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Posted by 八少女 夕

【小説】Infante 323 黄金の枷(21)発作

月末の定番「Infante 323 黄金の枷」です。今年最後の小説更新なんですけれど、なんかちょっと切りが悪いかなあ。ま、これが年初に来るよりはいいか。

今回の話は、主人公二人のこととはあまり関係がないように思われると思います。ないと言ったらないんですけれどね。でも、入れるとしたらこの位置しかなかったのです。


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あらすじと登場人物





Infante 323 黄金の枷(21)発作

「23、ねえ」
マイアは、階段を降りてくる23を見かけたので走り寄り、小さな声で鉄格子越しに呼んだ。
「なんだ」
「マリアからハガキが来たの。カサブランカですって!」

 23はマイアが渡したアラビアンナイトの舞台のような室内の写真の絵はがきを読んだ。
「ライサも旅を楽しんでいるようだな」

「ライサ、本当によくなって帰ることができたのね。豪華客船で世界一周かあ。高そう……」
「ドラガォンがスポンサーなら、心配することはないだろう」
「ふ~ん」

「お前も行きたいか?」
「そりゃね。でも、ライサはつらい目に遭ったから、なんでしょう? 私つらい目に遭っていないもの」

 23は笑って、ハガキを返した。船旅もいいけれど、23とこうして逢っている方がいいな。マイアは思った。

* * *


 工房に降りて行こうとする23に手を振って、仕事に戻るためにバックヤードへと向かった。正面玄関を横切ると、ちょうど入ってきた男が声を掛けた。
「マイア!」

 マイアは振り返った。
「サントス先生!」

 ホームドクターで、この館に勤める時にも世話になったサントス医師だった。

「すっかり、それらしくなったな。もう仕事には慣れたんだろう?」
「はい。その節は、紹介状をありがとうございました」
「自信を持って薦められる時に書く紹介状はなんでもないさ。君の事は子供の頃からよく知っているからね」

 サントス医師は、誰かを待っているようだった。
「今日はどうなさったんですか?」
「ドン・アルフォンソがまた発作を起こされたんでね。先ほどの検査の結果、入院する必要はないんだが、しばらくは医師がつめているほうがいいというので、今日から私がしばらく泊ることになったんだ」

 そう話している時に、マリオがスーツケースを持って玄関から入ってきた。
「お車は駐車場の方へと移動いたしました。鍵をお返しします」

 上の方から、ジョアナも降りてきた。
「先生。お部屋の準備もできました。マリオ、そのままご案内して。マイア、ちょうどいい所にいたわね。先生のお部屋にタオルを多めにお持ちして」
「はい」

 マイアは急いでバックヤードに戻った。今月は三度目だ。ドン・アルフォンソはここのところよく心臓発作を起こす。以前もそういう事があったけれど二ヶ月に一度ぐらいだった。朝食や昼食の時にわずかな階段を昇り降りするのも、以前よりもつらそうに見える。ドンナ・マヌエラがとても心配しているのが手に取るようにわかる。マイアも不安だった。

 タオルを抱えて、ドン・アルフォンソの部屋の斜め前にある客間に向かった。ノックをした時に、ドン・アルフォンソの部屋の方から当の医師の声が聞こえてきた。
「少しお休みになれましたか」

 しわがれた当主の声も聞こえた。
「ああ、先生、もうしわけない。わざわざ……」
とても弱々しい声だった。
「セニョール。起き上がってはいけません。脈を拝見いたしましょう」

 マイアは暗い顔で、医師の泊まる部屋に入り、バスルームにタオルを置いてから退出した。

 ドン・アルフォンソの部屋の掃除を担当することもなくあまり接点がなかったので、給仕の時に見かけるだけだったが、当主ははじめに思ったよりもずっと親切だと知っていた。太っていつも大儀そうな見かけとは違い、周りをよく観て心を配り、必要な時にはすぐに決断を下すことのできるドン・アルフォンソに敬意を持ちはじめていた所だった。だから、発作に襲われて苦しんでいると聞くとやはり心配になり氣の毒だと思った。

 バックヤードに戻るために二階を通った。ドンナ・マヌエラが23の鉄格子の鍵を開けているのが目に入り、マイアは黙って頭を下げた。

* * *


 女主人は会釈を返し、マイアが立ち去った後もしばらくその後ろ姿を眺めていたが、やがてドアを閉めると階段を降り、彼女の次男の姿を探した。

「母上?」
23は彼女の暗い顔を目にすると、ミシンを止めた。マヌエラは眉間に苦悩の深い皺をよせてしばらく目を瞑っていた。やがてその固く閉じられた瞼から、涙がこぼれだした。

「どうなさったのです」
「また発作で……」

「アルフォンソは、入院したのですか」
「いいえ。先ほど戻ってきました。サントス先生がしばらく詰めてくださるそうです。病院で検査の結果を言い渡されました。発作の波が治まれば、落ち着くでしょうといわれましたが……」
「が?」
「覚悟してほしいと……」

「そんなに悪いのですか」
「生まれた時に、二十歳まで生きられないだろうと言われました。ずっと覚悟はしていたつもりでした。でも……」

 彼女は本人や使用人の前では堪えていた涙を抑えられなくなり、23にすがって震えた。彼は目を閉じ、母親の背中をさすった。

「医者のいう事が必ずしも当たらないのは、それで証明されたではないですか。希望を捨てないでください」

「メウ・トレース。許してちょうだい。こんな時ばかり……」
「母上。お氣になさらないでください。俺はもう子供じゃない。あなたがどれほど多くのことに心を悩まされているかわかっています」
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Comment

says...
・・・。
・・・・・。
・・・・・・・。
医者の言うことは絶対。
・・・というわけじゃないけど。
あながち間違いでもない。
現実問題、余命より長生きした人は沢山みてきました。
それでも人はいつか死ぬものです。
それは変わりない。

問題は、いかに生きたか。。。
・・・ということなような気がします。
沢山の死をみてきた人にとっては。

ちょっと話とはそぐわないコメントでしたね。
すいません。

こちらは小説収めとなります。
今年一年訪問誠にありがとうございます。
本日で今年最後のコメントにさせて頂きたいと思います。
一年間お世話になりました。
来年もよろしくお願いします。良いお年をお迎えください。
(*^^)v
2015.12.27 09:17 | URL | #- [edit]
says...
こんばんは。

お医者様には、大変失礼なことを言っていますね。23。

でも、LandMさんのおっしゃる通りです。
「20歳まで生きられないだろう」の「20歳」は必ずしも正しくなくても、おそらく30歳に伸びることはないだろうと、言っている23だってわかってのセリフだと思います。お医者様だって、理由もなくそんなことをおっしゃる訳はないのですから。

そして、余命宣告されようと、されまいと、人が必ず死ぬのは決定的ですよね。
思うんですけれど、むしろ宣告されてしまった人の方が、一日一日を「いかに生きるか」を考えるように思います。
LandMさんの小説でも、そのテーマがありましたよね。

わざわざご挨拶、ありがとうございます。
後ほどそちらに行ってご挨拶させていただきますね。

ご訪問と、丁寧なコメント、本当にありがとうございました。
来年もどうぞよろしく。
2015.12.27 20:47 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
発作って、心筋梗塞かな?とても苦しいんだろうなと想像します。
そんな症状を抱えたまま当主としての責任を果たし、廻りに仕える人々にも気を配り(ライサの件もそうなんでしょうね)見かけより(夕さんの描写は絶妙でした)もずっと責任感の強く優しいい人だと思います。こんなに苦しかったら普通出来ないですから。
良くなることを祈っていますが、なんだか無理そうです。
もし亡くなってしまったらどうなるのでしょう?
彼の死が与える物語への影響を注視してます。

余命宣告をされてしまったら、一日一日を「いかに生きるか」を考える人と、そうできない人の2タイプがあると思います。
サキが思うに、そうできない人の方が多いような気がしています。
でもどうなんでしょうね?
2015.12.28 10:39 | URL | #0t8Ai07g [edit]
says...
おはようございます

普通の家族経営の会社だったりしたら、長男に健康問題があれば次男が代わりに仕事をするとか、もう少し自由がきくんでしょうけれど、このシステムでは生まれた順番が絶対で、健康的に無理があっても当主の責任からは逃れられないのですね。当主はものすごく特別な立場で、自身も《星のある子供たち》の一人なのに、《監視人たち》のトップでもあり、《星のある子供たち》に不便を押し付けている当人でもあるのです。で、その筆頭が自分の実の弟たちで、その苦しみを知っているので自分だけ例外で楽をすることなどできないのですね。

実は、サントス医師がマイアに語っている「入院の必要はない」というのは嘘です。
マイアが知る必要はないのでこう言っていますが、本当は「病院で死なれると困るので入院しなくなった」が真実です。
当主が死んだ事実を関係者でない人に知られるわけにはいかないのですね。
でも、今回は大丈夫です。彼は持ち直します。

余命宣告のことですけれど、私はこの歳までやたらと健康できましたから、余命宣告されてしまった方の苦しみは想像するしかないんですけれど。

ただ、「やたら健康」「妙に平穏」がデフォルトの私でも、人生に数回「あとちょっとで死んでいたかも」という状況に立ったことが何回かあります。そのぞっとする瞬間のしばらく後は、「人生は永遠に続く訳ではない。一日一日を大切に生きよう」と必ず思ったんですよ。もっとも、すぐにのど元過ぎて、元の木阿弥になってしまうんですけれど。

コメントありがとうございました。
2015.12.28 11:43 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
更新、お疲れ様でした。

ライサの船旅は順調のようですね。
マイアも一瞬、誰かさんと行く船旅を想像したのでしょうか。

さて、ドン・アルフォンソ、ちょっと心配な感じですね。
そんな身体で、役目を果たさなければならないというのは、辛いですね。そういえば、23も病気を持っていますが、うん、こういう血脈に拘る家系はいろいろと大変だ。
アルフォンソには気の毒だと思いますが、これをきっかけにして、事態が大きく変わりそうな予感がする展開ですが。だいたい、そういうことが起きると、急に焦りだしたり人恋しくなったりって、よくありますからね。

ドンナ・マヌエラも辛いでしょうけど、23が意外なほど思いやりがあって、感心しました。その想像力を、他の相手にも向けてみたらいいのにねぇ。

次話は、もう来年ですね。楽しみにお待ちしています。
2015.12.28 13:56 | URL | #V5TnqLKM [edit]
says...
こんばんは。

一年間のお仕事、お疲れさまでした!
これからお正月までのんびりなさるのでしょうか。それとも帰省ラッシュという戦争に雄々しく立ち向かうのかしら。
もしかして、「エーデルワイス」の執筆三昧? それだと嬉しい。公爵様には起きていただかないと。

ということはさておき。

ライサはともかく、マリアは楽しみまくっているようです。
ライサもようやく「本当にこんなことしてていいの?」の疑心暗鬼から一歩踏み出していますかねぇ。

マイアは、例によってお花畑脳なので「23と行くならあそことあそこと〜」ぐらいは妄想するでしょうが、実際問題としてマイアは行ける可能性あっても23は皆無ですからねぇ。

そして、アルフォンソ。
父親のカルルシュも体が弱くて早くに亡くなっています。
なんだかんだ言って、星の数の多い人同士で結婚することが多かったので、いろいろと問題があるみたいですね。
そういう意味では、父方も母方も遠い親戚とは言え、馬の骨レベルに薄まっている星一つの誰かさんなんて、遺伝子的には望ましいと偉い人たちみんなこっそり思っていたりします。本人はよくわかっていませんが。

このストーリーが終わるまでは、アルフォンソは持ち直して、そういう意味でのつらいシーンなどはないんですけれど、現在の状態が館の中である種のプレッシャーとなっていることは確かなのです。とくに誰かさんは、自分の意志と予想される未来像との矛盾の中でぐるぐるしています。マイアはね、何もわかっていませんので……。

23、そうなんです。子供の頃は暴れたり、いじけたりしていましたが、もう大人なので普通に思いやりはあります。それに半分は「別にいちいち謝らなくてもいいよ。俺にあまり興味がないのはわかっているし」と思っているかも。

で、誰かさんには、実は23はとても「思いやっているつもり」なんです。なんか間違っているみたいだけれど。

来年は、そろそろお話を畳む方向に向かいます。あと四回で完結なんです。また読んでいただけると嬉しいです。

コメントありがとうございました。
2015.12.28 21:10 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
やはりこのシステムでいくと、どうしても血が濃くなってしまって、薄命になってしまう人も出て来てしまいますよね。
本当にどこかで変えてあげないと……と思うのだけど。やはりそう簡単には崩せない封建的なものがあるのでしょうね。
マイアの周りで、また少し違った動きが出てきましたね。
どういう方向に流れていくのか、予測がつかないのですが、この後の展開も楽しみです。
来年はまたscriviamo! も始まるし、夕さんは大忙しですね。
いろいろ、楽しみにしています^^
2015.12.29 00:27 | URL | #GCA3nAmE [edit]
says...
医者の言うことよりも、坊主の言うことの方が確かですね~(いや、そういう話じゃないか)。そもそも寿命なんて誰にも分かりませんしね……ただ、寿命を知って覚悟をして生きることは何某かの意味があるのかもしれませんね。それでも病人とその家族には辛い宣告でしょうけれど。
しかも、家系というのは……やっぱり物語の中で大きな意味を持ちますね。比較的平和な家系の中でも色々とあるのですから、こうした宿命を背負ったお家では、生きることの意味合いもずいぶんと違っていて、そんな中でのこの物語の行く末、登場人物たち一人一人の生きざまにはとても興味深いものがあります。最初から設定には大変惹かれるものがあったけれど、ここにきて物語が終盤に近づいてくると、それぞれの生き方がじわじわと表に出てきて、先行きがとっても気になるっていうのか。
マイアはお花畑頭、というから、こんな「もろもろ」もさりげな~く吹き飛ばしてくれたらいいのだけれど……あと4話なんですね。一体どうなるんだろ?
今年もいっぱい楽しませていただきました! また来年も、続きを楽しみにしております(^^)
2015.12.29 10:10 | URL | #nLQskDKw [edit]
says...
こんばんは。

そうなんですよ。これ遺伝子バラエティとしては増えないのですよね。まあ、少なくとも200人前後居る中から選ぶので、全滅するほどの狭い世界ではないのですけれど。変えられないシステムになってしまっているので、しばらくはきっとこのままでしょうけれど、絶滅の危機にでもなったら変わるのかなあ。(まるで人ごとだなあ)

マイアは、全然俯瞰できていないので、何が何だかわかっていませんが、上の方は「これからどうなるんだろう」と心を悩ませている人たちが沢山います。

次回は来年になりますが、皆さんが氣にしておられた「あの件」が話題に上がります。

scriviamo! もう一つお返しを書き出していますが、すでにちょっと苦慮しております。
来年も読んでいただけるよう、頑張ります。

コメント、ありがとうございました。
2015.12.29 16:28 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。

23も、ママを慰めるのに苦労しています。
裏設定なんですけれど、カルルシュとマヌエラ、男の子が一人できたら、もう子供を作るのはやめようと思っていたんです。
インファンテという存在を作り出したくなかったから。
でも、生まれてきたアルフォンソが長く生きられないと言われて、それでまた子供を作らざるを得なくなり、23一人じゃかわいそうだからというのが24誕生のきっかけになったんですけれど。
でも、結局、意図したように幸せな家族という訳にもいかず……。

このストーリーは、23とマイアにだけ限定して話が進んでいるので、このシステムの非情さというか、やるせなさみたいなものはあまり前面には出てきていないのですが、三部作の残りの二つでは、あれやこれやの背景が明らかになる予定です。そこで、この複雑怪奇な設定も本当に枷としての意味が生きてくるのかなと思ったりしています。

マイアはね、雑魚ですから肝心なことは何も吹き飛ばせませんが、少なくとも23が運命と和解するのに必要な何かだけは(笑)

あと四話です。で、あとはもう全然チンタラしていませんのでご安心ください。とくに、次回は彩洋さんが氣にしておられた「あの件」でございます(笑)

来年も読んでくださると嬉しいです。

コメントありがとうございました。
2015.12.29 17:16 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
家族は皆健康でいてほしいと思うのは、どんな家族でも一緒ですよね。
この家族はちょっとわけありですけれど、それでも健康で幸せにというのは誰にも平等であるはず。
ドン・アルフォンソの想いとプレッシャー、23の想いと別のプレッシャー、それぞれだと思いますが、それぞれの幸せを見つけてほしいですね。

マイアになにができるのか。その辺も楽しみにしています。
あ、マイアだって、やればできる子、ですよね(?)
2016.01.11 09:29 | URL | #- [edit]
says...
こんばんは。

おお、追いついてくださいましたね。

そうですよね。貧乏人でも、王家でも、それからこういう訳ありファミリーでもみな同じですよね。
自分の健康だけに、もしくは家族の問題だけに集中したくても、たぶん、恵まれた暮らしをする組織のトップだからそれは許されない、そういう姿をちらりと書いてみました。

ドン・アルフォンソに、23に、それぞれの想いとプレッシャーがあって、それでもそれぞれの幸せもあって……。

けいさん、鋭い(笑)
次回のその次の回が、まさにその話題になる予定です。

マイア。うん。彼女も無茶苦茶やっているようで、意外と。
「やればできる」なのかは微妙だけれど(笑)

コメントありがとうございました。
2016.01.11 22:56 | URL | #9yMhI49k [edit]

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