【小説】大道芸人たち 番外編 — アウグスブルグの冬
お題ワードを使いきるのに、かなり無理をしている分、ドイツでも最も古い都市ながら日本には馴染みのないアウグスブルグについてのミニ知識をあちこちに散りばめました。少し早いクリスマスのムードも楽しんでいただけると嬉しいです。(ヴィルの所属していた劇団と、待ち合わせをしたレストランは架空です。念のため)
この66666Hit企画は、六名の方から出していただいた名詞をそれぞれ一つ以上使うというルールがあります。今回、使った名詞は順不同で「禁煙」「飛行船 グラーク ツェッペリン」「オクトーバーフェスト」「ロマンティック街道」「ピアノ協奏曲」「彗星」「博物館」「羽」「シャープ」「ガラス細工」の十個、これで35ワード、コンプリートです。この企画にご協力くださった、出題者の皆様、そして、一緒に書いて(描いて)くださった皆様、本当にありがとうございました。あ、まだという方も、まだまだ募集中です。ぜひご参加くださいませ。
【大道芸人たちを知らない方のために】
「大道芸人たち Artistas callejeros」は2012年に当ブログで連載していた長編小説です。興味のある方は下のリンクからどうぞ


あらすじと登場人物
大道芸人たち Artistas callejeros 番外編
アウグスブルグの冬
黄土色の壁が目に眩しい一画を、三人は歩いていた。ヴィルが壁を指差した。
「これが、フッガーライ。低所得者のための社会福祉住宅としては、ヨーロッパ最古と言ってもいい」
ドイツ南部の街アウグスブルグにあるフッガーライは、16世紀に世界的大富豪であったヤコブ・フッガーが建てた貧者のための集合住宅だ。アウグスブルグ出身の勤勉だが貧しいカトリック教徒がほんのわずかの家賃で住むことができた。
アウグスブルグは、ロマンティック街道の中心都市。ローマ皇帝アウグストゥスにその名前の起源を持つ二千年の古都だ。日本人の稔と蝶子にはあまり馴染みがなかったが、ヴィルにはなつかしい故郷だ。彼が蝶子たちにアウグスブルグの名所を案内するのは、今日が初めてだった。
「最古の福祉住宅ね。で、今でも、人が住んでいるのか?」
稔が見回す。ヴィルは頷いた。
「ああ、家賃は今でも1ライングルデン。0.88ユーロだ」
「ええっ? ひと月?」
「年間だ」
蝶子と稔は顔を見合わせた。
「それって、要するにタダってこと?」
「まあな。光熱費は別だが」
「それなら俺にも払えるぞ」
「住みたければそれでもいいが、しょっちゅうやってくる観光客に家を覗かれるのは、そんなに心地いいものじゃないぞ」
フッガーライを通り過ぎ、ヴィルは蝶子と稔を『アウグスブルガー・プッペンキステ』という人形劇博物館へと連れて行った。1943年にエーミヘン一家が始めた操り人形よる劇は、戦後テレビ放映されたことから全国的な人氣を博した。
「へえ。ずいぶん大掛かりなものもあるんだな」
「ブラン・ベックも連れて来ればよかったわね」
稔と一緒に感心しつつ、蝶子が言った。レネは、久しぶりに逢うヤスミンとの時間を過ごすために別行動なのだ。後で、劇団『カーター・マレーシュ』の仲間であるベルンと待ち合わせしているレストランで落ち合うことになっていた。
「これが、『
ヴィルは、バイクに乗っている白黒の猫の人形を指した。ドイツやオーストリアなどのドイツ語圏の子供ならば、テレビで一度は観たことがあるという、ポピュラーなシリーズで、『アウグスブルガー・プッペンキステ』というと、この猫を思い出す人も多いらしい。
「ああ、これをもじって『カーター・マレーシュ』なのね」
「マレーシュは、アラビア語で上手くいっていない時に『氣にするな』ってかける常套句だ」
「その二つの組み合わせかよ。それじゃ、日本人には、ピンとこないよな」
ヴィルは『カーター・マレーシュ』の俳優だった。逃げるように去ったこの街に、ようやく何の問題もなく戻ってこられるようになった。Artistas callejerosの仲間たちと一緒に。劇団の仲間ともあたり前のように逢って、酒を飲んで旧交を温めることが出来る。彼は、クリスマス前のアウグスブルグ観光を楽しむ蝶子と稔を見ながら、感慨にふけった。
時間より少し遅れて、三人は『Starrluftschiffe(飛行船)』というレストランの扉を押した。頭上に黄金の飛行船のプレートがある。
「レストランに飛行船モチーフって珍しいよな」
「そうね。なぜ飛行船って名付けたのかしら」
蝶子も首を傾げた。
赤い玉や、樅の木の飾りなどクリスマスらしい装飾で満ちた店内には、既にベルン、ヤスミン、そしてレネが座っていた。三人は、テーブルに向かいお互いに抱き合って再会を喜んだ。
「クリスマス市に行くにはまだ早いから、少しここで腹ごなししておこう」
先に来ていた三人の前には、既に飲み物が来ていた。レネはワイン、残りの二人はわりと小さめのグラスでビールだった。
「どうしたんだ?」
ヴィルが、ベルンに訊いた。ジョッキで飲まないとは珍しい。
「オクトーバーフェストで飲み過ぎて以来、ちょっと控えめにしているんだ」
彼が、肩をすくめると、ヤスミンが補足した。
「とんでもない醜態を晒したのよ。私が行った時にはぶっ倒れてお医者様が呼ばれていたの」
四人に、へえという顔をされて、ベルンは少し赤くなって自己弁護をした。
「元はと云えば、隣の席にいた日本人カップルが、いい調子でがぶ飲みしていたせいだよ。バイエルン人の誇りにかけて負けてはならじと……」
「ええっ。あれは、カップルじゃないでしょう」
ヤスミンは、何を言うのかといわんばかりの剣幕だった。
「え。違うのか?」
「とても歳が開いてみたいだし、それに、あんなに他人行儀なカップルはないわよ」
「そうかな? でも、娘があんなに飲むのを放置する親父っていうのも変だぞ?」
稔とレネは、二人の会話を聴きながら、顔を見合わせた。どんな二人組だったんだろう?
その話題をまるっきり無視してメニューを見ていた蝶子が「あ。なるほど!」と言った。
「何が、なるほどなんだ?」
稔が訊くと、蝶子はメニューの内側の最初のページを見せた。そこにはやはり飛行船の絵と、レストランの名前が大きく書かれていた。
「飛行船 グラーク ツェッペリン」
「これが?」
「ほら、この下の方を見てご覧なさいよ『グラーク=ツェッペリン家(Familie Glag-Zeppelin) 』って、書いてあるでしょう? これ、苗字なのよ。たまたまグラークさんとツェッペリンさんが結婚して、まるでツェッペリン伯爵みたいな響きになったんで、面白がってレストランに『飛行船』って付けたんだわ。『雄猫ミケーシュ』をもじって『カーター・マレーシュ』って名付けたみたいなものなのね」
「
「本物の伯爵が大衆レストランを経営する訳はないだろう」
ヴィルが口を挟んだ。
三人は飲み物につづいて料理も頼んだ。自分の頼んだグーラッシュが目の前に置かれて、稔は「ああ、これか!」と言った。
「何が?」
「シチューだったんだな。グーラッシュってなんだっけと訝りつつ頼んだんだ」
「まあ、わかっていなかったの?」
「うん。これ、ご飯がついていたらハヤシライスみたいだよな」
「ハヤシライス?」
レネが訊いた。
「ハッシュドビーフ・ライスのことよ。日本ではハヤシライスっていい方をする場合もあるの」
蝶子が、説明した。
「ハッシュドって、そもそもどういう意味だっけ?」
稔が訊く。
「細かく刻んだって意味でしょ」
「電話についている、ハッシュマークも同じ意味なのかな?」
「語源は同じなんじゃないの? 細かく刻んでいるみたいに見えるし」
「あれって、シャープマークじゃないんでしったけ?」
レネが、ザワークラウトと格闘しながら訊いた。
「似ているけれど違う。シャープは横棒が斜めで、ハッシュは縦棒が斜めになっているんだ」
ヴィルが、ビールを飲みながら答えた。
「ドイツ語ではなんて言うんだ?」
稔が訊いた。
「シャープはクロイツ。ハッシュはドッペルクロイツ」
ベルンの返事にレネが首を傾げる。
「クロイツって十字マークじゃ」
蝶子は笑ってさらに混乱させることを言った。
「バッテンも、シャープもクロイツよね」
「わかりにくいな」
食事が終わると、ベルンが席を外した。
「トイレにしちゃ長いな」
稔が言うと、ヤスミンが煙草のジェスチャーをした。ああ、と稔は頷いた。
「ドイツも吸えないんだっけ」
「公共の場での喫煙は禁止されているの。レストランも同様。だから、吸いたければ、外で吸うしかないんだけど、なんせマイナス15℃ぐらいまで下がるからね。冬の間に禁煙に成功する人も多いのよ。もっともここ数日は暖かいから、彼は当分止められないでしょうね」
ヤスミンが言うと、四人は笑った。
「それで、公演は終わったのか?」
ヴィルが訊くとヤスミンは頷いた。彼女は、『カーター・マレーシュ』の重要な裏方だ。
「三十年戦争終結四百周年の記念イベントに私たちも参加したの。アウグスブルグの十七世紀って、盛りだくさんだったのね」
「当時の歴史に関する劇だったのか?」
「ええ。最初は三彗星の出現から始まったのよ」
1618年の秋に、ヨーロッパには三つもの彗星が同時に現れた。同時に二つ以上の彗星が現れたのは、それから2004年までなかったことを考えると、彗星のめぐる仕組みが知られていなかった当時の人びとにとってそれがどれほどの異常事態であったかは想像に難くない。現在のように明るいネオンのなかった時代、いくつものほうき星の出現は、さぞ人びとを不安にしたことだろう。
その年に、三十年戦争が始まり、アウグスブルグも一時スウェーデンに占領されることになった。件のフッガーライの貧しい住民たちも追い出されて、一時は兵舎となったのだ。
「そのせいで、団長にスウェーデン語のセリフがあって。稽古にやたらと時間がかかったよ。それより大変だったのはベルンのピアノだけれど」
「ピアノ?」
「ああ、スポンサーがどうしてもモーツァルトを絡ませたいというので、現代人である主人公が、ピアノを練習しているうちに夢を見たという設定にしたの」
「でも、なんでモーツァルト?」
レネが訊く。
「アウグスブルグは、モーツァルトゆかりの街という観光キャンペーンもやっているから」
ヤスミンが言うと、蝶子は茶化した。
「モーツァルトと言っても、お父さんの方、レオポルド・モーツァルトのゆかりじゃない」
「そう、だから、なんとしてもヴォルフガングの方とアウグスブルグを結びつけなくちゃいけなかったの。でも、ベルンはピアノなんてできないから、弾いている振りして、録音した音源と合わせたの。このシンクロがなかなか上手くいかなくて、稽古にやたらと時間がかかって。あなたがいてくれたら、自分で弾けたのにね」
そういってヴィルを見た。
「何を弾いたんだ?」
「ピアノ協奏曲第六番変ロ長調 K.238」
蝶子が目を丸くした。
「ずいぶんマニアックな選曲ね。同じコンチェルトでも21番や23番みたいにポピュラーなものもあるのに」
「第六番は、ここアウグスブルグで、モーツァルトが自ら演奏したって記録があるんだ。モーツァルトの街を自認するアウグスブルグならではの選曲だと思う」
ヴィルの説明に、蝶子たちは納得して頷いた。
噂のベルンが戻ってきた。
「外はだいぶ暗くなってきたぞ。そろそろ行くか」
市庁舎の前では、『
本物の羽根を使って作った小鳥や、ガラス細工の大きな雪のオーナメントがぎっしりと屋台に飾られていて、明るい照明の中でキラキラと輝いている。ヤスミンとレネは、靴の形をした一つの同じ容器からグリューワインを飲んで微笑んでいた。蝶子は、クリスマスツリーに付ける新しいオーナメントを買った。
突然、オルガンの高い音が響いた。人びとがざわめき、市庁舎の窓を見上げた。窓に灯りがつく。そして、開いた窓から、一人、また一人と、背中に翼を付けた奏者たちが窓に現れた。『
「なんだ。あそこにいるの、マリアンじゃないか」
ヴィルが言うとベルンが頷いた。
「そうだよ、それにユリアもあっちにいる。エンゲル・シュピールも毎回出演すると、結構な餅代が出るしな。俺みたいにむくつけき輩は、残念ながら天使にはなれないんだが」
劇団員は、生活費を捻出するためにあちこちでバイトをするのが常だ。かつてはバーでピアノを弾いていたヴィルも、配送業の仕事をするベルンも、美容師の仕事とかけ持ちをしているヤスミンも例外ではなかった。
「クリスマス市の季節か。こうなると今年も、あっという間に終わるな」
ベルンがグリューワインを飲みながら言った。
「そうね。来年もみな健康で、いいことがたくさんあるといいわね」
蝶子が言うと、ヤスミンがウィンクをした。
「それに、あなたたちは、あまり大立ち回りのない平和な一年になるといいわね」
いろいろありすぎたこの一年のことを思い出して、蝶子は肩をすくめた。それから大切な仲間、一人一人とグリューワインで乾杯をして、来年が平和になるよう、心から祈った。
(初出:2015年11月 書き下ろし)
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【小説】バッカスからの招待状 -3- ベリーニ
この66666Hit企画は、六名の方から出していただいた名詞をそれぞれ一つ以上使うというルールがあります。今回、使った名詞は順不同で「バンコク」「桃の缶詰」「名探偵」「エリカ」「進化論」「にんじん」「WEB」の七つです。使うのに四苦八苦している様子もお楽しみください(笑)
参考:
バッカスからの招待状
いつかは寄ってね
君の話をきかせてほしい
バッカスからの招待状 -3- ベリーニ
大手町は、典型的なビル街なので、秋も深まると風が冷たく身にしみる。加奈子は意地を張らずに冬物を出してくるべきだったと後悔しながら、東京駅を目指して歩いていた。ふと、横を見ると、見覚えのある看板がある。『Bacchus』。隆に連れてきてもらったことのあるバーだ。あいつには珍しく、センスのある店のチョイスだったわよね。重いショルダーバッグの紐が肩に食い込んでいる。あいつのせいだ。加奈子は、駅に直行するのは止めて、その店に入るためにビルの中に入っていった。
「いらっしゃい」
時間が早かったらしく、まだそんなに混んでいなかった。バーテンダーの田中が、加奈子の顔を見て少し笑顔になる。憶えていてくれたのかしら。
「こんばんは、鈴木さん。木村さんとお待ち合わせですか」
あら、本当にあいつと来たことを憶えていたんだわ。しかも私の苗字まで。
「いいえ。一人よ。隆とは、いま別れてきたところ。彼、明日バンコクに行くの。朝早いから帰るって」
「出張ですか?」
「ううん、転勤だって。私もつい一昨日聞いたのよ。ヒドいと思わない?」
木村隆とは、つき合っているのかいないのか、微妙な関係だった。加奈子の感覚では、一ヶ月に一度くらい連絡が来て、ご飯を食べたりする程度の仲をつき合っているとは言わない。告白されたこともないし、加奈子も隆のことは嫌いではないが、自分から告白をして白黒をはっきりさせるほど夢中になっている訳ではないので、そのままだ。
突然電話がかかってきて「これから逢おうよ」などと言われる。例えば、夜の九時半に。はじめはそれなりにお洒落をして待ち合わせ場所に向かったりしたが、家の近くのファミリーレストランや赤提灯にばかり連れて行くので、そのうちに普段着で赴くようになった。一応、簡単なメイクだけはしている。これまでしなくなったら、女として終わりだと思うので。
そんな彼が、連れて来た中では、洒落ていると思えた唯一の場所が、ここ『Bacchus』だった。
「なんで、あなたがこんな素敵な店を知っているの?」
「え? いつもと違う?」
「全然違うわよ」
「そうかな。僕は、流行やインテリアの善し悪しなんかはあまりわからなくて、お店の人が感じのいいところに何度も行くんだよ。ここは、会社の先輩に一度連れてきてもらったことがあるんだけれど、田中さん、すごくいい人だろう?」
そう、それは彼の言う通りだった。彼の連れて行く全ての店は、必ず感じがいい店員か、面白いタイプの店主がいて、彼は必ず彼らと楽しくコミュニケーションをとるのだった。そして、加奈子は、彼や彼の連れて行く店で出会う人びとと、楽しい時間を過ごすのが好きだった。
だから、本当につき合っているのかどうか、彼が加奈子のことを好きなのかどうかにはあまりこだわらずに、彼の誘いは出来る限り断らないようにしてきた。洒落た店や、高価なプレゼント、それにロマンティックなシチュエーションなども、彼とは無縁だと納得してきた。それに、加奈子自身も、さほどファッショナブルではないし、目立つ美人という訳でもない。そういうフィールドで勝負しなくていいのは氣持ちが楽だと思っていた。
「でも、今回はあんまりだと思う。見てよ、これ」
そういうと、大きなショルダーバッグのジッパーを開けて、田中に大手町界隈を歩く時には通常持ち運ぶことはない品物を示した。
にんじん、芽の出掛かっているジャガイモ、中身が出てこないようにビニール袋で巻いてある使いかけのオリーブ油、やはり開封済みの角砂糖、そして何故か五つほどの桃の缶詰。
「これは?」
田中が訊く。
「バンコクに送る荷物には入れられなかったけれど、もったいないから使ってほしいって。そのために呼び出したのよ! 転勤も引越も教えなかったクセに」
彼はいつでもそうだ。加奈子は、「普通ならこう」ということに出来るだけこだわらないようにしているつもりだが、彼の言動は彼女の予想をはるかに越えている。
「前に、誕生日を祝ってくれると言うから、プレゼントはなくてもいいけれど、せめて花でも持ってこいと言ったら、何を持ってきたと思う? エリカの鉢植えよ、エリカ! 薔薇を持ってこいとは言わないけれど、あんな荒野に咲く地味な花を持ってこなくたって」
田中は、笑い出さないように堪えた。
「確かに珍しい選択ですが、何か理由がおありになったのではありませんか」
「訊いたわよ。そしたらなんて答えたと思う? 『手間がかからないだろう』ですって。蘭みたいな花を贈ってもどうせ私は枯らすだろうと思ってんのよ、あの男は!」
それだけではなくて、別に誕生日プレゼントももらった。『名探偵登場』というパロディ映画のDVD。全然ロマンティックじゃないし、唐突だ。でも、面白かった。実は、昔テレビ放映された時に観たことがあって、結構好きだった。
世間の常識からはずれているけれど、私との波長はそんなにズレていない。そう思っていた。加奈子は、そんな自分の直感を大事にしているつもりだった。でも、それが間違っていたのかとがっかりしてしまう。
こんなにたくさんの桃の缶詰、いったいどうしろって言うのよ。桃なんてそんなにたくさん食べるものじゃないし、これを見る度に、私はあいつに振り回された訳のわからない日々を思い出すことになるじゃないのよ!
でも、あいつはよく知っているのだ。あいつと同じく、私も食べ物を無駄に出来ない。邪魔だから捨てるなんて論外だ。あいつが私にこれを託したのは、私が全部食べるとわかっているから。もう!
「ねえ。これで、ベリーニを作って」
彼女はカウンターに黄桃の缶詰を一つ置いた。
田中は、加奈子の瞳と、缶詰を交互に見ていたが、やがて静かに言った。
「困りましたね」
「どうして? 缶詰なんかじゃカクテルは作れないってこと?」
「もちろんカクテルは作れます。ただ、ベリーニは、黄桃ではなくて白桃で作らなくてはならないんですよ」
「どうして?」
「イタリアの画家ジョヴァンニ・ベリーニの描くピンクにインスパイアされて作られたカクテルなんです。黄桃ではピンクにはなりませんからね。少しお待ちください」
そう言うと、彼はバックヤードへ行き、二分ほどで小さなボールを手に戻ってきた。薄桃色のシャーベットのように見える。
「何それ?」
「白桃のピューレです。夏場は、新鮮な白桃でお作りしていますが、冬でもベリーニをお飲みになりたいという方は意外と多いので、冷凍したものを常備しているのですよ」
田中は、グレナディンシロップを使わなかった。その赤の力を借りれば、もっとはっきりした可愛らしいピンクに染まるのだが、それでは白桃の味と香りが台無しになってしまう。規定よりも少ないガムシロップをほんの少しだけ加えてグラスに注いだ後、しっかりと冷やされていたイタリア・ヴェネト州産の辛口プロセッコを注いで出した。
「うわ……」
加奈子は、ひと口飲んだ後、そう言ってしばらく黙り込んだ。
桃の優しい香りがまず広がった。それから、華やかで爽やかな甘さが続いた。それを包む、プロセッコのくすぐるような泡と大人のほろ苦さ。その組み合わせは絶妙だった。本家ヴェネチアのベリーニとは違うのかもしれないが、特別な白桃の味と香りがこのカクテルを唯一無二の味にしていた。想像していたよりもずっと美味しくて、そのことに衝撃を受けて口もきけなくなってしまった。それから、もう二口ほど飲んで、ベリーニを堪能した。
「田中さん、ごめんね」
「何がですか?」
「缶詰でベリーニを作れなんて言って。とても較べようがないものになっちゃうところだったわ。これ、ただの桃じゃないんでしょう?」
彼は、控えめに笑った。
「山梨のとあるご夫婦が作っていらっしゃる桃です。格別甘くて香り高いんです。たくさんは作れないので、大きいスーパーなどでは買えないんですが、あるお客様のご紹介で、入手できるようになったんです。お氣に召されましたか?」
「もちろん。ますます缶詰の桃が邪魔に思えてきちゃった」
「そんなことはありませんよ。少々、お待ちください」
田中は、加奈子の黄桃の缶詰を開けると、桃を取り出してシロップを切った。ひと口サイズに切り、モツァレラチーズ、プチトマトも一口大にカットして、生ハム、塩こしょうとオリーブオイルで軽く和えた。白いお皿に形よく盛り、パセリを添えて彼女の前に出した。
「ええっ。こんな短時間で、こんなお洒落なおつまみが?」
「この色ですからベリーニにはなりませんが、缶詰の黄桃も捨てたものじゃないでしょう?」
「そうね……」
加奈子は、生ハムの塩けと抜群に合う黄桃を口に運んだ。隆と一緒に食べたたくさんの食事を思い出しながら。結構楽しかったんだよなあ、あいつとの時間。
「私、振られたのかなあ」
加奈子は、ぽつりと言った。
「え?」
田中は、グラスを磨く手を止めて、加奈子を凝視した。
「いや、そもそも彼は、私とつき合っているつもりは全然なかったってことなのかしら。転勤になったことも、引越すことも何も言ってくれなくて、持っていけない食糧の処理係として、ようやく思い出す程度の存在だったのかな」
田中は、口元を緩めて言った。
「木村さんのコミュニケーションの方法は、確かに独特ですけれど……」
「慰めてくれなくてもいいのよ、田中さん。私……」
田中は、首を振った。
「ようやく出会えたんだって、おっしゃっていましたよ」
「?」
「はじめてご一緒にいらした翌日に、またいらっしゃいましてね。『昨日連れてきた子、いい子だろう』って。木村さんがこの店に女性をお連れになったことは一度もなかったので、それを申し上げました。そうしたら『ここに連れてこられるほど長くつき合えた子は、これまで一人もいなかったんだ』と」
加奈子は、フォークを皿の端に置いた。
「それで?」
「『どんな話をしても、ちゃんと聞いてくれる。バンバン反論もするけれど、聞いてくれなきゃ意見なんかでないだろ』って。それに、『どんなあか抜けない店に行っても、僕が美味いと思う料理は、必ずとても幸せそうに食べてくれるんだ。マメに連絡できなくても怒らないし、服装がどうの、流行がどうのってことも言わない。だから、とてもリラックスしてつき合えるんだ』と、おっしゃってました」
加奈子は、ベリーニのグラスの滴を手で拭った。そうか。けっこう評価していてくれたんだ。それに、あれでつき合っているつもりだったんだ。
「しょうがないわね。あれじゃ、そんな風に思っているなんて伝わらないじゃない。明日にでも、メールを送って説教しなくっちゃ」
「木村さんの言動は、聞いただけだと、なかなか理解されないでしょうけれど、鈴木さん、あなたを含めて彼の周りにいる方は、みな彼のことをとても大切に思っている。素敵な彼の価値のわかる方が集まってくるのでしょうね。チャールズ・ダーウィンがこんな事を言っていますよ。『人間関係は、人の価値を測る最も適切な物差しである(注1)』って」
「へえ。それって、あの『進化論』のダーウィン?」
「ええ。そうです」
「田中さん、すごい。教養があるのね」
「とんでもない。格言集は、面白いのでよく読むんですよ。元々は、お客さんにいろいろと教えていただいたんですけれどね。あ、今は、WEBでいくらでも調べられますよ」
「へぇ~。家に帰ったら調べてみようかな」
「ダーウィンは他にも、私たちのような職業の者には言わないでほしかった名言を残していますよ」
「なんて?」
「『酔っ払ってしまったサルは、もう二度とブランデーに手をつけようとしない。人間よりずっと賢い(注2)』んだそうです」
加奈子は、楽しそうに笑った。そうかもね。でも今夜はそれでも、あの訳のわからない男のことを思い出しながら、この優しいベリーニに酔いたいな。
ベリーニ(BELLINI)
レシピの一例
プロセッコ 12cl
白桃のピュレ 4cl
ガムシロップまたはグレナディンシロップ 小さじ1杯
作成方法: グラスに白桃のピュレとシロップを入れ、よく冷えたプロセッコを注ぐ
(注1)A man's friendships are one of the best measures of his worth. - Charles Darwin
(注2)An American monkey, after getting drunk on brandy, would never touch it again, and thus is much wiser than most men. - Charles Darwin
(初出:2015年11月 書き下ろし)
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【小説】パリでお前と
この66666Hit企画は、六名の方から出していただいた名詞をそれぞれ一つ以上使うというルールがあります。今回、使った名詞は順不同で「テディーベア」「天才」「中国」「古書」「蚤の市」「モンブラン」「アルファロメオ」「野良犬」「遊園地」「モンサンミッシェル」の十個です。
参考:「ファインダーの向こうに」

ファインダーの向こうに・外伝 — パリでお前と
アンジェリカは、彼の手のひらに手を滑り込ませた。フォーシーズンズ・ジョルジュ・サンクからギャラリー・ラファイエットまでのさほど長くない道のりを、渋滞に巻き込まれて退屈な時間を過ごすことになっても文句一ついわなかったし、むしろ彼をリラックスさせようと明るく話し続ける彼女を、レアンドロ・ダ・シウバは愛おしいと思った。
二時間もあれば飛んでこられるのに、わざわざドーバーを越えるフェリーを使ってフランスまで来たのは、愛車スパイダー・ヴェローチェに乗せてやるという一年前からの約束を果たすためでもあったが、実際のところ幼い彼女には、1993年に生産終了となったスポーツタイプ車の価値などはあまりわかっていなかった。だが、少なくとも、デパートメントストアの駐車係は、その車の価値をわかったようで、しかも運転してきたのが、かなり有名なサッカー選手であることに氣がついて、慇懃に挨拶をしたので、彼の自尊心は大いに満足した。
アンジェリカの白いコートを持ってやり、二人は輝かしいシャンデリアを見上げた。クリスマス前の最後の買い物をしようとする人びとが忙しく動き回っていた。アンジェリカは、少し怯えたようにごった返す店内を見回した。彼は、そんな八歳の少女の手のひらを優しく握りしめた。
前に逢ったのは半年も前で、その間にずいぶんと背が伸びて、より美しくなったように感じた。離婚して毎日は逢えなくなった我が娘に対して感じる、大抵の父親と同じ感想なのかもしれないが、少なくとも絶世の美女と世間の認めるスーパーモデル、アレッサンドラ・ダンジェロにますます似てくる娘を美しいと感じるのは、親の欲目だけとは言えないであろうと思った。
「それで。本当に明日には、スイスに行ってしまうのか。雪があるだけで、つまらない山の中だろう。結婚式が終わるまで、パパと一緒にマンチェスターへ来てもいいんだぞ」
ブラジル出身のプロサッカー選手であるレアンドロは、二年ほど前にプレミアムリーグに属する有名チームに移籍した。
アンジェリカは、首を振った。
「だめよ、パパ。ママの結婚式では、私、フラワーガールをすることになっているんだもの。それが終わったら、私はまたロサンジェルスに戻って、学校に行かなくちゃいけないのよ。マンチェスターで、パパの試合を応援する時間なんてないんだわ。それに、パパがトレーニングしている間、ソニアとお茶を飲んでいるだけなんて退屈だもの」
それで彼は、二度目の妻がアレッサンドラ・ダンジェロとその娘に対して、あまり好意的でないことを思い出して、娘をイングランドに連れて行くという計画を諦めた。そういえば、だからこそ、彼がわざわざパリまで出てきたのだった。
「じゃあ、少なくとも今日一日まるまるは、パパとデートしてくれるだろう。アレッサンドラは今日は、忙しいんだろうし」
「そうね。ウェディング・ドレスの仕上げなんですって。ねえ、パパ、どうしてママは結婚する度に新しいドレスを作るの? 二年前のだって、一度しか着ていないのに」
レアンドロは、もう少しでむせ返るところだった。
「さ、さあな。そもそも、パパは、なぜあいつが、また結婚するつもりになったのか、それだってわからないよ」
「どうして? パパは、シングルに戻ったママともう一度結婚したかったの?」
「う~ん。そう簡単にはいかないんだよ」
「ああ、そうか、パパはソニアと結婚しているものね」
アンジェリカは、したり顔で頷いて、それから大きなデパートメントストアの、子供服売場の方に意識を戻した。
レアンドロは、娘の着ているスモモ色のビジューギャザーのワンピースをちらっと見た。確かイ・ピンコ・パリーノとかいうイタリアのブランドだ。マッテオ伯父さんに買ってもらったと言っていたな。
アレッサンドラの兄、ニューヨーク在住のマッテオ・ダンジェロに対して、レアンドロは強い対抗意識を持っていた。あいつにバカにされないものを買ってやらなくちゃいけない。俺は子供服のことはさっぱりだが、ふん、少なくとも値段が高いか安いかくらいは、わかるさ。このデパートメントに売っているものが、どれもバカ高いことだってな。
「欲しいのは、洋服だけか。ほら、あそこの熊のぬいぐるみは?」
レアンドロが指差した先には、茶色い大きなテディーベアがサンタクロースの衣装を着せられてかなり雑な様子で椅子に座らされていた。
「もう、パパったら。私ね、何ヶ月か前だけれど、ジョルジアとメイシーズに行って、ジュリアンの誕生日にこういう熊を選んであげたの」
ジョルジアは、アレッサンドラの姉だ。なんともぱっとしない女で、確か写真家だったな。レアンドロは素早く考えたが、ジュリアンというのがわからない。まさか、アンジェリカのボーイフレンドじゃないだろうな。いくらなんでも早すぎる。
「ジュリアンというのは、誰だったかな?」
「ジョルジアが名付け親になっている子よ。六歳なんだけれど、子供っぽいの。親はスキーウェアがいいって言ったらしいけれど、あの子はそんなのより、ぬいぐるみの方を喜ぶわよってジョルジアにアドバイスしてあげたの。それで、ああいう巨大なテディーベアが、スキーウェアを着ているような形にしてプレゼントしたら大喜びだったんだって。でも、私はもう、ぬいぐるみを抱えて寝るような子供じゃないのよ」
彼女は、そう澄まして言いながらも、傾いて座っているテディーベアの位置を直してやってから、優しくポンポンとその頭を叩いた。
一人前のような口をきいて、同年齢の子供よりも大人びて見えるが、時折見せる子供らしさをレアンドロは見逃さなかった。彼女は、両親にたくさん時間を割いてもらえないことを批難したりはしない。彼らの離婚と再婚によって複雑怪奇になる一方の家庭事情も黙って受け入れている。大人のような口をきくのも、寂しさと折り合うための彼女なりの努力なのかと思うと、彼の心は締め付けられた。
子供服売場をひとしきり歩いたけれど、アンジェリカの目が輝くことはなかった。どれもカジュアルすぎるし、思ったよりもペラペラしている。マッテオ伯父さんに甘やかされて、最高級のイタリアブランドを着慣れている彼女は、子供なのに目が肥えてしまっているらしい。
「もっと大人っぽいのがいいんだけれどな」
「どんなブランドがいいのかい?」
「う~ん。マリー・シャンタルか、ジャカルディみたいなの。でも、なければいいのよ、パパ。レストランに入っておしゃべりしましょうよ」
マリーなんとかに、ジャカルタか。はじめて聞いた。子供服のブランドなんだろうか。デパートには入っていないのかもしれないな。サッカー選手はあれこれと悩んでいたが、娘は彼の手を引いてさっさと飲茶専門店に入っていった。
「中国のお料理、パパも好きでしょう? 私、綺麗な点心を少しずつ食べるの大好きなの」
「そうか。じゃあ、美味しいものをたくさん食べよう」
そこからが一苦労だった。フランス語と中国語のアルファベット表記と漢字で書かれたメニューは、ブラジル人のレアンドロには、呪文の書かれた魔法書やギリシャ語で綴られた古書と変わらなかった。西欧の料理ならば、それでも前菜なのかメインなのかくらいはわかるが、中華料理ではそれすらもわからない。だが、メニューも読めないほど学がないと思われるのも悔しい。彼はウェイターを呼んだ。
「悪いが、英語のメニューを持ってきてくれ」
本当はポルトガル語がいいけれど、あるわけないからな。
結局、英語のメニューでも彼にはどんな料理かよくわからず、アンジェリカが美味しいだろうと提案してくれたものを頼むことにした。ちくしょう、二度とパリなんかで逢ったりしないぞ、父親の威厳が台無しじゃないか。彼は心の中で呟いた。
彼は、しばらく箸を使えるようなフリをしようとした。が、いつまで経っても水餃子をつかめない。今は、娘に逢いにアメリカへ行く度に飛行機のファーストクラスを使ったり、ル・プラザ・アテネに宿泊料金を確認せずに泊ったり出来る年棒をもらっているが、アンジェリカくらいの年齢の時には、サンパウロの貧民街で野良犬と一緒にゴミをあさっていたのだ。箸の使い方なんか、習ったことはなかった。彼は、諦めて箸を持ちかえると、水餃子をぐさっと突き刺した。
「で、アレッサンドラと、なんとかっていうお貴族様は、スイスのどこで結婚するんだ? モンブランのあたり?」
アンジェリカは、饅頭を上品に食べながら、しょうがないなという顔をした。
「パパったら。モンブランは、フランスの山でしょ。結婚式と披露宴があるのは、サン・モリッツよ。ヨーロッパ中の貴族が招待されるから、高級リゾートで、しかも警備が万全にできるところがいいんですって。パパは、スキーってしたことある? あれって、簡単に滑れるようになるのかしら? 赤ちゃんみたいな、ジュリアンだって出来るんだから、そんなに難しくないはずよね」
「さあな。パパはまだやったことはないよ。でも、お前、フラワーガールをやるなら、怪我をしたりしないようにしないと。よく骨折しているヤツがいるじゃないか」
「そうか。そうよね。じゃあ、結婚式の前はスキーは習わない方がいいのかな。でも、だとしたら、明日から結婚式までの五日間、何をしたらいいのかしら。とても退屈そう」
それを聞くと、レアンドロは急いでスマートフォンを取り出して、ここ数日の予定を確かめた。クリスマス休暇中でトレーニングはないし、変更しても問題はなさそうだ。
「じゃあ、パパとあと二、三日一緒にいよう。サン・モリッツにはパパのアルファロメオで送っていってやるよ」
「本当に? パパ、まだ数日、こっちにいられるの?」
「そうさ。パリをもう少し観光して、なんだっけ、ジャカルタとかいう洋服屋にもいこう」
「ジャカルタじゃないわよ。ジャカルディ。本店にいってくれるの? 嬉しいけれど、そんなに長くパリ観光をしたら、パパラッチにつかまっちゃうんじゃないの?」
「ふん。あいつらは今、お前のママの写真を撮るのに必死で俺たちを撮っているヒマなんてないのさ。その店の他にはどこに行きたい?」
「うふふ。凱旋門とエッフェル塔に登りたいな。クリニャンクールの蚤の市も行ってみたいし。アンティーク調のアクセサリーが欲しいの。クラスの子が誰も持っていないようなのをね」
「なんて言ったっけ、あの遊園地、そうだ、ユーロ・ディズニーランドにも行くか」
「パパったら。今、私はロサンジェルスに住んでいるのよ」
アンジェリカは、緩くカールしている濃い栗毛を手の甲ではらってから、大きくため息をついた。
「そうだったな。でも、ムーラン・ルージュ観光ってわけにはいかないだろう」
「だったら、パリの観光は、今日この後に全部やっちゃって、明日一緒にモンサンミッシェルか、ベルサイユに行かない? 電車だと時間がかかりそうだけれど、車で行ったら、すぐでしょう?」
アンジェリカは、ニッコリと笑った。
パリから昨日側を通ったばかりのモンサンミッシェルまで車で往復し、さらにその翌日に、スイスの東の端まで凍結しているに違いない道を走って行くのは、運転の好きなレアンドロでも、決して容易くはないのだが、娘の微笑みにはそれを言い出せなくするような不思議な力があった。
どこかで、こうやって女に振り回されたことがあったなと、数秒考えた。どこかじゃない。目の前に座っている娘とそっくりの微笑みだ。世界中の男たちの羨望を浴びていた十年くらい前の話だ。アレッサンドラ・ダンジェロは八歳の少女ではなかった。彼女は無邪氣なのではなくて、確信犯だった。ひとかどの人物と自負している男を、自分の自由に動かす術を知り尽くしている天才だった。そして、それがわかっても腹立たしくはならない不思議な女だった。
どうして、あの女と別れることになってしまったのかな。彼は訝った。そして、いまアレッサンドラに振り回されているのは、いつだったかの神聖ドイツ皇帝の末裔たる貴族だ。
悔しいような、ホッとするような、不思議な想いだった。今日、アンジェリカを送り返す時に、あの女に逢ったら、どんなことを思うのだろうと考えながら、レアンドロは最後の饅頭に手を出した。彼の小さい娘は、澄ましてジャスミン茶を飲みながら、満足そうに微笑んだ。
(初出:2015年11月 書き下ろし)
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【小説】彼岸の月影 — 赫き逡巡
この66666Hit企画は、六名の方から出していただいた名詞をそれぞれ一つ以上使うというルールがあります。使った名詞は順不同で「ピラミッド」「赤い月」「マロングラッセ」「マフラー」「いろはうた」「楓」「鏡」「金魚鉢」の八つです。かなり無理矢理感がありますが、お許しください。
参考: 「彼岸の月影」
彼岸の月影 — 赫き逡巡
晃太郎は、赤に囚われている。
彼は怖れている。かつては、盆と正月のどちらかだけに訪れるだけだった故郷の村に、ことあるごとに戻ってくるようになったことを、家族に訝られはしないかと。だが、彼の母親は、一人息子の帰郷を純粋に喜び、老いてめっきり弱った祖父を心配していると、都合よく解釈していた。
彼が帰郷すると、祖父の芳蔵の酒の相手は晃太郎の役目だった。それは、取りも直さず、芳蔵が竹馬の友である村長の北村の家に飲みに行くときの付き添いとなることをも意味していた。北村は、子供のころからよく知っている晃太郎をやはり実の孫のように可愛がってくれるが、晃太郎の方はもっと複雑な想いを持っていた。
「佐竹様、ようこそおいで下さいました。まあ、今日は、晃太郎さんもおいでですのね」
北村の年若い後添い燁子が、艶やかに挨拶をする。蒸栗色の小紋に黒い帯を締めているが、帯締めが鮮やかな緋色だ。それは唇の濡れたような紅と対を成している。村はずれの地獄沼の北側に一斉に生える曼珠沙華の色だ。
三年ほど前、地獄沼のほとりに立つ阿弥陀堂で、晃太郎は名も知らなかったこの若い女と秘密の逢瀬を持った。祖父の友人の妻だとは夢にも思わず。誰も訪れぬ崩れかけた阿弥陀堂。鏡のごとく静まり返った水面に映った十六夜の月。噎せ返るような曼珠沙華の赫さ。それ以来、彼はこの村の赤に囚われている。
今宵も美味い肴を食べながら、芳蔵と北村は吟醸酒を酌み交わした。晃太郎は、二人の昔語りに相づちを打ちながら、三人に酌をする美しい女を凝視しないように苦労していた。
「晃太郎よ、今宵が月見の宴というのを知って帰って来たのか」
北村は、縁側にしつらえられた薄と月見団子を目で示した。
「いえ。でも、十五夜は、だいぶ前ではありませんでしたか」
自信なく彼が訊くと、一同は笑った。
「旧暦八月十五日が中秋の名月。今宵は、旧暦九月十三日、十三夜じゃよ。十五夜だけ月見をするのは片見月といって縁起が悪いので、十三夜も祝うのだ。お前の家でもそうだっただろう?」
北村が訊くと、祖父の芳蔵は肩を揺すって笑った。
「もちろんじゃ。だが、こいつは子供の頃、団子を食べることしか興味がなかったらしく、それも憶えていないらしい」
燁子は、備えてある漆の盆の一つを取って、晃太郎の前に持ってきて薦めた。金色の紙に包まれたマロングラッセがきれいなピラミッドとなって積まれていた。
「今宵は、別名栗名月とも言われております。お嫌いでなかったら、どうぞ」
女は白い指先で優雅に金の小粒を取り、もう片方の手を添えながら晃太郎に手渡そうとする。彼が手のひらを差し出すと、菓子を置く時にその指がわずかに触れた。あの夜と同じように、ひんやりと冷たかった。そのまま、その手を取って引き寄せたいのを、必死で思いとどまる。
視線が合うと、女の紅い唇がわずかに微笑んだ。秘密めいた視線はすぐに逸らされて、女は優雅に立ち上がると、二人の老人のもとに盆を運んで行った。彼は、その女の後姿を目で追った。
彼は、酔った祖父を助けて家に戻り寝かせてから、いつものように一人で地獄沼に向かった。廃堂となった阿弥陀堂の縁側に腰掛けて、女を待つ。決してやってこない燁子を。
なぜだ。ならば、なぜあの時に誘った。いつもの問いを繰り返す。故郷に戻っては、この半ば崩れかけた阿弥陀堂にやってきて、縁側に腰掛ける。すぐ側の畳の上で確かに起こったことに想いを馳せる。
東京で出会う女たちとも、この三年間まともな関係を築こうとしていなかった。あの夜のせいだけではないが、この村を訪れる機会を失うことへの抵抗があることはまちがいなかった。
それに、翔のことがある。二歳になったばかりの燁子の息子だ。そろそろ八十に手の届く北村に子供を作る能力があったことも驚きだったが、かつて北村と祖父が冗談まじりに語っていた言葉が、心の隅に引っかかっている。
「翔は、奇妙なことに、お前の小さい頃にそっくりだ。お前、わしの知らない間に、燁子に手を出したか」
「くっくっく。わしまでお前のように、この歳でそんなことができると? もう三十年も前に引退したわい」
晃太郎が、燁子を正式に紹介された時には、もう翔は産まれていたので、晃太郎を疑う者はいない。だが、彼の胸には憶えがある。たった一度とは言え、計算も合う。だが、北村の前でしか燁子と会えない晃太郎には、疑惑について彼女に問いただす機会がない。少なくとも女は、そのことについて晃太郎に何かを示唆しようとするつもりも全くないようだった。
彼は、前回の帰郷の時、北村の家の近くを通った。いろはうたを歌う燁子の声が聞こえて、思わず垣根の隙間から覗き込んだ。
縁側に、大島紬に珊瑚色の帯をした燁子の側で、黄色いダッフルコートを着て橙色のマフラーをした幼子は、金魚鉢を覗き込んでいた。楓のような小さな手のひらが、金魚鉢をつかんでいる。秋の陽射しが水に反射して、赤い金魚は舞っているようだった。母親に合わせて、歌を口ずさもうとしている子のことを、晃太郎は確かに北村よりは自分に似ていると思った。
子供は、金魚と歌に夢中になっていたが、その母親はそうではなかった。生け垣の向こう側に黙って立っている晃太郎に目を留めると、紅い唇を動かしてわずかに微笑んだ。だが、話しかけることはせずに、すぐに我が子に視線を戻し、まるで誰も見なかったかのように振るまった。
晃太郎に出来るのは、真夜中に地獄沼のほとりの阿弥陀堂に行くことだけだった。彼は、この沼の畔に咲く曼珠沙華に囚われている。真実が知りたいのか、それとも、ただ女に逢いたいだけなのか、自分でもわからない。一晩中、それについて想いを巡らし続ける。冷え込む栗名月の夜を。
明け方の赤い月は、西に沈んで行く。晃太郎は、女がやってはこないことに失望して、阿弥陀堂を後にするほかはなかった。
(初出:2015年10月 書き下ろし)
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66666Hit記念企画の発表です

この画像の著作権はけいさんにあります。けいさんに無断での使用はご遠慮願います。
先日お願いした66666Hit記念企画での出題希望六名様の考えてくださった名詞が揃いました。

というわけで、企画の方を説明させていただきます。おそらく予想なさっている方もおありかと思いますが、私一人が何かを書いても面白くないので、皆さんにそれぞれ楽しく書いて(描いて)いただこうと思います。
スイスだけでなく、日本も秋めいてきました。あ、南半球は春から夏へですけれど。で、この時期は、みなさん放っておいても季節物の作品を書かれる事が多いので、それを書かれる時に、ついでにこちらの企画にもご参加いただけると嬉しいな、ということです。
例えば、ご自分のメイン連載の息抜きに、「ハロウィン」や「食欲の秋」「芸術の秋」「クリスマス」それに「お正月」などをモチーフにスピンオフや、掌編、もしくはイラストやマンガ、詩作などを書かれますよね。そこに、ゲーム感覚で下に書いた出題していただいた名詞を散りばめていただきたいのです。エッセイなど普通の記事でも参加可能です。
基本は、六名様の出された名詞の中からそれぞれ一つ以上、つまり6個(以上)の名詞を使ってください。一人の出題名詞の中から6個ではなく、六名様の出題された名詞それぞれからでお願いします。(例・「中国」「赤い月」「アルファロメオ」「遊園地」「にんじん」「モンブラン」)ただし、赤字は、私が独断と偏見で決めた「使うのが難しい名詞」なのでこれを使う場合は、ついている数の分、他の名詞の数を減らしても構いません。(例・「飛行船 グラーク ツェッペリン」と「進化論」ならこれだけで6個分コンプリートと認定)
出題された名詞に別の文字を足して、別の意味にするのはアリ(例・「羽」→「羽ペン」はOK)ですが、減らして別の意味にするのは不可(例・「桃の缶詰」→「蟹の缶詰」はダメ)です。もちろんその言葉は作品中に使ってもいいですが、規定の名詞を使ったとカウントすることは出来ません。
イラストやマンガなどで使う場合は、セリフでも絵で表現しても文字で書いてもOKです。エッセイなど普通の記事で参加される場合は、写真に映っているのでもOKです。
何作品も参加していただいても構いません。また、35名詞、全部使いたいというチャレンジャーな方は、どうぞご自由に。私ですか? あ〜、氣長にお待ちいただければ、何作品かで35名詞制覇、目指します。(本当か?!)
この企画に参加しているよという目印に、作品のどこか(リードか追記か、リンク付きの別記事か)に「scribo ergo sum 66666企画参加」もしくはそれに準じることと、どの名詞(誰のは不要です)を使ったかを明記してください。
また、この記事に参加してくださった方の作品へのリンクを貼り付けて行こうと思いますので、私が氣がついていないと思われるときは、この記事に「この作品で参加しましたよ」とコメントを入れてくださるとありがたいです。
というわけで、たくさんの創作者ならびにブロガーさんのご参加をお待ちしています。(出題者や企画もの常連の皆さんは……参加してくださいますよね)
お名前 | お題 | |
1. | ポール・ブリッツさん | 「テディーベア」 「天才」 「禁煙」 「ピラミッド」(2) 「バンコク」 「中国」 |
2. | ウゾさん | 「飛行船 グラーク ツェッペリン」(4) (タイプミスとのことなので「飛行船 グラーフ ツェッペリン」もありにします) 「桃の缶詰」 「名探偵」 「蚤の市」 「赤い月」 |
3. | TOM-Fさん | 「マロングラッセ」 「エリカ」(花) 「オクトーバーフェスト」(2) 「ロマンティック街道」(2) 「ピアノ協奏曲」 「アルファロメオ」 |
4. | limeさん | 「進化論」(2) 「彗星」 「野良犬」 「マフラー」 「博物館」 「遊園地」 |
5. | 吉川蒼さん | 「羽」 「いろはうた」 「鏡」 「シャープ」(#) 「にんじん」 「モンサンミッシェル」(2) |
6. | 栗栖紗那さん | 「ガラス細工」 「楓」 「金魚鉢」(2) 「古書」 「WEB」 「モンブラン」 |
【ブログのお友だちの参加作品】
けいさん
◆月一です

この画像の著作権はけいさんにあります。けいさんに無断での使用はご遠慮願います。
ウゾさん
◆再び 此処に
「飛行船 グラークツェッペリン」「中国」「ロマンチック街道」「モンサンミッシェル」「進化論」「楓」
◆ロマンチックハロウィン
「天才」「ピアノ協奏曲」「楓」「金魚鉢」「マロングラッセ」「鏡」「いろはうた」「野良犬」「マフラー」「赤い月」「遊園地」
limeさん
◆「悲しい出来事」--『RIKU』番外--ついに彼の名前が!
「ピラミッド」「禁煙」「蚤の市」「エリカ」「羽」「博物館」「ガラス細工」「金魚鉢」
TOM-Fさん
◆『花心一会』 第九.五会「ロマンティッシュ・シュトラーゼ」
「バンコク」「WEB」「中国」「進化論」「古書」「天才」「飛行船グラークツェッペリン」「蚤の市」「野良犬」「ガラス細工」「楓」「金魚鉢」「鏡」「羽」「彗星」「シャープ」「ピラミッド」「マフラー」「禁煙」「テディーベア」「にんじん」「遊園地」「アルファロメオ」「モンサンミシェル」「ロマンティック街道」「ピアノ協奏曲」「博物館」「マロングラッセ」「モンブラン」「桃の缶詰」「名探偵」「エリカ」「いろはうた」「赤い月」「オクトーバーフェスト」
ダメ子さん
◆桃太郎
「古書」「進化論」「桃の缶詰」「モンサンミシェル」「天才」「アルファロメオ」
ポール・ブリッツさん
◆シュタイナ中佐の幻想
「テディーベア」「天才」「禁煙」「ピラミッド」「中国」「バンコク」「飛行船 グラーフ ツェッペリン」「桃の缶詰」「名探偵」「蚤の市」「赤い月」「マロングラッセ」「エリカ」「オクトーバーフェスト」「ロマンティック街道」「ピアノ協奏曲」「アルファロメオ」「進化論」「彗星」「野良犬」「マフラー」「博物館」「遊園地」「羽」「いろはうた」「鏡」「シャープ」「にんじん」「モンサンミッシェル」「ガラス細工」「楓」「金魚鉢」「古書」「WEB」「モンブラン」
cambrouseさん
◆あるサラリーマンの独白(その2)
「ピラミッド」「名探偵」「ピアノ協奏曲」「マフラー」「シャープ」「モンサンミッシェル」「ガラス細工」
山西左紀さん
◆絵夢の素敵な日常(初めての音)Augsburg
「マフラー」「中国」「ロマンティック街道」「博物館」「天才」「にんじん」「ガラス細工」「赤い月」
ふぉるてさん
◆動画:ブログ誕生日&イベント参加動画
「ピラミッド」「赤い月」「エリカ」「彗星」「羽」「古書」
栗栖紗那さん
◆魔女と魔導書の約束 -とある本編に続く小さな物語-
「テディーベア」「天才」「ピラミッド」「バンコク」「中国」「飛行船 グラーク ツェッペリン」「名探偵」「ロマンティック街道」「アルファロメオ」「彗星」「モンサンミッシェル」「金魚鉢」「古書」「WEB」
大海彩洋さん
◆【奇跡を売る店・番外】しあわせについて~懺悔の値打ちもない~
「テディーベア」「天才」「禁煙」「ピラミッド」「バンコク」「中国」 「飛行船 グラーク ツェッペリン」「桃の缶詰」「名探偵」「蚤の市」「赤い月」 「マロングラッセ」「エリカ」(花)「オクトーバーフェスト」「ロマンティック街道」「ピアノ協奏曲」「アルファロメオ」 「進化論」「彗星」「野良犬」「マフラー」「博物館」「遊園地」 「羽」「いろはうた」「鏡」「シャープ」(#)「にんじん」「モンサンミッシェル」 「ガラス細工」「楓」「金魚鉢」「古書」「WEB」「モンブラン」
【私の関連作品】
◆彼岸の月影 — 赫き逡巡
「ピラミッド」「赤い月」「マロングラッセ」「マフラー」「いろはうた」「楓」「鏡」「金魚鉢」
◆「ファインダーの向こうに」外伝 — パリでお前と
「テディーベア」「天才」「中国」「古書」「蚤の市」「モンブラン」「アルファロメオ」「野良犬」「遊園地」「モンサンミッシェル」
◆バッカスからの招待状 -3- ベリーニ
「バンコク」「桃の缶詰」「名探偵」「エリカ」「進化論」「にんじん」「WEB」
◆大道芸人たち 番外編 — アウグスブルグの冬
「禁煙」「飛行船 グラーク ツェッペリン」「オクトーバーフェスト」「ロマンティック街道」「ピアノ協奏曲」「彗星」「博物館」「羽」「シャープ」「ガラス細工」
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