、次郎に竃から松明に火をともして持つように命じ、全員で家の外に出て、近くの川まで歩いていった。

 野分が去った後のひんやりとした風がここちよく、あちこちの樹々に残った水滴が艶やかに煌めいていた。狂ったように打ちつけた雨風で家や馬が吹き飛ぶのではないかと一晩中惧れた後に、この世が持ちこたえていて、いま何事もなく外を歩けることに次郎の心は躍ったが、足元が悪くなっていることに不服をいう娘の横で、その喜びは半減した。

 歩きながら春昌は、父と娘にこんな話をした。
「聞くところによると、かつて摂津のとある峠で老夫婦が茶屋を営んでおりました。が、どれほど懸命に働いても店は繁盛しませんでした。調べてみると窮鬼がいることわかったそうです」

「ほらご覧なさい。やはり窮鬼がいると、貧乏になるんだわ。追い出したらきっと幸せになってお金もたまるようになるわよ」
娘は勝ち誇ったように言った。

「その夫婦は、窮鬼に聞こえるようにわざと『店が流行らないので時間があって心が豊かになりますね』と言って笑い合ったそうです。それを聞いて、心を豊かにされてたまるかと、窮鬼は店にたくさんの客を送り込みました。二人はこれ幸いと懸命に働き、ますます楽しそうにしていたため、窮鬼は更に勘違いして、もっと店を忙しくしました。そのために窮鬼はいつの間にか恵比寿神となってしまい、その店を豊かにし、幸せになった夫婦は、恵比寿神を大切に祀ったそうです」

 男は驚いて言った。
「窮鬼が恵比寿神に変わることもあるのですか。それに、窮鬼が家にいるままでも裕福になれるのですか」

 春昌は、川のほとりに立つと次郎から松明を受け取り、先ほどの味噌の挟まった紙に火をつけた。味噌の焦げる香ばしい匂いが立ちこめた。彼はそれを川に流してから三人を振り返り言った。

「窮鬼は古来、焼き味噌を好むと言われています。ですから、このように味噌の香りと呪禁にて連れ出し送り火とともに川に流すのです。けれど、連れ出すことの出来るものは、また入ってくることも出来ます。おそらく焼き味噌の匂いに釣られて、近いうちに」

 あれほど大きな壺に味噌を仕込むこの娘の普段の台所は窮鬼がさぞや好むに違いないと次郎は考えた。

「窮鬼を追い出すのではなく、ともに生きることも容易いことではありませんが、天に感謝し、他人を責めずに、常に朗らかでいることで、件の茶屋のように恵比寿神に変わっていただくこともできるでしょう」

 深く思うことがある様相の父親は、それを聞くと何度もお辞儀をして礼を言い、出立する二人を見送った。娘の方は、少し納得のいかない顔をしていたが、何も言わなかった。

 里が遠ざかり、見えなくなると、次郎は馬上の主人に話しかけた。
「春昌様、お伺いしてもいいでしょうか」

「なんだ、次郎」
春昌は、次郎が質問してくるのをわかっていたという顔つきで答えた。

「なぜあの大きな壺ごと味噌を家から出さなかったのでございますか? あれでは窮鬼を呼んでいるようなものではありませぬか」

 それを聞くと春昌は笑った。
「味噌が家にあろうとなかろうと、大した違いはない」

「え?」
合点のいかない次郎に春昌は問うた。

「そなた、あの家の窮鬼を見なかったのか?」
「すだれ眉毛に金壷眼の鬼でございますか。ただの一度も……私めには物の怪の姿はいつもぼんやりとしか見えませぬので不思議はありませんが」

「次郎。それは古書に載っている窮鬼の姿だ。窮鬼はそのような成りではないし、そもそも家に棲むものでもない」
「では、どこに?」

 春昌は、指で胸を指した。
「ここだ。あの手の鬼は人の心に棲む。そして、あの家では、あの娘の中に棲んでいるのだ。父親がどれほど懸命に働こうとも、つねに不平を言い、庄屋や他の人を責め、何かをする時には見返りを求め、持てるものに決して満足しない。あのような性根の者と共にいると、疲れ苦しくなり、生きる喜びは消え失せ、貧しさから抜け出せなくなる」

 次郎は「あ」と言って主人の顔を見た。春昌は頷いた。

「味噌を川に流すことは容易く出来よう。だが、父親が我が子を切って捨てることは出来ぬ。だから、窮鬼を退治するのは容易ではないと申したのだ。あの娘が、少しでも変わってくれればあの善良な男も少しは楽になるであろう。だが……」

 彼は、少し間を置いた。次郎は不安になって、主人の顔を見上げた。春昌は、野分で多くの葉が落ちてしまった秋の山道を進みながら、紺碧の空を見つめていた。彼の瞳は、その空ではなくどこか遠くを眺めていた。

「人の心に棲む鬼は、容易く追い出すことは出来ぬ。たとえ、わかっていても、切り落としてしまいたくとも、墓場まで抱えていかねばならぬこともあるのだ」

 次郎は、主人の憂いがあの娘ではなく、彼自身に向いているのだと思った。野分の過ぎた秋の美しい日にも、彼の心は晴れ渡ることを許されなかった。

(2017年3月書き下ろし)
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Posted by 八少女 夕

ガナッシュつくった

この週末、ようやく今年最後の「scriviamo!」作品をひとまず書き上げました。ひと息ついてホッとしました。というわけで、今日は久しぶりに関係のないただの記事(笑)
チョコレートソースたっぷり

つい先日、「クーペ・デネマークのソース作ってみたいぞ」と思い立ちました。

デンマーク風のクーペクーペ・デネマーク 」というのは、要するにバニラアイスに暖かいチョコレートソースがかかったパフェです。なぜそう呼ぶのかは知りませんが、少なくともドイツ語圏ではどこでもそう呼ぶみたいですね。

クリスマス前後に、お客様が来ることや、料理用チョコレート(と言っても食べても美味しいレベル)が安売りされていたこともあって、ちょっと大きめの物をいくつか買ったのですが、使わなかったので早く何かを作りたいと思ったわけです。で、その前の週がチョコレートブラウニーだったので、今度は違う物でと、お菓子づくりの本をめくっていてガナッシュというクリームにたどり着きました。

読むと何のことはない、チョコと生クリームを1対1の割合で溶かした物にラム酒を大さじ1入れているだけ。サルでも出来ます。で、サルの末裔である私は早速実行したわけです。

カロリーなどという事を考えちゃいけませんが、とにかく極上のチョコレートソースが出来上がりました。アイスクリームにかけても美味しかったですし、たまたま手元にケーキ類がなかったので変わりに白パンにつけても劇的に美味しかったです。

そして、さすがに一度には食べきれない量(カップ一杯以上のチョコレートソースですよ!)だったので、また熱して溶かせばいいやと思って、それを冷まして一度冷蔵庫に入れたんですね。そしたら、翌日それはいわゆる生チョコになっていました。スプーンですくって食べられる柔らかさのチョコです。劇的に美味しい。カロリーのことは言わないでくださいね。(しつこい)

つまり、これは生チョコの製造過程でもあったわけです。氣になって確認してみたら、チョコと生クリームの割合は違いましたが「パーヴェ・ド・ショコラ」もほとんど同じようなレシピでした。

それで思い出したのが、日本のニュースで読んだ、どこかの男性芸能人が「パーヴェ・ド・ショコラ」なんて「手作りのお菓子」とは認めん、とかなんとか息巻いていたと言う話。「固まっていた物を溶かして再び冷やして固めただけの物を手作りというな」という主張ですけれど。

その方のおっしゃる意味はわかりますけれど。でもねぇ。チョコを溶かして固めるのだって、それなりに手間はかかりますよ。削る工程(私は省きましたが)、湯煎にする工程(私は弱火にしてやっちゃいましたが)、冷やして固めたあと、切って、ラッピングしてという、私のやっていない工程もあります。その前にチョコや生クリームを相手の喜ぶ顔を思い浮かべながら買いにいくことだってあるし、「溶かして固めただけじゃん」と言われるのはちょっと心外かなあと思います。

そういうことを言う男にチョコをあげるくらいなら、私は自分で食べます。美味しいものはムカつく男にはあげません。「溶かして固めただけじゃん」が、正にその通りだとしても、口に出して言っちゃいけませんよ。こんな簡単なものを失敗したとしても「ありがとう。美味しいね」と笑って言ってくれる男のためなら、たとえノーアポイントの客を突然家に連れてきても意地でフルコースを作る頑張りをこっちだって見せられるんです。それが女ってもん、というか、人間ってもんだと思うんですよね。
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