scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012


Posted by 八少女 夕

ムパタ塾のこと - 13 -

お忘れかもしれませんが、終わっていません。まだ続けます。「ムパタ塾のこと」です。

遊園地のアトラクションや映画と違って、野生動物の世界に台本はないので、望んでも簡単に見られないものがあります。それだけに、遭遇してしまった時の驚きとドキドキは強くて、生涯忘れられない経験になります。

誕生

私たちがそんな場面に遭遇したのは、旅も後半に入った頃だったでしょうか。トムソンガゼルが、群れから離れてたった一匹でいたので変だなと思ったのです。そしたら、私たちの目の前で出産がはじまったのです。草食動物は生まれてすぐに立ち上がり、すぐに歩くという事ぐらいの知識は持っていました。人間の出産ほど長くはかからない事も。とはいえ、人間の出産の大変さ、子供が立ち上がって歩き出すまでの長い時間を考えると、そのプロセスの早さには驚きます。

私たちの車が近くに陣取ってすぐに出産ははじまりました。お尻から黒いものが出てきたなあと思ったら、それから十分くらいでもう半分以上出てきたのです。そして、生み終わるまでに30分はかからなかったように記憶しています。

けれど、その時間が私には永遠のように思われました。もし、馬小屋で馬が生まれるような事であれば、こんなにスリルは感じなかったと思います。けれど、そこはマサイマラ国立公園のど真ん中で、いつライオンやチータなどの肉食獣がやってくるかわからない状態なのです。トムソンガゼルの母親もその緊張を感じていたと思います。急かすように仔の周りの粘液をなめていました。

仔ガゼルは、ヨタヨタとなんども倒れながらもついには立ち上がりました。そして、母親の乳房に吸い付きました。でも、それでめでたしめでたしではありません。母親は、いま生まれたばかりの仔ガゼルを急かすように歩かせていくのです。仲間のもとへ、安全な群れのいるところに。子供が生き延びるためには、ゆっくりと出産のあとの幸福をかみしめている時間などないのです。

これが野生の世界なんだなと思いました。私たちは、そのガゼルを群れのもとに送り届けたり、肉食獣が来ないように見張ったりする事は出来ません。そういうことは許されていないし、たとえ許されたとしても全ての生命を食物連鎖の厳しい掟から守る事は出来ないのです。

ガゼルたちは「生き甲斐がない」とか「貧富の差がある」などということに迷う事はないでしょう。彼らの目的はただ一つ、生きて、生き延びて、子孫を残す事です。

用意された感動ではなく、ありのままの生命の神秘を目にして、私はアフリカまでやってきた意味があったなと思ったのでした。
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Comment

says...
ただ懸命に生きる
みたいな美しさがあるんだろうなと思いました

でも人間だとどうなんだろう
ただ生き延びて子孫を残すのが目的でいいのかなあ…
それぐらいの方がいいのかもしれないけど…
私にはわかりませんです

とこういうことを考えてるせいで私の生きる力は弱いです…
2013.05.21 09:31 | URL | #- [edit]
says...
こんばんは。

人間は、本能のままに生きるのは難しいでしょうね。
ほら、子孫を残すために誰かれ構わず恋愛していると修羅場になっちゃうし、そこら辺に生えているものを勝手に食べたら泥棒になってしまうし。

でも、本能の強い人は、周りの目をものともせずに力強く生きているような。
そう考えると、社会のために我慢しまくっているのは、生存本能に反しているのでストレスになるのかもしれません。まあ、お互いにそこそこにしたほうがいいんでしょうね(笑)

コメントありがとうございました。
2013.05.21 17:59 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
大好きだけれど、目の前に見るチャンスはやっぱりなくて、夕さんのこの経験は本当に貴重で、そしてそれを読ませていただいて、感動を伝えてもらえるチャンスに恵まれたことをとても特別なことのように思います。
ありがとうございます(^^) このカテゴリ、好きなんです。じわじわ、ゆっくり続けてください(^^)
ブログでもご紹介したNHKのダーウィンが来た!って番組、もう大好きで(また第2弾をやる予定^^;)、毎回欠かさず録画してみているのですが、その中に出てくるたくさんのエピソードを思い出しました。
番組は淡々と弱肉強食社会を映していて、そこも気に入っています。命は重いんだけど、重すぎるわけでもない…と。
厳しい中で生き抜くすべを、生れたばかりの赤ん坊も身に着けていかなければならない、そしてまたそれなりの知恵を自然から与えられている、何だかすごいことですね。
ヒトは…どうなんだろう。実はこの番組を見るたび、地球の中では『ヒト』もこの番組の30分に収められる1種でしかないんだよなぁ、と思ったりします。
2013.05.21 22:21 | URL | #nLQskDKw [edit]
says...
こんばんは。

自然の中で生きる野生動物は、おっしゃるように本当に淡々としているんですよね。私はシマウマが大好きなのですが、かなりの確率でエサになっている場面に遭遇しました。でも、ごく普通の人間社会の中で見る、殺人や屠殺のような衝撃は何もなく、実に淡々としている。逃げ切った仲間たちも、淡々としてまた次の生活を続けていく。もちろんそれぞれの命は重いけれど、地球より重いという事はまったくありませんね。

ヒトももちろんただの一種であり「霊長」なんかではないんですが、とはいえ、野生のままに生きていくことも可能ではないのが現実ですよね。
それでも本来の生命には関係のない社会のしがらみにガチガチに絡められている時に、「これって本来的な事じゃないよな」と思えればかなり救われる事もあるんじゃないかなと思います。ま、社会と野生のバランスを上手にとって生きていくのがいいのかなと思っています。

楽しみにしていただけて嬉しいです。コメントありがとうございました。
2013.05.22 20:44 | URL | #9yMhI49k [edit]

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