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【小説】そばにはいられない人のために

Posted by 八少女 夕

当ブログの77777Hit記念掌編のひとつめです。最初のリクエストはTOM-Fさんにいただきました。

ご希望の選択はこちらでした。

*現代日本
*園芸用花
*一般的な酒類もしくは嗜好飲料
*家
*雨や雪など風流な悪天候
*「大道芸人たち」関係
*コラボ、『花心一会』の水無瀬彩花里(敬称略)


『花心一会』は、WEB誌Stellaでもおなじみ、若き華道の家元水無瀬彩花里とその客人たちとの交流を描くスイート系ヒーリングノベル。優しくも美しいヒロインと花によって毎回いろいろな方が癒されています。今回コラボをご希望ということで勝手に書かせていただいていますが、本当の彩花里の魅力を知りたい方は、急いでTOM-Fさん家へGo!

今回の企画では、リクエストしてくださった方には抽象的な選択だけをしていただき、具体的なキャラやモチーフの選択は私がしています。どうしようかなと思ったんですけれど、せっかくお家元にいらしていただくのだから、日本の伝統芸能に絡めた方がいいかなと。花は季節から芍薬を、嗜好飲料はとある特別な煎茶を選ばせていただきました。そして「家」ですけれど、「方丈」にしました。お坊さんの住居だから、いいですよね。ダメといわれてもいいことにしてしまいます。(強引)

TOM-Fさん、『花一会』の流儀、いまいちわからないまま書いてしまいました。もし違っていたら直しますのでおっしゃってくださいね。


【大道芸人たちを知らない方のために】
「大道芸人たち Artistas callejeros」は2012年に当ブログで連載していた長編小説で、現在その第二部を連載しています。興味のある方は下のリンクからどうぞ

「大道芸人たち Artistas callejeros」を読む このブログで読む
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あらすじと登場人物




大道芸人たち Artistas callejeros 番外編
そばにはいられない人のために Featuring『花心一会』



 瞳を閉じてバチを動かすと、なつかしい畳の香りがした。湿った日本の空氣、夏が近づく予感。震える弦の響きに合わせて、放たれた波動は古い寺の堂内をめぐり、やがて方丈に戻り、懐かしいひとの上に優しく降り注いだ。

 浄土真宗のその寺は、千葉県の人里から少し離れた緑豊かな所にあった。『新堂のじいちゃん』こと新堂沢永和尚は四捨五入すると百の大台に乗る高齢にも関わらず、未だにひとりでこの寺を守っていた。日本に来る度に稔はこの寺を訪れる。これが最後になるのかもしれないと思いながら。

 彼の求めに応じて三味線を弾く。または、なんてことのない話をしながら盃を傾ける。死ぬまで現役だと豪語していた般若湯(酒)と女だが、女の方は昨年彼より二世代も若い馴染みの後家が亡くなってから途絶えたらしい。
「これもいつまで飲めるかわからん。心して飲まねばな」
カラカラと笑って大吟醸生『不動』を傾ける和尚を稔は労りながらゆっくりと飲んだ。

「何か弾いてくれ」
「何を? じょんがら節?」
「いや、お前がヨーロッパで弾くような曲を」

 それで稔は上妻宏光のオリジナル曲を選んだ。その調べは白い盃に満たされた透明な液体に波紋を起こすのにふさわしい。懐かしくもの哀しいこの時にも。Artistas callejerosはこの曲を街中ではあまり演奏しなかった。コモ湖やバルセロナのレストランでの演奏の時に弾くと受けが良かった。頭の中ではヴィルがいつものようにピアノで伴奏してくれている。

 まだ弾き始めだったのだが、和尚は小さく「稔」と言った。バチを持つ手を止めて、彼の意識のそれた方に目を向けると開け放たれた障子引き戸の向こうに蛇の目傘をかざし佇む和装の女性が見えた。

「ごめんください」
曲が止まったのを感じて、彼女は若く張りのある声で言った。和尚は「いらしたか」と言うと、稔に出迎えに行けと目で合図した。客が来るとは知らなかった稔は驚いたが、素直に立ち上がって方丈の玄関へと回った。

 その女性は、朱色の蛇の目傘を優雅に畳んで入ってくると玄関の脇に置いた。長い黒髪は濡れたように輝き、蒸し栗色の雨コートの絹目と同じように艶やかだった。そして、左腕には見事な芍薬の花束を抱えていて、香しい華やかな薫りがあたりに満ちていた。

「どうぞお上がりください」
稔はそれだけようやく言うと、置き場所に困っている女性から芍薬を受け取った。彼女ははにかんだように微笑むと、流れるような美しい所作で雨コートを脱ぎ畳んだ。コートの下からは芍薬の一つのような淡い珊瑚色の着物が表れた。

 色無地かと思ったが、よく見たら単衣の江戸小紋だった。帯は新緑色に品のいい金糸が織り込まれた涼やかな絽の名古屋、モダンながらも品のいい色の組紐の帯締めに、白い大理石のような艶やかな石で作られた帯留め。この若さで和装をここまで粋に、けれども商売女のようではなくあくまでも清楚に着こなせるとは、いったい何者なのだろう。

「おう、遠い所よくお越しくだされた。何年ぶりでしょう。実に立派になられましたな、彩花里さん。いや、お家元」
居室に案内すると、和尚は相好を崩して女性を歓迎した。

「ご無沙汰して申しわけありません。お元氣なご様子を拝見して嬉しく思います」
きっちりと両手をつき挨拶する作法も流れるように美しく稔は感心して「お家元」と呼ばれた可憐にも美しい女性を見つめた。

「あ~、このお花、花瓶に入れてきましょうか」
稔が訊くと、和尚は大笑いした。

「いかん、いかん。お前なぞに活けられたら芍薬ががっかりしてしぼむわい。わしもこの方に活けていただく生涯最後のチャンスを逃してしまうではないか」

 それから女性に話しかけた。
「ご紹介しましょうかの。ここにいるのは、わしの遠縁の者で安田稔と言います」

「安田さん……ということは……」
「その通りです。安田流家元の安田周子の長男です。稔、こちらは華道花心流のお家元水無瀬彩花里みなせあかり さんだ」

 稔は、畳に正座してきちんと挨拶した。
「はじめまして。大変失礼しました。今後ともどうぞよろしくお願いいたします」

「こやつは三味線とギターのこと以外はさっぱりわからぬ無骨者で、しかも今はヨーロッパをフラフラとしている根無し草でしてな。華道のことも、あなたが本日わざわざお越しくださっている有難さも全くわかっておりません」

 彩花里は、微笑んだ。
「いいえ。私たちが一輪の花を活けるのも、一曲に全ての想いを込めて奏でるのも同じ。先ほどの曲を聴いてわかりました。安田さんは、私と同じ想いでここにいらしたのですね」

 それから稔の方に向き直った。
「花心流の『花一会』はひとりのお客さまのために一度きりの花を活けます。本日は、和尚さまへのこれまでの感謝とこれからの永きご健康をお祈りして活けさせていただくお約束で参りました。安田さん、私からひとつお願いをしてもかまわないでしょうか」

「なんでしょうか」
「私が活けるあいだ、先ほどの曲をもう一度弾いていただきたいのです。私が来たせいで途中になってしまいましたから」
「わかりました。よろこんで」

 それから和尚の前の一升瓶を見て、彩花里はわずかに非難めいた目つきを見せた。般若湯などと詭弁をろうしても、住職が不飲酒戒を破っていることには変わりない。ましてや陽もまだ高い。堂々と一升瓶を傾けるのはどうかと思う。
「お届けしたお茶はお氣に召しませんでしたか?」

 和尚は悪びれることもなく笑った。
「いやいや、あの特別のお茶とお菓子はあなたとご一緒したくてまだ開けておりませんのじゃ。どれ、湯を沸かしてきましょうかの」

 彩花里が花の準備をしている間、稔は和尚を助けてポットに入れた熱湯と、盆に載せた茶碗、そして美しい茶筒、三つ並んだ艶やかな和菓子『水牡丹』を居室に運んだ。

 準備が整うと、彩花里は和尚の正面に、稔はその横の庭を眺められる位置に座して三味線を構えた。
「それではこれから活けさせていただきます」
彩花里は深々と礼をした。彩花里の目の合図に合わせて、稔は先ほどの曲をもう一度弾きだした。

 彩花里の腕と手先の動きは、まるで何度もリハーサルを繰り返したかのように、稔の奏でる曲にぴったりとあっていた。活けるその人のように清楚だが華やかな花の枝や葉を、たおやかな手に握られた銀の鋏が切る度に馥郁たる香りが満ちる。

 稔はかつてこの空間にいたはずの、和尚の失われた息子のことを考えた。彼のために奥出雲の神社で奉納演奏をしたのは何年前のことだったろう。妻に先立たれ、ひとり息子を失い、生涯が終わる時までこの寺で独り生きていく大切な『新堂のじいちゃん』の幸について考えた。

 この美しい女性も、たった一度の花を活けながら今の自分と同じ氣持ちでいるのだと考えた。真紅、白、薄桃色。雨に濡れて瑞々しくなった花が彼女の手によって生命を吹き込まれていく。寂しくとも、悲しくとも、それを心に秘めて人のために尽くし続ける老僧を慰めるために。

 バチは弦を叩き、大氣を振るわせる。その澄んだ音色は、もう一度、和尚の終生の家であるこの方丈の中に満ちていった。

 外は晴れたり降ったりの繰り返しだった。眩しいほどに繁った新緑がしっとりと濡れている。その生命溢れる世界に向けて三味線の響きは花の香りを載せて広がっていった。消えていく余韻の音を、屋根から落ちてきた滴が捉え抱いたまま地面に落ちていった。

 彼がバチを持った手を下ろして瞼を開くと、彼女は完成した芍薬を前にまた頭を下げていた。

 ほうっと和尚が息をつき、深く頭を下げた。
「先代もあなたがここまでの花をお活けになられると知ったらさぞお喜びでしょう」

 彩花里は、穏やかに微笑みながらゆったりとした動作で茶を煎れた。その色鮮やかな煎茶の香りを吸い込んで、稔は日本にいる歓びをかみしめた。

「八十八夜に摘んだ一番茶でございます。無病息災と不老長寿をお祈りして煎れさせていただきました」
「水牡丹」の優しい甘さが、新茶の香りを引き立てている。稔は、茶碗を持ったまま瞳を閉じている和尚に氣がついた。飲まないんだろうか。

「和尚さま、このお茶の香りに、お氣づきになられましたか」
彩花里は優しく言った。

「奥出雲の山茶……」
彼は、わずかに微笑みながら言った。

「はい。日本でもわずかしかない在来種、実生植えされ、百年も風雪に耐え、格別香りが高いこのお茶こそ、今日の『花一会』にふさわしいと思い用意いたしました」

 そうか。あの神社から流れてくる川の水で育ったお茶なんだな。それを飲んで無病息災を願う。本当にじいちゃんのために考え抜いてくれているんだ。

「お前もこの日本の味を忘れぬようにな」
彩花里が完璧に煎れてくれた一番茶を味わっている稔の様子を和尚はおかしそうに見ていた。

「安田さんは、ヨーロッパにお住まいとのことですが……どこに」
彩花里が思い切ったように口を開いた。

「はい。俺は大道芸人をしていて、あちこちに行くんです」
「では、あの、パリに行くことなども、おありになるのでしょうか」

「時々は。どうして?」
「母が、パリにいるんです」

「先代お家元の愛里紗さんは、彩花里さんに家元の座を譲られてからパリで華道家として活躍なさっていらっしゃるのじゃ」
和尚が「水牡丹」を食べながら言った。

「何か、お母様にお渡しするものがありますか?」
彩花里は首を振った。
「いま弾かれた曲を、母の前で弾いていただけませんでしょうか」

 稔は訊いた。
「無病息災と、不老長寿を祈願して?」

 彩花里は「はい」と微笑んだ。

 稔は彼女の母親は、この曲の題名を知っているのだろうかと考えた。『Solitude』。彼は、和尚にはあえて言わなかった。家元の重責に氣丈に耐えているこの女性もおそらく知っているけれど、あえて口にすることはないのだろう。共にはいられないことを言い募る必要はない。ただ想う心だけが伝われば、それでいいのだと思った。


(初出:2016年6月 書き下ろし)

この記事には追記があります。下のRead moreボタンで開閉します。

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稔が弾いた曲はこちらです。

上妻宏光『Solitude』
.29 2016 小説・大道芸人たち 外伝 trackback0

飛行機では、一睡も出来ない

Posted by 八少女 夕

今日は、トラックバックテーマに関連して書くことにしました。テーマは「電車で寝れますか?」だそうです。

よく言われることですけれど、日本の方は電車でよく寝ます。人ごとではなく、私も日本にいたときはよくうたた寝していました。これって安全で平和だからできることなんですよね。もっとも最近は寝ちゃって起きたら知らない人の部屋に連れ込まれていたなんてこともあるらしいので、油断大敵。

スイスの、特に私の住んでいる田舎は、他のヨーロッパの大都市などど比較すると日本と変わらないくらい安全で平和な所です。でも、まあ、日本のように爆睡するのはどうかと思います。

反対に、寝てもいいし、寝るべきだと思うのは飛行機の中なんですけれど、これは全然眠れない私です。

若いころは、それでも半分くらいは眠れたと思うんですよ。でも、最近は全然ダメです。ダブルブッキングのせいで何回かビジネスクラスに座らせてもらったことがあるんですが、ほとんど平らになって眠れる席でも全然眠れませんでした。赤ワインをもらって飲むようにしていますけれど、それでもだめですね。

最近はもう諦めています。全然眠れなくて、長旅で疲れている状態で成田からリムジンパスに乗っているときに少しだけうとうとします。でも、基本は、実家に戻ってから夜まで頑張って起きていて、その後死んだように眠ります。どんなに疲れていてもここで昼寝をしてはだめ。それをやると完全な時差ぼけになります。

この長時間の旅がつらいので、年々日本に帰るのが嫌になっています。

大海彩洋さんのところのコメントでも書いたことにも繋がるんですが、人間は歳をとるとだんだんと入眠が難しくなる生き物なのかもしれません。寝具の硬さであるとか、室温、もしくは騒音や光の状態、それに心理状態などによっても左右されやすくなるのでしょうかね。

子供の頃、祖母が学校や仕事に行かなくてもいいのに早起きなのが理解できませんでしたが、きっと祖母も若いころは爆睡できたんじゃないかしらと思うようになっています。

いまの私の場合、旅行中、仕事が上手くいっていない時、激怒した後、それにうるさい所や狭いベッドなど、眠りが浅くなる要因はさまざまです。それでも、普段の生活では基本的によく眠れているので、よく眠れなかった時には「ま、いっか。うちに帰ったらぐっすり眠ろう」と思うだけです。

ちなみに、スイスの我が家のベッドで爆睡するのが何より好きです。なんせ160センチ幅のクイーンサイズを独り占めしているのですから。

こんにちは!FC2トラックバックテーマ担当の山口です。今日のテーマは「電車で寝れますか?」です。私は電車の中で寝れるのですが降りる駅の近くになると起きれる現象はなんなのでしょうか…友達とこの話題になった際に寝過ごさないか不安だから電車では眠れないと言われましたあまり電車の中で寝れるかということを考えたことが無かったので少し考えてしまいましたみなさんは電車で寝れますか?たくさんの回答、お待ちしており...
FC2 トラックバックテーマ:「電車で寝れますか?」

.27 2016 トラックバックテーマ trackback0

旅の自撮り

Posted by 八少女 夕

今日はちょっとふざけた画像付き。

最近のSNS全盛、自分も決して人ごとではないんですけれど、「何だかなあ」と思うことがあります。例えば、わざわざ逢っているのに、例えば食事の間にもスマホを氣にしている人がいるなんて話を聞くこと。まあ、でも、仕事でどうしてもメールを読まなくちゃいけないこともあるでしょうし、Lineは何分以内に返さないと関係にひびが入るなんて話も聞くので、一概に「それはNG」とは言えませんけれど。

私がやっているSNSはfacebookだけです。これは日本の友達や知り合いに逢う度にいつも同じ事(「スイスにいるんだ。何しているの」「どんな暮らし?」)を訊かれるので、実名での付き合いの方に「百聞は一見に如かず」のつもりで個人的な写真を見せています。が、あまり熱心な方でもなく、休暇旅行など、どっかに行ったときの写真がメインでしょうか。あ、あと、Swissinfoでのスイス生活を紹介する記事(このブログではトップのお知らせにリンクのある記事ですね)をシェアしています。

反対に、これはどうしてもやりたくないなと思うのは、自撮り写真をSNSにアップすることです。私の個人的な知り合いではあまりいないんですけれどね。

Jidori_yu.png
天水 清太さんの描いてくださったアイコン画像、勝手にコラージュしました。すみません。

先日、写真を整理していて氣がついたのですが、自分の写真が異様に少ないのですよ。旅行に行くと連れ合いが一枚か二枚撮ってくれるのですが、「これ見て〜」と一般に公開したくなるような写真はあまりありません。写真は絵画と違ってそのままだから「それが自分なんだ、諦めろ」といわれたらその通りです。でも、ねぇ。

これをわざわざ自分で撮ってアップロードしたくなるなんてことは、まったくないんですよ。私がスマホに笑いかけている写真なんて、とくに他の人が見たいと思うとは思えないし、さらにいうと、どうやって撮影していたかが、何となく想像できる、その絵柄に自分で我慢がならないのですね。

もっと拒否反応があるのは自撮り棒で写真を撮ること。

jidori2.png
うたかたまほろさんの描いてくださった「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」のディミトリオス、ふざけてコラージュしました。すみません。

自撮り棒、有名観光地に行くと必ず売っているんですけれど、あれで撮るのは死んでも嫌です。美意識からも許せないし、そうやって撮った写真をSNSにアップするのも嫌。だって、観た人全員に「あの間抜けな自撮り棒をかざしてあの美しい光景の中にいたんだ」と告白しているようなものじゃないですか。

素晴らしい光景をバックに写真を撮って思い出にしたいということ自体は私も思います。写真を撮ってくれる同行者がいない場合もあります。同行者と一緒にフレームにおさまりたいと思うこともあるでしょう。でもねぇ。その場にいる他の人に「すみません、一枚撮っていただけないでしょうか」もしくは「そちらもお撮りしましょうか」とコミュニケーション一つできないというのはどうかと思うんですよ。

私は、観光バスから降りて、自撮り棒で写真を撮って、五分後にはまたバスに乗っていなくなってしまう、そういう旅のスタイルは嫌なんですね。出会った他の旅人や、現地の人と拙くてもコミュニケーションをとり、カフェでまったりと街を眺め、カメラだけでなく心の中にも思い出を積もらせたいんです。

というわけで、毎回自撮り棒を売りつけたい怪しいおじさんにまとわりつかれても、にべもなく断る私なのでした。
.25 2016 旅の話 / スイス・ヨーロッパ案内 trackback0

【小説】大道芸人たち 2 (3)バルセロナ、前夜祭

Posted by 八少女 夕

さて、バルセロナに戻っています。まもなく教会での結婚式と、パーティ。準備がたくさんあるのですね。

ちなみに、結婚パーティで新郎新婦がダンスをするのは、わりと普通です。もっとも証人や参列者までもが踊るのは少し珍しいかも。上流社会では多いようですが。いまの若者は、ボールルームダンスよりもっと今どきのダンスが好きなようです。

今回は三千字弱だったので、全部まとめて発表することにしました。来週はお休みして、外伝(記念掌編)を発表することになると思います。


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あらすじと登場人物




大道芸人たち Artistas callejeros 第二部
(3)バルセロナ、前夜祭


「いたっ、また踏んだわね!」
蝶子が呆れた声を出した。稔も叫んだ。
「悪いっ」

「どうしてこんな簡単なステップが覚えられないのよ」
「パピヨン。最初は無理ですよ」
レネが、稔に加勢した。ヴィルは黙ってワルツを弾き続けていた。

「もう一度、最初から。ねえ、そんなに腰が引けてちゃ、パートナーにステップがわかんないでしょ。ちゃんと足を踏み込んでよ」

「けど、そんなことしたら……」
稔は、蝶子の腰や足に密着してしまうのでうろたえていた。

「何照れてんのよ。ボールルームダンスってのは、そうやって踊るものなの。へなへなしている方がずっとイヤらしいのよ。ちゃんと踏み込まないと、マリサが困るでしょ!」

 トカゲ女ならまだしも、マリサにそんなことをするなんて。そう思っただけで稔は真っ赤になった。

「もうっ。ちょっと横で見ながらステップを覚えなさい。ブラン・ベック、お手本!」

 レネが上手にリードしながら蝶子と踊りだすと、稔は感心して頷いた。そうか。こうやって堂々としていると、傍目にはイヤらしくないんだな。でも、俺にあと三日でここまで踊れるようになれって? 絶対無理だよ。

「明日からは、マリサに来てもらうから。とにかく彼女の足を踏まないようにステップだけでも完璧に覚えなさい!」
蝶子は難題をふっかけた。稔は頭を抱えた。

「おい、テデスコ。なんでヨーロッパ人は結婚パーティでダンスなんか踊るんだよ」
「マリサと手もつないだことないんだろう? 一氣にステップアップできるじゃないか」

 ちくしょう。テデスコとお蝶がワルツを踊っているのを見たことはないが、上手いに決まっている。なんせ、あのアルゼンチン・タンゴを踊れる二人だもんな。ブラン・ベックも余裕の上手さだし、俺だけジャンル違いじゃないか。

「ところで、ヤスミンはいつ到着するの?」
蝶子は、レネに問いかけた。
「今晩、来るって言っていました。イダルゴ、怒っていないかなあ。すっかり無料宿泊所にしちゃって」

「だったら、ブラン・ベックの部屋に泊めれば?」
「とんでもないっ。だったら、僕が廊下で寝ます」
「ふ~ん? 前、私が使わせてもらっていた部屋が空いているもの、あそこに入れさせてもらえばいいわよ。私の洋服とか動かしておこうかな」

「真耶と拓人が着いたら、もう二つ部屋が必要ですよね。そろそろイダルゴに交渉しておきましょうか?」
「あら、それはもう確保済みよ。二階にねえ、アラベスク模様の壁紙の素敵な一対の客室があるのよ。あそこを使わせてくれるんですって。そのかわり、二人はカルちゃんのために二重奏を演奏しなくちゃいけなくなったけどね」

 ヴィルはレネと蝶子が楽しそうに踊っていても、平然とピアノを弾き続けていた。

「なんか、前とえらい違いだよな」
稔がじろりと見た。

「何がだ?」
「ギョロ目とトカゲ女がタンゴを踊っていた時と較べてだよっ」
「そうだな」
ヴィルは余裕だった。

「ヤス! 何さぼっているのよ。さっさとステップを覚えなさい!」
蝶子に叱り飛ばされて、稔はあわててフロアに戻った。

* * *


「ハロー、みなさん。ここ素敵ねぇ、いつもこんなところに居候しているんだ。うらやましいわ」
到着したヤスミンは、物珍しそうにコルタドの館を見回した。レネは嬉しそうに、案内して回った。 

「以前、パピヨンが使っていた部屋を空けてもらったんです。案内しますね」
レネがそういうと、ヤスミンはびっくりしたように言った。
「なんで今さら? もちろん私、レネと同じ部屋に泊まるわよ」
「……」

 真っ赤になっているレネを見て蝶子と稔はくっくと笑った。

「ねえ。これ見て。シュメッタリングに初めて会った時に見て以来、一度この色着てみたかったの」
そういってヤスミンが取り出したのは、朱色の炎が白地の裾に向かってゆくドレスだった。前の方が短くて足が見えるようになっている。

「まあ、すてきねぇ」
蝶子が嬉しそうに近寄った。

「もちろん、シュメッタリングは、今度はこの色じゃないんでしょう? もしそうなら他のドレスを用意しなくちゃいけなくなっちゃう」
「大丈夫よ。私のは別の色だから」

「パーティのドレスは俺とブラン・ベックがプレゼントしたんだぜ」
稔がウィンクした。

「そうなの。カルちゃんがプレゼントしてくれたウェディングドレスも、パーティのドレスもまだヴィルには見せていないのよ」

 蝶子は嬉しそうに、ヤスミンとドレス談義に入った。ヴィルは頭を振って稔やレネとワインを飲みに行ってしまった。

 次の日の午後のダンス練習会には、ヤスミンとマリサも参加した。稔は緊張でカチコチになっていた。救いを求めるように蝶子の方を見た。また、怖い顔をしているのかと思いきや、蝶子は微笑んで親指を上に向けた。それから、フルートをもってピアノの前に座るヴィルの横に立った。

「なんだよ、お蝶。指導しないのかよ」
「もう十分したでしょ。あとは音楽に乗って、マリサを幸せなダンスの世界に連れて行ってあげなさい」

 そういうと、ヴィルに頷いた。ヴィルは蝶子のリクエストに応えて、伴奏を弾きだした。

 あ、『美女と野獣』だ。稔は忘れていなかった。ヴェローナのトネッリ氏のバーで、はじめて二人が共演した曲だ。あの時、いつもケンカばかりしている二人が、まるで恋でもしているみたいに演奏したんでびっくりしたんだったよな。稔は嬉しくなって、緊張を忘れてしまった。マリサに手を伸ばすと、はにかんで嬉しそうに手を伸ばしてきた。特訓のように、精一杯背筋を伸ばしてマリサと正しいポジションを組み、おそるおそる足を踏み出した。

 ぎこちないながらも、稔は少なくともステップを覚えていた。隣でレネがヤスミンと嬉しそうに踊っている。ダンスは、義務ではなくて、パートナーと楽しむためのものだと稔はようやく実感できた。ちょうど蝶子とヴィルが競演を楽しんでいるように。

* * *


「蝶子!」
真耶が抱きついた。挙式前日の午後だった。蝶子はヴィルと一緒に空港に迎えに行った。真耶はヴィオラ以外の荷物を取り落として走ってきた。

「真耶、遠いところをありがとう、疲れたでしょう?」
「全然。興奮して、疲れるどころじゃないわ。招んでくれて本当に嬉しいわ」

「結城さんも、ほんとうにありがとう」
真耶が取り落とした荷物を拾って後ろから来た拓人に蝶子が微笑みかけた。ヴィルは、拓人に握手すると真耶の荷物を受け取って持った。

「おめでとう。こうなるとは予想していなかったな」
拓人が言うとヴィルは珍しく笑った。
「あんたのおかげだ」

「そのわりにはずいぶんかかったじゃないか。あれから一年以上経っているぞ」
「あれから、いろいろあったんだ」

 拓人はヴィルからそのいろいろを聞き出すのは困難だと知っていたので、あとで稔に洗いざらい話させようと思った。
.22 2016 小説・大道芸人たち 2 trackback0

感想コメントの話

Posted by 八少女 夕

今日は、「もの書きブログテーマ」に分類していますが、とくに皆さんにも書いてという話題ではなく、なとんなくここの所思っていることを書いてみようかなという程度の動機で書き始めました。

長編小説の最終回や、一遍に発表できる読み切り掌編や記事はいいのですけれど、連載小説って発表する場合も、他の方の小説を読んでコメントを書く時も困ったりすることがあります。

わかりやすくするために話を単純化しますね。

例えば、ミステリーの長編小説で第1回目に「あ、こいつ犯人」と思ったとして「犯人は○○じゃないかと思います」という感想って書きにくい。というのはコメントに答える方は最終回までその話題に触れたくないとわかっているからです。「そうです」とも「違います」とも言いたくないに決まっているじゃないですか。

もしくは、「この人いい人で好きです」と感想をもらったとして、実は「こいつが一番のブラック!」というどんでん返しを用意している作者は「いい人なんですよ」とも「騙されないでください」とも書けない。反対に、全く的を得た指摘でも、ここで「そうです」って言ったら、「あとの一年間の連載は意味なくなるし」ってこともありますよね。

そんなことを考えると、自分が小説を読んでコメントを書くときにもけっこう悩みます。しかも、それでもいろいろと地雷を踏みまくります。コメ返の行間から作者の方が「……」となっている様子がにじんでたりすると「あらら、やっちゃった」と。

とはいえ、自分ではコメントはどんな形でも嬉しいし、反対に全くコメントがつかないと「ド、ドン引きされている?」と不安になりますし、「こういうコメントはしてくれるな」というつもりは全くないのです。単純に難しいなと。

考えると、長編だと発表する度に感動するシーンばかりではないですよね。全く面白くないシーンや、「?」なシーンだって途中に挟まなくちゃならない。特に私の場合、大体二千字を目安に切ったりするので「その質問はごもっとも。でも、それは来週」という記述もあるし、たぶん読者の方もわかって感想を書かざるを得ないというのもあると思います。

新聞の連載小説だったら、感想をもらっても作者がいちいち回答することはないから、反対にいうと心置きなく感想を書けるでしょうし、だいたい毎回感想を送るような方もいないかと思います。でもブログの交流の場合は、「ちゃんと読み続けているよ」という意味を込めて書くということもあるし、もらった方も「この人のだけはネタバレに繋がるので返事はやめちゃえ」というわけにはいきません。

このブログに関して言えば、毎回、本当に申し訳なくなるくらい皆さんが氣を遣ってコメントを書きこんでくださり、それがとても嬉しいのです。だからネタバレになろうとなんだろうと返事はします。

全員に回答しないという選択肢もあるでしょうけれど、一日に何百とコメントの入る有名人のブログならまだしも、せっかく構っていただけているのに無視って、私としては考えられないので、いただいたコメントには(単なる商品売り込みなどは別として)ちゃんと返事をしたいんですよ。(たまに誤摩化すけれど)

そして、自分が感想を書くときにも、もし自分だけに返事してくれなかったら、二度とコメント書き込まないでしょうし。

というわけで、毎回、いただいたコメントに返事する時も、コメントを書くときにもものすごく悩んでいます。あ、悩んでも結局、地雷は踏むんですけれど。
.20 2016 もの書きブログテーマ trackback0

メメント・モリ

Posted by 八少女 夕

お陰様で火曜日に当ブログは77777Hitを達成しました。いつもお越し下さる皆様のお陰です。本当にありがとうございます。いただいたリクエストは順番に執筆していきます。それぞれお待たせすることになりますが、納得のいくものを書きたいと思いますのでお待ちいただけると嬉しいです。

さて今日は、先日発表した『夜のサーカスと黄色い羽 - Featuring「物書きエスの気まぐれプロット」』で出てきた少々ブキミな納骨堂について解説してみます。

この記事、一度予約投稿していたんですが、シャレにならないことが起こったので、しばらく公表を見合わせていました。というわけで小説の発表からは大分時間が経っています。


納骨堂

モデルにしたのは、コモ湖畔ではなく、イタリア語圏スイスのポスキアーボという街にある納骨堂です。街のど真ん中にこういうものがあるのですね。

中にある頭蓋骨はすべて本物です。もちろん最近亡くなった方の頭蓋骨はありません。

ヨーロッパには、遺体の一部が誰でも見える状態でずっと置いてあることがわりと多いように思います。よくあるのが聖遺物という形で、教会に置いてある骨などですけれど、その他に教会の地下に行くと、壁にぎっしり頭蓋骨などというのも。

でも、日本にいるときほど「怖い」「びっくり」という感覚はないように思います。夜にこの納骨堂の前を通っても、そんなに怖くないんです。不思議な事に。風土の違いかなあと思います。

絵画にも、花やフルーツの静物画に混じって、ぽんと頭蓋骨が置かれている事があります。「メメント・モリ(死を想え)」というラテン語で表現されるように、「自分もいつか死ぬ事を忘れるな」と現世の享楽を戒めたり、貧富の差など死の前では意味がない事などを我々に意識させるようにする伝統があるようです。

華やかな街の広場にこういうものがポンと置かれ、ドアには大鎌をもった死神やら髑髏の絵が書いてあるのは、明らかに生活をする人びとに「メメント・モリ」と告げているんだなと思います。それでも、人びとはパスタやピッツァとともに美味しいワインを飲んで楽しんでいます。

そして、私もかなり慣れっこになっています。この写真、全く躊躇せずに撮ってサイズ縮小してアップしてしまいましたし。



関連して一つ音楽を。サン・サーンスの「動物の謝肉祭」です。このテーマだと普通は同じ作曲家の「死の舞踏」をイメージすると思うんですけれど、私のイメージはそれをさらに元ネタとしたこの「動物の謝肉祭」の第12曲「化石」(15:15あたり)のおちゃらけたイメージなのです。シロフォンで骨がカタカタ言うあたりの軽さが、アントネッラの作品でパレードに使った骸骨たちのイメージです。
.18 2016 旅の話 / スイス・ヨーロッパ案内 trackback0

【小説】大道芸人たち 2 (2)フュッセン、白鳥の城の下で -2-

Posted by 八少女 夕

しばらく間が空きましたが、「大道芸人たち」の続きです。婚式は無事に終了して、ちゃっかり観光客になっている四人。まあ、ここまで来たらあのお城は入っておきたいですよね。

「大道芸人たち 第二部」をはじめから読むこのブログではじめからまとめて読む
あらすじと登場人物




大道芸人たち Artistas callejeros 第二部
(2)フュッセン、白鳥の城の下で -2-


「で、これが最初のハネムーンってわけか」
稔が笑いながら、ノイシュヴァンシュタイン城を見上げて言った。

「私たちいつも動き回っているんだもの。ハネムーンに行きたいって思い入れはゼロだわ」
蝶子が笑って言った。

「こう、どこかまったく行ったことのないところに旅したいって希望はないんですか?」
レネが訊いた。蝶子とヴィルは顔を見合わせた。

「南米はどうだ?」
「南太平洋の島もいいわよね?」

 それから蝶子はレネと稔の腕を取って言った。
「でも、私たちのハネムーンは特殊なのよ。証人がどこまでもついてこなくちゃいけないから」

「そういうのお邪魔虫って言うんじゃないのか?」
稔が後ろのヴィルを振り返ると、大して迷惑そうにも思っていない顔でヴィルは首を振った。
「特殊といえば、この場合のハネムーナーと証人は、現地で稼がなくちゃいけないんだ。邪魔する時間もされている時間もないよ」

 四人は一斉に笑った。

 ノイシュヴァンシュタイン城に入るためには、やはり予約した時間を待たなくてはならなかった。城前の広場には多くの人々が暇を持て余してたむろしていた。

「ちくしょう。三味線を持ってくればよかったぜ」
稔が言うと、レネはにやりと笑って、ポケットからカードを取り出した。そして、入場時間まで出来た人だかりの前で楽しく稼いだ。

「なんか氣前のいい客が多かったな」
入場がはじまって、城の中に入ると稔がレネにうらやましそうに言った。レネは笑った。
「そうですね。あとでこの儲けで祝い酒を飲みましょう」

「こういうの、どこかで見たような氣がするわ」
蝶子が城の中を見回して訝しげにつぶやいた。

「シェーンブルン宮殿やベルサイユ宮殿ですか?」
レネが訊いた。もちろんどちらもレネは行ったことがなかった。

「違うの。そういう本物のお城じゃなくて…」
「ああ、わかったぞ。東京ディズニーランドだろう」
稔が叫んだ。蝶子も突然納得がいった。

「そうそう。ちょうどそんな感じ。変ね。正真正銘、本物のお城なのに」
「外がディズニーランドのシンデレラ城のモデルになったって言うけれど……」
ディズニーランドになぞもちろん行ったことのないレネはピンとこずに首を傾げた。

「この金ぴかの装飾がかえって作り物っぽく見えるんだろう」
ヴィルが言った。

 豪華な王座の間の派手な黄金の装飾、ワーグナーの楽劇を再現したという城の中にある洞窟など、通常の城にはなかなかない空間が稔と蝶子にはどうしてもテーマパークの作り物の城に見えてしまうのだった。

「カイザー髭の屋敷の方が、もっと格式あるように見えるよな」
パーティ客でごったがえす広間を見ただけだったが、エッシェンドルフの館の豪華さにはコルタドの館で豪奢になれていたはずなのに度肝を抜かれた。それを思い出して、もっと桁違いのお金がかかっているはずのこの城と比較して稔は首を傾げた。

「ああ、あそこはお金のかかっているものを、効果的に見せるように置いてあるしね」
蝶子も同意した。

「お前、あんなところで生まれ育ったくせに、よく大道芸人になれたな」
稔は感心してヴィルを見た。ヴィルは肩をすくめた。
「俺があそこで暮らした期間は蝶子よりずっと短いんだ」

「ええっ。そうなんですか?」
レネが驚いて訊き返した。

「ずっとアウグスブルグだったって家政婦のマリアンが言っていたわ」
蝶子が言った。

「レッスンの度に電車に乗ってミュンヘンまで行かされた。電車は好きだったな」
「ミュンヘンにそのまま住みたいと思わなかったのか? お前の親父だって知っていたんだろ?」
稔が、それまで訊かなかった分を取り戻すかのように踏み込んだ。ヴィルは特に迷惑している風でもなく答えた。
「いくら父親だと言われても、俺には厳しい教師にしか思えなかったんだ。周りの子供たちの父親というのはもっと別の存在だったからな。たとえばピエールみたいな」

 レネがいくらか氣の毒そうに頷いた。稔はどんなに大金持ちでも、あのカイザー髭と暮らすよりは浅草の家族の方がずっといいと思った。
.15 2016 小説・大道芸人たち 2 trackback0

パンのお供(1)フムス

Posted by 八少女 夕

世の中にはとても素敵なお料理ブログがあるので、ここ(一応小説ブログだし)ではそういう期待はされていないはずです。だからこそ書けるどうでもいい内容もあるわけで、今回から時々、我が家の普段の食生活を日本の皆様にチラ見させたら面白いかな、と思いました。というのは建前で、困った時の記事シリーズ化(笑)ブログの記事の内容を考えるのもシリーズ化した方が簡単なので。

今日ご紹介するのは、フムスというヒヨコ豆をベースにしたペーストです。

フムス

もともとは中近東で食べられている伝統的なペーストなんですけれど、ベジタリアンの間では世界中どこでもよく食べられていると思います。

なぜかというと、ベジタリアンでもタンパク質を摂らなくてはいけなくて、そうなると豆類を食卓に取り入れるのは必至なのですね。日本のベジタリアンには豆腐製品がありますので、そこまで有名じゃないかもしれませんが。

私はベジタリアンではないのですが、健康のため野菜料理を多く取り入れるようにしています。フムスの材料は、茹でたヒヨコ豆、タヒン(白ごまペースト)、オリーブオイル、レモン汁、にんにく、塩こしょう、クミンです。これをフードプロセッサーでペースト状にすればおしまい。私はレモン汁と塩の代わりに、自家製塩レモンを使います。

乾燥ヒヨコ豆

ヒヨコ豆は、こちらではかなり普通によく見る豆です。スペイン語のガルバンゾーという名前でも知られています。形は東京銘菓「ひ○こ」に似ているのでわかりやすいと思いますが、もちろんそこからつけられた名前ではないです。英語の「Chickpea」の訳ですが、そもそもこの言葉はフランス語「Pois chiche」の音訳で、その元はラテン語の「Cicer arietinum」。「山羊の顔のような豆」という意味だそうです。全然ヒヨコじゃない。でも、某東京銘菓に(以下略)

タンパク質の他、ビタミンB1、亜鉛、カルシウム、マグネシウム、カリウム、鉄分、葉酸、イソフラボン、食物繊維と栄養がぎっしりでとっても健康にいい豆。積極的に取り入れたい食材です。

私はカレーに入れたり、サラダに混ぜたり、ほうれん草と一緒に煮てタパスを作ったりいろいろと使います。そもそも豆類は、腸内健康にも大事な食材だし、それに私たちぐらいの年齢の女性はイソフラボンを摂った方がいいので、意識的に買うようにしています。調理は、一晩水に漬けてから圧力鍋で。

で、フムスですが、とても美味しいのですよ。もちろんフムスそのものの市販品も売っていますけれど、やはり自分で茹でたヒヨコ豆で作る方が断然美味しいと思います。変なものも入っていませんしね。

こちらでは夕ご飯は軽くて冷たいもの(パンとハムやチーズなど)で済ませることが多いんですが、そこにこのフムスを含めたパンのお供をいろいろと出しています。
.13 2016 美味しい話 trackback0

77777Hit記念企画の発表です

Posted by 八少女 夕

さて、なんだかんだ言っているうちに当ブログの77777Hitが近づいて参りました。滅多にない7並びということで、ちょっと頑張ってみようかなと思っています。
いつものように、カウンターが77777を過ぎてからの先着順7名この記事のコメント欄にてリクエストをお受けします。(フライング、別記事へのコメント、そして鍵コメは無効とさせていただきます。ご理解のほどよろしくお願いします)「選択は後から考えるから、とりあえずリクエスト権だけ確保」というのはいつも通りありです。コメント欄にその旨お書きください。
あ、ご安心ください。今回は「リクエスト者も書け」という鬼のようなことは申しません。もちろん面白いから同じように書きたいという方は、どなたでもどうぞご自由に。
今回は、リクエスト用選択肢を用意しました。この記事の最後に用意したの7つのカテゴリーから0~1つずつ(同一カテゴリーから二つ以上選択した場合は最初の一つだけになります)選択していただきその組み合わせでの掌編小説のリクエストをお受けします。それに応じて、最低1作品、最高で7作品(リクエストの組み合わせによる)の掌編を書くこととさせていただきます。また、選択肢にないご要望は受けられませんのでよろしくお願いします。
選択の1例
*上代日本
*野菜
*乗用家畜
*雨や雪など風流な悪天候
*独立掌編(外伝不可)
このリクエストの場合は、例えば天平時代を舞台に、菜の花や馬、それに雪などの出てくるこれまで私の書いたどの作品とも関係のない掌編を書くことになります。

なお、わざわざ矛盾のある選択をなさらないようにお願いします。(八少女 夕作品キャラを選んで且つ外伝不可/選択した時代と全く合わないキャラを選択など)
では、いつも通り皆様からの容赦のない(笑)リクエストをお待ちしています。
なお、お願いです。この記事には、いかなる内容であれ、鍵コメは入れないでください。他の方に読まれたくないコメントをなさりたい方は、他の記事のコメント欄へお願いします。
ではここから下が77777Hit記念リクエスト用の選択肢です。


時代/舞台選択肢(具体的な指定は出来ません)
*中世ヨーロッパ
*近世日本(室町~江戸)
*現代日本
*近世ヨーロッパ
*上代日本(平安時代まで)
*現代・日本以外
*古代ヨーロッパ

植物選択肢(具体的な指定は出来ません)
*針葉樹/広葉樹
*園芸用花(樹木または草花)
*薬用植物
*野菜
*穀物
*毒草
*その他(苔類・菌類・海藻など)

飲み物/食べ物選択肢(具体的な指定は出来ません)
*地元の代表的な酒/もしくは嗜好飲料
*一般的な酒類/もしくは嗜好飲料
*肉
*魚
*果物
*デザート
*アペリティフまたは前菜

建造物/乗り物選択肢(具体的な指定は出来ません)
*城
*橋
*教会または神社仏閣
*家
*車輪の付いた自家用乗り物
*乗用家畜(馬・ロバ・象など)
*公共交通機関

季節/天候選択肢
*春
*夏
*秋
*冬
*晴天
*雨や雪など風流な悪天候
*ひどい悪天候(嵐など)

八少女 夕作品キャラクター選択肢 (具体的なキャラ名での指定は出来ません)
*「大道芸人たち」関係
*「樋水龍神縁起」(現代 / 平安時代)関係
*「ニューヨークの異邦人」(マンハッタンシリーズ)関係
*「森の詩 Cantum Silvae」関係
*「黄金の枷」関係(時代は古代から現代まで可能)
*「夜のサーカス」関係
*カンポ・ルドゥンツ村在住キャラ(時代は古代から現代まで可能)

オプション選択肢
*コラボ(リクエスト者の自作キャラクター/要・具体名)
*第三者ブログのキャラクターとコラボ(要・具体名/作者の許可を得られた場合のみ)
(私と交流のない方のキャラのご指定はご遠慮ください)
*イラスト/写真からイメージする作品を書く(ご用意ください)
*イメージBGM(youtubeなどで指定してください)
*シリアス
*冗談
*独立掌編(外伝不可)



リクエスト状況(キャラの敬称を略しています)
お名前リクエスト
1.TOM-Fさん*現代日本
*園芸用花
*一般的な酒類もしくは嗜好飲料
*家
*雨や雪など風流な悪天候
*「大道芸人たち」関係
*コラボ、『花心一会』の水無瀬彩花里
2.彩洋さん*現代・日本以外
*毒草
*肉
*城
*ひどい悪天候
*「黄金の枷」関係
*コラボ・真シリーズからチェザーレ・ヴォルテラ
3.けいさん*現代日本
*針葉樹/広葉樹
*地元の代表的な酒/もしくは嗜好飲料
*橋
*晴天
*カンポ・ルドゥンツ村在住キャラ
*コラボ(「秘密の花園」から花園徹)
4.limeさん*中世ヨーロッパ
*薬用植物
*一般的な酒類/もしくは嗜好飲料
*乗用家畜(馬・ロバ・象など)
*雨や雪など風流な悪天候
*「森の詩 Cantum Silvae」関係
5.サキさん*現代日本
*野菜
*地元の代表的な酒/もしくは嗜好飲料
*公共交通機関
*夏
*「夜のサーカス」関係
*コラボ(太陽風シンドロームシリーズ『妖狐』の陽子)
6.スカイさん*現代・日本以外
*薬用植物
*一般的な酒類/もしくは嗜好飲料
*橋
*ひどい悪天候(嵐など)
*「夜のサーカス」関係
7.ポール・ブリッツさん*古代ヨーロッパ
*その他(苔類・菌類・海藻など)
*アペリティフまたは前菜
*乗用家畜(馬・ロバ・象など)
*ひどい悪天候(嵐など)
*カンポ・ルドゥンツ村在住キャラ
*コラボ (範子と文子の驚異の高校生活 より 宇奈月範子


これにてリクエストを締め切りました。

なお、惜しかったけれど、お嬢さんの結婚お祝いで別枠設けました
お名前リクエスト
8.かじぺたさん*現代日本
*薬用植物
*地元の代表的な酒/もしくは嗜好飲料
*城
*ひどい悪天候(嵐など)
*「黄金の枷」関係

.11 2016 このブログのこと trackback0

【小説】夏、花火の宵

Posted by 八少女 夕

webアンソロジー季刊誌「carat!(カラット)」
 vol.2 参加作品 
carat! バナー


今日発表するのは、読み切り短編集「四季のまつり」の第二回、夏の話で「花火」を題材にした掌編です。

というところまでは、ずっと前に決まっていたんですが、最初に出来た作品はあまりにも地味なのでボツりました。ですが、この作品で、canariaさんの主催するwebアンソロジー季刊誌「carat!(カラット)」に参加するつもりなので、書かないで放置は出来ません。

二つ目挑戦しました。最初のよりはいいかなと思ったんですが、「黄金の枷」の外伝にしてしまったので、本編を読んでいない人は、あの特殊設定の山には全くついていけないという現実を思い出しました。「四季のまつり」だけならいいけれど、「carat!」でそれはないわ、とこれもボツ。考えてから書けばいいものを。

三度目の正直。今度も外伝ですが、まあ、「ファインダーの向こうに」は読んでいなくても特に問題のある設定はないので、これで押し通すことにしました。canariaさん、ごめんなさい。でも、もう締切間近ですし、これで許してくださいまし。




夏、花火の宵

 7月4日、独立記念日。この日を心待ちにしていたのは、ハドソン川沿いに集まって花火が上がるのを今かと待っている観客だけではない。

 マンハッタンのパークアベニュー、32階建ビルの最上階で開催されるパーティに招待された人たちも同じだ。華やかで朗らかな魅力ある成功者、マッテオ・ダンジェロのペントハウスで独立記念日を祝うのは、ある種の人びとにとっては自慢すべきステイタスであり、また、彼の妻の座を狙う女性軍にとっては輝かしい未来への前進であった。

 パーティールームに用意された巨大なスクリーンには、ハドソン川で打ち上げられる花火の中継が映し出されることになっている。子供を肩車した一般人に視界を遮られつつ屋外で花火を鑑賞するより、ルイ・ロデレールのシャンパンを傾けながら女優や銀行家たちと上品な歓声を上げる方が自分にふさわしい。参加者たちの多くはそう考えていた。

 楽しく談笑しながら、客の間をまわっているマッテオ・ダンジェロ自身は、しかしながら、今年はこの日が彼主催のパーティでなければどんなに良かったかと思っていた。もし、この日に予定が何もなかったならば、彼はイタリア産の軽いスプマンテを持って、ロングビーチに住む妹を訪ねたことだろう。

 彼の大切な妹、取り巻きの女性たちの言葉を引用するならば「その価値もないくせにミスター・ダンジェロに溺愛されている」ジョルジアは、毎年一番最初に独立記念日の招待状を手にするにも関わらず、一度も姿を現さなかった。
「だって、兄さん。私はあなたのビジネスやロマンスの邪魔はしたくないの。それに、ああいうパーティは私には場違いだわ」

 例年ならば、この日ジョルジアと逢えなくとも、また別の日に食事に誘えばいいと思っていた。だが、今年は、出来ることなら彼女と一緒に花火を見てやりたい。彼は、客たちににこやかな笑顔を向けたままで、半年前の光景に想いを馳せた。

 それは、スイスのサン・モリッツでのことだった。もう一人の妹、アレッサンドラの結婚披露宴の直後で、引き続き滞在している招待客たちと一緒に大晦日を迎えていた。クルム・ホテルの豪華なダンスホールには、新郎の親戚である貴族たち、某国の元首や総理大臣、ハリウッドスター、そうした人びとに混じって参列を許された富豪たちとその妻たちが華やかに年の瀬を楽しんでいた。

 マッテオは、世界中のVIPが集まる厳戒態勢の結婚式の総監督的役割をこなしていたので、この日でようやく重責から解放されることを喜んでいた。

 三度目の結婚とはいえ、永遠の愛を誓ったばかりの妹の幸せに溢れた様子は、疲れと緊張を忘れさせてくれた。美しく立派なカップルの幸福に満ちた様相は、招待客たちに伝染して、ダンスホールは華やいだ幸福感で満ちていた。そして、夜は更けていよいよ新年へのカウントダウンが始まると、人びとはシャンパンのグラスを片手にそれぞれのパートナーとその瞬間を待った。

「ハッピー・ニュー・イヤー!」
グラスの重なる音、新しいシャンパンの開く音、人びとのキス。そして、大きな花火が開放的な窓ガラスの向こうに広がり、感嘆の声があちこちからあがった。楽団はウィンナ・ワルツを演奏し、人びとは新年を祝った。

 マッテオは、多くの人と乾杯しながら、まだ新年を祝っていないジョルジアの姿を探した。

 彼女は、ダンスホールではなく、その外側のバルコニーになった回廊に一人で立っていた。ガラスで覆われているので寒くはないが、熱氣のこもるダンスホールに較べると涼しい。

 ドアが閉まり、楽団の音と楽しくはしゃぐ人びとの声が聞こえなくなると、まるで別の世界に来たかのように、寂しくなった。マッテオは、華やかな世界に背を向けて夜に佇む妹の背中に、ブルー・ノート・ジャズを感じた。

 幸せに酔っているアレッサンドラの前では決して見せない遣る瀬なさ。華やかな世界に馴染めない居たたまれなさ。そして、手にすることが出来ないものを想う苦しみ。どうしてやることも出来ない妹の寂しい姿に彼の心は締め付けられた。

「ジョルジア、ハッピー・ニュー・イヤー」
五分以上経ってようやく声を掛けると、彼女は振り向いた。彼女は泣いてはいなかった。苦しんでいる表情もしていなかった。微かに笑うと「ハッピー・ニュー・イヤー、マッテオ兄さん」と返した。彼は、妹を抱きしめた。

* * *


「あら、ジョルジア。いらっしゃい」
キャシーは入って来たジョルジアを歓迎した。

《Sunrise Diner》は独立記念日だからといって休みではないので、キャシーはテレビをつけて花火を楽しもうと待っている。もっとも、常連客で店はそこそこ埋まっているので、のんびりと花火を眺めている時間はなさそうだ。

 サンフランシスコから遊びに来ている元同僚の美穂、この春からほぼ毎日やってきては居座っている英国人クライヴとその従業員クレアが同じテーブルに座っていた。彼らは、椅子を動かして彼女の場所を作った。

 ジョルジアは感謝してその席に収まった。

「いいタイミングで来たわね。ちょうど花火が始まるところよ。何を飲む?」
キャシーが訊き、ジョルジアはグラスワインの赤を頼んだ。

「今、話をしていたんですよ。花火の時にはどんな音楽が似合うのかってね」
クライヴが自分の店から持ち込んだボーンチャイナで紅茶を飲みながら口火を切った。

「ほら、ハドソン川の花火だと、ミリタリーバンドによる吹奏楽と合唱じゃない? でも、国によって違うらしいのよね、いろいろと」
キャシーが説明する。

 隣の席にいた常連でオーストリア人のフェレーナが口をだした。
「私は、『美しき青きドナウ』だって思うわ。とくに、新年の花火はやっぱりウィンナ・ワルツじゃないと」

 ジョルジアは、そういえばサン・モリッツの新年の花火でもウィンナ・ワルツを演奏していたなと思い出し頷いた。

「僕の意見は誰にも賛同してもらえないと思うけれど」
そう言って話しだしたのは、フェレーナの連れのスイス人ステファン。
「8月1日のスイスの建国記念日は、花火を見ながら野外クラッシックコンサートってことが多くて、スイスの建国記念日のコンサートだとロッシーニの『ウィリアム・テル』が定番なんだよね。だから花火というとどうもあれが……」

「いや、やはりベルリンではなんといっても『第九』だよ。東西統一の記念祭を思い出すから」
マルクスがドイツ人らしい断乎とした口調で主張する。

 クライヴも負けていなかった。
「いや、花火と言ったらなんといってもエルガーの『威風堂々』ですよ。毎年『プロムス』の最終夜で演奏されますし」

「それに、『ルール・ブリタニア』と『ジェルサレム』でしょ」
と、クレアが彼の愛国主義を茶化した。 

「日本はどうなの?」
キャシーに訊かれて美穂は首を傾げた。
「う~ん、どうかな。花火大会で曲はかかるけれど、あまり特徴のない映画音楽みたいなものかしら。そもそも、花火の方がすごくてどんな曲がかかっているかなんてほとんど考えたこともなかったし、まさかこんなに国によって違うものだとは思わなかったわ」

 ジョルジアの前に赤ワインのグラスを置いて、キャシーは訊いた。
「あなたにとっては? ジョルジア」

 そうね、と微笑んでから彼女は《Sunrise Diner》の店内を見回した。
「ここでかけている曲、かな」

 キャシーは、「え」といった。有線放送をかけているが、夜は少し賑やかなボサノヴァ風ジャズが多い。花火って感じじゃないなあ。
「どうして?」

「私、これまでわざわざ花火を観る習慣がなかったの。だから、特にかかる曲のイメージはもっていないの。でも、ここの曲、いま、映っている花火とけっこう合っているわよ」
そう言って、テレビの花火に目を細めるとワインを飲んだ。

 彼女は去年の秋から冬にかけて、キャシーとその家族が写真のモデルになって撮影していた頃と較べてリラックスしている。ここでかかっているボサノヴァ風ジャズみたいに。それと同時に、少しずつではあるが、ウルトラ個性的な常連たちに馴染んで来た。

 いつも一人カウンターに座ってテレビのニュース番組を観ているか音楽に耳を傾けているだけだったのが、呼ばれると彼らのテーブルに移ってきて一緒に時間を過ごすようになっていた。

 時間をかけて重い鎧を脱いで、剣を身から離すことが出来るようになって来たのかな。それとも、この間のアフリカに旅行で何か特別な経験でもしたのかな。

 客たちは、次々上がる花火の映像に歓声を上げて、それぞれの日々の苦労や腹立ちを忘れて楽しんでいる。一年に一度の浮かれた祭りの宵。

 どこで観るのも自由。どんなこだわりがあっても構わない。大切なことはみんなでワイワイ楽しく観ることだものね。

 店の有線放送の『ワン・ノート・サンバ』に合わせて打ち上げられる花火か。うん、本当に悪くない。キャシーもまた、サンバのような軽快な足取りで、次々入る新しい注文を華麗にさばいていった。


(初出:2016年6月 書き下ろし)

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「carat!」は読み切りを前提としているので、敢えて読む必要はないのですが、一応、今回の話も既存のシリーズの外伝になっています。興味のある方はどうぞ。

「ファインダーの向こうに」
「ファインダーの向こうに」

「ニューヨークの異邦人たち」
「ニューヨークの異邦人たち」

.08 2016 短編小説集・四季のまつり trackback0

今後の予定について

Posted by 八少女 夕

もう6月。間もなく今年も半分というのが驚きです。

さて、今後の予定というほど大袈裟なものでもないんですけれど、今年のこの後の小説発表について軽く覚え書きを。


一応、このブログでは(というか、私の構想では)メインの連載があり、その合間にそれ以外をちょろちょろと発表するというスタイルを目指しているんです。

でも、小説爆弾連続投下は可能な限り避けたいと思っていて、一応、水曜日が小説、それ以外の記事を週に2回というイメージで運営しています。

メインの小説は、今年は「大道芸人たち Artistas callejeros」の第2部のチャプター1のみを予定しています。その先も続けて発表できたらいいんですけれど、ちょっとまだ固まっていない所があるので、チャプター1が終わったら一度止めます。秋くらいまでになるでしょうか。

その他に、月間Stella用の小説が2月に1回は来ます。「Infante 323 黄金の枷」が完結したので新しいものを……ではなくて、こちらは「バッカスからの招待状」を発表していくことになります。あれはほぼオムニバスなんで、Stella向けかなと。

それから3ヶ月に1回のcanariaさん主宰の「carat!」用には「四季のまつり」で参加しています。

それに加えて、時折思いついたように外伝などもぽつぽつ発表しようかなと。

で、これだけで年内持つわけないだろうと思ったんですが、そうでもないのです。実は、一ヶ月後(ペースが早まっていてなんか10日以内でした!)くらいに77777Hitが来そうで、こちらも特別なリクエストを受け付けようと準備中です。これが最高で7本(おそらく80000Hitも今年ですが、こちらはごく簡単に逃げる予定です)。それに、おそらく彩洋さんの所の「オリキャラのオフ会」がありますので、そちらも書くとなると、ほらね。今年はもうそれで十分くらいありますよね。

さて、「書く書く詐欺」になっている長編がいくつかあります。これは、ずっと本当に書いていなかったんですが、実は平行して書き出しています。

「大道芸人たち Artistas callejeros」「森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠」に加えて「黄金の枷」シリーズでは「Usurpador 簒奪者」と「Filigrana 金細工の心」、それに「リゼロッテと村の四季」を少しずつ進めています。それに、「ニューヨークの異邦人たち」シリーズからジョルジアのアフリカに関する部分を切り取って「郷愁の丘」という中編も書き進めています。これらのうちどれか形になったものから、来年あたりお目見えできるといいなと思っています。

なんて、来年もまだブログをやっていたら、ですけれどね。
.06 2016 このブログのこと trackback0

バター問題

Posted by 八少女 夕

今日はまたしても「食いしん坊」いや「美味しい話」カテゴリーです。

文化の違う所で育った人間が一緒に暮らすとなると、時々「ええっ、そうなの?」という驚きがあります。例えば「関西の方は8枚切りの食パンは許せない」なんて話を聞くと「へえ〜」と思います。

ましてや海外だと常識レベルで思い込んでいたことが、実はそうではなかったと驚くこともあります。

そのうちの一つがバター問題。

バターのある食卓


食パンをトーストして、バターを塗ります。どう塗りますか?

私は、ずっと熱々のトーストにすぐにバターを塗って、バターがパンにじわ〜っと沁みるのがみんな好きだと思い込んでいました。日本の喫茶店などで出されるトーストもそうなっていますよね。4枚切りのパンの半分くらいまで沁みているのがあらまほしい姿だと思っていましたし、実際に美味しいではないですか。

ところが連れ合いはそれは邪道だというのです。トーストが冷めてから、室温で柔らかくなったバターを塗るべきだと。確かにサンドイッチなどは、そうしないと具材の水分をシャットアウトしてくれないから、彼の言うことは一理あるのです。でも、いますぐに食べるトーストにはバターがジュワッと沁みている方が美味しいと思うんですけれど。

ちなみに、バターは、こちらでは無塩が普通です。もともと有塩バターって、たくさんバターを消費しない国や暑い国で悪くなるのを防ぐための苦肉の策という扱いなのですね。で、ジャムなど甘いもので食べる時に有塩バターを使うと嫌がられるのですよ。めげずに「でも、スイカに塩かけるように、塩入りだと甘さも引き立つよね〜」と、一人でブツブツ言っている私です。

何にでもマヨネーズをかける人のことを「マヨラー」と呼ぶという話がありましたけれど、実は、私はそれでいうと「バターラー」です。いろいろな料理にバターを入れてコクを出すんですよね。ほうれん草やキャベツはバター炒めにしますし、ソース類にもよくバターを入れます。お肉をバター醤油ソースで食べるということもしますし、そう言えばラーメンもバターコーン+チャーシューが好き。

以前は、いわゆる油をフライパンに敷くときもほとんどバターでしたが、さすがにそれはまずいかなと思って、最近はオリーブオイルか太白のごま油にしています。

買い物をする時もバターは切らせないです。酪農国なので、バターの値段はまあまあ。あの味でこの値段(250gで300円ぐらい)なら、文句は言えません。まあ、他に贅沢はあまりしないのでいいかなと。
.04 2016 美味しい話 trackback0

【小説】 アヴェイロ、海の街

Posted by 八少女 夕

「大道芸人たち」を放置していますが、今週と来週も別件小説の発表です。すみません。
本日発表するのは、「黄金の枷・外伝」扱いにしてありますが、ブログのお友だちの間では「ポルト&ローマ陣営」で知られているコラボ作品の最新作です。山西左紀さんのところの「ポルトのミク&メイコ」と大海彩洋さんのところの「詩織&ロレンツォ&トト」と、うちの「黄金の枷」シリーズのキャラたちが交流しているのです。

そのうちの流れの一つが、左紀さんの所のミクとうちのジョゼの話なんですけれど、何だかよくわからないうちに、「ミクとジョゼをカップルに」的な流れになっていまして、人様のキャラ相手にこんなこと書いていいのかと首を傾げつつ、本日の展開になっている、とお考えください。急いで発表すべき大人の事情(笑)がありまして、急遽書き下ろしました。

うちのブログでは「黄金の枷・外伝カテゴリー」で追うと、「ポルト&ローマ陣営」の大体のことがわかるかと思います。ま、一つ前の「カフェの午後 - 彼は耳を傾ける」を読めばそれにほぼ情報は入っているかな。
サキさんの所ではこうやって追えば、わかるでしょうか。
ちなみに彩洋さんの所はこのカテゴリーかな? 今回の話にはからんでいないパートですが。



【参考】
小説・黄金の枷 外伝
「Infante 323 黄金の枷」Infante 323 黄金の枷



黄金の枷・外伝
アヴェイロ、海の街


 ずっと寒かったから心配していたけれど、その日は晴れ渡っていて正にドライブ日和だった。ジョゼが車を家の前に駐車して、呼び鈴を鳴らすと、ミクだけでなく祖母のメイコまで出てきた。

 メイコは口にこそ出さないが「子供が車に乗っていいのか」という顔をしていた。もちろんジョゼはもうれっきとした成人だし、自動車免許証をちゃんと取得している。もっとも、左側のバンパーがへこんでいるのを目ざとく見つけたメイコが十字を切るのを見て「安全運転するから大丈夫だって」と言い訳がましくつぶやいた。

 ミクは新しいブラウスを着ていた。それは若草色や水色、それに白などが鮮やかにプリントされたオーガンジーで、内側に着ている黄色いキャミソールと、日本人らしい彼女のわずかに黄味のある肌を引き立てていた。この前逢った時よりも少し髪の毛が伸びたみたいだ、ジョゼはちらりと横目で見て、あれ、今日はあのピンはしていないんだ、そう思った。

 長かった髪を切って以来、ミクはいつもあのトパーズのついた髪ピンをつけていた。キラキラして似合っていた。一度、落ちそうになっていたので指摘したら「ありがとう。これ、幸運のお守りなんだって」と言った。安いものには見えないから、誰かのプレゼントじゃないかと思ったけれど、どういうわけだか訊けなかった。訊かない方がいいと、どこかで思っていた。

 ミクの幸運を願う氣持ちは大いにあるけれど、ジョゼはそのピンを彼女がつけなくなったことにどこかホッとしていた。もっとも、今日はたまたま付けていないだけかもしれない。

「どこに連れて行ってくれるの?」
ミクは、車の窓を開けて風を入れた。

「うん。特にリクエストがなければ、アヴェイロはどうかな」
「どこ、それ?」

 ミクは、ティーンエイジャーの時にこの国にやってくるまではずっと日本にいた上、その後も留学やなんかで忙しかったから、この国の地理にそんなには詳しくない。そりゃ、リスボンやコインブラがどこにあるくらいは知っているだろうけれど。

「南に一時間弱走ったところだよ。運河の街だからポルトガルのヴェニスって呼ばれているんだ」
「へえ。面白そう。じゃあ、そこに行きましょう」

 ミクは、鼻歌を歌いながら運転するジョゼに顔を向けた。免許を取ったのはもう一年くらい前だと言っていたけれど、まだ一度も彼の運転している姿を見た事がなかった。彼女の滞在がいつも短くて、その度に逢っているものの車で遠出をする時間などあった試しがなかった。ポリープの手術の後の三ヶ月の療養期間は、歌手を目指し始めてから初めての長い休みだ。

 彼のハンドルさばきは鮮やかで安定していた。若者らしく少しスピードは超過しているが、無理な追い越しなどはしないし、ブレーキ操作もスムースだった。彼は、いつの間にこんな大人になったんだろう。ついこの間まで絵夢に甘えていた小学生だったくせに。

「なんだよ。あんまりカッコ良くて見とれている?」
ミクの視線を感じて顔を向け、おどけてジョゼは言った。

「よく言うわ。ちゃんと前見て運転してよ」
彼女は、一時間弱のドライブじゃ、短すぎるなと思ったけれど、死んでもそんなことは言ってあげないと心の中で呟いた。

* * *


 ポルトガル中部、アヴェイロ県の都でもあるアヴェイロは潟と運河で発展してきた海の町だ。現在は大西洋に面する重要な港湾都市として工業も盛んだが、街の中心部はかつての優美な姿を今に留めている。運河の前には美しいファサードの建物が並び、水の上には色とりどりに塗られたモリセイロと呼ばれる舟が浮かんでいる。かつては海藻や塩の運搬に使われていたこの舟も、今はヴェニスと同様に観光客用のアトラクションになっている。 

「でも、乗るだろ? せっかくここまで来たんだし」
ジョゼは、船着き場に向かう。二人で舟に乗るなんてロマンティックと思っていたら、なんのことはない十人以上の観光客が一緒に乗る舟だった。舟にはエンジンが取り付けてあって二人の船頭の役割は、方向転換とマイクによる観光ガイドだった。しかも英語だ。

 水の上は少し肌寒かったので、ジョゼは備え付けてあった毛布を広げてミクの膝にかけた。
「ありがとう。こんなに温度が変わるのね」
「そうだね。まだ春だから。いくらポリープは取れたといえ、風邪なんか引かない方がいいだろう?」

 アール・ヌーボーの美しい家々、塩づくりや漁業で財を成した人たちの豪邸、荒れる海との戦いを彷彿とさせるいくつもの海門、それに英国の王室にも納品しているという有名な塩田などを見学して舟は元の広場に戻ってきた。

「冷えちゃったから、コーヒーでも飲んでいこうぜ」
ジョゼは、船着き場からさほど遠くない一軒のカフェに入って行った。そのカフェは思ったよりも広いが、中は客がぎっしりと座っていた。ポルトガルに多い、対面のガラスケースにお菓子を所狭しと並べて販売している。

 二人が座ると、ウェイトレスが注文を取りに来た。
「大きなカップでコーヒーを二つと、それからオヴォシュ・モレーシュも二つ頼むよ」
ジョゼが注文した。

「オヴォシュ・モレーシュ?」
「ここの名産なんだ。ほら、きた」

 白い貝の形をした薄くてぱりっとした皮に黄身の甘いクリームが詰めてある菓子だった。
「あ、最中!」
ミクは懐かしそうに言った。

「モナカ?」
「そう、この皮にそっくりな日本のお菓子があるのよ。小豆で出来た餡を入れたり、アイスクリームを挟んだり。この黄色いクリームも日本で食べる黄身餡に似ているし、嬉しくなっちゃう。日本には大航海時代にポルトガルから伝わったお菓子や言葉が今でも残っているの」

「へえ。たとえば?」
「鶏卵素麺っていうお菓子はフィオス・デ・オヴォスのことだし、パン・デ・ローはカステラって名前になって、大人も子供もみんな食べるポピュラーなお菓子よ。それにコンフェイト(菓子)を語源にした金平糖という砂糖菓子もあるのよ。だからこちらで食べるお菓子は、あたしには懐かしいものが多いの。たとえ初めて食べるものでもね」

 ジョゼは、ミクをじっと見つめながら訊いた。
「日本が懐かしい?」

 ミクは答えるのに少し躊躇して言葉を選んでいた。ジョゼは、日本に帰りたいと言わないでくれたらいいなと思った。彼女はようやく口を開いた。
「懐かしくないと言ったら嘘になるけれど……」

 それから、笑顔を見せた。
「あたしね、故郷から遠く離れているんじゃなくて、あたしには二つの故郷があるって思うようにしているの。それに、今は日本よりこの国に大切な人がいるから」

「それって……」
メイコのことかな、それとも……。ジョゼが続きを訊こうとするのを無視して彼女は立ち上がり、対面ケースのところで、オヴォシュ・モレーシュの詰め合わせの箱を二つ買った。

 彼は肩をすくめてコーヒーを飲み干すと、会計をした。

 帰りに華やかな家々の並ぶ海岸沿いを通ってから、帰途についた。楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。この三ヶ月間どのくらい彼女と会えるのかなあ。ジョゼは、今日もまた言えなかったじゃないかと思いながら、車を走らせていた。

「オヴォシュ・モレーシュ、メイコにお土産か?」
「ええ、一箱はね」
「じゃあ、もう一箱は?」

 ミクはいたずらっ子のように笑いながら、箱を開けて「こうして食べる用」と一つ取り出してかじった。
「え。一人で?」
ジョゼが不満顔で言うと、彼女は自分のかじった残りを冗談めかして彼の口元に持っていった。

 彼は、それをそのままひと口で食べてしまった。
「あ!」
ミクは目をみはった。間接キスしちゃった。

 ジョゼは、ミクが嫌がっていないのに氣をよくした。彼女の持っている箱から、もう一つ取り出すとひと口かじってから、ミクの口元に持っていった。そして、彼女がいつもよりずっと魅力的に微笑んでから、大きな口を開けてぱくっと食べてしまったのを確認した。彼は飛び上がりたい氣もちを抑えて真面目に運転した。

(初出:2016年6月 書き下ろし)

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オヴォシュ・モレーシュはこんなお菓子です。
オヴォシュ・モレーシュ
.01 2016 小説・黄金の枷 外伝 trackback0
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