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Posted by 八少女 夕

【小説】海藤氏の解答 - 『伝説になりたい男』 二次創作

scriviamo!


「scriviamo!」の第九弾です。
十二月一日晩冬さんは、大切なブログ最後の記念掌編で参加してくださいました。本当にありがとうございます。



十二月一日晩冬さんの掌編小説 『伝説になりたい男』



晩冬さんは、サッカージャーナリストを目指していらっしゃいます。文章の鍛錬として、書評や掌編小説を発表していらっしゃいました。私とほぼ同じ頃にブログをはじめ、早速リンクをしてくださり、いつも楽しいコメントをいただき、親しくお付き合いをしてきました。ご自分の夢を叶えるために、ブログの更新はおやめになるそうです。寂しいですが、そういう前向きな理由とあれば仕方ありません。近いうちに夢を叶えられて、プロとしての晩冬さんにお目にかかれる事をお祈りしています。そして、一個人として、やっぱりもとのブログ仲間の所にも時々顔を見せていただければこんなに嬉しい事はありません。

今回の返掌編は、ウィットの効いた晩冬さんが好きじゃないかなと思うおふざけで書きました。晩冬さんからいただいた宿題の掌編は、「怪盗」と「会頭」をかけた言葉のお遊びが効いているお話でした。というわけで、こちらも中にいくつ「カイトウ」が入っているか、そのお遊び。主人公の名字も一つという事で。


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海藤氏の解答 - 『伝説になりたい男』 二次創作
——Special thanks to BANTO-SAN


 ビルの谷間に突風が吹いた。眼にホコリが入らないように、山高帽を目の前に下げると海藤はトレンチコートの襟を合わせて肩をすくめた。くわえたタバコの灰が飛んで佐竹の瞼の近くをかすめた。

「ちょっ。待ってくださいよ、海藤さんっ」
佐竹は眼をこすると、慌てて海藤の後を追う。同じようにトレンチコートは着ているのだが、多少太り過ぎの体を隠しているためかパンパンに膨らみ、後ろから見るとクマのぬいぐるみのように見えた。この佐竹と一緒にいると、海藤のハードボイルドな雰囲氣はいちいちぶち壊しになった。

「そ、それって、どういう事なんです?」
佐竹は、海藤がもらした言葉の意味を図りかねていた。佐竹は会東新報社の社会部に勤めている。上司はもちろん海藤。いま追っているのは、伝説の大泥棒「怪盗乱麻」だ。そして、その怪盗乱麻の唯一の目撃者で《怪盗乱麻ファンクラブ》を立ち上げた警備員に一番早く接触したお手柄で、二人は社内で表彰されたばかりだった。

 しかし、それだというのに海藤の眉には深いシワが刻まれている。その理由を訊ねた時に、海藤は意外な事を言ったのだ。
「だから、あのクリークって男、ただの警備員じゃないって事だよ」
「金持ちだからっすか? 自分でも言っていたじゃないっすか、祖父さんの遺産だって」

 海藤は、眼を細めて佐竹をじろりと見た。
「《怪盗乱麻ファンクラブ》の会頭。警備員にしては頭が回りすぎる。お前、最初にあのビルに言った日の事を憶えているか?」
「え? もちろんっすよ。あのクリークが、僕たちに目撃談を話して、さらに例の《怪盗乱麻ファンクラブ》の立ち上げを告白した記念すべき日じゃないですか。いやぁ、びっくりしましたね。あんなに高い会費なのに、あっという間に会員数がふくれあがって。会員ナンバーが一桁の会員証って、それだけでけっこうなお宝なんっすよね」
そういいながら、佐竹は自分の会員証を嬉しそうにこねくり回す。

 こいつの目は本物のフシアナだな。海藤はため息をついた。ヤツの高級マンションの一室、あのだだっ広い空間を一室という事が許されるならだが、とにかくあそこには見事なお宝がたくさん飾ってあった。ヤツはそれを《怪盗乱麻ファンクラブ》の会頭として作らせたレプリカだと言った。「皇帝の夜光の懐中時計」をはじめ、例の盗人が華麗に奪った有名な美術品の数々。精彩に描かれた図柄の美しい18世紀の陶器、マリー・アントワネットの襟元を飾ったと言われるダイヤの首飾り、水晶とルビーで出来たロシアの高杯、中国古代の素晴らしい灰陶、ピサロがインカ帝国から持ち帰ったと言われる黄金のマスク、空海和尚が使ったと言われている戒刀。

「すっごいお宝に見えましたよね。レプリカだから、実際には大した値段ではないんでしょうけれど」
佐竹はのほほんと言う。

「俺は、あれらは本物じゃないかと思うんだ」
海藤は足を止めて言った。再び突風が吹き、トレンチコートが海濤のようにおおきくうねり、ばさばさと音を立てた。

 佐竹は風が通り過ぎると、あわてて上司を追い、息を切らせて訊いた。
「ちょっ、そ、それは、つまり、あのクリークが? そんな、馬鹿な! 海藤さん、根拠があって言ってんっすか?」

「あの部屋を思い出せ。あそこにあったものをひとつひとつ。おかしな物はなかったか?」
「なかったっすよ。どれも怪盗乱麻が実際に盗んだものと同じに見えましたし、それ以外には豪華な調度品と、高そうなワイングラスと……」

「絵は」
「ありましたね。ゴヤ、ルーベンス、エル・グレコ……。でも、いくら金持ちでも買えるわけないし、怪盗乱麻が盗んで以来見つかっていないものばかりだし」

「あの、『聖母被昇天』は?」
「ああ、確かあった……、あれ? 一昨日行った時にはなかったような」
「そうだ。なくなっていた。俺たちが行った初日にだけあったんだ」

 佐竹は口の先で笑った。
「まさか、それが根拠で、クリークが怪盗乱麻だなんていうんじゃないでしょうね」
「まさにそれだ」

 佐竹は、真面目な顔になって、海藤の方に向き直った。
「すんません、どういうことか、ちゃんと教えていただけないっすか?」

「俺たちはあの『聖母被昇天』が怪盗乱麻に盗まれた事を知っている、なぜだ」
「なぜって、ほら、スクープを用意して徹夜……あっ!」

 佐竹にもようやく合点がいった。『聖母被昇天』の盗難に怪盗乱麻が成功した事を記事にしたのだが、印刷屋に送る寸前にストップがかかり、あの記事はお蔵入りになったのだ。盗まれたのは会東新報の大株主でもある甲斐棟建設の社屋からだった。だが、時価58億円のあの絵は二重の抵当に入っていた。絵が怪盗乱麻に狙われた事も、そしてまんまと盗まれてしまった事も絶対に表沙汰にしてはならぬと圧力がかかった。そう、表向きは『聖母被昇天』はまだ甲斐棟建設の社屋にある事になっているのだ。
「あいつはあの絵が盗まれた事を知っていた。『皇帝の夜光の懐中時計』のあった博物館のただの警備員が……」

「そして、《怪盗乱麻ファンクラブ》を世間に公開した時には、あの絵は隠されていた。ヤツはあの絵を人に見られてはならない事をよく知っているのだ。つまり、我々があの絵を目にしたのは、ヤツにとっては本当の奇襲だったのだ。そうだよ。ただの警備員なんかじゃない。つまり、ヤツこそ本物の怪盗乱麻だよ」

「海藤さんっ。すごいじゃないですか。これはスクープっすよ。俺たちは英雄となり、懸賞金も……」
佐竹は叫んだ。

 だが海藤は眼を細めて愚鈍な部下をきっと睨んだ。
「馬鹿野郎。大きな声を出すな」
「す。すんません。極秘ですね」
「極秘どころか、俺たちはヤツを警察に渡す事は出来ない」
「ど、どうして?」

「まず証拠がない。それに、証拠を得るためには警察にこの件を話さなくてはならないが、そうすると甲斐棟建設は倒産の憂き目に遭う。それを阻止するために、甲斐棟建設は組の人間を派遣して俺たちの口を封じようとするだろう」
佐竹は青くなった。海島綿のフリルのついたハンカチを取り出すとしきりに額を拭いた。

「やっぱり快刀乱麻を断つってわけにはいかないもんだな。あの男は、とんでもなく頭がいい。俺たちに何も出来ないのをわかっていやがる」

「僕たちの全面降伏っすね。ねえ、海藤さん、ひとつだけ出来る事がありますよ」
「なんだね?」

「僕たちだけ脱会してきましょう。そして、何も知らなかった事に」
「そうだな。もしヤツが逮捕でもされたら払い戻しで大騒ぎになる。それに、その前にやつが高飛びをするかもしれないしな。とにかくへそくりだけは取り返さないとな」

「へそくりだったんですか?」
「そうなんだよ。何がまずいって、俺が入会している事を山の神に知られるのが一番まずい。どこにそんな金があったのかって、尋問されたら、俺はオシマイだ」

 海藤は、(彼にとっての)正しい解答をみちびき出すと、さらにコートの襟を立てて、寒そうに摩天楼の谷間を歩いていった。

(初出:2013年2月 書き下ろし)
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Tag : 小説 読み切り小説

Comment

says...
お、こう来ましたか。まさか新聞記者に焦点を当ててくるとは予想外。
……凄い!まさしくカイトウフェスティバルw

ニヤニヤが止まりませんww以前、ウゾさんだったかな?言っていましたが、夕さんの守備範囲の広さには舌を巻くしかありませんな、こりゃ。
怪盗のように変幻自在ですね。
一字一句カイトウワールドを堪能させて貰いました。
2013.02.16 12:28 | URL | #- [edit]
says...
こんにちは。

お氣に召しましたか〜?
いや〜、これは難問でしたよ。こういうの、完全に守備範囲外ですし!
それに、「解糖」とか「解凍」とか、他にも候補があったけれど使えなかったし。

へんな掌編になっちゃいましたが、これがせめてものはなむけになりますように。
氣分転換にでも、なんでもいいですから、時々遊びにきてくださいね〜。

ありがとうございました。
2013.02.16 14:34 | URL | #9yMhI49k [edit]

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