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Posted by 八少女 夕

郷愁の丘 あらすじと登場人物

この作品は、ニューヨークを舞台に、ひとりの写真家の人生の一部を切り取った中編小説「ファインダーの向こうに」の続編です。舞台は主にアフリカのケニア東部となっています。ブログのお友だち、TOM-Fさんのご了承を得て、あちらの作品に影響のない形でキャラクターをお借りしています。

【あらすじ】
アフリカに旅行に来たジョルジアは、二年前に出会ったスコット博士と再会し、マリンディの別荘に誘われる。短い海岸リゾート滞在のはずが、成り行きで野生動物の生きるサバンナに向かい忘れられない体験をすることになる。

【登場人物】

◆ジョルジア・カペッリ(Giorgia Capelli)33歳
 ニューヨーク在住の写真家。イタリア系移民の子。人付き合いは苦手だが、最近作風を変えて人物写真に挑戦している。

◆ヘンリー・グレゴリー(グレッグ)・スコット(Dr. Henry Gregory Scott)38歳
 ケニア在住の動物学者。専門はシマウマの研究。2年前に「太陽の子供たち」の撮影でケニアに来たジョルジアと出会った。休暇でアフリカに来たジョルジアと偶然再会し、マリンディに誘う。

◆レイチェル・ムーア(Dr. Rachell Moore)
 トサボ国立公園内のマニャニに住む動物学者で象の権威。

◆マデリン(マディ)・ブラス(Madelyn Brass-Moore) 28歳
 レイチェルの娘。夫はイタリア人のアウレリオ・ブラスで五歳になる娘メグがいる。妊娠七ヶ月。

◆ジェームス・スコット(Dr. James Bryan Scott)
 グレッグとマディの父親。世界的に有名な動物学者で、ライオンの権威。

◆ルーシー
 ヘンリーの愛犬(ローデシアン・リッジバック)

◆マッテオ・ダンジェロ
 本名 マッテオ・カペッリ。ジョルジアの兄。健康食品の販売で成功した実業家。

◆リチャード・アシュレイ
 ナイロビの旅行エージェント。アウレリオ・ブラスの親友。

◆ベンジャミン(ベン)・ハドソン 
 《アルファ・フォト・プレス》の敏腕編集者。陰に日向にジョルジアを助ける。

◆ジョセフ・クロンカイト
 CNNの解説委員でもある有名ジャーナリスト。ジャーナリズム・スクールの講師でもある。TOM-Fさんの『天文部シリーズ』のキャラクター。
 

【用語解説】
◆《アルファ・フォト・プレス》
 ジョルジアが専属写真家として働くニューヨーク、ロングアイランドにある規模の小さい出版社。

◆《郷愁の丘》
 ケニア、トサボ国立公園の近く、グレッグの住んでいる地域の名称。


この作品はフィクションです。アメリカ合衆国、ケニア、実在の人物、団体や歴史などとは関係ありません。

【プロモーション動画】


【関連作品】

「ファインダーの向こうに」を読む「ファインダーの向こうに」を読む
あらすじと登場人物

「ニューヨークの異邦人たち」
「ニューヨークの異邦人たち」

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Category : 小説・郷愁の丘

Posted by 八少女 夕

【小説】サバンナの朝

今日発表する小説は、最近お友だちになった夢月亭清修さんの企画に参加するために書き下ろしました。

夢月亭清修さんの ≪企画小説≫like a Sound Novel 『陽炎レールウェイ/百景』

「楽曲(インストゥルメンタル)」と「その楽曲のタイトル」を御題にします。
曲を聴きながら読んで、その雰囲気にハマるような掌編小説を書いてみようじゃないかという塩梅です。


お題となった『陽炎レールウェイ』、インストゥルメンタルではあるのですが、ものすごい難問でした。クセのない曲なのでいくらでも書けるだろうとお思いになるかもしれませんが、実際に挑戦してみるとわかります。二度くらい投げ出そうとしました(笑)

最初は日本の話を書くつもりだったのですが、起承転結どころかきっかけすらつかめない体たらく。結局、「少なくとも題名にだけはわずかにかすっているぞ」という言い訳のみを残し、マイ・フィールドに持ってくることにしました。そして、始めから断っておきますが、オチも全くありません。

この話にでてくる女性は去年まで連載していた「ファインダーの向こうに」のヒロインです。ですから、あの作品をお読みになった方には入りやすいと思いますが、直接の関係は何もありませんので読まないと通じないというほどのことはありません。単なる読み切りとしても読めるようになっています。

しかし、なんだな~。この世界、キャラが増える一方だ。しかも、既にアメリカですらないし。

◆参考までに
「ニューヨークの異邦人たち」シリーズ
「ファインダーの向こうに」
「ファインダーの向こうに」を読む
「マンハッタンの日本人」シリーズ




サバンナの朝
——Inspired from “陽炎レールウェイ” by 百景


 きしむ金具をどうにかなだめて、彼女は外が曇って見えるほどに汚れたガラス窓を開けた。車輪の刻む規則的な音ともに、生温い風がコンパートメントに吹き込んでくる。どこまでも続く乾いたサバンナ。ジョルジアは、カメラを構える代わりに赤茶けた大地とオリーブ色の灌木を瞳に焼き付けようとした。

「一度アフリカに来たものは、いつの日か再びアフリカに帰る」
そう彼女に伝えたのは、リチャード・アシュレイだったか、それとも、ヘンリー・スコット博士だったか。

 ニューヨーク在住の写真家であるジョルジア・カペッリが初めてアフリカ大陸に足を踏み入れたのは、2年前だ。屈託のない笑顔を見せる子供たちをテーマに、世界の各国を訪ね歩き、写真集『太陽の子供たち』にまとめた。

 今回は休暇であって取材ではない。とはいえ、彼女は休暇のときもカメラなしでは心が休まらないので、モノクロフィルムを入れたライカと、それにフィルムが入手できなくなった時を想定してコンパクト・デジタルカメラもバッグに忍ばせいてる。どうしても我慢できなくなったときしか撮らないようにしているつもりだが、4日目にしてフィルムをもう2本も使ってしまった。

 ナイロビからモンバサへと向かう鉄道。モンバサにどうしても行きたいと思っていたわけではないが、明日、アメリカ大使館で開催されるパーティに一緒に行こうとリチャードにしつこく誘われて、逃げだしてきたのだ。

 世界のどこに行っても、どこかで同国人コミュニティと関わることになる。特に彼女のように仕事がらみで異国へ行くことの多い者にとっては、そのコミュニティに知り合いのいることはとても重要だ。特に、アフリカのような所では、素人にも可能な公式手続きと、幾多の苦悩の体験した地元民による手続きでは、結果が出るまでに数ヶ月の違い出来ることもある。

 リチャード・アシュレイは、もう15年もケニアに住んでいる。もともとは透けるように白かったのであろう肌は、強いアフリカの陽射しに焼かれて、荒れてそばかすだらけになっている。赤毛に近いブロンドをいつもきちんと撫で付けている。人間は誰であってもフレンドリーに楽しく会話をすることを望んでいるという信念または信仰に則って行動するタイプだ。ジョルジアは、人付き合いが苦手なのでその過剰なコミュニケーションが煩わしく、仕事以外では可能な限り彼に会わないようにしたいと思っていた。昨日は前回のアテンドに対する礼と写真集を届けるためにアシュレイの事務所に立ち寄った。

 もちろんリチャードが、前回の撮影で世界中の誰にも負けないほど熱心に撮影準備に協力してくれたことは間違いない。マサイの村で撮った3歳の少女のはち切れんばかりの笑顔は、何度か一般誌でピックアップされて、それが『太陽の子供たち』の売上を大いに押し上げ『フォトグラフ・オブ・ザ・イヤー』の6位入賞という輝かしい結果に繋がったのだ。撮影許可に袖の下を欲しがる地方役人たちや、車の手配を渋るエージェント、それに時間を過ぎてからオーバーブッキングで来られないと言い出すドライバーなど、次々と襲いかかる難問をリチャードが次々と解決し、最後は彼自身が仕事を休んで運転してくれたからこそあの写真が撮れたのだ。

 だが、それと彼女がパーティドレスを着て彼のやたらと多い友人たちに紹介され回る苦痛に耐え忍ぶというのは話が別だった。彼女が、ほとんど口からでまかせのように「鉄道でモンバサヘ行く」と告げた時、リチャードは大袈裟に落胆してみせたが、懲りずに「では、次のパーティには」と言った。

「モンバサに行くのなら、ぜひマリンディの私の別荘にいらっしゃい。この週末は私と家族も行きますから」
その場にいてそう言ってくれたのは、やはり2年前の撮影で協力してくれた動物学者のヘンリー・スコット博士だ。シマウマの研究者で普段はトサボ国立公園をフィールドにしている。サバンナで育ったせいか都市には可能な限り寄り付かず、人間の知り合いよりも動物の知り合いの方がずっと多いであろうと言われていた。昨日は、マサイ・マラにいるシマウマのDNAを採取するための手続きでアシュレイの事務所を訪れていた。そして、ジョルジアとの偶然にして2年ぶりの再会をはにかみながら喜んだ。

 ジョルジアは、スコット博士に丁寧に礼を言い、モンバサから電話を入れることを約束した。
「マリンディには、美味しいイタリアレストランがたくさんありますよ」
リチャードは、にっこりと笑いながら、ジョルジアがイタリア系であることを2年経っても忘れていないことをアピールしつつ口を挟んだ。

 モンバサ行きの夜行列車は19時、アフリカには珍しくたった5分程度の遅れで出発した。直に夕食に呼ばれて彼女は食堂車に行った。そのメニューは、まずいというのではなかったが、博士がおいしいイタリアンレストランに連れて行ってくれるのが以前よりも楽しみになる味だった。

 相席したのは、アイルランドから来た騒がしい男と刺々しい彼の妻、それに英語を話そうとしているのだがほとんど表現できていないアジアの若者だった。ジョルジアは最後まで彼がどの国から来たのか理解できなかった。

 コーヒーもそこそこに席を立つと、彼女は既にベッドの用意されていた自分のコンパートメントに戻り、寝間着に着替えると窓辺に踞り月に照らされたもモノトーンのサバンナを眺めた。

 朝、窓の陽射しに起こされて外を見やると、どこまでも広がる赤茶けた大地の中を軋みながら列車が通過していった。藁葺きの民家から子供たちが楽しそうに覗いている。そして大人たちは彼らの生活と生涯交わることのない観光客を乗せて朝夕に一度ずつ通る列車を億劫な様子で見やっていた。土ぼこりと強い陽射しに焼かれて、彼らの着ている古いシャツは全て色褪せている。

 そしてまたサバンナが続く。乾いた大地に昇った太陽は少しずつその暴君としての本性を現しはじめる。窓を開けて入ってきた風が、今日はひどく暑くなるのだと彼女に告げた。

 ここは、ニューヨークとどれほど違っていることだろう。かのビッグ・アップルには、ここにあるものがなく、ここにないものがあった。人の海、コンクリートのジャングル、数分ごとにめまぐるしく変わる信号機、車のクラクション。ベルトコンベアーに載せられた缶詰のように規則正しく生きる人びとの間で、それぞれのドラマが展開されていた。

 ジョルジアは、もう1年以上も彼女の心を占めている行き場のない感情について考えた。大都会の中で、偶然が用意したわずかな邂逅を彼女はただ黙って見過ごした。おそらく二度と交わることのない人生の行方を見知らぬ人間として他の誰かと歩いていく男のことを、彼女は考えた。そうした時に起こる痛みに、彼女はとっくに慣れてしまっていた。痛くとも消すことが出来ないのならば、そのままにしておく他はない。

 少なくともここに彼はいなかった。著名なニュースキャスターである彼の姿を一方的に見せつけて、彼女に忘れさせまいとするテレビジョンという残酷な箱も、この無限に広がるサバンナでは何も出来ない。ただ心の中に、彼女がフィルムに収めた真摯な横顔が、消えかけた蜃氣楼のように揺らぐだけだ。

 それでも、私は生きていく。ジョルジアは、曲がりくねり疲弊した線路を軋みながらひたすら走るこの鉄道は自分の人生に似ていると感じた。この旅が終わったら、編集会議がある。撮り貯めた膨大な人物写真から新しい写真集に使うものを選定する。私はそうやって一歩ずつ自分の人生を進めていく。これまで通りに。

 サバンナはまるで水の幕が降りたようになっていた。アカシアの樹々が頼りなげに歪む。熱に浮かされた大地の間を、埃にまみれた古い列車がひたすら走っていく。陽炎の向こうに、一向に姿を現さないモンバサと、まだ見ぬマリンディの街があるのだと彼女は思った。

 (初出:2016年4月 書き下ろし)

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これが課題曲の『陽炎レールウェイ』です。
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