scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012


Posted by 八少女 夕

【小説】君をあきらめるために - 「Love flavor」二次創作

scriviamo!


「scriviamo!」の第十二弾です。


栗栖紗那さんは、「大道芸人たち Artistas callejeros」の蝶子を描いてくださいました。ありがとうございます!


蝶子 on コルシカフェリー

お返しは詩か小説でとのご希望でしたので、せっかくなので紗那さんのオリキャラをお借りした小説にしようかなと考えました。紗那さんは正統派のライトノベル作家さんです。「グランベル魔法街へようこそ 」や「まおー」などたくさんのラノベを発表なさっていらして、私もひそかに(全然ひそかじゃないかも)お氣に入りキャラに入れあげたりしているのですが、私にラノベは「無理」です。それでもめげずに二次創作するために、私でも書けそうな題材を探してしまいました。

お借りした小説は、私のサイトでいう所の「断片小説」で、一部だけ発表なさっていて、まだ全貌がわからないもの。でも、一部だけなのに実に「二次創作ゴコロ」を刺戟するお話です。


お借りした断片小説『小説未満(Love flavor)』

断片を読んで勝手に出てきた妄想ですので、知らず知らずのうちに設定を壊しているかもしれません。もしそうなっていたらごめんなさい。勝手に増やした(一応、一掃しておきました)キャラですが、「蓮くんに憧れている女」か「刹那さんに惚れている男」のどちらかにしようと考えました。で、蓮くんは出てこなかったからよくわかんないので、こっちにしました。ついでに「リナ姉ちゃんのいた頃」のサブキャラがちょこっと出てきています。

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君をあきらめるために - 「Love flavor」二次創作
——Special thanks to SHANA-SAN


「コーキ先輩っ!」
バタバタと駆けてきたのは、遊佐栄二だった。

「次期生徒会長が廊下を走るな」
東野恒樹は振り向きながら、そう言った。

「いや、廊下どころじゃないっすよ。本当なんですか? 生徒会長が、転校していなくなるなんて、前代未聞ですよ!」
恒樹は肩をすくめた。
「生徒会長が、じゃないだろう。俺が生徒会長なのは、今月いっぱい。いなくなるのは来月だ」

「だっ、だけどっ。コーキ先輩がフォローしてくれると思ったから立候補したのにっ」
知るか。俺がいつ、院政を敷くって言ったんだよ。
「俺も、前任者も、はじめは新米会長だったんだ。お前も頑張れ。副会長はしっかり者だし、力を合わせてやればなんとかなるよ」

 栄二を軽くあしらいながら、恒樹は廊下に出てきたばかりの彼女が二人の会話を耳にとめてこちらを見たのを感じた。ゆっくりと前を通り過ぎる。蜂蜜色の長い髪を目の端で捉えながら、彼は氣にもとめない様子で歩いていった。

「東野くん」
ハスキーな声が、恒樹を押しとどめた。恒樹は振り向いて、まともに白鷺刹那を見た。刹那は片手に日誌を持っていた。

「職員室に行くなら、これ持っていってよ」
「わかった」
短く答えて、手を出したが、彼女は恒樹がそれをつかむ直前に、引っ込めた。

「なんだよ」
「本当なの。転校するのって」

「転校っていうのが適当かどうかはわかんないけど、来月からここにいないのは本当さ」
「きいていない」
「お前の許可はいらないだろう」

 栄二は、二人の間のただならぬ空氣を感知して、そそくさと去っていった。このそつのなさが、学力や押しの弱さをカバーして、生徒会長選挙で有利に働いた事は間違いないだろう。その調子で荒波を泳ぎ抜け。

 栄二の背中を見送っている恒樹を、刹那は日誌ではたいた。
「いてっ。なんだよ」
「どこへ行くのよ」
「ロンドン」

「なんで」
「親の転勤だよ」

「ついていく事、ないでしょう」
「最初は下宿してでもここに残ろうかと思ったんだ。だけど……」

「だけど、何」
「親が借りた部屋が、ベイカー街にあるんだよ。シャーロッキアンの俺としては行くしかないだろう?」
恒樹はおどけてみせた。それは、半分本当だった。そして残りの半分は、いま目の前でこちらを睨みつけているのだ。

「ボクは……」
刹那は口走ってから、はっとして、唇をかみながら下を向いた。それから小さな声を出した。
「蓮は知っているの?」
やっぱり蓮か……。

「親が転勤になるかもとは言ったけれど、決めた事はまだ言っていないよ。胡桃崎だけが知っていたらどうだっていうんだよ」
刹那はきっと睨みつけた。
「そうだね。ボクには関係ないよね」

 恒樹には刹那がそれを氣にしているのが意外だった。俺にはずっと興味もなかったじゃないか。

 胡桃崎蓮と白鷺刹那とは、幼なじみだった。もちろん、蓮と刹那の絆ほど固いわけではない。小学校からずっと同じ学校に通っていたというだけだ。放課後に二人と遊んだのは小学生までだった。中学に入ると恒樹は塾通いが忙しくて二人と疎遠になった。モデルになった刹那にも時間がなくなった。蓮にも彼女が出来て、話をする事が少なくなった。それに、あの事件が起ってから、蓮は心を閉ざしている。

 恒樹はずっと知りたかった。そして、知るのが怖かった。あの夜、刹那が本当に意味していた事を。あれはあの事件からそんなに経っていなかった。モデルの仕事が忙しくて、滅多に会えない刹那が、あの事件の後だけは仕事をしばらく休み、合唱部によく顔を出していたのだ。事件のショックをどう咀嚼していいのかわからなかったのだろう。久しぶりに見る刹那は恒樹には眩しかった。見る度に美しくなっていき、モデルになって届かない所に行ってしまっていたかのようだったのに、中身はほとんど昔と変わっていないように思えた。

 その夜、帰宅の途中で偶然二人だけになった時に、恒樹は突然、告白しようと思い立ったのだ。
「なあ、白鷺。俺、実はさ、ずっとお前の事を……」

 けれど、刹那はそれを遮った。
「だめ。お願い、何も言わないで」

 刹那は瞳を閉じて立ちすくんでいた。
「ダメだよ。男とか女とか、つき合うとかそんなんじゃなくて、ボクと蓮と、ただ遊んでいられたあの頃みたいに、ずっと友だちのままでいさせてよ」

「やっぱり、蓮なのか。お前が好きなのは」
恒樹は、打ちのめされて口にした。

「だから、そういうんじゃなくて。どっちにしても、蓮にあんな事があったばかりなのに、今、ボクが彼氏とかつくっている場合じゃないでしょ。あれは、ボクのせい……」
「白鷺のせいじゃない。犯人だってつかまったじゃないか!」

 蓮の最愛の彼女が、通り魔に殺されたのはデートの後だった。刹那が仕事の帰りに蓮に迎えにきてほしいと頼んだので、彼女は一人で帰ったのだ。恒樹は自分を責めて苦しんでいる刹那を見ているのが辛かった。

「ごめん。東野くん。ボク、何も聞かなかった。だから、ずっとこのままでいようよ。ボクと、蓮と、それから東野くんと……」

 それが体よく振るための口実だったのか、それとも刹那の本当の願いだったのか、恒樹にはわからなかった。でも、そのまま合唱部にいるのがいたたまれなくなり、恒樹は生徒会の方にのめり込んだ。刹那とは疎遠となり、あれ以来ほとんど話をしていなかった。

「ボクには関係ないよね」
そういう刹那に「そうだよ。お前が俺を振ったんだろ」と突き放す事も出来る。でも、俺はまだ引きずってんだよっ。恒樹は腹の中で舌打をする。

 勝手な話だが、蓮と刹那が上手くいってくれればいいと思う。亡くなった彼女や事件のことを蓮が忘れる事は出来ないだろう。でも、蓮だって前を向いて進んでいかなくちゃならない。白鷺と蓮はお似合いだ。あいつだったら、俺でも仕方ないと思える。容姿や頭の出来がいいだけじゃない。本当にいいやつだから。

「みんな、バラバラに離れていっちゃう……」
刹那が小さくつぶやいた。

「お前には蓮がいるだろ。俺なんかいてもいなくても……」
「誰がそんな事、言ったよ!」
刹那は叫んだ。

「あの時、言ったじゃないか。ずっと、あの頃のままでいたかったって。男とか、女とか、将来とか、夢とか関係なく、今だけを見て遊んでいられたあの頃……」
「白鷺……」

「東野くんなんか、ベイカー街でにも、パスカヴィル家にでも、行っちゃえばいいんだ」
刹那は日誌を恒樹の手に押し付けると、そのまま走って去っていった。

 ってことは、あれは口実ではなかったんだな。けれど、恒樹には、いまだにわからなかった。あの頃のままでいたいというのは、蓮との間に彼女の存在などなかったからなのか、それとも彼女が「女」になってしまう前の存在に戻りたいからなのか。ふ。どっちにしても彼女には、俺の彼女になるという選択は徹底的にないらしい。

 長い蜂蜜色の髪が揺れていた。潤んだ瞳が心を突き刺した。容姿にまったく合わない、一人称と性格。人生のはじめに、お前みたいな女に会うなんて、本当に厄介だ。これを忘れるってのはずいぶんな大事業だな。何もかも全く異なる所で人生をリセットするぐらいがちょうどいいんだ。

 彼女のぬくもりのわずかに残る日誌を手にして、恒樹はしばらく夕陽の射し込む廊下に佇んでいた。金髪の女なんか珍しくもない国に行くんだ。スタイルのいい女だってたくさんいるだろう。これ以上貴重な青春を、見込みのない片想いに費やす事もないさ。恒樹は日誌を手でもてあそびながら、職員室に向けて歩き出した。

(初出:2013年2月 書き下ろし)
関連記事 (Category: scriviamo! 2013)
  1 trackback
Category : scriviamo! 2013
Tag : 小説 読み切り小説

Comment

says...
こんばんは。

いやっほぅ!
待ち焦がれた、夕さんによる二次創作。
そして、書きにくいラノベばっかり書いてて申し訳ないという気持ちにもなったとです……

Love Flavorは6年以上前から頭の中にあるネタで、一度全く別の形で書いたこともあったのですけどね。
データが飛んで二度と目にすることはない作品となりました。その時は恋愛主軸ではなかったですし、今思い返せる範囲でも、『読めた代物じゃない』です。
そして、時を経て、ネタを少しでも形にするために書いたのが『小説未満』。

しかし、夕さんによる物語を読んで、こんな時があったかもしれないと、本気でそう思うほどです。
恒樹くんの片思いは報われないですが、蓮や刹那の生き方からすれば、この結末はそうなのだろうな、と。
そして、実は刹那の高校時代というものをあまり考えていなかったので、自分で書くときにもう少し肉付けが必要だなとも思いました。まあ、高校だと刹那はモデルやってて、蓮と紗夜がメインですからね。

何はともあれ、創作意欲に火をつけてくれるような素敵な物語をどうもありがとうございました。
2013.02.26 12:24 | URL | #T7ibFu9o [edit]
says...
私も、ロンドンに引っ越すと言われたら、絶対ついていきますねぇ
日本より楽しいかもしれないし!
海外とはどういうとこなんだろうか?
2013.02.26 13:40 | URL | #DNM/eCMo [edit]
says...
お待たせしました!
ぎりぎりお許しいただけるレベルでしょうか……。
でも、もしかして、誤解していたかも、「小説未満」の校内ってのは大学でしたか? 私はあれが高校三年くらいなのかなと思っていたので、事件が起ったのを蓮さんの高校二年生の終わりくらいかなと勝手に想像して、書いてみました。どっちにしても、すべてなかった事でいいんですけれど。単なる妄想の二次創作なので。

本当は「まおー」に挑戦しようかと思ったのですが、ファンタジーのお約束が全然わかっていないので、やめてみました。ウゾさんの一つ目さんがとてもよかったので、下手に書くのも興ざめだし。

「Love Flavor」、自分で二次創作したからでもあるのですが、本編がとっても読みたいです。他の作品も読みたいけれど、ちょっと時間が空いたら、こっちも書いてほしいなあ〜と、期待しています。

ご参加、そしてキャラをお貸しいただきまして、ありがとうございました。
2013.02.26 20:53 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。

ロンドンなら絶対に行きますね! あそこは刺激的で面白い所です。
それに外国語なんてどれも同じじゃないかと思うでしょうが、やはり英語というのは聞き慣れていて敷居が低いですしね。
スイスは、どうだろう。人によっては退屈かもなあ。
私には合っているみたいです。

コメントありがとうございました。
2013.02.26 21:00 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
ラノベ感を感じさせない青春小説に
さらりと通り魔が出てくるあたりに新しさを感じましたです
日常に非日常がくっついてるような…
2013.02.27 09:40 | URL | #- [edit]
says...
こちらも読んでいただき、ありがとうございます。

いちばんラノベっぽくないのでつくらせていただきました。
ラノベも書けるといいんですけれどね〜。難しいです。

通り魔のお話は、オリジナルのまんまなのですが、この本編を私も読んでみたいです。
いまから「書いて、書いて」とつついております。

コメントありがとうございました。
2013.02.27 19:32 | URL | #9yMhI49k [edit]

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