scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012


Posted by 八少女 夕

ブレガリアの小さな村で

本日は四連休の最終日なのですが、初日と二日目に行ったドライブの話などを。

今年は五月にも雪が降るなど、とんでもない寒い春だったので、どこか出かけるにしてもずっと私の運転する車ででした。(連れ合いはバイクの免許だけ、私は自動車の免許しか持っていません)

それがようやく(春を通り越して)夏の様相になったので、バイクでぐるりと周ってきました。あいかわらず予定も何も立てなかったので適当に出かけて、雪に覆われたアルブラ峠を越えてエンガディン地方へ。(同じ州です)

それからブレガリアとポスキアーボどっちに向かいたいかと訊かれたので、「ブレガリア!」と即答しました。

ポスキアーボ谷もいいのですが、こちらは電車でも行けるので冬の間に何度か行っているのです。でも、ブレガリアは車かバイクでないと行けないのです。

ブレガリアと言えば「夜想曲」という中編小説の舞台にもした所で、私のお氣に入りの地域です。

画家のセガンティーニが愛した事でも有名で、とくにソーリオにはわざわざ訪ねてくる日本人もあるようですが、ブレガリア谷全体に素朴な美しさが漂っています。

カスタセーニャ

私たちが泊ったのはカスタセーニャというイタリアとの国境の村です。セガンティーニが目にしたのとおそらくあまり変わっていない状態の家並みも残っています。ブレガリア谷は良質の栗が穫れる事でも有名で、村の奥にはそれぞれの家族が所有している栗の樹の林が続いています。

現在は基本的には、夏のバカンス地になっているようですが、個人的には美しく過ごしやすいブレガリアの夏は、厳しく凍てついた冬、哀愁漂う秋、スーパーマーケットや大型量販店とは無縁の、素朴でどこか寂しい暮らしと対になってこそ意味を持つと思うのです。

ところで、日本の方がスイス旅行をするにあたって「どこが素敵か」と訊くので、例えばこのカスタセーニャなど、いくつか知っているスイスらしい村を答えると、その次に質問してくるのはたいてい「そこには何があるの」なのです。

ところがその手の村には、「ダ・ヴィンチのモナリザがあるよ」とか「王宮で衛兵交代をしているよ」というような具体的に見るべきものはないのです。セガンティーニが眺めたのと同じ山の光景は、天候さえよければ見えるかもしれません。でも、それだけです。アルプス山脈と、その麓にあるただの素朴な村ですから。

海外旅行では「エッフェル塔を見た」「コロッセウムを見た」というような史跡観光はつきものです。とくに団体旅行だとそうなりがちなのは、ヨーロッパの人でも同じなのですが、日本人の場合は個人旅行でもそういうタイプの計画を立てる方が多いです。分刻みの計画を立てて、スタンプラリーのように効率的に何カ所も回ろうと考える事が多いのですね。

大都会、たとえば、パリやロンドンやローマなどは、そういう旅に向いています。実際に史跡がたくさんありますし、計画しないと「見ておけばよかった!」と後悔するような場所や施設がてんこ盛りです。

でも、スイスをはじめとするヨーロッパの田舎というのは、そういう旅には全く向かないのです。「何時何分のバスで到着し、村は一時間もあれば見る事ができるので、次のバスでサン・モリッツに帰ろう」という計画的観光は、正直言ってお奨めできません。できないというのではありません。できますが、そんな忙しい間にちらっと立ち寄るなら来る意味はあまりないと思います。

ここは「ハイジ」をはじめとする有名文学作品や、旅行案内には一度も出てこない、つまり多くの日本人にとって訪れるに値しない「ただの村」です。ところが、その美しさと価値は、「何があるの」と訊かれて「何もないよ」「どこにも出てこないよ」と答えるしかない素朴さの中にあるのです。そして、スケジュール、次の予定などを考えないのんびりとした時間を過ごしてこそ、来る甲斐がある所なのです。

ブレガリアには、アルプスに横たわる谷の特徴でもあるフェーン現象によって、鮮烈なコントラストをみせる青空と山塊、四季折々の自然の姿、緑と清冽な川の水音と、そして、素朴な石造りの村が点在しています。どちらかというと貧しい、生活の厳しさを感じさせる地域で生きる方言のイタリア語を話す人びとが、メルヘンではない、現実の暮らしを営んでいます。

教科書には出てこない限られた歴史、現実の国境やEUの問題や日々の生活のあれこれを、カフェに座る異国からの旅人たちや村の人びとたちと各国語いり交えて語り合いつつ、ゆったりと時間を過しています。
関連記事 (Category: 旅の話 / スイス・ヨーロッパ案内)
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Comment

says...
「観光」よりも「逗留」するのが合っているタイプのリゾート地なのでしょうね。

観光地で忙しくするより何も考えないで本でも読みつつぼんやりしているのが好きなわたしには合っている旅行方法かな。

持ち込んだ本が尽きたら帰ると。いや最近では電子書籍があるからずるずるいってしまいそうな(笑)
2017.05.28 09:12 | URL | #0MyT0dLg [edit]
says...
そういう旅、憧れますが、なかなか難しいです。
もう2度とここへ来ることは無いのかも・・・なんて思うとついつい多くの場所を巡ってしまうことに。
本当に旅行って難しいです。
もっと言葉を勉強しておけば、そしてもっと体力があればと思います。
喋れれば、そして動ければもっと自由がききますからね。
でも、サキとしては行けるようになっただけでも幸せです。
何しろ自分の目で見て感じることが出来るのですから。
もしまた機会があれば、出来るだけありのままのその地を感じることができるように、舞い上がらず余裕を持って、ゆったりと風景を眺めようと思います。
2017.05.28 13:44 | URL | #0t8Ai07g [edit]
says...
こんばんは。

そうですねぇ。リゾートじゃないですけれど。リゾートっぽい快適さはないですから。
どちらかというと、散歩したり、人びとと話したり……かな。

ポールさんのイメージなさっているようなリゾート休暇としては、人里離れた森の中のウェルネス・ホテルかなにかに滞在して、ずっとプールサイドの寝椅子に転がって本を読むなんてのが、それっぽいでしょうか。
もしくはニースでもハワイでも何でもいいんですが、ずっと同じホテルに滞在して、プライベートビーチで本を読み続けるとか。

本を読まないで、ご自分でドラマっぽく振る舞うってのもありですけれど。
二週間くらい同じホテルにずっといるので、そこでゆっくりと見知らぬ女(もしくは男?)とロマンスを育むとか。
そういうテレビドラマ、こちらでは、ありがちなんですけれど。

コメントありがとうございました。
2017.05.28 19:31 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。

私は若いころ、まさに日本人的な旅をたくさんしました。
中でも長かったのは、55日間でユーレイルパスを使い、エジプトからイギリスまで行った貧乏旅行です。できるだけたくさんの街ヘ行き、有名なものを写真に収めようと頑張ったものです。
でも、私の中で残っているのは、数々のトラブルの思い出だけです。たぶんそれだけが、ガイドブックには載っていなかった事、本当の意味で私だけが経験した事だからでしょうね。
その場に行って、どこかで見たようなアングルで写真を撮った史跡については、行ったかどうかも朧げだったりします。

現在の旅は全く違います。もちろん有名どころを見て、写真を撮って、という行為そのものは今でもしますけれど、それよりも、その土地であった世界各国の旅人たちと情報を交換したり、現地の人と友達になったり、インターネットやテレビ番組では簡単に得られない現地でしか聴けない話を教えてもらったり、そういう積み重ねが中心となって記憶に残っているのですね。そして、そのような体験は、その街の滞在時間が半日だったりするとまず不可能です。

それに、あまり忙しい旅をすると、休暇なのに日常よりも疲れるという本末転倒になりますよね。日本の方に多いのが、職場から成田に直行し、帰国後も翌日から出勤という無理なスケジュールです。それなのに、旅行中は毎日朝の六時から九時くらいまで動き回り、毎晩遅くまで荷物を詰め直したりしている。そんな旅では体力が必要なのはあたりまえですよね。

次回、サキさんが海外旅行にいらっしゃるときは、期間中ずっと同じホテルに滞在するタイプのものをお奨めします。それと自分の足で端から端まで歩き回れる程度の小規模の街に滞在するのがいいです。広く浅く多くを目にするのもいいですが、わずかなものを何度も訪れ、深く知るのもいいですから。その街が自分の第二、第三の故郷のようになり、素通りしたよりもずっと親しみがわきますよ。

コメントありがとうございました。
2017.05.28 19:55 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
ああ~~~確かに。
私はとりあえず、ガイドブック片手に旅行しますからね。
ステイするのと旅行は違いますからね。
旅行だと美味しいものスポット探しとかしますけど、
ステイすると文化とか知りたくなりますからね。
考えてみると、ステイと旅行は全然違いますよね。
(*´ω`*)
2017.06.01 14:38 | URL | #- [edit]
says...
こんばんは。

あはは。ステイか。それは一ヶ月とか、半年とか、数年ぐらいを言う感じですよね。

基本的に休暇は「休む」のがデフォルトなので「休暇の旅行」は目的地に行ってそこでしばらく過ごすのがヨーロッパの普通かなあ。日本人の「毎日移動する」忙しすぎる旅行というのはこちらでよくジョークになっています。

日本人にとっては、むしろ一か所にしばらく留まる方が「変わっている」なんですかね。

コメントありがとうございました。
2017.06.01 20:12 | URL | #9yMhI49k [edit]

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