夢のあとに
普通に仕事で苦労している夢とか、意味もなくずっこける夢とかも見るのですが、書いている小説の続きを見たりもするのです。もしくは夢から発展してお話が出来る事もあります。
起きた時に憶えていればしめたものですが、八割くらいは失われちゃいます。「あっ、今すごい面白いストーリーの夢みていた」ってことだけ憶えていると、やたらと悔しい。しかもいい所で起こされたという場合は、八つ当たりモードに突入です。うちの旦那、つい最近まで私が小説を書いている事を知らなかったので、何に怒っているのか全くわからずきょとんとしていました。
フィクションの夢は見ても、実は、現実で自分が関わっていた恋愛関係の夢は生涯に一度も見た事がありません。不思議。
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建国を祝う
8月1日はスイスの建国記念日です。ハイジの次に日本で有名なスイス人、英雄ウィリアム・テル。まあ、実在しなかった人なんですが、この伝説の元になった史実、悪代官の支配に抵抗した三州(当時は三国)の誓約同盟 (Eidgenossenschaft)を締結したのが1291年8月1日で、これを建国記念日としてスイスでは毎年盛大に祝うのです。

日本のように海や神風台風に守られる事もなく、ひたすら周りの強国の干渉に自力で抵抗し続けたスイスは独立という事に対する意地と誇りが半端ではありません。永世中立なんて美しい言葉だけは独立を守れないと、完全な武装にこだわり、つい最近まで国連に加盟するのすら否定していたぐらいです。自分たちに出来る事はいかなる犠牲を払ってでもし、その上で神のご加護を祈る、まさに「人事を尽くして天命を待つ」な国民性。その善し悪しは別として、いまだに直接民主制を固持する頑固な人々は「他力本願」という言葉とは無縁です。
そのスイス人が、誇りを持って祝うのが8月1日です。普段は爪に火を灯すように節約に命をかけるスイス人が、どの市町村でもかがり火を焚き盛大に花火で独立を祝うのです。
8月1日が近づくと、どのスーパーや店でもやたらと国旗デザイングッズが売られるようになります。各家庭には国旗が掲げられます。自分の州の旗も飾ります。どこもかしこも赤地に白十字だらけになります。愛国心の固まりです。
これを見る度に、私は複雑な心境になります。自分の国の多くの人が日の丸に対してする反応について。
いろいろな意見があるのはわかっています。自分の意見が、辛い体験をした方に不快である事も自覚しています。それでも、私は自分の国の国旗や国歌を卑下する人が多数派のような風潮を悲しく思うのです。
私は故郷から遠く離れていますが、未だに強い愛国心があります。白地に赤い太陽を配したこの上なくシンプルかつ美しいデザインの国旗を誇りに思っています。1300年以上前に、属国扱いをしようとした大国に対してトップが精一杯の誇りをみせた「日出ずる国」であるという精神を大切に思っています。他のどの国でもなく、日本に生まれた事を、美しい国土と独自の文化を生み出した日本を。
だから、私は国旗と国家に敬意を払います。たとえ一時はそれが天皇を意味したとしても、現在主権が国民にあるのなら「君が代」とは「日本国民の生き続ける時代」です。それが永久に続くようにという、世界にも類のない平和な歌詞の国歌を誇りを持って歌っています。オリンピックであろうとサッカーの試合であろうと、国旗が揚がり国歌が流れれば当然のように起立して敬意を示します。
これを、すべての人がすべきと言いたいわけではありません。ただ、私は悲しいのです。自分の国の国旗や国歌を誇りに思っているというだけで、なぜ非難されなくてはいけないのだろうと。
諸手を挙げて建国記念日を祝うスイスの人々を見て、オリンピックやサッカーのワールドカップやヨーロッパ選手権の度に、誇らしげに自宅や車にそれぞれの国旗を掲げて応援するヨーロッパの人々を見て、なんだかなあと思うのです。
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これを食わず(飲まず)して……
それでふと思いました。もしかして、私は日本の食べるべき美味しいもの、飲むべき素晴らしいお酒や飲み物をあまり知らないかも!
このブログを訪れてくださる皆さんは、幸い全国のあちこちにいらっしゃる模様。それに国内旅行で食べたウルトラ美味しかったもの、ってのもある事でしょう。
そこでお願いです。コメントで教えていただけませんか?
- − レネに食べさせたい美味しいお菓子
- − ヴィルに飲ませたい日本の名酒
- − 蝶子と稔にもの申す、これを食べずして日本人ヅラするな
ま、要するに、帰国した時に私が食べたり飲んだりしようと思っているだけなんですけれど。あ、「大道芸人たち」の第二部に書こうかなとも思ってます。
初コメントの皆さんでも大歓迎です。どうぞよろしくお願いします。
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大道芸人たちの見た風景 - 9 -

学生時代、修学旅行はいつも奈良・京都でした。小学校は私立で、公立の小学旅行よりリッチだったのか遠い京都と奈良に。中学の時は、京都と奈良は公立としてはごく普通の行き先でした。高校は、都立高校でしたがほかより貧乏だったのでしょうか。とにかくそういうわけで三回いく事になったわけです。
その最後の修学旅行で自由行動の日に嵯峨野を歩いた事は間違いないのですが、そこでおいしいお餅を食べた記憶があるのです。串に刺してありましてね。嵐山の橋の側だったと記憶しているのですが。
で、去年再び京都を訪れた時に一番最初にリサーチして行こうとしたのがそのお餅でした。でも、見つかりませんでした。写真の今宮神社のお餅は無事に食べて、これは作中で甘いものに目がないフランス人レネにも食べさせる事が出来たのですが。
嵐山のお餅というのは私の記憶違いだったのか、それとも慌てる乞食はなんとやらで食べ逃してしまったのか、未だに釈然としないでいる私なのです。
この記事を読んで「大道芸人たち」を読みたくなった方は、こちらからどうぞ
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ブログ訪問について
コメント欄にかなりきつい感じで書き込みがしてありました。要約すると「訪問返しだけが目的なら履歴を残すな。コメントもしないくせに」ってことでした。
ブログ主の方は恐縮して、謝って、ブログ更新まで止めてしまわれていましたが、この件は私にはちょっとショックでした。私はコメントはしなくても、その方のブログがわりと好きだったのです。
私のブログには、かなりの数の方が毎日いらしてくださっています。私は出来る限り訪問返しをするようにしています。でも、すべての方の所にコメントを入れた事があるわけではありません。コメントを入れたくても入れられない記事もあるのです。興味対象が違っていて、ブログのジャンルが違えば、「へえ、そうなんだ」と思う以上の感想を持てない事だってあります。その方達が私の小説に興味を持てないように、私もたとえば一度もやった事のないゲームのプリントスクリーンに何をコメントすればいいというのでしょう。小説を書く時間も欲しいので、コメントを入れられるのは一日に五件くらいが限度です。
でも、訪問返しをするのは、自分のブログのアクセス数を伸ばすためではありません。沈黙を守ったままいらしてくださる方についても同じだと思っています。コメントはくださらなくても、ほぼ毎日いらしてくださる方、もしかしたら拍手をくださったかもしれない方は、大切な訪問者さんだと思っています。私はお世辞や義務のコメントは入れる事が出来ません。知らない事なのに知ったかぶりをする事も出来ません。だから、メッセージを入れないまま訪問する事が、このまま続く事もあるでしょう。そのブログが私の興味対象からかなり外れていても、もしかしたら、その内にコメントを入れられるような、何か私の知っている事の記事が出てくるかもしれないしと思いながら、訪問返しをします。拍手ボタンがあって、「いいな」と思った記事には拍手もしています。もし、それだけじゃ、失礼だと思っていらっしゃった方がいらしたなら、この場でお詫びします。でも、この訪問の仕方を変える事はないと思います。
もし、私のブログに興味がないのに嫌々訪問返しをなさっている方がいらっしゃれば、単に訪問をやめてくださって構いません。もし急にいらっしゃらなくなったら、そういう事なのだなと判断してこちらも訪問しないようにします。
なんだかちょっと悲しくなってしまったので、記事にしてみました。
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「水族館では何が見たい?」
でも、実を言うと、水族館や動物園は近年は前ほど好きじゃなくなってきました。理由は、人間の都合でいるべきでない所に閉じ込められた生命が可哀想だと思うようになってしまったからです。
かなり前の事ですが、ケニアのマサイマラ国立公園に三週間滞在する機会がありました。そこで私は野生動物をたくさん見てきました。「素敵」とか「かわいい」とか「かわいそう」を超越した本物の生命の輪を目の当たりにしました。生存競争は過酷で、たとえばライオンなどもたてがみがふさふさではなく、顔も傷だらけだったりするんですが、それでも目が生き生きとしているんです。動物園で見る覇気のないエサを定期的にもらえてだらりとしたライオンとは全く違うんです。シマウマも、キリンも、象も見渡す限りの大草原を自由に走り回る野生の姿は、それだけで神々しい美しさでした。それから、私は動物園や水族館の生き物が氣の毒でならなくなってしまったのです。
写真は、南アフリカのケープタウンに生息している野生のペンギンです。ぴょこぴょこ歩く姿は実にキュートです。けれどもちろんどこかに大海原で数分後にもシャチなどに食べられてしまう危険と隣り合わせで生きている緊張感があります。本物の大自然の中の、本物のペンギンです。南極ではないんですが。
もちろん、次の週末に観にいけるわけではありません。でも、そんな手近に本来生息していたのとあまりにも違う環境に動物を閉じこめることは、人間の傲慢さではないかなあと思ってしまうのです。

こんにちは!FC2トラックバックテーマ担当ほうじょうです!
今日のテーマは「水族館では何が見たい?」です。
水族館マニアのあなたも!水族館にはめったに行かないというあなたも。
水族館、素敵ですよね~
ほうじょうも、水族館に進んで自ら行くタイプではないのですが、...
FC2トラックバックテーマ 第1463回「水族館では何が見たい?」
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リンクのみなさんについて - 2 -
多分この順番でリンクをさせていただいたと記憶していますが、なんせ歳なので……。順番が前後してしまったらごめんなさいね。まだまだご紹介は続きます。
Duty リンスさんの小説ブログ
現役高校生で生徒会長をしているリンスさんは、高校生が美形のアンドロイドと暮らすSF小説「Duty」を書いています。ご自分が実際に交通事故でお姉さんを亡くされた経験をもとに書かれた肉親を亡くした喪失感に対する文章は心を打ちます。イラストもご自分で描かれています。彼女のオリキャラへの濃い愛は同じく書く者として共感たっぷりなのです。
玩具箱を引っくり返したッ!! 自分 自身さんのゲームと日常+「何か」のブログ
「短編小説書いてみよう会の主宰者さんです。小説「明日の故郷」が出来たのは、「第三回目となった短編小説書いてみよう会」に参加したからです。おかげでたくさんのブログともだちも出来ました。しばらく更新が止まっていらっしゃいますが、再びの登場をお待ちしています。
私の映画鑑賞 しげちゃんさんの映画鑑賞ブログ
難病と闘いながらも、ヒューマン映画の紹介記事を書いていらっしゃる大人氣のブログ。紹介なさっている映画の選択もいいのですが、解説なさり、ご自分の意見を書かれるしげちゃんさんの文章がなんとも素晴らしい。お人柄を尊敬してやまない私です。しばらくお休みになっていらっしゃいましたが、嬉しい事に復帰なさいました。リンクもしていただいてとても嬉しく思っています。
百鬼夜行に遅刻しました ウゾさんの小説や写真と日常のブログ
なんどもコラボしていただいているウゾさん。美しい独特の光を放つ写真、その奥深い文章と視点から勝手にずっと壮年だと思っていたのですが、少年でございました。いや〜、人間は年齢じゃありませんね。本当に。同年代から歳上に対するような敬意を持っておつき合いさせていただいてます。生まれてはじめて作品をいただいたのもこの方です。(無理矢理奪い取ったという説もあり)よく登場する三匹の猫、それにとってもいい味出しているご家族の記事も魅力です。
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【小説】大道芸人たち (20)東京、 園城家にて
あらすじと登場人物
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大道芸人たち Artistas callejeros
(20)東京、 園城家にて
拓人は、真耶の家の居間で、リストの「コンサート用エチュード三番」を弾いていた。真耶が好きでよく弾かされる曲だ。弾きながら、目はさりげなくヴィルを観察していた。先ほどここについて紹介された時に、もう少しで声を出すところだった。ピアノの上手い謎のドイツ人だって? 蝶子も真耶も何を言っているんだ? 拓人は二人がふざけているのかと思った。
ミュンヘンに留学していた時に、拓人がしばらくつきあっていたのはイギリスからのフルートの留学生だった。彼女がコンクールで六位入賞した時に、会場で有名なエッシェンドルフ教授を見た。
「ほら、あれがエッシェンドルフ教授よ。フルートで身を立てるなら師事したい先生ナンバーワンでしょうね」
「なぜ、君は頼まないの、エヴェリン?」
「そう簡単に見てもらえないわ。お眼鏡にかなった本当に上手い人しか見ないんだって。それにね。たとえ教授が見てくださるとおっしゃっても、私の親が許してくれないと思うの」
「何を?」
「女があの教授に教えてもらっているってことはね。お手つきになる可能性が高いってことなの。私はフルートで食べていきたいとは思っているけれど、親は私に立派な人と結婚してもらいたいと思っているから、そういう噂の起こりそうな先生はね」
拓人は、そりゃ羨ましい教授だ、と心の中で思った。
「だけど、さっき優勝した教授の弟子は男だったぜ?」
「やだわ。名前を見なかったの? あれは教授のひとり息子よ」
「へえ。家庭があるのに、好き勝手しているんだ。さすがヨーロッパの上流社会は……」
「あら。教授は独身よ。昔、名家のお嬢さんと結婚していたけれどすぐ離婚したんですって。今日優勝したアーデルベルトのお母さんとは結婚していないの。お母さんも昔の教え子みたいね。でも、教授は息子の才能に惚れ込んでいるみたいよ。教授の後ろ盾があって、さらに両方からの遺伝であの腕ですもの、きっとすぐに有名になるわね」
優勝に笑顔を見せるでもなく、真っ直ぐ背を伸ばして教授と並んで立っていた金髪の男を拓人は十年以上経った今も忘れていなかった。髪型と服装は違うけれど、まちがいなくそこにいるドイツ人だ。
だが、本当に蝶子と真耶は、ドイツ人をただの演劇青年だと信じているようだった。
「ねえ、いいでしょう。ヴィルさんも何か弾いてよ」
「たった今、その達者な男が弾いたその後に?」
嫌がらせにもほどがある、という顔だった。
だが真耶は満面の笑みで強制した。稔は、ここにもひどい女がいるぜ、と思った。ヴィルが渋るので蝶子もカルロスに夕食をねだる時のような笑顔を追加した。ヴィルは諦めたように、拓人の空けたピアノの椅子に座った。
「短いので勘弁してくれ」
そういうとエルガーの『愛の挨拶』を弾いた。真耶は拓人にほらね、という顔をしてみせた。
優しく明るい音色だった。カルロスの館で、それともマラガで聴かせたような、重く苦しい響きを想像していた蝶子は少し驚いた。彼はどこか変わった。蝶子は思った。真耶に会ったからなのかしら。
でも、あの晩、私の告白のあとに真耶が突っ込んでも、彼は自分の事を何も話さなかった。蝶子はそれを残念に思っていた。どうして何一つ話してくれないんだろう。
お茶が済むと、真耶が庭の薔薇を見せるといった。レネは飛び上がらんばかりに大げさに喜んで同意し、蝶子も、座っているのに飽きた稔も席を立った。
拓人は言った。
「僕は、遠慮するよ。ヴィル君、君も薔薇の間の散歩が好きか?」
「いや、俺は薔薇にはそれほど興味がないんだ」
それは蝶子に向けていった台詞だった。
「だったら、ちょっとピアノの技術的な事について君と意見を交わしたいな」
ヴィルは特に何も言わずに残った。
「結城さん、素敵になったわねぇ」
外に出ると、蝶子は言った。真耶は微笑んだ。
「ね。いい音を出すようになったでしょう?」
「そうね。昔から上手だったけれど、深みが違うわね。それに、いい男になったわ。今だったら二つ返事で付いていくのに」
「なによそれ」
「大学生の時、他の子たちと同じように一度は迫られたのよ。でも、返事を渋っているうちに、さっさと次のターゲットに行かれちゃった。今から名誉挽回させてくれないかしら」
蝶子はぺろりと舌を出した。
真耶は厳しい顔で言った。
「ダメよ、絶対に」
「なんでよ。あの人あいかわらずプレイボーイなんでしょ? 真耶は氣にもしていないんじゃないの?」
「他の女の人はいいの。遊びでも本氣でも。でも蝶子だけはイヤ」
「どうして?」
「彼と奏でる音楽は私の聖域なの。蝶子はそこまで入って来れるから」
蝶子は真耶をちらりと見た。何を心配しているのよ。そんな深くに私が食い込めるわけないじゃない。
稔は、こいつらなんて会話をしているんだ、と呆れた。テデスコがここにいなくてよかったよ。また思い詰めるからな。
蝶子がまだ学生だった頃、ラヴェルの『亡き王女のためのパヴァーヌ』をフルートで吹いたのを拓人は憶えていた。美しい響きだったが、今、ヴィルがピアノで弾いているような、強い情感はなかった。あの頃は拓人も真耶も蝶子もまだ若かった。技術を切磋琢磨していたが、心はまだ音楽にふさわしくなかった。十年経ち、人生経験を繰り返して僕たちは音楽家になりつつある、そう拓人は思った。それはここにいるこの男も同じなのだ。
四人が庭にいるのを窓越しに確認して、拓人はピアノの上に身を乗り出し、ヴィルの顔を見据えて言った。
「君が誰だか蝶子がまったく知らないとは驚きだな、エッシェンドルフ君」
拓人の言葉にヴィルは大して驚いた様子をみせなかった。演奏の手を止めると立って窓辺に行き、真耶と連れ立って薔薇を見ている蝶子を見ながらぽつりと言った。
「まさか、東京で名前を知っている人間に会うとは予想もしていなかったな。どこでそれを知った」
「僕もドイツに留学していたんだ。蝶子より三年くらい前に。君がフルートのコンクールで優勝した折に、お父様のエッシェンドルフ教授と一緒にいたのを憶えているよ」
「で、どうする氣だ? なぜわざわざ誰もいない所でそれを俺にいうんだ」
「何か事情があると思うからさ。蝶子が教授のもとから去った理由を僕は知らない。君が父上の広大な領地を継いで結構な暮らしをする代わりに、大道芸人をしている理由も。だが君は蝶子のことを知っていたんだろう?」
「ミラノで会うまで面識はなかった。名前は知っていた。シュメッタリングは過去の事を何も話さなかったが、バイエルンなまりのドイツ語を話すフルートの達者な四条蝶子がそんなにたくさんいるはずはないからね」
「君はもうフルートは吹かないのか」
「だいぶ前にやめた」
「残念だな。あんな卓越したフルートはなかなか聴けないのに。蝶子のフルートを聴いて吹きたくはならないのか」
ヴィルはしばらく答えなかったが、やがて言った。
「吹いたら最後、正体がばれるだろう。俺はまだもう少しあいつといる時間がほしいんだ」
拓人は納得したように頷いた。
「僕は部外者として君の事を蝶子や真耶に黙っていてもいいが、条件がある」
「なんだ」
「蝶子に危害を加えるな」
ヴィルは眉をしかめて目を閉じた。それから吐き出すように言った。
「危害を加えられているのはこっちだ」
拓人はちらりとヴィルを見て頷くと、黙って『亡き王女のためのパヴァーヌ』を弾き出した。この男は、何か事情があって本名を隠して蝶子と同行する事になった。けれど、その目的を達成する前によりにもよって当の蝶子を好きになってしまった。もはや目的を実行する事も出来なければ、正体を口にする事も出来ない。そんなところだろう。
蝶子はこの事を知ったらどうするのだろう。Artistas callejerosのメンバーに対する強い信頼は、拓人には蝶子の信仰のようにすら見えた。もしそれが崩れたら、彼女はもう二度と人間を信用できなくなるかもしれない。
「忠告しておくよ。あまり長く待たない方がいい」
拓人はヴィルに言った。ヴィルは黙って窓の外の蝶子たちを見下ろした。
「君は多くを語らない人だ。想いは君の中でどんどん育っていってしまう。君はそのうちに黙っていられなくなる。蝶子のフルートを聴き続ければフルートも奏でずにはいられなくなる。だが信頼も日々育っている。大きくなればなるほど、壊れたときの衝撃に君も蝶子も堪えられなくなるだろう」
「あんたの言う通りだろうな」
もう既に遅すぎるのかもしれなかった。ロンダで蝶子の言った言葉が甦る。
「失いたくないものが出来てしまったの」
その通りだった。Artistas callejerosに加わるまで、ヴィルにも失いたくないものなど何もなかった。音楽は常に自分の中にあった。けれど今、彼が必要としているのは内なる響きだけではなかった。もう一人には戻りたくなかった。
「テデスコは日本の旅行なんか行きたくないんじゃないかしら」
蝶子は拓人とヴィルの姿のよぎる窓を見上げて言った。
「なぜ?」
「日本の薔薇を愛でるために、ここに居たいんじゃないかと思って。ずっと日本に残りたいなんて言い出したりしてね」
蝶子の意味ありげな微笑を見て、真耶は蝶子の顔を真剣に覗き込んだ。
「蝶子。それ、嫉妬なの? それとも、あり得ないと思うけれど、まさか、氣がついていないなんてことはないわよね」
「何に?」
「だから、ヴィルさんが、誰のことをいつも見つめているのかって話」
蝶子はしばらく答えなかった。やがて真耶を見ずに小さくつぶやいた。
「そうかな、と思った事はある。でも、きっと勘違いだったのよ。真耶にはとっても素敵に笑いかけていたもの。私はそれで構わないのよ」
真耶はため息をついた。
「あきれた。本当にわかっていないのね」
五分でも側にいれば誰でもわかるほどなのに。彼は苦労するわね。それにしても、なんでさっさと行動に移さないのかしら。小学生じゃあるまいし。
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愛の話
こうやって、まとめていくつかの短編を読んでみると、
○ちゃんは「ラブストーリー」を書く人なんだなあとしみじみ。
長編を読んでいると、つい他の意匠
(ファンタジーだったり比較文化論だったり)に気をとられて
つい「ラブストーリー」ってことを忘れちゃうんだけどさ。
でも、根本はあくまで「ラブストーリー」だなあ、と。
これはある意味であたっているけれど、本質的にはそうではないんですよね。
あたっているというのは、私にはバトルファンタジーは絶対に書けないし、社会の暗部をえぐり出す問題作もたぶん書けない。私は私の日常の側にあるものからストーリーを作るヒトだから。身近な題材に恋愛ものが多いのは当然で、かなりの数のものが一対一の人間の関係、多くがラブストーリーに落ち着くわけです。
本質的にはそうでないというのは、私の小説のすべてで追い続けている根幹テーマは「愛」ではないから。様々なラブストーリーの皮をまとっているストーリーの中で描き出そうとしているのはもっと別なもの。それが何かはここでは書きません。一つの読み方を押し付けるような事はしたくないので。
で、数だけはやたらと書いてきた作品の中で、唯一本当に「愛」をテーマにしたのが「樋水龍神縁起」です。ただ、この場合の「愛」とは「ラブストーリー」ではありません。この作品は、2010年から2011年にかけて一氣に書き上げたのですが、書き上がった途端に東日本大震災が起こって一度公開を断念しました。
私が書いた小説の中では、唯一ガチガチに構成を組み、「愛」の四段階を一つずつ、四季にあてはめて書きました。そのために避けて通れない描写があり成人向けの小説になっています。ま、今どきのジュニア小説やマンガと較べても、大した描写ではないんですが。そのためブログでは公開せず、FC2小説の方にだけアップする事にしました。
突然、公開しだしたのは、まあ、いろいろ理由はあるのですが、2012年10月30日がこの小説でものすごく大切な日で、それまでに公開したかったから。それと、訪問させていただいているブログのおともだちのところのメッセージ欄で「愛の本質」について語る事が時々あって、これを公開しない事には私の言いたい事は伝わらないかなと思った事があります。
私はかなり特殊な宗教観も持っていて、表向き(スイスで宗教税を払う先)はローマ・カトリックなのですが、お世辞にもまともな信者ではなく、一番近いのはたぶんサンスクリット語で語られる「般若心経」の思想だと思います。「樋水龍神縁起」では神道の世界が出てきますが、大半の記述は正統の神道からは外れたものになっていると思います。ただ、どの宗教思想も侮蔑愚弄するつもりはまったくありません。もし不愉快な記述があったとしたら私の不徳のいたす所ですので、そうご理解いただきご容赦ください。
十年近いインターバルの後の復帰作として書き出した長編でした。とても長い上に、「大道芸人たち」ほどのオリジナリティのある設定ではありません。それでも、書き終えた時に、「これですべて書いた。このまま死んじゃってもいいや」とまで思った、言いたい事のつまった小説です。これ以上言いたい事はないし、もう小説は書けないだろうとまで思いましたが、その後にスピンオフというかその後のストーリー「樋水龍神縁起 DUM SPIRO, SPERO」が勝手に出てきたのを皮切りに、「大道芸人たち」やその他の現在皆様にお見せしている小説がわさわさ出てくる事になりました。
多分この小説を書かなければ、私は自分の小説を生涯一般に公開しなかったでしょうし、ここにブログを開設する事もなかったと思います。
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特別な花のある風景


この花は、私にとって特別な花です。私の実名と同じ名前を持つ花なのです。日本にいようと、結婚しようと、変わらないのがファーストネーム。すべて母音の外国人には聞き慣れない特別な名前を、私はとても誇りに思っています。私が生まれた時にはまだ人用漢字に制定されていなかったので、同世代でこの名前をもつ女性にはほとんど逢った事がありません。両親はひらがなでこの名前を付け、人用漢字に制定された後は家庭裁判所に申し出てまでこの名前を私のものにしてくれたのです。最近はかなりありふれた名前のようですが。
夏になり、この花が咲く度に、日本でもスイスでも、私は自然に応援されているような氣持ちになります。夏の間、力強く次々と咲く花。この名前をもらった事を本当に嬉しく思っています。
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睡眠バトンってやってみた
- Q1 あなたの睡眠時間は1日、およそどのくらいですか??
- A1 平日は6時間、休日は8時間くらい
- Q2 あなたは最長で、何時間ぶっ続けに眠ったことがありますか??
- A2 18時間くらい。風邪引いていたので
- Q3 睡眠時間が少ない状態のあなたは、どんな気分でどんな感じですか??
- A3 思考停止。立ったまま寝てる感じ
- Q4 あなたは騒がしい電車の中だろうが、どこでも寝れちゃう方ですか??
- A4 電車はどういうわけかトランス状態になりますよね。
- Q5 あなたの寝起きの状態は、どのような感じですか??
- A5 自然に起きる時はすっきりしているけれど、起こされるとぼんやりしてしまう
- Q6 気持ちよく眠っている最中に起こされたら、当然怒りますか??
- A6 怒らないけれど、ぼーっとしている。許されるなら二度寝する。
- Q7 あなたには何時間ぐらいの睡眠が必要だと思いますか??
- A7 8時間
- Q8 よく眠れたあとの気持ちは、どんな気持ちですか??
- A8 一日ハッピーかも
- Q9 見ている夢が原因で、目を覚ましたってことがありますか??
- A9 落ちる夢でザワってなって起きた事はある
- Q10 あなたは、徹夜は可能ですか??
- A10 不可能
- Q11 セットしていた目覚まし時計の音に、気付かなかったことってありますか??
- A11 ある。
- Q12 使う布団や枕にはこだわりは、ありますか??
- A12 マットは固い方がいいです。私のベッドは160cm幅なのでどんなにゴロゴロしても大丈夫
- Q13 睡眠のときのアタマの方角(北枕等)は、気になっちゃいますか??
- A13 北枕にした方がいいんですよね。でも、宿泊先で調べたりはしませんね。
- Q14 なかなか寝付くことができない日って、ありますか??
- A14 心配事や遠足の前日は眠れない小心者です
- Q15 このバトンを回す人をドウゾ。(フリー可)
- A15 え~と。読んで「あ、これいいかも」と思った方、やってみてください。
- Q16 お疲れ様でした!
- A16 久しぶりにバトンしました。楽しかったです
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- 読書バトン受け取りました (06.04.2014)
- 「自分の取扱説明書」らしい (13.10.2013)
- B級グルメ(?)バトン (25.06.2013)
- 合唱バトンに答えてみた (25.10.2012)
- 田舎の人バトンやってみた (13.10.2012)
- 海外生活者のバトン (27.03.2012)
大道芸人たちの見た風景 - 8 -
記事の本文に入る前に……。
ここのところ発表する小説ごとにたくさんの拍手をいただいて、驚愕しています。う、うれしい。「大道芸人たち」も日本に到着以来、驚くばかりの拍手をいただき、見る度に「え〜!嘘っ」と小躍りしています。誰も見ていないのをいい事に、部屋の中で本当に飛んでます。ありがとうございます。

日本の夕暮れのもの悲しさは、較べるものがありません。こんな空を見れば、それだけでジーンと来てしまいますよね。スイスに来て夕暮れでジーンとしなくなったなと思っていましたが、ちゃんと理由があります。赤くならないんですよ。
夕暮れが赤くなる科学的な理由は、光の中で赤い光だけが塵にも負けずにまっすぐに人間の目に届く、だから太陽が地平線に近くなる所まで沈むと真っ赤になるってことでしたよね。
で。私の住んでいるところは東も西も山、山、山。太陽はその山に隠れておしまいです。赤くなりっこないです。
外国人が日本で見て驚愕するものは、清水テンプルや秋葉原のような、日本の人が普通に想像するものもありますが、それ以外に日本人にとってはあたりまえのこと、例えば夕陽なんてものだったりもするのです。蝶子や稔もこの夕陽にはやられるんじゃないかなあ。
久しぶりに帰った私も、ほぼ同じショックをうけます。「夕焼け小焼けの赤とんぼ」という郷愁あふれる歌は、日本でしか生まれない。帰国して真っ赤な夕陽に心きゅーんとなって、思うのです。
ちなみにこの写真は、出雲大社駅の前で、一人でいた時のものです。やられましたよ、見事に。
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外国語の響き
同じ都市でも、言語によって呼び名が違うのです。その国の呼び方で統一すればいいじゃないかと思われるでしょうが、かつてその都市が別の国に所属していたときの伝統などで、そう簡単に変えられないみたいなんですよね。
「ヴェニス」「ヴェネツィア」「ヴェネディク」これは一つの都市の名前。他にも「ゲンフ」「ジュネーヴ」「ジェノヴァ」。この場合の「ジェノヴア」とイタリアの都市のジェノヴァは違うのです。モナコ公国の「モナコ」と、ミュンヘンで知られている都市の「モナコ」も要注意。特に電車に乗るときですね。
同じことは人名でもおこります。「太陽王のルードヴィヒ14世がさ」といわれたら頭の中で「ああ、フランスのルイ14世ね」と変換しなくてはなりません。「カール」といわれても「シャルル」の可能性もあります。「ゲオルク」と「ジョルジュ」も困りものです。
私は理由がない限り常に現在の言語にあわせて、人名や地名をカタカナにしています。それぞれの言葉の持つ雰囲氣の問題もありますしね。
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【小説】大道芸人たち (19)千葉、墓参り - 2 -
あらすじと登場人物
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大道芸人たち Artistas callejeros
(19)千葉、墓参り - 2 -
稔は新堂和尚に言われたように、朝一番の電車でやってきた。
和尚は、稔を食事の用意がしてある畳の部屋の奥に連れて行った。
「ここで座禅でもしていろ」
それは部屋というよりは納戸といったほうがいい小さな空間だった。窓もない。和尚は一ダースほどのロウソクとマッチを置いて行った。
子供の頃、いたずらが過ぎてよく浅草の家の納戸に閉じ込められた。その時はロウソクなどという贅沢なものは支給してもらえなかった。けれど、稔にとってその罰が過酷だったのは最初の二、三回だけだった。直に稔は馬鹿げたいたずらを反省する代わりに、空想世界に遊んだり、次のいたずらを計画したり、もしくは自分の内なる音楽を成熟させるのにその時間を使うようになった。
目をつぶり、背筋を伸ばす。両の手に空氣で出来た三味線が載る。それから、稔は自分だけに聴こえる音で三味線を奏でだす。子供の頃の自分には出来なかった高度なテクニックも、納戸の中ではなんなくできた。
もういいだろうと、納戸を開けにきた父親は、稔がそうやって空氣の三味線を弾いているシーンに出くわして仰天したものだ。こいつはどえらい奏者になるかもしれない。父親が稔に過度な期待を始めたのはそれからだった。
稔が弾いていたのは三味線だけではなかった。ギターも稔の大切な内なる音楽だった。稔は自分の中の東洋と西洋を自由に行き来することができた。どちらも稔にはなくてはならない世界だった。どちらかを選ぶなどとてもできそうになかった。
父親の安田隆にとっては、明白な選択だった。安田流創始者、安田勇一の長男として生まれた自分になかった才能を、その長男である稔が持っている。安田流の家元は父親の一番弟子であった妻の周子が継いだが、やがて長男の稔が継ぐことができる。
祖父の勇一は、稔が五歳の時に他界した。周子は類い稀な三味線奏者であったが、勇一のような強いカリスマ性はなかった。また、後継者を育てるための厳しさも欠けていた。熱心に教えはしたが、嫌われるほどの厳しさが持てなかったのだ。それで、二番弟子だった遠藤恒彦をはじめとする安田流のほかの奏者たちが力を持ち、家元の求心力がなくなりだしていた。
遠藤恒彦は、自分の息子や娘にも熱心な教育を施し、中でも長女の陽子の才能は著しかった。陽子は名前の通り快活で向上心の強い娘だった。男勝りで、女だからといって軽んじられることを何よりも嫌った。発表会ではトリを望んでいたが、家元の長男である稔が務めることが多く、よく地団駄を踏んでいた。
稔は流派の中でのポジションなどにはほとんど興味がなかった。どの曲を弾かせてもらえるのか、それをどのように弾くのか、大切なのはそれだけだった。自分の内なる音楽を表現する新たなページがめくれればそれでよかったのだ。
「あなたは、初めから家元の座が約束されているんだもの。余裕よね」
陽子は、闘争心のない稔に不満をぶちまけた。どちらにしても陽子と張り合うライバルと言えるジュニアは稔ひとりだった。稔の弟の優など三味線奏者と認める氣にすらならなかった。
陽子は、稔がギターを弾いているのも氣に入らなかった。そんなヒマがあるなら、もっと三味線に精進して自分と戦ってほしいと思っていた。けれど、稔の奏でるギターが、三味線では出せない心象を表現することを陽子も認めていた。
才能に恵まれなかった父親の卑屈も、家元としての統率力に欠ける母親の苦悩も、我こそが真の家元と暗躍する遠藤恒彦の思いも、トップ奏者を目指して肩意地を張る陽子のライバル心も、稔には苦痛だった。
高校を卒業する頃には腹を括って進路を決めなくてはならなかった。稔はギターを選びたかった。だが、それは許されなかった。父親も母親も、稔に家元を継がせるつもりだった。稔の実力は遠藤恒彦ですら認めざるを得なかった。
陽子がテクニックで稔に劣るわけではなかった。もしかしたら陽子の方が、テクニックでは稔を凌駕していたかもしれない。しかし、稔の音には心地の良い個性があった。聴くものを惹き付ける華やかな魅力があった。そして、その人柄も多くの信奉者を作った。弟子たちの中には、性格のきつい陽子を毛嫌いするものも少なくなかった。こんにゃくのように頼りない優には尊敬が集まらなかった。稔の明るさとバランス感覚は、安田流を一つにまとめていくためには必須だと思われていた。
いずれは家元になり安田流を束ねていくというプレッシャーは常に稔の重圧となっていた。花嫁候補として、いつも陽子の名前が挙がるのにも辟易していた。だれが、あんなヘビ女と結婚するかよ。稔はいつも心の中で毒づいた。
陽子が年頃になり、以前のように稔を不倶戴天のライバルとして競争心をむき出しにしなくなってきたことも、稔には居心地が悪かった。陽子は稔を恋愛対象としていた。稔としてはまっぴらだった。バレンタインのチョコレートを持ってこられるのも、強引にデートに誘われるのも迷惑だった。だが、稔がかなりはっきりと断っても陽子はへこたれなかった。稔の相手としても、未来の家元夫人としても自分ほどふさわしい人間はいないと強い自信を持っていた。
そして、あの事件があった。安田流の会計を預かっていた父親が投資に失敗して、多くの負債を抱えたのだ。返済が焦げ付き、銀行に頭を下げ、あちこちの親戚からかき集めても、どうしても月末までに三百万円足りなかった。それをポンと出してくれたのが陽子だった。
「これね。OLの乏しい稼ぎの中から、結婚資金のために五年かけて貯めたお金。だから、これがなくなるとお嫁に行けなくなっちゃうの。でも、稔は責任とってくれるわよね」
稔に用意できる金額は五十万円が限度だった。稔は、諦めて安田流に骨を埋めること、そして三味線と人生の配偶者として陽子を選ぶことを決めざるを得なかった。
最後のわがままと言って、ヨーロッパに出かけた稔が、最後の最後に約束を反故にして逃げ出した時に、安田流でどんな騒ぎになったのか、稔は知る由もなかった。
稔はロウソクの明かりを見つめながら、無意識に三味線を弾いていた。
逃げ出したことをもう悔やんではいない。安田流にも安田家にも帰りたいという想いはどこにもなかった。安田流と安田家にできた空白は、もう埋まっていた。この五年間で稔の不在を乗り越え、稔なしの日常を紡ぐようになっていた。そのことは稔にとってショックなことでも悲しいことでもなかった。
愛情深く優しい母親、稔を認めて励ましてくれた父親、頼りないが愛すべき弟が恋しくないかと言えば嘘になる。だが、それは『新堂のじいちゃん』を恋しいと思う氣持ちとほとんど変わりなかった。
いまの稔にとって、帰る場所であり、自分の居場所を失いたくないと思うのはArtistas callejerosだった。絶対に離れたくないと、能動的に強く願うのはあの三人だった。そして、稔の内なる音楽を表現できる場も、Artistas callejerosにしかなかった。選ぶ必要すらなかった。日本に来るまでの迷いがすべて消えた。俺は、やはりお蝶たちと一緒にヨーロッパに戻るんだ。それ以外ないんだ。
やがて、隣の部屋にどかどかと音がして、和尚を先頭に人々が入ってきた。
「さ、お清めじゃな、遠慮せずにどんどんやって。ああ、優君、悪いが冷蔵庫のビールを持ってきてくれるかな」
話し声で、その場に母親と優がいるのがわかった。叔父や叔母、それに従兄弟もいる。遠藤陽子もいる。全部で十人ほどだろう。一時間ほど、みながほろ酔い加減になって食事をしているのを稔は、空想のギターを弾きながら聴いていた。
なんとなく、がやがやしていたのが静まると、和尚が不意に言った。
「そうそう、その閉め切った部屋には、一人瞑想をしている檀徒がいましてな。そこは開けないでほしいんじゃ」
「どうしてはじめにおっしゃってくださらなかったんですか。こんなに騒いで迷惑になったんじゃありませんか?」
怪訝な声は母親の周子だ。
「いいんだ。ちゃんと了解済だから」
和尚はひと呼吸置いて、再び言った。
「もう一つ、みなさんに知らせたいことがありましてな」
静まり返った。和尚は静かに続けた。
「つい先日、ここに稔が来たんじゃ」
蜂の巣をつついたような騒ぎになった。どこにいたんだとか、どうして報せてくれなかったんですかとか、元氣でいるのかというような声がなんとか聞き取れた。
陽子と周子はほぼ同時に、閉め切られた戸に目をやった。こんなにうるさい宴会場の横で瞑想をするなんていう物好きな輩がいるはずはない。それは稔に違いないと。
その二人が何かを言い出す前に和尚は続けた。
「稔と話をして、あいつはもう戻らないということを確かめた。あいつは隆の死を知って、とにかく戻ってきた。墓の前で泣いて隆に詫びていた。けれど、あいつにはあいつの新しい人生がある。そして、あなたたち一家それぞれの新しい人生のことも知って祝福している。もう時計は元に戻らない。とんでもない親不孝なのは本人も十分承知だが、幸せに生きている稔のことを許して、諦めてやってくれないか、周子さん」
沈黙の後、周子がすすり泣く声が聞こえた。不意に、陽子が言った。
「ねえ、皆さん。いまから隆先生のお墓参りに行きましょう。ね」
「なんで、いきなり……」
わかりの悪い優をつねると、陽子はその場にいるほぼ全員、つまり周子と和尚以外を寺の裏手の墓地へと連れて行った。
静まり返った和室に和尚の笑い声が響く。
「いいお嫁さんじゃないですか、周子さん」
「はい。感謝しています」
「もし、わしに稔のやつが再び連絡してきたら、伝えたいことがありますか」
周子は再び泣き出した。
「もうしわけ……ないと……。どうか許してほしいと……」
「それは稔の台詞ですぞ」
「いいえ、違います。稔はずっと我慢していたんです。子供の頃から。それがわかっていて、私にはどうすることもできなかった。あのお金だって、稔のせいじゃないのに……。今だって、優と陽子さんが結婚する安田家には、稔が帰ってくる場所がない……。ほんとうにかわいそうに……」
稔は、我慢できなくなって涙をこぼした。ごめんよ、おふくろ……。
そのわずかなすすり泣きの漏れてくる戸を見つめて、周子は頭を下げた。
「和尚さま、どうか、稔に伝えてください。もう十分だって。墓参りに帰ってきてくれただけで、それで十分だって。でも、もし、本当に帰ってくる氣があるなら、私がどこかに遷ってでも、お前の居場所を作るから心配するなって……」
やがて、安田家が去り、奥の部屋の扉を和尚が開けようとした時に、息を切らして陽子が入ってきた。
「待って、和尚さま」
陽子は、バッグから封筒を出すと、それを和尚に渡した。
「本当は、これ、今日お母様に渡すつもりで持ってきたんだけれど。次に稔が連絡してきた時に渡してほしいの」
それだけ言ってウィンクするとまた走って出て行った。
扉を開けて自分ででてきた稔に和尚はその封筒を渡した。稔が中をのぞくと、一万円の束だった。数えなくてもわかった。過剰に送った三十二万円だ。律儀なヤツだな。利子として受け取っておけばいいのに。稔は、封筒をポケットに無造作に突っ込んだ。
真耶の家に着いたのは九時近かった。真耶とArtistas callejerosの三人が、居間でワインを飲みながら話していた。
「ごめん。遅くなった」
稔は、新堂和尚にもらった大吟醸生酒『不動』の一升瓶をどんとテーブルに置いた。
「あら。千葉の名酒じゃない。いいものを手に入れたわね」
蝶子がにんまりと笑った。稔は呆れた。
「なんでお前が千葉の酒の銘柄に精通しているんだよ」
「偶然よ。これ、飲んだことあるの。もう二度と飲むことはないと思っていたけれど。帰ってきてよかったわ」
真耶は笑って、席を立ち、江戸切子の水色の猪口を五つ持ってきた。しばらくするとお手伝いの佐和さんが、鶏肉とキュウリの梅和えや、冷や奴、もろみ味噌を添えた生野菜スティックなどを持って入ってきた。稔と蝶子は大喜びし、ガイジン軍団ははじめての日本酒と肴の登場に顔を見合わせた。
ヴィルはすでにドイツで日本酒を飲んだことがあったが、美味しいと思ったことはなかった。それで、大して期待もせずに猪口に口を付けた。
「どうだ。飲めるか?」
日本人三人は興味深く見ていた。
ヴィルは怪訝な顔をして切子の猪口の中を覗き込んだ。
「……美味い。これ、本当にサケか?」
蝶子が声を立てて笑った。
「ワンカップ大関みたいな日本酒しか飲んだ事ないんでしょう?」
レネも、おそるおそる飲んでやはりフルーティな味わいが氣に入ったようだった。
「フルーツの蒸留酒ですか?」
「ちがうよ。米だ。混じりっけなしの手作りだぞ」
「この肴もいいわねぇ。やっぱり、私は日本人なのねぇ」
蝶子は嬉しそうに言った。ガイジン軍団もそれらが問題なく氣に入ったので、これからの旅行でも和食を食べさせて大丈夫だと稔と蝶子はにやりとした。
「パリでけっこう美味しいと言われる日本料理店にも行ったんですけれどねぇ。全然美味しいと思わなかったんですよ。どうしてだったんだろう」
レネが首を傾げる。
稔にはレネのいう意味がよくわかった。ヨーロッパのそこそこの値段の日本料理店では、大した日本の味は楽しめない。刺身は赤黒いし、照り焼きチキン定食のようなものでも単に甘辛いだけの単純な味付けのものしか出てこない。
米の飯は最低だ。しかし、これは日本料理店が悪いのではない。ヨーロッパの硬水ではいずれにしろふっくらとした白米など炊けはしないのだ。
あの値段を出して、あの程度の味しか楽しめなければ、ヨーロッパで日本料理が中華料理ほどには受け入れられないのも無理はないと思う。だから、稔も蝶子ももう何年も和食を食べに日本料理店に行ったりはしていなかった。
「お家は大丈夫だったの?」
蝶子が訊いた。稔は頷いた。
「俺、公式にはまだ失踪したままなんだ。だけど、もう、家族は失踪した俺のことを心配しないと思う。俺は未だに家族だけれど、もう完全に安田流からはいない人間になった。帰ってきてよかったよ」
三人は黙って頷いた。真耶は、三人がそれ以上の詳細を訊きたがらないことに驚いたが、敢えて口を挟まなかった。
稔は申し訳なさそうに真耶に言った。
「園城、わるいけれど、お前のことを何かあったときの連絡先にしちまった。家族や安田流から直接あんたに連絡が来ることはないが、もしかすると新堂沢永という坊さんから俺に連絡を取ってほしいと言われるかもしれない。そうしたら、例のバルセロナのコルタドの館に連絡を入れてほしいんだ」
「わかったわ。お易い御用よ。蝶子もそうしていいのよ」
真耶は言った。
蝶子は肩をすくめた。
「うちの家族はヤスみたいに帰ってくるのを心待ちにしているわけじゃないから」
「まったく氣にもしない親なんているかしら」
真耶が眉を顰めた。
蝶子はあっさりと答えた。
「事情があるのよ」
「どんな?」
蝶子はため息をついた。他の三人が一年以上遠慮していることを、真耶ったらガンガン突っ込むんだから。
「この顔のせいなの」
蝶子は切子の『不動』を一息に飲み干した。稔がすかさず杯を満たす。今夜はしゃべるぞ。
蝶子はその稔をひと睨みすると、ゆっくりと言葉を選んだ。
「前にも話したことあると思うけれど、私の顔は両親どちらにも似ていないの。で、何故か、母親の元の恋人にとてもよく似ているのよ」
ありゃりゃ。稔は地雷を踏んだ氣持ちだった。真耶は、居心地が悪くなった。
蝶子は続けた。
「別にDNA鑑定して明白になったわけじゃないのよ。単なる隔世遺伝のいたずらなのかもしれないんだけれど、父親と母親は私の顔のせいで無言の確執があったらしいの。それなのに私がとんでもなくお金のかかる西洋音楽をやりたいと言い出したものだから、父親も母親もすごく反対したの。父親は自分にそっくりな妹の華代が短大の英文科でいいといっているのに、よりにもよって私が音大にこだわるのが腹立たしかったし、母親は私のことでまた父親と確執ができるのがイヤで猛反対したわ。それで、私は両親から家族をとるかフルートをとるかどっちにするんだと迫られちゃったわけなの」
「で、フルートを選んじゃったんですね」
レネがとても悲しそうに言った。
「悲しむことなんてないのよ、ブラン・ベック。私が恋しがっているなら悲劇だけれど、そうじゃないんですもの」
真耶と稔、そしてレネにはそういう蝶子がやせ我慢を言っているように聞こえた。しかし、ヴィルはそう感じなかった。ヴィルも両親に対してうんざりしていた。大人になり、その庇護から離れて生きられるようになったことがとても嬉しかった。暖かい家庭、例えばレネの家族のもとに行った時などに、寂しさを感じることはある。だが、それは自分には帰る家庭がないという寂しさであって、実の両親に対する思慕ではなかった。蝶子が語っているのはそういうことなのだ。
「あんたは正しい選択をしたんだと思うよ」
ヴィルは言った。
他の三人はその冷淡な物言いに驚いたが、蝶子はわかってくれたことを喜んだ。艶やかに笑ってヴィルの猪口にさらに『不動』を注いだ。
「そう思うでしょ? ブラン・ベックのカードもそういったわ。今の道は間違っていないって」
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あらすじと登場人物
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大道芸人たち Artistas callejeros
(19)千葉、墓参り - 1 -
浅草に行ったのに、どうしても家には行けなかった。ようやくみつけた公衆電話ボックスにも入ったが、電話ができなかった。稔は己の不甲斐なさに毒づきながら、ボックスを出た。
それから電車に乗って千葉に向かった。『新堂のじいちゃん』に会うためだった。
浄土真宗のその寺は、人里から少し離れた緑豊かな所にあった。新堂沢永和尚は九十を超したようには見えない矍鑠たる老人で、健康のために酒と女は欠かせないと豪語する愉快な男だった。実際には稔との血縁関係はなかった。和尚の亡くなった妻が、稔の祖母の姉だったのだ。その縁で、安田家の法事はこの千葉の寺で行われた。三ヶ月前になくなった父親の墓も、この寺にあるはずだった。
稔は『新堂のじいちゃん』が大好きだった。和尚も「どうしようもない悪ガキ」だった稔をかわいがった。稔が毛虫を従姉妹の背中に入れた事を怒られてた時には
「毛虫は腫れる事があるからいかん。やるならカエルにしろ」
と、こっそり焚き付けた。稔の弟の優が大人しくて親戚中に「さすがねえ」と誉められ、むくれているとせせら笑った。
「なんだ。誉めてもらいたいか。悪ガキは誰にでも出来る事じゃない。やるなら徹底してやれ。誉めてもらいたいなら、やめちまえ」
それで、稔は腹を括って悪ガキ道を極めて、親に呆れられた。
「稔じゃないか」
和尚は、まるで稔が数日ぶりに訪ねてきたようなあっさりした迎え方をした。ずいぶん歳を取ったな。稔は思った。
「お前、帰ってきたのか」
稔は黙って首を振った。
「じゃあ、なんだ。幽霊か」
「まあ、そんなもんだ。じいちゃん、達者か」
「見ての通りだ。どこも悪い所はない。飯はうまいし、よく眠れる。お前、どこにいた」
「ヨーロッパ。一ヶ月したらまた行く」
「なぜ」
「もう戻らないつもりだった。戸籍謄本が必要になって取り寄せたら、親父が除籍されていたから……」
「癌だ。三年くらいだったな。最初の手術は上手くいったんだが、二度目に見つかってからは転移が早くてな。あと半年早く帰ってくれば会えたんだがな」
稔は答えずにうなだれた。
「墓に行くか」
「ああ」
墓石に戒名と名前が刻まれている。五年前には豪快に笑ったり、烈火のごとく怒っていたりした父親が今はこの石の下に骨だけになって置かれている。稔は墓石を両腕で支えるように立ち、そのまましばらくうなだれていた。和尚には稔の肩が震えているのが見えた。
「ごめんよ、親父……。ごめんよ……」
稔の心には白い紙吹雪が満ちている。あの朝、俺は、こうなる事を選んだんだ。
あの時、あんたにはどうしてもあの三百万円が必要だったよな。俺は、自分だけであの金を用意することができなかった。俺は陽子に自分を売ったつもりだった。あれはそういう金だった。だが、俺がしでかしたことで、あんたは三百万どころじゃない重荷を背負ったんだろうな。自分の事しか考えていなかった。本当にごめんよ、親父。
和尚は稔が落ち着くのを黙って待っていた。それから稔を本堂に連れていき、野菜と日本酒を出した。
「まだ昼前じゃないか、じいちゃん」
「お前が昼前は飲まないなんてクチか」
確かにArtistas callejerosの仲間とは、朝とか夜とかつべこべ言わずに勝手に飲んでいる。とはいえ、今はそういう状況かとも思う。
「こういう状況だから飲むんだ。ほれ」
稔は肩をすくめて杯を受け取った。
「美味い……」
「そうだろう、ヨーロッパじゃ飲めない酒だぞ」
「うん。じいちゃん。ごめんよ」
「わしに謝る事はなにもないだろう。それより家には帰ったのか?」
「昨日、日本に着いたんだ。今朝、浅草まで行った。でも、行けなかった。電話も出来なかった。だから、ここに来たんだ」
「そうか。じゃあ、家の状況は知らないんだな」
「うん。何か、変わったのか」
「優くんが嫁をもらうことになった」
「へえ。五年も経ったからな、彼女が出来て、結婚しても不思議はないよな」
「相手は陽子さんだ」
稔は目をしばたいた。え~と。今、なんて言った? どのヨウコさん?
「お前が失踪して以来、いろいろあってな。陽子さんは頻繁に出入りする事になり、そのうちに優くんと仲良くなったってことだ。隆の看護も未来の嫁として献身的にしてくれたし、周子さんとも上手くやっているよ」
そりゃあ、おふくろは陽子に頭が上がらないだろう。長男が結婚資金をだまし取って失踪したんだから。結局の所、陽子はやっぱり安田家の嫁になるってわけか。優にあのヘビ女の相手が務まるのか疑問だが、本人がそれを望んでいるなら俺がどうこう言う事はないよな。
「そうか。じゃあ、俺が今更、のこのこ顔を出したりしない方がいいのかもしれないな」
「周子さんはお前に会いたいだろう。自由意志で帰ってこなかったのわかっているし、ヨーロッパ各地を移動しているらしいと陽子さんが言っていたから、みな大きな心配はしていないけれどな」
稔は黙って酒を飲んでいた。和尚は、にやりと笑って言った。
「こうしよう。明後日、ここにもう一度来い。お前の家族が皆で法事にくる事になっている。お前は、みんなに見えない所にいて、もし会いたければ、出てくればいいだろう」
「じいちゃん」
「お前が、日本にきちんと帰ってきてやり直すつもりなら、こんなことは言わん。だが、お前は一ヶ月でまたいなくなると言う。それならば、却って大騒ぎにしない方がいいかもしれない。そうだろう」
「うん。ありがとう、じいちゃん。恩に着る」
真耶の家に戻ると、居間では蝶子が真耶のヴィオラの伴奏をしていた。フォーレの『夢のあとに』か。テデスコほどではないけれど、お蝶のピアノも大したものだ。この曲、初見なんだろうに、ちゃんと形になっているじゃないか。レネは真耶の父親のカルバドスを、ヴィルはヱビスビールを飲んでいた。
「このビール、美味いな」
ヴィルは日本のビールに合格点を与えた。
あれ、変だな。稔は首を傾げた。なんか今日はやけに嬉しそうじゃないか? ガイジン軍団は。
「今日は、何をしたんだ?」
稔が訊くとレネは嬉しそうに答えた。
「インペリアルホテルで食べ放題のデザートを食べたんですよ。それに真耶さんと皇居の散歩」
なんだよ、それ。ブラン・ベックはともかく、なんでテデスコがそれでこんなにリラックスするんだ?
「ヤスの方はどうだったんです?」
レネが直球を投げてきた。
「うん。明後日出直しだ。お前ら、旅行に出るなら、先にいってもいいぞ。追いかけるから」
「いや、明後日ならすぐじゃないですか。明日から、パピヨンが東京や横浜を案内してくれるって言っていましたから。旅行の事は明後日以降に考えましょう」
「テデスコもそれでいいか?」
ヴィルは黙って頷いた。それからまたグラスを傾けながら、二人の演奏に意識を戻していた。ふ~ん。稔はわかったような顔をした。トカゲ女と何かあったんだな。何にせよ、嬉しいなら何よりだ。
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うちのオリキャラ
っていうか、もしかして、人の企画をパクっているだけかもと思いつつ、めげずに本日もいただいてきました! 今回は、シュナイダーさんのやっていたオリキャラ紹介。
シュナイダーさんはヒロインでまとめていらっしゃったのですが、私の小説のヒロイン、ちと面白みが……。というわけで、勝手にバリエーション! ヒーローにもしないで、「楽しんで書いたサブキャラ」でまとめさせていただきます。あらかじめ申し上げておきますが、全員いまのところ未発表です。近いうちに出てくるのもいれば、半年ほどお待たせするのもいます。公開するか迷っている作品も混じってます。
では、いきますよ。
・エステバン・ペドロ・モントーヤ
→ペルー人とアメリカ人のハーフ
明るい元氣な若者で、感じのいい女の子とみると口説くお調子者。
近いうちに発表予定の「夜想曲(ノクターン)」に出てくるサブキャラだが
何となく氣にいったので、その内に主人公として別の作品に出そうかなと考え中。
・ヤスミン・レーマン
→劇団の広報も勤めるメイクアップ・アーティスト。フットワークの良さ抜群で明るく積極的。
「大道芸人たち」のチャプター5に登場するサブキャラ。チャプター5のキーパーソンの一人。
イメージはケイティ・メルア。
・ディミトリオス
→グランドロン王国一番の賢者。いい歳だが主人公たちがめちゃくちゃやってくれるので苦労が絶えず。
ただいま執筆中の小説「Cantum silvae - 貴婦人の十字架(仮題)」のサブキャラ。
・結城拓人
→天才少年ピアニストとして有名だったが、今は女たらしピアニストとして有名。
「樋水龍神縁起 DUM SPIRO, SPERO」では、ヒロインに恋をする。
「大道芸人たち」にも出演するけれど、こっちの役割の方が「いい人」
・シャンタル
→プロヴァンス地方に住むアンモナイト狂のマダム
臆病になり逃げている地質学者のヒロインにフランス式の人生の機微と愛について指南する。
まだ構想段階の「Leçon de géologie」という作品のサブキャラ。実在のモデルあり。
・広瀬(のちに高橋)摩利子
→高飛車で綺麗な女。「カマキリ女」と異名を取るほど確実に男を落とす。が、純粋で人のいい高橋一に落とされてしまう。
誰かが強い感情を持つと、それを「ヴィジョン」として見ることのできる特殊能力を持つ。
予想外に、ド田舎の奥出雲の樋水村に嫁いできて、主人公たちの数奇な運命を目撃する事になる。
「樋水龍神縁起」(本編)のメインサブキャラだが、「大道芸人たち」にもちょっとだけ登場。
いかがだったでしょうか。書いている本人は楽しかったな。オリジナル小説を書かれていらっしゃる方は、(いらっしゃらない方もバリエーションでご自由に)参加なさってみませんか?
色んな小説書いてきた俺ですが、色んなオリキャラが生まれてきました。
そんな中でヒロインを色々と紹介してみよー(誰得
・マリア
→吸血鬼ハンターです。
武器は日本刀とリボルバー銃という和洋折衷って感じの子。
小説は黒歴史なんで言えないんすけど、前半はほとんど喋らないヒロイン兼主人公。
・エルナ
→あたためてあるバトルファンタジーのヒロイン。
序盤から死亡してまうんやけど、その代わりに主人公の守護霊として魔剣になります。
健気な子です(` ・ω・´)
・エレクトラ
→Identity Crisisの主人公兼ヒロイン。主人公格のキャラの中では最年少の14歳。
二丁のマチェットと拳銃を使う警察組織の女の子。
義理の父想いな純粋な子です(´∀`)
・リエナ
→某バトルファンタジーのヒロイン。一国のお姫様です。
母親を早くに亡くし、国王だった父が死んだために後継者となるものの、
魔物の出現に直面してしまったり。
そんな中で出会った召使いのアッシュ(実はある人物)のおかげで
色々と何か変わってきます。
・シャルロット
→俺が初めて創作した女の子。年齢は高校生ぐらい。
とあるバトルファンタジーに出てくる子やけど、初登場シーンは
十字架に括り付けられ、血まみれ状態というw
実は生まれ持ったある能力を人々に忌み嫌われていたからという理由。
それに加え、言葉も片言しか喋れないし、市井にメチャクチャ疎いという設定。
でも、主人公に心を開くという典型的なヒロイン。
いやぁ、もう俺の嗜好出まくりんぐw
だって、ヒロインにするからにはカワイイ子にしたいやん?
何かと負の要素を持ち合わせてるのが共通な点かな?
皆さんならどういうヒロインを描きますかな?
オリキャラー 一浪人生のしゃかりき日記
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ブルーベリーの山

とあるブログのお友達が(って、シュナイダーさんですけど)「ブルーベリーは苦手」とおっしゃっていたんですよね。その氣持ち、よくわかります! 私も「ブルーベリーなんか死んでも食べない」と思っていました。食わず嫌いで。
原因はあれです。日本のチョコなどで使われているブルーベリー風味の香料。あの匂いが死ぬほど嫌いだったんです。で、実物のブルーベリーもああいう匂いがするまずい食べ物なのだと思い込んでいたんですね。
誤解が解けたのは去年です。普段イチゴを摘ませてもらっている有機農家の方が「ブルーベリーを摘みにこない?」と誘ってくれて、あまりやる氣はなかったんですが、そのとき滞在していた母が暇を持て余していたんで試しにいってみたんです。で、生まれてはじめて本物のブルーベリーを食べたんですが、「全っ然、違うじゃない!」と叫びたくなるほど美味しかったのです。
で、今年も勇んで摘みに行っている私。毎朝の食事はミューズリーの牛乳かけなんですが、これにブルーベリーを足しています。やはりブログのお友達の童半さんのご指導のもと、朝食にもちゃんとバランスをと思いまして。「朝の果物は金」とも言いますしね。
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「移動中に何してる?」
窓の外をぼんやりと眺めるのはいつも好きでした。子供の頃は東京から熱海に行くだけで大変な旅でしたから、わくわくして窓に張り付いていましたね。海が見えてくるとそれだけで大騒ぎでした。
先日、ベルンへ片道三時間半の往復をした時には、かなり時間がありましたので、友人への手紙を書いていました。ネットの発達した時代ではありますが、紙だけでやり取りする友人も何人かいるのです。
こんにちは!FC2ブログトラックバックテーマ担当の木村です。今日のテーマは「移動中に何してる?」です!今日のテーマは移動中にしていること、です。みなさん通勤・通学に色々な移動手段を使っていると思いますが、移動中は何してますか?電車通勤なら読書や音楽、車通勤なら音楽とかラジオが一般的ですかねぇ。勤勉な方は勉強してたり?(私には到底無理…)私は最近は専ら音楽を聴いていますスマホで聴いてるんですが、あま...
トラックバックテーマ 第1462回「移動中に何してる?」
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まだいじってます
見かけの変化はゼロ。あ、FC2でない方のために、「おきてがみ」というブログパーツを設置しましたけど。
何を変えたかというと、FC2デフォルトの拍手をFC2拍手に変更しました。で、ただ変えるとこれまでいただいた拍手が消えてしまうので、一度並べて、同じ数だけ全ての記事に自分で拍手し直して、それからデフォルトのものを消しました。
なぜそんな面倒くさい事をしたのかというと、他の方の何人かがやっているように拍手お礼ページに自分の画像を置きたかったのと、拍手のブログパーツを設置したかったからです。でも今までいただいた拍手を諦めてゼロからカウントし直すのも悲しかったので。
四ヶ月以上経っていて194記事もあったのですが、いまやっておいてよかった。これ以上後にしたら、もう面倒で出来なくなる所でした。
そういうわけで、一氣に全ての記事の拍手を確認する事になったわけですが、後になればなるほど皆さんが反応してくださっている事が実感できて嬉しかったですね。最初は本当に孤独でしたからね。
皆さんありがとうございます。これからもどうぞよろしく。
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大道芸人たちの見た風景 - 7 -

こちらは侘び寂びこそが日本の真髄だと張り切って案内するのですが、実はガイジンはこういう派手な色に反応します。朱塗りは基本ですね。また、1400年経った建物などと説明すると「ほう」とは言いますが、実は江戸時代の建物でも感動バロメータにはあまり差が見られません。われわれがバロックとゴシックの違いがいまいちわからないのと同じです。
日本を紹介するときのコツは、ある程度はしょることです。あまり情報量が多いと混乱しますからね。わざわざ京都まで行かなくても、自分の街のお稲荷さんの前だけで、彼らはいちいち感動してくれます。
この記事を読んで「大道芸人たち」を読みたくなった方は、こちらからどうぞ
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【小説】大道芸人たち (18)東京、到着 - 2 -
あらすじと登場人物
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大道芸人たち Artistas callejeros
(18)東京、到着 - 2 -
翌朝、稔は台東区にある生家に行くといって、早くに真耶の屋敷を出た。残りの三人が起き出してくるまでヴィオラを弾いていた真耶は、この日はオフだったので、東京観光につきあうと申し出た。四人は、皇居の散策をして、それから帝国ホテルでお茶をすることにした。
「真耶さんは本当に大輪の薔薇のようだ」
四人で歩いている時に、レネは真剣に言った。蝶子は頷いた。色は暖かいオレンジ色。華やかでいて心が和む。
これほど全てに恵まれた女性があるだろうか。蝶子は大学時代に感じた深いコンプレックスを思い出して自嘲した。あの時は真耶に誇れるものなんか何も持っていなかった。たった一つだけ、音楽を学びたいという情熱だけは真耶に匹敵すると自負していた。けれどそれだけだった。アルバイトに明け暮れ、友だちもなかった。いつになったらフルートだけの事を考えて生きられるようになるのだろうと焦りながら、真耶を妬ましくすら思っていた。
蝶子は今でも真耶に匹敵する音楽家にはなっていなかった。だが、それを卑下する心ももうどこにもなかった。蝶子は自分のしたい事をして生きられるようになり、真耶はうらやむべき相手ではなく蝶子の親しい友人になっていた。
「過分な評価をありがとう。でも、ここにもきれいな女性がいるのよ。蝶子は何の花?」
真耶が微笑んで訊くとレネは少し考えた。
「アヤメかな? それとも百合?」
真耶はヴィルを見た。ヴィルは真耶と蝶子に答えを期待されて困った顔をした。やがて言った。
「ライラック」
三人は意外だという顔をした。
「あの薄紫のかわいい花?」
「いや、あの色ではなくて、濃い紫の」
レネは頷いた。春から初夏に向かう一番心浮き立つ時期の、香り高い花。青空に向かって誇り高く咲くその濃紫は高潔で美しい。さすがテデスコはよく見ているなと思った。
帝国ホテルのカフェではデザートの食べ放題をやっていた。甘いものに目のないレネが素通り出来るはずがない。蝶子も久しぶりだったのではしゃいだ。
「日本のデザートは小さいからいろいろ楽しめるのよね。味もしつこくないし」
そうやって皿にかなりの量のケーキを載せて戻ってくると、真耶はたった二つ、ヴィルにいたってはテーブルを離れる事すらせず、コーヒーだけを飲んでいた。
二人が話していて、ヴィルが笑っているのを見た。蝶子が今までほとんど見た事のない、明るくてさわやかな笑顔だった。
皮肉を言い合う時以外はほとんど感情の変化を見せないヴィルに蝶子は慣れていた。傍から見ると同じように見える表情でも、わずかな動きで機嫌がいいのか、むっとしているのか読み取る事が出来た。でも、その笑顔は反則だわ。出来るんなら、ちゃんと表情を見せなさいよ。それとも私たちには出し惜しみってわけ? 蝶子は思った。
停まっている蝶子を見て、ヴィルが不思議そうな顔をしたので、蝶子は我に返ってテーブルに歩み寄った。
「真耶、それだけしか食べないの?」
「いま太ったり、吹き出物作ったりするわけにいかないのよ。来週、また撮影があるの」
「撮影って、何の?」
「化粧品のCMよ。数年前から出ているの」
「それはそれは。でも、これを前にして食べられないなんて拷問じゃない?」
「ちょっとね。でも、あなたたちは日本のデザートはそんなにしょっちゅう食べられないんだから悔いのないように食べておきなさいよ」
真耶は優しく笑った。
「このコーヒー、薄いな」
ヴィルが言った。ヨーロッパのコーヒーはエスプレッソ式のものが主流なのでドリップ式の日本のコーヒーはお湯で薄めたように感じる。確かに蝶子も久しぶりに日本のコーヒーを飲んで薄く感じた。日本にいた時は一度もそんな事を感じた記憶がない。
「エスプレッソ、頼みましょうか?」
真耶が親切に言うのを蝶子が止めた。
「そんなに面倒見なくてもいいのよ。日本人と違って遠慮って習慣がないので、欲しければ勝手に頼むだろうし」
「よくわかっているな」
ヴィルは文句を言いつつ、その薄いコーヒーを飲み干し、ウェイターがお替わりを注ぎにきても断らなかった。恭しくコーヒーを注ぐそのサービスが面白いらしい。
少し遅れてレネが嬉しそうに席に戻って来た。何種類ものケーキ、トルテ、ババロア、ゼリー、その他、隠れて見えないけれどとんでもない量の、蝶子の三倍は盛ったデザートの山を見て真耶は言葉を失った。
「そんなに食べきれるわけ?」
蝶子も疑わしげに訊いた。
「だって、こんなにきれいで美味しそうなのが並んでいるんですよ。素通りできなくて。食べきれなかったらテデスコに助けてもらいますから」
それを聞いて真耶はヴィルを見た。
「助けられるの? 甘いものは食べない人なのかと思ったわ」
「まったく食べないわけじゃない。わざわざ取りに行くほどじゃないが、おこぼれくらいなら食べるよ」
「ふ~ん。じゃあ、これあげる」
蝶子は小さなエクレアの一つ残った皿をヴィルに差し出した。久しぶりだったのでたくさん取ってしまったが、蝶子はもう甘いものに飽きたのだ。
ヴィルは軽く非難している印に片眉を上げると、皿を引き寄せた。そして蝶子の手からフォークを取り上げると黙ってエクレアを片付けた。
真耶はその様子を見ていた。ものすごく自然だったという事は、この人たち、普段からこういう事をしているんだわ。真耶にはフォークを共有するほど近い関係の男性はいなかった。はとこの結城拓人とは、子供の頃から双子のように育ちいつも一緒だった。また真耶には何人もつきあった男性がいた。しかし、拓人にも恋人たちにも黙ってフォークを取り上げられたら抗議するだろう。
レネの方は、ヴィルに助けてもらう必要はなかった。全部食べたのは見事だったが、レネ本人だけでなく見ていた他の三人も甘いものは当分けっこうと思った。
帰りも堀の近くを歩いた。舞い上がったレネが真耶に張り付いて必死で話しかけているので、蝶子とヴィルは少し遅れて歩いていた。蝶子には懐かしい東京のアスファルトの道、ヴィルにはまったく異国の不思議な光景だった。二人とも昨夜の事はまったく話さなかった。蝶子は今エッシェンドルフ教授の事は話したくなかったし、ヴィルも同じだった。
「少しは眠れたの?」
蝶子は静かにドイツ語で訊いた。ヴィルもドイツ語で答えた。
「ああ、あんなに深く眠った事は、ここ数年なかったかもしれない。朝、ブラン・ベックに起こされたときもしばらく日本にいる事を思い出せなかった」
昨夜遅くまで起きていたおかげでヴィルはもっとも大きい苦しみから解放された。父親に嫉妬する必要はもうなくなったのだ。
「日本は氣に入った?」
「日本そのものはまだほとんど見ていないからなんともいえないが、あんたの友人は氣に入ったよ」
「わかっているわ。さっき、とっても楽しそうだったもの。期待しないように言っておくけれど、あんなにきれいで才能のある人は、日本中のどこに行っても、他には見つからないわよ」
「心配するな。日本に女を探しにきたわけじゃない」
蝶子はいつものような減らず口を叩かなかった。ヴィルは蝶子が誤解していると思った。けれど、それを口にすれば抑え続けている心が表に出てしまう。それを蝶子が好まないのをヴィルはよくわかっていた。彼はあきらめて別の感想を口にした。
「不思議だな。あんたにはどんなに残酷で冷徹でも、どこかしなやかで細やかな機微があると思っていた。それはあんたの友だちにもある。それが日本人女の特徴なのかもしれないな」
「それ、誉めているんだか貶しているんだかわからない言い草ね」
「誉めているんだよ」
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【小説】大道芸人たち (18)東京、到着 - 1 -
あらすじと登場人物
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大道芸人たち Artistas callejeros
(18)東京、到着 - 1 -
「え。パゴダとか見えないんだ」
レネの成田空港への感想に稔は白い目を向けた。
「見えるわけないだろ」
蝶子は相手にすらしなかった。
「いいから、ガイジンはあっちに並んで。私たちはこっちだから」
「ガイジンってなんだ?」
ヴィルが訊いた。
「外国人ってことだよ。ほんの少し侮った感じだけど、よく言われると思うから覚悟しとけ」
稔が言った。二人は肩をすくめて大人しく外国人の入国審査の列に並んだ。
あっという間に入国審査の終わった稔と蝶子は荷物が来るのを待っていた。後からやってきたヴィルとレネは少し憤慨していた。
「指紋を採られて、目の写真も撮られた」
「そんな審査があるなんて聞いていなかったですよ」
蝶子と稔は外国人審査にそんなものがある事を知らなかったし、だいたいそれが憤慨する事とは思えなかったので、顔を見合わせた。
「イヤなの?」
「まるで犯罪者扱いじゃないですか」
「何もしなければ、問題ないわよ」
蝶子はあっさりと流した。二人ともまだぶつぶつ言っていたが、日本人二人は聞いていなかった。
「とりあえず真耶に連絡してみましょう。いつなら会いにいってもいいか」
「そうだな。そっちはまかせる」
「ヤスはすぐにお家に戻るの? 連絡先を真耶の所にしておけばいいわよね」
「まず、園城の都合を聞いて、それから決めるよ。正直いってどの面さげて帰っていのか、先に電話すべきか、まだ決心ついていないんだ。お蝶、お前は実家には帰らないのか?」
「帰らないわ」
荷物の引き取りを頼んで、蝶子は公衆電話に歩み寄った。
「蝶子なの? どこからかけているの?」
「今、成田空港に着いたの。一ヶ月滞在するんだけれど、いつなら会える?それにあわせて予定立てるから」
「何言っているのよ。今夜はどこに泊まる予定なの? 決まっていないなら、今すぐここに来なさいよ。東京にいる時はずっとうちに泊まって」
「だって、私一人じゃないし……」
「だから四人まとめてくればいいでしょ。そのくらいの空間はうちにあるわよ」
蝶子は、手招きをして荷物を持った三人を呼んだ。
「真耶が泊めてくれるって言っているんだけど、反対はいる?」
もちろんいなかった。
「じゃ、お言葉に甘える事にするわ。リムジンバスで行くとしたらどこが一番近い?」
「赤坂のニューオータニにしてそこから電話をちょうだい。車で迎えに行くから」
「赤坂のニューオータニの近く……」
稔の目が宙を泳いだ。レネが訊いた。
「何か問題でも?」
「とんでもない高級住宅地ってことだよ。めったに泊まれるような所じゃないぜ」
「おい。新東京空港って言わなかったか?」
ヴィルが訊いた。バスに乗ってから一時間以上が経っていた。
「成田か? そうだけど」
稔は、絶対文句言うと思っていた、と腹の内でぼやきながら答えた。
「まだ着かないのか?」
「成田は、実は東京じゃないのよ。まだしばらくは着かないわよ。だから寝ればよかったのに、ブラン・ベックみたいに。ジェットラグは大丈夫なの?」
「飛行機で寝れたのか?」
蝶子と稔の二人に心配されて、ヴィルは首を傾げた。
「少しはな。何が問題なんだ?」
「八時間の時差を克服するには初日が一番大切なの。今から、夜になるまでもう寝ちゃダメよ。午後あたりにすごく眠くなると思うけど」
「そうしないと?」
「時差ぼけが悪化するんだ。昼間に眠くて、夜は眠れない日々が続くんだよ」
蝶子も稔も日本に帰るのは久しぶりだった。周りの光景に興奮しているのがわかる。
ヴィルはどこまでも途切れなく続くビルと家とを眺めていた。まったくわからない言葉の並んだ看板。ふと、未だに持っている葉書の事を考えた。今から会いに行こうとしている園城真耶から蝶子にあてた葉書。Artistas callejerosに加わる事にしたのは、あの葉書で蝶子の名前を知ったからだった。家を出る奇しくもその日に届いた葉書。この文字のように不可解な運命。夜は眠れない日々が続く。それはヨーロッパにいても同じだ。ヴィルは自嘲した。
「起きろ、ブラン・ベック。着いたぞ」
稔に叩き起こされて、寝ぼけたレネは間違ってメガネの上から目をこすった。
「やだ。もう真耶がいるじゃない!」
蝶子の言葉にレネは仰天して飛び上がった。噂のマドモワゼル・マヤにみっともない顔は見せられない。
真耶はあまりに想像通りな四人組に微笑んだ。蝶子は腰まであった髪がセミロングになった以外は、ザルツブルグで会った時からほとんど変わっていなかった。稔は大学時代からは髪型も服装もかなり変わっていたが、朗らかで楽天的な様子は昔のままだった。その横に、蝶子曰くブラン・ベックのそわそわした手足のひょろ長いフランス人と、無表情で必要もなく身構えて見える金髪のドイツ人。
四人は大道芸人のようには見えなかった。唯一それらしいといえば、荷物がやけに少ない事だった。これは彼らの旅支度ではなく、全財産なのだ。人間はこれだけの物があれば生きていけるのだ。一年間も。そう思うと自分がどれだけたくさんの物を所有しているのかと、真耶は思う。
「ごめんね、真耶。突然こんなに大勢で押し掛ける事になっちゃって。お父様たち怒っていない?」
「今、アメリカだから。二週間したら帰ってくるからそのときに引き合わせるわよ。ねぇ。あなたたちはね。この一年間、私を疑問の固まりにしたのよ。話を聞きたくて手ぐすね引いて待っていたの。一日程度のおざなりな訪問で済まされてなるものですか」
運転席の真耶と助手席の蝶子が話しているのを、稔は小さな声で二人に通訳してやった。
「あら、ごめんなさい。英語で話せば全員に通じるのね?」
「そうなんだ。俺たちの公用語は一応英語になっている」
「じゃあ、私も英語で話すわね。今日は来れないけれど、拓人にも言っておく」
「真耶、あなた今でも結城さんにべったりなの?」
「なによ、その言い方。私たちは親戚だし、いい音楽のパートナーなの。彼、いい音を出すようになったの。びっくりするわよ」
「楽しみだわ」
蝶子は窓の外のビル街を見ながら言った。赤坂の風景を見ながら、真耶と結城拓人の話をするなんて、夢にも思わなかったわね。自分の国にいるのに夢の中にいるみたいだわ。
蝶子と真耶、そして稔は同じ音大のソルフェージュのクラスメイトだった。ヴィオラ専攻だった真耶は卒業後日本でデビューし、海外でも様々な賞を受賞して華々しい活躍をしていた。
真耶のはとこにあたる結城拓人は同じ音大の一年上級生で、最年少でショパンコンクールで優勝したかつての天才少年として有名なピアニストだった。音大ではプレイボーイとしても有名だったが、真耶にだけは頭が上がらなかったのを稔も蝶子もよく憶えていた。二人とも著名な音楽家一族の出で、裕福な上、デビューの機会にも恵まれていた。
音大に進むことも許されず、苦学をした蝶子は高い授業料とレッスン代を捻出するためにアルバイトに明け暮れていたので、真耶や拓人と親交を深めるような機会はなかった。それにも関わらず、真耶と蝶子はお互いを認め合っていたし、ザルツブルグで再会した後に奇妙な成り行きで蝶子が真耶に返信不可能な葉書を送りつけるようになり、不思議な友情が育ったのだった。
「ねえ、真耶。あなたヤスを憶えていた?」
蝶子はずっと抱えていた疑問をぶつけてみた。
「安田くん? もちろんよ。ウルトラ優秀だったじゃない。最初の試験で、邦楽科なのにトップをとられたんで、ものすごく悔しかったの。次の時に一位を奪回するのに必死になったのよ」
「園城が必死になるなんてこともあるんだな。なにもかも余裕でやっているのかと思っていた」
稔は笑った。
「それで? どういうことなのか、説明して頂戴。なぜ蝶子と安田くんが一緒に旅をしているわけ? エッシェンドルフ教授との結婚はどうなったのよ」
「ストップ。そんな話、車でなんか出来ないわ。その話が聞きたいならまず酒屋に行かなくちゃ」
「なぜ?」
「酔っぱらわないと話せないもの。で、このメンバーが酔っぱらうとなると……。真耶のお父様の高級ワイン、みんな空にするわけにいかないでしょ?」
だが夕食が終わると、稔とレネは音を上げて速攻で寝室に行ってしまった。居間で赤ワインを傾けているのは蝶子と真耶とヴィルだけだった。
「ねえ、蝶子。今度こそはぐらかさないで話してよ」
「ちょっと待って。テデスコ、あなたまだ寝ないの」
「ここの美味い白ワインを飲み過ぎたから眠れない。俺に聴かれたくないなら日本語で話せ」
「そんな事はしないわ。ねえ、真耶。私たちにはルールがあるの。お互いのわからない言葉では話をしない。訊かれた事には絶対に嘘を言わない。話したくない事には答えないけれどそのことを突っ込んだりしない。わかる?」
蝶子のドイツ語に、真耶もドイツ語で答えた。
「わかったわ。ヴィルさんの前で話せる範囲でいいから説明して頂戴」
蝶子は少し黙っていたが、やがてヴィルにピアノを示して言った。
「聴いていていいから、そのかわり何か自己憐憫に浸れるようなロマンチックな曲を弾いてよ」
真耶は、ヴィルがピアノを弾けるとは聞いていなかったので少し驚いた。ヴィルは黙ってピアノの前に座ると、邪魔にならないような音量でフォーレの『ノクターン 第四番』を弾き出した。真耶は目を丸くした。何よ、私や蝶子よりずっと上手じゃない。全然聞いていなかったわ。
蝶子は真耶の表情を見て口の端で笑った。それからワイングラスに映った自分を睨みつけて、吐き出すように言った。
「私ね、ずっと教授から自由になりたかったの。本当は婚約なんかしたくなかった。それどころか、師弟の壁を越えた関係にもなりたくなかった。でも、それがずっと言えなかったの。言ったら、もうフルートが続けられなくなる、そう思っていたから。ものすごい支配だったわ。フルートの教えも、生活の全ても、それに体も。息が出来ないほどに、反発など考えられないほどに」
真耶は口を挟む事も出来ないで蝶子を見つめていた。エッシェンドルフ教授のことは、拓人から聞いた事がある。めったに女の弟子はとらないが、目に叶った女の弟子には、必ずといっていいほど手を出す。そして、いつもの遊びのつもりだった教授が、蝶子には本氣になってしまった。名声、実力を持つ絶対権力者に絡めとられていく蝶子の恐怖が伝わってきた。
「ねえ、真耶。私はずっとしかたのない事だと思っていたの。フルートを吹き続けるためには、自分の納得のいく音楽を続けていくためには、他に道はないんだって。それでも構わないはずだって。私には帰る所も待ってくれる人もないから。あなたにザルツブルグで会った時にも、そう思って諦めていたの」
「でも、逃げる事にしたのね」
「ええ。ミュンヘンに戻ったらね、ある女性が亡くなっていた。三十年以上、教授のことを待っていらした方が。それで、私は我に返ったの。ここにはいられないって。はっきりわかったんだもの。私は一度だって教授を愛した事がなかった。それどころかいつも憎んでいたんだって。それでどうして結婚できる? どこに行こうとか、これから何をしようとか何も考えなかった。ただ、教授から逃れたかった」
ヴィルは黙って弾き続けた。蝶子の横顔が東京の独特の青白い街頭に浮かび上がっている。蝶子は真耶に話しているようで、ヴィルに語っているのだった。バイエルンなまりのドイツ語で。ヴィルは蝶子が語っている恐るべき支配を誰よりもよく知っている。二人は同じ男から同じ理由で逃げ出してきたのだ。
「コルシカ島で二週間くらいぼうっとしていたの。あそこから逃げ出した時点で、私のキャリアは終わってしまった。どこにも行くところがなかった。これからどうすればいいのかもわからなかった。フルートを吹く以外の人生なんか考えた事もなかった。でも、実家には帰れなかった。私にはまだ馬鹿げたプライドが残っていたから。リボルノに向かうフェリーの中で、氣がついたら泣きながらフルートを吹いていた。そうしたら、たまたまそこにいたヤスが私を見つけたのよ。彼は当時からもう立派な大道芸人だった。それで仲間にしてって頼んだの」
蝶子は箱を開けてフルートを取り出した。それからヴィルに伴奏を頼んで、フォーレの『シシリエンヌ』を吹いた。コルシカフェリーで吹いた曲だ。あの時は苦しくてしかたなかったのに、今はこれほどに穏やかな心で吹く事が出来る。これから行くところはわからない。どうなっていくのかもわからない。でも、私には帰る場所と思える仲間がいる。何があろうと、観客や喝采などなくとも、フルートを吹き続ける。
真耶には蝶子の決断を完全に理解する事は出来なかった。真耶にとって音楽は町中の路上で小銭を稼ぐためのものではなかった。もっと神聖な存在だった。けれど、同じ至高の存在を目指したはずなのに、恩師に望まぬ未来を強制された蝶子の苦しみはわかった。
真耶は自分が恵まれた環境にいる事をよくわかっていた。現在の自分のキャリアはその環境なしには実現し得なかった事も知っていた。蝶子は両親に受験も留学も許してもらえなかった。必死で音楽のために闘うしかなかった。その血のにじむ努力と不屈の意志が実を結び、今の蝶子は音楽の神の恩寵を身につけている。この演奏を聴けばわかる。それでも、彼女は、そしてこの謎のドイツ人は、彼らにふさわしい立派なコンサートホールではなく、街から街へと流れながら自由を謳歌して生きる事の方を望んでいる。
音楽の神に仕える方法はたった一つではないのだ。真耶がこの二人の演奏からおぼろげに理解できるのはそれだけだった。
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いつか……
結婚記念日の記事にたくさんのコメントをいただいた事を、とても嬉しく思っていました。それだけでも十分に嬉しかったのですが、ウゾさんのところでこんな素敵なお祝いの掌編をいただいてしまいました。嬉しい、嬉しい、生まれてはじめての献辞つきです!
何時か 一緒に 言葉になろう。
scribo ergo sum の 主催者 八少女 夕 さん へ 捧ぐ
わたし達って 七夕の様だねと 笑いあった事がある。
確固たる 自身を持ち 曲げることが出来ない 遠く離れ 偶に 折を見つけては会う。
自身も そして 自身の仕事も大切 其の上で 貴方に会いたいと思う。
其れは 貴方も 同じだろう 我侭なのだろうか。
御互いに 遠く離れている為に 会う場所は 何時も中間地点の小都市。
何かあるわけではない 寧ろ 何も無い 小都市。
何かを 求める頃は 過ぎ去り 蒼い柔らかな頬は 既に失くした。
唯 小さな 静かな時に 身を委ねる。
駅前の 何の変哲も無い喫茶店で 唯 お茶を嗜む。
観光や 買い物 その様なモノを求める様な 幼い 感覚は 遠く過ぎ去った。
唯 沈黙が 緩やかに流れ…
… 元気にしていたか。
… ええ 少し 風邪をひいてしまった。
… そうか。
沈黙に 身を委ねる 心地よさ。
… 人の死は 終わりではない 人は 最後は言葉になる。
其の人の表面的な 顔立ちや 声音は やがて 掠れ ぼやけ…
やがて 思い出せなくなるだろう。
でも その人は 優しかった 厳しかったと 言葉になり 思いとなる。
緩やかに 穏やかに 何時か 何時か 言葉になるまで 共に時を刻まないか。
そして わたしは 其の手を握り締める けっして 離さないと。
何時か 一緒に 言葉になろう。 - 百鬼夜行に遅刻しました
私はかつて鳥になりたかったのです。オペラシティの14階、新宿のビル街を見通すガラス張りの休憩室で、遠くに住むその人のことを想っていました。自由に飛んでいく鳥を眺めながら、もし、仕事や国境やその他の自分を縛り付ける因習を振り払えるなら、力の限りに西を目指すのにと思っていました。
ようやく休みをとって、七日でスイスとの往復をして翌日から出勤して働いたので、体が悲鳴を上げて高熱を出しました。もうだめなのかな、と諦めかけました。距離と社会的な壁と銀行預金とに負けるのかと思いました。
さよならを決意したその時に軽やかに飛んできたその人が、あっさりと引き取ってくれて私は今ここにいます。
鳥になりたかった私をあのビルの中に残したまま、バイクの後ろで感じた風をアフリカに置き去ったまま、たくさんの想いをこの谷にこぼしながら。
彼はこんな風に言葉にします。
「お前は最初の女じゃないけど、多分これで打ち止めだから」
いつかは言葉だけになる日が来るでしょう。私か、彼か、そしてその両方がどこにもいなくなって。でも、ウゾさんがくださった美しい掌編が予言だった事がわかるその時まで、私の想いはずっと空を舞っているのです。
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お酒の話
(今どきの若者は家で飲むのかもしれないけれど、とりあえずそういうことはないという建前で)
私は禁酒同盟に入っておりません。と言っても、私と一般的なロシア男性との飲み方の間には一億六万光年くらいの開きがあります。個人的にはお酒は飲むものであって、飲まれちゃったらおしまいだと思っています。
弱いのも、強いのも、甘いのも、辛いのも、わりと好きなのですが、実は日本人が一番よく飲むビールが苦手です。それで、「とりあえず、ビール」という時にはウーロン茶を頼んで「お酒に弱い女か」と思われ、後で皆が日本酒に移る頃にちゃっかり飲んでいたりしたので「訳の分からないヤツ」といわれていましたね。
スイスに来てからは、日本みたいな宴会がなくなったので、自分のペースで自分の飲みたい物を飲んでいます。スイスで一番普通に飲まれるお酒はワインですね。ビールもあります。私は死んでも頼みませんが。カクテルの類いは、バーに行けば飲めますが、日本のバーテンダーほどカクテルの種類を知らないようで、頼んでも首を傾げられることが多いです。
お酒はTPOにあわせて飲むのが一番だと思っています。普通の食事ではワインを、和食では日本酒を、中華では紹興酒を。バカンスでバーに行ったら軽くカクテルを。飲んでも酔って大声で騒いだりするのではなく、あくまで楽しむ程度で止めておくこと、会話と雰囲氣を楽しめるように飲むこと、これが私のお酒のスタイルなのです
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海のない国の湖

もちろん私にとっては海と湖は大きな違いがあります。まあ、カスピ海に行ったことはないので、向こう岸が見えないような湖と海を分ける必要があるのかという問題に対しては答えは持っていないんですが。
個人的には、湖の上を船で渡る時には、海に出るときほどのドキドキ感はありません。まあ、揺れも違いますが、本当は心理的な寄る辺なさが違うだけなのかもしれません。
湖畔のレストランに座って、もしくは、湖上遊覧船やフェリーに乗って、風を感じるのは爽やかです。穏やかな氣持ちになる湖畔はスイス人も大好きらしく、湖畔の家は一般的に大金持ちのステータスシンボルになっているようです。
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変わったこと
いろいろな方の作品を読んでみると「ああ、私もこういうの書いていた時期もあったよ」というのもあれば「へえ。こんなに若い人がこういうものを書くとは」と驚くこともあります。つい先日も作品や記事の深さから壮年だと思っていた方がどうやら中学生だった(小学生じゃありませんように!)という衝撃の体験をしたばかりです。
昔からずっと創作してきて、何を書くかも変わってきました。昔はどこかの娯楽作品のコピーみたいなものも書いていました。ただし、表面上のコピーなので、深さなんかまるでなし。今は、もちろんいろいろな作品に影響を受けて書きますが、基本的にはその作品で何を訴えたいのかというものなしには書きません。自分の中に流れる共通テーマを通して、人間とその営みを書き出すことが目的です。
その結果、ある一定の方には「ちっとも面白くない」作品になると自覚するようになりました。でも、そのことは別に苦痛ではありません。それはたぶんその方には必要ではないことなのでしょうから。
この歳になると、現実の生活でも、楽しいこと、面白いことばかりではなくなってきます。何十年経とうとも友人であろうとする人々は「ジョークの面白い人」ではなくなります。遠くに住む私のもとに寄せられる手紙も地獄を見たように苦しいものが増えてきます。私は、苦しみの中でもがく人たちに真摯に返事を書きます。もっと苦しめたりしないように、けれど現実を見失わないように慎重に。
小説も同じです。私は、現在の私に書けるものを、現在の私が書くべきものを書いていきます。たぶん十年後の私は違うものを書くことでしょう。でも、わかっていることは、きっと生きている限り私は何かを書き続けているってことです。
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味よりも雰囲氣
実際に世界中のどの料理であれ、東京にいた方がずっと美味しいものに辿り着けます。東京の私の実家から三分の所に、世界のコンクールで優勝した超有名パティスリーのお店がありまして、うちの旦那が絶賛していました。

でもね。やはり本場で食べるのもいいものなのです。それは雰囲氣なんですよね。味ではなくて。努力に努力を重ねている日本の味は素晴らしい。でも、一歩外に出るとものすごい狭い道を車がびゅんびゅん通っている。テラスでのんびりとお茶なんて無理です。地価が高いから店も狭くて天井も低い。そこをいくとウィーンのカフェなどは、店の中も外も正真正銘のウィーンです(当たり前)。で、その雰囲氣がいいんですね。
うちの近くはド田舎 ですが、裏の丘にちょっと登っていきます。持ち物は白ワインのグラスとバゲットとチーズ。雪を抱く本物のアルプスと真っ青な空を見ながら、遠くに牛の鳴き声を聴きつつ、草の上で白ワインを傾ける。そんな生活がとても好きなのです。そう、味がどうであれ。
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紫陽花革命

今、ベルンの日本大使館に行って来ました。大飯原発再稼働反対の署名と紫陽花の花を届けるグループに参加するために片道三時間。やっぱり田舎に住んでいるんですね。
懇親会パスしても終電かもしれません。(^_^;)
でも、きてよかった。行動する事に意味があると信じます。
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またこの日が……
いやあ、スイスってまったく興味なかったんですよね。私、アフリカやイスラム世界、もしくは南米の方にロマンを感じていましたし、東京より寒い所には行きたくなかったし。彼と知り合ったのもアフリカでした。
まあ、でも、今となっては、結婚してスイスに来てよかったと思います。興味対象が同じ人なので、旅行ではロマンを感じる所に行き、日常生活は機能と自然が両方手に入るという意味ではこれ以上の選択はないとも言い切れるスイスで送る。
結婚は三年、七年を超えればあとは大体続くと言われていますが、私も「まあ、このままずっといくんだろうな」という所に来ております。その内に私小説めいた小説を発表するかと思いますが、うちの旦那は相当の変わり者です。いや、私も人のことは言えないんですが。それでも上手くいっている。それは僥倖ですね。
結婚とは相性だと思います。資産や外見ではなく、趣味の完全な一致でもありません。私の最大の幸運は、あの時二人が偶然ヴィクトリア大瀑布にいたことと、彼が私と同様にそれに意味を感じてくれたこと。結婚記念日に私たちはほとんど何もしませんが、こうやって、出会えた幸運に感謝する日にしています。
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イラスト制作用 オリジナル小説のキャラ設定 「大道芸人たち」編
【長編小説】大道芸人たち
【ストーリー】
様々な理由から普通の人生から逃げてきた四人が「Artistas callejeros(大道芸人たち)」としてヨーロッパを旅しながら、お互いへの理解と信頼を深めていく。
【メインキャラクター】
・四条蝶子 - 日本人 最初の登場は32歳 フルート奏者
怜悧な美貌をもち、大道芸人なのに常にしゃれた服を着ている。
黒髪で目は焦げ茶(あたりまえ)身長160cm
現在の髪はストレートのセミロング。目は細くて若干つり上がっている。
性格はきつい。スタイル抜群で足がやたらと綺麗。
服装の一例: 大道芸人で働くとき:白い袖無しのブラウスに
濃紺のマーメイドタイプのフレアスカート、ハイヒール。
コモのレストランでアンサンブル奏者として働く時はミントグリーンのシンプルなロングドレスなど
・安田稔 - 日本人 最初の登場は33歳 三味線とギター奏者
四人の中で一番大道芸人歴が長い。リーダー的存在。明るく朗らかでバランス感覚に富む。身長165cm
黒髪、焦げ茶の瞳。硬い髪。ファッションにはあまり興味がない。
江戸っ子でまどろっこしいことができない。はかなげでかわいい女の子が好き。
服装:Tシャツとジーンズにスニーカー。たまにオレンジのサムライ風裃をつける。
レストランでは黒いスーツに白い蝶ネクタイ。このときはギターしか弾かない。
・レネ・ロウレンヴィル - フランス人 最初の登場では30歳 手品師
氣の弱い、優しい性格。
手品はリングもカードもやるが、趣味のタロットカードの腕前はすごい。
本が好きで読んだ本はすべて暗記している。
自分の手に負えないような高嶺の花ばかりを好きになってしまい連敗記録が半端ではない。
茶色の髪、もじゃもじゃで柔らかい。明るい茶色の瞳。
手足がひょろ長くて眼鏡をかけている。身長170cm
服装の一例:とっくりの茶色いプルオーバーに、緑色のパンツ。スニーカーなど
レストランでは黒いスーツだけれどウェイターに見える
・アーデルベルト・ヴィルフリード・フォン・エッシェンドルフ(ヴィル) - ドイツ人
最初の登場では30歳、
パントマイマーでピアノ奏者
金髪碧眼、これ以上ないというくらい整ったゲルマン人。無表情な男。身長 175cm
蝶子の恩師で元婚約者だったエッシェンドルフ教授の息子だが、それを蝶子に隠して同行しているうちに蝶子に恋をしてしまいドツボにはまっている。
お育ちがいいので立ち居振る舞いなどが洗練されている。本当はフルートの名手。
服装の一例:濃紺のボタンダウンシャツにジーンズ、黒い紐靴。レストランでは黒いスーツ。
男三人の中で最も似合う。
【脇役】
・カルロス・マリア・ガブリエル・コルタド - スペイン人 50歳前後 165cm
裕福な実業家で、立派な館に住む大地主。貴族。
蝶子が大好きでパトロン化し、四人を支援している。
黒髪、濃い焦げ茶の瞳、眉毛が太く目が異様に大きいため稔には「ギョロ目」と呼ばれている。
背が低く恰幅はいい方。でも、太ってはいない。
ラテン的な、日本人にはあり得ない服装をするが似合う
服装の一例:紫の細いストライプのワイシャツに茶色いペイズリーの地紋のあるスーツ。
白いパナマ帽に艶のある白と茶色の靴。ポケットチーフは紫
・園城真耶 - 日本人 蝶子と同い年 ヴィオラ奏者 160cm
稔と蝶子の大学の同窓生。音楽家一家に育った究極のお嬢様。
世界的に活躍するヴィオラ奏者で「音楽の鬼」
薔薇のように華やかな美貌のため化粧品会社のコマーシャルに出ている。
日本の家族との連絡を絶っている蝶子と稔のために、日本から様々なサポートをしている。
わずかに茶色がかった髪を緩やかにカーブさせている。
・結城拓人 - 日本人 稔と同い年 ピアニスト 170cm
真耶のはとこ。やはり有名な指揮者の一家に生まれた音楽界サラブレッド
少年の頃に史上最年少でショパンコンクールで優勝。
その後もコンサートピアニストとして活躍。
プレイボーイとして有名で、同じ女性と二度とデートしない。
柔らかい羽根のような少し長い茶色っぽい髪。切れ長の目と整った顔立ち。質のいい服しか着ない。
真耶と一緒に四人を日本から応援する。ヴィルの正体を知っていた。
・エスメラルダ - スペイン人 35歳くらい? 年齢不詳 170cm
カルロスの前妻。絶世の美女。男から貢がれることで生きている。
豊かな長いウェーブの美しい黒髪と、猫のように光る魅惑的な緑色の瞳を持つ。
一度戯れでレネを落とした事がある。ブランド品の最新流行でエレガントな服しか着ない。
・ハインリヒ・ラインハルト・フライヘル・フォン・エッシェンドルフ - ドイツ人 175cm 物語のはじめは57歳
蝶子の恩師で元婚約者。
フルートの世界的権威で、大地主かつ大金持ち。
完璧主義かつ支配的な性格で、人を自分の思うがままにしないと氣がすまない。
非嫡出子であるアーデルベルトを正式に跡取り息子として教育したが、
婚約者の蝶子に続き、アーデルベルトにも失踪された。
白髪の混じったオールバックの髪、カイザー髭を生やした威嚇的な佇まい。いいものしか着ない。
・ヤスミン・レーマン - ドイツ人、初登場時は26歳 165cm
トルコ人の血を1/4ひくが、ぱっと見はドイツ人よりもトルコ人に見える。くりくりとした目が印象的な美人。
カールした艶やかな黒髪。首に届く程度のショートカット。快活で積極的。職業はメイクアップアーティスト。
アウグスブルグの小劇団「カーター・マレーシュ」の広報としても活躍。
【舞台】
おもにヨーロッパ。四人で大道芸をした場所はミラノ、バルセロナ、グラナダ、セウタ、ニースなど。
高級レストランなどで働いたのはヴェローナ、マラガ、コモなど
チャプター3は、日本編。京都、出雲、安芸の宮島、浅草に登場。
その他によく出てくるシーンは、酒を飲んで大騒ぎしているところなど。
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