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scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012

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Posted by 八少女 夕

【小説】ピアチェンツァ、古城の幽霊

limeさんからの宿題(?)に今ごろ反応。素敵なイラストをアップなさっていてですね、どうぞご自由にお使いくださいと。

(イラスト)妄想らくがき・羽根のある君と

limeさんの「羽根のある君と」
このイラストの著作権はlimeさんにあります。使用に関してはlimさんの許可を取ってください。

で、せっかくですから行ってきたばかりの北イタリアの古城のイメージを使い、さらにポール・ブリッツさん流の「省エネ」作戦で、自分の企画した「地名系お題」シリーズにも加えてしまう事にしました。



ピアチェンツァ、古城の幽霊

 サルヴァトーレ・フィジーニは満足げに黒檀の机の上の書類に署名をしようとした。目の前にいるベージュのスーツを着たビアンコとかいう男はサルヴァトーレが古城の所有者となろうとしているのに、大した感銘を受けた様子もなかった。不動産会社の社員なんてものは、古城の所有などとは生涯無縁なのだろう。だがこの私は違う。ミラノのビジネス界で成功し、ついにここまで登り詰めたのだ。次のビジネス・ディナーではなんでもないように口にする事ができる。
「城を購入して住みはじめたばかりなのですが、まだ、全ての部屋を確認し終えていないのですよ」

 この城は、実のところミラノから日帰りできる範囲で買えるどの城よりも格安だった。ピアチェンツァに点在するたくさんの城のほとんどが廃墟か個人所有になっている。売り出される事自体はそんなに多くない。フィジーニはマッジョーレ湖沿いのヴィラの購入も考えたが、この城ほど格安で人びとを感嘆させる新居は手に入らなかった。

 古城とは言え、二十五年ほど前にきちんと改築され、どの部屋も改装の必要なく住むことが出来そうだった。もちろんネットの配線などの工事は必要だろうが、城にふさわしい高価な家具も食器類も揃っているうえ快適な現代生活が送れそうだった。

 マウリッツィオ・ビアンコは登記済み証や、城の平面図などを機械的に確認し、フィジーニの用意した書類を書類ばさみに入れていきながら付け加えた。
「こちらにあるのが、全ての部屋の鍵です。そうそう、この鍵だけは使うことはないと思いますが」

 いわれた鍵は一つだけ錆臭く黒ずんでいる大型のものだ。
「どこの鍵かね」
「アロイージアの部屋です。屋根裏の一つ手前です、ご存知ですよね」
「アロイージア? 誰だそれは」
「ご存じないのですか。この城の幽霊です」
「幽霊だって?」

 ビアンコはちらっとフィジーニを見た。
「ええ、幽霊です。古城なんですから、居るに決まっているでしょう」
「決まっているって、君、何を言っているのかね。今は二十一世紀で、そろそろ一般人が宇宙旅行をしようっていう時代だぞ。幽霊だなんて、ちゃんちゃらおかしい」

 ビアンコはため息をついた。
「やれやれ。最近は学校でも教えないんですかね。昔は幽霊がいる事も知らない一般常識のない人が古城を買うなんてことはなかったものですが」

 フィジーニはドキッとした。馬鹿馬鹿しいおとぎ話だが、上流階級との会話には幽霊の話も必須なのかもしれない。とても信じるつもりにはなれないが、ここでそのアロイージアとやらの情報も仕入れておいた方がいいかもしれない。

「どんな幽霊なんだね。老婆か、それとも妙齢の女性か」
「少女の姿をしているそうです。他のお城の幽霊と違って、氣難しくはないそうですが、一番嫌がるのが自分の部屋に勝手に鍵をかけられる事。もちろん彼女は鍵かかかっていようがいまいが、自由にこの城のどの部屋にも出入りできます。ああ、それから、ヴェルディよりもプッチーニの方を好むとか」
「ええっと、ラップ・ミュージックは?」
ビアンコはその発言をしたフィジーニをじっと見つめた。なんだなんだ、ポップスはダメなのか、それは参ったな。フィジーニはドギマギしてきた。

「それから、携帯電話はお使いにならない方がいいかもしれません」
「なぜだ」
「いえ、前の所有者が、アロイージアの機嫌を損ねたのですが、携帯電話会社の経営者でしたから」
やめてくれ! フィジーニは泣きそうになった。いくら古城に住むと言っても、普通の生活ができないと困るじゃないか。

「私の方からは、以上です。契約は成立いたしました。どうぞ新しい我が家を存分にお楽しみください」
マウリッツィオ・ビアンコは頭を一つ下げると、書類を集めて、古ぼけた白いフィアットに乗って去っていった。フィジーニはとにかく新しい我が家に慣れるため、用意しておいたスプマンテを開けてリラックスする事にした。

* * *


 フィジーニが24km先にあるビアンコの事務所の前にアルファ・ロメオを乗りつけたのは二週間後の事だった。

「城を買い戻してもらいたい」
「なぜですか。契約書にあるいかなる条項にも反している所はないと思いますが」
「君のいう通りだ。部屋の状態も、インフラも、家具も、日当りも、全て住む前に確認した状態だった。だが、君のいう幽霊の件は契約書になかったじゃないか」

「なんですって。二十一世紀だというのに、幽霊のせいで契約が無効だとおっしゃるんですか。今のミラノでは、そういう戯れ言がビジネスとして通用するんですか」
「いや、そうではなくて……」

「何が問題なんですか」
「その、つまり、何もできないんだ。ネットには接続できない。電話もできない。恋人と食事をしようとすると、休みなくドアが開いたり閉まったりする。ラップ・ミュージックをかけると水が降ってくるし、プッチーニにすると今度は大音響にされて会話もできなくなる」

 ビアンコは馬鹿にしたように肩をすくめた。わかっている。フィジーニは屈辱を感じた。どうやっても証明できない。ドアのたてつけは悪くないし、ネット接続機器や音響設備が故障しただけだといわれたらそれまでの事だ。彼は諦めて購入価格の三分の二ほどの金額を提示した。ビアンコは粘り、ついに半額で買い戻してもらう事が出来た。フィジーニはアルファ・ロメオのリースを解約する事を考えつつ、契約書に泣く泣くサインをした。

* * *


「二週間で追い出すとはずいぶん急いだじゃないか、アロイージア。いったいどうしたんだ?」
フィジーニの忘れていったグラッパを開けて、マウリッツィオは食堂の心地のいい椅子に腰を沈めた。

「だって、明日はスカイ・チャンネルで『名探偵登場』を放映するのよ。絶対にあなたと一緒に観ようって思っていたんですもの」
アロイージアは、マウリッツィオの肩越しにくすくす笑うと、パンっとラップ音を立ててエロス・ラマゾッティのラブ・バラードをかけだした。

「おい。古城の幽霊らしくないものをかけるなよ」
「そう? 私はラマゾッティだけでなくって、エミネムも、シャキーラも、スイスのヨーデルもそんなに嫌いじゃないわよ。今どき、クラッシックだけなんて、そんな幽霊がいると思う?」
「ふん」
マウリッツィオはグラッパを飲み干すと、ポケットからiPhoneを取り出して、メール受信を終えるとエアプレーン・モードにした。

「新しいカモが連絡してくるかもよ?」
アロイージアが訊くと、マウリッツィオは興味なさそうにiPhoneを机の上に放り出した。

「今回の取引でたっぷり儲かったからな。半年くらいはここでお前とゆっくりするさ」
小さな幽霊は歓声を上げて、マウリッツィオの首にかじりついた。

 
(初出:2014年9月 書き下ろし)
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Category : 小説・ピアチェンツァ、古城の幽霊
Tag : 地名系お題

Posted by 八少女 夕

【小説】ピアチェンツァ、呪縛の古城

この作品は2015年のエイプリルフール企画です。念のため。

今日の作品は、ほんのちょっとホラー・テイストです。イタリアの古城で起こった幽霊による神隠し。悲鳴を残していなくなった恋人のために奮闘する青年のお話。


ピアチェンツァ、呪縛の古城

 どうしてこんなことになったのだろう。イェルク・ヨナタン・ミュラーは、青ざめて古城の暗い廊下を歩んでいた。

 彼は、休日を利用して、恋人であるステラと一緒に、このピアチェンツァに日帰り旅行に来ていた。その坂を登ったところに、できたての野菜と美味しい豚肉料理を出してくれるアグリトゥーリズモの田舎風レストランがあるはずだった。ステラに地図を読ませたのが間違いだった。「私だって地図ぐらい読めるわ」彼女の言葉を信じてしまった彼の失態でもあった。女に地図が読めるはずがないのに。

 坂を登りきった所にあったのは農家ではなくて古城だった。それもレストランなどが併設されているようではなく、明らかにプライヴェートの。すぐに来た道を戻ろうとするヨナタンに、ステラは言った。

「でも、この裏に農家があるかも」
彼女が勝手にそちらに行ってしまったので、彼はあわてて後を追った。そして、空模様が急におかしくなっていることを知った。まさかこんな時期に雷雨が来るのか? 雨宿りをしなくてはならない、だがその前にステラを止めないと、角を曲がろうとした時に、ステラの悲鳴が聞こえた。

「ステラ! 何があったんだ」
慌てて後を追ったが、角を曲がった途端に、彼は意識を失った。氣づいた時には、冷たい石畳の敷き詰められた暗い廊下に横たわっていた。

「目が覚めたか」
女の声がしたので振り向いたが誰もいなかった。
「誰だ。どこにいる」
「ここだ。だがお前には見えまい。ふふふ。さあ、立ってこちらに来るのだ。声のする方に……」

「だが……彼女は無事なのか?」
ヨナタンは、焦りを隠さずに問いかけた。女の声はカラカラと笑った。
「お前が言う事をきかなければ、無事では済まない。いいか、お前に選択権はない。ここでは、人間ごときの能力など何の役にも立たないからだ」
姿の見えない女の声は薄氣味悪く虚空に響いた。

 石の床は彼の足元で冷たい音を立てた。廊下の両側に立っている中世の甲冑が揺れてカチャカチャと鳴った。金属音が鋭く彼の耳を貫いた。脇に冷たい汗が流れる。ここから逃れる術は何もないのだろうか……。

 やがて、彼は大きな木のドアの前に立たされた。
「さあ、ここに入るんだ」
おどろおどろしい声に促されて、怖々と彼がそのドアを開けると、何故か全く似つかわしくない音楽が大音響で流れていた。

――これは……ビヨンセじゃないかな?

 そして目に飛び込んできた光景はもっと奇妙だった。たくさんの男たちがいた。全部で20人くらいだろうか。男だけだったが、どういうわけか全員ハイヒールを履いて踊っていた。

「は~い、マウリッツィオ。新しいバックダンサー連れてきたわよ」
ふと横を見ると、さっきの声の主が、天使みたいな羽根をつけた少女の姿になって顕現していた。

limeさんの「羽根のある君と」
このイラストの著作権はlimeさんにあります。使用に関してはlimさんの許可を取ってください。

「おお、ご苦労。次の迷子が来たら、またここに連れてきてくれ、アロイージア」
一番前で踊っていた黒髪に青い瞳をした男が頷いた。後ろで踊っていた男たちも騒いだ。
「よろしく! 新しいお仲間さん!」

「お前らは黙って練習しろ。おい、そこの新入り。さっさとそこにあるハイヒールに履き替えて、一番後ろに並べ! そこの筋肉男! 振り付けを教えてやれ」
マウリッツィオは、厳しい顔で命じた。

「あ、あの……、これはいったい……」
ヨナタンが体格のいい男に近づいて声を顰めた。

「よろしく。俺の名前は、マイケル・ハースト。アメリカ人だ。それから、そこにいる三人は大道芸人だそうだ。金髪のドイツ人がヴィル、茶髪のフランス人はレネ、それからそこの日本人は稔というらしい。ああ、それからもう一人日本人がいたな。たしかヤキダマとかいう。それにそこのモロッコから来たヤツはムスタファ。あとは、俺もまだ名前を知らないんだ。ところで、あんたは?」
「ヨナタンです。ドイツ人ですが、イタリアに住んでいます」

「そうか、ヨナタン。ご苦労だが、あんたがここに来たからには俺たちと一緒に踊ってもらわなくちゃいけない。俺たちの連れの女たちは全員人質になっている。そしてあのマウリッツィオとさっきの羽の生えた幽霊が満足する踊りを習得するまで解放してもらえないんだ。この曲は知っているだろう?」

「はあ。たしかビヨンセの……」
「そう『Crazy In Love』だ。そんで、あいつはヤニス・マーシャルみたいにカッコ良く踊りたいんだってさ。で、俺たちがバックダンサー。人質を無事に返してもらいたかったら、とにかくこの振り付けを憶えんだな」
「……はあ」

 ヨナタンは、生まれて初めてハイヒールを履き、とにかく振り付けを憶えた。といってもうまく踊れるはずなどなく、マウリッツィオに罵倒されつつ必死でレッスンを繰り返した。

 前の列で踊っている三人の大道芸人たちは、バックダンサーにされてからかなり長い時間が経っているらしく、振り付けはばっちり、おしゃべりをする余裕もあるらしかった。

「ヤス、その日本の盆踊りみたいな動きは何とかならないのか」
「お前こそこんなシュールなダンスを無表情で完璧に踊るのはやめろよ」
「テデスコ、少し手加減してくださいよ。あまりうまく踊るとマウリッツィオを食っちゃって、睨まれますよ」
「ふん。どうやったらヤスみたいに下手に踊れるのかわからん」
「くそっ! 憶えていろ!」

 ヨナタンは、周りを見回した。ヤキダマと紹介された男は日本人らしく黙々と練習していた。よほど人質となった女性が心配らしい。僕もちゃんと踊らないと。ステラはどんな辛い目に遭っているんだろう。

 その一方で、彼は視界の端に、三頭の仔パンダが楽しそうに踊っているのもとらえていた。真面目に心配するようなシチュエーションには思えないが、ここはいったいどうなっているんだろう。

* * *


「もう少し、コーヒーはどう?」
にこやかに奨められて、ステラは戸惑いながらコーヒーカップを差し出した。

「あの、こんなことをしている間に、ヨナタンは……」
そう言うと目の前の蝶子と名乗った日本人女性が笑って否定した。
「大丈夫よ。エンターテーメントの練習をしているんですって。私たちはこうやってお茶会をして待っているだけ。ほら、レアチーズケーキもあるわよ」

 ステラは周りを見回した。17、8人の女性と、明らかにパンダに見えるのに服を着ている二人が大きな舞台のある大広間に用意されたデザートビュッフェでにこやかに談笑していた。国籍も、年齢もバラバラだが、誰もがかなりリラックスしていた。

 時おり、彼女たちをこの広間に連れてきた羽根のある幽霊がやってきては、報告をしてからいなくなった。
「まだ踊れないヤツがいて、もうちょっとかかるかも。あ、パンナ・コッタも用意したから。ワインの方がいい人がいたら言ってね」

 ステラは、隣の席に座っているコトリと名乗った日本人に話しかけた。
「あなたもレストランを探していて迷いこんだの?」
「いいえ。新婚旅行中で古城ホテルに泊るはずだったんですけれど、そのホテルからいつの間にか転送されてしまって」
「え。そうなの?」
「バイクはあっちのホテルにあるはずだし、この催し物が終わったら、どうやって帰っていいのか」

 向かいの席に座っていたミシェルと名乗ったフランス人の女性がコーヒーを飲みながら言った。
「私たちなんか、元の世界に連れを一人追いてきちゃったみたいなの。早く帰って世話をしてあげないといけない人なんだけれど、それを言ったらあの幽霊は、時間が止まっているし、満足のいくエンターテーメントになったら、元の世界にはちゃんと送り返すから大丈夫だって。ま、心配しても何もできないし、こんなにゆっくりできることって久しぶりだから、楽しんじゃおうかなって」

 そうか。じゃあ、私もヨナタンが戻ってくるまで、パンナ・コッタでも食べようかな。

 ステラが、パンナ・コッタと、レアチーズケーキと、ベイクド・チーズケーキと、サバイオーネと、レモンケーキと、マチェドニアと、ティラミスと、それからマーマレード・サンドイッチを食べ終えた頃、舞台に灯りがついて、音楽が流れた。ビヨンセの『Crazy In Love』だ。

 奥の大階段から、一番前に艶のある黒革の衣装に、黒いハイヒールを履いたマウリッツィオが降りてきて、後ろに二十人のバックダンサーが続く。うまい男と下手くそな男と色々いるが、それぞれが懸命に踊っている。

 ヨナタンが、ハイヒールで踊っている……。ステラは、カルチャーショックで固まった。隣を見るとコトリも硬直していた。けれど、ミシェルと蝶子、それにガタイのいい男を応援しているアレクサンドラという女は、大笑いしながらも拍手をして騒いでいた。

 稔は予想通りヘタクソだった。だが、ふっきれて笑いを取る方に走っていたので、見ていて辛くはない。レネは意外と踊りが上手い。リズムのとり方が上手な上、リラックスしている。ヴィルはプロ並に上手いのはいいのだが、いつもの無表情のままなのでかえって怖い。

 一生懸命が服を着ているような踊り方をしているのは、ヤキダマだ。振り付けを間違えないように集中しているので、新婚旅行中にハイヒールを履いて踊らされている理不尽について思いやってあげられるのは、新妻のコトリ一人だった。

 そのヤキダマの一生懸命さと比較して、ヨナタンの方は「なぜこんなことをしているんだろう」という疑問が表情と踊りの両方に表れていた。もっとも普段から舞台で音楽に合わせて演技するサーカスの道化師なので、踊り方はさほど下手ではない。

 そして、褐色のモロッコ人ムスタファはさすがに身体能力が抜群で、踊りが様になっている。負けてなるものかと、横でノリノリで踊るのは、「ブロンクスの類人猿」とアレクサンドラに呼ばれているマイケル。二人で、アドリブを混ぜながら仲良く踊っている。「楽しんだもの勝ち」のいい実例だ。
 
 そして、望み通りのバックダンサーを従えて得意顔のマウリッツィオは、羽根の生えた幽霊アロイージアの用意したスポットライトの光を浴びて汗を飛び散らせ回転している。

「キャー! セクシーねぇ」
「おお、こんなに上手く踊れるとは!」
女たちは拍手喝采だ。その周りを、ポルターガイストで、カップや皿が広間を飛び回っている。

 間奏曲になると、三頭の仔パンダが前面に出てきて、キュートなダンスを披露する。あまりの可愛さに、女たちは悶死寸前だ。

 それから再び全員で激しく踊り、熱氣の中で最後のポーズが決まった。やんやの拍手喝采がなされた。スタンディグ・オベーションにマウリッツィオは大満足だった。

 バックダンサーにされた男たちは、女たちが菓子とコーヒーとワインでもてなされているのを見て、文句たらたら、さらに男なのに仔パンダが踊るのと引き換えにこちらで待っていられた父親パンダへのひいきに文句を言うものも出てきたが、今からお茶会に加わっていいとのマウリッツィオの宣言を聞くと、大喜びで舞台から降りてきて、それぞれの連れの女性の所へと走った。

「お疲れさま。ヨナタン。意外だったけれど、かっこよかったよ」
ステラが言うと、ヨナタンは照れたように笑って「ありがとう」と言った。

 女たちにそれぞれ上手に労われて、さらに空腹が癒されると、男たちの機嫌も治ってきた。
「お腹もいっぱいになったことだし、いい加減この衣装とハイヒールは返したいよな」
稔が言うとレネも頷いた。
「僕の服、どこに言っちゃったんだろう」

「俺の服のポケットには、手榴弾が入っているんだ。扱いには氣をつけてくれよ」
マイケルは物騒な文句を言う。

「そんなに、着替えたいか」
その声に見上げると、マウリッツィオ・ビアンコが不敵な笑みを漏らして立っていた。

「まさか、このまま解放してくれないとか?」
ヴィルが眉をひそめた。

 ビアンコは高笑いした。恐ろしいラップ音とともに、バックダンサーたちは、黒いシャツに白いスーツというお揃いの服装に早変わりしていた。

「もちろん、このまま返すわけはないだろう。次は『サタデー・ナイト・フィーバー』だ。さっ、男ども、さっさと練習室に戻るんだよ!」

 マウリッツィオ・ビアンコに命じられて、男性陣は猛烈なブーイングで抗議したが、ポルターガイストで何でも起こる古城で彼らにできる抵抗はほとんどなかった。

 彼らが練習室に姿を消すのを見守った後、女性陣とパンダの夫婦は顔を見合わせると、再びコーヒーポットから熱々のコーヒーをお互いのカップに注ぎ、新しく積まれたお菓子に手を伸ばして和やかに談笑を始めた。

 幸せな北イタリアの春の午後は、のんびりと過ぎていった。

(初出:2015年4月 書き下ろし)

この記事には追記があります。下のRead moreボタンで開閉します。

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え~、今年もやってきました、恒例のエイプリルフール企画。さすがに今年騙された方はいらっしゃらないかと思いますが(笑)

ハイヒールを履いてビヨンセを踊るヤニス・マーシャルというのはこの人です。

YANIS MARSHALL CHOREOGRAPHY. MUSIC BY BEYONCE. FEAT ARNAUD & MEHDI. STUDIO68 LONDON #BGT REHEARSAL

で、これがご本家。

Beyoncé - Crazy In Love (Live)

さて、演技したチームですが……
今年、強制友情出演してくださったのは

山西 左紀さん「254」からコトリとヤキダマ
ユズキさん「ALCHERA-片翼の召喚士-」からハギ副将軍とそのご家族(パンダ一家)
大海彩洋さん「明日に架ける橋」からムスタファとミシェル
そして、limeさんイラストの二人


大事なキャラを無断でお借りいたしました! お詫びとともに、心から御礼申し上げます。エイプリルフールなので、怒らないでくださいね。

このブログからの出演者は

ヨナタン&ステラ from 「夜のサーカス
蝶子&稔&レネ&ヴィル from「大道芸人たち Artistas callejeros」
マイケル&アレクサンドラ from 「ヴァルキュリアの恋人たち」「ヨコハマの奇妙な午後」
マウリッツィオ&アロイージア from 「ピアチェンツァ、古城の幽霊」


で、お送りしました。
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Category : 小説・ピアチェンツァ、古城の幽霊
Tag : 小説 読み切り小説 コラボ 地名系お題 エイプリルフール