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Posted by 八少女 夕

カナヅチが泳いだ夏

新年早々に夏の話もなんですが、すぐに忘れるので。先日の「ムパタ塾」の記事でHIZAKIさんがくださったコメの中にこういう言葉がありました。

よく泳げるようになりたかったら、岸壁から飛び込めとか(帰ってこれたら泳げるようになっている)英語しゃべれるようになりたかったら、渡航した直後に空港でパスポート破いて知らない町に行けと言いますが、


で、思い出したのです。カナヅチだった私が涙目になった、あの夏を。

一浪のあげく、とある大学に入学しました。日本銀行券に肖像が載っけられている教育者が安政年間に設立した蘭学塾が前身の大学です。で、その設立者はどういう脈絡でかは知りませんが「塾生皆泳」という決まりを作りまして、とにかく全員泳げなくてはならないと。安政年間はともかく二十世紀になってまで、その教えが守られていたわけです。(今は知りません)(情報をいただきました。現在は必修ではなくなったそうです。そりゃそうよね〜)

私はずっと泳げないままなんとか水泳の時間をやり過ごしていました。まさか大学に入ってまでそんなことを強制されるとは夢にも思わず。そして、入学してから、この大学では50m泳げない人は、単位がもらえずそのまま留年だということがわかったのです。青天の霹靂。

で、夏の特別スポーツ授業です。他のクラスメートがテニスだの乗馬だの自由にスポーツを選べる中、強制的に水泳のクラスに編入されて、ひたすらカナヅチ克服に励むことになりました。特別授業の期間の最終日に、全員の前で泳がされるので、それを目標に毎日ブクブクとやらされていたわけです。

途中は省きます。とにかく私はなんとか平泳ぎができるようになりました。といっても、他の人のような余裕はなくて、しっかり顔をつけて息継ぎに命をかけて、一回一回真剣に体を伸縮しないと即沈んでしまう、危なげな泳ぎ方のみしかできません。でも、とにかく最終日に50m、これをこなせればそれでよかったのです。

その日が来ました。一人ずつ、少し間を空けて、50mプールに入り泳いでいきます。そして、無事に向こう側に辿り着いた人は、先生が「もうすこし頑張って、往復しなさい」とおっしゃるので、体力に余裕がある人は戻ったのです。私もそうしました。「100m泳いじゃった。すごいじゃない」と心の中で思いながら。

で、上がろうとするとスタート側の方にいた先生が「もうちょっと頑張ってもう一往復しなさい」というのです。無理だったら向こう側で上がればいいやと思って私は素直にまた出かけました。他にも数人の元カナヅチ学生がそうしました。

このあとの展開は読めるでしょう? そうです。200m泳いだあとも解放してもらえなかったのです。「もうちょっと頑張って、あなたならできる」その言葉に踊らされて、私は再び往復を始めました。800mに至った時には、もう誰も仲間はいませんでした。私もへとへとで上がりたくて仕方ありませんでした。しかしですね、その時には同じカナヅチクラスの仲間や先生だけでなくて、上級コースの人たちもみんなプールサイドにいて、応援しているわけですよ。拍手と歓声。もはや沈みそうなほど疲れていましたが、あきらめてまた泳ぎ続けるほかなかったのです。

一キロ泳ぎきった時点で、大歓声とともにようやくプールから上がることを許してもらいました。目は充血して真っ赤で、前がほとんどみえないくらい、足もがくがくして立っているのがやっとでした。ええ、単位はいただきましたとも。50mでももらえた単位を。

このエピソードには、私の性格がとても色濃くでています。私はおだてられると無理してでも木に登ってしまう豚なのです。「あなたならできる」と期待されるだけで、火中の栗を拾いにいってしまうお調子者。この性格のおかげで、私は大小様々の「△△史上はじめての○○」をするはめになり、アフリカに行き、世にも変わった連れ合いとの生活をし、ヤーとナインしか知らない段階から半年でドイツ語で話ができるようになり、外国でプログラマーとして働くようになったのだと分析しています。

南アフリカの知人のプライヴェートプールにて 南アフリカの知人宅にて。プライヴェートプールです


その後、私は何度かプールに行きました。でも、顔をつけないと泳げないので、結局足の立つところにしか行きません。一度、ザンジバル島の美しいプールで一人黄昏れることになりましたが、そこでちょっと油断して足のつかないところに行ってしまいました。あわててあの夏を思い出して必死に泳ぎました。死ぬかと思ったけれど生還しました。リゾートの優雅なマダムにはほど遠い姿。幸い誰も見ていなかったようですが。
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Comment

says...
 こんばんは。
偶にありますね 謎の教訓。
確か ピタゴラスは 豆を食べる事 禁じていましたよね…
人と豆は 同じ腐敗物からできているので 豆を食べる事は 兄弟を殺す事ていうような理屈で

僕 プールは ぼーーーーーと 浮いて漂うのが好きです。
以前 プールの授業時間に ぼーーーーと浮いていると 溺れていると思われて
環視の先生に救助された
其の後 紛らわしいと 怒られた 理不尽… 
2013.01.04 10:28 | URL | #- [edit]
says...
 こんばんは。
偶にありますね 謎の教訓。
確か ピタゴラスは 豆を食べる事 禁じていましたよね…
人と豆は 同じ腐敗物からできているので 豆を食べる事は ダメだと言うような理屈で

僕 プールは ぼーーーーーと 浮いて漂うのが好きです。
以前 プールの授業時間に ぼーーーーと浮いていると 溺れていると思われて
環視の先生に救助された
其の後 紛らわしいと 怒られた 理不尽… 
2013.01.04 10:29 | URL | #- [edit]
says...
根性で一キロ泳いじゃったんですか?
すごいですね。
「史上初めて」尽くしですか。
生還おめでとうございます。

ちなみに私は、見事な金槌です。
顔を付けてもだめでした。泳いでいるつもりでも、どんどん沈んでゆくのです。
代わりに、潜るのが上手いという変なほめられ方をしました。
本人は潜るつもりなんかないんですよ。
2013.01.04 10:47 | URL | #em2m5CsA [edit]
says...
>「塾生皆泳」という決まりを作りまして、とにかく全員泳げなくてはならないと。安政年間はともかく二十世紀になってまで、その教えが守られていたわけです。(今は知りません)

今はね、体育が大学の必須科目じゃなくなったので、「塾生皆泳」という決まりも自然消滅しちゃったんですよ〜。
2013.01.04 14:04 | URL | #B2sSFlto [edit]
says...
こんばんは。

豆を禁じられたら和食は全滅ですね。醤油、味噌、餡、豆腐……。
ピタゴラス、ひっこめ(笑)

浮いていたら、土左衛門の一歩手前と間違えられちゃったんですね。
それはそれは。
ぼーっと浮かぶなんて高度な技ができるからならではの事件でしたね。

コメントありがとうございました。
2013.01.04 20:49 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。

そうです。技術も優雅さもなく、ただ根性だけ。でも、人生にはあまり役に立っていません。顔をつけずにぷかぷか浮かべるようにならないと、海水浴やプールでは役に立たないんですよね。

沈んでいくのですか? 泳げる人は「そんなことは不可能だ」とおっしゃいますが、あの夏までは、私もそうでしたからよくわかります。反対に私は潜るのが苦手です。グアムで体験ダイビングをして酸素を吸えないパニックになってしまいました。基本的には泳いだり潜ったりせずに地上メインで生きていきたいと思っています。

コメントありがとうございました。
2013.01.04 20:55 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。

おおっ、そうだったのか。そうだよね〜、そんなことだけ強要してどうする。
貴重な情報サンクス。
一応、記事を書く時に裏を取ろうかと思ってWikipediaで調べたけど、まだ有効みたいな書かれ方だったよ。ってhedgehogさんに言っても仕方ないけどさ。

コメントありがとうございました。
2013.01.04 20:58 | URL | #9yMhI49k [edit]

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