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Posted by 八少女 夕

【小説】郷愁の丘(2)海の街 - 2 -

先週から連載を再開した「郷愁の丘」今回は「海の街」の後編です。モンバサに来たのは、特に理由があったわけではなく、パーティの誘いから逃げたかっただけなのですが、実はジョルジアはほとんどケニアの海岸の観光をしないまままたサバンナに向かう事になります。

とくにスコット家所有の別荘内には、足も踏み入れていないという事態に。ブログのお友だちの彩洋さんのところのキャラは宿泊もしているのに(笑)でも、この別荘の事は、いずれ別の作品(外伝かな?)でちゃんと描写しようと思います。いろいろと設定はあるんですよ。


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あらすじと登場人物




郷愁の丘(2)海の街 - 2 -

 ひと通り写真を撮り終えて振り向くと、彼は新しいよく冷えたペットボトルの口を緩めてから手渡した。ジョルジアが礼を言って受け取り飲むのを待ってから、彼は愛犬にやった残りのペットボトルから飲んだ。この人は、どこまでも紳士だと彼女は思った。一連の動きには全くわざとらしい所がなく、評価してもらおうと意識しての行動でもないことが感じられた。

「なんて美しい海かしら。私の育ったところも海辺だったけれど、こんなに鮮烈な青じゃなかったわ。素晴らしい所に別荘をお持ちなんですね」
ジョルジアは感心して言った。彼は笑った。

「別荘を持っているのは父です。でも、彼はほとんど来ません。マディに薦められて投機の代わりに買ったようです。使うのはマディばかり。僕はよく運転手兼、鍵の管理人として駆り出されるのです」

 奥様の名前はマディとおっしゃるのですか、そうジョルジアが訊こうとしたときに、携帯電話の呼び出し音が鳴り響いた。ポケットから取り出してちらりと見てから「マディだ、失礼」と言って彼は電話を受けた。

 すぐに緊迫した様相になった。
「なんだって。わかった、大丈夫だ。あと五分もかからない、すぐに行く。メグは? わかった。玄関にいてくれ」

「どうなさったんですか」
ジョルジアは、ペットボトルの蓋を閉めると、ルーシーの水のボールを空にして車に戻った。ルーシーはついて来て、開けられたドアにさっと飛び乗った。エンジンをかけながらスコット博士は説明した。
「マディは、いま妊娠七ヶ月なんですが、急な腹痛に襲われたんだそうです。切迫流産の怖れがあるので、すぐに病院に運ばなくてはならないらしいんです」

 ジョルジアはぎょっとした。
「奥様がそんな大変なときに、迎えにきていただいたりして、済みませんでした」

 すると、スコット博士は首を振った。
「マディは、僕の妻ではありません。それに、夫のアウレリオも今朝はマリンディにいたんですよ。もっとも彼は肝心なときにどこかに行ってしまう才能があって、それをわかっているマディが、最近はマリンディに来る度に僕を呼びつけているんです」

「ご家族っておっしゃっていたので、奥様やお子さんといらしているんだと思っていました」
ジョルジアが言うと、彼はジョルジアの方を見て微笑んだ。

「僕は独身で、マディは妹です。正確に言うと、腹違いの妹ハーフ・シスター です。夫は、ミラノの実業家でアウレリオ・ブラス。娘のメグは五歳になります」

 そう話している間に、車は白い壁と藁葺きの屋根の大きい家の門に入っていった。玄関の所にぐったりと女性が座っていて、その足元に金髪をポニーテールにした少女がいた。

 スコット博士は急いで車から降りると、彼女の方に駆け寄った。ジョルジアも降りると、椅子の脇にあった荷物を持って、車に運び込んだ。荷物と反対側に少女が来て、ジョルジアの手を握った。ジョルジアがその目の高さに屈むとぎゅっと抱きついてきた。母親の危機を感じてよほど怖かったのだろう。

 博士が妹を運転席のすぐ後に座らせ、それからジョルジアからメグを受け取って母親の隣に座らせた。ジョルジアから離されるときに少女は少し抵抗した。

「メグ」
スコット博士が咎めると、彼女は泣きそうな顔をした。ジョルジアは荷物を最後部座席、ルーシーの腰に当たらないようにそっと置いた。そっと撫でると、不安そうな犬はクーンと鳴いた。

 車が出ると、マディは苦しそうに言った。
「はじめまして、ミズ・カペッリ……ごめんなさいね」
「こちらこそ……ミセス・ブラス」

 病院はさほど遠くなく、彼女は玄関で待っていた担架に乗せられて診察室に入った。廊下で抱きついて離れないメグと一緒に待っていると、車を駐車してきたスコット博士が、紐に繋いだルーシーと一緒に入ってきて、謝った。
「ミズ・カペッリ。本当に申し訳ない。せっかくの休暇なのに……」
「そんなことをおっしゃらないでください。先生が中でお待ちです」

 スコット博士は、ノックをして診察室に入っていった。ルーシーはジョルジアの足元に踞った。彼女は、うとうとしだしたメグをさすりながら廊下のベンチでしばらく待っていた。

 やがて、携帯電話で話しながらスコット博士が診察室から出てきた。
「そうですね。それが一番だと僕も思います。アウレリオは、明日直接ここに来るそうです。はい。このままそちらに向かえば夕方にはそちらにつきます。そうするしかないと思います」

 彼は電話を切ると、苦悩に満ちた顔で切り出した。
「ミズ・カペッリ。何とお詫びをしていいのかわからない。僕は、これからメグをここから四時間かかるマディの母親の所に届けなくてはいけないんです。彼女はアンボセリから急いで戻ってきますが、ここに彼女を引き取りにくるには遠すぎるのです。あなたをこれ以上引きずり回すわけにはいかないし、一人で放っておく訳にもいかない。どこかホテルへとご案内しようと思いますが……」

 ジョルジアは、自分でなんとかするので氣にしないで欲しいと言おうとしたが、その前にメグが泣き出した。
「いや! ヘンリーと二人でなんか行かない! ジョルジアと一緒にここにいる! ママはすぐに元氣になるもん」

「メグ! マディはしばらく入院しなくちゃいけないんだ。病院はホテルじゃないし、ミズ・カペッリにお前の世話をさせるわけにはいかないだろう」
「いや!」

 必死になって抱きついてくるメグと、困り果てているスコット博士を見ていたジョルジアは口を開いた。
「私も一緒に行きましょうか。特に予定はないですし、道中の子守りくらいのお役には立てると思います」

 スコット博士と、メグが同時にジョルジアを見た。ルーシーも、黒い鼻を持ち上げて、騒ぎの収まったらしい人間たちを見あげた。

 前よりもさらに強くジョルジアに抱きついている少女を見て、彼はため息をついた。しばらく、言葉を探していたが、やがて済まなそうに頭をさげた。
「そうしていただけたら、助かります」
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Comment

says...
わあ、突然大変な事態になっちゃいましたね。

そうか、ジョルジアはグレッグが妻帯者だと思ってたんですね。
(この件が無かったら、ずっと確認を取ることも無く終わってたかも)

そしてジョルジアったら、初対面の犬だけでなく、初対面の子供にも好かれてしまうなんて。
なんて羨ましい(のか?)オーラを出しちゃってるのか。
こんな子供に慕われたら、ついて行くしかないですね、やっぱり。
いろんな偶然が、この2人に味方してるような気がします。
もうこの時点で、本当にお似合いの2人だなあ(*´ω`*)
2017.04.05 09:03 | URL | #GCA3nAmE [edit]
says...
更新、お疲れ様でした。

お、グレッグ、どうしてどうして、振る舞いがスマートじゃないですか。
わかる相手には、違いがわかる。そんな感じですかね。
ロングビーチから見る海は、そんなに鮮やかな感じじゃないんですね。大西洋とインド洋の違いか~。

のんびりいいムードが一変したあたりからの流れ、こりゃあ誤解とすれ違いのやきもきパターンかと思いましたが、意外とすんなりいきましたね。
そして、ワンコに続いて、姪っ子にも懐かれたジョルジア、なにかほっとさせるものがあるんでしょうね、やはり。

しかし、姪っ子にまで敬遠されるとは、グレッグは女性と縁がなさすぎですねぇ。
なんでだろ。ジョルジアに対しては、積極的でスマートなのに……。
うん、先が楽しみになってきました。
2017.04.05 10:25 | URL | #V5TnqLKM [edit]
says...
ジョルジア、犬だけでなく子供にもw
ある意味無害認定? というよりは、もっと根の深そうな好かれ方しているなぁと思います^^

肝心なときにどこかに行ってしまう才能
↑これ。笑
こういう人っているなぁ~と思ってしまいました><
2017.04.05 13:31 | URL | #- [edit]
says...
こんばんは。

実は、すぐに「大したことがなかった」とわかるんですけれど(笑)

ジョルジアはたぶん独身だと知っていたら誘いを断ったんじゃないかと思います。
グレッグが「家族といく」といういい方をしたのは、たぶんわざとですね。断られたくなかったから。

ルーシーに好かれたのは「ご主人様と同じタイプだ!」だからで、メグに好かれたのは「ヘンリーよりまし!」だからかも。
ただ、笑顔の子供の写真を撮りまくっていますので、普通の大人よりも「子供に嫌われない」方法には熟知しているかもしれません。

で、ここでメグにわがまま炸裂してもらったのは、もちろん作者の都合です(笑)
そうしないと、この二人、ここで「さようなら」して話は全く進みませんし。

「似合って」いますか? そういっていただくと嬉しいなあ。
先はウルトラ長いですが、応援していただけると嬉しいです。

コメントありがとうございました。
2017.04.05 21:18 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。

グレッグは、半分英国人で、さらに英国育ちですから!
さらにこれだけ堅物なので、礼儀正しいです(威張っ)

実はロングビーチからは海見た事ないんですけれど、おそらくあんなに鮮やかではないんじゃないかと。
あまりニューヨークの海がきれいという話も聞きませんし。

そして事態急変は、もちろん作者の陰謀です。
この二人になんにも起こらなかったら、ただ「ありがとうございました」「さようなら」で終わっちゃうじゃないですか。
何が何でも《郷愁の丘》まで行ってもらわないと困るんですよ、こっちとしては。

メグがジョルジアにしがみついているのは「ヘンリーこわいもん」だからです。
髭のおじさんで、あまり冗談も言わないし、そりゃ5歳の女の子には好かれないかなあと。
そして好かれていないのをわかっているので、対応が硬くなり、更に嫌われる悪循環ですね。
ジョルジアは、いい笑顔の写真を撮らせてもらうために、かなりの数の子供たちと対峙しているので、初対面でもすぐに対応できます(笑)

こんな調子で進んでいきますが、また読んでいただけると嬉しいです。
コメントありがとうございました。
2017.04.05 21:32 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。

ジョルジアがメグに愛されているというよりは、グレッグが毛嫌いされているだけかも(笑)
真面目な堅物なんですけれど、子供のウケはいまいち……。

とはいえ。
大人と上手くつきあえない人が、動物と子供にわりと好かれるというのはけっこうあって、なぜかと言うと、大人との話に熱中しない分、子供や動物と飽きずにつきあうからなんですね。子供って、都合のいい時だけ構ってくれる人と、ずっと構ってくれる人の違いを早くに見抜きますから。そういう意味でジョルジアは動物や子供には好かれると思います。

肝心なときにどこかに行ってしまう人、いますよね。
そうでない時は、必要もないくせによくみかけるのに(笑)
実はアウレリオは、いつも名前だけで全然出てきません。
つむじ風みたいなヤツです。

コメントありがとうございました。

2017.04.05 21:38 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
ジョルジアもグレッグも人嫌いとは思えない振る舞いですね。
どちらからも高い教養を感じます。育ちから考えて実際そうなんだろうけど、2人のイメージだけで読み進めてきて、そんな気持ちを持ちました。
ちょっとよそよそしいですけれど、2人の間に流れる空気はとてもスムーズです。やっぱり相性ってあるんだと思いますよ。

そしていきなりの緊急事態発生。アウレリオの才能は置いておくとして(この才能はずっと使えそうですね)これは展開として面白い。メグもジョルジアの本質を見抜いているのかもしれませんね。
色々な状況が2人を導いていくのでしょう。
若干のよそよそしさがどのように変化していくのか、なかなか変化しないのか、楽しみにしています。
2017.04.06 11:27 | URL | #0t8Ai07g [edit]
says...
こんばんは。

「人嫌い」だと捉えていると、おそらく違和感を感じるでしょうね。
実は、私は一度も「人嫌い」として書いたことはないのですよ。
二人ともむしろ人間に興味があるのです。特にジョルジアは、撮影対象を人間にしているところからもそれが現れています。
なのに、それぞれの事情があって「人付き合いが上手くいかない」「臆病になっている」んですね。
それと「パーティ(のような不特定多数の人間を同時に上手くあしらう社交)が嫌い」なのも共通しています。

グレッグはまだ登場したてであまり情報がないと思いますが、自分からは踏み込めないのに、マディやその母親のレイチェルに誘われるとたとえ片道五時間でも嫌がらずに登場しているところからも、本当は招んでもらって嬉しい事がわかります。
それに、一度あっただけのアメリカ人ジョルジアの接待に異様に紳士的に頑張っているのには、ちゃんと理由もあります(笑)

今のところジョルジア視点で地の文の方も堅苦しく「スコット博士」ですが、直にこの三人称も「グレッグ」に変わります。それまでもうちょっとかな。

アウレリオのしょうもない性格は、この間の彩洋さんとのコラボでももう使わせてもらいました(笑)
本当に使いでのある、お調子者です、この人。

また読んでいただけると嬉しいです。

コメントありがとうございました。
2017.04.06 17:25 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
妊娠というのは大変ですよねえ。。。
・・・と男性からして分かる。
私も姉が妊娠したときは大変だったなあ。。。
夜勤明けで昼寝していたら叩き起こされて、陣痛が始まった姉を車で送りました。
そして、姉の出産に一番に立ち会ったのが旦那ではなくて、弟の私と言う。。。

なんだかんだいって。
少しでも血がつながっていると情が湧くのが家族なんでしょうね。
・・・とちょっと読んでいて思いました。

もちろん、他にも特筆するコメントもあるんでしょうけど。
ここで割愛。

いつも夕さんの小説は私と視点が違って楽しめますね~~。
(*''ω''*)
2017.04.10 14:10 | URL | #- [edit]
says...
こちらにもありがとうございます。

お母さんになるというのはすごいことですよね。
私には子供はいないんですが、姉が最初の子供を産む時には、海外出張中の義兄の代わりに付き添いましたっけ。
あれに耐え、更にそれから子育ての長丁場を頑張る世のお母さん方のことを本当に尊敬します。

この作品の家族は、ちょいと特殊ですけれど、それでも身内というのはどこか情がわくのでしょうね。

もっとも今回は、ヒロインを目的地に連れて行くのに、いろいろと状況を利用しております。
自分から動くキャラばかりだと楽なんですけれどねぇ。

コメントありがとうございました。
2017.04.10 21:38 | URL | #9yMhI49k [edit]

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