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scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012


Posted by 八少女 夕

今年よかったことを数えてみよう

2012年も押し迫ってきましたね。あっという間でしたが、いろいろあったことも確かです。まあ、悪いこともあったけれど、いいこともたくさんありました。ちょっと総括してみましょうかね。

悪いことは、スイスに来て以来の友達が若くして亡くなったこと、それからMofaで転倒して怪我をしたことでしょうかね。

いいことはたくさんありました。

まずは、病に伏せることなどなく、健康面でも精神的にも恵まれた一年を過ごせたことですね。

一番大きかったのはもちろん、このブログを始めたことです。三月に始めた頃には観てくれる方もほとんどいらっしゃらなかったのですが、今ではとてもたくさんの方と知り合えて、小説も読んでいただいて、趣味の生活がとても充実しました。リクエストで小説を書いていただいたり、反対にリクエストにお応えして書いた作品から、のめりこめる大好きな作品が生まれたりしました。たくさんの拍手とコメントに勇氣づけられました。長編小説「大道芸人たち Artistas callejeros」も無事に連載を終えることができました。

ブログの外では、一年間を通じて、月に一度モノを書くお仕事をいただきました。「もの書きで仕事をしたい」という夢がちょっと叶った年でした。

商業誌である「Seasons」に参加して、5000字の短編を四本掲載していただきました。そのうちの二本にはリアルの友達に素敵なイラストを挿絵としてつけていただくことができました。

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今年は二回、大きな旅行に行きました。三月のポルトガルのポルトと九月のコルシカ島です。ポルトはこれまで行った都市でも群を抜く美しさで大ファンになり、来年の三月もまたいく予定です。コルシカ島は三回目。バイクでの旅をこれでもかと楽しみました。

仕事ではiPhoneアプリに続き、アンドロイドアプリの開発もさせていただきました。今年も無事にクビにならずに(スイスって悪いことを何もしなくても日本よりも簡単に仕事を失うのですよ)年末を迎えることができました。

今年買えてよかったものは、TOYOTA Yaris(もちろん中古ですよ)とOLYMPUSのSZ-31MR。働いて自分の自由になるお金があってよかったと心から思えるいい買い物でした。

Yaris!


来年も今年と同じように、前進できていい出会いのある年であるといいなと思っています。また、今年知り合ったたくさんの人たちと、長くいいおつきあいができますように。

それでは皆さん、よいお年を!

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Posted by 八少女 夕

【小説】リナ姉ちゃんのいた頃 -3- Featuring 「254」

本年最後の小説は、15003を踏まれた左紀さんからいただいたリクエスト。私の大好きな左紀さんの「254」のコトリとヤキダマ(共に敬称略)が、「リナ姉ちゃんのいた頃」に入り込んで共演してくれることになりました。左紀さん、ありがとう!

左紀さんの特別許可を得て、私がコトリとヤキダマのことを書いちゃっています。本邦初公開(?)の二人の本名も左紀さんに教えていただいたものです。左紀さんとそのファンの皆さん、コトリたちに対する愛情はいっぱい込めましたが、もし彼等らしくなかったとしたら、それは私の筆力のなさのせいです。ごめんなさい。書き方をちょっとイレギュラーにして、前半をヤキダマ目線、後半をミツ目線で書いています。

「リナ姉ちゃんのいた頃」の-2-までを読んでいない方のために。このシリーズの主人公は日本の中学生の遊佐三貴(もともとのリクエストをくださったウゾさんがモデル)とスイス人高校生リナ・グレーディク。日本とスイスの異文化交流を書いている不定期連載です。前の分を読まなくても話は通じるはずですが、先に読みたい方は、下のリンクからどうぞ。


リナ姉ちゃんのいた頃 をはじめから読む
山西左紀さんの「254」を読む



【小説】リナ姉ちゃんのいた頃 -3-
Featuring 「254」


「あのさ。今朝、コトリは一人でちょっと乗ってくるとか言って親父さんのところを出て行ったよな、たしか。」
ヤキダマはこめかみに人差し指をあててツボを押しながら言った。目の前に見えているものが、幻であってくれることを願って。

「ん? そうだったね」
コトリはヘルメットを脱いでくったくのない笑顔を見せた。コトリと愛車Moto Guzziの254そのものはいつも通り異常はない。問題はその後部座席だ。

「で、その後ろにいるのは、誰なんだ」
「誰って、ついさっき、知り合った友達だよ。いい子なんだ」

 友達。ヤキダマにはそれが「友達」なるジャンルの人間には見えなかった。どちらかというと、バイクの新作発表会で、意味もなく新製品にまたがっている外国人モデル。ウェーブした栗色の髪は、シャンプーの宣伝みたいに異様に輝いているし、顔も不必要に整っている。着ているものも新作発表会にぴったり。真っ赤な厚手の化繊のカットソーに上質の黒革のジャケットとパンツ。しかも真っ黒のハイヒール。
「ハイヒールでバイクの後ろに座る外人。しかも、ヘルメット省略かよ」

 コトリは少し口を尖らせて小さな声で言った。
「だから急いで、まずここに来たんだよ。ヘルメットを調達しなくちゃいけないと思ったから。ヤキダマ、ヘルメット貸してよ。わたしのだとキツいんだって」

 かわいい顔を上目遣いにして、まるで不当な尋問をされているかのごとく言うので、ヤキダマは自分の正当性を強調すべく、ぐいっと胸を張って首を振った。
「まだ、ちゃんとした答えを聞いていないよ。それ、誰なんだ」

 コトリが答える前に、新作発表会のモデルもどきの方が口を開いた。
「コニチハ。リナ・グレーディク デス。スイスカラ キタヨ」
ますます怪しい。なんだ、この教科書通りのガイジン・ジャパニーズは。妙に大きい口でにいっと笑われて、ヤキダマはたじたじとなった。

「ヤキダマ、少しは英語話せるんでしょ。リナは、まだ日本に来て三ヶ月なんだから、英語で話して」
コトリが流暢な英語でそういったので、ヤキダマは仰天した。そういえば、コトリこと彩香サヤカがどんな教育を受けていたのか、ヤキダマは知らなかった。しかし、ここで怯んでいる場合ではなかった。大学院生としての沽券を賭けて、彼も慣れない英語を口にした。
「で、どこで拾ったんだ」

「リナは首都高の入り口でヒッチハイクしていたんだ」
ヤキダマはそれを聞いて再びこめかみに痛みを感じた。

「渋谷で買い物をしていてミツとはぐれちゃったの。で、うろ覚えでバスに乗ったら、全然知らないところに来ちゃった。家に帰り着いたミツとは電話で連絡取れたんだけれど、あの子は中学生だから、そんなに簡単に迎えに来れないのよ。で、せっかくだからヒッチハイクしてみようかなって」
「轢かれるかもしれない危ないところに立っていたので、停まって訳を訊いたら、そういうことだって。だから、送ってあげようかと思って。祐天寺だもの、ここからそんなに遠くないんだよ。ヤキダマも一緒に来る?」

 楽しく笑いあう二人を見て、ヤキダマはひどく疲労感を憶えた。この外人モデルもどきは変だ。二人にしておいて、コトリに何かあったら困る。そう判断し、黙って中に入ると、ヘルメットを二つ持って戻ってきた。

 モデルもどき、もといグレーディク嬢は白いヘルメットを被ってみた。
「あ、これなら前も後ろも痛くない。でも、横はブカブカね」

 ヤキダマは、日本人の頭蓋骨が欧米人と較べて前後に短く横幅が広いということを思い出した。だからヘルメットを欧米から輸入しても日本人には合わないことが多いのだと親父さんが教えてくれたのだ。

 ヤキダマは自宅の戸締まりをして鍵をかけると、ガレージからHONDAのスクーターPCXを出して来た。
「遅いよ、ヤキダマ。置いてっちゃうよ」
コトリの言葉に肩をすくめる。グレーディク嬢が調子に乗っておうむ返しをした。
「オイテッチャウヨ!」

 ヤキダマの住む恵比寿から祐天寺はそんなに遠くない。ほんの少し渋滞はあるが、二輪車にとってはそんなに大きな問題ではなかった。グレーディク嬢が左右をキョロキョロと見ている。よほど面白いらしい。駒沢通りに入り、祐天寺の塀が目に入ると、彼女はコトリの肩を叩いて合図をした。254が駅の方向に右折すると、PCXもよどみなく曲がって後を追う。やがて、二台は目立たない一軒家の前で停まりエンジンを切った。

※ ※ ※


「リナ姉ちゃん!」
外からのエンジン音が止まった途端、僕と母さんは表に飛び出した。最初に目に入ったのは真っ赤なバイク。そして、その前で格好よくヘルメットを脱いで髪を揺らすリナ姉ちゃん。それからその後ろにいる二人と、スクーターにも目がいった。

「ミツ、ママ。たっだいま~」
リナ姉ちゃんは、死ぬほど心配していた僕たちが悲しくなるくらい明るい。

「いったいどうなったんだよ。この人たちはいったい?」
ヘルメットを脱いだ二人の顔が見えた。ええっ。女性だ。おかっぱの髪がさらさらしている。メイクをしているかどうかわからない、ナチュラルな透明感のある丸顔。とても清潔感のある人だ。こんなかわいい人が、バイクを運転するんだ。もう一人はとても背の高い青年で、痩せているけれどとても姿勢がよくて、なんていうのか骨っぽくて強そう。でも、顔はどちらかというと知性で勝負ってタイプに見える。二人とも、とても感じがよくて、リナ姉ちゃんとも英語でペラペラ話している。
「紹介するわ。さっき友達になったの。コトリとヤキダマよ」
――変わった名前だな。リナ姉ちゃんと友達になるだけのことはあるかも。

「はじめまして。中小路彩香なかこうじ さやかと申します」
三厩幸樹みんまや こうきです」
二人がきちんと母さんに挨拶をした。やっぱりちゃんとした社会人だった。そうだよな。本名のわけないじゃん。

 母さんは、慌ててお礼をいい、二人にお茶でもと言った。リナ姉ちゃんが言った。
「遠慮しないで、寄っていって。このうち、いつもすごく美味しい和菓子がでてくるのよ。私、練りきり大好き」
姉ちゃん……。母さんの言うお礼ってのは、姉ちゃんがおやつを食べるって意味じゃないんだけど。

 でも、姉ちゃんは、客間に通された二人にぴったりついてゆき、二人が一つずつしか食べていないのに、一人で二つも和菓子を平らげた。
「だって、こっちは道明寺だし、こっちは黄身餡なのよ。選べないわ」
そういう問題じゃないって。

「大体、なんで渋谷じゃないところに行っちゃったんだよ」
「いつものバスに乗ったつもりだったの」
いつものバスってことは洗足駅行に乗ろうとしたんだ。どこから?
「どっかのバス停よ。同じ柄のバスだったから、いつものだと思ったの」
で、行き先も確認しないで乗っちゃったんだ。僕はくらくらした。

「東急のバスはみんな同じ柄だよ。ちゃんと行き先を確認してよ」
「だって読めないんだもの」
そうか。漢字だから読めるわけないよな。それは氣がつかなかった。

「それで、三厩さん、中小路さん、お二人はどこで彼女を見つけてくださったんでしょうか」
母さんはコトリさんたちに、おそるおそる訊いた。
「目黒です。首都高の入り口でヒッチハイクをしていて……」

「姉ちゃんっ!」
コトリさんの説明をきくなり、僕は詰め寄った。
「何?」
「高速道路でヒッチハイクをしていたって……」

「高速道路の中には入っていないわよ」
「そういうことじゃなくって、なんでヒッチハイクなんてするんだよっ」

 リナ姉ちゃんは肩をすくめた。
「スイスだとよく見るのよ。大工の人とか」
どうしてここで大工がでてくるんだよ。

 リナ姉ちゃんは、もう少し説明してくれた。ドイツの職人たちは徒弟としてのカリキュラムが終わると「ヴァルツ」という三年にわたる放浪修行の旅に出かける伝統があるのだそうだ。ヨーロッパ各地の、同じ職業の親方のところに飛び込みで頼み込み数ヶ月ずつ雇ってもらうらしい。

「黒い服に、黒い帽子をかぶってね。それで、その人たちは公共交通機関使っちゃダメなの」
「ええ~っ。」
「ヨーロッパ中に行くのに?」
コトリさんとヤキダマさんも身を乗り出している。
「そうなの。ヒッチハイクするか、歩くしかないの。だからね。スイスでもたまに高速の入り口にそういう人たちが立っているのよ。だから、私もやってみようかなって思ったの」

 やってみようかなってさ。ここは日本なんだけど。
「でも、上手くいったじゃない。新しい友達もできたし。コトリには、今度ツーリングに連れて行ってもらうことにしたの」
そういうと、リナ姉ちゃんは、コトリさんと顔を見合わせて微笑んだ。

「えっ」
僕と母さんだけでなくて、そんな話を知らなかったらしいヤキダマさんも、ぎょっとして二人を見た。

「ヤキダマも一緒に来ていいよ。でも、ぐすぐすしていると、オイテッチャウヨ」
リナ姉ちゃんは、最後だけ習いたての日本語を使って、ムッとしているヤキダマさんに、いつものチェシャ猫風に、にいっと笑いかけた。


(初出:2012年12月 書き下ろし)

この記事には追記があります。下のRead moreボタンで開閉します。

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スイス人留学生が日本にやって来て異文化交流をするという趣旨に則って、このシリーズでは毎回日本人の知らないスイスと、スイス人の知らない日本を少しずつ埋め込んでいます。

今回は、欧米人と日本人の頭蓋骨の違い、私の連れ合いが日本で交通機関を利用する時に困った点、それに今どき珍しいドイツのマイスター制度でヒッチハイクをして旅をするヴァルツのことなどを入れました。

ヴァルツに関しては、この辺の記事はいかがですか。(英語です)
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Tag : 小説 コラボ キリ番リクエスト 連載小説 リクエスト

Posted by 八少女 夕

「どこの国の料理が好き?」

トラックバックテーマです。どこの料理も好きですけれど、一つを選べと言うなら日本料理ですかねぇ。といっても、和食という意味ではなくて家庭料理も含めた全部。ご飯にハンバーグとみそ汁のような自由に組み合わせて何でも食べられる懐の広さが好きですね。

ちょっと変わった国の料理という意味なら、トルコ料理がおいしいと思います。イスタンブールに一週間くらい滞在したことがあるんですが、安い地元の食堂で、なんと呼ぶのかわからない食べ物を「これ」と指差してよそってもらい食べたのですが、何を食べても美味しかったですね。デザートもおいしくて。


こんにちは!FC2ブログトラックバックテーマ担当藤本です今日のテーマは「どこの国の料理が好き?」です。最近海外の料理がどこも溢れていますよね!チゲ鍋やタイカレーなどなど。。少なからず日本人向けに味つけられているんでしょうが皆さんはどこの国の料理がお好きですか?やっぱり日本料理が最高!でしょうか?私は中華料理が好きで中華料理で働いてたくらい大好きです。中華は種類がたくさんあるのにどれもこれもおいしく...
トラックバックテーマ 第1575回「どこの国の料理が好き?」

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Posted by 八少女 夕

【定型詩】碧い星の円舞曲

月刊・Stella ステルラ参加作品です。新年にちなんだ日本語ソネットを書いてみました。Stella参加としてのメインは、むしろイラストの方でございます。新年なので、「Stella」の文字を入れてみました。

追記に今回のソネットの形式について、あいもかわらず言い訳めいたことが書いてあります。

月刊・Stella ステルラ 1月号参加 イラスト・定型詩 月刊・Stella ステルラ


碧い星の円舞曲



碧い星の円舞曲(ロンド)

凍てついた星のきらめく窓の外
明るく照らす天の月
雪野に響く鐘の音
子供らが勇んで撒くは紙吹雪

あかあかと薪ストーブの火は爆ぜる
奥方はケーキの時間を見計らう
亭主はジョークを織り交ぜる
客は飲み食べ語り大いに笑う

我らを乗せた碧い星
太陽を眺めゆるりと周る
めぐりくるは新たな年
東より明けて日にちも変わる

重ねるグラスの泡に酔い
異国で寿ぐ春の宵

(初出:2012年12月 書き下ろし)

この記事には追記があります。下のRead moreボタンで開閉します。

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ソネット(Sonette)とは14行から成るヨーロッパの定型詩です。いろいろな形式があるのですが共通した決まりは14行である事と、行の最後に韻を踏む事です。前回のStellaではドイツ語で書いたのですが、ブログのお友だち、ウゾさんの一周年でプレゼントした時にトライした日本語ソネットの方が、読む方を置いてけぼりにしないのでStellaでは日本語で書くことにしてみました。

単純に、14行で脚韻を踏んでいる、それだけが定型詩です。あとのことは細かくつっこまれても「すみません」としか言えませんのであしからず。

今回私が採用した韻の踏み方は「a-b-a-b, c-d-b-c-d, e-f-e-f, g-g」の形式です。まあ、日本人ならおわかりかと思いますが。


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Category : ソネット
Tag : 定型詩 月刊・Stella

Posted by 八少女 夕

【小説】大道芸人たち 後書き

三月からこのブログでメインに連載してきた「大道芸人たち Artistas callejeros」が無事に完結しました。ブログを始めた頃は、私の小説を読んでくれる人がいるのかなあと、半信半疑でしたが、この九ヶ月の間、第一回から読んでくださった方、途中からまとめて読みながら追いついてくださった方、本当にたくさんの方に励ましていただきました。

連載をはじめて、どなたかに読んでいただけているのかどうかさっぱりわからなかったのですが、ローマの章で最初のコメントをいただきました。その時のことは、今でも忘れられませんね。キャラクターの名前が書いてあって、そのことが、ああ、もう自分だけが知っている名前じゃなくなったのだと、泣きたくなるほど嬉しかったのです。

やがて拍手の数が増え、よくコメントをくださる方との間ではキャラの名前やあだ名が通じるようになりました。たくさんコメントをくださった方、ご自分のブログで宣伝をしてくださった方もいて、本当に作者冥利に尽きます。

この小説を思いついたのは、2011年の六月でした。それぞれのチャプターを約一ヶ月で書き、五ヶ月で一氣に完成させました。最初は、朧げなプロットしかなくて、チャプター1とチャプター2だけしか決まっていませんでした。途中から浮かんできたゴールはチャプター4のディーニュ。それから、チャプター5のラストシーン。その点と点をつなぐように、あとは物語が自然と降りてきてくれました。

書いている途中に助けてくれたのは、BGMにもしていた音楽。とくにクロード・ボーランの曲は、たくさんのエピソードを生み出してくれました。

この作品が生まれてから、私の旅にはいつも四人が同行するようになりました。ラジオから流れてくるピアノやフルートやギターを耳にすると、いつの間にか奏者がArtistas callejerosに変わってしまうようになりました。

ずっと自分一人のためだけに作品を書き続けてきました。だから、この作品には長いことたった一人のファンしかいませんでした。私です。四人が好きで、四人の自由な旅が好きで、一緒に悩んだり、お酒を飲んで騒いだり、怒ったり、音楽を奏でながら、南ヨーロッパを西へ東へと動き回りました。でも、それは一人遊びの妄想に過ぎない存在でした。

今は、少なくともかなりの数の方が、この作品の世界を知っています。四人の性格、歓び、哀しみ、弱さと強さを理解してくださっています。たくさんの日々紡ぎ出されるプロとアマの小説の中で、こんなに長い間おつき合いいただき、さらに、一瞬でも記憶にとどめてくださったことを、心から感謝しています。

現在、第二部を執筆中です。お目にかけることができるのは、早くて2013年の終わり以降になるかと思います。第二部の連載がはじまった時に、再びこの「大道芸人たち」の世界に戻ってきてくださる方がいらっしゃれば、作者としてこれほど嬉しいことはありません。

本当にありがとうございました。
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Posted by 八少女 夕

【小説】大道芸人たち (38)ミュンヘン、再出発

ついにこの日がやってきました。「大道芸人たち」の最終回です。といっても、第二部を書きはじめているので、完全な終わりではないのですが。章では38回、記事にすると52回と長丁場におつき合いくださいましたみなさん、本当にありがとうございました。明日は後書きをアップする予定です。

あらすじと登場人物
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大道芸人たち Artistas callejeros
(38)ミュンヘン、再出発


 テデスコ。七ヶ月ぶりに見るヴィルは、立派なスーツに身を包み、血色もよく健康そうだった。感動で泣きそうになるのを自分の重大な使命を思い出してぐっとこらえたレネは、咳をするふりをして急いでガスを吸い込み、それからヴィルの前に進んだ。

「お待たせしました。ご注文のアクアヴィットです」
本当だ。全然違う声になっている。レネは自分でびっくりした。

 ヴィルは、それがレネだとは全く氣づいていなかった。ヤスミンの特殊メイクの腕は知っていたが、まさかヤスミンが三人を手助けしているとは夢にも思わなかったので、ここにいるのはカルロスの手配した見知らぬ人間だと考えていた。

「こちらに受け取りのサインをお願いします」
ヴィルは、書類を見てサインをした。特別なことは何も書いてなかった。

「ありがとうございます。また、次の注文がございましたら、こちらにお願いいたします」
そういって、レネは小さなカードをヴィルに渡した。

 その様子を見て、教授は急いでこちらに向かってきた。カードには大きくはっきりと書いてあった。
「今夜、二十二時、ミラノ行き」

 ヴィルがそれをしまおうとした途端、不意に販売員の手が再びカードの上に行った。ヴィル自身も氣がつかないほんの一瞬のうちに、カードは別のものとすり替えられた。もちろんエッシェンドルフ教授は、そのすり替えには氣がつかなかった。

「わかりました。そうします」
教授にはヴィルのはっきりとした返事が聞こえた。
「アーデルベルト。そのカードを見せなさい」

 ヴィルは黙って、カードを父親に渡した。見られても何の問題もなかった。ヴィルは販売員を見た。
「それでは、これで失礼します」
そういうと、販売員は急いで出て行った。教授がカードに氣を取られているほんの一瞬のことだった。

 その手つき、そして見事にカードをすり替えた一瞬の手際に、ヴィルは合点がいった。ブラン・ベックだ。なんという完璧な特殊メイクなんだ。この俺がまったく氣がつかないなんて。あれでは病院で一度会っただけの親父にわかるはずはない。

 エッシェンドルフ教授は念入りにカードを見ていたが、もちろんそのカードにはあのチラシに書いてあった連絡先以上のことは何も書いてなかった。だが、情報の伝達は終わったのだ。今夜、二十二時、ミラノ行き。それだけで十分だ。ヴィルはアクアヴィットの瓶を一つ空けると、レネの仕事の成功に黙って乾杯した。

 教授は安心して、入ってきたばかりの市長夫妻に話しかけるために入り口の方に向かった。

 その時だった。秘書のマイヤーホフの驚いた声が教授とヴィルの両方の耳に届いた。
「フロイライン・四条……」

 蝶子が稔を連れて入ってきたのだった。
「招待状をいただきましたので、喜んで参上しましたのよ。まさか、招んでいただけるなんて思いませんでしたもの」

 馬鹿だな。来るなとメッセージを送ったのに。ヴィルは心の中で叫んだ。来てしまったからにはしょうがない。何としてでも二人をここから安全に帰さなくてはならない。

 教授は蝶子を見て満足の笑みを漏らした。エメラルドグリーンの絹のドレスはドレープといい、スリットの切れ込みといい完璧だった。二年前と全くかわらない理想的なプロポーション、特にスリットから歩くたびにのぞく足の美しさは、蝶子がかわらぬ努力を続けてきた証拠だった。もうじき再び私のもとに戻る女だ。教授は急いで二人の前に立った。

「ほう。コルタドとかいうスペイン人を連れてくるかと思ったが、あの時の大道芸人を連れてきたか」
「招待状にはパートナー同伴でとしかありませんでしたから」
蝶子は真っ正面から教授を見据えて冷静に答えた。

「いや、結構。ということは、つまり、その男がいまお前を独占しているってわけだね」
「おい、助平オヤジ。誰もがあんたみたいに女とヤることばかり考えていると思うなよ。俺たちは仕事のパートナーなんだよっ」
稔がついに切れた。

 教授はその失礼な言い方に腹を立てたが、主催パーティで招待客とけんかはできない。そのかわり、待機している警察に寄ってくるように目配せをした。
「あなたで幸いでした。スペインの貴族だと勾留させるのもやっかいでしょうが、日本人の大道芸人なら多少の手荒な扱いも問題ないでしょうからな」

「なんですって?」
蝶子が身構えた。

「警察が待っていますよ。私の婚約者を拉致して連れ回した容疑でね。シュメッタリング、私のところに戻って来たいんだろう。すぐに自由にしてあげるよ」
これは脅しだわ。もし、私が戻らなかったら、ヤスに危害を加えるという。

「おい。これがドイツでのパーティ招待客への歓待方法かよ」
「私の大切な婚約者シャッツを横取りしておいて、のこのこと敵の陣地に現れるとはね」

 その時、客の波をかき分けて、ヴィルが近づいてきた。蝶子は安堵と懐かしさでいっぱいになった。しっかりとした足取り。元通りに元氣になったのだ。

 ヴィルはとても厳しい顔をしていた。そして、よく通るはっきりした声で父親に話しかけた。
「親父。いい加減に目を醒ませ。この女はあんたにもこの家にもふさわしくない」
その言葉に耳を疑ったのは、教授だけではなかった。

 周りの招待客たちが、会話を止めた。先ほどまで誰も氣に留めていなかったのに、いまや招待客たちがことの成り行きを固唾をのんで見守っていた。

「この女は、誰とでも寝る売女だ。俺が誘ったら、あんたの息子と知っていたのに簡単に落ちた」

「テデスコ!」
稔が叫んだ。蝶子は青ざめて、いま聞いた言葉が夢であるように祈った。

「何しに来たんだ? 贅沢な暮らしが恋しくなって、もう一度親父をたぶらかすつもりか」
ヴィルは、蝶子たちと教授の間に立ちはだかった。

「テデスコ。俺たちは、お前に会いにきたんだ」
稔の言葉を馬鹿にしたようにヴィルは薄笑いを浮かべた。

「友達だから、か? 俺の方は、もうあんた達に用はない」
「どうして……」
蝶子はヴィルの変わりように困惑し、消え入りそうな声を絞り出した。

 ヴィルは蝶子の目を覗き込んだ。
「あんたを傷つける。今ようやく当初の目的を達したからな」

 蝶子は震えた。ヴィルは青ざめた蝶子の顔を見て笑った。
「あんたは本当に俺たちが偶然遭ったと思っていたのか? もちろん違う。俺はあんたがイタリアをほっつき回っているのを知っていた。真耶からの葉書をここで受け取ったからな。だから、すぐにイタリアに向かい、あんたを探して見つけたんだ。復讐のためにね」

「アーデルベルト。それは本当か? だから、お前は出て行ったのか」
教授は、ようやくすべてに納得がいったようだった。

 蝶子は、冷たいヴィルの表情をじっと見つめた。アーデルベルトがそこにいた。そして、これほどまでに深く憎まれていたことに、それに思いも至らなかったことに激しい痛みを感じた。

 彼を憎む氣にはなれなかった。愛してくれるから愛したのではない。愛してもらえないから想いが減るわけでもない。けれど、それは彼の母親も同じだったのだ。死ぬほど彼の父親を必要としていたのに、その想いは届かなかった。私が愛してもいない教授の側にいたから。どうしてこの人の両親だったのだろう。たとえ演技だったとしても、これほど私を理解してくれた人はいなかったのに。これほど必要とした人もいなかったのに。

 どうしても信じられないと、稔は思った。
「あれは、みんな演技だったっていうのか?」

 ヴィルは意地悪く口をゆがめた。
「まさか、俺が本氣でこの女に惚れたとでも? どこまでおめでたいんだ」

「あんたは役者だったな。ずっと、その見事な演技力で、俺たちを騙してたってわけか」
稔が震えながら言った。稔が本氣で怒ったのを蝶子ははじめて見た。

「悪かったな。あんた達まで騙したくはなかったが、いつもこの女と一緒にいたからな」
「俺たちは、死にそうになったてめえを本氣で心配したんだ。てめえがお蝶のことを思い詰めていると信じて心から応援したんだ。この大嘘つきのくそったれめが!」

「いいの。彼を責めないで」
殴り掛かろうとする稔を押さえて蝶子は言った。

「お蝶! 今さらこんなヤツをかばうなよ」
「お母様が亡くなっているのよ。わかるでしょう?」

 稔やレネにとって母親は神聖な存在だった。蝶子はそれを知っていた。ヴィルにとってはそうでないいことを祈っていたが、そんなはずはなかったのだ。

 蝶子はヴィルに言った。
「私が馬鹿だったのよ。許してもらえたと思っていたの。そうだったらいいなと願っていたから」

 ヴィルはそれについては何も言わなかった。二人にはヴィルの表情がもう読めなくなってしまっていた。
「さあ、ここから出て行くんだ。あんたは、あわよくばエッシェンドルフの奥方に収まろうって魂胆だろうが、ここにはもうあんたの居場所はない。二人ともさっさと浮浪者同然の暮らしに戻るんだな」

 蝶子はふいに、ヴィルが稔を助けようとしていることを理解した。教授が危害を加えようとしていたのは蝶子の連れて来る相手だった。カルロスにしろ、稔にしろ。蝶子を再び手に入れるために。だからヴィルは来るなとメッセージを送ってきたのだ。

 今のヴィルが演技なのか、それとも今までのヴィルが演技なのか蝶子にはわからなかった。わかるのはただ一つ、蝶子はいますぐ稔を連れてここから出て行かなくてはならないという事だった。

「そうね。ここに来たのは、間違いだったわ。行きましょう、ヤス」
蝶子に腕を取られて出口に向かった稔は、腹の虫が治まらず、もう一度振り向いて言った。
「てめえは復讐を果たし、この立派なお屋敷でけっこうな暮らしをするんだろうよ。だが、おぼえておけ。お前みたいなヤツには生涯一人の友達もできねえぞ」

 それから二人はざわめく人々の間をまっすぐに頭をもたげて歩いていった。
「シュメッタリング……」
悲痛な声を出したのは教授だった。蝶子はその声には答えなかった。教授の指示がなかったので、警察も手は出さなかった。


「こんなに長いこと僕たちをだましていたなんて。ずっと本当の友達だと思っていたのに。パピヨンとのことだって、心から祝福したのに」
外でヤスミンと一緒に待っていたレネは、稔から話を聞くと泣きそうな顔で言った。

「ひどいわ、最低よ。私はこんなことのために協力したわけじゃないわ」
ヤスミンが蝶子の代わりに泣いていた。

「泣かないで、ヤスミン。少なくともヴィルは私とヤスを自由にしてくれたのよ」
「お蝶、なんだよ、それ」
「わかっているでしょう。教授は罠を張っていたのよ。ヤス、あなたを警察に引き渡すか、私が戻るか、選ばなくてはならないところだった。ヴィルがああやって教授を止めなければ、私たちはこうやって二人では出られなかったわ」

「俺はお前を誘拐なんかしていないぞ」
「当たり前でしょう。でも、警察は常に有力者の味方だもの。釈放されるまで、どんな目に遭わされるか。不当と訴えたくても、私たちにはドイツには頼りになる有力者がいないもの」

 蝶子はため息をつくと、もう一度エッシェンドルフの館を振り返った。
「幸せな再会をするつもりだったのよ。馬鹿みたいだけど」


 一時間後、ヴィルは父親の寝室でネクタイを緩めた。父親を油断させて、蝶子たちを安全にミュンヘンから逃すためには、あれだけの大掛かりな嘘が必要だった。あれだけ多くの人間の前だ。世間体が邪魔して、蝶子に復縁を迫ることは当分できないだろう。俺にはあんたのような財力も人脈もない。だが、幸い世間体もないんだ。

 父親は市長と話していて、どうしても広間を離れられない。そればかりか、油断したのかマイヤーホフに監視を中止させてかわりに警察を送りにいくことを命じた。ミュラーの方は今日は監視をしている暇はない。

 幸い父親は金庫の暗証番号を変えていなかった。金庫を開けると、目当てのものはやはりその中にあった。取り出したパスポートを開けて、自分の名前と有効期限を確認する。IDカードも一緒に入っていた。ここから出て行くためにはパスポートがどうしても必要だった。これをどこかで再発行してもらうとなると長い面倒な手続きと時間がかかり、どうしても父親に居場所が知れる。そうしたら地の果てまでも追いかけてくるのはわかっている。蝶子との結婚は諦めても、俺と一緒にいる事は許さないだろう。

 現金や金塊や宝石類にもちらっと目をやった。これらは全てお前のものになると、父親は言った。あんたはその意志を翻すだろうな。あんたが唯一俺にくれるつもりのなかった一番大切な宝物シャッツを、俺はもうもらってしまった。そうつぶやいて、金庫をそのまま閉めた。

 あと必要なのは、自分のフルートだけだった。楽器置き場からフルートを持ってくると、背広を脱いでいつもの軽装に着替え、目立たないように急いでエッシェンドルフの館を離れた。ミュンヘンの街並に紛れてしまってからは、足取りを緩めた。走らなくても列車に間に合うだけの十分な時間はあった。


 ミラノ行きの夜行列車は、ようやくプラットフォームを離れた。稔はほっとした。忌々しいミュンヘンをようやく離れることが出来る。

「なあ、元氣出せよ。今回だけはお前に行き先を決めさせてやるからさ」
稔が話しかけても、蝶子は黙って窓の外を見ているだけだった。レネと稔は顔を見合わせた。トカゲ女よりも、復讐に燃えるゲルマン人の方が一枚上手だったってわけだ。

「コルシカに行こうかな」
やがて、車窓からミュンヘンの街の灯りが消えた頃、窓の外を見たまま蝶子はぽつりと言った。

「俺たちの再出発にはいい選択かもしれないな。またフェリーの上で一稼ぎしようぜ」
稔はレネに笑いかけた。

 蝶子をものにしようと勇氣を掻き集めていたレネの側から、あの時、稔が蝶子と稼ぎをかっさらったのは痛快だった。もっとも、あの時、お蝶が涙を流していたのは、あの助平教授のせいだった。今回はそのくそ息子のために涙を流すつもりなのか。

「今回はフルートの二重奏が出来るぞ」
コンパートメントの入り口からの声に、三人は仰天して振り返った。ドイツ人が入り口にもたれかかって、腕に抱えたフルートの箱を示していた。

「てめえ……!」

ヴィルは肩をすくめた。
「俺だけが悪いんじゃない。来るなと言ったのにのこのこやってくるんだからな。今日は逃げる千載一遇のチャンスだっていうのに。あんた達を逃して、こっちも怪しまれないように逃げ出すためには、あんな大掛りな芝居をするしかなかったんだ」

 レネは拳を振り上げ、稔も立ち上がった。が、稔のパンチが届く前に、きつい平手打ちの音がした。自分をひっぱたいた蝶子の右手をつかむと、ヴィルはコンパートメントの入り口に怒りに燃える蝶子を押し付けて唇を奪った。蝶子の口の中に平手打ちで切れたヴィルの血が流れてくる。

 やがて蝶子の抵抗する力が緩んだのを見て、レネと稔は肩をすくめて座った。ったく、やってられねぇぜ。勝手にしろ。

「前言撤回。やっぱり行き先はいつも通り多数決にしようぜ。俺はバルセロナでイベリコを食べたい」

稔の嫌がらせ発言にレネがにやりと笑って答えた。
「賛成。僕もそろそろイネスさんのエンパナディーリャが恋しい」

 蝶子を離して目を剥くドイツ人の胴に両腕を絡ませて、彼女は高らかに宣言した。
「じゃあ決定ね。私もカルちゃんの酒蔵のマンサニーリャが飲みたいから」

 ヴィルはため息をついて、両手を上げ降伏の意を示した。全メンバーの揃ったArtistas callejerosは、夜行列車の中でモロッコのティーグラスに入った安ワインで再出発を祝す乾杯をした。

(初出:2011年10月 書き下ろし)
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Posted by 八少女 夕

ムパタ塾のこと - 4 -

ムパタ塾の話は続きます。四人の他の参加者と一緒にケニアのマサイ・マラ国立公園のムパタ・サファリクラブにやってきました。

これまでの話は、カテゴリー「アフリカの話」でまとめて読む事が出来ます。こちらからどうぞ。


ライオン三兄弟

ケニアは赤道直下にある国ですが、マサイ・マラ国立公園は標高1500mの高地にあるので非常に過ごしやすく、マラリアの原因となる蚊もいませんでした。公園の中は野生動物が自然のまま生活しているので、人間の方がそれにあわせなくてはなりません。現代社会、特に日本では、お金さえ払えば大抵のものは用意されているのですが、それが全て取り上げられた世界と言ってもいいでしょう。東京にあるすべての利便性、電氣も水道も、自由に外で歩け、買いたいものが買える自由もありませんでした。もちろん携帯電話なんか通じないんですよ。ま、当時は携帯なんか持っていませんでしたが。

自由にならないのは、物質的なものだけではありませんでした。コミュニケーションも。現地の人は当然日本語は話せない訳です。

当時の私は、今ほど厚顔無恥に英語で誰とも話せた訳ではありません。たぶん、大学を卒業した平均的な日本育ちの日本人並みにしか会話能力がなかったのです。しかし、このムパタ塾以来、私の外国人とのコミュニケーション能力に大きな変化が現われます。その理由は——。

実はですね。参加者たちは「言葉の心配はありません。現地には通訳をするスタッフがおりますので」と言われていたのですよ。で、そのつもりで行った所、実はそのスタッフと私の語学能力が、どっこいどっこいだったのです。私も、あまり人に頼るのが好きな性格ではないので、大して変わらない人に通訳してもらうよりは自分で話した方が早いとしゃしゃり出るようになってしまいました。そして、参加して数日で、ケニア人も日本人参加者も、通訳を求めて私の顔を見るようになってしまったというわけなのです。

このむちゃくちゃコミュニケーションは、その後のアフリカ一人旅と、その後の現在の連れ合いとの出会い、つきあいに大きな影響を及ぼしました。そして、今の私があるという訳なのです。

次回は、ムパタ塾のカリキュラムについて話そうと思います。
関連記事 (Category: アフリカの話)
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Category : アフリカの話

Posted by 八少女 夕

メリー・クリスマス!

今日で、仕事納めです。明日と明後日は休日。明日はもちろんクリスマスで、26日は聖ステパノの祝日です。とはいえ、両方クリスマスのお休みということになっています。で、その後は有休です。元旦まで。二日が初出勤ですね。

我が家のクリスマスツリー

日本だと、クリスマスは本日24日までで、明日はケーキ投げ売りの日。クリスマスの飾り付けは撤収で、お正月迎えにいそいで取り替えるのですが、西ヨーロッパではクリスマスの飾り付けを撤収するのは1月6日の公現祭の日です。ですから、我が家のこのツリーは、まだずっと置きっぱなしです。

このツリー、ちょっと普通の家庭のものとは違います。キラキラ効果をつけてしまったのでわかりにくいでしょうが、電球のところが「ピンナップガールズ」なのです。ミニスカートをはいたギャルがガソリンスタンドにいる、みたいなあれです。子供がいないからできるロクでもない飾り付け。もちろんピンナップガールズは連れ合いの趣味でございます。その他に大量の鳥やハイビスカスなどの南国風のオーナメントに、よく探すと絵馬なども下がっていますし、玉もじつは手鞠なのですよ。これは亡き祖母の知り合いがティッシュを核に手作りしたものをたくさんいただいたので、毎年クリスマスツリーのオーナメントとして使っているのですね。

伝統を全く無視した、我が家だけのツリーで今年もクリスマスを迎えます。日本の皆様にも、それぞれの楽しみに満ちた、素敵なクリスマスとなりますように。
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Posted by 八少女 夕

【小説】夜のサーカスと無花果のジャム

月刊・Stella ステルラ参加作品です。今回スポットを当てるのは、時々名前だけ出てきていた壮年のバランス綱渡り男のルイージ。それに新キャラの《イル・ロスポ》。それに、第一回の「夜のサーカスと紅い薔薇」で登場したステラの故郷の面々も再登場します。

最後の方にちょっと出てくるレモンチェッロというのは、レモンのリキュールです。美味しいですよ。

ところで、Stellaの新年スペシャルは、性懲りもなくイラスト画像+日本語のソネットという形で参加させていただきます。こちらは28日にアップの予定です。

月刊・Stella ステルラ 1月号参加 掌編小説 シリーズ連載 月刊・Stella ステルラ


あらすじと登場人物
「夜のサーカス」をはじめから読む




夜のサーカスと無花果のジャム


夜のサーカスと無花果のジャム

朝のレッスンを終えてテントから出てきたステラは、仲間の様子がいつもと違うのに首を傾げた。団長が怒鳴っていて、ルイージがめそめそと泣いている。ヨナタンやブルーノが忙しそうに走っていた。だが、団長の説教の内容が、どうも変だ。ジャムがどうこうというように聞こえたんだけれど、まさか、この状況で、その単語は変よね?

「何故、予備を用意しておかないんだ。なくなりそうになったら、早めに言えばいいだろう?」
団長はまだくどくどと言っている。ルイージは手の甲で涙を拭った。
「まだひと瓶あると思っていたんだ。今晩は、渡れねぇ!」

「馬鹿を言うな。今から演目を変えるのが、どんなに大変かわかっているんだろう?」
「何といわれようと、ジャムなしじゃ演れねえ」


 ステラはそっとマッダレーナに近づいた。
「何があったの?」

 マッダレーナはかったるそうに煙をくゆらすと肩をすくめた。
「無花果のジャムが切れちゃったのよ」

 ステラは、イタリア語がわからなくなったのかと思って、混乱したままライオン使いの女をじっと見つめた。マッダレーナは、ああ、と言って事情を飲み込めていない少女に説明してやる事にした。
「ルイージはね、羊のチーズに無花果のジャムをつけたものを必ず食べてから、演技に入るの。あれがないとダメなんだって」

 ルイージはバランス綱渡りをする男だった。大きな長い棒でバランスをとりながら、遥か頭上の綱を渡って行くのだ。猫背の小男で、中年にさしかかっている。もの静かな、平和を愛する細いたれ目の男を、ステラは好意的に見ていたが、いかんせん、あまりにも無口で、親しくなるほど口を利いた事がなかった。

「羊のチーズと無花果のジャム? 山羊やイチゴじゃだめなの?」
マッダレーナはふふっと笑った。
「ダメダメ。この世界って、験かつぎする人、多いのよ。味がどうとか、科学的証明とか、そういう話をしても無駄よ」

「マッダレーナ、あなたもおまじないするの?」
「私? しないわね。でも、ほら。ブルーノは本番の前は鏡を見ないでしょ。それに、マルコたちは、目の前を黒猫が横切ったと大騒ぎしたりするし。ヨナタンがいまだに団長にオカマ掘られていないのも、その手の験かつぎの結果だしね」

 ステラは最後の例にぎょっとして、もっと詳しく訊こうとしたが、その時、当の団長がこっちに向かってきたので口をつぐむしかなかった。

「マッダレーナ、スーパーには?」

 マッダレーナは煙を吹き上げて答えた。
「ヨナタンが西のはずれの量販店を、ブルーノが中心部の小さな商店をあたっているわよ。双子とジュリアは、念のために共同キャラバンカーやテントの中を探すって」

「そうか。俺は隣町をあたってみるから、悪いがルイージが落ち着くまで見ててくれ」
「了解」

「無花果のジャムって、そんなに珍しいものだったかしら」
ステラも、近くの小さな商店に探しに行ったが、苺やアプリコット、チョコクリームに蜂蜜などはどこにでもあるのだが、無花果のものはみつからない。ルイージがそんなものを本番の前にいつも食べているなんて、全く知らなかった。それに、大の大人がジャムがないだけであんなに取り乱すなんて。

 しばらく行くと、見慣れた男がいるのに氣がついた。大型トラックを運転する運送会社の男で、移動設営の時はいつも派遣されてくるので馴染みになっているのだった。ちゃんとした名前があるはずだが、誰もが《イル・ロスポ》と呼んでいた。ひきがえるという意味だ。丸くてひしゃげた顔がその両生類を連想させるのだ。

「こんにちは」
「おや、これはブランコ乗りのお嬢ちゃんだ。今日はオフかい?」

「違うんだけれど、みんなで無花果のジャムを探す事になったのよ」
「へ、ルイージのかい?」
《イル・ロスポ》にまで知られるくらい有名なのね。ステラは頷いた。

「それは困ったね。この辺では売っていないだろうな」
「どこに売っているの?」
「俺が最後に見たのはコルシカ島だな。南の方にはあるだろうけれど」

 ルイージはシチリア島の出身だった。きっと彼にとっては無花果のジャムはお袋の味なのだろう。そう思ったら、それがないと演技が出来ないと泣く彼の事がかわいそうになってきた。

 テントに戻ると、ヨナタンが帰ってきていた。
「あった?」
ステラが訊くと彼は首を振った。
「ブルーノもダメだと言っていた。困ったな。夕方までに見つからないと、本当に舞台に穴があくからな」

 ステラはふと思った。そうだ、ママにも協力してもらおう。
「あたし、電話してくる」

「無花果のジャム?」
マリは大きな声を出した。午前中からマリのバルでたむろしている村の常連が一斉に振り向いた。
「わかったわ、こっちでも探してみる」

 電話を切ったマリのまわりに、男どもはゾロゾロと寄ってきた。
「今の電話、ステラからだろう? なんだって?」

「この夕方までに無花果のジャムがどうしても必要なんですって。誰か持っていないかしら?」
「無花果の? 我が家にはないよな。けど、手分けして探すか。ステラはどこに居るんだ?」
「パルマの側らしいわ」
「ここから50キロは離れているじゃないか」

 マリは肩をすくめた。
「そのくらいの距離をとりにくるのは、問題じゃないくらい重要みたいなの」
「そうか。ステラのためだ、手分けして探すか」

 彼らは仕事を放り出して、知り合いをあたりだした。もともと、大して仕事に身が入っているわけではなかったが。

 マリのバルは司令塔になった。情報のまとめ役はパン屋のジャンだ。
「だめだったか。お袋さんのところもあたってくれるか。ありがたい、頼むぞ」

「おい、ルカはどこにいる?」
「今日は地域消防団の会合で、ボレに行っているよ」

「ちょうどいい、電話をかけろ。ボレでも訊いてもらえるしな」
「誰か、最近シチリアかサルジニアに旅行に行ったヤツいなかったか?」
「待てよ、確か、例のいけすかない銀行家の野郎、行ったばかりだぞ」
「ちっ。仕方ないけど、訊きに行くか」

「お、ルカから電話だ。銀行家はちょっと待て。え、おい、本当か?」
ジャンの笑顔に皆、期待して電話の周りに集まってきた。

「あったのか?」
「ブラボー」

 ジャンは親指を差し上げた。
「わかった。すぐにステラに連絡する」


 ジャンからの電話を受けて、ステラは狂喜乱舞した。
「あった、あったわ」

 ジュリアをはじめ、メンバーが興奮してステラのもとに集まってきた。
「どこに?」
「カザルマッジョーレ。ボレの消防団にいる人のお母さんが五年前の無花果のジャムを地下倉庫に置きっぱなしにしていたんですって。誰が取りに行く?」

 全員が顔を見合わせた。車はない。団長は、探しに行ったまままだ帰ってきていない。
「どうしよう。このままじゃ夕方になっちゃう」
落胆したルイージは再びめそめそと泣き出した。


「あ。《イル・ロスポ》が、この街にいた!」
ステラが叫ぶと同時に、今度は全員が走って運転手を捜しに行く事になった。ほどなくして、エミーリオが《イル・ロスポ》を見つけて戻ってきた。運転手は大型トラックでジャム一瓶を運ぶなんてはじめてだと言いながらも、笑って30キロ離れた街へと向かってくれた。

 夕闇が静かに降りてくる頃、広場には電球がつく。みんなが待ちわびるトラックの音が響いてくると、代わる代わるルイージに抱きついて歓声を上げた。やがて、急ブレーキをかけてトラックを止めた《イル・ロスポ》が助手席から引っ張りだしてきたのは、とてもジャムひと瓶には見えない荷物だった。

「何これ?」
大きな箱にぎっしりと詰まったジャムの瓶、瓶、また瓶。60から70個はあるだろうか。

「無花果は20くらいしかないかもしれないと言っていたが、全部持って行ってほしいそうだ。ため込みすぎて、一生分を遥かに超えてしまったが、あの世まで持って行けないからって」

 ほこりを被ったジャムの瓶を見て、全員が沈黙したが、やがてマッダレーナが笑い出し、他の皆も笑いながらイチゴジャムなど、無花果ではない分を取り分けて手にした。

「《イル・ロスポ》のおじさんも、どうぞ」
ステラが言うと、彼はウィンクして助手席を示した。ステラが覗くと、そこには大量のレモンチェロの瓶が積まれていた。
「これも持って行ってくれって言うんでね」

 分厚くジャムを載せた羊のチーズを口に運ぶと、ルイージは満悦してナプキンで口元を拭った。それから重たい棒を軽々と担ぐと、舞台裏に向けて歩いて行った。仲間はその嬉しそうな様子に、ニヤニヤと笑いかけた。今日のルイージは絶好調に違いない。

(初出:2012年12月 書き下ろし)
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Tag : 小説 連載小説 月刊・Stella

Posted by 八少女 夕

大道芸人たちの見た風景 - 19 -

評判のいい海外の写真をエサに、読んでほしい小説「大道芸人たち」のアピールをしまおうという無茶な企画としてはじまった「大道芸人たちの見た風景」シリーズ。その「大道芸人たち」も来週はいよいよ最終回でございます。思えば、こわごわ連載を始めたのは、ブログを開設してまだ間もない三月。はるばる来たなあ。こんなに長いのに、辛抱強く読んでくださった皆様、ありがとうございました。来週も、どうぞよろしく。

パラドールの部屋は……

パラドールに泊らなかったら、たぶんカルロス・マリア・ガブリエル・コルタド(カルちゃん、ギョロ目、イダルゴ)というキャラクターは生まれてこなかったと思います。コルタドというバルセロナにほど近い架空の土地の領主さまである、裕福な実業家のイメージは、かなり早い段階に固まりました。彼はメインキャラではありませんが、Artistas callejerosの存続には必要不可欠の存在。優しくて愉快でラテンな父親役です。

パラドールはご存知のようにスペイン各地にある半国営の宿泊施設で、昔のお城や修道院の建物を利用した豪華で歴史の重みのある建物も多く、そのスペインらしい美しい建物や王侯貴族になったような気分を味わえるサービス、とても美味しい料理の数々を楽しめる贅沢なホテルです。近年のスペインの経済危機で存続が危ぶまれているそうですが、どうかいつまでも残してほしいと願っています。

この記事を読んで「大道芸人たち」を読みたくなった方は、こちらからどうぞ
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Category : 大道芸人たちの見た風景

Posted by 八少女 夕

「クリスマスプレゼントは用意した?」

いつものペースで行くと、本日ですねぇ、15000Hitどうしようかなあ。リクエストあったら申告してくださいませ。このリクがなくとも、来る一月にはちょいと大きいイベントを発表する予定でございます。ですから、完全スルーしてくださっても構いません。でも、来年のイベントの方はできるだけたくさんの方が参加してくださると嬉しいな……。

さて、本日は、トラックバックテーマです。お題は「クリスマスプレゼントは用意した?」ですが、はい、もうとっくに。連れ合いには、音楽を聴くために新しいCD-DVDプレーヤーを買いましたし、自分のためには新しいカメラ! どっちも活躍中でございます。

パノラマ写真

ちなみに、このカメラ(OLYMPUS SZ-31MR)の実際に撮ってみたレビューを。といっても専門用語はわからないのですが。まずはパノラマ機能。以前愛用していたSP-565UZと違って、ダイヤルをパノラマに合わせるだけですぐにスタンバイする所がいいですね。そして方向を決めて、シャッターを押したあと、すーっと動かすだけでこんなに簡単にパノラマが! 最近のカメラではこういうのって当然なんでしょうか? 私はびっくりしましたよ。以前のではつなぎあわせに失敗したりしていたので。


手持ち夜景モードのテスト

そして、前回の記事のコメントでみなさんの関心の高かった手持ち夜景モード。おわかりでしょうか。同じ場所で撮ったものです。左が普通に撮ったもの、右が手持ち夜景モードで撮ったもの。本当にぶれずに写るじゃないですか。いや、信用していなかった訳じゃないんですが。もちろんスキップしながら撮ったらダメです。でも、ごく普通にトライすれば大丈夫! いやあ、テクノロジーの進歩ってすごい。OLYMPUSの開発者の皆さん、頭が下がります。


こんにちは!FC2ブログトラックバックテーマ担当ほうじょうです。今日のテーマは「クリスマスプレゼントは用意した?」です。早いもので来週の連休があけたらクリスマス!今頃サンタさんは最後の準備に大忙しでしょうね~!サンタさんがプレゼントを持ってきてくれることもありますが自分からもプレゼントをあげたい!あなたはクリスマスプレゼントはもう用意しましたか?ほうじょうは前から欲しかったけど値段の張ったものが入...
トラックバックテーマ 第1572回「クリスマスプレゼントは用意した?」

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Posted by 八少女 夕

師走の腹回りは……

いやあ、師走ですねぇ。

訪問させていただいているあちこちのブログでも「今日は忘年会です」という記事が目立ってきました。私も二週続けて「クリスマス会食」がありまして、お腹周りに問題が……。この時期にお腹の周りの脂肪が増える事をWeihnachtsspeck(クリスマスのあばら肉)というのです。ふつうSpeckというのは豚肉ベーコンのことなので「クリスマスで豚になった」と言われたよう。

あの、胃袋って、あっという間にふくらみません? そして、元に戻すのはとっても大変です。

我が連れ合いは、食事を残すのを基本的に許さない男です。そして、基本的には私も彼に大賛成なのですが、こういう会食で出てくるフルコースを全部食べきるのって、本当に至難の業なのですよ。前回も前菜、サラダ、スープまではちゃんと食べたのですが、付け合せのクロケットを三つ残す事に……。うう、ごめんなさい。でも、デザートのアイスは食べちゃいました。

テーブルもクリスマスらしく飾り付け焼き上がったガチョウ

そして、食べまくりの集大成が、クリスマスそのものです。我が家では、妻の実家に行くのは物理的に不可能なので、毎年連れ合いと義母との三人で祝います。他にお客がいる事もありますが。

クリスマスに食べるものは、実はスイスではあまり決まっていません。ドイツではガチョウや鴨の丸焼きが多いみたいです。「大道芸人たち」ではプロヴァンス地方の伝統的クリスマス料理を書きましたよね。で、スイスでは、鶏やターキーを焼く人もいるみたいですが、一番よく聞くのがフォンデュ・ブルギニヨン(オイル・フォンデュ)かフォンデュ・シノワーズ(中国風フォンデュの意味でブイヨンで肉を茹でる、しゃぶしゃぶ風)です。みんなで鍋を囲むというスタイルが好きみたいですね。

我が家では、鶏、ターキーなどが多いのですが、ここ数年は連れ合いがドイツ人が自ら育てたというガチョウや雄カモを購入してしまったので、それを調理します。個人的には時間がかかって大変なので、これは今年で打ち止めにして欲しいのです。お腹にリンゴやみかんやドライフルーツなどを詰めて六時間くらいかけて調理するのですよ。
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Posted by 八少女 夕

【小説】大道芸人たち (37)アウグスブルグ、 希望

いよいよ、終わりが近づいてきました。ちょっと長いのですが、二日にわけるほどでもないので、今回と来週は切らずに一日で掲載します。今回の題名は、再会作戦だけのためではなくて、むしろレネのために(笑)

あらすじと登場人物
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大道芸人たち Artistas callejeros
(37)アウグスブルグ、 希望


「それ、シラー?」
ヤスミンはレネが読んでいる『群盗』のフランス語対訳本を見て目を丸くした。ヤスミンは、サンチェスから転送されてきたメールをプリントアウトして届けにきたのだ。だが、稔と蝶子が買い物に行っていたので、宿にいたのはレネ一人だった。レネは大好きなヤスミンが自分一人の時に来たことをとても嬉しく思った。話す時間が三倍になる。

「はあ。せっかくドイツにいるんで」
レネが言って、ヤスミンにその本を渡した。彼女はちらっと中を見てから返した。

「あたし、こんなに長く演劇に関わっているのに『群盗』を読もうなんて考えたこともなかったわ。読み終わったら、貸してよ」
「読み終わったら、あげますよ。どっちにしても読み終わった本は全部処分しなくちゃいけないんです。僕たち、定住者じゃないんで」

 ヤスミンは興味を持ったようだった。
「ねえ。あなたたちどうして一緒に大道芸人をしてまわることになったの?」

 レネは笑った。少し親しくなると、みなが同じことを訊く。
「僕はパリで失恋と失業を同時にして、コルシカに傷心旅行に出かけたんです。ちょうど同じフェリーに乗っていたパピヨンとヤスがチームを組むことにして、僕も混ぜてもらったんですよ」

「ヴィルは?」
「ああ、テデスコはもっと後で、ミラノで遭ったんです」

「え? ヴィルとシュメッタリングは一緒にカイザー髭のところから逃げ出したんじゃないの?」
「違いますよ。パピヨンはテデスコがカイザー髭の息子だって一年以上も知らなかったんですから」

「ヴィルの方は知っていたの?」
「ええ。知っていたみたいです」

「でも、シュメッタリングとカイザー髭は、その……」
「わかっていますよ。テデスコはそれでもパピヨンのことが好きになってしまって、だからよけい言い出せなくなってしまったんだと思います。でも、パピヨンの方も知った時にはもうテデスコのことを好きになっていたから」
「そうだったんだ……。あの唐変木のヴィルがねぇ」

「アウグスブルグ時代のテデスコはどんなだったんですか?」
「無口で、無骨だけど、頼りになる感じかな。私は彼がもうちゃんと役者になった後で参加したからそういう印象だったけれど、団長曰く、最初はすごく変だったらしいわよ」

「変って?」
「世間のこと何も知らないし、誰とも会話をしなかったんだって。そういう人だって、そりゃいるけど、普通そんな人が役者になんかならないじゃない? 団員はどうしようかと思ったらしいわよ」

「それで?」
「一年くらいで、それなりに社会に順応するようになってきたんだって。もちろん、ほとんど口をきかないし、何か言うとしてもぶっきらぼうだけど、本当は優しいじゃない? それがみんなにもわかって、馴染んだみたいよ」

「じゃあ、テデスコはなんで一人で旅にでたんだろう?」
レネはそういえばその経緯を聞いたことがなかったと思った。

「あら、知らないの? カイザー髭がね、息子を跡取りとして取り返すために、劇団に圧力をかけてクビにさせたの。生活を支えていたナイトクラブの方の職も失ったし。それで、自由に生きるために失踪したんだと思うわ。私はしばらく責任を感じて落ち込んだのよ」
「なぜ?」
「だって、私がカイザー髭のところに寄付を頼みにいったので、ヴィルがうちの劇団にいることがバレちゃったんだもの」

 レネは、ヤスミンのしょげた顔を見て哀しくなった。
「ヤスミンは、テデスコのことが好きだったんですか」

 ヤスミンはびっくりしたようにレネを見てから、大きく頭を振った。
「やだ。そりゃ、仲間としては好きだったけれど、恋していたわけじゃないわ。だって、全然タイプじゃないんですもの」

 レネはなんていっていいのかわからなかった。ヤスミンはウィンクした。
「私ね。お姫様みたいに扱ってくれない人はだめなの。ヴィルって私が髪を切っても、新しい服を買っても氣もつかないタイプでしょ? そんなの論外よ。あなたたち三人の中では、ヤスもダメね。彼は氣づくだろうけど、そんな女々しいことがいえるかってタイプでしょ?」

「よく見ていますねぇ。その通りです。僕はどうですか?」
「レネは合格よ。だって、この間も今日もちゃんと新しい髪型を褒めてくれたし、パンを切ってくれたりサラダをまわしてくれたりもちゃんとレディファーストだし。ねぇ。私みたいなタイプ、どう思う?」
突然そう迫られたので、レネは真っ赤になってもじもじした。ヤスミンは大いに満足した。

「もちろん……。ヤスミンみたいに素敵な女性には、滅多に会えないから……」
「嘘ばっかり。普段シュメッタリングと一緒にいるくせに」
「そ、そりゃパピヨンは素敵ですが、もう、そういう対象じゃないし……」
「じゃ、決めた。レネ、明日わたしとデートして。シラー読むのはバルセロナに帰ってからでもいいでしょう?」


「ええっ。ヤスミンを口説き落としたのかよ!」
稔が仰天して言った。

「口説き落としたというか、落とされたというか……」
レネが赤くなって頭をかいた。

「よかったじゃない。ヤスミンの前にでる度にぼーっとしていたんだし」
蝶子も喜んだ。それでも当のレネは訝しげに天井を見上げていた。
「でも、まだテデスコ奪回も済んでいないのに、デートなんかしている場合かなあ」

「何言ってんだよ。テデスコの件はまだそう簡単には片付かないし、俺たちはその間も生きていくんだ。お前が、憧れの女の子とデートできるチャンスがあるなら、作戦から外れたって構わないくらいだ」
「それはダメよ。ブラン・ベックは作戦の主役だし、ヤスミンの役割だって私たちより大きいじゃない」
蝶子がふくれた。

「作戦、変えてもいいんだぜ」
そういって稔はサンチェスから届いたばかりの郵便の中身を蝶子に渡した。白い仰々しい封筒で、表書きはバルセロナのコルタドの館の住所、蝶子宛だった。

 怪訝な顔をして裏を返すと差出人は教授だった。急いで中を確かめるとそれはパーティへの招待状だった。日時は二週間後、パートナー同伴でという印刷された内容の他に、教授の直筆でこう書いてあった。
「我が息子、アーデルベルトの快癒祝いならびにエッシェンドルフの後継者としての披露パーティです。彼ならびに私の親しい友人として、ご参加くださることを心から願っています。あなたのハインリヒ」
蝶子は、招待状を稔とレネに渡し、中身を訳した。

「なんのつもりなんでしょうね」
レネは身を震わせた。稔は腕を組んで憤慨した。
「何が私の親しい友人だよ。ふざけんな」

 蝶子は首を傾げていた。
「後継者の披露パーティですって?」
「披露されたって、逃げ出すことはできるだろう?」
「逃げ出すつもりがあればね」
蝶子は眉をひそめて言った。

「どういう意味だよ。テデスコはそのつもりに決まっているだろう?」
「どうして今さら披露パーティをするのかしら。彼はとっくにあそこの後継者なのよ。フルートをやめてからは、それを拒否して館に足を踏み入れなかったけれど。披露をするってことは、ヴィルが承知したってことじゃないかしら」
「テデスコが、もう戻らないって決めたってことか?」

 蝶子と稔が話している間に、レネはヴィルからのメールを印刷した紙を取り出し、それから招待状と較べだした。
「あ、やっぱり」
「なんだよ、ブラン・ベック」
「まったく同じ日時なんですよ。アクアヴィットを届けてほしいって要望と」

 蝶子と稔もあわててメールを覗き込んだ。

「オファーのあったアクアヴィットを一ダース、夕方の七時ごろ届けてください。当日はたくさん人が出入りしていますが、中に入り私を呼び出してください。料金を直接お支払いします。アーデルベルト・フォン・エッシェンドルフ。追伸:リラの苗木は不要です。酒だけを届けてください」

「ヴィルはパーティが開催されることを知っているのよ。それでわざわざその日を指定しているんだわ」
「後継者披露だってことももちろんわかっているわけだな。でも、その前には俺たちとコンタクトするつもりはないってことか」

「この、追伸は、パピヨンに来るなって意味じゃないんですか?」
蝶子の顔が曇った。もう、私には逢いたくないってことなんだろうか。エッシェンドルフの後継者として生きていくつもりだから、迎えにくるなって意味なんだろうか。

「おい。お蝶、なに暗くなってんだよ。テデスコは俺たちのところに戻ってくるに決まっているだろう。お前がここにいるんだぜ」
「彼は一度、ディーニュでArtistas callejerosから抜けようと決めたのに、私がそれを止めたの。でも、彼は本当はもう帰りたかったのかもしれない」
「あれは、お前とのことが上手くいかなかったからだろ」

「忘れないで。彼はアーデルベルトなのよ。教授の息子で、私のせいで亡くなったマルガレーテさんが母親なの。離れているうちに思ったのかもしれないわ。父親の元愛人で母親の敵の女とつきあうなんて、現実的じゃないって」

 蝶子はメールを指でなぞった。アーデルベルト・フォン・エッシェンドルフ。私たちの馴染んでいる名前はどこにも書いていない。

「ふざけんな。テデスコにはそんなことを考える時間はたくさんあったはずだ。お前を巻き込む前にな」

 蝶子はメールをじっと見つめていた。事務的な冷たい文面。リラの苗木は不要です。こんな一文で納得なんてできるはずはない。レネが冷たい返事だけを受け取って帰ってきたなら、私はもう二度とヴィルに逢うことができない。
「私、ヴィルに会って、直接訊きたい。私たちのところに戻りたいのか、それとも教授のもとに残りたいのか」

 稔とレネは顔を合わせた。それから稔が判断を下した。
「OK。二段構えでいこう。予定通り、連絡はブラン・ベックがやる。もし、失敗した場合のセーフティネットとして、俺とお蝶も行って、直接コンタクトをとろう。大勢の人間の前だし、カイザー髭だって変なまねは出来ないはずだしな」

* * *

「どうしてブラン・ベックって呼ばれているの?」
顔ほどもある大きなボウルに入って出されたサラダを頬張りながら、ヤスミンが訊いた。
「フランス語で青二才って意味なんです。僕が頼りないから、パピヨンがつけたあだ名なんです」

 ヤスミンは目を丸くした。
「そういわれて何ともないの?」
「あの三人がそう呼ぶ時には、何ともないですね。慣れてしまって、あの三人にはずっとそう呼んでほしいって思っているんですよ」

「ヴィルのテデスコってあだ名も?」

 レネの顔には思い出し笑いが浮かんだ。
「ミラノではじめて会った時、彼は果物屋の親父にボラれていたんですよ。パピヨンが横でものすごくいい買い物をしていて、その四倍くらいの値段を取られていたんです。で、果物屋の親父が、あれはドイツ人テデスコだからいいんだよって……」

 ヤスミンが吹き出した。
「あのヴィルが、そんないわくつきのあだ名を受け入れているなんて意外だわ」

「アウグスブルグでのテデスコは、そんなに近寄りがたい立派な感じだったんですか?」
「そうねぇ。彼の演技ってすごく迫力があるのよ。それで、現実にもそういう人だと思っている団員も結構多かったから」

「どういう役をやっていたんですか」
「何をやらせても上手だったけれど、悪役をやらせて右に出るものはいなかったわねぇ。意地悪なナチスの高官とか。あまりに真に迫っていたからヒロインが怯えて日常でも口を利かなくなっちゃったのよ。悪役が三回くらい続いたのでヴィルはいい加減にしてほしいと団長に談判して、その後に、すごくコミカルな役につけてもらったの。それで、新しい子たちはようやくあれが演技だとわかったってわけ」

「ヤスミンはどんな役をやるんですか?」
 ヤスミンは吹き出した。
「私は役者じゃないのよ。私はメイクアップ・アーティストなの。裏方。それと広報担当という名の寄付金集め」

 レネは驚いた。
「そんなにきれいなのに、舞台に立たないんですか?」

 ヤスミンはにっこりと笑った。
「レネって、本当に女の子を幸せにする言葉を、まったく嫌みなく自然に言えるのね。それってすごい才能よ、自覚している?」

 レネは首を傾げた。
「僕は、今まで好きな女性に褒めてもらったことないんです。だから、ヤスミンとデートできたり、褒めてもらえたりすると、世界がどうにかなっちゃったのかと不安になります」

「まあ。レネって、どうしようもない女ばかり好きになってきたんじゃないの? レネは素敵よ。知性的だし、優しいし。私、レネに会えてラッキーだと思うし、シングルでいてよかったと思うわ。ヴィルがこのタイミングでカイザー髭につかまったことを感謝したいぐらいよ」
ヤスミンはサラダボウルを横に退けて、テーブルの上のレネの手を握った。真っ赤になりながら、普通のデートと何もかも役割が反対だとレネは思った。

「それで、作戦のことだけど、決定したの?」
ヤスミンが甘い調子をぱっと取り去って訊いた。レネも真剣な顔に戻っていった。

「はい。予定通り、僕が行きます。一度顔を見られているから、カイザー髭にバレないように変装するんだけれど、それをヤスミンに手伝ってもらえってヤスがいっていました」

「まかせて。カイザー髭どころか、ヴィルにもわからないほど完璧に変身させてあげるから」
ヤスミンはそういうといたずらっぽい笑顔になってさらに付け加えた。
「ところで、特殊メイクの予行演習しない? 私のフラットに行って」
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Posted by 八少女 夕

ムパタ塾のこと - 3 -

ブログのお友だちの5000Hitを踏むのをあちこちで狙っている私ですが。よく考えたら自分の15000も近づいていますね。これってウゾさん風に華麗にスルーしちゃってもいいのかな。その代わりに三月の一周年にむけて、皆さんに参加してもらう壮大な企画ってのはどうでしょうかね。

さて、今日の本題。ムパタ塾の話は続きます。ようやくアフリカに到達。

これまでの話は、カテゴリー「アフリカの話」でまとめて読む事が出来ます。こちらからどうぞ。


バンダ No.1
帰国後に、私の宝物となったスケッチブックがあります。ムパタ塾で毎日書き綴っていたものを、毎日書いて実家に送っていたはがきとドッキングさせて作ったもの。そのうちにちら見せすると思いますが、他の参加者をして「このスケッチブック、すげー欲しい」と言わせた、ムパタ塾の事がぎゅっと詰まった三冊です。

当時はまだデジカメを持っていなかったので、そこに貼られている写真はデジタルデータがなくて、今日の写真もスケッチブックから接写したものです。




さて、話は戻って、前回は参加を決意したところでしたよね。説明会に参加して希望に燃えたものの、自分で参加費を捻出しなくてはならなかったので、「三ヶ月コースに行きたいんです。でも、今年は行けません。お金を貯めるので来年」と断言して一年半。会社も無事に辞めるめどがつき、お金も本当に用意しました。そしたら——。

「参加者が集まらなかったので、今年は三ヶ月コースは開催できなくなりました。一ヶ月だけです」

ええ〜っ。一ヶ月だったら、会社やめなくてもなんとかなったんじゃ……。ま、無理でしたかね。いずれにしてもムパタ塾で必要なお金は半分以下になってしまいました。それで、私は頼み込んだのです。せっかくアフリカに行くのだから、塾の終わったあと、私はアフリカ一人旅をしたいと。主宰者はそのアレンジをも快く引き受けてくださいました。それで、私はムパタ塾一ヶ月プラスアフリカ旅行一ヶ月弱の予定でケニアに旅立つ事になったのです。

バブルの余韻があったとはいえ、当時でもアフリカに一ヶ月も滞在する、しかもそんなにお金のかかる旅をしようという酔狂な参加者はそんなにいませんでした。参加者、総勢五名。集合は成田空港。空港ではじめて一ヶ月一緒に過ごす参加者たちと出会ったのです。そのうちの三人は、きちんとした社会的地位のある経済的にも余裕のある女性たち。お一人とは、今でも帰国する度に必ずお会いしています。そして、一人だけ私より若い大学生の青年。卒業旅行にしては豪勢ですが、滅多に出来ない経験を選んだ彼の選択は間違っていなかったと思います。そして、私。

このメンバーとアレンジの方が一緒に当時のスイス航空に乗っていきました。当時はスイスには何の縁もなかったのですが、せっかくアフリカまでいくのだからと、スイス航空のマイレージカードを作ったのですよ。それが今ではほとんど唯一の使うマイレージカードに……。人生ってわからないものです。

チューリヒ経由でナイロビに着くまで、ほぼ一日。そこからマサイ・マラ国立公園内にあるまでほぼ一日。日本からは、本当に遠い所でした。でも、これからはじまる旅にワクワクしていましたね。

到着後、それぞれにはバンダという小屋というか一軒家のような建物が宿泊場所としてあてがわれました。私が入れてもらったのはNo.1という中央棟から最も近い部屋でした。

ベッドとサイドテーブル、机と椅子と小さなクローゼット、それにシャワー室とシンプルで美しい部屋で、窓から見渡す光景とともに、その三週間のお城が私は大好きでした。

ムパタ塾の講義の話は、また来週以降に続きます。
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Posted by 八少女 夕

「私の防寒はこれ!」

防寒具はたくさんありますよ。

必須なのは手袋とマフラーとイヤーマフ、そしてレッグウォーマー。手袋には三段階ありまして、春秋のニットのもの、スキー用の分厚いもの、そして最後はニットの手袋の上に被せるミトンをして、その中にホッカイロのようなものを入れる最終兵器です。

イヤーマフは、二種類くらい持っているのですが、無印で買ったものは折り畳めるので室内ではポケットにいれることでなくすのを防いでいます。

レッグウォーマーもないと、マイナス15℃以下だと死にます。場合によってはフリース裏地のついたジーンズも着ていきますが、もこもこするのでレッグウォーマーで防寒して会社ではとる方が好きですね。

こんにちは!FC2ブログトラックバックテーマ担当藤本です今日のテーマは「私の防寒はこれ!」です。最近とっても寒くなってきましたね!皆さん風邪にご注意です!あたたかい格好を心がけましょうねさて、そんな寒い冬の中みなさんのおすすめの防寒対策や防寒アイテムを教えてください!私は本当に寒い日はムートンのブーツを着用します!( *`ω´)中がもこもこしていてとってもあったかくてつい履きすぎてしまいますダウン...
トラックバックテーマ 第1563回「私の防寒はこれ!」

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Posted by 八少女 夕

来年の目標

ほら、マヤ暦の最終日だの、隕石の飛来だの、来年の話をしてもしかたないのかもしれませんが、そうはいっても、明日は今日の続きなので、来年の事も少し考えておこうかなと思っています。

といっても、どの小説を書こうかという話は、もう記事にした事ですし、それはそのままで。

実生活の方で、「来年こそは」と思っているのが、イタリア語の再開です。以前、1年にわたって毎晩お風呂の中でイタリア語を学んでいたのです。そして、そのかいあって、少しはイタリア語が聴き取れたり、何を言っているのか話題がわかったりするようにはなったのですが、いまだに自分の言いたい事は簡単にはでてこないのです。

ここ二年ほどはお風呂の中では小説の校正をしていたのですが、ほんの少し小説のペースは落として、たぶん、ブログにかける情熱も、ほんの少し落として、家庭生活とイタリア語を頑張りたいなと。どうなるかはわかりませんけれど。

鬼が笑っているかも。
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Posted by 八少女 夕

金曜日は魚の日

魚料理

今日は魚料理の話をしましょう。

敬虔なキリスト教徒たるもの、金曜日や四旬節(復活祭の前の四週間)には肉料理を食べないそうです。そう、キリストの苦難を慮って。で、野菜だけを食べるのかと思ったらとんでもない。魚はOKなんだそうです。それじゃ、全然肉断ちになっていないじゃないと私は思うのですが、まあ、そういう事になっているのです。

そしてですね。スイスには海がないせいなのか、滅多に食べないものだからなのか、よくわからないのですが、魚料理をレストランで頼むと高いのですよ。ヨーロッパの一人前を完食するのが大変な私は魚を頼みたいのですが、あまりの高さに豚肉にしてしまうこともしばしば。

これは先日行ったレストランで食べた魚料理。ソースがとっても美味しかったのですよ。
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Posted by 八少女 夕

【定型詩】魅惑のブログの一年に

ブログのお友だちのウゾさんのブログが、一周年です。おめでとうございます! で、お祝いに何かを、とお約束しました。

リクエストですか 嬉しいですね。
僕のほうの ワタリガラスが夜ノサーカス見に行くとか 
探偵もどき二人組が大道芸人のあの方たちの音楽を聴くとか 
気象のシリーズの連中が ラスボスを語るとか 何かコラボ的なものか

それか 以前 ハロウィンの記事の時に 少し書かれていた 子供が鈴をもって…の 
お祭りについての記事!!!!!
それか この前 書かれていた 定型詩で何か。


いくつかのリクエストの中で、いちばんプレゼントっぽく出来そうだったのがこれでしたので、まずはこの詩を捧げたいと思います。(コラボは、別に是非しましょう!)前回から苦心してトライしているソネット。今回は特別に日本語で書いてみました。

追記にもう少し説明(というか、またしてもいい訳)を書きます。




魅惑のブログの一年に
— ウゾさんのブログ一周年によせて —

雪のような猫姫が静かに時を数えれば
子猫らが戯れ遊ぶ書のつつみ
玉露の香りが三時の空氣に溢れれば
媼の優しき和菓子に舌鼓

いくつものフィルムの味わい深い写真
なつかしき人との異国の旅語り
小さな弟のゲーム画面は大躍進
重きは優しき兄のまぶたのあたり

はらはらと時が舞い散る夢の城
茹ですぎたパスタは小麦に舞い戻る
季節らが優しく染めるの空の色
アリスらは儚き宵にワルツを踊る

大好きなブログの一年みな祝おう
また明日あすの新たな記事を夢みよう

この記事には追記があります。下のRead moreボタンで開閉します。

read more

日本語でソネットって、無理だと思っていたのですが、ちゃんとあったのですよ。大好きな福永武彦も書いていて、日本語におけるソネットを書く運動をマチネ・ポエティクというのだそうです。もちろん、そのレベルに対抗するつもりなどはなからございませんが、今回はお祝いごとだし、少なくともウゾさんが理解できる言語で書くのが礼儀かと思いましたので……。(おかげで才能ないのがバレバレ)

今回採用した脚韻の形式は「abab cdcd efef gg」でございます。内容は、え〜と、ウゾさんのブログの読者のみなさんは、なんとなくくみ取ってくださいますよね? ね? (す、すみません、すみません)

ウゾさんのブログは、追随を許さぬ耽美な文章で書かれた掌編、数奇な人生に裏打ちされた年齢に合わぬ深い記事、好奇心いっぱいの科学の記事、かわいすぎる三匹の猫たち、そして、個性豊かで面白すぎるご家族の事など、飽きない内容がたっぷりの名ブログですよ。まだ、いらっしゃってない方は、ぜひどうぞ。
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Category : ソネット
Tag : 定型詩 リクエスト

Posted by 八少女 夕

クリスマスと正月と

最近、あちこちのブログを訪問させていただいていると、シングルのみなさんが「クリスマス、どうしよう」と発言しているのによくぶつかります。いや、半分はネタとして書いていらっしゃるんでしょうけれど、それだけ「クリスマスはカップルでいちゃいちゃして過ごす夜」という日本だけの認識が定着しているという事なのでしょう。

ヨーロッパでのクリスマスは「日本でいう正月」でございます。とにかく、この前日までに掃除をすませる。ヨメとしては親戚付き合いに氣を遣う。ティーンエイジャーや、婚約または同棲していない恋人同士の場合は、その日はいちゃいちゃは置いておいて、自分の両親や祖父母も含めた家族で過ごすのが普通。つまりラブラブカップルが一緒にいない確率がかなり高い日なのです。

その分、若い者たちが帰ってこなくても許されるのは大晦日です。この日は仲間内で集まって、ハッピーニューイヤーの瞬間を馬鹿騒ぎして待つのです。もちろん、馬鹿騒ぎせずに、寝ちゃう家庭もあります。我が家なんか、かなりその確率が高いです。

個人的には、あまり夜更かしをして体調を壊したくないんですよね。なんせ二日から出勤なのです。三が日くらいゆっくりさせて欲しいと思うのも、日本人的感覚みたいです。
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Posted by 八少女 夕

【小説】大道芸人たち (36)ミュンヘン、 接触

親子の葛藤って、どこでもあると思うんですよね。まあ、こんなに深刻なものでない方がいいでしょうが。親にとってみればいつまでも頼りなくて、いろいろと口を出したくなる。子供は親心が鬱陶しかったりもする。永遠の課題なのかもしれませんね。

あらすじと登場人物
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大道芸人たち Artistas callejeros
(36)ミュンヘン、接触



 ヴィルは仲間が何度も接触に失敗したことを知っていた。父親がその都度、馬鹿にしたように報告してきたからだ。

「うろんな外国人が、こともあろうにハンスを買収しようとしたそうだ。あの男が五代にわたりこのエッシェンドルフの庭師をつとめた家の出で、驚くべき忠誠心を持っていることをシュメッタリングは忘れたのかね」
「今日は、お前の演劇仲間がやってきたそうだ。お前がここにいると聞いたといってな。誰がそれをいったのか、想像がつくな」

 電話は一切取り次いでもらえなかった。手紙はすべてマイヤーホフが先にチェックしていた。特にスペイン、フランス、イタリア、日本からの通信はヴィル宛であろうとなかろうと一切ヴィルの手に渡ることはなかった。

 ヴィルが外出を許されるのは病院に検査にいくときだけで、その時には秘書のマイヤーホフと召使い頭のミュラーがぴったりとくっついていた。ヴィルが一人でどこか個室に入るような時には、まずマイヤーホフが徹底的に調べ、その間誰もヴィルに近づかないようミュラーが見張っていた。

 ヴィルは氣にしていなかった。コルタドの館は警察調書での四人の住所から完全に父親のマーク下だが、まだ父親の知らない場所がいくらでもある。上手く逃げ出せさえすれば、コモ湖のロッコ氏のレストランやアヴィニヨンのレネの両親のところに行き、三人と連絡を取ることもできる。問題はここを逃げ出すことだけだった。

 父親は以前は書斎にあった金庫を寝室に移していた。そして毎日金庫を開けてパスポートがまだあるか確認しているらしかった。つまり、ヴィルは逃げるその当日にしかパスポートを取りにいけない。そのチャンスと網の目のように巡らされた使用人たちの目をすり抜けてこの館を出る、そのタイミングを合わせなくてはならない。

 この二ヶ月ほど、何も聞かなかった。ヴィルは父親にたてつくことも、反対にすり寄ったそぶりも一切しなかった。できるだけ自然に見えるように振るまった。父親のフルートの指導を受け、ごく普通に会話をし、領地の管理についての事務に同席した。以前はほとんど話をしたことのなかったマイヤーホフやミュラー、それに家政婦たちを取り仕切っているマリアンともごく普通の関係を築いた。

 ハインリヒは、いつまでも息子を軟禁しておくわけにはいかないことを知っていた。息子は完全に絶望してあきらめなくてはならない。大道芸人に戻ることなど。そして、蝶子と一緒になることなど。

「マイヤーホフ。例の書類を持ってきなさい」
ヴィルのフルートのレッスンが終わると、ハインリヒは秘書を呼んだ。普段はどんな仕事でも息子を同席させる父親が、今日だけは同席を求めなかった。それでヴィルはマイヤーホフとすれ違って部屋を出る時に、わざとぶつかった。マイヤーホフに謝りながら取り落とした書類を拾い、さりげなく見た。婚約不履行の訴訟の判例集だった。ヴィルは、父親がまだ蝶子をあきらめていないことを知った。

 完璧主義のエッシェンドルフ教授はフルートの音には確固たる自信があり、息子に限らず教えを受ける者は誰でも彼の言う通りの音以外を出すことは許されなかった。ヴィルは父親と争うつもりがなかったので、レッスンでは教師を満足させる生徒であろうとした。しかし、その日、教授は意外なことを言った。
「この間の音を出してみなさい」

 ヴィルは首を傾げた。先日、言われた通りに吹いたはずだった。それで、氣をつけて再び同じ音を出そうとした。ハインリヒはイライラして言った。
「この間というのは、お前が一人で吹いていた時の音だ。プーランクを吹いていただろう」

 ヴィルは眉をひそめた。出雲を思い出しながら吹いていた『フルートソナタ第二番』、それは蝶子たちと一緒に育てた音だった。蝶子の音はArtistas callejerosとの旅で、ヴィルや稔と一緒に自由に奏でるうちに、ハインリヒの望む音からかなり変容していた。ここでヴィルが一人で奏でる時にも、自分の中から湧き出る感情とテンポ、そして音色を響かせるArtistas callejeros式の演奏をしていた。それをハインリヒが聴いているとは思わなかった。聴いていたら即座に中断させ訂正するはずだった。

 躊躇するヴィルに父親は再び言った。
「あの音を出してみなさい。悪くなかった」

 ヴィルは腹を決めて、今までとはまったく違う音を出した。父親を満足させるためのレッスンではなく、大道芸でもなく、それは口に出せない想いを抱えている魂の響きだった。

 エッシェンドルフ教授はうなった。息子のやってきたことにはまったく感心できなかった。演劇だと。大道芸だと。シュメッタリングへの横恋慕だと。それは若さという名でまかり通る愚かさに過ぎない。すべてが私が導こうとしているお前の正しい道からの遠回りだ。なぜ素直に私の言う通りにしない。しかし、この音はどうしたことだ。

 十九歳の時、息子の音は一度完成したはずだった。ハインリヒ・ラインハルト・フライヘル・フォン・エッシェンドルフの完全なコピーとして。だが、いま響かせている音は、コピーなどではなかった。息子は明らかによりよくなって帰ってきた。自分以外に息子の音をこれほどに変えられる者や事があるとは信じられなかった。自分以上の教師がいるはずもなかった。すべてのフルート奏者は自分に従うべきだった。しかし、反逆を繰り返した息子の音色が、自分の教えてきた音楽を遥かに超えている。教授は自分の支配が息子に及ばなくなってきた事を不快に思ったが、ヴィルの音色に対して手を加える事が出来なかった。

「それで、マイヤーホフ。病院での検査の結果は」
「もう、傷は完全に塞がったということでした。午後にシュタウディンガー博士からお電話をくださるそうです」

「聞いたか。アーデルベルト。これからは病人扱いはしないぞ」
「はい」

「今月の終わりに、お前の快癒祝いと後継者披露のパーティをする。市長を始め、ありとあらゆる有力者を招待する。今後お前は、正式に私の後継者として社交の場や公式の場に出ることになる。覚悟を決めなさい」
「二人の監視役をつけたままでか」
「お前が腹を決めさえすれば、監視など必要ではなくなるのだ」

 腹はとっくに決まっている。監視がいらなくなる日は来ない。ヴィルは心の中でつぶやいた。パーティ。絶好のチャンスだ。客が多く、召使いたちがてんてこ舞いになれば、監視の目が届かなくなる。パスポートを取りにいくことも可能だ。

「そうそう、アーデルベルト。パーティにはお前が会いたい人間も招待するぞ」
ヴィルは訝しげに父親を見た。
「私は、シュメッタリングを再び手に入れる。お前がここから逃げ出さなくとも、直に毎日会えるようになるぞ。アーデルベルト」

 何を企んでいる。蝶子が自分からここに戻るはずはない。どうやって強制するつもりだ。

 パーティの準備をしているミュラーと雑談している時に、ミュラーがいくつかのパンフレットを持ってきた。
「パーティ用に酒を注文しなくてはいけませんのでね、なにかご希望がありますか」

 ヴィルはわずかに笑みを浮かべてパンフレットを繰った。ドイツのビールとワイン、フランスのワインやシャンペン、スペインのシェリー、ポルトガルのポート、イタリアのワインとグラッパ……。ゆっくりとパンフレットを繰っているうちに、あり得ないものを目にした。それはスウェーデンのアクアヴィットのページだった。だが、ヴィルはミュラーに不審を抱かせないように、そのページを長く眺めたりはしなかった。

 やがて、二人でワイン、シャンペン、ビール、グラッパ、その他の膨大な注文リストを作成した。
「あんたには他にもやることがたくさんあるんだろう。なんなら、俺が電子メールで注文するが」

 ミュラーはコンピュータの扱いがあまり得意ではなかったので、喜んでこの申し出を受けた。ヴィルがこの館から送る手紙、電子メールはいずれにしてもすべて教授が監視している。

 ヴィルはリストとパンフレットを持って、教授の書斎にあるコンピュータの前に座った。それぞれのページには別の業者の連絡先が書いてあるので、何通かのメールを書かなくてはならなかった。どのメールにも事務的な注文の文面を書いた。

 アクアヴィットのページに来た。鮮やかな濃い紫のリラの花の下に、アクアヴィットの瓶が置かれている。それは、コモのレストランのバルコニーに置かれていたのとそっくりな青銅製のテーブルで、丁寧にもタロットカードが一緒に置かれている。一番上に見えているのはもちろん恋人の正位置と運命の輪の逆位置。一ダース以上の注文にはサービスとしてリラの苗をプレゼントすると書いてある。

 ヴィルは無表情のまま事務的で父親に疑われないような変哲もない注文のメールを書いた。来るな、蝶子。ここであんたを待っているのは罠だ。
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Tag : 小説 連載小説

Posted by 八少女 夕

たかだか追記、されど追記……

毎週金曜日は、まとめて一週間分の記事を書いているのですが。

先週は(というか書いている本日は)、ついテンプレートを先にいじってしまったのです。私のブログは滅多に追記がないのですが、ある時はそのページの中で大人しく表示してくれなくて、いちいち記事のページに飛ぶようになっていました。それを単純に開閉にしたかったのです。

これがハマりました。原因は、タグを誤解していた事。<!--more-->タグで追記を囲まないといけないと信じ込んでいたために、どうしても追記が現われず……。ようやく、最後に<!--more_link-->タグで囲んでよかったんだという事がわかるまでに日付が変わっておりました。ぐったり。

でも、こうなったらまとめて記事も書いちゃえと午前様モードです。明日はゆっくり寝ればいいやってことで。
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Posted by 八少女 夕

いよいよ、本格的に……

ブログのお友だちへの連絡です。すみません、この週末、やる事が目白押しで、訪問は出来たのですが、ほぼ、どなたにもコメできませんでした! Stellaの感想や、コメントの方は本日以降再開いたしますので、どうぞお許しくださいませ。

軽く降ったあとに

ちょうど零度などという温度は、まだ序の口なのです。ようやく冬らしくなってきたなと思うのが、マイナス8℃前後ぐらいからでしょうか。へらへら外にいると、防寒を突き破って手足がかじかんでくる、という温度ですね。これがマイナス15℃を下回ると、「下手すると凍死しちゃう!」と思う寒さです。自転車で我慢できるのが15分程度ですね。てくてく歩いていたりすると、やはり15分くらいでカフェにでも入って暖をとらないとまずいことに。

この辺だと毎年いってもマイナス20℃ぐらいなのですが、場所によってはマイナス30℃なんてところもあります。シベリアではマイナス30℃というのは「冬にしちゃ暖かい」んだそうで。人間はどこまで環境に順応してしまうのか、驚きますね。
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Posted by 八少女 夕

買っちゃった

ずっと愛用していた「OLYMPUS SP-565UZ」というコンパクトデジカメのオートフォーカス部分が異常をきたしました。全くダメな訳ではなくて、うまくいったり、いかなかったり。いかなかったりの方が多いのです。しかも、望遠をしているとダメになったり。

それで修理も考えたのですが、絶対に新品よりも高くつくだろうなと思って、久しぶりに新製品はどうなっているのかとサイトを除いてみたのですよ。

で、新技術がすごいことになっていることに目を丸くして、ついに買ってしまったのです。

OLYMPUS SZ-31 MRです。

今までのSP565-UZ(光学20倍望遠)よりも薄くて軽いのに、光学で24倍、デジタルズームでは画質を落とさずに48倍まで撮れます。タッチパネルで自動的に焦点を合わせたり、望遠と広角が同時に撮れたり、動画と写真が一緒に撮れたりと、出来ることが半端じゃありません。さらに逆光でも三つの露出から最適な写真に合成してくれたり、手を動かすだけでパノラマが撮れたり、三脚なしで手持ちで夜景が撮れるなど、うたっている機能がすごすぎる。こうだったらいいなという機能をほぼすべて持っているのですよ。

olympussz31mr.jpg

もちろん、本当の写真好きなら、コンパクトデジカメではなくて一眼レフですべて自分で露出やらシャッタースピードを決めて撮るものなんでしょうけれど、私はそういうタイプではないのです。車もマニュアルではなくてオートマです。機械が私のやって欲しいことを自動的にやってくれるなら、黙ってお任せしたいのです。

そして、買ってしまいました。早く来ないかな。これからは、もっと氣軽にカメラを持ち歩けるようになりますね。
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Posted by 八少女 夕

大道芸人たちの見た風景 - 18 -

大道芸人たちの見た風景、ではなくてヴィルだけかも。それとヤスミンをはじめとする劇団の連中。まあ、いいや。

アウグスブルグのクリスマス市

昨年、生まれてはじめてドイツのクリスマス市に行ってきました。これはアウグスブルグの市の中心です。基本的にはクリスマスグッズを売る屋台と、グリューワインやらヴルストなどの食べ物を扱う屋台が出ているところです。真ん中にあるカルーセルのようなものと、大きなクリスマスツリーが明るく、人々がくり出して賑わっているので、とても活氣があります。

人ごみの嫌いな連れ合いは、友人の家で酒盛りをしていました。私はせっかくだからちょっと見て、グリューワインも飲んで。

ミュンヘンには、たくさんのクリスマス市があって、面白かったのは中世の市といわれているもの。売り子がみんな中世の服装をしていて、売っているものも甲冑とか、その手のオーナメントなどでした。

クリスマスの前には終わってしまうので、いらっしゃりたい方は早めにお休みを取るといいですね。そんな早くは休みが取れないという方も、クリスマスの後もやっている市も、ヨーロッパにはたくさんありますので、がっかりなさらずに。
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Posted by 八少女 夕

「自分の街や国を作るならどんな名前をつける?」

自分が住むという意味ではなくて、自分が創造するなんてことはしょっちゅうやりますよね。小説を書く皆さん。私もその一人ですから、よく存在しない国やら街やらを名付けています。

私が実際に住んでいる村をモデルにした架空の村、カンポ・ルドゥンツ村と言います。その近くにあるのがラシェンナ村。どちらも実際にはない名前ですが、レトロ・ロマンシュ語っぽく作りました。三キロほど離れている、私が仕事に行っている村をモデルにしたのがサリスブリュッケです。これはドイツ語風。

他の作品では、国そのものを架空に名付けたりしています。現在執筆中の「貴婦人の十字架」ではドイツをモデルにした国がグランドロン王国。フランスをモデルにしたのがルーヴラン王国。今のアルザス地方にあたる場所をモデルにしたのがフルーヴルーウー伯爵領。架空の国々だから、歴史故事に縛られることなく好き勝手やっています。

こんにちは!FC2ブログトラックバックテーマ担当加瀬です(^v^)/今日のテーマは「自分の街や国を作るならどんな名前をつける?」です。テレビゲームなどの設定で、主人公の名前や、街や国の名前をつける時加瀬は熟考して付ける派でした!小学校の頃や中学校の頃は、主人公の名前に、自分の好きな人の名前をつけたりしたものです…(遠い目)今もよくテレビゲームをするのですが、最近は自分の名前をモジるだけ等、あまり工...
トラックバックテーマ 第1561回「自分の街や国を作るならどんな名前をつける?」

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Posted by 八少女 夕

聖ニコラウスの来る日

サンタクロースはいつ来るか。日本人なら誰もがクリスマスと答えるでしょう。不正解。クリスマスには来ませんよ。クリスマスにやってくるのは赤ちゃんとなってこの世に降臨したキリストです。では、サンタクロースはいつくるの?
それは今日、12月6日でございます。この日が聖ニコラウスの祝日なのですね。

聖ニコラウスとシュムッツリィ

クリスマスにサンタクロースがやってくることになってしまったのは、アメリカの商業主義が日本に入っていった結果だと思います。ちなみにスイスでは、煙突からサンタクロースがプレゼントを持って入ってくるなどということはなく、クリスマスの朝に樅の木の下に置いてあるということになっています。

しかし、サンタクロースもちゃんと来ます。コカ・コーラの宣伝ではないので赤い服ではありません。ちゃんともともとの聖人の格好をしています。キリスト教の偉いお坊さんの装束です。(写真の白い方)ザンクト・ニコラウスがなまって、こちらでは「サミ・クラウス」というのですね。一年間いい子にしていた子供たちにお菓子をくれる優しいお坊さんです。

なんか茶色いのが隣にいますよね。これはシュムッツリといわれる人です。サミ・クラウスとセットでやってきます。手には枝で出来た鞭を持っています。「ママのいう事をきかなかった悪い子はお前だな。この鞭を食らえ」と脅すのです。なまはげみたいなものでございます。そうすると横からサミ・クラウスが「まあまあ」と取りなす。「明日からはいい子にすれば、とりなしてやろう」とか言って、子供たちに約束させて、最後はお菓子です。

たぶんもともとは、聖ニコラウス役が一人でやっていたのが二人に分化したものだと思われます。で、12月6日には学生やら親戚の兄ちゃんやらが各家庭をまわるバイトになるのですが、親の払うバイト料によってはサミ・クラウスだけになったりもするのがおかしいです。

もちろん、子供のいない我が家にはやってきません。来て欲しいけどね~。
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Posted by 八少女 夕

【小説】大道芸人たち (35)アウグスブルグ、 協力者

今回、再び新しいキャラが登場しています。ドイツ人です。かつて一度「楽しんで書いたサブキャラ」として紹介した、あの人です。ようやく出てきたよ(笑)本文に出てくる「マレーシュ」とはアラビア語で「明日」という意味の言葉です。

あらすじと登場人物
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大道芸人たち Artistas callejeros
(35)アウグスブルグ、 協力者


 スペイン人が会いにきたのは、二ヶ月ほど前のことだった。劇団『カーター・マレーシュ』に協賛してくれるなら中国人でもトルコ人でもなんでもいいというのがヤスミンの主義だったので、もちろん喜んで会った。それはサンチェスという名の、面長で巻き毛の男だった。堅苦しいスーツでも、胸ポケットに赤紫のチーフを入れているところなど、この辺りでは見られないラテン男だった。

 サンチェスは、スペインの芸術振興会バルセロナ支部の理事をしているコルタド氏の秘書だと名乗った。数年後にヨーロッパの各地のあまり大きくない劇団による芸術祭を予定しているので、地方都市の小劇団の渉外担当に話を聞いて回っているのだそうだ。また、希望があれば協賛金を捻出することもあるということだった。ヤスミンはそっちの話に飛びついた。

 サンチェスにはじめて会ったとき、彼の指示でヤスミンはここ七、八年の定期公演のチラシを持ってきていた。サンチェスはゆっくりとそれを検討しながら、ヤスミンのいかに『カーター・マレーシュ』が優秀な俳優陣とスタッフに恵まれた将来性のある劇団で、積極的に新たな試みに挑戦してきたかという、いささか説得力のない説明に、本当に聴いているのかすらも疑問な態度で頷いていた。が、あるチラシに目を留めてから、急にその前後のチラシを比較しだし、日付を確認してからヤスミンに訊いた。
「この年から、急にこのヴィルフリード・シュトルツという俳優が出演しなくなっていますよね。あなたはこの俳優を個人的によくご存知なんですか?」

 ヤスミンは面食らった。
「ええ。知っています。彼とは五年ほど一緒に仕事をしました。いい俳優でしたが、事情があって俳優が続けられなくなったのです」
「その事情をお伺いしてもいいですか」

「……。どうしてそれをお知りになりたいか、伺っても構いませんか?」
サンチェスは、深いため息をついて、それから辺りをはばかるように言った。
「私は、事情があって、アーデルベルト・ヴィルフリード・フォン・エッシェンドルフという青年の知り合いを捜しているのです。この俳優は彼でしょう」

 ヤスミンは驚いて頷いた。
「でも、サンチェスさん。彼の本名を知っているのは、劇団の仲間でもほんの数人なんです。私はその数少ない一人ですわ」


 ヤスミンは、二年前の夏のことを思い出した。あれはヴィルが姿を消す一ヶ月ほど前のことだった。

 いつもの通り、協賛金を出してくれる篤志家を求めて、その日ヤスミンはミュンヘンに行った。長いことアタックしていたエッシェンドルフ教授がほんの半時ほどなら会ってもいいと言っていると、秘書のマイヤーホフ氏から訊いたので、飛んでいったのだ。

 やたらと広い館だった。ミュンヘンの市街地の側にこんなに大きな館があるなど、夢にも思わなかった。フルートの権威であるエッシェンドルフ教授は、この館と郊外の広大な領地を持つドイツの特権階級の一人だった。用件を取り次いでもらい、教授が現れるのを待つ間、ヤスミンは自分のみっともない服装を後悔しながら唇を噛み締めていた。

 教授が現れた。「なんだ、トルコ人か」と思っているのが顔に表れた。正確にはヤスミンにはトルコ人の血は四分の一しか流れていないのだが、エキゾチックで大きい黒い双眸と濃い眉が、ほかの四分の三の血を無視して誰にでもトルコ人に違いないと思わせてしまうのだった。

 ヤスミンは理路整然と劇団の将来性ならびに窮乏を訴え、わずかな協賛金がどれほどありがたいかを切々と訴えた。教授はヤスミンの演説には全く心を動かされた様子はなかった。

 ヤスミンが渡した今度の公演のチラシを冷たく突き返そうとしたその瞬間、ふいに教授の手が止まった。その目は出演者の名前のところに釘付けになっていた。

「この、ヴィルフリード・シュトルツというのは……」
「はい。とてもいい俳優です。今回は敵役ですが、迫真の演技って、とても評判がいいんです」

 教授はその評価については全く興味がなさそうだった。
「この男は、ピアノを弾くんじゃないか?」
「はあ。そうですね」

 ヴィルはナイトクラブでピアノを弾いて、劇団からの収入では食べていけない分を補っていた。ピアノだけで十分生きていけるほど上手いのはヤスミンもよく知っていた。

 すると、教授は突然氣を変えたらしく、懐から札入れを取り出すと突然二千ユーロをヤスミンに手渡した。ヤスミンは現金でそんなにもらえるとは思っていなかったので、びっくりした。

「とりあえず、これをもって行きなさい。劇団からの正式な領収書をマイヤーホフ宛に送るように」
「ありがとうございます」
ヤスミンは震えてその金を受け取った。

 その時、応接間の扉が開いた。教授とヤスミンは同時にそちらを見た。女が立っていた。
「お邪魔をしてごめんなさい。でも、もう出なくてはいけないので……」

 その女は燃えるように美しい朱色のワンピースを着ていた。腰まである長いストレートの黒髪で、朱色の縁取で大きなつばのある白い帽子をかぶり、やはり白と朱色のハイヒールを履いていた。年若い見たこともないほどきれいな東洋人だった。

「いいんだ。シュメッタリング。行っておいで。やはり私も一緒に行った方がいいかね」
教授は先ほどの厳格さはどこに行ったのかと疑うほど優しい調子で女に話しかけた。シュメッタリングと呼ばれた女は魅惑的な笑みを見せた。

「美容院に一緒に行っても退屈なだけですわ、ハインリヒ」
「だが、お前がそんなに美しいと、道行く男たちが誘惑しにこないか心配だ」

 この人、この若い東洋人にメロメロなんだわ。ヤスミンは興味津々で二人のやりとりを見ていた。女は教授の言葉に微笑みを見せた。なんともいえない謎めいた表情だった。あでやかで美しいのに、どこか痛々しく、それでいて何かを軽蔑しているかのような複雑な笑顔だった。

 ヤスミンは、早々に退散した。教授の顔にはさっさと帰れと大きく書いてあった。もらうものはもらったのだ。ヤスミンも長居したいとは思っていなかった。


「ねえ。ヴィル。今日、私、ミュンヘンのエッシェンドルフ教授って人のお館にいったんだけど」
帰ってから、ヤスミンはヴィルを捕まえていった。ヴィルは眉をひそめてじろりとヤスミンを見た。ヴィルはいつもこうなのだ、無表情でとっつきにくい。けれど、意外と優しいことをヤスミンはよく知っていた。

「二千ユーロもくれたのよ。なぜだと思う?」
「さあな」

「チラシにあなたの名前があってね。それを見て、ピアノを弾くんじゃないかって訊かれたの。それで、そうですねって言ったら、突然氣前よくなったのよ」
「あんた、俺の名前の載ったチラシを渡したのか」
「ええ。だって最新作のチラシだもの。悪かった?」

 ヴィルは少し考え込んでいたが、頭を振った。
「あんたが、あそこに金をもらいに行くとは思いもしなかったからな。仕方ない」

「ねえ、あの大金持ちと知り合いなの?」
ヴィルはしばらく黙っていたが、やがて言った。
「あれは、俺の生物学上の父親だ」

 ヤスミンはぽかんと口を開けた。
「みんなには言うな。俺はあいつとは縁を切ったんだ」


 ヴィルの母親が半ば自殺するような形で急逝したのは、それからすぐだった。代役を立てて舞台は始まったが、ヴィルの休みが明ける前に、団長は団員にヴィルがもう劇団には戻らないと宣言した。あまりに意外だったので、ヤスミンは団長に事情を聞きにいった。

「それが、ヴィルはミュンヘンに戻ることになったんだ。銀行がな。ヴィルをすぐに解雇しろと言ってきた。そうしないと一切の資金を引き上げると。もし解雇したなら、反対にエッシェンドルフ教授から巨額の協賛金が出るってことらしいんだ」
「あの、カイザー髭の親父がそんなことを?」
「なんだ、お前も知っていたのか。そうだ。教授はヴィルを演劇から引き離して自分の跡継ぎにしたいので、銀行に圧力をかけたんだよ。今、銀行に資金を引き上げられたら、俺たちはおしまいだ。不当なのはわかっているが、どうしようもないんだよ」

 ヤスミンはそれ以来、ヴィルに一度も会っていない。


「ヴィルはその後、カイザー髭から逃げ出して失踪しちゃったんですよ。カイザー髭は必死になって探して、うちの劇団員が匿っているんじゃないかとずいぶん疑っていたみたいですけれど、私たち誰も彼の行方を知らないんです。だから、残念ですけれど、私は彼の行方については全くお答えできませんわ」
ヤスミンはサンチェスに率直に話した。

「いや、彼の行方はわかっているんです。彼は今、再びミュンヘンのエッシェンドルフの館に戻っています」
「なんですって?」

「彼が、ミュンヘンを逃げ出してから事件で怪我をするまでのことは、私どもはあなた方よりもよく知っていましてね」
「事件? 怪我?」
「彼は五ヶ月前にフランスで刺されて、もう少しで死ぬところだったんです。ドイツ警察に捜索願が出ていたので、報せはすぐにお父様のところに行きました。そういうわけで、彼は再びミュンヘンに戻っているんです。私どもは、お父様に知られないように彼とコンタクトをとる方法を探していましてね。それで、彼のドイツ時代の知り合いを捜しているんです」

 それが、このスペイン人の目的だったのだ。ヤスミンは納得した。

「ところで、『カーター・マレーシュ』ってのはどういう意味ですか?」
サンチェスは訊いた。

「ああ、アウグスブルグの有名な人形劇の『雄猫カーターミケーシュ』のもじりですわ。深い意味はないんです」
ヤスミンはにっこりと笑った。


 サンチェスの話を訊いて、ヤスミンはすぐにミュンヘンに行った。劇団の仲間と言っただけで、門前払いにされた。それで、ヴィルの学校の同級生を探し出して連絡をしてもらおうとしたが一切取り次いでもらえなかった。サンチェスからの連絡には、その旨を伝えた。

「でもね、サンチェスさん。わたしはまだあきらめていませんから。あのカイザー髭のやり口には全く感心ができないんです。ヴィルはあの親父と縁を切りたがっていましたもの、ぜひ手伝いをさせてください。協賛金のためじゃありません。本当よ」
「わかっています。コルタド氏は、既に協賛金を振り込んでいますよ。ところで、近いうちに、彼の一番会いたがっている人たちが、そちらを訪れる予定です。彼らに会ってやってくださいませんか?」
「彼の会いたがっている人たち?」
「そうです。五ヶ月前まで寝食を共にしていた仲間と、彼の一番大切な女性です」

 あのヴィルに寝食を共にするほど近い関係の仲間がいたなんて。それに、恋人ですって? 嘘でしょう? いったいどうやって口説いたのかしら。


「嘘っ!」
ヤスミンは自分の目が信じられなかった。赤いドレスの人じゃない。忘れようっても忘れられなかった、あの人が、どうしてここにいるのよ。

 連れてきた三人を紹介しようとしているサンチェスが不思議そうにこちらを見ている。
「レーマンさん? どうかなさいましたか?」

 ヤスミンは我に返って、ごにょごにょと言葉を濁し、頭を下げた。
「すみません。私はヤスミン・レーマン、ヴィルの劇団時代の同僚です」

「はじめまして。俺は安田稔、ヤスと呼んでください」
「はじめまして。僕はレネ・ロウレンヴィル、ブラン・ベックって呼ばれちゃっています」
「はじめまして。私は四条蝶子……」

 それ以上、ヤスミンは言わせなかった。
「シュメッタリングって呼ばれていた人でしょう? 私、あなたを憶えているわ」

 蝶子は面食らった。稔は白い目で蝶子を見た。
「お前。また憶えていないのかよ」

「ごめんなさい、どこでお会いしたのかしら」
「いえ、憶えていなくても無理はありません。エッシェンドルフ教授のところに寄付金集めに行った時にちょっと姿を見かけただけだから。でも、あなたみたいにきれいな人、そんなに簡単に忘れられなくて」

 ちょっと待って。サンチェスさんは今日会わせるのはヴィルの恋人って言わなかった? でも、この人、カイザー髭が夢中になってたんじゃなかった? ええ?


「なんてきれいな人なんだろう」
レネはヤスミンが帰るとため息をついた。

「お前の好きそうなタイプだよな」
稔はへらへらと笑った。

「感じがいい人よね」
蝶子は言った。

「テデスコと親しそうだったじゃないか。妬けるんじゃないか?」
稔が蝶子を挑発した。蝶子は肩をすくめた。
「過去のことは変えられないもの。いちいち妬んだりなんかしないわよ」
「ほう。ご立派なことで」

 蝶子はヤスミンのことを考えた。異国的なくっきりとした顔立ち。豊かな巻き毛はつやつやと光っていたが、ショートヘアにしてあるので少年のように見える。黒くて大きな瞳がきらきらと光っているようだ。長いまつげも魅力を倍増している。明快な言葉遣いをし、ドイツ的な現実主義が前面に出ているけれど、心の優しさがそれを包み込んでいて心地よい。

 アウグスブルグ時代のヴィルは、きっと彼女やその他の劇団の仲間たちと幸せな時間を過ごしていたに違いない。自分の知らないヴィルの世界に嫉妬するつもりはなかった。けれど、ほんの少し寂しかった。私とヤスと真耶と結城さんが十年前に同じ大学で、同じ時間を過ごしていたときのことも、ヴィルはこんな風に感じたんだろうか。

 ヤスとブラン・ベックとヴィルと私とで、それぞれの過去に負けない幸せな時間を紡ぎだしていけばいいんじゃない。今はこんなことにブルーになっている場合じゃないんだから。蝶子は自分を奮い立たせた。


 その晩、三人とサンチェスはヤスミンに誘われて『カーター・マレーシュ』の団長や親しかったメンバーと一緒にビールを飲みにいった。団長をはじめ、ヴィルの境遇に同情した面々は、一様に協力を約束した。
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Posted by 八少女 夕

ムパタ塾のこと - 2 -

ムパタ塾の話は続きます。といっても、まだアフリカそのものには辿り着きませんけれど。前の話を読みたい方は、カテゴリーのリンクからどうぞ。

キリン

当時は、バブルはもう弾けていました。けれど、その当時の浮かれた感じ、「仕事でバリバリ儲けようぜ」という人たちがまだたくさんいたと同時に、「人間って仕事やお金だけじゃなくて、もっと大切な物があるわよねぇ」という、ふわふわしたロマンも十分残っていました。現在でもそういう考え方はもちろんあるのですが、当時は今よりももっと楽観的でした。端的に言うと「数年間充電してもいいよね」「戻りたかったらまた戻ればいいんだし」と思えたということです。私が就職をする時は、今よりもずっと簡単でしたし、実際に、アフリカから帰ってきて派遣社員として再び働き出した後も、派遣先で何回も「ところで正社員にならない?」と持ちかけられたものです。今の若い人たちが感じているような悲壮感とは本当に無縁でした。

さて、ムパタ塾に行くことを決めた時、私はとある大きな会社に勤めていました。そして、入社五年目としてはもったいないくらいの重要な職務を負かされていました。ある意味で会社が向かう先に関わるような内部組織にいたのです。しかも、女性としてははじめてその職に抜擢された、ちょっと特殊な立場にいたのです。本質的には、私の存在は会社の命運を決定はしないけれど、その組織のイメージとしては「女でも、こんなに若くても、こういう立場に立てる」という一種の広告塔的な立場を担いつつ、個人的にもやりがいのある仕事をさせてもらっていました。

それでありながら、その会社が、もしくは資本主義国の大半の会社が目指している目標について、私の中では違和感が大きくなりすぎてしまっていたのです。「前年比+の営業目標を達成すること」「モノを売ること」それがその会社の、多くの企業の目指しているものでした。なぜ、毎年新しい服や家電を買い替える必要があるのだろう、なぜ物質的な豊かさだけが目標となっているのだろう。そんな疑問を持ってしまったら、営業をメインとする仕事を続けられません。単なる腰掛けならよかったのです。でも、私の任されている仕事は、どちらかというと社員に「もっと売れ」「もっとがんばれ」とハッパをかける方の仕事だったのです。自分が疑問を持っているのに。

それで、プライヴェートのときには、ますますエコロジーやもっと精神的な満足を求めるような本ばかりを読むようになっていました。

そして、ある時、その広告が目に入ってきてしまったのです。「ライアル・ワトソン監修。アフリカに長期滞在して、環境とエコロジーについて学ぼう」

サファリをしながら野生動物の写真を撮り、大自然の中での動物たちの姿を見る。スワヒリ語を学ぶ。キクユ族の小学校を訪れて、教育を受けるだけでも大変な子供たちと交流する。自分で庭をデザインする。原始的な楽器を演奏し、シャーマン的なダンスをする。陶器を作る。マサイ族の村を訪ねるて、乳搾りや家作りを見学する。世界的に有名な動物写真家と会う。世界的な象の権威である博士と一緒に象の生態について学ぶ。

魅力的なカリキュラムに、これにどうしても行きたいと思うようになってしまったのです。そして、もともとは三ヶ月コースに参加するつもりでした。もちろんそんなに休むなんて無理なので、会社を辞めるつもりでした。参加費は300万円。もちろん誰からも支援がなかったので、参加を決めてから一年半でこの金額を貯めたのです。
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Posted by 八少女 夕

冬には冬の美しさ

昔はね。問答無用で嫌いだった冬なのですが、いまはそうでもないのですよ。とっても長いので、嫌いでしかたなかったらとてもつらかったと思うのです。

色鮮やかな冬の光景

私が子供の頃に冬が嫌いだった一番の理由は、しもやけでした。冬になるとかならず手足が1.5倍の大きさにふくれてしまっていたのですよ。暖かい室内ではパンパンにふくれて菓子パンみたいでした。かゆくてかゆくて何にも集中できませんでしたね。また外では青紫になってしまい、痛かったのです。途中からはあかぎれになって……。たぶん、血の巡りが悪かったのでしょうね。学校に行ってもみっともなくて恥ずかしくて、いたたまれなかったものです。

今は、足が少し赤くなることもありますが、手は大丈夫です。東京の寒さなど鼻で笑えるほどの低温になるし、冬自体も二倍くらい長いのですがなのですが、大丈夫なのですよ。

そういうわけで、冬は冬で楽しめるようになりました。

田舎の素晴らしい所は、雪が綺麗なところですね。東京だと、翌日には「汚れちまった雪」になってしまいますが、こちらでは大草原に降った雪が数ヶ月真っ白なままだったりもします。(もちろん低温が続いた場合だけですが)森の中で、野生の鹿が駆けていく姿に遭遇したり、きゅっきゅと雪を踏んで散歩をしたり、楽しみが色々あるのです。誰も聴いていないときには「うぉーきんぐ いんな うぃんた わんだら〜んど」とやりますね。
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Posted by 八少女 夕

いろいろ起こるから

義兄が離婚していた事をつい先日知った私です。いや、実の兄弟である連れ合いも、その日に知ったんだから、私だけが抜けているってわけでもないと思うのですが。

しかし、まあ、「そんなものか」と思ってしまうほどに、こちらはいわゆる修羅場が多いのです。私の村なんて人口千人ほどしかいないのに、年に一度くらいは「○○さんの奥さんが△△さんのもとに走った」なんてニュースを耳にします。

小説を書く時には、平凡な何も起こらない日々を書く事もありますが、それだけを書き続けても退屈なだけですのでなにか事件を書きますよね。日本にいた時には「こんな事ばっかり起こるわけないよね」と思うくらいだったのですが、どうもこちらに来てからは、私の小説の世界の方がよっぽど平凡というくらいに、すごい話に事欠きません。

で、モデルにさせていただくわけです。まったく同じ事を書くわけではありませんが、何かが起こるときのきっかけのようなものは、現実に見聞きした事件をよく使っています。
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