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Posted by 八少女 夕

【小説】ファインダーの向こうに(3)新企画 -1-

中編小説「ファインダーの向こうに」の三回目「新企画」の前半です。短い作品なので、もったいぶらずにどんどん出しているはずなんですが、ようやく「お相手は誰?」が出てきましたね。それに、副主役ポジションのベンジャミンも初登場。書いているのと、週一の連載で発表するのは、ちょっとスピード感覚が違いますね。

今回出てくる超ゴージャスペントハウス、実在する部屋をモデルに書きました。執筆中に、ちょうど住人募集中だったのですね。毎月、こんな家賃払って、ああいうところに住む人って、本当に存在するんだなあと、感心しながら書きました。


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あらすじと登場人物




ファインダーの向こうに
(3)新企画 -1-


 ドアマンは、ジョルジアを認めると、はっとして頭を下げた。彼は、彼女を見るといつも後ろめたい顔をするのだ。彼が勤めはじめて二ヶ月目に彼女がこの高級アパートメントに来たとき、彼は「ミズ・カペッリ」が誰だか知らなかった。そして、彼女を足止めして、最上階ペントハウスに住むダンジェロ氏に大袈裟に文句を言われた。

 彼だって、アレッサンドラ・ダンジェロがダンジェロ氏の妹だということは知っていた。そして堂々とした態度で「ようこそ、ダンジェロ様」と言う事ができたのだ。だが、彼らの本名がカペッリということも、兄妹の間にもう一人カペッリ家の娘がいることも知らなかった。ニューヨークの高級アパートメントのドアマンとして、プロフェッショナルであることを自負している彼にはそれは大きな汚点になったらしい。

 ジョルジアは、会釈してペントハウス専用のエレベータへと向かった。最上階でドアが開くと、パーティは既に始まっているらしくとても騒々しかった。

 パークアベニューにある32階建ビルの最上階、570平方メートルの住居。ドアマンがいて10万ドルの家賃のペントハウスにジョルジアの兄、マッテオは住んでいる。健康食品を販売する事業で財を成し、アメリカンドリームを具現したプレイボーイにふさわしい住まいだ。5つあるベッドルームのうちの一つは、よく泊まりにくるロサンゼルス在住のアレッサンドラとその娘のアンジェリカのために空けてある。

 使用人のハリスが中へと案内しようとすると、ジョルジアは断った。
「遠慮するわ」

 自分がパーティにふさわしいとは思えない。もちろん普段の服装よりはずっとましだ。今日はナラ・カミーチェの白と銀のシャツに黒いパンツスーツを着ている。シーズンごとに100枚近いお下がりをくれようとするアレッサンドラに本当に貰った10着程度の服の一つだ。たぶん、サン=ローランのものだろう。

「ジョルジア! 僕の愛しいサバイオーネ! どうしてこんなに長く逢いにきてくれなかったんだい」

 大袈裟な挨拶とともに抱きしめられて、両方の頬にキスの雨が降った。後ろにいるはじめて見る美女が剣呑な目つきで眺めているので慌てて言った。
「本当に久しぶりね、マッテオ兄さん。今日は、お招きありがとう。でも、すぐに行かなくちゃいけないの」

「なんだって、まだ来て一分も経っていないだろう」
「ええ。今晩からしばらくいなくなるから顔を見たくて来たんだけれど、時間がないの」
「どこに行くんだ? まさか、またアフリカか?」
「いいえ。ニューオーリンズよ。ところで、パーティの時に悪いんだけれど、ビジネスの話していい?」

「なんだって?」
「直にうちの会社から依頼が来ると思うんだけれど、セレブを写真とインタビューで紹介する特集があるの。で、兄さんを私が撮ってもいい?」
「お前が、僕を? どうした風の吹き回しだろう。もちろんいいよ。ずっと、何ヶ月もここで撮り続けるといい。その間、僕はお前を独占できるんだろう?」

 ジョルジアは、後ろの女性たちの冷たい視線を避けるようにして、彼の頬にキスをした。
「兄さんったら。そんなことをしたら二日目くらいには、あなたのお友だちに殺されちゃうわ」

* * *


 その日の午後、担当編集者のベンジャミン・ハドソンが仕事を持ってきた。

「『クォリティ』誌の新企画が決まったんだ。マンハッタンのセレブを特集する続き物でね。専属・フリーを問わず新進のフォトグラファーに印象的な写真を撮ってもらうことにしているんだ。編集長は、もっとも印象を変えるのが難しいセレブを君に担当してもらいたいと言っている」

「誰を」
「マッテオ・ダンジェロ」
「絶対に嫌」

「そういうと思ったよ。で、僕から編集長には、もっと大物を提案しておいた」
「誰?」
「ジョセフ・クロンカイト」

 ジョルジアは、黙ってベンジャミンの顔を見た。

「暗室の写真を見たんだ」
彼はたたみかけた。

 彼女は、まだ黙って彼を見ていたが、三分ほど経ってから「嫌よ」と言った。

「なぜ。仕事として写真を撮らせてもらう。それだけだろ。天の邪鬼にも程があるぞ」
「天の邪鬼って、なんのことよ」

「違うっていうのか。じゃあ、訊くが、マッテオ・ダンジェロの時は即答したのに、クロンカイトの時は嫌だというのになぜそんなに時間をかけたんだよ。本当は知り合いたいんだろう? チャンスじゃないか」

 ジョルジアはまたベンジャミンを見て、しばらく何も言わなかった。が、ゆっくりと視線を落とすとカメラケースに触れた。

「私がマッテオを撮っても、意外に素敵なセレブになんてなりっこないわ。いつもと同じか、よくて私の兄が写るだけよ」

「クロンカイトは君の家族じゃないだろう。君が憧れているセレブが写るなら、うちの社の方針としても願ったり……」
「嫌だって言っているでしょう!」

「何がそんなに嫌なんだよ! あっちは有名ジャーナリスト、知り合えば、今後の仕事に何かとプラスに……」

「知り合いたくない! 知り合わなければ、傷つくこともないもの」
そう言ってしまってから、彼女はしまったという顔で黙り込んだ。

 ベンジャミンは、信じられないという顔をして、ジョルジアをまじまじと見た。
「憧れじゃなくて……本氣なのか?」
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Tag : 小説 連載小説

Comment

says...
やはりまさかのジョセフだったのですね。そして、そうか、それでこれが罪滅ぼしってわけだったのですね~。
えっと、これは成就するのかどうか、ちょっと気になります。実は私、心密かに、ジョセフは(智之に選ばれそうにない)綾乃とくっつくのか?と思っていたのです(だって~、TOM-Fさんは絶対に詩織贔屓だし^^;)。あ、もちろん、誰とくっついてのいいのですけれど……でもこのお話が登場してから、ふむふむ、これは成り行きをしっかり見守らなければと思っておりました。
いずれにしても、セレブな兄妹に少し引け目を感じているジョルジアにハッピーになって欲しいですね。
2015.09.23 10:24 | URL | #nLQskDKw [edit]
says...
更新、お疲れ様でした。

マッテオさん、超セレブ。
月額1200万円……東京にもないですね、そんなお家賃の家は。まさにアメリカンドリームってやつですね。
ああでもその対応、周りの女性たちの視線が怖い。拓人親衛隊との競演を妄想、いえ期待してしまいました(笑) でも、妹だという説明、何人がまともに信じてくれるんでしょうね。

ジョルジア、ご指名で仕事が入るところをみると、けっこう高い評価を受けているようですね。
ベンジャミンの人選は、ジョルジアと利害が一致している、はずだったんでしょうね。
でも、ジョセフって、けっこう残念なヤツですからねぇ。ジョルジアの想いが、可愛いというか、可哀想というか、ちょっとフクザツな心境です。

これで役者がそろったというところですね。このままマッテオ撮影だけで終わるのか、次話からの展開が楽しみです。
2015.09.23 10:42 | URL | #V5TnqLKM [edit]
says...
マッテオのシスコンぶりがすごくて、楽しい^^
夕さんのこういうシーンを見ていると、洋画を見ている気持ちになります。
やはり人物の立ち振る舞いや会話やテンポが、日本人とはまるで違うのがよくわかります。
最近翻訳ミステリーを読んでいるんですが、やっぱり空気感が違う。
海外の生活をしていないと分からないテンポなんだなあとしみじみ思います。

あ、そして質問なんですが、日本では「お兄ちゃん」「お姉ちゃん」とかいう呼び方がありますが、そちらではどうなのでしょう。兄でも名前で呼ぶのが普通なのかな? ふと気になったもので。

そしてやっぱりジョルジアの想い人はジョセフだったのですね。
ジョルジア・・・すごく表情に出ちゃうタイプなのですね^^
嘘がつけない純粋さがいいなあ。
自分の気持ちには気付いているみたいなので、あとは勇気だけなのでしょうが。そこが難しそう。
どんなふうに展開していくのか、楽しみにしています^^
2015.09.24 00:12 | URL | #GCA3nAmE [edit]
says...
こちらにもありがとうございますe-446

まさかって、他に何があるっていうんですか(笑)

ジョセフが最終的に、誰とくっつくか、そんなことを私が知っている訳ないじゃないですか〜。
うちのキャラじゃないんだし。

TOM-Fさんは「今のところ、そういう感情はジョセフにも綾乃にもない」とおっしゃっていますけれど、兄妹萌えだけでなく子弟萌えもお持ちのようなので、たとえ年齢差が親子並でも綾乃とくっつけるは、ありかもしれません。
でも、ほら、あそこもずいぶんと作品がまたがっているので、ジョセフ×エミリーとか、セシル×綾乃とかがあるかもしれないし、アルバート兄さん×綾乃、いや、もしかするとジョセフが綾乃&詩織&ありすのハーレムを全部引き取っちゃうなんて大穴があるかもしれませんよ。
(人んちのキャラでオッズするなって……)

でも、今の時点でいえば、ジョセフ×ジョルジアは不可能です(笑)
だって、ジョセフはジョルジアを知らないもの。後に一度だけニアミスがあるんですけれど、それで彼が存在を認識するかどうかは……TOM-Fさんにおまかせですね。まあ、ガン無視していただいて、いいんですけれど。

でも、この話を読んでくださった方が、ジョセフと誰か他のキャラがくっつきそうなった時に「ええ〜、ジョルジアがかわいそう」と反応してくれるようになったら、それはそれで嬉しいかな。

コメントありがとうございました。
2015.09.24 20:37 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。

返信が遅れてすみません!

この家賃、私も最初、桁間違えてんじゃないかと数え直しました。もしくはアメリカは、家賃って年間なのかとか。
でも、ニューヨークで月一万ドルって、そんなに珍しくないらしく、ここほど高くなさそうなところでもけっこうあるので、たぶんこの値段は、ありかも。モデルは、ほら、某大統領選にでているあの富豪の持っている超高級アパートメントのペントハウスなんで。

というような、セレブを狙っているハイエナ美女たちなんで、そりゃ、拓人親衛隊なんて1000人集まっても敵わないタフさだと思います(笑)ジョルジアが、彼女たちを苦手なのもむべなるかな。アレッサンドラみたいに、自分のオーラで跳ね返すタイプじゃないですしね。

ジョルジアの最新写真集は、《アルファ・フォト・プレス》創立以来の売り上げを記録しているので、会社の専属フォトグラファーの中では、彼女は一番評価を受けています。でも、超弱小出版社ですので、誰でも知っているすごい写真家という訳ではないです。写真の好きな綾乃が名前を知っているかどうかも微妙なところかなあ。

> でも、ジョセフって、けっこう残念なヤツですからねぇ。ジョルジアの想いが、可愛いというか、可哀想というか、ちょっとフクザツな心境です。

いやいや。とんでもない。ちょっと抜けているところはチャームポイント。それ以外はかっこいいですからねぇ。(本編待ってますよ〜)
それにこれは、お詫び作品なんで、TOM-Fさんが可哀想と思う必要はないですよ。

次回は、TOM-Fさんには憶えのあるはずのシーンの話がでてきます。
また読んでいただけると嬉しいです。

コメントありがとうございました。
2015.09.24 20:52 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。

マッテオとアレッサンドラのでてくるシーンは、書いていてとっても楽しかったです。
わざわざイタリア系にした甲斐のある二人でした。

でも、limeさんのご指摘で氣がつきましたが、こういう人たちに違和感は0です。やっぱり立ち居振る舞いが、ちょっと違うかもしれませんね。

limeさん、鋭いです。「パパ」「ママ」のように呼称としての「兄さん」っていうのは、ないようです。二人称か名前(または愛称)で呼びかけますよね。日本でいうと、弟や妹に呼びかけるのと同じ感じです。(けいさん、そうですよね? 私のとこ英語圏ではないので心配)
これを書く時に、ジョルジアは、怖い美女軍団の誤解を解くためにあえて「マッテオ兄さん」と呼びかけていますが、このセリフは私の頭の中では「My dear brother, Matteo」でした。後半ででてくる「兄さん」は、実は「you」の日本語訳のつもりです。

ジョルジアは、ベンジャミンにはかなり氣を許しているので、全部でちゃいますね。
でも、もともと嘘をつくのは苦手っぽいですね。

まあ、今のところ、どうにもなりませんね。何よりもまず、知り合わないとねぇ(ヒドい作者だ)
次回は、なんでそんな妙なことになっているのかの説明がきます。
また読んでいただけると嬉しいです。

コメントありがとうございました。
2015.09.24 21:06 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
人によって写真は変わる。
まあ、モデルになる人の気持ち次第で写真も変わってしまうってところはやはりあるでしょうね。
写真家とモデルの関係性もやはり必要なのか。。。。
( 一一)
2015.09.25 11:40 | URL | #- [edit]
says...
ドアマンが後ろめたい顔をする場面、なんか好きですね。ジョルジアの特別な部分が表現されていて、「どうよ!」っていう気持ちをどうしても抱いてしまいます。ちょっと自分が嫌になりますけど、良い感じです。
ジョルジア、ビジネスの話をマッテオにするんだけど、あれ?ちゃんと了解を取ったはずなのに、実際に仕事が持ち込まれたら断ってしまうんだ。
さらにジョセフ・クロンカイトの名前が出てきて余計に頑なに・・・。
ジョルジアの本心、分かっているようで上手く読めないです。
「憧れじゃなくて……本氣なのか?」
それはサキの台詞です。
そっちへ展開させますか・・・。
この部分の細かい説明を要求します。
ではまた。
2015.09.25 14:18 | URL | #0t8Ai07g [edit]
says...
お。お呼ばれされている(汗)
Ausでは、ファーストネームとはよく言ったもので、まず名まえです。
初対面の時はmy brother/sisterの誰々、と教えてくれますが、教えてくれないときは、姉妹兄弟なのか親戚なのか友人なのかこちらから訊いたりすることもあります。
まあ、基本、あまりこだわりはないです。
昔、女性の同僚から女性の友人をフィアンセと紹介された時はドッキリしました・・・いろいろっす・・・あ、トピックずれ・・・?

ジョルジアはまさにIn the middleですね。
位置的には一番自由に生きていけるのではないかなとも思ったり(?)
あ、乙女で複雑な心が表情や言葉尻に・・・?
この先も楽しみです^^
2015.09.26 01:34 | URL | #- [edit]
says...
おはようございます。

そうですね。モデルの感情が映るということもあるでしょうけれど、どの瞬間をどう切り取るか、たくさん撮った中でどの写真を選ぶかという意味では、撮る方の感情も出てくるものだと思うんです。
この作品では、そちらの方にスポットを当てています。

関係は、あってもなくても撮れるでしょうけれど、その違いはあるでしょうね。

コメントありがとうございました。
2015.09.26 08:29 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
おはようございます。

ジョルジアは、マッテオやアレッサンドラ自身は好きなんですけれど、なんだかこういう世界に馴染めないんですね。
だからますますふさわしくなくなって、はじめての時はドアマンに冷たくあしらわれたりしちゃうみたい(笑)

そして、わかりにくくしてしまって、ごめんなさい。
パーティは、夜に開催されているので、「その日の午後」というのは時系列では過去のことなんです。
つまり、最終的には、ジョルジアは嫌だと即答したはずの兄の撮影を選ぶんですね。
パーティもスルーするつもりだったのに、この件があったのでイヤイヤ足を運んでいます。

> この部分の細かい説明を要求します。

えへへ。こちらは次回、ちゃんと本人が語ります。これだけじゃ、そりゃ、わけわかりませんよね。
そうなんです。知り合ってもいない人なんですよ、ジョセフ。

といっても、来週は「Infante 323 黄金の枷」なので、再来週までお待ちください(笑)

コメントありがとうございました。
2015.09.26 08:40 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
おはようございます。

わあ、呼びかけに反応していただき、ありがとうございます。
そうですよね。

私、人の顔と名前をなかなか憶えないヤツなので、しかも、同じファーストネームが多用されるので、友達のところに兄弟がきていて「やあ、ひさしぶり」みたいになって、友達はファーストネームでしか話さないし、数時間にわたって兄だったことに氣がついていなかった、なんてこともあります。

あと、最悪なのは、こちら、兄弟姉妹の名前を我が子に付けたりするんで、義母が「テレースがね」「ハイジがね」と語る時に、いちいち「え〜と、どちらのテレースの話?」「ハイジって三人いるけどなあ」と困ってしまう……という話はさておき。

あ、そして、オーストラリアは、女性同士が正式に結婚できるんだ。
こちらはそれはできないのですが、「友達」と「恋人」、「彼氏」と「夫」に同じ単語を使ったりするんで、時々誤解していたりします。

ジョルジアは、こじれているのが少し解消できれば、もう少し生きやすく、なるんじゃないかなあ。

落っこちちゃっているので、今、動揺しまくりですが、頑張ってもらわないと……ね。(責任放棄発言)

次回もうちょっと事情が出てきます。って、「Infante 323 黄金の枷」をはさむので再来週になりますが、また読んでいただけると嬉しいです。

コメントありがとうございました。

2015.09.26 08:59 | URL | #9yMhI49k [edit]

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