scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012


Posted by 八少女 夕

【小説】森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架(27)遠乗り -1-

マックスが助けにきているとは夢にも思わないラウラ。婚礼の日まで、ひたすらバレないようにということだけを念じながら過ごしています。一方、少々型破りな国王は、伝統をどんどん破って好き勝手に振る舞っています。

大体、皆さんの予想の通りの状況になりつつあります。若干長いので二つにわけました。


「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」を読むこのブログではじめからまとめて読む
あらすじと登場人物




森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架
(27)遠乗り -1-


森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架 関連地図

「おや。デュランの旦那。それが嫁さんですかい?」
貧しい身形をした男がいともたやすくレオポルドに話しかけたのでラウラは驚いた。

 国王はそれに対して機嫌良く答えていた。
「そうだ。なんとかいう面倒くさい伝統で、まだ素顔を見せてはいけないそうで、結婚するこの余ですら顔をみた事がないんだが」
「なんとまあ。国王ともなると、そんな妙な伝統にも従わなくっちゃならんというわけですね。わしは国王じゃなかったおかげで、好みの女をかかあに出来ましたぜ」

 レオポルドは簡単に肩をすくめた。
「顔はどうでもいいのだ。だが、王女ならどんな女でもよかったわけではない。だからもう一つの伝統は無視して、会いに行って決めたのさ。マリア=フェリシア、これは余の古くからの知り合いでトマスという靴屋だ」

「よろしく」
ラウラは戸惑いながらトマスに軽く会釈をした。
「本物の姫さんと口を利くなんてはじめてですよ。ようこそ、グランドロンへ。お幸せをお祈りいたします」

 トマスと話している間に、家々の間から、やはり粗末な身なりの男や女たちがつぎつぎと出てきた。
「デュランの旦那だ」
「ああ、あれがルーヴランの姫さんだとさ」
口々に話す声が聞こえる。ルーヴランではあり得ない光景だった。

「陛下、この方々は……」
ラウラは小さな声で訊いたが、トマスには聞こえたらしくゲラゲラ笑いながら勝手に答えた。

「姫さん、この方はね、まだ王子だった頃に、身分を隠してよくこの辺りにお忍びでいらしていたんですよ。わし等は、どこかいい所の坊ちゃんだとは思っていたんですが、まさか王太子殿下とは夢にも思わんでね、名乗られるまま『デュランの若さん』なんて呼んで、靴の修理を教えたりしてね」

「それで、カレウス村での疫病はどうなったのだ。ねずみの駆除はきちんと行われたのか?」
レオポルドはトマスに訊いた。

「はい。例のお役人さんはやる氣がまったくなくて、駆除を請け負うシュルツのヤツとくだらない金額交渉に時間をかけているとお話ししましたよね。旦那が話を聴いてくださったおかげで、郡司のマーシャル様が自ら指揮を執るようになったんですよ。おかげで三日目には村はきれいになりましてね。寝込んでいる奴らも半分になっているそうです」

「医者は」
「もちろん、ボウマー先生やロシュ先生が足を運んでくださってます。粉屋のパウルが感激していましたよ。あいつお医者さんが村に来るなんて信じられなかったようで」

 レオポルドは満足そうに頷いた。ラウラは宮廷で使うのとは違うトマスの言葉づかいに必死で耳を傾けていた。二人の会話の意味はようやく聴き取れていたが、本当に自分が耳にしている言葉が正しいのか自信がなかった。そんなことがあるだろうか。この貧しい人たちの所に医者が派遣されているというのは。

 レオポルドと村人たちはなおも親しく会話をしていたが、トマスがふとレオポルドの後方に目を留めた。
「あれ、丘の方からけっこうな馬たちが来ますね。大方、ヘルマンの旦那たちでしょうね」
そう遠くに舞い上がる土ぼこりを見て笑った。

 国王はうんざりした顔をして頭を振った。
「なんだ。もうみつかったのか。トマス、悪いがあいつ等を少し足止めしてくれ。少しは未来の花嫁と自由な時間が欲しいんでな」
そう言うと、レオポルドは再びラウラを軽々と馬に乗せて自分も飛び乗ると《シルヴァ》の中へと逃げ去った。トマスは笑って頷いた。

* * *


 一刻ほど前、後宮のラウラが居る部屋にレオポルドは突然やってきた。
「マリア=フェリシア、そなたに見せたいものがある。ついてまいれ」
ラウラは驚いて「今でございますか」と訊いた。

「そうだ。うるさいフリッツを巻いてきた所だ」
そう言ってから彼は彼女の方をちらりと見た。
「こんな部屋の中でまでそのヴェールをしているのか。鬱陶しくないのか」

 レオポルドだけでなく、誰にも顔や左手首の傷を見られるわけにいかないから、室内でも常にヴェールを被っていたが、そうでなくて部屋着でリラックスしていたらどうするつもりだったのだろう。いくら間もなく結婚する相手とはいえ、遠慮がなさ過ぎる。アニーは少々ムッとして、レオポルドに手を引かれてと部屋を出ようとするラウラの後を追った。

 彼は振り向くと迷惑そうに言った。
「そなたは来ずともよい。氣のきかぬ侍女だな」

 ラウラはつい笑ってしまった。それからアニーに「お前は少し休んでいなさい」と優しく言った。

 それから、彼は慣れた足取りで後宮の目立たない所を通り、使用人の利用する出入り口からラウラを連れて外に出た。そこでは少年が分かった様子で馬を連れて黙って立っていた。レオポルドは「よくやった」と少年を褒めてから、軽々とラウラを抱き上げて馬に乗せ、自分もその後ろに座ってあっという間に王宮を抜け出して森へと入っていった。

 そして、慣れた綱さばきで、トマスたちの村へと馬を走らせたのだ。だが、フリッツ・ヘルマン大尉もレオポルドとの付き合いが長い分、どこへ行ったかすぐにわかったらしく追って来たようだった。レオポルドはさらに馬を走らせて王宮とは反対側の道を進んだ。強引だが乱暴ではなく、ラウラも不思議と怖れを感じなかった。それよりも、先ほど彼とトマスが話していた内容に驚きを隠せなかった。

「陛下。こちらのお医者様は、貧しい者たちの所にでも診察に行くのですか?」
「ああ、診察費は王家が負担している。もちろん数が多いので、貴族が服用するような高い薬は使えない。だが、実際には正しい休みかた、清潔な処置、民間でも簡単に手に入る薬草などで救える命もたくさんあるのだ」

「お医者様が、派遣されるのを嫌がったりはなさらないのですか」
「ボウマーやロシュはもともと貧民の出で、疫病で両親を亡くしたからな。年々、平民出身の医者の数が増えているので、以前よりずっと状況はよくなっている」

「平民出身の方が、どうやって学費を?」
「学費を余が負担したのだ。ボウマーたちはずいぶんと肩身の狭い思いをしたらしいが、諦めずに医学を修めてくれたのは、高い医療費を払えない貧しい者たちを一人でも救いたいと言う熱情があっての事だ」

 ラウラは黙って王の顔を見つめた。レオポルドは小さく笑った。
「はじめてトマスに逢ったのは、《シルヴァ》でだった。余は、単にお目付役のフリッツから逃れたくて馬で遠乗りに来ていた。ガリガリに痩せたトマスは苦くてまずい木の実を集めていた。それを食うのだと。そして弱った家内に持って行くのだと」

 それから、レオポルドは少し遠くを見つめた。ラウラは黙って彼が続きを話すのを待った。
関連記事 (Category: 小説・貴婦人の十字架)
  0 trackback
Category : 小説・貴婦人の十字架
Tag : 小説 連載小説

Comment

says...
こんにちわっ!

もう、マックスあきらめろん(・ω・)て思う・・・レオ陛下いいわ><!
やんちゃもするけど、平民に学費を出して医療を学ばせるとか、それだけでも王としての器量が優れてるなあ~て思います。

いつかヴェールがはがされたとき、レオ陛下はラウラでよかたっと喜びそう。と共に、ルーヴランのやり口に激怒しそうな。マックス出番あるのか・・・w

わたしもレオ陛下の話の続き楽しみですw
2015.04.10 08:13 | URL | #mQop/nM. [edit]
says...
更新、お疲れ様でした。

あらあ、ラウラ、これはどうやら、出会う順番を間違えましたね。今からでも遅くないから、レオ様にしときなさい。
まあ、マックスもいいヤツだとは思いますけどね。貴公子だし。でもなぁ……。

「暴れん坊将軍」ならぬ「暴れん坊陛下」、ほんとうにいい政治してますね。臣下にも、国民にも、慕われているし。女性の扱いにも慣れていらっしゃるので、レオ様ならほんもののマリア=フェリシア姫でも、なんとかなりそう……って、さすがにそれは陛下に気の毒か(笑)

次話あたりで、ヘルマン大尉にこってりとしぼられるレオ様とか、見てみたいですね。
2015.04.10 16:25 | URL | #V5TnqLKM [edit]
says...
こんばんは。

えっ。そんな。マックス、一応、主人公だし、そんなに簡単に諦められたら困る(笑)
なんて言ってますが、私もどっちか選べと言われたら……やめとこ。

本当は、二つに切らないで一緒に出そうかとも思ったんですが、通常モードに戻ったのでのんびりと更新することにしました。そろそろこの話も終わりですしね〜。

次回、レオポルドがラウラの顔をついに見ることになります。(もったいぶったりして)
また読んでくださると嬉しいです。

コメントありがとうございました。
2015.04.10 20:17 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。

ええっ、TOM-Fさんまで!
マックスの立場は(笑)
でも、ラウラはバレたらただの罪人ですから。

本物のマリア=フェリシア姫は、男の人柄なんて関係ない人ですが、ビシッとしつけてくれるオラオラ男には惚れるかもしれません。(本当か?)

実は、ここでのレオポルドは、あまりマイナス要素ないのですが、最初はただの女遊びではなくて、そのお遊びはSという設定でした。でも、中世事情を複雑にたくさん書いたので、その分、人間関係の方はすっきりさせるためにそのS設定は諦めました。あまりヤバいことを書くと、ブログで公開できなくなるってこともあったんで。

そして、あはははは、ヘルマン大尉も、今回はあまりたくさん出てこないんですよ。あの人が自由に出て来れるのも、やっぱり続編かな……。次話は、ええ、王様へのお小言どころではありません。ヘルマン大尉、別件で陛下を探しています。

というわけで、次話も読んでくださいね。(無理矢理)
コメントありがとうございました。
2015.04.10 20:52 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
昔は医者というのが珍しいものでしたからね。
誰かが医者の真似事をやって、それで救われていた。。。というのもありますしね。
平民出身で医者を増やすというのは良い政策ですね。
最初は厳しいですが、トータルで医療が充実して人が元気になるのが政治としても大切ですからね。
2015.04.11 07:12 | URL | #- [edit]
says...
おはようございます。

現在と当時では、医学という位置づけも今とは違ったと思うのですよね。
ただ、どの時代でも病を癒す人、もしくはそうしようとする人というのはとても重要で、とても尊敬されていたでしょうね。
中世ドイツでは、修道院に用意された薬草園で民間薬を研究して現在に至るハーブ医療にも受け継がれているヒルデガルド・フォン・ビンゲンがとても有名ですよね。少しでも多くの人間を救いたいという想いは、いつの世でも偉業を成し遂げるきっかけになったのだと思います。

コメントありがとうございました。
2015.04.11 10:02 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
世を忍ぶ仮の姿どころか王だということがわかっていて、一般民がこういうフランクな付き合いが出来る。レオポルドは底知れない魅力を持った男ですね。
疫病の件でもレオポルドの取った方策は感情に流されるわけでもなく、とても合理的で実用的で、そして当時としては画期的で、とても好感が持てます。
で、やっぱり言ってしまいます。ラウラ、許されるならこっちの彼の方がいいんじゃない?
ほんとこの主人公、さっぱり出番もないし力も今のところないし、どうなっちゃうんだろ?と心配してしまいますよ。
夕さんがどういう巻き返しを図ってくるのか楽しみにしています。言ってみれば今はポール状態のような感じでしょうか。
ヒロインだし命を取られるほどやばいことは無いんだろうな・・・とは思っていますが、ラウラの無事を祈っています。
2015.04.11 14:01 | URL | #0t8Ai07g [edit]
says...
こんにちは。

あらら。サキさんまで。
マックス! しっかりしないと。と、いっても迫ったのはマックスじゃなくて、ラウラの方だしなあ。

一つだけはっきりしていることは、ルーヴラン国王よりグランドロン国王の方が、いい王様だな。それは狙って書きました。賢者ディミトリオスや、前の王様の教育方針がよかったこともありますし、本人の資質もたぶんはるか上なんだと思います。このことがラウラの次の決意に結びつくのは間違いないんですけれど。

しかし、マックス! みんなに見放されているぞ〜。
しょーもない主人公だな。あまり挽回の余地はないんですけれどね。
確かに立場的にはポールに近いかも。でも、少なくとも馬に乗って駆けつけてきましたけれどね(笑)

そう、ヒロインが即処刑みたいな展開は心配無用です。なんせ頭にお花の咲いていた高校生の作ったストーリーですので。今だったら、二人の男の間で揺れるドロドロの展開に……。あ、嘘です。

次回も読んでくださると嬉しいです。

コメントありがとうございました。
2015.04.11 14:45 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こうやって、レオポルドの人柄と聡明さと大らかさ、そして、慕われる様子を見てしまうと、ますますラウラは辛くなってしまいますね。
自分はこの人とこの国を、これから裏切ろうとしてるんだって。
悩むなあ~。
もしここで、こっそりレオポルドに、すべてを打ち明けたらいったいどうなるか、シミュレーションしてみたんですが。
レオポルドはやっぱりルーヴランを打つだろうし、ラウラの命は救われても、やっぱり針の筵かなあ。
マックスに賭けるしかないのか。
ちょっと心もとないけど><信用しよう!
2015.04.12 05:45 | URL | #GCA3nAmE [edit]
says...
おはようございます。

そうそう、そうなんです。ラウラはマックスLoveなのは全然揺らいでいないんですが、この王様とこの人たちを戦争で殺そうとしている陰謀に関わっているんだというのにグサリときています。

その後のことは、あはははは。
あっけないですよ。「そんなのありか」だと思います。
マックス。ええ、かなり心もとないですけれど……主人公だし、ねぇ。(一応)

来週、シミュレーションの結果が一部……ご期待くださいませ。

コメントありがとうございました。
2015.04.12 10:13 | URL | #9yMhI49k [edit]

Post comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackback

trackbackURL:http://yaotomeyu.blog.fc2.com/tb.php/1038-e1315654