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Posted by 八少女 夕

【小説】森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架(32)フルーヴルーウー伯爵の帰還 -1-

昨年から連載してきたこの「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」もついに最終話となりました。二回に分けましたので、今回と来週で完結となります。ルーヴランで王女の《学友》として貴婦人に育った孤児のラウラ、老師の弟子として育てられたフルーヴルーウー伯爵マックス。数奇な運命の果てに辿りついたグランドロンで、二人の新しい人生が始まろうとしています。

最終回の前に、今回はとある登場人物が再びグランドロン王国へとやってきます。ある目的を持って……。


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あらすじと登場人物




森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架
(32)フルーヴルーウー伯爵の帰還 -1-


 ヘルマン大尉は馬車を門番に託すと挨拶もそこそこに館の中に入っていった。娼館《青き鱗粉》は《シルヴァ》の森を見渡す小高い丘の上にある。黒とオレンジを基調とした洒落たインテリアの待合室でマダム・ベフロアことヴェロニカを待ちながら大尉は苛ついた表情を見せた。昼間から高級娼館に出入りしているなどと噂を立てられるのは本意ではなかった。彼女からの伝言を受けて、急いでやってきたのは、もちろん国王レオポルド二世の命によってだった。

「ただいま、マダムがお見えになります」
老召使いがもったいぶって姿を消した。どうでもいいから早くしろ。ヘルマン大尉は扉を睨みつけた。

 やがて小走りの音がして、扉がわずかに開くとヴェロニカがそっと入ってきた。
「ああ、大尉。お待ちしてましたわ。こちらにいらして」

 ヴェロニカは天鵞絨のカーテンが幾重にも重なる、暗い部屋へと彼を誘った。途中にいくつもの扉があって、女たちのきつい香水とクスクスと笑う囁きが聴こえた。彼女たちは昼間から娼館を訪れた酔狂な客だと思っているのだ。「こっちにいらっしゃいよ」白い手がいくつも出てきたが、大尉は迷惑そうにそれを振りほどいてヴェロニカの後を追った。娼館の女主人であるマダム・ベフロアは笑いながら更に奥へと進み、一番奥で鍵を取りだして解錠した。

 暗い部屋の中に、幾重にも縛られて猿ぐつわを嵌められた娘がいた。扉が開いたのを見ると二人を睨んで猛烈に暴れた。暗闇に目が慣れた大尉は娘をよく観察した。娼婦のよく着るようなヒラヒラしてだらしない服を身につけ、猿ぐつわに真っ赤な口紅が移っていた。だが、その娼婦のなりが全く似合っていない。この子供みたいな顔は、どこで見たのだったか……。
「あの召使いか!」

 ヴェロニカが耳元で囁いた。
「そうよ。あの偽王女の侍女。どうやら侯爵にくっついてルーヴランにやってきたみたい。娼婦たちに混じって後宮に入り込もうとしたので、うちの子たちが捕まえたの。警備をかいくぐって陛下に近づこうって魂胆だと思うけれど」

 ヘルマン大尉はヴェロニカに口止め料を渡すと礼を言って、アニーを引っ立てると用意してきた馬車に押し込んだ。

 あまりに娘が暴れるので、彼はサーベルを鞘から抜くとアニーの首筋にあてて「怪我をしたくなかったら大人しくしろ」と脅した。

 国王レオポルドからはこの件に関しての全権を委任されていた。フリッツ・ヘルマンはしばし考えた。このまま国王の前に連れて行き大騒ぎになると、事情を知らない人間に余計な事を知られる可能性がある。彼は御者に言った。
「フルーヴルーウー伯爵のお屋敷に行ってくれ」

 伯爵邸につき召使いに案内されて中に入ると、外出の用意をしたマックスが階段を下りてきた。
「これは、ヘルマン大尉。あなたがわざわざお迎えにいらしたのですか」
「いいえ、伯爵。本日、王宮に向かわれる前に、このままにできない厄介ごとを処理していただきたいのです」
「厄介ごと?」

 フリッツは馬車から御者が引っ立ててきたアニーを縛っている縄を引っ張った。
「この娘がどうやら後宮に入り込んでよからぬことを企んでいたようで」

 マックスは娼婦のような服を着て立っている娘を見てぎょっとした。
「アニーじゃないか!」

 アニーはすっかり貴公子然として、ヘルマン大尉と親しく話しているマックスを見て、怒りの涙を浮かべながら猿ぐつわの向こうから何かを叫んだ。先生が伯爵ですって。ラウラ様と将来を約束したと言っていたのに、その仇によくも心を売ったわね! 言いたいのはそんな所だろうかと、フリッツもマックスも考えた。

「それは、大変ご迷惑をおかけした。この娘はもちろんこちらで引き取ろう」
そういうと召使いの方を向いた。
「すぐに伯爵夫人をここへ呼んでくれ」

 召使いは、かしこまって奥へ入っていった。アニーは伯爵夫人という言葉を聞いてさらに怒り狂って暴れだした。ラウラ様が亡くなってまだ一ヶ月も経たないのに、もう別の誰かと結婚したなんて!

「アニー!」
暴れていた娘は動きを止めた。聴こえるはずのない人の声だった。

 振り向くと、その時には水色のドレスを着た女性に抱きしめられていた。生きているはずのない女主人ラウラの突然の登場に呆然としていると、フリッツ・ヘルマン大尉はサーベルで彼女を縛っていた縄を断ち切った。それとほぼ同時にマックスが猿ぐつわを外してやった。

 アニーは泣きながらつぶやいた。
「ラウラ様……ご無事だったのですね……」

「そういうわけだ。陛下に何をするつもりだったのか知らんが、今回だけは何もなかった事にしてやろう。少し行儀作法を仕込んでやってくれ」
そういってヘルマン大尉が去ると、マックスとラウラは揃って頭を下げた。

 マックスは召使い頭に命じた。
「悪いが、僕たちが帰ってくるまでに、この娘にまともな召使いの服装を用意してやってくれ。今日からこの子には伯爵夫人の世話をしてもらう事にするから」

 ラウラはそれをルーヴランの言葉に訳して囁いた。アニーがびっくりして顔を上げると、優しく頷いた。
「すぐに帰ってくるから、それまでこの人たちの言う事をきいて待っていてね」

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Tag : 小説 連載小説

Comment

says...
こんにちわ(・∀・)

どうしていたんだろうと、ちょっと気になっていたアニーさん、取り敢えず無事で良かったです。
しかし、すぐに殺したり引き渡したりせず、密かに捉えて段取り付けて引き渡すあたり、ヴェロニカさん中々の女傑ですね~。色んな意味でヴェロニカさんの身内に見つかって良かったアニーさん(・ω・)

森の詩もう最終回ですか><
なんだかあっとゆーまに終わってしまうかんじで寂しいです。思えば連載開始から楽しんできたのはこの森の詩が初めてなんですよねw

失恋しちゃったレオ様には、ラウラほど賢くなくてもいいから、ほっとするような可愛いお嫁さんがきてくれることを祈ってます☆
2015.06.17 07:42 | URL | #mQop/nM. [edit]
says...
更新、お疲れ様でした。

あ、アニーだ……ごめんなさい、すっかり忘れていました(爆)
そっか、彼女はラウラが死んだと思い込んでいたんですね。表向きはそういうことになってますもんね、しかたないか。でも、自分がどうなるかとか考えずに、敵国の王宮に忍び込んで・・・なんて大それたことを企てるとは。それだけ、ラウラのことが大事だったんですね。展開は微笑ましいですけど、ぐっときますね。
つか、ヘルマン大尉、なんか態度が冷たいよなぁ。ま、任務に忠実で、いい家臣なんですけどね。そんなんじゃ、モテないぞ~(余計なお世話)

あと一回で完結なんですね。う~ん、感慨深いです。
最終話を読ませていただくのが、楽しみなような、さびしいような……。複雑な気分で、次話をお待ちします。
2015.06.17 10:03 | URL | #V5TnqLKM [edit]
says...
こんばんは。

アニー、仇を取ろうと来ちゃいました。
でも、「ラウラ様の仇!」なんて騒がれると、フルーヴルーウー伯爵夫人と、偽王女が同一人物だとバレて面倒なことになるので、レオポルドとしては都合が悪いのですね。それを知っているので、ヴェロニカもヘルマン大尉もうまくフォローです。

そうなんです。永久に終わらんと思っていたけれど、ついに最終回。もう一年半もやっていますしね。
ユズキさんには、連載開始前からイラストで沢山盛り上げていただきましたよね。本当にありがとうございました。
来週で終わりですが、皆さんからのご要望が多ければ、頑張って続編書こうと思っています。
その時は、メインはレオポルドになります。たぶん(笑)

最後まで、おつき合いいただけると嬉しいです。

コメントありがとうございました。
2015.06.17 18:27 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。

そうなんです。アニーには、あの血まみれの婚礼衣装は、豚の血だったなんて教えないで一緒に送り返したので、向こうで「ラウラ様!」と号泣して、おかげでルーヴランではみなラウラが処刑されたと信じてビビりまくってくれたんですね。で、アニーは一途な子なので「あの国王! 絶対に許さない!」みたいに意氣込んで乗り込んできちゃいました。

そして、TOM-Fさん鋭い(笑)
ヘルマン大尉、唐変木なんで、嫁に愛想つかされて出て行かれちゃっています。裏設定では。
ヴェロニカにもせせら笑われていたりして。

来週でついに完結ですよ。一年半もずっとこの世界に浸っていましたから、やはり感慨深いものがありますね。
それが終わったら、リクエスト掌編月間、そして、いよいよ「ファインダーの向こうに」ですよ〜。

最後までおつき合いいただけると、嬉しいです。

コメントありがとうございました。
2015.06.17 18:36 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
アニー、私もすっかり忘れていました。
アニーの気持ちになったら、あのままじゃあいたたまれませんよね。
でも、仇を討とうとするなんて、なかなか骨があります。
・・・あ、今回は未遂に終わって本当に良かったですけど^^
これからはラウラの傍で、立派に侍女の役目を果たすでしょうね。
ああ、そして、ついに最終話なんですね。
1年半の更新だったという事ですが、あっという間だったような気もします。
とにかく最終話、楽しみにしていますね。
そして、その次に控えているお話も^^
2015.06.17 22:42 | URL | #GCA3nAmE [edit]
says...
アニー、戻ってきましたね。復讐の鬼になって。
マイアに対する思いはとても分かりますけど、相当無鉄砲です。ヴェロニカやヘルマン大尉の配慮が無かったらうっかりすると命が無かったでしょう。やれやれですよ。ちょっとハラハラしましたから。でもよかった。
感動の再会シーン、もう少しゆっくりと味わいたかったような気もしますが、嬉しかったです。でもアニー体は大丈夫なのかな?心配しています。
伯爵夫人の召使いとして信頼も置けるし有能ですから、この辺きっと凄く上手く収まっていくとは思いますが・・・。さてアニー、おとなしく屋敷の人たちの言うことを聞いて待っててね。次の最終話は、きっとハッピーエンドなんでしょうから。
2015.06.18 13:18 | URL | #0t8Ai07g [edit]
says...
あ、そうだ、アニー! 血塗れのドレスと一緒に送り返された、というくだりを読んだときにはとっても気になっていたのに、レオポルドが「ちょっと悔しいけれど色んな縁のゆえに不本意ながら新しい伯爵夫婦を応援するしかないし、国王としての務めもあるし」ってカッコく頑張っているのと、何故か主人公なのにどうすることもできないでレオポルドのナスガママ的状態の伯爵夫婦の物語に気を取られていて、忘れかけておりました。
いやいや、いいキャラですよね。命の危険を顧みず、レオポルドのところに切りこんでくるなんて、なんて素敵な。ラウラのようなご主人様には二度と出会えないだろうし、それにルーヴランにいたところで、何だかろくでもない連中ばかりっぽいし。
そうか。あの我儘姫の消息も次回は分かるのですね。そして、ザッカも……いや、それはエピローグ??
うぅ、物語の最後のほうっていいなぁ。あれはどうなったんだろうとか、これはどうだろ、とか、色んなことが拾われていくから……
最終話かぁ。結婚式はあるのかなぁ。わくわく。
2015.06.18 14:51 | URL | #nLQskDKw [edit]
says...
こんばんは。

主人公ですら忘れられる小説ですから、アニーくらい(笑)

もとはと言えば、殺されるべくして送り込んだルーヴランの上層部が悪いんですが、アニーにしてみたらやっぱり仇はレオポルドだったらしく、乗り込んできちゃいました。でも、マックスに続き、この人も飛んで火にいるなんとやら。仇を討つなら、もっと準備をして……なんてね。

そして、アニーは向こうでもラウラにだけに懐いていたので、ルーヴランに未練はなく、これからはグランドロン語もおぼえて伯爵家の侍女として頑張る予定です。

そして、来週でついに最終回です。去年連載を始めた時には、長いなあと思っていましたが、あっという間でした。
最後までおつき合いくださると嬉しいです。

そして、次の作品に行く前に、6万ヒット記念掌編月間がきます。それもお楽しみいただけると嬉しいです。

コメントありがとうございました。
2015.06.18 17:58 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。

日本は梅雨まっただ中なのですね。こちらは、夕方か夜中に降るのですが、日中は爽やかです。

アニー、戻ってきましたよ。
ルーヴランでは「ばれた! やばい」という感じは大きかったのですが、ラウラが死んだことを本当に悲しんでいたのは、一部の召使いたちだけでした。みんな「しかたないよね」ムードだったのですが、アニーだけは「あの国王! ヘラヘラデートしてたくせに!」と復讐に燃えちゃいました。

そうなんです。最初の案だと、「市内視察中のレオポルドをアニーが狙う」だったのですが、それをやらせるとどうやってもアニーを助けられないので、こういう形で極秘裏に穏便に話を運びました。それにしても、サキさんもおっしゃる通り無鉄砲なんです。もう少し考えて計画を練ればいいものを。

アニー、いっぱい暴れたので、あちこちにすり傷はあるでしょうが、大したことはないと思います。
ラウラのいう事はなんでもきくので、大人しく待っていると思います。
それに、これからちゃんとグランドロン語もおぼえないと。

そう、来週でおしまいです。もちろんハッピーエンドです。中世のお伽噺ですからね。
もっともちょっと肩すかしなハッピーエンドかも。
最後まで読んでくださると嬉しいです。

コメントありがとうございました。
2015.06.18 18:06 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。

ルーヴランに、「偽物の姫は処刑された」ってことを信じさせるためには、アニーがラウラは殺されたと信じて号泣してくれないと困るので、レオポルドはそうしたんですけれど、まさか恨んで暗殺に来るとまでは思っていなかったのでしょう(笑)

みんなに忘れられているキャラですが、最後に存在を主張してみました。

そうなんです。ルーヴランの上司の皆さん、本当にロクでもないんで、アニーはすっかり嫌になっています。

こうやって畳みまくっていますが、お姫様の消息はひと言です。ザッカも一行。
ルーヴランの政治のお話は、一話くらいではまとめられないので、書くとしたら続編で、ということにして全部切り捨ててしまいました。いろいろ、あるんですよ、この先の妄想が(笑)

結婚式? そんなもんありませんよ〜。この二人、ドサクサでどっかからみつかった伯爵夫妻ってことで誤摩化していますから。本当は処刑すべき謀反人カップルなんだけど。でも、この時代、神様に誓わないで「夫婦でござい」とやっていて、いいのかな〜。

来週、最後です。おつき合いいただけると嬉しいです。

コメントありがとうございました。
2015.06.18 18:27 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
もうすぐ終わってしまうのですね~~。ちょっと寂しい。
マックスの功罪も色々あって面白かったのですが、結局マックスは着火しただけで、色々なところで陛下の周りには問題があったということですね。最後に陛下が頑張ったのはある意味責任を取ったところですかね。最終回も楽しみにしております。
2015.06.19 12:06 | URL | #- [edit]
says...
こんばんは。

最初から読んでくださいましたものね。一年半って、あっという間でした。

レオポルドが問題を起こしていたのではなくて、ルーヴランやら、マックスやら、その他の人びとなんですけれど、国王ともなると後始末をしなくちゃいけないこともありますね。とくにマックスは領主さまになっても右も左もわかっていない状態だし、でも、ラウラとマックスを助けたことは一部の人しか知らないし、レオポルドが尻拭いするしかないという……。

というわけで尻拭いの最終回になります。最後まで読んでくださると嬉しいです。

コメントありがとうございました。
2015.06.19 19:29 | URL | #9yMhI49k [edit]

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