2019 オリキャラのオフ会 豪華客船の旅の設定です
今回、うちから参加させていただくのは、
「ニューヨークの異邦人たち」シリーズからマッテオ・ダンジェロとアンジェリカ
「目が合ったそのときには」シリーズから京極髙志と山内拓也
の四人です。
マッテオたちと京極たちは別行動の予定。っていうか、山内拓也は異形なので招待状もらっていません。密航です。すみません。
四人のキャラクター設定です。
◆マッテオ・ダンジェロ(本名マッテオ・カペッリ)
40歳。身長178cm。ニューヨーク在住のイタリア系アメリカ人。主に健康食品を扱うヘルサンジェル社のCEO。明るい茶色の巻き毛で瞳は茶色い。上質のイタリアブランドのプレタポルテを着用。何でも食べる。お酒も大好き。二人の妹と姪のアンジェリカを溺愛している。一人称は「僕」二人称は「君」や「あなた」
この記事にも詳しく書いてあります。
マッテオを登場させる方は彼らしさ全開の「歯の浮くような台詞」を口にさせてください。誰に対してかなどはお任せします。
◆アンジェリカ・ダ・シウバ
10歳。身長130cm。濃い茶色い髪。背中の辺りまでの長さで自然なウェーブがかかっている。瞳は茶色。マッテオの姪。今のところロサンジェルスがメインの住まい。絶世の美女と言われる母親(元スーパーモデル)アレッサンドラ・ダンジェロにそっくりの顔立ち。父親であるブラジル出身サッカー選手レアンドロ・ダ・シウバ譲りの運動神経も持ち合わせている。年の割にしっかりしていて生意氣な口をきくが両親やマッテオおじさんは大好き。甘やかされているので洋服の好みなどはうるさい。ここを参照。一人称は「私」二人称は「あなた」
◆京極髙志
29歳。175cm。某大手企業総務課長補佐。切れ者で性格もよく、しかも超絶イケメンと呼ばれるのにふさわしい美形であるだけでなく、中央区に先祖代々伝わっているというとんでもなく広いお屋敷に住んでいる大金持ちのご令息。成り行きから、異形になってしまった営業部のお荷物社員山内拓也を自宅にかくまっている。一人称は「僕」二人称は「君」「貴女」など。
◆山内拓也
今のところ160cm前後。猫耳フェチのオタク男だったが、紆余曲折があって、狐の耳と白い尻尾を持った美少女に変身したまま戻れなくなっている。四角い枠の中にしかいられないが、四角い枠の中ならどこにでも行ける。普段は京極の家(主に露天風呂)に居候している。裸で人前に出るのを禁じられているので、自分好みのコスプレをとっかえひっかえする日々。一人称は「俺」二人称はたいてい「お前」または「おたく」
山内拓哉を登場させる方は、思いつく限り「しょーもないオタクコスプレ」を記述してください。スクール水着、アイドル衣装、アニメコスプレ、中途半端な和装、その他何でもありです。
【小説】豪華客船やりたい放題 - 1 -
すみません、まだウゾさんのところのキャラしか出てきていませんし、宿題の『旅の思い出』も出てきていません。次回以降にぼちぼち書きますので、今日は導入部のみで失礼します。
【2019オリキャラオフ会】豪華客船の旅の募集要項記事(大海彩洋さんのブログ)
私のところのチームの詳細設定など
目が合ったそのときには 3
豪華客船やりたい放題 - 1 -
ほう。さすがは、お坊ちゃま。
京極は、ウェルカムパーティに遅れないように身支度をした。タキシード、俺には執事コスプレにしか思えない服装をしてもちゃんと絵になる。鏡を覗いて、俺がちゃっかり来ているのを知り、露骨に嫌な顔をした。
「来るなといったのに、どうしてここにいるんだ、山内」
山内拓也、それが俺の名前だ。見かけは全然それっぽくない。かつては普通の男だったけれど、あれこれあって、今は狐の耳と尻尾を持つ美少女の姿をしている。四角い枠の中にしかいられないのはもどかしいが、反対に四角い枠の中であればどんなところにでも自由にいけるという、非常に便利な能力を持った異形なのだ。
京極髙志は、俺が勤めていた会社の総務課長代理だ。イケメンで、お育ちもいい上に、仕事も出来るので女たちが群がるけっこうなご身分。ずっとムカついていたけれど、俺が本来の身体を乗っ取られてこの姿になってしまって以来、自宅にかくまってくれて面倒を看てくれている。そう、こいつは性格もいいヤツなんだ、腹立たしいことに。
「世界から金持ちがワラワラ集まる豪華客船パーティ、美味いものも、綺麗どころもたっぷりと聞いたら、そりゃ行きたくなるさ。お前だけ楽しむなんてずるいぞ」
京極は、ますます嫌な顔をしてため息をついた。
「僕は、遊びに来たわけじゃない。乗っ取られた君の身体とパスポートで、イタリアに入ったという《ニセ山内》の情報をもらうために、この船のオーナーと話をする必要があるから来たんだ。君だって、早く身体を取り戻したいだろう」
そう言われて、俺は少し考えた。まあ、確かに身体を取り返したいって思いはあるけれど……。
「そんなに急がなくても、いいかな。ほら、先週『魔法少女♡ワルキューレ』の放映が始まったばかりだし、その他にリアルタイムで追いたいシリーズがいくつかあるんだよな。ゲームもまだシリーズ3に着手しだしたところだし、コスプレの方も……」
俺ののんびりライフのプランを聴いてイラッときたのか、京極はそれを遮った。
「そういえば、先週も着払いで何かを頼んだだろう」
「悪い。けど、しょうがないだろう。俺は休職中で収入ないしさ。お前のクレジットカードの家族カード作ってくれたら、着払いはやめるよ」
「冗談じゃない。カードなんか作ったら、とんでもないサイトで課金するに決まっている」
よくおわかりで。
「まあね。でも、服は仕方ないよ、必要経費だろ? お前にとっても」
これは京極にとっても痛いところをついたようだ。服の着用が、俺の持つもう一つの迷惑な能力を封印するからだ。
俺は、誰かと目を合わせると、そいつと身体を交換することが出来る。まあ、そういうわけで俺自身の身体を誰かに持って行かれてしまったわけだ。で、もう一度目を合わせると再び元に戻る。同じ相手とは一度しか交換できない。つまり、俺は俺自身と目を合わせて身体を取り戻さなくちゃいけないわけだけれど、そいつがどこにいるのかわからない限り、話は簡単じゃない。
で、事情をよく知っている京極ん家の露天風呂をメインの根城にさせてもらっているのだが、一応美少女の姿をしているので、独身の京極には目の毒らしく「服を着ろ」と言われた。で、着てみたらなんと誰と目を合わせても問題は起こらないということがわかったのだ。おかげで、京極は俺が服を脱いで人前に出ないようにますます心を砕く羽目になったというわけだ。
俺にとっても悪い話ではなかった。もともと俺は猫耳のギャルが大好きなのだ。で、鏡に映せば自分の姿にはいくらでも萌えられる。コスプレもし放題。アニメとゲームの合間にコスプレ、こんな天国がどこにあるだろうか。身体が戻ってしまったら、またドヤされながら営業に回らなくっちゃいけない。だったら今のうちに存分楽しまなくちゃ。
払わされる京極には悪いけど、俺の軍資金はとっくに底をついてしまったから……。ま、いいだろ、お坊ちゃまには働かなくても構わないくらい財産があるんだから、月に数着の服くらい。いや、数着じゃないな、小物も入れたらギリ二桁ってとこ?
今日、選んでみたのはさっき届いたばかりの『魔法少女♡ワルキューレ』のシリーズもの。まずは『ファイヤー戦士ブリュンヒルド」を着てみた。白い肌に赤いミニスカって、滅茶苦茶合うよね。髪型もちゃんと高めのポニーテールにして再現したけど、京極のヤツ、わかってんのかな。
京極はため息をつくと、袖口をカフスで留めた。
「しかたないな。観て歩くのは仕方ないが、あまりあちこちで迷惑をかけるなよ。大人しくそこでアニメでも観ていてくれ」
そう言って京極のヤツは出て行った。ふふん、この船のテレビはオンデマンドだから、かじりついていなくても再放送を観られるんだよ。もちろん『魔法少女♡ワルキューレ』の放映は外せないけどさ。
さ。せっかくたくさんの服を用意してきたし、あちこちで見せびらかしてこなくっちゃ。どこから行こうかな。
テレビやスマホ、ドア、窓や鏡だけじゃない。プール、ビリヤード台、調理場の流し、ワゴンの下、段ボール箱、ポスター。四角いところならこの船のどこにでもある。
試しに一つのドアへ行ってみたら、ちょうど二人の少女が挨拶をしているところだった。一人はクリーム色のボレロ付きワンピースを着たブルネットの少女で、もう一人は全身真っ白のビスクドールのように美しい少女。ブルネットの少女が一人であれこれ話しかけながら、もう一人の少女にガラスの煌めく髪飾りをプレゼントして去って行った。白い少女は、髪飾りを陽に透かし、それから少し離れたところで立っていた全身黒づくめの男にそれを見せた。
俺は、もう一人の少女が語っていたことをちゃんと聞き取っていた。「甲板長主催の船に纏わる伝説とお茶会」そんなものがあるなら、顔を出してみようかな。いや、茶菓子を食べるのは、枠の中にいたらダメだよな。さて、どうしよう。
【小説】豪華客船やりたい放題 - 2 -
ようやく本題に入った。こんな感じでストーリーが進みます。というわけで、うちのキャラを書こうとしているみなさま、中身が入れ替わっておりますので、ご注意ください。
【2019オリキャラオフ会】豪華客船の旅の募集要項記事(大海彩洋さんのブログ)
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目が合ったそのときには 3
豪華客船やりたい放題 - 2 -
俺がお茶会に紛れ込んで美味いものを食うにはどうしたらいいかを考えていると、ドアの前に来ていたブルネットの少女が「ところで」と唐突に話しかけた。げっ。いつの間に。
「あなたは一体だれ? その耳と尻尾は仮装なの?」
どっかで見たような顔の少女だった。俺は、アイドルや二次元の方が好みだったのでガイジンには詳しくないが、この顔にそっくりな女は何度も見たことがある。スーパーモデルってやつ? 名前までは知らないけれど。が、この子は大人びてはいるけれど、絶対に本人じゃないだろう、若すぎる。
俺がこの妖狐スタイルになって実にラッキーだと思うことの一つに、語学問題がある。学校に通っていたときから、勉強は苦手で英語なんて平均点以上採ったことがない俺だが、この狐耳から聞こえてくる言葉は、全部日本語と同様にわかるのだ。テレビの会話を理解していただけだから、俺が話す言葉もガイジンに通じるかどうかはわからないけれど。
「仮装じゃないさ。本当の耳と尻尾」
言ってみたら、少女は目を丸くした。
「触ってみてもいい?」
ってことは、俺の言葉も通じているって事だ。へえ、びっくり。
「触ってもいいけどさ、あんた、怖くないのか? 俺が妖怪だったらどうするんだよ」
少女は首を振った。
「全然怖くないわよ。だって、カーニバルで仮装の子供たちが着るみたいな、ペラペラの服着ているお化けなんているわけないもの。なぜセーラー服にミニスカートを合わせているの? 狐の世界での流行?」
俺はがっかりした。日本でも放映が始まったばかりの『魔法少女♡ワルキューレ』をガイジンが知っているとは思わないけれど、アニメコスプレについては、海外でももっと市民権を得ていると思ったのにな。でも、確かにこの子が着ている服、めちゃくちゃ高価そうだもんな、化繊の安物コスチュームに憧れるわけないか。
「狐の流行じゃなくて『魔法少女♡ワルキューレ』のコスチュームだよ。あんた、ジャパニーズ・アニメは観ないのか。どこの国から来たんだ? 俺は、日本人で山内拓也って言うんだけどさ」
俺が訊くと、少女はにっこりと笑って握手の手を差し出した。
「はじめまして。私、アンジェリカ・ダ・シウバ。アメリカ人よ。マッテオ伯父さんと一緒に来たの。タクヤは、日本の狐なの? 招待されて一人で来たの?」
「いや。京極髙志っていうヤツが招待状をもらったんだ。俺は面白そうだから来ただけ。俺、どこにでも行けるんだぜ。四角い枠からは出られないんだけどさ」
「ふーん。便利なんだか不便なんだかわからないわね。ところで、どうして男の人みたいな声なの?」
「俺、もともとは男だったんだもの。身体をだれかに取られちゃってさ。まあ、この身体のままでも、そんなに悪くないけどね。お茶会に行けないのが、目下の悩み」
アンジェリカは、少し思案をしていた。
「お茶会に行けなくて悩んでいるのって、みんなとお茶が飲みたいの?」
「いや、美味いものさえ食えれば、それでいいんだけどさ。でも、ビュッフェのところにいって好きなものを取りに行くとか、そういうことはできないんだ。京極の野郎は、社交で忙しくて、エビピラフとグラタンを取ってきてくれとか、言っても聞いていないと思うし」
アンジェリカは、頷いた。
「せっかくどこにでも行けるのに、簡単じゃないのね。私はエビピラフなんか食べられなくてもいいから、ちょっとだけでもどこにでも行ける能力が欲しいな。この船の地下に、いろいろと秘密があるんですって。でも、どこにも通路がないんだもの」
で、俺はひらめいた。
「まじか? だったら、しばらく身体を交換しないか?」
「交換? そんなことできるの?」
「ああ。俺がこの服を脱いで、あんたと目を合わせれば、入れ替わる」
「でも、それで元に戻れなくなったら困るもの」
「この身体になったら四角いところのどこへでも行けるんだぜ。つまり好きなときに俺の前に出てきて目を合わせれば戻れるんだ。もっとも俺、明後日の朝十時までにはどうしてもこの身体に戻って『魔法少女♡ワルキューレ』の第二回放送を観たいんだ。遅くともそれまでにしてくれよ」
アンジェリカは、少し考えていたが頷いた。
「わかったわ。そうしましょう。でも、私の格好をして、品位の下がるようなことしないでよ」
俺は、情けなくなった。京極にもいつも叱られっぱなしだけど、こんなガキにまで信用ないなんて。まあ、無理ないけど。
そういうわけで、俺とアンジェリカは、身体を交換した。アンジェリカに教えてもらった彼女の船室に戻り、お茶会に相応しい服を選ぶことにする。いま着ているクリーム色のワンピースを見るだけで、大金持ちの娘なのは丸わかり。俺、ロリコン趣味はないけど、これだけの美少女の身体でコスプレ、もといファッションショーごっこをするのは悪くない。明後日の十時までの四十時間、楽しく遊ばせてもらうぜ。ついでに好きな食い物たらふく食べるぞ!
【小説】豪華客船やりたい放題 - 3 -
大海彩洋さんと、ちゃとら猫マコト幹事で開催中の「【2019オリキャラオフ会】豪華客船の旅」の参加作品の第三回目です。
サラッと書いて終わらせるはずだったのに、なんか思いのほか文字数が……。はじめに謝っておきますが、真面目に豪華客船の謎に挑んだりはしません。能力も興味も皆無なキャラクターで出かけてきてしまったので。さらにいうと、妖狐の問題も全く解決する予定はありませんので、ストーリーに期待はなさらないでくださいね。
さて、今回の語り手は、京極髙志の方です。
【2019オリキャラオフ会】豪華客船の旅の募集要項記事(大海彩洋さんのブログ)
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目が合ったそのときには 3
豪華客船やりたい放題 - 3 -
僕は、ウェルカムパーティで何組かの知り合いと遇った。父が後援していた指揮者の令嬢で、かなり有名なヴィオリストである園城真耶。そして、彼女の又従兄弟で日本ではかなり有名なピアニストである結城拓人。この二人が乗船していたのは、嬉しい驚きだった。
「まあ、京極君じゃない! 久しぶりね。十年以上逢っていなかったんじゃないかしら」
彼女は、あいかわらず華やかだ。淡いオレンジのカクテルドレスがとてもよく似合っている。
「僕は、五年くらい前に舞台で演奏している君たちを見たけれどね。君たちもこの船に招待されたのか?」
シャンペングラスで乾杯をした。結城拓人はウィンクしながら答えた。
「いや、僕たちは君たち招待客を退屈させないために雇われたクチさ。変わらないな、京極。あいかわらず、あの会社に勤めているのかい? 先日、お父さんに遇ったけれど、そろそろ跡を継いで欲しいってぼやいていらしたぞ」
僕は肩をすくめた。ぼんくらの二代目になるのが嫌で、自分の力を試すために父の仕事とは全く関係のないところに就職した。父はさっさとやめて自分を手伝えとうるさいが、責任のある仕事を任されるのが楽しくなってきたところだ。それに、何人もの社内若手の身体を乗っ取ったあげくに、山内の身体とパスポートを使い海外に逃げ出した妖狐捜索の件がある。自分も巻き込まれた立場とはいえ、いま放り出して会社去るのは、無責任にも程があるだろう。
「父は誰にでもそんなことを言うが、そこまで真剣に思っているわけじゃないんだ。ところで、君たちはこの船のオーナーと知り合いかい? もしそうなら、紹介してもらいたいんだが」
《ニセ山内》の件を相談するにも、まずはオーナーと知り合わないと話にならない。
「いや、僕たちはヴォルテラ氏と面識はないんだ。でも、あそこにいる二人なら確実に知り合いだと思う。ほら、イタリア系アメリカ人のマッテオ・ダンジェロ氏とヤマトタケル氏だ」
拓人は、二人の外国人を指さした。
一人は海外のゴシップ誌でおなじみの顔だ。スーパーモデルである妹アレッサンドラと一緒にしょっちゅうパーティに顔を出すので有名になったアメリカの富豪で、たしか妹の芸名に合わせてダンジェロと名乗っているとか。
もう一人の金髪の男も見たことがある。雑誌だっただろうか。端整な顔立ちと優雅な立ち居振る舞いの青年だ。変わっているといえば、茶トラの子猫を肩に載せているとこだろうか。もちろんパーティで猫の籠を持ち歩くわけにはいかないし、この人混みでは足下にじゃれつかせていたらいつ誰かに踏まれるかわからないので、そうするしかなかったのかもしれない。
僕は首を傾げた。
「ということは、彼があの有名なヤマト氏なのか? でも、噂では、彼の父親は……」
園城真耶は謎めいた笑みで答えた。
「だから拓人が、確実に知り合いって言ったのよ。もっとも、紹介してくれるかはわからないけれどね。でも、マッテオは、この船のオーナーとも財界やイタリアの有力者とのパイプで繋がっているに違いないわよ。とにかく挨拶に行きましょうよ」
僕は、二人に連れられて、ひときわ目立つ二人のところへと向かった。驚いたことに、日本に永く住み音楽への造詣も深いと噂のヤマト氏だけでなく、ダンジェロ氏までが結城や園城をよく知っている様子で、親しく挨拶を交わしていた。特に園城に対しては最高に嬉しそうに笑顔を向ける。
「ああ、真耶、東洋の大輪の薔薇、あなたに再会するこの日を、僕がどれほど待ち焦がれていたか想像できますか? 今日もまた誇り高く麗しい、あなたにぴったりの装いだ。先日ようやく手に入れた薔薇アンバー・クイーンの香り高く芯の強い氣高さそのままです」
僕は、ダンジェロ氏が息もつかずに褒め称えるのを呆然と聞いていた。彼女は、この程度の褒め言葉なら毎週のように聞いているとでも言わんばかりに微笑んで受け流した。
「あいかわらずお上手ね。ところで、私たちの古くからの友達とそこで再会したの。ぜひ紹介させてくださいな。京極髙志さん、あなたもよくご存じ日本橋の京極高靖さんのご長男なの。ご近所だからタケルさんはご存じかもしれないわね」
「おお、あの京極氏の……。はじめまして、マッテオ・ダンジェロです。どうぞお見知りおきを」
「はじめまして。こちらこそ、どうぞよろしくお願いします」
ヤマト氏もどうやら父のことをよく知っているらしい、ニコニコして握手を交わしてくれた。
「お噂はよく伺っています。お近づきになれて嬉しいです。今、マッテオと話をしていたのですが、あちらのバーにとてもいい出來のルイ・ロデレールがあるそうなんです。それで乾杯しませんか」
それで、僕たちは広間の中央から、バーの方へと移動することにした。が、園城と結城は一緒に移動する氣配がない。
「失礼、私たち、これからリハーサルがあるのでここで失礼するわ」
「リハーサル? ああ、君たちが出演する、明日の演奏会のかい?」
ダンジェロ氏が訊くと結城は首を振った。
「いや、それとは別さ。実は、普段ヨーロッパにいる友達四人組も来ているんだ。それで急遽一緒に演奏することになってね。たぶん、夜にバーで軽く演奏すると思うから、時間があったら来てくれ」
「じゃあ、また、後で逢いましょう」
そう言って二人は、去って行った。それで、僕はダンジェロ氏とヤマト氏に連れられてバーの方へ行った。
移動中に、ヤマト氏の愛猫が何か珍しいものを目にしたらしく、彼の肩から飛び降りてバーと反対の方に駈けていってしまった。ヤマト氏はこう言いながら後を急いで追った。
「失礼、マコトを掴まえて、そちらに行きます!」
結局、僕はダンジェロ氏と二人で、笑いながらバーに向かった。
がっしりとした樫の木材で作られたバーは後ろが大きな四角い鏡張りになっていた。そして、そこに目をやって僕はギョッとした。映った僕たちの他に、白い見慣れた顔が見えたのだ。思わず叫んでしまった。
「山内!」
その声に驚き、ダンジェロ氏も鏡の中の妖狐に氣付いた。しまった……。
よく見ると山内の様子がいつもと違う。立ち方がエレガントだし、それにいつも好んで選ぶ変な服と違い、上等のワンピースを着ている。サーモンピンクの光沢のある絹の上を白いレースで覆った趣味のいいカクテルドレスだ。そして、僕の横を見て嬉しそうに口を開き、鈴の鳴るような可愛らしい声で英語を口にした。
「マッテオ! 私よ」
「おや、その声は僕の愛しい天使さんだね。どういう仕掛けになっているのかな? アンジェリカ」
ダンジェロ氏が、その声に反応した。
僕は、自分でも血の氣が引いていくのをはっきりと感じた。山内のヤツ、なんてことをしてくれたんだ!
「まさか、妖狐に身体を乗っ取られてしまったのかい、お嬢さん!」
妖狐の姿をしたダンジェロ氏の連れと思われる少女は、首を振った。
「いいえ。違うの。さっきタクヤとしばらくのあいだ身体を交換する契約を結んだだけ。マッテオが社交で忙しい間、この船内のなかなか行けないところを冒険するつもりなの。明後日の十時までに戻るから心配しないで。マッテオに心配かけないように、あらかじめちゃんと説明しておこうと思って。でも、会場の真ん中には行けなくて困っていたの。この広間で四角い枠はこの鏡の他にはあまりないでしょう。この側に来てくれて本当に助かったわ」
「ダンジェロさん、この方は……」
僕が恐縮して訊くと、ダンジェロ氏は、大して困惑した様子もなく答えた。
「ああ、紹介するよ。僕の姪、アンジェリカだよ。普段は十歳の少女なんだ。アンジェリカ、こちらは京極髙志氏だ」
ってことは、山内のヤツは十歳のアメリカ人少女のなりでこの船内を歩き回っているっていうわけか……。
「ああ、タクヤが言ってたタカシっていうのはあなたね。どうぞよろしく。マッテオ、詳しくはこの人に説明してもらってね」
妖狐の中の少女は朗らかに笑った。
ダンジェロ氏は、鷹揚に笑った。
「オーケー、僕の愛しい
「サンクス、マッテオ。もちろんそうするわ。タカシも、心配しないでね」
妖狐姿のアンジェリカはウィンクした。
「ところで、アンジェリカ。そのカクテルドレスだけれど」
ダンジェロ氏が、鏡の奥へと去って行こうとする彼女を呼び止めた。彼女は振り返って「叱られるかな」という顔をした。
「私の服だと小さくて入らないから家に戻って、ママのワードローブから借りてきたの。だって、変な安っぽい服着ているのいやだったんだもの。ダメだった?」
ダンジェロ氏は、「仕方ないな」と愛情のこもった表情をして答えた。
「エレガントでとても素敵だよ。アレッサンドラに内緒にしておくが、汚さないないように頼むよ。来月ヴァルテンアドラー候国八百年式典の庭園パーティーで着る予定のはずだ。とくにそのレース、熟練職人の手編みで1ヤードあたり六千ドルする一点ものだから、引っかけたりしないようにしてくれよ、小さなおしゃれ上手さん」
僕の常識を越えた世界だ。姪に甘いにも程がある。だが、よその家庭の話はどうでもいい、僕はアンジェリカ嬢の身体を借りて、何かを企んでいる山内を探して監視しなくては。まったく、どうしてことごとく邪魔ばかりするんだろう、あの男は。誰のために僕がこの船のオーナーと話をしたがっているのか、わかっているんだろうか。
【小説】豪華客船やりたい放題 - 4 -
アンジェリカと四十時間だけ身体を交換した山内拓也。四角の中でなくてもどこにでも行ける自由を満喫中です。今回は、よTOM−Fさんのところのあの方と遭遇した模様。
旅の思い出は、えーと、次回かなあ。すみません。
それと、申し訳ありませんが、これから私に余裕がなくなりますので、おそらくハロウィンまでには完結できません。(この後を全然書いていませんし)さすがにクリスマスということはないですけれど、発表が遅れることをご了承ください。
【2019オリキャラオフ会】豪華客船の旅の募集要項記事(大海彩洋さんのブログ)
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目が合ったそのときには 3
豪華客船やりたい放題 - 4 -
ピザ、カントリーポテト、ミニカツ丼、餃子、バッファローチキン、ハンバーグのホワイトソース煮、唐揚げ、エビチリソース。これこれ、こういうの。俺は、ビュッフェの端にある庶民的なコーナーの前でほくそ笑んだ。
妖狐に身体を乗っ取られて、京極の屋敷に世話になるようになってから、俺の食生活は激変した。ヤツの屋敷の露天風呂がメインの根城で、そこに京極家で長年家政婦として働いているサエさんというおばちゃんが飯を運んでくれる。で、美味いんだけど、上品なんだこれが。鯛のすり身団子入りのお吸い物とか、おぼろ豆腐とか、金目鯛の煮付けとかさ。ああいうのを食べているから京極はああいう醤油系お坊ちゃんに育ったんだろう。
タダ飯を食わせてもらっている以上、文句はいわないけれど、俺はジャンクフードで育ったクチ。たまにはコテコテのものが食いたいんだよ。
アメリカから来たという少女アンジェリカと四十時間だけ身体を交換した俺は、まず彼女の船室で服をとっかえひっかえして楽しんだ。美少女ライフ、楽しいな。
アンジェリカのワードローブには、高そうな服がズラリと並んでいたけれど、とりあえずスモーキーピンクのフリルいっぱいの服を選んで着た。これ絶対に何十万もする高級子供服だ。タグを見たらイタリア語だった。ブランドものだろうな。一人ファッションショーもそこそこにして、美味いもんを食うため船内を歩き回ることにした。
まずお茶会ってヤツに行ってみたら、綺麗に着飾ったガキどもが、すましてスコーンやらキュウリのサンドイッチを食っていた。しかも、アンジェリカの友達らしき美少女が、俺が彼女じゃないことを速攻で見抜きやがった。こいつはマズいと思ったので、俺はさっさと逃げ出し、こっちの大会場の方へと向かった。お嬢様の集まりそうなとこは、行っちゃダメだな。
恭しく招き入れてくれたウェイターからでっかい皿を受け取り、俺は食いたかった飯を片っ端から載せていく。やっぱりハンバーグがあったらスパゲティミートソースもつけたいよな。エビフライにはタルタルソースを載せて、おっと。欲張って載せすぎたか、ヤバいな、バベルの塔みたいになってきた。
バランスを取りながら後ずさっていたら、後ろにいた誰かとぶつかってしまった。
「きゃっ」
「わあっ」
スパゲティミートソースが、俺の着ているワンピースの前面にベッタリとついちまった。ありゃりゃ。お、もったいねーな。俺はまだ服に引っかかっているスパゲティをごっそり掴んでそのまま口に放り込んだ。
「大丈夫?」
優しい女性の声に振り向くと、青い着物姿の女が心配そうにのぞき込んでいる。お、超マブい女の子にぶつかったな、ラッキー。
俺は、できるだけ外国人の女の子の声に聞こえるように甲高く答えた。
「ノープロブレム! ちょっと汚れちゃったアルね」
ガイジンの美少女の口から、こんな台詞が出てきたのを聴いて、着物の娘はわずかに変な顔をしたが、すぐに微笑んで懐紙を取りだし、俺の服にこびりついているスパゲティやエビフライのパン粉を取り除いてくれた。
おお、カワイ子ちゃんはいい匂いがするなあ。おしとやかで親切、超美人だし、コスプレさせたら何でも似合いそう、いいじゃん、上手いこと連絡先を聞き出せないかな、俺の身体を取り戻したらカノジョになってもらったりしてさ。
「いた! こんなところに」
げ。この声は、京極? なんでもう見つかったんだ? 俺がアンジェリカの格好していること、どうしてわかったんだろう。
京極は、いつもになく厳しい顔をして仁王立ちになった。
「なんてことをしてくれたんだ! あれだけ迷惑をかけるなと言ったのに!」
ちょっと待ってくれよ、まだエビフライもハンバーグも食っていないのに、お楽しみはもう終わりかよ。
「ごめんなさい、叱らないで。汚すつもりじゃなかったの、わーん」
渾身の泣き真似でこの場を乗り切る作戦遂行中。
「泣いた振りしてもダメだ。ちょっと来い」
断固として言う京極と俺の間に、すっと着物のカノジョが割って入った。
「失礼ですけれど、少し厳しすぎませんか。汚してしまったのは、このお嬢さんが悪いわけではなくて、私とぶつかってしまったからなんです。理由も訊かずに頭ごなしに叱るのはかわいそうですわ」
うはっ。この別嬪さんは、イケメン京極じゃなくて、この俺の味方だ! 生まれて初めての勝利じゃん? ひゃっひゃっひゃ。
「いや、服を汚したことではなく、こいつが、その……」
京極は、着物姿の美女に凜と意見されて、しどろもどろになった。そうだよなあ、まさか少女を妖狐姿に変えて、代わりにうまいもん食い散らかしているのを叱ったなんて、言えっこないよなあ。
「……その、お手を煩わせてしまい、申し訳ありませんでした。ほら、山内、お礼を言って。行くぞ」
京極は、アンジェリカ姿の俺に強引に頭を下げさせると、まだ不審げに眉を寄せている別嬪さんの目を避けるように俺を強引に会場から連れ出した。
「どこ行くんだよ」
俺は、小さな声で京極に囁いた。
「とにかく、その服をなんとかしないと。ブティックに服を買いに行く」
「なんで?」
「君が身体を乗っ取っているのは、あのマッテオ・ダンジェロ氏の姪だぞ。そんなみっともない姿のままにしておけるか」
ブティックで鏡を見て、我ながらこれはないなと思った。スプラッタ映画じゃあるまいし。服にベッタリとミートソース、しかも口の周りも真っ赤だ。
京極がなんでもいいから服を選べと言ったので、俺はとにかく手と顔を綺麗にしてから、服を選んだ。アンジェリカの服みたいにメチヤクチャ高そうではないけれど、俺が普段買っていた服と比べたら十倍くらいはする服ばかり。京極がカードで払ってくれた、悪いね。
ちょうちん袖の青いワンピースにしてみた。浦安のネズミ~ランドでたまに見る「不思議の国のアリス」コスに見えるように、白いエプロンとタイツ、それに黒い靴を合わせてみた、ひっひっひ。飯食うにはちょうどいいだろう?
俺がそれに着替えると、京極はアンジェリカのワンピースをすぐにクリーニング店に持って行った。
「代金は今このカードで支払います。仕上がったら、マッテオ・ダンジェロ氏の船室に届けていただけますか」
京極はテキパキと俺の尻拭いを進める。すまん。悪氣はなかったんだ。
「それよりさ、さっきの着物ムスメ、超マブかったよな。お前が邪魔しなかったら、連絡先を訊けたのにな。俺が元の身体に戻ったらきっと滅茶苦茶喜んで、つきあってくださいって言われちゃったりして……」
京極は、厳しい目を向けた。
「お家元が君にそんなことを言うはずないだろう」
「お家元?」
「あの方は、花心流という華道の三代目家元だ。少しは敬意を持って話せ。だいたい先ほどは、君のせいで僕が不興を買ってしまった、参ったよ」
あれ、悪いことしちまったかな。こいつ、モテモテだからフラれ慣れていないんだろうな。
「ともかく、今度はエプロン付きだから安心だよな。ちょっくら、二回戦に行ってくる」
そう言って飛び出そうとした俺を、京極はエプロンの紐を引っ張って引き留めた。
「ダメだ。君一人だと、何をやるかわかったもんじゃない。いま一緒に行くから少し待て」
「え。でも、お前、忙しいんじゃないの?」
京極は、珍しく鬼の形相になって答えた。
「ダンジェロ氏にこの船のオーナーを紹介してもらうつもりなのに、君が大切な姪御さんの評判を下げるのを放置できると思うのか!」
えーと、オーナーに紹介してもらうって、なんでだっけ?
「別に無理してオーナーと知り合わなくてもいいんじゃないの?」
つい、そう言ってしまってから、ヤバいと思った。すっかり忘れていたけれど、俺の身体を取り戻す件だった。このままじゃ温厚な京極を逆上させそうだ。トンズラしたいのをぐっと堪えて、仕方なくお目付役つきでグルメツアーを続行することにした。
【小説】豪華客船やりたい放題 - 5 -
お目付役の京極に見つかってしまったので、仕方なく一緒に船内を回ることにした山内拓也。現在は『不思議の国のアリス』コスチュームをしたアンジェリカの外見です。ただし、中身と声は拓也そのものです。
今回は、中途半端な『旅の思い出』と参加者のみなさまとのコラボ系を少し書いてみました。それとレストラン名などは、数学パラドックス系で遊んでみただけです。次回、最終回にできるかなあ、頑張ります。
【2019オリキャラオフ会】豪華客船の旅の募集要項記事(大海彩洋さんのブログ)
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目が合ったそのときには 3
豪華客船やりたい放題 - 5 -
「すげーな、豪華客船って。プールもある、カジノもある、レストランやバーもいっぱいある、船室だっていくつあるんだか」
アメリカ人少女、アンジェリカの外見に成り代わった俺は、執事コス、もといタキシードをビシッと着こなした京極に付き添われて船内を歩いた。
「客船に乗るのは初めてか?」
京極が訊いた。
「もちろん。お前は、初めてじゃないのかよ」
「子供の頃に、何回か乗ったことがある。もっとも世界一周するような客船ではなくて、三日くらいの国内クルーズだったけれど」
「へえ? 海外のクルーズだっていくらでも行けるだろうに、なんで?」
「父は仕事人間でね。三日以上の休みを取ったことがないんだ。家族旅行そのものも滅多に行かなかったけれど、行くとしても最長三日。それも、お盆や年末などの会社の閉まる時期だけだから。どこへ行っても混むのがわかりきっている。だから、定員以上にはならないし、渋滞もないクルーズ旅行をしたんじゃないかな」
そうなんだ。
「で、この船と較べてどうだった?」
「僕は子供だったからね。何もかもが大きくて、夢のように見えた。もっとも、実際には、この船の方がずっと大きいし、豪華だし、スケールも桁違いなんだけれどね。オーナーはもちろん、招待客にしろ、用意されている食事やアトラクション、エンターテーメントにしろ」
そうなんだっけ? エビフライやスパゲッテイは、けっこう馴染みっぽい味だったけどな。
「どこがそんなにすごいんだ?」
俺が首を傾げると、京極は壁に掛かっているポスターを示した。
「例えば、ほら。メインダイニングでは、今夜は相川慎一とテオドール・ニーチェがベートーヴェンのソナタを聴かせてくれる。明日は、新星ディーヴァとの呼び名も高いミク・エストレーラによるディナーコンサートだ」
「俺、そういう高尚なのは、よくわかんないからな。こっちのほうが面白そうじゃね? 高級クラブ『サンクトペテルブルク』でワンドリンク付きショウってだってさ。おい、見ろよ、このシスカって歌手の姉ちゃん、銀髪にオッドアイだぜ。戦闘服系のコスプレさせたら、メチャクチャ似合いそう」
京極がため息をついた。なんだよ、思うのは自由だろ。
「お。こっちも、いいじゃん」
俺の指したポスターを見て、京極は「ほう」という顔をした。
「君もスクランプシャスのファンなのか」
俺はムッとした。俺だってアニソンの専門じゃないんだよ。スクランプシャスは若者の思いを代弁してくれる名バンド。ま、俺も若者っていっていいのか、若干怪しい年齢にさしかかっているけどさ。
しかし、まさか生スクランプシャスがここに来るとは。ライブはいつなんだろう。お願いだから『魔法少女♡ワルキューレ』放映時間とだけは重ならないでくれよ。
そんな話題を花咲かせながら、俺たちは豪華客船の中を歩いて行った。
目立つメインダイニングに行くことを京極が渋るので、俺たちはカジノを横切り、わりと目立たないカフェテリア『アキレスと亀』を目指した。
カジノでは、アラブの王族みたいな服を着た男と、小柄の中年のおっさん、それに胡散臭いオヤジが、目も醒めるようなタイコーズブルーのドレスを着た女と勝負をしていた。はじめはけっこう余裕をかましていた男たちだが、みるみるうちにチップが女の方に移動していく。へえ。すげえ。
「なあ、京極、俺も少し賭けていい? あの赤い髪のねーちゃんみたく賭ければ、少し儲かるかも。そしたらコスプレも、自分の金で買えるようになるし」
そういうと、京極は首を振った。
「君は今、十歳のアンジェリカ嬢なんだ。カジノで賭け事するなんて言語道断だ。行くぞ」
ちぇっ。本当にお堅いんだから。少しぐらいいいじゃん。
カジノを横切って再び廊下に出ると、小脇に二頭のハスキー犬ぬいぐるみを抱えたとても幼い少女とぶつかりそうになった。おっと。
少女はぽかんとしているだけだが、抱えたぬいぐるみ達が眉間を釣り上げて吠えかけたような氣がした。
「なんだよ、怖えな。わざとじゃないって」
少女を氣遣っていた京極が振り向いて「なんだって?」と訊いた。
「いや、そのぬいぐるみが、怒ってしかもちょっと火を噴いたような……」
俺が言うと、京極は今日何度目になるかわからないため息を漏らした。
「ハスキー犬が怒っているように見えるのは普通だろう。模様だよ」
ま、そうだよな。よく見てもやはりぬいぐるみだし。京極の女に対する神通力は、幼児から老婆まで変わらないらしく、小さな女の子は俺なんか見もせずにヤツににっこりと笑いかけて手を振った。
まあいいや、とにかくメシ食おう。カフェテリア『アキレスと亀』は、その廊下の突き当たりにあった。黒をメインにしたインテリアに、ギリシャ風の壺などがあちこち置いてある。
俺は、メニューを開いて「うーん」と唸った。なんだよ、ここ、ギリシャ料理の店じゃん。俺は、普通の洋食が……。あれ、このムサカってのは美味そうだな。茄子のグラタンみたいなもんじゃん? それにほうれん草のパイか。それももらおう。それにえっと、飲み物は、おおっ。ウゾか、結構強そうだな。
「それはダメだ。君は十歳なんだから」
京極がすぐにダメだしする。ちっ。ま、いいか、このヨーグルトドリンクみたいなヤツで。
選んでいると、奥の方のステージに灯がついた。ミュージシャン登場かな? でも、この店、まだ開店休業状態じゃん。俺たちの他にいる客といったら……、あ、白っぽいキャミソールドレスを着た女が一人か。お、すげー美人だ。それにあのスタイル。ポン、キュッ、ポンてな具合だよな。今のドレスもいいけど、コミケで着せるとしたらやっぱりピッタリとした戦闘スーツかなあ。別に戦闘系にだけ萌えるわけじゃなんいだけどさ。
ともかく、客より従業員の方が多そうな状態だけれど、何かショーが始まるらしい。
見ると、奥にわずかに他の床よりも高い場所があり、大広間にあったのとは比べものにならない古ぼけた感じのするピアノが置いてある。そこに着崩した麻のジャケットを着た金髪の男が座った。フルートを持った女や、ギターを抱えた男もステージに上がってきた。この二人はアジア人だ。それから、ひょろひょろとしたもじゃもじゃ頭の眼鏡男がピアノの前に立った。
最初に弾きだしたのは、ギターを持った日本人。流れてきたメロディは、ギリシャ風の曲だ。あ、これ聴いたことがあるような。ギリシャ観光局って感じ? 別にどうということのない曲なので、メシを食うのに邪魔になることはなさそう。もじゃもじゃ頭の眼鏡男はなぜかトランプ手品を繰り広げている。
俺は目の前に置かれたムサカに取りかかることにした。あっちっち。茄子と挽肉のグラタンみたいなもん? 美味っ。
「上品に食べてくれよ」
京極がささやく。うるせえな。お前は食わないのかよ。
ヤツは、舞台の方に集中している。金髪男がピアノで先ほどより上品そうな曲を弾き出して、手品男もトランプをしまって歌い出した。意外にも上手いのでびっくり。
「モーリス・ラヴェルの『五つのギリシャ民謡』だな」
京極が頷く。
「なんだよ、お前、知ってんのか」
「ああ。ギリシャの民謡に素晴らしい和声のアレンジを加えて作った作品だ。この店に合わせてこの曲目を用意するなんて、洒落たアイデアだと思わないか?」
俺は「うん」とは答えてみたものの、いまいちピンときていない。飯が美味ければ、何でもいいんだけど。京極はレチーナワインを飲んでいるだけで、全然食わないので俺がどんどん片付ける。舞台の曲は、アジア女のフルートや、ギター男が演奏に加わり、なかなか華やかな演奏になってきた。
その『五つのなんとやら』が終わったらしく、客席から拍手が起こった。京極、白いドレスの綺麗な姉ちゃんや、いつの間に入ってきたのか他の観客も拍手を送っている。
舞台のギター男がさっと立ち上がり手を伸ばした。その先にいたペパーミントグリーンのドレスを着たショートカットの女が、舞台に上がった。あ、この顔は知っている。さっき京極がポスター見ながら褒めてた歌手じゃん。初音ミクみたいな名前の、ええと、なんだっけ。
一層大きな拍手に迎えられ、彼女は優雅にお辞儀をした。もじゃもじゃ男は舞台から降りて、アジアの二人と金髪男が伴奏をはじめた。
おお、この曲はよく知っているぞ。なんて曲か知らないけれど。
「映画『日曜日はダメよ』のテーマ曲『Ta Pedia Tou Pirea』だな」
京極が解説してくれる。
「何それ?」
「ギリシャを舞台にした名作映画だよ。曲名は『ピレアの男たち』って意味じゃないかな。アカデミー音楽賞も取ったはずだ」
澄んだ歌声は心地よい。さすがメインダイニングで歌う予定のディーヴァ。見るとキャミソールドレスの別嬪姉ちゃんも、さっきのもじゃもじゃ眼鏡男の時とは全く違う熱心さで舞台に見入っていた。
俺は、とりあえずほうれん草のパイを片付けるのにメチャクチャ忙しい。京極、悪いけど全部片付けちゃうぞ。美味いし。
「ところで、君はいつまでアンジェリカ嬢の身体を乗っ取っているつもりなんだ」
京極は声を潜めて訊いた。
「ほんのちょっとだよ。うまいもん食って満足すればそれでいいんだ。最長で明日の『魔法少女♡ワルキューレ』放映時間までには戻してくれって頼んである。あの子が、船のあちこちを見るのに飽きちゃったら、すぐにでも終わりだろ。ほら、そこにも四角い額縁があるしさ」
俺は、ガツガツとフェタチーズとオリーブ入りのサラダをかき込んだ。
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【小説】豪華客船やりたい放題 - 6 -
某参加者の方が、パニック状況を作り出したようですが、こちらは魔法はもちろん、世界平和に寄与したり市民の安全をどうにかできたりするようなスペックのない小市民の集団ですので、安全第一で問題の起こる前にさっさと下船することにしました。尻切れトンボだとの批判は一切受け付けませんのであしからず。「君子危うきに近寄らず」
いや、もともと何もしないで降りる予定だったんですよ。で、TOM−Fさんが作ってくださった状況をちゃっかり利用することにしました。そう、ワープしちゃったんですよ、かなり初っぱなから。
【2019オリキャラオフ会】豪華客船の旅の募集要項記事(大海彩洋さんのブログ)
私のところのチームの詳細設定/この話をはじめから読む
目が合ったそのときには 3
豪華客船やりたい放題 - 6 -
甲板に出てみたら、本当にそこはドイツ風の街並みが見える湖だった。僕は、スマートフォンの電源を入れてしばらく待った。程なくしてメッセージが届く。「ようこそドイツへ。電話をかける場合の通信料は……」ここは、間違いなくドイツらしい。地図アプリで位置情報を確認し、目眩がした。
困惑して船内に戻った。甲板近くにいて電話をしているのは、マッテオ・ダンジェロ氏だ。姪のアンジェリカ嬢もすぐ側にいる。ガラス窓を挟んで向こう側には、黒ずくめの衣装を纏った男性と全身白い衣装を身につけた綺麗な少女が向かい合ってお茶を飲んでいる。アンジェリカ嬢は、その少女のことを知っているらしく、嬉しそうに窓に駆け寄り手を振った。白い少女は、ビスクドールのように白い顔を向けて首を傾けた。白い頬がうっすらと鴇色に染まったように思った。
「わかっているよ。セレスティン、世界一有能な秘書さん。君が次から次へとかかってくる電話を上手に捌いてくれるお陰で僕がこうして数日羽を伸ばせるって事もね。でも、いつの間にかボーデン湖に来てしまっているのは、僕の予想を超えているんだよ。まあ、ある意味で好都合かもしれないな。もともとこの旅の後にアンジェリカをアレッサンドラの所に届けるつもりだったんだし、かなり早く着いてしまったって事でね。ああ、緊急事態なのはわかるとも。幸い妹は、ここからさほど遠くないところに居るから、こちらも明日にはオフィスに戻れるとも。僕に会えないのがそんなに寂しいとは嬉しいね。おや、そういう意味じゃないなんてつれないね、青空の瞳を持つお嬢さん。じゃあ、航空券の手配を頼むよ、できれば午後の便をね」
ダンジェロ氏は、電話を切ると僕に笑いかけた。
「やあ、タカシ、どうでした? 本当にここはボーデン湖だったでしょう?」
僕は、困惑して答えた。
「ええ。どういうことになっているのか理解できませんが、間違いなくここはドイツのようです。飛行機だってこんなに速く移動できないはずなのに、一体どうしたんでしょう」
「なに、枠の中をどこにでも移動できる狐のお嬢さんと暮らしているあなたが、この程度のことに驚くことはないでしょう。ところで、かの狐さんはどうしたんですか?」
アンジェリカ嬢との身体の交換は、本当に一日以内で、朝確認したときには、山内はもう妖狐姿に戻っていた。そして、意氣揚々としてテレビのチャンネルをつけてから、パニックに陥ったのだ。それが予想外の場所にいることに氣が付いた最初のきっかけだった。
「それが、どうしても観たい番組の電波が入らないことがわかり、日本の我が家に戻ってしまいました。その節は、姪御さんにもいろいろとご迷惑をおかけしました。大丈夫でしょうか」
僕の質問にダンジェロ氏は笑って、窓から少女に手を振り続けているアンジェリカ嬢を呼んだ。
「僕の愛しいカッサータちゃん。タカシが君の心配をしているよ」
アンジェリカ嬢は、振り向き笑顔でこちらに歩いてきた。
「こんにちは、タカシ。心配してくれてありがとう。それに、服をクリーニングしてくれてありがとう。大きな問題はないわ。少しスカートがきつくなっちゃったけれど」
僕は、彼女に謝った。
「そんなに食べるなって、散々言ったんだけれど。もっと強く止めるべきだったな。申し訳ない」
彼女は、朗らかに笑った。
「明日からママと一緒にトレーニングするから大丈夫。それに、いろいろと面白いものを観ることができて楽しかったの。ステゴザウルス、一番好きな恐竜なんだけれど、生きているのを観ることができてとても嬉しかったのよ。ところで、タクヤはどこに行ったの?」
「彼は、どうしても観たいアニメがあるから、先に日本に帰ったんだ。僕も、仕事があるので次の寄港地で降りなくてはならなくなったんだ。まさか、一晩でドイツに来るとは思わなかったのでね」
「そう。じゃあ、私たちと一緒ね。短かったけれど楽しかったわ。あのね」
そういうとアンジェリカ嬢は、肩から提げたビーズのハンドバッグをパチンと開けて、中から可愛らしい包みを大切に取り出した。
「あそこに座っている女の子がいるでしょう? これ、あの子から、タクヤへのプレゼントなの。美味しいワッフルなんですって。タクヤはワッフルが好きなの?」
可愛らしいリボンのついた綺麗な包みは、がさつな山内にはもったいないような氣もするが、二人の少女の優しい思いが籠もったプレゼントだ。壊さないようにそっと受け取った。
「好きだろうな、きっと。ありがとう。必ず山内に渡すよ」
僕は、ガラス窓の向こうの少女にも、その包みを見せて会釈をした。少女の瞳が優しく輝いたように思った。
「ところで、船のオーナーとは会えたのかい?」
ダンジェロ氏は、僕の話を憶えていてくれたようだ。
「いえ。残念ながら。それに、たとえ知り合えたとしても、こんな突拍子もない話を信じてもらって助力をお願いするには、十分な時間が必要です。慌てて話をしてそのまま立ち去るような無礼はできないでしょう」
僕が肩を落として語ると、ダンジェロ氏は肩を叩いた。
「そうだね。彼は、とても忙しいし、多くの陳情者に悩まされている。今日知り合って、明日何かを解決してもらうと期待するのは難しいだろう。だが、僕は今回君とかなり親しくなった。この船のオーナーほどの情報ネットワークと権能はないけれども、イタリアにも少しはコネがある。ヤマウチタクヤという名の日本人の足取りについて、調べてみよう」
僕は、深く頭を下げた。大切な姪にあれほど迷惑をかけたというのに、山内のために親身になって助力を申し出てくれるなんて、なんと心の広い人なんだろう。
寄港地のコンスタンツが近づいてきた。ダンジェロ氏とアンジェリカ嬢、そして僕もスーツケースを持って待っている。
ここを降りたら、すぐにチューリヒに向かい、それから日本に向けて発つ。《ニセ山内》のいるイタリアにこれほど近いのに、尻尾を巻いて退散するのは悔しいが、会社員の僕が勝手に有休を延ばして長く休むなんて事は許されない。
子供の頃には、長い休みを取ってくれない父のことをどうしてだろうと思っていたものだが、今の僕も似たようなものだ。豪華客船で何ヶ月ものんびりと楽しむような旅をいつかしてみたいものだが、ダンジェロ氏のような大富豪ですら早々に切り上げなくてはならないというなら、僕のようなしがない会社員にそんな贅沢が可能な日は来ないのだろう。
スマートフォンが震えた。観ると我が家からだ。
「もしもし?」
受信すると、四角い枠の中に見慣れた狐耳の美少女が浮かび上がった。
「よう。もう降りたのか?」
楽しみにしていたアニメ『魔法少女♡ワルキューレ』、今日は、黄金戦士フレイヤの活躍回とか言っていたが、 それに合わせてなのかスカートとセーラーカラーは黄色いものになっている。色が違うだけの服を何着買ったんだ、この男は。
「ああ、君が場所が違うと言いだしたときには信じられなかったけれど、本当に一晩でヨーロッパ、それもドイツのボーデン湖に来ていたんだ。次にどこに行くかわからないし、三日後には社の会議に出なくちゃ行けないから、急いで降りたよ」
説明をしたが、彼には休職中の会社のことなど、どうでもいい様子だった。
「そうか。じゃあ、また船に戻っても仕方ないな、お前の家で待っているから、寄り道しないで帰って来いよ。お家に着くまでが遠足です、なんちゃって」
いいたいことだけ言うと、彼はさっさと消えた。お土産を預かっていると伝え損ねた。
あの瞬間移動能力は少し羨ましい。それに、やりたい放題のできる彼の性格も。いや、何を言っているんだ。僕は、頭を振った。港を振り返るとあの素晴らしい船が優雅な巨体を横たえていた。さようなら、また、いつか。日常に戻るべく、僕はコンスタンツの街を歩いて行った。
(初出:2019年11月 書き下ろし)
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