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【小説】歌うようにスピンしよう

Posted by 八少女 夕

この記事は、カテゴリー表示のためのコピーです。
scriviamo!


「scriviamo! 2015」の第三弾です。ウゾさんは、昨年のscriviamo! で書いてくださった『其のシチューは 殊更に甘かった 』の「隅の老人」を再登場させて、味わい深い作品を書いてくださいました。

ウゾさんの書いてくださった『其のシチューを 再び味わおうか』
ウゾさんの関連する小説: 『其のシチューは 殊更に甘かった 』

ウゾさんは、みなさまご存知「いくら考えても高校生には思えん」という深いものを書かれるブロガーさんで、やはりおつきあいが一番長い方たちのお一人です。短い作品の中に選び抜かれた言葉を散りばめた独特の作風には、たくさんのファンがいらっしゃいますよね。

この「scriviamo! 2015」は一応当ブログの三周年企画なんですが、ウゾさんのブログは一足早く三周年を迎えられました。おめでとうございます! いつまでも素敵な作品と記事で私たちを楽しませてくださいね!

さて、書いていただいた作品、この「隅の老人」が現われるのは、ニューヨークの谷口美穂も出現する世界。そう、まだ続いています。去年からの「マンハッタンの日本人」シリーズ。といっても、このご老人の出没エリアは、美穂の普段勤務している《Star's Diner》よりも北、セントラル・パークの近く。だから、今年も舞台は姉妹店《Cherry & Cherry》。去年、美穂がご老人と桜に関する問答をした店ですね。今回は、ウゾさんの作品にあったモチーフを使わせていただくために、メインキャラが別の人物になっています。

なお、ウゾさんより前に、ポール・ブリッツさんからも「マンハッタンの日本人」関連で参加作品をいただいていますが、敢えて発表順を逆にさせていただきました。いや、ほら、昨年みたいに同日中にお返しの作品書かれちゃったりすると、こっちを発表する時に困るじゃないですか……。という自己都合です、すみません。


【参考】
読まなくても話は通じるはずですが、だんだん話が大きくなってきたので新カテゴリにしてまとめ読み出来るようにしました。
「マンハッタンの日本人」シリーズ

「scriviamo! 2015」について
「scriviamo! 2015」の作品を全部読む
「scriviamo! 2014」の作品を全部読む
「scriviamo! 2013」の作品を全部読む



「マンハッタンの日本人」シリーズ 6
歌うようにスピンしよう
——Special thanks to Uzo san


 お祖母ちゃんは、いつも朗らかに歌っていた。
「So, darling darling
 Stand by me
 Oh stand by me」

 ベン・E・キングの「スタンド・バイ・ミー」。あたしのお祖父ちゃんにあたる彼がその言葉を無視していなくなっちゃったことなんか、何でもないみたいに飄々と。その歌の意味を全然考えないで、あたしは育った。

 お祖母ちゃんのつき合っていた人の頭の中は、夢でいっぱいで、お祖母ちゃんのお腹が少しずつ膨らんでいる事にも氣がつかなかった。でも「夢を諦める」と言った彼に、わかってほしくて、一緒にいるって答えてほしくて、冗談みたいに歌で訴えてみたんだって。
「本当にジョークだと思われたのか、するっと躱されちゃったよ」
何でもないように笑ったのは、お祖母ちゃんの偉大なところ。あたしは彼女の事を誇りに思っている。

 だから、無意識のうちに機嫌良く働く時には、この歌が口を衝いて出る。セントラル・パークにほど近いダイナー《Cherry & Cherry》で働くようになってから、もう二年だ。ここでは既に一番の古株。でも、時給は一番下っ端と同じ。それを言ったらオーナーは鼻で笑った。

「お前も給料を上げてもらいたいのか、キャシー。だったら《Star’s Diner》のポールやミホみたいに、まず売り上げをめざましく上げる努力をしてみろ」

 そんなの無理。だってあたしにとって、この仕事は生活費を稼ぐためだけ、どうしても避けられない最低の時間しか割きたくないもの。あたしの全ての情熱と夢は、ウォールマン・リンクにあるんだもの。

 あたしみたいな掃き溜めに生まれた者には、イェール大学に進むような育ちが良くて出来のいい子と違って、たくさんの選択肢があるわけではない。母さんはお腹の中にいたあたしに「リチャードの遺伝子を受け継いできますように」って話しかけたらしい。

 お祖父ちゃんが、母さんの存在を知らなかったように、あたしの遺伝子上の父親も、それから同時に母さんがつき合っていた他の二人も、あたしの存在を知らない。そりゃ、この狭い界隈で、噂は聞くだろうから、三人ともヒヤヒヤしただろう事は確かだ。

 生まれてきたあたしが、母さんやリチャードのように真っ白い肌だったら、母さんはリチャードに結婚を迫った事だろう。でも、リチャードとチャンにはラッキーだったことに、あたしは褐色の肌と縮れた髪をして生まれてきた。母さんはあたしの父親が、お金もなければ甲斐性もない上、DVとアル中の氣配がぷんぷんするベンだったらしいとわかって、お祖母ちゃんと同じ道を行く事を決めた。すなわち、ベンには何も言わないで、シングル・マザーになる事。

 あたしには、華やかなことなんて何もなかった。すぐ近くにあるメトロポリタン美術館や、五番街にある金ぴかのトランプタワー、ブルーミングデールズ百貨店みたいな世界には足を踏み入れた事がない。でも、セントラル・パークは別。お金持ちも、それから子供っぽく写真ばっかり撮っている日本人も、それに月に何度か「残飯整理」スペシャルだけを食べにくるあたしの目の前の常連お爺さんも、まったく気兼ねせずに行くことができる。

 そして、あたしを何よりも魅了したのが冬の間、老いも若いも楽しくアイススケートを楽しめるウォールマン・リンクだった。普段は背を丸めてとぼとぼとニューヨークの寒空を恨めしそうに見上げる人たちも、あそこでは軽やかに舞う。笑顔と自由が花ひらく。子供の頃あそこに行っては人びとを眺めながら思っていた。いつかあたしも滑るんだって。そして、世界的コーチに見出されて有名スケート選手になるんだって。

 スケートリンクの入場料が惜しくて、子供の頃のあたしはリンクではないただの池が凍るとそこで一人で練習した。時には割れて危険な目にも遭った。

 あたしが自分の稼ぎから入場料を捻出できるようになったのは中学を出たあとだったから、その頃には有名スケート選手になる道は閉ざされていた。今でも、誰もあたしをスカウトしてくれない。それでもあたしは一人で滑る。

 ダブル・トゥーループ、ダブル・サルコウ、キャメル・スピン、レイバック・スピン。あたしに出来るのは、ここまで。それでもあたしは滑り続ける。この店でシケた客相手にウェイトレスをしているのは、本当のあたしじゃない。あの氷の上でこそ、あたしは自由にのびのびと体を動かせる。

 でも、この勤務時間だって楽しくやらなきゃ。生粋のニューヨーカーだもの。あたしは機嫌良く歌いながら仕事をする。

「So, darling darling
 Stand by me
 Oh stand by me」

 あら、お爺さんのシチュー、全然減っていないじゃない。まずいのかしら。さっき間違ってフレンチフライの残りが落下しちゃったからかな。
「お客さん、お替わりはいらない? 熱々のを足したら少しは温かくなるかもよ」
「おお、そうだな。よかったら少し入れてくれるかな」

「考え事していた?」
「そう。思いだしていたのだよ。その歌の歌詞をつぶやいていた人の事を」
「へえ。あたしのお祖母ちゃんの世代には、この歌の好きな人が多いのかもね」
「大ヒットしたからね」

 ドアが開いて、待っていた人が入ってきた。4時55分。計ったみたいにピツタリ。
「ハロー、ミホ!」
ミホは毎週水曜日の夕方に《Star's Diner》からヘルプとして派遣されてくる。彼女は笑いながら手を振った。聞いたところによると、彼女は朝の六時から四時まで《Star's Diner》で働いて、その後ここで夜番のジェフが来るまで三時間働いているらしい。時給を上げてくれる時にあのケチオーナーがそんなひどい条件を付けたんだそう。でも、嫌な顔一つせずに毎週こうやって五分前にやってくる。信じられない。日本人って、どうかしている。

 あたしは、さっさとエプロンを取り外すとお爺さんにウィンクした。
「じゃあね。支払いは、あの子にしてね」

 お爺さんは片眉をちょっと上げると言った。
「スタンド・バイ・ミー(いかないでくれ)。もうちょっとで食べ終わるから」
あたしは天を仰いだ。支払いを待っていても、お爺さん、あなたにはチップをくれるようなお金、ないじゃない。あたしは早くウォールマン・リンクに行きたいんだけれど。

 でも、そう言われてしまうと、無視して出て行けないのがあたし。しかたないから「スタンド・バイ・ミー」を歌いながら、お爺さんが食べ終わり、のろのろとヨレヨレの上着のポケットから小銭をかき集めるのを待った。あら、5セント足りないみたい。

「いいわよ、それで」
あたしは自分のポケットから5セントを出して帳尻を合わせる。だから、いつまで経っても金持ちになれないのかなあ、あたし。ミホがそのあたしに優しく笑いかけた。彼女は先月にあたしが無銭飲食野郎にあたって全額一人で負担しなくちゃいけなかった時に、黙って半額出してくれた。だから、あたしは彼女の時給が上がったと知ってもそんなに腹が立たなかった。

 あたしが出て行こうとすると、ミホとお爺さんが同時に「またね」「またな」と言った。あたしは笑って親指を上げた。

 あたしはこのお爺さんみたいに、いつまでも夢を見ているような、しょうもない人たちが好き。この店にくる人生の負け組たちを見るのが好き。馬鹿げた夢を見続けるあたしと同じだから。

 何度失業してもしつこく仕事を探してたポールや、まずい料理しか作れないシェフのジョニーや、エリートを捕まえるんだとか言っていたくせにボクサーなんかと恋に落ちたダイアナや、わざわざ日本からやってきて下町のダイナーのケチオーナーにこき使われているミホも好き。みんな愛すべきマンハッタンの落ち零れだ。

 あたしはスケートを滑るように軽やかに働く。そして、ウォールマン・リンクで歌うように朗らかにスピンする。冬のマンハッタンはあたしのパラダイス。

(初出:2015年1月 書き下ろし)

WollmanRink.jpg
"WollmanRink" by NYC JD - Own work. Licensed under CC BY-SA 3.0 via Wikimedia Commons.



.31 2014 小説・マンハッタンの日本人 trackback0

今年も一年ありがとうございました。

Posted by 八少女 夕

年末年始の小旅行でこういう所に来ております。(この写真は私が撮ったものではないです)つい先日テレビで観て、行きたいなあと思っていた所、行く予定だったドイツの友人の所に行けなくなったんでかわりに強引に来てしまいました。お城の麓で年越しします。

Burg Hohenzollern ak.jpg
Burg Hohenzollern ak“ von A. Kniesel (= User:-donald-), Lauffen - Eigenes Werk. Lizenziert unter CC BY-SA 3.0 über Wikimedia Commons.




さて、押し迫ってきましたね。今年もあっという間でした。今年のことを、ブログのこと、それに実生活のことも含めて振り返ってみることにしましょう。

【ブログの活動】
今年も去年と同じくらいは小説を書いて発表しましたよね?


ユズキさんやlimeさんのフリーイラストに合わせて小説を作ったり、大海彩洋さんの企画に載ってみたり、ポール・ブリッツさんの挑戦状に応じてみたり、実に楽しい一年でした。あ、エイプリルフールの時には、ブログのお友だちウゾさん、TOM-Fさん、栗栖紗那さんのキャラを無断でお借りするなんてこともしました。山西左紀さんのところとは、キャラ同士(エスとアントネッラ)が二次創作をするという面白い試みもしましたっけ。

「scriviamo!」や「50000Hit記念企画」に加えて、バトンや記事でみなさんとつながれた事も、今年は去年以上に多かったと思います。

何人かのブログのお友だちが残念ながらブログをやめてしまわれましたが、その一方で嬉しい復活のご報告も数名。これまで続けていてよかったなと思った瞬間でもありましたね。

あ、cambrouseさんに教えていただいて、PIYOも始めました。個人的にちょっと便利な新機能で、とても氣にいっています。

【実生活】
・ポルト旅行と北イタリア旅行
どちらも骨休みで行ったはずが、なぜか小説の構想三昧になってしまいましたね。天候にも恵まれ、旅を楽しんできました。そして、また肥えました。

・ギター
ええと、まだ諦めてはいませんが、いやあ、牛歩ですね。いいんです。定年までに好きな曲が弾けるようになれば! まだしばらくあります。

・仕事と家庭
あ〜、していましたよ。一応。でも、威張れるほどはしていないか。平穏が一番です。


今年もscribo ergo sumにお越しいただき、本当にありがとうございました。皆様の一年の訪問とご愛読に心からの感謝を捧げるとともに、来る年も変わらぬお付き合いをお願いして年末のご挨拶に代えさせていただきます。

来年もscribo ergo sumをどうぞよろしくお願いいたします。どうぞよいお年を!
.31 2014 このブログのこと trackback0

クリスマス 兼 誕生会のごはん

Posted by 八少女 夕

24日に仕事を治めて、冬休みに突入しました。毎年、クリスマスのあと、大晦日まで有休をとっているのです。ギリギリまでバタバタする上、クリスマスは一人で暮らしている義母を食事に招待するという、若干「頑張んないと」な行事が入るので、この休みはホッとします。

今回のクリスマス会食は、義母と、ジュネーヴ在住の義兄が来ていて、彼と合わせて四人。義兄の誕生日だという事もあって、26日に我が家で開催しました。

去年まで、三年続けてガチョウの丸焼きなどを作ったのですが、手間がかかり(合計で12時間もの下準備&調理時間)、その割に食べる所も多くないし、そんなに美味しいとも思えず、今年はもっと自信のあるラムチョップで行くことにしました。

ラムのパン粉焼き

私が誰かを招待する時には、曲がりなりにもコースになるように献立を立てます。といっても、ごく普通のもの、例えばスープまたはサラダ、メインと付け合せ、それからデザートという具合です。

今回は、前菜盛り合わせ、サラダ、それにオーブンでパン粉焼きにしたラム、ヌードル、キノコのガーリックソテー、そして出来合いのブッシュ・ド・ノエルという組み合わせにしてみました。
ブッシュ・ド・ノエル

ラムのオーブンパン粉焼きは既に何度も作っているので、レシピ通りに用意するだけ。ニンニクとパセリとパン粉をオリーブオイルで混ぜたペルシャードを載せて、ローズマリーと一緒に焼くだけですが、これがまた誰に出しても絶賛される「シンプル・イズ・ベスト」な料理なのですね。

ラム 調理中

その分頑張ったのが、前菜の「クリスマスツリー風ブロッコリー類」ポテトサラダを台にして、ブロッコリー、カリフラワー、ロマネスコをツリー状に盛りつけるのです。手先の器用な日本人らしいアイデア料理みたいで、クッ○パッドにはそれっぽいレシピがいっぱいありました。でも、こちらでは一度も見たことがありません。だから、サプライズ用に作ってみました。一人分ずつにしたかったので、どうもレシピのようにはツリーっぽくならなかったのですね。それで、リース風にしたルッコラに生ハムとプチトマトをオーナメント風に盛りつけて誤摩化しました。まあ、好評だったのでいいという事にしましょう。

クリスマス用前菜

さて、これが無事終わったので、本当の冬休み。プチ大掃除もしてから、連れ合いと小旅行に出かける予定です。
.27 2014 美味しい話 trackback0

【小説】森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架(22)優しい雨

Posted by 八少女 夕

今年の小説の発表はこれが最後です。折しも「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」はチャプター2がここでおしまいとなります。

自由に生きることを諦め死を覚悟したラウラが、人生のたった一つの心残りに決着を付けようと行動に出ます。彼女の想いは報われるのでしょうか。私ならこの機会に逃げるけれど、身代わりになって残ってくれているアニーを見捨てられないのが地味とはいえヒロイン。


「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」を読むこのブログではじめからまとめて読む
あらすじと登場人物




森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架
(22)優しい雨


「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」関連地図

 ザッカは鐘楼の下の秘密の扉を開けた。牛脂灯の光でゆっくりと扉の内側を照らすと、そこにあるはずの濃紺の外套の代わりに、白い絹の部屋着が吊ってあった。炎が揺れた。しばらくそこに立ちすくみ、考えをまとめようとした。

 ザッカは音がしないように扉を閉めて、広間には戻らず西の塔に向かった。半刻ごとに異常がないか見て回る衛兵は、自分の仕事がきちんとなされていることを誇るかのように胸を張って敬礼してみせた。
「異常はありませぬ。私は食事のとき以外はずっとここにおります。バギュ・グリ殿はずっと祈られていらっしゃいます」

 ザッカは黙って頷くと、塔を登っていった。階段に靴音が硬く冷たく響く。確かに女の祈りの声が響いてくる。ラウラの声に聴こえない事もないが、ザッカはそれを信じなかった。

 扉の前に立つと、小さくノックをする。女の声は止み、沈黙が訪れる。長い、不自然な時間。だが、やがて、ゆっくりとほんの少しだけ扉が開かれる。アニーの顔が牛脂灯の光でわずかに浮かび上がる。
「何事でございますか、宰相殿」

「バギュ・グリ殿にお変わりはないか」
「ございません」
きっぱりとしたアニーの声は挑むようだった。

「その……。バギュ・グリ殿が平静を保たれておられるか、心配になってな」
ザッカが髭をしごきながら見据えたので、アニーの目には少し戸惑いが浮かんだ。震え、青ざめている。《氷の宰相》は、自分はどんな顔をしているのだろうかと考えた。

 短い沈黙を破るように、アニーは早口に続けた。
「今夜は、どなたであろうとも、ラウラ様にお取り次ぎしてはならぬと厳命を受けております。たとえ、姫様であろうと、国王陛下であろうとです。宰相殿が一番よくご存知ではありませんか」

「そうだ。よく知っている。バギュ・グリ殿にお伝えくだされ。あなたの勇氣と犠牲に感謝していると」
もし、伝える事が出来るならば。踵を返し、塔の階段を降りていきながら、ザッカはつぶやいた。

 このままあの女が戻らなかったなら何が起こるのだろう。計画は中止だ。グランドロンと戦をして勝てるチャンスはもうないだろう。だが、なんとグランドロン側に伝えればいいのだろう。花嫁は行きませんと? 明日の昼には花嫁の行列に付き添うグランドロンからの護衛部隊も到着する。その時に花嫁の準備が済んでいなければ、あちらはすぐに疑念を持つだろう。そして、さほど遠くないうちにグランドロンは氣づくだろう。あの日会わせた女が王太女ではなかったことに。我々の策略に。そうなった時のための準備をしなくてはならぬのか。

 頼みの綱はただ一つだ。あの娘が身代わりとなった侍女を犠牲にするような性格ではないという私の読みがあたること。もし、そうでなければ……。

 ザッカは自嘲した。これほど綿密に立てた計画すべてが、女の慈悲心一つにかかっているとはな。あの娘には何もかも捨てて逃げるだけの理由がある。あの聡明な女にわからぬはずはない、捨て石にされて残酷な死に向かわされる事を。

 私は神に祈ったりはしない。ザッカは立ち止まって小さな窓から空を見上げた。先程までの明るい月は、暗い雲にかき消されている。広間の方から人々のざわめきが聴こえる。王女の輿入れ前夜の宴だ。軽薄な赤毛の姫が騒いでいる声も耳に届く。何が起こるかも知らずに。

 神は、私の思惑を超えて駒を進める。だが、明日の朝まで、騒ぎは起こすまい。逃げたければ逃げよ。そうなった時には、私は全てを負わねばならぬな。ザッカは心の揺らめきを悟られぬよう、いかめしい顔をして広間に入っていった。

* * *


 ラウラはその頃、秘密の地下道を通り抜けて、城下に入っていた。この通路を知らなければ諦めたに違いない。誰かに見つかる危険を想定しないわけにはいかなかった。みつかればアニーもただでは済まない。私のわがままを、あの子は黙って許してくれた。賢い優しい子。あの子に出会えた事を感謝しなくてはならない。

 かき曇る空を見上げた。ぽつりぽつりと雨が外套にかかる。彼女は目を閉じた。狂っているのかもしれない。それでもいい。躊躇している時間はないのだ。二十年。一度も自分の命を生きてこなかった。明日は再び姫の影に戻る。そして、二週間で全てが終わる。自由になる事もない。だから、せめて一度だけ、本当に自分のしたかった事をさせてほしい。報われなくてもいい、どのように罰されてもいい、どうしてもあの方に逢いたい。

 サン・マルティヌス広場への道も、先日ザッカと通ったので探し立ち止まる必要もなかった。旅籠『カササギの尾』は、すぐに見つかった。その脇の小路を進むと、いくつもの同じような家が並んでいた。アニーから伝え聞いたマウロの話では、マックスは一番奥の建物を借りているということだった。そこは窓の鎧戸も扉も閉ざされていた。ラウラは少し躊躇したが、扉をノックした。最初は小さく、答えがないのでやがて大きく。しばらくすると二軒先の建物から、年配の女性が顔を出して叫んだ。
「ティオフィロスさんなら昼から出かけているよ!」

 雨が次第に強くなってきた。冷たい風が追い討ちをかける。結局、そういうことなのだ。期待をしてはいけないと、自分に言い聞かせてきたつもりなのに。一目逢えれば、それでよかったのに、それすらも叶わないのだ。ラウラは扉にもたれかかって肩をふるわせた。

「《黄金の貴婦人》……?」
低い声が聞こえて、彼女は振り向いた。雨が視界を遮り、立っている茶色いマントの男がマックス・ティオフィロスだと判断するのは難しかった。だが、その声は紛れもなかった。

「バギュ・グリ殿!」
先生……。彼女のつぶやきは音にならなかった。
「どうして、ここに? 寒いだろう。すぐ中に」

 彼は急いで戸を開けてラウラを中に誘った。マントを脱ぎ捨てるように戸口に掛けると、玄関に置かれた薪の山から数本を取って居間の暖炉にくべると、衰えていた残り火に息を吹き込んで熾らせた。

「マントをここにかけなさい。そんなに濡れて、風邪をひく。ここに来て暖まってください」
そして振り向いて、はじめてラウラの青ざめた様相に目を留めた。彼女は視線を足下に落として、寄る辺なく立っていた。そして、声を絞り出した。
「申し訳ありません」

「なぜ謝る?」
マックスは戸惑っていた。雨の中に立つマント姿の女を《黄金の貴婦人》と見間違えたことを、自分で理解が出来なかった。子供の頃に数度見た貴婦人は、今ラウラが着ている粗末な服地ではなく、漆黒のしかし一目でわかる最高級の絹で出来た服に身を包んでいた。そして、もちろん一人で雨の中を歩くなどということはなかった。

 王宮でラウラを《黄金の貴婦人》と見間違えたことも一度もなかった。だが、先程のラウラの佇まいは彼を十歳の子供に引き戻した。それは深い悲しみのにじみ出た後ろ姿だった。

「どうしてもお逢いして、ひと言お別れを申し上げたかったのです。先ほどはお話しすることもかないませんでしたから」
彼女は足下をみつめたままで、いたずらを見つかってしょげている小さな子供のようだった。

「よく無事で来られた。供も連れずに一人でこのような所に来るのはあなたのような貴婦人のなさることではありませんね」
笑ってそう言ったマックスの言葉に、ラウラは目に涙を浮かべた。彼ははっとした。

「私は貴婦人になりたかったわけではありません。肉屋の孤児なら氣軽に逢ってくださるというならそうありたかったと思います。先生の後を追って遠くの国へ行きとうございました。遠くからでもお姿を見ていたかった。でも、私の想いを迷惑と思われているのは、今朝の先生のご様子でわかりました。神もそれを望まれていませんでした。だからこそ、生涯の思い出にせめてただひと度お逢いしたかったのです。それすらも許されないのでしょうか」

 マックスはラウラの頬を伝う涙に手を添えた。
「許してください。あなたを苦しめるつもりではなかったのです。迷惑だなんてとんでもない。私もあなたに惹かれています。昨日もそう伝えようかと迷ったのです。でも、あなたは私の旅してまわるような賎しい世界に属する人ではない。だから何も告げずに別れるのが一番だと思ったのです」
「先生……」

「マックスと呼んでくれませんか、ラウラ……」
そういって彼は震える女をそっと抱き寄せた。彼女はもっと激しく泣き出した。その髪を梳きながらマックスは思った。自由氣ままな旅もこれで終わりになるかもしれない。
「明日、行列が去ってから、もう一度お城へ行きます。侯爵様のお許しが簡単に得られるとは思えないが、努力してみましょう」

 ラウラはそっと顔を上げた。明日、行列が去った後に城に行っても彼は彼女に会うことは出来ない。だから、逢いにきてよかったのだ。
「いいえ。いいえ。どうかこれまでのように自由に生きてください。私にはそのお言葉だけで十分ですから」
「何も言わなくていい」
 マックスの顔が近づいてきた。彼女は一夜の夢を見るために瞳を閉じた。
.24 2014 小説・貴婦人の十字架 trackback0

カルボナーラの話

Posted by 八少女 夕

今日は、グルメ記事です。

カルボナーラ

先日、遠出をした時にカルボナーラを久しぶりに食べたんです。カルボナーラは自宅でよく作るのです。簡単で美味しいし、連れ合いも好きなので。なので、あまり外では食べないのです。それに外食で頼むと、油断すると玉ねぎが入っているんですもの。こういう所に入っている細切り玉ねぎは、私のほとんど唯一の嫌いな食べ物なのです。

でも、今回のカルボナーラは正解でした。それにちょっと変わっていたのです。ホワイトアスパラガスとトマト・セッキ(ドライトマトをオリーブオイルに入れて戻したもの)が入っていたんですね。これが美味しかったのですよ。なんというか、カルボナーラって少し濃厚なので、最後にちょっと飽きるんですが、この二つの食材が入っていると飽きないんですよ。

これはいいアイデアだ、今度自宅でもトライしてみようと思いました。
.22 2014 美味しい話 trackback0

今も残る中世の面影

Posted by 八少女 夕

今日は「 Cantum Silvaeの世界」カテゴリーの記事です。まもなくチャプター2も終わりですしね。

「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」は既に何度もカミングアウトしていますが、高校生の時に私が妄想していたお話のリライトです。その頃の私は、将来ヨーロッパに住むことになるとは夢にも思わず、さらにいうとヨーロッパの事は「どこか遠くの国」以上の認識はなかったと思います。

ブログ用に何か長編を用意しようと考えていた時に、新しいものではなくてこの昔の作品を思いだしたのは、私が生きているこの場所に、スイスとそれから旅をして出会う先々で、「あれ、この風景は昔、一時狂っていたものに似ている」と感じる風景がなんでもなく残っていたからなのです。

ドイツ、ラインランドにて

上の写真は、連れ合いとバイクでドイツに行ったときのもの。ローレライで有名なラインランドのどこか。作品中では、マックスが旅をしながら見てあるいた、「サレア河」の辺りの街のイメージです。

13世紀の天井画

我が家から15分くらいのところにある少し有名な教会には、13世紀の木版天井画が残っています。これはヨーロッパでも珍しい素晴らしい状態で、なぜ残ったのかというと宗教改革でカトリックからプロテスタントに変わった時に「こういうのはいらん」と塗り籠めてしまったので、劣化せずに残ったのですね。また、ド田舎だったので火事などで失われる事もなかったのです。今では貴重な文化遺産という事で、プロテスタントだカトリックだと四の五の言わずに公開して(拝観料をとって)います。

まだ聖書が手書きのラテン語しかなくて、一般人は読む事が出来なかった時代、こうやって絵で人びとに聖書の物語を語っていたのですね。同時に彼らには例えば「聖書には、免罪符の事なんか書いていない。あんたら聖職者や為政者が俺たちを支配するために言っている事はでたらめだ」と確認する機会は与えられていなかったのですね。知識の独占は不公平を生んでいました。被支配者は「生かさぬように、殺さぬように」存在するしかなかったのです。人類皆平等なんて思想もありませんでした。

「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」では、城の中で贅沢な暮らしをする貴族たちと、市井で生きる貧しい人たちの両方の姿を対比的に書き出そうとしていますが、この二つの世界も実際に残っているこれらの遺構からたくさんのイメージをもらってきました。

Soglioの家

最後は、日本の方にも人気のあるソーリオという村。やはり私の住むグラウビュンデン州にあります。もちろん、今ではどの家にも電氣や水道が通っていますが、それでもパッと見には昔のヨーロッパの姿を彷彿とさせる光景ですよね。

ヨーロッパには、地域ごとに違う建築があると言っていいくらい、違ったタイプの家並みがあります。これはどちらかというとイタリア側の山村の家並みですね。やはり山の中に行けば行くほど、閉鎖的だったゆえに昔のものが残っています。それは言葉も同じ。ベルリンでは面影もない中世ドイツ語の発音規則が、辺鄙なスイスの山村で残っているという具合に。

こうした古くから変わらない世界に日々触れ、すっかり開けてしまったとは言えやはりヨーロッパの植生の自然に触れ、天候に馴染む間に、忘れていたはずの「森の詩 Cantum Silvae」の世界がいつの間にか私の中で再び息づきだしたのです。

物語は元のストーリーの骨格の部分まで来ました。ヒロインは自由に自分の足で森を越えるのではなく、運命に連れられてグランドロンに向かう事になります。



この記事を読んで「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」を読みたくなった方へ

「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」を読むこのブログではじめからまとめて読む
あらすじと登場人物
.20 2014 Cantum Silvaeの世界 trackback0

【小説】森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架(21)告知

Posted by 八少女 夕

今年の「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」は今日を含めてあと二回、ちょうどチャプター2の終わりまでの発表となります。来年も「scriviamo!」を開催するつもりなので、切りのいい所まで発表したかったのですね。そのため、普段なら二つに切る長さのこの章をまとめて載せることにしました。

前回のザッカや国王たちがグランドロン王国からの結婚の申し込みに不可解な反応をした理由が明らかになります。そして、ようやくタイトルの元になった言葉が出てきます。その言葉を口にするのは《氷の宰相》です。


「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」を読むこのブログではじめからまとめて読む
あらすじと登場人物




森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架
(21)告知


「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」関連地図

 一ヶ月は飛ぶように通り過ぎた。ラウラは幸せなひとときを過ごした。マックスはまもなく輿入れする王女のために熱心に登城して嫌がる王女のご機嫌を取りつつも以前より多くの授業をした。そして、ラウラの課題の出来をはっきりと賞賛した。彼女は授業のあと、王女がさっさと去ってしまった後に、マックスを呼び止めてグランドロンやセンヴリの地理や歴史について質問をした。するとマックスはとても熱心に、優しく答えてくれた。それどころか時おり授業のない午後にも城に残り、一緒に例の白薔薇の苑を散策することがあった。

 最期の授業を終えた日も、二人は白薔薇の苑を散策した。陽射しは強く、夏らしくなっていた。一重の花びらはどれも大きくひらき、芳香で満ちていた。

「先生は……このお仕事が終わったらどこへ向かわれるのですか」
ラウラは自分の声の緊張が伝わらなければいいと願った。マックスはだが、そのラウラの質問の意図を感じ取った。彼女の手を取り自分の方へ引き寄せたい強い衝動をおぼえた。けれど彼はぎゅっと拳を握りしめた。
 
 想いを打ち明けた所でどうなるというのだろう。街の場慣れした娘たちとは違うのだ。ひどい仕打ちに一人耐え、優しさに飢えている純真な娘だ。甘い言葉を囁けば、はるかに大きな期待を持たせることになってしまう。

 生まれがどうであれ、ラウラは城の中で育った人間だった。柔らかい羽布団と、高級な絹の間で。マックスが出会ってきた地を這っている貧しい人たちとは違う。旅籠で春をひさいで暮らしていたマリエラ、蕪と青菜の薄いスープしか食べられないジャコ夫妻、旅人に毒を盛って金品を巻き上げていた粉屋の夫婦、肉など何ヶ月も口にしていない『カササギの尾』の常連たち。マックスが旅で身を置くのはそういう世界だ。駄目だ。この人は世界の違う貴婦人なのだ。

「宰相殿のおすすめでヴォワーズに参ります。大修道院で貴重な書籍を拝見するのが楽しみです」
ヴォワーズ大修道院は厳格なことで知られ、使役や下働きの者に至るまで男性だけで有名だった。大司教座の周りには城下町に近い空間があったが、特別な許可がない限り修道院への出入りはできない。

 ラウラは「そうですね」と相槌を打つことしか出来なかった。マックスが続けて言った「あなたのような優秀な生徒がまたいるといいのですが」という言葉に打ちのめされていた。自分は生徒に過ぎないと言葉通りに受け取ったので。もし、彼女がその時に彼の表情を見ていたならば、彼の意図は言葉とは違ったことを読みとれたであろう。

* * *

 姫が旅立つ前の日、マックスは大広間に正式の別れの挨拶にやってきた。国王とマリア=フェリシア姫に対して、良縁に対する技巧の限りを尽くした祝辞を述べ、堂々たる様子で深い礼をした。彼は瞳の端で、王女の後ろに控えているラウラが強い想いと願いを込めて自分の方を見ているのを感じ取った。

 だが彼はラウラには話しかけなかった。バギュ・グリ侯爵の方を向き、令嬢への儀礼的な賞賛を述べた上で、二人の令嬢の今後の幸せを祈るという、非個人的な祝辞を付け加えた。ラウラが傷ついて青ざめているのがわかった。マックスは「この方がいいんだ」と自分に言い聞かせた。次回はもっと身の丈にあった女性に惹かれるといいんだが、そう思いながら。

* * *

 打ちのめされて広間から出たラウラは、上機嫌の姫に従って、孔雀の間へと移動した。廷臣や衛兵たちの集う堅苦しい謁見が終わったので、姫の取り巻きの女官たちも大きな声で私語をはじめ、準備されている大きな宝石のついた長持ちや美しい贈り物の数々について語り合った。

 バギュ・グリ侯爵令嬢、つまりラウラの養父の実の娘である女官エリザベスが言った。
「姫さまが明日からいなくなるなんて、寂しくて耐えられませんわ」

 するとマリア=フェリシア姫はけたけたと笑った。
「心配しないで。私はいなくならないから」
「まあ、姫様、なぜそんな事をおっしゃるんですか?」
侍女のエレインはは謁見に使われたマントを丁寧に畳みながら訊いた。

 姫は窓の外を眺めているラウラを扇子で示した。
「行くのは彼女よ」

 皆の視線が急に自分に集中したのを感じて、ラウラは視線を部屋に戻した。王女が何を言っているのか理解できなかった。
「ふふふ。ザッカははじめからそのつもりだったのよ。だからあの王が来た時に、ラウラに私のふりをさせたんだわ」

 王女の取り巻きの女官たち、侍女たちも姫が何を言っているか、よく理解できなかった。
「大丈夫よ。結婚式までヴェールを外さず、花婿に顔を見せないってことだけは、あの傲慢な王に納得させたんだもの。違う人間が行ってもわかりゃしないわ」
「でも、姫様! 結婚したらすぐにわかってしまうじゃないですか」
エレインはいい募った。

「結婚する事などないのだ」
突然、ザッカの声が聞こえたので、一同は戸口に目を移した。ザッカが兵士の一団と一緒に立っていた。

「バギュ・グリ殿。誠に申し訳ないが、私と一緒に来ていただこう」
ラウラは言葉もなく立ち尽くした。マリア=フェリシアはけたたましく笑った。

 ザッカも兵士たちも手荒な真似は一切しなかった。けれどその有無をいわさぬ威圧感にラウラは怯えた。彼女は西の塔に連れて行かれた。同行して世話をする事を許されたのはアニー一人だった。
「いずれにしてもアニー殿にもバギュ・グリ殿と同じ運命を担ってもらわねばならぬ。危険はわずかに少ないとは言え」

 彼女はきちんとした調度はあっても、あかりとりの小さな窓しかない、牢獄のような空間を見回してから、不安そうにザッカに言った。
「これはどういうことなのか、お伺いしても構いませんか」

「もちろんです。バギュ・グリ殿。あなたには理解して納得してもらわねばならない。我が国の命運が、今あなたのその肩にかかっているのです」
ザッカは真剣な目で語りかけた。

「憶えていらっしゃいますか、あの貧民街に行ったあの日、あなたはこうおっしゃった。『この人たちを救う事が出来るならば何でもする』と……」

 ラウラは頷いた。その氣持ちに偽りはなく、今でも変わっていなかった。
「あの時、私はあなたに賭ける事にしたのですよ。私の計画はご存知でしょう」
「グランドロン王国から失われたルーヴラン領とフルーヴルーウー伯爵領を奪回すると……」
《氷の宰相》は深く頷いた。

「そうです。だが、グランドロンの軍事力は我々よりも強い。当たり前の戦争をしても勝つ事は出来ない。我々は奇襲をかけねばならぬのです」
「奇襲?」

「そう、グランドロンに普段のような王城の守りのない特別な祝祭に、花嫁側招待客の行列を隠れ蓑に王都ヴェルドンまで入り込んだルーヴランとセンヴリの連合軍が一氣に攻め込むのです。レオポルド二世には軍を配置する時間すらない。自分の婚礼の真っ最中とあってはね」

「それで、姫ではなく私を……」
ラウラは青ざめてつぶやいた。アニーが叫んだ。
「でも、そんなことをしたら、ラウラ様は!」

「そう、花嫁は危険にさらされる。それをわかっていて、この国のために婚礼の瞬間まで持ちこたえる事が出来るのは、あなたしかいません。そうでしょう、バギュ・グリ殿?」

 ラウラは恐ろしさに震えた。そのような陰謀に加担する事が、重要な役目を担って敵地に赴く事が出来るとは思えなかった。

「お約束します。我々が攻め入って、一番にする事は、あなたとアニー殿を救い出す努力だと。それでも、あなたにはずっと危険がつきまとう。婚礼までの一週間に、もし本物の王女でない事が露見したら、その時点であなたは処刑されるでしょう。それを覚悟で、どうしてもあなたに行ってもらわねばならない。我が国の悲惨な状況をダイナミックに改善するには、これしか方法はないのです」

 たとえ、ザッカの約束が嘘でないにしても、助けが来るまで生きていられる事はないであろう。彼女は他人事のごとく思った。
「私が、嫌と言ったら?」
ラウラは静かに訊いた。ザッカはひるんだ様子もなく答えた。
「あなたは嫌とはおっしゃらない。あの哀れなミリアムの屍をあなたはその目で見たのだから」

「もし露見したらどうなるのですか」
「怒り狂ったレオポルド二世があなた方を殺して攻めてくるでしょうな。感情を持たぬ冷たい兵士たちによって残虐な殺戮が行われ、国中にあのミリアムのような悲惨な死を待つ貧民たちが溢れることでしょう」

「あの方がそのように残虐なことをするとは思えません」
ラウラは青ざめて言った。ザッカは笑った。
「これはこれは。ダンスを踊って社交辞令を耳にしただけで、人格者と判断されるのですか。忘れているようですが、あの王と我々は既に戦争をしてる。ペイ・ノードを守ろうとしたわが国の兵士たちが血を流して死んでいったことをお忘れですか」

 ラウラは黙ってうつむいた。ザッカのいう通りだ。それから顔をあげて、アニーの方を見ながらザッカに言った。
「この若く将来のある娘を巻き込むのはおやめください。犠牲になるのは私一人で十分です」
「そういうわけには参りません。姫がご自身で着替えをすることはない。そしてあなたにはグランドロンの侍女には絶対に見られてはならない左腕の傷がある」

 彼女はザッカの方を睨んだ。
「では、傷のない者が身代わりになればいいでしょう!」
「バギュ・グリ殿。あなたにはわかっているはずだ。この役目が出来るのはあなた一人だ。グランドロン王が、花嫁として迎えたいと願ったのは、あなたなのだから」

 それからすこし取りなすように言った。
「アニー殿は婚儀の時にはもうお近くにはいません。この娘は賢い。自分で安全が確認されるまで隠れている事も、場外に逃げる事も可能だ。あなたが心を配らなくてはならないのは、何としてでも婚儀までは偽物とグランドロン側に氣づかせない事だ」

 ザッカはゆっくりと近づいてきた。それからラウラの目をまともに見て言った。
「あなたは、真の貴婦人だ。生まれや年齢や位には関係なく。それは立ち居振る舞いや優しい心だけの話ではない。勇氣の問題なのだ。私があなたに負わせようとしているのは、どの修行僧でも屈強な兵士でも怖じけづくほどの重い十字架だ。私はそれをわかっている。だが、どうしてもあなたにしか出来ぬ事なのだ。この国の惨状を見て同じ無力さに苦しんだ同志として、あなたにこの国のすべてを託したい。どうかこの十字架を受けていただきたい」

 それから、踵を返し戸口に行くと、兵士たちに命令を下した。
「今夜は、誰一人といえども、この西の塔に近づけてはならぬ。国王陛下であろうと、誰であろうとだ。この部屋に出入りできるのは、アニー殿一人だ。バギュ・グリ殿のお世話は彼女がする、いいな」

 重い扉が閉じられて、彼らが階段を下りて去って行く音が消えると、ラウラは力を失って長椅子に沈み込んだ。
「ラウラ様!」
アニーが涙ながらに膝まづいてきた。

 ラウラは侍女の頬の涙を拭ってやりながら言った。
「許しておくれ。お前を危険から救ってあげる事が出来なくて」

「何をおっしゃるのです。自分だけ逃れて、ラウラ様を一人で行かせて、それで私が幸せだと? それにしてもひどい。私たちは平民だから、たとえ命を落としても誰も文句が言えないと思っているのですわ」

 ラウラは微笑んだ。それから深くため息をついた。
「明日になれば、自由にこの城から出て行けると思っていたのに……」

 子供の頃から、ずっと夢みて憧れていた《シルヴァ》。あの森を通って、どこか知らない土地へと自由に旅していけるはずだった。国から国へ。街から街へ。マックスが行く所を目指し、その街の『カササギの尾』のような旅籠で働きたいと夢みていた。ただ時おり、食事に立ち寄る彼と言葉を交わすために。

 思慕が、どっと押し寄せてきた。あんな遠くから、わずかにお声を聞くだけのお別れになってしまった。いつかまた、お会いしたいからヴォワーズの次の行き先を教えていただきたい、その質問をする事すら出来ずに。明日自由になったら、一番最初にしようと思っていた事。その下宿を探し出して、氣持ちを伝える事。
.17 2014 小説・貴婦人の十字架 trackback0

「趣味にかける毎月の費用は?」

Posted by 八少女 夕

本日はまたしてもトラックバックテーマです。お題は「趣味にかける毎月の費用は?」です。

基本的には0円なんですよね。一応、趣味と言っていいものは二つ、小説書きとギター。どちらも初期投資(Macとギターの購入)は必要でしたが、それ以外は全然かかっていない。

もう一つの趣味は旅行で、これはけっこうかかりますが(といっても、日本のみなさんの旅行費用よりかなり少ないと思われます)、毎月コンスタントにかかるものではありません。

小説に話を戻しますが、これほどお金のかからない趣味もないと思います。さらに、100%自分の好みにできるので「買ってみて趣味じゃなかった」に近いような失敗もありません。まあ、駄作を作っちゃったとしても放棄すればいいことですし、粗大ゴミ代がかかるわけでもないです。しかも、ブログを通して、同じ趣味を持つ人とワイワイ交流できるから孤独な趣味というわけでもありません。

こんにちは!FC2トラックバックテーマ担当の石内です。今日のテーマは「趣味にかける毎月の費用は?」です。皆さん、いろいろな趣味をお持ちかと思いますが毎月どれくらいの費用を費やしていますか?ちょっと前まで、これといった趣味がなかったのですがここ最近、遠征を必要とする趣味ができてしまい… 遠征費を含むと毎月数万円単位で使ってしまっていますそろそろ自制しないと…と思いながらなかなか趣味って抜け出すのが難...
FC2 トラックバックテーマ:「趣味にかける毎月の費用は?」

.16 2014 トラックバックテーマ trackback0

【小説】二人きりのクリスマス

Posted by 八少女 夕

さて、今日の小説はクリスマス企画でございます。しかも、大海彩洋さんの企画にようやく乗れる小説のアイデアがうかんだので、そのお披露目。

彩洋さんの企画: 【物語を遊ぼう】16.名作を書き換えよう

ここで言う書き換えは、登場人物の名前や設定を借りて自由な物語を展開するというタイプの二次創作とは違って、基本的にストーリーの途中まではもとのままで、途中~ラストを変えてしまうというものです。
一応ルールがあって、基本的には物語の途中までは原文のままで設定は変えない(自由枠アリ)、物語の流れに違和感がないようにする(原文の部分~改変部分の継ぎ目に違和感がないように)、などなど、いくつか決まりがありました。
だから自由度は思ったより低かったんですけれど。

でも、ここでは遊びですから、自分が気になっている「あの有名な」物語をいじくってみるのが一番いいですね。
悲劇が気に入らなければハッピーエンドに変えちゃう。

【物語を遊ぼう】16.名作を書き換えよう より


で、正確にはあまり条件を満たしていません。今回下敷きにしたのは、文学作品ではなくてバレエ(の脚本?)です。クリスマスのバレエと言えばあれです。チャイコフスキーの「くるみ割り人形」。E.T.A.ホフマンの童話 『くるみ割り人形とねずみの王様』 を原作にマリウス・プティパがバレエ用の脚本を起こしました。

私の小説は一幕のほとんど終わりから始まります。つまり主人公クララがくるみ割り人形をもらうクリスマスパーティのシーンは省いてあります。それまで書くとあまりに長くなるので、回想的に途中にぶち込みました。納得のいかなかった所、書き換えた所については、追記をご覧ください。




二人きりのクリスマス

 クララは息を飲んだ。ぐんぐんと伸びるクリスマスツリー。ツリーを覆っている白いロウソクの焔は全て吹き消したはずなのに、とても強い光を放っている。人形の家に飾られたティーセットが揺れてカタカタと鳴った。

 時計が12回鐘打った後に、ひたひたと音をさせてドブネズミの集団が集まってきた。四匹の兵卒に肩車をされて剣を振り回している王冠をかぶった黒いネズミの目はオレンジ色に光っていた。クララは悲鳴を上げたが声が出なかった。

 ドブネズミの王がクララの顔を見てベッドを目指して動き始めると同時に、扉が開いてフリッツのコレクションである兵隊人形たちが入ってきた。そして、ベッドの横に寝かせたくるみ割り人形もサーベルを振り上げて、クララを守ろうとした。彼は足を引きずっていた。怪我が痛むのだろう。

 兵隊人形たちと一緒にくるみ割り人形は勇敢に戦ったけれど、ドブネズミの軍団も強くて、闘いは膠着状態だった。くるみ割り人形が果敢に振り上げたサーベルを避けようとしてドブネズミ王は肩車から落ちた。それからドブネズミ王とくるみ割り人形の一騎打ちが始まった。

 くるみ割り人形。今夜のクリスマスパーティで、名付け親であるドロッセルマイヤーさんがクララにくれたプレゼントだった。彼女の兄のフリッツは兵隊人形を貰って、クララのくるみ割り人形が醜いと嘲笑った。そしてフリッツの友達たちも一緒になって醜い人形のことを囃し立てた。「そんなことないわよね」と訊かれたクララの女友達も肩をすくめて無言で少年たちの意見を後押しした。クララは悲しくなって孤立無援のくるみ割り人形を抱きしめた。

 ドロッセルマイヤー氏がクララにどうやってくるみを割るか実演してみた。それを見たフリッツは自分のプレゼントにはない実用的な一面に心惹かれて、クララからくるみ割り人形を奪い取ろうとした。二人の取り合いの最中に大事な人形の片足がもげてしまった。父親の雷が落ちてフリッツと少年たちは退散し、泣きじゃくるクララを母親や友達が慰めた。ドロッセルマイヤー氏がもげた足をなんとか繋げてくれた。くるみ割り人形が足を引きずっているのはそのせいなのだろう。

 真夜中、ドブネズミの軍団と人形の軍隊が激しく戦っている。足を引きずりながらもくるみ割り人形はどちらかと言うと優勢だった。けれど、卑怯なネズミの手下たちはくるみ割り人形の後ろに回って弱点である足にかじりつこうとした。

「危ない!」
クララは夢中でスリッパを投げつけた。どういうわけかスリッパはずっと大きくなってまともにあたったネズミたちはびっくり仰天、そのまま尻尾を巻いて逃げだした。手下がいなくなったのでドブネズミ王も王冠を取り落としてあわてて逃げだした。

 残ったのは巨大なスリッパと、やはりそれに当たって倒れていたくるみ割り人形だけだった。
「大丈夫? 私のお人形さん!」
クララが駆け寄ると、スリッパが小さくなって横に落ち、倒れていた人がゆっくりと起き上がった。それはもう醜いくるみ割り人形ではなくて、おとぎ話の絵本で見る王子様のような凛々しく背の高い美青年だった。

「ありがとう。クララ。あなたが私を救ってくれたのです」
クララは言葉を発することもできず、その輝くような姿を見つめていた。
「あなたを私の王国にご招待しましょう」
「あなたは王子様なの?」

「ええ。私はお菓子の国の王子なのです。けれど誕生パーティでネズミの女王を踏み殺してしまったので呪いを掛けられてくるみ割り人形にされていたのです。あなたが助けてくださったので、ドブネズミ王を打ち負かすことができ、私の呪いは解けました。私の王国での祝宴への招待を受けてくださいますね」

 クララは熱にうなされたように、じっとくるみ割王子の緑の瞳を見つめながら頷いた。

 なんという美しい旅だったことだろう。雪の舞い落ちるどこまでも続く松林を王子と二人で進んだ。雪の精たちが周りを二人を祝福するように踊る。時に優しく、時に狂ったように。冷たい風もなんともなかった。王子が優しく微笑み、そのマントの中にクララを包み込んでくれた。クララの心にはロウソクの燈のようなオレンジ色の焔が燃え盛っていた。私の大好きな王子様! この時間が永遠に続きますように。

 お菓子の国は明るくて華やかだった。全ての壁は生クリームやメレンゲ、それにクッキーで埋め尽くされ、色つきチョコレートの屋根、マーブルチョコレートの床やパーヴェ・ド・ショコラの石畳、カラメル細工の窓枠で覆われていた。赤、ピンク、黄色、緑、青、そして金や銀で彩られ、歩いているだけで心が躍った。

「私の王国はお氣に召しましたか」
くるみ割王子は優しく微笑み、クララは大きく頷いた。なんて素敵な所だろう。

「王子様、お帰りなさいませ!」
「王子様、幸福をお祈りします」

 沿道からの全身お菓子を飾った人びとに手を振ってこたえながら、王子はクララを大きなお城へと誘った。広間には色とりどりのドレスを纏った人びとが王子の帰還を祝うために集まっていた。
「クララ、紹介しよう。こちらはコーヒーの精、チョコレートの精、それにお茶の精……」

 クララはにこやかにアラビア風の衣装を身に着けた男女、スペイン風の衣装をまとった二人、そして小さい中国人たちに挨拶した。彼らは王子を助けてくれたことへの礼を言うと、それぞれが素晴らしい踊りを見せてくれた。ロシアの踊りや牧人たちも踊ったあと、ピンク色の砂糖菓子の妖精たちが花ひらくような心躍るワルツを魅せてくれた。

 クララは幸福に浸っていた。こんなに幸せなことがあるだろうか。お菓子に囲まれて夢にまで見た凛々しい王子様と二人で素晴らしい踊りを眺めている。クララはそれを伝えようと背の高い王子を見上げた。王子はにっこりと微笑むと言った。

「命の恩人であるあなたに、ぜひ紹介したい人がいます。私の最愛の女性、許嫁である金平糖の精です」

 クララは王子が何を言っているのかわからなかった。戸惑っているクララの前に白と黄金の衣装を身に着けた輝くように美しい女性が表れて、頭を下げた。王子は金平糖の精の手を取り、その手の甲に愛しげに口づけをすると幸せに満ちたパ・ド・ドゥを踊りだした。

(どうして?)
クララは泣きそうになり顔を背けて横を見た。そこには大きな鏡があって、小さな少女であるクララが映っていた。寝間着を着て、裸足で、たった十歳の何もできない少女の姿だった。涙で目の前が曇ってきた。

「そろそろお別れの時間です」
お菓子の国の妖精たちが、くるみ割王子と金平糖の精が、名残惜しそうに手を振っている。帰らなくてはいけないのだとクララは悟った。私はあそこで王子様と暮らすことはできないのだと……。
「さようなら、さようなら……」

* * *


 ノックの音がうるさい。クララは目をこすった。彼女は自分のベッドにいた。もう朝だった。はっと横を見るとくるみ割り人形は、昨夜横たえたのと同じ位置に横たわっていた。

 ノックが続いている。
「クララ? まだ寝ている?」
フリッツの声だ。妙に猫なで声だけれどどうしたんだろう。クララはそっと起き上がると、昨日ネズミたちに投げたはずなのに、ちゃんと行儀よくならんでいるスリッパに足をつっこみ、そっと部屋のドアを開けた。フリッツが頭をかいていた。

「おはよう。その……昨夜のこと、まだ怒っている? その、パパとママがクララと仲直りするまではクリスマスプレゼントを開けちゃいけないって……」
フリッツの意図がわかったクララは皆までいわせなかった。すぐにデスクの所に行くと、銀色のボンボニエールを手にして戻ってきた。中にはたっぷりと金平糖が入っている。

「フリッツ、あたしも悪かったわ。これ、お詫びのしるし。クリスマス、おめでとう!」
そう言って意外な成り行きに呆然とするフリッツの手の中にボンボニエールを押し付けた。

「そ、それはどうも。あ、でも、僕、どっちかというと、金平糖よりチョコレートの方が……」
そういうフリッツの鼻先でクララはばたんと扉を閉めた。

 それから彼女は、ベッドに横たわるくるみ割り人形の所に戻った。昨日と同じように醜くかったが、朝日の中でその顔は笑っているようにも見えた。
「これでいいの。やっと二人きりになれたわね」

 平和で素敵なクリスマスの朝だった。他のプレゼントなんて何もいらない。クララはくるみ割り人形をぎゅっと抱きしめた。

(初出:2014年12月 書き下ろし)

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さて、どこが変わっているかというと、最後の朝のシーンです。クララが金平糖をフリッツに押し付けて……みたいなブラックなくだりはバレエにはありません。

でも、子供の頃にくるみ割王子と金平糖の精のパ・ド・ドゥを観て、裏切られたような氣持ちになったのですよ。「ええっ、この期に及んでなぜ他の女と踊るわけ?」って。

バレエを全く観ない方には事情がわからないでしょうから、ちょっと解説します。このバレエの主人公クララを演じるのは、そのバレエ団のプリマの場合と、バレエ学校などに在籍中の少女の場合と2パターンあるのです。クララは子供の設定ですが、プリマがとても背が高いと子供に見えないのですよね。で、クララを大人が演じる場合は、金平糖の踊りを含むパ・ド・ドゥはいつの間にか着替えたクララ役のプリマが踊るのでそれでいいのですが、子供が演じている場合は、さすがにパ・ド・ドゥのような難易度の高いものは踊れないわけです。それで、「金平糖の精」という他の女が唐突に登場し、目の前でくるみ割王子と踊るわけです。

要するに子供が主役のストーリーでも見せ所のパ・ド・ドゥは外せないというバレエ団側の大人の事情があるわけですが、子供だった私にはそんなことはわかりません。まるで目の前で他の女に王子様がかっさらわれたように見えたわけです。舞台の演出では、クララ役の少女はそんなどす黒い様子は見せずに憧れの視線で二人を見つめ、お別れも無邪氣に幸せそうにやっていましたが。

そういうわけで、今回の作品では、「くるみ割り人形から金平糖を遠ざける」という嫉妬に駆られたクララを加えてみました。しょーもないですね。

あ、どうでもいいことですが、「金平糖」は日本で上演されるときの慣例でそうしましたが、原作では「ドラジェの精」です。銀のボンボニエールに入れられて結婚式の引き出物として配られたりする、あれですね。
.14 2014 読み切り小説 trackback0

ポルトは働き、ブラガは祈る

Posted by 八少女 夕

「Infante 323とポルトの世界」カテゴリーの記事です。オリジナル小説「Infante 323 黄金の枷」にはモデルとなったポルトの街が時々登場しますが、フィクションの部分と現実との混同を避けるためにあくまでも「Pの街」として書いています。そういうわけで、本文中には挿入できなかったポルトの写真をこのカテゴリーにてお見せしています。

ブラガの大聖堂

今回、三兄弟の母親であるマヌエラが神に祈るモノローグがありました。

ポルトガルの国教はキリスト教(カトリック)です。日本だと政教分離の原則は当然のことと思われていますが、世界には政教が全く分離していない国の方が多いかもしれませんね。ドイツ系スイスやドイツなどゲルマン系の国々では、それでも「今どき宗教ね」という人も多いのですが、カトリックを信仰する国々では、かなり熱心な信者が多いのです。ポルトガル大統領に選ばれると自動的に「キリスト騎士団」のグランド・マスターとなるという面白い事実もあります。

そのポルトガルの中でももっともホーリーなのがポルトから車で一時間ほどの場所にあるブラガという街です。「リスボンは楽しみ、コインブラは学び、ポルトは働き、ブラガは祈る」という風に、街の人びとの氣質を表す言葉があるぐらいなのです。実際にさほど大きい街ではないのですがやけに教会が多いのです。案内してくれた運転手のお兄さんが「ここは、ポルトガルにローマを再現しようとしていたんだってさ」と説明してくれました。

外を眺めて

この写真は、どこかの教会で撮ったのですが、どこだか忘れてしまいました。なんとなく暗闇の中から明るい外に憧れる23をはじめとするインファンテたちのイメージが浮かんで撮った写真です。

外で普通に育ったマヌエラは熱心なキリスト教徒という設定です。一方で、23は全然敬虔ではないということになっています。この件に関しては、後に特別に一章を割いていますので、ここでは割愛します。敬虔ではないけれど、音楽として「アヴェ・マリア」を弾いたりしている23なのでした。


この記事を読んで「Infante 323 黄金の枷」が読みたくなった方は……

「Infante 323 黄金の枷」「Infante 323 黄金の枷」をはじめから読む
あらすじと登場人物




【次回予告】「Infante 323 黄金の枷」 (11)作業

 夕方までやったが、靴型の山は三分の二くらいになっただけだった。23はメネゼスに翌日もマイアを借りていいかと訊いた。その晩マイアはあまり嬉しそうで、マティルダに「どうしたの」と訊かれてしまった。


マイアは、メネゼスに言われて23の作業を手伝うことになりました。彼と長時間一緒にいられることに舞い上がります。いつだったか話していたサンドイッチの話や、外伝で出てきた「四角い石」の話も出てきます。2015年1月初旬の更新予定です。お楽しみに。
.13 2014 黄金の枷 とポルトの世界 trackback0

【小説】Infante 323 黄金の枷(10)アヴェ・マリア

Posted by 八少女 夕

Stella用連載小説「Infante 323 黄金の枷」です。次のStellaは合併号なので二つ出すことになります。

さて、今回はドンナ・マヌエラの回想が主になります。この小説では最後の章まで主人公の意志や想いがほとんど出てきません。この章では、例外的に母親の回想という形で少年だった頃の23の言葉がたくさん出てきます。館の中における人間関係で、23が少し特殊な閉じこもり方をしている理由のいくつかがここで明らかになります。


月刊・Stella ステルラ 1・12月合併号参加 連載小説 stella white12
「月刊Stella」は小説、イラスト、詩等で参加するWEB月刊誌です。上のタグをクリックすると最新号に飛びます。


「Infante 323 黄金の枷」「Infante 323 黄金の枷」をはじめから読む
あらすじと登場人物





Infante 323 黄金の枷(10)アヴェ・マリア

「ミニャ・セニョーラ(奥様)。ジョアナから報告がありました。マイアはやはりライサのことを訊き回っているようです」

 石のように無表情で報告するメネゼスをマヌエラはちらりと見た。けれど、特に動揺した様子は見せなかった。
「それなら、以前も言ったようにかえって好都合でしょう? ここにいる限りライサの家族とは連絡が取れないんですから」

「しかし二ヶ月経ったら、休暇を与えなくてはなりません。この屋敷に留めることは不可能です。それとも、それまでに宣告を受けるとお考えですか?」
「まさか」
「それでは、いかがなさいますか」

「もうしばらく様子を見て、必要なら私から話をします。どうかそっとしておいてください」
「かしこまりました、ミニャ・セニョーラ」

 メネゼスが下がると、マヌエラは机の引き出しから紙挟みを取り出して開き、一番上にあるマイアの書類を取り上げて眺めた。メネゼスが二人の応募者がいるとこの書類を持ってきた時のことを思い出した。

「一人はミカエラ・アバディス、星三つの娘です。もう一人がサントス先生の推薦してきたマイア・フェレイラという娘です」
「あなたはどちらが適任だと思うの」
「二人とも召使いとしての経験はありません。経歴からするとフェレイラの方が教えやすいと思いますし、サントス先生の推薦なら申し分ないのですが……」
「何か問題が?」

「はい、《監視人たち》側からの報告書によりますと、どうやらライサ・モタの妹と知り合いのようなのです」
「そう……」

 マイアの書類をもう一度眺めたマヌエラは、はっと息を飲んだ。マイア・フェレイラ……、サントス先生の推薦……。それから記憶を遡って年齢を逆算した。この子は、あの時の……。

「メネゼス。私、このフェレイラという娘を雇おうと思うんだけれど」
「ミニャ・セニョーラ? いいのですか?」
「この館にいれば、監視も行き届くしちょうどいいんじゃないかしら。それに、憶えている? この子は、あの石鹸を持ってきた子でしょう」

 メネゼスもはっとした。それから、女主人の意図がわかったので、深々と頭を下げた。

 彼女はメネゼスの出て行ったドアをしばらく見ていた。そして、書類を強く握りしめていたことに氣がつき、手を離すとゆっくりと手のひらを動かして作ってしまった皺を伸ばした。マイアの名前のところで手を止めて、その名をなぞった。

 十二年前、それは突然始まった。洗濯を担当する召使いが報告にやってきた。23が「寝ている間に下着を汚してしまった」と戸惑っていると。声変わりも始まっていたし、アルフォンソが先に同じようになったので、マヌエラには23も思春期が始まったのか程度にしか思えなかったのだが、夫であるカルルシュは青ざめた。「ついにその時が来てしまったか」

 それから、館では大きな変化があった。現在24の居住区となっている所に住んでいたカルルシュの弟、インファンテ322がボアヴィスタ通りの別邸宅に遷ることになった。そして、誰も住んでいなかった隣の居住区に23の部屋にあった全てが移され、十四歳になったばかりの少年は鉄格子の向こうに閉じこめられた。

 23はそれまでずっと手のかからない子供だった。少々内向的だとは思っていたが、彼女は心配もしていなかった。病氣がちだった夫と心臓疾患を抱えるアルフォンソ、甘える末っ子の24に忙殺されていたマヌエラには、その時間もなかった。閉じこめられたくないという子供の氣もちは痛いほどわかったが、父親である当主のカルルシュにすらどうすることも出来ない伝統だと言われ、そのことを考えるのはやめていた。直に背中が痛い、体が重いと訴えた彼を、誰もが鉄格子から出たいがための仮病だと決めつけた。それから高熱が出て、医者がやってきてくる病だと診断するまで、誰も彼の訴えを真面目に取り合わなかった。

 その時には脊椎後湾はずいぶんと進んでいた。もともと内向的で外に出たがらなかったために日光不足でビタミンDが不足していたのだ。閉じこめられてさらに日照量が減ったことも大きく作用した。マヌエラはそんなことになるまで我が子の状態に氣がつかなかったことに愕然とした。そして、さらにもっと厳しい現実を突きつけられることになった。インファンテは法律上は存在していないので、入院も手術もできなかったのだ。もし、アルフォンソが健康であったなら、彼の名前で手術することが出来たかもしれない。だが、アルフォンソは一ヶ月と開けずに入退院を繰り返していた。

 悪いことが続いた。脊椎後湾に対する使用人の心ない噂話を23は耳にしてしまった。いずれは自分も同じ待遇になると夢にも思わなかった24が格子の向こうの兄をあざ笑い、背中に関する意地の悪い言葉を投げつけた。叱責はこれらの再発は防いでも、既に発せられてしまった言葉を取り消すことは出来なかった。傷ついた23は体を見せることを嫌がり、風呂に入らなくなった。医師に処方されたサプリメントを勝手に過剰摂取して副作用の嘔吐と高熱にも苦しんだ。

 部屋をめちゃめちゃにし、教師の命じた課題をやらなくなり、これまで言ったことのない悪い言葉を遣い、食事の時に出してもらえると頻繁に24と取っ組み合いのけんかをして皿やコップを壊した。手を焼いた父親のカルルシュは、23が問題を起こす度に暗くて寒い元倉庫に閉じこめた。マヌエラが懇願して出来るだけ早く館に戻してもらったが、彼の蛮行はひどくなる一方だった。

 その23が急に風呂にだけは入るようになった。以前は当たり前だった使用人の手伝いを一切拒否し、一人で長いこと入っているとジョアナから聞き、マヌエラは様子を見に行くことにした。

 そっと浴室のドアを開けて覗くと、23は肌が赤くなるほど強く体をこすり、嗚咽を漏らしながら髪を洗っていた。
「ちゃんと洗っているのに、こないじゃないか……」

 マヌエラはそのつぶやきを聞いてすぐに理解した。二週間ほど前にメネゼスから報告を受けていた少女のことだと。生け垣から忍び込み、見つけたメネゼスが即座につまみ出したという少女は、元倉庫の裏手で23を探していたらしい。 

* * *


「ごめんなさい。勝手に忍び込んだりして。でも、泥棒じゃないんです。夕陽を観に来て、友達になった子がいるんです」
「いい加減なことをいうな。ここに子供なんかいない」
「嘘じゃないわ。あそこの窓の所にいたもの」

 なんてことだ。それでは、彼に逢ってしまったのか。メネゼスは心の中で舌打をした。

 少女はポケットから重そうに紫色の石鹸を取り出した。それは小さな少女の両手からはみ出すほど大きかった。
「これ、あの子に持ってきてあげるって約束したんです。逢わせてもらえないなら、あの子に渡してください」

 メネゼスはその時になって初めて少女の左手首に腕輪がついているのに氣がついた。助かった。《星のある子供たち》の一人ならすぐに素性がわかる。

「よろしい。渡してあげるが、誰からと伝えなくてはならない。お前の名前は」
「マイア。マイア・フェレイラです」
「もう二度と忍び込んだりしないと約束できるか」
「……。はい」

* * *


 メネゼスの連絡を受けて、《監視人たち》の本部はすぐに動いた。マイアの家族はナウ・ヴィトーリア通りに引越すことになった。街の東端にある地区で子供の足でドラガォンの館まで歩くのは不可能だ。そして生け垣はもう誰も忍び込めないようにすぐに修復された。

 侵入者はドラガォンにとっては排除すべき邪魔者に過ぎなかったし、マヌエラ自身もその報告を受けた時にそれが息子を悲しませることになるとは夢にも思っていなかった。23は新しい使用人にひどく人見知りをするので、知らない子供と友達になりたがるなどとは思っていなかったから。けれど、彼は少女を待っていた。

 彼女はドアを開けて、バスルームへ入っていった。彼ははっとして動きを止めた。濡れるのも構わず、マヌエラは息子を抱きしめて泣いた。
「あの子はね。お前がイヤで来ないんじゃないの。お前に会いに来たのに、メネゼスに見つかってしまって、近づけないように遠くヘ引越させられてしまったの。メウ・トレース、お前のきもちをわかっていなかった私を許してちょうだい」

 その夕方、彼は大きなすみれ色の石鹸を母の手から受け取った。それは、彼の手にもずっしりと重かった。彼は壊れやすいガラス細工に触れるようにそっとなでた。

「どんな子だったの?」
「健康そうだった。笑顔がかわいかった。軽やかに走っている姿は鹿みたいだった。あの夕陽の光景が好きで、こんな姿の俺にもイヤな顔をしなかった」
「あなたの初恋ね」
「そんなんじゃないよ!」

 そういってから、声を荒げたことを後悔して項垂れた。
「……友達ができると思ったんだ。本に書いてあるみたいに……」
それを聞いて、マヌエラはようやく思い至った。外に出ることのない三兄弟には友達がいない。自分には禁じられなかったが故に、そこまで渇望したことのない友という存在を、持つことが許されなかった23がどれほど必要としていたのかを。

 彼は格子のはまった窓から暮れていくD河を眺めながらぽつりと言った。
「ねえ、母上。教えてよ。どうしてなんだろう」
「メウ・トレース?」
「動物みたいに檻に入れられて。せっかくできた友達も遠ざけられて。父上もメネゼスも禁止するか罰するばかり。いつでもいい子じゃないのはアルフォンソや24だって同じなのに、どうして俺だけみんなに嫌われるんだろう」

 マヌエラは驚いて言った。
「何を言うの。誰もお前のことを嫌ったりしていないわ。理不尽なことだけれど、これは全てドラガォンの伝統で……」

 23はその言葉を遮った。
「母上。無理して慰めないでよ。俺を見るみんなの表情を見ればわかるんだ。話し方や、時間のとり方だって違う。アルフォンソは宿題をしないで寝ていてもいいし、24は悪戯をしてもみんなに可愛がられる。母上もアントニアも24と話す時はいつも笑顔だよ。でも、俺のことは動物が噛みつかないか心配するみたいに見るんだ」
「メウ・トレース、違うの、私は閉じこめられたお前が不憫で……」
「いいよ。困らせるようなことを言ってごめんなさい。もう言わないよ」

 兄であるアルフォンソはプリンシピであるが故に閉じこめられることはなかった。弟の24は23と同じ運命にあったが、まだその時期に来ていなかった。だがそれを説明した所で彼の心の傷が癒えるわけではなかった。アルフォンソは心臓病のため常にいたわられ、24は天性の甘え上手で屋敷の全ての大人たちに愛されていた。内向的で打ち解けない23に対しては、部屋の隅でひとり本を読んでいる姿に安心して、あえて話しかけたり一緒の時間を過ごそうとする人はほとんどなかった。マヌエラ自身も。

 そのことに一人で心を悩ませてきた少年は、閉じこめられたことで自己否定のループにはまり込んでいた。父親と兄の健康状態は深刻だったが、彼の症状は生命には関わらないという理由で放置され、それが自分の価値が低いからだと思うようになっていた。友達がいないことに加え、嫌われることを怖れて悩みを誰にも話せなくなっていた。マヌエラはずっと子供たちを等しく愛していると自信を持っていたし、全ての子供たちのことを理解していると信じていた。本当は何もわかっていなかったのだ。

 息子の誤解を解こうとするマヌエラにそれ以上言わせまいと23は話題を変えた。
「あの子はGの街に引越したの?」
「いいえ。河や海からは離れた所よ」
「じゃあ、もうD河に沈む夕陽は見られないの?」
「見られないでしょうね……」

「そんなの、ひどいよ! 元に戻してあげてよ」
マヌエラは23の剣幕にたじろいだ。
「メウ・トレース。あの子のお父さんは新しい職場で働きだしたし、あの子と妹たちはもう新しい学校に通っているの。《監視人たち》の中枢部が動いてしまったら、もう物事は簡単には動かせないの。かわいそうだけれど、私にもお父様にももうどうすることもできないの」

 23はひどく項垂れた。
「俺が話しかけたりしたから……」

 その少女が二度と来られないと理解してから、23は一切問題を起こさなくなった。悪い言葉を口にしたり、24と取っ組み合いのけんかをすることもなくなった。あのひどい反抗が、再びあの小屋に閉じこめてもらうための彼なりの努力だったことを知ってマヌエラの心はひどく痛んだ。友達がほしいという言葉を二度と口にすることもなかった。檻から出してほしいと頼むこともなくなった。

「ようやくわかってくれたか」
カルルシュは申しわけなさそうに息子を抱きしめた。23は表情を変えずに黙り込んでいた。

 あれから十二年が経った。23がマヌエラの人生に苦悩を投げかけたのは、後にも先にもあの時だけだった。けれど彼女にはわかっていた。息子の抱えている問題が解決したわけではないことを。むしろそれが深く潜っていってしまったことを。友達という名のわかりあえる誰かを求めて怯えながら伸ばした手を、握り返してくれようとした小さな手を無情に取り除かれてしまったがために、もう二度と伸ばそうとすらしなくなってしまった。

 牢獄のような鉄格子の向こうから、ギターラの音色が響いてきた。ほとんど誰とも関わろうとしない23が唯一見せる感情の発露、それがギターラを爪弾くことだった。いま弾いているのは「シューベルトのアヴェ・マリア」とも呼ばれる「エレンの歌第三番」。「アヴェ・マリア」マヌエラはつぶやいた。私はあなたに祈ります。どうか私の試みが、あの子を再び傷つけたりしないようにお守りください。

 ドラガォンと《監視人たち》が当主、プリンシピ、インファンテたちに求めているものは単純で明確だった。「竜の血脈」を繋ぐ子孫を作り出すこと。相手が誰でも構わなければ、それによって本人が幸せかどうかも関係なかった。たぶんメネゼスが彼女の意志を後押ししてくれたのも同じ理由からに違いない。

 けれど、母が我が子に望むのは機械的な伝統などではなかった。そんな冷たい伝統につぶされてしまいそうな魂に、真の幸福をつかませてやりたいという願いだった。マイア・フェレイラが自分の意志でここを目指していることを知った時に、彼女は決心したのだ。振り子を動かす最初の力を加えてやろうと。あの時から止まってしまっている23の魂の時計を再び脈打たせてやるために。

この記事には追記があります。下のRead moreボタンで開閉します。

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「エレンの歌 第三番」はとても有名ですが、一応。さすがにギターラバージョンは見つからなかったので、クラッシックギターのもので。


Ave Maria Schubert Guitar Arnaud Partcham
.10 2014 小説・Infante 323 黄金の枷 trackback0

うちのキャラを月にたとえてみました

Posted by 八少女 夕

ついこの間、花バージョンをやったばかりなんですが、ポール・ブリッツさんがまた難しい挑戦状を……。「こうなったら月でやれ」「花鳥風月をコンプリートにするために、なにがなんでもやれ(を、とても上手にオブラートに包んで仰せでした 笑)」

で、同じキャラでやっても面白くないので、「読み切り作品の主役」または「長編の脇役」バージョンでやってみることにしました。あ、長所と短所は長くなるので、却下しました。一応リンクは張っておきますが、まあ、全部のキャラを憶えている方はいないでしょうね……。




◆孤月(こげつ)=寂しげにみえる月。
寂しいというイメージから
「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」から《黄金の貴婦人》ことマリー=ルイーゼ

◆皓月(こうげつ)=清く澄んだ月のこと。
強く澄んだ瞳のイメージから
「その色鮮やかなひと口を」から和菓子職人ルドヴィコ

◆朧月(おぼろづき)=わずかに霞んだ月のことで、春の季語。
春、といったら誰がなんといおうと
「樋水龍神縁起」から樋水龍王神(いわゆる龍王様)

◆有明の月=明け方になってもまだ残っている月の総称。下弦の月の時に見られる。
夜更かしというか朝寝のイメージから
「彼岸の月影」から北村燁子

◆立待月(たちまちづき)=十七夜のこと。日没後、立って待っていると現れるから。
神出鬼没にやってきておいしいお酒とご飯をおごってくれる
「大道芸人たち Artistas callejeros」からカルロス(カルちゃん)

◆待宵月(まつよいのつき)=十四夜のこと。
満月の直前、もっとも美しい時期というイメージで
「リナ姉ちゃんのいた頃」からリナ・グレーディク

◆不知夜月(いざよいつき)=十六夜のこと。
満月(最高の時期)を過ぎたというイメージから
「いつかは寄ってね」シリーズの『でおにゅそす』の涼子

◆弓張月(ゆみはりづき)=七日月。半月
弓を張っている=戦士というだけの連想で
「明日の故郷」からボイオリクス

◆眉月(まゆづき)=三日月
麗人の眉の形からイメージされる月なので、そのイメージの麗人を。
「Infante 323 黄金の枷」からドンナ・アントニア

◆新月
先が全く見えないけれどこれから膨らむ希望をこめて
「マンハッタンの日本人」シリーズから谷口美穂

◆天満月(てんまんげつ/あまみつき)=十五夜
唯我独尊で怖いもの無しのイメージから
「タンスの上の俺様」から俺様ネコ

◆ハネムーン=新婚期間のこと。蜜月ともいう。かつては外に出ずに子づくりに励んだらしいが、今は反対にその名目で出かける新婚旅行ですね。
よく考えたらハネムーン系で発表したカップルって彼らだけ?
「夜のサーカス」からマッダレーナ&ブルーノ

◆ブルームーン=青く見える月。もしくはひと月に二度満月が来る場合に使われる。転じて"once in a blue moon"は「極めて稀なこと」「決してあり得ないこと」といった意味で使われる慣用句
極めて稀な才能を持ったサヴァン
「終焉の予感」シリーズからアダシノ・キエ

◆夕月(ゆうづき)=日没前後に見える月のこと。
これは単に名前から私、八少女 夕。(そういうオチ)



ここから後は再び蛇足。いつかどこかで語ろうと思っていた、キャラの外見をどうやって決めるかというお話。

私は日本のテレビ番組やアニメなどを目にする機会が現在ほとんどない上、日本にいた時もテレビをほとんど見なかったので、現在人氣の俳優やアニメのキャラなどをイメージしてキャラの外見を決めることはほとんどありません。反対に、ブログのお友だちの小説の裏話で「俳優の○○さんがモデルです」という話を読んでもさっぱりどんな顔だかイメージが湧かないことがほとんどです。

こちらに来てから、どちらかというと外国人キャラを書くことが増えましたが、そのモデルでも俳優などをイメージすることはかなり少ないです。基本的には、そこら辺にいる人でキャラの性格に合う人をイメージしています。例えば先日ご紹介した「Infante 323 黄金の枷」の主人公23のモデルなんかがそのいい例ですね。

「樋水龍神縁起 Dum Spiro Spero」のヒロイン瑠水は、外見を考えている時にたまたま横を通り過ぎた少女の佇まいが氣にいったのでそうしました。「眉毛がへの字型で、笑っていても泣いているように見える」という妙に具体的な記述はそこからです。

そんな中で、有名人から外見をいただいてきたとはっきり言えるのは「大道芸人たち」のカルちゃんことカルロス。メキシコ生まれのテノールRolando Villazónがモデルです。ご存じない方はGoogleで画像検索していただくと私のイメージが即おわかりいただけるかと(笑)

そして蝶子のイメージも珍しく女優。香港の女優であるケリー・チャンです。そして具体的な有名人をモデルにした最後の一人が「大道芸人たち」の重要な脇役の一人ヤスミン。この人のモデルはイギリスの歌手ケイティ・メルア。もっとも三人とももう馴染み過ぎて、自分の中では別人になってしまっていますが。

実をいうと、ここまではっきりとしたイメージがないキャラもけっこういます。かなりアニメに近い顔をしているキャラも多いかも。「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」のキャラたちはあまり実写っぽくなくアニメっぽい顔をしています。

実写っぽいか、アニメっぽいかは別として、書きはじめる時には主要人物に関しては外見の設定があります。背は高いのか低いのか、痩せているか小太りか、外国人の場合はどんな髪と瞳なのか、男性の場合は髭があるか、あるとしたらその形状は、またどんな服装を好むのかなども決めます。でも、脇役(たとえば侍女など)は何も考えていないこともあります。
.08 2014 構想・テーマ・キャラクター trackback0

腐るほどの金の使い道

Posted by 八少女 夕

今日は久しぶりに「となりのブログで考えた」カテゴリー。 

cumbrousさんが、別のブログ(KU2さんの「話’ ―てんではなしにならない―」)から、こんな面白い話題を引き継いで展開なさっていらっしゃいました。使い切れないほどのお金があったらどうするかという話題です。

腐るほどの金があって、それを使う。ただし、モノとして残してはいけない。だから土地買って家建てて… ってのはダメ。 …さあ、ゲームの始まり! 何に使うかな? 
(「KU2さんの記事「腐るほどの金の使い道 その1」」より抜粋)


cumbrousさんのアンサー
腐るほどの金の使い道(cambrouse編)
腐るほどの金の使い道 その2(まとめ?)


で、私も考えてみました。で、残しちゃダメなら、きっと旅するでしょうね。

(1)まだ行っていない行きたい有名観光地
アンコールワット、マチュ・ピチュ、桂林、カッパドキア

(2)リゾート
ニュー・カレドニア、モーリシャス、タヒチ

(3)いつかは行きたい秘境
ギアナ高地、マダガスカル、アマゾン、峨眉山

(4)ちょっと興味アリ
カーボ・ヴェルデ、キューバ、マデイラ島

(5)普通はそんな時期に行けない所で五つ星ホテル滞在
クリスマスのヴァチカン市国、ヴェネチアのカルナヴァル、神在祭の出雲

(6)豪華列車の旅 〜 全行程の盛装や宝石も必要
ロボスレイル(南アフリカのケープタウンからタンザニアのダル・エル・サラームまで)
オリエント急行

(7)うちからサン・ティアゴ・デ・コンポステラ(スペインの端)まで歩く。
泊るのは高級ホテルかパラドール。

(8)日本全国の桜の名所めぐりと紅葉めぐり
高級温泉旅館がいいな。

(9)ヒマとお金がないとできない、テーマを決めての旅
「アーサー王伝説ゆかりの地」「ベートーヴェンが引越した場所を全部探す」など

(10)ウィーンのシェーンブルン宮殿内(の賃貸フラットがあるらしい)に一年住む

(11)ひとつの美術館に一ヶ月毎日通う
ルーブル、ウフィッツィ、パラティーナ宮殿、ドレスデン、プラド、ヴァチカン、エルミタージュなど

(12)秋の南仏のワイン農場に二ヶ月滞在。あ、ドウロ河沿いでもいいな
もちろん飲んで食べて寝る生活。

書いていて思ったんですが、cumbrousさんの世のため人のためモードの奥ゆかしさと比較して、この私の煩悩垂れ流し状態はいったいなんなんでしょう! で、自分では所有しないということなので、せめて、行く先々ではチップを弾み、人助けなんかもしちゃったりして、罪悪感を誤摩化すことにしましょう。

ま、妄想しているだけですから……
.06 2014 となりのブログで考えた trackback0

【小説】森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架(20)申し込み

Posted by 八少女 夕

「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」の続きです。最初にでてくるのは、旅籠『カササギの尾』でマックスとお友だち状態であるジャックと、その恋人で姫の侍女であるエレイン。地下で逢い引き中です。

二人の会話から、二王国の縁談がまとまってしまったことがわかります。主人公二人にはこの縁談は他人事ですので、反応ものんきかもしれません。
(しばらくリードが間違っていました。「?」と思われた方、お詫びいたします)


「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」を読むこのブログではじめからまとめて読む
あらすじと登場人物




森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架
(20)申し込み


「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」関連地図

「し~っ。静かに。本当は、まだ私、姫さまの御用で街にいる事になっているんだもの」
「わかっているよ、エレイン。でも、この前に逢ったのは十日も前だぜ。お前、俺に逢いたくなかったかい」
「そりゃ、もちろん、ジャック……」
「じゃあ、どうして、昨日の手紙に返事をくれなかったんだよ。俺、マウロが手紙を持ってきてくれなくて、ものすごくガッカリしたんだぜ。アニーと喧嘩でもしたのか?」

 暗い部屋にはほんの少しの明かりが小さな窓から入ってきていた。城の最下層は半地下になっていて、倉庫や武具、それに飼料などが納められていた。ここには用事のある召使いたちや下級兵たちしかやってこない。ジャックとエレインが勤務中に逢い引きをすることはもちろん認められていなかったので、仲間の誰にも見られないように周りを氣にせねばならなかった。二人はお互いの親友であるマウロとアニー兄妹の協力を得てわずかな逢瀬をもっていた。

「違うの。マウロにあなたが預けてくれたあの手紙ね。アニーは昨日からなんとか私に渡そうとしてくれたんだけれど、それどころじゃなくて」
「何があったんだい」
「驚かないでね。グランドロンの王様から正式に姫さまに結婚の申し込みがあったのよ」

「なんだ、そのことなら、こっちでも聞いていたよ」
「あら、だったらわかるでしょう。私たちがどんなに慌てたか。どうして宰相さまは早くお断りしなかったのかしら」
「何の問題があるんだい? このご縁談は前から進んでいたじゃないか。そのつもりでティオフィロス先生に来てもらったんじゃないか。この間グランドロンの王様が来た時も、姫さまと上手くいきそうだったらしいし」

 エレインはそっとジャックの耳に口を寄せた。
「あれは姫さまじゃなかったのよ。あの姫さまに王様を満足させるような応対がおできになるわけないでしょう?」

 ジャックはびっくりして暗闇の中でよく見えもしない可愛い恋人の表情を読もうとした。
「じゃ、グランドロンの王様と踊っていたのは……」
「ラウラさまだったの。お断りするからバレないって話だったのに……」

「なんでそんな事をしたんだ?」
「姫さまに会ったら、断られるに決まっているじゃない。会って断られたなんて、姫さまの名誉に傷つくわ。だから、まずはそこそこ氣にいってもらえるようにして、こちらから内々に断るってはずだったのよ! でも、正式に申し込まれてしまってから断ったら今度はあちらの名誉に関わってくるじゃない。それで、いったいどういう事なんだって、昨日は大騒ぎだったの。だから、アニーと私の二人きりになる機会が全然なかったの」

「おかしいな、ザッカさまも国王陛下も、そんなに慌てているようには見えなかったんだが」
「そうなの? どうするおつもりなのかしら」

 それから数日経って、マリア=フェリシア姫がこの婚儀に正式に合意した事が発表された。王太女である姫がグランドロン王との婚姻を結ぶ事は、すなわち二つの王国が次の代には一人の国王によって治められる事を意味していたので、大きな驚きが内外に広がった。既に長い事水面下で調整されていたため直ちに婚儀の日程が決定され、わずか一ヶ月後に姫はグランドロンへと向かい、到着後一週間待ってから婚姻の儀が執り行われる事となった。父親である国王エクトール二世は姫に堂々たる様子で祝福を伝え、姫は艶やかに笑ってそれを受けた。

 事情を知っているわずかな人間は、この楽観が全く理解できず、一体どうなる事かと眉をひそめた。

「だって、そうでしょう。ラウラ、あなたはレオポルド陛下とかなりたくさんお話をしたように見えたのだけれど……」
宮廷奥総取締のベルモント夫人は不安そうに言った。
「はい。とにかく断られる口実を作らないようにと言われましたので、グランドロン語で……」
「それでは、向こうについた一日目には、もうわかってしまうと思うのだけれど」
ラウラは否定しなかった。

 国王も姫もそれで構わないと思っているように見えた。あの時、断るからと言ったはずのザッカまでもがその事にはまったく憂慮しているようには見えなかった。

 ラウラはレオポルド二世の事を考えた。あの時、同じ志を持つ友だと言ってくれた彼は姫と結婚してどう思うのだろう。こんなはずではなかったと思うのだろうか。それとも、ルーヴランが手に入ればそれでいいと思うのだろうか。

 ラウラの心の半分はその憂慮を離れて突然降って湧いた一ヶ月後の自由に喜び踊っていた。一ヶ月後にマックス・ティオフィロスが新天地を求めて旅立つのと時を同じくして、彼女は自由になれる。もう二度と姫の代りに打据えられる事もなくなる。どこへ行き何をするのか、全て自分で決定できるようになる。

 ラウラはバギュ・グリ侯爵に自由を願い出るつもりだった。養女とは言え、一度たりとも父親らしく家に迎えてくれた事もなければ、実の娘のエリザベスに届けていたような贈り物も受け取った事がない。それどころか優しい言葉を聞いた事もなかった。鞭で打たれるためだけに存在した娘なら、役割が終わった時に再び肉屋の孤児に戻してくれるように頼んでも構わないだろうと思った。

 ここを出て行きたい。それだけがかつてのラウラの願いだった。姫のいない所であればどこでもよかった。どこかの宮廷や高位の者の家庭にて、穏やかに暮らせればそれでいいと思っていた。けれど、今はもう一つの願いを持っている。マックスに再び逢える街に行きたい。街で出会い、再び話をする事のできる場所に行きたい。たとえ想いは届かなくても、ただその姿を見る事の出来る所に行きたい。

 旅籠『カササギの尾』でマウロやジャックと一緒に楽しく寛ぐマックスの話を、マウロの妹である侍女のアニーから聞いて、ラウラはそこに自分が行くことを夢想していた。そこは、もともとラウラの属していた世界だ。だから、彼女はそこに戻りたいと願っていた。どこかの宮廷で紳士や貴婦人に堅苦しい作法や文学を教えるマックスが、帰って来てリラックスできる場所。彼女が行きたいと願っていたのはそんな場所、この世のあらゆる場所にあるもう一つの『カササギの尾』だった。

 だが、そのためにはどうしてもバギュ・グリ侯爵令嬢の名前を取り除いてもらわねばならなかった。ラウラは王女の輿入れが終わるまで、一切の汚点を残さず、王家や侯爵の機嫌を損ねぬよう慎重に行動するつもりだった。

 マックスにとっては、この話が決まったことはさほど驚くようなことではなかった。そもそも、婚姻の話があったからこその仕事だった。それに、彼はラウラと国王レオポルドが会話をしたのは、公式の場だけだと思っていて、あの夜に二人がバルコニーで出逢い語り合ったことを知らなかった。だから、あの時広間にいたのが姫ではなかったことは隠し通せるかもしれないと思っていた。だが、もちろん、レオポルド二世に対する同情の氣持はあった。あの王女を妻にするなんて、ぞっとする。

 だが、いずれにしてもこの話は彼にとっては人ごとだった。彼の頭を占めていたのは、次の行き先だった。マリア=フェリシア姫に対する教育の成果は、彼の基準ではまったくもって情けないものだったが、ルーヴラン国王エクトール二世も宰相ザッカも彼に対して不満を漏らすことはなかった。それどころかグランドロンからの正式な申し込みがあった途端、ザッカはマックスを呼び出して契約よりもかなり多い報酬と、彼が待ち望んでいた証書を手渡してくれたのである。

「まだ、一ヶ月ございますが」
「もちろん、婚儀の行列がこのルーヴランを去る前の日まで、引き続き殿下の教育はお願いしたい。だが、国王陛下はこの婚儀が無事に決まったことをお喜びなのだ。なんといっても、わずか二ヶ月で全くグランドロン語を話せなかった状態からレオポルド二世陛下と会話が成立するほどにしていただいたのだから」

 マックスは「それはバギュ・グリ殿の功績でしょう」と言いたかったが、この際、黙っておくことにした。下手にラウラの功績をたたえれば、彼らはラウラを引き立てようとするかもしれない。だが、あの娘はこの城から出て行きたいのだ。

「時に、ティオフィロス殿。不躾で申し訳ないが、次の仕事はもうお決まりか」
ザッカは慎重に口を切った。マックスは証書をたたんでしまいながら、宰相の顔を見た。
「いいえ、まだ。ゆっくりと次の勤め先を探しつつ、グランドロンの方へ戻ろうかと考えておりましたが。何か?」

 ザッカは顎髭をしごきながら言った。
「うむ。実はだな、たまたまヴォワーズ大司教から優秀な教師を知らないかと問い合わせがあったので、貴殿のことを報せようかと思ったのだ」
「そうですか。センヴリのマンツォーニ公爵のご子息をお教えした時に、ヴォワーズ大司教と大修道院の噂を耳にしました。有名な蔵書の数々を拝見したいとかねがね願っておりましたので、お近づきになれれば幸いです」

 ザッカは満足そうに頷いた。
「では、一ヶ月後に、大司教様あての推薦状をお渡しすることにしよう。よければ、そのままセンヴリへと向かっていただけるとありがたい」
「ありがとうございます。では、そういたしましょう」
.03 2014 小説・貴婦人の十字架 trackback0

あら、おしどりがいる

Posted by 八少女 夕

おしどり

例の通勤路にある「カモのお池」にニューフェースが登場しました。ご覧の通り、おしどりなんですよ。この辺には野生では、いません。当然ながら。どこかから逃げだしてきたのか、それとも近くの農家(カモをクリスマス前後に売っていると疑惑のある……)が新たに購入したんじゃないかと思うんですが。

田舎で他に事件もないのか、地域紙に「珍しい中国鴨がどこからやってきたのか」という取材記事まで……。

いや、偶然飛んでくることはないと思うよ。それに仲良く旅すると言ってもオス二匹じゃおしどりとしては不自然では。

あ、いや、もしかしてそういう「おしどりカップル」なのかしら?
.02 2014 写真 trackback0
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