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scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012


Posted by 八少女 夕

Macでもの書き

普段、足を運んでくださるみなさんとは別に、検索経由って方もたま〜に(笑)いらっしゃるのですが、どうもその大半はMac用小説エディタを探していらっしゃるらしい。

というわけで、Winの方には「なんだそりゃ」でしょうが、一応再びここで取り上げてみます。

Macには、そもそも小説用のエディタというのが少ないんですよ。しかも無料というものはほとんどない。レイアウト機能までひとつにしたければ、Appleから発売されているPagesという選択もありなんですが、日本語小説を書く人間にとっての最大の不満「縦書きできないじゃん」が、いまだに解決されていないのです。近い将来にこれが実現されたら、レイアウトソフトはいずれはこっちに、とは思っています。

で、もちろんMicrosoft Wordを使うという選択もあります。ありますが、私は20年来の筋金入りの林檎教信者でしてね。自分の魂とも言える作品を書くのに、この会社の製品は出来れば使いたくないって思いがあるんですよ。すみません。偏狭で。

それで、小説用エディタとレイアウトを完全に分けることにしたんです。エディタに求められるのは軽さと、書き出し機能。つまり、後でレイアウト用ソフトに流し込む時にはテキスト形式にしたいし、校正作業でiPhoneのiBookに読み込ませるにはePub形式で簡単にコンパイルできる方がいい。その勝手な要望を満たしてくれたのがScrivenerだったというわけです。このサイト、英語ですが、ググっていただければ、日本語化もできるみたいです。私は英語のまま使ってますけど。英語のままといっても、メニューとかだけなので、書いている内容は当然オール日本語、問題なしです。

Screvenerのいいところは、資料をみんなまとめて突っ込んでおけること。参考にした画像も、調べものの内容も、どんどん突っ込んでおけるので、何ヶ月もしてから「えっと、以前ネットで調べたんだよな〜」という感じで再び検索する必要がなくなりましたね。

さて、問題は、「何が何でも縦書きのPDFにしたい」という件。これは、このブログにはあまり関係ないけれど、そもそも私がコンピュータ(当然オールMac)を買ったのは、それがやりたかったからで、これだけは譲れません。で、結局買っちゃいましたよ、Adobe InDesign。私にとっては、大人買いってこういうことだと思います。まあ、中にはスポーツカーや家を購入する方もあるんで、そんな大した値段ではないかもしれませんが、それでもけっこうな贅沢です。私にとってのお金の使い方の優先順位ってことで。林檎教信者はお金がかかるなあ……。でも、やめる氣はないんですよねぇ。
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Posted by 八少女 夕

終わった〜

先日から続いていた「たこ足」状態、つまり様々なもの書きの締め切りがいっぱいあって「どれから手をつけていいのか」と一人でキリキリしていた状態が、すべて解消されました。

五月の頭にエッセイの仕事は終了。先週は「Seasons plus 2012 夏号」の原稿も入稿しました。そして「第三回目となった短編小説書いてみよう会」の原稿も終了! アップの準備も完了です。こっちは11日の予約投稿になっています。なぜ今アップしないのかというと、単に11日は予定があってブログ更新が出来ないから、なんですけれど。

私は、「あれもこれもやらなくちゃいけない」「どれも終わっていない」というストレスに人一倍弱くて、一人でパニックしがちです。どれも十分に日にちの余裕があるんですけれどね。で、ふたを開けてみると、たいてい原稿一番乗りになっています。でも、ギリギリまで置いておいて、原稿落とすとか、耐えられないんですよ。本当はギリギリまで頑張った方が、もっといいものが書けるのかもしれませんが。


花盛りのマグノリア

この写真は「Seasons Plus 2012 春号」に掲載してもらったものです。
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Posted by 八少女 夕

「アイシテル」って言わない

ニュースのサイトでちらっと読んだんですけれどね。「配偶者に『愛している』というか」っていう話題。

国際結婚していると言うと、誰もが「こいつら、常にそんなことばっかり言っているんだろうな」と思うみたいなのですが、そんなことはありません。愛情を表現しないということではないんですが、そんなストレートな表現はいたしませんよ、ということなんです。私ら、ラテン系じゃないし。

旦那の知り合いと話をするとよく訊かれるのが「日本語で "I love you." ってなんて言うの?」という質問です。で、うちの旦那は即答します。「ダイスキ!」
おわかりでしょうか。私が「アイシテル」をまったく教えていないことが。私は知人たちには一応「アイシテル」を教えておきますが、その表現は連呼するとバカにされるからプロポーズのときだけにしろと念を押しておきます。

なぜ旦那が「ダイスキ」しか知らないのか、これには理由があります。
英語で"I love wine." と言うときの自然な和訳は「私はワインを愛している」ではなくて「ワイン大好き」ですよね?

私は旦那の前で英語やドイツ語で「この料理は大好き」だの「あそこの犬は大好き」ということはよく口にするのですが「あなたを愛しています」という言葉はまず遣いません。ヤツも"Ich liebe dich." だの "Je t'aime." なんてことは言いません。もっと他の豊かな表現がありましてね。そんなことをストレートに言う必要はないのですよ。それゆえ、私は自分の作品上でも、よほどのことがない限り「君を愛している」という表現は書きません。

ただし、ヤツは決して「飯」「風呂」「寝る」としか言わないわけではありません。「愛している」なんて言えるか派の男性陣のみなさま、お間違えのなきよう。
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Posted by 八少女 夕

【小説】大道芸人たち (12)セウタ、 アフリカ大陸 -2-

ここに出てくるモロッコ一日ツアーに、私と旦那は参加しました。印象は小説に書いたそのままですが、書かなかったことが一つ。香辛料屋でしかたなく購入した肉用と魚用の香辛料にべた惚れしてしまいました。ああ、もっと沢山買ってくるんだったと、ちょっと後悔しています。

あらすじと登場人物
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大道芸人たち Artistas callejeros
(12)セウタ、 アフリカ大陸 後編


 モロッコで稼げるとは思えなかったので、四人は定休日にテトゥアンとタンジェをまわる一日ツアーでモロッコに入ることにした。昼食もついているし、パスポートコントロールもガイドまかせなので何の苦労もいらない。両替の必要すらない。

 ものものしい国境でのコントロール、モロッコ側にたむろしている大量の人たち、道の脇に積み上げられたゴミの山などが、全くセウタとは違う世界だった。

「アフリカ大陸に来たって、ようやく納得できたわ」
「セウタは完全にヨーロッパだもんな」
「国境一つでこんなに違うんですね」

 バスの窓の向こうに青い空と乾いた大地が広がっている。道行く人たちの服装が、歩き方が、たたずまいが異国的だ。

 やがて、バスはテトゥアンの市内に入り、バザールの入り口で止まった。バザールの中は迷路のように入り組んでいた。白い壁には強い日光が照りつけているが、内部は暗く涼しい。カラフルな衣類や雑多な生活用品を売る店が続く。鍋類が鈴なりに飾られている店、平たいパンを窯で焼く店、それらを楽しそうにのぞきながら、ツアーガイドに連れられて先へと進んでいく。

 もの憂げな顔の売り娘、偽ロレックスを買わないかともちかけるうろんな男達。ヨーロッパの市場と違うのは、一分でも人々が放っておいてくれないことだ。

 やがてガイドは一行を絨毯屋に連れていった。絨毯を買う氣が全くない四人のにべもない断り方に、ついに販売をあきらめた売り子がほかの客に張り付いてくれたので、その間に四人は他の場所を見て回ることが出てきた。

 蝶子はレネに通訳してもらって金の縁取りのあるティーグラスを四つ買った。

「そんなもん、どうするんだ?」
稔が訊いた。

「移動する時に、いつもワインをプラスチックで飲んでいるでしょう?ちゃんとしたワイングラスは難しいけれど、せめてガラスで飲みたくって」

「悪くないな。白ワインをこういうグラスで飲むこともあるからな」
ヴィルが言った。

「だから、四つ買ったの。いつ割れちゃうかわからないけれどね」
蝶子はウィンクした。

 昼食は大きなタジン鍋に入ったクスクスと鶏と野菜のシチューで、すばらしい装飾のある大きなホールの真ん中では、ベリーダンスを踊る女性達がいる。レネはぼうっと嬉しそうにダンスを眺め、稔はクスクスにがっつき、ヴィルは観光客用のビールを遠慮なく飲んでいた。蝶子は遠慮してミントティーを頼んだものの、その甘さにうんざりしてすぐにヴィルと同じくビールに逃げた。

「モロッコで稼ぐことにしなくてよかったわね」
ビールの味に眉をひそめて蝶子が言った。イスラム国ではワインなんて絶対に飲めないし、ビールがあるのも観光客向けのレストランだけだ。

「そうだな」
ヴィルもスペインのセルベッサ(ビール)の味が恋しそうだった。

 香辛料屋に連れて行かれ、それからバスに乗ってタンジェに行った。白い植民地時代の建物の残る港から海をのぞむ。

「なぜか、物悲しいわね。昨日見たのとおなじ海なのに」
蝶子が言った。

 その通りだった。同じスペインに面した海を見ているのに、なぜかセウタで見た海とタンジェで見る海は全く違って見える。周りの人々、ほこりっぽい土地、空氣の匂い、それらがなんともいえない哀調を呼び起こしている。
帰りのバスから観る海に沈む橙色の太陽は、そのメランコリーをさらに強めた。四人は黙って海に消えてゆく夕日を眺めていた。

 セウタに戻ると、沈んだ心を高揚させるべく、バルに入ってティントを頼んだ。先程モロッコにいたのが嘘のように、セウタは完膚なきまでのヨーロッパだった。蝶子は買ったティーグラスを取り出して眺めた。やはり、モロッコに行ったのは夢ではなかったのだ。
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Category : 小説・大道芸人たち
Tag : 小説 連載小説

Posted by 八少女 夕

【小説】大道芸人たち (12)セウタ、 アフリカ大陸 -1-

ジブラルタル海峡を越えるフェリーは、とてもヨーロッパからアフリカに渡っているようには思えない氣軽な乗り物です。もっと物々しいのかと思っていたので、拍子抜けした記憶があります。セウタはこじんまりとした素敵な街でした。今回も前編、後編に分けています。後編は明日。
あらすじと登場人物
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大道芸人たち Artistas callejeros
(12)セウタ、 アフリカ大陸 前編


「あ、見える」
本当に海の彼方にうっすらと大陸の片鱗が見えた。あそこはもうアフリカなのだ。レネははしゃいだ。はじめてのアフリカなのだ。

「本当に近いのねぇ」
蝶子も感慨深げに頷いた。アルヘシラスでバスを降りた。大きな看板に従えば、アフリカ行きの船の乗り場はすぐにたどり着けた。チケットを買って、係員に案内されるともう船に乗れた。あっけないほどだった。

「ほら。そこに見えているのがジブラルタルだ」
船が出港してすぐにヴィルが隣に見えている半島を指差した。

「へえ。あそこからは船は出ていないのか?あっちの方が近かったじゃないか」
稔が訊く。

「あそこはイギリスですからねぇ。スペインからスペインに行く方が何にせよ簡単なんじゃないですか?」
レネが答えた。

「そうか。ジブラルタルって未だにイギリスなんだ」
「周り中スペインで、あそこだけイギリスなんて変な感じね」
蝶子も言った。日本人の二人には、地理上の国と国家としての国というものは一致しているという感覚があった。しかし、世界には、地理的に明らかにある国の一部でも歴史と政治の事情からぽつんと存在する外国があるのだ。いま目にしているのは、そういう『事情のある外国』だった。

「テデスコもブラン・ベックも、ヨーロッパ全般の地理や歴史に詳しいわよねぇ。私、学校で眠っていたのかしら」
蝶子はため息をついた。

「学校で習ったんじゃない。ヨーロッパのことは自然に覚えるさ。俺は極東のことはほとんど知らない」
ヴィルは静かに言った。レネも首を縦に振って同意した。

「スイスのモルコテのことも知っていたし、もしかして、テデスコはこれまでもたくさん旅行していたの?」
蝶子は訊いた。ヴィルは頷いた。

 ヴィルはフルートをやめてから、堰を切ったように旅行をしまくった。週末にスイスやオーストリアに行ったり、休暇でマルタや東欧、ギリシャやトルコにも行った。遠くへ行くことのできるどんな乗り物も好きだった。新しい土地を訪れるのも刺激的だった。レッスンを休んだことをなじられることもなく、窮屈な家庭に戻る必要がないのも嬉しかった。

 道連れはいなくて、いつも一人だった。誰かと行くのが嫌だったというわけではないが、そういう関係の友情を築いたことがなかった。いつも一人だったので、誰かと行くことなど考えたこともなかった。

 Artistas callejerosの仲間たちと訪れた土地の多くは、既に一度は来たことがあった。だが、それは全く別の経験だった。最初は、大道芸に有利だから一緒にいた三人だった。蝶子が誰だかわかったので、自分の正体を隠してメンバーに加わったArtistas callejerosだったが、もはや当初の目的はどうでもよくなってしまっていた。一緒に仕事をし、寝食を共にし、それから日常を楽しむ。その関係はヴィルが予想もしていない近さだった。旅で目にするもの、口にするものは、一人の時と全く違っていた。体験もまた、仲間とは切り離せないものになっていた。

「アルヘシラスにも来たことがある。ただ、同じものを見て、同じ空氣を吸っているはずなのに全く違うな。道連れがいるっていうのは、悪くない」

「特に食事の時はそうよね」
蝶子がとても嬉しそうに微笑むと、稔が混ぜっ返した。
「お前がいうのは、酒を飲む時って意味だろ」

「リボルノで誘ってもらえた時は、本当に嬉しかったですねぇ」
レネが感慨深げに言った。

「俺たち、全員がもともとは一人旅していたんだもんな」
稔も頷いた。

「あまり協調性なさそうなメンバーばかりなのにねぇ」
もっとも協調性のない蝶子がそういったので、みな笑った。



船は、ぐんぐん進み、あっという間にヨーロッパよりもアフリカ大陸が近くなった。そして、やがてセウタの港が見えて来た。

「ここがアフリカだとは信じられないな」
港を見回して稔が言った。

「そうね。なぜかしら?」
蝶子は少し考えて、やがて思い当たった。
「白人ばっかりじゃない」

「モロッコやその他の国から、移民が簡単に入ってこないように厳重に国境管理をしているんだ」
ヴィルが事情を説明した。

 それはスペインよりも、もっとヨーロッパ的な町だった。表示がスペイン語で町のあちこちにバルがあるので、やはりスペインなのだと思う。けれど清潔で静かだ。ほかのアンダルシアの町のように、大きなヤシの木が南国らしい軽やかさを醸し出している。しかし、道ばたにプラスティックの買い物袋や缶が打ち捨てられているようなことがなかった。

 坂を上って市街に入ると、植民地時代の建物が建っている。パラドールになっているホテルがあり、その真ん前は大聖堂だった。もう少し町中に入っていくと、細い道が少しだけ迷路のように奥へ導き、そこにはいくつかの安宿が存在した。

「あら、見て。あんなところに中華料理店があるわよ」
「本当だ。中国人って、こんなところまでやってきてたくましく商売するんだなあ」
蝶子と稔が感心して見ていた。

「たまにはアジアの食事がいいんじゃないですか?」
レネが訊いた。蝶子と稔は顔を見合わせた。

「米か。もうどのくらい食っていないかなあ」
「そういわれると、長いこと食べていないわよねぇ」

 それを聞いて、ヴィルとレネはさっさとそのレストランに足を向けた。日本人二人は苦笑しながら彼らに続いた。

「ねえ。事情は別として、日本そのものには全くホームシックはないの?」
チャーハンをよそいながら、蝶子が稔に訊いた。

「あるさ。家族に対するホームシックもあるけれど、それとは全く関係なく日本的なものに突然たまらなくなることがある。発作みたいなもんかな。心臓がきゅっとつかまれるっていうか。でも、発作だから、しばらくすると治まっちゃうけどな。お蝶、お前は?」
稔は青島ビールを注ぎながら訊き返した。 

「そうね。そういうことってあるわよね。例えば、蝉の声とか、入道雲なんかに弱いわ」

「いつかは日本に帰りたいと思っているんですか?」
レネがとても心配そうに訊いた。

 蝶子は黙り込み、稔はしばらく考えてから答えた。
「難しい質問だな。今は帰りたいなんてことは全く思わないけれど、老人になった時にヨーロッパに俺の居場所があるのかなと思うこともある」

「そうね。でも、そうなったら日本にも居場所がなくなっているのかもしれないわね」
蝶子は遠い目をした。

「でも、そんな先の話はともかくさ。俺、早いうちに日本に連絡を取らなくちゃいけないんだよな」

「どうしてですか?」
「ほら、前にも言ったけど、俺そろそろパスポートを更新しなくちゃいけないんだ」

「あら、じゃあ、私も一緒にやってしまうわ。バルセロナには日本領事館があるもの、マラガの仕事が終わったらバルセロナに行って手続きしましょうよ」

「問題は戸籍謄本なんだよ。どうやって取得して、どこで受け取るかだよな」
「受け取るのは、やっぱりカルちゃんに頼んでコルタドの館に送らせてもらうのが現実的じゃない?」
「OK。だけど日本では誰に頼めばいいんだ?」

 蝶子は考えこんでいた。稔が失踪中で家族に連絡をしたくない上、蝶子も親や妹とは連絡したくなかった。

「マドモワゼル・マヤはどうですか?」
レネが訊いた。Artistas callejerosが訪れたすべての町から葉書を受け取っている真耶のことを、レネは蝶子の大親友だと思っているのだ。そうでないことを知っている稔と蝶子は、真耶に頼むことなど全く考えてもおらず、そのアイデアに驚いて顔を見合わせた。

「そのくらいなら、頼んでもいいか?電話してみるか」
「そうね。でも、その前にある程度の事情を説明した手紙を書くことにするわ。彼女はすべてを分かっているわけじゃないんだもの」
そういって、蝶子はチリソースのかかった最後の車エビを稔の目前でかっさらった。

「おいっ。トカゲ女。それは俺が狙っていたエビだぞ」
「うかうかしている方が悪いのよ」

「箸を使っていると、僕たち不利ですよ」
レネがふくれっ面をした。

「でも、テデスコはけっこう箸使い上手いじゃないか」
稔が指摘した。

「いまや、ヨーロッパ中にアジアの店はあるからな。箸を使う機会も多くなった。だが、あんたたちとエビを奪い合うようなレベルにはとても達しないだろうな」
ヴィルはどちらかというと食べるよりもビールを飲む方に興味があるようだった。

「ねぇ。ここから、モロッコにも行けるんでしょう?滞在中に一度行ってみない?」
蝶子は焼きそばを注文してから言った。

「一番簡単なのはツアーに申し込むことだ。ヴィザやら、向こうでの交通やら、面倒なことをみんな省けるからな。長く滞在するつもりなら個人で行く方がいいが」
ヴィルがいうと、稔がもう一本ビールを頼んでから訊いた。
「一日で帰ってくるようなツアーもあるのかな」

「ある。ツアーの数が多いのは、日帰り、二泊、一週間ってところじゃないか」

「明日にでも、旅行会社で申し込んできませんか」
レネも嬉しそうに言った。
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Posted by 八少女 夕

「春の味覚と言えば?」

アスパラガス。日本じゃ「はあ?」と思う選択でしょうが、スイスではなんといってもアスパラガスなんです。

日本と同じで、季節の「はしり」のさらに「はしり」で、最近は店頭にアスパラガスが並ぶのは真冬の二月頃からだったりしますが、私は南米からわざわざ海を渡ってきたものは買いません。

「身土不二」までいかなくても「地産地消」を心がけるつもりで、本当は野菜は全て「スイス産」にしたいところですが、そうすると冬は本当にジャガイモとタマネギしか食べられなくなるので、大きくくくって「ヨーロッパ大陸内はOK」「出来れば有機」という基準で野菜を買っているんです。

で、三月末くらいに、ようやくスペイン産が出てきたら時々買って、六月にスイス産が出てきたら、それを食べるのがお約束。涙が出るほど高いんですけどね。。

スイスで普通にあるアスパラガスはものすごく大きくて固くて、普通一キロ単位で買います。10フラン近くします。スイス産なんて18フランとかするかも。固い外の皮は削らなくてはいけないので、食べられる部分はもっと減ります。でも、いいんです。春の味覚だから。

オーブンに入れて、いい香りがしてくるまでじっくりと焼くのが私流。水で湯がくよりもビタミンの流出も少ないし香りも引き立ちます。旦那の好きな食べ方は、半分くらい出来たところで卵とチーズを割り入れたグリルです。これはお皿の上に直接入れて作って、熱々のままテーブルに。スイスのものではちょっと時間がかかりますが、日本の細くて柔らかいアスパラガスならすぐに出来ますよ。

こんにちは。 トラックバックテーマ担当の木村です。今日のテーマは「春の味覚と言えば?」です。食欲の春とは言いませんが、秋に負けず美味しいものがある春。そこで今日は「春の味覚」がテーマです春の味覚で代表的なものと�...
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Posted by 八少女 夕

「好きだよ」の意味

いきなりの記事ですが。結婚してよかったこと。

いや、結婚するかしないかは個人の自由だから、いいも悪いもないんですよ。お間違えなく。単に、もの書きとして「こりゃよかったぞ」と思うことがありまして。

それはですね。男性陣が「こいつはターゲット外」とはっきり認識してくれたおかげで、独身だった時には絶対に耳にしなかったような本音を語りだしてくれたことです。旦那だけではなくて、学生時代の友達も、旦那の友人も、「恋愛除外モード」に入るとぺらぺら喋るしゃべる。

それでですね。この春にアップした小説の主人公のモデルにした人なんですが、小説の主人公は幸せを見つけたってのに、本人はいまだに迷走中でして、今度は結婚して子供もいる男性との恋愛に飛び込んでしまいました。で、ご本人はいたってまじめに恋愛をしているんですが、そうやっていろいろと「氣のある女には言わない本音」を聴かされた後の私には「やめろ」としか思えないんですよね。

「彼は、私に対してとても強い感情があるの。その感情を私は感じることができるの」と、彼女は言います。それは、真実かもしれません。ただ、妻子のある男性が、強い感情を持って「君のことが好きだ」という時、女は勝手に「(奥さんや子供よりも)好き(だから将来のことも真剣に考える)」ってところまで変換しているのですが、男性の方は非常に強い激情を感じつつ「君のことが好き(だから寝室に向かいたいな)」と思っているんじゃないかなと。本氣で将来のことを考えているなら「好きだ」というかわりに「将来のことを考えている」って言うよな〜、と。

何が言いたいかというと、男と女は同じ言葉に対する感じ方が違うので、男の人が正直に言ってくれるようになって本当に助かったってことなんです。

こんな冷静なモノの見方は、本人や身内が巻き込まれているんでなければ、本来必要じゃないんでしょうが、小説を書く時には、絶対的な助けになると思います。女の方の感情だけで書くと独りよがりになりすぎるので。
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Posted by 八少女 夕

【断片小説】「詩曲」より

ちょっと思いついて、一部分だけ公開する「断片小説」をアップしてみます。コミュニティにそういうトピックがあったんで。前後は、省略。まあ、機会があったらその内に公開するかもしれません。今のところ断片のみってことで。(追記:「樋水龍神縁起 Dum Spiro Spero」は2013年にこのブログで連載しました。)



「樋水龍神縁起 Dum spiro, spero」--「詩曲」より抜粋

「面白くなってきた」

 休憩が終わって、オーケストラは舞台に揃った。そして、吉野隆の代わりに、ストラディヴァリウスを持った園城真耶が舞台に出てきたとき、オケと客席の両方からどよめきが起こった。ヴィオリストの園城真耶がどうして、というざわめきだった。だが、全てを制するような自信に満ちた態度で、真耶は舞台の中央に立ち動きを止めた。指揮者が頷き沈黙が起きた。

 不安な顔で舞台を見つめる瑠水に拓人は言った。
「大丈夫だ。聴いていてごらん」

 オーケストラが、暗闇の中から這い出るように、悲観的な旋律で動き出す。管楽器、弦楽器も否定的な悲しみに満ちた音で舞台に広がる。そして、突然、全オーケストラが動きを止め、弓を構えた真耶に挑むように静寂が訪れる。
 真耶は雄々しく最初の旋律と和音を響かせる。その音には悲しくも力強い生命が込められている。これほどの力がこの細い体のどこに隠れていたのだろうか。

 オーケストラには生命が吹き込まれ真耶に従う。真耶のビブラートはさらに力強く響く。ヴァイオリンという楽器には魔力が潜んでいる。小さくとも、それは大量の楽器を引き連れ、遠慮なく聴衆の心に踏み込んでゆく。荒々しく、官能的に、悲しみをたたえて。

 もう誰も真耶がヴィオリストだということを意識していなかった。このストラディヴァリウスが誰に属するかも問題ではなかった。楽器は真耶に支配されている道具だった。音の魔法に引き込まれ、オーケストラですら彼女の音楽の世界に飲まれていた。

 真耶はただの容姿端麗な音楽家ではなかった。人びとの心を存在しない世界に引き込む魔女だった。

 瑠水は、自分がどこにいるかを忘れていた。ここは樋水ではなかった。しかし、瑠水を怖れさせる東京でもなかった。真耶がオーケストラを連れていくその先には、池の中で龍王が見せた虹色に光る黄金の王国があった。真耶の音楽には神域があったのである。

 悲しみの旋律は、狂おしく激しくなり、燃え立つ。それは、目に見えぬ敵に戦いを挑む。焦燥感、苛立ち、そして絶望。しかし、その情念は全てを制し、狂ったように燃え上がり、自らに打ち勝つ。それでも消えぬ強い悲しみがビブラートとなって、むせび泣く。

 オーケストラが慰めるように長いリフレインを残して音を消し、真耶の弓が弦から離れると、しばしの静寂がホールを襲った。たった13分だった。そして割れんばかりの喝采、スタンディングオベーション。

 瑠水は涙を流して、呆然と真耶を見ていた。拓人は笑った。
「やられたな。吉野のおっさんの顔を見ろよ。当分口を慎むだろうな」
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Posted by 八少女 夕

春も大詰め

八重桜 藤

雪降ったり、大風が吹いたり、なんだが不穏な今年の春も、いよいよ大詰め。八重桜が満開になりました。このあとはリラの花が咲き乱れて、ニワトコがレースみたいな花を咲かせると、一氣に夏になってしまうんです。梅雨ありませんし。
これからはお外で過ごす時間が多くなりますね。ああ、楽しみ。冬が長くて厳しい分、この季節は本当に心躍るんですよ。
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