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Posted by 八少女 夕

【小説】森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架(14)白薔薇の苑 -1-

ちょうど中世のお城をいくつかみて帰って来た所ですが、その目でこの小説の記述を読み直してみても、幸いな事に大きな違和感はありませんでした。あ、わざわざ詳細な記述を避けていた所も多いのですが、書いた所に関しては大丈夫だったのでひと安心。

今回も少し長いので来週と二つに分けました。切るとしたらここだなという所が大体半分だったのでよかったのですが、ここには白薔薇の苑は出てきませんでしたね。まあ、いいや。


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あらすじと登場人物




森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架
(14)白薔薇の苑 -1-


「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」関連地図

 それからマックスはほぼ毎日城へやってきた。城内に住居を用意すると言われたが、わざわざ断り、『カササギの尾』に留まる費用だけを王家に払ってもらうことにした。

 王家としてはその事には異存はなかった。サン・マルティヌス広場は王宮から近くいざという時にはいつでも呼び出せたし、『カササギの尾』の一日の滞在費用は王家にとって午餐の一人分にも当たらぬものであったから。王宮では、一日三食の食事が出された。比較的簡素な朝食、それからたっぷりの酒とご馳走のでる昼食と夕食である。スープが出た後、豚肉、羊肉、牛肉、家禽などを二種類から三種類、それぞれ別の調理法で煮たり焼いたり冷製にしたりして合計で九種類ほどの料理として次々と提供する。これに豆類や様々なフルーツなどが加わり、大量のパンとともに提供された。食事時間は二時間以上に及び、マックスには退屈だった。立派な服装で食卓につかなくてはならないのもうんざりだった。

 宮廷を一歩出ると、もっと簡素な食事が待っていた。豆や野菜や穀物のごった煮スープや、わずかな肉を干したり刻んだりした食事だ。それに『カササギの尾』には常連としてマウロや親友のジャックが《肉まな板》をよく運んできたので、人びとはこれを楽しんだ。《肉まな板》とは、王宮で肉を切る時のまな板代わりに使われる固いパンで、食事の後には貧民や動物に与えられていたのだ。肉汁をたっぷり吸っているため、肉を食べられない貧しい客たちにも好評だった。

 マウロやジャックとは、宮廷でも『カササギの尾』でも、よく顔を合わせた。ジャックは召使いで、主に広間で顔を合わせる事が多かった。もちろん宮廷では「ティオフィロス先生」に召使いが声をかけるなどということは許されないので、目礼をするだけである。馬周りの仕事をしているマウロも同様だ。だが、二人と『カササギの尾』で親しく話をするうちに、マックスはマウロが、バギュ・グリ侯爵令嬢ラウラに使える召使いアニーの兄であることや、そのアニーの親友である姫の召使いエレインとジャックが恋人同士であることも知ることになった。それで、彼は表立っては訊けない姫君の評判や、ラウラの立場についても少しずつ知ることとなったのである。

* * *

「ねえ。レオポルド様って、サルのように醜くて、矮人のように背が低いの?」
マリア=フェリシア姫は、極楽鳥の羽で出来た大きな扇で左右から侍女に風を送らせていた。その妖艶で自信に満ちた笑顔は、明らかに容姿の劣る存在を馬鹿にしている事を示していた。マックスはその言葉の奥に込められた自分の出身国の支配者に対する侮辱に腹を立てたりはしなかった。国力の違いは誰の目にも明らかであるし、容姿にしか興味のない多少資質に問題のある王女が担う予定のこの国の未来にもさほど興味がなかったからだ。

「姫様がお話になっておられるのは、現国王であるレオポルド二世陛下の事ではなく、かのブランシュルーヴ王女と結婚なさったレオポルド一世陛下の事でございますね」
「あら、違うわ。そっちがサルみたいに醜い小男だったのは百も承知よ。私が言いたいのは、なぜ前国王がよりにもよってそんな醜い男と同じ名前を付けたのかってことなの。生まれた時にあまりに醜かったからそうしたのかなって思ったのよ」

 いくらか常識を心得ている女官たちはあまりの無礼な物言いにぞっとしたが、マックスがそれに構う様子もなかったのでホッとした。間もなく実現するはずのグランドロンからの使者との謁見で王女が何を言いだすかと思うと彼女たちの心は重くなった。

「前国王陛下は、容姿の事でお名前を付けられたのではないと思われます。現に国王陛下はレオポルド一世陛下の再来と言われるほどに力強く版図を拡大され、国内の事業を勇猛に進められています。その意味で、ブランシュルーヴ王女の再来との評判高き美姫である姫様とは真にお似合いかとお喜び申し上げます」

 全世界でかつて存在した事がなく、これからも存在しないであろうと謳われる美女、ブランシュルーヴ王妃と比較するとは我ながらおべっかにも程があると思ったが、姫の方はまんざらではないと思ったらしい。
「じゃあ、そんなにみっともないお姿じゃないと期待していいわけ?」

 彼は微笑みながら答えた。
「私めは女性ほどには男性の容姿に興味を持つ方ではありませぬが、わが君主はなかなかの男丈夫かと思われます。背は私よりも頭半分ほど高く、まっすぐ艶やかな長い黒髪をしておられます。大変な自己克己の持ち主でおられ、日々剣の鍛錬も怠られぬため、しっかりとした胸板と肩幅、甲冑を身に着けられたお姿は惚れ惚れするほどでございます。ただし、これは私めの意見、目の肥えられた姫様がご自身で判断なさるとよろしいでしょう」

 姫は複雑な顔をしていた。縁談の進んでいる相手が醜いサル同様の容姿でない事は歓迎すべきニュースのように思われたが、そのように屈強で粗野な男が、自分の美しさを本当に理解して大切にするつもりがあるのかどうか不安だったのだ。王の女遊びの噂についても真偽が確かめられていないし、出来る事ならばこの話をどうにかして断りたいと思っていた。その一方で、実際に有名なグランドロン国王に会い、「何と美しい姫君だ」と言わせてみたいとも思うのだった。

 マリア=フェリシア姫が執拗にグランドロン国王の容姿について問いただしている間、側に控えていたラウラは窓の方へと顔を向けていた。彼はその様子に氣がついて、《学友》の娘をそっと観察した。ラウラには容姿がどうこうという以前に、グランドロン王レオポルド二世に対しての不快感があるように見受けられた。

 センヴリで働いている時にもそうだったが、グランドロンとその国王に対して好意的に受け止められていることは少なかった。ルーヴランでも、センヴリでも、グランドロンという国は面白みのない冷たい人間の住んでいる土地という印象が強いらしい。加えてここ数世代のグランドロンの版図拡大と戦争の記憶からか、恐ろしい人びとと思われていることすらある。この数十年の間にマールとノードランドを実際に失ったルーヴランの王宮でグランドロン国王がよく思われているはずはないと思っていた。

 けれど、それを差し引いても、ラウラの不快そうな表情にはひっかかる。結婚の話が進んでいるのは姫の方なので、そのことを氣にする必要はないのだが、他のことには理性的なものの見方をするこの娘らしくないと訝った。
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Comment

says...
更新、お疲れ様です。

マックス、宮廷の不自由さからうまく逃げましたね。ほんと自由人だわ、この人。弁も立つし(笑)
まあ、「カササギの尾」は、いろいろと生の情報も得られて、あらゆる意味で「美味しい」場所なんでしょうね。
「肉まな板」って、初めて聞きましたけど、面白いですね。フランスパンみたいな感じでしょうか?

姫様~、お相手の容姿にこだわりすぎですって。まあ、見も知らない相手に嫁がされるのだと思うと、普通なら不憫だなとか思うのですが……。なぜかこのお姫様に対しては、そういう感情が湧きませんね。嫁姑問題にでもぶち当たって、少しは苦労してきなさい(笑)

こういう話題になったときのラウラの浮かない表情が気になります。
次回、白薔薇の苑でなにがあるのか、楽しみです。
2014.09.17 11:13 | URL | #V5TnqLKM [edit]
says...
やっぱり姫の態度にルーブランの不安を感じてしまいますが、この姫にそんな自覚は無いんでしょうね。
よほどラウラの方が頼りになるように思います。
マックスの上手い立ち回りに感心してばかりもいられませんが、彼の情報収集能力にも感心しています。
たちまち情報を仕入れ世間に溶け込んでしまいます。彼、隠密にピッタリですよ。
マックスはラウラの様子が少しは気になるのでしょうか。
夕さんがこの部分をどのように進行させるのかちょっと楽しみです。
サキも不快そうな表情、気になってはいます。

「肉まな板」って焼いて食べれば食べられそうですが。本当にあったのでしょうか?あ、でも生の状態を思い浮かべると食べられないかも。
不思議な習慣ですが、タンパク源の有効利用という意味では合理的ではあります。
でも普通のまな板ではダメなのかな?

2014.09.17 14:21 | URL | #0t8Ai07g [edit]
says...
こんばんは。

マックス、本当に好き勝手ですよね。23と作品代わるなんて絶対無理。
そうなんです。マウロたちと仲良くなって、お城では訊けない事もいろいろと教えてもらい、しかも食事もおいしい「カササギの尾」でのんびりと楽しんでいます。

「肉まな板」は「カラーイラスト 世界の生活史 8 城と騎士」というビジュアルブックで仕入れた情報です。そのイラストを見ると、平ぺったい本当にまな板みたいで、その上でローストビーフみたいに調理した肉をスライスしています。

このお姫様は、本当に「おいおい」ですが、まあ、家臣からすると下手に政治に興味を持たれてめちゃくちゃやられるより、ここまで無関心の方が効果的に政治を牛耳れるようですね。
実は、グランドロンの母后はちょっときつい性格と言う設定ですが、この作品では出てきません。嫁姑戦争があったら面白かったんですけれど、ちょっと事情がありまして……。

ラウラ、ザッカの情報操作が功を奏して、かなりレオポルド二世に偏見が……。次回以降、少しずつ主役二人が知り合っていきます。ま、最初は大した事ないですけれど。

コメントありがとうございました。
2014.09.17 20:15 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。
日本ももう秋なんですね。

この姫は、全く自覚がないですね。女王になったら今よりも贅沢ができるくらいにしか思っていません。
マックスはシモジモの出身という自覚があるので、全ての階級に自由に自分を合わせられ、かなり柔軟な人ですね。隠密かあ。やったら面白いかも……。

ラウラの存在に、そんなに注目していなかったのですが、少しずつ氣になっていく予定です。

「肉まな板」はTOM-Fさんへのコメ返にも書いたのですが、実際にあったらしいです。生の肉じゃなくて、焼いた肉を切るのに使ったようです。そして、肉は貴族たちが食べて、まな板に使ったパンだけを貧民へ。ハンバーガーの肉汁の沁みたバンズだけをもらったようなものでしょうか。
普通のまな板でもよさそうな氣がしますが、当時はまな板の滅菌書毒などができなかったから、パンの上で切って使い捨てにした方がよかったのかもしれませんね。面白い習慣です。

コメントありがとうございました。
2014.09.17 20:27 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
窮屈な服で、2時間もテーブルに縛りつけられての食事は、いやですね><
街の安宿に逃げたい気持ち分かります。
「カササギの尾」では、王宮の正確な情報が得られるようですし一石二鳥。

マリア=フェリシアが、つぎにどんな失言をするのかも、このところ楽しみになってきました。
でも肝心のラウラとマックスの関係が、予測できませんね。
2人はきっと、いい同志になると思うんだけど。


2014.09.18 09:06 | URL | #GCA3nAmE [edit]
says...
こんばんは。

そう二時間の窮屈な食事も、たまにならいいですけれど、一日二回ってツラすぎ(笑)
そんな事をしていたら大変な体型になっちゃいそうですし。

マリア=フェリシアを書くとき、けっこう困りました。いい人に寄っちゃわないように、徹底しないと。
でも、ちょっと呆れますよね。

ラウラとマックスは、ちょっとずつですね。
もっとも、この後は今までほど展開遅くありませんのでご安心を。

コメントありがとうございました。
2014.09.18 18:41 | URL | #9yMhI49k [edit]

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