scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012


Posted by 八少女 夕

オリキャラのオフ会 in 北海道の設定です

大海彩洋さんと、ちゃとら猫マコト幹事で8月中旬に開催される「オリキャラのオフ会 in 北海道」に参加することになりました。(くわしくはリンクへどうぞ)

オリキャラのオフ会


今回、うちから参加させていただくのは、

君との約束 — 北海道へ行こう」から山口正志と白石千絵

森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」からレオポルドとマックス

の四人です。

おそらく四人は一緒に行動しています。
8月9日 屈斜路湖(露天風呂・コタンの湯、丸木舟宿泊)→ 8月10日 美瑛(青い池)へ行き、その後、富良野で前作の登場人物久美子にお土産を渡します。青い池でたぶん撮影をしているTOM-Fさんのところの綾乃に絡ませていただこうと思います。
集合場所である牧場には8月10日の夜にレンタカーで行くと思います。

【随時更新 設定と予定の追加】
8月8日
(レオポルドとマックス)
数日ほど屈斜路湖のプチホテル「丸木舟」に滞在。ちなみに、途中まで一緒に来たヴェロニカ(高級娼館を経営するマダム・ベフロア)と国王護衛の責任者ヘルマン大尉は、体よく追っ払われて、札幌のススキノにヴェロニカ曰く「研修」に行っているらしい。

8月9日
(正志と千絵)
夕方に釧路空港からプチホテル「丸木舟」に直行する。事情により七人乗りのミニバンをレンタルしている。露天の「コタンの湯」でレオポルドたちと出会い、ホテルではサキさんのところのコトリとダンゴと出会う。夕食後一緒にアイヌライブを鑑賞。

(レオポルドとマックス)
美幌峠の展望台でサキさんのところのコトリたちと出会う。それぞれ、早速ちょっかいを出した模様。早い夕方にプチホテル「丸木舟」に帰って、「コタンの湯」入浴。夕食後、アイヌライブを鑑賞。

8月10日
(四人一緒)
正志のレンタカーで、朝一で出発。美幌町経由で、北見でlimeさんの所の双子を拾って美瑛の青い池に行き(ここまでが四時間半のドライブ)、TOM-Fさんのところの綾乃と出会う。彼女もレンタカーに同乗させて、一瞬だけ富良野の上田久美子宅(「君への約束 - 北海道へ行こう」のキャラ)に寄ってから浦河の牧場へ(占冠村と新冠町を経由し、国道237号線 と 浦河国道/国道235号線 を行くらしい。富良野から四時間ぐらいのドライブ)

牧場到着は、たぶん夕方の六時半か七時ぐらいが妥当かな。

お土産は正志「柳月 三方六セット」千絵「美瑛サイダー」レオポルド「マタンプシ(アイヌのハチマキ)」マックス「食われ熊」を予定しています。



8月の頭に集合場所に行く前の部分を発表し、8月12日頃に皆さんの様子を見て牧場で到着後のことを書こうかと思っています。

四人の設定です。

山口正志
29歳。身長170cm。黒い短めの髪。オリーブの綿シャツに黒いカーゴパンツ、黒いスニーカー。東京新宿区をメインに清涼飲料水の営業をやっている。三鷹のマンションに住む。普通に飲むがうわばみではない。好き嫌いはない。

【追記】牧場の労働(?)時は、ジーンズにポロシャツだと思います。

白石千絵
26歳。身長158cm。オーガニックコットンのピンクのキャミソールに白いコットン鍵編みボレロ、紺の膝下丈のフレアスカート。黒い小さな革のリュック。少し茶色がかった肩までの直毛を後ろで結んでいる。看護師。横浜在住。わりと控えめだが芯は強い。お酒はあまり強くない。ビールは嫌い。好き嫌いはないが、食は細い。

【追記】牧場の労働(?)時は、ジーンズにパステルカラーの半袖カットソーかな。

レオポルド II・フォン・グラウリンゲン(デュラン)
29歳。身長168cm。中世の架空の国、グランドロン国王。漆黒のストレートの長髪をオールバックにして後ろで一つにまとめている。太い眉に切れ長の黒い目。意志の強さを感じるがっちりとした体格。何でも食べる。お酒も大好き。
レオポルド by ユズキさん
このイラストはユズキさんに描いていただきました。著作権はユズキさんにあります。

マクシミリアンIII・フォン・フルーヴルーウー(マックス)
25歳。身長160cm。グランドロン王国に属するフルーヴルーウー伯爵だが、ちょっと前まで遍歴の教師だった。明るめの茶色い髪。首の辺りまでの長さで自然なウェーブがかかっている。瞳は茶色。人当たりのいい優しい顔。きりっとした眉。何でも食べる。お酒も大好き。
マックス by ユズキさん
このイラストはユズキさんに描いていただきました。著作権はユズキさんにあります。

なお、マックスとレオポルドは、アイヌの民族衣装で白布切抜文衣であるカパラミプ(木綿地を仕立て、切伏文様を施し刺繍した衣服)を着ています。「民族衣装ならば目立たないだろう」という理由で着たらしいですが、とある日本酒の効果で日本語ペラペラのガイジン二人が着ているので、悪目立ちしているはずです。

手元に瓢箪に入れた特殊な日本酒を持ち、醒める前に飲みます。これが日本語ペラペラの秘密です。

Sakhalin Ainu Man
A Sakhalin mixed-blood Ainu-Russian man, photographed by Bronisław Piłsudski ca. 1905
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Posted by 八少女 夕

こんな曲を聴いていました 「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」編

無事に完結した「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」ですが、実は、音楽ではあまり妄想しなかった話なので、iPhoneの中に専用プレイリストのない珍しい長編です。って、今「そんなものをいちいち作っているのか、痛いヤツめ」と思われましたね。ええ、その通りなんです。

で、専用プレイリストはないんですけれど、一応イメージBGMがありますのでご紹介しておきましょう。

まずは、最終的にBGMとなったこの曲。TOM-Fさんが「こういうイメージですよ」とおっしゃってくださったので聴いたら、本当に私のイメージにもぴったりだったので、公式(?)BGMに昇格した曲です。
アントン・ブルックナーの交響曲第四番「ロマンティック」ですね。


Bruckner, Symphony Nr 4 Es Dur 'Romantische' Claudio Abbado, Wiener Philharmoniker


それから、この曲は、大河ドラマをみていた方はそのイメージが強くてどうしようもないでしょうけれど、書きはじめる前の、かなりはじめの頃に、森を旅するマックスを書く時のイメージとして使っていた曲です。

「利家とまつ~加賀百万石物語~」颯流(メインテーマ)

同じく大河ドラマのテーマ曲のひとつで、「NHKテーマ曲集」というCDを聴きながら、最初の構想練ったせいでこうなったんですけれど、虐められつつも、自由を夢みてけなげに生きるラウラのイメージはこんな感じでした。

2000大河ドラマ「葵三代」OP

それから、こちらも同じ「NHKテーマ曲集」というCDに入っていた曲で1974年の大河ドラマ「勝海舟」のオープニング。この曲をレオポルドのキャラクターづくりの最初のイメージに使っていました。

冨田勲:勝海舟 OP~咸臨丸の船出


終わると離れるのが寂しくなるのか、ここのところ「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」のことばかり書いているような。それともこの勢いで、続編をさっさと書けということなのか。
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Posted by 八少女 夕

茶色いお弁当のおもいで

先日のYUKAさんのお弁当本でもご紹介したように、世間では食べるのが惜しくなってしまうほど素敵なお弁当を作られる方がいらっしゃる模様。今日は、そういうお弁当とは無縁な私の半生の話。

お弁当

私の人生に於いて、ほとんどのお弁当は茶色いものでした。母がお弁当を作ってくれたのは、私が中学生だった頃くらいまでだったと思います。小学校は普段は給食でしたが、時々お弁当の日がありました。そうするとクラスメートの母親たちは競うように華やかで素敵なお弁当を持たせていて、私は自分のお弁当が少し恥ずかしかったのです。

私の母親は、働いていました。それに、私が小学生の高学年になる頃には、父親の躁鬱病がかなりひどくなってきていて、家事を楽しくできるような状態ではありませんでした。だから、お弁当の見かけがどうのこうのといった文句をいうべきではないということくらい、鈍感な私にもわかりました。

母親は、手抜きをしていたわけではありません。彼女の信念に基づいて、合成着色料や化学調味料を使わない食品、自然食品などを使っていました。梅干し一つにしても、そうなると真っ赤ではなくなるわけです。友達のお弁当にはショッキングピンクのでんぶが入っていましたが、母に「でんぶを食べたい」と言うと茶色いでんぶが入ることになったわけです。

その母親の信念は、いつの間にか娘の私にも受け継がれて、私もまた合成着色料や化学肥料、それに何から出来ているのかわからない謎の食品などを可能な限り避けるようになりました。もちろん、外食などでは避けられませんし、必要以上に騒ぎ立てたりはしませんが、日々の食卓では可能な限り安心できる食卓を目指しています。

私の作るお弁当も、だからかなり茶色いお弁当です。完全な茶色になるのは避けますけれど、でも、例えば砂糖がきび砂糖なので、卵焼きを作ってもあまり鮮やかな黄色にはなりません。ふりかけも茶色いです。それに、最近はダイエットのため海藻や糸こんにゃくや茸を使った煮物をよく食べるようにするので、これまた茶色っぽくなります。

ダイエットだったり、連れ合いの関節炎対策だったり、健康法だったりで、いろいろなことを調べて体にいい食事を探すと、結果的には母が私に食べさせようと努力した食事に近いものになっていきます。まあ、確かにもう少し工夫をしたら同じように健康的でも見かけのいいお弁当ができたんでしょうが、私に近いズボラな性格の母は「味と栄養がよければ、みかけはいいよね」と思ったかどうかはわかりませんが、少なくとも私はそう思ってしまいます。

高校生の時には、もうお弁当は自分で用意するようになっていました。朝食もずっと自分のものは自分で用意するのが普通でした。母に余裕がなかったこともありますが、そうすることで私は自分の身の回りのことを早くに自分で出来るようになりました。中学生の時には、普通のお鍋でご飯が炊けましたし、みそ汁を作ったり、ほうれん草のおひたしを作るくらいは「やって」と言われればやり方を聞かずに一人で出来るようになっていました。そのうちに夕飯の料理くらいすべて一人で出来るようになりました。大した料理ではありませんけれど。

現在、ほとんど家事の出来ない連れ合いをみて、あれは家事のエキスパートである義母のせいだと思っています。何もやらせないまま大人にしてしまうと、一生まともに家事をしなくなります。大人になってしまうと、もうよほど本人にそのつもりがないと、変えるのは難しくなります。これは男性だけでなく女性でもそうです。

私の母のやり方は、我が子に「一番大切なポイントはおさえる」「自分でなんとかする」という感覚を育てるのに、とても有効だったのだと、今さらながら感謝しています。あの母の教育がなかったら、たぶん私は慣れないスイスでの暮らしで、自分なりの生活を確保するような図々しさとちゃらんぽらんさを身につけられなかったことでしょう。

でも、このお弁当の写真、YUKAさんの本を読んだあとの今チェックしてみると、どこが悪いのかわかります。ご飯のふりかけが茶色いから、チキンカツを隣にしちゃダメですね。にんじんとブロッコリーをご飯の横にして、それからチキンカツを詰めればよかったんだな。レベルは天と地ほど違っても、やっぱり何かを学んで直すことはいくらでもありますね。
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【小説】森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架(32)フルーヴルーウー伯爵の帰還 -2-

昨年から連載してきたこの「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」、ついに今日で最終回です。自分こそフルーヴルーウー伯爵位の正統な継承者だと言ってルーヴランから乗り込んできたのは、残酷な王女の犠牲となる《学友》にするためラウラを養女にしたバギュ・グリ侯爵です。マックスは、無事に伯爵位を守り通すことが出来るでしょうか。

「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」を読むこのブログではじめからまとめて読む
あらすじと登場人物




森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架
(32)フルーヴルーウー伯爵の帰還 -2-


 マックスとラウラは表で待っていた馬車に乗って王宮に向かった。ルーヴランからフルーヴルーウー伯爵の発見の報に異議を唱え、相続権を主張してバギュ・グリ侯爵が乗り込んできているとの報せを受けたのだ。

 王宮の応接室では、国王レオポルド二世が最高級のワインを共に飲みながらバギュ・グリ候の相手をしていた。非常に礼儀正しく話をしているが、その話題は挑発ぎりぎりといってよかった。
「時に、あれ以来噂を聞かぬのだが《氷の宰相》ザッカ殿はいかがなされておられるのか」

 バギュ・グリ候は、ぎょっとした顔をし、そっと汗を拭きながら答えた。
「わが国王陛下と王太女殿下を欺き、偽の王女をこちらへ送り出した罪により、役を解かれ全財産を没収の上、投獄されました。新しき宰相が任命されるまでの間、国王陛下の親政が敷かれております」
「そうか。陛下にもご心労が多い事とご推察つかまつる」

 ヘルマン大尉が入ってきて、フルーヴルーウー伯爵夫妻が登城したと耳打ちすると、「ここに連れてくるように」と指示をして、侯爵にしっかりと向き直った。

「侯爵殿。一つお訊きしたい」
「なんでしょうか、陛下」

「初代フルーヴルーウー伯爵位はグランドロンが授けたものであり、バギュ・グリ家の血を引くのは伯爵その人ではなく伯爵夫人ユリアであった。この事を正しいと認識されておられるか」
「然り」

「では、正統なフルーヴルーウー伯が、バギュ・グリ侯爵令嬢と再び婚姻を通して縁を深めることに異存はありますまい」

 侯爵は眉を一つ上げて言った。
「正統な、と。二十四年も姿を消していて、突然正統なと言われましてもな。それにわが娘は二人ともわが領地におります。どこかの馬の骨と結婚してフルーヴルーウー伯爵夫人を騙ったりすることなどありえませぬ。それこそが其奴らが偽物の証拠。私がそれを証明してみましょう」

 レオポルドは口元を歪めて笑った。
「ではどうぞ、ご随意に」

 王が目配せをすると、ヘルマン大尉が隣の部屋に通じる扉を開け、二人が入ってきた。
「なっ! 先生、ラウラ!」

「父上様、お久しゅうございます」
「侯爵殿、その節は素晴らしいお飲物をありがとうございました」

 ラウラとマックスは臆する事もなく、侯爵がした仕打ちに怒っている様子もなく、近づいてきた。その冷静な佇まいが却って侯爵を慌てさせ、彼はレオポルド二世の前で取り繕う事も出来なくなってしまった。

 王は侯爵の前に進み出た。今までのような儀礼的な歩み寄り方ではなく、威嚇するように大股で。
「紹介の必要もありませんでしたな。親しく名前を呼ばれたのをしかと耳にしましたぞ」
「う……」

「王女の婚姻と同時にあなたの領地に帰ったはずのご令嬢が、わが領地にいるのは何故でしょうね。フルーヴルーウー伯に嫁がせたからでしょう? それとも何か他の邪な理由でわが国に送り込まれたのですか?」

「それは、その……」
「いろいろと、根も葉もない噂をするものもおりましてな。例の偽王女がバギュ・グリ候と関係があるのではないかとか、それを知った娘婿フルーヴルーウー伯に毒を盛って殺そうとしたとか……。もしその噂が本当だとなるとわが国が宣戦布告をするのは、侯爵殿、あなただということになりますが」

「いや、偽王女の件は、私とは……」
侯爵は真っ赤になり、西の塔でマックスに対して示した態度を恥じながら、視線を避けた。

 レオポルドは畳み掛けた。
「では、フルーヴルーウー伯爵にあなたがご令嬢を嫁がせたと余が聞いている話は、確かに真実なのですな」

 バギュ・グリ候は項垂れて肯定した。それより他に方法はなかった。ザッカと同じような目に遭うのは嫌だった。

 レオポルド二世が頷くと、ヘルマン大尉が側にいた衛兵たちに指令を出した。衛兵たちは剣を構えると一斉に胸の位置に捧げ持ち右足を左足のもとにそろい踏みして叫んだ。
「フルーヴルーウー伯、万歳!」
「グランドロン王、万歳!」

 祝砲が撃たれた。フルーヴルーウー伯爵領の人びとは歓びの声を上げて若き領主の帰還を祝った。王侯貴族も、町の商人たちも、それから農民たちも仕事をやめて祭りとなった。

 祝いの酒や食事の種類はそれぞれに違ったが、一つだけ共通しているものがあった。それは人びとが歌っているメロディ「森の詩」。いにしえより受け継がれた寿ぎがグランドロンの青く高い空に響き渡った。

O, Musa magnam, concinite cantum silvae.
Ut Sibylla propheta, a hic vita expandam.
Rubrum phoenix fert lucem solis omnes supra.
Album unicornis tradere silentio ad terram.
Cum virgines data somnia in silvam,
pacatumque reget patriis virtutibus orbem.

おお、偉大なるミューズよ、森の詩を歌おう。
シヴィラの預言のごとく、ここに生命は広がる。
赤き不死鳥が陽の光を隅々まで届け、
白き一角獣は沈黙を大地に広げる。
乙女たちが森にて夢を紡ぐ時
平和が王国を支配する



(初出:2015年6月 書き下ろし)

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ここから先は、後書きです。

2014年3月から連載したこの小説もついに完結しました。ご愛読くださった皆様に篤く御礼申し上げます。

この小説は、いくつかの意味で私の書く小説の中では特殊で、読んでいて戸惑われた方もいらっしゃるかもしれません。

中世ヨーロッパをモデルにしていますが、実在の国家ではなく架空の王国を舞台にしましたので、慣れない固有名詞に混乱された方も多かったと思います。また、チャプター1では、なんと主人公とヒロインが出会わないままでした。庶民の間を旅する主人公、城で貴族に囲まれた生活をするヒロインと一緒に、実際の中世にあった様々な風俗や習慣をかいま見る、ごく普通の小説では使わない手法で、中世ヨーロッパの限界の中で生きる主人公たちに慣れていただきました。

架空の世界なので、もっと魔法やら冒険があるかとおもいきや、まったくそういうものはない、さらには、あまり主人公たちが活躍しない小説でした。

この小説で、私が描き出したかったのは、正にそういうものでした。全ての人は、それぞれの人生の主人公ですが、決して全員がスーパーマンではありません。高校生の時に何も考えずに書いていた「スーパー単純お伽噺」を下敷きにしつつも、それぞれの持つ限界の中で、必死に生きる、そんな主人公たちの姿を書いてみたかったのです。

連載中にとても嬉しかったことがいくつかありました。悪役的立場に居た人物、もしくは主人公たちを手助けした人物に、単純な敵役・味方役としての評価だけでなく、それぞれの立場と思想と信念に従っての行動を読みとってくださった方がたくさんいたことです。

書き方が特殊だった分、どれだけの方が読むのが嫌になってしまうのだろうと、心配しながらの連載開始でしたが、皆様のコメントや拍手に支えられて、完結することが出来ました。支えてくださった皆様、何度も校正役をさせてしまったTOM-Fさん、そして、なんといっても、もったいないほどの素晴らしいイラストで、この世界に花を添えてくださったユズキさんに心から御礼申し上げます。

国王レオポルドの幸せの行方、もしくはルーヴランの『氷の宰相』ザッカや、ちょっとすごいお姫様マリア=フェリシアのその後などを知りたいと言うお声をいくつか頂戴しています。ちょうど私の頭の中で走り出している妄想に重なりますので、もし筆が進めば、いずれはこの世界の続きの話を書くことがあるかもしれません。

その時には、また読んでいただけたら、これほど嬉しいことはありません。

長いこと、このストーリーをご愛読いただき、本当にありがとうございました。
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Category : 小説・貴婦人の十字架
Tag : 小説 連載小説

Posted by 八少女 夕

ラプソディ・イン・ブルー

久しぶりにBGM関連の話なんかをしてみようかと思います。

ガーシュインの「ラプソディ・イン・ブルー」ですね。

といっても、この音楽からお話が生まれたというわけでもなく、特別の場面に使っていたというわけでもないので、なぜこれがBGMなのか自分でもわからなかったりします。

この曲は、「Manhattan」というプレイリスト(私のiPhoneのですよ)に入っています。既に完結した「マンハッタンの日本人」シリーズと、今年の後半に連載予定の「ファインダーの向こうに」の両方に関したBGMをつっこんであるプレイリストですが、そこに何故かこれが入っています。理由は、アメリカだから。単純。

実をいうと、アメリカについては全然詳しくありません。思い入れもかなり少ないです。行ったことがあるのはニューヨークだけ、それも六日くらいですね。ウィスコンシンやラスベガスに連れ合いの遠い親戚がいて、「一度はおいでよ」と言われていますが、行くかどうかも微妙。こんな「遠さ」だから、ヨーロッパのように小説の舞台にもしにくい国だったのです。「マンハッタンの日本人」も、もともとは一話完結の短い読み切りのつもりでした。それが、私の意志とは関係なくどんどん話が進んでしまった上、今度は自らもう一つ中編(「ファインダーの向こうに」)を書く事にしてしまい、すっかり調子が狂ってしまいました。

そういうわけで、ニューヨークやアメリカは、自分の経験が少ない分、イメージが優先している場所です。だから「ラプソディ・イン・ブルー」なのです。

若い世代の方は、ピンと来ないかもしれませんが、1984年のロサンゼルス・オリッピックの開会式で、やたらとたくさんのピアノで演奏されたのがとても印象的でした。それで、ティーンエイジャーだった私の脳裏に、アメリカというスケールの大きい国の象徴として擦り込まれてしまったのですね。

あれから時代も私も変わって、「アメリカすごい!」ではなくなってしまいましたが、今でも「ラプソディ・イン・ブルー」だけは、私の中の「アメリカ的なもの」の中心に残っていたりするのです。(他には、ド派手なダイナーや、それからMGM系でジーン・ケリー時代のミュージカル映画、そしてジャズ……かな)

そういえばディズニー映画「ファンタジア2000」にも入っていましたね。「ラプソディ・イン・ブルー」。ニューヨークとこの曲が私の中でくっついてしまっているのは、たぶん、その影響かも。



Rhapsody In Blue: Gershwin
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Posted by 八少女 夕

「森の詩 Cantum Silvae」を世の中に送り出して

今日は「 Cantum Silvaeの世界」カテゴリーの記事です。

森をのぞむ

あと一回の更新で、「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」は完結となります。

これだけたくさんの小説を公開しておいて、信じてはもらえないかもしれませんが、この小説に関しては書くのも公開するのも若干戸惑いがありました。

何度か公表しているように、このストーリーはもともと私が高校生の時に考えだしたものを下敷きとしています。当時は、中世も近世もへったくれもなく、ドレスを着たガイジンが惚れたはれたとやっているだけのストーリーでした。ですから下敷きにしたのは、その恋愛ストーリーの部分のみです。

三部作で、「第一部 姫君遁走」「第三部 一角獣奇譚」の間に「第二部 貴婦人の十字架」が挟まっていたのですが、第一部のとんでもヒロインと、第三部の正統派ゴージャスヒロインに挟まれて、最もどうでもいい存在が、「貴婦人の十字架」のヒロイン・ラウラでした。そういえば、マックスも一番カッコ良さが足りないヒーローでした。それがいまの二人にもよく表れています。

「森の詩 Cantum Silvae」で何か書けないかな、と思ったのは、この二人の恋愛ものが書きたかったからではありません。そうではなくて、あの頃ぼんやりと日本で憧れていたヨーロッパの世界、三部作の中で繰り返し書きたがっていた森の中の世界に、「え。いま私、いるじゃない!」と思い当たってしまったからなのです。

当時は知識も、イメージも足りなくて、さらに表現力もなくて、満足する形に出来なかったものを、もう一度形に出来ないかと思って選んだのは、奇抜な姫君の暴走でも、ゴージャスな美女の正統派ストーリーでもなく、地味な二人の控えめな恋愛でした。キャラクターの派手さや、ストーリーの強さを押さえることによって、もっと表現したいものを浮かび上がらせることが出来るのではないか、それがその理由でした。

イメージした時代は1400年代あたり。暗黒時代ではありませんが、まだ絶対王政の始まる前の、混沌とした時代。ペニシリンも、モーターも、水洗トイレも、トラクターも、電灯もない世界。そして、魔法も、竜も、小人も、タイムスリップもない世界です。その限られた可能性の中で、人びとが自分に出来ることを探っている、そういう世界を書きたかったのです。

ずっと待っていたのに報われなかった修道女。春をひさいで生き抜く女。誇りを持って働く男。信念のために大ばくちを打とうとした元聖職者。様々な人生をパッチワークのように繋げて、試行錯誤の末に出来上がった作品は、私にとっては高校生の頃の「ロクでもない笑えるストーリー」とは全く別物に仕上がりました。私が表現したかったものはこれで、これしかなかったとは思いますが、それでも発表を始める時にはためらいました。「これって、普通の人が読みたい話?」

たぶん多くの方には、期待はずれな作品だったと思います。偉大なる賢者さまの使う魔法や、華麗なるどんでん返し、もしくは、派手な戦闘シーン、もしくはめくるめく熱い愛、それのどれも出てきません。ラストも「え? これで終わり?」的なあっさりしたものになります。

そうであっても、ここまで連載を続けてきて思うのは、「それでも発表してよかった」ということです。皆様からいただいた感想を読んでも、たとえ万人受けする小説ではなくても、言いたいことは伝わるのだと思えたからです。

中世や人生というものを書き出せたなどという驕った想いは持っていません。上手く表現できていないと悔しいところもあります。あと二十年経ったら、もっと深いものが書けるかもしれません。そうであっても、いまこれを書いておいてよかったと思います。



この記事を読んで「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」を読みたくなった方へ

「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」を読むこのブログではじめからまとめて読む
あらすじと登場人物

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蛇足:本編には書かなかった、どうでもいい裏話をここでまとめて書いておきます。

◆イグナーツ・ザッカは、センヴリのとある王族の落胤。国家を揺るがすほどの危険な存在だったので、身分を隠して修道院で育てられた。

◆マリア=フェリシア姫は、ラウラとは対照的に肉食系だが、表向きは誰ともつき合ったことがない無垢なお姫様で通している。ラウラの義理の妹、バギュ・グリ侯爵令嬢エリザベスも相当遊んでいる。

◆アニーの兄マウロと親友ジャックは、マックスを助けたあとに疑われるのを怖れて、仕事をやめている。窮状をアニーから聞いたマックスがこの後、自分の館に迎え入れることになる。

◆ルーヴラン風に「マダム・ベフロア」と名乗っているヴェロニカだが、実はルーヴランに行ったことがなく、ルーヴラン出身のラウラには余計反感を持っていたりする。でも、ラウラのことを悪く言うとレオポルドが怒るので表には出さない利口者。

◆フリッツ・ヘルマン大尉は妻帯者だが、仕事に熱心な上、女心を理解しない唐変木で、嫁は愛想を尽かしてとある有力貴族の愛人になってしまった。

◆マックスの両親は、貴賤結婚ギリギリの身分差があった。もちろん、王妹マリー=ルイーゼの方がはるかに身分が上。兄王は妹を溺愛していたので最初は反対したが、二人の熱愛に打たれ、後には味方になった。その当時からフルーヴルーウー辺境伯にせめて侯爵位を授けるべきではという議論が出ては立ち消えている。

◆単純に外見からこの記事でラウラのイメージの花と決めていたハマユウ。なんと花言葉が「どこか遠くへ」だったことが昨日判明。適当に決めたにしては、「グッジョブ、私!」でした。いや、だからどうってわけじゃないんですが。
関連記事 (Category: Cantum Silvaeの世界)
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Category : Cantum Silvaeの世界

Posted by 八少女 夕

【小説】森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架(32)フルーヴルーウー伯爵の帰還 -1-

昨年から連載してきたこの「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」もついに最終話となりました。二回に分けましたので、今回と来週で完結となります。ルーヴランで王女の《学友》として貴婦人に育った孤児のラウラ、老師の弟子として育てられたフルーヴルーウー伯爵マックス。数奇な運命の果てに辿りついたグランドロンで、二人の新しい人生が始まろうとしています。

最終回の前に、今回はとある登場人物が再びグランドロン王国へとやってきます。ある目的を持って……。


「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」を読むこのブログではじめからまとめて読む
あらすじと登場人物




森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架
(32)フルーヴルーウー伯爵の帰還 -1-


 ヘルマン大尉は馬車を門番に託すと挨拶もそこそこに館の中に入っていった。娼館《青き鱗粉》は《シルヴァ》の森を見渡す小高い丘の上にある。黒とオレンジを基調とした洒落たインテリアの待合室でマダム・ベフロアことヴェロニカを待ちながら大尉は苛ついた表情を見せた。昼間から高級娼館に出入りしているなどと噂を立てられるのは本意ではなかった。彼女からの伝言を受けて、急いでやってきたのは、もちろん国王レオポルド二世の命によってだった。

「ただいま、マダムがお見えになります」
老召使いがもったいぶって姿を消した。どうでもいいから早くしろ。ヘルマン大尉は扉を睨みつけた。

 やがて小走りの音がして、扉がわずかに開くとヴェロニカがそっと入ってきた。
「ああ、大尉。お待ちしてましたわ。こちらにいらして」

 ヴェロニカは天鵞絨のカーテンが幾重にも重なる、暗い部屋へと彼を誘った。途中にいくつもの扉があって、女たちのきつい香水とクスクスと笑う囁きが聴こえた。彼女たちは昼間から娼館を訪れた酔狂な客だと思っているのだ。「こっちにいらっしゃいよ」白い手がいくつも出てきたが、大尉は迷惑そうにそれを振りほどいてヴェロニカの後を追った。娼館の女主人であるマダム・ベフロアは笑いながら更に奥へと進み、一番奥で鍵を取りだして解錠した。

 暗い部屋の中に、幾重にも縛られて猿ぐつわを嵌められた娘がいた。扉が開いたのを見ると二人を睨んで猛烈に暴れた。暗闇に目が慣れた大尉は娘をよく観察した。娼婦のよく着るようなヒラヒラしてだらしない服を身につけ、猿ぐつわに真っ赤な口紅が移っていた。だが、その娼婦のなりが全く似合っていない。この子供みたいな顔は、どこで見たのだったか……。
「あの召使いか!」

 ヴェロニカが耳元で囁いた。
「そうよ。あの偽王女の侍女。どうやら侯爵にくっついてルーヴランにやってきたみたい。娼婦たちに混じって後宮に入り込もうとしたので、うちの子たちが捕まえたの。警備をかいくぐって陛下に近づこうって魂胆だと思うけれど」

 ヘルマン大尉はヴェロニカに口止め料を渡すと礼を言って、アニーを引っ立てると用意してきた馬車に押し込んだ。

 あまりに娘が暴れるので、彼はサーベルを鞘から抜くとアニーの首筋にあてて「怪我をしたくなかったら大人しくしろ」と脅した。

 国王レオポルドからはこの件に関しての全権を委任されていた。フリッツ・ヘルマンはしばし考えた。このまま国王の前に連れて行き大騒ぎになると、事情を知らない人間に余計な事を知られる可能性がある。彼は御者に言った。
「フルーヴルーウー伯爵のお屋敷に行ってくれ」

 伯爵邸につき召使いに案内されて中に入ると、外出の用意をしたマックスが階段を下りてきた。
「これは、ヘルマン大尉。あなたがわざわざお迎えにいらしたのですか」
「いいえ、伯爵。本日、王宮に向かわれる前に、このままにできない厄介ごとを処理していただきたいのです」
「厄介ごと?」

 フリッツは馬車から御者が引っ立ててきたアニーを縛っている縄を引っ張った。
「この娘がどうやら後宮に入り込んでよからぬことを企んでいたようで」

 マックスは娼婦のような服を着て立っている娘を見てぎょっとした。
「アニーじゃないか!」

 アニーはすっかり貴公子然として、ヘルマン大尉と親しく話しているマックスを見て、怒りの涙を浮かべながら猿ぐつわの向こうから何かを叫んだ。先生が伯爵ですって。ラウラ様と将来を約束したと言っていたのに、その仇によくも心を売ったわね! 言いたいのはそんな所だろうかと、フリッツもマックスも考えた。

「それは、大変ご迷惑をおかけした。この娘はもちろんこちらで引き取ろう」
そういうと召使いの方を向いた。
「すぐに伯爵夫人をここへ呼んでくれ」

 召使いは、かしこまって奥へ入っていった。アニーは伯爵夫人という言葉を聞いてさらに怒り狂って暴れだした。ラウラ様が亡くなってまだ一ヶ月も経たないのに、もう別の誰かと結婚したなんて!

「アニー!」
暴れていた娘は動きを止めた。聴こえるはずのない人の声だった。

 振り向くと、その時には水色のドレスを着た女性に抱きしめられていた。生きているはずのない女主人ラウラの突然の登場に呆然としていると、フリッツ・ヘルマン大尉はサーベルで彼女を縛っていた縄を断ち切った。それとほぼ同時にマックスが猿ぐつわを外してやった。

 アニーは泣きながらつぶやいた。
「ラウラ様……ご無事だったのですね……」

「そういうわけだ。陛下に何をするつもりだったのか知らんが、今回だけは何もなかった事にしてやろう。少し行儀作法を仕込んでやってくれ」
そういってヘルマン大尉が去ると、マックスとラウラは揃って頭を下げた。

 マックスは召使い頭に命じた。
「悪いが、僕たちが帰ってくるまでに、この娘にまともな召使いの服装を用意してやってくれ。今日からこの子には伯爵夫人の世話をしてもらう事にするから」

 ラウラはそれをルーヴランの言葉に訳して囁いた。アニーがびっくりして顔を上げると、優しく頷いた。
「すぐに帰ってくるから、それまでこの人たちの言う事をきいて待っていてね」

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Posted by 八少女 夕

グロットヘ行こう

今日は久しぶりに(本当か?!)グルメの話。この季節ならではの楽しみ方ですね。

グロット

グロットというのは、イタリア語圏、それも都会ではなくて森林地帯のような田舎にある戸外レストランです。スイスのイタリア語圏だけでなく、北イタリアにもあるのはわかっていますが、もっと南の方にもあるのかはちょっとわかりません。

戸外レストランでも、テラスだったり、パラソルで太陽を遮ったりするのはグロットとは呼びません。葡萄棚だったり、ここのように大きい樹木によって、太陽の光を遮るタイプのレストランをグロットというようです。

実際に夏にヨーロッパに来られた方ならおわかりだと思いますが、日向であろうと日陰であろうとウルトラ蒸し暑い日本の夏と違い、ヨーロッパでは、直射日光の下で40℃近く感じられる真夏の日でも、木陰に入るとクーラーなどはいらないくらい涼しいのです。室内も涼しいですけれど、やはり風が渡る戸外が心地よいですよね。

スペアリブ

で、このグロットは、昔からよく行っていたところ。真夏らしい日曜日に連れ合いと行ってきました。ここに行くとどうしても食べたくなるのが、このコスティーニ(スペアリブ)です。

「ダイエットとか言ってなかった?」とおっしゃる方、その通りです。くすくす。でも、ダイエット成功したんです。5キロ減量して、二年くらい前までの、いつもの体重に戻りました。持っている服、どれもきつめではなくなりました。だから、週末にこういうのを食べても大丈夫! 嬉しいなあ。

今年の夏は、どのくらい美味しいものが食べられるかしら。天候に恵まれるといいなあ。
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Posted by 八少女 夕

月刊Stella 2015年6・7月合併号 参加者募集中です

月刊Stellaの6・7月合併号のご案内です。

stella white12
「月刊Stella」は小説、イラスト、詩等で参加するWEB月刊誌です。上のタグをクリックすると最新号に飛びます。


私のブログを定期的に訪問してくださっていらっしゃる方はご存知だと思いますが、月に一度、「月刊・Stella ステルラ」という企画に小説を出しています。この企画はふたりの学生さんブロガー、スカイさんと篠原藍樹さんが、学業の合間に毎月編集してくださるWEB月刊誌で、小説・詩・イラストなどで参加が可能です。

この一年間は運営のお二人が、物理的な事情から定期的な発刊に関われないため、常連参加者が持ち回りで編集発刊を担当することになっています。今回は、私、八少女 夕が当番にあたっています。ご協力・ご尽力いただけると幸いです。

月刊Stella6・7月合併号は、栗栖紗那さんのご厚意により、
【月刊Stella特設サイト】 http://monthlystella.blog.fc2.com/
にて、2015年7月7日(火)七夕 に発刊(掲載)させていただきます。

月刊Stellaに参加していただける方を募集しています。
今号掲載作品の応募締め切りは、2015年7月5日です。
応募要綱は、 月刊Stellaコミュニティのトピック をご覧下さい。

沢山の方にご参加いただけると嬉しいです。
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Posted by 八少女 夕

【小説】森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架(31)奸臣の最後 -2-

前伯爵を毒殺し、代官としてフルーヴルーウー領を思いのままにしてきたと疑惑をもたれているゴーシュ子爵。新たな伯爵任命を迫る子爵の許に、国王レオポルド二世は暗殺を怖れて隠されていた伯爵マクシミリアン三世を連れていきます。これまで証拠がなくて罰することの出来なかった奸臣を、彼はどのように追い込むつもりなのでしょうか。

「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」を読むこのブログではじめからまとめて読む
あらすじと登場人物




森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架
(31)奸臣の最後 -2-


 夏の終わりに体調を崩したゴーシュは、名医と評判のボウマー医師の診察を受けるために王都ヴェルドンへと上ってきた。だが、病状が捗々しくなく、領地へ戻ることもできぬまま、ヴェルドン郊外の狩猟用の館で臥せっているのだった。

「これは、陛下が自ら足をお運びくださるとは、何とありがたいことでございましょう。これはなんとしてでも回復して、一刻も早く登城をせねばなりませぬ」

 そう急いで回復する必要もあるまい、そう思ったがレオポルドは口には出さなかった。

「時に、ゴーシュよ、そなたのかつてからの願いの件だが」
「なんと、陛下、ついにお許しいただけるのでしょうか。私ども夫婦の先王様の頃からのお願いを。ついに、この私めをフルーヴルーウー伯爵としてご任命いただけると……」
「いや、残念ながら、新しいフルーヴルーウー伯爵を任命する必要はなくなったようでな。それを伝えにきたのだ」

「なんですと! まさか、直轄領になさるおつもりですか! それはあんまりな。この私めは四半世紀に渡り、あの土地を守り栄えさせてきたというのに」
「いや。そうではなくて、伯爵が見つかったのだ。伯爵だけでなく、その妻は未来の伯爵を身籠っているというおめでた続きでな」

 そう言われて、ジロラモははじめて国王が連れてきた見慣れぬ男を見た。枕元にいたゴーシュ子爵夫人も、皺のよった氣の強そうな額をゆがめた。ジロラモは、先ほどまでの弱々しい態度はどこに行ったかというように、ガバと寝台に起き上がると叫んだ。
「まさか、今さら……?」

「そう、今さらだが、ほら、この通り叔母の言っていた十字架もこうして持っていてだな」
そういって、マックスの胸にかかっている十字架を引っ張って見せた。

「信じるとおっしゃるのですか? 十字架がどのようなものか知っている者ならば、ねつ造することだって出来るでしょう。誰か邪な者の差金に違いない。陛下ともあろうお方が、そんなお人好しなことで……」

 子爵夫人は、夫と国王が話している横をそっと通り、部屋を出て行った。ヘルマン大尉と護衛兵たちはそっと目配せをしあった。

「余には、この者は叔父にも叔母にもそっくりに見えるが、そなたはそう思わぬのか?」
ゴーシュは怒りに震えながら答えた。
「そっくりとは思えませぬ。それに、多少似ていたとしても、他人のそら似ということもございます。替え玉なら多少は似ているものを探すでしょう。こんなに長いこと申し出なかったのに、突然本物だと言われましても、承服できかねますな」

「よいか、ゴーシュ。そなたの前にいるのは国王である余と、現在未婚である余に何かがあった時に王位継承権すら持つフルーヴルーウー伯マクシミリアンであるぞ。いい加減に口を慎め」

「それでは、なんとあっても、そのものを伯爵と認めると……」
「当然ではないか。証もきちんとしているのだからな。見ての通り伯爵夫妻は若くて健康なので、領地を治めるのに代官はいらないであろう。そなたもこれまでご苦労であった。ゆっくりと療養につとめられよ」

 怒りに震えているゴーシュのもとに、夫人が戻ってきた。見れば従っている召使いが四つの銀の盃を盆に捧げ持っている。
「真におめでたいことでございます。それでは陛下、新しい伯爵夫妻、そしてあなたで乾杯をなされませ」
そういって、手前の二つの盃を自らとって、国王と夫に手渡した。それから、残りの二つをマックスとラウラに手渡した。

 ゴーシュ夫妻の目がさりげなくその二つの盃を見ている。レオポルドはわずかに笑って、マックスの盃に手を伸ばした。
「何だそっちの方がたくさん入っているではないか。それを余によこせ」

「へ、陛下。陛下にお渡しした盃は、当家の家宝でサファイアがついております……。お酒は、またおつぎしますので……」

 それを聞くとレオポルドはマックスの目を見て「そうか」と言った。マックスはラウラに渡された盃を取り上げた。
「大変申しわけございませんが、妻は今、酒を飲むことを医師から禁じられておりまして……」

 その言葉を継いで、レオポルドはその盃を子爵夫人に差し出した。
「それでは、そなたと乾杯しよう」

「え……。しかし、これは、お客様用の……」
「この余が乾杯しようと言っているのだ」

 子爵夫人は、震えながら盃を一度は受け取った。手が激しく揺れていた。盃を怯えたように覗き込んだ。それからしどろもどろになって言った。
「も、もうしわけございません。私、具合が悪くて、お酒は……」

 するとレオポルドは、あっさりと盃を夫人の手から取り上げると、控えている医師を振り返った。
「そうか。それなら、ボウマー、お前が一緒に乾杯をしろ。だが、子爵殿だけでなく奥方の診察もしなくてはならないから、飲むのは夜までお預けだ。いいな」

 夫人はよろめきながら部屋から出て行った。青ざめたジロラモはその妻の様子を目で追いつつ、吹き出す汗を必死に拭いながらなんでもない振りをしていた。

 ゴーシュとレオポルド、盃を受け取ったボウマー医師、そしてマックスは乾杯をし、ボウマーを除く三名が酒を飲んだ。ラウラとヘルマン大尉たちは、酒に何が入っているのか怯えながら見守った。

「どうもゴーシュ夫妻の体調は思った以上に悪いらしい。我々が長居するのは体に触るようだな。そろそろ失礼するとしよう。時に、マクシミリアン、そなた酒は強いのか?」
「ええ。多少、薬草臭い酒でございましたが、酔うほどのものではございませぬ」
ジロラモが、じっと見つめながら頭を下げた。

 外に出て馬車に乗ると、レオポルドは言った。
「なんだった」
「東洋のゲルセミン」
「ふむ。下痢をして呼吸困難になるやつだな。量的には問題ないのか」

 マックスはちょっと腹をさすった。
「今夜と明日は、この辺の具合が良くないでしょうね。緩慢に効くので、ここでではなく帰ってから死ぬように計算したのでしょう」

 ラウラが心配そうに見た。
「心配はいらない。あの量なら、陛下が飲んでも命には別状なかった程度だ。もっともヘルマン大尉や君が飲んだらその保証はないけれど……」

 レオポルドは満足そうに言った。
「我ながらいい手だったな。世継ぎを妊娠していると言えば、絶対にラウラにも一服盛るという読みが当たったからな」

「ボウマー先生は大丈夫でしょうか。我々のように毒耐性がなければ、あの量でも命に関わりますよ」
「ちゃんとあらかじめ伝えてあるから大丈夫だ。それに、たった今、伯爵が馬車の中で倒れたと伝令を走らせたから、ボウマーはあの盃を余の命で堂々と調べる事ができる算段だ。ようやく物証が手に入り、堂々とゴーシュを告発できるというわけだ」

 ゴーシュ邸にいたボウマー医師は、盃に毒が入っていた事をつきとめた。そもそもそのワインは、フルーヴルーウー伯爵夫人に渡すために子爵夫人が自ら持ってきた事、伯爵が東洋のゲルセミンの中毒症状で生死を彷徨っている事を理由に、国王レオポルド二世は子爵の取り調べを命じた。

 だが、ヘルマン大尉が再びゴーシュ邸に辿りついた刻には、ジロラモの容態は急変し、ボウマー医師が神父を呼ぶように指示している所だった。そして、子爵夫人もヘルマン大尉たちから逃れられないと観念したのか、自室でヒヨスを呷って事切れていた。

 ゴーシュ子爵夫妻の葬儀を待たずに、国王レオポルド二世は「奇跡的に回復した」フルーヴルーウー伯爵の帰還を公告した。グランドロン王国はもとより、周辺各国でも伯爵再発見のニュースは大きな驚きをもって伝えられる事になった。

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Posted by 八少女 夕

【キャラクター紹介】結城拓人

発表済みの作品や、まだ発表していない作品のキャラクターをちょこちょこっと紹介して、作品に親しみを持ってもらおうかな、という姑息な企画の第二回目。「樋水龍神縁起 Dum Spiro Spero」や「大道芸人たち Artistas callejeros」などあちこちの長編に出てくるサブキャラの拓人について書いてみようと思います。

関係ないけれど、彼も出てくる60,000Hit記念掌編第一弾、やっと書き上がりました〜。これから校正。




【基本情報】
 作品群:「樋水龍神縁起 Dum Spiro Spero」
「大道芸人たち Artistas callejeros」シリーズ
 名前:結城拓人 (ゆうき・たくと)
 居住地: 東京都港区
 年齢:「樋水龍神縁起 Dum Spiro Spero」では28歳
「大道芸人たち Artistas callejeros」では33歳
 職業:ピアニスト

* * *

上記の長編二本では、サブキャラですが、「大道芸人たち」の外伝集にメインキャラとしてよく登場しています。
結城拓人 by 羽桜さん
このイラストの著作権は羽桜さんにあります。二次利用は固くお断りします。

著名な指揮者の息子で、幼少の頃からピアノの才能を示し、最年少でS国際ピアノコンクールで優勝し、その後も順調なキャリアを重ねています。もっとも、二十代の前半は「テクニックは素晴らしいけれど、まだ芸術家ではない」「どちらかというとアイドルピアニスト」といわれていました。T芸術大学卒業後、ミュンヘンに留学していました。帰国後は、主にコンサートピアニストとして生計を立てています。

羽毛のような茶色がかった髪の毛、人好きのする笑顔、ピアニストとして恵まれた大きい手のひらに細くて長い指、若いころから金銭的苦労をした事がないので、かなりの確率でブランドものを着用しています。

見かけがよく、さらに本人も相当軽い浮ついた人柄で、「女たらし」として鳴らしています。ターゲットと定めた女性にはかなりマメにアプローチしますが、一人の女性とは一度しかつき合わない妙なポリシーの持ち主。つき合った女性の名前も真面目に憶えずに連番で語ったりする人でなしですが、意外と相手から恨まれないお得な性格です。(モメる率は2%以下)

その一方で、ピアノに関する事には妥協せず、とことん突き詰めます。三十代になってからは芸術的な深みも徐々に増しています。

頭が上がらないのは、はとこにあたるヴィオラ奏者の園城真耶。何年も続けている二カ月に一度のジョイントコンサートの他、共演する機会も何かと多く、プライヴェートでも行動を共にする事が多いため、カップルだと思っている人も多いようですが、今のところ恋愛関係にはありません。ただ、どちらも「芸術の鬼」であり、いざとなったら恋人よりもお互いを優先するほど強い結びつきがあります。

港区の東京の夜景が一望できる億ションに一人暮らしをしています。掃除はお手伝いさんに一任。冷蔵庫にはモエ・エ・シャンドン数本とチーズやキャビアの類いしか入っていない事が多い模様。基本的に口説いた女性はホテルに連れて行くのですが、過去に一度本氣になった女性を連れてきて、ピアノを弾きながら夜景を見せたことがあります。
樋水龍神縁起 Dum Spiro Spero - 即興曲
このイラストの著作権は羽桜さんにあります。二次利用は固くお断りします。

【参考】
「樋水龍神縁起 Dum Spiro Spero」を読む樋水龍神縁起 Dum Spiro Spero
 
 
「大道芸人たち Artistas callejeros」を読む大道芸人たち Artistas callejeros
大道芸人たち 外伝集
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Posted by 八少女 夕

「YUKA's レシピ 作りおきで時短弁当」入手しました

さて、今日はずいぶん前から書きたかったことを。ブログのお友だちの一人のYUKAさんが、今年のはじめにお料理本を出版なさったのですよ。このMookについて。

YUKAさんとは元々は小説を書く創作系ブロガーさんとしてこちらのブログを訪問していたのです。憶えていらっしゃる方もあるかと思いますが、YUKAさんからのリクエストにお応えして、人氣小説「誓約の地」の主要登場人物四名様をお借りして、うちの「大道芸人たち Artistas callejeros」の四人組と一人ずつ組み合わせたフィレンツェ四部作を書きました。そのYUKAさんです。

お忙しい仕事の合間に小説を書かれるだけでなく、YUKAさんはお弁当をテーマにした別ブログでも活躍なさっています。

YUKA’sレシピ♪

そのお弁当というのが、ブログをご覧いただければ一目瞭然ですが、「こ、これ、プロがつくっているんじゃじゃないの?」というすごいクオリティ。たまになら、そりゃお料理の上手な方なら出来るかなと思いますけれど、なんと毎日なんですよ! 毎日更新されているブログに証拠写真が載っていますから間違いないんです。ええ〜! どうやって?!

という疑問に答えてくださるのが2015年の2月に出版された「YUKA's レシピ 作りおきで時短弁当」です。

私はお知らせを聞いてすぐに予約しましたが、日本の母が届けてくれるまでにしばらくかかり、それからこちらも記事がいろいろと立て込んでいたので今になってしまいましたが、読んで感動しましたので今さらですがご紹介させてください。

この本、フルカラーの100頁近くあるお料理本なんですが、びっくりするほどお買い得なお値段です。しかも、YUKAさんはこの本の中に、彼女のお弁当を「私でも出来るかも」と錯覚できるほど詳細に説明してくださっていて、出し惜しみが全くありません。

朝の出勤前は、誰でも忙しいもの。可愛いお弁当に憧れていても、時間がかかると毎日は続けられません。YUKAさんのテクニックは、万端の準備でいかにスピーディに朝お弁当を作れるかを極めてあります。週末の計画的なお買い物、カラフルな常備菜の準備、前日の準備など「なるほど!」と頷く事しきり。

またいろいろな形のお弁当箱がありますが、その形ごとにどうやると見栄えが良くなるかまでが丁寧に解説してあるのです。いわれれば正にその通りですが、考えた事もなかった内容です。

お弁当を持っていかなくてはならない、もしくは作ってあげなくてはならない立場の方、特にその見た目を氣にしなくてはならない方には、本当におすすめの一冊です。

で、実をいうと、私はYUKAさん形式のお弁当は必要ではないのです。ここは日本ではないから。こちらではお弁当に見た目を求めるという文化がないのです。例えば丸パンにハムが一枚挟まっているものとリンゴ一つ。もしくは昨日のリゾットの残り。お弁当として人びとが持って来るのはそういうものです。

でも、YUKAさんの本には学ぶ事がたくさんあって、別の形で愛用させていただく本になりました。

その一つがかわいいデコレーションの極意。我が家では、お客を招いての食事が多いし、時々立食パーティもするのです。そういう時に同じ食品でも簡単に可愛くデコレーションが出来ると、お客さま受けが違うのですよ。

それから、たくさんの常備菜レシピ。どうしてもマンネリになりがちな食卓に、色とりどりでバラエティ豊かな常備菜を用意していくと、ちょうどいいおつまみみたいになって、日常の食卓が楽しくなります。

それに、今まで知らなかった食品の保存方法もたくさん書いてありました。勉強になりますよ。

それに、YUKAさんの料理に対する姿勢が、とても共感できるのです。素材を大切にすること。買ってきた食品をきちんと使い切ること、見かけだけでなく栄養や環境にも留意すること、綺麗で健康的だけれど省ける手間はどんどん省いて楽しく作ること、などなど。

これだけの濃い内容で、900円しないんですよ。あまりにもお得すぎて目を白黒してしまいました。

お弁当や持ち寄り料理のアイデアの欲しい方には、猛烈おすすめの一冊です。

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Posted by 八少女 夕

【小説】森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架(31)奸臣の最後 -1-

さて、主人公二人が助けられ再び一緒になる事が出来たと言っても、まだめでたしめでたしではありません。多くの人物が喉から手が出るほど欲しがっている豊かな領地であるフルーヴルーウー辺境伯の正統な持ち主、しかも現在のところグランドロン王国の推定後継者でもあるマクシミリアン・フォン・フルーヴルーウー伯爵。彼の発見と領地の返還には、少なからぬ抵抗が予想されています。今回から今月末の最終回までは、この悶着が語られる事になります。

で、まずは代官のジロラモ・ゴーシュ子爵の顛末です。少し長いので二つに分けました。


「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」を読むこのブログではじめからまとめて読む
あらすじと登場人物




森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架
(31)奸臣の最後 -1-


 フルーヴルーウー伯爵領の代官として長い事あいだ権勢を誇った子爵ジロラモ・ゴーシュが死の床についているという噂は、グランドロン王国を駆け巡った。

 先代伯爵、フロリアン・フォン・フルーヴルーウーが不慮の死を遂げて以来、ゴーシュは伯爵領を思うがままにしてきた。

 前伯爵もそうだったように、ゴーシュにとって都合の悪い人物はことごとく急に亡くなったが、その死をゴーシュの仕業だと確定する証は何もなく、死神を味方につけているに違いないと怖れられていた。幼児の頃に行方不明になって久しい現伯爵、マクシミリアン・フォン・フルーヴルーウーも、あるいはもう死神の手によってあの世に連れ去られたのであろうというのが、市井の見方であった。

 五年前に新しい国王が即位した時に、人びとはフルーヴルーウーは直に国王の直轄領になるであろうと噂した。フロリアン夫妻には他に子供はなく、一番近い近親者は伯爵夫人の甥にあたるレオポルド二世その人であった。

 しかし、ゴーシュ子爵もまた三代前の伯爵の血を引く娘と結婚しており、これまでの功績を盾に、自分を新たな伯爵に任命するようにと事あるごとに国王に迫っていた。国王の返事はただ一つだった。
「わが従兄弟マクシミリアンが亡くなった証がみつかるまでは、それはまかりならぬ」

 ディミトリオスは、今は亡き伯爵夫人、マリー=ルイーゼ王妹殿下の遺言を果たすために身近で育てたマクシミリアンに知識を総動員してありとあらゆる毒薬への耐性をつけさせたが、その伯爵を国王のもとに連れてくる事はできなかった。ゴーシュがどのような手段で前伯爵をはじめ、邪魔な人間を次々と手にかけたのかわからなかったからだ。

 さらにいえば、フルーヴルーウー伯爵位とその豊かな領地を狙っているのはゴーシュ子爵だけではなかった。初代フルーヴルーウー伯ハンス=レギナルドはバギュ・グリの《型破り候》テオドールの臣下であり、伯爵夫人ユリアはバギュ・グリ侯爵令嬢であった。そのため、現バギュ・グリ侯爵アンリ三世はフルーヴルーウーの相続権を主張していた。ルーヴランが奇襲で奪おうとしたことからわかるように、ルーヴラン側はフルーヴルーウー伯爵領に魅力を感じて狙っている。つまり、たとえ正統な伯爵マクシミリアンが見つかったと宣言しても、偽物だと言いがかりをつけて相続を主張する可能性も高かった。

 だからディミトリオスは、マリー=ルイーゼ王妹殿下との取り決めを国王に打ち明け、伯爵の生存を明らかにする時期を慎重に待っていたのだ。少なくとも、ジロラモ・ゴーシュがもっと弱り、さらに、王女との婚姻問題にカタがつき、ルーヴランとの関係が安定化するまでは、自分の胸の内に納めておくはずだった。だが、ルーヴランの偽王女を救う騎士の役割を買ってでて、事もあろうにマクシミリアン本人が逮捕されてしまったので、全ての計画は狂ってしまった。

 だが、結果として、全ては上手くいった。マクシミリアンはその妻とともに、ディミトリオスが考える限りグランドロン王国で最も安全な場所に匿われる事となった。

「もう、いいのではないか?」
レオポルドは人払いをして自室に呼び寄せた賢者に訊いた。

「お待ちくださいませ。死の床についているというのも、もしやあのずるいオオカミの策略やも知れませぬ」
「だがな、老師よ。そろそろこの城でも噂になっているのだよ。滞在している謎の夫婦は何ものかとね」
「恐れ入ります」

「大体、なぜここであの二人を匿わなくてはならぬのだ。お前の所に置けばいいではないか」
「いえ、このお城ほど安全な場所はございませんから。それに、私の所に匿えば、陛下が足繁く通いゴーシュに目を付けられかねません」

「余が足繁く通うなどと、なぜわかるのだ」
「王妹殿下も、何度申し上げてもお忍びでお越しになりましたのでね。かなりヒヤヒヤいたしました」

「余はそなたに腹を立てているのだ。余があれほどマクシミリアンを探していたのを横で見ていたくせに、これほど長く隠していたんだからな」
「王妹殿下に、居場所を報せた事を後悔いたしておりましたので。あの方が何度もお越しになる事で伯爵は真の危険に曝されていたのでございます」

「まあいい。で、どうするつもりだ。ゴーシュがくたばるのを何十年も待つつもりか?」
「いえ、いかがでございましょう。お見舞いになど行かれては」

 レオポルドはにやりと笑った。
「つまり、お付きに例の謎の夫婦も連れてという事か?」
「まあ、そういうことになりますかな。申しわけございませんが、今回だけは必ずヘルマン大尉や護衛の部隊もお連れください。なにかありましたら困りますからな」
「わかっておる」

 レオポルドは賢者を見送ると、城内のプライヴェートエリアに向かった。西の塔のかつての伝説的なブランシュルーヴ王妃が使った居室に、フルーヴルーウー伯爵マクシミリアン三世とその妻は匿われていた。

「おい。準備はできているか」
国王はずかずかとブランシュルーヴの間に入っていくと居間を覗き込んだ。

 国王の突然の来訪に召使いたちが慌てたが、居間の暖炉の前でリュートを合奏していた二人は演奏の手を止めて国王を見た。
「何の準備でございましょう?」

「なんだ。出かける準備をしておけと、フリッツは伝えておかなかったのか」
「ヘルマン大尉は、本日お見えになっていませんが」
「わかったから、さっさと準備をしなさい。上手くいけば、今日にでも隠れんぼうはおしまいだ。おい、伯爵にはサーベルを、伯爵夫人に短剣を用意するのを忘れるな」
レオポルドは女中たちに言った。マックスは眉をひそめた。

「陛下、どういう成り行きなのか、ご説明いただけませんか」
「馬車の中で話す。ああ、忘れないように今言っておくが、ラウラ、そなたは先方で何が出ても絶対に口にするな、いいな」

 それで、マックスはわかったような顔になった。

「あの……?」
不安な顔をして見るラウラの頬に手を当てて、マックスは言った。
「毒殺者の所に行くらしい。大丈夫。僕の側にいれば」

 その様子を見て、レオポルドが茶々を入れた。
「心配するな。ちゃんと護衛がついていく。それより二人とも早く準備をしてくれ。部屋着で見舞いにいくのも妙だろう」

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Posted by 八少女 夕

「明日の故郷」をご紹介します

先日も書きましたが、これまで投票専用アカウントだったアルファポリスではじめて大賞ものにエントリーしました。「第一回 歴史・時代小説大賞」に、短編「明日の故郷」で参加してみることにしたのです。少しでも多くの方にこの小説と、それからこのブログに足を運んでいただけることを願って。本日から六月末までの一ヶ月間が投票期間となります。みなさまに応援していただけると嬉しいなと思っています。
「明日の故郷」を読む
「明日の故郷」へはこちらから


「明日の故郷」は、もともと自分自身さんが主催しておられた「第三回目(となった)短編小説書いてみよう回に参加するために執筆した小説です。この時のお題は「村、また街」というものでした。それで私は「生きていく村」というテーマを設定して、私が住んでいるスイスの史実に題材を取った物語を組立てました。

みなさんもよくご存知シーザーこと、ガイウス・ユリウス・カエサルが書いた「ガリア戦記」に出てくるビブラクテの戦いで、ローマにコテンパンにやられてしまったヘルヴェティ族。ケルト人である彼らが、後にスイスとなる国を築き上げていくのです。「Confoederatio Helvetica(ヘルヴェティ族の連邦)」という言葉は、いま現在でもラテン語でのスイスの正式名称です。スイスを意味するドメインの「ch」もここから来ています。

すぐ側にイタリアやフランスというラテンな氣質をもった隣人がいながら、狭くて資源が少なくて寒い国で勤勉に生きるスイス人がどのようにして成立したのか、その一端を感じられる史実。私が「明日の故郷」で書こうとしたのは、このスイスに対する讃歌でした。

アルファポリスの「第一回 歴史・時代小説大賞」にエントリーするにあたって、結果はどうあれ、一人でも多くの方にこの小説を読んでいただけたらと思いました。

参考までに、アルファポリスの「○○大賞」の仕組みなんですが、登録したページ(私の場合は、「明日の故郷」バナーをクリックすると飛ぶページ)に置かれたバナーが表示されるたびに1ポイント獲得する(ただし24時間以内の同一IPは1ポイントのみと数えられる)のと、アルファポリスのアカウントを持つ方の投票(一人500ポイント)の合算ポイントで順位が決まるそうです。順位のページにはリンクがあるため、順位が上の方ほどそこから未知の方に読んでいただけるチャンスが増えるという事なので、頑張ってみようかなと思ったわけです。

もしお時間がありましたら、ぜひご一読いただき応援していただけると、幸いです。

ちなみに「明日の故郷」のBGMはこちらでした。PVでは「なぜこれが……」なんですが、歌詞と曲調が、この話のテーマと合っていました。


Queen - The Show Must Go On (Official Video)
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