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Posted by 八少女 夕

【小説】郷愁の丘(9)ニューヨークの風

今回も「郷愁の丘」の続きです。またさらに時間が経って、十月くらいのニューヨークです。

前回は時系列でいうと、去年の夏に発表した外伝「花火の宵」のシーンの直後(七月)にあたると書きましたが、今回の話は、「scriviamo! 2017」で外伝として発表した「絶滅危惧種」の翌月にあたります。あの小説で、グレッグは「ミズ・カペッリには連絡していない」と会う予定もないようなことを言っていましたが、それではストーリーが進まないので、ちゃんと逢わせます。

今回は、前作「ファインダーの向こうに」で重要な役割を果たしたジョルジアを陰に日向に助ける編集者ベンジャミンの視点になっています。前作をご存知の人なら、彼の複雑な心境が理解できると思いますが、わからない場合も無視してノープロブレムです。ちなみにベンは妻帯者です。


郷愁の丘「郷愁の丘」を読む
あらすじと登場人物




郷愁の丘(9)ニューヨークの風

 《アルファ・フォト・プレス》の編集者であるベンジャミン・ハドソンは、クライアントを社の玄関まで送って、握手を交わした。彼が見えなくなると、仕事に戻ろうと身を翻し、受付横の売店で接客中の売り子ジェシーが手を振っているのに氣がついた。

「なんだ?」
「あー、うちの出版物のデータベースって、撮影者の名前で検索すると全部引っかかるんでしたっけ?」
「クレジットのある写真はひっかかるさ。誰の?」
「ミズ・カペッリです」

「ジョルジアなら、写真集を見つけるのは簡単だろ。雑誌の方は引っかかりすぎて反対に探しにくいぞ。『クオリティ』は特集で探せばいいが、『素材事典』は興味ないだろうし、『アルファ』もたった一枚入っていても引っかかっちゃうからなあ。彼女らしい作品を探しているなら、検索だけじゃなくて実際に中身を見てみないと」
「こちらのお客さんは、写真集はもう全てお持ちなんですよ。『クオリティ』の方はいま僕が手配したから……」

 ずいぶん熱心なファンだな。会社まで赴くとは……。そう思って、初めてその客を観察し、ベンジャミンははっとした。
「失礼ですが、あなたはヘンリー・スコット博士ではありませんか?」

 その男は、ぎょっとしたようにベンジャミンを見て、それから頷いた。
「そうですが、なぜ僕をご存知なんですか?」

「なぜって、あなたの写真がラストページにくる彼女の写真集の責了校正を昨夜遅くまでやっていたからですよ。この会社で編集長代理を務めているベンジャミン・ハドソンです。はじめまして」

 半年前、アフリカ旅行から戻ったジョルジアは、写真集の編集会議で一枚のプリントアウトを見せた。
「ラストは、これにしたいの」

 それは、他の写真と同じくライカで撮ったモノクロームだった。異質だったのは、写真の背景に暈けているが肉食獣に殺されたばかりとわかるシマウマの死体が映り込んでいたことだ。野生の世界の掟として受け入れつつも、親しんでいた若いシマウマの死に直面した男のやりきれなさを、その一枚の写真は見事に映し出していた。

 ベンジャミンは、戸惑った。いい写真だとは思う。だが。

 彼はずっと最終ページはジョセフ・クロンカイトを撮った例の墓地の写真にすべきだと強く主張していた。その写真を使わなければ、写真集は完全ではないとすら思っていた。

「撮影許可を得て撮った写真じゃないから使えるわけないでしょう」
彼女は、その写真が自分の作品と人生の中に占める位置を熟知した上でベンジャミンが提案しているのをわかっていても抵抗した。

 彼が場を設定するのでクロンカイトに頼みにいくべきだと言っても、ジョルジアは決して首を縦に振らなかった。なぜこの写真が重要なのかを本人に知られたくなかったのだ。
「マッテオの海辺の写真でいいんじゃないかしら。あれもこのスタイルで写真集を出すきっかけになった写真だし」

 彼女の心をとらえて人生を左右したニュースキャスターと、人生のほとんどを共に過ごした彼女の兄のどちらも、ベンジャミンにとっては納得のいく選択だった。ジョルジアの友人としてだけではなく、プロの編集者としても。どちらも有名人で、実に見栄えがする。だが、そのどちらかを置こうとしていた位置に突然見ず知らずの男の写真が飛び出した。しかも二人と比較して、その平凡な中年男はラストページにふさわしい華やかさに欠けていた。

「これは、誰?」
そう訊くと、ジョルジアは短く答えた。
「ヘンリー・スコット博士よ」

 ジョルジアは、わずかに微笑んでいた。その微笑みにベンジャミンの心は騒いだ。いや、それはありえないだろう。クロンカイトとは似ても似つかぬ地味な中年男じゃないか! ベンジャミンは、昨夜その写真を複雑な思いで十分ちかく眺めていた。

 その冴えない男が、なぜここにいるんだ? 
「アメリカにいらしていたとは知りませんでした。ここでジョルジアと会うお約束をしているんですか?」

 スコット博士は、なんとか狼狽えている様子を隠そうとしていた。
「いや、たまたま学会で……。お忙しいでしょうから、ミズ・カペッリにはお知らせしていません」

「ちょっと待ってください。今日は出勤してくるはずだけれど、時間は指定していなくて」
そういうと、ベンジャミンは携帯電話を取り出してジョルジアにかけた。スコット博士が慌てている様子を視界に入れて、こりゃ思っていたより全然親しくなさそうだと心の中で呟いた。

「あ。ジョルジア? 《Sunrise Diner》にいるのか。いや、僕の用事じゃなくてさ、今、社の売店にスコット博士が来ているんだけれど……え、そうだよ、ケニアの、うん……あれ?」
ベンジャミンは、困ったように電話を見た。なんだ? なんで慌てて切っちゃったんだ?

「す、すみません。いま彼女、ここから五分くらいのダイナーで朝食をとっていたみたいなんですが、待っててと言って電話切ってしまって……おい、ジェシー、とりあえずここ半年の『アルファ』を全部持ってきて、お見せして」

 ベンジャミンが、ジェシーに指示してから電話をかけ直そうと操作していると、メインエントランスでがたんという音がした。
三人が振り向くと、息を切らしているジョルジアがそこにいた。

「グレッグ……」
「ジョルジア」

 彼女は、《Sunrise Diner》を飛び出して、何も考えずに走って来たらしく、スコット博士を見つめたまま、次の言葉が浮かばないようだった。彼は、自分の方からジョルジアの方へと急ぎ足で歩み寄って「すまない」と言った。

「どうして……」
「その、君の邪魔をするつもりじゃなかったんだ。ただ、せっかくニューヨークまで来たから、まだ持っていない君の写真を……」
「そうじゃなくて、どうして来るって報せてくれなかったの?」

「……。君の迷惑になると思ったんだ」
「そんなわけないでしょう。いつ着いたの?」
「今朝」
「どのくらい居るの?」
「一週間」

 ベンジャミンは、二人の横を通って言った。
「ジョルジア、打ち合わせは今日でなくてもいいから。時間の空いた時に電話してくれ」

 それからスコット博士に「よいご滞在を」と言って、オフィスへと帰っていった。刺々しさが出ないように、自分を抑えなくてはならなかった。
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Posted by 八少女 夕

天邪鬼をすこし控えようと思うわけ

唐突な話題ですが、ここのところ時々考えることや、ブログのお友達とのコメント欄でのおしゃべりで思ったことなどをつらつらと。

私は人が群がっていることに「私も!」と駆けつけるのが好きではありません。混んでいるところを辛抱強く待って、譲り合いながら一瞬だけ楽しむというのが苦手なのです。たっぷりのんびりと楽しめないのだったら私の分は譲るから、と思ってしまうのです。

まだ知られていない素敵なスポット、まださほど売れていない劇団の公演、めちゃくちゃ対応が良くて美味しいのにガラガラのレストラン、お城なのに妙に安くてフレンドリーなホテルなど、素晴らしい事をほぼ独り占めが好きなのです。

といっても、趣向が特殊というわけではなく、一般受けするモノにけっこう胸キュンしたりしているので、単なる天邪鬼です。

この傾向は、芸術作品を観賞するチャンスにも影響しています。

例えば東京にいると、世界中のどこにいるよりも名画を見るチャンスが多かったりするじゃないですか。アルフォンス・ミュシャが来たり、フェルメールが世界中から集まってきたり。もちろん今はもう東京に住んでいないので観に行けないんですが、行けたとしても炎天下で何時間も行列をして観に行くことにうんざりしてしまうのです。

私はラファエロの絵画が大好きなので、ローマでも、フィレンツェでも、ウィーンでも、ドレスデンでも率先して観に行ってぼーっと何十分も絵の前に座っていたりします。でも、それが全部自分の住んでいる町に来たとしても、平日八時半の山手線の中みたいな混雑の中で、誰かの頭越しにまとめて観たくはないのです。別に絵画の方はどう観られても何も感じないに決っていますが、私はどうしても一対一で対峙したいと、くだらないこだわりに負けて、足を向けられないのですね。

さて、天邪鬼は音楽の好みでも影を投げかけているようです。

私が子供の頃、苦手なクラッシック音楽のラインアップはこんな感じでした。モーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク」「フィガロの結婚」、ベートーヴェンの「運命」「田園」「エリーゼのために」シューベルト「野ばら」「魔王」……。

どれも音楽の授業に出てくるウルトラ有名な曲ばかりです。そうやって聴かされすぎたイメージに辟易してしまっていたようなのですね。「運命」の最初のジャジャジャジーンが聞こえると、もうラジオのチャンネルを換えてしまう、そういうところがありました。

でも、よく考えると、私はその交響曲の全てを丁寧に聴き込んでいたわけではないのです。大人になってから改めて聴くと、ベートーヴェンの意図していた音の構成、完成度に改めて唸らされますから、単に有名だからと言って「けっ」と避けるのは馬鹿げているという事がわかります。

最初に書いた展覧会の話も、私のようにドレスデンだのウィーンだのに、国内旅行と同じような氣軽さで行ける場合はいいですが、これが生涯で最初で最後のチャンスだという場合は、たとえ山手線内のような混雑の中でも、印刷を見るよりは本物を見た方がいいのでしょうね。

「モナリザ」と「サモトラケのニケ」だけを駆け足で観るようなルーブル美術館の見方は嫌いだけれど、でも、「モナリザ」は絶対に観たくないというのは、天邪鬼を通り越して勿体ないと思います。正直言って「サモトラケのニケ」よりも「瀕死の奴隷」にグッと来た私ではありますが、名作と言われる芸術品には、なるほど素通りしない方がいい何かがあります。「有名だから観賞すべき」ではなくて「有名になるべくしてなった何か」を感じる事ができるから。だからこそ、押し合いへし合いの中では観賞したくないのですが。

たとえば、もともと私は現代芸術、現代建築というものは今ひとつわからない人で、ピカソでも「?」な作品が多いのですが、マドリッドで観た「ゲルニカ」には圧倒されました。あれほどの衝撃を感じた芸術作品は他にはあまりないので、ピカソがゲルニカへの攻撃について世の中に訴えかけようとした事を具現する能力の物凄さは、もはや天才という言葉しか浮かびません。

「有名だから嫌だ」「現代芸術だから嫌い」というのではなく、何を伝えようとしているのかを感じる事のできるモノ、そして、その訴えかけに共感できるモノは素直に素晴らしいと思うのです。

そんなこんなの考察を経て、今の私は、やはり天邪鬼のままではありますが、できる限り先入観による食わず嫌いに支配されないように心がけることにしています。それに、かつては「今見なくても(聴かなくても)そのうちに素晴らしいシチュエーションで経験できる機会が回ってくるかもしれないから、今はいいや」と思う事も多かったのですが、最近は「う〜ん、これを逃したらおそらく生涯なさそう」と感じる事が多くなってきていますので。

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Posted by 八少女 夕

【小説】郷愁の丘(8)往復書簡

2回ほど別の小説が入りましたが、「郷愁の丘」の続きです。ジョルジアは春のアフリカ旅行を終えてニューヨークに戻りいつも通り生活をしています。

そして今は夏。ムティト・アンディ駅で別れてから、現在に至るまでの二人の交流を、交わした手紙で表現しています。手紙によって取り巻く状況や時間の経過、それに心の動きを表現するという手法は、あまり得意ではないのですが、今回の二人は特殊な関係の上に思いっきり遠距離なので、うんうん唸りながら書きました。

いつもは四千字超えたら二つに切るんですが、今回は適度な長さに切れなかったので、まとめて掲載しています。

ところで、今回は時系列でいうと、去年の夏に発表した外伝「花火の宵」のシーンの直後にあたります。あちらを発表した時には、ジョルジアがどういう状態にあるのか知っているのは私一人だけだったのですが、本編を読んでからあちらを読むと、ちょっと「ふふふ。キャシー鋭い。なんか、あったのよ」「あ。兄ちゃん、いまひとつ分かっていないね」とニヤニヤできる、という趣向になっています。


郷愁の丘「郷愁の丘」を読む
あらすじと登場人物




郷愁の丘(8)往復書簡

親愛なるジョルジア。

夏を楽しんでいるかい。君の手紙を読むとニューヨークの移り変わる季節を身近に感じるよ。独立記念日の花火は楽しそうだね。僕も花火は好きだ。野生動物たちにはストレスだから、本当は喜ぶべきじゃないんだけれど、どうしてもワクワクしてしまうんだ。

君の観察眼には驚いたよ。消印によく氣がついたね。そうだ。あの手紙を投函した日は、僕はヴォイにいたんだ。マディが産氣づいたんだけれど、例によってアウレリオがまた居なくなってしまい、レイチェルが駆けつけるまで病院で待機する事になったんだ。メグがぐずって大変だったよ。『ジョルジアはどこ』って言うんだ。参ったよ。

マディの第二子は男の子だったよ。エンリコって言うんだ。アウレリオはとても喜んで、サッカー選手にするって息巻いている。マディはとんでもないって言っているけれど。

いずれにしても乾季だったおかげで病院まで行くのも君が居た時ほどの時間がかからないので助かった。翌日は、講義があったから朝一で戻ったんだ。

先日の君の手紙を読んでから、研究とは全く別に「目が騙される事」についてしょっちゅう考えている。ここにいたとき、君は人間の目はわずかな色を感知してカラーとモノクロームの違いを見分けられると言っていたよね。そんなにわずかな差を見分けられる目でも、遠近法によって平面に描かれた絵は立体と感知してしまうってことだよね。色の違いには敏感でも、次元の違いには簡単に騙されるというのは興味深いな。

そう考えて、君の写真をもう一度眺めてみたら、本当にその通りだと思ったよ。でも、同じ写真でも、奥行きの感じ方は作品によって違うんだね。君の撮ったあのマサイの少女の写真は、笑顔に目がいって立体感そのものはあまり感じない。もちろん平面には見えないけれどね。でも、君が送ってくれたモノクロームで撮ったサバンナの写真、例の僕とガゼルが映っているものだけれど、あの写真にはものすごく距離を感じるんだ。近くに映っている僕と、それからサバンナとの。地平線が永遠の彼方にあるように感じる。光の加減なんだろうか、とても寂しい惑星にたった独りの人間として居るみたいだ。おかしいね。あの時、君が僕の隣に居たのに。

やはり、前に君が話していた、アリゾナの写真を見せてもらいたいな。大切な作品を覗き見るのは失礼かと思っていたけれど、君が沙漠で感じた事、サバンナと違いについても興味を惹かれるんだ。それとも、いつかその作品も《アルファ・フォト・プレス》から出版されるんだろうか。そうだとしたらもちろん購入するよ。それに、送ってくれるとしても本当に時間のある時でいいんだ。

とても忙しそうだけれど、身体を大切にしてくれ。そして、また氣が向いたら、新しいニュースを聞かせてほしい。別に今日何を食べたか、なんてことでもいいんだ。僕が君の手紙を読んでいると、ルーシーが喜んで寄ってくるよ。まるで君からだとわかっているみたいに。彼女に言葉が話せたらきっと「よろしく」って言うと思うから、ここに加えておくよ。じゃあ、また。

君の友、グレッグ



 彼からの手紙を読む時、ジョルジアは誰にも邪魔されない場所を探した。通信のほとんどを電子文書で送ることが可能になってから、彼女はほとんど手紙を書かないで過ごしていた。旅先で二言か三言挨拶を書いた葉書を書く事はあったが、それだけだった。だから、グレッグと文通をすることになるとは思ってもみなかった。

 春のアフリカ旅行から戻ってすぐに、彼女は撮った写真を現像した。グレッグの写真で写真集に入れる予定の作品はいくつかあったが、その他にも自分だけで持っているのはもったいないと思うものがあった。ランプに灯をともしている時の半分影になっている優しい微笑や、サバンナで仲間からはぐれたガゼルを見つけた時の印象的な横顔。それに、ルーシーと無邪氣に遊んでいる姿は最高の出来で、少し大きく引き延ばして歓待に対する感謝の手紙に添えて送った。

 十日ほどして彼から返事が届いた。彼の丁寧で小さい文字が便箋の上に行儀よく並んでいた。なんという事はない報告がいくつか書いてあったけれど、ちょうど《郷愁の丘》で飽きずに何時間も話した時のように興味深いトピックがあり、ジョルジアはすぐにまた返事を書いた。

 それから、手紙の往復が始まった。ジョルジアは、彼の手紙を読み、彼に返信する時間を大切に思うようになった。それは、それまでジョルジアの身近にはなかった知的興奮、生活の彩り、それに、どこかときめきに似た感情を伴っていた。

こんにちは、グレッグ。

そろそろニューヨークの夏は終わるようだわ。ショートパンツやノースリーブの人たちも少なくなってきたみたい。この間、ものすごいにわか雨が降ったの。《郷愁の丘》の雨を思い出したわ。でも、そちらは乾季なのね。動物たちには厳しい季節なんでしょうね。あなたの所は大丈夫なの? 地下水も乾季には減ってしまうんでしょう? 水道水があるのってとてもありがたい事なのね。蛇口をひねる度にそう思うようになったわ。

メグに弟が出来たのね。今度はイタリア風の名前ね。どうか心からの祝福を伝えてちょうだい。ミスター・ブラスって、本当にいつも肝心な時にいなくなってしまうのね。あなたが駆けつけてくれて、ミセス・ブラスはさぞ安心したことでしょう。でも、寝不足で運転するのは危険よ。氣をつけて。

あなたが指摘してくれた、作品の奥行きの事、驚いたわ。自分で撮った写真なのにそんな風に見た事がなかったの。あなたが感じている奥行きは、二次元と三次元の違いではなくて、もしかしたら心象の奥行きのことなんじゃない? そして、それは作品の中に映っている物体だけでなく感情が映し出されていると感じてくれたんでしょう? それは、私があなたの中に見たものなのかしら。それとも、私の心の中にそれがあるの? もしかしたら作品を見ているあなたの中にあるものなのかもしれない。いずれにしても私は今回の写真集に使う写真の中で、心象を映し出したかったの。だから、あなたの感想は、最大の讃辞だと受け取らせてもらうわ。ありがとう。

例のアリゾナの写真が掲載された『クオリティ』誌、同封するわね。私が紙焼きした一枚を挟んでおくから、雑誌との違いについての感想もお願いね。

ところで、私の方も、あなたとの会話のおかげで違う見方をするようになっているわ。視野の話だけれど、前方に見えている物の他に、左右に動く物が見えていることを意識するようになったの。ニューヨークの街を歩いている時にも、往来の右や左で起こっている事が確かに情報としていつの間にかインプットされているのがわかるの。ただし、確かに真後ろで起こっている事は、目が前方についている私たちには見えないのね。今まで意識していなかったけれど、時おり後ろを振り返って安全確認をしていることを改めて感じたわ。後から襲われる危険のある都会に何世代も住んでいると、私たちの子孫の目の位置もシマウマのように横に移動していくのかもしれないわね。

今日、私が何を食べたか興味ある? 魚よ。休みで時間があったから、新鮮なヒラメを焼いて、野菜と一緒にビネグレットに漬けてみたの。私の両親は昔、漁師をしていたって話したわよね。だから、私、普通のニューヨーカーよりもたくさん魚を食べるの。かつて住んでいたノースフォークで穫れた魚を入手できたのよ。そういうチャンスに恵まれると、なつかしさで不思議な氣持ちになるの。あの村の事は、また今度じっくりと説明するわね。じゃあ、また。

あなたの友達、ジョルジア



 ここにいたら、あなたにも食べさせてあげるのに。

 ジョルジアは、あまりにも自然にその考えが出てきた事に自分で驚いた。これまで彼女の生活に一緒に住む誰かの存在は全くなかった。両親や、兄もしくは妹は別として、誰かに手料理を振る舞う事もまずなかった。

 《郷愁の丘》に滞在した二週間、ジョルジアは彼と生活を共にしていた。調理をし、食事をし、皿洗いや片付けを共にして、テーブルを動かし、床を掃き、愛犬ルーシーの世話をした。普段は自分一人しかいない生活空間を、そもそも彼一人の物であるはずのあの家を、二人で共有して同じ時間を過ごした。たくさんの話をして、一度も退屈だったり、煩わしいと感じた事がなかった。

 おそらく二週間でなく、二ヶ月でも、二年でも、二十年でも、きっとこの人とは、一人でいるのと同じようにリラックスして、穏やかな時間を過ごせるのだろう。そして、一人でいるのよりもずっと楽しく興味深い日々を。

 それから、距離の事を考えた。アメリカとケニアの。ニューヨークと《郷愁の丘》の。ジョルジアとグレッグのいびつな関係の。

 二人の関係の危うさのことは、ジョルジア自身が誰よりもよくわかっていた。一緒に暮らすどころか、「再び逢いたい」という事すらも憚られる。そう言った途端に、恋愛関係を進めたいと思っているように響いてしまう。進めた方がいいのかもしれない。「友達」というレッテルはもはや彼女の中ではそぐわなくなっている。激しい恋のときめきはなくても、実の家族以上の近さを感じている人なのだ。それに、彼がレイチェルの家で告白した想いを引きずっているのならば、いつまでも友人関係に固執する事はひどく冷たく残酷な拒否になる。

 一方で、彼が自分に恋をしたのは、真実を知らないからなのだと思った。友人の枠から外れて進めば、精神的なものだけでなく肉体的な交わりも避けられなくなる。彼女は、「醜い化け物」と呼ばれた肉体を晒す瞬間を怖れている。それはこれまで築き上げてきた全てを覆してしまうかもしれない。そうなった時に何が残るのだろうか。二人の間に。ジョルジア自身の中に。

 極めて厄介な恋愛関係を介在させずに、ただ親しい人として、家族のように、彼に会う事ができたらいいのに。

 ケニアはあまりにも遠い。《郷愁の丘》は地の果てにひっそりと隠れるように存在している。彼は来る日もサバンナでシマウマたちを観察している。「偶然」再会することははない。

 ワイン片手に「近くまで来たから」と訪問し合うような距離にいたらどんなによかったことだろう。彼女は封筒に宛先を書きながら、ため息をついた。
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Posted by 八少女 夕

レマン湖へ

今年の夏休みは、一度六月にイタリアに行ったこともあり、初めからどこか遠くに行こうとの予定をしていませんでした。ここのところの天候が優れないことや、義母の体調が今ひとつ優れないこともあって、長期の旅行はせずに近場に数日行って終わりにすることにしました。

そして行ったのが、連れ合いの生まれ育ったフランス語圏の小さな村です。この村には、結婚してからしばらくはよく行ったのですが、私が働きだしてからは長期旅行は大抵海外なので、本当に久しぶりになりました。

ヌフェネン峠

私たちの住むグラウビュンデン州から、ジュネーヴ州やヴォー州に行く方法はいくつかあります。方向は西に一直線なんですけれど、アルプス山脈がそびえているので、北に遠回りをするか、もしくは幾つかの峠を越えていくか選ぶ必要があります。楽なのは北回りですが、バイク乗りは山道が好きですし、連れ合いは高速の渋滞が大嫌いなので、チューリヒ経由なんてことはありえません。

まっすぐ西に向かい、フルカ峠などを経由してウリ州からヴァリス州に入ることもできますが、今回は往きはヌフェネン峠から、復路はシンプロン峠経由で、つまりどちらもイタリア語圏を通ってきました。そのほうが暖かかったということもあります。

紺碧の空が美しいヌフェネン峠。とても綺麗でしたが、やはり風が冷たくて長居は無用。秋ですね。ここで、イタリア語から再びドイツ語に戻り、ヴァリス州の途中までドイツ語の標識が続きます。

葡萄畑が続く

スイスは、ご存知のように公用語が四つあり、私の住んでいる州はそのうちの三つまでが公用語になっていますが、フランス語はそのうちに入っていません。使う機会が少ないので、私もまじめに習う氣がありません。スイスの西側三分の一ほどは、フランス語が公用語で、途中から標識も広告もフランス語オンリーになります。

それと同時に、人々の振る舞い、ライフスタイルもドイツ語圏とは大きく異なってきます。

レマン湖に沿ってなだらかな丘陵を覆う葡萄畑。美味しい白ワインやロゼが作られています。こののどかで開放的な景色は人々の生活様式にも影響を及ぼすようで、彼らはのんびりとワインを傾けながら何て事のないおしゃべりを楽しむことがドイツ語圏の人たちよりも好きな模様。外で隣人に遭っても「こんにちは!」と立ち止まって長々とおしゃべりをすることが多いようです。ドイツ語圏でも立ち話はするのですが、いちいち頬にキスをして楽しそうに話すフランス語圏の人たちと、割と硬い感じで真面目に会話をするドイツ語圏の人たちでは、会話の内容も雰囲氣もぜんぜん違うし、さらにいうと長さも違うのです。

ドイツ語圏の人たちはもっと時間に厳格で、十二時十五分前に長話をしている人などほとんど見ません。が、フランス語圏では昼食が十二時に始まらなくても関係ないと言う感じで長々と会話をしています。よく知らない人と簡単に友達になるのも、フランス語圏の人のほうが得意な模様。連れ合いは、今回も新しい友達を作ったみたいです。

レマン湖でラクレット

で、私はフランス語の会話の大半はスルーしつつ、英語やドイツ語で話してくれる人とは会話を楽しみ、開放的な風景を楽しみ、のんびりと時間を過ごしました。夏は過ぎ去ってしまったようで、最高でも25度くらい。変な組み合わせですが、湖水浴場でラクレットを食べたりしましたよ。

本当は四泊するつもりで行ったのですが、土曜日から雨になるとの予報だったので一日早く帰宅しました。土曜日は本当に土砂降り。暖かい自宅でのんびりできてよかったです。

この記事には追記があります。下のRead moreボタンで開閉します。

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コメントのご質問に関する追加写真です。

Celignyの湖畔カフェ

こちらがラクレットを食べたセリィニの湖畔のカフェ(売店)です。日本の海の売店に似ているでしょうか。ただし、貸切個室みたいな施設はありません。飲み物やアイスバーなどは、左にある売店で注文して料金を払い、自分でテーブルに持っていって飲食しますが、ラクレットはできたものを持ってきてくれました。写真の中心でくつろいで電話している人が、売子です。こういう勤務態度がフランス語圏だなあという所以(笑)

Celignyの湖畔カフェ

湖に向いたテラス席。泳がない人も普通にやってきて、ワインやコーヒーを飲みながら寛いでいました。湖水浴場が、普通の生活に当たり前のように息づいている感じです。

Nyonの湖畔カフェ

ちなみにこちらは隣街くらいのニヨンの湖水浴場のテラス。ずっと大きい街なので、湖水浴場の規模もカフェやそこで扱っているメニューも少し充実していました。もっともそのために少しプールの売店っぽい感じで、個人的には鄙びたセリィニの湖水浴場の方がいい感じだと思いました。
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【小説】バッカスからの招待状 -11- ラグリマ

WEB月刊誌「Stella」参加作品「バッカスからの招待状」です。東京・大手町にある隠れ家のようなバー『Bacchus』。バーテンダー兼店主の田中佑二が迎える客たちのなんて事はない話をほぼ読み切りのような形でお届けしてます。

今回は、Stellaの主催者であるスカイさんから「モンスター」というお題もいただいていたので、ものすごく強引にですが、モンスターの話題も混ぜてみました。


月刊・Stella ステルラ 8、9月号参加 連載小説 stella white12
「月刊Stella」は小説、イラスト、詩等で参加するWEB月刊誌です。上のタグをクリックすると最新号に飛びます。


「バッカスからの招待状」をはじめから読む「バッカスからの招待状」をはじめからまとめて読む
「いつかは寄ってね」をはじめから読む「いつかは寄ってね」をはじめからまとめて読む




バッカスからの招待状 -11- 
ラグリマ


「スクォンクって知っている?」
連れの女性が、独り言のようにつぶやいた。それは、ここに着いた時から泣いてばかりいるもう一人の女性に話しかけたかのようであり、その一方で、斜め前に立っている田中に話しかけたようでもあった。

 田中は泣いている女性の方を可能な限り見ないようにしていたので、この問いかけにどう反応しようか迷った。もちろん彼はスクォンクが何であるか、見当もつかなかった。スカンクの言い間違いとは思えなかったし、このいたたまれない状況にスカンクという単語は場違いでもあった。

 大手町のビル街の中にあるバー『Bacchus』は、週の初めはさほど混んでいない。まだ、時間も早い。店主でありバーテンダーでもある田中は、この小さな店をほとんど一人で切り盛りしている。彼は、常連の客の名前をほとんど憶えているが、この女性はかつてある男性客に連れられて一度来ただけの客で名前は知らなかった。泣いている方は、初めてだ。

「なに……それ」
頭を上げた女性の顔が見えた。意外な事に化粧はほとんど崩れていない。田中は、おや、本当に号泣していたわけではないのかと思った。

 連れの女性はそんな友人に慣れているのだろうか、特に表情も変えずに言った。
「架空のモンスター。イボや痣に覆われていて、いつも泣いているんだって」

 すると泣いていた女性は真っ赤になって怒り出した。
「私がこんなに悲しんでいるのに、イボと痣のあるモンスター呼ばわりするなんて、どういうこと? 本当に冷たいわね! もういい。私帰る!」

 バックと上着を掴むと、そんなハイヒールでどうやって飛ぶように歩けるのかわからないが、とにかくものすごいスピードでドアから出て行ってしまった。田中が呆然として見送ってから、もう一人の女性の方を見ると、彼女は小さく笑った。

「大丈夫よ。彼女の分もちゃんと払うから心配しないで」
「いえ、その心配をしているわけではありません。差し出がましいですが、追わなくてよろしいのですか」

 女性は、首を振った。それから手元のレモン入りペリエのグラスを傾けた。
「いつものことよ。二週間もしたら、また新しい恋の話を聴かされるに決まっているの。失恋の悲しみなんて彼女にとってはルーティンみたいなもので、次の『運命の相手』に出会ったら、すぐに消滅してしまうのよ」

 田中はその話題は避けたほうがいいと思ったので、グラスを片付けながら訊いた。
「先程のスクォンクという生き物について、もう少し教えていただけませんか」

「あら、興味がある? アメリカのどこかの森にいるんですって、異常なまでに内氣で常に涙を流しているんですって」
「ネッシーのように目撃譚があるのですか」

「さあ。でも、あるから、そういう具体的な話が伝わるんじゃないのかしら。学名までついているそうよ。Lacrimacorpus dissolvensって言って、涙に溶けてしまう体って意味なんですって。怖がらせたりすると大泣きしてその涙で体が溶けてしまうから」

「ラクリマコルプス……ですか」
「悲しいことがあった時に、その話を思い出すの。涙で体が溶けてしまったら、辛いことから解放されていいなあなんて。そう望む人間が作り出した話なのかもしれないわね」

 彼女は、伏し目がちにほとんど表情を変えずにペリエを飲んだ。先程の女性は、あまりにも大げさに泣き声をあげていたが、特に辛そうとは感じなかった。けれどこちらの女性は、どこか心配になるような心の重さが感じられた。

「涙にして流してしまうと楽になるのかもしれませんね。そうでなければ、話してしまえば忘れることができるのかもしれません。もしくは、ドリンクに溶かして飲み干してしまうのもいいかもしれませんよ」

 女性は口の端だけで笑うと、ペリエのグラスを飲み干した。
「商売上手ね。せっかくだからこの会話にぴったりのお酒をいただきたいわ。溶けてしまわないように、外で泣き出してしまわないように、想いを溶かして飲み干してしまえるようなお酒を」

 少し考えて、田中は緑色の瓶を取り出した。
「涙を意味するラクリマ、ラグリマという言葉を戴いたお酒は幾つかありますが、このポートワインはいかがでしょうか。白ワインよりもずっと甘いですが、デザートワインほどは甘くないので飲みやすいです」

 グラスにそっと注ぐと、琥珀に近い白い液体の中を、わずかにゆらぐ模様が見えた。彼女は、それをゆっくりと口にして、しばらく何も言わずに味わっていたが、ゆっくりと頷いた。

「美味しい。不思議ね。辛すぎるのも、甘すぎるのも苦手だって、一言も言わなかったのに、どうしてわかったのかしら」

 もちろん田中にそこまで見通す能力があるわけではない。ただこの女性の佇まいとこのラグリマの味のイメージが重なっただけだ。
「お氣に召して嬉しいです。どれほど素晴らしい評価の酒でも、お客様のお好みに合わなければ喜んではいただけませんから」

 彼女は、グラスの縁を指先でそっとなぞった。
「そうね。人一倍努力したからといって、必ず報われるわけではないのよね。相手の好み次第で結果なんて簡単に変わる……。あ、ごめんなさいね。私、今日、少し落ち込んでいたので」

「そうではないかと思っていました」
「このお仕事も、大変なんでしょうね。人々の愚痴や不満ばかり聞かされてうんざりなんじゃない?」

 田中は首を振った。
「積極的にお話しになる方もありますが、何もおっしゃらずに飲み込んでしまわれる方も多いのです。その分、グラスの中に溶かしてしまわれるのでしょうね」

 彼女は、顔を上げて田中を見た。
「そう。言いたくても言えない人もたくさんいるのね。さっきの子のこと、私はちょっと羨ましく思っているの。泣いて騒いで、翌日にはアルコールが抜けるみたいに、悲しみも問題も消えてしまっている。そんな風に発散できたら、素敵ね。私はいつも一人でメソメソするだけ。スクォンクみたいにね」

 それからしばらく黙っていたが思い切ったように訊いた。
「私をこの店に連れて来た人、憶えている?」

 田中は頷いた。
「はい。お名前は存じあげませんが」

「よくこのお店に来るの?」
「いえ。あの時で三回めでしたが、あれからお見えになっていらっしゃいません」

 彼女は、ほっと溜息をもらした。
「そう。だったら、安心してまたここに来られるわね」

 カランと音がして、入り口のドアが開いた。田中は挨拶をした。
「夏木さん、こんばんは。今日はお早いですね」

「こんばんは、田中さん。今日は一番乗りを目指してきたのに、先をこされていたみたいだね」
夏木は肩をすくめて、女性に会釈をすると、カウンターの奥の自分の席と決めている位置に座った。

「名前を憶えてもらっているって、羨ましいわ」
彼女はそう言うと、グラスを持ち上げて夏木に笑いかけた。

「田中さんは、こっちが名乗ったら忘れずに、そう呼んでくれるんですよ。僕も、こんな風に馴染んでいるお店はここしかないんです。あ、僕は夏木敏也といいます」

「はじめまして、夏木さん。私は柴田雅美です。田中さんもどうぞよろしく」
田中は雅美に会釈した。
「こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします、柴田さん」

 やがて、すみれや近藤も来店して、いつものようにカウンターに座った。程よい距離感を保ちつつ集う常連たちと会話を交わしているうちに、雅美を覆っていた重い憂いのヴェールが少しだけとれたように田中は感じた。

 田中は『Bacchus』を、人々の心の交流の場にしたいと願ってきた。メニューに載っている飲食を提供するだけではなく、足を運ぶ人たちが悲しみを忘れ、喜びを増すような場にすることが理想だった。そのために知識を得、研鑽を重ねることで、素晴らしいバーテンダーになるのだと勢い込んでいたこともあった。

 だが、月日が経ち、人生経験を重ね経営を続けるうちに、どんな人をも笑顔にするような魔法はないことがわかってきた。その一方で、通ってくれる常連たちが、彼の代わりに魔法を使ってくれることも知った。だから、誠実に働くこと、大切な客の一人一人をもてなすこと、彼らの居心地のいい場を提供することこそが、この店を彼の理想に近づける近道だと思うようになった。

 柴田雅美も、この店の新しい仲間になるかもしれない。彼女がこの店に集う暖かい客たちに馴染むことで、件の怪物のように涙で溶けてしまう悲しみから解放されることを、田中は心から願った。

(初出:2017年9月 書き下ろし)
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Posted by 八少女 夕

マイリンゲン



イギリスから来ている叔母に会うためにマイリンゲンに来ました。

シャーロック・ホームズゆかりの街で、泊まったのもコナン・ドイルが滞在して構想を練ったところ。

今のように観光地化していなくて、雰囲氣があったのでしょうね。

雨のため電車で来たのでまったりとしていました。
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Posted by 八少女 夕

【小説】麦わら帽子の夏

今週は「十二ヶ月のアクセサリー」八月分を発表します。八月のテーマは「帽子」です。

このキャラ、どこかで見たぞと氣になる方がいらっしゃるかもしれません。「十二ヶ月の野菜」の中にあった「あの子がくれた春の味」に出てきた林かのんが再登場しています。あの掌編のコメントで「どういうわけであの子がああいう所に嫁に行くことになったのか知りたい」というお声を幾つかいただきましたので、そのリクエストにお応えするつもりで書きました。


短編小説集「十二ヶ月のアクセサリー」をまとめて読む 短編小説集「十二ヶ月のアクセサリー」をまとめて読む



麦わら帽子の夏

 大学の英語のクラスで初めて林かのんを見た時、あまりいい印象を持たなかった。

「おい。あの子、まるで人形みたいにかわいいぞ」
クラスメートの男どもの大半は、彼女のフリフリな洋服や、完璧に手入れされた長い髪、それに整った顔立ち、とくに形のいい唇に惹きつけられていた。

 だが、太一は大きな目をゆっくり伏せたり、妙に首を傾げたりする、思わせぶりな動作に演技臭いものを感じて「けっ」と思ったのだ。

 砂糖菓子かよ。何ひらひらしてんだよ。可愛ければ、いいってもんじゃない。

 太一が通うことになったのは、総合大学で様々な学部がある。一年生の間だけ共通の教養学を全ての学生が一緒に学ぶことになっている。例えば、英語の授業はいろいろな学部の学生がランダムにクラス分けされていた。

 太一の入った農学部には、女学生は少ない。ましてや林かのんのようなふわふわしたお嬢さんタイプは、まず見かけないだろう。千葉の農家で生まれ育った太一の周りには、これまでこんな風が吹いても泣きだしそうな女はいなかった。がっつり食べて、朝から晩まで畑で作業する母親に代表される骨太の女ばかりに囲まれていたのだ。

 それは、新学期が始まって一ヶ月ほど経ったてからだと思う。

「大崎くん。かのん、ここに座っても構わない?」
横をみると、林かのんが一人で立っていたので仰天した。隣の席は、確かに空いているが、なぜわざわざここに。振り向くと、トイレすらも集団で行く、ひっつき虫の女どもはまとめて後ろの席に座っていた。そして、その列にはもう空きはなかった。

 だが、林かのんと親しくなりたがっている野郎どもの隣はまだいくらでも空いているのに。それよりも、この女が、女の集団に尻尾を振らないで一人で行動したことのほうにもっと驚いた。

「いいけど、ここに座るとかなりの確率で当てられるぞ。教壇からちょうど目にはいる席だしさ」
「大丈夫。かのんね、ちゃんと予習しているもの」

 へえ。そりゃ、ご立派なことで。そもそも、なんだよ、その一人称。自分の名前を呼ぶの、痛々しいぞ。

「後ろの方、みんなおしゃべりしていてあまり授業に集中できないんだもの。先週、大崎くんは、ちゃんと聴いていたでしょう? だから、次はかのん、ここに座りたいなって思っていたの」

 それから、妙なことになった。彼女がひっついて来るようになったのだ。最初は、授業に集中できる席のために隣に座るのかと思っていた。変な女だとは思ったけれど、一理あると思ったので、それ以上のことは考えなかった。毎週のことだから、林かのんと付き合いたがっている男子学生たちからは妬まれたけれど、「知るか」と無視していたら、大したライバルではないとわかったのか相手にもされなくなった。

 太一は雑誌に出てくるみたいな格好をして、ナンパに血道をあげているような男たちとは、全く仲良くしたくなかったので、クラスの男にしろ女にしろ他の学生たちとつるまずに一人でいることにはまったく問題がなかった。ところが、別の授業に行こうと移動しようとすると、林かのんが一緒についてくることがあった。

「なんだよ」
「大崎くん、次の授業は西棟四階でしょう。かのん、三階で美学史だもの」
「あ、そうか」

 来るなというのも変なので、一緒に歩いたが、これでは周りにつきあっていると誤解されるじゃないかとちらっと思った。っていうか、誤解されてもいいのか、この女は。

「ねえ。大崎くん。農学部だから知っていると思うんだけれど」
「なんだ?」

「かのんね。夏休みに普段できないような仕事を体験するアルバイトをしようと思って、いろいろと探してみたの。そうしたら、地方の農家で住み込みで働くというのが結構あるんだけれど、まったく知らないところに行くのを親が心配して反対するの。大崎くん、知っているお家でそういうバイト探していないかしら」

 太一は、目を丸くした。こんなマシュマロ女が、農家でバイト? ありえん。
「いや、君さ。農家はきついぞ。そう簡単に……」

「かのんだって、それはちゃんとわかっているよ。ママもそう言って許してくれないけれど、そんな事言っていたら、いつまで経ってもやりたいことにチャレンジできないじゃない? 就職したら、きついなんて言っちゃいけなくなるのに」

 うん。まあ、正論だ。でもなあ、言いたくはないが、農業体験ができるという触れ込みで実は嫁探しをしていたなんて話も聞いたことがあるし、知らないところは奨められない。でも、知っている農家にこんな弱そうな女を紹介して、キツさに泣いて一日で辞められたりしたら、俺が叱られるじゃないか。

「あー、俺が紹介して、林が速攻で弱音を吐いても迷惑をかけずに済むところと言ったら、一つしか浮かばないな」
「どこ?」

「俺んち。オヤジの農園。千葉で野菜を作っているんだ。遠いけれど、絶対に日帰りできない距離じゃないし、泊まるならちゃんとうちの敷地に玄関も別の部屋がある。なんなら親父とお袋に訊いてみるけれど」

「本当? かのん、やってみたい。バイト代、安くても構わないから、是非お願い」
彼女は目を輝かせた。おいおい、いいのか、そんな安易に。いつもこの調子で色んな男のところにホイホイついて行っているんじゃないだろうな。太一は首を傾げた。

 そして夏休みになると、彼女は本当に大崎農園にやってきて、一ヶ月も住み込んだ。まさかフリフリのスカートでくるんじゃないだろうなと心配したが、一応、デニムでやってきたので安心した。もっとも、ベージュだの薄い水色だの、舐めているんじゃないかという色のジーンズで、Tシャツもやけに可愛いオシャレなヤツだった。もちろん、うちのような田舎では浮きまくっていた。

 どういうわけか、母親に妙に氣に入られ、作業中だけでなく、夜の食事の手伝いなどでもいつも一緒にいたし、初日からずっと近所で育ったみたいに馴染んでいた。そして、珍しい動物が来たみたいに、父親や近所のおじさんたち、それに他のバイト兄ちゃんたちからも可愛がられて、ものすごく重いものは持たされずに済んでいたようなので、可愛いというのは得だなと妙な感心をした太一だった。

 太一が驚いたことに、ふわふわしたイメージとは裏腹に、彼女は実によく働いた。ネギを引っこ抜く作業は見かけよりもきつい肉体労働だが彼女は「疲れた」などということは一言も言わなかった。それに綺麗にして並べて出荷用に箱詰めするときも、とても丁寧だけれど思いのほか機敏でバイトの中で一番早く父親を満足させる作業ができるようになった。

 UVケアに必死で日傘でもさすんじゃないかと思っていたが、日焼け止めは塗っているようだけれど、外での作業もまったく嫌がらずに、つばの大きい麦わら帽子を被って作業をしていた。

「林、大丈夫か。熱中症にならないように氣をつけろよ」
一緒の作業になった日に、太一は言った。

「かのんね。このくらい何ともないよ」
麦わら帽子の下で、いたずらっ子のように大きい瞳が輝いた。太一は、その笑顔にどきっとした。

 彼女がバイトを終える前の晩に、別れを惜しんだ両親や、近所のおじさんたち、それにバイトの若者達が集まって、大きな宴会をした。

 採れたての枝豆や、母親が得意な手作りこんにゃくのステーキなど、ビールによく合うつまみが多くて、ついみんなメーターが上がってしまう。林かのんの送別会のはずだが、ただの飲み会になって、当人が何度も台所と往復するようなことになっていた。

「本当によく頑張ってくれたな。よかったら、また来年も来てくれよな」
父親が、空になったビール瓶を片付けるために台所へ向かおうとする彼女を引き止めて隣に座らせ、酔いで真っ赤になりながら上機嫌で云っていた。太一が最初に電話で訊いたときは「女の子は即戦力にならないからなあ」なんて言っていたくせに。

「太一は、無愛想だけれど、よかったら引き続き仲良くしてやってくださいね」
母親が、なんだかドサクサに紛れてとんでもない事を頼んでいる。ところが林かのんはにこにこ笑って答えた。
「私の方こそ、ずっと仲良くしていただきたいです」

 なに言ってんだ? その言い方は、もっと誤解されるぞ! 太一は、ビールをどんどん注がれて酔っぱらい、ふらふらになった頭で林かのんに説教をした。
「そーいうふーにー、けいかいしんのー、ないげんどう、を、しているとー、あぶないから。なっ。わかってんのか」

 彼女がにこにこと笑っていたような氣がするが、なんと答えたのかの記憶は、ほとんどないまま翌日になってしまった。

 太一は、母親に厳命されて、近くの無人駅にかのんを見送りに行った。
「あー、一ヶ月ありがとう。林が思ったよりもずっとよく働いてくれて驚いたよ。親父達も感心していた。バイト代、少なくてごめんな。少し色をつけたみたいだけれど、それにしても少ないだろう」

「ううん。全然少なくないよ。それに、一ヶ月、大崎くんと一緒に過ごせて、とても楽しかったの。もし、嫌じゃなかったら、また来年も来たいな。それに、二学期もまた大学で仲良くしてくれると、かのん、とても嬉しい」

 彼女の言葉に、太一はまたしても目を丸くした。こいつ、こんなことを誰にでも言うとしたら天然すぎる。

 太一は、以前から一度訊いてみたかった事を口にした。
「なあ、林。君、なんで俺なんかについてくるんだ? もっと、ちやほやしてくれる男が、いくらでもアプローチしてきているだろ」

「う~ん。かのんね、たくさんプレゼントしてくれる人や、なんでもしてくれる人、ちょっと苦手なの。大崎くんは、かのんがいてもいなくてもどっちでもいいのに、話しかけるとちゃんと答えてくれるし、一緒にいて心地いいの。それにね……」
「それに?」

「ずっと仲の良かった友達がいたの。今は、離れてしまったんだけれど。いつも背筋をピンと伸ばしていて、他のみんなが一緒にサンドイッチを食べようと言っても、私は好きなカレーを食べるっていうような子だったの。そういうところが大好きだったの。大崎くん、彼女みたいなんだもの」

「ふ、ふーん。確かに俺もカレーは好きだけれど……」
太一は、そういう問題じゃないとわかっていつつも、ピントのずれた答えしか返せなかった。

「じゃあ、今度、かのんがとびっきり美味しいカレーを作るよ。大崎くん、うちに食べに来る?」

 麦わら帽子についているオーガンジーのオレンジのリボンが風に揺れた。帽子の下に、溢れている笑顔は、これまでに見たどんな女の子の笑顔よりも可愛らしかった。太一は、やられたと思った。

 夏が終わり新学期が始まるまで、麦わら帽子を見るたびに俺はこの笑顔を思い出して、おかしくなってしまいそうだ。太一は、昨日の酒がまだ抜けていないのかと、ぐるぐるする頭で考えつつ、黙って頷いた。

(初出:2017年8月 書き下ろし)
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Posted by 八少女 夕

【キャラクター紹介】番外編・子ども&未成年

またしてもキャラクター紹介の記事です。発表済みの作品や、まだ発表していない作品のキャラクターをちょこちょこっと紹介して、作品に親しみを持ってもらおうかな、という姑息な企画ですね。

以前、人間以外をまとめてやった事があるのですが、今回は子ども&未成年を集めてみました。と言っても、私の小説、後から育っちゃったりたりするんで、子どもだけって少ないかなあ。一応、現在時点で子ども形態しか登場していないキャラに限定してあります。(というわけで、マイアとか、23とか、瑠水などはここからは除外しました)


【基本情報】
 作品: 「夜のサーカス」
 名前: ステラ
 国籍: イタリア人
 居住地: イタリア
 年齢: 本編の登場時は16歳

「夜のサーカス」のヒロイン。サーカス「チルクス・ノッテ」でブランコ乗りを勤める少女。六歳の時に出会って運命の人と思い込んだ道化師ヨナタンの側に居たいというだけの理由でブランコ乗りを目指した。後先考えない「火の玉少女」だけれど、努力は人一倍する。

* * *


【基本情報】
 作品: 「リゼロッテと村の四季」
 名前: ジオン・カドゥフ
 国籍: スイス人(ロマンシュ系)
 居住地: カンポ・ルドゥンツ村
 年齢: 本編の登場時は9歳

ヒロイン・リゼロッテのカンポ・ルドゥンツ村での最初の友人。農家の子どもで、幼いながらも学校のないときはちゃんと働く。粗野で物怖じしないが、心根は優しい。ロマンシュ語とスイスドイツ語のバイリンガル。

* * *


【基本情報】
 作品: 「大道芸人たち Artistas callejeros 第二部」
 名前: パオラ
 国籍: イタリア人
 居住地: チンクェ・テッレ、リオマッジョーレ
 年齢: 登場時は6歳くらい?

「大道芸人たち」蝶子 by limeさん
このイラストの著作権はlimeさんにあります。無断利用は固くお断りします。

limeさんの描いてくださったイラストから生まれ、「アンダルーサ −祈り−」という外伝で登場した少女。第二部で重要な役目を負う事になった。母親に育児放棄されているが、周りの大人たちの親切で生き延びている。

* * *


【基本情報】
 作品: 「リナ姉ちゃんのいた頃」
 名前: 遊佐三貴
 国籍: 日本人
 居住地: 東京都目黒区
 年齢: 登場時は14歳だったかな?

ヒロイン・リナがホームステイする事になった家庭の次男。英会話教室に通っていて英語が少し話せるという理由で、ぶっとんだ彼女の面倒を看る羽目になる。常識人のため、よくオロオロする羽目になった。彼女のホームステイが終わった後も、交流を続けているらしい。

* * *


【基本情報】
 作品: 「パリでお前と」
 名前: アンジェリカ・ダ・シウバ=カペッリ
 国籍: アメリカ人
 居住地: ロサンジェルス
 年齢: 登場時は8歳

「ファインダーの向こうに」「郷愁の丘」のヒロイン、ジョルジアの姪。母親はスーパーモデルのアレッサンドラ・ダンジェロ、父親はプレミアリーグ所属のサッカー選手レアンドロ・ダ・シウバ。父親と母親が離婚後、母親と一緒に暮らしているが、複雑な家庭環境のため歳よりも大人びている。

理想の男性は、マッテオおじさん。ウルトラ甘やかされている。ジョルジアとも仲がいい。ジョルジアの買い物のアドバイスもしてあげる事がある。

* * *


【基本情報】
 作品: 「郷愁の丘」
 名前: マーガレット(メグ)&エンリコ・ブラス
 国籍: ケニア人
 居住地: ケニア中部ヴォイ
 年齢: 登場時は5歳と0歳

「郷愁の丘」の主人公、グレッグの姪と甥(正確には腹違いの妹の子ども)。母親は動物学者レイチェル・ムーア博士の娘マデリン(マディ)、父親はイタリア人実業家アウレリオ・ブラス。ストーリー中盤までエンリコは生まれていない。メグは、グレッグに懐いていないが、ジョルジアには即座に懐いた。そのおかげで後ろ向きな主人公たちが近づくきっかけができる。

エンリコの初登場は外伝「絶滅危惧種」ただし、この時は性別も名前も出てきていない。エンリコは男の子。アウレリオがイタリア系の名前を付けた。

ちなみにずっと後(とくに書く予定もないし)だが、上のアンジェリカと、メグ&エンリコは知り合うことになるはず。
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Posted by 八少女 夕

【小説】郷愁の丘(7)滞在と別れ - 3 -

「郷愁の丘」の続きです。「滞在と別れ」、三回に分けたラスト部分です。

実をいうと、ここまで書いてきた《郷愁の丘》での滞在時間よりも、今回発表する分での滞在時間のほうがずっと長いんですけれど、いつまでも細かく描写しても意味がないので具体的な描写はなく、すっ飛ばしています。

ジョルジアは、この旅行の大半を《郷愁の丘》で過ごしましたが、休暇が終わるのでニューヨークに帰らなくてはいけません。(当たり前ですね)

次回はニューヨークに帰ってからの続きですが、その前に「十二ヶ月のアクセサリー」と「バッカスからの招待状」が挟まりますので九月十三日の更新です。


郷愁の丘「郷愁の丘」を読む
あらすじと登場人物




郷愁の丘(7)滞在と別れ - 3 -

《郷愁の丘》に滞在した二週間は、あまりにも早く過ぎ去った。

 ライカをいつも手元に置き、彼を撮り続けた。サバンナで、イクサの街で、一度は講師として働いている大学で講義している時も。それから、《郷愁の丘》で、柵を修理したり車の整備をしている姿も。厚い本を繰って何かを調べる真剣な表情。ワインのコルクを抜いている時のリラックスした笑顔。

 モノクロームのフィルムは全て使い切った。何度かここぞという瞬間に出会った。写真集に収める一枚という意味では、現像を待たずに手応えを感じていたが、あの墓地で感じた人生を変えるほどのシャッターチャンスとは思えなかった。少なくとも、彼女の魂の発露とは言いがたかった。

 グレッグは協力的で好意に満ちているのに、とても難しい被写体だった。何度か感じた「彼を捕らえた」勝利感は幻想だった。それは蜃気楼のように消えていく。シャッターを切った瞬間には間違いなくこれだと思うのに、指を離した時にはもう自信を失っていた。これほど自分に近いと感じるのに、それが何であるのかわからない。それは《郷愁の丘》も同じだった。

 朝は、世界が色の魔法で繰り返し魅了した。彼女は、早く起きてルーシーと散歩をするグレッグと合流するようになった。こちらを撮るためにはモノクロームではだめだとわかっていたが、頼りにならないコンパクトカメラは、部屋に置いたままだった。彼女の心をかき乱す色も、この丘に佇む一人の男のと忠実な犬の感情も、今の彼女とこのカメラでは映し出す事は出来ない。それだけはよくわかっていた。

 この《郷愁の丘》には、もっとずっと深く、慎重に探し当てねばならない啓示があった。深遠な秘密。「その名を助けを求めずお前だけの力で明らかにせよ。そうでなければ何ひとつ知る事は許されぬ」と明確に彼女に訴えかけてきた。

 それは、何でもない朝食の準備や、午後にハンモックの上でまどろむ穏やかな時間ですらも、常にジョルジアの中に点滅し、くすぶり続けた。

 魂の叫び。心の闕乏。それとも、ニューヨークではほとんど意識にも上らない、神という存在への讃美。力強くめぐる生命の神秘へ喝采。命あふれる惑星に佇むとても小さな間借り人である事の確認。《郷愁の丘》は、ジョルジアがこれまで経験した知覚をはるかに凌駕した特別な存在だった。頭脳で知り考えるのではなく、心と魂で感じる土地だった。

 自分がそうではない世界に属している事がぴんとこなかった。ナイロビで予定していた滞在を全てキャンセルし、帰る二日前まで二週間も《郷愁の丘》に滞在し続けたが、時は同じように機械的に進み、彼女は出発しなくてはならなかった。

 グレッグは、それまでと同じように淡々と、穏やかに最後の朝の散歩と朝食を共にした。特別な事は何も言わなかった。ジョルジアは、レイチェルの家で聴いた彼の告白が本当の事だったのか自信をなくしていた。

 いつものように礼儀正しく彼がランドクルーザーに彼女の荷物を運び込むと、ルーシーは嬉しそうに車に飛びのった。ジョルジアの心はそれほど弾んでいなかった。《郷愁の丘》に暇を告げることは、とても辛い事だった。明日、目が覚めても、朝焼けの中をグレッグやルーシーと散歩する事はないのだ。この二週間、ずっとあたり前のように続いた興味深い対話もこの午後からはひとり言になるのだ。

 駅に着くまで、彼の様子はずっと変わらなかった。穏やかで優しく心地いい態度。道の悪さからやたらと時間のかかるドライブも、今日ばかりはもっと長く続いてもいいのにと思えた。《郷愁の丘》へと続く寂しい自然道は終わり、舗装された道にたどり着いた時、駅を示す標識が表れた時、彼女は残念な氣持ちになった。

 そして、車は本当に駅についてしまった。
「なんとか間に合ったね。あと二十分ある」

 彼は、荷物を持ってホームまで来てくれた。
「ありがとう」
「途中で何か問題があったら、遠慮なく連絡してくれ」
「ええ。そうしたら、また《郷愁の丘》に泊めてくれる?」

 彼は、目を細めて「いつでも」と言った。

 電車が入ってくる。別れの時が迫っていた。ジョルジアはどんな風に彼と別れるのか戸惑った。

 彼女は親しくない人とハグをするのが苦手だった。ヨーロッパ式に頬にキスをされるのも、よほど親しい相手でないと緊張した。だから、普段仕事で会う人たちや単なる知人たちとは、握手をするのが一番ストレスなく感じるのだった。けれども、グレッグに対しては、ハグやキスも嫌だとは思わなかった。彼もそう望むのなら、それはとても自然なことだった。

 だが、彼は「じゃあ、さようなら」とだけ言った。握手すらしようとしなかった。レイチェルの家で怪我の手当をしてもらって以降、彼が一度も彼女に触れなかった事を、その時ジョルジアは始めて思い出した。

 彼とは対照的に、尻尾を振ったルーシーがしきりに彼女の手の甲を舐めて別れを告げた。
「さようなら、グレッグ。素晴らしい二週間だったわ。どうもありがとう」
車内に荷物を載せてくれて降りようとする彼に、ジョルジアは、万感の想いを込めて言った。

「僕こそ、礼を言うよ」
「何に対して?」
「僕のところに来てくれて。一緒に時を過ごしてくれて」
降りる後ろ姿だけで、表情は見えなかった。ジョルジアの心はまた締め付けられた。

「写真、現像したら送るわ。手紙も書くわね」
電車はゆっくりと走り始めた。彼女はホームのグレッグとルーシーに手を振った。
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Tag : 小説 連載小説

Posted by 八少女 夕

Pfifferlinge(アンズタケ)もらった

今日はグルメ、それも「小さい秋みつけた」な話。(なんだそりゃ)

Pfifferlinge(アンズタケ)

先日、こんなキノコをいただきました。そろそろキノコ狩りのシーズンなんですね。スイスアルプスでは、秋になるとキノコを求めてハイカーたちのみならず、目の色を変えたイタリア人たちが押し寄せてきます。イタリア名物でもあるポルチーニ茸をスイスで狩りまくるというわけです。

キノコ狩りにはルールがあって、自治体によって違いますが一人あたり二キロまで、または三キロまでという制限がされています。それをこっそり二十キロくらい採ってしまって国境で見つかって没収なんてことも、毎年ニュースになります。

さて、頂いたのはPfifferlinge(アンズタケ)というキノコです。こちらもかなりお高いキノコで、私は店ではなかなか手がでません。今回はそれを500グラムも頂いてしまいました。

採りたてだったので、まだ土が付いていました。

お料理をする方はご存知だと思いますが、「キノコは水洗いをしちゃいけない」んですよ。美味しさが全て水に流れてしまい、更にとても水っぽくなるからです。栽培されたキノコならちょっと拭けばきれいになりますが、野生のキノコの場合は洗わずにきれいにするのは至難の技です。ブラシや紙ナフキンで一つ一つ丁寧に拭いていくのです。これが面倒臭い。

このキノコが我が家に回ってきたのも、おそらくこの面倒くささをしたくなかった人たちが、辞退したからだと思うのです。そうじゃなかったらこのキノコがたらい回しになんてなるはずないんです。

涙目になってきれいにしていたら、見かねた連れ合いがちょっとだけ手伝ってくれました。彼が受け取ってきた手前、私の逆鱗に触れるのが怖かったのかも?

Pfifferlinge(アンズタケ)のパスタ

で、私は日本人なので、アンズタケのレシピなんて頭に入っているわけはありません。でも、以前食べた記憶を元に力技で作ってみました。

アンズタケは食べやすく切り、エシャロットのみじん切りとニンニクをオレーブオイルで炒めて香りが立ったたフライパンに投入します。火が通ってきたら白ワインをかけ、塩胡椒それにチキンスープの素で味を整えて生クリームを投入。タイムを散らしてパスタソースの出来上がりです。

パスタは以前買った栗の粉を使ったブレがリアの名産パスタを使ってみました。秋の味っぽくするために。味見ではなんか物足りないような氣もしましたが、食卓でパダーノ・チーズを振りかけたら、ばっちり。

美味しかったです。
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Posted by 八少女 夕

【小説】郷愁の丘(7)滞在と別れ - 2 -

「郷愁の丘」の続きです。「滞在と別れ」の二回目です。

まるで当たり前のように滞在していますが、ジョルジア、要するにほとんど知らなかった人の家にずっといるのです。彼女は年に一度、たいてい三週間から一ヶ月の休暇をまとめて取ります。今回の旅は三週間ほどという設定で、アメリカを出発してからここに来るまでが一週間ほどでした。

少し退屈かもしれませんが、今回のパートには、このストーリー上では大切な会話が入っています。ただし、既に外伝でいくつか開示した情報が混じっているので、たいして目新しくないかもしれません。グレッグが事情を自分で語るのは、多分ここが初めてじゃないかと思います。

ジョルジア、写真撮っていないじゃん、というツッコミが今回も入りそうですが、撮るところの前で切ってしまいました。


郷愁の丘「郷愁の丘」を読む
あらすじと登場人物




郷愁の丘(7)滞在と別れ - 2 -

 翌日、彼はジョルジアを連れてマサイの村に寄った。茨で出来たボマといわれる大きな円形の柵の中に牛の糞で作った小屋が何軒も建っている。マサイの集落はハエが非常に多い。牛とその糞による湿氣がハエを呼ぶのだ。けれども牛の糞自体はさほど臭うものではない。糞だと思わなければさほど氣持ちの悪いものでもない。

 かつて撮影で連れて行ってもらったマサイマラの集落よりも小さい上、商売氣が少なかった。あの時は無秩序に人びとが集まってきた。頼みもしないのに色とりどりのビーズで作った首飾りをかけて売りつけようとしたり、自分の子どもの写真を撮らせてチップをもらおうと手を差し出しながら近寄ってくる者もいた。だが、今回は幾人かの男たちが興味を持って近づいては来るものの、グレッグが話そうとしている長老よりも前に出てこようとするのは子どもたちだけだった。女たちはそれぞれの家で仕事を続けていた。

 小さい子どもたちはジョルジアの周りに集まり、めずらしそうにあちこちに触れた。あまり日焼けのしていない肌や短いけれども縮れていない艶のある髪に興味を持ち、小さな手で触れてきた。

 グレッグは、短くマサイ語で挨拶した。長老はそれに答えて重々しく何かを語った。
「なんていったの?」
「彼は誤解しているんだ。僕が恋人を連れてきたと思って」

 彼は長老に英語ではっきりと言った。
「違うんだ。この人はお客さんで、僕の恋人ではない」
 長老は動じた様子もなく、さらにマサイ語で何かを重々しく告げた。

「なんですって?」
ジョルジアは、訊いた。グレッグは、少し悲しげな瞳をしていた。しばらく何も言わなかったが、それから口を開いた。
「僕にもなんと言っているのかわからない」

 ジョルジアは、きっと彼は長老の言葉の意味はわかったのだろうと思った。でも、通訳するつもりはないのだ。強いれば、もっと彼を悲しませる事になるような氣がした。

 彼は、サバンナの水場について長老と話をしていた。長老は聴き取りにくい英語で重々しく告げた。
「心配ない。ここしばらく雨が多いので、我々は牛を遠くに連れて行く必要もない。シマウマの群れは今年は《骨の谷》で渡るだろう。あの川は幅が狭く渡るには好都合だが、おそらくいつもより多くワニも待ち受けている事だろう。お前も氣をつけなさい」

 《郷愁の丘》に戻り、ジョルジアは昨夜作っておいたシチューを温めた。普段作るなんということのない料理も、添えるものがパンではなくウガリ(白いコーンミール)になっただけでアフリカの料理らしくなる。テーブルの用意をしているグレッグに彼女は訊いた。

「シマウマの通り道を教えてもらいにいったのね」
「そう。彼らは経験豊かで、伝承による叡智も受け継いでいるから、僕の予測よりもずっと正確なんだ」

「ワニが多いって言っていたけれど」
「そうだね。シマウマやヌーたちは、一斉に川を渡るんだ。ワニはそれを待ち構えている。ワニが一頭を襲い食べている間に、他のものは川を渡り切る」

「そんな危険があっても、川を渡るのね」
「そうしなければ、ここが乾季で干上がってしまうからね。彼らはどうしても南に行かなくてはならないんだ」

「そして、雨季になるとまた戻ってくるのね」
「そうだ。そして、次々と子どもが誕生するんだ」

 食後に二人はワイングラスを持ってテラスに移動した。涼しくなった風が心地よく渡っていく。

「あなたはそのシマウマの外見を憶えてしまうんでしょう?」
「ああ。生まれてから立ち上がるまで見守っていると、特徴が頭に入ってしまう。それから毎日みて、生き延びている事にほっとしたりする」

 ジョルジアは微笑んでから、赤ワインのグラスを持ち上げた。生き延びたシマウマに乾杯して二人はワインを飲んだ。
「名前を付けたりするの?」
「いや。サイやライオンやゾウのようにはいかないな。星の数ほど生まれて、そのうちの多くがあっという間に死んでいく。もっとも一度名付けた事がある。もう二度とするまいと思ったよ」

「どうして?」
「名前を付けるというのは特別な行為だと思い知った。つけた途端に大きな思い入れが発生する。ハイエナやライオンに追われるのを助けたくなってしまうんだ。もちろんそんな事は許されないからしなかったけれど」

 特別な行為と聞いて、彼女は氣になっていた事を訊いてみようと思った。どうしてみなが呼ぶヘンリーではなくて、グレッグと呼んでほしいと言ったのか。
「ねえ。グレッグという名前には特別な思い入れがあるの?」

 彼は、グラスを置いて彼女を見た。
「祖父から受け継いだ名前なんだ」
「お祖父様っ子だったの?」

 彼はしばらく黙っていた。ジョルジアが他の話題を持ち出すべきかと考えていると、彼は立って中に入り、書斎からセピア色の写真の入った額を持ってきた。彼とどことなく似ている老人と、並んで座っている五歳くらいの少年が映っていた。

「これはあなたなの?」
「ああ」

 彼は、ジョルジアの隣に座って話しだした。
「父と母ははじめからとても折り合いが悪かった。母は生まれた僕に自分が望む名前を付けたがった。だから父は、母が候補にした名前の中で、あえてスコット家に代々伝わる名前ではないヘンリーを選んだ」

 ジョルジアは、何と言っていいのかわからないまま彼の話を聴いた。
「父は僕の曾祖父、彼の祖父のトマス・スコットを尊敬していたが、アルコールに弱く学者にならなかった自分の父親グレゴリー・スコットのことは尊敬していなかった。だからヘンリーなどと付けずに、自分の名前を付けろと彼が言うと、アルコール中毒の義父を毛嫌いしている妻への嫌がらせでそれをミドルネームにしたんだ」

 悲しそうな顔をしているジョルジアに、彼はいつものように穏やかに微笑んで首を振った。
「僕は、祖父が好きだった。両親が留守がちで友達もいなかった僕は、一人でいる事が多かったけれど、そんな僕のために彼は時間をとってくれた。彼は僕のことを『小さいグレッグ』と愛情を込めて呼んでくれた。母が父と離婚してイギリスへ引越したのは僕が十歳のときで、直接逢ったのはそれが最後になった。もっともずっと手紙を書いていたから関係が途切れたわけじゃなかったけれどね」

「お祖父さまは……」
「十三年前に亡くなった。僕を氣にかけてくれて、わざわざ遺言で僕にいくばくかのものを残してくれたんだ。だから僕はこの《郷愁の丘》を買うことが出来たんだ」

「そうだったの」
「両親が離婚する時に、母は養育費を要求した。するとそれを拒みたかった父は僕にDNA検査をさせたんだ。それで僕は間違いなく父の子供だと証明されて、大学にまで進めたけれど、同時に父親に我が子ではないと疑われていたことも知ってしまった。離れていたこともあり、僕は父にはどうしても必要がある時以外は、自分から話も出来なくなってしまった。父もクリスマスにすら連絡をよこさなくてね。それで祖父は亡くなるまで僕たちの関係を心配してくれたんだと思う。相続する時に、ケニアに戻ってきて弁護士の所で十五年ぶりに父に会った。イギリスではなくてケニアで研究をしたいとようやくその時に言えた。彼は少なくとも反対はしなかった」

「お母様は?」
「バースにいる。こちらに戻ってから一度も逢っていない。クリスマスカードのやりとりはしているけれど」
「ケニアに戻って来たことがお氣に召さなかったの?」

「いや、僕が何をしようがさほど興味はないと思う。イギリスに戻ってしばらくは一緒に住んでいたけれど、僕が寄宿学校に入るとすぐに再婚して、新しい家庭を作った。あまり歓迎されないのがわかっていたので、休みの期間にもいつも寄宿舎に残っていたよ」

 胸が締め付けられるようだった。この人はなんて寂しい境遇で育ったんだろう。あまり裕福ではない漁師だったジョルジアの両親もほとんど家にいなかった。だが、彼女には歳の離れた兄マッテオと妹アレッサンドラがいた。妹二人を溺愛する兄の深い愛情、そして忙しくとも会える時には精一杯の愛情を注いでくれる両親の暖かさで、ジョルジアとアレッサンドラは常に幸福だった。

「父も母も、みなヘンリーと呼ぶ。でも、僕には祖父が呼んでくれた『小さいグレッグ』こそが本当の名前に思えるんだ」
「ええ。グレッグ。私もそう思うわ」
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Posted by 八少女 夕

夏の土曜日、やっていたことは

日本の皆様、大変暑いそうですね。こちらは、申し訳ないほど快適、といいたいところでしたが、ここ数日は涼しいというか、すでに寒いに近い領域。土曜日の午前十時に13℃って。八月ですよ、八月!

そんなこんなもあって、どこにも行かずに自宅にこもっていました。そして、ここ数日やっているのは、あいかわらずMacの番人なのですが、先週から少しいつもと違う事をしています。

以前もこのブログで少し書いたことがあると思うのですが、私の曾々祖母、つまり祖母の祖母は明治時代に日本に嫁いできたドイツ人なのです。で、しばらくはあったドイツの親戚との交流は、日本の敗戦、二度の世界大戦でドイツが負けて国の変わった地域のドイツ人が移住を余儀なくされたことで途絶え、現在どこにいるのかわからなくなっています。

私がスイスに来てから、せっかくドイツ語が話せるし、近くに住んでいるのだからと何度かこの失われた親戚を探せないかとトライしているのですが、いまだに果たせていません。

その捜索に、新しい展開が起きたのがこの月の初めです。

かつて電車で偶然知り合った方からの紹介で、ある親切な方の協力を得て、曾々祖母の両親のことがわかったのです。

もともとこの父親のことがわからなかったのは、出生時に両親が結婚していなかったせいで洗礼時の苗字が母親の旧姓だったから。そんなこと知るわけないし!

で、それがわかったのと、こういう事を調べるための特別なサイトの存在を知ったおかげで、芋づる式に曾々祖母の祖父母や姉妹のこともわかってきました。わかったはいいけれど、これまで聞いていたことと結構違っていて、わかればわかるほど検証が大変になりました。

なんで私、1850年代の、こういう手書きの読み難いアルファベットと夜な夜な格闘しているんだろう。

公文書

おかげで書かなくちゃいけない「十二ヶ月のアクセサリー」も「バッカスからの招待状」も全然手つかずのまま。これはまずいです。

この記事には追記があります。下のRead moreボタンで開閉します。

read more


ちなみに先祖を調べるサイトというのはこれです。
基本的に細かい内容を見るためには、登録して会費を払わなくてはなりません。私はとりあえず一ヶ月分は払いました。継続するかは考え中。

ancestry.de
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Posted by 八少女 夕

【小説】郷愁の丘(7)滞在と別れ - 1 -

一週あきましたが、再び「郷愁の丘」の続きです。この部分も少し長いので三回に分けます。

前作をお読みになっていらっしゃらない方のためにちょっと説明すると、ジョルジアは弱小出版社の専属カメラマンとして無名だったのですが、この前の年に世界中の子供の笑顔をテーマにした写真集『太陽の子供たち』が評判になり、『フォトグラフ・オブ・ザ・イヤー』の一般投票部門で六位入賞という快挙を果たしています。現在は一般受けする子供の写真から離れてモノクロームで大人の写真を撮っています。



郷愁の丘「郷愁の丘」を読む
あらすじと登場人物




郷愁の丘(7)滞在と別れ - 1 -

 また激しい雨が降った。彼女の心はサバンナへと向かった。稲光の中で浮かび上がるアカシアの樹とキリンのシルエット。シマウマのくっきりとした縞の上を伝って落ちる雨水。

 天の恵である雨は、けれどもその瞬間には厳しい自然の猛威であり、屋根どころか傘すら持たない動物たちの上に等しく降り注いでいる。彼女は、サバンナで見かけた生まれたばかりのガゼルやシマウマの子どもたちが怯えていないか考えた。彼らにとっては初めての雷雨なのだ。

 生まれてすぐに立ち上がり、母親の与える乳を満足に飲む前に危険を避けて移動する術を学ばされる小さな生き物たち。自然の厳しい掟の中で、それでも続いていく生命の環は神々しいほどに美しかった。

 それに較べれば、ニューヨークで彼女が一喜一憂している、写真集の売上や雑誌に載ったシリーズの評判などは、取るに足らない杞憂だった。そして、世界中の称賛を受ける妹と比較されることへの抵抗や、彼女や成功した兄が自由に泳いでいく社交界の海に近寄る事すら出来ない不甲斐なさもどうでもいいのだと思えた。

 そう思っていた《郷愁の丘》の彼のリビングに、よりにもよって彼女が『フォトグラフ・オブ・ザ・イヤー』に受賞した特集号である写真誌《アルファ》があるのを見つけた時には、その皮肉に思わず笑った。表紙に映っているのは授賞式のために着飾っているジョルジア自身なのだ。

 彼女は、不意にレイチェルの家で知った事を思い出した。彼はジョルジアの写真集を全て購入していた。それにこの特集号の存在も知って、わざわざアメリカから取り寄せたに違いない。彼女が、知り合ってもいない有名ジャーナリストに恋をしてしまい、その著作やレポートの載っている雑誌を買って読んでいたのと全く同じように。

 ジョルジアはジョセフ・クロンカイトとの恋が実るとは露ほども考えなかった。彼の側に間もなく婚約が発表されるだろうと噂された美しい女性がいたこともあるが、それ以前に彼女には愛の成就は遠すぎる願いだった。

「君のような化け物を愛せる男などいるものか」

 かつて投げつけられた言葉は、彼女の世界を変えてしまった。息ができなくなるほどの苦しいショックを何ヶ月もかけて克服した後、生身の恋愛はもはや彼女とは無縁の壁の向こうの出来事に変わってしまっていた。それから十年も可能な限り人と関わらずに生きてきたので、それがあたり前になってしまい、恋をしても片想いのままで終わる以外の選択はなかった。

 この《郷愁の丘》に来る直前に知った、グレッグに女性として愛されていたという事実は、彼女に大きなショックを与えた。それなのに、何事もなかったかのような紳士的で穏やかな彼の態度に慣れて、彼女は既にその事実を忘れかけていた。《アルファ》の表紙に映った授賞式用に特別に装った彼女自身の姿は、いかにもその場にあるのが不自然な存在として目に映った。非現実的でまるでオーパーツのようだった。

 彼女が黙ってその表紙を眺めているのを見ながら、彼は言った。
「そういえば、まだちゃんと言っていなかったね。受賞、おめでとう」

 彼女は、はっと我に返った。彼はさっきまでと変わらない。友情に満ちて穏やかな教養高い紳士だった。この《郷愁の丘》に関する全て、生命と孤高と美しさと厳しさを秘めた世界の専門家として、つまり、彼女を強く惹き付ける全てを兼ね備えたまま、彼女を唯一困惑させる異性としての氣配を消してそこに存在していた。

 彼女は、そのたゆまぬ努力にはじめて意識を向けた。愛する人を前にしてあふれそうになる想いを常に隠す事は、彼女に可能だろうか? 可能だとしても、それは何と苦しいことであるか。もし、彼がその苦しい努力を、ただ彼女のために続けてくれているとしたら、それは何とありがたい事なのだろう。

 それとも、親しくなった事で、彼の幻想が打ち砕かれ、彼は努力すら必要とせずに想いを消したのだろうか。そう思えれば、負い目はなくなるのに、彼女はそれを信じたくなかった。どこかで彼の崇拝を手放したくないと思っている。彼にとって、誰よりも特別な存在で居続けたいと願っている。なんというエゴイスムだろう。

「賞をとれたのはあなたのおかげよ」
彼女は、自分の中のこの不穏な想いから眼を逸らすために、努めて明るく彼に話しかけた。
「どうして?」

「あの時撮ったマサイの女の子の笑顔が評判よくて、いくつかのメディアで取り上げられたの。それで『太陽の子供たち』の売上が予想外に上がったの。あなたが長老に交渉してくれなかったらあの写真は撮れなかったもの」

 彼は笑った。
「それを聞いて嬉しいよ。たしかにあれはいい写真だった。その場にいたのに、僕は彼女があんな表情をした瞬間に氣がつかなかったよ」
「あの子、どうしたのかしら」

「数ヶ月前に、あの集落を訪れたよ。赤ん坊を背負っていたな」
「まさか! あの子、まだ幼児だったじゃない」
「彼らの結婚は早いけれど、さすがにまだだろうな。生まれてすぐに親が婚約を決めるけれど、実際に女の子が結婚するのは十三歳から十五歳くらいなんだ。背負っていたのはたぶんあの子の兄弟だと思うよ」

「そう。でも、小さな子供が兄弟の子守りをするのね。私の姪は、あの子より少し歳上だけれど子守りをするなんて考えられないわ」
「そうだね。あの子たちは欧米の子どもたちよりも早熟だ。六歳ぐらいから親の手伝いをするのが普通で、それはマサイ以外の部族でもそうだな。子供を背負ったまま十キロ近く歩いて学校に通う子もいるし、亡くなった母親の代わりに煮炊きをしているのをみた事もある」
「ここでは人生サイクルのスピードが私たちとは全く違うのね」

 彼は思い立ったように提案した。
「明日、マサイの村に行ってみるか? この近所の部族だから、あの子はいないけれど」
「いいの? 調査の件で行くんでしょう? よそ者がついて行ったら嫌がられない?」

 彼はじっとジョルジアをみてから言った。
「君なら大丈夫だ」
「どういうこと?」

「欧米の都会から来る人たちの中には、マサイ族を見せ物小屋のエンターテーナーのように扱う人たちがいる。飛び上がる所を写真に撮りたいとかね。彼らの生活の中に遠慮もなしに割り込んで、いますぐあれを見たい、これをしたいと要求するんだ。一部の部族は、既に観光客相手にショーをする事で生計を立てている人たちもいる。でも、僕が逢いに行く人たちは昔ながらの生活様式を守っていて、彼らのペースで誇りを持って生きている。君は、小銭を投げて、いいことをしてやっていると思うような傲慢な人じゃない。彼らの生活を尊重する事を知っている。だから、連れて行っても彼らは嫌がらないだろう」
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Posted by 八少女 夕

パンのお供(3)赤スグリのジェリー

真っ赤な自然の色、赤スグリのジェリー

今年の「scriviamo!」で題材にした赤スグリのジェリーを今年も作りました。英語で言うとレッドカラント、ドイツ語ではヨハネスベーレンと呼ぶ真っ赤な実は、毎年六月末から七月の頭に実ります。

この実は本当に宝石のように綺麗なんですけれど、かなり酸味が強くて、そのまま食べてもあまり美味しくありません。というわけで、ほぼ同量の砂糖と一緒に煮詰めてジェリーにします。

子供の頃、家の近くにアメリカ資本のスーパーマーケットがありました。そこには、今でいう明治屋にあるような舶来の高級食材が揃っていて、中を歩くとちょっと海外のスーパーに行ったような独特の洒落た雰囲氣を楽しむ事ができました。

で、スイスのHeroのジャムもありました。Heroのジャムは今の東京ならたいして珍しくないかもしれませんが、当時は滅多に見なかったように記憶しています。その一つがレッドカラントのジェリーでした。真っ赤なジェリーにナイフを入れてパンに載せると断面がキラキラして宝石みたいに見えましたっけ。

こちらに移住してからHeroのジャムは「どこにでもある普通のジャム」に格下げされてしまいましたが、ホテルの朝食などで赤スグリのジェリーをみるとやはり嬉々として手にしてしまいます。

赤スグリ、加熱中

自分で作るのもかなり簡単です。

同量の砂糖と一緒に混ぜながら加熱します。煮立ってからは絶対に混ぜないようにする事とレシピに書いてありました。八分沸騰させたら、ざるで濾します。この時に実を潰すと苦みが出て、さらに色が濁ってしまうそうです。あとは煮沸した瓶に詰めるだけ。簡単でしょう?

赤スグリは大量のペクチンを含むので砂糖だけで固まるというのですが、私が作ると大抵ゆるくなりすぎるのです。ペクチンを混ぜて固めるという方法もありますが、このゆるい状態だと、デザートソースなどにも使えるので、わざとこのままにしています。
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Posted by 八少女 夕

【小説】樋水龍神縁起 東国放浪記  母の櫛

今週は「十二ヶ月のアクセサリー」七月分を発表します。七月のテーマは「櫛」です。

櫛はジャパニーズなものを書きたいと思っていたので、また例の放浪者に登場してもらうことにしました。「樋水龍神縁起 東国放浪記」の続きです。江戸時代の話にすれば完璧にアクセサリーになったんですが、平安時代ですからまたしても「これ、アクセサリーじゃないじゃん」になってしまいました。ま、いいや。「十二ヶ月の野菜」の時もかなり苦しい題材を使いまくりましたから、いまさら……。

今回の話、実は義理の妹姫も出そうと練っていたんですが、意味もなく長くなるので断念しました。本当は五千字で収めたかったのですが、止むを得ず少し長めです。すみません。


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「樋水龍神縁起 東国放浪記」をまとめて読む 「樋水龍神縁起 東国放浪記」をまとめて読む




樋水龍神縁起 東国放浪記
母の櫛


 それは、屋敷の庭では滅多に見ない大木であった。大人が抱えるほどの幹周りがあり、奥出雲の山深き神域で育った次郎ですらも見たことがないほど背の高い柘植は、おそらく樹齢何百年にもなろうかと思われた。屋敷を建てる遥か昔からここに立っていたのであろう。根元から複数の枝が絡み合うように育ち、一部は苔むしている。

 安達春昌と付き従う次郎は、丹後国を通り過ぎようとしていたところだった。一夜の宿を願ったのは村の外れの小さな家で、人好きのする若き主は弥栄丸といった。

「すると、あなた様は陰陽師でいらっしゃるんで?」
彼は昨夜、春昌に陰陽の心得があることに大きな関心を示した。

「かつては陰陽寮におりましたが、現在はお役目を辞し、この通りあてもなく旅をする身でございます」
春昌は、この旅で幾度となく繰り返した答えを口にした。弥栄丸は春昌が役目を辞した事情よりも氣にかかっていることがあったので、詳しい詮索をしなかった。

「実は、私めがお仕えしているお屋敷で、なんとも不思議なことが起きまして、困っているのでございます。先日、この辺りでは名の通った法師さまに見ていただいたのですが、どうも怪異は収まらず、殿様は、もっと神通力のあるお方に見ていただきたいと思っていらっしゃるのです。と申しましても、このような田舎ではなかなかそのような折もございませんで。ですから、都の陰陽師の方がここにおいでになったとわかったら、殿様は何をおいてでもお越しいただきたいと願うはずです」
「あなたがお仕えしていらっしゃるのは」

「はい。この郡の大領を務める渡辺様でございます。私めは従人として、お屋敷の中で姫君がお住いの西の対のお世話を申しつかっているのです。その寝殿の庭の柘植の古木に人型のようなものが浮かび上がってまいりまして、女房どもがひどく怖がっております。そして、お元氣だった姫君が病に臥すようになられたのです。もしや何者かが調伏でもしているのではと、お殿様は心配なされていらっしゃいます」

「姫君? お一人別棟にお住まいなのですか」
「はい。実は、この姫様は、北の方のお生みになった方ではなく、殿様のもとで湯女をしていた方がお生みになったのです。殿様は、北の方に隠れて長いことこの女を大切にしていたのですが、何年か前に流行り病で亡くなってしまわれました。姫君はそれから観音寺に預けられておりました。ところが、位の低い女の娘とは思えぬほど美しくお育ちになり、殿様がこの娘をこちらを狩場となさっておられる丹後守藤原様のご子息に差し上げたいとお思いになり、一年ほど前にお引取りになったのです」

「姫君のお身体に差し障りが起きたのは、それ以来なのですか」
「いいえ。床に臥すようになられたのは、ここ半年ほどです。殿様も北の方もご心配になられてお見舞いにいらしたり、心づくしのものをお届けになったり、なさっていらっしゃるのですが」

「そうですか」
春昌は頷いた。

「姫様をお助けいただければ、私めもありがたく思います。ほんにお優しい姫君でして。私のことも心安く弥栄丸と呼んで頼みにしてくださっているのです」

 そして、二人は翌日の昼過ぎにこの弥栄丸に連れられて、渡辺のお屋敷へと向かったのだった。
「お殿様から、ぜひお力添えをいただきたいとのことでございます。御礼はできる限りのことをさせていただきたいと仰せでした」
「何かお手伝いができるかわかりませぬが、まずはその柘植の木を拝見させていただきましょう」

 弥栄丸は春昌と次郎を屋敷へと案内した。西門から入ると件の大木はすぐに目に付いた。その根が庭の半分以上を占めていて、しかもよく見る柘植の木のように行儀良く育たず、太い幹が伏してから斜めに育っていた。大きく枝を広げておりそのためにその木の下は森の始まりのような暗さだった。西の対の寝殿に面した側面に、言われてみると確かに人型に見える文様が浮き出ていた。

「弥栄丸。都の陰陽師さまとは、そちらのお方か」
寝殿の縁側からの明るい声に振り向くと、菜種色の表地に萌黄の裏が美しい菖蒲襲を身につけた女性が御簾から出てきたところだった。

「これ。姫様! なりませぬ」
慌てて、侍女と思われる歳上の女が追いすがるが、姫君は履物を引っ掛けさっさと春昌のところまで進んできた。さほど位の高くない大領の娘とはいえ、とんでもない行為だ。次郎はあっけにとられた。

「安達春昌にございます」
春昌は深く礼をし、次郎もそれにならった。こんなはしたない姫君に国司のご子息を婿に迎えようというのは、無謀にもほどがあると次郎は心の内で思ったが、確かになかなかに美しい姫君で、しとやかに振る舞えば評判にもなろうと思った。

「あたくしは夏といいます。安達様。これは誠に禍々しいものですの? あたくしには、ちっとも恐いものには思えませんの。それにあたくしの病、いつもひどいわけではないのよ。例えば、今日はとてもいいの。あたくしなんかを呪詛しても、誰も得をしませんし、とてもそんな風には思えないのだけれど」
 
 夏姫は人懐こい笑顔を見せた。次郎は、確かにこのように朗らかで、誰にも分け隔てなく接する姫は、皆に好かれるであろうと思った。

「今から、調べてみようと存じます」
春昌も、珍しく柔らかい表情をして姫君に答えた。

 姫はにこにこと笑った。
「あたくしも見ていていいでしょう。ああ、今日はとても暑いわね。生絹すずしぎぬで、出てこれたらいいんだけれど、それだけはサトも許してくれないから、我慢しなくちゃ」

 それを聞いて次郎は真っ赤になった。生絹は袴の上に肌が透けて見える着物だけを身につける装束だ。彼がかつてお仕えしていた奥出雲樋水の媛巫女はもちろんそのようなだらしない姿をすることは決してなかったが、やんごとない女性は御簾のうちでそのような形をしていると、郎党仲間に教えてもらったことがあった。

「でも、これくらいはいいわよね」
そういうと、姫は懐から美しく彩色された櫛を取り出して長い髪をまとめ出した。そして、櫛を口に咥えるとまとめた髪をあっという間に紐で縛った。

「姫様!」
サトと呼ばれた侍女が姫君らしくない振る舞いをたしなめるが、夏姫は肩をすくめただけだった。

 その様を横目で捉えた春昌は、柘植の木を見るのをやめて、寝殿の縁側に控えているサトに訊いた。
「姫君の御患いはいかなるものなのですか」

 サトは、突然話しかけられて少し驚いたが、丁寧に答えた。
霍乱かくらんのように、悪しくなられます。また高い熱がでて、ひどい眠たさに襲われることもございます。他の皆様と同じものを召し上がられておりますが、姫君だけがお苦しみになり、暑さ寒さに拘らず悪しくなられます」

「左様でございますか。姫、大変失礼ですが、そちらを拝見してもよろしいでしょうか」

 姫は、何を言われたのか一瞬分からなかったようだったが、春昌が自分の櫛を見ているのがわかると笑った。
「これですか? きれいでしょう。 このお屋敷に来て、北の対の母上様と初お目見えした時に頂戴したあたくしの宝物なのです。悪しきものから身を守る尊い香木で作った珍しい櫛なのですって。確かに観音寺で焚いていたお香と同じ香りですわ。とても高価だとわかっているのですが、毎日使ってしまうのです」

 姫はその櫛を愛おしげに撫でてから春昌に渡した。彼は、その美しき櫛の背の部分の色が褪せているのを見た。
「恐れながら、あなた様はいつも先ほどのように髪をお結いになっておられるのではないですか」
「ええ、そうよ。わかっているわ。やんごとない姫君は自分で髪を結ったりしないって。でも、とても暑いのですもの。どなたもお見えにならない時には、つい昔のように装ってしまうの。たくさんの美しい装束をご用意くださった父上さまや母上さまに申し訳ないとは思っているのよ。でも、どうしてわかるの」

 春昌はやさしく微笑んだ。片時もじっとしていられそうもない、この愛すべき姫君を、はしたないと思いつつも周りが甘やかしてしまう様子が手に取るようにわかった。弥栄丸は傍で笑いをこらえている。

「髪を結うのは侍女の方にお任せいただけないのですね」
「それは無理よ。そんなことをしているのがわかったら、サトが叱られてしまうもの。私がいつの間にか勝手にこんな形をしているってことにしなくちゃいけないの」
「左様でございますか」

「安達様?」
弥栄丸は、春昌が姫と禍々しきものとは全く関係のない話をいつまでもしているように思われたので、不思議に思って口を挟んだ。春昌は、微笑んで櫛を姫君に返すと、弥栄丸と姫君に庭の柘植の木を示した。

「こちらに現れていますのは、姫君の御生母様の御魂でございます。お屋敷に上がられ、これまでとは全く違うお暮らしをなさっている姫様のことを心配なされているのでしょう。私に、姫様に形見の御品を身近にお使いいただきたいと訴えかけておられます。たとえば、お母様のお形見に柘植の櫛はございませんでしたか」

 姫は「あ」と言って、奥で控えている下女のサトを見た。
「この櫛をいただくまで使っていた、母上の櫛はどこにあったかしら」

「こちらの小箱にございます。ほら、このように」
サトは、道具箱から飾りの全くない柘植の櫛を取り出すと、一行のもとに持ってきた。春昌はそれを受け取ると、柘植の古木に近寄り、件の人型にあてて小さな声で呪禁を呟いてから、それを姫君に渡した。

「こちらの櫛を肌身離さずお使いくだいませ。そして、その美しき櫛は、特別の祭祀の折にサト殿に梳いていただくときだけお使いくださいませ。亡くなられたお母様の願いが叶い、その憂いが収まれば、姫様の病も治ることでしょう」

 それから、春昌は柘植の古木に近寄り、人型に両手を当てて呪禁を呟いた。次郎には、主人が木に何らかの氣を送り込んでいるのがわかった。春昌がその手を離すと、明らかに人型のようなものがあった木の幹には、よく見なければわからないような瘤があるだけになっていた。

「なんと! 法師様がどうすることもできなかった、あの人型が……」
「母上様のお心は、この屋敷を動けぬこの木を離れ、新たにそちらの櫛の方に宿っておられます。どうか、私の申し上げたことをお忘れになりませぬよう」

 夏姫は深く頷き、弥栄丸とサトは春昌の神通力に感銘を受けてひれ伏した。

* * *


 夏姫の父である渡辺の殿様から、新しく拝領した馬はこれまでの痩せ馬よりもしっかりと歩んだ。いただいた礼金の重みは久しくなかったほどで、次郎を憂いから解き放った。しばらくの間は宿を取るにも物乞いのような惨めな思いをせずに済む。

 その領地を出てしばらく森を歩き、ひどく歪んだ古木を見て、次郎はあの古い柘植の木のことを思い出した。

「春昌様。お伺いしてもよろしいでしょうか」
「なんだ、次郎」

「どうして柘植の櫛のことがおわかりになったのですか。あの老木に、私は何も見えなかったのでございますが」

 春昌は口元をわずかに歪めた。
「次郎。あれはただの木瘤だ。幹の氣の流れを変えて、乾いた樹皮を落としたのだ。あそこに母君の御魂が現れたり消えたりしたわけではない」

「なんと。では、母君の御魂が柘植の櫛を使うようにとおっしゃられたというのは……」
「あれが柘植の木だったので、思いついたまでのこと。弥栄丸殿の話では、御生母は湯女だったとのこと。あまり位の高くない女ならば高価な香木などではなく柘植の櫛を使うのが常であろう。その読みがあたったまでだ。私はあの姫があの香木の櫛以外の物を使ってくれればなんでもよかったのだ」

「なぜでございますか?」
「あの姫君が件の櫛を日々咥えているのを知ったからだ」
「え」

 まったく合点がいっていない次郎を、春昌は優しく見下ろした。次郎は、他の者には見えぬものを朧げに見る能力はあったが、陰陽道はもちろん本草の知識にも欠けており、春昌がどちらの知識を用いて人々の苦しみを取り除いているのか分からないことを知っていたからだ。

「あの櫛は、しきみの木から作られている。香りが良く珍重される木だが、口に含むと毒になる。熱が出て、眠たくなり、腹を下し反吐を吐く霍乱かくらんのごとき病となる。ちょうどあの姫君が苦しんでいたのと同じだ」

「なんですって。では、まさか北の方が、継子である姫君を亡き者にしようとしてあの櫛を贈ったということなのですか」

「それはわからぬ。北の方が、草木の知識に長けているとは思わぬ。そもそも姫君が口に櫛を咥えるとは、北の方のように位の高いお方は夢にも思わぬであろう。それを知っていた誰かの入れ知恵かもしれぬが、長く逗留せねばそれはわからぬ。余計なことを申せば、あの家に大きな諍いの種を蒔くことになる。私にわかっているのは、ひとつだ。樒の櫛を口に咥えるようなことは、すべきでない。あの姫が再び丈夫になれば、それでよいのだ。身寄りのなかった娘が、ようやく手にしたと喜んでいる家族との仲を不用意に裂く必要はあるまい」

 次郎は、主人の顔を改めて見上げた。聡く天賦の才に恵まれた方だと畏怖の心は持っていたが、どちらかというと冷たい心を持つ人なのだと思っていた。彼が神にも等しくあがめ敬愛してやまなかった亡き媛巫女が、なぜこの陰陽師を愛し背の君として付き従ったか長いこと理解できないでいた。

 媛巫女さまは、私めなどよりもずっと多くのことを瞬く間にご覧になったのだ。彼は心の中で呟いた。

 もっと効果的に毒の櫛のことを大領に話せば、ずっと多くの謝礼を手にすることもできたのに、春昌はそれを望まなかった。それよりも、一つの家族の和を壊さずに、問題のみを解決して姿を消すことを選んだ。

 彼は、この旅がどれほど辛く心細くとも、この主人に付き従っていくことを誇らしく思った。


(初出:2017年8月 書き下ろし)
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Posted by 八少女 夕

「オリジナル小説書きさんへバトン」やってみた

久しぶりにFC2のバトンをやってみようと思いました。

自分でHTMLを使わなくていいのはいいんですけれど、回答の字数が短いんですよね。まあ、だから短時間で回答できるんですけれど。でも、ちよっとこれでは伝わらないという部分もあって。仕方なく、敢えてHTMLで編集し直しました。

すでにご存知の方も多い内容もありますが、また改めて回答し直してみました。


オリジナル小説書きさんへバトン



Q1. 小説を書き始めてどのくらいですか?

創作は長いけれど、文字オンリーの小説に転向してから……三十年は経っているかも。

Q2. 処女作はどんなお話でしたか?

忘れたけれど、神話系の短編だったかな。あ、今流行っているゲーム系じゃなくて、民俗学から入ってます。それから、短編集みたいなのを書いていた時期もあったな。いまでいうと「十二ヶ月の〇〇」シリーズのようなオムニバスですね。

Q3. どんなジャンルが書きやすいですか?

ジャンル、わけにくいです。無理に押し込むと恋愛系になるけれど、恋愛そのものはテーマじゃないし。だから恋愛ものでもはっきりとしたR18シーンは少ないです。嫌いだからというわけではなくて、重点がそこにはないというか。

Q4. 小説を書く時に気をつけていることは?

わかりやすいこと。読み易い文章、その世界の事を知らない人でも理解出来る内容などですね。

私は海外在住で、その経験に基づいた旅行ものなども書くんですが、文字だけではまったく理解できないような風物はできるだけ登場させないようにしています。

また、時代や国家の違う題材で書く時に、その当時、またはその国で存在しない概念や口調などをしないように氣をつけています。同じ色を表すのも例えば現代では「ピンク」でも平安時代には「薄桃色」「朱鷺色」と表現するなど。

もう一つの例を挙げると、現代日本の話ではない場合に、いくらわかりやすくても「女子会」とか「リア充」などのスラングで表現せずに一般的な普通名詞を使うことをルール化しています。

Q5. 更新のペースはどのくらいですか?

ブログでは最低でも週一度は小説を発表しています。反対に更新が多すぎないようにも氣をつけています。

Q6. 小説のアイデアはどんな時に浮かびますか?

通勤中、旅行中、ドキュメンタリーを見たり、本を読んだとき、あとは音楽を聴いているときに浮かんできたりします。

Q7. 長編派ですか? 短編派ですか?

どちらも書くけれど、力を入れるのは長編ですね。もちろん短いものでも言いたいことを伝えることは可能なんでしょうが、題材によってはそう短くはできないのです。

最近困っているのは、書き終えてから発表までにブランクがあるんですけれど、連載を終えるまでに勝手に続編の妄想が始まってしまい、書ける保証もないのについ「続編書きます」と宣言してしまうこと。これでまた続きがのびていく……。

Q8. 小説を書く時に使うものはなんですか?

Mac上で小説用エディタScrivenerで執筆。ePub形式に出力してiPhoneで校正と推敲します。

それから、資料は限られるんですが、可能な限り集めます。スイスに移住してから買った本のほとんどは小説用の資料だったりします。こちらで中世の城や博物館などを訪れる時もすぐに取材モードになります(笑)

Q9. 執筆中、音楽は聞きますか?

執筆中よりも、構想段階で聴きます。クラッシック、イージーリスニング系が多いかなあ。

Q10. 自分の書いた小説で気に入っているフレーズを教えてください。

一つだけだと、なんか伝わらなかったので、三つほどピックアップしてみました。余計伝わらなかったりして。

 流れ星がいくつも通り過ぎる。この人が無事に帰れますように。声に出したつもりはなかったが、肩にかけられた腕に力が込められた。
「大丈夫、帰れるさ。俺たちが出会ったあのバーで、もう一度テキーラで乾杯しよう」

 私は少し驚いて彼の横顔を見つめた。それから黙って彼の肩に頭を載せた。嘘でも構わない。まだ夢を見続けることができる。今は少なくともこの男の恋人でいられる。星は次から次へと流れていった。私は夜が明けないことを願った。

「終焉の予感」より



 風の音に耳を傾けた。

 人生とは、何と不思議なものなのだろう。閉ざされていた扉が開かれた時の、思いもしなかった光景に心は踊る。フルートが吹ければそれでいい、ずっと一人でもかまわないと信じていた。世界は散文的で、生き抜くための環境に過ぎなかった。

 だが、それは大きな間違いだった。蝶子は大切な仲間と出会い、そして愛する男とも出会った。風は告げる。美しく生きよと。世界は光に満ちている。そして優しく暖かい。

「大道芸人たち Artistas callejeros 番外編 風の音」より



 バスがカーブを曲がった時に、瀧が目に入った。勢いよくほとばしる水の流れが悲鳴を上げている。黒い瞳が心を射る。その光はチェロの響きのように泣いている。私は彼の心を殺した。彼を弁護しなかったからではなく、あの時に二人が共有した想いを、ただの幻影として切り捨ててしまったから。私は二人の魂が閉じ込められたままの鏡を壊してしまったのだ。マヤの瞳からは涙が溢れ出した。蓋をしていた想いだった。それは止まらない。存在しなかったはずの魂は、まだそこにあったのだ。

「夜想曲」より


Q11. スランプの時はどうしてますか?

ご飯食べて、お風呂入って寝ます。出てこないものは出てこないんです。

Q12. 小説を書く時のこだわりはありますか?

特にない……かも。敢えて言うなら「ウケるポピュラーなジャンル」ではなく「自分だからこそ書ける物語」を書く事かな。まあ、だからこういう地味な小説になるんですけれどね。

Q13. 好きな作家さん&影響を受けた作家さんはどなたですか?

H.ヘッセ、M.クライトン、G.マルケス、福永武彦

Q14. 感想、誤字脱字報告、批評……もらえると嬉しい?

もちろん嬉しいです。いいものも、悪いものも。誤字脱字報告はほんとうに有難いです。

Q15. 最後に。あなたにとって「書くこと」はなんですか?

このブログのタイトルどおり、「scribo ergo sum (書くからこそ私は存在する)」




やってみたい方は、どうぞおもちかえりください。
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Posted by 八少女 夕

【小説】郷愁の丘(6)シマウマたち - 4 -

「郷愁の丘」です。四回に分けた「シマウマたち」の四回目、ラスト部分です。

主人公グレッグはカメラを持っていません。彼は視覚的な記録をすべてスケッチで残しています。これはこの人の特殊能力とも関連あるのですが、お金もあまりなくてインフラも整っていないサバンナの生活では、このウルトラアナログな方法が一番面倒がないという事情もあります。

かつてフィルムのカメラが主流だった頃は、旅から帰国すると現像して写真を整理してという面倒がありました。現在はデジカメになりましたが、今度は旅先で「あ、コンセントの形状が!」とか「iPhoneもカメラも充電しないと」というような面倒が増えました。記録を鉛筆一本と紙一枚さえあれば自由に残せる、グレッグのような能力があればいいなと、時々思います。


郷愁の丘「郷愁の丘」を読む
あらすじと登場人物




郷愁の丘(6)シマウマたち - 4 -

 それから、不意に思い出した。
「でも、グレッグ。あなたは今日、ノートに文字だけを書いていたわよね。スケッチをする事もあるの? もしかして、私が横でいろいろと訊いていたから落ち着いてスケッチできなかったの?」

 彼は首を振った。
「そうじゃないよ。スケッチは、いつも後でするんだ」
「後で? 写真にも撮らなかったのに、どうやって?」

 彼は、一度室内に入ると、スケッチブックを持って出てきた。そして、座ると何も描いていない白いページを開けると、尖った鉛筆を一番左端の下方に持っていった。鼻先から始まってすぐにシマウマとわかる顔が現れた。耳とたてがみ、背中、尻尾。脚が四本揃うまで、鉛筆はただの一度も間違った所を通らなかった。次に縞が描かれていく。その斜め後に二頭目が現れはじめた。ジョルジアは自分の目が信じられなかった。

「あの群れが、どこに、どんな風にいたのか憶えているの?」
「うん。これを描こうと意識すると、その詳細を憶える事が出来るんだ。もちろんはじめから集団全体を憶えられたわけじゃないよ。いつもこればかりやっていたからね。子供の頃から動物の絵を描くのはわりと得意だったんだ。その代わり、そっちに夢中になりすぎて、約束したのにクラスメイトと遊ぶのを忘れてしまったり、宿題をやらなかったりで、親や先生を困らせたんだ」

 ジョルジアは、彼が論文を確認するのに熱中して七時間も部屋にこもっていた事を思い出した。「あまり友達もいない、かなり変わったヤツなんですけれど」そうリチャード・アシュレイが彼について評していた事も。彼の集中力と才能は、おそらく多くの人間関係の犠牲を強いてしまったのだろう。

 どんどんシマウマは増えていった。あっという間に、草食動物の群れがスケッチブックを埋め尽くしていく。サバンナの下草も、アカシアの樹も、側にいたインパラやヌーもまるで写真を「鉛筆スケッチ」というフィルターをかけて加工したかのように正確に描き込まれていく。

 彼女は、黙ってスケッチを完成させていく彼を見つめた。彼は、彼自身の宇宙に籠っていた。ジョルジアの存在はたぶん完全に消え去っているのだろう。

 それが無礼だと、多くの人が彼を責めたのかもしれない。もしくは自分が大切な存在と認められていないと判断して腹を立てたのかもしれない。けれども、そういう事ではないのだと、ジョルジアは思った。

 先ほどサバンナで見かけたシマウマたちは、絶対に安全だと判断するまではこちらを観察するのをやめなかった。観察している人間が無害だと確信しなければ安心して草を食むことはないのだ。彼もまた、誰の前でもこれほど無防備な姿を晒せるわけではないだろう。

 彼女は、彼女がシャッターを切る瞬間と同じ、ある種の真空を感じた。絶対に邪魔をしてはならない時間。完成するまで、黙って待つ事は彼女には困難ではなかった。

「す、すまない」
我に返った彼が動転して発した言葉が予想とぴったりだったので、彼女は声を立てて笑った。彼は、彼女の朗らかな様子にホッとして笑顔を見せた。それから、はにかんで出来た絵を彼女に見せた。

 彼女はそれをしみじみと眺めた。先ほどのサバンナで、確かに彼女もこの景色を見た。デジタルカメラを再生するまでもなく、彼の描いたどこも間違っていない事を確信する事が出来た。
「素晴らしい才能だわ。信じられないくらいよ。画家になればよかったのに」

 彼は首を振った。
「僕が描いているのは観察記録だよ。芸術とは違う。例えば、これをリビングに飾りたいかい?」

 そう言われて、ジョルジアは首を傾げた。確かにリビングに飾る絵とは違う。
「う~ん。そうね。ちょっとバランスが。……このシマウマをここに移動することは無理かしら」

「移動?」
「そうよ。構図なんだけれど、ここにみんな固まっているでしょう。実際にそこにいたからなんだろうけれど。でも、この繁みと重なっていてシマウマの柄が上手く出ないから、こちらの何もないところだとすっきりすると思うの。空の割合とのバランスもよくなるし」

「構図?」
「三分割構図や黄金分割なんていろいろなメソッドがあるけれど、でも、印象的であればそれにこだわらなくてもいいのよ」

 彼はページをめくると、面白そうに手の位置を動かした。
「ここかい?」
「ええ。それも少し手前に大きく」

 彼女が想像した通りのシマウマが現れる。そして、アカシアの樹、遠くに見える《郷愁の丘》、遠くで眺める仲間のシマウマたちも。不思議な事に、それは彼女にとっても現実のサバンナとは違うファンタジーに見えた。

 彼は楽しそうに笑った。
「本当だ。絵画らしくなってきたね」

「そうね……。でも、こうして見るとわかるわ。これは印象的だけれど、明らかに本物じゃないわね。それに、あなたの研究の資料としては間違いになってしまうわ」

 彼はそれを聞いて、彼女の方を見た。ロウソクの暖かい灯り越しに、研究の価値を尊重してもらったことの喜びが伝わってきた。

 彼はスケッチブックからその絵を切り取ると、彼女に渡した。ジョルジアはそれを両手で受け取った。
「皺にならないように持って帰らなくちゃ。宝物にするわ」
「そんなの、大袈裟だよ」
「いいえ。額に入れて飾るの」
そう言って彼女は、シマウマの背の部分をそっと指でなぞった。

 彼女は、一日どこかに引っかかっていた何かにようやく答えが見つかったような氣がした。

「ねえ、グレッグ。私、今朝は望遠レンズと、リバーサルフィルム用のNIKONを持ってこなかった事を後悔していたんだけれど……」
「けれど?」
「わかったの。今回の私に、それらは必要なかったんだわ」

 グレッグは首を傾げた。
「いまは景色や動物たちは撮らなくていいってことかい?」

 彼女は首を振った。
「私がいま撮らなくてはならないのは、違うものなの。あの朝焼けの色でも、サバンナの雄大なドラマでも、そしてこの星空の輝きでもない。次の写真集に欠けている最後のピースなの」

 新しいモノクロームの人物像だけで構成する写真集。彼女が撮ってきた写真に映っている陰影は、全て彼女の心の光と影だ。それでいて、モデルとなった人たちは、全て彼女からほど遠い人たちだった。彼女はかけ離れた位置に立ち、自らが立ち直れないほどに傷つくことはない光と影を映し出した。

 けれど心の奥に、傷つきのたうち回っている弱い自分が待っている。正視する事の出来ない痣を持つ鏡の向こうの醜い化け物。理解してもらう事を求めながら、逃げ回る事しか出来ない臆病な生き物。それでいながら、わずかな居場所から生きる証を発信したいという願い。

 ジョルジアは、どうしてもその陰影をも映し出さねばならなかった。

 それと向き合えなかったのは、確信が持てなかったからだ。確信を持てなかったのは、自分が進んでいる道が正しいのか、報せてくれる道標を見かけなかったからだ。けれども、彼女は、自分の直感が導いたこの地で、十分すぎるほどの啓示を受け取ったと感じた。《郷愁の丘》と、グレッグという人間と。

 これまで彼女が手探りで求めてきたものを、全く違う場所で、かけ離れたメソッドで、同じように探している「私に似ている誰か」。人間社会の決めた「呼び名」のどれに当てはまるのか、決める事は出来なくても、これだけはわかる。この人は私の人生にとって絶対的に必要な人なのだと。

 彼は不思議そうに彼女を見ていた。ジョルジアは、身体の向きを変えて彼を正面から見据えて言った。
「あなたを撮らせてほしいの」
「僕を?」
「ええ。ここで、シマウマたちと対峙しているあなたを撮りたいの」

 世界に作品を受け入れてもらえるかどうかはわからない。けれど、彼女が世界にさらけ出すのは魂の風景でなくてはならなかった。そして、今の彼女には、魂の心象とは彼を撮る事に他ならなかった。

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Posted by 八少女 夕

シュピューラー

ええと、本日の記事は、尾籠ですので、お食事中の方はお読みにならない方がよろしいかとおもいます。といっても、べつに生々しい話ではありませんが。

というわけで、若干スクロール用空間を……。




















そう、トイレで使う商品のお話です。「えっ。あの八少女 夕さんがトイレに行くの? ショック!」という方はさすがにどこにもいらっしゃらないかと思いますが、お通じの件を話題にするのはどんなものかと若干迷ったことも付け加えておきましょう。もっとも、冗談とは言え、風呂場で「はらり」なんて小説を発表してしまったブログですからね。何でもありでしょう。

今の日本の都会だと、どこに行ってもウォシュレットがついているじゃないですか。私が子供の頃は、そんなもののある家はありませんでしたし、当時は「洋式なんて汚いから和式にしか入らない」なんて事を言っている人も多かったのですよ。今は時代が変わったようですね。

ヨーロッパで、というか日本以外の国で、ウォシュレットを見たらかなりラッキーだと思ってください。今は売り出していますけれど、実際についているのを見たことはありません。今まで一回も。

イスラム系の国の田舎だと、紙がなくて常備してある水と自分の左手で綺麗にするらしいですが、私は幸いその事態にもなったことはありません。いや、慣れの問題だと思いますが、やっぱり抵抗ありますよ。

で、ヨーロッパでは通常どうなっているのかというと、普通に紙を使うか、いわゆるウエットティシューを使うのですね。普通のウェットティシューと違ってトイレに流してもいいというものがありまして、「ただし一度に三枚までにしてね」と書いてあったりします。

トイレのお供

スイスのトイレは、基本的にどこも水圧が高いので、これでもいいのですが、例えばポルトガル辺りだと「トイレットペーパーも流さないでください」という所もあります。そういう場合、このウェットティシューは論外です。

それに、いくら流してもいいとは言え、このトイレ用ウェットティシューは長い目で見ると環境問題になっているのですよ。浄化の大きな負担になっているのですって。

私は、環境保護狂ではないのですが、やはり毎日のことですので地球に負担をかけ続けていると知っているのに続けるのは抵抗があります。それに、私は経費毒という問題にも敏感でして、たまになら全然氣にしませんが、毎日なんだかわからない化学薬品が肌に触れているのもなと思ってしまうのです。

じゃあ、高くても自宅にウォシュレットを取り付けるかというと、そんなことはしませんよ。電氣を無駄にしないというのも、ポリシーですから。

トイレのお供

それで、考えたのですよ。ウォシュレットがないと生きていけない現代の日本人が、海外旅行に行く時に使う便利用品が絶対売り出されているはずだろうと。で、見つけました。幾種類もありました。二つほど買ったのです。というのは、ひとつは会社に置きっぱなしにしているからなのです。

どちらも中に水や温水を入れて、手で押すとノズルから水が出てくるという商品です。電源がいりませんので水さえあれば永久に使えます。バッテリーチャージみたいな手間もありません。水は使用する時に入れればいいので、持ち運ぶときは軽いです。

最初に買ったのが紫色の方で、水量たっぷりというのが売りでした。それに、ノズル部分が頑丈で全然壊れそうもありません。

でも、ちょっとみかけが微妙な感じです。しかも、ノズルを取り外して専用袋に入れても、いかにも大きくて邪魔です。しかも、トイレの個室の中に水道があればいいですが、普通は外にありますよね。取り出してこれに水を入れてセットするのはかなり恥ずかしいのですよ。そういうわけで、持ち運びはしたくなくなってしまったのです。これは自宅専用になりました。もっとも頑丈なので、いつまでも壊れません。このどぎつい紫をいつまでも使い続けるんだろうか……。

トイレのお供

次に買ったのは、「シュピューラー」という商品です。入る水の容量は少ないんですが、実際には使い方の工夫次第で、この量でも十分だったのですよ。

これね、さすがに日本製でして、もう一つの商品で私の持った全ての不満が解消されているんです。ノズルを引き出して使うのですが、これをしまってしまうともう本当に何のボトルかわからないんです。水を入れるときにも、ノズルは仕舞ったままでいいので、なんのボトルに水を入れているのかわかりにくいのも○。色も白くてどぎつさがありませんし、それにこの小ささがポイントです。バックの中で全く邪魔になりません。旅行用と会社用と二つ買って愛用しています。

うちの会社のトイレは、男女別の個室にたった一つの便器と洗面台、その洗面台の上に棚という作りになっていて、棚の中におきっぱなしにした「シュピューラー」を取り出して、温水を設置、それから使用、そのあとに濯いで拭いてしまう、という一連の作業が密室内で可能。

ずっとその洗面棚に入れっぱなしだったのですが、だれからも「これ何?」と訊かれたことはありませんでした。本当にただの普通の空ボトルに見えるんですよね。たぶんバックに忍ばせていて、なんかの拍子に誰かに見られても興味を惹くことはないと思います。そういうことって、実はとても重要なんだよなあと思いました。

(ただ、残念ながら、ある日なくなってしまったのです。ゴミだと思われて捨てられてしまったのか、それとも「これは便利だ」と盗まれてしまったのか、なんか訊いて回るのも嫌だったので、黙ってもう一つ購入してそれからは置きっ放しにしないようにしました)

海外旅行で「ウォシュレットないと困る!」と思われる方、これ、本当におすすめですよ。ま、旅行程度なら、流せるウェットティッシュでも問題ないでしょうが。

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Posted by 八少女 夕

【小説】郷愁の丘(6)シマウマたち - 3 -

「郷愁の丘」です。四回に分けた「シマウマたち」の三回目です。

今回「たてがみの極端に短い雄ライオン」がでてきます。これはこの個体の話ではなく、マサイライオンという種類のライオンの特徴です。ツァボ国立公園にはこのマサイライオンがいるのです。ご存知の方もあるかと思いますが「ツァボの人食いライオン」で有名になったのもこのマサイライオンの二頭です。今回は人は食われませんでしたが。

また、後半でウルトラ・ロマンティックな舞台をガン無視して、相変わらず色っぽさゼロの会話をしている二人がいます。ここで迫らなかったら、いつ迫るんだ、まったく。あ、グレッグの絵を描く能力に関しては、次回までお預けです。すみません。


郷愁の丘「郷愁の丘」を読む
あらすじと登場人物




郷愁の丘(6)シマウマたち - 3 -

 その話をしている間に、穏やかだったサバンナに異変が起きた。一番奥の方から、急激に頭を上げたトムソンガゼルに続き、シマウマたちがざわつきだした。その動揺は、緩やかな波のように群れ全体に伝わっていった。緊張が走り、やがて土ぼこりと共にまずグラントガゼルたちが、つづいて全ての草食動物たちが一斉にジョルジアたちから向かって左側へと走り出した。

「来た」
グレッグは、右のずっと遠方を指差した。
「何が?」
ジョルジアには、草とアカシアの樹々しか見えない。

「ライオンが、一、二、……五匹だ。ほら、もう君にも見えるんじゃないか」
その通りだった。土ぼこりを立てながら、駆けて来るライオンたちが見えた。

 草食動物の群れは訓練されたように美しい隊列を組んで走っていく。土煙が、何千もの脚が、草が大きく動き、静かだった世界が、躍動に満ちたスペクタクルに変わる。けれどこれは舞台ではなく、生死を分ける真剣勝負だ。ジョルジアの心臓は激しく鼓動を打った。

 生まれたばかりのまだ弱いヌーの仔が遅れて、やがて一番最後に取り残される。ライオンたちは、集中してその仔を追いはじめる。

「だめ!」
ジョルジアは、思わず叫んだ。一番先頭のライオンが追いついてその尻に飛びついた。たてがみが異様に短いが、それは雄ライオンだった。仔ヌーが倒れると、他の若い雌ライオンたちも飛びかかった。ジョルジアは顔を手で覆った。

 十分に離れたところで、草食動物たちは停まり、世界は再び静かになった。狩りが終わった事を知ったハゲタカたちが空から舞い降りて来る。ジョルジアは瞼を開き、草食動物たちがゆっくりと去っていくのを確認してから、グレッグの方を見た。

 彼は、彼女の方を見て頷いた。ほとんど無表情に近かった。けれど、その瞳には摘み取られてしまった小さな命に対する悲しみをたたえ、それでもそうして生きていくライオンたちの生命に対する尊重も感じられた。

「ここは、動物園じゃないものね」
ジョルジアが呟くと、彼は黙って頷いた。あの仔ヌーがかわいそう。そんな言葉はこのサバンナでは空虚な偽善でしかなかった。

 二人は夕暮れ時に家に戻った。サバンナの夕焼けも美しかった。ヌーの事を考えてジョルジアは言葉少なめだった。彼は彼女の思考を遮らず黙って運転した。それに、ぬかるんだ道を崖の上を目指して走る事は慣れたグレッグにも困難で、彼は集中して慎重に運転せざるを得なかったのだ。

 夕食の後、彼はテラスでワインを飲まないかと言った。ガラス製風よけのついたキャンドルに灯をともし、ガーデニアの樹の横に置かれたテーブルに置いた。少し厚めで頑丈なワイングラスに彼はワインを注いだ。

「まあ」
ジョルジアはいつの間にか広がっていた満天の星空に驚嘆の声を上げた。

 地平線の上は巨大なプラネタリウムと化していた。天の川がくっきりと見える。星は瞬いていた。しばらく星を眺めているうちに、彼女の沈んだ心は慰められていった。

「サバンナに長く居ればあの光景に慣れざるを得なくなるけれど、はじめて見るとショックだろうね」
「テレビでは見た事はあるし、動物園のライオンだって、ベジタリアンではない事くらい知っているのにね。それに、実は、私もステーキが好きなのよ」
「僕もだ」
「私たちは普段そういう事から無意識に目を逸らしているのね」

「草食動物は、食糧でしかないみたいに言われる存在だし、サファリでは草食動物なんか見ても面白くないという人たちもいる。保護の観点でも、絶対数が多いせいかかなり後回しになる」
「あなたはどうしてシマウマの研究をしようと思ったの?」

 彼は、少しの間言葉を切った。キャンドルの光に照らされたその口角は、優しく上がっていた。
「子供の頃に、シマウマの絵を描いて祖父に褒められたんだ。それでシマウマを描くのが好きになった。直接のきっかけはそれかな。でも、もう少しちゃんとした理由もあるよ」

 ジョルジアはクスッと笑った。
「そちらの理由もきかせて」

「僕の曾祖父、トマス・スコットもまた動物学者だったんだ。彼は、現在の父のように権威ある職に就いたりしたわけではないんだが、やはりこのツァボ国立公園でフィールドワークをしていてね。当時のこの地域の実態を事細かに報告した日誌を残したんだ」

「日誌?」
「ああ、とても細かい人だったんだね。サバンナでは、年によって水場があちこちに移動したりするんだけれど、その位置や水場を訪れていた動物の種類や数なども詳細に報告している。また当時はこの地域に自生していた植物などもスケッチに残していて、植物の生態系の変化なども今と比較するいい研究材料になるんだ」

「その日誌はどこにあるの?」
「父が持っているよ。もっとも、現在一番活用しているのはレイチェルじゃないかな。曾祖父はゾウのこともよく調べていたからね」
「そう」

「ヒョウやサイなどの個体数がとても少ない野生動物は、追跡も楽だし緊急性があるから研究費も集めやすい。数の多い草食動物の研究はどうしても後回しになりがちだ。ましてや、単調で束縛される事の多い長期間の調査は皆やりたがらないんだ。僕は、父やレイチェルのような斬新な仮説や際立った研究をするほど頭がいい訳ではないんだけれど、でも、コツコツとフィールドワークをして現状に関する調査をする事は出来る。それも子供の頃から一番好きだったシマウマの研究でね。さほど目立った成果は出なくても、その調査を何十年も続ければ、曾祖父の日誌のように、後世の偉大な学者たちの役に立つものを残せるかもしれない。それが僕がここで研究をしようと思ったきっかけなんだ」
「素晴らしいと思うわ。地味だし、とても忍耐のいる仕事よね」

「僕のように、どこにも出かける予定のない人間に向いているんだ。仕事と趣味が一致しているようなものだし、ここに住むのは好きだ。パーティにもいかなくて済むし」
それを聞いてジョルジアは吹き出した。

「あなたは、曾お祖父さまの研究との比較をしているの?」
「いや、まだそこまではいっていない。いずれは現在の調査結果と曾祖父のフィールドワークを比較するアプローチをしたいと思っている」

「あなたの曾お祖父さまの遺産ですもの、いつかきっとあなたのものになるわよ」
「そうだね。そう願っている」
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Posted by 八少女 夕

コップ代わりに

またトラックバックテーマから題材を見つけてまいりました。でも、やっぱり「生活のあれこれ」に入れてしまいます。そもそものテーマは「ペットボトルを買う派?ドリンクボトルを使う派?」なんです。

結論は「どちらかといえばドリンクボトル派かな」ですね。なぜそう歯切れが悪いのかというのも含めて書いてみようと思います。


まずペットボトルを全く買わないかと訊かれると、買うこともあるんです。でも、環境問題とBPA(ビスフェノールA)問題の両方の観点から、私はプラスチックの使用を意識的に減らそうとしているのです。といっても現代社会に生きる限り、ゼロにすることは不可能なので、「意識せずに使った場合の半分以下にする」程度のゆるい減らし方です。で、そうなると「ペットボトル飲料を常時買う」ような行動パターンは避けるわけです。それに、そもそも、通勤途上に買いたくなるようなペットボトル飲料がないんですよ。

珍しく長時間電車に乗るような時、スイス旅行したことのある方はご存知かもしれませんが、車内販売でペットボトルを買ったりすると、ただの水でも450円くらいかかります。海外旅行中で「それもいい思い出」の方はいいんですが、住人の私はそれはちょっと我慢ならないので、水くらいは持っていきます。かつては小さめのペットボトルの再利用をしていたのですが、今はこちらを使っています。

ミニ魔法瓶

このドリンクボトル、タイガーのものなんですが、魔法瓶のように保温機能があるのにものすごく軽いのです。ペットボトルを持ち歩く利点は軽さと壊れないことに尽きると思うのですが、このドリンクボトルはそのペットボトルのアドバンテージに肉薄しているのです。かつ、半日経っても熱々という驚異の保温力や、ステンレス製で洗いやすいこと、色移りしないこと、熱い飲み物を入れてもBPAは大丈夫かと考えずに済むことなど、ほかの利点があるので、旅行や外出に持っていくことは多いです。

サイズは、一番小さいものにしています。200mlですね。これ以上はかさばりますし、本体は軽くても液体が入るとその分重くなりますから、大きなボトルにすると結局重くなります。「重いから持っていかなくてもいいか」と思うようになってしまうんです。

さて、上のリードで、私の歯切れが悪かった理由はこの辺にもあります。私はあまり持ち歩きのドリンクでこまめに水分補給ってしないんですよ。数時間続けて電車に乗るとしても、このボトルで一杯飲むかどうか、持っていなかったらそのまま次に停車したところでカフェに入って、そこで何か飲み物を注文します。

旅行をしたり、遠出をしたりする時に、特に目的もなくカフェなどでまったりすることが多く、さらに電車の乗り換えなどで三十分以上の待ち時間があったらカフェに行く、などということをしていると、結局飲み物を持ち歩くかどうかはそんなに重要じゃなくなることが多いのです。

連れ合いとバイクの旅行に行く時も持っていきますが、実を言うとあまり使わずに帰ってくることも多いんですよね。でも、いざという時には重宝するので、やはり「どちらかというとドリンクボトル派」ですね。

こんにちは!トラックバックテーマ担当の三浦です今日のテーマは「ペットボトルを買う派?ドリンクボトルを使う派?」ですお水は常温で飲むのが好きな三浦です去年から節約のために水筒を持ち歩いています最近ではマグボトルというオシャレな名前がついていたり、透明なものや、スタイリッシュなデザインのものも増えていますよね冷たさや温かさをキープできるのも便利ですみなさんはペットボトルを買う派?ドリンクボトルを使う派...
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