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Posted by 八少女 夕

【小説】大道芸人たち 番外編 - 松江旅情(2)城のほとり

「オリキャラのオフ会 in 松江」第二弾です。四月八日の朝、四人は、旅館の朝ご飯を堪能した後に電車に乗って松江の街にやってきました。

あ、参加者の方への業務連絡です。玉造温泉の混浴が人氣でしたので、夜に千手院で夜桜を堪能した後に、また玉造温泉に戻って再び四人を月見沐浴させようと思います。ご希望の方は、どうぞ乱入してきてくださいね。また、私が書いていない時間、スポットでの目撃談も、どうぞご自由に書いてくださいませ。


オリキャラのオフ会
このアイコンはご自由にお使いください。

ちなみに、Artistas callejerosの四人組の外見描写、私の書いている中にはほとんど出てきません。目の色などを細かく知りたい方はこちらをどうぞ。視覚で知りたい方は下のユズキさんの描いてくださったイラストで。髪型など、完璧に再現してくださっていますので。服装も、このままということにしちゃいます。蝶子だけは、これに白っぽいスプリングコートを上に着ているかな。
「大道芸人たち」 by ユズキさん
このイラストの著作権はユズキさんにあります。ユズキさんの許可のない使用は固くお断りします。

【大道芸人たちを知らない方のために】
「大道芸人たち Artistas callejeros」は2012年に当ブログで連載していた長編小説です。興味のある方は下のリンクからどうぞ

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あらすじと登場人物



大道芸人たち Artistas callejeros 番外編
 〜 松江旅情(2)城のほとり


「ちょっと、ブランベック。なに食べ歩きしているのよ」
蝶子は露骨に嫌な顔をした。レネは、たった今入ったばかりの和菓子店「石倉六角堂」で買いあさった和菓子のうち、どら焼きを開けて食べていた。

「お茶もなしによくそんな甘いものが食えるな」
稔も呆れている。ヴィルも今回は助け舟を出すつもりはないらしい。なんせ四人はつい今しがた、併設された簡易喫茶で練りきりと緑茶を堪能してきたばかりなのだ。

「こんなにおいしい和菓子は、僕たちの所では食べられないじゃないですか。放っておくと固くなっちゃうし、少しでもたくさん食べておかないと」
レネはふくれた。

「そんな姿をみたら、百年の恋も醒めちゃうわよ」
「ほっておいてください。見られて困るような人がここにいるわけないんですから」

 レネが、一つめを食べ終わって、さらに袋を探っている所を稔がつついた。
「おい。今の言葉、後悔すんなよ。ほらっ」

 レネは顔を上げて、稔が顎で示している方向を見て、ぽかんとした。
「……スズランの君……」

 蝶子とヴィルも、レネの視線を追った。道の向こう側、お城の堀に近い方向を、二人の外国人が歩いていた。一人は長い金髪に濃紺のスーツを身に着けた背の高い男性で、もう一人は桜色に薔薇の柄のフリルの多いドレスを着ている若い女性だった。

 その女性をもっとよく見て、ヴィルと蝶子にもレネが誰の事を言っているのかわかった。真珠色の長い髪に赤と青のオッドアイ。ロンドンで、レネがぽーっとなったという女性だろう。レネは彼女にもらったレースのハンカチを未だに大切にしているのだが、そのハンカチから薫っていたのが『リリー・オブ・ザ・バレー』の香水だった。

「ほらみろ。買い食いなんてするもんじゃないだろう」
稔が言うと、レネは恥ずかしげに出しかけていた二つ目のどら焼きを袋にしまった。

「どうした?」
ヴィルが、蝶子に訊いた。蝶子は、やはり少し驚いた様子で、女性の連れの方を見ていた。
「あの男性……」
「知ってんのか?」
稔が訊くと蝶子は頷いた。
「大英博物館で逢った人よ。へえ。『スズランの君』と知り合いだったのね」
「そういえば」と稔は首を傾げた。「あの時のサツ野郎と一緒じゃないんだな……」

「ロンドンで逢った人たちと、日本で再会か……。不思議なめぐり合わせだな」
ヴィルが言うと、レネが息巻いた。
「運命ですよ!」

 蝶子と稔は吹き出した。それから稔が訂正した。
「『縁』だろ。島根県は『縁の国』だからな」

 四人は、道路の向こうの二人に会釈をして通り過ぎた。ところで、あの人は私のことを憶えているのかしら? 蝶子はちらりと考えた。

* * *

 
 松江城の観光を始める前に、まず松江歴史館から観ることにした。武家屋敷のような建物で、松江城とその堀川の景色ともよくマッチしている。もともとは四家の重臣の屋敷のあった場所で、その中の松江藩家老朝日家長屋の一部が今も残り、松江市指定文化財となっている。歴史館にはこの建物や復元された木幡家茶室や日本庭園と企画展示室が上手に組み合わされている。

 展示室では、松江藩の概要、産業、城下町の暮らし、それに水とともにある松江の暮らしなどをコーナーごとに解説し、模型、絵巻風のパネルや鎧兜、陶器、その他の展示で日本語が読めないものも飽きずに見学できるようになっていた。

 ひと通り見学を終えて、出口に向かう途中、売店の側でレネが足を止めた。喫茶店があったのだ。蝶子が辛辣なひと言を言おうとした正にその時、横をドイツ語で話しながら二人組が通り過ぎた。

「先生。ついさっき和菓子屋で食べたばかりじゃないですか。いちいち和菓子を見る度に食べようとなさらないでください!」
「失敬なことをいうね、フラウ・ヤオトメ。この前に通った、少なくとも二軒の和菓子屋では立ち止まらなかったぞ」

 蝶子は吹き出した。首を傾げるレネと稔にヴィルが素早く通訳した。それを耳にして、二人組は立ち止まった。一人は太い眉に銀のラウンド髭を蓄え、細かいチェック柄のツイードの上着を着た厳格そうな外国人で、もう一人は首までの茶色く染めた髪を外側にカールさせ、臙脂色のスプリングコートを着た日本人女性。

「この街で、ドイツ語のわかる人に逢うとは思わなかったな」
と、紳士は握手の手を伸ばし、スイスに住むクリストフ・ヒルシュベルガー教授であると自己紹介をして、同行しているのが秘書のヤオトメ・ユウであると言った。

「お知り合いになれて光栄です。ヴィルフリード・エッシェンドルフです」
ヴィルは、手を伸ばし礼儀正しく挨拶をした後、続けて残りの三人を紹介した。

「せっかくですから、ここの喫茶店でお茶でもしませんか」
教授がそう言ったので、蝶子はまた笑いそうになったが、必死で堪えて喫茶店『きはる』に入った。日があたり暖かいので屋外の濡れ縁で、和菓子と緑茶を楽しんだ。

「この後は、どこに行かれるのですか?」
ユウが訊いた。蝶子は日本語で答えた。
「ここ以外は、まだ、和菓子屋にしか入っていないので、これからちゃんと観光する予定なんです。まずはお城に行って天守閣に登りたいなと思っています。それから、できれば堀川遊覧船にも乗りたいですし、武家屋敷や小泉八雲記念館にも行きたいなと思っているんですが、あまりたくさん観光したがらないガイジン軍団がいるんで、計画通りにいくかどうか……ユウさんは?」

「ええ、和菓子屋めぐりはそこそこにして、イングリッシュガーデンにいくか、神魂神社への参詣ついでに『風土記の丘』や黄泉比良坂に行くのもいいかなと」
「氣になる所、たくさんありますよね」
「ええ。でも、外国人連れだと……何に騒いでいるのかわかってもらえない部分もありますよね」
「確かに」
妙な所で意氣投合してしまった。

「でも、外せないのは宍道湖の夕陽を見て、千手院でしだれ桜を見ることでしょうか」
ユウが言うと、稔が頷いた。
「確かにそれは見逃せないな。じゃあ、後でまた逢うかもしれないな」

 和菓子も食べて、レネとヒルシュベルガー教授も満足したようなので、六人は松江歴史館を出て再会を約束して別れた。

「さあ、とにかくお城に行きましょう」
立派な門を通って、小高い丘を登っていく。
「やっと入口か。天守閣に行くのもさらに登るんだよな。覚悟しろよ」
稔が言う。

「あ、あそこでお団子を売っていますよ!」
レネの叫びを、三人は無視することにした。

(初出:2015年3月 書き下ろし)

追記


【参考】
松江歴史館
http://www.matsu-reki.jp
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Tag : 小説 連載小説 コラボ オリキャラのオフ会 地名系お題

Comment

says...
そういえば、こうしてふつうに記事を見ておりますが、
夕さんは海外にいますもんね。なかなか。
普通に和菓子が食べられないでしょうね。
私は和菓子が好きですから、やっぱり海外には住めないなあ。。。
・・・と小説を読んでふと。。。
2015.03.21 08:13 | URL | #- [edit]
says...
おはようございます。

ええ、そうなんです。
和菓子というのは「食べたきゃ作れ」なものでございます(笑)
でも、つくるとなると、なかなかねぇ。食べずに済ませちゃうんですよ。
和菓子、おいしいですよね。
日本に行くと、止まらなくなります。

コメントありがとうございました。
2015.03.21 10:11 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
相変わらずブランベックとエッシェンドルフ教授は甘い物に目がないですね。「石倉六角堂」もちゃんと訪れてるんだ。
ほんと、いやしいぐらいですけれど、この気持ちはサキにはちょっとわかりません。サキは酒はほとんど飲みませんが辛党です。
おっと、ここでセシルとハノーヴァー公の登場ですね。彼等はオーラが凄いですから何も喋らなくても存在感有り有りです。
先ほどサキの作品をUPしましたが、ちゃんとこのお2人には登場してもらっています。オッドアイどうしですしね。でもこの2人うかつに喋らせられないなぁ・・・。存在感が大きいだけに扱いが難しいです。でも登場には工夫を凝らしましたよ。
反面エッシェンドルフ教授はユーモアがたっぷりで使いやすそうです。ここでのユウとのコントはお約束ですし、蝶子達を加えた会話はとても楽しいものでした。
サキはとりあえず敷香(シスカ)の行動を作品としてUPしましたし、メインの4人組がだいたいどのコースで動くのか開示されましたし、後は皆さんがどのように絡まれるのか楽しみに待つことにします。
上手くいくようなら第2弾に続けられるかも・・・ですね。
2015.03.21 13:45 | URL | #0t8Ai07g [edit]
says...
更新、お疲れ様でした。

いよいよ松江に到着ですね。やはり「石倉六角堂」で和菓子は、外せませんよね。
そして、セシルとアーサーを出してくださって、ありがとうございます。塩見縄手あたりですれ違い、ですね。了解です。大道芸人たちが巡るコースはがっちり定番ですので、絡ませやすくて助かります。ただ、私が松江に行ったのはもうずいぶん前のことなので、ちょっと知識をアップデートする必要がありそうですけど。
それにしても「スズランの君」とは、また可憐な愛称を。しかも、あのハンカチをまだ大事にしてくれているとは。エミリーが知ったら、さぞや喜んだことでしょうね(微妙な言い回しだなぁ) もっとも、彼女の正体を知ったら、レネは思い切り幻滅するでしょうけど(笑)
セシルはともかく、アーサーにはきっちりと蝶子に気づかせますので、お楽しみに。
ヒルシュベルガー教授とフラウ・ヤオトメも登場で、キャラがどんどん出てきて、ほんとうに楽しくなってきましたね。
次話も楽しみです。

こちらは、例の記念日に発表するつもりですので、それまではのんびりと皆さんの書かれたものを拝読しようと思います。
それと、なにやら混浴露天風呂オフ会になりつつありますね。面白そうなので、ウチの公爵と姫君も当日の夜に、あの宿に行かせることにします。
入浴シーンそのものは書かないと思いますが、もちろん混浴露天風呂に乱入するという前提で、ご随意にお使いくださいませ(笑)
2015.03.21 16:02 | URL | #- [edit]
says...
こんばんは。
この二人の甘いものへの執着は異常です。
特にヒルシュベルガー教授は威張っているだけ、迷惑千万です(^^)
あ、ヴィルパパは登場しません、来たら怖い(^_^;)

続きがある場合は、よかったらヒルシュベルガー教授も構ってあげてください。

TOM-Fさんのところのお二人は、競演二回目なので、前の件も入れてみました。
サキさんのところのも、拝見しました。コメントは帰国後にしますが、そちらの四人との絡みは旅行中に練っておきますね。

みんなのが複雑に絡まってきて面白くなってきましたよね。
帰ってからが楽しみです。

コメントありがとうございました。
2015.03.22 00:39 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
教授とユウさんも登場ですね^^
そうか、教授も甘いものが好きだったんですよね。
わたしもグルメではないけど、甘い物にはうるさいので(笑)教授とブランベックにくっついて、甘味どころを回りたいな。
夕さんはじめ、皆さんの話を読んでいるだけで松江を観光している気分になります。(きっとこの企画、松江の観光協会から喜ばれるだろうなあ)
温泉宿も良かったけど、食べ歩き散策もたのしいですね。
宍道湖の夕日で、ちょっとムーディーな出会いとかあるかな?
続きも楽しみです。

夕さんのリアルな旅も、素敵なものになりますように^^
2015.03.22 06:39 | URL | #GCA3nAmE [edit]
says...
おはようございます。

松江と言ったら和菓子は外せないかなと思って(^^)
一軒行くなら、あそこです。

セシルとアーサーに再会はしたのですが、公爵閣下はともかく姫君は別人なので、反応がわからずまずは会釈で逃げました。後はよろしくお願いします。(丸投げ)
松江は東京のようにはすぐ変わらないと思いたいです。まあ、ちょっと違っても、いいでしょう(^_^;)
「スズランの君」は苦肉の策です。エリザベートかエミリーか混乱したまま別れた後、再会したらセシルだし。
ハンカチは蝶子が狙っているかも(^^)

打ち上げお風呂の件了解です。
日本酒大量に用意しておきますね。

コメントありがとうございました。
2015.03.22 08:01 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
おはようございます。

教授は美味しいものはなんでも好きで、レネはお酒と甘いものと無理めの女性が好きです(^_^;)

松江の和菓子は渋いのですが美味しいので、ぜひこの変なコンビと周ってください。(どうやって?)

実は私は島根応援団なのです。
こんなにいいところなのに「どこにあるのかわからない県一位」ですし(^^)

ポルトも、無事について昨夜はファドを堪能できました。飛行機のナビが壊れたらしくチューリヒ空港で足留めされたのですが、二時間遅れでなんとか。今朝は晴れてきたので、これから街に繰り出します。取材(^_^;)

コメントありがとうございました。

2015.03.22 09:13 | URL | #9yMhI49k [edit]

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