『SEASONS-plus-』2012 夏号

2008年夏に創刊された、詩・短編小説・イラスト・フォトで綴る季刊誌『SEASONS-plus-』。
詩、短編小説、ショートエッセイ、俳句、短歌、歌詞、イラスト、写真で綴る参加無料の商業誌です。
私も前回から参加させていただき、短編小説と写真、それに今回からはショートエッセイも投稿しています。
今回もたくさんの作家の方が参加しています。
興味のある方、ご購入は、こちらからどうぞ。
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大道芸人たちの見た風景 - 6 -

ひと言で「ヨーロッパ」というけれど、そして中国やアメリカやカナダやロシアに較べると、大したことのない空間にある国の集まりのように思えるけれど、国境はただの政治上の線ではありませんね。いやはや、誰がヨーロッパを連合にしようと思ったのかわかりませんが、とんでもない無茶ぶりだと思います。
たった一本の国境を越えるだけで、全く違う国に行ける、この感覚は島国日本から来た私にははじめとても不思議でした。それは言葉や政治形態が違うだけでなく、地理も国民性も食事もお酒も違う別世界です。
イギリス人やドイツ人が、例えばマヨルカ島に移住しても、彼らはマヨルカの人になれるわけではありません。そう、私が10年以上スイスに住んでいても、相変わらず日本人なのと同じなのです。
北の国から、南への国への想いは、常に一方通行ですね。定年退職後にドイツ人はマヨルカに行きたがり、イギリス人はマルタ島に行きたがるけれど、逆はありません。出稼ぎには行きますが。
現在、ユーロのお荷物になっているPIGS(ポルトガル・イタリア・ギリシャ・スペイン)は、常に北ヨーロッパの人々の熱い想いをかき立てる国々です。美しい自然。おいしい食事。芳醇なる酒。陽氣な人々。毎年、何千万というヨーロッパの人々がこれらの国に二週間三週間と滞在しては、ユーロを落としていっているわけです。ま、それでも焼け石に水なんですが。そして経済がどうであれ、相変わらず自然は麗しく、お酒も香しい。
四人は、こういう大地を飛行機の窓から眺めながら、一路日本へと向かいます。一ヶ月ほどの日本滞在の後、また、この大地に戻ってくるぞと、それぞれが心の中で思っているはずです。
この記事を読んで「大道芸人たち」を読みたくなった方は、こちらからどうぞ
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「近々購入しようと目論んでいるもの」
田舎ゆえ、交通の便が極端に不便で、車がないと買い物にも困るし、州都のクールに週末に友だちに会いにいくことも簡単には出来ません。(終電が9時なんですもの)
日本よりも普及していないオートマ車、出来れば日本車、どんなに古くても二十一世紀のものという条件で探し出したのですが、どうやら、ずっと憧れていたTOYOTA Yarisでたったの四万キロしか走っていないという車が見つかったらしく、その車が入ってくるのを待っている状態です。どうかなあ、買えるかなあ。欲しいなあ。
こんにちは!FC2ブログトラックバックテーマ担当藤本です。今日のテーマは「近々購入しようと目論んでいるもの」ですはい。みなさん!もうそろそろ夏ですね。突然ですが、欲しいものってつきないですよね物欲が半端じゃないのでなかなかお金もたまりません。。。それでもまだまだ買い物意欲がわきますそんな中・・ゼッタイあれは買うぞ!と心に決めているものってありますか?きっと人やタイミングでばらばらでしょうがぴったり...
トラックバックテーマ 第1454回「近々購入しようと目論んでいるもの」
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過去~現在のキャラたちにステータスつけました
今回取り上げさせていただくのは、花舞小枝の春さんのブログで紹介されていた、オリジナルキャラにステータスつける、お遊び。TOM-Fさんを含め春さんのブロともの皆さんが次々となさっていて、とても楽しそうだったんですよね。で、うちの子もやってみたくなっちゃいました。うずうず。
以前、ツイッターの診断で
RPG風にステータスつける~みたいのがありまして。
ふと思い出して、
歴代のウチの子たちにそれっぽいのつけてみました・v・
黒歴史もつけてみたけど、
コ レ が 一 番 楽 し か っ た ・v・♪
過去~現在のキャラたちにステータスつけてみったー 旅の空でいつか
どの作品のキャラでやろうか考えたけれど、まあ、無難に「大道芸人たち」の主役四人と、「夢から醒めるための子守唄」の四人にしてみました。
そういうわけで、はじめます。(ステータスは10点満点)
「大道芸人たち」
●蝶子
攻撃力 ; 9
打たれ強さ ; 9
運 ; 5
大胆さ ; 8
優しさ ; 3
器用さ ; 6
※黒歴史 ;
共同シャワーを使い始めてから、バスタオルを忘れたことに氣づき、通りかかった稔に持ってきてもらった。
※黒歴史を暴かれた時の反応 ;
稔にからかわれたのに腹を立て、シャワーの中から本人に借りた洗面器を投げつけた。
●稔
攻撃力 ; 5
打たれ強さ ; 9
運 ; 4
大胆さ ; 5
優しさ ; 7
器用さ ; 7
※黒歴史 ;
(イタリア時代)割り勘の釣り銭で得をしようと、まとめ役を引き受けたはいいものの、計算違いで自分が一番多く払うことになった。
※黒歴史を暴かれた時の反応 ;
せこくも三人に追加請求した。
●レネ
攻撃力 ; 1
打たれ強さ ; 2
運 ; 2
大胆さ ; 1
優しさ ; 9
器用さ ; 3
※黒歴史 ;
両思い継続半年以上の成績が67敗0勝。記録更新中。
※黒歴史を暴かれた時の反応 ;
「そういう家系なんです」が口癖。
●ヴィル
攻撃力 ; 9
打たれ強さ ; 9
運 ; 8
大胆さ ; 3
優しさ ; 7
器用さ ; 1
※黒歴史 ;
朝食付きホテルでお昼ご飯用にサンドイッチを作成した。
※黒歴史を暴かれた時の反応 ;
ナチス特別親衛隊風の冷たい一瞥で対抗
「夢から醒めるための子守唄(ララバイ)」
●レーナ
攻撃力 ; 6
打たれ強さ ; 8
運 ; 5
大胆さ ;4
優しさ ; 6
器用さ ; 3
※黒歴史 ;
ネットの出会いサイトやらショッピングでスイスで稼いだお金の六割くらいを失った。
※黒歴史を暴かれた時の反応 ;
「幸せを求めているだけよ」と力説するが、皆に呆れられて相手にされない。
●ホルヘ
攻撃力 ; 7
打たれ強さ ; 9
運 ; 3
大胆さ ; 3
優しさ ; 7
器用さ ; 1
※黒歴史 ;
彫りがいのある素晴らしい古木をみつけて夢中になって椅子を作ったが、実はオーナーの高価な芸術作品だった。
※黒歴史を暴かれた時の反応 ;
黙って三ヶ月ほど水とパンで暮らした。
●トミー
攻撃力 ; 8
打たれ強さ ; 9
運 ; 7
大胆さ ; 7
優しさ ; 6
器用さ ; 4
※黒歴史 ;
中学生の頃、自分がホモセクシャルであることを知らずに女とつき合ってしまった
※黒歴史を暴かれた時の反応 ;
逆上。一週間、暴露した人間を冷遇。
●ステッフィ
攻撃力 ; 1
打たれ強さ ; ?(不明)
運 ; 6
大胆さ ; 1
優しさ ; 8
器用さ ; 1
※黒歴史 ;
プリンスは整形したマイケル・ジャクソンだと信じていた。
※黒歴史を暴かれた時の反応 ;
本物の写真を見せてもらい、びっくりして人前ではじめてサングラスを外した。
意外とスラスラ出てくるもんだなあ。確かに、楽しい。
まだの皆様、ぜひやってみて下さいませ。
※追記あります! (日本時間29日丑三つ時に追加)
この記事には追記があります。下のRead moreボタンで開閉します。
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【小説】蝉時雨の奇想曲(カプリス)
蝉時雨の奇想曲(カプリス)
虫取り網を持った子供たちとすれ違った。夏休みの開放感にはしゃぎながら、キャッキャと騒いでいる。ねっとりと肌にまとわりつく重い空氣など全く感じないかのように朗らかに。
都会とは思えないほどの自然に囲まれたこの寺の境内で、たくさんの蝉が一斉に叫んでいる。本堂の手前では忙しく社葬の準備をする業者たちの声が聞こえた。志乃は礼装用ハンドバッグからハンカチを取り出して汗を拭いた。
「池田くん、こっちだ」
香川部長がテントの中から呼んでいる。志乃は黙って一礼するとテントに入っていった。
「遅かったじゃないか。どうしたんだ?」
「すみません。人事部長に呼ばれていました」
志乃がそういった途端、香川部長の顔は、氣まずそうに歪んだ。知っているんだ、この人も。志乃はつま先を見つめて唇を噛んだ。
「とにかく、今日はここで君に仕切ってもらうから。お香典の管理の責任者として頼むよ。記帳が始まったら絶対にこの場を離れないように」
志乃は顔を上げた。
「では、いまのうちにご焼香させていただきます」
香川部長の顔はさっと曇った。
「いや、それは遠慮してほしいんだ。その、奥様がな……」
再び志乃はつま先を見つめて、短く頷いた。
「えっ。ちょっと、あのテントにいるの、池田課長じゃない?」
「そうよ。香川部長が呼んでいたもの」
「ええ~っ? でも、何で課長ここに来れるの? 噂じゃ日高専務、腹上……」
「しっ!」
「ああ、ごめん。不謹慎だったわね。でも、そうなんでしょ。池田課長と……」
「違うのよ。亡くなった時の相手は受付の新井ちゃんだって」
「げっ。そうなの? 新しいブランドものばかり持ってたからなんか怪しいと思ってたけど」
「彼女、警察で事情を訊かれた後、ビビって寝込んじゃっているらしいよ」
「本命の彼氏には振られちゃうかもね」
「ま~ね。でも、新井ちゃんはいいんじゃないの? 退職してどっかでやり直せば。まだ二十歳そこそこだし、かわいいしさ」
「そうよねぇ。それにひきかえ……」
喪服を着た三人の女たちの視線は、池田志乃に向けられた。
「池田さんさ、これらしいよ」
そういうと、一番事情通らしい女が首のあたりに手をやった。
「ええッ? もう?」
「うん。さっき、部長に呼び出されてたの人事の本田っちが見たんだって。自主退職勧告ってやつ?」
「ああ、日高専務って婿養子でさ、奥様は大株主の一人娘だったんでしょ。今はその株、全部奥様が相続してるし、亡くなった専務の分と合わせると筆頭株主なんじゃないかな。奥様が眉を上げたら社長だって走るよ」
「日高専務が社長になったら、池田さんがはじめての女性役員になるとまで言われていたのにね。諸行無常だ……」
声が大きすぎる。全部聴こえているわよ。二人の関係は会社中が知っていた。志乃は知られても構わないと思ってきた。世間がなんと言おうとこれが自分の幸せの形なのだからと。
「池田課長は私たちの憧れなんですよ~」
つい先日まで、彼女たちは言っていた。志乃はそれを鵜呑みにしていたわけではなかったが、少なくとも自分の地位は自分で獲得してきた自負があった。支店に十年もいたので、昇進は随分と遅れてしまった。だが、その間もふてくされずに仕事に励んだ。
ずっと本社の中枢にいて営業で目覚ましい成績を残した日高が最年少で経営陣に加わったことと、志乃がようやく本社に戻れたことを二人でひっそりと祝ったのは二年前だった。それから志乃は念願の本社営業で社運をかけたプロジェクトに抜擢された。日高の元部下だった香川部長はこのプロジェクトには押しが弱いので、志乃が部長になって引き継ぐのは時間の問題と言われていた。ようやく長年の努力が認められた。
女性社員たちの羨望は陽のあたる場所にいること、都心のマンションで暮らし、流行のスーツに身を包む華やかな自分に向けられたものだろうが、その裏には今までの苦労があるのだ。志乃はそれが誇らしかった。
しかし、その苦節も仕事ぶりも、大株主のご機嫌ひとつで吹き飛ぶ程度のものでしかなかった。
先程の女たちは、焼香から戻ってきて、また話しだした。
「奥様と池田課長って同い年なんだって。そうは見えないよね」
「池田さんって、異様に若いよね。リフティングしてるのかな」
「さあね。子供産んでいないからかもよ。それとも、服装が違うから? もう五十近いのに派手だよね。ま、女が出世するには、仕事よりもそっちだよね」
「バブルの申し子か。その頃から日高専務の愛人だったのかな」
「さあ。もしかして新井ちゃんが生まれる前からとか? ひえ~」
葬儀の間中、志乃は人々の好奇の目にひたすら耐えていた。聞こえないふりをして震える手で香典の金額を書きとめ続けた。
葬儀が終わったらしい。出棺の前に、未亡人にマイクが渡された。少し遠いが志乃もその声を所どころ聴き取ることが出来た。
「本日は……きっと亡くなった主人も……突然のことで……主人は私たち家族を大切に……ちょっとした出来心で過ちを犯したこともありましたが……」
出来心の過ち。志乃はその言葉を心の中で繰り返した。剛さん。私はあなたの言葉を信じてきた。
「愛しているのは君だけだ。でも子供がかわいそうだから、今、妻と別れることはできない」
奥様が大株主の娘であることは知っていた。だから離婚したら彼が地位を失うこともわかっていた。
「俺はどうしても社長まで登り詰めたいんだ。この会社を本当にまともにできるのは俺しかいない。志乃もそう思うだろう? 俺たち二人で、この会社を業界一位に押し上げよう」
二人で。そう、二人で。志乃は結婚などという形にはとらわれない愛を示したかった。
奥様には理解できないあの人を、私だけがわかっている。はじめてのデートで聴いたフォーレの『ヴァルス・カプリス』。荒削りに見える人が、こんな繊細な音楽を愛するなんてとても意外だった。暗闇の中で、握られた彼の手の暖かさにときめいた。彼がピアノを聴きながら食事をするのが好きだというので、当時買ったばかりのマンションには、質のいいオーディオを揃えた。フォーレ、ショパン、リスト。知らなかった曲を沢山用意して、彼を待った。いま聞こえている蝉時雨が、フォーレの踊り回る音色と重なる。『ヴァルス・カプリス』。私たちだけの愛の世界。
「退職したら、俺は家を出て、志乃と暮らすつもりだよ。その頃には子供たちも成人しているしさ」
子供たち。先程、テントにやって来た二人の少女たちの視線が心に突き刺さる。セーラー服に喪章をつけた少女たち。一人は十八歳で、もう一人は十五歳のはずだ。
二人目が出来たという話を日高剛に聞かされた時、志乃は怒った。長女が成人するまで離婚は出来ないが、妻との関係は崩壊しているとずっと言っていたのに。だが日高は酔った末の過ちだと言った。
三年後にまた子供が出来たと聞いた時、志乃はもう何も言わなかった。「私もあなたと結婚して子供が欲しいのに」その言葉を飲み込んでしまった。
蝉時雨が、突き刺さるように降り掛かる。二人の少女の視線のようだ。
「見て。あの女がクリスマスとバレンタインデーの……」
日高剛の自慢は、家族と愛人の両方を満足させてやっていることだった。
「家族とは夏休みと正月を一緒に過ごして、家族サービスをたっぷりしてやっているんだ。その分、クリスマスとバレンタインデーは、お前とゆっくり過ごすって妻に宣言してあるのさ」
「そんなこと言って、大丈夫なの?」
「ふん。あの女は、働けもしないからな。だから、お前の存在をはっきりと言っても、何もしないんじゃないか」
私は奥様とは違う。自分の城と仕事を持つ自立した女として彼と対等に生きているんだ。打算の何もない純粋な愛を彼に捧げている。
「いい歳して、愛だの恋だの言っているんじゃないわよ」
数年前に、不倫を知った妹が吐き捨てるように言った。
「そんな事を言うなら、どうして斉藤さんと結婚しなかったのよ」
斉藤健司。悪くない人だった。日高剛のような野心やロマンティックなデートの演出は望むべくもなかったが、優しくて表裏のない人だった。健司は子供がいつも笑っていられる温かい家庭にしたいと言った。志乃も子供は好きだった。いつかは結婚して自分の子供を産みたいとも思っていた。けれど、その時の志乃には「よき母よき妻」でありながら、仕事を続けるのは無理だった。
あの時、志乃にはプロジェクトの方が大切だった。総合職として採用されて六年、男性社員に負けないように頑張ってきた。仕事の企画・提案は誰よりも早く、なおかつ高クオリティのものを提出してきたと自負していたし、ゴルフやアルコールによる接待も嫌がらずにしてきた。それなのに平凡な男性社員よりも昇進が遅い。そのことが悔しかった。
志乃は中学校や高校でいつも優秀な成績を残し、有名私立大学に現役で合格した。就職のときも総合職以外は考えられなかった。
「死んだ子の歳を数えるな」という。数えてどうなるというのだろう。けれど、志乃は蝉が激しく鳴くと、生きていれば直に成人式を迎える子供のことを思う。
健司は産めと言った。結婚して、一緒に子供を育てようと。志乃にはその妊娠は迷惑以外の何ものでもなかった。やっと手がけさせてもらえたプロジェクト。今、離れたら、あのぼんくらな同期たちに手柄をとられてしまう。結婚や子供はもっと後でいい。
手術の後、自分は何をしたのだろう思いながら歩いた道。あの時も蝉時雨が狂ったように響いていた。相談もせずに中絶をしたことをなじる健司の声が遠く感じられた。その夏、二人の仲は終わった。
恋人と別れ、中絶の罪悪感に悩み、そしてプロジェクトから外された喪失感で自暴自棄になっていた志乃に近づいてきたのが同期の日高剛だった。
「結婚するなんてもったいないよ。仕事をしている池田さんは誰よりも輝いているんだから」
ようやく私のことを本当にわかり認めてくれる人と出会えた。日高の左手の薬指に光る指輪を残念に思いながら、志乃は思ったものだ。
日高とつき合いだしてしばらくして、二人でいる所を社内の人間に見られた。それからしばらくして、支店に異動になった。それから、本社にいる同期とはどんどん出世に差がつくようになった。
結婚と出産をする限界は三十五歳だと思っていたので、日高に別れを切り出したこともあった。
「何を言おうと、俺は別れるつもりはないから。俺たちはこうなる運命にあったんだよ」
それ以上、どんな言葉が必要だっただろうか。結婚という形にこだわるならば、健司さんと結婚すればよかったんだ。そうしなかったのは、私と剛さんの間に運命の絆があったからなんだ。志乃はやがて思うようになった。結婚して子供を産む代わりに、私は素晴らしい人生を手に入れたのだと。「運命の愛」と「充実した仕事」と「自立」と。
その日高はもういない。最後に側にいることも、焼香することも、別れを告げることも出来なかった。二人で退職金をもらい、クラッシック音楽を聴きながら優雅に老後を過ごす夢は潰えた。結婚と出産を犠牲にして励んできた仕事も失った。五十を前にして次の職を探すのは難しいだろう。
『ヴァルス・カプリス』に聴こえる蝉時雨。誰にも相手にされず、一人で寺を後にするその横を、子供たちが無邪氣に走っていく。虫かごの中の蝉は大音響で空氣を震わせる。屈託のない笑顔。前途に満ちたその姿。何にでもなれる。どんな未来も自分の手で勝ち取っていくことが出来る。蝉を一つひとつ捕らえるように。
自分はもうあの中の一人ではないのだ。熱くつっかえるものがこみ上げてくる。剛さん。私たちの愛は、どこにいったの? 本当に存在したの? どこで人生は狂ったのだろう。私はいつでも努力を惜しまずに、真剣に生きてきたのに。
湿氣と汗で肌にまとわりつく化繊の喪服。蝉時雨。子供たちは、人々は、夏を謳歌している。
けれど、志乃の人生はもう秋だった。たった一人の、実りのない秋だった。
(初出:2012年6月 書き下ろし)
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猫も好き
私は、どっちも好きです。というか、小さすぎない種類の犬と猫全般が好きです。チワワとかヨークシャーテリアなどの「キャンキャン」犬はなつかれるとかわいいとは思いますが、写真を見ているだけで幸せになるってことはありません。


子供の頃から現在に至るまでペットと生活したことがありませんし、これからも(家畜はあるかもしれませんが)ペットは飼わないと思います。でもそれは生活スタイルから飼うことが難しいというだけで、ほ乳類はたいてい好きなのです。田舎でペットが放し飼いになっているので、近所のペットたちと仲良しになって、犬にしろ猫にしろ、こちらの顔を見ると走って寄ってきてくれる子たちがたくさんいます。通勤途中に出会う猫は、寄ってこないけれど逃げずに挨拶を交わす程度のさらりとした関係を築いていたりします。
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喫茶去

この妙な形の黄色い花は、秋になると小さな竹とんぼのように空を舞います。くるくると旋回しながら、遠くへと運ばれていこうとする姿は、自然の謎に満ちていています。この菩提樹は二種類あって、見かけはほとんど一緒なのですが、明らかな違いがあります。それが薫りなのです。
ほとんど何の薫りもしない菩提樹は、木陰を提供してくれますが、人々はそれ以上の関心を向けません。薫りのする方は、もちろんその薫りも楽しむのですが、花を採り、乾かしてハーブティーにします。そう、リンデンブルーテンティーです。
鎮静作用があるので、寝る前や、子供が興奮状態にあるときなどに飲ませます。それと風邪の初期症状にも効くということで、常備する家庭が多いのです。
私は、食事の後は、いつも夫とお茶の時間を持つようにしています。お茶を飲みながら今日あったことを話したり、次の休暇の計画を立てたり、いろいろなことを話したりします。夜はカフェインやテーインのないものを飲むようにしているので、リンデンブルーテンティーの出番も多いですね。
禅語のひとつに「喫茶去」というのがありますよね。「まあ、お茶でもどうぞ」という意味ですが、思っていたよりもずっと奥深い言葉みたいです。中国の偉いお坊さんが、知っている人にも、知らない人にも、院主さんにも全く同じように「お茶でもどうぞ」と言ったという故事から来ているらしいです。立場や利害の違いなど一切ない無の境地に達した人だからいえた言葉。
私の場合は、まだそこまで達していませんが、何かムッとすることがあった時、ちょっと喧嘩になったりした時になど、「まあ、お茶でもしましょうか」と一息つく習慣は悪いことではないでしょうね。そう考えて、菩提樹の花を集めて乾かす私なのです。
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お、おや〜?
「大道芸人たち」ず〜っと連載していたのですが、反応が他の記事とあまりに差があって「もしかして、私の小説、みなさんあまり歓迎していない?」と思い悩み始めておりました。
でも、「冬木立の前奏曲」でこんなに拍手をいただいたということは、要するに読み切りのほうがブログ向きなのかも。そりゃそうですよね。どこか別の記事をクリックしなくても読み終わるんですもの。
「十二ヶ月の組曲」は勘のいい方はお氣づきのように、題名が西洋音楽の楽曲を題名に持ってきたシリーズで、そもそも「Seasons」の投稿用に書き始めたものです。ですから、季節感を出すようにしています。毎月一つなら楽勝で書けるだろうと昨年の12月に書き始め、一番苦悩した最後の二つも含めて六月中に終わりました。来年はどんな「十二ヶ月の○○」にしようか思案中です。
そういうわけで、「大道芸人たち」のインターバルには、少しずつこういう読み切りを挟んでいきます。長編に辟易していらっしゃる方は、この辺を読んで下さると嬉しいです。
今週の水曜日には、先日よりちょくちょく言及している(書くのに苦悩した)八月分をアップしようと思います。
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大道芸人たちの見た風景 - 5 -

大道芸人という設定にしたのは、人通りがあってそこそこ観光名所と縁のある旅人にしたかったからです。で、ヨーロッパで街の中心、もしくは人が集まる所にあるといったら教会ですよね。まあ、お城もそうなんですが。
最近、私は行く町の下調べというものを全くしなくなりました。昔はね。違ったんですよ。ガイドブックがすり切れるまで調べてから成田に向かったんです。でも、それをやっていると、結局ガイドブックに書いてある所しか行かないし、ガイドブックと同じような、でもはるかにクオリティの低い写真が残るだけになっちゃうんですよね。で、「しまった、みのがした!」になることは承知で、ぶっつけ本番で行くことが多くなりました。
新しい街についたら、まずは小高い所に行きます。それが大抵はお城か教会なんですよね。街全体を見渡すとどのくらい広いのかがわかります。もちろんミュンヘンのような大都市ではそんなことやっても無駄ですが。
「俺、無宗教だし、教会みたいな辛気くさい所は嫌いだし」という方も、ヨーロッパでは教会は押さえておくといいですよ。例えば塔に登って街の地理を頭に入れるとか、実際的にも役に立ちます。スイスでは、お貴族様と農民にさほど財力に差がなかったらしく、お城はかなりしょぼいことがありますが、大聖堂はあちこちからの寄進でずっと壮麗で見応えもあります。「貧乏人から搾り取って建てたんじゃないか」とおっしゃる方もいますが、実はこういうのも公共事業の一つで、職人たちはこういう教会からの注文で食べて、さらに芸術性を発揮し、誇りを持って仕事をしたと私は思っています。
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「あなたの自慢できる’はやいもの’」
「そんなの女じゃない」と思われるでしょう。はい、その通り、女捨てているかも。実は、この歳になるまで日常的に化粧する習慣がないんですよ。日本ではかなり稀な人種でしたが、ヨーロッパにはスッピンが多く、さらにここはド田舎なのでなおさら化粧してもね……。
食事の支度もかなり早いです。これは旦那に鍛えられた結果です。すぐにノーアポ客を連れてくるんですよ。「連れてきたけどいい?」って訊かれても、客本人を前にして「超迷惑」とは言えないジャパニーズな私。腹ぺこのガイジン二人が待っている前で、なんとか食べられるものを作り上げる。まあ、20分くらいでしょうか。
こんにちは。 トラックバックテーマ担当の藤本です今日のテーマは「あなたの自慢できる’はやいもの’」です。みなさんはそれぞれご自分で何か速い!といえるものありますか?運動神経はよくないので、足は遅いんです・・って方でもパソコンのタイピングならまかせて!という方もいらっしゃると思います私はトランプゲームの「スピード」というまさにスピードをきそうゲームがあるのですがあのゲームがとても得意ですきっとはやい...
トラックバックテーマ 第1450回「あなたの自慢できる’はやいもの’」
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嘘つきなもうひとりの……
三ヶ月前に始めたばかりのブログ上で知り合った人だけれど、無謀にも勝手に「心の友」を宣言してしまった魂の詩人Mamuさん。彼女のブログは、ある意味で私と対極にあります。私は小説を一本上げる度に「これはこう言いたかったんだけれど」だの、自分の描写力を棚に上げて写真で補足してみたり、まあ、かなり言い訳めいているのです。彼女のそれは清々しいほどに、言い訳めいたものが一切ないのです。詩の解説もありません。そこにあるのは純粋に作品と、それに対峙する読者だけです。
で、この詩。ドキッとしました。
その場しのぎの
便利な言葉だけで
毎日を過ごさないで
嘘つきな もうひとりの自分に
惑わされないで
うわべ - Poem Spice-久遠の詩-
ドキッとしたのは、Mamuさんが私を責めているからではありません。断じて。彼女の詩によく出てくるように、全ては私の心の中にあるのです。同じ詩を読みながら、「ああ、Mamuさんが誰かに話しかけているのね」ととる方もいるでしょうし、「何でそんなこと言われなきゃいけないの」とショックを受ける人もあるでしょう。でも、それも全て読む方の心の中にあるのです。
つい先日ね。とある方のブログで「ブログでは一般に人はいい人格を作っている、いい人ぶっている」という記事をちょっと見かけました。まあ、そういう人もいることでしょう。私の記事なんか、そう見えるかもなあとその時思ったんですけれどね。でも、本質的には、「実際の自分よりも素敵なワタシ」を演じようと思ったことはありません。そりゃ、私の中にだって醜い部分はありますよ。でも、ブログであろうと私信であろうと、私はマイナスの言葉を出来る限り書いたりしないようにしているのです。
これは私のこだわりと言うか、半ば信仰に近いもので、自分を「もの書き」と定義して以来、書く言葉は言霊として扱わなくてはならないと思っているのです。そういう言い方が嫌いな人は「心理学」と言っちゃってもいいです。マイナスの言葉を書くことで、書く時に、それから読み直す時に、更にオンラインで公開する時に、いちいちマイナスの擦り込みをすることになってしまう、そんなことをすべきではないと信じているわけです。
Mamuさんの詩は、二つのことを私に想起させました。
一つは、「安易な言葉遣いの危険性」。私の書く言葉は自分ではプラスの言霊のつもりでいるけれど、本当にそうなのかってこと。単に心地いいだけじゃないのって。いたずらに長くなるので、この話はこれ以上掘り下げません。
そして、もう一つは「わかっている真実から目をそらすための都合のいい言葉」。これは幸い私は使わずに済んでいるけれど、とある友人の現在の状態が頭に浮かびました。私が先日ブルーになっていた短編小説のモデルになった人です。
明らかに幸福とは反対への道を歩んでいるその人に、私は嫌われるのも覚悟でダイレクトに助言しました。柔らかくオブラートに包んでも言ってみました。自分は幸福だからこれでいいんだと言っているのに、精神不安定で自暴自棄な行動に走っているとしか思えない危うさもあるその人に、友人として出来ることはもうありません。その人の中には明らかに「嘘つきなもうひとりの自分」がいて、「これが幸せなんだから他の意見は聞いちゃダメ」とありとあらゆる問題を見ないようにさせている……。
私は、その人のことを高みの見物をしているつもりはありません。その人を救うのが使命だとか、そういう宗教的な思想を持っているわけでもありません。ただ、後悔したくないから、言っても無駄だと半分思いつつ、しつこくメッセージを送り続けているのだと思います。きいてくれないけど。小説はとても残酷なことを書きました。たぶん読まないと思うけれど、読んだらショックで私を嫌いになるかもしれないけれど、それでも小説の中から何かを読み取ってくれたらいいと思っています。書き終わったばかりで、公開には早いと思うけれど、もしかしたら今月中にアップするかもしれません。
と、一つの詩から、徒然とこんな事までを考えていたわけです。詩は五行。私が書いたのは……。恐るべし 、Mamuさん(^_^;)
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【小説】冬木立の前奏曲(プレリュード)
冬木立の前奏曲(プレリュード)
プラタナスの木は葉を全て落とすと、まるで地面に逆さまに突き刺さっているかのように見える。晴れた空はみごとなセルリアン・ブルーで、目に痛いほどだ。ライナーは湖畔に並ぶ色とりどりの家の一つであるレストランのテラスに座って、マッジョーレ湖に反射する陽光のきらめきに目を移した。
一月だというのに、この暖かさはどういうことなのだろう。日光の燦々と降り注ぐこのテラスでは、氣温は二十度を超えて、コートを脱がなくては暑いほどだ。
スイスでもっとも海抜の低い所にある街、アスコナはイタリアとの国境に近く、南国の陽氣さとスイスの清潔と機能を併せ持った、ドイツ系スイス人にとっては理想的なリゾート地で、「マッジョーレ湖の真珠」と呼ばれている。人々は定年退職後はこの地に移住してのんびりと暮らしたいと願っている。そのために口の悪い人々はこの街を「ドイツ系スイス人の老人ホーム」と呼ぶのだった。
ライナーはアルプスを越えた北側の街クールに住む紛れもないドイツ系スイス人ではあったが、引退するにはまだ若すぎる。実を言うと、まだ結婚もしていないし、仕事も極めたとは言い兼ねる青二才に属する年齢だった。今日この場所にいるのは、単なる週末の遠出だった。
この前ここに来た時には、ダニエラと一緒だったが、再び彼女と来ることはないだろう。ダニエラとの関係を解消するには多くのエネルギーが費やされ精神的疲労を伴ったが、結局はそれが二人にとってよいことだったと思っている。少なくとも二人とも健康で、その後の人生を楽しむことができている。ダニエラには既に新しいボーイフレンドができたと仲間から聞いたが、ライナーはそのニュースにいささかの痛みも感じなかった。結局は、そういうことなのだ。彼女は過ぎ去っていく女だったのだろう。
今ライナーがここアスコナで思い出し、そこはかとない痛みを感じるのは、かつてつき合ったことのあるどのガールフレンドたちとの思い出でもなかった。それは、ライナーのもと同僚だった今は亡きステファン・ツィンマーマンの自信にあふれた表情と、エーファ・バルツァーの悲しげな顔だった。
会社のクリスマス会食ではじめてエーファに逢った時、ライナーは少し残念に思った。エーファはステファンのパートナーとして一緒に暮らしており、ライナーはダニエラと一緒に会食に参加していた。そうでなければ、ライナーは彼女に「もっとお互いのことを話しませんか」と言っただろう。エーファはライナーの理想とも言える資質を持っていた。彼女のどちらかというと地味な風貌ではない。たくさん話した訳ではないので話題でもない。波長とでも言うのだろうか、彼女を包む形容しがたいヴェールのようなもの、言葉の運び方、立ち居振る舞いなどがとても心地よかったのだ。それが第一印象だった。エーファのような女性を選んだことが、ステファンに対する評価をも変えた。それからライナーは以前よりもステファンと親しくするようになり、休日にも時折四人でドライブに行ったりしたのだ。
コーヒーの代金を払うと、ライナーはレストランを離れ、湖に沿ってプラタナスの並木道を歩いた。一人は冷たい墓の中にいて、もう一人はアスコナの陽光の中を後ろめたさを抱えて歩いている。
ここのところいつも頭痛がするんだと、イライラする口ぶりで言ったステファンをライナーも、ダニエラも、そしてエーファですらも相手にしなかった。けれど、あの時にはもう、ステファンの病はかなり進んでいたのだ。最初の入院は、それから三週間も経っていなかったが、半年の間に三回も入院し、一ヶ月前の手術を生き延びなかった。ステファン。まだ三十二歳じゃないか。アドミニストレータの資格取得のために学校に行きはじめたばかり、結婚とか子供を作ったりするのはまだ早いと笑っていたじゃないか。
ステファンが最初に入院した時、彼の分も仕事をこなさなくてはならなかったライナーは不服を言った。そのことが今となっては悔やまれる。葬儀の時のエーファの疲れた顔にも、同じ後ろめたさが感じられた。
「もっと優しくしてあげるべきだったのよね」
力なく笑ったエーファの肩は、以前見たよりもずっと細くか弱く見えた。
「君は、誰よりもステファンを力づけてあげたじゃないか」
彼女はわずかに微笑んでライナーの頬に小さいキスをし「さようなら」と去っていった。
ライナーはエーファのことを考えた。ダニエラと別れてシングルである自分は、やはりシングルであるエーファに興味を持っている。もし、彼女がステファンとけんか別れしたならば、それは恥ずべき感情ではなかった。だが、病でパートナーを失ったばかりのエーファにこれ幸いと近づくようなことは不可能であるように思えた。とはいえ、それだけで諦めてしまう氣にもなれなかった。
ライナーは、携帯を取り出して、電話番号を探した。ステファン・ツィンマーマンのまま登録されている番号。彼女はまだ同じ場所にいるのだろうか、それとも引っ越してしまったのだろうか。しばらく逡巡してから彼は送信ボタンを押した。何回かの呼び出し音が聞こえ、迷ったまま切ろうとした時に通話状態になった。
「バルツァーですが……」
ライナーは、何を話そうか、何も考えていなかったことに思い当たった。
「僕、ライナーです。どうしているか、氣になって」
エーファの声が心なしか和らいだ。
「まあ、ありがとう。なんとかやっているわ。こういう寒い日には、つい家に籠ってしまって、考え込んでしまうのだけれど……」
「そうか。じゃあ、誘えばよかったかな。僕は今、アスコナにいるんだ。春みたいに暖かいよ」
「まあ、素敵ね。こっちは、また雪が降りそうだわ。ダニエラも一緒なの?」
そこで、ライナーは躊躇した。
「いや、その、実はダニエラとは二ヶ月くらい前に別れたんだ」
エーファは少し黙った。それからためらいながら言葉を続けた。
「まあ、そうなの。それは、残念ね……」
少し警戒しているように響いた。ライナーは慌てて言った。
「ここに来たら、四人でロカルノに来た日のことを思い出したんだ。あまり落ち込んでいないといいと思って。元氣だせよ」
「電話をありがとう、ライナー」
エーファは小さく言った。ライナーが電話を切ろうとすると、エーファは小さく続けた。
「あの……」
「なんだい?」
「氣にかけてくれて、ありがとう」
エーファの静かな声は、ライナーの心に染み渡った。
ライナーは色とりどりの家の向こうに見えている、灰色の教会に向かって歩き出した。聖ペテロと聖パウロ教会だった。地味な石造りの外観に相反して、白い漆喰のアーチとたくさんの壁画に彩られた明るく美しい内装の教会を、ライナーは既に訪れたことがあった。だが、それは真夏の日差しを一瞬避けるために訪れただけで、ゆっくりとその中を見たかったわけではなかった。そもそも、ライナーは成人と同時に教会からでてしまって、誰かの結婚式か葬式の時以外には教会に行くこともほとんどなかった。
教会の重い扉を開けると、鳴り響くオルガンの音に驚かされた。ミサの最中ではなかったし、聴衆がいるわけではなかった。つまり、オルガニストが練習しているのだろうとライナーは思った。
それはバッハだった。何番かと言うことはできないが、『プレリュード』であることは間違いなかった。これの入っているCDを持っている。静かだが動き続ける長調の旋律は、ちょうど今見ていたばかりのマッジョーレ湖に反射する陽光のきらめきを思い起こさせた。その曲が再び四人でマッジョーレ湖に来た思い出にライナーを引き込んだ。
ロカルノを訪れたのは去年の七月だった。空氣の重い暑い日で、ダニエラが疲れたと文句を言ったので四人でカフェに入った。
「そんなにあちこち歩き回る必要なんてないのよ。どうせ湖と教会の他はショッピングをさせようって店とカジノしかないんだから」
ダニエラがいつもの無関心な様子で言うと、ステファンはウィンクをして言った。
「八月は、映画祭があるから、話が違うけどな」
「私、一度もロカルノ映画祭に来たことがないのよ。ライナーって段取りを上手くやってホテルを確保するとかできないの」
「そんなに行きたければ、自分でホテルの予約をしろよ」
ライナーが言うとダニエラはムキになって反論した。
「つまんないバッハのCDを聴く暇があったらやってくれてもいいでしょ。信じられない。バッハだなんてまともな男の聴くもんじゃないわ」
ステファンが混ぜっ返した。
「確かに、勘弁してほしい選曲だよな。もしかして日曜毎にミサに通っているとか?」
ライナーは教会に対して敬虔で厳かな氣持ちを持つことをずっと否定し続けてきた。教会で毎週行われているミサや、ごてごてした教会の飾りを馬鹿げた茶番と軽蔑してきた。好んでいるバッハのCDはジャズ・ピアニストによるアレンジものだったし、教会の偽善と一緒にするなと反論することもできた。にもかかわらず、彼はステファンとダニエラの偏狭な物言いの方に腹を立てて言った。
「テクノだけが音楽じゃないよ。いいものはいいんだ。教会にだって必要なら行くさ。お前らだって結婚式や洗礼式には行くじゃないか」
エーファは少し氣の毒そうに言った。
「私も時々バッハやヴィヴァルディを聴くわよ。特別なクラシック音楽ファンって訳じゃないけれど」
「あ~ら。ライナー。あなたには他の理解者がいるじゃない」
感じの悪いダニエラにいい加減にしろとライナーが言いかけたその時に、ステファンは注文と違うアイスクリームを持ってきたとウェイトレスにつっかかった。その言い方をたしなめるエーファとステファンは口論になり、ライナーは自分の怒りをすっかり忘れて二人を仲裁し、ダニエラは白けてタバコを吸いだした。あれは、ここからたった二キロしか離れいてない場所で起こったことだったのだ。
荘厳に響くオルガン曲を聴きながら、空間としての教会がどこよりもバッハのこの曲に合うことをライナーは認めた。それは純粋な芸術であると同時に、宗教的な崇高さを備え持っていた。信仰というほかはない精神なしには意味をなさない音楽だった。ライナーはあの時の自分の怒りの意味をようやく理解した。二人が、そして自分も軽蔑していた教会という空間と敬虔な精神の脇には、自分たちが目をそらしていた世界があった。
メメント・モリ。死を想え。死は、どこにでも潜むものなのだ。若かろうと、科学技術が発達した二十一世紀だろうと避けられない。自分とは無縁だと思っていたその厳しい現実が、友人の死で浮き彫りになった。その恐怖や悲しみをなだめることができるのは、酒やばか騒ぎなどではなく、今まで避け馬鹿にしてきた真摯で厳かな精神であろう。それが信仰というものの本質なのかもしれないと。
ライナーはオルガンの響きを追いながら、いまおこったこの感覚についてエーファと語り合ってみたいと思った。彼女には、ライナーの感じたことがわかるだろう。それこそが、彼がエーファに興味を持ち、彼女のことを今ここで想う理由なのだ。そして、彼女にもステファンへの愛だけでは埋められない心の隙間があったに違いない。そのことに思い至ってはじめて、ライナーの中で今までの後ろめたさがなくなった。
愛するパートナーをこういう形で失った彼女が、すぐに氣持ちを切り替えることは難しいだろう。ライナーもそれを望んではなかった。このわずかな時間、わずかなアプローチで、自分が彼女の心の中の地位を向上することを期待している訳でもなかった。ただ、今日、このアスコナででライナーの中のエーファは完全に特別なポジションに収まった。いつか『プレリュード』を聴きながら、彼女と今日のことを話すことができれば。その期待に満ちて、ライナーの心も冬の中の小春日和のように暖まっていた。
(2011年12月 書き下ろし)
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オリキャラへの愛
後から出てきた方が、実はお氣にいりになる場合もありますよね。勝手にスピンオフまで作っちゃったりして。
私の発表した作品の中で、一番読まれることが多いのは何故か「沈丁花への詠唱(アリア)」なんですが、この作品実は二日で書き上げたもので、キャラも二分で作り上げました。実は、かなり私小説でして、主人公真由美への思い入れは自分に対するそれなので、「オリキャラへの愛」というほどのものは(笑)。
一方で「大道芸人たち」のヒロイン蝶子は、何から何まで自分と正反対で作ってあるので、完全に自分と分離した存在です。まあ、私は女なので、女のキャラに惚れ込むことはあまりないんですが、今まで書いたことのないタイプの女なので、相当の思い入れを持って書いていたりします。楽しんで好きで書いているのは稔かな。ま、時々深刻になったりするんですけれどね。
子供の頃に、ショウワのノートに書いていたシリーズ物のマンガでは主人公に惚れ込んでいましたね。勝手に一体化して、その世界に酔っていました。あまりにもくだらない設定なので、どうやっても小説にして公開することの出来ないお話ですけれど。
作品を書いて(描いて)いるいろいろな方のブログをまわってみると、それぞれ訪問者と作者がオリキャラの話題で盛り上がっていたりします。あれがちょっと、いや、かなりうらやましいのです。まあ、それが度を超して、BLのおかずにされちゃったりすれば「え゛……」と思うんでしょうけれど。
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牛のご飯には惜しい……

田舎暮らしなので、牛だのヤギだのがその辺にいるのに慣れっこでございます。で、ただっ広い空間の多くがただの草原になっていて、ここで放牧したり、干し草を作ったりするんです。そこに生えている花は基本的には雑草なんですが、雑草と言うには惜しい花が多いのです。
三越のチェルシーガーデンって、まだあるのかな?私が日本にいた頃はあったんですけれどね。英国風のハーブなんかを売っているコーナーで、あそこでけっこうなお値段で売られていたハーブが、そこら辺に生えているわけですよ。チコリ、ヤロウ、カモミール、ルバーブ、ラベンダー、ボリジ、ソレル、セージ、フェンネル、タイム、ワイルドストロベリー……。これ、みんな雑草扱いで、牛がもしゃもしゃ食べてます。
写真のケシの花も、その内に家畜が直接食べるか、それともトラクターがガーッと苅っていってまとめて干し草になってしまうでしょう。
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世を忍ぶ仮の姿?
といっても、現実でお金をいただいているプログラマーの仕事を嫌々やっているってわけでもないんですよね。もちろん、スクリプトを夜中まで書いていても嬉しくて仕方ないって程には愛してはいませんけれど。小説なら氣がついたら丑三つ時ってのは普通だから、やっぱり、そっちのほうがいいんです。
また、夫との生活を投げ打ってでも「もの書き」として成功したいかと言われると、そんなことはないんです。例えば、「小説家デビューの条件として日本に帰国しろ」といわれても困るわけです。たぶん「ごめんなさい」するな。
そういう意味で、私は覚悟ができていないのかもしれないですね。年齢的にも「希望に燃え立って」いるわけではありません。諦めているわけでもないんですが。
生活の安定、個人としての幸せ、それから夢を持ち続けること、どれが本当の自分でどれが仮の姿と決めることは出来ません。たぶん全てひっくるめて、これが自分なのだろうなと思っているのです。
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大道芸人たちの見た風景 - 4 -

ふと思ったんですけれど。他の小説のブログの皆さんって、毎日は更新していませんよね。で、一つの小説が長くトップにあるから、アップの日にはいらっしゃらなくてもその週に訪問してくれた方がもれなく読んでくれるのかな? つまり、私の所は、毎日更新しているので、小説の読者が減っちゃっているんでしょうか?
でも、私のブログの場合は、小説目当てできて下さる方は、少数派かも。小説だけにしたら、ぐっと訪問者が減っちゃいそう。だったら、今の形で、運良くその氣になって下さった方が、小説も読んで下さるのを待つ方がいいか。う〜む。
「大道芸人たち」を書いていたのは去年で、この頃はブログをやろうなんて夢にも考えていなかったんですよね。「自分の自分による自分のためのエンターテーメント」として書いていたんで、どんなに長かろうが、展開が遅かったり早かったりしても、たった一人の読者(つまり私)は喜んでいたわけですよ。
こういうふうに書いてしまった小説なので、飽きて放り出されちゃったり、もしくは途中からこのブログを知って「こんなに長いの今から読むのは面倒」と思われても全く不思議はないんです。
連載はじめから辛抱強く読み続けて下さる方や、途中から頑張って通読して下さった方もいて、さらにはFC2小説の方でも閲覧数もついに100を越えましたし、文句は何もなくて、本当に感謝のみなんですが、かえって「悪いことしてるな」と思っちゃうんですよね。
謝っておきます。ごめんなさい。チャプター2まで終わった所ですが、チャプター5まで続きます。ここまで読んで下さったみなさん。以前よりも展開は早いし、謎の出し惜しみもないので、どうか見放さないで下さい。よろしくお願いします。
さて、本題の「大道芸人たちの見た風景」ですが、今回の写真はカルモナのパラドールの食堂です。パラドールというのはご存知の方も多いとは思うのですが、スペインの国営ホテルです。古城・修道院などの歴史的建造物を改築したもの、立派なホテルを買い取ったリゾート系のものなど何種類かありますが、スペイン全土に広がっています。日本でも有名なのはアルハンブラ宮殿の中にあるパラドールでしょうか。予約で満杯です。カルモナもかつての古城を改築したパラドールで、クオリティが高い人氣のパラドールですが、街そのものが日本にはさほど知られていないので異国情緒を楽しみつつ最高のパラドール滞在をしたい方にはおすすめです。アルハンブラ宮殿のはステキなんだけれど、日本人がいっぱいでしてね(笑)
四人が居候しまくるカルロスの館は、いくつかのパラドールのイメージを総合して作り上げました。こういう空間に、宿泊費なしで滞在し、イネスのスペイン郷土料理に舌鼓を打ち、しかも酒蔵のシェリーも……。ああ、私も四人に加わりたいです。
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「パンはどんなパンが好き?」
そうそう、スイスに旅行に来たら、いる場所によって試すパンも変えてみて下さい。ドイツ語を話している地域ではドイツ風の無骨なパンが美味しいし、フランス語を話している地域ではパン・オ・ショコラやバゲットが美味しいですよ。
こんにちは!FC2ブログトラックバックテーマ担当ほうじょうです!今日のテーマは「パンはどんなパンが好き?」です。ほうじょうは朝ごはんはパン派ですので、比較的よくパンを食べます。食パンを買っておいてそれをトーストし、バターだけで食べる時やジャムを乗せたり、シュガーマーガリンにして食べたり…食パンだけでも食べ方は色々ありますが前日にコンビニで買っておいてそれを食べることも多いです。前日で買う場合、明日...
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へこんでます
珍しくブルーです。理由は三つあります。
一つは、尊敬する「私の映画鑑賞」のしげちゃんさんが、今日をもってブログをいったん閉められます。難病と闘いながらも素晴らしい記事を投稿してこられたのですが、症状が重くなられたので当面更新が出来ず、完全に閉められるそうです。いままで、本当にありがとうございました。一日も早いご快癒を祈っています。
二つ目。ここ三日ほどブルーになるような作品を書いておりました。普段は、ハッピーエンドでなくてもどこか救いがあるようなものを書くのですが、今回だけはどうも。主人公も痛いけれど、出てくる人物ほぼ全員が痛い。つまり突っ込みどころ満載。月に一本書いている「十二ヶ月の組曲」という短編集の一つなのですが、「愛」と「想い」と「人」を十二パターンのバリエーションに仕立てるというコンセプトなので、居心地のいい作品だけではないのです。で、この痛い「八月分」と反対に甘い「十一月分」だけが筆が進まない。ふうう。
三つ目。これが、最も大きな要因です。夫の友人だったある人が亡くなりました。スイスに来て間もない頃、夫以外に頼れる人はなく、その夫が「放任主義」のために困っていた時に、奔走してくれた人でした。私よりも一つ年上で、いくら何でも逝くのはまだ早いと思います。癌でした。
めでたい話もありますが、悲しい話も増える。それが年齢を重ねていくということだと思います。私はこんなに健康で幸福で、何もかも恵まれた生活をしているのに、何も悪いことをしていない人たちが、過酷な運命に苦しんでいる。そのことがとても悲しいです。
明日何が起きるかは誰にもわからない。だからこそ、どんな状態であれ、精一杯毎日を過ごさなくてはならない。そう思って、日常に自分を追い立てています。人生は続いていきます。明日もあさっても。
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米を洗わない国に住み……
リアルの友だちのアメブロでの記事に反応してみました。このヒト「みんなに見てもらいたいのに〜」と騒いでいますので、興味があったら、覗いてみて下さい。なかなか面白い記事を書いていますよ。ただし、このブログは、突然音が鳴りますんで、仕事中の方など、氣をつけて下さい。
エコをテーマ(のひとつ)にしたブログで、今回は米研ぎのエコ問題。
無洗米ねえ。
米を研ぐ手間が要らないとか、水道代が減るとか、米の研ぎ汁を排水溝で流さない分環境に優しいとか、いろいろな利点があると言われているけれど、少なくとも今の私は買ってない。無洗米を製造する過程で何らかの電力が使われている以上、研ぎ汁の排水が環境に与える負荷といい勝負なんじゃないかという気がするから。
というか、より正確には私の場合、「無洗米じゃないお米でも、どのみちロクに研がないからいいの」というのが本音の本音だったりする。一、二回、簡単に水洗いする程度でおしまい。
米を買う - First Chance to See... -
いやはや。「おいしい和食は米が研げてこそ!」と、真冬でも手を真っ赤にして冷水で研いでいらっしゃる皆様、すみません。私も、上記と同じスタンスで生きております。
そうなったのは、こんなことがあってからでした。
はじめてスイスに来て、人の台所で米を用意することになり、私が米に水を入れてジャリシャリやっている時に、その場にいた全員(もちろんスイス人)が言いました。
「なにやってんの?」
「何って……。米研いでんですけど」
そのあとのチンプンカンプンな会話の後に、私はようやく理解しました。この人たち、米を研がないんだ! 省略してるんじゃなくって、そもそも「米を研ぐ」という概念も、動詞もないんだ。
研がなくても、あまり味変わらないし、もともと苦手な米研ぎが簡易化されるなら、こりゃいいや、ということで、それ以来私は以下のスタンスになりました。
(1)西洋料理(リゾットなど)は一切研がない
(2)和食用のご飯は申しわけ程度に研ぐ。しかもぬるま湯で。10回グルグルするのを、三回くらい水を換えるだけ
で、それでもいちおう良心の呵責はあったんです。でも、上記の記事を読んだら、「な〜んだ。私のやっていることはエコ活動なのね」と。
どうして、こういうことだけ都合良くエコとか言うかな。自分で自分にツッコんでおります。
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【小説】大道芸人たち (17)バルセロナ、 色彩の迷宮
今回でスペイン編が終わります。次の行き先は……(笑)ほんの少しインターバルに別の小説をアップした後、チャプター3が続きます。
あらすじと登場人物
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FC2小説で読む
大道芸人たち Artistas callejeros
(17)バルセロナ、 色彩の迷宮
「なんてことだ」
園城真耶が発送しカルロスの館に届いていた戸籍謄本を見ながら稔が呆然とつぶやいた。
「どうしたの?」
蝶子は訊いた。
「親父が死んでいる」
戸籍謄本から抹消された日付は三ヶ月ほど前だった。稔は五年近く一度も家に連絡を入れていなかった。その間に日本に対して行ったコンタクトは、遠藤陽子への無言の送金だけだった。父親は婚約者の金を使い込んで失踪した息子のことをどれほど憤り怒りながら生涯を終えた事だろう。稔は初めて自分のしてしまった事の大きさについて認識した。
蝶子と稔のパスポート更新申請は何の問題もなく受理された。蝶子の方はともかく、稔については捜索願が出ている可能性もあったので、更新時につかまる事も予測していたが、それは杞憂だった。遠藤陽子と家族が連絡を取っていれば、稔が元氣にヨーロッパ各地を動いているのはわかる。すでに失踪から五年が経っている。家族は必死に探してはいないのだろう。
「ねえ。氣になるんでしょう。帰りたいんじゃないの?」
蝶子が言った。稔は二日経ってもしょっちゅう戸籍謄本を取り出してはしまっていた。いつもの稔らしくない逡巡ぶりは、自分たちへの遠慮だと感じた蝶子は、余計なお世話だと知りつつもちょっかいを出したのだ。
稔は激しく首を振った。
「馬鹿なことを言うなよ。帰りたくなんかないし、だいたい帰れねぇよ」
「せめてお母さんに電話してみれば?」
「親父が死んだのは三ヶ月も前だ。俺が今ごろ電話をかけたところで何も変わんねぇよ」
意固地になっている稔に、蝶子はそれ以上何も言わなかったが、このままにしておくわけにはいかないと思っていた。もう少し様子を見なくちゃ。
ヨーロッパ連合の外から来て不法滞在を続けている蝶子と稔のヴィザを取得するためにカルロスは己の政治力をフル活用していた。残りの二人にヴィザは不要だが、まとめて健康保険に加入させるために、住所登録をこの館にした。
書類作成のために全員のパスポートから名前を移していて、ドイツ人の番にカルロスの太い眉はふと顰まった。アーデルベルト・ヴィルフリード・フォン・エッシェンドルフ? 貴族か? しかもこの名前には聞き覚えがある。ローマで蝶子の打ち明け話を聞いた時に何度も出てきた、忘れられない名前。エッシェンドルフ教授。アーデルベルトの生誕地はミュンヘン。
カルロスは蝶子と稔がパスポートを受け取りに行き、レネがイネスにエンパナディーリャの作り方を習っている隙に、静かにヴィルを書斎に呼び寄せた。ヴィルは黙って従った。
「あなたは、マリポーサの事が好きなんでしょう」
ヴィルは憮然として答えなかった。カルロスは笑って言った。
「心配いりませんよ。私だってもちろん彼女を深く愛していますが、あなたのようにではない。あなたが苦しむような事は私と彼女の間には何もないんですから」
「余計なお世話だ」
取りつく島もなくヴィルは答えた。
「その通りです。しかしね。住所登録の手配をした時に、あなたとレネさんの正式な名前が必要になりましてね。あなたの名字が氣になったんです。同じ姓をマリポーサから聞いていたので。マリポーサはあなたの正式な名前を知らないんでしょう」
ヴィルはじたばたしなかった。してもしかたないという風情だった。いずれはわかってしまうのだ。
「知っていて黙っているはずはないと思う。言っておくが、あいつは一度だって本名を言えともパスポートを見せろとも言わなかった。だが、俺自身が出来る事なら知られたくないと思っていたのは事実だ。あんたが俺を追い払いたいならあれを見せれば十分だ」
「そんなことはしませんよ」
「なぜ?」
「マリポーサを愛しているからですよ。それからArtistas callejerosをね。あなたたちに亀裂を入れてしまったら、マリポーサは私を決して許さないでしょう」
グエル公園で、四人は新しい試みに挑戦していた。名付けて『銀の時計仕掛け人形』。ヴィルがパントマイムでよくやるように、全身を銀色の衣装で包み、顔も銀色にメイクする。蝶子は銀の長髪のカツラを被った。そして、止まったままで通行人を待つ。目の前の箱にコインが入れられると、金額に応じた長さでそれぞれが持ち芸を披露する。一ユーロだと数小節だが紙幣なら一曲弾く。もし、二人の前に同時にコインが入れられると、組み合わせ芸を披露する。二十ユーロ紙幣などを入れられた場合には、四人が音楽劇を披露することになる。
初めは勝手のわからなかった通行人も、このルールがわかると、それぞれがちゃりんちゃりんとコインを入れ始める。そうなると四人は目も止まらぬ速さで、ありとあらゆる組み合わせの芸を披露しなくてはならなくなる。蝶子とレネ、ヴィルと稔、稔とレネ、蝶子とヴィル、三人ずつ、もしくは四人全員。人通りの多い時間は止まっているパントマイムをする暇などほとんどなくなる。
四人はこの方法だと通常の三倍を軽く稼げることを知った。
「でも、こんなの毎日はやってられないわ」
コルタドの館に戻ると、蝶子はぐったりして言った。今日はどうしても熱いお風呂に浸からなきゃ。
「それに、この銀のドウラン、落ちやしない。本当にお肌に悪そう」
ぶつぶつと文句を言う。それでいてやけに充実感がある。
カルロスは、『銀の時計仕掛け人形』をやった日は、四人が遅くまで酒盛りをせずにさっさと寝てしまうのでおかしくて笑った。
稔は、仕事をしていないときは、ずっとふさぎ込んでいた。日本に帰って、家族とのことをきちんとしたいという思いは、ここ数日どんどん大きくなっていた。
これまでは、家族のことを思い悩んだりはしなかった。自分が帰国せずに失踪したことで、遠藤陽子に悪いことをしたという思いはずっとあった。安田流中の笑い者にしてしまったのだ。いくらヘビ女でも、そうとう傷ついたことだろう。だが、安田流に対してや、家族に対しての罪悪感はそれほどなかった。稔が家元を継ぐと言う話は公のものではなかった。単に皆がそうだろうと思っていただけのことだ。
蝶子と違って、稔は三味線で名を成したいと思ったことは一度もなかった。それは、稔が常に認められていたからだった。ジュニアの頃からいつも稔は発表会のトリを務めていた。家元の長男として、三味線を弾くことは禁じられるどころか多いに推奨されていた。稔は三味線が好きだった。純粋に好きだった。それは有名になるための手段でもなければ、次期家元として持つべき技量でもなかった。それが檜舞台であろうと、ヨーロッパの街角であろうと全く違いを感じることはなかった。
だが、家族にとっては、そうではなかったのだ。
稔は、氣っぷがよく一緒に酒を飲むのが楽しい父親が好きだった。優しく暖かい母親が懐かしかった。頼りないが優しい弟とも上手くいっていた。ただの家族でいられたらどんなによかったのだろうと思う。だが、安田流創立者の長男と、その一番弟子で家元を継いだ妻の間に生まれた以上、暖かい核家族の部分だけを求めることはかなわなかった。
安田流と遠藤陽子から逃げ出したということは、すなわち、大切な家族を失うことでもあった。あの時、粉々に引き裂いて空に投げた航空券の紙吹雪は、家族との絆をも引き裂いてしまったのだ。そんなことをすべきだったのだろうか。どうして自分はこんなところで、一人楽しく生きているんだろう。それでいいんだろうか、稔は迷って考え込んでいた。
だが、稔はいま一人で日本に行くと、自分のいないうちに仲間たちが解散してしまうのではないかという不安を持っていた。イタリアにいた頃のArtistas callejerosだったら、「きっと待っていてくれる」とのんきに思えたかもしれない。だが、今のArtistas callejerosがどれほど危ういバランスの上に立っているか、稔は承知していた。
稔は自分がチームをつなぎ止めているとは思っていなかったが、残りの三人だけでいつまでも保っていられるような状態でないこともよくわかっていた。ヴィルと蝶子の間にある不穏なアイレを中和するのは、レネ一人には荷が重すぎる。レネはそういうキャラクターではない。今、自分が離れたら、一週間もしないうちにチームは空中分解して、何もなかったかのように消えてしまうかもしれない。それは自分の片腕をもがれるような感覚だった。
蝶子は、もうこれ以上放っておくわけにはいかないと思っていた。稔はArtistas callejerosにはいなくてはならない存在だったが、心だけ日本に飛ばしておくわけにはいかなかった。放っておけば稔の心と体は完全に分離してしまう。それはArtistas callejerosの危機だった。稔は日本に行かなくてはいけない。なんとしても。でも、そうしたら私たち三人で待っていなくちゃならない。帰ってくるかどうかの保障もないのに。困ったわね。
「ねえ。次の行き先の事だけれど」
蝶子が意味ありげに言った。稔は上の空だった。だが、他の二人は蝶子の言い方に反応した。
「私、久しぶりに日本に帰りたいんだけれど」
稔ははっと振り向いた。何か稔がいう前に、急いでレネが言った。
「僕、一度日本に行ってみたかったんです。大賛成」
「俺も二人も通訳がつくなら悪いアイデアじゃないと思う」
ヴィルも間を置かずに言った。
「お前ら、何考えているんだよ。航空券だけでいくらすると思っているんだ」
「バンを買うのが少し遅くなるだけよ。どうせ私たちずっと一緒に稼ぐんじゃない」
「ダメだよ。日本なんかじゃまともに稼げないし、宿泊もどれだけかかると思っているんだ」
「だって、多数決ですもの。もう決まっちゃったのよ。なんとかなるわよ。私、日本にまだ銀行預金残っているし」
稔は地団駄踏んだ。俺はなんて馬鹿なんだ。俺があんな状態でいたら、こいつらがそう言い出すのは予想できたのに。畜生。テデスコに無表情の演技の指導でもしてもらうんだった。
だが、結局は稔も三人の好意を受け取る事にした。四人で日本に行く。考えてもいなかった解決策だった。自分がいない間に、彼らが消滅してしまうことを恐れる必要はないのだ。
「ありがとう。恩に着る」
四人がその話をしているのをじっと聞いていたカルロスはおもむろに電話をとり、スペイン語で秘書のサンチェスに何かを指示した。
夕食前に、サロンでヘレスを楽しんでいる頃、サンチェスがやって来てカルロスに書類ばさみを手渡した。
カルロスは、それを一番近くにいたヴィルに渡した。四人分の東京までのイベリア航空のチケットだった。ヴィルは片眉をあげて驚きを示し、自分の分をとって残りを隣の稔に渡した。稔は目を瞠りそれらを各自に渡した。蝶子もレネも自分の目が信じられなかった。
「カルちゃん……。どうして」
「バルセロナからの往復です。マリポーサ。あなた方が必ず帰ってきてくれるように、私の保険みたいなものですよ。バンのために貯めたお金は、宿泊代などで入り用でしょうからとっておきなさい。あなたたちも時にはただの休暇の旅行が必要なんですよ」
「ありがとう。この恩は決して忘れないわ」
そういって蝶子はカルロスに抱きついて頬にキスをした。レネは目を剥いた。ヴィルは目をそらした。稔は天井を見上げた。
「私も一緒に美しい通訳つきで日本旅行をしたいのは山々なんですが、ここのところ珍しく仕事が詰まっていましてね。でも、次回はぜひご一緒させてください」
「もちろんよ」
蝶子は最高の微笑みを魅せた。この女。稔は腹の中でつぶやいた。しかし、カルロスの助けは有難かった。
四人は初夏のグエル公園で再び『銀の時計仕掛け人形』にトライした。日本に行くとなるとそうとう物入りになる。そう思っただけで蝶子の闘志に火がついた。ドウランがお肌に悪いとか言っている場合じゃないわ。蝶子が俄然やる氣になったので、他の三人は容赦なく、このやたらと氣力と体力の必要な仕事を毎日決行した。そのうちに一時的にグエル公園の名物のようになってしまい、週末になると彼らを目当てに集まってくる人まで現われた。
四人は毎日働く場所を変えた。時には竜舌蘭の回廊で、時には破砕タイルのベンチの前で、傾いだ回廊にて。常連客達は喜んで彼らを捜した。ガウディの常識はずれな建築物の数々が、日常生活を忘れさせてくれる。銀色の妙な大道芸人達、えも言われぬ珍妙で楽しい音楽・手品劇。日差しが強くなり、夏の訪れが心を躍らせる。バルセロナの街は人生の喜びを謳歌している。人々の心に魔法をかけつつ、四人もまた、色彩の迷宮を楽しんでいた。
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一人称問題、ふたたび
ジェンダーと一人称が一致しない人物っていますよね? ブログの書き主にも、それから作品の登場人物にも。私の作品ではゲイである設定のバー『dangerous liaison』の経営者トミーがそうなんですが、そのパートナーのステッフィは「俺」という設定にしてあります。その、役割がこれではっきりしますよね。いや、必ずしも、そういうものでもないのかもしれませんが……。この二人にはモデルがいまして、さらにヨーロッパではそういう関係は日本よりもオープンなので珍しくもなかったりするんですが、いくら親しくても、そういうことにまでは突っ込めません。
一人称問題は、私が知る限りでは日本語だけでおこります。あの人物が自分の性別と一致しない一人称を使う場合、
(1)本人が自分の生物学的なジェンダーに納得していない
(2)生物学的なジェンダーに異議はないが、性別による社会的な差別に納得がいかない
(3)性的に幼い未発達の状態、もしくは中性的な様相をあらわすため
(4)特に意味はない、なんとなく、もしくは照れ隠しで
などがあるのですが、よほど親しくないとそのどれかはわからないわけです。
同じような問題で、性同一性障害 (GID) と異性装と同性愛は全く違うとはわかっていても、自分が直面している「その人」がどれなのかはっきりと区別するのが難しかったりします。しかも、繊細な問題だけに興味本位では質問できません。
それを観察して書くとなると、それはそれで注意が必要かな、と思います。よくわかっていないで書くと、苦しんでいる人を傷つけることもあるからです。個人的には『dangerous liaison』の二人は好きなキャラで、人生の指南役としてちょくちょく出てきてもらう予定です。この二人に関しては作者としては愛情たっぷりであるということをあらかじめお伝えしておきたいと思います。ただし、私はBLには全く興味がないので、そういう場面は一切出てきませんので(笑)
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天候がすべて!

日本からヨーロッパ旅行を企画する人は、たいていぎっちりスケジュールを組んできます。計画すれば、予定通りに物事が進む日本という国に慣れているせいもあるでしょうが、まずタイトスケジュールです。十日間八カ国ツアーとか。特に、スイスみたいなちっぽけな国に、そんなに時間をかけていられるか、そう思われるんでしょうね、こちらでは笑い話になっているスケジュールが、日本人ツアーでは横行しています。
「朝にドイツ出発→ロマンティック街道→リヒテンシュタイン30分滞在→マイエンフェルド(ハイジ村)30分滞在→ルツェルン泊→翌日ルツェルン出発」
スイス人はこの話を聞くと、目を丸くするか、腹を抱えて笑います。冗談じゃないんだけど。
運良く、いい天候に恵まれれば、このタイトスケジュールでもスイスを楽しめます。スイスはヨーロッパでも特に時間に正確に交通機関が動きますし(ただし、日本ほどではありません、念のため)、渋滞もほとんどないので。
でもねぇ。曇っていることもあるんですよ。雨だって降りますしね。そうすると魅力が、全く伝わらないんですよね。30分じゃ地元の人とも触れあえませんしね。
以前ツェルマットに行った時、現地の通訳の方がぼやいていました。日本人は日程に余裕がないので、雨でもハイキングをやりたがると。他の外国人はツェルマットならツェルマットに一週間くらい滞在するので、雨の日にハイキングに行ったりしないんですよ。濡れてちっとも面白いことないし、それに危険ですしね。
そういうわけで、ハイキングや野外活動がしたくてヨーロッパにいらっしゃる方は、少なくとも同じ場所に三泊くらいするスケジュールをおススメします。いやあ、ほんとうに別世界みたいに違うんですよ。晴れているスイスは、本当に天国みたいに美しいのです。このコーナーでも、スイスの魅力をどんどんお伝えしていきますからね。
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【小説】明日の故郷 - 反省
「第三回目となった短編小説書いてみよう会」の感想提出期限となり、一応、B組全員から、またA組からも二名感想をいただきましたので、とりあえず義務としての感想の書き込みは一段落したと判断しました。みなさんからのありがたいご指摘をもとに反省と今後の創作に関しての課題を整理してみたいと思います。
まずは、予想していたよりもずっといい評価をいただけたことに御礼申し上げます。もちろん、みなさんが手加減して書いてくださったことは百も承知ですが、少なくとも、ブログを始める前に怖れていた事態には陥らなかったということで、ほっとしました。何十年ものあいだ、小説を書くことそのものに対して「読む氣にもならない」「悪い事を言わないから、やめろ」といわれるのが怖くてずっと隠してきたのです。けれど、自分一人で向上するにはもはや限度だと判断して、一か八かで公表に踏み切ったのですが、今のところ続けていても大丈夫だということですよね。ほっとしました。こうなったら、前進するのみです。
さて、「明日の故郷」についてですが、基本的文章の組み立て・日本語の文法問題などは、とりあえずこのままでいいということのようなので、皆さんからのご指摘のあったそれ以外の部分について考察してみたいと思います。
まずは「短編向きでない」という点。
つまり文字数に対して内容が多すぎるということですよね。これは、皆さんがおっしゃる通りです。同じ題材でもう少し短く切り出すとなるとどこにするか、それを考えると「ビブラクテの戦いに敗れて帰ってくる所」しかないと思うのですが、「家の焼かれるシーン」「新しい村を夢想するシーン」を回想で入れることになり、抜かせるのは戦争シーンだけになります。そうすると、普通の日本人には馴染みのない史実だけに前後関係がわかりにくくなり、全体として訳が分からなくなる。結局、まともにするには5万字程度の中編に組み立て直すしかなくなります。つまり、この企画に提出することが出来なくてアウト、ですよね。
もともとの構想では「往き」「戦争」「帰り」の三部に別れた一万五千字ギリギリのものにするつもりでした。「戦争」だけで五千字書くのは私の知識と「流血自重ルール」からいくと無理だと判断したので、二部構成にして戦争を前半と後半にぶち込んだのですが、それが特に後半を圧迫しました。さらに、最初の設定ではアレシアは「叔父さま」に熱を上げて、ボイオリクスを邪険に扱うはずだったのですが、それまで入れると愛する人の死から二行で立ち直ることになり、甥の方に心が向くまでも数百字と、かなりの尻軽女になってしまうので、その設定は却下しました。父親が戦士になれなかった鬱屈、母親との思い出も全て削ぎ取って、あの形での完成を見たわけですが、それでも詰め込み過ぎということは、完全に短編向きではなかったということになります。次回は、もう少し短く完結する題材を選ぶべきですね。
次に「説明っぽい所が多い」というご指摘。
自分では氣がついていませんでしたが、これもご指摘の通りです。他の方の作品を通読してようやくわかったのですが、私にはプログラマーとしての職業病があって、それが小説にも及んでいました。つまり「将来おこるかもしれないバグ(小説でいえば誤解・読み違い)を予想して、それがおこらないようにケースごとに予防線を張る」癖です。小説としては説明として書くのではなく、状況を具体的に書いて、読み手に想像させる余地を残した方がスマートなのですが、それがあまり出来ていなかったということです。これは次回への大きな課題になります。
たった一つの小説を書くだけで、これほど勉強させていただいたことはありません。これはひとえに主宰の自分自身さんが設定して下さった「感想には悪い所も書く」という、参加者には心苦しいルール(そうでなかったら、普段お世話になっているブログ主さんに悪い所はどうしても言いにくいですよね)のおかげだと思います。これに味をしめて、次回以降もスキルアップのために活用させていただこうと、いまから楽しみにしています。自分自身さん、参加者の皆様、そして貴重な感想をお寄せいただいたみなさま、本当にありがとうございました。
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【小説】明日の故郷 - 後書き
「明日の故郷」後書き
まずはつたない作品におつき合いくださいましたこと、御礼申し上げます。
この作品は、もともと『第3回目(となった)短編小説書いてみよう会』のテーマに沿って作った作品ですが、根本には私がスイスにやって来た時の一つの疑問が根底にあってできあがりました。
−−すなわち「なぜ、この人たちはこんなに寒くて、日当りが悪くて、資源の貧しい土地に居座って、勤勉に暮らしているんだろう? 少し動けばシエスタばかりして暮らせる豊かな土地があるのに」
その答えの一つが、この「ビブラクテの戦い」の史実でした。
それから、スイスに暮らして十年、私はこんな不利な場所に建国しておきながら、そしてこんなちっぽけな国土でありながら、ヨーロッパと世界に一目置かれる国家を築き上げてきたスイス人に対する尊敬の念を持つようになりました。ヘルヴェティ族の連邦を意味するラテン語(Confoederatio Helvetica)を正式名称として使うスイスは、苦難の歴史の中、勤勉と自己克己によって未来を勝ち取ってきた不屈の国民によって築かれた国家です。
この作品の中に、その思いを上手く表せたかはかなり疑問なのですが、昨年以来の苦難の中にある日本が、誰の手でもないほかならぬ日本人によって再生していってほしいという祈りも込めて、後書きに代えさせていただければと思います。
この作品を書くにあたって、随分たくさんの勉強をさせていただきました。この場を借りて、主宰の自分自身さんをはじめ、参加者のみなさまに御礼申し上げます。また、弱音を吐いていたところ励ましてくださったブロともならびに訪問者のみなさまも、本当にありがとうございました。
まだ至らぬところがたくさんあるかと思いますが、どうぞ忌憚のないご意見をお聞かせください。どんなに厳しいご意見でも糧にして更なる精進をするために、この企画に参加しました。容赦なくお書きください。
【小説】「明日の故郷」を通読する
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大道芸人たちの見た風景 - 3 -

イタリア編の最後に出てきたコモ湖畔にあるヴィラのイメージは、このホテル・レストランから持ってきました。実はこれはコモ湖ではなくて、イタリア国境にほど近いスイスのレ・プレーゼ湖です。でも、コモ湖にあるあるヴィラが「Star Wars エピソード2」で、アナキンとパドメが愛を語ったシーンに使われたように、このあたりの湖水地方というのはおしなべてロマンティックで美しい場所なのです。
十日間で八カ国をめぐるような忙しいヨーロッパ旅行では、とうてい足を踏み入れなれないし、旅先の候補にも入らない場所です。何故かと言うと、「エッフェル塔」「コロッセオ」「大英博物館」のような名所にあたるものが何もないからです。湖だけ。でも、その静かな美をゆったりと楽しむのが、ヨーロッパ式の休暇の楽しみかた。湖畔に座りながら何時間もワインを傾けるだけの日々を一週間過ごせば、仕事でくたびれた心と体はすっかりリフレッシュされるんですよね。
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「間食する?しない?」
でも、一応、歯止めをかけています。あまり運動をしないので、ほっておくととんでもないおばさん体型になってしまうから。
会社でこの写真のブラックチョコレートを毎日食べるんですが、午前に一列、午後に一列と決めています。とても辛いことのあったときだけ、もう一列OKというルールがあるんですが、今のところそこまで辛いことないかな。っていうか、本当にテンパっているときは、チョコレートどころじゃないんですよね。

仕事の後は、自宅に戻って、同じ敷地内にある旦那の工場の外で、一緒にコーヒータイムを取ります。その時にカップケーキ程度の「OYATSU」を楽しみますね。間食しまくりだなあ……。
こんにちは!FC2ブログトラックバックテーマ担当の木村です!今日のテーマは「間食する?しない?」です。間食、それは日々の誘惑…職業にもよると思いますが、特にデスクワークの方は日々間食の誘惑と戦っている方も多��...
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女が羽化してしまうワケ
よくお邪魔しているウゾさんのところに素敵な作品がありました。
断片 その一
幼馴染の少年達は うぉーーー と雄叫びを上げて 何処かへ走り去った。
では 少女の アタシは 何処へ向かえば いいのだろうか。
アタシは 何時も取り残された 少年達に
あの馬鹿で 単純で 底抜けに明るい笑顔を見せた
あの背中は 何処か遠くへ 少女のアタシを 置いてけぼりにして。
そして 取り残された少女達は 何時しか 甘い香を放ち
フワフワとした会話 フワフワとした身体で
少女達だけに通じる 少女達だけの言葉で話す。
やがて 少女は 羽化する 其の羽で飛び立つ為に
少女は 年と共に自由になる 年と共に夢を語るのか
暑いです 本気で暑いです そして 金星通過 - 百鬼夜行に遅刻しました
ここに引用させていただいた作品の後に、コメントでこう書かれているんです。
高校とか大学生ぐらいの女性の方は悩みが多く
其れが ある程度の年齢になると 明るく…
別に悩みが無くなった訳ではなく 悩みとの付き合い方が上手くなるのか
悩みを隠すのが上手くなるのか…
これって、いい所をついているなあと思います。
そう、「いい歳した」女は悩みを表に出さなくなります。とくに結婚した後には、その状況が如実になりますね。人間だから悩みがなくなるわけじゃないんですが。
理由の一つには、継続に悩んでいられない状況もあると思います。考えてみて下さい。ドロドロに悩んでいる途中で、「あ、旦那が帰ってくる。早くご飯炊かなきゃ」これだけで耽美な悩みも全て吹き飛びます。
「私の人生って……」とため息をついた横で、赤ん坊が泣き出し、あわててお尻に付いたウ○チを拭き取る光景。人生の儚さは、糞尿の持つ破壊力には到底勝てないのです。
男性や独身女性に日常生活がないというわけではありません。でも、自分のためだけの家事なら、ため息とともに押しのけることが出来ます。それが出来ない「他人のための」炊事洗濯をする女は、「悩みはとりあえず脇に置いておいて」がその内に常時化してしまうのではないでしょうか。その図太さは「オバさん化」ともとれますが、私はどちらかというと前向きにとらえています。「泣き崩れている暇があったら、閉店間際の食品売場で美味しい安売りの和牛でもゲットしよう」っていうのも、一種のしなやかな強さですよね?
思えば、私の母親やその他のお母さんたちは、自分の苦しみをどうにか封印して、毎日おいしいご飯を炊いてくれた。もちろん、黙って仕事に行ってくれていたお父さんたちもですけど。大人になるっていうのは、そういう辛さを飲み込めるようになることなのかもなあと思います。(だから、実を言うと、私は最近日本で流行っている「美魔女」だの「女子力」だのが嫌いなんです。外見上の若さや、かわいらしさに留まろうとするあまり、そういう真の美しい大人になれない女性を大量生産しているような氣がして。ま、これは話が飛び過ぎですね)
私はどうかな。年齢的にはもう「オバさん」ですが、真の大人にはまだほど遠いですね。子供がいないので、どこかにまだ自分の想いに完全に没頭する瞬間を残しても許されています。でも、ある程度「大人の女」をめざして振る舞っているから、その「想い」の部分は自分の奥深くにひっそりとしまって置きたくなるんですよね。そう。お酒飲んで、人前で泣くなんてことは、もう出来なくなっています。ブログでもね〜。もっと人生が大変な方のブログ読んでると、こんなに恵まれた環境にいるし、文句言えなくなりますよね。
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【小説】大道芸人たち (16)マラガ、ハイビスカスの咲く丘
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大道芸人たち Artistas callejeros
(16)マラガ、ハイビスカスの咲く丘
「ようこそ、マラガへ」
カルロスのクリスマスパーティで会った、カデラス氏はたいそう愛想よく言った。
マラガ市内海岸沿いの公園に面したコルティーナ・デ・ムエレ通りに新しく開店した最高級クラブ『Estrella del Mar』は、十九世紀のいかめしいビルディングの中にあるとは思えないほどモダンだった。黒く光る大理石の床や壁とワイン色の革のソファが落ち着いたアイレを醸し出している。店の一番奥にスタンウェイが置かれていて、暗い店内の中でそこには柔らかいスポットライトがあたるようになっていた。好奇心から、バーのメニューを開けてみた稔は、ワイン一本が最低でも八十ユーロしているのにあわててそっと閉じた。
ここでの仕事は、面白いことは一切やらなくていいということだった。とにかく高級そうに、そしてお高く止まって仕事をしてほしいというのだった。
実際に、その店には、面白いことを求めているような客はほとんどいなかった。どちらかというと上品に社交をしているか、堅苦しくビジネスについて語っているか、それともにらみ合うような真剣さで愛を語っているような客ばかりだった。
レネはアンビシャスカードを演じる時に、普通のトランプではなくタロットカードを使った。その流れるような美しいカードさばきと、フィレンツェで買った高級なカードが手品の内容をさらに上品に見せて、年配の女性客に人氣だった。どういうわけだかわからないが、いつの間にか、レネはカードマジックを演じるよりも常連のドンナたちにタロット占いをする時間の方が多くなってしまった。しかし、それがカデラス氏を大いに喜ばせたので、他の三人は放っておいた。
稔が出るときは、できるだけクラッシックな音楽を弾いた。最初はタレーガを弾いていたのだが、なぜかバッハによるリュート曲の方が受けがいいので、ひたすらバロック専門で弾くようになってしまった。
カデラス氏が大いに期待するのはいつもヴィルと蝶子のアンサンブルだった。二人が何を演奏してもカデラス氏はベタ褒めした。もっとも他の雇用主と違って、カデラス氏は蝶子ではなくてヴィルをやたらと絶賛した。
「ありゃ、そっちのケがあるんだな」
稔が言うと、蝶子はにやりと笑った。ヴィルは無表情だったが、ありがたがっていないのは確かだった。
カデラス氏はヒブラルファロの丘に別荘を所有しているので、そこで寝泊まりしてほしいと言った。パラドールが隣接しているヒブラルファロ城のすぐ側にあり、テラスからは夜景に輝くマラガ市と美しくライトアップされた闘牛場、そしてどこまでも続く海が見えた。仕事が終わった後の夜二時半頃、丘を歩いて登りながらさすがに静かになりかけているマラガの町を見渡すのが四人の日課となった。もちろんその後に酒宴を催すようなことはなく、たいてい全員九時頃まで起きだしてこなかった。
いつも一番先に起きるのはヴィルだった。庭に出て、劇団時代からの習慣となった筋肉トレーニングをする。それからキッチンでコーヒーを淹れる。たとえ、寝床に向かうのが一番遅くても同じだった。次に起きてくるのは蝶子か稔で、レネはいつも最後だった。
稔は眠りが浅い方で、たとえば夜行列車の中やドミトリーの部屋で、レネがいびきをかいたり、蝶子が寝言をいいながら寝返りを打ったりすると、真夜中でもすぐ目を醒ましてしまうのだが、その時に何度もヴィルがベッドに起き上がって窓の外を眺めているのを目にしていた。その後、稔はまたすぐに眠りに落ちるのだが、たぶんヴィルは長いことそうしているのだろうと想像していた。
考えてみると、イタリアにいた頃は、そんなヴィルの姿を見た記憶はほとんどなかった。つまり、ヴィルが不眠ともいえる状態になったのは、スペインに来てからなのだろう。符合する。トカゲ女にはまったのと同時期だ。
ヴィルについて稔は蝶子と同じように困惑していた。どうしても抜けられない壁の向こうにいるドイツ人を稔は理解すると同時にもどかしく思っていた。過去について口にすることができない。あふれる情熱を音楽以外で表現することもできない。細やかな優しさとひどい冷たさが共存している。どこかで受けた傷を癒せないのかもしれない。それともはじめから誰かを信用することを教えられないまま大人になってしまったのかもしれない。誰にも愛された記憶がないのかもしれない。だから愛を表現することもできないのかもしれないと。江戸っ子の稔にはヴィルのやっているようなまどろっこしいことはとてもできそうにもなかった。
「ここって、本当に南国なんだわ」
コーヒーを飲みながら蝶子が言った。
「海ですか?」
レネが問いかけた。
「庭から海が見えるんだけれどね、そこにハイビスカスが咲いているのよ。しかも温室でなくって地植えなの」
蝶子は嬉しそうに言った。
「へえ。あれってハワイみたいな常夏の国に咲いている花かと思った。四月のヨーロッパにも咲くんだな」
稔にも意外だった。
「コスタ・デル・ソル、太陽海岸っていうぐらいだ。アルプス以北のヨーロッパ人にとっては楽園みたいなものだな」
ヴィルは遠く濃紺に輝く海を見渡した。
「あとで、海岸に行ってみない?」
蝶子ははしゃいだ。海は大好きだった。
「OK。でも、先にギョロ目に電話してからだ。一ヶ月したら再びたかりに行くってな」
稔が言った。
園城真耶に頼んだ書類は、そろそろコルタドの館に着いているはずだった。二人がバルセロナの領事館で更新手続きをするには、少なくとも二週間以上かかるはずだ。加えて、蝶子がカルロスにヴィザのことを上手く切り出して協力してもらうとしたら一ヶ月近く滞在する必要がある。稔はレネとヴィルの様子を横目で見た。
レネは複雑な心境だった。既に恋愛感情はないとはいえ、大好きな蝶子とカルロスがやたらと親しくするのは面白くない。だが、イネスの作る料理と四時のおやつが恋しくてたまらないのも事実だった。アヴィニヨンの生家は別にして、あれほど居心地のいい空間はない。レネにとってイネスは第二の母親だった。
ヴィルの方は、完全な無表情に潜り込んでいた。ということは、かなり深刻なわけだ。おととい稔が多数決にかけた長期バルセロナ滞在の案件にヴィルは賛成票を投じなかった。蝶子が健康保険の重要性を示唆してヴィザが欲しいのでカルロスの助けを求めたいのだと説得したので、レネが賛成に転じた。それで多数決が成立したが、最後までヴィルは黙っていた。ヴィルにしては正直な反応だと稔は思った。頼むから、滞在中あんまりギョロ目にべたべたしないでくれよ、トカゲ女。稔は願った。
絵に描いたような海水浴場の風景だった。青い海、白い砂浜、縞模様のパラソル。しかし、人影はない。蝶子とレネははしゃいで素足になり、海に入った。
「コルシカでも、こうやって海に入ったのよ。でも、あのときは一人だったものねぇ」
「コルシカのどの海ですか?」
「ボニファチオの近く。誰も行かない隠れ家みたいなビーチがあったの。誰にも会いたくなかったし泣いてばかりいたのよ。でも、海に入って、足下を波に洗わせていたら、もういいかなって思えてきて、それでイタリアに移ることにしたの」
「僕は南には行かなかったから、あそこでは会えませんでしたね。でも、パピヨンが決めてくれてよかった。僕やヤスと同じフェリーに乗ることを」
「そうね。あれが始まりだったものねぇ」
蝶子は感慨深げに言った。足下は同じように波に洗われている。でも、あの時とは全然違う。レネの両足もまた、すぐ近くで波に洗われている。
「おい、お前ら、何で足なんか見てんだよ」
しびれを切らした稔が遠くから叫んだ。二人は笑って海から上がると、裸足のまま靴を両手に持って稔とヴィルの元に戻った。
「夏になったら、どこかで海水浴しましょう」
「へ? いいよ。地中海沿いにはいくらでも海があるからな。それはそうと、そろそろ飯を食いに行こうぜ」
稔は言った。
四人は近くのバルに入った。スペインではレストランに入るよりもバルで食事をすることの方が多かった。少しずつ好きなタパスを頼んでは一緒につつき、酒を飲む。稔はイベリコの生ハムに煩悩していた。こんな美味いものはない、そう思った。レネはいつもオリーブに飛びついた。ヴィルはイネスの料理のおかげで苦手だった魚介類を克服し、自らイカリングフライを注文することが多くなった。しかし、あっという間に蝶子と稔に奪われてしまうので、二皿目をすぐに注文せざるをえなくなった。
「こういう下世話な味って、時々無性に食べたくならない?」
蝶子は稔に言った。
「ああ、お祭りのイカ焼き、食いてえな」
稔は遠い目をした。
「なんですか、それは?」
もちろんレネとヴィルには通じなかった。
「日本のお祭りでね、屋台で売る定番の食べ物があるのよ。イカだけじゃなくて、焼きそばってヌードルとか、綿飴っていうザラメをつかった雲みたいな形のデザートとか。ものすごく美味しいかといわれると疑問なんだけれど、記憶とともにノスタルジアが喚起されるのよねぇ」
「俺さ、いつも三社祭で神輿を担いでいたんだよな。五月が近づくとなんか血が踊ってきたものさ。だけど、こっち来てから、踊らなくなったな」
「ヨーロッパにもそういうお祭りってあるでしょう?」
蝶子がレネとヴィルを見た。
「カーニバルですかね」
「そうだな。それから精霊降臨祭のパレード。ミュンヘンではオクトーバーフェスト……」
「私は結局一度も行かなかったのよ」
蝶子が言った。
「ミュンヘンに七年もいたのに?」
稔は驚いた顔をした。
「だって、あそこには一リットルのジョッキしかないんだもの。そんなに飲めないわ。一緒に行って騒ぐ友達もいなかったし」
「そういうものなんですか?」
レネが訊くと、ヴィルはだまって頷いた。
「テデスコは飲みまくったんだろうな」
稔はヴィルの手元のセルベッサを見て言った。
「一度離れると座る場所がなくなる。だから、座れたが最後、交代で用を足しに行く以外は一日中ずっと同じ場所で飲みまくることになるんだ」
他の三人は顔を見合わせた。いくら酒が好きな三人でもそんなのは拷問に思える。
「それで、毎年行きたいって思うわけ?」
「毎年終わる頃には、もう二度と来るものかと思うんだ。だが、次の年になるとまたミュンヘンに向かっているな。そういうものだ」
「じゃあ、今年も行きたいと思う?」
蝶子が訊いた。ヴィルは首を振った。
「あの時期のドイツにいると行きたくなるが、今ここで考えるとなぜ行きたいと思うのか理解できない。わざわざ夜行に乗ってまで行く氣はしないな」
「まあ、そうだな。俺も飛行機に乗ってまで神輿を担ぎに行きたくないもんな」
稔が頷いた。
「でも、イカ焼きは食べたいんでしょ?」
「その話、すんなよ! マジで食いたくなるじゃないか」
稔は、がばっとすべてのイカリングを食べてしまった。仕方なくヴィルは三たび同じ注文をすることになった。
そんな下世話なものがまだ腹でこなれていないのに、四人は再び『Estrella del Mar』で、スーツとドレスに着替え、開店を待つことになった。
「俺、イカ臭くないか?」
そういう稔に蝶子はクックと笑った。カデラス氏がコホンと咳をして、四人のアイレを変えようとした。それで、蝶子はカデラス氏のお氣に入りのヴィルに何かを弾かせてご機嫌を取ろうと画策した。
「ねえ、開店まで何か弾いてよ」
「何を」
「そうね、せっかくだからレクオーナの『アンダルシア』は」
ヴィルは軽い感じで『アンダルシア』を弾き始めた。どちらかというと『そよ風と私』と言った方が近い演奏だった。海に入って波と戯れ、ハイビスカスに目を細め、それからイカリングを争っていた四人の軽く楽しい雰囲氣がまだ残っている演奏だった。開店までだから、それでもいいと他の三人もカデラス氏すらも思って聴いていた。ピアノを弾いているヴィル自身もそういう心持ちのまま弾き始めたのだ。
だが、ピアノにもたれてティント・デ・ベラーノを傾けつつ聴いている蝶子の微笑みを見ているうちにヴィルの心境が変化した。
彼は『アンダルシア』を弾き終えると、続けて同じ組曲の中の『マラゲーニャ』を弾きだした。
蝶子は最初マラガにちなんで弾きだしたのだと思っていた。が、暗闇の中からくすぶる炎のようにうごめきだしたメロディを聴いているうちにその音色の違いに氣がついた。微笑みが消えた。離れて聴いていた稔とレネもその違いに氣がついてピアノの方を見た。蝶子が完全に引き込まれているのが見えた。
静かな中間部に、ヴィルは平静心を取り戻したかのように弾いていたが、後半部になると再び激しく華麗な指の動きの中に、隠せない強い情念を込めて弾いた。あまりに情熱的な演奏に稔とレネは、なかば怯えるように顔を見合わせたが、蝶子は目をそらさずにずっと真正面からヴィルを見つめていた。
カデラス氏は四人の雰囲氣が、彼の望む真剣なものに変わったことを喜ばしく思ったが、このたった一曲の演奏で彼らに何が起こったのかを理解することは全くできなかった。その晩、四人はお互いにほとんど口をきかなかった。
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たくさんの嬉しいこと
知っている人もいなくて、反応もなくて寂しかった三ヶ月前が嘘のように、今ではおなじみの方がいて、リンクやブロともで仲良くしていただいています。小説の感想をいただき、語りかければ続々とコメントをいただけるようになりました。
でも、何よりも嬉しいのは、三ヶ月前には知らなかった素敵なみなさんとの出会いがあったことです。
ネット上の知り合いというのは、もっと漠然としたものだと想像していましたが、全然違いました。本名や具体的な住所などは何も知りませんが、普段どんな生活をしていて、何を考えて、どんなことに苦しんでいるのか、そしてそれをお互いにいたわりあっている、楽しいことがあったら一緒に喜ぶ、そういう仲なんだとようやく理解したのです。
素敵なブログには、素敵な方々が集っていて、芋づる式にいい人々に出会えたのもこの三ヶ月の収穫でした。
深いことも、ひたすら楽しいことも、何でもありの語らいがとても嬉しいです。私が読者として楽しみにする小説や詩やイラストや記事がたくさん出来ました。
コメントを通して、魂のありかについて語り合い、小説の技法について話し合い、おいしい料理を習い、映画のことや各地の祭りのことを教えていただき、さらにはダイエットの相談にまでのっていただいてます。世界がものすごく広くなったようです。地球の裏側にいて言うのも変ですが。
みなさんのブログに引き続きお邪魔させていただきたいと思います。そして、いつも来て下さっている素晴らしいみなさんに、これからも来ていただけるよう祈りながら、ブログを更新し続けたいと思います。これからもどうぞおつき合いください。
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環境と便利さの共生を目指して
三月にブログをはじめて以来、たぶん今まで「一日最低一記事」を死守してきたと思うんですよね。それもこれも、定期的に見に来てくれる訪問者の方を増やしたいが故。最初は、孤独でしたからねぇ〜。おかげさまで毎日いらして下さる方、出会えてよかったと思えるリンク先さま&ブロともさんたちに恵まれ、三ヶ月が楽しく過ぎました。みなさん、本当にありがとう!
で、ここしばらく試みているのが、「小説」「写真」「トラックバックテーマ」「もの書きとしての思う事」などのジャンルの違うネタをバランスよく書いていく事なんですが、これを曜日で振り分けようかなと。要するに、記事を考えるための便宜なんですけれど。それで、月曜日のネタはこの「美しいスイス」。スイスに関する記事と写真で、スイス暮らしについてつらつら書こうかなと。

この写真は、我が家から車で20分くらいの所にある人造湖でございます。要するにダム。我が家の近くには結構な数の水力発電所がありまして、「父なるライン」をフルに活用して発電しているわけです。「フクシマ」以前からスイスにはエネルギーとコストに関する議論は盛んで、例えば電力会社と「原子力発電によるエネルギーを使わないプラン」が選べたりするようになっています。もちろん、多少割高です。一方、安い電力を使っている人は、自分が何をしているのかも自覚させられるというわけです。
「フクシマ」以後、スイスでは強い世論を受けてスイスでは速やかに脱原発と2020年という期限が決定されましたが、日本と同じで原発の停止後のエネルギーをどうするかはまだ決まっていません。ただ、日本でよりも「環境と安全のために心を砕くのは先進国としては当然のことで、そのお金がかかるのは止むをえない」という「常識」があります。だから、想像するに、こうした水力発電や太陽発電、また、騒音と外観から嫌われている風力発電が増えていく事と思われます。
ダムの人造湖は自然と人間の利便性が一致した、実に美しい風景だと思います。かつてここはただの川縁でしたが、いまは近くに「湖畔の眺め」などという名前のレストランも出来て、脇の国道を通行する人たちがしばし停まり、時にはピクニックなどもして楽しむ憩いの場所になっています。もちろん、本当の自然とは違うのですが、このバランスのとれた美が、自然と人間の平和な共生の一つのあり方かなと思わせてくれるのです。
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