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Posted by 八少女 夕

【小説】ファインダーの向こうに(2)昼食 -1-

中編小説「ファインダーの向こうに」の二回目です。今回の話はちょっと長いので、今週と来週の二回に分けます。さて、アレッサンドラ・ダンジェロの登場です。っていっても誰も知る訳ありませんね。一度、バトンの回答で「こういう外見になりたいキャラ」で名前を挙げた事があるのです。絶対無理っていう意味で。

このアレッサンドラの芸名のダンジェロは、カペッリ同様ごく普通のイタリア系の苗字ですが、じつは駄洒落で付けました。「capelli d'angelo カペッリ・ダンジェロ(天使の髪の毛)」というのは、直径1ミリ以下の極細パスタの事なんです。


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あらすじと登場人物




ファインダーの向こうに
(2)昼食 -1-


 アレッサンドラ・ダンジェロはどこにいてもすぐにわかる。人びとが頷きあいながら、「ねぇ、本物よね」と囁きあっている。オレンジのカトレアのプリントされた白いワンピースは大きく胸元が開いている。目立つとわかっているのに、休みの日でもゴージャスな服装でしか表に出ない彼女は、かなり挑発的な性格だと言っていい。よく雑誌で書かれている「世界一の美女」というキャッチフレーズは眉唾だし、本当はブルネットなので「今もっとも美しいブロンドの女神」の称号は虚偽ですらあるが、「世界でもっとも稼ぐスーパーモデル五人のうちの一人」は事実だ。豊かな金髪とほんのりよく焼けた肌、すらりとした長い手足。目立たないわけはない。

 ジョルジアが大股で入ってきて、彼女の前に座った。
「ハイ、アレッサンドラ」
「遅かったじゃない。かなり飲んじゃったわよ」
テーブルの上に、シャンパングラスが二つとワインクーラーのボトルが見えた。グラン・キュヴェ……。ハーフでも私の普段のランチの四倍はするはず。昼間っから、とんでもないものを頼むんだから。

 他の客たちは首を傾げていることだろう。アレッサンドラ・ダンジェロの連れにしては、目立たない女でいったい何者なのだろうと。ジョルジアのノーメイクで構わない出立ちは、五番街の高級店向きではない。だが、「ダイニング・ルーム」ではなくてカジュアルな「バー・ルーム」にしてもらったのでかろうじて場違いのそしりは逃れていた。

 もし、周りの観客たちが第一印象による先入観を取り除いて二人をよく見たら、実はこの二人がとてもよく似ていることに氣づくだろう。実際、アレッサンドラがメイクを落として、眉を生まれた時の形に書き直し、髪を本当の色に戻して並べたら、二人は双子のようによく似ていた。実際には双子ではなくて、ジョルジアの方が二歳年上だが、姉妹であることには違いはなかった。

 ジョルジアの方が背が八センチほど低い上、ハイヒールを履かないのでもっと低く見える。手足もアレッサンドラの方が長く、日々のトレーニングとケアで完璧な状態に保っているし、動きももちろん優雅で美しい。だが、この完璧な妹と較べすらしなければ、ジョルジアは本来、さほど悪い資質を持っているわけではない。だが、街でジョルジアとすれ違って振り向く人はほとんどいなかった。おそらく、それはジョルジア自身の望みに適っていた。

「アンジェリカはどうしたの?」
ジョルジアは訊いた。八歳になる姪とは、一年近く逢っていなかった。
「ペントハウスにいるわ。マッテオと使用人たちにちやほやされるのが嬉しくてしかたないみたい」

 ロサンゼルスに住むアレッサンドラが、ニューヨークへ来る時は、必ず兄のマッテオのペントハウスに滞在する。成功者である二人の生活レベルは近くて、同じように有名人なので、ダンジェロ兄妹のことを知らない人は少ない。だが、彼らの本当の苗字がカペッリで、その間にもう一人写真家である家族がいることは、ほとんど知られていない。

「ねえ。あんな小さな会社の専属でいるよりも、フリーになったら? 写真集だって、あれだけ売れているんだから、もっと派手なプロモーションをしてくれる大手ならすぐに有名になれるわよ。そうしたら、住む所もロングアイランドのイタリア移民街なんかじゃなくて、またマンハッタンに戻って来れるし。なんなら、あたしが……」

「そんなことしなくていいわ。会社にはとても世話になっているし」
「会社っていうより、ベンジャミン・ハドソンにでしょう? あの人も敏腕編集者のくせに野心がないのかしら。彼ごとヘッドハンティングさせるならいい?」

 ジョルジアは、首を振った。
「ベンを引き抜くのは不可能よ。両親を亡くして苦労している所を、社長が親代わりになって育ててくれたって、恩義を感じているんだもの。社長には、会社経営に興味のないお嬢さんしかいないし、いつかは彼があの会社を引き継ぐんじゃないかしら」

 そして、彼女自身も今でこそ写真集が会社の利益に大きく貢献するようになってきているが、好きなものを撮っているだけでは食べられなかった駆け出しの頃は、《アルファ・フォト・プレス》で撮影の仕事をもらったからこそ生活することができたのだ。

 ベンジャミン・ハドソンには、公私ともに助けてもらった。十年前にプライヴェートでの破局を体験してから、ジョルジアはしばらく人物撮影ができなくなってしまったのだが、その時に社内での批判に立ち向かって風景撮影や商品撮影を優先して回してくれた。

「あなたがそれでいいと言うなら、私がとやかく言うべきことじゃないとは思うけれど。でも、仕事って、少しでも効率的にこなして、人生を楽しめる時間をもっと捻出すべきじゃないかしら。私、一刻も早く引退して、リラックスした生活をすべきだと、つくづく思うわ。アンジェリカとの時間ももっと作りたいし、それに、人生のパートナーともね」

「あら。あなたは、もう男にはこりごりなんだと思っていたわ」
ジョルジアはスパークリングのミネラルウォーターを飲みながら、あまり関心がないように言った。

「そりゃね。二度も失敗したんですもの。でも、今度の相手はちょっと違うの。ほら、私、今までは自分の力で私よりも優位に立とうと思っている男性とつき合っていたでしょう? それが敗因だったのよ。だって、そういう男の人は私の方が有名でお金持ちなことに我慢できなくなってしまうんだもの。でも、ルイス=ヴィルヘルムは、生まれ育ちそのものが私よりずっと上でそれは逆転しようがないの。男女が上手くいくためには、結局そういう確固たる差が必要なのよ。それにね。スイスって騒音が少ないのよ。物理的にだけじゃなくて、余計なことを言う隣人が少ないって意味よ」

 ということは、その貴公子はスイス人なわけね。ジョルジアはポークのテンダーロインを味わいながら考えた。
「スイスにも貴族がいたの? 知らなかったわ」
「やだ、何を言っているのよ。スイスには税金対策で住んでいるだけ。ドイツの貴族だって言ったの、聴いていなかったのね。系図を辿るといつだっかの神聖ローマ皇帝にまで行き着くんですって」
「それで? あなたも貴族になろうっていうの?」
「さあ。どうかしら。悪くないアイデアだと思わない? 三回目だから、慎重に決めたいとは思っているんだけれどね」

 そこまで言ってから、アレッサンドラはジューシーなローストチキンの最後の一切れを口に運んで、それからナフキンで口元を拭いてワインを飲み干した。それから、目を大きく見開いて、姉を見据えた。

「私のことはいいけれど、あなたはどうなの、ジョルジア」
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Comment

says...
更新、お疲れ様でした。

アレッサンドラ、たしかにゴージャスですね。
それに、子どもがいたんですか~。ちょっとびっくり。
彼女は、ライフ・ワークバランスをライフ寄りに割り切っている感じですね。家族を大事にするイタリア人的な価値観なのかな。
対して、ジョルジアやベン・ハドソンは、なんか義理人情という日本人的な価値観の持ち主のようですね。
それにしても、ジョルジアが十年前に経験したという破局、なんだろう。気になります。チラホラなにかが垣間見えていますが、う~ん、まだよくわからないなぁ。

あ、アレッサンドラの新しいお相手は、神聖ローマ帝国ゆかりの貴族さんでしたか~。じゃあ、ウチのエミリーと遠い親戚かも、ですね。なんか親近感が(笑)

次話、楽しみにお待ちします。
2015.09.09 11:22 | URL | #V5TnqLKM [edit]
says...
こんばんは。
そうなんです。アレッサンドラは、仕事も恋もばっちり生きて、現在31歳バツ2です。でもまだ現役(^^)

イタリアの価値観にアメリカのライフスタイルって感じですかね。

ジョルジアはこじれているだけですが、ベンジャミンは、義理がたいかもしれませんね。

十年前の件は、本来、同じ話ででてくるのですが、切ってしまったので来週です。

それに、そうなんです。
アレッサンドラが再婚するとなると、結婚式には、必ず、あの方々も御招待されるというわけで。もっともこの本編では、その話は出てきません。いずれ遊べる余地を残しました。

こじれている誰かさんの話に終始します。来週も読んでいただけると嬉しいです。

コメントありがとうございました。
2015.09.09 20:23 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
アレッサンドラ、本当に華やかでサバサバしてて、スーパーモデル、かくありき!というオーラを感じますね。
ジョルジアもきっと、ばっちりメイクを決めれば人を唸らす美しさなんでしょうが、やっぱり気質というのが違うのでしょうね。
でも、私生活で友達になるなら、ジョルジアがいいな^^
どうも、「美」オーラを持った女性の傍に居ると、落ち着かなくて。
今回の本題は次週という事なんですね。
次回はジョルジアの過去の事や、コンプレックスの事などが出てくるのでしょうか。
楽しみにしています^^
引き続き、旅を楽しんでくださいね。
2015.09.10 23:44 | URL | #GCA3nAmE [edit]
says...

アレッサンドラはもともと「ジョルジアは本来美人なんだよ」などと文字で書くのが嫌だったので作り出したキャラクターでしたが、勝手に動き出しました。この手の子は大人しくしていませんね。

ジョルジアの方が日本人には馴染みやすいでしょうね。アメリカ人としては珍しいタイプかも。

今のところ、ジョルジアは少し問題ありタイプですが、ストーリーの終わりにはもう少しバランスが取れるはず(^^)

来週で大体の事がわかるはずです。また読んでいただけると嬉しいです。

旅もそろそろ半分です。今日は先祖を探しに行ってきます。

コメントありがとうございました。
2015.09.11 08:19 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
おっと。現在旅行中ですね。
楽しんで、来てくださいね~~~。

写真家の生き方って色々ありますよね。
フリーカメラマンが華やかに見えますけど、小さい出版社で働くのも一つの生き方ですよね。そういうのも共感できます。
2015.09.12 06:14 | URL | #- [edit]
says...
わ、なんか、現代のお話なのでしょうけれど、ゴージャスな雰囲気を感じますね。
姉妹の仲が良さそうなのに安心します。それなりにいろいろあるのでしょうけれど。

少しづつ事情が出てくるのが楽しみです。
ご旅行楽しんでくださいね~^^
2015.09.12 07:27 | URL | #- [edit]
says...
おはようございます。
おかげさまで天候に恵まれて楽しんでいます。

成功を目指してバリバリ頑張るのが普通という世界でこじんまりとまとまっているそんなに強くない人物の話です。
読んでいただけて嬉しいです。

コメントありがとうございました。
2015.09.12 09:01 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
おはようございます。
世界感(?)の元になっているのは「マンハッタンの日本人」という作品で現在のニューヨークです。あちらが地を這ってる人たちの話だったので、今回はもう少し幅をとってゴージャス系も入れてみました(^^)

事情はあるのですがすべて過去の事で辛い事は何もありません。

軽く読んでいただけると嬉しいです。

旅行楽しんでいます。ストラスブール、素敵な街です!

コメントありがとうございました。

2015.09.12 09:10 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
そうかぁ、登場人物紹介を読んだときは、もっと兄姉妹が確執なんかあったりして、と思っておりましたが、結構仲良しなんだなぁと思ってほっとしました。確執というほどでなくても、没交渉ってきょうだいはいくらでもいそうなので。いや、確執好きの私が書くとえらいことになるかもしれませんが、夕さんだったらその辺り少し安心(?)。マイナスの確執はないけれど、それぞれの違いが浮き彫りにされていて(アレッサンドラのさばけた感もなかなか良くて)、彼らがお互いに思いやりながら、どんな物語が進行していくのか、まだまだ入口ですが、このお話のきょうだい3人、いい感じの関係が見れそうで、楽しみになりました。

今頃、素敵な旅の途中なんだろうなぁ~
お気をつけて楽しい時間を!
2015.09.13 04:24 | URL | #- [edit]
says...
おはようございます。
あはは。兄妹確執書いていたら、中編ではおさまりません(^^)

この家族は、やたら仲がいいです。姉妹も仲良しですが、にいちゃんは妹たち溺愛。そのうちに出てきます。

短い作品ですが、長編よりもテーマを強く意識して書いているので、それ以外の要素はわざと削いで簡潔にしてあります。

本編が終わったら、その削いだ部分でもっと遊べるかも(^^)

旅、いろいろなラッキーに恵まれて楽しんでいます。その辺は、またいずれ。

コメントありがとうございました。
2015.09.13 09:00 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
アレッサンドラを作り出した理由、limeサンへのコメントで読ませていただきました。とっても興味深いです。そしてこの子とジョルジアとの組み合わせに関しても、もっと興味深いです。
SとNのような相反する極性を持った姉妹が、お互いをを強く引き立て合い、強く引きつけ合い、愛し合う。アレッサンドラが動き回ると、ジョルジアは望むと望まざるにかかわらず影響を受ける。そしてその反対もきっとあるのでしょう。
こういう関係、ドキドキしますね。
2015.09.13 13:37 | URL | #0t8Ai07g [edit]
says...
こんばんは。

そうなんです。ジョルジアの方から家族に距離を置いているのですが、でもそれはアレッサンドラが悪いからではないのです。これをもっと語ると、ジョルジアが抱えているのは、外側の問題ではないということをはっきりさせる為の設定なのですね。

ストーリーは、(アレッサンドラと比較すると)弱い人間であるジョルジアが、それを僅かでも克服するまでの短い話です。

でもアレッサンドラのストーリーもいつかちゃんと掘り下げて書いてみたいですね。

今度の水曜日にはジョルジアの事情が明らかになります。また読んでいただけると嬉しいです。

コメントありがとうございました。
2015.09.13 17:59 | URL | #PooosTlY [edit]

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