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Posted by 八少女 夕

【小説】ファインダーの向こうに(8)ポートレート -1-

中編小説「ファインダーの向こうに」の最終話です。長いので三回に分けました。今回はその最初です。『フォトグラフ・オブ・ザ・イヤー』の授賞式から帰る時に、自分がこれではダメなのだと悟ったジョルジアは、迷いを振り切って動き出します。

今回は、兄マッテオを撮ったモノクロームの写真の載った雑誌が発売されてからはじめて会社に向かった日の事です。


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ファインダーの向こうに
(8)ポートレート -1-


「見ろよ」
顔を見た途端に、ベンジャミン・ハドソンは箱を抱えてきてデスクの上にドサッと置いた。ジョルジアは、その中に入っている封書やハガキを見て、びくっと震えた。それから上目遣いになって、探るように彼の次の言葉を待った。

「これ、全部、『クォリティ』誌のセレブ特集に関する読者からの意見だ。約三割がマリアーノ・ゴンザレスの撮ったイザーク・ベルンシュタインの写真について。それから一割が例の日本人俳優トダ・ユキヒコ特集、一割がその他のセレブの写真について。残りは、先週発表したマッテオ・ダンジェロ特集、君の写真についてだ。全体のほぼ半分だぞ。こんなに反響が来たことってないだろう?」

 彼女は、怖々と箱の中を覗き込んだ。几帳面なベンジャミンらしく、分類した通りにゴムバンドで留めてあった。手を伸ばして一通でも読むつもりにはなれなかった。いずれにしてもベンジャミンがもう全て目を通したのだ。
「それで」

「中身は知りたくないのか?」
「非難囂々? もう役員たちにお小言もらった?」

 ベンジャミンは、不服の表情を浮かべ、人差し指を振った。
「そんなわけがあるか。この僕が、素晴らしいと言った写真だぞ。そりゃ、100%肯定する投書だけじゃなかったさ。そんなのは何をしても同じだ。だが、この投書の山を見せりゃ、新しい写真集の企画書は簡単に通るさ。ほら、読んでみろよ」

 ジョルジアは、恐る恐る一番上に乗っている束に手を出した。

「最初に、この素敵な男性と写真の美しさに惹かれました。それから、それがあのマッテオ・ダンジェロだとわかって驚きました」

「なんて印象的な光の使い方なんでしょう。夜かと思うほど深いグレーの効果で、海に反射する太陽がとても強く感じられます。彼ってこんな風に優しく笑う人だったんですね」

「この印象的なポートレートを撮った写真家は誰だろうと思って、この雑誌を購読して始めてクレジットを探しました。なぜこんなに小さく入れるんだろうと文句をいいながら。ジョルジア・カペッリって、あの子供専用写真家? こんな写真も撮るんですね。驚きました」

「ジョルジア・カペッリらしくない、暗い色調の写真ですね。本当に彼女が撮ったものなんですか。そうだとしたらガッカリです」

「ダンジェロ様らしくなくて嫌です。カラーにする印刷代をケチったんですか」

「いつもは、この特集のセレブと、インタビューの方に意識がいくのですが、今回は写真の方がずっと印象的でした。そういえば、『クォリティ』は写真誌でしたね。あの軽薄なお調子者マッテオ・ダンジェロらしくないですが、インタビューの方ではあまり浮かび上がってこない、彼の意外な一面が見えて興味深かったです」

 最初の束が終わると、ジョルジアはそれをまた丁寧にしまい、それから次の束を読んだ。ベンジャミンが言っていたことは嘘ではなかった。手厳しい批判もあったが、それ以上に思いもしなかった賞賛の言葉が並んでいた。とりわけ、「深くて印象ぶかい」「マッテオ・ダンジェロに始めて興味と好意を持った」といった意見は、想像もしていなかった。それに、ジョルジア・カペッリにも写真集『太陽の子供たち』にも全く興味がなかった読者から「この写真家は何者か」「彼女の作品は他にないのか」という問い合わせもあった。

「ダンジェロ氏自身からも電話があったよ。この特集を組んでくれてありがとうってね。でも、君だって彼とコンタクトしているんだろう?」
「ええ。怒られるのが嫌で逃げ回っていたけれど、ついに昨日つかまっちゃったの。兄さんがやけに上機嫌だったから、彼の知り合いからは好意的な感想を貰えたんだとホッとしていた所。でも、会社の方は、大変なことになっているんじゃないかと……」
「だから、全然つかまらなかったのか」
ベンジャミンは、手をピストルの形にし戯けて彼女を撃つ真似をした。

 ジョルジアは、投書の束を箱の中に戻した。
「全部読まないのか?」
ベンジャミンの言葉に、彼女は首を振った。

「あなたがもう報告書をまとめたんでしょう? 来週の会議でその資料を読むわ。それに……」
「それに?」
「写真を、ずっと撮っていなかった本当の私の写真を、一枚でも多く撮りたいの。でも、その前に、やらなくちゃいけない会社の仕事もあるでしょう? 今週のスケジュールを教えてちょうだい」

 ベンジャミンは、肩をすくめると、向こうのデスクに戻りプリントアウトされた撮影スケジュール表と打ち合わせ資料を持ってきた。
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Tag : 小説 連載小説

Comment

says...
更新、お疲れ様でした。

気持ちが切り替わったところに、タイミングよくこの反響の嵐。
しかも、賛否があるっていうのが、リアルでいいですね。芸術ですから、当然、好き嫌いはありますよね。マッテオの追っかけみたいな人からの投書には、ちょっと笑いましたが(笑)
ジョルジアは、やはり自信がなかったんでしょうね。今までとは、作風がまったく違うんですからね。でも、本当に彼女が撮りたい写真、作りたい作品を受け入れてくれる人々がいるとわかったから、もう大丈夫ですね。
次話、彼女の「仕事」と「作品」そして恋の行方を楽しみにしています。

ちなみに、分不相応にもジョルジアに惚れて頂いた朴念仁は、今年のクリスマスも一人で寂しく過ごす(仕事する)予定です。先のことは、とくに決めていません。……なんという出鱈目(笑)
2015.12.09 11:02 | URL | #V5TnqLKM [edit]
says...
こんばんは。

ええ。中編ですので、余分なインターバルは何もなし、さくさく終わります(笑)
実際には、例の授賞式からしばらく経っていると思いますが。その辺の細かいところはすっ飛ばしました。

写真誌を買う読者も、いろいろいると思うんですよ。
評論家並にうるさい人から、反対に「○○が写っていればそれでいい」の人まで。
それを全部満足させようというのは、無理だし、たぶん傲りでもあるんですよね。
ジョルジアは、おっしゃる通り、「絶対的多数に愛される写真を撮らなくてはいけない」という呪縛から自由になり、さらに自分の感性をいいと思ってくれる人もいるんだと思える必要があったのですね。もちろん趣味じゃないので、「一人でもいい」じゃダメなんですけれど。

仕事と作品の行方は、楽しみにしていただいていいかと思いますが、恋の行方は、え〜と、どんづまりです(笑)

ジョルジアにしてみたら、そりゃ今後もジョセフにシングルでいてほしいと思うでしょうが、ええと、みなさんけっこうこのまま綾乃とのオーソドックスな結末をご期待のようですよ。どうなんでしょ。

ちなみに、今年のクリスマス前から年末にかけて、ジョルジアはスイスのサン・モリッツにいます。妹の例の貴公子との結婚式が12月29日でして、家族全員でこっちに。結婚式には、TOM-Fさん家の公爵閣下や大公女殿下も間違いなく招待しているけれど、今日の更新の感じじゃお二人とも出席どころじゃない? でも、松江のオフ会ではピンピンしていたから、大丈夫かしら。

カペッリ家は、いつもならクリスマスは実家でみんなでですけれど、今年はマッテオは披露宴の陣頭指揮で、アレッサンドラは挙式準備でそれどころではなく、ジョルジアは子守りのつもりで来たけれど、アンジェリカがスパイダー・ヴェローチェに乗ってきた誰かさんとあちこちにいっているので、やることがなくなり暇を持て余しています。(それもこれも、66666Hitの35ワードのせいだ)というわけで、わがジョルジアも、マッテオたちや未来の親戚などハイソな人たちとのお付き合いから逃げて、ぼっちなクリスマスの予感。ジョセフもスイスにいるなら、書くのはいつでもかまいませんので、からかってやってくださいませ(笑)

コメントありがとうございました。
2015.12.09 21:31 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
ジョルジア、卑屈になってますね。
常に最悪の結果を予想して、それを恐れて逃げ回る。
ジョルジアの受けてきた仕打ちを考えれば、わかるような気もします。
びくっと震え、上目遣いになって、探るように言葉を待つジョルジアの様子を想像してしまいます。でも、それももう終わりなのでしょうか?

雑誌に意見を送るということはそれなりにエネルギーが要ることですし、たくさん集まった意見がすべて好意的なものであるはずはありませんし、おおむねジョルジアの作品は受け入れられた、あるいは好評だったということなのでしょう。
彼女の素直な気持ちの入った作品ですから、グズグズ言ってますけど、やっぱり嬉しいんだろうなと思います。

本当のジョルジアの写真が世に出るのが楽しみになってきました。
彼女はすでに次に進んでいるようですしね。
2015.12.10 11:59 | URL | #0t8Ai07g [edit]
says...
やっぱりジョルジアの撮ったマッテオの写真は、なかなかの反響を呼びましたね。
絶賛にしろ批判にしろ、こんな風に声が集まるって言うのは、すごい事です。

ジョルジアは淡々としてて、素直な喜びに変えていませんけど、きっと心中ではいろんな変化が沸き起こっているのでしょう。

このあと、ジョルジアの仕事の方にも何か変化が訪れるのでしょうか。
ラストが近づいてきましたね。
次回も、楽しみにしています^^
2015.12.10 16:02 | URL | #GCA3nAmE [edit]
says...
こんばんは。

そうですね。「変わろう」と思って、翌日から違う性格になる訳じゃないですよね。
彼女が逃げ回って、ベンジャミンが代わりに批判や上からの叱責の矢面に立つという図式は、多かれ少なかれこれからも続くのかもしれませんが、少なくともこれまでのように「この路線でいけ」と言われてではなく、自分の意志で作品を作っていくからには、この図式も少しずつ変わっていかざるを得ないでしょうね。

それに、彼女が十年前のトラウマから抜け出せれば、彼女の対人恐怖ももっと減ってしていくはずですし。(もう大分よくなってはいるんですけれどね)

雑誌に意見を送るのは、クレーマーが多いかもしれませんね。もしくは懸賞目当て? アメリカではどうなのかな。
スイスの雑誌だと、記事の内容に賛同する前向き投書も見ますけれど。

今回の投書だと、総合すればジョルジアには追い風ですね。

彼女がどう思って、どう動くかは、切ってしまった後、来週のところに続きますけれど、そりゃ嬉しかったでしょうね。
この人、あまり「きゃ〜、嬉しい!」ってキャラクターじゃないですよね。

次回は、あの人が再登場ですよ。

コメントありがとうございました
2015.12.10 20:20 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。

そうですね。いろんな意味で衝撃的だったはずです。
マッテオのイメージとは全く違う写真で、これまでのジョルジアの作風ともかなり違うし、さらに二人が兄妹だということはほとんど知られていませんしね。「なんなんだ、この写真は!」って。

前回「変わろう」と決めたはいいものの、やはり最初の一歩を踏み出すのって怖いと思うんです。でも、自分の写真集の作風をがらりと変える前に、お試しみたいな感じでこのマッテオの写真が世界に出て、それが意外と受けたというのは大きな後押しになるはずです。

彼女がどう考えたのか、どこにむかうのかは来週発表の中盤で(笑)
おなじみのあの人も出てきますし。

あと二回、最後まで読んでくださると嬉しいです。

コメントありがとうございました。
2015.12.10 20:28 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
(やっぱり無理があったか……え? いや、本文とは関係がありません……^^;)
受賞のことはいったんおいて、今度は別の面からの評価ですね。ジョルジアにとっては面映ゆいというのか、相手がマッテオだったからよ、って気持ちもあるだろうし。
でも、何よりも今までとは違う自分の側面を認めてくれる人がいて、そして「評価」というものがいいものも悪いものも自分に跳ね返ってきて、作品を投げかけた自分はそれに向かい合っていくものなのだって、そう思えたんじゃないかな。もちろん、彼女なりのやり方(世間様との付き合い方?)はそう大きく変わらないだろうけれど。これからは自分が撮りたいもので、真正面から評価を受けることになるだろうし、その評価を、前に一歩進む勇気に変えていくといいですね。
いや、しかし、どこまでも彼女はクール。仕事のスケジュールを教えて、と言うあたり、性格なんだろうな。そんなところが信頼される一因でもあるだろうし。
しかしマッテオ、この写真で男を上げたんじゃないですか。ますます、妹でれでれになりそう。
2015.12.12 01:42 | URL | #nLQskDKw [edit]
says...
 こんばんは。

彩洋さん、そんな無理して(笑)
って、それよりもこんなに文字を書いていて大丈夫なんですか!
ご無理なさらないでくださいね。

でも、読んでいただき、嬉しいです。

なんかね、皆さんの感想を読んで、ようやく思い当たったんですけれど、ジョルジアの反応、異様に淡白ですよね。
自分ではものすごくあたり前だったんですけれど、普通はもっと嬉しいって反応するよなって。

私ならもっと喜びます。でも、ジョルジア、一度世界が壊れてしまって、何を信じていいのかわからなくなってしまった人なんで
「キャ〜、嬉しい」みたいな素直さ、ないと思うんですよ。
全てのことに「本当だろうか」「喜んでいもいいんだろうか」ってワンステップがあって、それが急転直下しても「やっぱりね」と受け止める感じ。だから、受賞しても、反響があっても、こんな感じなのかなと。
この辺は、設定して書いたというよりは、入り込んで書いていたのでそれがあたり前だったんですけれど、言われて「あ、変な反応か」って今ごろ思いました。

でも、世の中ジョルジアみたいなタイプだけでなくて、怖がっていたのが、この後、人付き合いの下手なりにいろいろなタイプと向き合うようになって「ああ、みんないろいろあるんだ」「わたしだけじゃないんだ」ってもっと俯瞰できるようになり、少し世界とも折り合えるようになるんじゃないでしょうか(人ごとか!)

マッテオですか? 別のタイプのファンも増えた?
妹デレデレは、これまで以上でしょうね。でも、アレッサンドラ&アンジェリカにもデレデレです。困った男だ。

あと二回で完結、もう少々おつき合いくださいませ!

コメントありがとうございました。
2015.12.12 17:01 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
賛否両論なのは仕方ないことですね。
芸術ですから仕方ないですし。
写真は映し出す事実なので、
それで賛否両論になるのはある意味成功と言えるでしょうね。

ジョルジアの自信のなさは結局のところ、自分の問題なのかな。
そのまま写真家という仕事を続けていくのは辛いと思いますけどね。
まあ、自信ややる気はなくても、写真は撮れる。
それで反響がある・・・という変な循環にはまる人もいますけどね。

何にしても、ジョルジアが自信を持って作品を終わってほしいですね。
(/・ω・)/
2015.12.13 12:28 | URL | #- [edit]
says...
こんばんは。

そうですね。写真に限らず、何かを発表すると、好意的な意見ばかりじゃないのは普通ですよね。

そんな中でも受けやすい題材と、そうでない題材があると思うんですよね。ジョルジアはこれまで「安全牌」にばかり頼ってきたところがありますから、そこから冒険することに対して不安なんでしょうね。

作品が終わるまでに、がらりと人間が変わるということは難しいと思いますが、その方向性が見えたなら嬉しいですね。
あと二回でおしまいですが、最後まで読んでいただければ嬉しいです。

コメントありがとうございました。
2015.12.13 16:21 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
良くも悪くも反応があるのは嬉しいですよね。
今回、撮っていた時から雰囲気が良かったし、ジョルジアの気も入っていたし、良い結果となって良かったですね。
これで有頂天にならないジョルジアが良いですね。
自分をしっかりと見つめている感じ。
今までは迷っていることもあったのでしょうけれど、自分探しにある程度の答えを見つけるのかな。
あと二回^^
2016.01.06 12:33 | URL | #- [edit]
says...
こんばんは。

そうですね。
反応、嬉しいです。その一方、否定的なのだけだと、凹みますよね。
ジョルジアは後ろ向きだったので、いい反応が多かったことで救われたと思います。
もちろん有頂天にはなれません、兄ちゃんだし(笑)

あと二回で、彼女は小さい小さい一歩を踏み出します。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。

コメントありがとうございました。
2016.01.06 20:50 | URL | #9yMhI49k [edit]

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