scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012


Posted by 八少女 夕

言葉と国境と国民

久しぶりに放置しているカテゴリー、「スイス・ヨーロッパ案内」です。私のブログって、こういうのを目指してくる方は……ほとんどいないんだろうな。でも、押し売りで語ってしまうことにしましょう。


突然ですが海外で書類を書かされる時、「Nationality欄」に「Japan」と書くべきかそれとも「Japanese」にするべきか迷った経験はないでしょうか。国籍だから当然「日本人」で長いこと考え込むような問題ではありませんが、これが「Staatsangehörigkeit」とドイツ語になると私は毎回悩みます。

もうひとつ。Japaneseの訳語、すぐに思いつくのは「日本人」ですか、それとも「日本語」ですか。そして、それはどちらもあなた自身の属性ですか。つまりあなたは日本語を話す日本人ですか。

多くの日本の方はあまりこういうことを意識しないと思います。外国で暮らす日本国籍の方か、日本で生まれ育った外国人以外、「日本人は日本語を話すもので、さらに日本に住んでいる」場合が非常に多いからです。

スイスではこういうことをしばしば意識します。今日の記事は、一つの公用語とあまり国境の変更のなかった歴史を持つ日本の方には多少わかりにくいスイスの事情について書いてみます。

スイスの公用語は四つあります。ドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語です。けれど、一人で四カ国語話せる人はほとんどいません。基本的に母国語は一つです。大抵の場合は一つの州に一つの公用語です。二つの公用語の州、そして、例外的に私の住むグラウビュンデン州だけ公用語が三つあります。しつこいですが、三か国語を全員がわかるのではなく、住んでいる市町村ごとにその言語が決まっているのです。

ロマンシュ語はグラウビュンデン州の限られた地域で話されている言語で、語学学校などで学ぶことも出来ないので、たとえばジュネーヴに生まれた人がロマンシュ語を話せるようになるのは、日本人が中国のミャオ族の言語を話せるようになるくらい珍しいことです。つまり、その地域に住まないと習得できません。

ロマンシュ語はイタリア語に近い語彙と、長い間ドイツ語圏の人びとに支配された歴史から文法や語彙の一部を受け継いでいるラテン語系の言葉です。しかも谷によってまったく違う方言で共通ロマンシュ語を作る作業も難航しました。一方、ロマンシュ語はそれ以外の地域の人には全くわからず、さらに長い間公用語としての地位が認められていなかったため、彼らはドイツ語を習得することが義務づけられてきました。だから大抵のロマンシュ語圏の人はドイツ語とのバイリンガルです。

さて、隣の州の人が自分にはわからない言葉で話すから、その人は外国人と同じでしょうか。国境の向こうに自分と同じ言葉を話すから、そっちのほうにシンパシィを感じるでしょうか。いいえ違うのです。

ドイツ語圏のスイス人とフランス語圏のスイス人の間には溝があると言います。(「ロシュティの溝」といいます)イタリア語圏のスイス人のことをドイツ語系やフランス語系は小馬鹿にしたりもします。それでも、彼らはドイツ人やオーストリア人やフランス人やイタリア人よりも別の言語圏のスイス人のことが好きだし、「俺たちはあいつら(外国人)とは違う」と思っているのです。

もっとも、外国の定義も日本ほど単純ではありません。歴史をみると、スイスのある地域はローマ帝国に属していたこともあるし、また別の地域はドイツ皇帝の支配下にありました。現在のイタリアの一部をスイスの州が持っていたこともありますし、建国が1291年と言っても、現在の国境と同じスイスになったのは1815年以降です。

あ、今のスイスは完全に独立しています。もっとも国土を囲んでいるEUに合わせなくちゃいけないこともあって、それが不満なスイス人もけっこう多いみたいです(笑)
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Comment

says...
こんばんわ(^ω^)

学生時代歴史の先生が「日本は国境のない国だ」と言ったのをウン十年経った今も鮮明に覚えているんですよね。
海に囲まれた陸の孤島って。
でも、別の先生が「日本は国内に国境のある国」とも言ったんですよね。それが米軍基地のことだったんだけど、それでも米軍基地が近所にない地域育ちのわたしには、国境がない国っていうのが身近で。

なのでというわけじゃないけど、必要に迫られることがないだけに、わたし英語を本気で学んだことがなく、今も相変わらず幼稚園児以下のレベルしかないです英語(笑)

ユーラシア大陸ってほんと色んな言語が同居する大地ですよね。戦争や侵略の歴史を多く抱えているなかで言葉も様々で、ロマンシュ語っていうのは初めて知りました~。

実生活では日本語の日本人を満喫していますが、オンラインゲームをやっていると、これが厄介なことに普通に多国籍軍状態なんですよね(笑)
仲良しのプレイヤーの中に英語圏の北アメリカ人と台湾語と日本語を流暢に話す台湾人がいます。彼らと一緒に遊んでいると、ほぼあちらの言葉になるのでぐーぐる翻訳フル回転ですが(笑) 「日本人のゲームなんだから日本語で話しなさいよ><!」と時々癇癪起こしたりしてます(笑)

「881」
てログアウトするとき挨拶されるんですが、これ台湾では「バイバイ」って意味なんだそうですw
2014.11.18 09:08 | URL | #mQop/nM. [edit]
says...
こんばんは。

日本というか島国って、やはり国境に関する意識がとても薄いんですよね。ここにいるのはみんな同じ意識を持つ国民だとどこかで思っている。それが日本のいいところでもあるし、黒船にこじ開けられてから現在に至るまでの国際意識のギャップともなっているんですよね。

国境って、米軍基地のように小さい範囲ならば、全部フェンスを張り巡らせて出入りできないようにできるんですけれど、普通の国と国の間ではなかなかそうもできず、たとえばスイスとイタリアやフランスやドイツの国境などは、「ここがだめならあそこ行けばいいじゃん」状態。見ていてなかなか面白いですよ。

スイスでもロマンシュ語は当然ながら、それ以外の言語でもやはり意思疎通に若干問題があり、もちろんドイツ人よりもドイツ語圏スイス人の方が明らかにフランス語やイタリア語を話せる人が多いとは言え、話せない人もけっこういるのです。で、兵役で数ヶ月だけ一緒に暮らすことになり、スイス人同士なのに意思疎通は英語なんてこともザラらしいですよ。妙な光景ですが。

> 「日本人のゲームなんだから日本語で話しなさいよ><!」と時々癇癪起こしたりしてます(笑)

って、言ったらきっと「またそう言うジョークを(笑)」で済まされそうですね。
本来なら、ユズキさんの主張はもっともだけれど、「日本語ね(笑)」って感じかな。「おぼえられるわけないじゃん」って。

「881」 かあ。中国語か台湾の方言だと「バイバイ」って発音なんですかね?

コメントありがとうございました。
2014.11.18 20:32 | URL | #9yMhI49k [edit]

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