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Posted by 八少女 夕

【小説】森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架(5)城と城塞の話 -1-

話はまたラウラのいるルーヴラン王国の都ルーヴに戻ります。この章も二つに分けましたが、なんだか肝心の人物が出てくる前で終わっちゃいました。お城の中、ルーヴランとグランドロンの力関係などをひたすら説明していて若干退屈かもしれませんが、世界観に興味のある方はどうぞ。そうでない方は、今回は飛ばしても構いません。

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あらすじと登場人物




森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架
(5)城と城塞の話 -1-


「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」関連地図(現在位置)

 ルーヴの街を遠くから見ると、それは大きな一つの固まりに見えるが、実際には城は街とははっきりと隔てられた世界だった。街そのものも大きな円塔を備えた門が三カ所ある防壁に取り囲まれているのだが、もっとも北側にある王城は背後の北側を除いて強固な城壁と水を張っていない空堀と水を張った濠に囲まれて街からは跳ね橋を通してしか入る事ができなかった。ルーヴの北側は絶壁で自然の要塞となっていた。

 その強固な守りは、一方で外敵の侵入から城に住まうものを守ったが、他方で城からほとんど出た事のない世間知らずな者たちを作った。城の中に入ると人びとが活発に行き会う外庭があった。そこは小さな街の様相をなしていて、木造の家が並び、動物や馬車が行き交い、指物師、馬具工、陶工などの職人たちや、農作物を運び込む農民たち、水を汲んだりパンを焼いたりする人びとでいつも賑わっていた。城の使用人たちやその子供たちが生活をしていたのだ。

 その内側には門を通ってしか中に入れない石造りの建物があった。これは地上は三階建てであり、大小の入り組んだ部屋と天守閣を含む四つの塔、礼拝堂、それに大きな二つの中庭といくつかの小さな庭を囲んでいた。一階および何層かに分かれた地下は使用人や兵士たちが作業し住む空間となっており、二階は大広間をはじめとする城の公の空間、そして三階が王族や貴族、そして高官や女官たちの住居となっていた。

 ラウラもこの三階に部屋を与えられて暮らしていた。王と王妃や王女の部屋ほどではないが、最高位女官であるバギュ・グリ侯爵令嬢として相当の広さと豪華さだった。ただ、調度や飾りが最小限で、品はいいもののあっさりしすぎている感があった。王女の部屋が色鮮やかな南国の鳥の羽根や、宝石、金銀、手のかかった織物や東から運ばれてきた絹などであふれかえっているのと対照的だった。

 たくさんの楽器や詩や物語を綴った羊皮紙が散乱する姫の部屋では、ラウラにつけられた三倍の侍女が毎日片付けに精を出しているにも関わらず時おり物がどこにあるのかわからなくなったが、彼女の部屋では侍女は掃除はしても片付けをする必要はなかった。本も、楽器も、衣類も全てが正しいところから取り出されて、使用後は正しい場所にしまわれた。美しいだけで役に立たない物などはまったくなかった。これはラウラ本人の性格にもよるのだが、バギュ・グリ侯爵をはじめとして誰一人として「ただ喜ばせるためだけ」に彼女に何かを贈る人がいなかったからだ。

 自由な時間、ラウラは書物を読むか、楽器を奏でるか、もしくは庭を散策するなど一人でいる事が多かった。マリア=フェリシア姫の近くに来る事はほとんどなく、それがますます姫との関係に溝を作った。

 ルーヴラン王国の国土は、偉大なるアンセルム三世の時代と較べると四分の三ほどの大きさとなっていた。といっても、ほとんど未開の地である深い森《シルヴァ》を含めての比較である。現国王であるエクトール二世には、兄の急逝によって突如として王冠が転がり込んできたため、帝王教育もなされていなければ国土を奪回するための覇氣もほとんどなかった。実際に王妃はアールヴァイル伯爵の次女でしかなく、側近も大して力のあるものがいない。そもそもルーヴランがこの百年に次々と国土を失ったのは、隣国グランドロンの辣腕な政治力と軍事力によるものであった。

 マール・アム・サレア、サレア河の西岸にある街は三代ほどルーヴランの手にあった。そのため、現在でもかの地ではルーヴラン語が話されている。この街はグランドロン先王フェルディナンド三世によって奪回され、現在はグランドロン領だ。そして、ペイノードのことがあった。

 ペイノード、またはノードランドと呼ばれる土地は、ドーレ大司教領の東にある。その名が示すように北の外れにあるにもかかわらず、暖流がノーラン湾に流れ込み、またフェーン現象も起こるために比較的温暖で穀物がよく穫れる。山岳地帯には鉄鉱床がありさらに海岸では良質の海塩が産出される。もともとは、この土地に住む人びとの言葉でノーランと言われ、王家の支配下にある場合もノーラン人の代官による半自治を確立している特殊な土地である。

 古くは現在のヴァリエラ公爵の祖先にあたるギョーム・ヴァリエラによって開拓され、計画的な鉄採集や製塩が始められた。グランドロン、ルーヴラン両王国との自由交易をしていたが、三代前のアウレリオ・ヴァリエラがグランドロン配下に入り公爵位を賜った。これに不服を申し立てルーヴランがグランドロンに宣戦布告をした。結果はほぼ引き分けで、ルーヴランが三分の一にあたる西ペイノードを、残りをグランドロンのヴァリエラ公爵がノーラン人のロートバルドを代官として支配することとなった。ルーヴランはヴァリエラ公爵を承認するのと引き換えにノードランドとの自由交易権を保持することとなった。だが、グランドロン先王フェルディナンド三世は、西ペイノードを奪回してノードランド統一後、ルーヴランとの自由交易を禁止した。

 五年前にフェルディナンドが急逝すると、ルーヴランはこれが好機と、戴冠した若きグランドロン王レオポルド二世に宣戦布告して、一時西ペイノードを得たが半年後に再奪回された。その後、若きグランドロン王はことさら軍事増強に力を入れているとの噂でルーヴラン王の心は穏やかではなかった。
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Comment

says...
貿易特産物における関係の対立。
こういう設定まで作りこむのはとても良いと思いますし。
私もファンタジー小説作っていますから、とても参考になります。
勉強になる小説ありがとうございます。
2014.05.09 11:39 | URL | #- [edit]
says...
更新、お疲れ様です。

毎度、細かくてスミマセンが、誤字らしきものが一箇所。
『だだ喜ばせる』となっていますよ~。

ストーリーをたどるのも楽しいですが、こういう舞台背景というか作品を支える世界観を読ませてもらうのも、楽しいものです。
豊穣な土地をめぐっての小競り合いとか、領地を奪ったり奪い返したりとか、隣国が緊張状態にあるとか。作品に深みが出るのはもちろんですが、なんだかわくわくしますね。
凡庸なルーヴラン王と、辣腕なグランドロン王。なにか面白い展開になりそうで、これから先が楽しみです。
2014.05.09 13:43 | URL | #V5TnqLKM [edit]
says...
こんばんは。

とんでもない。ファンタジーの書き方などが全くわかっていなくて、教えていただかないといけないのはこちらなんですが……。

○十年も昔、この話の原形を作っていた時は「ルーヴランとグランドロンは仲が悪い」しか決めていなかったのですが、さすがにそれではスカスカでして……。

日本は海に囲まれていてそんなにしょっちゅう国境が変わったりしませんが、ヨーロッパは戦争の度に国境が変わったりしますよね。まえは単純な陣地取りかなあと思っていたのですが、こっちに来てみて、実際にそういう土地に行ってみると、どの国もほしいものがある所なんですよね。なるほどなあと思ったので、設定に取り入れてみました。

今回(も)ちょっと退屈だったかと思いますが、読み込んでいただけてとても嬉しいです。

コメントありがとうございました。
2014.05.09 21:23 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。
わあ、毎回毎回、すみません! 本当に助かります。
あそこなんて十回は読んでいるのに、なぜ見逃す……orz

LandMさんへの返信にも書いたのですが、昔は「いつも喧嘩をしている二国」としか決まっていなくて、それどころかルーヴランの王様の設定すらありませんでした。主要人物だけの四人芝居みたいでしたが、さすがにそれでは情けないので、それなりの設定を後付けしました。でも、こういうのも匙加減が難しくて、多すぎるとうるさくなるんですよね。

当分出てこないんですが、グランドロンの王様は一応、エンドクレジットで言うと三番目ってな位置づけなのです。ルーヴランの王様は、ずらーっと出てくる内の一つって感じで、「その字は読めないから!」って文字サイズかも。(なんのエンドクレジット?)

こんな退屈な場面にも、コメントをいただきありがとうございました。
2014.05.09 21:35 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
細かい設定まで作り込まれましたね。こういう緻密な設定、好きなんですよ。
ほとんど説明で終わってしまう回でしたが興味深く読めました。
サキだと書き込みすぎてしまいそうな内容ですが、適切にまとめられていて読みやすかったです。
「明日の故郷」の雰囲気を思い出したりしながら読んでいます。

コメント、これぐらいの長さでも良いのかなぁ?


2014.05.11 03:40 | URL | #0t8Ai07g [edit]
says...
こんばんは。

この辺りは固有名詞の類いは「キーボードから出任せ」状態でつくりましたよ。こだわったのは、二つ(方言も入れると三つ)の国の言葉で「北の国」と呼ばれている国の名前をそれぞれ作り出すことぐらいで、あとはなぜ戦争になったのかを説明するために適当に。

難しいですよね。何も決めないとスカスカで嘘っぽくなるし、こだわり過ぎて細かく書きすぎると読者はついていけなくなる。あ、ここはついて来なくてもいい所なんですけれど、そうでない所もあるじゃないですか。大事な所だけ細かくすると意図がバレバレになるし……。

「明日の故郷」はそういえば説明が多かったですよね。あっちは史実なのでものすごく氣を遣いました。こっちは、全部嘘っぱちなので、全く悩まずに書いていましたよ。

コメント、もっと短くて一行でも、もちろん長くてもいいんですよ?

コメントありがとうございました。
2014.05.11 15:24 | URL | #9yMhI49k [edit]

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