scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012


Posted by 八少女 夕

【小説】大道芸人たち 番外編 〜 アペニンの麓にて - Featuring「プロフェッサー 華麗に登場」

30000Hitの記念でウゾさんにリクエストをいただきました。

丁度こちらの探偵もどきが イタリアを訪問中なので…
大道芸人たちの人物たちと酒場で会った とか 路上での演奏を見たとか 其の類でお願いします。

ウゾさんのブログの読者の方ならご存知、名探偵ハロルドとパスタを独自の調理法で茹でる優秀な弟子ワトスン君(本名不明)を中心にした大人氣シリーズ物のみなさんとのコラボをとのご指定です。

舞台に選んだのは、フィレンツェ郊外のプラトリーノ。死ぬまでに一度行ってみたい所に入っていたりします。

ウゾさんちのキャラで傍若無人に遊んじゃいましたが、魅力的な面々の本当の姿をご覧になりたい方は、ぜひウゾさんのブログへGO!



【大道芸人たちを知らない方のために】
「大道芸人たち Artistas callejeros」は2012年に当ブログで連載していた長編小説です。興味のある方は下のリンクからどうぞ

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あらすじと登場人物



大道芸人たち Artistas callejeros 番外編 〜 アペニンの麓にて - Featuring「プロフェッサー 華麗に登場」

アペニン像

「で、ここがなんだというのかね」

 フィレンツェ郊外、バスに乗って数十分、終点プラトリーノで降りて五分ほど歩くと巨大な公園とおぼしき場所の入り口があった。

 五人はその入り口に、後ろから入ってくる人が通れないくらいに広がったまま立ち尽くしていた。はじめに口をきいたのは、背が高く痩せて紫かがった青い瞳をした品のある青年だった。オーダーメードで作ったと一目で分かる質のいいグレーの背広をきちんと身に付けている。

「ここが、メディチ家の栄華、贅沢の極みを誇った、大公フランチェスコ一世が愛妾と暮らすために作ったヴィラ・デミドフ、またの名をプラトリーノのヴィラですよ」
そう答えたのは、やや個性的でカジュアルなチェックの背広を身に着けた緑の瞳の青年。

「でも、全然豪華には見えないんだけれど」
ふくよかと表現するのが妥当に思える女がサバサバした調子で言った。

「当時作られた驚異のほとんどが十九世紀までに取り壊されてしまって、なんてことのない英国風庭園ばかりが残っているのですよ。かつてはいくつものグロット、技術のかぎりを尽くした水仕掛け、豪華な建物がありましてね。大変な造営費用がかかったのですよ。父親のコジモ一世が威信をかけて作ったウフィツィ宮殿の二倍の増築費用がかかったんですからね。しかも、政治にはほとんど興味がなくここで呆けたまま死んだというのですから、無駄に金だけを持っている君にふさわしい場所じゃありませんか、アルフレド君」

 アルフレドと呼ばれた灰色背広の青年は、チェック柄背広の青年の慇懃無礼、というよりはまったくもって無礼な態度に腹を立てている様子もなく、むしろ氣にいっている様子だった。

「グロテスクの極み、悪趣味な仕掛け、それを考えるとハロルド君、君にもぴったりだと思うよ」
アルフレドは、ハロルド青年に痛烈に応酬した。誰もハラハラした様子をしていない所を見ると、この手の会話は彼らの日常のようだった。

 アルフレドの隣にすっと立っていた妙齢で薄い水色の瞳の女性が話の流れを全く無視して言った。
「お兄様。あちらに巨大な石像が見えますわ」
「ああ、あれが有名なアペニン像だろう。アペニン山脈の寓意だ」

「その通り。そして、その手前にあるのが、ワトスン君、君の大好きな池だよ。昔は釣り用と食用の魚がたくさん飼われていたそうだ。つまり、ここは君にもふさわしい所なのだよ」
ハロルドは、小柄で「I love fishing」と書かれたジャケットを来ているもう一人の青年にニヤリと笑いかけながら言った。わざわざ「昔は」と言っている所を見ると、どうやら現在は魚釣りができない事を知っていてわざと言及したフシがあった。

「あ、食べ物のいい匂いがするよ。あ、あそこにテントがいっぱい! 食べ物があるなら、ここは私にもぴったりって事よね! ゾーラ、いこう」
ふくよかな女性が、てきぱきと走り出した。アルフレドの妹ゾーラは笑って、「待って、アリア」と、その女性の後を優雅に追った。


 かつて、メディチ家の栄華を誇り、大公が愛妾とこの世のもう一つの楽園を楽しもうとした広大な空間は、公園としてわずかな入場料で一般市民に公開されていた。テントの下でソーセージやらピッツァやら、ギトギトのフライドポテト、それに何で色を付けているのかわからないような毒々しいジェラートが提供され、タンクトップ姿の小太りの女性や、こんなところでいちゃいちゃしなくてもいいだろうというようなカップル、躾のされていない犬、それにビールで心地よくなりカンツォーネを歌う迷惑な親爺などがゴロゴロする、かなり格調低い空間となっていた。

 アペニン像は、十一メートルもある多孔質の石灰岩でできている。怪物を押さえ込んだ老人のような巨像であるが、中は三層に別れたグロットとなっている。遠くからでもよく見えるが近寄ると、その大きさに驚く。売店のテントやそこでくつろぐ人びとがとても小さく見える。

 夏はそろそろ終わり朝晩は冷え込む季節だが、日中の陽射しは強く、アペニン像の前の池とその水音は心地よかった。アリアは売店で、食べ物を買うのに夢中になっていたが、同行の四人は水音に混じって聞こえてきた音楽の方に目をやった。

 そこだけは若干の人だかりができていた。そこにいたのは四人組の大道芸人で、灰色のドウランと服装でアペニン像のごとく装い緑色の蔦の髪飾りをつけていた。一人はギターをつま弾き、二人はフルートを手にしていた。奏でているのは、ヴィヴァルディのマンドリンコンチェルト。そして真ん中にいる眼鏡をかけた青年がそれに合わせて目にも停まらぬ早さで、次々花やリングやカードを取り出していく。

 かつてこのヴィラ・デミドフには水オルガンがあったという。遠くアペニン山脈より引かれた水で、水の不足がちなこの土地に精巧な仕掛けの機械が自動で動いていた。水が溢れ、人びとを驚かせ、歓声を上げさせた。女たちの嬌声が響き、男たちはそれに心を躍らせた事だろう。長い中世を、キリスト教的節制のもと過ごした後に、突如として花ひらいたルネサンス。酒に酔い、人体の美しさに目覚め、遊び楽しんだ徒花の時だった。水音はアペニン山脈からの涼しい風を運んだ事だろう。

 メディチ家の栄華はもはや遠い昔の歴史になってしまっている。今では、数ユーロの入場料を払って、カップルたちが寝そべりながら、家族が犬と戯れながら、あるいはジェラートやポテトを頬張りながら、大道芸人たちの奏でるバロック音楽と、めまぐるしく展開される手品を楽しんでいる。

しばらくすると、芸人たちは演技と演奏を止めて、別々のポーズで一カ所に固まって動きを止めた。そうするとそれがまるでもう一つの石像で、ルネサンス時代からの時の流れで蔦が生えてしまったかのような錯覚を呼び起こした。石像のパントマイムそのものもれっきとした大道芸なのだが、静かになり、動かなくなると、それはそれで氣になるものだ。水音が単調に響くのが堪え難くなり、人びとはコインを投げ入れだす。そうすると、彼らは少し動く。別の人間が2ユーロコインを投げ込むと、手品をしていた男の所にポンポンっと立て続けに花が咲いた。別の人間が5ユーロ札をそっと置くと、今度は女がフルートを奏でだす。それを繰り返して、四人はどんどんと稼いでいった。

「いやあ、『銀の時計仕掛け人形』いや、今回は『灰色の彫像』か。とにかく、この芸は本当に実入りがいいよな」
一時間後に、集まった金を回収して、専用財布にきちんと収めてから稔が言った。

「それに、ここに来てよかったわよね。街角と違って他に観光するものもあまりないから、観客が集中してくれて」
蝶子は灰色に塗られた顔のままニッコリと笑った。

「ワインを買ってくるか」
ヴィルが現実的な提案をすると、四人はあっという間にそれぞれのテントへと分散して、ワインやビールの他につまみになりそうなものを入手してきた。アペニン像の前で、それに似た灰色の彫像のような妙な集団が酒盛りをしているのは、それはそれでシュールな光景だったので、新しくやってきた観光客たちは物珍しそうに写真を撮った。

「あの~」
ピッツァを手にしたままアリアが近づいてくる。
「楽しそうなんだけれど、ピクニックに混ぜてくれない?」

 意外な申し出に四人は顔を見合わせたが、特に断る理由もないので「どうぞ」と一人分の場所を作った。するとアリアは手を降りながら、離れた所でアペニン像を見ている(ワトスン君だけは池の中の方に興味がありそうだったが)仲間たちに叫んだ。
「お~い、ゾーラ、みんな、こっち! ここで食べよう」

「アリアったら、いつの間にピクニックに参加しているの?」
ゾーラが呆れたような声を出すと、その麗しい姿を見てレネの顔はぱっと明るくなった。

「では、ワトスン君、悪いが我々のピクニックの食料品を調達してきてくれたまえ」
ハロルドが言うと、池に未練たっぷりの一瞥をくれてからワトスン君がテントへと向かった。Artistas callejerosは、その間に場所を作って五人が座れるようにした。

 それを見ていた他の観光客たちも、それぞれのワインやジェラートを持って次々とこの謎の集団の周りにやってきては座って、一緒に飲みだした。

 それは壮大なピクニックとなった。先ほどまでただその場にいるだけで何の関わりもなかった同士が、プラスチックのカップに入ったワインで乾杯する。それからいつの間にか、カンツォーネを歌いだす者がいると、それに合わせて別の人間が歌いだす。Artistas callejerosも笑って、時どき伴奏をつけてやる。

 レネはゾーラと話をしようと隣に座りたがるのだが、何故かアリアにどっかりと横に座られて話しかけられている。その間にゾーラは蝶子とヴィルに話しかけてフルートの話で盛り上がっている。

 ハロルドとアルフレドは相も変わらず言葉の応酬を繰り返しながらも楽しそうにワインを飲んでいる。そしてワトスン君は稔と魚のことについて楽しそうに話していた。(ただし、ワトスン君は釣り、稔は皿の中の話をしていたが)

 アペニン像は、大公フランチェスコがいたメディチ家全盛時代から、一度も見たことのない奇妙な大宴会を目にして、それが氣にいったのかほんの少し微笑んだようだった。それとも、それは秋の陽射しが池に反射してみせた眼の錯覚なのかもしれない。

(初出:2013年9月 書き下ろし)

追記

すみません。四人と五人が遭って、何をするかと言えば、ただ飲んで食べているだけ。面白い事は、現在連載中のウゾさんの「プロフェッサー 華麗に登場」本編でお楽しみくださいませ。

作中に登場するヴィヴァルディでございます。


ANTONIO VIVALDI (1678-1741) 
Concerto for mandolin, strings and basso continuo in C major RV425
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Category : 小説・大道芸人たち 外伝
Tag : 小説 読み切り小説 リクエスト コラボ キリ番リクエスト

Comment

says...
 こんばんは。
ありがとう御座います!!!! なんて楽しそうな宴会。
ワトスン君は 珍しく魚の話ができて幸せそうーーー たとえ 話がかみ合ってなくても!!!
レネとアリア なんやかんや言いつつも 楽しそうだし レネは不満そうだが…

あははっ ゾーラは相変わらず… 空気を読まないと言うか 空気をあえて無視してるし。
流石 各人の特徴を捉えていますねーー
此処まで 各人を捉えるの 大変でしたでしょう リクエスに此処まで力を入れて頂いて 何と言っていいのか…
とても素敵な作品を 有難う御座いました!!!!  とても楽しませて頂きました。
2013.09.22 10:56 | URL | #- [edit]
says...
こんばんは。

おお、なんとかお氣に召していただけましたか。
難しかったですよ、とくにハロルドとアルフレドの会話が、ウゾさんが書くように格調高くならなくて困りました。

アリアさんとゾーラさんはともかく、それから探偵と貯金箱も多少の事はへこたれないタイプだと思うのですが、ワトスン君、たくさんいじってしまいました。きっとこれから両手に花でいい思いをするから、このくらいのいじられは笑って許してくださるでしょうか。ちょうどウゾさんのところの連載再開(って、私のリクエストが連載を止めていたんですが)と時期的に一致して嬉しかったです。本編で、本物の五人にお会いするのを楽しみにしています。

リクエストとコメントありがとうございました。

2013.09.22 18:01 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
八少女さんのところで、ワトスンくんや探偵さんたちに会えるとは。
大道芸人さんたちが、ちらっと触れ合う、というのではなく、しょっぱなから5人が出てくるあたり、流石です。
文章的には違うのに、やっぱり探偵たちは、いつもの探偵たちで^^
とても不思議な感覚で、楽しかったです。
ほかの人のキャラを書くというのは、本当に難しそうで、まだやったことがないのですが、
こうやって読ませていただくぶんには、とっても楽しいです^^
そういえば、大道芸人のみんなに初めて会ったのは、大海さんの小説でした! 不思議なもんですね(笑)
あれも、楽しかったな^^

そうか、蝶子さんも今みたいなパフォーマンスを時々するのですね?
銅像に化けたパントマイム。よく写真屋映像で見かけます。
生で見てみたいなあ
意外だけど、いろんな芸の幅を広げて行ってるんだなあ~と、さらに見直しました。
あ~ここで感心してないで、私も早く読み進めなきゃ!
2013.09.23 13:24 | URL | #GCA3nAmE [edit]
says...
本当に楽しそうに飲みますね!この4人。そしてゲストの面々。
僕は残念ながらウゾさんのこのシリーズを読んでいないので、ちょっと外様になってしまったような感覚で読ませていただいたんですけど、僕もこの輪に加わりたいと思いました。日本ではあまり聞くことのない町、プラトリーノの歴史的背景の解説も、とても興味深かったです。
ウゾさんのところから登場しているメンバーは個性的で興味津々です。
あっちの主役、名探偵ハロルドを喰いそうな勢いですよ。こっちの主役まで喰われそう……。
フワッと息抜きになりました。

ではまた。
2013.09.23 14:25 | URL | #0t8Ai07g [edit]
says...
こんばんは。

おお、limeさんはよくご存知の面々ですよね。

コラボを書くときは、お借りした大切なキャラに失礼のないように悩む事は悩むのですが、リクエストをいただいた時は「やってもいいよ」とお墨付きをいただいた事に勝手にして、けっこう踏み込んで書いてしまいます。ウゾさんにお許しをいただいてコラボを書いたのは「ワリタガラスの男」に続き二回目なのですが、難しい!

書く時にはあえて自分の文体で書くように意識しています。真似しても上手く書けませんので。(真似しなくても上手く書けていないけれど)

ご存知の通り、ウゾさんや彩洋さんをはじめ何人かのブログのお友だちに、うちのキャラも書いていただいています。それぞれうちのキャラだけれど、みなさんの作品で、その小説の世界に溶け込んでいて嬉しいですよね。プロの作品の二次創作だと版権をとるのが大変だったり、作者本人に読んでもらったりするのはほとんど不可能ですが、こうやってブログ小説の交流の中で書きあったりするのは、本当に楽しいです。limeさんもお嫌でなければ、いずれそのうちに……。

今回四人がやっている芸は、チャプター2、スペイン編の最後ででてくる芸ですね。もともとはパントマイムで稼いでいたヴィルが、みんなに指導したものです。「ドウランがお肌に悪い」と蝶子はあまり好きではないのですが、普段の演目よりもずっと稼げるのでたまにやっている模様です。蝶子は今回のフィレンツェで散財してしまったので(その理由は今週末の更新で明らかになりますが)、多少稼ぎたいようです。

本編も読んでいただけて嬉しいです。作品は逃げませんので、どうぞご無理のないペースで! 私も執筆期間が終わったら、limeさんの所の一氣読みしようっと。

コメントありがとうございました。
2013.09.23 19:07 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。

こちらも涼しい(っていうか寒いかも)です。朝は手袋が必要になってきました。

ウゾさんの、このシリーズのみなさんは本当に個性豊かで、しかもどこかへ行く度にやっぱり美味しそうなものを飲んだり食べたりしています。本当に楽しいですよ。私の筆だと、ちょっと魅力が発揮できていないかも。

プラトリーノのアペニン像は、最初にフィレンツェに行った時に、土産物屋のハガキで見つけたのです。でも、市内のどこに行っても見つからない! フィレンツェシリーズを書くために、あちこちの名所を検索していてようやく見つけたのですよ。次回行く時はぜひ行ってみようと思っています。

フィレンツェシリーズ、来週発表する物でいちおう終わりなのですが、書くための下調べをしたおかげで観光名所や歴史など、相当詳しくなって、またフィレンツェに行きたくなってしまいました。

コラボ作品は、あちらのキャラを壊さないか氣を遣いますが(その割に壊しているけれど)、本当に楽しい作業です。また、機会があったらサキさんのところの子たちとも競演したいですね。

コメントありがとうございました。
2013.09.23 19:15 | URL | #9yMhI49k [edit]

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