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Posted by 八少女 夕

【小説】ファインダーの向こうに(8)ポートレート -2-

中編小説「ファインダーの向こうに」の最終話、三回に分けた分の二つ目です。

ジョルジアは、マッテオを撮った『クオリティ』誌の反響に驚きました。そして、ストーリーの最初に出てきたあの人にまた逢います。勇氣を出して、十年間してこなかった彼女の新しい一歩を踏み出します。


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あらすじと登場人物




ファインダーの向こうに
(8)ポートレート -2-


 会社を出たジョルジアは、空を見上げた。太陽が高い。眩しい光に目を細めた。

 これで方向転換が正しいと立証されたなんて思っていない。彼女の作品が前よりも認められたわけでもない。雑誌の中の数ページと、写真集では全く意味が違う。

 今までの見開きごとにアピールした原色の色彩がすべてモノトーンに変わる時、それを買うことを人びとに決意させる力は明らかに弱まる。『太陽の子供たち』の売上を超えることは、今から不可能だとわかっている。そして、売上が低迷した時にその原因が路線の変更にあると叩かれることも。

 それでも、今やらなくてはいけないのだ。今までと同じ路線で、自分に嘘をつきながら撮ったとしてもやはり売上は落ちるだろう。そうなった時に路線を変更させてほしいと頼んでも会社はいい返事をしないだろうから。

 最初で最後になっても構わない。自分らしい写真集を出したい。

 ジョルジアは、《Sunrise Diner》に入って行った。もうモーニングセットの時間は過ぎてしまった。神経が昂っているので、食欲もあまりない。コーヒーを飲んでドーナツでも食べよう。

「あら、いらっしゃい」
キャシーが笑いかけた。それから、カウンターの中から『クォリティ』誌を取り出した。

 ジョルジアは、肩をすくめて何も言わなかったが、キャシーはさっと例のページを開けて言った。

「これ撮ったの、あなたでしょう、ジョルジア。すごいじゃない。本物のマッテオ・ダンジェロを撮影したなんて一言も言わないんだもの。びっくりして騒いじゃったわ。そしたら、他のお客さんが、あなたはこのあいだすごい賞を受賞したばかりだって話していたわよ。どうして教えてくれなかったの?」

「全然すごくないわ。大賞じゃないのよ。一般投票で六位だったの」
「でも、有名写真家になったから、マッテオ・ダンジェロの撮影もできたんでしょう? ああいうセレブと知り合えるなんていいわねぇ。ねぇ、あの人独身だし、もしかしたらチャンスがあるかもしれないわよ」

 興奮して騒ぐキャシーに、ジョルジアは困ったように笑いかけた。

「残念ながら、マッテオのお嫁さんにはどうやってもなれないわ。いずれにしても、私には誰かと結婚するチャンスなんてないの。だから、一人で生きていけるように、仕事を頑張らないとね」

「仕事は、なんにせよ、頑張るものよ。でも、チャンスがあるなら……。もう、いいわ。時々いるのよね、目の前にある幸運の塊をポイ捨てして、苦労の素みたいなモノに走っちゃう人。私には理解できない」
ブツブツ言うキャシーに、ジョルジアは笑った。

 不思議だった。前に同じ事を言われていたら、傷ついていたはずだ。自ら出会いからも、人付き合いからも遠ざかっていたはずなのに、自分には相手がいないという事がいつも彼女を苦しめていた。それでいて「誰もいないのは、努力しないからだ」と言われることにも同様に傷ついていた。

 でも、今のジョルジアは、そのことでは傷つかなかった。彼女には愛する人がいた。他の何十億もの男性に愛されないことは、今の彼女にはどうでもいいことだった。そして、たった一人の彼にもまた愛する別の女性がいる。そのことは彼女を苦しめはしたが、受け入れることはできた。そして、これからもずっと一人でいることは、紛れもない現実として彼女の中に座っていた。今、彼女はそのことに悩むよりも、新しいもう一つの希望、本当の自分の作品を生み出すことに興味があった。それもまた、同じ一人の男の存在に繋がる想いだった。

「ねえ、キャシー。この写真、見て」
彼女は、鞄からファイルを取り出した。先日撮ったキャシーの娘アリシア=ミホの写真だ。

「え。すごい! こんなに素敵に撮ってくれたの? ええ~?」
「そんなにお氣に召したなら、これは持って帰って。それに、さらにお願いがあるんだけれど」
「何? この写真貰えて、とても嬉しいから、どんなことでも言って」

「こんどはあなたの写真を撮ってみたいの。アリシア=ミホと一緒の写真や、ここで働いているいつもの姿、それにご主人と一緒の時も」
「いいけれど、どうして?」

「私、ずっと大人の写真を撮っていなかったの。でも、わかったのよ。私はずっと、人びとのありのままの人生を映し出したかったの。でも、モデルになる人に撮らせてほしいって言えなかったの。その人たちの人生の重さに対峙する勇氣もなかった。でも、直面することに決めたの。撮らせてくれる?」

「いいわよ。大歓迎。面白そうだし。私、ぐずぐずしていた人が、迷いを振り切って動き出すの、好きなの。応援したくなっちゃう」

「そして、撮った写真、新しい写真集に載せてもいい?」
キャシーは、明るく笑って頷いた。
「セレブの仲間みたいに? やった。その写真集もくれるならね。サイン入りでよ」
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Tag : 小説 連載小説

Comment

says...
≫八少女夕さん

更新、お疲れ様でした。

お、ここでキャシーの再登場ですか。
いろいろ勘違いしながらも、ジョルジアの決断を後押しするキャシー。その台詞に、ニマニマしてしまいました。いや、じつに彼女らしい。
ジョルジアの誤解はともかく、すごく強くなったなと思います。自分らしさで勝負をかければ、その結果がどう出ても納得できますからね。
そしてその第一歩が、キャシー一家(笑)の撮影ってのが、またいいですね。マッテオをはじめとした派手な被写体だと、ジョルジア自身の魅力ではなくなってしまいますからね。って、キャシー、ごめん(笑)

いよいよ、次話が最終回なんですね。楽しみなような、寂しいような、複雑な心境です。
2015.12.16 12:49 | URL | #V5TnqLKM [edit]
says...
キャシーの勘違いが笑いを誘いつつも嬉しいですね。ま、確かに、ジョルジアが何も言わないから「え~~?」でしょうし、それにこんな可愛らしい勘違いならいくらでもして欲しいものです。ジョルジアも敢えてツッコミを入れずに、さらりと流しているけれど、それがまた彼女らしくていいですね。ま、マッテオがアニキなのよ、って言ったらキャシーとの自然な関係も壊れてしまうだろうから、これでいいんですね。これからも彼女はあくまでもそのままのジョルジア・カペッリでいつづけるんだから。
そしてこれからジョルジアは自分の撮りたかった世界に取り掛かっていくんですね。それはもう、認められても認められなくても、成果は自分が決めるんだから、きっと前を向けますね。そしてその後押しをしてくれるのがキャシー一家。いいなぁ。いつか美穂のことも撮りに行くかな。
キャシー「私、ぐずぐずしていた人が、迷いを振り切って動き出すの、好きなの。応援したくなっちゃう」
大海「私、ぐるぐるしていた人が、ぐるぐるから飛び出すの、好きなの。でもぐるぐるのままってのもきらいじゃないんだけどね」
いや、ぐるぐるのままで放置して欲しかったわけじゃありません^^;
次回、どんなシーンで終わるのか、楽しみです(*^_^*)
2015.12.16 17:42 | URL | #nLQskDKw [edit]
says...
こんばんは。

そうなんです。最初と最後にキャシーです。
彼女のセリフ、前作を読んでくださった方には「その件か」と思っていただけるかと。

ジョルジアの心は、もう前に進んでいます。もちろん今まで通りまだマイナス思考ってぽいところは簡単にはなくなりませんけれど、少なくとも怖れずに動き出しました。

実は、ジョルジア、こういうことを頼める友達、あまりいないんですよ。
キャシーは、おかまいなしに、どんどん親しくなってくれたので、知り合ったのは最近なのに、もうかなり親しい友達みたいになっています。
あとで、身内にも撮らせてもらうんですけれど、まずは、ごく普通の生き生きとした他人としてキャシーに白羽の矢が立ったのは、要するに他にいなかったってことかも。

そう、来週が最終回です。当分こないと思っていたけれど、あっという間でしたね。
最後までどうぞおつき合いくださいませ。

コメントありがとうございました。
2015.12.16 21:55 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。

タイトル遊びも、どんどん高度化してくるなあ。

このキャシーのセリフは、前作を知っている人といない人と、両方がにやりとできればいいかなと思って書いていましたよ。
そうジョルジア「あれは兄なのよ」とか言わないんですよね。普段からあの二人の身内であることを言わないクセができてしまっているんで。
ま、そのうちにわかってしまうでしょうけれど。

キャシーって、私の中では光と闇と両方を持っていて、それを隠したりしない人なんですよね。ボブもそうだけれど。
だから、写真にして、それが公開されても、文句言ったりしないんですよ。だからモデルにはもってこいだったんですね。

美穂とは、まだ全然知り合っていないし、予定もないけれど、いろいろと可能性はあるんです。
アレッサンドラはロサンジェルスに住んでいるし、ジョルジアも撮影で飛び回っているので、あっちの方に行く可能性はあります。イタリア系なのでイタリアンレストランはいくでしょうし。
そもそも、「サンフランシスコに行くなら、私の友達がね」とキャシーから紹介されることもあるだろうし。
まあ、そこでジョセフとバッタリ逢って、美穂と親しい彼を見てまた落ち込む、なんてシナリオもあるかも(笑)
あ、撮影の話だった。

最終回までぐるぐるだと、ちょっと収まりが悪くないですか?
「Infante 323 黄金の枷」で、またしばらくはぐるぐるしている人がいますんで、そちらを楽しんでいただければ(笑)
っていうか、私の作品、基本はぐるぐるだしなあ。

というわけで来週、最終回です。
最後までおつき合いいただけると幸いです。

コメントありがとうございました。

2015.12.16 22:08 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
ここでキャシーの素直な人間性が、すごくいろんなものを洗い流してくれていいですね。
うんうん、ジョルジアの次の作品の被写体として、キャシーのように裏表のない、働く女性はとってもいいですよね。私もキャシーみたいな友達がほしいなあ~~。
キャシーとの会話は、皆さんと同じく、ムフフと笑いながら読ませていただきました。
一つ一つ、良い反応をしてくれて、たのしい。
でも、やっぱり「妹なの」とか、そんな会話はここでは必要ないですね^^

次回、いよいよ最終回ですね。
ジョルジアの気持ちも固まってきたし、少し安心して迎えられそうな予感。
楽しみにしています^^
2015.12.17 10:06 | URL | #GCA3nAmE [edit]
says...
こんばんは。

タイトル遊びがどんどん高度になっていく〜!

キャシー、そう、率直な人なんですよね。
もちろん、棚ボタを待っているんじゃなくて、仕事を頑張るのはあたり前だけれど、でもラッキーを見つけたらつかんで何が悪いのってところは、ニューヨークで底辺をしぶとく生き抜く彼女らしさでもあって。
綺麗ごとばかりいう人間も、恨み言ばかり言う人間も、つき合っていると疲れますけれど、キャシーは本当に友達にしたいタイプ。温泉でハラリさせちゃってもカラッと忘れてくれそうだし(笑)

ジョルジアの言動として「実はわたし妹なの」はないかなって思いました。
そこらへんはこじれている人間らしく。きっと後からバレて「なんで言ってくれなかったの!」とキャシーに怒られるんでしょうね。

ええ、この最終回は最後の「あんまりだ」的どんでん返しとかないです。というか、私の小説にそういうものはないかも(笑)
あっさり普通に終わります。ご安心を(って、面白くないじゃない、という話はさておき)

来週まであと一回、おつき合いいただけると嬉しいです。

コメントありがとうございました。


2015.12.17 19:52 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
キャシー、いい仕事してますねぇ。

でもジョルジアの分析は冷静です。確かに言われてみれば、そういう可能性も考えておく必要があるかもしれないですね。路線の変更には常にリスクが伴いますから。でもそれを越えないと新しい展開は無いと・・・そういうことなのですね。

そしてキャシー、空気が読めないというか、読まないというか、あの屈託のない笑顔(サキの想像ですが)でサラッと言われたら、いまのジョルジアは受け入れてしまいそうです。キャシーの言葉のタイミングも言い方も、本人は全く意識していないのですが絶妙です。
そしてキャシーがモデルに?キャシーファミリーも?キャシーはカラーのイメージですが、ジョルジアはモノクロで撮るのかな?
そしてキャシーの求める対価、とても素敵です。
サイン入り?見る目があるなぁ。
エンディング、楽しみにしています。
2015.12.18 14:23 | URL | #0t8Ai07g [edit]
says...
お帰りなさ〜い!
旅行は楽しめましたか?

ジョルジア、一応プロですし、会社にお金を出してもらう訳ですから、やっぱり少しは責任を感じたり、怖かったりするんですよ。よくしてもらっていますけれど、でも、弱小出版社ですからね。負担を考えちゃいますしね。
でも、賞をもらって会社の業績に貢献した今が、わがままが言える唯一のチャンスなんですよね。

キャシーは、それとは別次元のところにいますよね。
「撮らせてくれる?」と初めて言ってみて、そこで「え〜、やだ」が続いたらくじけちゃうんですけれど、それを「大歓迎」といって後押ししてくれる。彼女は、ジョルジアみたいな少し後ろ向きな人間には必要な存在なんですよね。

ジョルジアは、キャシー一家をモノクロで撮ります。それから他の人たちも撮ります。
キャシーはサイン本だけしか求めませんけれど、もちろんジョルジアは少しでも払おうとすると思います。
もっとも、写真集にアレッサンドラなども載るのであとで「ええ! アレッサンドラ・ダンジェロと一緒に? 紹介して!」みたいなことになるかも(笑)

来週が最終回です。最後までおつき合いくださると嬉しいです。

コメントありがとうございました。
2015.12.18 21:51 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
ジョルジアも自分らしい写真集を出すということは、それはそれで一歩を踏み出せるようになったってことですかね。前向きになったともいえるのかもしれませんね。
漫画家でも出版社で出版するもの。
自費出版するものに分けて描かれる方はいらっしゃいますからね。
ジョルジアもそういう風にしてもいいかもしれませんね。
2015.12.20 01:07 | URL | #- [edit]
says...
こんにちは。

そうですね。例の授賞式で本人は自分の作品の方向転換を決心していますから、そういう意味では前向きでしょうね。

自費出版ですか。
たぶん、専属契約をしているのでそれは許されないんじゃないかなあ。
本人としては会社に迷惑をかけないためという理由であっても、万が一当たってしまったら、会社には自社作品に対するライバル的存在の作品を作ってしまうことになりますから。日本でもありますよね。ちょっと意味合いは違うかもしれませんが、副業禁止って。自費で出したいなら契約を終了してフリーになるしかないと思いますが、彼女はたぶんフリーにはならないだろうな。

いずれにしてもジョルジアの新しい写真集については、ベンジャミン・ハドソンが企画を通すつもりでいますから、これは会社から出ることになるでしょうね。

コメントありがとうございました。
2015.12.20 12:05 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
タイトルに乗った^^ 締切無いから良いよね。

ぐずぐずになっていると、普通に簡単なことができないことって多々ありますよね。
写真撮らせて、という一言が今までのジョルジアは言えなかったのですよね。
それが素直にストレートに言えるようになった。良いねえ。
これからは色々なことが上手く回っていく予感^^
いよいよ最終話へ^^
2016.01.07 11:56 | URL | #- [edit]
says...
こんばんは。

タイトル遊び、つなげてくださったのですね(笑)
うん、期限ないです。

そうなんです。プロの写真家なんですが、大人に「あなたのありのままの姿、撮らせて」って言えなかったんです。
大人とちゃんと向き合えなかったのですね。

たぶん結婚式の写真とか、きれいだったり幸せそうだったりする写真は撮れたし、撮らせてと言えたんですが、「みっともないとこも含めて全部見せて」というとなると、深くつき合わなくちゃいけないじゃないですか。それに対する覚悟ができたんでしょうね。

そうです、そして、いよいよ最終話です。
ここまで読んでいただけて感謝です。

最後まで読んでいただけると嬉しいです。
コメントありがとうございました。
2016.01.07 20:59 | URL | #9yMhI49k [edit]

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