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scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012

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Posted by 八少女 夕

【小説】バッカスからの招待状 -19- モスコミュール

今年最初の小説は「150000Hit 記念掌編」の第3弾をお送りします。

今日の小説は、大海彩洋さんのリクエストにお応えして書きました。


リクエスト内容
   テーマ: 大人の世界をのぞき見?
   私のオリキャラ、もしくは作品世界: 『バッカスからの招待状』
   コラボ希望キャラクター: ハリポタ高校生トリオ(3人ともでもひとりでも)
   使わなくてはならないキーワード、小物など: お祝い



ハリポタ高校生トリオというのは彩洋さんのところの『学園七不思議シリーズ』の相川真くん、富山享志くん、杉下萌衣ちゃんというティーンエイジャーたちのことで、彩洋さんのところの長編大河『相川真シリーズ』の番外というのか、プチ・パラレルワールドというのか、まあ本人たちなんだろうけれど、ちょっと毛色が違う作品群という理解でいいんですよね? (わかっていないまま書くなと怒られそう。ごめんなさい!)

で、未成年を大手町のバーにという無理めのリクエストに頭を抱え、どっちにしてもこのバーは下戸ばっかりだし「ま、いっか」とストレートに全員放り込ませていただきました。案内役は下戸代表で夏木です。

最後、謎の着地をしていますが、なんとなく真はこういうイメージで仲直りしたいのは彩洋さんのところの例のあの人、というわたしの妄想が入っております。いや、あの方がティーン相手に喧嘩するのかという話はさておき。


「バッカスからの招待状」をはじめから読む「バッカスからの招待状」をはじめからまとめて読む




バッカスからの招待状 -19- モスコミュール

 普段は四角四面なビジネスの街という印象を与える大手町も、正月飾りつけがあちこちに見え、さらには正月休みでまだ開いていないビルの寂しい感じがかえって新春らしさを醸し出している。夏木にとってはもう新春ではない。正式な仕事始めに先駆けて、サポートで急遽呼び出されてしまったからだ。

 とはいえ、通常の営業時間よりずっと早くに解放されたので、まだ明るいうちに東京駅に向かって歩いているのだった。

「やっているかな。いや、田中さんもまだ正月休みだよな……」
ブツブツ言いながらも、多少は期待して、彼の唯一の行きつけの店に向かう。

 そのバーは、大手町のビル街にひっそりと隠れるようにある。飲食街からは離れているので夜はほとんど人通りのないとあるビルの地下。知っている人でないと見過ごしてしまいそうな小さな濃い紫色の看板に白い字で小さく『Bacchus』と書かれている。

 階段を降りて見ると、幸い看板に灯がついている。おお、やっている。夏木は足早になった。同時に変わった光景に戸惑った。

 店の入り口前にどう見ても未成年と思われる3人がウロウロとしていた。少女が1人と、2人の少年。中学生ではないかもしれないが高校生としては幼いようにも感じる。

「どうする?」
「どうするって、入るしかないじゃない?」
「いや、でも、ここ本格的すぎてさ。もっとチェーン店みたいなノリで入れるとこないの?」
「本格的じゃないと、質問できないでしょ。バイトの人とかじゃだめだもの」

 尻込みしているのはみるからに上質な服を着ている活発そうな少年。リーダーシップを取っているのは腕に1冊の本を抱えている少女。そして、もう1人のきれいな少年はあらぬ方を見ながら黙って立っていた。

 夏木が通ろうか迷っている様子に氣がついたのは、その少年だった。言い合っている2人にぼそっと言った。
「通りたいみたいだ」

 2人は、同時に夏木を見て言った。
「「すみません」」

「いや、全然。この店に入るか、まよっているのかい?」
夏木が訊くと、少女が頷いた。メガネの奥に理知的かつ、いたずらっ子のような光のある瞳が印象的だ。

「そうなんです。冬休みの自由研究で、ちょっと訊きたいことがあって、でも、入りやすそうなお店はみんな閉まっているし、私たち夜遅くに繁華街に行くわけにもいかないし……。ようやくここ、開いているのを見つけたんだけれど、ちょっと敷居が高くて」

 夏木は頷いた。自由研究か。お酒を飲もうってわけでもないなら連れて行ってもいいかな。
「この店のマスターは親切でとてもいい人だから、心配要らないよ。大人の世界をのぞき見るには最適かもね。一緒においで」

 そう言って、カランと音を立てて扉を開いた。
「明けましておめでとう、田中さん」

 カウンターの中から、田中は驚いたようにこちらを見た。
「夏木さん。おめでとうございます。初出勤でしたか?」

「まあね。本当は明後日からだったんだけれど、急遽ね。せっかくだから田中さんと新年祝いでもできたらいいなと思ってさ。開いていてよかった。今年もどうぞよろしく」
「こちらこそどうぞよろしくお願いします。……そちらのみなさんは?」

 夏木が答える前に、少年の1人が大きな声で言った。
「こんにちは。僕は富山享志です。こちらは杉下萌衣と相川真です。どうぞよろしく」

「ちょっと級長! 別にフルネームで自己紹介するところじゃないんじゃ……」
萌衣が小さくツッコんだ。

「それはどうも、富山さん、杉下さん、そして相川さん、ようこそ。夏木さんのお知り合いですか?」
田中が訊くと夏木は首を振った。
「いや。そこで入ろうかどうか迷っていたみたいで。なんだか自由研究の質問があるみたいで」

 萌衣が大きく頷いて『花言葉・宝石言葉・カクテル言葉辞典』という本をカウンターの中の田中に見せた。
「そうなんです。わたし、この本にある言葉と、実際のお店でそれが実際に使われているかを調査しています」

「そうですか。どうぞおかけください」
田中に言われて、夏木はいつものカウンターの奥の席に、3人はカウンターの正面に並んで座った。

 田中におしぼりを出してもらいながら夏木は言った。
「へえ。花言葉は知っていたけれど、カクテル言葉なんてあるんだ?」

 田中は頷いた。
「花言葉のように、一般的ではありませんが、ありますね」

「それって誰が決めるんですか? カクテル協会みたいな組織でもあるんですか?」
萌衣が訊くと、田中は首を振った。
「はっきりとした由来はわかっていません。20世紀初頭に禁酒法でアメリカを去ったバーテンダーたちがヨーロッパでカクテル文化を広める最中に、花言葉など間接的な表現を好む文化と結びついて生まれたと言われています」

「お。ちゃんと教えてくれている」
享志が言う。萌衣は軽く睨むと小声で言った。
「茶化していないで、ちゃんとメモ取って!」

 萌衣は、田中に向かって質問歩続けた。
「じゃあ、1つのカクテルにきっちりと決まった言葉があるってわけではないのですか」

 田中は首を振った。
「だいたいこのカクテルの言葉はこれ、と決まってはいますが、場合によっては2つ3つの違う言葉が使われることもあります。たとえばブルームーンというカクテルには『完全なる愛』『叶わぬ恋』『出来ない相談』『奇跡の予感』といった、まったく違った意味の言葉があります」

 夏木はいつものサマー・デライトを飲みながら訊いた。
「へえ。ブルームーンってどんなカクテル?」

「ジンベースで、パルフェタムールとレモンジュースを使った紫色のショート・カクテルです」
田中が答え、3人にはウーロン茶を出した。

「ブルームーン……ありえないこと」
真がぼそっと口にした。

 田中は頷いた。
「そこから『叶わぬ恋』『出来ない相談』の言葉が生まれたのでしょうね」

 享志は首を傾げる。
「青い月がなんでありえないのかな?」

 萌衣が小声で答える。
「同じ月に2度満月がやって来ることをブルームーンって言うの。めったにないことだから、ありえないことをブルームーンって言うようになったのよ」
「あっそう。なるほどなー」

「えっと。それじゃ、このカクテルを頼むのは、こういう意味っていう例はありますか」
享志が訊くと、田中は少し考えた。

「そうですね。お酒の特徴と一致していてわかりやすいとなると、たとえばウィスキー入りのウィンナーコーヒーであるアイリッシュコーヒーという熱いカクテルがありますが『暖めて』というカクテル言葉です。それにウオッカベースのキス・オブ・ファイアというカクテルには『情熱的な恋』というカクテル言葉がついています」

「わかりにくいのだと?」
夏木も興味津々だ。

「そうですね。赤ワインとレモンジュースを使ったアメリカン・レモネードというカクテルには『忘れられない』というカクテル言葉がついていますが、これは知らずに想像するのは難しいですよね。また、アプリコット・ブランデーとアブサンを使ったイエロー・パロットというカクテルには『騙されないわ』というかなりはっきりとした意味あいの言葉がついていますが、そもそもこのドリンクをご存じの方の方が少ないのでカクテル言葉まで予想のつく方は珍しいかもしれません」

 ずっと黙っていた真が口を開いた。
「何か、仲直りの意味のあるカクテルって……」

 享志がぎょっとして、振り向いた。
「なんだよ。相川。誰かと仲直り、したいの?」
「……」
真はそっぽを向いて答えない。

「あーあ。級長ったら、自分以外に相川くんが氣にしている友だちがいるのイヤなんでしょ」
「そんなんじゃないよ。僕は、力になれたらって思っただけさ。ま、誰かは確かに氣になるけどさ。だって僕たち、喧嘩していないし」

 真はまったく答えるつもりがないのか黙ってカウンターのライトを見ていた。田中はその時に真の特徴的な瞳に氣がついた。左右で色が違ったのだ。

「そうですね。モスコミュールをご存じですか。ウオッカとジンジャービアで作るカクテルです。『喧嘩をしたらその日のうちに仲直りをする』というカクテル言葉がついています」

「さすが田中さん、よく知っているんだなあ」
夏木がサマー・デライトを飲むと、萌衣がそれを見て訊いた。
「そのドリンクは?」

 夏木は苦笑いした。
「これはノンアルコールカクテルだから、カクテル言葉はないんじゃないかな」

「えっ。ノンアルコールでカクテル作ってもらえるんですか! わたしも飲んでみたい……あ、でも、お小遣いじゃ無理かなあ」
萌衣が肩を落とすと、享志がニッと笑って財布を取り出した。
「まかせてくれ。ことしもお年玉大尽なんだ、僕。せっかくだからここで3人分のノンアルコールカクテル作ってもらって飲もうぜ」

「え~! ほんと? いいの? 嬉しい。さすが級長ったらお坊ちゃま!」
「ありがとう」
萌衣と真がそれぞれに礼を言う。

 田中は、少し憂いのある顔をして心ここにあらずな様子の真を見ながら言った。
「ノンアルコールのモスコミュールをお作りしましょうか」

 真は、はっとして田中の顔を見た。そして、かき消えるような声で答えた。
「お願いします」

 田中は、夏木を見て言った。
「近藤さんがよく飲まれるサラトガ・クーラーと同じレシピなんです」

 けれど、サラトガ・クーラーの時とは違って、モスコミュールと同じキンキンに冷えた銅のミュールカップに注いだ。

 夏木は、乾杯をして飲む少年少女を微笑ましく見つめていた。田中も同じように見つめながら、相川少年が心に秘めている人物との仲直りが無事にできることを祈った。

モスコミュール(Moscow Mule)
標準的なレシピ

ウオッカ - 45ml
ジンジャービア - 120ml
ライムジュース - 10ml

作り方
「ミュールカップ」とも呼ばれる銅製のマグカップ、またはロックグラスにウォッカとジンジャービアを入れる。ライム・ジュースを加え、混ぜ合わせる。
スライスしたライムを飾る。



(初出:2024年1月 書き下ろし)
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Category : 小説・バッカスからの招待状
Tag : 150000Hit 読み切り小説 コラボ キリ番リクエスト

Posted by 八少女 夕

【小説】君との約束 ― まほろばの道

今年最初の小説は「150000Hit 記念掌編」の第2弾をお送りします。

今日の小説は、山西 サキさんのリクエストにお応えして書きました。


リクエスト内容
   テーマ: リフレッシュ
   私のオリキャラ、もしくは作品世界: 「君との約束」の世界
   コラボ希望キャラクター: コトリとヤキダマ
   使わなくてはならないキーワード、小物など: Ninja 650R



さて、『君との約束』シリーズは、もともと50000Hit記念リクエスト掌編から生まれ、後にオリキャラのオフ会でたくさんの皆さんとの共作でちょっとだけ名を知られたカップル正志と千絵の話です。(ま、オフ会では中世から参加した某2名が目立つ美味しいところをみんな持っていきましたが、それはさておき)

そのオフ会で知り合ったサキさんのところのコトリ、そしてそのお連れあいであるヤキダマを訪ねに東京から関西へと向かう、という粗筋を考えました。で、まっすぐ神戸に行けばいいものの、なぜか奈良で寄り道をすることに。こんな話になりました。

日本では新年早々の大きな災害で、亡くなられた方のご冥福を祈り、被災された方に対し心からお見舞い申し上げます。1日も早い復興を願い、この掌編で描いたような平和で美しい日本の風景を楽しむことのできる日が来ますよう祈念いたします。


【参考】
君との約束 — 北海道へ行こう
君との約束 — あの湖の青さのように




君との約束 ― まほろばの道

 あ、ここ、たしか修学旅行で来たよな。正志はひとり言を言った。朱色の屋根が幾重にも重なる塔に見覚えがあった。奈良県桜井市にある多武峯談山神社の十三重塔は定慧和尚が白鳳7年に父藤原鎌足の供養のために創建した塔婆で1532年に再建されているとはいえ、木造十三重塔としては現在世界唯一の貴重な建造物だ。

 東京を朝8時に出発して新東名高速、名阪国道を通り奈良に向かった。途中、清水のパーキングエリアで少し早めの昼食を取った。というのはここは天氣がよければ富士山が見えるPAで、今日のように晴れ渡った日には寄らない手はないと思ったからだ。

 案の定、千絵は大きく見える富士山の姿を見て大感激していた。天氣ばかりは計画できないので、こうしたチャンスは大いに利用したい。また、立ち寄る場所を臨機応変に変更できるのは、バイクや車で旅する利点だ。

 基本的に季節にふさわしい天候の方が好きだが、これだけ長く風を切って走るとなると、やはり「異常気象」と呼ばれる暖かさはありがたい。泊まりが必要になるほどの遠出は久しぶりだ。

 きっかけは千絵がめずらしく正月明けに連休をもらったことだった。看護師である彼女は、年末の通常勤務の他に、どうしてもクリスマスに彼氏と過ごしたいという後輩のために休日とならない夜勤明け勤務をし、さらに病欠となった同僚の代わりに休日を代わったため、1月にまとまった休みが取れることになったのだ。

 正志は、すぐに休みを申請した。勤続10年のリフレッシュ休暇の取得期限は2月末に迫っていたし、千絵と一緒に旅行に行ける機会は逃したくない。

 1月だから、はじめは電車か飛行機でどこかに行くつもりだった。でも、千絵が言ったのだ。
「せっかくのKawasaki、磨いているだけでいいの?」

 そういわれると、なんとしてでもバイクで行きたくなってしまう。

 正志の愛車はKawasaki ER-6n、通称Ninja 650Rだ。かつて2006年版の黒に乗っていたのだが、マンションを購入するときに手放した。それから、千絵に出会い、結婚を考えるようになり、金銭的に再びバイクに乗るのはかなり先だと思っていたのだが、なんと結婚祝いとして再び同じバイクを受け取ることになった。

 同じといっても、2006年版ER-6fは手に入らず、2代目は2009年版ER-6nでNinja 650Rの名前を持つ最後の機種だ。カワサキ・グリーンが鮮やかで、正志は1代目に劣らず氣に入っている。

 とはいえ、かつてのように好き勝手にツーリングに行く時間と精神的な余裕はなくて、珍しく2人の休みがあったときに近場にでかける以外は、マンションの地下駐車場でピカピカに磨くばかりだった。

 行き先は関西に決めた。2人の思い出の土地は北海道だけれど、1月に北に向かうのはあり得ない。そして、せっかく3泊する時間があるならば、少し遠くへ行きたい。

「コトリさんのところに行って整備してもらうのはどう?」
千絵の提案は、実は正志も頭の片隅で考えていたアイデアだった。

 コトリこと三厩彩香みんやま さやかは、千絵と2度目に北海道にいったときに知り合った。神戸『コンステレーション』というバイクのショップの店長で、結婚祝いのNinja 650Rを手配して整備してくれたのもコトリだった。

「そうだな。直接会ってお礼も言いたかったし、行くか」
奈良経由で神戸に向かい、帰りに京都に寄って帰ることにした。

 東京でルートを見ているときに、千絵が「あ、多武峯……」と小さくつぶやいた。正志は訊いた。奈良市内からは少し離れている。
「この神社、何か特別な思い入れがあるのか?」

「ううん。修学旅行で行ったなあって……この神社の前のホテルに泊まったの」
「じゃあ、1日目はそこを予約するか」

 実際に来てみたら、正志も修学旅行で来ていたところだった。
「名前はすっかり忘れていたけど、来たら思い出した」

「一緒には来ていないけれど、思い出は共有しているのって、面白いわね」
千絵は微笑んだ。

 そして、翌日は神戸に移動する日だったが、千絵に誘われるままに早起きして彼女がやはり修学旅行で周ったという明日香村を走って周ることにした。

 石舞台古墳、酒船石、吉備姫王墓にある猿石など名前と場所は忘れていたものの正志自身も確かに1度は見た記憶がある。
「修学旅行で巡るところって、意外と同じなのかもなあ」

 せっかく明日香村まで来たのだから、展望スポットとして有名な甘樫丘に昇ることにした。南東側は明日香村を、北から南西は奈良盆地を一望できる。

 小さめの駐車場には、数台の車の他に、バイクとスクーターが並んで駐車してあった。HONDA PCX150もスクーターとしては大きめのだが、Ducatiと並ぶと小ぶりに見える。2台とも神戸ナンバーなので、一緒に来ているのかもしれない。

 正志は首を傾げた。
「このDucatiさ……コトリさんのと同じだよな」

 千絵は首を傾げた。北海道で見たのは確かに大きな赤いバイクだったが、車種まで覚えてはいなかった。正志は数年前とはいえコトリが乗っていたのがDucati Monster 696であることは忘れていなかった。

「おや。コトリのことをご存じですか?」
後ろから声が聞こえて、正志と千絵はぎょっとして振り向いた。

 階段で降りてきた背の高い姿勢のいい青年が立っていた。感じのいい理知的な顔立ちで、まっすぐにスクーターに近づいてきて、シートを開けて中から小さな双眼鏡を取りだした。
「あった。やっぱり持ってきていたんだ」

「あの……。コトリさんも、ここに?」
正志が訊くと、青年はそばに停めたNinja 650Rを見て「あ」と言った。

「そうか。東京からコトリを訪ねに来るといっていた……」
それを聞いて正志は頭を下げて言った。
「そうです。俺は山口正志、こっちは妻の千絵です。……ということはあなたは……」

 青年もわずかに笑って頭を下げた。
「僕は三厩幸樹みんまや こうき、コトリこと彩香さやかの夫です」

「そうですか! はじめまして。お目にかかれるのは今晩、神戸でだと思っていましたが」
正志が言うと、千絵も目を丸くした。
「なんて偶然でしょう」

 幸樹はすこし目を泳がせた。
「偶然って言うか……。まあ、行きましょう。上にコトリがいますから、彼女が説明するでしょう」

 彼に誘われて、2人は丘を登っていった。歩道はコンクリートになっていて迷うこともなく登っていける。道の左右にはたくさんの木々が植わっている。広葉樹なのでこの時期は葉を落としていて青空と太陽の光が直接3人の上に広がり、登り坂であることもあってぽかぽかとして心地よい。

「ここが蘇我蝦夷の屋敷があったところらしいですよ」
「へえ。礎石が残っているんですね」
そんな話をしながら川原展望台と看板が示す方向に5分ほど登ると、開けた場が見えてきた。

「ヤキダマ! ずいぶんかかったけど、どうしたの? あれ?」
声のする方を見ると、コトリこと彩香がいた。幸樹だけでなく正志と千絵が一緒に登ってきたので目を丸くしている。

「本当にコトリさんがいる! 驚きましたよ」
正志も手を振って話しかけた。

「双眼鏡だけじゃなく、山口さんたちも見つけたからね。お連れしたよ」
幸樹は少し得意そうに言った。

 彩香はおかっぱの髪を揺らしながら少し降りてきた。それから嬉しそうにまず千絵と、それから正志と握手した。
「北海道以来だものね。懐かしい」

 それから幸樹の方を見ながら少し勝ち誇ったように言った。
「ほらね。やっぱり遭えたじゃないか」

「まあね。偶然とは言え、君が正しかったよ」
幸樹は答えた。

「っていうと?」
正志が訊くと、彩香はにっこり笑った。
「今日、多武峯から明日香村経由で神戸まで来るって言っていたでしょう。ルートは限られているから、わたしたちもこっちに向かったら途中で遭えるかもしれないって言ったら、ヤキダマはスケジュールも知らないのにそんなの無理だって言ったんだ」

「遭えるわけはないと思ったけれど、飛鳥路をドライブするのもいいと思ったから一緒に来たんだよね。まさか本当に遭うとはな」
幸樹は頭をかいた。

「この辺りにはよく来るんですか?」
千絵が訊くと、彩香は幸樹は顔を見合わせてから答えた。
「いや……明日香村に2人で来たのは初めてだよね」

 4人は話しながら頂上を目指して歩いた。
「ER-6nの具合はどう? 東京から奈良までは、けっこうあったから疲れた?」
彩香が訊くと、正志は首を振った。
「いや。パワーがあって氣持ちよく走れたよ。都内だと止まってばかりだけど、足つきもいいので楽だし。あと、カウルに防風効果があるんだな」

「千絵さんは? 長くて大変だった?」
訊かれて千絵は首を振った。
「もちろんちょっとお尻は痛くなったけれど、正志くんがよく休憩入れてくれたから。それに、後ろに座っていても風景が見えるのは嬉しかったわ」

 彩香は頷いた
「後部座席が少し高くなっているからね」

 よく整備された道なので難なく登っていけるが、10分ほどして頂上に着いたときには体が温まっていた。

「大丈夫?」
正志は小さい声で千絵に訊いた。普段、清涼飲料水の営業で坂道の多い道なども歩き回る正志にとっては大したことはないが、いちおう女性なので千絵にはきついかなと思ったのだ。

「大丈夫よ。病院ではけっこう歩き回るし、体も使うから、意外と丈夫なの」
千絵は、息を整えてから、笑った。

 見ると彩香はさほど息も上がっていない。どちらかというと幸樹の方が大変そうだ。
「ヤキダマったら、もう疲れたの?」
「疲れたってほどじゃないけど……僕はデスクワークだし……」
4人は笑った。
 
 それでも頂上の絶景には皆が見とれた。
「すばらしい眺めね!」

 西側には葛城山系が、よく見えている。
「あのラクダのこぶみたいな山は、どこなのかしら」
千絵が訊き、正志は案内板と見比べる。
「えーっと……」

「あれは二上山」
彩香が答えた。

「お、さすがに詳しいな。じゃ、その手前の台形の山は?」
幸樹が訊くと、彩香は即答した。
「あれは畝傍山。あっちが耳成山、それから天香久山」
指先は右に向かう。

「大和三山が一望の下だな」
幸樹が言うと、彩香が言った。
「大和三山っていうんだ?」
「うん。僕は山の名前は知っていても、この辺は全然走っていないし実際にどれだかは知らないんだよな」

「あれがかの天香久山かあ」
正志が大きな声を出した。

 千絵は考え深げに答えた。
「『大和には 群山あれど とりよろふ 天の香具山……』」

 正志が目を丸くした。
「何それ?」

 幸樹が答えた。
「舒明天皇の歌だね。『……登り立ち 国見をすれば 国原は 煙り立ち立つ 海原は かまめ立ち立つ うまし国ぞ あきづ島 大和の国は』って続くんだ。ちょうどこんな感じで見ていたのかもしれないね」

「おお、2人とも教養あるな。俺もこれなら覚えているぞ〜。『春過ぎて 夏来たるらし 白たへの 衣干したり 天香具山』」

 幸樹は頷いた。
「持統天皇か。百人一首、そういえばしばらくやっていないな」

 彩香は言った。
「じゃあ、今晩、やる? お正月らしいしね」

 そう言われて、正志は思い出した。
「そういえば、新年の挨拶していなかった。あけましておめでとう。今年もどうぞよろしく」
「「「どうぞよろしく」」」

 4人は笑った。素晴らしい大和路の景色を堪能したあと、3台のマシン、Ducati Monster 696、HONDA PCX150、そしてKawasaki Ninja 650Rは一路、神戸を目指して「国のまほろば」たる大和路を駆け抜け、新春のドライブを楽しんだ。

 かつて、修学旅行でバラバラに思い出を作った大和路が、この『まほろばの道』を共に走ることで1つの思い出の地になっていく。そんな考えを正志は我ながら「いいな」と思った。

大和は 国のまほろば たたなづく 青がき 山ごもれる 大和し うるわし

古事記・中巻 倭建命



(初出:2024年1月 書き下ろし)
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Posted by 八少女 夕

【小説】流星に願いを

今日は「150000Hit 記念掌編」の第1弾をお送りします。『森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠』が終わっていないんですが、ちょっと日付的にどうしてもこちらを先に発表したかったのです。

今日の小説は、TOM−Fさんのリクエストにお応えして書きました。


リクエスト内容
   テーマ: 旅、人生
   私のオリキャラ、もしくは作品世界: 『樋水龍神縁起』から
   コラボ希望キャラクター: TOM−Fさんのオリキャラ誰でも
   使わなくてはならないキーワード、小物など: 「15万」「過ぎてた」



さて、『樋水龍神縁起』シリーズは、別館に隔離してある『樋水龍神縁起』本編の他、『樋水龍神縁起 Dum Spiro Spero』や『樋水龍神縁起 東国放浪記』など平安時代から近未来までいろいろとキャラがいるのですけれど、今回は先にTOM−Fさんのどちらのオリキャラをお借りするかを決めてから、対応する作品を決めることにしました。候補としては橘花内親王と智之ちゃんまで絞って、最終的に智之ちゃんを再びお借りすることにしました。

じつは、123456Hitの時にも同じことをしているのですが、お借りするだけお借りして、名前が出てきていません。でも、智之ちゃんのつもりです。TOM−Fさん、すみません。そして、こちらのキャラは、うちのブログで最弱のヘタレとして読者の皆様を響めかせた、彼奴でございます。

で、お詫びなんですが、いまいちテーマにちゃんとはまっていません。ちょびっとだけかすっていますけれど……。


【参考】
「樋水龍神縁起 Dum Spiro Spero」を読むこのブログではじめからまとめて読む
あらすじと登場人物



樋水龍神縁起 Dum Spiro Spero・外伝
流星に願いを


 急いでいるときの階段というのは、どうしてこんなに急勾配に感じるんだろう。ローヒールでよかったと思いながら、瑠水は地下鉄口から地下街を目指して走った。本来目指しているのは銀行で地上階なのだが、横断歩道がかなり先までないので地下街を通らなくてはならない。

 出かけたときにはちゃんと憶えていたのに、あれこれ用事をしているうちにすっかり忘れていた。予約してあったクリスマス限定のバッグを取りに行くように、姉の早百合に頼まれていたのだ。でも、15万円もの大金を持ち歩くのがイヤだったので、代金は最寄り駅についてからATMで引き出すつもりだった。

 そして、氣がついたらあと5分でATMコーナーが閉まってしまう時間になっていた。
「やだやだ。間に合って! コンビニで出すとものすごい手数料だし……」

 地下道も何年経っても慣れない。まるで迷路で、急げば急ぐほど目的地から離れて行くみたいだ。瑠水は案内板を見るために上ばかりを見上げながら走った。

「きゃっ!」
「わっ」
ようやく見つけた銀行のある地上出口を駆け上がっているときに、降りてきた男性とぶつかってしまった。瑠水はペコペコと謝り、引き続き銀行を目指して走った。

 時間は過ぎていて銀行ATMのシャッターはしまりかけていたが、瑠水が謝りながら駆け込むと、係員が待ってくれた。無事に1万円札を15枚引き出して外に出ると、さっきぶつかった男性が立っていた。

「これ、落としましたよ」

 見るとアパートの鍵だ。緑の勾玉の左右に赤と白のビーズをあしらったキーホルダーがついている。
「あ、本当だ。すみません、わざわざまた昇ってきてくださったんですね」

 男性は、笑った。
「また降りていらっしゃるかわかりませんでしたし」

 そう言われて、瑠水はこれからバッグを受け取りに行く店への道のりがわからなくなってしまったことに氣がついた。さっきいたところと同じ通りのはずだけれど……。

「ありがとうございます。えっと……」
バッグから早百合にもらった店からのハガキを取りだして辺りを見回した。

「ああ。その店、これから僕も行くところです」
そういうと、男性は同じハガキを内ポケットから取りだして見せた。

 瑠水はホッとして、その青年と一緒にまた地下街に降りていった。

「本当にいろいろとすみません。住んでけっこう経つのに、行き慣れないところはいまだに迷ってばかりで」
瑠水が言うと、青年も笑った。
「僕はめったに上京しないので、もっとわかっていませんよ」

「どちらにお住まいなんですか」
「京都です。研修で上京したんですが、東京に行くならこのハガキと引き換えの香水をもらってこいと命じられて……」
道理でハガキには女性の宛名が見えたわけだ。瑠水は頷いた。

 早百合がバッグを今日瑠水に頼んで引き取りに行かせたのも、特別プレゼントの限定瓶に入った香水が目当てだ。
「人氣なんですね。私も姉に頼まれたので来ましたが、普段はブランド店にはほとんど足を踏み入れないんです」

 瑠水は、青年と一緒に笑った。
 
 その青年は、とくに愛想良くしているようには見えないのに、どこか人を安心させる佇まいで、直感で親切な人だとわかった。研修と言ってもスーツ姿ではなくてカジュアルなセーターにグレーのジャケット・コートを着ている。サラリーマンではなさそうだ。

 歩いている途中で青年の携帯が鳴った。彼は律儀にも「失礼」と言って取った。
「もしもし? ああ、観月。……うん。そうなんだ。また研修で上京してきたから……。うん、もう終わった。明日の夕方の新幹線だから、時間はあるよ。……わかった。じゃ、そっち予定がはっきりしたら、また電話してくれ。うん、僕はいつでも大丈夫だから」

 通話が終わると、彼はもう1度瑠水に失礼を詫びた。瑠水は首を振った。
「いえ、とんでもない。お友だちとのご予定があるのでは?」

「いいえ。今のは高校時代の友人なんです。彼女は高校の途中で東京に引っ越して。さっき久しぶりに会いたいなと思いついて、メールを送ってみたんですよ。急なことだから、今から明日の予定を調整してくれているぐらいなので、今夜は大丈夫です」

 瑠水は、あれと思った。ということは、香水を欲しがっている女性とは別の人なのかしら。

 彼は颯爽と地下街を通り抜け、目的地のある地下鉄出口を軽やかに昇った。自分一人だったら、銀行からこの通りまで、こんなに簡単には来られなかっただろう。

 それはまるで瑠水の人生のようだ。故郷では、地下道、たくさんの店やしゃれたカフェ、まっすぐ歩けないほどたくさんの人びととは無縁だった。そしてだからこそ、瑠水は迷うこともなかった。

 東京に来てからの瑠水は、今日のランチを何にするか、同じ目的地にどの経路で行くべきか、そして、通りを隔てた銀行へと向かう事にすら、いつも迷っている。

 大人になれば、進学すれば、賢くなり、世界の理も明らかとなり、堂々と自信を持って生きていけると思っていたけれど、そうではなかった。

 隣を歩く青年は、東京に住んでいるわけでもないのに地下街に迷うこともなく歩いていく。どこへ向かっていけばいいのかわからないまま、右往左往している私は、たぶん都会暮らしには向いていないんだろうな。でも、ここで就職してしまったし……。そうやって自分を納得させているうちに、生活も時間もどんどんと樋水のあの日々からは離れていく。懐かしい人も、会いたくても会えない人も……。

 12月の都心はどこもイルミネーションが美しい。冷えた空氣と人びとの吐く白い息のせいで、点灯したままの電球もわずかに瞬いて見える。
「きれい……。天の河みたいですね」

 青年は不思議そうに瑠水を見た。少し戸惑って訊いた。
「私、なにかおかしな事、いいました?」

「いや、まったく……。そうじゃなくて、僕、それにさっき電話していた相手も、実は天文部だったんです。だから、天の川はものすごく身近な話題なんですが、あなたの口からその言葉から出たので、すこし驚いてしまって」

 瑠水は、少し俯いて笑った。
「そうですか。東京ってあまり星見えないから、そういう発想は珍しいかもしれませんね。……私、とても田舎の出身なんです」

 青年は、すこし悪戯っぽい笑顔を見せた。
「当てましょうか。……島根県?」

「どうしてわかったんですか?」
瑠水は心底驚いた。

「種明かしをしましょうか。さっき拾ったキーホールダーです。出雲大社に旅したときに、似ているのを見かけたんです」
「まあ。ええ。これは美保岐玉を模したキーホールダーです」

 ふっくらとした碧めのうの勾玉に、白めのうの珠と赤めのうの細長いビーズをあしらった飾りは、出雲国造代替わりの際に宮中に献上されることでも有名な健康と長寿を祈念する宝物だ。

 奥出雲、樋水龍王神社の参道にある家で生まれ育った瑠水にとって、出雲式勾玉や美保岐玉はとても身近な存在だったけれど、それが日本全国の常識でないことは、東京に来てから学んでいた。だから、この青年がそれを目にしただけですぐに島根県の特産品だと見抜いた目の良さに、とても驚いた。

 そのことを話そうかと思ったときには、2人はもう目的のブランド店の前に来ていた。

 その店はいつも夜でも煌々と灯がついて、入るのにも氣後れしてしまう晴れがましい佇まいだった。入っていく人たちは、みなブランドものの服をきっちりと着こなして、恭しく頭を下げる店員たちにも慣れている風情だ。

 瑠水は、この青年が一緒に来てくれてよかったと思った。自分一人だったら、入ると決意するまでに数分かかったに違いない。

 虹色のラメを纏った白いプラスチック製の樅の枝が、店の至る所を飾っている。昼間のように明るい店内には、スポットライトを浴びて高価なアクセサリーや、とても高いバッグなどが並んでいる。たくさんのカップルがいて、クリスマスシーズンの店内はとても混んでいた。

 早百合に頼まれたバッグを受け取り、限定ボトルの香水プレゼントも無事手に入れた。隣のカウンターを見ると、青年も同じプレゼントを無事に手にしたようだ。見ると、アイボリーのハンカチも購入していた。この店には意外なほど清楚な感じの1枚だ。ブランドのロゴはついているが、布と同色の刺繍でほとんど目立たない。

 店を一緒に出て、また地下鉄口へ向かう途中、瑠水は青年に話しかけた。
「とても素敵なハンカチを見つけられましたね」

 彼は、笑った。
「そう思いますか?」

「ええ。あのお店の商品って、ものすごくロゴの主張が強いので、あんなにさりげないハンカチがあるとは思いませんでした。香水に添えてプレゼントですか?」
瑠水は訊いてから、あ、よけいなこと訊いちゃったかなと反省した。

 青年は首を振った。
「いや、これは明日逢う友人に。クリスマスプレゼントで、相手の負担にならないようなものを探していたところで、ちょうどいいかなと思って」

 瑠水は、少しだけ遠い目をして、それから笑って首を傾げた。
「ちょっと想像してしまいました」

「何を?」
青年は、何がなんだかわからないという顔をしていた。

「素敵な高校時代を過ごされたんだろうなあって。そのハンカチが似合うような方と天文部で一緒に星を眺めて……。とてもロマンチックだなって」

 彼は笑った。
「確かに、彼女はこのハンカチが似合うような清楚な感じです。でも、芯は意外なほど強い。同じ部に、まったく別のタイプの女の子もいて、僕は2人に押されっぱなしだったな。でも、本当に楽しかった。今でもよく思い出します」

「その方も遠くに?」
「ええ。今はニューヨークです。次に会えるのはいつだろうなあ」

 瑠水は、少しだけ俯いた。楽しかった高校時代。いつも一緒にいた人。奥出雲の四季を一緒に駆け抜けた思い出。次に会う機会を自分で壊してしまったこと。

「どうなさいましたか?」
青年に訊かれて、瑠水は首を振った。
「なんでもないんです。京都やニューヨークでも、こことおなじような星空が見えるんでしょうか」

 彼は頷いた。
「若干の緯度の違いや時差はありますが、同じ北半球ですから。でも、一番見にくいのはここ東京じゃないかなあ。どこもかしこもネオンで明るいですから」

「明日会うお友だち、残念がっていらっしゃいますか」
「いや、残念がったりせずに行動しますね。同時天体観測をするときは、自宅ではなくて山間部の方に行くみたいです。今月も14日夜に兵庫・京都・東京でふたご座流星群を同時観測するつもりなんですよ」

「その日に流星がいっぱい見られるんですか?」
「ええ。願い事があるならチャンスですよ」
彼は笑った。

 地下鉄駅で、青年と別れた。彼は最後まで親切で礼儀正しく、方向音痴の瑠水が正しい路線の改札にたどり着くまで送ってくれた。

 早百合の家に向かう道すがら、瑠水はネオンが明るい東京の空を見つめた。この空のどこかで、14日の夜に流星がたくさん流れる。島根にいるシンの上にも懐かしい星空がひろがっているんだろうか。

「願い事があるならチャンスですよ」
あの青年は言った。

 口にするどころか、考えることもつらいほどの大きな願いがある。

 幸福そのものだった高校時代。暖かい家族と、大好きなお社と、そして、シンのバイクに乗せてもらって駆け回った奥出雲の四季。水底の皇子様とお媛様に同調したかのような至福の風。

 あの日々に帰りたい。

 12月の風は冷たく瑠水の頬を刺した。かつてと全く変わらぬ広大な天の河は、都会のネオンで見えなくなっている。けれど、それは同じように横たわり、瑠水とすべての人びとの上で静かに瞬いた。

(初出:2023年12月 書き下ろし)
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Posted by 八少女 夕

150,000Hit……過ぎてた

最近、桁が大きくなってあまり踏まないのですっかり見過ごしていました。

キリ番過ぎた

1000Hit、5000Hit、10000Hitなどは楽しく騒いでいたのですが、3年前の123456Hit以来ちょうどいいキリ番があまりに来ないので、カウンターを見るのをすっかり忘れておりました。

月曜日の深夜か火曜日の朝に、なんと150000Hitになっていたようです。「あれ」と思ったときは、すでに85も過ぎておりました。こんな辺境小説ブログに、懲りずに訪れてくださるみなさまに、改めて御礼申し上げます。

最近、このブログも比較的静かですし、あまり記念イベントというほどのことでもないのですが、せっかくですので、もし掌編小説のリクエストがありましたら承ります。来年になると、また「scriviamo!」が始まりますので、このリクエストは年内かな。

リクエスト内容(フリー)
  テーマ
  私のオリキャラ、もしくは作品世界の指定
  コラボ希望キャラクター(ご自分の、又は作者の了解をもらえる場合のみ)
  時代
  使わなくてはならないキーワード、小物など
  その他 ご自由に



ご遠慮なく、どうぞ〜。
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