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Posted by 八少女 夕

【小説】森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架(28)逮捕

ついにルーヴランの奸計はグランドロンの知る所となりました。ラウラとアニーは別々に逮捕されています。そして、「影が薄い」「サブキャラに負けている」と読者と私から散々のいわれようで孤立無援だった主人公マックスがようやく登場します。
……しますけれど、読者の評価は当たらずとも(以下自粛)頑張っているんですけれど、文人ですしねぇ……。少なくとも、言うべきことは、言ってます。これが精一杯だけれど……。


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あらすじと登場人物




森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架
(28)逮捕


 王宮に戻ると、王はヘルマン大尉とわずかな護衛を連れて、執政室にラウラを連れて行った。彼女はそこで後ろ手に縛られ、床に座らされた。時を置かずにヘルマン大尉の副官、ブロイアー中尉が誰かを連行してきた。

 最初に見えたのはやはり後ろ手に縛られたアニーだった。ラウラの姿を見るなりアニーは目に涙を浮かべて言った。
「申しわけございません。私の不手際のせいで……」
ラウラは首を振った。

「ラウラ様も……先生も……」
泣きながら小さく続けた言葉に、彼女は眉をひそめて、侍女を見た。それから、再び扉が開けられて連行されてきたのは、他でもないマックスだった。ラウラは自分の目が信じられなかった。

 ブロイアー中尉が口を切った。
「マダム・ベフロアが、姫の侍女のこそこそした動きを不審に思い、ハイデルベル夫人付きのペレイラ嬢に進言したのです。そしてペレイラ嬢が内密に調べた所、この侍女が大量に血の付いた包帯を隠していることがわかりました。姫君がそのような怪我をしているのに医師に見せないのはどう考えても不自然と、誰の血痕なのか、侍女を拘束して尋問するつもりでおりました」

 ヘルマン大尉が言葉を継いだ。
「私どもは賢者殿が、恐るべき陰謀についての情報を持っていらしたので、この女が偽物であるという事がわかり、陛下とこの女を探していました。その間に、賢者殿の従者として城に上がったこの者が、あろうことか拘束中のこの侍女を救い出し、この女の行方を聞き出そうとしたのです。当然すぐさま捕らえる事となりました」

 へルマン大尉は、後ろ手に縛られたマックスを手荒に突き倒してラウラの隣に膝まづかせた。

 彼女は蒼白になってレオポルドに懇願した。
「陛下。どうか、お聞きください。私の事は、ご明察の通りです。何の弁解もございません。でも、この方は、この事には全く加担していないのです。本当に何もご存じなかったのです」

「加担していないならば、なぜ侍女に近づき逃がそうとした」
レオポルドは厳しい目でマックスを見下ろした。ラウラはうなだれた。
「私が、私が巻き込んでしまったのです。先生は同情してくださっただけです。ああ、なんてこと」

 レオポルドはもっと厳しい目でマックスを見据えると訊いた。
「この女の申す事は本当か」

「本当の事なぞ、どうでもいい。国同士の確執や陰謀にも関わりたくない。僕はただ、将来を誓った娘の命を救いたいだけだ」
マックスの言葉に、彼女ははっと顔を上げた。彼はラウラを見て頷いた。
「君を救って、二人で自由に生きたかった。それが不可能なら、せめて最後まで君の側にいる。君を一人で死なせたりなんかしない」

 レオポルドはその二人を冷たく見ていた。先程よりも強い苛立ちと不快感が見て取れた。それをようやく押さえつけると、静かにヘルマン大尉に命じた。
「三人とも牢に入れろ。もちろん、別々にだ。情報が漏れぬよう、誰であるかはわからぬようにしろ。とくにその口の軽そうな侍女がものを言えないようになんとかしろ」

 それからラウラとマックスに言った。
「勝手な事をすると、お互いの命に関わるぞ。考えるんだな」


 三人が連れて行かれると、王はどっかりと椅子に座った。右肘をついて両目を手のひらで覆い、しばらくそうしていた。

 戴冠してすぐ、一度だけ戦に負けた事がある。戴冠のどさくさにルーヴランに宣戦布告をされて西ノードランドを失ったのだ。あの時の背筋が寒くなるような焦りと不安を思い出した。国を治める事が怖くなり、何もかも投げ出したくなった。

 背中を見続けてきた父はもうこの世にはいなかった。母は贅沢にしか興味がなく頼りにならなかった。ヘルマン大尉をはじめ、臣下のものは不安な瞳で、怯えていた。そう、誰も、先程の青年のように命を投げ出してでも状況を変えようとする強い勢いをもっていなかった。

 ただ、父王が生涯師事し続け、自分の教育もしてきた年老いた賢者だけが、穏やかで光をたたえた目つきで、じっと待っていた。
「どのようにでも構いませぬ。王よ、決断なされませ。あなた様はこの国を率いなくてはならぬのです。年若いなどという言い訳は許されませぬ。ただ、決断なされませ。そして全てを背負うのです。それが王たるものの宿命ですぞ」

 迷いを真に克服できたのは、同じ相手に挑んで今度は勝ち、領地を奪回できた時だった。

 戴冠したてのレオポルドは、まだ自分が国を治める覚悟ができていなかった。父に仕えていた将軍をはじめとする廷臣たちも、若い王に対して信頼を寄せていなかった。彼らは覇氣がなく、それでいながら、それぞれのやり方に固執し命令系統がバラバラだった。

 レオポルドは、父王に仕えていた軍人たち中心の指揮系統を一新し、経験は少なくとも若くアイデアに満ちて、レオポルドに従う若い軍人たちを中心に作戦を練り直した。その中心となったのが親友でもあるヘルマン大尉だった。その賭けが実を結び、全ノードランドを再びグランドロンのものとすることができた時に、レオポルドは真の王としての自信を持つことができたのだ。

 今、あの時と同じ敗北感が襲ってきている。謀は未然に防がれたというのに。ルーヴランに騙された事ではない。噂の宰相ザッカならそれくらいの事はやるだろう。レオポルドは先程の二人の姿を思い浮かべた。かつて、叔母とその夫の睦まじい姿を見て胸に育てた小さな憧れ。来週には実現するはずだった未来。裏切られたのはその未来にだった。

「陛下。お邪魔して申しわけございません」
フリッツ・ヘルマンの声にレオポルドは不機嫌な表情のまま顔を向けた。
「なんだ」

「賢者殿が陛下にお話があると」
「陰謀の全容をそなたが聞いたのではなかったのか」
「それが、それとは別のお話だとおっしゃるのです」
「この件が終わってからにしてくれ」

「それが、どうしても今でないとならないとおっしゃるのです。断られたら、マリー=ルイーゼ王妹殿下のご遺言に関する事だと、お伝えしてほしいと」

 レオポルドは眉をひそめていたが、たった今想っていた叔母の名に、意見を変えた。
「わかった。通してくれ」

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Comment

says...
更新、お疲れ様でした。

まあ、そうなりますよね。事情聴取とか政治的な駆け引きというか、そういうのもあるから、即刻処刑とならなかっただけでもラッキーか。
アニーも捕まるのはやむを得ないとして、え、マックスまで? と思ったら、飛んで火にいるナントヤラじゃないですか~。もう、しょうがないなぁ。
でも、言いましたね。言い切りましたね。言っちゃいましたね……これで、いろんな意味で年貢の納め時ってヤツですね(笑)
あ~、レオポルド陛下、ちょっとかわいそう。無理目とわかっていた願いがもしかしたら叶うかも、と喜んでいたのに、ある意味で倍返しの裏切りですからね。そりゃあショックでしょうねぇ。
今の陛下に唯一ものが言える老師、たぶんあの話をするんでしょうけど、どういう展開になるのかな。
わくわくしながら、次話を待たせていただきます。
2015.04.22 08:23 | URL | #V5TnqLKM [edit]
says...
こちらにもありがとうございます。

ええ、そうなりますね。逮捕して牢屋でしょ。
マックスも、正に「飛んで火にいる」ですね。いきなりかっこよくチャンチャンバラバラして助け出せるわけ、ないでしょ。あのスペックでは。そういうシーンも考えたんですけれど「無理無理」で終わっちゃいました。

そして言い切っちゃいました。こっちのほうが愛の告白っぽいですよね。
ああ、年貢ね。納めるかな。ま、生き残るのが先決ですけれど。
でも、見ていない所では、もしかして、いや、そういう話じゃないだろう。

陛下の方はあれですね。「超ガッカリ」って感じ?
もしかして、ザッカたちよりもマックスに対してムカついているかも(笑)
っていうか、ラウラにムカつかないのか?

そしてディミトリオスは、尻拭いに参りました。
来週は「Infante 323 黄金の枷」なので、次回は来月になりますが、また読んでくださると嬉しいです。

コメントありがとうございました。
2015.04.22 17:08 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
おおおおお、マックス……!!
かっこいいですよ、マックス。
バッタバッタ敵をなぎ倒し……だけがヒーローのかっこよさじゃないですよね。
変に場を取り繕ようなことを一切言わなかったところがすごく潔かったです。

ただ、王様としては裏切られた感が半端ないですよね……。
いえ、順番的に見ると、ラウラは全然本当は裏切ってなんかいないのですが、
これまでの詳しい経緯を知らない王様からすると感情的には「騙された」「裏切られた」がどうしても先にきてしまいますよね。
で、その矛先がラウラに向かうかというとそういうことでもなくて。

これまでどちらかというと「完璧」な印象が強かった王様ですが
戴冠したての頃のエピソードや、その時の経験から連なる今回の
敗北感も合わさって、より王様が魅力的に映ってみえました。
それから、「噂の宰相ザッカならそれくらいの事はやるだろう」という王様の独白にニマニマしてしまいました。
ザッカ様! さすがです! 王様にも一目置かれてる……って見るところが違いますね(^^;

ディミトリオス様からすると、王様もマックスも大事な愛弟子だと思うのですが、とうとう「あのこと」を王様に耳に入れるのでしょうか。
次のお話は来月なのですね。お待ち申し上げております!
2015.04.23 10:53 | URL | #- [edit]
says...
うわぁ~。とうとうばれちゃいましたね。
それに思っていたよりもひどい仕打ち、アニーも可哀想です。
レオポルドとしてはこのくらいの措置は当然だと、頭ではわかっていたんですけれど、やっぱりショックです。
マックス、ようやくちょっと決めましたね。ラウラには充分伝わったと思います。スーパーヒーローのように活躍は出来ていませんけれど、精一杯行動したんでしょうから。それに台詞もバッチリ決まっていましたよ。
でも、かえってレオポルドの怒りを買うんじゃないかとハラハラしています。レオポルドの苦悩はつきませんね。
賢者殿、どうか道を開いてやってください。
お願いします。
2015.04.23 12:09 | URL | #0t8Ai07g [edit]
says...
ここは、もちろんラウラもマックスも(もちろんアニーも)すっごく辛いけど、レオポルドもめちゃくちゃ辛いところですね。
そうか、彼自身がまだ王として確立できていない時期なのですね。
ここでこんな危機が。
自分の油断でもあるし、国を守るために手段に出ないわけにはいかないし。
その上、ラウラにこんなところで愛の告白しちゃうマックスまで現れたら「なにを~~!」って別の怒りも込み上げてきますよね。
自分がピエロになったみたいで。
ここでラウラとマックスを斬り捨てたら済むって問題じゃないし、プライドが~。
夕さん、レオポルドを救ってやってくださいね。
あ!マックスも(ついで……じゃなくて)

そのマックス、策がありそうですね。
そうだ、その手があったか!
2015.04.23 13:15 | URL | #GCA3nAmE [edit]
says...
こんにちは。

おお〜、かっこよかったですか。いやぁ、ここで頑張らないと本当に読者様に捨てられますしね。
でも、「先生」のくせに考えなしなんだな〜。策を練ってから救いに来いよ、と一人でツッコんでおりました。
でも、あまり狡猾だと、後の方が上手くいかないんで、バ力正直にしてみました。

レオポルドは、あれですね。
「きいていないよ」
あれやこれや、超ガッカリって感じですね。
真面目にこの午後まで、目の前にいる女と結婚するつもりで浮かれていましたしね。

この若さで、完璧というのは嫌ですよね。
この人、マックスに負けていない「しょーもない」所もある人だし、それに考えてみるといきなり国民全員の命が自分の責任って、けっこうストレスフルだと思うんですよ。
「金と女が思うがまま〜」と喜べるくらいおめでたい人でない限り。
だから、レオポルドも時に迷いつつ、でも精一杯虚勢を張って「立派な陛下」であるように振る舞っているんですけれど、たまにこうやって打ちのめされちゃってます。
女には、こういう姿はたまらないですよね〜。
(何の話?)

そして、ザッカですね。
ええ、ザッカ。やっぱり頑張って続き書こう。
このまま舞台から消えちゃうのは、もったいない人材ですよね。

そうなんです、次回は来月になります。
また読んでくださると嬉しいです。

コメントありがとうございました。
2015.04.23 14:05 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんにちは。

はい。そりゃ、バレますよね。
バレない方がおかしいです。
そして、逮捕して牢屋です。でも、あんまりひどい仕打ちは書いていないので、ご安心ください。
アニーは、ええ、もちろん巻き込まれちゃっていますからね。
レオポルドは、アニーに対してはぞんざいですよね(笑)

そして、マックス、ようやく頑張りました。ラウラは、嬉しかったと思います。でも、巻き込んじゃったからものすごく後悔していると思いますけれど。あの晩、逢いに行ったりしなければこんなことにはなりませんでしたからね。

レオポルドは落ち込んでいますが、実はこんなことをしている場合でもないんですよね。
このままじゃ、ルーヴランとセンヴリの連合軍が攻めてきますから。

で、マックスが簡単につかまってしまったので、ご老体があわててなんとかしに参りました。
ディミトリオスがいなかったら、どうするつもりだったんだろうなあ。

たぶん、次回はちょっと安心できる展開になると思います。また読んでくださると嬉しいです。

コメントありがとうございました。
2015.04.23 14:11 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんにちは。

そうなんですよ。
レオポルド、腐っても王様で、自分の責任で国の舵を取らなくちゃいけないんですが、一人の人間にのしかかる責任としては、とても重いと思うんですよ。でも、世襲でパパは死んじゃったし、やるっきゃないでここまで来ているんですよね。で、隣の国と仲悪いし。
で、ようやくちゃんとした解決策も見つけたし、幸せになるつもりでいたらいきなりこれですよ。
突然登場したマックスなんて「誰だよ、こいつ」ですよね(笑)

レオポルド……大丈夫ですよ、彼には娼館のやり手姐さんもいますし。って、そういう問題じゃないですね。
マックス、ああ、マックスは、策なんて何もありません。徒手空拳です。
こんなに考えなしでいいのか!
だからディミトリオスは、大変なんですよ。本当に。

というわけで、また次回も読んでくださると嬉しいです。

コメントありがとうございました。
2015.04.23 14:19 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
おおおおおおおおう!!
マックスが逮捕されうるのか・・・!!!
・・・って当たり前か。
まあ、背信みたいな罪になるのかな~~。
タイトル通り物騒な回でしたね。。。
王道を作っている私としてはマックスが逮捕されるのはビックリでした。ありがとうございます。
2015.04.24 13:03 | URL | #- [edit]
says...
こんばんは。

ええ? そりゃ、逮捕されるでしょう(笑)
もっとも投獄だけで、けっこう手ぬるいんですよ。
原作が高校生の私が作った話なんで。そうじゃなかったらむち打ちくらいは覚悟しないと。

コメントありがとうございました。
2015.04.24 18:24 | URL | #9yMhI49k [edit]

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