フルーヴルーウー辺境伯領の設定・いま昔

このイラストの著作権はユズキさんにあります。ユズキさんの許可のない使用は固くお断りします。
フルーヴルーウーなる珍奇な地名(兼 家名)は、高校生の私の考えていたストーリーを大きく改稿するにあたって残した唯一の地名です。もともとはウォータールーといった英語の変わった地名っぽく設定したような。あまりにも昔のことで忘れました。
高校生の時のこの3部作の題名は『ヴァルドメロス』(「森物語」的な意味です)といいました。現在の作品とも共通しているのはヨーロッパ中世風の架空世界でのストーリーで、シルヴァと呼ばれる広大な森(黒い森がもともとのモデルでした)を舞台にして広げられる数百年にわたる物語。当時の私にそんな立派なストーリーが書けるはずもなく、当然ながら頓挫しました(笑)
このストーリーの、最初の部分として設定されていたのが、かなり風変わりな姫君と、その恋人である色男な馬丁の恋愛譚です。断片小説として、『森の詩 Cantum Silvae I - 姫君遁走』の冒頭部だけ公開しましたね。ここに出てくる
時代は、改稿にあたり中世に変更しました。『森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架』と『森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠』の時代が14〜15世紀あたりを想定していて、男姫ジュリアの時代はさらに100年は遡るので13〜14世紀ぐらいでしょうか。まだ、この時代には現実社会でも単なる農民から騎士に取り立てられた人が普通にいましたし、お城もサイズはともかく、大して豪華ではない感じでした。
日本の平均的な高校生だった私は、ヨーロッパはとても遠い国で、イギリスもフランスもドイツもそれ以外の国も、みな似たようなものだと思っていました。でも、大人になり若干の知識がつき、さらにヨーロッパの真ん中に暮らしてみると、じつはかなり違うということがわかります。
お城ひとつとっても、ノイシュヴァンシュタイン城やヴェルサイユ宮殿のような豪華な建物がどこにでもあるわけではありません。ああいうものすごい建築物というのは、技術だけでなく権力と財力が集中したところにしか建てられないということを、私はこちらに住むようになってから実感として知りました。それに対して、私が現在住んでいるスイスの山中には「お館」という程度のお城しかないんですよね。これは、かなり早くから直接民主制が根付いていた事実と無関係ではないと思います。
さて、私の創作におけるフルーヴルーウー辺境伯のモデルは、スイスあたりのアルプス以北の地域です。現在の作品の主人公(の1人)であるレオポルド2世の祖先のレオポルド1世は、小国であったグランドロンを大国にした個性の強い王様ですが、馬の骨であるハンス=レギナルドをいたく氣に入って、爵位と領地を与えました。で、周りの反発を抑えるためにあえて広いけれど辺境で何もないフルーヴルーウーを与えたのですが、のちにそここそがお宝の山であったことがわかります。そして、レオポルド2世の父王の時代には、最も大切な領地の一つに変わっているわけです。ライバルのルーヴラン王国も虎視眈々と狙っていましたしねぇ。
現実の世界でも、アルプスのあたりは、牛しか居ないのどかな田舎に見えても、地勢上とても大切な地域なのです。南北の交通要所があり、塩や貴重な金属、そして、宝石類を産出します。ショボいお城しかなくても、天然の要塞が控えているので、かつて攻め込むのは容易ではありませんでした。まあ、核爆弾の時代になったらどこを攻めても同じでしょうけれど。
【動画】「森の詩 Cantum Silvae」続編のPVです
まずは動画をどうぞ。
この動画に使わせていただいたイラストは、リアルの友人であり、私の作品にたくさんのイラストを描いてくださっている創作の友でもあるうたかたまほろさんが描きおろしてくださいました。そう、この間のロンドンは、彼女に逢いに行ったのです。ロンドンでの一番のお土産が、実はこのイラストでした。まほろさん、本当にありがとうございます!
素晴らしいでしょう? ザッカやマリア=フェリシアまで描いてくださったんですよ。そして、ラウラは結婚後の水色バージョンで描いていただきました。伯爵夫人になって、少し薄幸さが減っています。

このイラストの著作権はうたかたまほろさんにあります。無断転用は固くお断りします。
動画を見ていただくとおわかりかと思いますが、ここにはいないキャラクターをもう一人描いていただいています。このイラストにいるキャラクターは「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」に出てきたおなじみのキャラクターだけですが、実は続編の主要キャラクターとあらすじは彼女に話していて、続編にしか出てこない三名のことも彼女は知っているのです。動画にはそのうちの一人が登場しています。
PVをご覧になると、三人の大体の立ち位置はおわかりかと思います。
さて、PVの最後に「coming soon」とか書いていますが、これはほとんど嘘です。まだ導入部しか書いていません。今、また中世の本を再び読んでいる状態で、書くのは来年以降です。おそらく再来年。「書く書く詐欺」のまま、ブログを去ったら、このままになっちゃうかも。でも、この動画を見て読みたいと思ってくださる方の声が多ければ、予定より早く書いて早めに公表しようかと思っています。
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「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」座談会
この回答には若干のネタバレも含まれています。大したネタバレではないですが。
「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」座談会
- まずは自己紹介から、名前と立ち位置をお願いします。
マ「マックス・ティオフィロスです。主人公ってことになっています。サレア河の東にあるグランドロン王国出身でお金持ち専門の教師でした」
ラ「ラウラ・ド・バギュ・グリです。サレア河の西に位置する王国ルーヴランの都、ルーヴの王宮で女官兼《学友》をしていました」
レ「余は、レオポルドII・フォン・グラウリンゲン。グランドロン国王だ。後半まで全然出てこなかったが」
ザ「ルーヴランの宰相だったイグナーツ・ザッカです。もとはセンヴリ王国出身の聖職者でしたが、志あって政治の道に入りました」
フ「ルーヴランの世襲王女マリア=フェリシア・ド・ストラスよ。絶世の美女なの。なぜあたしがヒロインじゃないのよ」
ヴ「あんたの性格が悪すぎるからでしょ。私はヴェロニカ。グランドロンの王都ヴェルドンで高級娼館を経営しているの。普段はマダム・ベフロアで通っているわ」
フ「何よ。グランドロン人のくせに、なんでルーヴラン風に名乗っているのよ。文化コンプレックスなんじゃないの」
ザ「殿下。みっともないので言い合いはおやめください」- いきなり険悪なムードが漂っていますが、本作について少しお話しください。
マ「ヨーロッパ中世をモデルにしたストーリーで、前半は僕が旅をしながら様々な民俗を見聞するスタイルだったね」
レ「そして、ラウラのパートでは貴族の風習や生活について語られていたな」
ラ「はい。それに、ストーリー上必要となる二国間の情勢なども……」
レ「後半は、余の治めるグランドロンと、ライバル関係にある大国ルーヴランとの、政略結婚の話および政治的陰謀が軸になっていたな。(ザッカに)余はもっとそなたと政治的な駆け引きをするシーンが欲しかったんだが」
ザ「私は全くしたくありませんでしたがね。突然、ルーヴランにやってきたり、予測不能な行動ばかりなさる方ですな」
マ「でも、ザッカ殿。本当はグランドロン王国に仕えた方がよかったんじゃないですか?」
フ「どういう意味よ。私たちに仕えるのが不満とでも? グランドロンなんて、お洒落じゃないし、グルメじゃないし、つまんない国でしょ」
レ「(ラウラに)そなた、よくこんな女に十年以上も仕えたな」
ラ「(否定せず)……」- 大変だったことはなんですか。
レ「主人公マックスに問題解決能力がないんで、余が全部解決しなくちゃならなかったことだな。それに、せっかくグランドロンまで行って、いい嫁を見つけたと思ったのに……」
ラ「あの時は、騙すことになってしまい申しわけありませんでした」
マ「君は悪くないよ。謝んなきゃいけないのは(ザッカと姫を見る)」
ザ「ルーヴランの財政を劇的に改善するためには、ああするほかはなかったのだ。他にもいろいろと試したが、できることには限りがあった」
フ「私は、もっと見せ場が欲しかったわ。舞踏会の衣装も、婚礼衣装も、結局ラウラが着ちゃったし。私が着た方がずっと綺麗だったのに」
ヴ「あんたね。敵役で出演していること、わかっていないわね。首が飛ばなかっただけ、感謝しなさいよ」
フ「なんですって。娼婦の分際でよくもそんな口がきけるわね。そっちこそクビをちょん切るわよ」
マ「君は、本当にヒドい目に遭ったよね。よく頑張ったと思う」
ラ「いいえ。それに見合ういい思いもさせていただきましたし……」- 続編準備中らしいですが、今後の抱負や希望などがありますか
レ「無事主役の座をもぎとったからな。ふさわしい活躍をしたいものだ」
マ「え? そうなんですか。じゃあ、僕はお役御免か。ラウラとのんびりしようかな」
レ「そうはいかん。そなた達も出ずっぱりだぞ」
マ「そうなんですか。今度も特に見せ場はないと思いますが、マイペースで頑張ります」
ザ「私もまだ死んでいないという設定ですので、前作で再登場を希望してくださった方のご期待に沿いたいものです」
マ「新キャラクターもいるんですかね?」
ヴ「ええ。グランドロンとルーヴランだけでなく、他の王国からも重要キャラが出演予定なの。もちろん私やヘルマン大尉も、前よりも活躍する予定よ」
レ「で、いつ発表されるんだ?」
ラ「それが、まだ全然書いていないらしいので、未定です。忘れないうちに書くべきですよね。」
マ「できたら、また読んでくださいね」
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こんな曲を聴いていました 「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」編
で、専用プレイリストはないんですけれど、一応イメージBGMがありますのでご紹介しておきましょう。
まずは、最終的にBGMとなったこの曲。TOM-Fさんが「こういうイメージですよ」とおっしゃってくださったので聴いたら、本当に私のイメージにもぴったりだったので、公式(?)BGMに昇格した曲です。
アントン・ブルックナーの交響曲第四番「ロマンティック」ですね。
Bruckner, Symphony Nr 4 Es Dur 'Romantische' Claudio Abbado, Wiener Philharmoniker
それから、この曲は、大河ドラマをみていた方はそのイメージが強くてどうしようもないでしょうけれど、書きはじめる前の、かなりはじめの頃に、森を旅するマックスを書く時のイメージとして使っていた曲です。
「利家とまつ~加賀百万石物語~」颯流(メインテーマ)
同じく大河ドラマのテーマ曲のひとつで、「NHKテーマ曲集」というCDを聴きながら、最初の構想練ったせいでこうなったんですけれど、虐められつつも、自由を夢みてけなげに生きるラウラのイメージはこんな感じでした。
2000大河ドラマ「葵三代」OP
それから、こちらも同じ「NHKテーマ曲集」というCDに入っていた曲で1974年の大河ドラマ「勝海舟」のオープニング。この曲をレオポルドのキャラクターづくりの最初のイメージに使っていました。
冨田勲:勝海舟 OP~咸臨丸の船出
終わると離れるのが寂しくなるのか、ここのところ「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」のことばかり書いているような。それともこの勢いで、続編をさっさと書けということなのか。
「森の詩 Cantum Silvae」を世の中に送り出して

あと一回の更新で、「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」は完結となります。
これだけたくさんの小説を公開しておいて、信じてはもらえないかもしれませんが、この小説に関しては書くのも公開するのも若干戸惑いがありました。
何度か公表しているように、このストーリーはもともと私が高校生の時に考えだしたものを下敷きとしています。当時は、中世も近世もへったくれもなく、ドレスを着たガイジンが惚れたはれたとやっているだけのストーリーでした。ですから下敷きにしたのは、その恋愛ストーリーの部分のみです。
三部作で、「第一部 姫君遁走」「第三部 一角獣奇譚」の間に「第二部 貴婦人の十字架」が挟まっていたのですが、第一部のとんでもヒロインと、第三部の正統派ゴージャスヒロインに挟まれて、最もどうでもいい存在が、「貴婦人の十字架」のヒロイン・ラウラでした。そういえば、マックスも一番カッコ良さが足りないヒーローでした。それがいまの二人にもよく表れています。
「森の詩 Cantum Silvae」で何か書けないかな、と思ったのは、この二人の恋愛ものが書きたかったからではありません。そうではなくて、あの頃ぼんやりと日本で憧れていたヨーロッパの世界、三部作の中で繰り返し書きたがっていた森の中の世界に、「え。いま私、いるじゃない!」と思い当たってしまったからなのです。
当時は知識も、イメージも足りなくて、さらに表現力もなくて、満足する形に出来なかったものを、もう一度形に出来ないかと思って選んだのは、奇抜な姫君の暴走でも、ゴージャスな美女の正統派ストーリーでもなく、地味な二人の控えめな恋愛でした。キャラクターの派手さや、ストーリーの強さを押さえることによって、もっと表現したいものを浮かび上がらせることが出来るのではないか、それがその理由でした。
イメージした時代は1400年代あたり。暗黒時代ではありませんが、まだ絶対王政の始まる前の、混沌とした時代。ペニシリンも、モーターも、水洗トイレも、トラクターも、電灯もない世界。そして、魔法も、竜も、小人も、タイムスリップもない世界です。その限られた可能性の中で、人びとが自分に出来ることを探っている、そういう世界を書きたかったのです。
ずっと待っていたのに報われなかった修道女。春をひさいで生き抜く女。誇りを持って働く男。信念のために大ばくちを打とうとした元聖職者。様々な人生をパッチワークのように繋げて、試行錯誤の末に出来上がった作品は、私にとっては高校生の頃の「ロクでもない笑えるストーリー」とは全く別物に仕上がりました。私が表現したかったものはこれで、これしかなかったとは思いますが、それでも発表を始める時にはためらいました。「これって、普通の人が読みたい話?」
たぶん多くの方には、期待はずれな作品だったと思います。偉大なる賢者さまの使う魔法や、華麗なるどんでん返し、もしくは、派手な戦闘シーン、もしくはめくるめく熱い愛、それのどれも出てきません。ラストも「え? これで終わり?」的なあっさりしたものになります。
そうであっても、ここまで連載を続けてきて思うのは、「それでも発表してよかった」ということです。皆様からいただいた感想を読んでも、たとえ万人受けする小説ではなくても、言いたいことは伝わるのだと思えたからです。
中世や人生というものを書き出せたなどという驕った想いは持っていません。上手く表現できていないと悔しいところもあります。あと二十年経ったら、もっと深いものが書けるかもしれません。そうであっても、いまこれを書いておいてよかったと思います。
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「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」のイラストをいただきました

このイラストの著作権はユズキさんにあります。無断使用は固くお断りいたします。
この小説は、昨年から連載していたのですが、今年に入ってから企画のために連載を中断していました。日曜日から連載再開、チャプター3が始まります。このタイミングで、ブログの誕生日お祝いも兼ねて描いてくださったのですが、ああ、どうしよう、感激を表す言葉が見つからないです。本当に、素敵ですよね!
この小説のメインキャラ三名をまさに私がイメージしている通りの姿と立ち位置で配置してくださったのです。下方左がヒロイン、ラウラ。私の小説にはあまりいない「耐えるヒロイン」です。そして、その右にいる青い服を着ているのが、主人公マックスです。ヒーローなのに残念ながら戦闘スペックはゼロ。どうやって絶体絶命のヒロインを救う氣なのか……。対照的にちょっと頼もしいのが、サブキャラなのに存在感を半端なく描いていただいた真ん中にいるレオポルド二世。王様です。ええ、正にこういう話なんです。
ラウラとマックスのアングルがさすがだなあと思います。ラウラの追いつめられている様子や、マックスも全然余裕がない状態で危険に飛び込んでいく様子がこれだけでわかりますよね。ああ、素晴らしい。
書いている本人は、頭の中にこういう姿形でというのがあるんですが、いくら頑張って描写してもやはり読者にはなかなか伝わりませんよね。この三人は、まさに私の頭の中とそっくりです。ですから、これからは皆様にも三人のイメージが定着するかな〜と、一人で喜んでいます。
これだけの詳細なイメージを再現してくださるのは、とても大変なことだったと思います。ユズキさん、本当にありがとうございました!
うって変わって、下でご紹介するのは、先日の「scriviamo! 2015」でユズキさんが書いてくださった、お伽噺風(?)掌編のイラスト。マックスがヴァルト画伯(@ユズキさん)のほのぼの画風によってファンシーイラストになりました。広大な森《シルヴァ》をずんずんと行く、「旅する傍観者」マックスの面目躍如です。あんまり嬉しかったので、こちらもいただいてきてしまいました。


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ユズキさん、本当にありがとうございました! 大切にします!
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今も残る中世の面影
「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」は既に何度もカミングアウトしていますが、高校生の時に私が妄想していたお話のリライトです。その頃の私は、将来ヨーロッパに住むことになるとは夢にも思わず、さらにいうとヨーロッパの事は「どこか遠くの国」以上の認識はなかったと思います。
ブログ用に何か長編を用意しようと考えていた時に、新しいものではなくてこの昔の作品を思いだしたのは、私が生きているこの場所に、スイスとそれから旅をして出会う先々で、「あれ、この風景は昔、一時狂っていたものに似ている」と感じる風景がなんでもなく残っていたからなのです。

上の写真は、連れ合いとバイクでドイツに行ったときのもの。ローレライで有名なラインランドのどこか。作品中では、マックスが旅をしながら見てあるいた、「サレア河」の辺りの街のイメージです。

我が家から15分くらいのところにある少し有名な教会には、13世紀の木版天井画が残っています。これはヨーロッパでも珍しい素晴らしい状態で、なぜ残ったのかというと宗教改革でカトリックからプロテスタントに変わった時に「こういうのはいらん」と塗り籠めてしまったので、劣化せずに残ったのですね。また、ド田舎だったので火事などで失われる事もなかったのです。今では貴重な文化遺産という事で、プロテスタントだカトリックだと四の五の言わずに公開して(拝観料をとって)います。
まだ聖書が手書きのラテン語しかなくて、一般人は読む事が出来なかった時代、こうやって絵で人びとに聖書の物語を語っていたのですね。同時に彼らには例えば「聖書には、免罪符の事なんか書いていない。あんたら聖職者や為政者が俺たちを支配するために言っている事はでたらめだ」と確認する機会は与えられていなかったのですね。知識の独占は不公平を生んでいました。被支配者は「生かさぬように、殺さぬように」存在するしかなかったのです。人類皆平等なんて思想もありませんでした。
「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」では、城の中で贅沢な暮らしをする貴族たちと、市井で生きる貧しい人たちの両方の姿を対比的に書き出そうとしていますが、この二つの世界も実際に残っているこれらの遺構からたくさんのイメージをもらってきました。

最後は、日本の方にも人気のあるソーリオという村。やはり私の住むグラウビュンデン州にあります。もちろん、今ではどの家にも電氣や水道が通っていますが、それでもパッと見には昔のヨーロッパの姿を彷彿とさせる光景ですよね。
ヨーロッパには、地域ごとに違う建築があると言っていいくらい、違ったタイプの家並みがあります。これはどちらかというとイタリア側の山村の家並みですね。やはり山の中に行けば行くほど、閉鎖的だったゆえに昔のものが残っています。それは言葉も同じ。ベルリンでは面影もない中世ドイツ語の発音規則が、辺鄙なスイスの山村で残っているという具合に。
こうした古くから変わらない世界に日々触れ、すっかり開けてしまったとは言えやはりヨーロッパの植生の自然に触れ、天候に馴染む間に、忘れていたはずの「森の詩 Cantum Silvae」の世界がいつの間にか私の中で再び息づきだしたのです。
物語は元のストーリーの骨格の部分まで来ました。ヒロインは自由に自分の足で森を越えるのではなく、運命に連れられてグランドロンに向かう事になります。
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風景の中の城

中世ヨーロッパをイメージしている小説を連載中だから行ったわけではないのですが、この休暇中はどうも中世の街と縁が深かったようです。そのうちの一つ、Bardiという北イタリアの街にあるお城からの風景です。
このお城に入ったのはこれが初めてだったのですが、塔の外を眺めたら、ちょうど私がイメージしていた「ヒロイン・ラウラの憧れていた」のに近い光景が広がっていました。
日本だとお城から眺める世界にはどうやってもビルやら新幹線やら、とにかくどう転んでもサムライの時代の風景とは明らかに違う光景が広がってるのですが、ヨーロッパではこのように(よく見なければ)当時とあまり変わらないように見える光景に出くわす事が多くあります。もともとの人口の違いなのか、たまたま私が日本では都会にしかいかないからなのか、理由はわかりません。
もちろんこの光景も、中世ヨーロッパとは大きく違うでしょう。こんなに開墾されていなかったでしょうし、舗装された道路もあるし、川もよく見ると自然のままではありません。お城にも電灯があるし、窓にはガラスがはめられています。それでも、私はラウラが「あの森を越えて、いつか遠くへ自分の足で歩いていきたい」と願った広大な自然を目にしたような錯覚を憶え、町と一体になった要塞のような城に「そうそうこんな感じ!」とつぶやく事ができるのです。
こうした街の中を歩くと、どこか孤独を感じます。石の壁に囲まれた空間は外界から、自然の脅威から人びとを守っています。けれど、それは便利で快適な現代社会とは違い、暗く冷んやりとした硬質で素朴な世界です。閉じられているからこその限界も強く感じます。食事のバラエティは少なく、生活のトーンもある種の単調さに支配されます。
中世の人びとは、さらに限られた世界に住んでいた事でしょう。完全な再現ではないとはいえ、こうした世界にわずかでも身を置くと、その閉塞感を感じ取る事ができました。
たぶん私が描きたかったのは、本来のエビソードの根底に流れるこのどことない不安、閉塞感、外界への憧れと怖れ、そんなものだったのかもしれないと感じた旅でした。
本編はようやく本題に入ってきています。
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カオスだった私の中のヨーロッパ
だからというわけでなくて、語りたいことが出てきたので久々に。

何度かお話ししているように「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」は高校生の時に私が描いていた手書きマンガ的ストーリーのリライトです。当時の「森の詩 Cantum Silvae」はおよそ200年くらいのアバウトな期間中の三つの王子様&お姫様ストーリーを書いた連作で、中でも現在発表しているこの二部が一番どうでもいい扱いでした。なぜか。ヒロインとヒーローが地味だから。(うん、今でも地味だし)
ところが、二年くらい前に「あの話をリライトして作品にしてみようかな」と思いついた時に、第一部と第三部は即却下して、この第二部だけが使えると思ったのです。当時から私の物語に対する姿勢が大きく変わったのですね。この話だけが、ストーリーとして意味があったということです。(いい話とか素晴らしいストーリーというのではなくて、残りの二つが意味不明すぎただけです)
そして改めて物語の設定を考え直した時に、自分で頭を抱えました。当時のストーリーは今もそのまま使っていますが、背景はほとんどスカスカでした。そのスカスカな枠組みがひどかったのです。
ご存知のように、中世ヨーロッパをモデルにした仮想世界として三つの王国(グランドロン=ドイツ風、ルーヴラン=フランス風、センヴリ=イタリア風)を設定していますが、その「モデルにした」私の中のヨーロッパ観がろくでもなかったのです。現在グランドロンと呼んでいる国は、地理上で西にあり「フランクライヒ」といいました。それ、ドイツ語でフランスのこと……。人名はドイツ風とフランス風が入り乱れていました。ファーストネームは主にフランス風。で、設定では今のグランドロンに近い、つまり民族的なイメージとしてはドイツに近い。そして対応するルーヴラン(当時の国名がどうしても思い出せない)の人名はなぜか英語風。でも、やっていることはどう考えてもラテン。つまり、当時私の中でのヨーロッパのイメージはそれほどにカオスだったのです。
現在、ヨーロッパに住んでいて、ドイツやフランスやイタリアやもちろんスイスのことを身近に見ている自分としてはそのままにできないトンデモ設定が多すぎました。
ああ、ダメだ、ダメだ〜と、まずは設定した全ての地名と人名を捨てて新しいものに変更することからはじめました。そんなの大した事ないじゃないと思うでしょう。でも、私の頭のなかにある名前と、入れ替えた名前がいつまでも一致しなくて錯綜するのです。こんな混乱した執筆ははじめてでした。
ラウラや《男姫》ジュリアはもともとグラウリンゲン侯爵家(なぜこれだけ英語系ではなくてドイツ風なのかも不明)に属していました。現在の設定をチェックしていただくとおわかりのように、この家名は現在グランドロン王家の苗字として使っています。そして、ラウラが養女となった侯爵家はバギュ・グリに変えました。どちらも同じ意味なので、もしかすると親戚である可能性もあるかもと、一人でかってにほくそ笑んでおります。あ、ストーリーにはこの辺は全く関係のないことです。そういえばハンス=レギナルドはこの話とは関係ないので名前を変えませんでしたが、これまたドイツ風ですね。ジュリアはそのままでよくて、ただし、この方はグランドロンではユリアと呼ばれることになります。
当時から一切変えていない名がフルーヴルーウー伯爵家(領)。現在の設定でのモデルはスイスとアルザス。もともとは誰も欲しがらなかった辺境なのに途中で重要性が変わり、今ではルーヴランも狙っている領国で、第一部のジュリアとハンス=レギナルドの奇妙な物語のために創り出した名前です。ドイツ風でもフランス風でもない珍妙な名前でやめようかとも思ったのですが、メインストーリーに関係のない山のような固有名詞の中で、ここまで変だったらかえって読者の記憶に残るかなと思ったので、これだけは昔のままにしました。
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「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」について

中世ヨーロッパをモデルにした架空世界のストーリー、「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」の連載が始まりました。
「森の詩 Cantum Silvae」は、私が高校生ぐらいの時からずっと頭の中にあった世界です。当時はヨーロッパの歴史がきちんと頭の中に入っていたわけではありませんし、どの時代というのもかなり朧げでした。いま設定している時代よりかなり新しい時代をイメージしていたと思います。なのに出てくるモチーフは古代のものだったり、かなりメチャクチャでした。子供の脳内遊びでしたから……。
いま発表しているものは、高校生の時に作ったストーリーをそのまま書いているわけではありません。正式に執筆に入ったのは「大道芸人たち Artistas callejeros」を書き終わった後です。高校生の頃からずっと頭に居座っている世界の固有名詞と大枠のストーリーを使いつつも、現在の自分が見聞きしたもの、感じているものを織り込む形で新たに書き直しました。
発表したからにはどのように読んでくださっても、それは読者の自由だと思っていますが、いつもの私の書き方に慣れている方が読むとかなり困惑すると思われますので、先に少しだけ書いておきます。
この小説、次々と人物が登場しエピソードが展開しますが、「また新たな名前だ、憶えなきゃ」とか「これは何かの伏線だろうか」ということを考えながら読むと、最後まで読んで脱力する事と思います。現実の一人の人間が、人生を歩む時に、「この人は後々どんな役割を果たすのだろうか」とか「この出来事は先の出来事の伏線だろうか」とか、考えませんよね。一つひとつの経験がその人間の考え方や生き方に影響していくので、まったく関係がないと言い切る事も出来ませんが、物語の「あらすじ」として書き出すとしたら、ほとんどすべてが切り捨ててもいいエピソードです。
特に前半はどちらかというと、中世ヨーロッパの世界を章ごとにご紹介するような書き方です。「主人公たちはどうなるのか」というストーリーそのものは全く動きません。むしろ主人公たちと一緒に中世のヨーロッパを垣間みるように氣楽に読んでいただいて構いません。(ストーリーそのものは笑っちゃうほど簡単なひねりのないものです)
なお、地名や国名、それに登場人物な馴染みがなくて、「サレアを渡った」などと言われても困ると思いますので、毎回「今ここ」にあたる地図を付けておきます。理解するのの手助けになるよう手の内をみせてしまいますが、「グランドロン=ドイツ」「ルーヴラン=フランス」「サレア=ライン」と思っていただけるとわかりやすいと思います。架空の言葉や人名もドイツ語やフランス語、それからラテン語を意識して付けています。
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