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Posted by 八少女 夕

心の黎明をめぐるあれこれ(7)異界のとなりに

本日は、クリストファー・ティンの『Calling All Dawns』というアルバムにちなんだエッセイ連作『心の黎明をめぐるあれこれ』の7作目です。

第7曲は『Caoineadh』使われている言語はゲール語です。


『心の黎明をめぐるあれこれ』を読む
『心の黎明をめぐるあれこれ』を始めから読む




心の黎明をめぐるあれこれ
(7)異界のとなりに
 related to “Caoineadh’


 子供の頃、私はいつもどこか遠くへ行きたかった。それも、学校の遠足や修学旅行のような決められた場所に集団で行くのではなく、自由に「ここではないどこかへ」行きたかった。東海道線に乗って静岡県まで行く短い時間に、太平洋を見ながら心ゆくまで空想を泳がせた、あの時間が愛おしかった。

 あるていど歳を重ねると、人は金銭的にも、能力的にも多くを手にする。子供の頃には不可能だった新幹線や寝台列車の切符を買うことは、「いつか叶えてみたい遠い夢」ではなくなる。それどころか海外旅行も大冒険ではなくなる。

 私は、海外に住み、日々外国語を話し、365日海外旅行をしているのと変わらない生活をすることになった。年にいく度も国境を越え、見たかったものを見て、食べたかったものを食べた。

 それでも、遠くへ行きたいという願いは、消え去っていない。よその惑星や宇宙に行きたいという願いは皆無だけれど、「ここではないどこか」に対する憧れは、まだある。そして、そのハードルは子供の頃よりも高くなってしまった。100キロメートルほど移動しただけで心躍っていたあの頃には、世界は未知のもので満ちていた。現在は既知のものに埋まり、散文的で、機械的な世界に囲まれている。

 そんな私を、今も昔も瞬時に心躍らせてくれる魅力に溢れた場がある。それが、ケルト民族の遺構だ。

 ケルト十字、ドルイド教。ケルト文明や類似するあれこれが好きな輩には答えられない魅力がある単語だ。今では、ゲームやラノベなどですっかりメジャーになり、調べたければ事典なども日本語でいくらでも購入できるトピックになったケルト文明も、私がティーンエイジャーの頃は、まだかなりマニアックな人間しか知らない異文化だった。

 ケルト文明は、アイルランドやブリテン島それにフランスのブルターニュなどで現在もケルト系言語を話す人たちがその文化を引き継いでいる。そのため、かつての私のように、アイルランドあたりが発祥の民族と文化なのだろうと思う人も多いかもしれない。

 実際には、正確には不明ながら、中央アジアからやって来た民族の文化と文明が、後に血縁関係のない別の民族の子孫に引き継がれて、ブリテン諸島に残っている、ということらしい。

 何千年も、1つの島に同一民族が(何種類か)いて、同じ言語と文化を継承しているのが当然のように感じてしまうのは、たまたまその状況に近い極東の列島で生まれ育ったからだ。世界の別の場所では、それは当然のことではない。

 国家と言語と民族が、それぞれバラバラであることは、現在住んでいるスイスに関わり始めてからようやく「そういうことか」と実感を持って受け止められるようになった。

 住民AとB、Cが、全員同じ言語を話すとは限らない。Aは異国語であるBの言語を便宜上用いつつ、とりあえず住んでいるCの文化を継承していくこともある。そして、BとCの子孫がすべてDの文化と言語に飲まれた後も、Aの子孫が異国でBとCのなごりを伝えることもあるのだと。

 ともあれ、考古学上または歴史上スイスに重要な爪痕を残したケルト人たちの直接の子孫は、すぐそこにいるのではないかと思うが、残念ながらスイスで私がそれを感じることは皆無だ。同じくケルト人が向かったスペインでも、ユリウス・カエサルと戦ったガリア人の地フランスでも。

 ブルターニュ半島やブリテン諸島には、言語だけでなく、古代より伝わるケルト文化が未だに残っている。たとえば、私がデボン州のなんでもない墓地を訪れたとき、ケルトに関する観光地でも何でもなく、そこに住む人たちの多くはごく普通の英語を話すキリスト教徒だったにも関わらず、ケルト十字の墓標が非常に多く目に付いた。ケルトの結び目のシンボルを組み合わせたものもあった。

 はじめてイギリスを訪れたのは、大学に入った年だ。日本で憧れていたケルトのシンボルが、現実に当たり前のように使われていることにひどく感激した。そう、まるで異世界に迷い込んだかのように。あの頃は、海外旅行の敷居はずっと高かった。海外へ行くこと自体が非日常に属していた。ましてや、自分がヨーロッパで暮らすことになるなど、夢にも思わなかった。

 ケルトに限らず、私はずっと民俗信仰に興味を持ち続けている。だから、このエッセイ集でも取りあげているように、節操なく「あれも好き、これにも興味がある」と騒いでいる。アイルランドには、残念ながらまだ行ったことがない。ゲール語も、ウェールズ語も、ブルトン語も何一つわからない。私の「ケルト大好き」はその程度の浅さだ。

 ともあれ、私がこれまでに関心を持った世界の多くの民俗信仰は、どちらかというと「生きている人間の世界」に関わるものなのだが、どうもケルトに関してだけは、「あの世に近い」と感じることが多い。

 たとえば、アーサー王伝説の終盤、瀕死の重傷を負ったアーサーを3人の女たちがアヴァロン島へ連れて行く。その女たちは、人間なのか、魔女なのか、はたまた妖精なのか曖昧であるし、アヴァロン島もどうやらあの世のようである。

 イングランド・サマセット州にあるグラストンベリー、フランスのブルターニュ半島沿岸にあるリル・ダヴァル、コーンウォール半島沿岸のセント・マイケルズ・マウントなど「ここがアヴァロンである」といわれる場所がいくつかある。現実の場所が伝説のあの世と一致すると考えられているところが、彼らの「異世界との近さ」を表しているように思う。(島根県の東出雲町に「黄泉比良坂」があるのと似ている)

 そして、ケルト神話では、英雄に人気があればあるほど、いわゆるこの世でのハッピーエンドにならない。負けて死んだり、妖精に魅入られて連れ去られたり、もしくはあっさり天に召されてしまったりするのだ。理不尽な誓約ゲッシュ に縛られて、やらなくていい危険に飛び込んで死んでしまう英雄もいる。

 立派な人物が亡くなる前には、バンシーまたはクーニアックと呼ばれる妖精があらわれて泣き叫ぶという。長い髪をし、泣きはらした赤い目で、怖ろしい泣き声を上げる妖精の不吉なイメージは、ケルトとあの世を地続きに感じさせた。

 さて、クーニアック(Caoineag=泣く者)と、『Calling All Dawns』第7曲の題名「Caoineadh(嘆き歌)」は、同じゲール語の単語から来ている。

 ヨーロッパにはアイルランドに限らず、哀悼歌の伝統があり「エレジー」「ラメント」と呼ばれ、実際に「Caoineadh」は「エレジー」「ラメント」と訳されることが多い。

 しかし、イタリアやドイツなどにある「エレジー」や「ラメント」は楽曲に限られ、吟遊詩人によって語られるか、もしくは作曲されて歌うことが前提だ。一方で、「Caoineadh(嘆き歌)」は「キーン(Keen)」とも呼ばれ、葬儀の時に棺の上で読み上げられる詩を指す。ケルト的習慣、死の妖精バンシーを彷彿とさせる哀歌だ。実際にアイルランドでは、19世紀になっても実際の葬儀の一部として職業的「泣き女」が叫んでいたという記録がある。

 第7曲の歌詞を読むと、悲劇的な内容には思えない。英語から日本語に訳してみた。
 

我が友、心から愛する者よ!
ああ、輝く剣の使い手よ。
起きて、服を着てください
あなたの美しく高貴な服を
黒ビーバーを纏い、
手袋をはめてください。
見て、鞭はここにかかっている
あなたの素晴らしい雌馬はあなたを待っている
狭い道を東に向かって走って
茂みはあなたの前でかがみ
小川はあなたの道行きでは幅を狭くし
男も女もあなたにはひれ伏すだろうから……



 非の打ち所のない英雄の、立派な旅立ちを促す歌詞だ。メロディーは英雄の勇ましい旅立ちという感じではない。どちらかというと祈りのよう。しかも「Caoineadh(嘆き歌)」という題名であるからには、これは「起きて、服を着る」ことのできなくなった主人への虚しい懇願なのだろう。

 クリストファー・ティンによる解説を読むと、この歌詞の出典は「Caoineadh Airt Uí Laoghaire」だ。18世紀にアイルランドの大佐アート・オリアリーは、良質の馬をめぐるいざこざにより、とあるイギリスの役人に殺された。夫人アイリーン・オコネルは、アイルランドの伝統的な葬儀のために、とても長い悲劇的な詩を彼のために書き上げた。

 そこでこの詩のことも少し調べアイルランドの作家・詩人であるブレンダン・ケネリーによる英訳をみつけた。ティンが用いた部分を含む長い詩には、夫が無残にも殺され、それを嘆き復讐を誓う様子が語られていた。

 悲しみと喪失を痛烈に訴えかけ、それどころか夫の敵を自ら率先して討とうとする態度は、ケルト民族の伝統に通じる。控えめな表現をよしとする日本人がこの詩の全文を読むと芝居がかっているように感じるが、そこが文化の違いなのだとも思う。

 妻の嘆きはバンシーのそれに通じ、現実の18世紀の夫は伝説の英雄の姿に重なる。ティンの引用した部分を読んだとき、私はそれが18世紀の話だとは想像もできなかった。まるで、アーサー王の時代にタイムスリップしたようだ。

 一方、同じケルト文化がかつて存在し、国の呼び方にその民族の名ヘルヴェティアを残すスイスには、たとえその血が体内に流れているとしても、それを感じさせる文化は何ひとつ残っていない。

 スイスには幽霊がいない。これは私の長年の感覚だ。妖精も、ゴブリンも、アンデットも。いるのが似つかわしくないと表現した方がいいかもしれない。人々はその存在を信じないだろうし、万が一存在していても、彼らですら「この行為は合法か」もしくは「どの保険会社に加入すべきか」といった興ざめな話題をしていそうだ。柳の下、廃墟、古い巨木、大きな岩の陰、どこに行っても、「そこにはなにかがいる」という伝承はない。いたのかもしれない妖精たちも、語り手がいなくては張り合いもなく、いずこへか立ち去ってしまっただろう。

 同じヨーロッパに住みながら、私がブリテン島を訪れるとき、若き日の私と同じく心躍るのは、「ここは異界が近い」と感じる余地があるからだ。見えなくとも、妖精やゴブリン、樫の側にいる緑の者たちが、去っていないと感じるからだ。

 いずれまたケルトの異界を感じにブリテン諸島を旅してみたいと思っている。セント・マイケルズ・レイラインをたどり、「トリケトラ」や「永遠の結び目」といったケルトのシンボルを探し、大きな樫やヤドリギにケルトの秘密を感じる、自己満足な旅をしてみたい。「ダナンの子供たち」が残していったとする巨石の神秘を訪ねたい。

 まだこの世を立ち去っていない異界の者たちが、私を待っていると考えるほどおめでたくはないが、あの世と地続きになっている土地に佇むロマンを感じることはできるだろう。

(初出:2020年7月 書き下ろし)

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Caoineadh (feat. Anonymous 4)
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Tag : エッセイ

Posted by 八少女 夕

Hugo飲んだ

旅に出かけます、みたいなことを書きましたが、結局1泊2日しかでかけませんでした。いやあ、どうも天候が毎日雷雨。しかも,コロナは再ブレイクの兆し。結局後半は、大人しく家にいました。


Hugo

さて、その出かけた1泊は、友人に会いイタリア側スイスにいったのです。そして、今年初めてのカフェテラス。

頼んだのは、今まで頼んだことのないカクテルでした。Hugoという名前。中身は、エルダーフラワーシロップとプロセッコ(スパークリングワイン)、それにミントのようです。調べたら7,8年くらい前にはポピュラーになっていたカクテルです。

もうひとつ、イタリア語圏スイスだとどこにでもあるカクテルにAperol Sprizというのがあるのです。オレンジ色のAperol というリキュールとプロセッコのカクテルなんですけれど、このAperol の味が私は苦手なのです。好きだという女性はとても多いのですよ。でも、私にとってはお薬に使われているような人工的な味にかんじられるのですね。

それで、Hugoを頼むときもちょっとした賭けのつもりでした。で、美味しかったのです。

ご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、私は2年に1度はエルダーフラワーのシロップを自分で作ります。このシロップの味をとても好きなのです。そして、カクテルにするとプロセッコのわずかな苦みもすっかりなくなり、女コドモ向けのジュースのようなカクテルになるのですね。

これはいいものを知ったと、ほくほくしています。
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Posted by 八少女 夕

【小説】禍のあとで – 大切な人たちのために

今日は「123456Hit 記念掌編」の第1弾をお送りします。あ、まだお1人分枠がありますので、リクエストのある方はどうぞ。

今日の小説は、山西サキさんのリクエストにお応えして書きました。


リクエスト内容
   テーマ: 愛
   私のオリキャラ、もしくは作品世界: サキさんの知っているキャラ
   コラボ希望キャラクター: サキさんの作品のキャラクターを最低1人
   時代: アフターコロナ。近未来(2~5年先?)
   使わなくてはならないキーワード、小物など: 道頓堀



今だってわからないのに、アフターコロナの道頓堀なんて、皆目、予想がつかないのですけれど、書けとおっしゃるので仕方なく書いてみました。これ、いまから1年後にこうだったら困るかもしれません。笑い話になることを期待しつつ。

さて、登場人物です。実は、こちらで使うキャラクターはすぐに決まったのです。アフターコロナだと、近未来キャラのうち、もう生まれているのがぼちぼちいますので。使ったのは、いつもコンビで登場している2人組です。で、この2人と共演させるためにお借りするのはどなたがいいかなと迷ったあげく、この方にしました。

というのは、メインキャラの方の年齢設定が今ひとつわからなかったので。この方は3代くらいずっとストーリーの中にいらっしゃるので、どこかはかするだろうなと思ったんです。



大道芸人たち・外伝
禍のあとで – 大切な人たちのために


 やっぱり赤い街だ。拓人は、思った。青空を額縁のように彩る看板に赤やオレンジの利用率が高い。昨日のホールや泊まったホテルのある周辺はそうでもなかったので、彼は印象を間違って記憶していたのかと訝っていた。

 拓人が大阪を訪れるのは2度目だ。2年前は、父親のリサイタルだったので純粋にピアノを聴くために連れてこられたが、今年はどちらかというとシッターが見つからなかったので連れてこられた感がある。母親が従姉妹と一緒にジョイントコンサートをするのだ。その娘で拓人とは再従兄妹の関係にある真耶も、同じように連れて来られていたが、彼女の方は大阪が生まれて初めてだった。

 とはいえ真耶は、まだ6才だというのに妙に落ち着いていて、コンサートは当然のこと、新幹線でも街並みでもはしゃいだりしなかった。

 2人の母親たちは、今日はワークショップがあり観光につきあってくれる時間はない。ホテルで大人しく待たせるつもりだったのだが、夕方訪れる予定にしていたヴィンデミアトリックス家が観光をさせてから先に邸宅へと連れて行ってくれると申し出てくれたので、安心して仕事に専念しているというわけだ。

* * *


「私、歩くのが速すぎやしませんか、お2人とも」
香澄は、訊いた。黒磯香澄は、ヴィンデミアトリックス家で働いている。今日は、東京から来ているお客様の子供たちを観光させてから、邸宅につれていくいわばベビーシッターの役目を任されていた。

「大丈夫です。……だよな、真耶」
拓人は、香澄を挟んで反対側にいる真耶に訊いた。大きなマスクの下から彼女は「ええ」と、くぐもった声を出した。外出時に誰も彼もがマスクをするエチケットは、ようやく薄れてきたが、今日はかつての繁華街に行くのだから、預かる方としては徹底したいと、香澄が2人につけさせたのだ。もちろん彼女自身もしている。

 真耶は、道頓堀の繁華街を眺めながら、言った。
「……ここは、なんだか、テーマパークみたいなところね」

 真耶は、戸惑っていた。それはそうだろう。大きなタコや、ふぐや、カニがあちこちにあり、騒がしい音がしている。東京の繁華街で見るよりも看板が派手だ。

 平日の昼とはいえ、人通りは少ない。これではマスクも必要なさそうだ。かつての賑やかな道頓堀を知る香澄には不思議な光景だった。
「ここ、開店時間、遅いの?」
拓人は、香澄に訊いた。

 香澄は首を振った。
「いいえ。もう11時ですもの。例のロックダウンで閉店してしまったお店がたくさんあって、まだ次のテナントが決まっていないところが大半なのね」

 未知のウイルスのために、世界中で都市のロックダウンがされてから1年以上が経った。拓人の通っていた小学校も、しばらく登校禁止になった。現在はロックダウンをしている都市はないけれど、社会的距離を保ち感染を防ぐための政策は続いていて、2年前のような賑わいは世界中のどこにも戻っていない。

 拓人や真耶の住む東京も、かつては日本でももっとも賑わったと言われる繁華街の1つであるここも、押し合いへし合いといった混み方はもうしないらしい。見れば、シャッターを閉め切ったままの店がいくつもある。

「2年前は、人がいっぱいで、まっすぐ歩けなかったよ」
「そう。そういえば、ずっと外国人観光客が押し寄せていたのよね。それはまた、私には少し不思議な光景だったのだけれど」

 香澄は、2人に優しく話しかけた。
「お昼はどこにしましょうか。スイスホテルのラウンジがいいかしら」

 拓人は、露骨に不満を表明した。
「えー。せっかく道頓堀にいるのに、そんな洒落たとこに行くの? 東京と同じじゃないか」

「でも……」
香澄は少し困ったように、フリルのたくさんついた可愛らしい洋服を着た真耶を見た。大人しく文句も言わずに付いてきているけれど、この上品な少女は、B級グルメの店には行き慣れていないだろうし、嫌がるのではないかと思ったのだ。

 視線を感じた真耶は、香澄を見上げて言った。
「わたしのことなら、大丈夫。拓人、たこ焼きとお好み焼きを食べるって、新幹線からずっと言ってました。ね、拓人」
「うん。ママたち、うちで食べるのとおんなじようなものばっかり食べたがるんだもん。今を逃したら食べられないよ」

 香澄は笑いを堪えた。白いシャツに蝶ネクタイとグレーの半ズボン、上品そうな格好はさせられていても、彼はやんちゃ盛りの少年だ。マダムたちの好きそうな小洒落たカフェよりも、目の前の鉄板で繰り広げられるエンターテーメントが楽しいに決まっている。インパクトの強いコクと旨味たっぷりの庶民の味も、子供の舌には合うだろう。

 ヴィンデミアトリックス家に勤めて長いので、良家の食事がどんなものであるか香澄はよく知っている。それらは栄養に富み、美しく、繊細で、多くの文化と技術が凝縮されている。子女たちはそれらを日々口にすることで、外見だけでなく内面までも、一両日では真似のできない真の上流階級に育っていくのだろう。

 そうであっても、庶民の味の美味しさをよく知る香澄は、B級グルメを心ゆくまで楽しむ幸福もまた人生を豊かにすると思うのだ。せっかくだから、めったにない機会を2人にプレゼントしてあげたいと思った。

 普段なら決して許してもらえないだろう、たこ焼きの買い食いからはじめた。かつては長々と行列ができていた有名店もほんのわずか待つだけで購入することができる。たこ焼きだけでお腹いっぱいになっては本末転倒なので、香澄は一舟だけを買い、堀沿いの遊歩道にあるベンチに腰掛けた。

 真耶は、小さなハンドバッグにマスクをしまうと、レースのハンカチを取りだして、おしゃまに膝の上に置いた。その間にたこ焼きの1つはすでに拓人の口に放り込まれていた。香澄は慌てた。
「氣をつけて! 中はとても熱いから!」

 あまりの熱さに目を白黒する拓人を見て、女2人は思わず笑ってしまった。わずかに火傷をしたらしいけれど、それでも拓人の食欲は衰えなかったようで、嬉しそうに大きな3つを平らげた。香澄と真耶は2つずつを楽しんで食べた。香澄は、ここのたこ焼きが大好きだ。大きなタコのほどよい弾力。生地の外側はカリッとしているのに、中側の柔らかな味わい。ネギや鰹がソースと上手に混じって、ひと口ごとに幸福が口の中に広がる。子供の頃から、たこ焼きは彼女にとって「ハレの日」の食べ物だった。真耶もたこ焼きを氣に入ったようなので、香澄はほっとした。

「こんどはお好み焼きだね」
拓人の言葉に笑いながら、香澄は以前夫に連れて行ってもらった美味しいお好み焼き屋に2人を案内するため、法善寺横町の方へ向かう。

 橋を渡り、少し歩いていると、ギターと笛の音が響いてきて、真耶は足を止めた。異国風のメロディーがここらしくないと香澄は思った。見ると南米風の衣装をまとった2人の男と拓人たちと同年代の少女がいた。ギターとケーナを演奏する2人の大人は、背の高さが少し違うものの明らかに兄弟なのだろう、そっくりの見かけだ。傍らの少女は鈴で拍子を取っている。

 彼らは東洋人のようでもあるが、肌が浅黒くどこか悲しげな印象を与える。拓人と真耶は、少女の前に歩み寄った。

 2人の他に、その演奏に足を止めるものはほとんどいなかった。その空虚さと、ケーナの独特の息漏れと音色のせいで、曲調は決して悲しくないのだが、香澄はなんだか居たたまれない心持ちになった。

 真耶と拓人が熱心に聴いてくれるので、鈴を振っている少女は嬉しそうに笑った。その曲が終わると、子供たちは大きく拍手をした。ケーナとギターの大人たちは帽子をとって大きくお辞儀をした。

「すてきでした。南米のどちらからですか」
香澄が訊くとケーナの男がにっと笑った。
「ペルーのクスコですわ」

「あら。こちらにお長いんですか?」
香澄は驚いた。男の返事が、大阪弁のアクセントだったからだ。

「せや。ぼちぼち30年になんねん」
なんとも不思議な心地がする。民族衣装を着た外国人が外国なまりの大阪弁で話しているのを、東京から来た子供たちが不思議そうに見上げているシュールな絵柄だ。大道芸人だろうか。

「音楽家なの?」
拓人がストーレートに訊いた。ギターの方の男が、首を振って答えた。
「いや、その裏でペルー料理屋をやっているんだ」

「まあ。ここにペルー料理のお店が?」
香澄は思わず声を上げた。

「ええ。小さい店です。よかったら、どうぞ」
男は、ギターケースの中に入っていた紙を香澄に渡した。

「なあに?」
真耶がのぞき込む。

「チラシだ」
拓人が受け取って真耶に見せた。ランチタイムセットの案内だ。

 香澄は、どうしようかと思った。楽しみにしている拓人はお好み焼きを食べたいだろう。一方、真耶は同じ年頃の少女やいま聴いた音色、ひいてはペルーに興味を示している。ここで意見が分かれたら……。

 拓人は、真耶の方を見た。
「行きたい?」

 真耶は「お好み焼きはいいの?」と訊き返した。拓人は、にっと笑うとチラシを香澄に渡して、言った。
「ここに行っちゃダメ?」

 香澄は、ほっとして微笑んだ。
「行きましょうか。……子供たちの食べられる、辛くない料理もありますか?」

 ギターの男が頷いた。
「今日のランチセットは、ロモ・サルタードといって、醤油も入った日本人向けの味ですし、唐辛子は使っていません」

「よかったな。来てくれはる、いうとるよ」
ケーナの男が、少女に言い、彼女はうれしそうに微笑んだ。

 その店は、路地裏の地下にあり、狭かった。外から見ると、こんな所に店があるとはわからないぐらいだ。ランチタイムなのにここまで閑散としているのは、どんなものだろう。味はわからないが、店の感じは決して悪くない。店内は暗くならないように木目の壁で覆われ、机の上には刺繍された黄色いテーブルクロスがかかっていた。

 奥から女性がひょいと顔を出した。
「ママー!」
女の子がその女性に向かって飛んでいった。

 2人はスペイン語で何かを話し、女の子の母親が3人ににっこりと笑った。
「マイド。ドーゾ」

 演奏していた2人とくらべると、日本語は片言ではあるが、彼女も優しい笑顔で歓迎してくれた。ギターの男が、3人に水を運んできた。
「注文はどうしますか。ランチセットですか?」

 チラシの写真では、肉野菜炒めのように見えたので、3人ともランチセットを注文した。わりとすぐにでできたのは、牛肉の細切りとタマネギやピーマン、フライドポテトを炒めて、醤油やバルサミコ酢で味付けした料理だった。

「おいしいわね」
真耶は、あいかわらず上品に食べている。

 少女の母親が調理したのだろうか、家庭料理のような見かけだが、肉は軟らかいし、フライドポテトははサクッっとしていて、パプリカも上手に甘みが引き出されている。醤油とバルサミコ酢もしっかりからんでいて、舌の上でジュワッと旨味が広がる。これだけおいしい料理を出し、感じのいい店主たちの経営する店なのだからもっと繁盛してもいいはずだと香澄は思った。

 拓人は、四角錐に盛られたご飯を崩すのがもったいないようだ。
「ご飯が、ピラミッドみたいになってる」
「お、わかったかい。これは僕たちの故郷にあるピラミッドをイメージして盛っているんだよ」

 ギターの男が、テーブルの近くにやって来た。真耶の近くに立っている少女を膝にのせると、子供たちにもわかるように答えた。

「エジプトと関係あるの?」
「いや、ないと思うね。僕たちの言葉ではワカっていうんだ。神聖な場所って意味だよ」

「ペルーって遠いの?」
そう拓人が訊くと、女の子は「地球の反対側っていうけど、よく知らない」と言った。
「この子は、まだペルーに行ったことがないんだよ。ここで生まれたから」
父親が説明した。

「コロナが流行ったときに、帰らなかったの? 同じクラスのナンシーの家は、急いでアメリカに帰っちゃったよ」
拓人が訊いた。

 彼は首を振った。
「そう簡単にはいかなくてね。向こうには住むところもないし、この店をたたむのも簡単じゃない。それにこの子はここで生まれたから、向こうの学校にはついていけない。ここで踏ん張るしかなかったんだ」

 香澄は、この店をめぐる状況を理解した。国の仲間や観光客が来なくなり、外出の自粛の影響も大きく客足が途絶えたのだ。店内で待っているだけでは食べていけないほどに経営が苦しいのだろう。

 ケーナの男が出てきて、少女の父親に声をかけた。
「せっかくやから、何か演奏しよか、フアン。坊ちゃんと嬢ちゃん、何がええ? 『コンドルは飛んでいく』?」
奥のわずかに高くなって舞台のようにしてある所に座った。

 真耶が訊ねた。
「さっきの曲は、なんていうの?」

「ん? あれは、『Virgenes del Sol 太陽の処女たち』っていうんや。好きなんか?」
真耶は、頷いて訊き返した。
「たいようのおとめたちって、誰?」

 ファンが答える。
「昔、ペルーには僕たちの先祖の築いたインカという帝国があったんだ。そして、皇帝のいる都クスコには、全国から集められたきれいで賢い女の子たちが、織物を作ったり、お供えのお酒をつくったりしながら、神殿で太陽の神様に仕えたんだ。あの曲は、その女の子たちのための曲なんだよ」

 膝の上の少女は、大きな瞳を父親に向けた。祖先のインカの乙女たちを思わせる優しく澄んだ黒目がちの瞳。フアンは、娘をぎゅっと抱きしめて「頑張らなくちゃな……」と呟いた。

 香澄は、ひと気のない街並みのことを思った。興味を持って立ち寄った日本人、観光や出稼ぎで日本を訪れた外国人、それらの人々で賑やかだっただろう、かつてのこの店の様子を想像した。国に帰ることと、ここに残ることのどちらも楽ではない。苦渋に満ちた決断だったに違いない。客引きのため大道芸人のような真似をしてでも、この街のこの店で営業を続けるのは、守るべき大切な家族がいるからだ。

 みな頑張っているのだ。愛する家族や仲間たちを守るために。

「フアン~。来てや、弾くで~」
ケーナの男がしびれを切らしたらしい。
「わかったよ」

「ホセのおっちゃん、パパの従兄弟なの。一緒にクスコから来たんだって」
少女が、小さな声で説明してくれた。それから棚から鈴を3つ盛ってきて、2つをテーブルに置き、自分で1つ持った。

 拓人と真耶は、同時に鈴に手を伸ばして、駆けていく少女の後を追った。香澄は、2人のよく似たペルー人と、仲良く鈴を鳴らす子供たちが、仲良く演奏する姿を眺めながら、微笑んだ。

(初出:2020年6月 書き下ろし)

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Quena - Virgenes del Sol - Eduardo Garcia
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Posted by 八少女 夕

もう真夏

コロナ禍で世間は不安に陥り、私も別件であれこれやっているうちに、今年も半分終わってしまいました。

散歩道

夏至が過ぎてしまったんです。つまり、これからは日が短くなる一方。

つい先日まで雪が降っていたので、そんな感じがしないんですけれど、このままでは一番美しい季節がすぐに終わってしまう……。

ここのところ、ほぼ毎日散歩をしています。やはり、家から出ないでいると不健康ですから。これはそんな散歩道の途中で見た光景です。農家が十分に育った草原でせっせと草を刈るので、数日ごとに光景がガラッと変わります。

さて。一週間ほど留守にしています。コメ返等が遅れると思いますが、ご容赦ください。
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Posted by 八少女 夕

心の黎明をめぐるあれこれ(6)永遠の光の中へ

本日は、クリストファー・ティンの『Calling All Dawns』というアルバムにちなんだエッセイ連作『心の黎明をめぐるあれこれ』の6作目です。

第6曲は『Lux Aeterna』使われている言語はラテン語です。


『心の黎明をめぐるあれこれ』を読む
『心の黎明をめぐるあれこれ』を始めから読む




心の黎明をめぐるあれこれ
(6)永遠の光の中へ
 related to “Lux Aeterna’


 第6曲 “Lux Aeterna’は、このような歌詞だ。

Lux aeterna luceat eis domine
Requiem aeterna dona eis domine
主よ、永遠の光が彼らの上を照らしますように
主よ、彼らに永遠の安息を与えて下さい



 これはキリスト教の『レクイエム(死者のためのミサ)』典礼文の聖体拝領唱 (Communio)の一部と入祭唱 (Introitus)の一部だ。単純に、この曲を耳にするだけでは、これが『レクイエム』の一部だと想像するのは難しい。しかも、とくに悲しさを感じさせないメロディになっているので、余計にそう思う。

 しかし、私と『レクイエム』の関わりを考えるのに、この曲の淡々としたあり方は妙な符号を感じる。

 最初に『レクイエム』を耳にしたのはいつだろう。何のための曲か理解しながら聴いたのは3歳ぐらいだったろう。モーツァルトの『レクイエム』だった。

 両親ともにクラッシック音楽畑の家庭に育った私は、歌謡曲よりも早くにクラッシック音楽を耳にする、若干風変わりな育ち方をした。自分では記憶にないが、童謡と同じ氣軽さでワーグナーやベートーヴェンを口ずさんでいたらしい。

 さて、父が何度も繰り返しかけて、強烈な印象を私に残したモーツァルトの『レクイエム』は、ヘルマン・シェルヘン指揮ウィーン国立歌劇場管弦楽団による1959年録音だった。なぜこれほど細かいことがわかっているかというと、数年前にそのLPレコードを実家で発見したのだ。持ち帰りたかったが、LPでは聴けないので、写真だけ撮り同じ録音をiTunesストアからダウンロードした。

 このLPが幼かった私に大きな印象を残した要因の1つは、そのカバージャケットだ。おそらく本当に亡くなった誰かの青ざめた足の裏と白い布のアップという、大胆な写真が使われていた。2年前にiTunesでダウンロードした方は、もちろんそのように衝撃的な写真は使われていない。

 私の父が一時期狂ったようにこの曲ばかりをかけていた理由と、おそらく私が3才の頃だっただろうと推測するのは、その頃に私の弟が夭逝したからだ。享年3ヶ月だった弟を初めて見たのは、棺の中で花に囲まれている姿だったので、私には生きていた弟を亡くしたという実感は現在に至るまで薄い。もちろん両親にとってそれは全く違ったことだろう。今は3人ともあちら側にいる。私は、親への悼みを通して、両親の弟に対する想い、痛みや悲しみを感じる。

 子供の頃に私が聴いていた『レクイエム』も同様に、父母の感じ方と、私の感じ方とでは全く違ったものであったろう。私は、『レクイエム』と実際の身内の死が結びついていなかったのだ。そして、純粋に音楽としてモーツァルトの『レクイエム』を好きだった。
 
 そのような一風変わったなじみ方をしたせいか、私はごく普通のクラッシック音楽愛好家と比較しても『レクイエム』をよく聴いている。つまり、「お葬式の音楽」という物忌み感が薄かったように思う。なぜ過去形なのかというと、母が亡くなって以来は、どちらかというと本来の意味での鎮魂ミサ曲として聴くようになったからだ。

 誰もがクラッシック音楽やキリスト教の葬儀に詳しいとは限らないので、簡単に説明を入れるが、『レクイエム』とは「安息を」という意味のラテン語である。カトリック教会で「死者のためのミサ(死者の安息を神に願うミサ)」に使われるラテン語の典礼文が、この言葉で始まるのだ。そして、ミサは、言葉で唱えるほか合唱曲として演奏する形もあり、クラッシック音楽でいう『レクイエム』は、この典礼音楽のことをいう。グレゴリオ聖歌をはじめとして、多くの曲が存在するが、有名なのがモーツァルト、ヴェルディ、フォーレの3作品である。

 日本では、ヴェルディの『レクイエム』から『怒りの日(Dies irae)』が映画の主題歌に使われたのをご存じの方も多いかもしれない。私が聴くのは、やはり圧倒的にモーツァルトの作品で、次にフォーレ。ヴェルディは、通しで聴いたことがないかもしれない。これは個人の好みの問題もあるが、そもそもヴェルディの作品は教会で『死者のミサ』のために演奏されることが少ないのだ。オーケストレーションがドラマティックすぎて葬儀に向かないからかもしれない。

 このブログによく書くように、私は音楽を聴きながら小説のアイデアを膨らませていくことが多い。そして、2つの『レクイエム』の『入祭唱とキリエ』が、『樋水龍神縁起』の重要シーンの発想の源になった。モーツァルトが本編、そしてフォーレが続編である『樋水龍神縁起 Dum Spiro Spero』の、それぞれ瀧壺に潜るシーンである。

 死を意識せずに書いたかといえば嘘になるのだが、この2つのシーンはどちらも死と生の境界が非常に曖昧な世界を舞台にしている。

 私たちの日常では、死と生はコンピュータ演算で言えば1と0と同じくらい明確に分かれ、曖昧であることはあり得ない。たとえば、私が両親や弟とこの世で再会することは100%ない。けれど、『樋水龍神縁起』でなんとか表現しようとした世界、人間の叡智の及ばぬレベルの世界では、生と死がまったく同じものとみなされている。それは、キリスト教会で説かれる世界観ではなく、東洋哲学を元にした、けれど宗教に囚われない精神世界の話だ。私は、このエッセイで何度か述べている『般若心経』の解釈からこの世界観を作り出した。そこでは生と死だけではなく、聖と俗、男と女、過去と未来、愛と憎、有と無など全ての相反するものが1つとなる。

 その世界に向かうときに私がイメージしている曲が、どちらも『レクイエム』だったのは、私にとってその世界が死に近かったからではなく、私の原体験により『レクイエム』が死よりもそのどちらでもない世界に近かったからだ。弟は死でも生でもない世界に属していた。耳にしていたメロディも同様だった。その世界は、暗闇と光の両方を持っている。外界から光の届かない深い瀧壺に現実ともつかぬ黄金と虹色の光が溢れている。

 その世界観は、私自身がどのように世界を理解しているかの集大成でもある。私は一応カトリック信者の名簿に載っている信者だが、その思想はローマ法王庁の教示には全くしたがっていない。私が理解している「神」とは、キリスト教信者が信じ、そしてまた、彼らは認めなくとも、その他の宗教を信じる者たちも信じている至高の存在である。

 その存在は、私たちに都合よくは存在しない。免罪符や壺を買ったり、票集めに協力することで不老不死にしてくれたり死後に快適な場所を確保してくれるような存在ではない。人類だけに特権を与え、他の存在を破壊することを許可するような存在でもない。

 私がいまよりも幸福になれるか、楽な死を迎えられるかは、全く保証されていない。たとえ「あの世」があるにしても、私が他の誰かよりも有利になるように、いま現在できることは、ない。

 私が「この世」で、少しでも良く生きようとするのは、ポイントを集めて来世で何かの特典と交換するためではない。単純に、私は「この世」で後から後悔したくないから、つまり、自分の精神を良く保つためにだけ、信条にしたがって日々の生活を営んでいるだけだ。

 私がこの宗教観らしきものにたどり着いてから、そろそろ20年ほどになる。正しいかどうかはわからないし、誰かに勧めようとも思わない。ただ、私はそう考えて生きている。

 とはいえ、私が日常生活で本当に達観して生きているかと問われれば、それは違う。母が逝ったのは『樋水龍神縁起』を書いてから7年も経っていた2018年だが、大きなショックを受け嘆き悲しんだ。思想をもって感情を制御できるというものではない。

 同じ敷地内に住む大家の飼っていた犬や猫たちが寿命でこの世を去ったときですら、悲しくて辛かった。そういうものなのだろう。

 死に関することだけではない。日々の生活で理不尽な目に遭ったり、不愉快な思いをすれば、そのことで大いに感情を乱される。私はそれでいいと思う。悲しみや怒りに左右される分、喜びや楽しみの感情も私にはあり、それを思想に遮られることなくおおいに享受することができるのだから。

 私が2度と会うことのできなくなった人たち、両親や弟、祖父母、親戚、恩師、隣人、それに、短い寿命を駆け抜けていってしまった犬や猫たちの魂、ただの物質以上の何かであらしめていた心ある存在は、どこへ行ったのだろう。

 生と死の境のなくなる、暗闇と光が同じものとなるどこかで、個であることをやめたのだろうか。少なくとも彼らは、金銭や今日の食べるものの心配、成績不振、年金不足、戦争や地球温暖化、いつ終わるともしれぬ病魔の影などに煩わされることのない、安息の中にいる。

 いつか私もまた、同じ光の中に去っていくことを考える。それでいて、「それは今日ではなさそうだ」と根拠もなく考えている。まだ、夕食の献立に頭を悩ませ、つまらないことに腹を立て、安物買いで銭を失い、平和で美しい田舎の光景に感動し、小市民としての日常を繰り返すことだろう。

(初出:2020年6月 書き下ろし) 

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Lux Aeterna
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Posted by 八少女 夕

まだ終わっていない

最近、あまりコロナ禍の話をブログ界で見なくなってきています。

6月19日、3か月ぶりにスイスの非常事態宣言が解除されました。世界中で、ロックダウンも解除傾向にあるのですけれど、でも、感染者数は一向にゼロ方向には向かわないようです。第2波が本当に来るのかもしれないと思いつつ、暮らしています。

手作りマスク

私の住む地域は、もともとパーソナルスペースが広いので、買い物に行くときでもないと「感染の危険」を意識することは少ないのです。その買い物でも、入り口で手を消毒することと、レジの行列では間を空けること、以前よりも(Apple Watchで)カード払いをするようになったぐらい。身近にコロナウイルスに感染したという人が一人もいないせいか、最初の頃のような緊張感はもうありません。

新しいルールとしては、家族以外と車に乗るときや、公共交通機関でパーソナルスペースが保てない時は、マスクが必要になりました。不織布のマスクも売ってます。10枚800円くらいのか、50枚で4300円くらいで。あまり売れているようには見えないけれど。

私は、現在までマスクをしなくては、という状況になったのは2度だけです。日本人の高齢女性のMacの不調を見にいったときと、美容院に行ったときのみ。なので、ネットで調べて作った自作マスクを使っています。

写真のがそれなのですけれど、この手のものを4つほど自作して、車と鞄の中に常備しています。

レストランが再開し、イベントも開催できるようになると、ずっと10人台だった新規感染者数はまた増えてきています。とはいえ、何年間もロックダウンをしたままにはできないのも理解できます。

結局、それぞれが氣を引き締めて可能な限りロックダウンの時と同じような生活を続けるしかないのでしょうけれど……。

一方で、世界中でロックダウンが行われていた頃、世界各地の大氣汚染が劇的に改善したことも頭に引っかかっています。未成年に怒られても変えることのできなかった人間のエゴは、病魔によって抑えられたという皮肉です。これをコロナウィルス感染症の収束後に、また元の木阿弥にしてしまっていいのだろうかと思うのです。

「コロナ前の世界に1日も早く戻ろう」ではなくて、もしかしたら、現在生きているような、若干不便な世界に、人類は居続けるべきなのかもしれません。

いずれにしても先のことはまだ見えません。見えないなりに、何とか生きていくしかないのでしょうね。
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Posted by 八少女 夕

【小説】Usurpador 簒奪者(11)燃えて消えゆく想い

『Usurpador 簒奪者』の最終回です。

また大きく時が動いて、マヌエラは我が子アルフォンソの病床にいます。全ての目撃者であるジョアナは、マヌエラたちと自分たちの運命が変わった若かりし日々のことについて記憶をたどります。

30年前に起こったことの物語はこれでおしまいですが、この話の因縁が第1作『Infante 323 黄金の枷 』の直接の続編でもある第3作『Filigrana 金細工の心』に引き継がれます。



『Usurpador 簒奪者』を読む「Usurpador 簒奪者」をはじめから読む
あらすじと登場人物





Usurpador 簒奪者(11)燃えて消えゆく想い

 濃紺のゴブラン織りカーテンを締め切ってあるせいで、部屋はことさら暗く思われた。横たわる当主の具合が悪く、サントス医師は、しばらく泊まり込むことになるだろう。すぐ隣の部屋の準備を済ませた後、ジョアナは静かに戻り、控えめに報告を済ませた。

 当主ドン・アルフォンソの顔色はいつもに増して悪く、食事のために起き上がることも出来なかった。それでも、彼はジョアナに礼を言うことを忘れなかった。その声は、聞き取れないほどにわずかなものだったが、彼が生まれた時からこの館で働き見守り続けてきた彼女にはよくわかった。

 当主は、ベッドの脇に座る母親ドンナ・マヌエラに微笑みかけて、話の続きに戻った。
「父上が亡くなった日の事を思いだすのですよ」

 マヌエラは、瞳を閉じた。ジョアナも、その日のことはよく憶えている。わずか5年ほど前のことだ。現当主と同じく身体の弱かった前当主は、同じように暗くカーテンを締め切った部屋でこの世を去った。

 周りに揃った家族たち1人1人に、思いやりのこもった声をかけていた臨終のカルルシュは、しかし、意識が混濁すると、ずっと口にしなかった想いを漏らした。

「ドイス……。ドイス……。おもちゃも、絵本も……全部あげる……。だから、もう1度、笑ってよ……」

 その心の叫びは、臨終に立ち会うことを拒んだ22には伝わらなかった。

 カルルシュを支えて生きることを選び、結婚し、4人の子供の母親となったマヌエラを、22は裏切り者と罵倒し、2度と目を合わせようとしなかった。17年後、23が居住区に遷るのと入れ違いに『ボアヴィスタ通りの館』に遷されてからは、ジョアナが22と顔を合わせることはほとんどなくなった。

 5年前、臨終のカルルシュのうわごとを耳にしたマヌエラは、いつものように娘のアントニアに伝言を頼むのではなく自ら『ボアヴィスタ通りの館』へ出かけ、22にこの部屋にきてくれるように懇願した。だが、彼女は虚しく1人で戻ってきた。

 溝はあまりにも深く、時は無力だった。双子のように仲良く育った2人の少年は、もう2度とかつてように笑い合うことはなかった。

 マヌエラは、その時のことを思い出したのだろう、聞き取れないほどの微かな声で言った。
「かわいそうなドイス……。かわいそうなカルルシュ」

 それから我が子の頬にそっと手を触れて続けた。
「それに、かわいそうなアルフォンソ、かわいそうなクリスティーナ……」

 ジョアナは、はっとして心を現実に戻した。非情なドラガォンの掟に遮られ、愛し合った2人が結ばれることの出来ない例は、22とマヌエラだけではなかった。

 アルフォンソは間もなくくるであろう死を覚悟し、愛し合った娘と結婚しなかった。やがて代わりに当主アルフォンソとして生きることになる弟23に、決して触れることの出来ない妻を残さないように。新しい当主が自ら選んだ妻との間にドラガォンの《5つの青い星を持つ子》を残すこと。それはこの部屋にいる全て、ジョアナ自身を含めて、掟によって黄金の枷に囚われた《星のある子供たち》が、自らの想いを諦めてもサポートしなくてならないドラガォンの悲願だ。

「母上。私は幸せでしたよ。クリスティーナも、きっとこれから幸せをつかんでくれることでしょう」
当主は肩で苦しそうに息をしながらも、穏やかな口調で微笑みかけた。
「アルフォンソ」

 マヌエラの背中を、ジョアナは見つめた。肩が震えていたが、彼女は取り乱すようなことはしなかった。ジョアナもまた、黙ってその場に立ちすくんだ。彼女の覚悟も、目の前の間もなくこの世を去ろうとしている若い当主がこの世に生まれたあの日にもう出来たのだ。

* * *


「ジョアナ。これはなんだ」
アントニオの手には、ジョアナの日記があった。昨晩、マヌエラの出産を控室で待ちながら書いていたのを、ドタバタでつい置きっぱなしにしてしまった。氣づいて朝一番で取りに来たが、その時にはもうなかったのだ。

「読んだの?」
「ああ。誰のものだかわからなかったからね。最初の方、誰が書いたかわかるまで読ませてもらった」
「そう」

 受け取ろうと手を伸ばしたジョアナに対し、アントニオは首を振った。
「申し訳ないが、これをそのまま返すわけにはいかない」

「どうして?」
「君は誓約を忘れたのか」

 ジョアナは首を傾げた。誓約が何かぐらいはわかっている。ここで起こったことを、外の人間に話したことは1度もないし、この日記を外の人間に見せるつもりも全くなかった。
「誓約を破ったりしていないわ。これは純粋な日記よ。個人的なものだし、いけないの?」

 アントニオは頷いた。
「君が、これをよその人間に見せたりするような人でないことはよくわかっている。でも、君はたった数時間でもこれのことを忘れていたね。同じことが君の家で起こるかもしれない。それが起こってしまってからでは遅いんだ」
「持って帰ったりしないと言っても?」

「この館の中で存在を忘れることも許されないんだ。君は、この中にインファンテの存在について触れている。この記録を後世に残すことは許されない。たとえ、この館の中であっても」

 アントニオが、どこまで読んだかジョアナにはわからなかった。彼女の彼に対する想い、フェルナンドの死、マヌエラをめぐるカルルシュとドイスの葛藤、すべてを次の世代の《星のある子供たち》と《監視人たち》にも知られずに置かなくてはならないことは、ジョアナにもわかった。

 彼女は、この館の中で時間を過ごし、多くを目撃し、体験し、大切なものを得て、そして別の大切なものを失った。彼女は歳を重ねたのだ。それは記録してはならないものだった。アントニオは、いつものように落ち着いた低い声で言った。
「すべてを君の心の中に留めておくがいい。それは、誰にも禁じることはできない」

 ジョアナは頷いた。薪の燃えている暖炉に視線を移した。
「燃やしてちょうだい」

 アントニオも頷くと、彼女の手をその日記に添えさせた。彼女は力を込めて、それを火の中へと放り込む彼の手助けをした。

(初出:2020年6月 書き下ろし)
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Posted by 八少女 夕

サクランボの季節

映画「紅の豚」でヒロインの一人がシャンソンを歌うシーンがありましたよね。「サクランボの実る頃」という歌ですが、ヨーロッパではこの時期がもっとも美しいのですよ。

そして、コロナ禍がまだおさまっていない今年も、サクランボの実る頃はやって来ました。

さくらんぼ

これは、私たちが借りているフラットの庭にある1本の木から採れたサクランボ。今年は豊作で、30㎏採ってもまだずいぶんと残っています。桜の木、それは重いでしょう。

大家が「お願いだから収穫して食べてくれ」というので、連れ合いが張り切って収穫しました。

買い物籠にぎっしりで、およそ10㎏あります。隣人たちにもお裾分けしても、まだまだ山のようでした。でも、放っておくと腐ってしまうので、必死に処理します。まず、洗って、種を取り除きます。

さくらんぼの種取り器

この時期しか使わないのですけれど、この器械はサクランボの種を取り除くためにあります。ホチキスのような形態で、1つずつ取り除くタイプのものもあるのですけれど、これだけ量が多いときは、それでは永遠に終わりません。なので、この器械でひたすらカシャカシャと取り除いていきます。

さくらんぼ

すぐに加工するにも限度があるので、まず大半を冷凍します。そして、2-3㎏の分だけを生で食べる分、シロップ漬け、ジャム、ラム酒漬けと分けて処理していくのです。

これが終わると「しばらくサクランボは見たくない」と思いますけれど、天然のチェリー色がとても美しい、美味しいジャムや、アイスクリームと食べるとめちゃくちゃ美味しいシロップ漬けなど、手作りならではの美味しい食品が1年間、食卓を彩ってくれるのです。
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Posted by 八少女 夕

【小説】Usurpador 簒奪者(10)決意

『Usurpador 簒奪者』の続きです。

「うっかり」のせいで、自分の意思とは関係なくカルルシュの相手になってしまったマヌエラ。もともとは強制だった現実を、彼女は自分の意思で選び取ることになります。

現実に同じことがあるとして、たった2日でコロッと相手を変えるかと思う方があるかもしれませんね。私が思うに、マヌエラは始めから揺れていたのだと思います。人生には、あるものを得るために他方はどうしても捨てなくてはいけない場面があります。宣告は、どちらを選んでも後悔しただろう彼女に、一方の道に迷いなく進ませるための、大義名分を与えたのかもしれません。



『Usurpador 簒奪者』を読む「Usurpador 簒奪者」をはじめから読む
あらすじと登場人物





Usurpador 簒奪者(10)決意

 宣告されたマヌエラが、掟に従い居住区に閉じ込められて2晩が過ぎた。はじめの晩にカルルシュが自死を試みた。一命は取り留めたものの、常に医師や召使いたちが行き来し続けていた。マヌエラは、特別に運び込んでもらった簡易寝台で夜を明かし、医師たちの指示に従い、弱っているカルルシュの世話をしてすごした。
 
 鎮静剤によって眠りつづける彼を見て、マヌエラは複雑な想いに囚われていた。愛する男との未来を奪った彼への怒りや憎しみがないと言ったら嘘になる。けれども、彼が後悔し償いのために迷わず命を差し出したことは、彼女の怒りや悲しみの焰に大量の雨を降らせてわずかな熾り火にまで鎮火させてしまっていた。

 それに、マヌエラは心底疲れていた。宣告から自殺騒ぎが立て続けに起き、居住区には常に誰かがバタバタと出入りしていた。本来ならば、宣告で意思に反した決定を強制された彼女を、館中の人々が氣を遣うはずだろうが、緊急事態でそのことは忘れ去られていた。ここから出ることの許されない彼女のために、朝昼晩の食事が運び込まれるが、それをゆっくり食べるような状況ではなかった。そもそも食欲もほとんどなかった。

 厚い壁に遮られた隣の居住区には、22がいるはずだったが、その兆しは何も感じられなかった。彼が大きな声を出しで抵抗したのは、彼女がここに閉じ込められるまでの事だった。その後に彼女は、常に誰かが忙しく出入りしている居住区の2階の出入り口には行かなかったし、そうでもしなければやはり居住区に閉じ込められている22と話すことは不可能だった。

 3階の小さな部屋で用意された食事を終えると、彼女はカルルシュが横たわる寝室に戻り、ベッドの近くの小さな椅子に座った。その椅子は医師たちの邪魔にならないように、かなり後ろの壁際にあり、そこで彼女は痛み止めで朦朧としたカルルシュの顔を眺めていた。

 やってくる召使いたち、監視人たち、そしてサントス医師や看護師たちは、これまでと同じようにカルルシュに丁寧に言葉をかけ、世話をしていたが、誰もがぎこちなかった。

 マヌエラは、そのぎこちなさをよく知っていた。これまでも、ここまであからさまではなかったが、誰もがカルルシュに対してある種の距離を持って接していた。どこかに「ここにいるべきではない相手」に仕方なく接している風情があった。マヌエラは、カルルシュがずつと感じてきた疎外感を、この2日ほど強く身をもって感じたことはなかった。たった2日でも、直接自分とは関係がないにもかかわらずこれほどまでに居たたまれない立場に、彼は当事者として20年も立っていたのだ。

 簒奪者ウーズルパドール ……。本来の跡継ぎの座を奪った、望まれぬ星5つの存在。うつろな瞳で天井を見ているカルルシュは、これまでたった1人しかいなかった味方、すなわち彼自身にも見放されてしまった。

 そして、サントス医師の指示で、その日彼はベッドの上に起き上がり午後を過ごした。うつむきサントス医師の言葉を聞いていたが、「何かありましたら、マヌエラに伝えてください」という言葉で、はっとした。壁際に疲れた表情で座っている彼女を見つけ、申し訳なさげに項垂れた。

 彼が起き上がっていることを聞いたのだろうか、騒動以来はじめて当主ドン・ペドロが居住区に入ってきて、いつもの威圧的な佇まいでカルルシュを見下ろした。その眼差しには、いつもの厳しさだけでなく、あからさまな憎しみもこもっていた。当主が、怒りを収めていないどころか、2日前よりももっと腹を立てていることがマヌエラにも伝わってきた。

「22にお前の遺書のことを話してきた」
ドン・ペドロは、カルルシュを冷たく見つめ言い放った。マヌエラは震えながら立った。

 カルルシュが残した遺書を、彼女は読んでいなかった。首を吊ろうとした彼を支えて助けを呼び、そのまま大騒ぎの中で震えている間に、その遺書は然るべき相手の手に渡ったらしい。この2日の間に、伝え聞く情報でおおよその内容は耳に入っていた。彼は命と引き換えに、彼が望まずに奪ってしまった全てを22に返したかったのだ。

 だが、その遺書すらも、ドン・ペドロをひどく怒らせているらしい。

「22はこう言った。『全てなんてありえない。ドラガォンの掟では、私は2度とマヌエラに触れられない。あの男が死んで、私がプリンシペに代わったとしても、私が血脈を繋ぐなんて期待されては困ります。私はあなたたちドラガォンには絶対に協力しない。血脈を繋ぎたければあなたたちでなんとかするんですね』」

 カルルシュは黙っていた。苛立ちを募らせてペドロは吐き捨てた。
「いいか。お前は自分の引き起こしたことの責任をとるんだ。その女でも、他の女でもかまわん。必要なら医学の手を借りてもいい。血脈を繋げ。他に何もできなくても、そのくらいはできるだろう。それさえ済ませれば、死ぬなりなんなり、好きにするがいい」

 なんてひどい……。マヌエラは、ドン・ペドロの非情さに震えた。自分を道具扱いされたことよりも、ただひたすらカルルシュへの彼の冷たい態度にショックを受けた。

 マヌエラはカルルシュの顔を見た。青ざめて、その瞳にはいっぱいの涙がたまっていたが、育ての父親が腹立ち紛れに部屋の扉を叩き付けるように閉めて出て行っても、反論もせず、泣きわめくこともなく下唇をかみしめていた。

 ゆっくりと身を起こすと、まだ立ち竦んだまま彼を見ているマヌエラの視線から身を隠すように背を向けた。
「嘲笑ってくれ」

 彼女は、言葉を見つけられなかった。瞳を閉じて、わき上がってくる悲しみと憐憫を持て余した。

「長く生き過ぎたんだ。こんなことをひきおこす前に、出来損ないはさっさと死んでいればよかったんだ。謝罪なんか何の役にもたたないのはわかっている。だから、もし、それで君の氣が済むなら、僕が死ぬまで憎んで、罵倒して、嘲笑ってくれ」

 肩を落として震えるその姿は、マヌエラの心を締め付けた。

 カルルシュは、このシステムの被害者だ。彼は、マヌエラと22にだけはひどいことをしたかもしれないが、それ以外の全ては、彼に何の責任もない。彼を追い詰め、命を差し出そうとしても許さずに責め立てるドン・ペドロと周りの人々は、彼を苦しめるドラガォンのシステムそのものだ。マヌエラに将来の職業を諦めさせ、22の才能を腐らせる巨大で非情なシステム。いま目の前で震えているカルルシュは、権力に潰されかけている弱者だ。法の下の正義を学びたかった彼女には、それは許せることではなかった。いや、それに抵抗しないことで、自分も加害側に加担してしまうことが許せなかった。

 彼女は彼の横にそっと腰かけると、その手をとって自分の唇の所に導いた。彼は訝しげに涙に濡れた瞳を向けた。

 マヌエラは静かに語りかけた。
「そんなことはしないわ、カルルシュ。あなたは1人じゃない。私があなたの味方になるから」

「マヌエラ?」
「あなたの運命の重みも、ドイスやドン・ペドロから受ける憎しみも、私と分け合いましょう」

 彼は戸惑って、言葉を飲み込んだ。マヌエラは彼の喉に巻かれた包帯にそっと手をやり、哀れみに満ちた優しさでその溝をなぞった。

「どうして……。憎んでも憎みきれないだろう?」

「憎んでも、もう私たちは他の道には行けないのよ。憎みながらここににいても、お互いにつらいだけだわ。それに、こんなに追いつめられたあなたを、高みの見物をしながら嘲笑うなんてどうしてできるの。先に生まれてきたのも、体が弱いのも、あなたのせいじゃないのに。どうしてあなただけが全てを背負わなくてはならないの。どうしてあなただけが、皆に見捨てられなくてはならないの。そんなの悲しすぎるでしょう」
「マヌエラ……僕を哀れんでくれるのか」

 マヌエラは微笑んで彼をそっと抱きしめた。彼は堪えきれず、声を上げて泣き出した。
「負けずに生きて。つらい時は、一緒に泣きましょう。私に助けられることは、なんでもするわ。叱られる時にも、一緒にいてあげるから」

 カルルシュは、泣きながらマヌエラを抱きしめた。

 彼女は心の中でつぶやいた。ドイス、許して。私はこの人の力になりたい。
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Posted by 八少女 夕

オンラインお茶会した

まだスイスも日本もロックダウン中の話。

オンラインお茶会

海外に住んでいると、日本の友だちとの会合を持つのは、普通の場合、日本に帰国したときのみになります。ずっとそういうものだと思っていましたし、普段はメールなどで気軽にあれこれ話しているので、わざわざスカイプでテレビ電話しようよということもなかったのですよ。

日本の姉との連絡用に2018年からLINEを導入し、友だちとのグループトークなども入ってくるのですけれど、そうすると「飲み会しましょう」というようなお誘いが目に入り「いいなあ」と思うことが増えていたのですね。

そして、このロックダウンで「オンライン飲み会」が流行っているという話がこちらにも届いてきました。そして、オンラインなら私だって参加できるのですよ。それで、オンライン飲み会もしたのですけれど。その後に、お酒をたくさんは飲まない友人との会話で「なら、オンラインお茶会しようか」と盛り上がったのです。

日本とオンラインで会合をもつとなると、時差の関係で私はいつも昼間になるのです。で、オンラインお茶会なら私にも都合がいいわけです。私は土曜日の11時からブランチ、日本の友人たちは18時から早い夕ご飯という時間で開催しました。

そのうちの1人は、イギリスに非常に造詣が深い(オタクともいう)ので「ならば、私は北部イングランドの労働者階級の設定でハイティーを用意する」なんてマニアックなことを言い出しました。私には全然なかった発想。マニアってすごい。

で、私も、せっかくなので盛り上げて、ちゃんとアフタヌーンティーっぽいものを用意して参加することに。

といっても、やはりヨーロッパなので材料はわりと簡単に集まります。

サンドイッチは、キュウリ、卵、ローストビーフ、スモークサーモン、チェダーチーズ。
普段は耳ごと半分に切るのですけれど、今回はお上品に耳を落し1/4サイズに。(耳は夕飯に食べました)

そして、スイスの田舎ではスコーンなんて買えないので、これは自作。初めて作ったけれど、簡単ですね。パンよりずっと失敗もなく、それらしくできます。クロテッドクリームは手に入らないので、常備しているマスカルポーネチーズで代用。その代わり、レモンカードはイギリスで買ったものを開けましたよ。

他には、ポークパイと、ハムのパイ(シンケン・ギップフェリといって、スイスではよくある前菜)、いくつかのチーズ。2日前に自分で作ったチョコレートブラウニー。それにクッキーアソート。

これ、1人分で用意したんですけれど、もちろん2時間あっても食べきれず(笑)

紅茶は、いただき物ですけれど、英国王室御用達の香り高い茶葉で。

楽しかったです。話題は、まったくハイソサエティっぽくはなく、普通にはしゃぎました。
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Posted by 八少女 夕

【小説】Usurpador 簒奪者(9)宣告

『Usurpador 簒奪者』の続きです。

さて、このストーリーのメインとなる事件を語る回です。「そんなアホなことで……」と呆れるかもしれませんが、カルルシュの「うっかり」で何人かの運命が変わってしまいました。

サブタイトルになっている「宣告」について、前作未読の方のために少しだけ説明しますが、この作品群に出てくる《星のある子供たち》といわれる腕輪を填めた人々には、特別な掟があり、そのうちの一つに「《星のある子供たち》である男は、まだ誰にも選ばれていない《星のある子供たち》の女に、立会人の前で正式の文言による宣告をすることで、自分と一緒になることを強制できる」というものがあるのです。

前作の主人公23がヒロインであるマイアに発動したのもその正式な宣告でした。これは非人間的なので、現代では滅多に起こらないことになっています。ところが、この親子ときたら2代続けて宣告することになってしまったのでした。23は他に方法がなかったとは言え、それをしてしまったことでめっちゃ落ち込んでいました。なんせ母親に起こったことは、ある意味で、この一族のトラウマになっていましたし……。



『Usurpador 簒奪者』を読む「Usurpador 簒奪者」をはじめから読む
あらすじと登場人物





Usurpador 簒奪者(9)宣告

 息苦しさに目を覚ました。暗闇の中に白い顔が浮かび上がった。眠っていた彼の上に、重みをかけてのしかかっていた。目を血走らせ、眉を吊り上げた、その凄惨な顔の女はドンナ・ルシアだった。同時に、その女の腕が自分の首にかかって締め付けているのもわかった。声は出ず、脳の周りにはち切れそうになった血管が集まり痛いほどに膨らんでいるのもどうする事も出来なかった。

 なぜ、それほどまでに、僕が憎いのですか、母上。霞んでいく瞳、苦しくて恐ろしくて、抵抗する事も出来なかった。

 カルルシュは、目を覚ました。13歳だったあの夜の夢を見た理由がわかった。首に痛みが残っている。脳の周りの痛みも、頭痛として残っている。ベッドの上にいて、サントス医師の顔が見えた。

「ご加減はいかがですか。メウ・セニョール」
「……死に損ねたのか」
「マヌエラが、すぐにあなた様を支えてくれたのですよ。そうでなければ、危ない所でした」

 サントス医師の視線を追って顔を僅かに動かすと、ソファでぐったりとして顔を覆っているマヌエラが見えた。薄れていく意識の向こうで、彼女の悲鳴を聴いたのは間違いではなかったのだと思った。

* * *


 22がマヌエラと愛し合っていることは、もはや公然の秘密だった。誰もがその日は近いと感じていた。彼らが当主ドン・ペドロに一緒になる許しを請い、インファンテ322の居住区がもはや独房ではなく、共に格子の向こうで暮らすことを望んだマヌエラとの愛の巣になる瞬間。

 そして、事実、彼は昨日の午餐が終わったときに、立ち去ろうとする父親ドン・ペドロを呼び止めたのだ。彼は、マヌエラに近づきその手を優しく取ると、当主に許しを請うために近づいた。

 カルルシュにとっては、死の宣告にも等しい瞬間だった。ドイスに、青い星を持つ男に選ばれたその瞬間から、赤い星を持つマヌエラは永久に、やはり青い星を持つカルルシュには手の届かないところへと行く。どれほど愛しても、事態が変わろうとも、絶対に覆すことの出来ない掟だ。

 もう2度と、夢を見る事も許されない。自分が求愛して受け入れてもらう夢も、それから同じように繰り返した彼女に宣告で強制する夢も。夜の暗闇の中で何度も繰り返した虚しい宣告の言葉ももう使うチャンスがなくなるのだ。

「《碧い星を5つ持つ竜の直系たる者が命ずる。紅い星2つを持つ娘、マヌエラ・サントスよ、余のもとに来たりて竜の血脈を繋げ》」

 いつものひとり言のつもりだった。だが、彼は、3人が信じられないと言う顔をしながらこちらを眺めているのを見た。いったいどうしたんだろう。いつも僕の事なんか誰も見ないのに。

「嘘だろう……?」
22の顔が激しい憎悪に歪んだ。何かを続けて言おうとしているのを、彼の父親が制止した。それから、息子に負けないくらい憎しみのこもった目をしながら、低く妙に静かな声で言った。

「《碧い星を5つ持つ竜の直系たる余は、碧い星を5つ持つドン・カルルシュ、そなたの命令を承認する。竜の一族の義務を遂行せよ。紅い星2つを持つ娘、マヌエラ・サントスよ、ドン・カルルシュに従え。そなたには1年の猶予が与えられた》」

 その時にカルルシュは、ようやく自分が本当に宣告をしてしまっていた事に氣がついた。あたりは白く遠ざかり、騒ぎが何も聞こえなくなって周りが回っているようだった。当のマヌエラの絶望に満ちた眼も、他の召使いたちの驚愕に満ちた顔も、彼に飛びかかろうとする22をアントニオが必死で止める姿も、まるで現実ではないように存在していた。

「なぜなんだ!」
22は暴れながら叫んでいた。
「まだ足りないのか! 名前も、人生も、夢まで取り上げて、それでもまだ足りないのか!」

 カルルシュは、その言葉で我に返った。ドン・ペドロの合図で、ソアレスはマヌエラの腕を取って食堂から連れ出そうとした。それを見て22は絶叫した。
「離せ、アントニオ! 父上! あなたには心というものがないのか! マヌエラ、マヌエラ!」

「ドイス……」
マヌエラも泣きながら、無理矢理に格子の向こうへ押し込められる22に向かって手を伸ばした。

「父上……。私はなんてことを……」
カルルシュは椅子に崩れ落ちるように座り込むと、テーブルに突っ伏した。

ペドロはその息子を厳しく見つめた。
「撤回はできない。お前の義務を遂行しろ」

* * *


 もっと早くに死んでいれば、あの時、彼を殺めようとした母親、いや、彼が母親だと信じていた女性が失敗していなければよかったのにと、彼は瞳を閉じた。

 我が子である22をインファンテの宿命から救い出すために、彼女は手を穢そうと決心した。だが、その行為は、彼女の夫であるドン・ペドロに氣づかれてしまい、完遂する事が出来なかった。そして、彼は自分の妻を退けなければならなかった。プリンシペであるカルルシュに手を掛けようとした、ドラガォンで考えられる限り最も重い罪を犯した女は、当主夫人でありながら許されるはずはなかった。

 僕は、ドイスからすべてを奪ったのだ。名前も、立場も、未来も、母親も、そして愛する女まで。

 ドイスが大切だった。つらい館での子供時代で、ドイスだけが僕の光だった。それなのに、僕はドイスの人生と心を殺してしまった。ほんのわずかの不注意で、するはずではなかった宣告をしてしまった。

 マヌエラは、22のとは別の居住区に閉じ込められた。そして、1年経つか、妊娠するか、それともカルルシュと正式に結婚するまでそこから出ることを許されなくなった。彼もまた、その居住区で寝泊まりすることになり、夜になるとそこへと案内された。顔を覆って泣いているマヌエラの横を通った。

 彼は、短く遺書をしたためた。自分が死ねば、ドイスは本来手にすべきだったものを全て取り戻すことが出来る。ドラガォンも相応しい跡継ぎの帰還を喜ぶだろうと。

 それから、バスルームへ向かうとタオルをシャワーヘッド掛けに結びつけ、小さな椅子の上に立つと輪に首を通した。怖かった。目をつぶって勢いをつけて椅子を倒した。苦しくて痛くて激しく後悔したが、すぐに意識がなくなった。

 そして、あの悪夢の後、目が覚めた。絶望の中にいながらも、あの音を聞いて駆けつけたマヌエラが彼の命を救ってくれたのだ。彼は、瞳を閉じた。

 マヌエラがいてくれたら、人生が変わると、1人ではなくなると、思っていた。そんな事はすべきじゃなかった。1人でいるべきだったんだ。たぶん、みんなの幸せのためには、僕はもともと生まれてくるべきではなかった。なのに、どうして死ぬ事も出来ないんだろう。
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Posted by 八少女 夕

You'll Never Walk Alone

今日は創作には関係なく、純粋に音楽の話です。


André Rieu - You'll Never Walk Alone

日本を離れて長いので、この曲がどのくらいポピュラーなのか知らないのですけれど、個人的に好きな上に、社会的にもタイムリーな感じがするので、取りあげてみようと思いました。

「You'll Never Walk Alone」は、もともとは、ブロードウェイ・ミュージカル『回転木馬』の挿入歌です。初演は1945年ということですから、75年前ですね。なんどか映画化されたり、日本でも上演されているのでミュージカルファンの方には「何を今さら」な名作かもしれません。

で、その中のナンバーの1つであった「You'll Never Walk Alone(人生ひとりではない)」が、イギリスのロックバンドジェリー&ザ・ペースメイカーズによって歌われて大ヒットになりました。そして、リヴァプールFCの応援席で歌われるようになったことから、各国のサッカー観戦の応援歌として愛唱されるようになったそうです。

というわけで、英語の歌なんですけれど、サッカー好きの間では広まっているようです。私はサッカー観戦はしないので、この曲を知ったきっかけは、この動画で演奏しているアンドレ・リュウ・オーケストラの公演の放送を耳にしてからです。動画を見ていただくと、観客が一緒に歌いながら涙ぐんでいるのがわかると思います。耳にすると条件反射的に涙ぐんでしまう曲は、人によってそれぞれかと思いますが、おそらくこれも、それぞれの人たちがサッカー観戦をしたり、その他の人生の局面で耳にして、歌詞に想いを馳せて自分たちの身と重ね合わせた、その記憶を呼び起こすタイプの曲なのだと思います。

現在のコロナ禍で、世界の人々が同時に様々な苦難に直面し、未だに嵐は過ぎ去っていないし、いつまで続くのかわからない不安を抱えています。この歌詞はちょうどそんな状況にマッチしていて、聴くと「そうだよ。嵐の過ぎ去った後には、黄金の空が広がる。1人じゃない、ひたすら歩いて行こう」という心持ちになるわけです。

今日は、たまたまですけれど、母の命日です。その後も私の人生は続いていて、さらにうっかり命日を忘れそうになるくらい、いろいろなことが同時にあり、コロナ禍以外にも「これって人生の中では嵐に値するのかな」と思う状況の中にいるのです。しかし、まあ、連れ合いと深緑の下でワインを楽しむような余裕もあるなど、それなりに毎日を楽しみつつ、健康にやっています。

みなさまも、お体を大切に。共に頑張って未来へと歩いて参りましょう。
(あ、これ、ブログの最終回じゃないですから!)
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Posted by 八少女 夕

心の黎明をめぐるあれこれ(5)意思を持って前へ

本日は、クリストファー・ティンの『Calling All Dawns』というアルバムにちなんだエッセイ連作『心の黎明をめぐるあれこれ』の5作目です。

第5曲は『Rassemblons-Nous』使われている言語はフランス語です。


『心の黎明をめぐるあれこれ』を読む
『心の黎明をめぐるあれこれ』を始めから読む




心の黎明をめぐるあれこれ
(5)意思を持って前へ
 related to 'Rassemblons-Nous'


 さて。この第5曲は、もっとも『厨二病』的な歌詞だ。言語はフランス語。ゲームのサウンドトラックから生まれたアルバムなので、ある意味正しいのかもしれない。この随筆では、ゲームではなく私の内面的な沿革を辿っているのだが、前回書いたように私自身はその病は克服したつもりでいるので、そちら側に引き戻されてはたまらない。

一つになろう
時を同じくし
我らの千の顔が
一つのスクリーンで
一つの声として
宣言する



 この歌詞を訳しながら、はじめに私が思い描いていたのは、某有名アニメをテレビで放映するときのお約束のことだ。作品の一番盛り上がるところで、SNSを通して主人公たちと同時に呪文を唱えるあれだ。

 このアルバムの元となった『Civilization』というゲームをプレイしたことはないので、多くのプレイヤーが同時に何かを宣言することに意味があるのかどうかは知らない。あるとして、宣言するのにフランス語は向くのだろうかと、首を傾げた。 

 知らないことはさておき、フランス語と私自身の個人的な関わりについてここで触れてみよう。私がフランス語に初めて触れたのは、小学校の低学年である。あるカトリック系の私立小学校に通っていたのだが、週に1度フランス語の授業があったのだ。母親がしばらくフランス語を習っていた、大学の第二外国語でフランス語を選択した。

 さらには、結婚した相手がフランス語圏で生まれ育ったお陰で、フランス語を母語だと思っている。現在、私たちはドイツ語圏に住んでいるので、フランス語が必要になることはないのだが、彼としてはフランス語で話せる相手とは、とにかくそちらで会話したがる。

 と、ここまでフランス語と縁のある人生を歩んできたのに、私は一貫してフランス語が苦手である。ペラペラなのに英語では書けない連れ合いと文通するために、涙目になりながらフランス語の手紙を書いていた時期ですら、「なんだ、この言語」とむかっ腹を立てていた。リエゾンが起こったり語尾の子音がどこかに消えてたりすることで、見たままの文字と発音がまったく違うのも腹が立つ。

 言語そのものも苦手だけれど、実はフランス人と会話をするのも少し苦手である。もちろんフランス人といってもいろいろな人がいて、ひと絡げにしてはいけないのはわかっている。同じフランス人でも田舎の人たちとは素敵な思い出がある。たどたどしくしか話せないアジア人が1人でいるときには、フランス語を話すスイス人の連れ合いと一緒にいるときと全く違った対応を受けることも確かだ。何よりもひどい目に遭ったのはパリで、4、5回は訪れているのだが行くたびに散々な目に遭った。だからフランスやフランス語にヨーロッパの他の国よりもいい印象を持てないのかもしれない。

 フランス語は耳障りが優しく美しい言語だけれど、話している人たちがその言葉で柔かく和を以て繋がっているかといえば、決してそうではない。

ラテン系の言語を話す人たちは、ゲルマン系の人たちと比較すると社会的に集まることを好む傾向がある。カフェやレストランで村の仲間がワイワイ話したり、日曜日ごとに離れて住む家族が集まったりする傾向がある。イタリア語やスペイン語、ポルトガル語を話す人たちもたとえドイツ語圏に住んでいてもその傾向が強い。

 フランス語を話す人たちも、その傾向は強いのだが、一緒にいるからといって考え方や心の向いている方があまり一致していないという印象が強いのだ。なので、にこやかに微笑みながら非常に辛辣なことを言い合っている場面に何度も遭遇した。

 意地の悪い人たちと言うことはできない。自分の慣れている方法と違う付き合い方をするというだけで、ひと絡げに悪評を押しつけるのはフェアではない。それで居心地が悪くても、それは彼らが違ったタイプの人付き合いをしたがる人たちなのだと考えて尊重しなくてはならない。

個人主義が深く浸透している人たちだ。日本人の好きな「みんな」を、彼らはさほど好まないのだ。

 あなたはそう考えるかもしれないわね。でも、私はこうなの。そんな風に主張することを、彼らはためらわない。みなが忙しそうにしているので一人だけ定時には帰れない、などという日本人の発想は理解してももらえないだろう。ファッションブランドが多いけれど、日本人のように右も左も流行の服装で埋まるということもない。自分に似合うかに合わないかを決めるのも個人。

 そんな氣質のフランス人でも、集まるときには集まる。たとえば、フランス革命の時、現在でいえば黄色いベスト運動をはじめとする各種のデモ、フランス人は抗議行動のためには率先して集まる。

 皆がそうしているから、ではなくて、自らの主張を断固として相手に届けるために集まる。革命において絶対王政を打ち倒して、市民の力で勝ち取った民主主義を象徴する大切な政治行動なのだろう。

 ということを考えて、この第五曲の歌詞を考えると、作曲者クリストファー・ティンがフランス語とこの歌詞を組み合わせたことに「なるほどな」と感じる。

我々は服従してはならない
我々は消えてはならない



 彼は、意識的に英語を使わなかったのだと思うが、「団結して、抵抗しよう」と語りかけるのにフランス語が選ばれた理由は、フランス革命から脈々と繋がる市民抗議行動の伝統に敬意を表してのことなのかもしれない。

 フランス人たちは、十分にこうした主張をすることに慣れているのだけれど、自らを振り返り、心の遍歴を辿ってみると、私自身にとってこの五曲の内容は弱点を突かれたように感じる。

 長い時間をかけて、相手の言い分を尊重しつつ自分の意見を言うこと自体は、少しずつできるようになってきた。とはいえ、その主張を社会のためと信じて一致団結し進むようなことには、長いこと拒否感とまではいかないが、他人事に近い感覚を持っていた。

 日本にいた頃は、政党に加わったり、支援者を勧誘するような行為は、する必要もないと考えていた。学生時代や日本で勤め人だった頃も、たとえば昼食時に同僚と政治問題で論じ合うようなことをした記憶がない。

 選挙の前に各政党の出したマニフェストを読み、一番いいと思う候補者や政党に1票を投じる。それだけをやっていめばいいのだとどこかで考えていた。

 現在すむスイスは、日本と違って直接民主制の国だ。私は外国人なので投票はできないのだが、スイス人の手元には、月に1度か2度、投票用紙が送られてくる。ありとあらゆることが国民投票にかけられているのだ。政府や政党が発議することもあるし、国民が署名を集めて発議することもある。投票が近づくと、人々はごく普通に意見を交わす。「賛成」にも「反対」にも利点と欠点があるが、どちらを選ぶ方がよりいいのかを論じ合うのだ。

 たとえば、私の住む州は2026年冬季オリンピックを招致しようとしていたのだが、国民投票で否決された。経済効果よりも負担させられる費用が多く割に合わないと感じた住民が多かったということだ。

 直接民主制は、スイスの長い伝統だ。投票率は常に高いわけではない。あまりにも多くの国民投票があるので、面倒になってしまう人もあるのだろう。「賛成」と「反対」が拮抗するときもあるが、圧倒的にどちらかが優勢になるときもある。政府として「国際問題になるのでこんな決定はしたくない」というテーマであっても、国民投票にかけられればその決定が尊重される。たとえば、イスラム教のミナレット(尖塔)建設禁止が決定されたときは、イスラム諸国から猛反発が起きた。

 スイス国内に本部があるというのに、スイス自身が国際連合に加盟したのは2002年である。それまでも何度か国民投票にかけられていたのに、絶対的中立が損なわれる恐れがあるとことごとく否決されてきたからだ。

 スイスという国は、隣国のドイツやフランスまたはオーストリアなどと違い、絶対王政や貴族制度などがなかった。つまり、支配する側とされる側という明確な線引きがなく、たとえそれがあっても理不尽だと感じれば一致団結して抗議をして覆すという伝統をもっていた。ちょうどウィリアム・テルの伝説のように。

 簡単に支配されない、問題があれば易々と服従しない、その政治的態度は21世紀でも健在のようだ。その世界に日本からやって来た私は、影響されて政治に対する考え方がだいぶ変わったように思う。既に書いたように、スイスの国政には一票を投じられない身なのだが。

 そういうわけで、私の政治や主義主張に関する感覚は、移住してからゆっくりと変わってきた。デモンストレーションという形では、福島の事故以後に原子力発電の停止を求めた行進に参加したくらいだが。もとより日本の政治に対する行動は、遠くて直接参加するのは難しい。

 現在では、自分の意思を表示するためにウェブ署名運動やTwitterデモによく参加している。また、スイスの国民投票は外国人で権利がない代わりに、日本の選挙では毎回意思表示をしている。

 更にいえば、デモンストレーションのような行動だけが政治ではない。たとえば、環境問題に対する意見を持つのならば、規制を求めるだけでなく自分でも自然環境を守るための日々の行動がともなわなくてはならない。意見を表明するだけでなく、生活態度が合致していなくては意味がない。意見を口にすることには多くの責任が伴う。おそらく、それが大人ということなのだろう。今さらだけれど。

 そんなことを考えながらもう一度歌詞を読むと、もうそれは『厨二病』的なバーチャル空間にフワフワと浮かぶ言葉ではなく、やはり、私の人生の心の旅路と重なる内容だ。たとえ苦手なフランス語であっても。

 ところで、歌詞に出てくる「大聖堂」「銀の塔」に私は勝手にパリのイメージを重ね合わせてしまう。つまり、ノートルダム大聖堂とエッフェル塔だ。実際にそれを意識して歌詞を書いたどうかを知る術はない。それに、日本語訳だけを見ていると「格好いい言葉をなんとなく並べたよう」に思えるかもしれないが、原文を読めばすぐにわかるように、これは韻文だ。なんとなく選んだ言葉ではなく、考え抜いて使った言葉。だから、そこに私の想像するようなぼんやりとしたパリ観光名所を散りばめる意図があったかどうかは疑問だ。

 とはいえ、勝手にイメージしてしまったので、私の中では「銀の塔」はエッフェル塔だし(別に銀というわけでもなかったが)、「大聖堂」はつい先日無残に焼けてしまったノートルダム大聖堂の姿をとって脳内再生される。なんだかんだいって、私の発想は実に単純である。

(初出:2020年5月 書き下ろし) 

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【歌詞はこんな意味です】
一つになろう
時を同じくし
我らの千の顔が
一つのスクリーンで
一つの声として
宣言する
我々は服従してはならない
我々は消えてはならない

我が運命、我が血、
それは暗闇の深みへ導く
手放すことを怖れていたにもかかわらず
我は前へ踏み出す
真実の瞬間に立ち上がるために
服従してはならない
消え去ってはならない

君の兄弟、君の友
我々は夜に再会する
みなで一緒に
街に繰り出そう

一つになろう
時を同じくし
我らの千の顔が
一つのスクリーンで
一つの声として
宣言する
勇気を持とう

空港から
大聖堂へ
男であろうと女であろうと
構うものか
運命への巡礼の旅で
手を取り合おう

汚れた牢屋から
名もなき街から
神聖なる空間から
銀の塔へと
四方八方より集まろう
時を同じくして
覚醒の鐘を鳴らそう

絶え間ない戦いの中
我らは声を合わせ
足踏みを揃え
行動を同じくしよう
怖れも憎しみもなく
来たりくるその日に
ステージに上がろう

一つになろう
時を同じくし
我らの千の顔が
一つのスクリーンで
一つの声として
宣言する

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Posted by 八少女 夕

123,456Hitのリクエストを承ります

当ブログの123,456Hitが近づいてきました。100,000Hit以来、10万ごとのキリ番企画はウザいかなと思ってずっとスルーしてきたのですが、こういう並びの数字はもうしばらくないでしょうから、今回はやろうと思います。(その次は150,000Hitかな……)

いつものように、カウンターが123,456を過ぎてからの先着順6名でこの記事のコメント欄にてリクエストをお受けします。
フライング、別記事へのコメント、そして鍵コメは無効とさせていただきます。また、この記事には鍵コメは一切入れないでください。ご理解のほどよろしくお願いします。

「リクエスト内容は後から考えるから、とりあえずリクエスト権だけ確保」というのはありです。コメント欄にその旨お書きください。

リクエスト内容(フリー)
  テーマ
  私のオリキャラ、もしくは作品世界の指定
  コラボ希望キャラクター(ご自分の、又は作者の了解をもらえる場合のみ)
  時代
  使わなくてはならないキーワード、小物など
  その他 ご自由に



いただいたリクエストに基づき、作品を書いていきます。場合によっては、数名の方のリクエストをまとめて一つの作品にするかもしれません。
皆様からのリクエストをお待ちしています。

【リクエスト状況】
(1)TOM−Fさん
   テーマ: 絆
   私のオリキャラ、もしくは作品世界: 『樋水龍神縁起』シリーズの女性キャラ
   コラボ希望キャラクター: 『天文部シリーズ』から智之ちゃん
   使わなくてはならないキーワード、小物など: 木星往還船

(2)山西サキさん
   テーマ: 愛
   私のオリキャラ、もしくは作品世界: サキさんの知っているキャラ
   コラボ希望キャラクター: サキさんの作品のキャラクターを最低1人
   時代: アフターコロナ。近未来(2~5年先?)
   使わなくてはならないキーワード、小物など: 道頓堀

(3)大海彩洋さん
   テーマ: 旅
   私のオリキャラ、もしくは作品世界: レオポルドⅡ・フォン・グラウリンゲン
   コラボ希望キャラクター: マコト
   使わなくてはならないキーワード、小物など: 賢者の石

(4)limeさん
   テーマ: ときめき
   私のオリキャラ、もしくは作品世界: 誰か
   コラボ希望キャラクター: limeさんのオリキャラ
   時代: 現代
   使わなくてはならないキーワード、小物など: 馬

(5)ダメ子さん
   テーマ: 成長
   私のオリキャラ、もしくは作品世界: 高橋瑠水
   コラボ希望キャラクター: ダメ子さんのオリキャラ
   時代: 現代
   使わなくてはならないキーワード、小物など: 大人の女性

(6)

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Posted by 八少女 夕

【小説】Usurpador 簒奪者(8)太陽と影

『Usurpador 簒奪者』の続きです。

ようやくタイトルになっている「簒奪者」が、本文に出てきました。カルルシュの大きなコンプレックス、彼を生涯苦しめた言葉です。才能がないのに上に立たざるを得ない者と、才能があるのに何一つすることを許されない者。たった数日の誕生の違いで道が分かれてしまったことが、本来ならばお互いを思いやって仲良く生きられた兄弟の関係を壊してしまうことになります。

マヌエラは、その目撃者であると同時に、二人が和解できなくなってしまった要因そのものになっていきます。



『Usurpador 簒奪者』を読む「Usurpador 簒奪者」をはじめから読む
あらすじと登場人物





Usurpador 簒奪者(8)太陽と影

 その間に、22との近さほどではないものの、マヌエラはカルルシュとも親しい言葉を交わすようになっていた。始めは、単に法学に関するヒントを話すぐらいだったのが、天候の話や、彼女の家族の話、それに好きな食事の話など他愛もない話題についての雑談もするようになった。

 よく叱責を受けて、項垂れている彼が、短い会話の後で僅かでもリラックスして笑顔を見せることを、マヌエラは嬉しく思っていた。

 その朝もドン・ペドロは、カルルシュにレポートを突き返した。
「いいか。カーネーション革命が無血に終わり素晴らしい、などという文言は、単なる感想文に過ぎない。そんなことはどうでもいいのだ。肝心なのは、40年間続いた独裁体制が終焉に至った社会的背景だ。このレポートには、植民地戦争やソビエトやキューバからの独立支援について何も触れていないではないか。書き直すように」

 項垂れて部屋に戻ったカルルシュは、いくつかの歴史書や百科事典を書斎に持ち込んだ。マヌエラが、掃除にやって来た時に、彼は書斎の机の上に何冊もの分厚い本を広げて、あちこちメモをとっていた。小さな文字で書かれたメモは散乱し、彼は、本をひっくり返しながら、書いたばかりのメモを探した。

「失礼します」
邪魔にならないように、小さな声で断ると、彼は驚いて立ち上がった。その時に一枚のメモが宙に浮き、それをとろうとした彼が反対に本にぶつかり、バタバタとあらゆるものが床に落ちた。百科事典、歴史書、レポート用紙、メモ用紙、その全てがごちゃごちゃに地面に伏せた。

 マヌエラは、彼を助けるために近くに寄り、まずは貴重な本が傷んでないか確認しながら閉じて机に置いた。その間に彼は散乱した紙類を集めた。

「ごめんなさい、私が来なければ……」
彼はあわてて首を振り、レポート用紙やメモを机の上に置き、マヌエラの邪魔にならないように書斎から出た。
「いや。違う。僕こそ、申し訳ない。こんなに散らかしてしまうなんて……ここをきれいにしなくちゃいけないんだよね。どうぞ、終わらせてくれ」

 彼女は、つとめて平静を保ち、手早く書斎の埃取りと拭き掃除を終わらせた。机の上のレポート用紙は、教師の入れたコメントで真っ赤になっており、ちらりと見えたメモ用紙の内容は、彼にドン・ペドロの叱責内容があまり頭に入っていないことを思わせる頼りない走り書きだった。

 訊かれてもいないのに、何かを言ってはいけない。マヌエラは、見なかったことにして仕事を終え、書斎から出た。
「お待たせしてごめんなさい。終わったので、どうぞ」

 彼は、もの言いたげな瞳で彼女を見た。
「革命……。かつて王国があって、独裁政治になって、それから、革命があった……。なのに、ここ竜のシステムはそのままだ。ここにも革命があればいいのに。……そうでなかったら、相応しくない者を排除してくれればいいのに」

 マヌエラは、言葉に詰まった。プリンシペである彼が、やがて当主になる立場の人が、いうべきではない言葉だ。けれども、それを指摘して何になるだろう。彼自身がそれを誰よりもよくわかっている。ドラガォンのシステムには革命どころか、引退も譲位もない。彼は教育からも叱責からも逃れられない。そして、やがては教育などという生易しいシミュレーションではなく、現実の荒波に耐えなければならない立場にいる。心身共に弱く、覚悟も定まらない、俯きがちな青年が。
 
 ため息をもらすと、彼は少し離れた所へ動き、小さな声でつぶやいた。
「僕のこと、みんながなんと呼んでいるか知っているか」
「いいえ」

簒奪者オ・ウーズルパドール
「どうして、そんな……」
少なくともマヌエラは、誰かがそんな風に呼んだのを一度も聞いたことがなかった。

「僕の本当の父親は、『ガレリア・ド・パリ通りの館』にいるInfante321だ、彼が戯れに愛し、後に憎んだ女が僕の本当の母親だ。彼女と、母上、いやドイスの母親はほとんど同時に身籠り、ドイスの出産予定日の方が一ヶ月以上早かった。それなのに、僕の方が先に生まれた。本当のプリンシぺを押しのけてずる賢くこの地位を手に入れた」
「……でも、あなたはしようと思ってしたわけじゃないでしょう」

「もちろん。でも、父上は、我が子をインファンテにしてしまった憎むべき存在の僕を、長男として引き取らなければならなかったし、この僕に責任を持って教育をしなくてはならないんだ。それだけじゃない。口にしなくても誰もが思っている。ドイスの方がずっと当主になるにふさわしいって」
「そんな……」

「君だって思うだろう? 同じ頃に、同じ血の濃さで生まれてきたのに、彼は……そう、彼はまるで太陽みたいだ。本人そのものに力があって全てを惹きつけ輝いている。その存在を誰もが待ち望み、ありがたく思う。その一方で、僕ときたら……」
「あなたは、月なの?」

 カルルシュは、首を振った。とても悲しそうに。
「いいや、僕は月じゃない。あんなに輝かしくて美しい存在じゃない。僕はきっと、月か、地球か、とにかく何かの影みたいなものだ。僕がおかしな所に立つせいで彼の姿が見えなくなる。それで、誰もがわかるんだ。ドイスは素晴らしい。『メウ・セニョール』と呼ばれて傅かれるのに相応しい、上に立つべき人間だって」

 嫌みや恨みなどの混じっていない、純粋な言い方だった。他人事にも聞こえて、マヌエラは戸惑った。カルルシュは、彼女の言外の判断を感じたのか、とってつけたように笑顔を見せた。

「わかっているんだ。彼じゃなくて、僕こそあれこれできなくちゃダメな立場だってことは。でも、他に言いようがないんだ。彼は素晴らしい。頭脳や才能、それに容姿だけじゃなくて、人格も。この館にやって来て彼のことを知れば、誰でも一週間もかからずにそれをわかる。僕は、そんな彼を20年も知っているんだ」

「双子のように一緒に育ったんですよね」
マヌエラは、慎重に言葉を選んだ。彼は、少し悲しそうに笑った。
「そう、空間と時間的にはね。いつも一緒だった。幼い頃は、おなじおもちゃで遊び、同じ絵本を読み、一緒に絵を描いた。あの頃から、失敗をするのはいつも僕で、でも、彼はいつも、叱られる時でさえ一緒にいてくれた。ピアノだって……」

「ピアノ?」
「ああ。最初にピアノを習ったのは僕の方だったんだ。22が、ヴァイオリンを習い始めていて、僕も何かやりたいって。彼が、あっという間にヴァイオリンを弾けるようになったので、楽器なんて簡単だと思ったんだろうな。でも、全然上手く弾けない。先生が苛々するくらいに。1人で練習していると、見かねた22が一緒につきあってくれた。そうしたら、あっという間に彼のピアノが上手になってしまったんだ」

 それでも、カルルシュは、努力を続ければいずれは自分にも素晴らしい演奏ができると思い、楽譜を譜面台に広げて新しい曲に挑もうとした。隣に立っていた22は、初めて見た譜面にもかかわらず、メロディを口ずさんだ。

「どうしてそんなことができるんだって訊いたんだ。五線譜の上にまばらに広がる音符は真っ黒な模様で、僕にはメロディは全然浮かばなかったから。そしたら、見ればそのまま音が浮かぶっていうんだ。僕は、右手と左手と同時にかって訊き返した。そしたらもちろんって言った。そして、持っている交響曲の譜面を見せてくれて、オーケストラの全てのパートが、譜面を見れば聴こえるって……」

 マヌエラは驚いた。指揮者や作曲者が、そういうことができるのは知っていたけれど、楽器を習い始めたばかりの少年にそんなことができるとは思いもしなかったからだ。

 カルルシュは、力なく笑った。
「それで、さすがの僕も才能の違いを痛感してね。音楽は諦めた……いや、音楽も……かな」

 こんなに何もかも差をつけられてしまうことに、彼は怒りも嫉妬もおぼえないのだろうか。マヌエラは複雑な想いでカルルシュを見た。彼は、思い出に浸るように考えていた。

「彼に、何一つ敵わないことは、悲しくなかった。それは僕にとって当然のことだったんだ。母上が……」
「お母様?」
8年ほど前に館から去ったと聞かされたかのドンナ・ルシアのことだろう。

「いつも言っていた。ドイスはお前なんかとは違うと。記憶にある最初から、いつも。僕が何か意に染まぬことをしてしまうと、母上はとてもきつく叱った。罰だと言ってたくさんの書き取りをさせられたり、おやつを禁止されたりした。でも、つらくて泣いていると、いつも慰めてくれて、おやつを分けてくれたのはドイスだった」

 ようやく彼女には、納得がいった。カルルシュにとって、22は妬むべきライバルではなくて、憧れ頼るべき唯一の存在だったのだ。

「ごめん。こんな事を言っても君を困らせるだけだよね。忘れてくれ」

 マヌエラは、悲しみでいっぱいになって、カルルシュのそばに近づいた。
「ねえ。みんなじゃないわ。少なくとも私は、あなたがどれだけ努力をして、苦しんでいるか、わかっている。努力しても結果が出なくて辛い氣持ちも、わかっているわ」

 それを聞いて、カルルシュは顔を上げた。マヌエラの同情の浮かんだ顔をじっと見つめて、それから視線を落とした。
「ありがとう。ドイス以外で、そんな風に言ってくれたのは君1人だ」

 赤みの増した彼の頬を彼女は見つめた。彼は、しばらく戸惑っていたが、やがて言いにくそうに口を開いた。
「マヌエラ……、あの、もし、僕が……君と……」

 そこまで言われて、彼女は彼が愛を告白しようとしていることを察した。彼にまで想われていることに狼狽えた。22との距離を縮めたときのような、単純な嬉しさとは全く違っていた。彼女は、視線を落とした。

 断ったら、もし自分が22と生きることを決めたこと、そして間もなくそれが現実となることを告げたら、彼はもっと傷つくだろうととっさに思った。だから、言わないでほしいと願った。

 常に貶められてきたカルルシュはそれを敏感に感じ取ったのであろう。ひどく傷ついた顔をして口ごもった。
「ごめん。なんでもない。忘れてくれ」

 マヌエラは苦しくて泣きたくなった。心が引き裂かれるようだった。
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Posted by 八少女 夕

お茶を飲む

少し作品から離れた話題を。

お茶 from pxhere.com

ここしばらく、ほぼ毎日、日本茶を飲んでいます。わざわざ書くということは、そうなんです。ずっと日本茶を飲まない生活をしていたのです。日本茶が嫌いなわけではなく、むしろ好きです。でも、連れ合いが好きではないので、ティータイムに淹れるものは日本茶以外になっていたのです。

そして、水分補給のために飲んでいたのは、ずっと白湯だったのです。

でも、思ったんですよ。このままでは、日本茶に埋もれてしまうと。

自分で買うことはほとんどないのですけれど、海外在住だと何かと日本茶をいただく機会が多いのです。それがたまってしまうのです。嫌いじゃないので「いりません」とは言いません。有難くいただくので、ますますたまってしまう。

それで、自宅にいることが増えたのを機会に、白湯ではなくて日本茶をポットに2煎ずつ淹れてみることにしました。ポットは500mlなので、1リットル分を日本茶で飲む計算です。美味しいし、どんどん飲めます。

そして、何よりも、茶筒の中身が嬉しいほどに減っていきます。なんだ、もっと早くに飲み始めればよかった。
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Posted by 八少女 夕

【小説】Usurpador 簒奪者(7)選択

『Usurpador 簒奪者』の続きです。

この『黄金の枷』世界観でドラガォンに関する一連の掟は、かなり厳しく決まっています。前作や外伝の発表時、何度か読者から「そうはいっても、お目こぼししてくれるんじゃない?」的な質問をいただいたことがあります。基本的には、「お目こぼし」させないための役職が《監視人たち》なのですけれど、何回か出てきている「システムの例外」は矛盾ではないかと疑問に思われている方があるかもなあ、と思っていました。(第一作で出てきたライサ・モタや、外伝で語られたクリスティーナ・アルヴェスなどです)

じつは許される「例外」にも厳格な決まりがあり、今回はその内容について語られます。ちなみに、『ドラガォンの館』に出入りできるのは、誓約に縛られた《星のある子供たち》と《監視人たち》中枢システムの人だけという決まりがあるので、腕輪を外された人は、街から自由に出て行ける代わりに館には入れなくなります。



『Usurpador 簒奪者』を読む「Usurpador 簒奪者」をはじめから読む
あらすじと登場人物





Usurpador 簒奪者(7)選択

 簡単に決められることではなかった。彼女の前の道は2つに分かれていて、大きく離れていく。けれども、道を選べるのは彼女1人だ。彼は違う道を選ぶことはできない。

 もし、法学に進む道があったのならば、あるいは彼を忘れようと努めたかもしれない。だが、その道は既に絶たれている。そして、ドラガォンで主たる役目を果たせるかもしれないという曖昧な願いには、法学ほどの強い引力はなかった。

 一方で、ドラガォンで中心的な役割を果たすことになるとしたら、22がどんな様子であるのかは常に耳に入ってくる。彼が絶望して苦しむことも、反対に誰か他の女性と幸せを掴むことも、マヌエラは聞きたくなかった。それは彼女の決断が引き起こす不愉快な結果だ。

 いま想像できる範囲で、後悔しない選択は、1つしかない。22と同じ檻の中に自ら入り、彼を孤独と虚無から救い出すこと。

 だが、マヌエラがその覚悟を22に伝える前に、『ドラガォンの館』には緊張が走った。召使いとして働いていたフェルナンド・ゴンサーガが亡くなったのだ。

 ドン・ペドロは厳しい顔で幹部と話し合い、執事ソアレスも緊張した面持ちで同僚の死に動揺する使用人たちを励ましつつも仕事に支障が出ないように指図を出した。

 フェルナンドの死の衝撃は大きく、館には重い空氣が漂っていた。フェルナンドに選ばれた状態だったジョアナは、館でソアレスからそのいまわしいニュースを知らされた。いつも朗らかだった彼女は、ほとんど笑わなくなったが、氣丈にも仕事を休むようなことはしなかった。もう1人の当事者であるアントニオ・メネゼスも、いつも通り冷静に仕事をこなしている。

 事件があってすぐは、マヌエラは居住区で掃除の当番にならなかった。次の機会に、彼女は彼の演奏を聴くことなく立ち去ろうとした。
「もういかなくちゃ。この後、ジョアナと洗濯室でしみ抜きをすることになっているの」

 ピアノの前に座っていた22は立ち上がって側に来た。
「いつも長くここにいて、叱られたのか?」

「そうじゃないけれど……ジョアナには、あんなことがあったばかりだし、私が浮かれているのは酷じゃないかと思って」
彼女は、この事件に誰よりもショックを受けているジョアナを励まし支えたかった。

「マヌエラ。待ってくれ」
階段を上がろうとする彼女を22は呼び止めた。振り向いた彼女の近くに彼は来て、いつもよりも距離を縮めて立った。

「聴いてほしい。前回、君を急かすようなことを言ってしまったので、氣になっていたんだ。君が、親友であるジョアナの氣持ちを慮ることはよくわかる。僕とのことを考えるのは、彼女の心の整理ができてからでも全く構わない。それに、君が中枢部で働きたいというなら、思う存分力を発揮させてやりたいとも思う。なんなら、やりたいことを全てやり終えた後でも、10年や20年後になってしまっても、いいんだ。それでも僕は、いつまでも君を待ちたい」
「……ドイス」

 マヌエラは、彼を見上げた。言葉が見つからず、胸が熱くなった。見つめ合い、お互いの心を読むと、彼は顔を近づけてきて彼女は瞳を閉じた。初めての口づけは、優しくて柔らかかった。甘く切なかった。

 唇が離れた後、恥ずかしくて彼女は下を向いたけれど、自然に笑顔がこぼれた。
「10年だなんて……私自身が、そんなに待てそうもないわ」

 彼は、不安そうだった表情を変えて瞳を輝かせた。
「そういってもらえると期待していたわけではないんだが、そうだとしたらありがたいな。それだけで生きる張りがでるよ。希望に満ちていると、奏でるだけでなく、学ぶことにも、力が漲るんだ。それどころか、雄鶏に色を塗るのすら、素晴らしくてしかたないことに思えるよ」

 彼の笑顔があまりに眩しかったので、マヌエラはもう1度、そして自分からキスをした。そして、彼の手を取って見上げた。
「フェルナンドのことがあって、言いにくくなってしまったんだけれど、私ね、お許しをもらえたらいつでも、この格子のこちら側に来たいって、あなたに伝えるつもりだったの」

 それから、2人は当主であるドン・ペドロに許可を得るタイミングについて具体的に話し合うようになった。

* * *


 2人は、3ヶ月ほど待った。その間に、もちろんマヌエラは召使いとしての仕事をこなした。ジョアナが再び笑顔を見せるようになり、さらには自分からマヌエラに2人の仲がどうなっているのか質問をしてきたので、彼女は素直に22と自分の意向を知らせた。

 ジョアナは、マヌエラに抱きついて言った。
「大変な決意だと思うけれど、きっとあなたなら後悔せずにやっていくと思うわ。私、あなたを応援する。幸せになって」

 マヌエラは、涙を浮かべながら頷いた。
「あなたにそう言ってもらえるのは、本当に嬉しいわ」

「だったら、どうしてそんな大切なことを教えてくれないのよ」
ジョアナは、ほんの少し拗ねたように訊いた。

「それは……とても酷な立場に立たされたあなたに、浮かれたことを言うのが心苦しかったの」
仕方なく答えたマヌエラに、ジョアナはわずかに笑って言った。

「予想していたとおりだわ、マヌエラ。私に遠慮しているんじゃないかって、氣になっていたの。そんなことしないでね。私、アントニオにもそう言ったくらいなんだから」
「なんですって?」

 ドラガォンには、誰にも動かすことのできない掟がいくつかあった。ジョアナは、その1つにより、《星のある子供たち》だけでなく、他の誰とも永久に一緒にはなれない。ジョアナが《星のある子供たち》を産み出したらすぐに一緒になるはずだつたアントニオにも、その機会はなくなった。けれど、2人が愛し合っていることは、前と変わらないのだ。

 ジョアナは、下唇を噛みしめて僅かに黙ったが、しっかりと頭をもたげてマヌエラを見た。それからはっきりとした笑顔を見せて言った。
「彼に言ったの。責任を感じて1人で居続けたりしないでって。あなたの人生の邪魔はしたくない、私が側で見ていると奥さんを探せないなら、私がここを辞めてもいいって」

「まあ、ジョアナったら。それで?」
ジョアナは言葉を探していたが、しばらくするとゆっくりと語り出した。
「そもそもはね、彼にシステムの例外の話をされたの」

「例外って?」
「滅多に起こらないことだけれど、ドラガォンのシステムを維持するために、大きな犠牲を払わされた《星のある子供たち》がでると、例外として扱って救済してくれることがあるって」

「まあ。あなたにはその資格があるんじゃない? だって、あなたは何も悪いことをしていないのに、義務を果たすことができなくなったんですもの」
マヌエラは期待に満ちて訊いた。けれど、ジョアナ自身はさほど嬉しそうではなかった。

「でも、その救済方法は、一つしかないの」
「どんな?」
「腕輪を外してくれるんだって」

 マヌエラは押し黙った。けれど、すぐに思い直して微笑みかけた。
「もう、ここにいられなくなるのは残念だけれど、でも、《星のある子供たち》の掟の外におかれれば、腕輪をしていない誰とでも結婚できるでしょう? アントニオとだって」

 ジョアナは悲しそうに笑った。
「アントニオが、そんなことすると思う? あの人はもう《鍵を持つ者》なのよ。私の腕輪を外す決定だってできる。けれど、彼がその私と結婚したら、ドラガォンのシステムに私情で介入したことになってしまう。他の人なら、もしかしたらそういうことをするかもしれない。でも、あの人はそんなことは死んでもしない。自らが自由にした娘と結婚することなんて絶対にないわ」

 マヌエラは、頷いた。ジョアナは正しい。アントニオ・メネゼスは、絶対に私情を挟んだりはしない人だ。誰よりもシステムに忠実で自分に厳しい。

「だから、私は腕輪を外さないでって頼んだの。私はむしろここで、彼の側で働きたい。そう思った。でも、それから思ったのよ。私がここでずっと物欲しそうに見ていたら、彼にとって迷惑になるのかもしれないって。むしろいなくなってほしいのかなって。だから、あなたにとって私が出ていく方がいいなら、ここから去る、って言ったの」

「それで?」
「彼は、少しでも長く一緒に働きたいって」

 マヌエラは、アントニオらしい選択だと思った。そして、ジョアナも。夫婦にはなれなくても、仕事を通してずっと一緒に居ようとしているのだろう。そんな人生もあるのかもしれない。マヌエラもまた、22と共に格子の向こうで多くの人とは違う人生を歩もうとしている。そうなった後も、自分の人生は続き、一歩一歩進んでいくことになるのだと思った。親友ジョアナと同じように。
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Posted by 八少女 夕

Canção do mar 海の歌

今日は、現在連載中の『Usurpador 簒奪者』の脳内テーマ曲にしている歌をご紹介しようと思います。

先日、エッセイでもご紹介したのですが、数いるポルトガルのミュージシャンの中でも特に私が入れあげているのは、ドゥルス・ポンテスです。この方は現在エンリオ・モリコーネをはじめとする世界各国の巨匠と仕事をしているのですけれど、世界的に名前を知られるようになったのはおそらくこの曲が映画『真実の行方』で印象的に使われてから。リチャード・ギア主演で日本でも公開されたのでご存じの方もいらっしゃるかもしれません。



もともと、このメロディはポルトガルの伝統音楽ファドで使われていたようです。ここで説明しなくてはいけないのですが、ファドでは同じメロディに、自分が歌いたい別の歌詞をのせて歌うという伝統があるそうです。このメロディを使った『孤独』というタイトルの曲を、ファドの伝説的名歌手アマリア・ロドリゲスが歌った録音も残っています。

さて、ドゥルス・ポンテスは、このメロディに漁師と思われる男の悲しい詩をのせて歌いました。『海の歌』といってもフランスのシャンソンやハワイの音楽や、加山雄三の歌のようなポジティヴな海を歌うものもありますが、この歌は荒れ狂う厳しい海をイメージして歌われています。ポルトガルの海は、大西洋ですしね。

この"Canção do mar"は、とても有名になったので多くの歌手がカバーしていますが、この迫力はやはりドゥルス・ポンテスならではだなと思います。

さて、私の作品『Usurpador 簒奪者』の核となった筋は、この曲のイメージから生まれてきました。だから作品のバナーは荒れ狂う海のイメージなのです。こちらに歌詞と、それから私が訳したものを置いておきますね。

Dulce Pontes ドゥルス ポンテス
"Canção do mar" 『海の歌』
Frederico de Brito 作詞

Fui bailar no meu batel
Além no mar cruel
E o mar bramindo

Diz que eu fui roubar
A luz sem par
Do teu olhar tão lindo

Vem saber se o mar terá razão
Vem cá ver bailar meu coração
Se eu bailar no meu batel

Não vou ao mar cruel
E nem lhe digo aonde eu fui cantar
Sorrir, bailar, viver, sonhar…contigo



(和訳:八少女 夕)

俺はおのれの舟の上で踊ろうとした
荒れ狂う海のさらに向こう
海は吼えていた

海は言った。俺が奪ったのだと
お前のあんなに美しい
かけがえのない瞳の光を

ここへ来て、海の言葉に理があるのか確かめるがいい
ここへ来て、俺の心が踊っているのか見るがいい
もし舟の上で俺が踊るのなら

俺は荒れ狂う海には行かない
お前には言わない
どこで歌い、微笑み、踊り、生き
……お前を夢みていたか



この記事を読んで『Usurpador 簒奪者』が読みたくなった方は……

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Posted by 八少女 夕

【小説】Usurpador 簒奪者(6)希望

『Usurpador 簒奪者』の続きです。

前作『Infante 323 黄金の枷 』や外伝で登場したときの22が、とても感じが悪かったのと、今回のストーリー(30年前)の彼ができすぎキャラなので、前作からの読者のみなさまがかなり警戒しておられるご様子。このストーリーは、どうして彼があんな感じの悪い人になってしまったのか、そんな人を主人公に据えて第3作『Filigrana 金細工の心』はどうすんだ、ということを説明するための作品といっていいでしょう。

というわけで、今回からの3回は、少し冗長ですが、書かねばならない章でした。ええ、筆が進まず結局一番最後になったこの3つです。

今回の22の考え方ですが、前作の23とかなり似ています。もっとも、はっきりと誤解のないように口にしている22とくらべて、23の方は何も言わないので話が長くなった、という説もありますね。コミュニケーションは大事。



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Usurpador 簒奪者(6)希望

 4月も終わりになると一斉に芽吹いた新緑が、街を鮮やかにする。この館から決して出て行くことのできない青年が、背筋を伸ばして立ちすくむ窓辺からも、日々変わっていく世界の様子が見てとれる。

 冬に窓から眺めた街は、陰鬱な憂いを見せた。赤茶けた瓦は僅かに黒ずみ、時おり格子の外側に停まるカモメも、膨らませた羽毛に顔を埋めて暖かい室内に入れない不条理にムスッとした顔つきで耐えていた。だが、太陽の馬車はひたすら空をめぐり、日の長さをどんどんと伸ばした。屋根瓦の合間から深緑が萌え立つようになると、世界は心地よく緩み、朗らかな笑顔を振りまくようになった。

 そんな風に、2人でいるときの22もまた、冬とは明らかに違う朗らかな笑顔を見せるようになっていた。

 視線が交わった僅かな瞬間の戸惑いが、微かな笑みに変わり、それから確信が瞳に表れた。優しいメロディと礼儀正しく親しみある言葉が、もっと情熱的な音と健康的で爽やかな語らいになった。マヌエラは、その彼に恋をしているのだと、はっきりと感じるようになっていた。それも一方的ではなく、慕う相手に想われていることを確信して有頂天になった。

 そして、それに伴い、ある種の非生産的な人生を意識するようになっていた。マヌエラの母親は家庭に入ったときに、それまでしていた歯科助手の仕事を辞めたのだという。もともと辞めたかったから悔いはなかったと聞かされたが、私なら仕事を辞めなくてはならないなら、結婚なんかしたくないなと子供心に考えた。それからも、誰かのために自分の築き上げてきたものを全て引き換えにすることなど、考えることがなかった。

 インファンテである22は、当主のスペアとしての人生を送る。ドン・ペドロとカルルシュがこの世からいなくならなければ、ドラガォンで主たる役割を果たすことはない。彼は木彫りの雄鶏を彩色する仕事をしているが、それだけだ。それ以外に求められるのは、いや、そもそも真に求められているのは、子孫を作ることだけだ。

 彼に選ばれるということは、結婚ですらない。彼は法的には存在していないのだ。彼女自身が、彼といる間、やはり存在しないも同然になる。もし子を産めば、我が子だけはドラガォンの血脈の中で意味を持つが、それは存在しない者たちの手柄とはならない。22の愛を受け入れること、それは、文字通り愛のために人生を捧げること、つまり、それ以外の全てを諦めることなのだ。

 彼と合意した赤い星を持つ娘は、最低1年間を居住区で共に暮らし、彼の子供を産むことを期待される。もしその娘が、何らかの志を持ち成し遂げたいと望むならば、たとえば、この館にやって来た時のマヌエラ自身のように、中枢システムに属して知識や能力を存分に生かした役割を果たしたいと望むのならば、自らインファンテの元を去らなくてはならない。

 少なくとも1人の子供を産むか、もしくは1年経っても妊娠しなければ、赤い星を持つ娘は青い星を持つ男の元を自由意志で出て行くことが許される。それが、関係を強制されることもある女たちへのシステム上の救済措置になっていた。

 けれど、彼女にそれができるだろうか。ありとあらゆる才能を持ちながら、生涯を黄金の枷の中に閉じ込められて過ごす孤高の青年、彼女が惹かれてやまない男を捨て、自分だけが外へと歩み去ることが。彼の、1年以上かかってようやく見せるようになった輝くばかりの笑顔と、幸福に舞い踊る音楽の翼をまとめてゴミ箱に放り込むようなことが。

 22は、事を急ごうとしなかった。彼は、自分の立場を誰よりもよくわかっていた。父親である当主の許可を得てマヌエラの手を正式に求めること、彼女のたった1人の青い星を持つ相手となることを切望していたが、彼と共にいる限り彼女もまた檻の中にいなくてはならないことを知っていた。彼女の才能と、この館に来た理由を理解しているからこそ、それを諦めさせることの残酷さを知っていた。

 彼は、それまでにいた他のインファンテ、たとえばカルルシュの父親321のように、1年ごとに新しい女と寝たいと考えるような人ではなかった。彼はマヌエラと生涯を共にしたいと口にした。それが彼女のそれまでの望みを絶つからこそ、彼は慎重にマヌエラの意思が固まるのを待つつもりだと言った。それゆえ彼は、人前でマヌエラを愛している素振りを見せなかった。たとえ、館の多くの者がそれに氣付いていても。

 彼は、居住区の掃除のために彼女がやってくる僅かな時間にだけ、その想いを伝えた。優しい語らいと情熱のメロディ、楽しい会話と、わずかな触れ合い。

* * *


 しばらく経った別の午後、彼は、乾かすために机に並べられていた木彫りの雄鶏を、1つ1つ仕切りで区切られた段ボールの箱に収めていた。伝統的にインファンテは、目立たない手仕事を持っている。いつの頃からそうなったかを誰も知らない。おそらくは、有り余る時間を過ごすために誰かが始めたことなのだろう。彼の仕事は几帳面で、ムラがなく、それでいてよく見ると遊び心のある絶妙の色使いと模様を用いていた。

 それらが詰められた箱は、夕方までに居住区の入り口近くの小さなテーブルに置かれる。あまり時を置かずして、召使いがそれをバックヤードへと持って行き、配送の準備を整える。街のいくつかの土産物屋で観光客たちがそれらを手にして購入していく。その木製の雄鶏たちが、どんな運命を辿るのか知るものはない。リビングルームの片隅で他の土産物に混じり埃を被るのかもしれない。もしくは、大して注意を払われることもなくフリーマーケットに出品されるのかもしれない。

 22は、黙々と彼の小さな作品たちをしまい込んでいく。
「氣に入って、大切にとっておく人だって、きっといると思うわ」
マヌエラの言葉に彼は「中にはね」と、肩をすくめた。

「この仕事をするよりも、読書や音楽にもっと時間を割きたいの?」
その問いを耳にすると、彼は意外そうにマヌエラを見て、それから首を振った。

「いや。この仕事を週に何時間しなくてはならないといった決まりはないんだ。実際のところ、全くやらなくても何も言われないだろうな。だが、少なくともこれは、本当に僕がやるべき数少ない義務の一つなんだ。学問や、音楽はそうじゃない」
「そんな……」

「これを彩色するとき、思うんだ。これが現実だと。僕は、誰も知らない存在すら氣に留めない彩色職人、父やカルルシュとは違うと」
「そんなことないわ。あなたは、システム上は名前を持たないけれど、私たちにとって間違いなく必要なひとよ。あなたは有能なだけでなく、人柄もよくて、皆に慕われている。私たち使用人だけじゃないわ。ドン・ペドロも、そしてドン・カルルシュも、あなたのことを誰よりも頼りにしているみたい」

 その言葉を聴くと、彼は黙ってマヌエラを見た。それから立ち上がり、格子の嵌まった大きい窓の前まで歩いた。しばらく背を向けて窓の外を眺めていた。彼女が、この話を始めるべきではなかったのかと思いだした頃、彼は背を向けたまま言った。

「僕が13歳になるまで、この隣の居住区には21が住んでいた。彼は、コルクで小物を作る職人だったらしいけれど、僕は彼が作品を作ったのを見たことは1度もない。いつもひどく酔っていて、誰かれ構わず罵倒していた。それを非難されると、笑いながら周りに迷惑をかけるのを楽しんでいると豪語するような人だった」
「楽しむ?」

 彼は、振り向いた。彼の後ろから差し込む日差しがつよく、その表情がよく見えなかったので、マヌエラは不安になった。

「そう、よくそう言っていた。でも、僕自身が居住区に住むようになってから、彼のことを少し理解できたような氣がする。本当に楽しんでいたんじゃない、彼はひどく不幸だったのだと」
「ドイス……」

「僕は、彼のようになりたくないし、なるつもりもない。でも、僕は皆に頼られるような立派な存在でもない。父も、カルルシュも、僕に好意を寄せてくれるのは知っている。僕も期待に応えたいと思う。だが、ここに入る前に周りの世界に抱いていたのと同じ感情を持ち続けることは、とても難しいんだ。どこかで、もう1人の自分が冷たく言っている。僕の何がわかるんだ、彼らは、ここで暮らしたことなんてないんだ、何を学ぼうとその知識を用いる場のない、将来に夢や希望を抱くこともできない虚しさは、彼らにはわからないってね」

 マヌエラは、彼の言葉に何かを答えようとしなかった。彼の言うとおりだ。ずっと多くのものを手にしている彼女が言えることはない。彼女がこの居住区から出ることを許されなくなるまでは。

「僕らインファンテは、その成り立ちから、どうしたって孤独に苛まされるようにできている。だが、システムを変えることができない以上、折り合いをつけて生きていくしかない。結局、どの男たちも似たような解決策を求めたみたいだ……残念ながら叔父の21に選ばれた赤い星を持つ10人以上の女性たちは、全員が彼のもとを去ることを選んだけれど、その前にいた320に選ばれた女性は彼が亡くなるまでずっと一緒に居たと聞いている。その話は、僕にとって希望の光なんだ」

 彼女は、真剣に頷いた。軽々しく、自分がそうなると言ってはいけない。でも、きっと私はそうするだろう。彼女は、心の中で呟いた。彼は、笑顔に戻って言った。

「許してくれ。君を困らせるためにこんなことを言ったんじゃない。むしろ反対だ。僕は、君と幸せになりたいと願っている。その一方で、君にもずっと幸せでいて欲しいし、後悔して欲しくないんだ。だから、この格子のこちら側が何を意味するのか、隠したくなかった。結論を急がないで、よく考えてくれ」
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Posted by 八少女 夕

「ブックカバーチャレンジ」に乗ってみた

大海彩洋さんの記事に触発されて、やってみたくなりました。(TOM−Fさんや志士朗さんもやっておられましたね)

SNSなどで流行っているのだそうです。彩洋さんの記事が発表された時点では、見たことなかったんですけれど、ここ数日確かにFacebookに流れてきます。私を指定する人はいないけど。そもそもFacebookは、ほぼ放置だからな。

彩洋さんのご説明によると

ルールは「7日間、好きな本を1日1冊、投稿する。ただし、ブックカバー(表紙画像)のみ、内容説明なし。その都度、誰かをこの企画に誘う」というもののようです。7冊という縛りはないみたい。


ということなので、せっかくなので私も好きな本をお見せしようと思います。ただし、彩洋さんと同じく七日連続でお見せするほどの内容でもないので、一氣にいきます。語るなというのも抵触していますが、まあ、これでも堪えたということで……。あと、七冊には絞れなかったので「七日間」も外しました。orz

(1)から(4)までは、このブログでは既に何度もご紹介しているので、常連の方は「またかよ」と思われるかもしれませんが、ブックカバーを撮影したのはたぶん初めて(……のはず)なので、ご容赦ください。

(1)ヘルマン・ヘッセ 「デミアン」
ブックカバーチャレンジ デミアン
私の人生のバイブル。ヘッセの他の著作も好きで持っているけれど、ドイツ語でも読みたいとトライしたのは、この作品だけ。翻訳版は、ボロボロですね。

(2)マイクル・クライトン 「北人伝説」
ブックカバーチャレンジ 北人伝説
あまりにも愛読しすぎて、文庫本が壊れてしまうので絶版寸前に買った2冊目もある。マイクル・クライトンの著作も「ジュラシック・パーク」を含めていろいろ読みあさり、どれも好きだけれど、一番好きなのがこれです。アントニオ・バンデラス主演で映画化もされたけれど、うーん、原作への愛が深すぎて楽しめなかった。バンデラスのファンだけれど……。

(3)ジェイムス・グリック 「カオス」
IMG_9593.jpeg
この本も、あまりにも読みすぎて既にバラバラになっている。一生懸命読んでいた頃、見かけた人が「読んでみるわ」と読み始めたものの、誰一人読み終えてくれなかったという曰く付きの本。数学と物理学の参考書がいくつか必要ですが、めちゃくちゃ面白いので、よかったらぜひ……。(既に布教は諦めている)

隣にあるのは、やはり科学の本なので並べてみました。実物のバージェス頁岩をウィーンで見たとき、一人で小躍りしました。

(4)ライアル・ワトソン 「アフリカの白い呪術師」
ブックカバーチャレンジ ライアル・ワトソン
この本を大学の図書館で手に取ったのがきっかけでアフリカへ行くことになりました。それが転機となって今ここにいるので、私の人生を大きく変えた本と言ってもいいでしょう。

ライアル・ワトソン繋がりでちゃっかり並べてあるのは……。「わが心のアフリカ」はフォトエッセー集に近いつくり。実は、この本は直筆サイン本で私のお宝です。そして、長期の旅に何度も持って行ったのが「アース・ワークス」。昔はスマホなどなかったので、二ヶ月のヨーロッパ貧乏旅行などには、日本語の文庫本も必須だったのですよ。

(5)エーリッヒ・ケストナー 「動物会議」
ブックカバーチャレンジ 動物会議
子供の頃の愛読書。児童文学だけれど、いま読んでも意味のある本だと思います。というわけで、●十年前、ドイツ語の勉強を始めて最初に買った原著。いきなり「デミアン」を原語で読むと打ちのめされますが、この辺りから頑張れば……ええ、なんとか。

(6)ガルシア・マルケス 「エレンディラ」
ブックカバーチャレンジ G.マルケス
ガルシア・マルケスの作品は、どれも好きなのだけれど、とっつきやすいのは小品集になっている「エレンディラ」。独特の世界観がクセになります。これは読んでいただければわかるのですけれど、文体そのものがすごい世界観なのです。いや、スペイン語で読んだわけではないんですけれど、翻訳で読んでも独特。賛否両論あると思いますが、いまの言葉でいうと「沼」にハマる感じで引き込まれます。

「族長の秋」「ママ・グランデの葬儀」も共にガルシア・マルケスの作品。短編で沼にハマったならおすすめです。ただし、長編から読み始めるよりは、短編からの方がいいかも。万人向けとは思えないので。特に、ラノベしか読まない方には、ちょっと敷居が高いかも。

そういえば「百年の孤独」も昔読んだのだけれど、手元にないと言うことは、図書館で借りたんだろうなあ。

(7)宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
ブックカバーチャレンジ 宮沢賢治
ここにきてはじめて日本人の著作。いや、日本人の本が嫌いなわけではないのだけれど、どうしても愛読書の方に力が入ってしまい……。「銀河鉄道の夜」は表題作も好きだけれど、「双子の星」「よだかの星」も大好きで、時々無性に読みたくなります。「セロ弾きのゴーシュ」と「雪わたり」はどちらも子供の頃の愛読書の絵本でしたが、残っているのは「雪わたり」だけ。なので「セロ弾きのゴーシュ」はわざわざ文庫で買い直しました。

(おまけ)アガサ・クリスティ 「青列車の秘密」
ブックカバーチャレンジ クリスティ
七冊にはどうしても絞れなかった……。クリスティの「ブールートレイン」めちゃくちゃ好きなんですよ。昔持っていた訳とカバーの方が好みだったけれど、もうどこにもないので、改めて新訳を買ってスイスに持ち帰りました。ついでに「オリエント急行の殺人」も並べてみました。ミステリー好きは「ルール破り」と怒るけれど、私は単純に物語を楽しんでいます。これは映画化(最初の方)されたのも観ましたが、そちらも好きです。

(おまけ2)子供の頃の愛読書いろいろ
ブックカバーチャレンジ その他
ここに並べたのは子供の頃のお気に入りの数々です。他に「ジェーン・エア」や「赤毛のアン」「くまのプーさん」もあるけれど、そんなに並べられないので省略。

「もしもしニコラ!」は、子供の頃に好きだったのに失ってしまったところ、数年前に古本屋で見つけて即買ったもの。「くまのパディントン」、「どろんここぶた」「霧のむこうのふしぎな町」とともに、どれも置いて来れずにスイスに持ち込みました。

世界名作全集「小公子」は、ずっと愛読していたのだけれど、実はこの本はバーネットの作品の翻訳ではなくて「翻案」といって、千葉省三氏がバーネットの作品を原作に子供向けにわかりやすく書き直したものでした。見たら刊行は昭和25年! これ、おそらく母親の子供の頃の愛読書だったのでしょう。「信じられぬ旅」「カモメのジョナサン」もおそらく母のお下がりです。

「ムギと王様」も児童文学なのでしょうが、ある種私が書きたい作品のお手本かもしれません。
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