scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012


Posted by 八少女 夕

【小説】リナ姉ちゃんのいた頃 -7-   Featuring 「Love Flavor」

44444Hitのリクエストの一つ目、まずは栗栖紗那さんからいただいた『刹那さんとリナ姉ちゃん』です。紗那さん、ありがとうございます。

刹那さんは紗那さんの『Love Flavor』に出てくる主要キャラのお一人で、コラボで使わせていただくのは、ええと、何度目だろう。リナは『Love Flavor』の方にも出演させていただいていますしね。

今回も頼まれもしないのに出てきた当方のオリキャラ東野恒樹は刹那さんに報われない片想いをしているという設定で『Love Flavor』の二次創作のためだけに作ったキャラです。だから、しつこく出します。紗那さん、すみません。前半が恒樹の語りで、後半はミツです。念のため。


「リナ姉ちゃんのいた頃」をご存知ない方のために。このシリーズの主人公は日本の中学生の遊佐三貴(もともとのリクエストをくださったウゾさんがモデル)とスイス人高校生リナ・グレーディク。日本とスイスの異文化交流を書いている不定期連載です。前の分を読まなくても話は通じるはずですが、先に読みたい方は、下のリンクからどうぞ。

リナ姉ちゃんのいた頃 をはじめから読む



リナ姉ちゃんのいた頃 -7-
— Featuring 「Love Flavor」


 携帯電話が鳴った。ちょうどビッグベンが午前九時を報せたところだった。表示されているナンバーには今ひとつ憶えがない。「+41」で始まっているところを見ると、ヨーロッパのどこか、ああ、スイスか。スイスから俺にかけてくるといったらあの女の他にはいない。

「リナか。何の用だ」
俺は首を傾げた。あいつ日本に行くと言っていなかったか? やめたのかな。耳に飛び込んできたのはありえない声だった。

「ホントに東野くんの声だ……」
「えっ?」
俺の頭はまさにホワイトアウト。このハスキーな声は……。

「ハッロ~? ねっ、驚いた? セツナと私が知り合うなんて思わなかったでしょ」
けたたましく聞こえてきたのは、電話番号から俺が予想していたチェシャ猫女だ。

「おっ、おい! 今のはどういうことだ! 今の、まさか、本物の白鷺刹那かよっ!」
ここはロンドン、ウェストミンスター。日本人観光客が横をぞろぞろ歩いているようなところで、白鷺の名前を出すのはためらわれる。なんせあいつは超有名モデル。あ、もとモデル、か。

 俺、東野恒樹は混じりっけのない大和民族特有の顔立ちで、日本人であることはどこから見てもバレバレだ。加えて日本語訛りの抜けない英語でケータイに向かって叫ぶ羽目に陥った。だが、そんなことを構っている場合ではない。

「そうなの。今、友達になったのよね。ミツと一緒に火浦学園に来てるの」
「ミツって誰だ」
「ん? あ、ホームステイ先の子だよ。エージは知っているでしょ? ミツはエージの弟なの」

 ちょっとまて。エージってまさか……。
「お前、もしかして遊佐栄二の家にホームステイしてんのか?」
「そうよ。昨日、偶然コーキの話になって、それなら、ぜひセンパイ紹介するからって。ねえ、この学校、面白いね。私もここに留学したかったな~」

 俺は頭痛がしてくるのを感じた。
「さっきのが本当に白鷺なら、悪いが、もう一度代わってくれ……」
「いいよ、もちろん」

「東野くん? そっちはどう?」
「あ。うん。元氣にやってるよ。お前は?」
「相変わらず、かな。もっとも、来週からは大学だから、相変わらずじゃなくなるけれど」
「ああ、そうだよな。進学おめでとう。蓮も一緒にだろう?」
日本にいる友達の中で、俺が一番親しい(と俺は思っている)蓮の名前を白鷺に語る時だけは複雑な氣分になる。

 蓮は白鷺にとって一番親しい友達だ。幼なじみでもある。俺だって二人を小学生の頃から知っているけれど、この二人ほどの近さではない。そして、俺がかつて白鷺に告白して玉砕したのは、蓮の存在があるからじゃないかと今でも思っている。白鷺は「そんなんじゃない」と言ったけれど。

「もちろん一緒だよ。でも、一緒に大学に上がるのはボクたちだけじゃないし」
相変わらず、見かけとまったく一致しない一人称だ。蜂蜜色の髪に琥珀色の瞳、完璧な美貌に女性らしいスタイルのくせに、親しい人間の前だとこうなってしまう。氣を許してもらっているのだと思うと嬉しいが、こいつを諦めようと決めてこっちに来てからそろそろ一年だって言うのに、未だにダメだ……。ここで声なんて聴いちまったからまた振り出しじゃんか。

「東野くんのハガキ、ときどき蓮が見せてくれる。彼、楽しみにしているみたい。ボクもだけど」
「お前も?」
「だって、東野くん、ボクには一枚も送ってくれないし」
「え……。それは、そんなの送ったら、迷惑かと……いや、送ってもいいなら、送るけど……」

 俺が真っ赤になりながらしどろもどろ答えている横を、日本人観光客が怪訝な顔をして通り過ぎていく。が、その(あくまで俺にとってだけだけど)甘い会話は突然打ち切られた。

「ちょっと! コーキったらいつまで話してんのよ。私もセツナと話したいのよ!」
「リナ……。俺とじゃないのかよ」
「コーキには、スイスに戻ってから幾らでも電話してあげるわよ」

 俺は慌てた。
「ちょっと待て。白鷺の前で、誤解されるような発言はするなよ!」
「あん? ああ、なるほど。セツナ、心配しないで。私とコーキは恋愛関係じゃなくてただの友達だから」
い、いや、そういういい方されると……。デリカシーのない女め。迷惑そうな顔をしている白鷺の姿が目に浮かぶ。ちくしょう。もともと1%もない奇跡の起こる確率をゼロにすんなよ、チェシャ猫女め。俺は無情にも切られた電話を眺めながら、嘘みたいなあいつとの会話を心の中で繰り返していた。

 あれ? そういえばこの会話、リナのスイスの携帯からだったな。スイスの番号で。っていうことは、あいつ、日本からスイスにローミングしていて、その電話でさらにロンドンの俺の携帯まで国際電話かけてきたんだ。通話料、一体いくらになったんだろう……。

* * *


「ありがとうございました。通話料、かなりかかったんじゃないですか。失礼でなかったら支払いたいと思いますが」
刹那さんは柔らかいけれどきちんとした調子でリナ姉ちゃんに訊いた。姉ちゃんは笑って手を振った。
「そんなの氣にしないでいいわよ。わたし、いつもヨーロッパにかけまくっているから。それより、コーキが喜んで嬉しいわ。さっ、ご飯食べにいきましょう!」

 刹那さんはきれいな微笑みを見せた。白鷺刹那さんとご飯を一緒に食べるなんて、ラッキーだなあ。栄二兄ちゃん、すごい人を知っているんだって改めて思ったよ。

「どんなものを食べたいですか? この時間だとまだどこも混んでいないから何でも」
刹那さんは腕時計を見て言った。五時十五分か、そうだね、まだ早いよね。

 リナ姉ちゃんは即答した。
「『ラーメン大将』!」

 刹那さんは目を丸くした。僕は思わず叫んだ。
「姉ちゃん! 刹那さんにラーメンなんてっ」
「なんで? ラーメン、美味しいよ。豚肉二倍、替え玉、餃子つき〜」

「リナ、そんなにラーメンが食べたかったら、明日連れて行ってやるからさ……。刹那センパイとはもう少し小洒落たところに……」
事なかれ主義の栄二兄ちゃんすらが説得に走ったが、意外なことに刹那さんがそれを止めた。
「いいわよ。そこに行きましょう。しばらくそういうところに行っていないし」

 天下の白鷺刹那ともなると、ラーメンを食べるのすらスタイリッシュだ。へえ、こんな風に格好よく食べられるんだ。周りの視線が熱い。だってこの店、むさ苦しいオヤジしかいないのに、やたらと目立つ女が二人もいるんだもの。リナ姉ちゃんは名前は知られていないけれどド派手な玉虫色のタンクトップを着て額にシャネルのサングラスを引っ掛けたガイジンだし、その向かいには有名モデルが座っている。同席している栄二兄ちゃんと僕は、周りの好奇と羨望の視線を一身に浴びて、食欲もそがれがち。でも、リナ姉ちゃんの食欲は全くそがれないみたいだった。

「リナ。よく食べるな」
栄二兄ちゃんが男性でも残しそうなラーメンをいつの間にか食べ終えて二皿目の餃子に手を出した姉ちゃんを白い目で見た。

「だって美味しいんだもの。セツナも食べなさいよ」
「ありがとう」
刹那さんは優雅な箸使いで餃子を一つ食べた。この人が食べると、ラーメン屋の餃子も「点心」って風情になる。

「東野くんとはどこで?」
刹那さんはアフタヌーンティーでも楽しんでいるかのような調子で話しかける。
「去年の春にロンドンで。日本のことを知りたくて話しかけたの。だから、私の最初の日本人の友達ね」

「もう、ロンドンに慣れたんでしょうね」
「そうね。馴染んでいるのは間違いないけれど、でもねぇ」
「何か?」
「心残りが日本にあるみたいね」
と、刹那さんの方を見て大きな口をにっと開けた。

「リナ姉ちゃんっ!」
僕と栄二兄ちゃんは姉ちゃんが何を言いだすのかとドキドキしっぱなし。

 刹那さんは琥珀色の瞳を少し揺らした。けれど、それについては何も答えなかった。
姉ちゃんは「ふ~ん」という顔をした。僕はいつだったか姉ちゃんが言った言葉を思い出した。
「日本人って、複雑よね。でも、それがいいところなのかも。私にはとても真似できないけど」
今の姉ちゃんは、きっとそう思っているに違いない。

「それはともかく、セツナ、わたしあなたが大好きになっちゃった。いつかスイスにも来てよ。そのレンって子も一緒に。その時はコーキもロンドンから呼びつけるから」
僕たちがさらにオロオロするのを目の端で捉えながら、刹那さんは全く動じずにふっと笑った。
「ええ、ぜひ。楽しみにしていますね」

 さすがだ。僕と兄ちゃんはただひたすら刹那さんに尊敬のまなざしを向けていた。

(初出:2014年6月 書き下ろし)
関連記事 (Category: 小説・リナ姉ちゃんのいた頃)
  0 trackback
Category : 小説・リナ姉ちゃんのいた頃
Tag : 小説 読み切り小説 リクエスト キリ番リクエスト コラボ

Comment

says...
外国でも恋愛と友情は分かれるのですかね。。
・・・と、ふっと思ってしまう自分がいますね。
まあ、夕さんの小説だからこそ思ってしまうところもあるのですが。

私は友達と恋人は完全に分けるタイプなのが、
そのことの理解が得られないことが多いのが常ですからね。。

こういう微妙な関係は見ていて、とても初々しくていいですね。
(*^-^*)


ようやく出張から帰ってきました。
またよろしくお願いします。

(*^-^*)
2014.06.15 05:36 | URL | #- [edit]
says...
こんにちは。

まずはリクエストにお応えいただいてありがとうございました。
頼んでおいてアレですが、刹那とリナさんの組み合わせはかなり大変だったんじゃないかと思います。
そこを恒樹を使って上手く調理してくれましたね。

それにしても、まさか恒樹に国際電話で、さらにリナさんからかと思いきや、刹那の声。
ビックリするでしょうね。
そこに割り込むリナさんは相変わらずです。そして、さらに誤解を生むような発言。流石です。

ミツ視点に移って、晩ごはん。
そこでも相変わらず空気を読まない、というか自分の食べたいものを物怖じせずに言うのはリナさんならでは。
でも、刹那ならラーメン屋でも気にしないのは確かでしょう。モデル時代はイメージの問題とか、色々ありますし、行く機会も少なかったでしょうし。
よし、今度ラーメン屋に行くところでも……書く、か?
しかし、この二人が並ぶと絵になるでしょうね。ミツとエージが周囲の視線で萎縮するのも当然かもしれませんね。

恒樹とミツ、二人の視点から刹那とリナさんの関係を垣間見られて嬉しかったです。
改めて、44444HITおめでとうございます!
2014.06.15 08:04 | URL | #T7ibFu9o [edit]
says...
おはようございます、そして、おかえりなさい!
長い出張でいらっしゃいましたね。
お元氣そうで何よりです。

そうですね。こちらでは友情と恋愛は日本よりもさらに別なように感じます。
っていうか、わざわざ、別に逢わないんですよね。
カップル単位で行動することが多いので、彼女を連れて女友達に逢う、みたいな感じです。

ただの友達が恋人に発展することはもちろんありますし、反対に、離婚した元妻と友達ってのもあり。
そんなわけで、日本だとありえない絵柄もけっこうありますよ。

またそちらにお伺いしますね。

コメントありがとうございました。
2014.06.15 08:17 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
おはようございます。

おお、早速読んでくださり、ありがとうございました。
いやあ、刹那さん、リナみたいなタイプに困りますよね……。
ただ逢わせても、迷惑なだけかなって感じで。でも大人だから「迷惑」って顔はしなさそうだし。

恒樹も一年経ってもまだひきずっているって、かなり重症ですが、それをこじらせるのがリナ。
もはやメチャクチャです。

電話だけだと、刹那さんのらしさというか、すごさがいまいちでないので、ラーメン屋に連れて行ってしまいました。一般のイメージからすると、そんなところへは絶対に行かないだろうけれど、あの一人称からすると実は蓮君と一緒に入って普通に食べていそう。

お。本編でもラーメンシーンですか? うん。嬉しいなあ。どんなメニューをチョイスするのか楽しみです。スタイル抜群なのに、意外とよく食べるってイメージもあるんですけれど、どうでしょう。

ミツも栄二も完全に役不足ですからね。今回は恐縮しっぱなしですね。(あ、いつもか)

お祝いと楽しいリクエスト、どうもありがとうございました。刹那さんを快く貸してくださり、嬉しかったです。
2014.06.15 08:26 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
相変わらずリナは凄いですね。
空気は全然読んでいないようなんですけど、ギリギリの配慮が効いていて、偶然の神様の導きによって全てがとてもいい方向に動いていく。
リナ姉ちゃんの特技ですね。いつも読んでいてスカッとします。でもほんとデリカシーが無いです。
今回、刹那さんとのコラボでセツナさんを読ませてもらったんですが、良いキャラですね。ほれぼれしますよ。そして恒樹も楽しいです。永遠に報われないキャラなのかな?
そしてミツはやっぱり振り回されていますね?実はこれが楽しくなっているのかも。

リナ姉ちゃん、楽しませていただきました。
2014.06.16 14:59 | URL | #0t8Ai07g [edit]
says...
こんばんは。

リナは、ええと、本当に何も考えていませんね。
今回困ったんですよ。繊細かつ大人の刹那さんと、ハチャメチャなリナって、全く接点がなくって。
ミツと違って刹那さんはオロオロなんてしないだろうし。かといってトミーみたいに罵倒もしないだろうし。
で、もともとの接点ということで恒樹を引っ張りだしてきました。彼はデリカシーゼロのリナにもへこたれませんし。

恒樹は、たぶん報われないままだと思います。紗那さんのこれまでのコメントの感じだと。
でも、あれですかね。老後の茶飲み友達レベルでは報われる日も来るのかも?
どうなんでしょうね。紗那さんのお情けに期待しましょうかね。
紗那さんの本編は、とても面白いです。私のと違って、ちゃんとラノベしているし。

ミツは振り回され役がデフォルトですからね。次回はもう少し話を動かさないと。
っていうか、リナはそろそろスイスに帰れって……。

読んでいただいて嬉しいです。

コメントありがとうございました。
2014.06.16 19:12 | URL | #9yMhI49k [edit]

Post comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackback

trackbackURL:http://yaotomeyu.blog.fc2.com/tb.php/853-3e454536