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Posted by 八少女 夕

【小説】ファインダーの向こうに(6)受賞の報せ

中編小説「ファインダーの向こうに」の六回目です。

ジョルジアの最新の写真集『太陽の子供たち』は、弱小出版社である《アルファ・フォト・プレス》で発売されたものとしては、めざましい売上をあげていて、彼女も「明るい子供の写真を撮る女流写真家」として、少しずつ名が知られはじめています。もちろん、「知らない人は全然知らない」程度の知名度ですが。

あ、今回の設定、TOM-Fさんに無断で書いています。「そんな仕事するか!」と怒られるかもしれません。ごめんなさい、今から謝っておきます。


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あらすじと登場人物




ファインダーの向こうに
(6)受賞の報せ


「ジョルジア! ジョルジア! 探したんだぞ。なんで電話に出ないんだよ!」
会社につくと、ものすごい勢いでベンジャミン・ハドソンが駆け寄ってきた。

「だって、この間の特集のことで、上とやり合ったって聞いたから。やっぱり撮り直し?」
「何言ってんだよ。それどころじゃないよ。君は、この会社の英雄になったんだよ!」

「何の話?」
「《アルファ・フォト・プレス》創設以来の悲願だ。『フォトグラフ・オブ・ザ・イヤー』に入賞だ」

 ジョルジアは驚いて、彼を見つめた。写真集『太陽の子供たち』が『フォトグラフ・オブ・ザ・イヤー』の一般投票部門で六位になったという報せだった。もしかしたら狙えるかもしれないとは聞いていたが、ジョルジア本人はもちろん、会社の誰も本当だとは思っていなかった。

「授賞式の写真を月刊誌『アルファ』の表紙にするからな!」
そう息巻くベンジャミンに彼女は嫌な顔をした。

「人前には出たくないわ。社長やあなたがかわりに受け取るわけにはいかないの?」
「何ふざけたことを言っているんだ。君が行かなきゃダメに決まっているだろう。いつもとは違って、社運がかかっているんだ、今回だけは何が何でも出席してもらうよ」

 それから、斜めに彼女を見ながら意味有りげに告げた。
「それに、今年の『フォトグラフ・オブ・ザ・イヤー』の放映権はCNNにあるんだぜ。だから特別審査員にジョセフ・クロンカイトが含まれているんだ。彼も授賞式には来るぞ」

「……だから?」
ジョルジアは視線を逸らす。

「ちゃんとおしゃれしていけ。クロンカイトを一目惚れさせてやれ。やろうと思えばアレッサンドラ・ダンジェロ顔負けに装えるんだからさ」
「ベン。あなたは、私がこのあいだ言ったことを何も聞いていなかったのね」

「聴いていたさ。君が言いたかったのは、要するに拒否されるのが怖いってことだろう。そんなの、恋をしたら誰だって同じだ。ティーンエイジャーみたいなことばかり言っていないで、チャンスをつかめよ。君は、本来絶世の美女の仲間なんだぜ。世界中のどれだけの女が、アレッサンドラ・ダンジェロと同じ顔、同じスタイルを持てたらいいだろうと思っているのか知らないのか?」

「どんなに似ていても私は妹じゃないわ。好きな男すら逃げだした化け物よ」
「ジョルジア」

「ごめんなさい。もう言わないわ。でも、お願いだからそっとしておいて。私が仕事中心に生きているのは、あなたにとって、そんなに悪いことじゃないでしょう?」

* * *


 ずっと知らない人が怖かった。特に、アレッサンドラに似ているからと近づいてくる男たちが怖かった。完璧な女神を、朗らかで挑発的なファム・ファタールを求めてきた彼らはいつだって、そうではない自分を見つけて、嘲笑い軽蔑して去っていくのだと感じていた。

「君みたいな化け物をどうやって愛せるっていうんだ」
ジョンの捨て台詞が、耳から離れない。

 ベンジャミンが、いつも守ってくれていることはわかっている。十年前も、友達のジョンではなく、彼女の側に立って、壊れそうだった彼女を、仕事と、それからこの世界につなぎ止めてくれた。もう撮れない、人が怖いと怯えて、会社にも行けなくなった彼女を辛抱強く訪れて、彼女にも撮れる無機質なものの仕事を用意し続けてくれた。そのことで、彼の立場が悪くなったことも一度や二度ではなかったが、文句も言わず、ひたすら支えてくれた。

 マッテオやアレッサンドラが、何もしなくていい、自分たちの所でゆっくりするといいと言った時に、頑強に反対して仕事を続けさせてくれたのもベンジャミンと社長だった。仕事を続けることで、ジョルジアは家族だけでなく、社会とのつながりをゆっくりと取り戻し、人付き合いが下手とはいえ、自分の撮りたい物を追い、一人で取材旅行にも行けるまでに回復したのだ。

 このまま一人で生きていくのならば、彼と社長の好意にいつまでも甘えて、彼らの重荷で居続けるべきではなかった。授賞式に出席して、《アルファ・フォト・プレス》の名前を広めることを求められているならば、引っ込んでいるわけにはいかない。たとえ「彼」がその場に来てしまうとしても。

 愛した男に去られて十年経ち、はじめて新しい恋に落ちたが、彼女は一歩も動けなかった。そもそも知り合ってもいない人だ。望まれてもいないのに近づいて嫌われるだけなら、遠くから見ているだけの方がいい。ブラウン管の向こう、プリントの向こう。決して傷つけられることのない隔たりに安心しながら。
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Tag : 小説 連載小説

Comment

says...
更新、お疲れ様でした。

ジョルジア、ついに表舞台に立つんですね。評価されてるじゃないですか。本当に撮りたい写真じゃないかもしれなかったけど、技術面や表現力は高かったんですね。
あ、ジョセフったら、そんなお仕事もしていたんですね。ええもう、普通に「あり」ですよ。いちおう、看板キャスターですからね、あの人。ニュースを読んでればいいってものでもないでしょうし。
……あ、ジョン、そこまで言ったら酷い。そりゃ、男性不信にもトラウマにもなりますって。
とはいえ、ジョルジアにとって、今回のような機会は必要なんだと思います。そろそろ、無理やりにでも、そういう場に出る時期に来ているんでしょうね。

これは、ますます続きが楽しみになってきました。
2015.11.11 10:33 | URL | #V5TnqLKM [edit]
says...
こんばんは。

評価はされていますが、大賞ではなくて、一般投票の六位、つまり一番下の賞です。その辺が妥当かなと(笑)

一応、ニアミスくらいはしなくちゃね、ということでこんな設定になりました。

それと、ジョルジアが有名になりかけているのは、世間に迎合した「天使のような子供の写真」を撮っているからですね。
だから一般投票に引っかかった訳です。
この小説のサブテーマに関連する部分なんですが、この受賞とジョセフとのニアミスが、彼女のもう一つのターニングポイントになる予定なのです。

というわけで、お忙しいジョセフの仕事を増やしちゃいました。お許しいただけてホッとしました。特別審査員だから、一度くらいは大賞の最終選考の対象になった十冊くらいのうちの一冊としてジョルジアの写真集にも目を通したはずですが、きっと興味なくて名前も憶えていないかも。

ジョンの件は、あれです。十年間も閉じこもってしまう、今でもウジウジし続けるほどのショックなので、このくらい言ってくれないと。

という訳で、次回はいよいよ、リアルのジョセフが(ちょっとですけれど)登場することになります。
そちらの設定にご迷惑はおかけしないと思いますが、どうぞよろしくお願いします。

コメントありがとうございました。
2015.11.11 22:31 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
ジョン、そこまで言うのか~と思ったけれど、確かにこのくらい言っておいてくれないとジョルジアのショックの理由にはならないのかもしれませんね。それにしてもほんと、酷い。でもこんな言葉を出しちゃうからには、ジョンにも何か事情があったのかなぁ、それともただの本当に酷いやつか……あ、そんなところに捕まってる場合じゃなかった。

ベンジャミン、いい仕事してますよね。いや、ほんとにジョルジアに惚れてるんだなぁ~。既婚者なのかぁ。勿体ないなぁ。傍で見守ってくれている、なんて、まさに幸福の青い鳥はおうちにいた!って感じがしていいのになぁ。う~ん。
でもそんな風に見守ってくれている人たちがいても、ジョルジアがぐるぐるしているのを読むと、逆にちょっと安心するのはなぜかしら……いや、夕さんの物語のぐるぐるは、きっと何かが変わっていく前触れだと分かっているからかもしれませんが、ぐるぐるがあると「よし来た!」とか思ってたりして。
次回、ジョゼフが登場ですね。憧れの人に、ただ一言行ってもらったり、すれ違ったりするだけでも、世界が変わることってありますよね。そんなすごいご褒美が(できればもっと)ジョルジアに訪れる瞬間、楽しみです。
(しまった、limeさんよりも先にコメをかいたら調子が狂っちゃった)
2015.11.12 11:45 | URL | #nLQskDKw [edit]
says...
うわぁ!!!自分の事のように嬉しいですね。そしてジョルジアのあの素っ気ない態度。

「……だから?」
ジョルジアは視線を逸らす。

いいですねぇ。でもほんと嬉しいです。ジョルジアを抱きしめてお祝いを言いたいくらいです。きっと愛想が悪くなるんだろうなぁ・・・などと想像しています。その様子もまたいいんですよね。夕さんのキャラ設定、最高です。
ジョセフとの出会いも楽しみですが、ジョルジアの屈折した心がどう動いていくのか、ジョセフの心がどう動くのか。楽しみです。
傷つき守られ少しずつ立ち上がるジョルジア、みんなに幸あれと祈ります。
あ、ジョンは省いておきます。
サキはそういうとこ、冷淡です。酷い奴です。
いろんな物が動きだして、面白くなってきました。

そしてタイトルには乗っておいた方がいいのかな?
2015.11.12 14:42 | URL | #0t8Ai07g [edit]
says...
こんばんは。

タイトル遊び、サキさんにも受け継がれてます(笑)

いや〜、ジョンの設定ね。
実は、あまりないんですけれど、どちらかというと「ものすごい悪」ではなくて「弱い犬ほどよく吠える」の小者ですね。
この人の件は、本編ではもう出てこないのですが、ようするに「びっくりして出来なくなっちゃった」という恥ずかしさをジョルジアに転化しようとつい捨て台詞言って振っちゃった程度です。でも、それでマッテオは激怒しイタリア系アメリカ人社会の伝手を使って、ジョンはニューヨーク界隈に顔が出せなくなってしまいました。もちろんベンジャミンも即絶交。

ベンジャミンは、当時もうスーザンと結婚していて、ショックでガタガタになったジョルジアに責任を感じて世話をしているうちにそうなっちゃったんですが、まあ、現在二人目作成中だし、ジョルジアはジュリアンの名付け親でスーザンとも親しいし、どうにもならないですね。ジョルジア自身が全然わかっていないし。

「幸福の青い鳥がすぐ近くにいた」なんてストーリーにはしませんよ。それじゃ全然「お詫び」にならないじゃないですか(笑)

ジョルジアは、授賞式行きたくないとぐるぐるしていますが、この話は、中編でサクサク進みますから、あと二話だけなんです。ただし、次の話が前後編、最後が三つに分かれますので、年内いっぱいの連載になりますけれど。

ご想像通り、生ジョセフとのニアミスが転機になります。
ご褒美的ニアミスかどうかは、読んでのお楽しみということで。

コメントありがとうございました。
2015.11.12 17:38 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。

あ、タイトルで遊んでくださっていますね(笑)

喜んでいただけて嬉しいです。
なのにジョルジア、この態度……。
人ごとみたいですよね。

でも、ベンジャミンや社長が同情からいろいろと特別扱いしていたのを、快く思わない人たちからいろいろと言われることはなくなるでしょうから、彼女のためにはこの受賞はよかったはずです。

で、生ジョセフと同じ空間に行くことになったんですけれど。
(このまま逢わないままだと、つまらなすぎるかなと思ったので)

ジョルジアの心は、このニアミスをきっかけに大きく動いていくのですが、ジョセフの心はどうでしょうね。
発表したあとにTOM-Fさんに訊いてみたいです。
もしかしたら存在を憶えていないなんてことになるかも?

ジョンの幸いは、祈らなくてもいいです(笑)
って、どこにいるんでしょうね。
ジョルジアは知らないことですが、激怒したマッテオによってニューヨーク界隈では働けなくされてしまったので、どっか遠くに行ってしまったようです。

次回は、この地味な中編で一番華やかなシーンですね。
また読んでいただけると嬉しいです。

コメントありがとうございました。
2015.11.12 18:21 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
むむむ。
評価されるのはいいことだと思うけど。
写真家で取り上げられるのは写真がメインであって、人ではないような。
一番大切なのは、写真。そして何を伝えたいか。
それを考えると、人前に出たくないというのは私も気持ちが分かるな。
私も小説を見てもらいのであって、私という人を見てほしいわけではないですからね。
・・・・それとこれは違うか。
(*´ω`)
2015.11.13 13:46 | URL | #- [edit]
says...
こんばんは。

賞をとったのは写真集ですからね。
でも、まあ、写真集自体はトロフィーを受け取れませんから、授賞式で撮った本人がクローズアップされるのは普通ではないでしょうか。弱小出版社としては、出来るだけ大きく騒ぎたいし。

ジョルジアが人前にでたくないのは、写真の方を見てもらいたいからではなくて、本人がこじれているからですけれど、芸術家肌の写真家にはLandMさんのおっしゃるような理由で人前にでたくない人も多いでしょうね。

コメントありがとうございました。
2015.11.13 21:42 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
そっか~、こういう形でジョセフとニアミスするのですね。
叶わぬ相手(かも)だし、接点もあまりないから、ただの憧れで終るのかと思ったんですが、
そうですよね、そんなのはもったいない。(設定が)

この受賞が彼女本来の表現の集大成ではないにしても、何か扉を開けるきっかけになるといいですね。
彼女の中の傷はなかなか癒えなくても、こうやって応援してくれる人たちの気持ちを実感できれば・・・。
授賞式、楽しみです^^
2015.11.14 00:43 | URL | #GCA3nAmE [edit]
says...
こんばんは。

そう、苦肉の策なんです。
ジョセフはジョルジアと個人的に遭う訳ではなくて、たまたま仕事で同じ場に来るだけです。
ジョルジアも遭いたくないからと避ける訳にいかない。
ジョルジアの方は意識しまくりですが、たぶんジョセフは存在を認識するかどうかも怪しい、そんなニアミスです。

「 叶わぬ相手(かも)」って、(かも)もへったくれもなく、叶う訳ないでしょう(笑)
ただ、全く出てこないとお話としては「なんなんだ?」かなと思いまして。

この授賞式、いろいろな意味で彼女のターニングポイントになっていきます。
みなさんが想像していらっしゃるような出逢いとは違うかもしれないけれど。
ジョルジアが立ち直っていく過程を応援していただけると嬉しいです。

次回、授賞式です。また読んでいただけると嬉しいです。

コメントありがとうございました。
2015.11.14 15:53 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
夕さん、お久しぶりです。約2か月ぶりの(まともな?)コメです^^
以前はスピードで読み逃げしていたので舞い戻ってきました。

ジョルジアにとって、良いきっかけですね。
受賞というよりも、一歩進むための。

ジョルジアが大変だったときに、マッテオやアレッサンドラが呼び寄せていたにも関わらず、ベン(と社長も)が、仕事をさせたって、良いエピソードですね。
もしかしたらそのまま社会から断絶してしまっていたかもしれないジョルジアを仕事に向けさせていたのですね。グッドジョブです。

家族とのつながりも大事なのですけれど、社会とのつながりも大事。
コミュニケーションのあるところに身を置くことって、大切だなあと思います。
ベンがその辺をサポートしてくれたのが良かったですね。
次話に参ります。
2015.12.29 00:43 | URL | #- [edit]
says...
こんばんは。

夏休み(!)中とはいえ、目は大丈夫ですか? どうかご無理なさらないでくださいね。

ジョルジア、受賞しても引っ込んでいたいなどど寝ぼけたことを言っていますが、本当におっしゃる通りいつまでも閉じこもっていないでちゃんと自分の足で立たなくちゃいけないのですよね。そのきっかけとしては、この授賞式は大きかったです。

そして、そうなんです。もし、マッテオやアレッサンドラに頼って、仕事をしなくなっていたら、彼女はもっと引っ込み思案になってしまい、たぶん仕事に復帰するチャンスも失っていたと思うんです。でも、ベンジャミンと社長が、「その箱を撮る仕事でもいいからやれ」と、強引に職場復帰させてくれたおかげで、家族以外の社会との接点を失わずに済んだのですね。

ジョルジアは、この時の恩を忘れていないので、写真集が売れて他から誘いが来ても、頑として今の会社の居続けているのです。

「好きだ」と告白したりするようなことはなくても、こういう形でちゃんと支え続けるタイプの愛もあるのかなあと、ベンジャミンというキャラクターを設定しました。

注目していただけて嬉しいです。

コメントありがとうございました。
2015.12.29 16:59 | URL | #9yMhI49k [edit]

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