彼が、いちごを、入れた

で、先日なのですが、連れ合いが訊いてきたのです。「カシスのシロップはない?」いや、うちはお店じゃないからね。何でもあるわけじゃないのよ。で、ないと答えたところ、次の彼の行動がこれでした。スパークリングワインに苺を投入。
これは日本じゃまずないだろうな、と感心してしまったわけです。うちの連れ合いが外国人だからといって、キザなわけではありません。それどころかむくつけき50代の髭オヤジです。で、かっこいいからこういう事をしたわけではなくて、単純にこのスパークリングワインに甘味をつけたかっただけ。でも、私は感心してしまって、ついパチリ。日常の中の、非日常。
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タナカサン、ユージョー! の弊害
例えば、忍者の仲間同士がお互いにする挨拶が「○○さん、ユージョー!」だっていうんですよ。日本人なら「これ変だよ、ワハハ」で済むんですけれどね。問題は、これで忍者というものを学んでしまう外国人だっているわけですよ。
もちろん、「忍者赤影」や「ハットリくん」だって、歴史でいう忍者とは違います。週一ペースで徳川八代将軍吉宗が「成敗!」と叫び、お庭番が悪代官を斬ったというのもナンセンスです。とはいえ、「タナカサン、ユージョー!」が広まっていいのかなあ。
以前も書きましたが、日本人がヨーロッパの事を知っているほどには、欧米人は日本の事を知りません。ましてや日本の歴史の事などほぼ知識ゼロなんですよね。そこに忍者が一致団結して挑む悪の組織が「ソーカイヤ」だったりして、その後、それが一般知識のようになってしまって「江戸時代の悪の組織、総会屋っていうんだよね」って話になってしまうような。ま、「越後屋」だって別に悪の組織ではありませんでしたが。
とはいえ、一度耳にすると、このシュールなニンジャの世界、妙に頭に残ります。私の中でもニンジャが「ユージョー!」と叫びだしているから、ちょっと怖い。
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何と呼ぶか。
このブログの常連の方はご存知のように、私は結婚しています。配偶者はスイス人男性です。ま、それはどうでもいいことですが。で、彼の事をですね、不特定多数に、つまりブログやホームページやfacebookで語る時に、私は「連れ合い」という言葉を遣っているのですよ。
今日は、その言葉を遣うに至った若干の苦悩などを。
「まがりなりにももの書きたるもの、すべての言葉に選びに選んで使うべき」とおっしゃる方もいます。けれど私はそういう人間ではありません。彼の事を「主人」と呼ぼうが「旦那」と呼ぼうが「夫」と呼ぼうが「彼」と呼ぼうが「ヤツ」と呼ぼうが、はっきり言ってどうでもいいのです。
しかしですね。この配偶者の存在を表す言葉って、私ぐらいの年齢の人間、もしくはもう少し若い人にはとても繊細な問題なのですよ。世の中には、ご自分の意志でシングルでいる方もいれば、事情があってシングルではいたくないのにシングルである方もいます。後者の方は、かなりそのあたりのことに敏感です。
一方、フェミニズムの問題もありまして「旦那」とか「主人」とか、前時代的な概念だと憤られる方もあるのですよ。妻は夫の所有物や目下の存在ではないってね。
で、誰かと話をする時に私は、誰がどのような思想をもち、もしくはどんな状況でいるのかによって、配偶者の呼称をコロコロ変えているわけです。親戚のお年を召した方の前では「主人」と呼び、フェミニストの前では「彼」と呼び、ずっとシングルの同級生の前では名前で呼ぶというように。でも、ネットではそういう訳にもいかないじゃないですか。
ドイツ語はあっさりしたものです。「Mein Mann」と言えばそれで済むのです。「夫」という意味であり「同棲している彼」という意味でもありますが、要するに「あたしの男」です。直訳すると。それを歳とった親戚にも、友達にも、それから役人の前でも同じように使えるわけです。むこうも「Meine Frau」(俺の女)。
それで考え抜いたのですよ。一般的で、誰かの氣分を害さない、さりげない呼称はないかと。「配偶者」というといかにも固いし、「ねえねえ、あたしは結婚しているのよ」と言っているみたい。「夫」も同様です。こっちには紙切れのことはどうでもいいにも関わらず。「彼」だとただの三人称男性形と区別がつかない。「私の男」とドイツ語直訳を使うのも無理。「ヤツ」だと不必要に軽んじている感じがする。「パートナー」といういい方もあるのですが、これは日本にいるならいいのですが、海外に住んでいる人間が使うといかにも外国かぶれして響きます。結局残ったのは「連れ合い」だけだったというわけです。
というわけで、私の配偶者の事をコメントなどで触れる場合には、どうぞお好きな呼び方でどうぞ。私本人がこだわっているわけではなくて、そういう事情ですので。
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「白いご飯に合わせるなら…」
お茶漬けのことはバトンで書いたからいいとして、その他には、おかか味のふりかけが好きですね。それから、卵かけご飯。ちゃんとダシで作る方もいらっしゃるのでしょうが、私は卵、醤油、それに海苔でおしまい。
あ、納豆たまごかけごはんも好きですね。納豆にだしが入っているじゃないですか、あれを使います。納豆とだしと卵をわーっとかきまぜて、それを熱々のご飯にかけて、海苔を散らす。美味しいですけれど、実は日本にいるとき限定です。生卵食べると、連れ合いが嫌がるし、納豆も売っていないし。
こんにちは!FC2ブログトラックバックテーマ担当ほうじょうです。今日のテーマは「白いご飯に合わせるなら…」です。白いご飯炊きたてホカホカのそれを、様々な食材と合わせて美味しくいただく!最高ですね最近、ちょっと変わった卵かけごはんのレシピを見かけて今度それを試してみたい!と思っているほうじょうです。こんなことを書いていたらお腹がへりました!白いご飯と合わせるなら、どんなおかずが好きですか?自慢のレシ...
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【小説】世界が僕たちに不都合ならば
「十二ヶ月の歌」はそれぞれ対応する歌があり、それにインスパイアされた小説という形で書いています。六月はアンドレア・ボチェッリの“LA LUNA CHE NON C’E” を基にした作品です。「存在しない月」という意味の題名です。この小説がかなりおとぎ話みたいになっているのは、この歌のせいですね。
「君は夕闇に明るく輝くそこには存在していない月になるだろう」と朗々と歌い上げるロマンティックな曲。イタリア語なので、例によって私が訳しました。出回っている訳だと、ちょっとわかりにくいので、あえて一から訳し直して、さらに一部意訳してあります。よかったら歌のYoutube動画と一緒にどうぞ。

世界が僕たちに不都合ならば
Inspired from “LA LUNA CHE NON C’E” by ANDREA BOCELLI
乾いた空調と震える翼の叫びのようなスクリュー音が、耳の奥に響く。今はどこだろう。間違いなくロシアの上空だろうけれど、どの辺りなのかはわからない。珠理はもう数えられないくらい繰り返したため息をまたしてもつくと、そっと窓のブラインドを上げてみた。漆黒の闇だった空は、日の出の赤いオーロラに彩られ、星が消えゆく前のわずかな抵抗を見せる上空も柔らかい紺紫色になっていた。
色の組み合わせを眼に焼き付けようとするのは珠理の職業病のようなものだった。いくらクリエィティヴな組み合わせを試そうとも彼女の仕事は自然には到底叶わないと、いつものごとく思うのだった。
普段ならば、それは単なる自然への強い讃歌に過ぎないのだが、今の珠理には強い敗北感を伴った痛みとなった。オットーの言った事は正しかったのかもしれない。
「君は、確かにエキゾティックだけれど、まあ、それ以上じゃないさ。そんなに肩肘張って頑張るのは、どうせ僕への当てつけなんだろう」
三年一緒に暮らしたオットーとの破局のきっかけは、彼の不実さ、つまり二人の住むフラットに女性を連れ込むという行為だったのだけれど、ドイツを去ってミラノへと遷ることにしたのは、珠理の仕事に対する彼をはじめとするドイツの同僚たちの本音に傷ついたからだった。直線的で冷たいとすら言えるオットーの照明デザインは、ドイツでは高い評価を得ていた。珠理は、自分の表現したい光とクライアントの求めるデザインとの差異に苦しんでいた。
一緒に住んでいるパートナーとしても、オットーの態度には苦しめられた。甘い言葉は使っても、サッカーの試合が始まればすぐに背を向けてしまう。家財の購入するときにも自分の趣味を言えば笑って却下されてしまう。極東の田舎から来た女に家具の事がわかるのかという態度。不実に抗議すれば多くの言葉で謝罪を述べるが、眼にはうんざりした想いが現われている。
ちょうどミラノのロッコ・ソヴィーノに彼の照明事務所で働いてくれないかと誘われていた。イタリア語がほとんど出来ないから断ろうと思っていた。でも、自宅の扉を開けて、パートナーとその親友の妻がソファで不適切な行為に及んでいるのを目にしたときに決意したのだ。オットーから離れてやり直すのだと。
国が変わり、ボスが変わったからといって、魔法のようにすべてが解決したわけではなかった。それでも、少なくとも彼女がデザインする明かりは彼女にとって親しみやすい暖色が中心となった。というよりは、ソヴィーノはそれを容認してくれたのだ。大げさな言葉と暖かい笑顔。イタリアの暮らしは、珠理には向いているように思えた。まだ、言葉がきちんと話せなくとも。
事務所のすぐ側にオレンジ色の壁のバルがある。珠理は始業の一時間前にそのバルの一番奥の席に座り、カプチーノとクロワッサンを食べる。ほかのバルのクロワッサンには甘すぎるこってりとしたアプリコットジャムが入っていて珠理には到底我慢がならないのだが、ここには何も入っていないクロワッサンがあるのだ。
二十分くらい本を読んでいると、ロメオが入ってくる。事務所の同僚だ。といってもデザイナーではなくて事務一般と経理を担当している。本当にイタリア人かと念を押さなくてはならないほど無口で、同僚たちが休憩時間にうるさく騒いでいる時にもひと言以上口を挟む事がない。ましてやイタリア語の話せない珠理と話す事もなく、八ヶ月のミラノ生活で会話らしい会話が出来るようになったの五ヶ月を過ぎた頃だった。
珠理はオットーとの関係に傷ついていたので、恋愛には慎重だった。多くのイタリア男性は挨拶代わりに口説く。はじめは真剣に誠実に断っていた珠理でも、彼らがまるでこたえずに全くタイプの違う女性を平然と口説くのを知ってから、これはイタリア式の挨拶なのだと思う事にした。少し煩わしいけれど、さばいていくのもここでは必要な事なのだと。
だから、無口で余計な事を言わないロメオと毎朝遇うのは、そんなに悪くなかった。五ヶ月も経てば、珠理にもそつのない会話をはじめられる程度のイタリア語が身に付いてくる。英語がわからないわけでもなさそうだが、いかんせん返事があまりにも短くてどのくらい理解できているのかがわからない。それで、珠理が片言のイタリア語で挨拶をし、ロメオが短く答える、そんな朝が習慣化したのだ。
「ロメオとジュリエッタだ」
と、はじめは同僚たちが囃し立てたが、激しい恋に命を落とした伝説の若いカップルと珠理たちとは馬鹿馬鹿しくなるほど異なっていたので、誰も二人をそんな眼では見なくなった。ただ、珠理の事を同僚たちが「ジュリエッタ」と呼ぶ習慣だけが残った。
ミラノの朝八時の喧噪。既にはじまっている強い太陽光線の照り返し。珠理は光のダンスを眼に焼き付ける。
「君は、いつも光を追っているんだね」
ある朝、ふいにロメオが口にした。彼はまっすぐに珠理の事を見ていた。その時に彼女はロメオの瞳をちゃんと見た事がなかった事に氣がついた。彼はちゃんと瞳を見ていたのに。
「ごめんなさい。つい」
ロメオが目の前にいる事も忘れて、光の事を考えていたことを珠理は恥じた。オットーがサッカーの試合を放映するテレビに釘付けになった時に、珠理はひどく傷ついた。でも、私だって、それと同じ事を……。
「そういう意味じゃない。その、とても真面目なんだって思ったから……」
言葉をそこで止めて、ロメオは冷たくなったエスプレッソを口に運んだ。彼は、何か言いたそうにするがいつも言葉を飲み込んでしまう。絶対に必要な事以外はその口からは出てこない。だから、次の言葉を珠理が探して勝手に継ぐのだった。
「やりたいことを職業にできる幸運が、誰にでもあるわけじゃない事はわかっているの。私はとても強運なんだと思っている。でも、そうだとしても葛藤はあるの。コンペの攻略法や、顧客の希望……」
ロメオは黙って頷いた。ロメオとの朝の時間は、時に禅問答のようだった。彼自身は多くを語っていないのだが、珠理はいつも自分の中にある解答をみつけた。コンペで入賞するために少しエキゾティックな光を強調するか、それとも自分の好きな光にこだわるか。それはイタリアで、一人で生き続けていくために必要な賭けのようなものだった。そして、自分の中のテーマである日本の伝統色、襲の色目で勝負しようと決意したのだ。
珠理は、ロシアの広い平原ともうずいぶんと明けてオレンジから薄紫へとグラデーションを見せる空を眺めていた。
「おしぼりでございます」
声に振り向くと、湯氣を立てるタオルをプラスチックのピンセットでつかんでいるスチュワーデスが、少し氣まずそうな表情を浮かべた。それで珠理は自分が涙を流している事を悟った。小さく頭を下げて受け取ると、珠理はタオルを瞼に押し付けた。暖かさがゆっくりと瞼の奥へと伝わっていく。
上手くいかなかった。コンペでは、オットーがデザインしそうな蛍光色のアバンギャルドなデザインが大賞をとった。ソヴィーノも同僚も慰めてくれたが失望の色は隠せなかった。光が柔らかすぎたと、女のお遊びだと審査員に評されて、珠理は築いてきたすべてを否定されたと思った。オットーの言う通りだったのかもしれない。
マルペンサ空港で搭乗ゲートを確認するために電光掲示板を見上げていると、聞き慣れた声がした。
「ジュリエッタ……」
振り向くと肩で息をしているロメオが立っていた。
「見送りに来てくれたの?」
「本当なのか、日本に帰るって……」
「ええ」
「でも、コンペの結果だけが全てじゃないだろう。君のデザインを氣にいってくれている顧客だっている。ロッコも、みんなも、それに僕だって……」
珠理は頭を振ってロメオの言葉を遮った。
「それだけじゃないの。親から呼び出されているの。父親の仕事を手伝ってほしいって前から言われていたの。世界は、私の思うようには動かなかった。だから、どこかに受け入れてくれるところがあるのならば、それに合わせていくべきなんだって、わかったの。この仕事を続けたかったからずっと断っていたんだけれど、潮時かなと思って」
「そんなに、イタリアが、事務所が、僕たちといるのが苦痛だったのかい」
珠理は少し間を置いてから答えた。
「苦痛というのとは違うわ。でも、疲れてしまったの。海外で、一人で、自分の好きな事をするって、もっと強い人にしか向いていないんだと思う」
ロメオは下を向いて、拳を握りしめていた。また、何か言葉を飲み込んでいる。それを珠理は、悲しく見た。この人は、私の痛みをわかってくれる人だと思った。たぶん、襲の色目に込めた幾層にも別れた喜びと悲しみと優しさとひらめきとを、虹彩という器官を通してではなく、心を通して感じてくれる人なのだと。たぶんそれ以上ではないだろう。でも、きっと、オットーとではなくてこの人と暮らしを共にしていたら、私はこれほどまでにヨーロッパに、いや世界に否定されたとは感じなかったかもしれない。でも、これでおしまいだ。珠理はショルダーバックを肩にかけ直して、ことさら明るく笑おうとした。こわばってしまったけれど。
「よくしてくれて、ありがとう。ロメオともう朝ご飯を食べられなくなるのは残念ね」
珠理はロメオの頬に、小さくキスをして搭乗口に向かった。
フランクフルトで乗り継ぎの飛行機を待っている時に、周りにドイツ語の響きがあふれて、珠理は突然わかった。同じ海外の国でも、ドイツとイタリアは全く違った。いや、そうではない。ドイツの同僚たちとイタリアの事務所の仲間たちが違った。オットーとロメオも全く違った。一緒にいた時間ではない。どのような関係であったかでもない。言葉の数でもなかった。
飛行機の外、空の色がやがてごく普通の淡い水色に変わっていくのを珠理は黙って眺めていた。スチュワーデスが、朝食を機械的に配っていく。明けていく夜を眺めながら感じた絶望と、その中に浮かぶもう一つの全く違う想いは、こうした機械的な生活の動きの中で薄められていく。いや、薄められたのは絶望の方で、もう一つの想いは、ただ軽く周りに浮かび、消えてはいかない。
いなくなると知って、走ってきてくれた。ロメオの乱れた息から途切れ途切れに出てくる言葉を一つずつ思い出す。あの朝の時間を大切に思っていたのは、私だけじゃなかったのね。それだけだって、そんなに悪い事ではないわよね。
珠理は「ロメオとジュリエッタ」の縁を信じているわけではなかった。彼が、自分の事を女性として、恋愛対象として追いかけてきてくれたとも思っていなかった。それでも、彼女はロメオが誰よりも大切な存在になっていた事を認めた。
「あと一時間ほどで、成田新東京国際空港に到着します。現地の天候は晴れ、摂氏17℃と連絡が入っています」
機内アナウンスを訊きながら、珠理は決心した。日本に着いたら、ロメオに電話しよう。日本とイタリア、物理的に離れていても、一緒にいた時に築いてこなかった関係を築くために。このままさよならにしてしまいたくないと思っている事を伝えよう。きっと、返事は二言三言しか帰ってこないと思うけれど。
それから、思い出した。ダメ。時差がある。成田から電話したら、真夜中で寝ている彼を起こしちゃう。もどかしいけれど、七、八時間は待たないと。
珠理は落ち着いて、着陸を待った。着陸はスムーズに行われ、周りの乗客が我先にと出口に向かうのも目で見送り、ゆったりと準備をして出口に向かった。日本語のあふれる空港、清潔な通路、レーンから流れてくる荷物をピックアップして、たくさんの観光客やビジネス客にまぎれて出口へと向かう。今まで孤独な異国人だったのが、日本のなんてことのない一国民となって大衆にまぎれていく不思議な感覚。照明デザインも、イタリアも、意外とすぐに遠い映画のように消えて生活に流されていくのかもしれないな、珠理がそう思いながら出口を出た時だった。
私、どうかしたのかしら。いるはずのない人が目の前にいる。何かの間違いよね。だって、あのときミラノで別れたんだし。ロメオそっくりの外国人は、別れた時と同じ服装をして立っていた。そして、珠理を見つけると笑いかけた。
「ジュリエッタ!」
「え? 本当にロメオなの? どうしてここにいるの?」
ロメオは、間違いなくロメオだったそのイタリア人は少し誇らしげに胸を張った。
「あの後、すぐにアリタリア航空のカウンターに行って、日本直行便のチケットを買ったんだ」
「うそ……。でも、どうして?」
「無口でいるのはやめることにしたんだ。どうしても、これで終わりにしたくなかったから。でも、ジュリエッタの連絡先も知らない。いま追いかけなかったら、もうチャンスはないと思ったんだ」
あと八時間もしたら、私が連絡するはずだなんて、知らなかったものね。珠理は涙で前が見えなくなったまま、ロメオに抱きついた。
「ロメオ、やっぱりイタリア人だね。無口だから、違うと思っていたんだけど……」
「うん。ジュリエッタ。もし、世界が君一人で思うように動かないなら、僕にも動かす手伝いをさせてくれないか。二人なら、きっとなんとかなる。だから、ずっと一緒に朝ご飯を食べようよ」
珠理は彼の腕の中で泣きながら、何度も頷いた。そうだね、ロメオ。あなたと一緒なら、きっとなんとかやっていけるよね。やっていこうね。
(初出:2013年6月 書き下ろし)
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B級グルメ(?)バトン
では、いきます。
コンビニないんだけど。でも日本で買うのは「ツナマヨ」おにぎりとUCCコーヒー。
2、目玉焼きにはソース派?醤油派?
ごめんなさい、邪道です。パルメザン・チーズとパセリ。こうしないとスイス人の連れ合いが……
3、寿司で好きなネタは?
穴子、中トロ、ウニ、タマゴ。ふつーですね。
4、好きなアイスクリームの種類は?
レモン。あ、それはシャーベットか。レディーボーデンのイチゴ。抹茶も好き。
自分でも作りますよ。冷凍したフルーツと砂糖と生クリームをミキサーで撹拌するだけ。美味しいです。
5、いつもつい買ってしまうお菓子は?
Cailler社のCrémantという板チョコ。
あと、チョコがけドーナツも買い食いする。ダメじゃん。
6、マックで好きなハンバーガーは?
普通のハンバーガー。朝はフィレオフィッシュ(何故?)「いざ鎌倉」って時はビッグマック。(どんな時だ)
7、ミスドで好きなドーナツは?
チョコレートとオールドファッション。昔、小さい丸いのあったけれど、いまないの?
8、味噌汁で好きな具は?
茄子。みょうがははいってもいいかな。シンプルに豆腐とわかめも好き。
9、好きなおでんの具は?
ちくわぶ、ごぼう入りさつま揚げ、もち袋。
10、好きな中華まんは?
中村屋の肉まんとあんまん。コンビニのよりも好き。もちろん中華街で売っている本格的なのも好きだけど、B級というからには。
11、ご飯が少し余った、さて何で食べる?
お茶漬け。海苔と醤油を少々入れて。
12、他人に理解してもらえない食べ合わせは?
バター醤油。例えば磯辺餅にもバター。
13、マヨネーズ好きはマヨラー。では貴方は何ラー?
なんだろう。マヨラーかな。でも、普段の料理で言うと、バターラーかな? チーズラー?
14、最近はまっている食品は?
メープルシロップ味のヨーグルトとか?
15、アンパンマンに出て来るキャラ、誰を食べてみたい?
アンパンマン、見た事ないから知らない。食パンマンはなんとなくわかる。でも、食べるのかわいそう。
(どなたさまも、ご自由にお持ち下さい)
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見た事ないのかも

木と紙で出来ている日本の家屋は、よほどの事がないと何百年も残りません。で、残るのは重要文化財や国宝になるような素晴らしい建物ですが、スイスの場合は石なのでそこらへんのどうでもいい田舎の建物でも1500年代なんてことがあるのです。
で、中には壁画が残っているものもあったりするのです。動物がなかなかすごい事になっています。今のように寝転がったままテレビで南極や深海の生きものまでも見る事の出来る時代ではありません。動物園もなかった時代。伝聞や誰かの絵画の模写で知ったのでしょうね。
優しい目をした草食獣である象が、世にも恐ろしい猛獣のごとく描かれています。でも、よく見ると鼻が縦ロールのようにねじれていて笑える……。隣はカバでしょうか。
日本でもシルクロードを通して伝わった獅子の像が、すごい事になっていますよね。狛犬ももともとは獅子だったのでしょうか。
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【小説】夜のサーカスとアプリコット色のヴィラ
今回、ちょっとしたゲストに登場いただいています。山西左紀さんのところのエス(敬称略)です。イタリア語でネット小説を書いているアントネッラのブロともになっていただきました。左紀さん、快くキャラを貸し出してくださいまして、どうもありがとうございました。
![]() | 「夜のサーカス」をはじめから読む あらすじと登場人物 |

夜のサーカスとアプリコット色のヴィラ
コモ湖の西岸を走る国道はさほど広くない。そして、例によって、道には雨が穿ったひび割れや小さな穴があった。そこを巨大なトラックが走ると、ガタガタと地震が起きたかのような音がするのだった。
湖畔の美しいヴィラにすむ裕福でスノッブな隣人たちに、その騒音は当然不評であった。アントネッラも好きとは言えなかったが、少なくとも毎月の第一月曜日だけは例外だった。通販会社「Tutto Tutto」で頼む商品は、毎週月曜日に大型トラックでこの湖畔を通る。なぜ第一月曜日に届くようにアントネッラが注文するのかと言えば、運転手に理由があった。ひきがえるに酷似しているために、秘かに《イル・ロスポ》と呼んでいるバッシ氏がこの地域を担当するのは、月初だけなのだ。
隣人たちは、安物のカタログ通販「Tutto Tutto」など利用したりはしなかった。買い物はミラノでするもの。その時間も金銭的余裕もたっぷりあるのだから。そうでないものは、コモ湖畔にヴィラを持ったりはしないのだ。
隣人たちは、門の閉ざされたアントネッラの住むアプリコット色のヴィラの庭を覗き込んでは、すこし眉をしかめる。それは、まるでいつまでも買い手の付かない空き家のようだった。手入れが行き届いていないというのではなく、全く手を入れていない荒野のような庭だった。
チャンスがあって、ヴィラの中に足を踏み入れることのできた者は、さらに驚くだろう。大きな五メートルもの高さのあるエントランスも、その脇にある大広間や控えの間、キッチンやかつては使用人が控えていたと思われる小部屋も、蜘蛛の巣や埃にまみれて、石飾りは剥がれ落ち、壁紙は色あせて破れていた。つまり、廃屋同然なのだった。
二階にもかつては豪華な寝室だったと思われる部屋がいくつもあったが、そこも同様の有様だった。わずかに、洗面所と小さなレトロな浴槽のある古い浴室だけは、なんとか使えるような状態になっていた。というのは、そこは実際に使われていたからだった。
アントネッラは、しかし、普段はその階にはいなかった。小さな螺旋階段を登っていくと、その上に小さな物見塔があった。そう、まるで東屋のように、コモ湖を見渡す、かつての展望台だった。そこは階下のような木の床ではなくてタイルが敷き詰められていて、かつてはお茶が飲めるように丸テーブルと籐製の椅子がいくつか置いてあっただけだが、アントネッラは小さな彼女のアパートから運び込んできた全ての家財をここに押し込んでいた。木製のどっしりとしたデスクには年代物のコンピュータと今どき滅多に見ない奥行きのあるディスプレイ、ダイヤル式の電話などが置いてあった。小さな冷蔵庫や本棚、携帯コンロと湯沸かしを上に置いた小さい食器棚、それからビニール製の衣装収納などが場所を塞ぐので、ベッドは省略してハンモックを吊るし、デスクの上空で眠るのだった。
このヴィラの最後のまともな持ち主はアントネッラの祖母だった。彼女は二十年近く老人ホームで過ごし、ただ一人の身内であるアントネッラにこのヴィラを残してこの世を去ったのである。慎ましく暮らすだけの収入しかないアントネッラにはこのヴィラをちゃんと維持することはできないのだが、どうしても売る氣になれなかったのは、子供の頃に過ごしたヴィラのこの屋根裏部屋からの光景を失いたくなかったからだった。
アントネッラは、天涯孤独であったが、そのことを悲しく思うような精神構造は持っていなかった。父親から受け継いだドイツ的論理思考と、母親から受け継いだイタリア式楽天主義が、じつに奇妙な形で花ひらき、このコモ湖のヴィラで至極満足した生活を送っていた。
この小さな屋根裏部屋は、彼女の全ての宇宙だった。ここは彼女の住まいであり、仕事場であり、趣味の部屋でもあった。仕事はこの電話。趣味はこのコンピュータ。アントネッラはにっこりと笑った。
アントネッラは電話相談員だった。かつては大きな電話相談協会で仕事をしていたが、どうしても彼女だけに相談したいという限られた顧客がいて、このヴィラに遷る時に独立したのだ。そう、回線費用は高い。つまり相談料は安くない。けれど、なによりも「誰にも知られない」ということに重きをおくVIPたちには費用はどうでもいいことだった。
彼女の顧客のほとんどはドイツ語を話した。そして、彼らは相談をしているのではなかった。アドバイスを必要としているわけでもなかった。彼らはとにかく抱えている秘密を口に出したいだけなのだ。どれほど多くの人間が、言いたいことを言えないでいるのか、アントネッラは驚いた。
たとえば、隣の庭から勝手に伸びてくる植木をことあるごとに刈ってしまう男からは、定期的にかかってきた。自分の息子がどれほど美しくて賢くて有能かを言いたくてしかたない老婦人がいた。姪への断ち切れない恋心を長々と語る老人がいる。姪にはそろそろ孫が生まれるというのだから、いい加減幻滅してもいい頃だろうに。婚約式に初めて会った未来の花嫁の姉に一目惚れしてしまったという青年。前衛的すぎて意味がさっぱり分からない詩を朗読する男。別にこんなに高い回線で相談する必要もないだろうと思うものばかりだが、彼らは誰にも知られないということにはいくらでも払うというのだった。
それから、有名な女優からも定期的にかかってきた。主に、現在つき合っている男のことで、タブロイド紙が知ったら大変な金額を積むだろう内容を詳細に語ってくれるのだった。自然保護活動で有名なある作家は、実は昆虫の巣をみつけては破壊する趣味があった。さらに、彼は狩猟料理が大好物なのだが、もう二十年も口にできてないと、何十分も訴えてくるのだった。
アントネッラは、電話をとり、黙々と話を聞く。顧客は満足して電話を切る。その繰り返しで、彼女の中にたくさんの人生が積もる。女優や作家の話は無理だが、誰にでも起りそうなたくさんの話は、彼女の中で新たな形をとって出ていく。それが彼女の趣味である。インターネット上でイタリア語の短編小説を書いては発表するのだ。
アントネッラには親しいネット上の友人がいる。エスというペンネームのもの書きで、主にSF小説を書いている。マリアと名乗っているアントネッラは、作品の公開前に必ずエスに読んでもらう。
「こんばんは、マリア。『風の誘惑』って、素敵な題名ね。南風が吹くと、昔去った恋人のことを思い出してしまう老婦人のお話、本当にロマンティックだと思うわ」
「こんばんは。エス。ありがとう。陳腐すぎないかって、心配だったの。あなたの〝フラウンホーファー炉〟みたいな独創的な発想がうらやましいわ」
「あら、マリア。あなたの小説の醍醐味はいかにも実際にありそうなことを書くことじゃない? よく深みのある話を次から次へと思いつくなあと、とても感心しているのよ」
だって、事実なんだもの。事実は小説より奇なり。ここには書けないけれど、本当に面白い話はもっとたくさんあるのよ。
アントネッラがエスにすら口外できない話を語るのは三人のVIP顧客であった。一人目は先ほどの女優。もう一人は欺瞞に満ちた例の作家。そして、三人目はシュタインマイヤー氏だった。
シュタインマイヤー氏は、かなり有名な政治家だ。かつては警察幹部だった異色の経歴を持っている。政敵が多いのでスキャンダルは御法度だ。それなのに、妻は口から生まれたごとくにおしゃべりで、しかも当の本人も職業上で得た秘密を話したくてしかたない困った性質を持っていた。彼がアントネッラの顧客となったのは、今から十年以上も昔のことだった。まだ警察にいた頃である。
ありとあらゆる奇妙な事件があった。解決した事件もあれば、迷宮入りになった事件もあった。真実に近づいたと思われるのに、時の権力者の介入で捜査を打ち切らなくてはならなかった事件もあった。その逐一を、アントネッラは聞いていた。それと同時に政治家としての彼の人氣を失いかけないような告白も聞いていた。
「たった一目見た時から、どうしても忘れられないのだよ。真の理想の女性というのだろうか。甘酸っぱい思いに胸が締め付けられる」
日本のアニメに出てくる女の子に恋をしたと真面目に語るのだ。五十五歳のひげ面の名士が。アントネッラは、吹き出しそうになるのを必死でこらえながら、告白に耳を傾ける。これで、彼は明日からまたしばらくすっきりとして仕事に励み、アントネッラは再び安心して「Tutto Tutto」の注文サイトで氣にいった商品の注文ボタンをクリックすることができるのだ。
「ごめんください。Tutto Tuttoです。ご注文の品をお届けに来ました」
《イル・ロスポ》の低い声がエントランスから響く。
「いつも通り、上がってきて。コーヒーとお菓子も用意してあるわ」
「はい」
《イル・ロスポ》は、慣れた足取りで屋根裏部屋に入ってきた。商品の箱を入り口の戸棚の脇に置き、わずかに残された足の踏み場を上手に渡って、いつも通りに用意された籐の椅子にぎしりと腰を埋めた。アントネッラは、丸テーブルを挟んで座っている。ほっそりとした体にアプリコット色の安物のワンピースを身に着けている。もちろんTutto Tuttoの商品だ。ブロンドの髪は銀髪への道のりの半分くらいで、化粧っけの全くない白い顔に、茶色い瞳がいたずらっ子のように煌めいている。外見だけでいうならば特に心惹かれるタイプでもないが、彼にこんなに親切にもてなしをしてくれる客は多くなかった。だから、月初めの月曜日は彼も楽しみにしているのだった。
「待っていたのよ。さあ、話してちょうだい。例のおかしなサーカスで、先月おこったことをね」
アントネッラは、運転手のひきがえるそっくりの顔が動き、彼女の期待している話をはじめてくれるのを厳かに待った。チルクス・ノッテの移動の度に《イル・ロスポ》が仕入れてくる、サーカスの人間模様だった。新しい長編小説の題材にしようとしているのだ。とくに、謎の道化師ヨナタンと、彼に夢中の娘ステラのことは、何度聞いてもワクワクしてしまう。最近マッテオという青年が入団してきて、ステラを追い回していると言う。どんな面白い展開があったのか、この一ヶ月、待ちきれない想いだったのだ。
「そうさね。狼騒ぎがあったらしいですよ」
《イル・ロスポ》は、どうしてこの女性はこんな話が好きなんだろうと、半ば呆れながら、先月の移動の時に仕入れた情報を語りだした。アントネッラは、頷きながらメモを取った。
(初出:2013年6月 書き下ろし)
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「樋水龍神縁起 Dum Spiro Spero」座談会 その1
お遊び的な座談会みたいなのも好きです~( ´艸`*)二度美味しい気がして・・
あああwリクしていいなら!完結した後でもいいのでw緩い感じのなんでもありの座談会みたいなのも見てみたいですw
ほほっ。考えてもみなかったけれど、バトンでもいろいろと開示している続きで、登場人物たちがゆる〜く、語っちゃう座談会を開催してしまう事にしました。というわけで、「その1」です。つまり「その2」もあります。(チャプター2が終わったらね)
「その1」は「瑠水の周りの大人たち」でお送りいたします。
(龍)こんにちは。座談会の司会の龍王です。あ、ご存じない方ははじめまして。樋水龍王神社の主神で、川です。今日は、お忙しいところ、皆さんお集まりいただきまして。まずは自己紹介からどうぞ。
(一)高橋一です。ヒロイン瑠水の父親です。妻と樋水村で「お食事何処 たかはし」を経営しています。
(摩)高橋摩利子です。その妻です。早百合と瑠水の母親です。
(次)樋水龍王神社の禰宜、関大樹です。次郎の通称で通っています。瑠水ちゃんをひいきしています。
(三)三ちゃんこと、三造です。「大衆酒場 三ちゃんの店」をやってます。ただの部外者です。今日はひやかしでやってきました。あと、無料で呑めるって聞いたんで。
(宮)樋水龍王神社の宮司、武内信二です。職務に忠実なだけなのに『鬼』とか呼ばれています。
(摩)(こっそりと)ちょっと。緩い座談会だって言うから来たのに、なんでタヌキ宮司もいるのよ。
(一)知らないよ。これじゃ言いたい事も言えなそう。
(龍)心配ありません。ここで話した内容は、小説内ではなかった事になるから。
(摩)あっそう。安心した。
(田中)お飲物のご注文をどうぞ。
(摩)あれっ。『Bacchus』の田中さんじゃない。なんでこんなところに。
(田中)バイトで龍王様に呼ばれました。摩利子さんが座談会に集中できるようにって。
(一)へえ、ご神体も氣が利くねぇ。じゃ、僕はね、ブラッディ・マリー(笑)
(摩)なんですって?
(一)ごめん、摩利ちゃん!
(摩)いいわよ。私もそれにして。
(次)僕は冷酒でお願いします。
(三)こっちは梅酒サワー。あ、チェイサーは焼酎にして!
(宮)三造さん。それはチェイサーではないと思いますが。
(三)かたい事言うなよ、武内センセ。十歳までおねしょしていた事をばらすよ。
(宮)もうばらしているじゃないですか。私は山崎でお願いします。
(摩)ええっ? タヌキ宮司が、新堂さんの好きなウィスキーを飲むとは! (作者注・新堂さんそして後から出てくるゆりは『樋水龍神縁起』本編の主人公です)
(一)摩利ちゃん! いくらご神体が後で消去してくれるからってタヌキって連呼しすぎ……。
(龍)もうそのくらいにして。本題に入れないから。
(一同)すみません。
(龍)そういうわけで、今日のテーマは、「大人たちから見た高橋瑠水」だね。どう思う、あの子の事。
(次)どうって、大切な「あたらしい媛巫女さま」だし。(作者注・次郎は生まれ変わる前の千年前に媛巫女瑠璃に使えていた郎党としての記憶があります)
(一)ちょっと待てよ。うちの娘は、瑠璃媛やゆりの生まれ変わりなんかじゃないって何度言ったら……。
(次)だから、ちゃんと「あたらしい」を入れてんじゃん。
(摩)でも、あの子、いろいろと見えるだけで、ただのヘタレよ。(作者注・言いたい放題の摩利子も見えるだけの人です。三造さんも)
(三)それは言える。俺っちと一緒だ、ははは。バーテンさん、チェイサーをお代わり!
(宮)まあ、貴重な六白金星生まれだし、たしか、あれでしょ? ボーイフレンドの生馬真樹君も六白だったよね。どう? 宮司夫人の座が確約されるってのも悪くないと思うけれど。
(摩)宮司夫人っていうか「妹神代」でしょ。『龍の媾合』をなしにしてくれるんならいいけれど。(作者注・この辺の事情はちょいと複雑なので、わからない方は飛ばしてください)
(一)その問題は、ひとまず置いておこう。それよりさ。瑠水のシン君への態度について、どう思う?
(龍)司会はこっちなんだけど。勝手に話をすすめやがって。
(一)わあ、ごめんなさい。
(龍)いいよ、そのテーマ、行こう。
(摩)なんだか、煮え切らない付き合いよね。バイクに乗って、音楽聴いて帰ってくるだけって、小学生じゃあるまいし。
(一)母親がそんなこというなよ。健全でいいじゃないか。
(摩)あのね。シン君は27歳なのよ。一が27歳の頃って、何していたのよ。
(一)あ〜、ゆりとつきあっていたよ。
(摩)ほら、やることやってたんじゃない。
(一)うん。それでゆりは新堂さんと行っちゃったんだ。で、その後に摩利ちゃんと出会ったんだよね〜。
(摩)その話はどうでもいいのよ。私が言いたいのは、そんな付き合いで、シン君はいいのかってことなの。
(次)でも、あの二人は単に仲がいいだけじゃなくて、もっと深いつながりがあるんだと思うんですよね。事故の事も瑠水ちゃん感じ取ったみたいだし。
(摩)事故って何の事?
(次)シン君バイクで事故ったんですよ。瑠水ちゃんがそれを感じて、僕に何が起こったか確かめてほしいって。
(一)嘘だろう? 大変じゃないか。
(摩)なぜ私たちに訊かなかったのかしら。
(次)え。二人の間のいざこざをご両親に知られたくなかったみたいです。シン君が告白したのを拒否しちゃったみたいですよ。詳しくは訊いていないけど。あ。ぜんぶひっくるめて秘密だったのに喋っちゃった! 龍王様、どうしよう。
(龍)だから、ここの発言はなかった事に出来るから。
(次)そっか。じゃ、安心して。それでね。事故の事を報せると、瑠水ちゃんの未来を邪魔するからって、報せるなって言われて。
(一)シン君……。泣けてくる、いいやつだ。それに引き換え、瑠水は鈍感にも程があるな。
(摩)子供だからねぇ。やけに早熟だった早百合と足して二で割ると、ちょうどいいんだけれどねぇ。
(三)割るとねぇ。バーテンさん、チェイサーをおかわり!
(宮)ちょっと三造さん。もう出来上がっているんですか?
(龍)じゃ、そろそろまとめるか。
(一)瑠水は悪い子じゃないけど、ちょっと子供過ぎるな。
(摩)東京暮らしで少しは成長するといいけれど。「大道芸人たち」でおなじみのメンバーも出てくるらしいわよ。
(龍)あの二人は、もともとこっちのキャラで、「大道芸人たち」を書く時に流用されただけです。
(次)へ。それは知らなかった。僕たちの出番は?
(龍)チャプター3までお預けです。じゃ、皆さん、お疲れさまでした。読者の皆さん、長い座談会におつき合いくださいまして、ありがとうございました。今後とも「樋水龍神縁起 Dum Spiro Spero」をよろしくお願いします。
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【小説】大道芸人たち Artistas callejeros 番外編 〜 薔薇の香る庭 — featuring「誓約の地」
今回お借りして登場していただいたのは、ヒロインの優奈さまです。最初の回でお借りした杏子姐さんもそうでしたが、このヒロインも才色兼備。しかも、なんというのか菩薩のようにすべての人に優しく、誰にでも愛されるちょっと特別なお方です。屈折した癖のある人間ばかり書いてきた私には、かなりの難題でした。で、お相手を務めるのは麗しい女性と一緒に出てくると言ったらこの人でしょう、我等がブラン・ベックことレネ。もちろんお約束通りぽーっとなりますので。
前回までの話とは独立していますが、一応シリーズへのリンクをここに載せておきます。
『大道芸人たち Artistas callejeros 番外編 〜 熟れた時の果実 — featuring「誓約の地」』
『大道芸人たち Artistas callejeros 番外編 〜 Vivo per lei — featuring「誓約の地」』
【大道芸人たちを知らない方のために】
「大道芸人たち Artistas callejeros」は2012年に当ブログで連載していた長編小説です。興味のある方は下のリンクからどうぞ


あらすじと登場人物
大道芸人たち Artistas callejeros 番外編 〜 薔薇の香る庭
— featuring「誓約の地」
ほの暗い店内に天窓から一筋の光が射していた。その光はマーブル模様を描き出す水盤と、それをじっと見つめる女性の横顔をくっきりと映し出していた。レネは子供の頃に近所の教会で見た聖母マリアの彫像を思い出した。
その工房はピッティ宮の前にあった。ドゥオモで仲間と別れ、ゆっくりと歩いてきた。ヴェッキオ橋を渡るときに、アルノ川の水音に耳を澄ませた。けれど川も午睡の時間なのか覇氣なく流れ、強い陽射しに対する涼ももたらさなかった。レネはふうと息を吐くと、色鮮やかな店に入って行った。
16世紀にイタリアに伝わった手漉きマーブル紙は、偶然の芸術だ。水溶液の上に顔料を流し、動きのある水が創り出す文様を手漉き紙に写し取る。その文様は二度と同じ形にはならない。ここにはその伝統を引き継ぐ工房を兼ねた有名な店があると聞いていたので、レネは一度訪れたいと思っていた。そして、扉を開けた途端に一幅の絵のような光景に出くわしたのだ。
ストレートの長い髪に日光が当たって、茶色く艶やかな光が踊っていた。目の前で繰り広げられる水の上の魔法に魅せられて、瞳が輝いていた。薄桃色の袖のないブラウスが柔らかいドレープを描いてふわふわとその壊れそうな体を守っている。それがレネの第一印象だった。レネはその女性と、彼女に纏わる空氣と天窓からの光、そして水盤を踊るマーブル模様すべてを一幅の絵のようだと思った。
「なんて……きれいな……」
職人はまさに紙にマーブル模様を移そうとしている瞬間だったので、客であるレネの存在を完全に無視したが、その華奢な女性はすっとレネの方を向くとそっと微笑んで、また水と色の創り出す芸術の偉大なる瞬間に瞳を戻した。
薄桃色、すみれ色、橙色、そして空色の大胆な大理石文様が大きな紙に現われた。
「ああ、本当にこんな風に色が写るんですね!」
女性の口から漏れたのは何とも流暢なイタリア語だった。レネは少し驚いた。その女性はアジア人に見えたからだ。もちろん英語以外のヨーロッパの言葉を流暢に話せるアジア人をレネは何人も知っている。一緒に旅をしている蝶子はもちろん東京で会った真耶や拓人も自由にドイツ語を話していた。とはいえ彼らはわずかな例外で、出会った頃の稔のように特徴のある発音の英語しか話さない日本人や、何年フランスにいても片言の奇妙なフランス語しか話さないタイ人などの方が多かったので、まさかここでこんなにきれいなイタリア語を耳にするとは思わなかったのだ。
女性は実演に丁重に礼を言うと、陳列されている棚から、やはり薄桃色が美しい小さなダイアリーを購入した。
「ありがとうございます。楽しいご旅行を」
満面の笑みで言った後、店の男はレネを向いて言った。
「で、あんたは何がお望みなのかい。マーブル模様の実演かい、それとも欲しいものがあるのか」
レネは、女性の姿にぽうっとなっていたので、一瞬、男の言葉が頭に入らなかった。レネも長い大道芸人生活で、イタリア語の日常会話は困らなくなっていたのだが、氣が動転したために言葉につまり、意味のないフランス語を二言三言つぶやいてから、やっと脳をイタリア語に切り替えた。
「何かお望みがありますか、実演をご覧になりたいのか、それともお買い物ですかっておっしゃっていますけれど」
レネが答える前に、女性がニッコリと笑ってやはり流暢なフランス語で言った。店員とレネは唖然とした。
「フランス語も出来るんですか?」
女性は微笑んで、通訳業に従事しているんです、と短く答えた。相手の言っている事がわかっているにも拘らず、この女性と話をしたい一心でレネは買い物で必要な会話をフランス語で通した。
「確かワインの記録をつける手帳を売っていたと思うんですが、まだあるでしょうか」
店員は、棚から数冊のワイン帳を持ってきた。
「どの色がいいと思いますか?」
「どれも素敵な色ですけれど……」
そういって女性は少し首を傾げ、それぞれの手帳を手に取っていたが、やがてニッコリと笑うと一冊の手帳を示した。
「この本当の石みたいな文様は、滅多になくて素敵ですし、使い込むほどに味が出てくるように思いますわ」
ブルーグレーの落ち着いた表紙は、確かに使い込んで手垢がついても、年輪を感じさせる重厚な表紙に育っていく事が想像できた。レネは嬉しくなって、そのワイン手帳を購入した。
店を出るとレネは女性に自己紹介をした。
「僕、レネ・ロウレンヴィルって言います。フランス人です」
女性は優しい微笑みを見せてレネの差し出した手を握った。
「鳴澤優奈です。日本人です」
レネは嬉しそうに笑った。
「僕、日本人の友達と旅をしているんですよ。日本に行った事もあります」
「まあ」
レネはこのままこの素敵な日本人女性と別れてしまうのが惜しくてためらいがちに提案した。
「あの、買い物を助けていただいたお礼に、お茶をごちそうさせていただけませんか?」
優奈はほんの少し困ったように首を傾げた。
「お申し出はとてもありがたいんですが、ほんの少し前にお茶を飲んだばかりなんです」
その言葉を拒否と受け取って項垂れるレネの姿にほんの少し慌てたように、優奈は言葉を続けた。
「あの、私はこれからボーボリ庭園を観るつもりなんですけれど、もしその後でよかったら喜んでご馳走になりますわ」
レネの顔はぱっと明るくなった。
「僕もボーボリ庭園にいくつもりだったんです。ぜひご一緒させてください」
優奈は微笑んで頷いた。
二人は、ボーボリ庭園正面入り口からまっすぐの階段になっている坂道を登った。陽射しが容赦なく照りつけ、長い登りにレネの息は荒くなってきた。大丈夫ですかと声を掛けようとして隣を見ると、優奈は蝶子より遥かに白い肌に汗をかくことも息が上がっている様子もなく、一歩一歩を踏みしめて静かに歩いているのだった。薄桃色のブラウスと榛色の柔らかい髪が風にわずかにそよいでいる。
レネの視線を感じて、優奈はこちらを向き、頭をわずかに傾げて訊いた。
「日本人のお友達は、今日は?」
「僕たち、四人で大道芸人として旅をしているんですが、定休日の今日は自由行動にしたんです」
優奈は目を瞠った。
「まあ! 私たちも四人で旅をしていて、今日は自由行動なの。こんな面白い偶然があるのね」
「皆さん、日本の方なんですか?」
「いいえ、三人が日本人で、一人は韓国人なの。レネさんのお仲間は?」
「日本人二人と、ドイツ人です。僕の仲間たちを優奈さんたちにぜひ紹介したいなあ」
「素敵だわ。夕方に集まるから、みんなに提案してみるわね」
そう話しているうちに、二人は階段を登りきった。そして、陶器美術館の前に広がる薔薇園の光景に言葉を失った。きっちりと幾何学的に剪定されたフランス式庭木の間から薔薇の木が数しれず顔を出している。一つひとつに咲く花はごく普通の八重ではなく、ヨーロッパの絵画にあるようにさらに密な花びらを抱きしめていた。優しいスモモ色の花にはわずかにオレンジとも赤茶ともいえぬグラデーションがかかっていた。その様相は、若くてつんとした娘のようではなく、喜びも悲しみも経験した貴婦人のように高雅で暖かった。白い花も香り高く咲き誇っていたが、やはり優しく微笑むようだった。
レネの心は、まずパリに飛んだ。大好きだったアシスタントのジョセフィーヌとようやく同棲にこぎつけて、多いとは言えない給料の中から工面してたくさんの紅い薔薇の花を買っては贈り続けた事。楽屋で得意そうに笑う彼女が同僚の手品師ラウールに意味ありげに薔薇を見せていた事。ラウールがワインを傾けながらやはり意味ありげに笑った事。それから数日後に自分たちのアパートでラウールと一緒にいるジョセフィーヌと鉢合わせてしまった。紅い薔薇の花びらが部屋に溢れていた。ワインの瓶が床に倒れていた。彼らの嬌声が耳にこびりついた。「酒とバラの日々」を歌う酔った二人。愛も仕事も失ってパリを逃げだす事になった。
それから、しばらく薔薇が嫌いだった。「酒とバラの日々」も聴きたくなかった。でも、それが少しずつ変わっていったのは、Artistas callejerosの仲間と酒を飲んで馬鹿騒ぎをするようになってからだった。
「ブラン・ベックったら、また薔薇を見て暗くなっているの?」
「しょうがないな。もっと飲め、ほら、グラス出せよ」
蝶子がリストランテのテーブルの一輪挿しから薔薇を抜いてレネの前で振りかざし、稔がトクトクとワインをグラスについだ。そして、二人して楽しそうに「酒とバラの日々」を歌った。ヴィルが加わってからは、意地悪をする蝶子に彼が辛らつな言葉を投げかけ、彼女が応戦して高笑いすると、レネは「大丈夫です、こだわっていませんから」と二人の間に割って入る羽目になった。そして、いつの間にか、本当にレネは「酒とバラの日々」に対するトラウマを克服していたのだ。薔薇を見ると、ワインを飲んで笑い転げる仲間たちの姿が浮かぶ。あのメロディを耳にしても、楽しいだけになった。
「何か、愛おしい想い出があるのね」
声にはっとして横を振り向くと、優奈が優しく微笑んでいた。薄紅色のブラウスと榛色の長い髪が丘の上をゆっくりと抜けていく風にあわせてそよいでいる。ただの薔薇よりもずっと密度のあるたくさんの花びらを持つ優美な花に溶け込んでいた。レネは泣きたくなった。花咲く都、フィレンツェ。ここで出会ったこの女性は、まさに花の女神フローラだった。
「そうなんです。ずっと薔薇が嫌いだと思っていたんですが、今、薔薇にはとてもいい想い出がたくさんある事がわかったんです。優奈さんと一緒にここに来れて、本当によかった。僕、この光景を生涯忘れないと思います」
「本当にきれいな場所よね。見て、フィレンツェの街が見渡せるんだわ」
二人は、ゆっくりと歩いてアルノー川の向こう岸のドゥオモやその先のトスカナ平原が見渡せる位置にやってきた。カフェ・ハウスが閉まっていたので、レネが約束したお茶をごちそうするためにボーボリ庭園から出て少し散歩する事にした。
「ここにしませんか?」
ピンクの外壁に薔薇が飾られているカフェを見つけてレネが言った。優奈はとても嬉しそうに笑って頷いた。
中に入ると、「なんてことだ!」という英語が響いた。レネが振り返ると、カルロスが東洋の初老の男性と一緒に座っていた。
「今日は、いったいどうしたんでしょうね。今度はレネ君が東洋のお嬢さんと一緒だ」
レネはカルロスの言っている意味が分からなかった。何か誤解されているのかと思っておどおどしながら弁解した。
「こちらの優奈さんに先ほど買い物で助けていただいたんです」
「そうですか。私もレネさんの友達の一人です。スペイン人でカルロス・コルタドと申します。どうぞよろしく。こちらは商談相手で韓国からいらしたパクさんです」
優奈はにっこりと微笑みながら、それぞれと握手をして「どうぞよろしく」と言った。スペイン語と韓国語で。レネとカルロスとパク氏が揃って唖然とした顔をしたので優奈は控えめに笑った。
「優奈さん、僕にここで赤ワインをごちそうさせていただけませんか? 僕、どうしてもこの薔薇のカフェで、僕にとってのフローラであるあなたと乾杯したいんです。イダルゴとパクさんも、もしよかったらご一緒に」
レネの提案に三人が喜んで同意した。サン・ジョベーゼのキャンティが運ばれてきて、四人はにこやかに乾杯した。レネは買ったばかりのワイン手帳の一ページ目を記入して優奈のサインを入れてもらった。フィレンツェの午後は薔薇の薫りをのせて緩やかに過ぎていった。
(初出:2013年6月 書き下ろし)
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テーマ曲
「大道芸人たち Artistas callejeros」を連載していた時には、Mixpodっていうサービスがあって、小説の中で使った曲やイメージ曲をまとめて右カラムメニューで公開していたのですよ。だけどMixpodがなくなってしまいまして。
で、今さらなんですが、いまだに「大道芸人たち」を読んでくださる方も多くてこのブログでは一番の有名小説なのでBGMについてもここから語っちゃおうかなと。
あの小説を書いていたのは、まだブログをはじめる前でしたので、当然ながら何をしようとも自分一人の世界でした。だからBGMなんかもどっぷりと酔っちゃっていたわけです。
で、作中に出てきたクラッシック音楽等は当然挿入曲としてマイ・サントラの中に入っているわけですが、それとは別に「勝手にオープニング曲」というのもありました。もちろん自分で作曲できるわけではないので、どっかからもってくるわけです。それがこれ。葉加瀬太郎の「冷静と情熱のあいだ」よく聴くと、ぜんぜんフルートもギターもピアノも関係ないんですが、あくまでこれはオープニングなんで(笑)
それから、こっちは終わりの曲、といっても最終回のではなくて、各章の終わりで(連続テレビドラマのエンディングってイメージ)、ちょいと深刻な時にはこんな感じで。
Come Across the Wind / 風たちとの出逢い
小松亮太&斉藤恒芳
どちらも日本で番組や映画を観てしまった方には「どこが」になっちゃうんだろうなと思うのですが、私は付随する映像を観た事がないので、純粋に音楽だけを知っていて、自分の中では勝手に「大道芸人たち」のテーマになってしまっていると言う(笑)
とっくの昔に書き終わって、連載も終わっているのですが、それでもこの二曲を耳にすると心は「大道芸人たち」執筆中の感覚にすっと戻っていくから不思議です。って、はやく第二部を書けって話かしら。
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「初めてのボーナスで買ったものは?」
当時は、コンピュータを所有している友人など周りに一人もいませんでした。よそのコンピュータはMS-DOSの真っ黒い画面でしたから、かなりオタクな男性の趣味だとみなされていて、女がそんなものを買うなんてありえなかったはず。でも、Macは当時から真っ黒な画面じゃなくって、デスクトップにアイコンがあってダブルクリックでフォルダが開いてという今では当たり前の操作方法だったのです。しかも、カラーだったのですよ。
加えて縦書きの出来るワープロソフトを買いましてね。小説を縦書きで打ち出して悦に入っていましたよ。今となっては笑い話ですが。
ちなみにRPGも一つだけ買いました。とろいゲームでしたが、なんとかクリアしました。私が生涯でたった一つだけ買ったRPGでした。なぜか英語だったけれど。
こんにちは!FC2ブログトラックバックテーマ担当加瀬です(^v^)/今日のテーマは「初めてのボーナスで買ったものは?」です。会社によって差はありますが、6月はボーナスのシーズンですね!6月は休みがなく、テンションが下がりがちになりますが社会人の皆様は、ちょっとウキウキするのではないでしょうか。社会人の方に限定したテーマになってしまいますが、皆さんが初めてボーナスをもらった際の、使い道はどのようなも...
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なお、ここ数日リアルライフがとても忙しく、皆様にご無沙汰をしています。多分本日の訪問は無理で、コメ返は明日になる可能性もあり大変恐縮でございますが、コメは大好きですのでいつも通りお待ちしております。
![]() | このブログではじめからまとめて読む あらすじと登場人物 |
この作品は下記の作品の続編になっています。特殊な用語の説明などもここでしています。ご参考までに。
「樋水龍神縁起」本編 あらすじと登場人物
樋水龍神縁起 Dum Spiro Spero
(6)共鳴
「悪いけれど、瑠水は今日もう出発してしまったわ。一足遅かったわね」
訪ねてきた真樹に、摩利子は言った。
「明日だったんじゃないんですか」
「急に予定を変更したのよ。でも、あの子が自分でそうしたのよ」
「そうですか」
「瑠水も、変だったよね」
唇を噛んでうつむく真樹を送り出したあと、一は摩利子に話しかけた。
「ケンカでもしたんじゃないの? ま、しばらく会うこともないだろうから、そのうちにシンくんの瑠水への熱も冷めるでしょう。瑠水みたいな子供じゃなくて、年相応の恋人でも見つければいいのよ」
「摩利ちゃん、あいかわらずシンくんにひどくないかい」
「一はほんとうにシンくんのシンパよねえ。彰くんには大して思い入れないみたいだけど」
「彰くんはいいんだよ。ほっておいても何でも出来るし。東大から財務省なんて、世界が違うよ。俺が肩入れするなんておこがましいじゃないか」
「できちゃった結婚になるなんて、そんなに出来た男じゃないわよ」
「俺、彰くんはどっちかという瑠水の方にご執心なのかと思っていたけど」
「私もよ。でも、早百合の執念が勝ったんでしょ。ああいう所だけは私の娘なのよねぇ」
「……摩利ちゃん」
「彰くんと早百合は普通のカップルだから、何の心配もないの。でも、瑠水はほっておけない。あの『龍の媾合』の夜の恐怖は死んでも忘れないわ。シンくんと瑠水の両方から、あの金の光が飛び回っていた。あのまま、ここ樋水に置いておいたら、早かれ遅かれ瑠水は『妹神代』にされてしまう。そんなことは絶対に阻止しなくちゃ」
「でもさ。あんなに瑠水のことを好きなシンくんがかわいそうじゃないか」
「瑠水が離れたくないと泣いたのを引き離したわけじゃないわよ。瑠水が自分で決めたんだから」
「まあね。四年間離れていたら、お互いに新しい展開があるかも知れないよな。それでも一緒になるなら何があっても一緒になるだろうし」
「瑠水だって、ここを離れて他の世界をみてみなくちゃ。樋水への執着も、単に外を知らないからかもしれないでしょ」
真樹は諦める氣などなかった。もう東京に行ったというなら、追いかけていってもう一度氣持ちを伝えるだけだ。ひどく動揺していることは確かだった。少しは好かれているかと思っていた。キスにも応えていたのに。瑠水はさよならも言ってくれなかった。ただ、黙って旅立ってしまった。あれで終わりにしてしまうつもりなのだと思うと、傷ついた。
自然とアクセルをふかしていた。瑠水を乗せる時には絶対にしないようなスピードだった。突然飛び出してきたリスが、真樹を我に返らせた。だが、その時には遅かった。リスを避けようとしてスリップしたYAMAHA XT500は、樫の老木にまともにぶつかり倒れた。真樹はその下に半分体をはさまれ意識を失った。
新幹線の中で、瑠水は突然の戦慄に襲われた。真樹の叫びを感じた。昨日から何度も心の中で繰り返された彼が瑠水を呼んだ声ではなく、もっと深刻な、音にならない、暗闇の中から絞り出すような叫びだった。瑠水は、携帯電話を取り出して真樹にかけた。不通だった。震えが止まらない。不安でたまらなかった。
下宿についてからも何度もかけたが電話は通じなかった。新幹線の中でのようなショックは二度と襲ってこなかったので、もしかしたら自分の思い過ごしかと思い逡巡した。でも、確認したかった。シンが無事ならそれでいい。でも、どうしたら確かめられる? お父さんやお母さんには言えない。あのことがわかっちゃうもの。どうしたらいい?
やがて瑠水は一人だけ無条件に『お願い』をきいてくれる人を思いついた。樋水龍王神社の電話番号を探した。
「次郎先生? 私、高橋瑠水です」
次郎は瑠水からの突然の電話に驚いていたが、ちゃんと聞いてくれた。
「シンになにか起こったのか、彼が無事か知りたいんです。でも、お父さんやお母さんには頼めないの。シンは私のことを怒っているかもしれないし、私になんかに心配されたくないかもしれない。でも無事でいるとわかればそれでいいの。こんなこと頼むのは心苦しいけれど、わたし次郎先生にしか、頼める人がいないの」
次郎はもちろん『あたらしい媛巫女さま』の『必死のお願い』をきいてくれた。内密に出雲の消防署に連絡を取り、真樹が事故を起こし出雲総合医療センターに運ばれていたことを知った。次郎が病室に駆けつけたとき、全ての処置は終わっていた。少なくとも命には別状はないということだった。
「次郎センセ……」
突然、樋水の神主が現れたことに、真樹は驚いた。
「大丈夫か」
「大丈夫じゃないみたいだ。もしかしたら脊髄損傷しているかもしれないっていわれた。一生、車いすかもしれない」
「シンくん……」
「どうして、ここに? いくら何でもまだ噂は届かないだろう?」
「瑠水ちゃんに頼まれた」
真樹は弾かれたように次郎を見た。
「君の身に何かあったことを感じたらしい。君が無事か調べて報せてほしいと頼まれた」
真樹は黙ってしばらく唇を噛んでいた。それから手のひらで目を覆った。次郎は何も言わなかった。瑠水の電話の様子で、二人の間に何かがあったことは予想できていた。
しばらくすると真樹は言った。
「何事もなかった、普通に元氣でいると伝えてくれよ」
「どうしてそんな嘘を」
「今、あいつは新しい人生を踏み出した所だ。あいつの選んだ人生だ。この事故のことを報せたら、俺がこうなったことを知ったら、あいつはたぶん俺のために自分を犠牲にして戻ってくる。あいつに対する俺の氣持ちを知っているんだ。俺はあいつに罪悪感を植え付けたくない。俺を愛せないのに自己犠牲で側に来てもらいたいとも思わない。何も知らないでいるのがあいつにとって一番だ」
「でも、瑠水ちゃんは、感じたんだ。君とはそれだけ深い絆があるんだろう」
「絆? あいつは俺を拒んで去ったんだ」
「それでもだよ」
「次郎センセ。瑠水はあんたの媛巫女さまなんだろ。あいつを大切に思うなら、言わないでくれ。今はあいつの人生でとても重要な時期なんだ。あんたにもわかるだろう? あいつが選んだ未来を自由に歩ませてやってくれよ」
「でも、君はそれでいいのか。今の君には支えが必要だろう」
「もう、どうでもいいんだ。どうせこっちに未来はないんだから」
再び手のひらで目を覆う真樹に、次郎の心は締め付けられた。
「シンくん。人生には時おり、不公平で辛いことが起こる。今の君がどんな状態なのか、僕にはわかる。だけど希望を失うな。どんなときでも希望を持つんだ」
「悪いけど、あんたに言われても、はいそうですか、とは思えないね」
「僕の言葉じゃないよ、これは瑠水ちゃんの『水底の皇子様』の言葉だ」
「?」
「どんな苦難にも平然と堪える人だった。どうしてそんな風にいられるのかと訊いた若くて頼りなかった僕に、彼が教えてくれた言葉があるんだ。- Dum spiro, spero. ローマのキケロの言葉だそうだ。息をし続ける限り、つまり命ある限り、私は希望を持つ、って意味だ。僕は、辛いことがあると、いつもその彼の言葉を思い出して凌いできた。だから、君にも、この言葉が役に立つといいと思うよ」
真樹は次郎をじっとみつめていた。次郎は真樹の希望に従って、瑠水に事故のことを報せなかった。
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シロップの季節

今年も作っていますよ、ホルンデルシロップ。
ホルンデルというのはニワトコのことです。といっても、正規ドイツ語ではなくて方言でしょうね。この白い花を使ってシロップを作るのです。
もちろんお店でも買えるのですが、私は毎年手作りするのですよ。晴れた日に、花を摘み、レモンと一緒に三日間抽出したお花のエキスを砂糖と一緒にグツグツ煮るのです。ウルトラ簡単だけれど、お店で買うのより美味しいと連れ合いの友人が楽しみにしていたりします。白砂糖ではなくて健康のためにブラウンシュガーを使うのですが、それが独特の旨味を出すみたいです。

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まさかの第二弾「神様限定! 創作バトン」
では、いきます。
【壱・ではまず呼び出す人に語らせてやってください。 なんというタイトルのお話から来ましたか?】
(瑠水)高橋瑠水です。チャプター1の終わりそうな現在、18歳です。連載中の『樋水龍神縁起 Dum Spiro Spero』からやってきました。
(龍王)バトンを受け取った、樋水龍王神です。島根県奥出雲樋水村にある由緒ある神社で主神やっています。『樋水龍神縁起』本編ならびに『樋水龍神縁起 Dum Spiro Spero』からきました。本体は樋水川です。
(作者注・樋水村は架空の村で樋水川のモデルは斐伊川です)
【弐・その世界では主にどんな生活をしていますか?】
(瑠水)現在は高校生です。これから東京の大学(地質学を学びます)に進学する事になっていますが、大学生活はワープして、チャプター2では社会人らしいです。かなり過疎のちょっと特殊な村で育ったので、出雲の高校でも変わり者扱いされていました。東京に行くとなるとどうなるかちょっと心配ですね。
(龍王)けっこう忙しいです。縁結びから進学のお願いごとのような個人的なお祈りが来る事もありますし、冠婚葬祭を一手に引き受けているんで。それと同時に雨や川として流れて農地を潤したり、個人のお宅に行ってお鍋の中でほうれん草を茹でたり、24時間態勢ですかね。
【参・暮らしの中で嬉しい事ってありますか?】
(瑠水)お社の龍王の池に行くと、とても幸せな氣持ちになるんです。あと、とても仲のいい友達のシンと一緒にバイクに乗ったり、クラッシック音楽を一緒に聴いたりすることです。
(龍王)ちょっと前に仲間が増えた事。支流で蛟川といいます。
【四・辛いことってありますか?】
(瑠水)高校で「氣味の悪い子」って、こそこそ言われる事かな。あと、龍王様のことは村のみんなもいるっていうのに、「水底の皇子様とお媛様」がいるっていうと、「それは妄想だ」って言われてしまう事です。この間、二人の近くに行こうとしたら、龍王様に追い返されたこともつらかったな。
(龍王)ありません。
【伍・ぶっちゃけ、自分の扱いや境遇についてどう思っていますか】
(瑠水)龍王様やこの世にもういない人を見える事を高校で言わなければよかったなって思っています。あと、樋水や出雲が好きだから、こっちの大学に通いたかったんだけれど、みんなが東京に行けっていうんですよね。龍王様やお社の神主さんたちにも歓迎されていないみたいで、でも、お姉ちゃんみたいに東京でやっていく自信もないし。こっちに残るシンと連絡していろいろと相談しようと思っていたんだけれど……いい友達だと思っていたんだけど……ちょっと、いろいろあって、氣まずくなっちゃって。
(龍王)龍神とはそこにあってなきものなので、扱いや境遇などには頓着しません。
【六・好きな異性のタイプを教えてください】
(瑠水)子供の頃から感じている「水底の皇子様」です。いつもお媛様と一緒にいて、幸福なんです。先日溺れそうになった時に、たぶん助けてくれたのも皇子様だと思います。氣を失っちゃって、ちゃんと見ていないんですけれど。
(龍王)川に性別はないので、この質問には答えられません。
【七・得意な歌はなんですか?】
(瑠水)村の大衆酒場「三ちゃんの店」でカラオケさせられた事があるんですけれど、あまり上手じゃないんです。全然歌謡曲を聴かないので、歌える歌もないし。お父さんとお母さんが若いころに流行ったっていう宇多田ヒカルって歌手のCDがうちにあって、今はあれの中の「First Love」を歌いたい氣持です。
(龍王)祝詞
【八・どうしても許せない事ってありますか?】
(瑠水)どうしてもってほどじゃないですけれど、シンとずっといい友達でいたかったです。
(龍王)愛も憎しみも全て同じひとつの空に集結するものです。許されるものも許すものも存在しません。
【九・こちらについて質問はありますか?】
(瑠水)これから私はどうなるんでしょうか。
(作者回答)「大道芸人たち」の日本編を読めば、大体わかりますよ。でも、詳しくはネタバレになるので答えられません。龍王様はなにかありますか。
(龍王)質問されて答えられるつもりだとは驚いたね。
【拾・最後に、今後の予定ややりたいことがあれば】
(瑠水)う〜ん、水底の皇子様とお媛様と会う事ができたらいいなあ。
(龍王)それは、このストーリーでは無理だと思うからあきらめなさい。
【お疲れさまでした。最後に、回したい神様を5人選んでください】
(作者)もう十分まわったから、いいでしょうと龍王様が……
(まだやっていなくて、やってみたい人間の皆さん、ご自由にお持ち下さい)
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夏のお楽しみ

イタリアで「ガッツォーザ」と頼むと、普通のレモンソーダが缶ででてきます。でも、イタリア語圏スイスででてくるのはこのレトロな瓶に入ったガッツォーザ。まあ、サイダーみたいな飲み物なのですが、シュポンと瓶をあけてグロットとよばれる戸外レストランの葡萄棚や木陰で飲むと、なんともいえず爽やかで心豊かな氣持ちになれるのですよ。
何度も書いていることですが、スイスは地方によって全く特色が異なり、これはイタリア語圏でしか楽しめないと思っていただいて結構です。たまにガッツォーザを置いているドイツ語圏のバーなんかもあるのですが、だめなんです。これはね、アルプス以南の強烈な太陽の下で飲むからこそ美味しい飲み物なんです。
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「キャンプするならロッジ派?テント派?」
テーマは「キャンプするならロッジ派?テント派?」ですが、私は断然ロッジ派。すみません、軟弱で。
夏の休暇ともなるとけっこう長くて物入りなので、何度かキャンプにもトライしたのですよ。で、テントも試したんですけれどね。寒いし背中は痛いしで全然眠れないんですよ。しかも、雨が降ったりすると自分は濡れなくても何となく惨めな氣持ちになりますし。
私はさほど贅沢な方ではないし、ホテルの部屋にバスタブがなくても全く問題ないし、多少ベッドがたわんでいたり戸棚が壊れているくらいなんでもないのですが、テントで寝るのは無理かなって思いました。まあ、日本みたいな夏のように真夜中でも25℃以上あるなら大丈夫なのかもしれませんが。
一度、テント場で使われていないキャンピングカーを使わせてもらった事がありました。これは快適でしたよ。やはり、テントは外の氣温が直接響いてくるのですが、キャンピングカーともなるとかなり暖かいのですね。また、地面の上と違って背中も痛くならずに熟睡できましたし。
こんにちは!FC2ブログトラックバックテーマ担当の西内です今日のテーマは「キャンプするならロッジ派?テント派?」です。今年こそはキャンプをしたいと意気込んでキャンプ場を探し...
FC2トラックバックテーマ 第1673回「キャンプするならロッジ派?テント派?」
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ブログのスタイルって
ようやく夏っぽい写真が撮れるようになってきたので、嬉しくてアップしちゃいます。って、これも今日の話と全く関係ないわけじゃないからいいか。

小説のブログと言っても、うちの場合は全体の記事数に占める小説記事の割合は少ない方です。本人としてはあくまで小説ブログだと言い張っていますが。
潔く小説だけで勝負なさっていらっしゃる方も多いし、その方が小説ブログの真の形なんだろうなと思うのですが、そうするとはじめての方が入りにくいんじゃないかなと思ってしまうんですよ。
小説テンプレートってありますよね。小説ごとにあらすじが整理されていて、小説にだけ興味のある方には読みやすくてとても便利だと思うのですが、私のような更新のしかたをするブロガーには全く向いていないテンプレートなんですよね。だいたい、うちは小説以外のカテゴリーが多すぎる。
それと、「このヒトの小説好き!」と足繁く通うようになってからは問題ないんですが、そうなるまでの敷居が高い氣がしちゃうのですよ。つまり、小説の本文に辿りつくまでに三回くらいクリックしないといけないじゃないですか。そうすると、忙しい一見さんはもう帰っちゃうだろうなと。
というのは私の小説がジャンル分けがとても難しいところに原因があるのです。「本格時代劇です」とか「心の痛くなるような純愛小説です」とか「魔法少女ストーリー」というようなはっきりしたジャンルがあると、そういう小説を求めている方が「おっ」とすんなり三クリックをして、読んでファンになってくれるかもしれませんが、そういう小説じゃないんですもの。最初のすっきりしたページで「なんだこりゃ」と回れ右で帰られてしまう、そう思うんですよね。
一方で、私のような通常ブログ画面だけで小説を読ませようと無理する場合には、それなりの工夫をしないとすごくわかりにくいだろうなと。
一年数ヶ月の試行錯誤を重ねて、現在の形になっているわけですが、一番重要だと思っているのは、短いお報せ、代表作まとめ読みへのリンク、そして本日の記事の題名くらいまでがスクロールしないで目に入る事。それから右のメニューのプロフィール画像の側に、はじめて来た人への情報がやはりスクロールしないで目に入る事。完結した長編はPDF化してまとめ読みしたい方の手間を省く事などでしょうか。
それと、文字だけの記事もあるのですが、三日以上文字オンリーにならないように氣をつけています。真っ黒いブログだと、読みたくないって人もいるだろうし。一方で、写真の数が多すぎると重くなるのかなとも思うので、基本はサムネイル表示にして、多くなる時は畳むようにもしています。写真ブログだったら、重いかどうかよりも魅力的な写真かだけが重要だと思うのですが、私のブログは「軽いのだけが取り柄なのに」と思われている可能性もあるので。
小説の更新頻度も悩みどころです。ある小説を読んでくださる方がいるとして、その方も忙しいし、うちの小説だけを読んでいるわけじゃないからついて行けないほどの大量の更新はしない方がいいでしょう。でも、連載であまり間があくと、前の話を忘れてしまう。で、結局読んでくださらなくなってしまう。だから、連載の基本は週一回と決めました。チャプターが変わる時などは、二週くらいあける事もありますが。同じ週に別の作品を発表する時には読み切りかそれに近い形のものにします。読み切りだと、忙しさや興味対象に応じて読むか読まないかをその都度決められますし、長編を読むかどうか決めかねている方にも「試しに読んでみようかな」と思ってもらえるし。
長編連載小説には「あらすじと登場人物」をつけます。たとえ毎週いらっしゃってくださる奇特な読者だって、あちこちの小説を読んでいれば、私の小説の人物を忘れても当然だと思うので。「ええと、これは誰だっけ」と思ったその記事の中に「あらすじと登場人物」のリンクがついていれば少しでも助けになるかなと思いまして。
と、いう具合に、試行錯誤の末のブログスタイルなのですが、本人が思ってやればやるほど、反対にごちゃごちゃしてくるような氣もします。
情報を伝える一番有効な手段は、すっきりしたところに大切なものだけを置くことです。簡単に言うと真っ白い画面に「小説一覧」というリンクがぽつんとあるだけの方が、いまの私のブログよりも効果的である可能性があります。その一方で、日本人として、その素っ氣なさはいかがなものかと思ってもしまい。結局、あれもこれもリンクを貼ってしまいたくなり、(以下、繰り返しなので略)
う〜ん、なんとかならないものか。
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【小説】樋水龍神縁起 Dum Spiro Spero (5)ピアノ協奏曲
![]() | このブログではじめからまとめて読む あらすじと登場人物 |
この作品は下記の作品の続編になっています。特殊な用語の説明などもここでしています。ご参考までに。
「樋水龍神縁起」本編 あらすじと登場人物
樋水龍神縁起 Dum Spiro Spero
(5)ピアノ協奏曲
早百合は、秘密を持っていたので、家の空氣に敏感だった。東京へ行ったのは、大きなニュースを彰に伝えるためであった。それは早百合の賭けでもあった。
早百合はここ数年間大きな猜疑心に苦しめられてきた。子供の頃からずっと好きだった彰が、自分ではなくて妹の瑠水の方を愛しているのではないかという疑いである。瑠水の方には彰にほとんど関心がないこともわかっていた。あの子はあの消防士といる方がいいのだ。変な趣味だと思ったが、彰に興味を持たれるよりずっとよかった。
彰は今でも繁く樋水にやってきた。早百合は半ば誘惑するような形で彰と関係を持ったが、それでも樋水に来た彰が目を輝かせるのは、瑠水の姿を見た時だった。
早百合はいつも瑠水に対して「理解できない」何かを感じていた。瑠水には『見える者』としての能力があり、龍王や蛟に深く魅せられている。田舎が嫌いな早百合と違って、瑠水は樋水が好きでしかたなかった。山や自然に対する愛情も尋常ではなかった。
次郎の瑠水に対する態度も早百合には理解できなかった。私と瑠水のどこがそんなに違い、次郎先生は瑠水を特別扱いするんだろう。早百合は次郎に傅かれたくはなかったが、自分と瑠水とのその違いが彰にも影響しているとしたら由々しき問題だった。
早百合に出来るのは、彰を既成事実で囲い込むことだけだった。そして早百合は賭けに勝ったのである。
彰と結婚する、来年には子供もできるという電撃ニュースを持って、早百合が樋水の我が家に帰ってきたとき、家にはそういうことを発表しにくい重さが漂っていた。早百合がいない数日の間に、瑠水が龍王の池で溺れかけ、一と摩利子が厳しい顔で今後のことを話し合っていたのである。
一と摩利子の態度だけでなく、瑠水自身の様子も変であった。瑠水の顔からは、以前のような無邪氣さが消えていた。何かよほどショックなことがあったらしい。早百合は摩利子に訊いた。
「あのロリコン消防士に襲われたかなんかして、ショックで身投げでもしたんじゃないの?」
摩利子はそれを即座に否定した。だが早百合には『龍の媾合』のことは話さなかった。早百合はいつまでも自分のニュースを隠しておけないので、その日のうちに妊娠と結婚について発表した。一と摩利子は驚いたが、もちろん祝福して喜んだ。瑠水ももちろん祝福したが、その心はどこか遠くにあった。
高校卒業後の進路として、瑠水は地質学を学べる大学への進学を希望していた。島根大学を受験したいと言っていたが、一と摩利子は東京に行くことを勧めた。いい教授は東京に集中している、いつまでも田舎にばかりいてはいけないというのがその理由だった。数日前までは瑠水は樋水から離れたくないし、地元に即したことを学びたいと主張していたのだが、『龍の媾合』以来、前ほど島根にこだわった発言をしなくなっていた。それに一と摩利子も東京進学を強要していた。
瑠水はひどく傷ついていた。『水底の二人』の幸福に加わりたかったのに、龍王様に厳しく拒まれた。お父さんもお母さんも私を追い出そうとしている。次郎先生に相談した時にも、東京に行く方がいいと言われた。樋水全体に拒まれている。そう思った。何がおきたのか自分でもわからなかった。
瑠水は考えたくなかったので受験勉強に集中した。真樹に東京の大学を受験すると言った所、残念そうだったが止めはしなかった。一や摩利子と同じようなことを言った。一と摩利子もいつまでも瑠水のことばかり心配しているわけにいかなかった。早百合の結婚式はまったなしで、その準備にも忙しかったからだ。
月日は飛ぶように過ぎ、瑠水は東京の大学進学を決めた。卒業までの短い時間に、瑠水は引越の準備をしたり、真樹とクラッシック音楽のコンサートに行ったりして忙しく過ごした。真樹と離れるのはつらかったが、それで縁が切れるとは思っていなかった。大学を卒業したら、できるだけ早くまた樋水に戻ってくる。その時にまた一緒にクラッシック音楽を聴いたり、バイクに乗せてもらったり、同じことが出来ると思っていた。
瑠水が東京に引っ越す予定の二日前に、二人は出雲で会った。どこに行きたいかと訊く真樹に瑠水は真樹と音楽が聴きたいと言った。それで真樹は今まで連れて行ったことのない自分のアパートに瑠水を連れて行った。
それは小さなアパートだった。居室とダイニングキッチン、それに風呂場だけのシンプルな間取りで、おしゃれでもなければ、大して片付いてもいなかった。しかし、真樹らしいシンプルで飾りのない部屋だったので瑠水の心は落ち着いた。
真樹がコーヒーを淹れに行っている間、瑠水は物珍しそうにCDの棚を眺めていた。こんなにバラバラになっていて、どうやってかけたいCDを探せるのかしら。ドボルザークの『新世界から』は棚の上に置かれていた。ハチャトリアンの『スパルタクス』はクイーンの隣にあった。
CDプレーヤーの電源を入れると、もう中に何か入っていた。プレーヤーの上に空のジャケットが載っている。ラフマニノフ・プレイ・ラフマニノフ。作曲者本人が演奏しているピアノ協奏曲第二番。瑠水は好奇心に駆られてプレイボタンを押した。
真樹がコーヒーを載せた盆を持って入ってきた。かかっているラフマニノフにちょっと耳を傾けた。いつものように解説などはしなかった。ただ黙っていた。甘い旋律。瑠水も黙っていた。狭い六畳の居室にいることも忘れて、オーケストラとピアノが対話するように奏で、心の中をかき回すロマンティックな音に没頭していた。ラフマニノフ自身が演奏したという古い音源には雑音が入り込んでいたが、それすらも耳には入らず、ひたすら痛み感じさせるほど叙情的な旋律に入り込んでいた。
第二楽章になると、旋律はもっと甘く切なくなった。音によって、心とからだがどこかへと昇ってゆく。自分が感じているものが何なのかを、瑠水は正確にはつかめなかった。
氣がつくと、真樹は瑠水の隣に座っていた。ごく自然に、しかし、その距離は不自然だった。狭い六畳とはいえ、そこまで近くに座る必要はなかった。けれど、その近さは、今の瑠水にはごく当たり前に思われた。バイクの後ろにいるときの近さ。樋水の風を感じるときの歓喜。『水底の二人』が放つ光に似た、どこか奥底から湧き上がる甘い歓び。
その旋律の甘さが最高潮に達している時に、真樹は瑠水の唇を塞いだ。ごく自然に、でも激しく。その長いキスは、第二楽章が終わるまで続き、瑠水は甘さに囚われてされるがままになっていた。
弦楽器が掛け合う第三楽章がはじまると、瑠水は我に返った。真樹の手が瑠水のブラウスのボタンを外している。違う。そうじゃない。みんながなんと言おうと、私はシンを信じていたのに。渾身の力を込めて真樹を突き飛ばすと、瑠水はバックとコートをつかんだ。
「瑠水!」
真樹の声を振り切るように、瑠水は靴を履き玄関から飛び出した。混乱して、涙が止まらなかった。
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日本に憧れる外国人の住まい

海外に住んでいる日本人という立ち位置から、私はたぶん平均的日本人よりも外国人と接する機会が多いです。そして、異文化交流という視点が自分の中で常に流れるテーマになってしまっていて、作品の中にも良く登場する事になります。
で、外国人にとっての日本なんですが。日本人にとって日本は生活の場であり、歴史は歴史、文化も文化、それと別にまず生活があるという立場に立たれる方が多いのではないでしょうか。それと比較すると日本の事を好きな(もしくは好きでもないけれど関わらざるを得ない)外国人にとっては日本は特別な場所で、だからどこでどんな風に暮らすかがとても大きなテーマになっていると思うのですよ。
わかりやすくするために逆のパターンで話をしましょう。平均的日本人であるAさんが例えばモロッコに住む事にしました。Aさんにとっては映画「カサブランカ」のイメージこそが正しいモロッコです。だからエキゾティックな迷路のごとき旧市街のなかの植民地時代から変わらないオリエンタルな住まいで、オリエンタルな調度に囲まれて暮らしたいと、自宅に車を停められないような部屋を借りるなんてこともあるでしょう。
日本好きの外国人にもいろいろなパターンがあるのですが、大別すると「日本の伝統文化大好き」と「アニメやマンガ大好き」に別れると思います。もちろんこれ以外の人たちもいますが、あまり細かく話しても意味ないし。
で、「日本の伝統文化大好き」の外国人は、頑張って伝統的家屋に住んじゃったりするわけです。日本人だったら「お風呂が自動給水できて、クーラー完備で、床暖房があって、コンビに近くて、宅配便ポストあり」な住まいの方が便利だと思うでしょうが、「檜のお風呂につかり、浴衣姿となり畳の部屋から庭を眺めて、鉄瓶で湧かしたお湯でお茶を飲む」生活を夢みたりしているわけです。
で、そういう方々は東京よりは地方を好む傾向もあります。「アニメ・マンガ・日本のサブカル大好き」外国人は都会を好むのと対照的で。地方の方が伝統的な日本の美がたくさん残っていますから。
私の書いている小説では、先日登場させた和菓子職人ルドヴィコというイタリア人がこのパターンです。どこに住んでいるのかははっきりとは書きませんでしたが、ココうささんにしっかり見破られてしまったようにイメージは松江です。松江にある小泉八雲記念館(上の写真)は、彼が住んでいた家屋をそのまま公開しているのですが、私の中ではルドヴィコはこういう家に住んでいます。プラスチックはこういうインテリアと彼の美意識に合わないので一切使わないという偏屈ものです。
別に外国人でなくても、日本の古来の建築様式や暮らし方をしっかり守られている方もいられるでしょうが、実は私の周りにはいなくてイメージがつかみにくいのです。というわけでこの手のテーマには「日本大好きガイジン」に出没してもらっています。
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おとぎ話のような……
「scriviamo!」の時の「君をあきらめるために」で恒樹は勝手にあちらの世界に潜り込みミツの兄の栄二も同じ高校に通っている事にしてしまいました。それから「ロンドン便り」では恒樹&リナが出会っているという無茶をしたのですが、今回紗那さんはリナとミツをヒロインたちのお買い物シーンに登場させてくださったのです。紗那さん、本当にありがとうございます。大好きな「Love Flavor」の世界に入り込めて二人も私もとても嬉しいです。紗那さんの素敵なラノベの世界を、みなさんもぜひご堪能くださいませ!
紗那さんの作品: Love Flavor 004 : "そっか。じゃあ、ウチ来る?"
で、この下からが本日の本文です。
数年前でしょうか、かなり前の事でした。でも、この時期の話です。例によって自転車をキコキコとこいでいると向こうからこんな馬車がやってきました。

結婚式のカップルを乗せるためだと思うんですよね。さすがにヨーロッパの田舎とはいえ、21世紀に馬車が普通に乗り合いとして使われているわけはありません。観光か、それとも結婚式ぐらいです。
とはいえ、その馬車と周りの光景には違和感がなく、とても素敵だったので、思わずシャッターを押してしまいました。
日本で、結婚式場にセットされたゴンドラに乗って登場するような演出は、演劇がかっていて恥ずかしくなってしまうのですが、ここまで世界に溶け込んでいる演出なら乗ってみたいなあと、ちょっと思いました。とはいえ、私の結婚式は、とうの昔に済んでしまっていて、しかも、ほとんど何もしなかったのでほんの少しだけ心残りなのですよ。まあ、周りで派手に式を挙げた人たちがことごとく破局している中で、なんだかんだいってずっと連れ添っているんで、結婚式の演出の事でぶちぶちいう必要はないんですけれどね。
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【小説】ヴァルキュリアの恋人たち
ヴァルキュリアの恋人たち
弓形にカーブを描く大理石の階段を降りて、燕尾服の紳士はバーへと入っていった。シャンデリアの輝くホールとはうってかわり、柔らかい間接照明は臙脂色の絨毯をわずかに照らしていた。彼はほっと息をつくとバーテンダーにダブルのウィスキーを頼んだ。
氷に揺らめく虹を揺らしながら、彼は女の事を考えていた。まだ若く血氣盛んだった頃、パリの高級クラブで知り合った。ファナ・デ・クェスタ。黒髪につややかな虹がでていた。紺碧の瞳で彼の心臓を突き刺した。長い指先が彼のグラスを奪い、それを脇に追いやると、ゆっくりと濃い紅の唇を近づけてきた。結婚し、子供に恵まれ、平穏な日々を過ごしている子爵を時おり熱病のように苦しめる灼熱の幻影。あの女のためだけに駆け上った階段だった。事業も、社交界での地位も、慈善も、立ち居振る舞いでさえも。
「ほ。これはド・ロシュフール子爵殿。こんなところでお会いするとはね」
その声に横を向くとマイケル・ハーストがスツールに身を半分持たせかけてコーラを飲んでいた。あいかわらず時と場所をわきまえない野蛮人だ。とっくりのセーターを来たアメリカ人に子爵は眉をしかめた。
「君は幸いにも大西洋の向こうに帰ったのだと思っていたが」
「ちょっと違うな。あんたのご先祖の国の外人部隊にしばらく世話になっていたんだよ。砂漠でひと暴れさせてもらったよ」
子爵は露骨に眉をしかめると、このような男と知り合いと思われるのは恥だと言わんばかりにグラスを傾けた。グラスの中の氷山にウィスキーが再び虹を作る。
アメリカ人は子爵の迷惑な様子を氣に留めた様子もなくさらに話しかけた。
「あんたも、呼び出されたのか」
子爵ははっとしてハーストを見た。では、この男も? あの女の名が刻まれた招待状を手にしてから半月、何も手につかなかった。マラリアに罹ったかのようにあの頃の事を思い出していた。そして、これは自分だけに送られたのだと、あの女が自分だけと再び逢いたがっているのだと浮かれていたのだ。
アメリカ人もじっと白い招待状を見つめていた。忘れもしない女の筆跡。出会った夜の事は生涯忘れないだろう。ブロンクスには全く似つかわしくない女だったので、あのバーに入ってきた瞬間、全員が眼をむいた。黒のストライプがシャープに入った白いスーツに身を固め、まっすぐにハーストの方に歩いてきた。豊かな赤毛が肩に流れ、緑色の瞳がきらりと輝いた。
「あなたがマイク・ハーストね。噂に違わずいい男じゃない」
「あんたは誰だ。なぜ俺の名前を知っている」
「私はファナ・デ・クェスタ。私のために闘ってくれる強い男を探しているの」
それ以来、ハーストはアメリカに帰っていない。
「ワーグナーの『ヴァルキューレ』か。かつての男どもを集合させるには、いかにもアイツらしい場を選んだじゃないか」
そういうと、ハーストはバーに入ってきた黒い三つ揃いを着た二人の男たちを目で示した。
「イザーク・ベルンシュタイン。それに、戸田雪彦。とんでもないメンバーが揃ったな」
世界的富豪と、ハリウッドで活躍する日本人俳優。この四人に共通する項目はただ一つだった。かつてファナ・デ・クェスタの恋人であった事。
「やっぱり、あなたたちも招ばれましたか」
戸田の流暢な英語がバーに響く。ハーストの発音とは対照的なイギリス英語だ。ファナ・デ・クェスタの姿がタブロイド紙に載ったのは、この日本人がアカデミー賞の授賞式にパートナーとして連れて行ったからだった。その時にはブロンズ色の髪で、瞳の色は暗かった。それでも、男たちにはすぐにファナだとわかった。決して忘れられないエキゾティックな美貌。
戸田雪彦もファナに取り憑かれて人生が変わった一人だった。役によって自在に英語の発音を変え、楽器の演奏もアクションも官能も全て完璧にこなす東洋の俳優として役の依頼が次々と舞い込むようになったその時期に、いつも側にいたのはあの女だった。
だが、彼のアカデミー賞の受賞を機にファナはアメリカを去り、次に目撃されたのはドイツでだった。大富豪イザーク・ベルンシュタインの新しいパートナーとして。誰もが今度は彼女が金に群がったのかと思った。だが、そうではなかった。彼はファナとともにいた三年で、もとの資産を三十倍にした。それは、世界中のかなりの国の国家資産を超える額だった。
ファナが去る時に恋人たちに求めるのは、栄光でも金でもなかった。
「あなたは私を自由にしなくてはならないわ」
いくら年を経ても、全く変わらぬ美しい笑みを残し、ある日彼女は去って行く。懇願し、脅迫しても彼女はとどまらない。止める事は出来ず、行き先を突き止める事も出来なかった。彼女自身の意志で表の社会に再び現われてくるまでは。
ベルンシュタインは、白い厚紙の招待状を落ち着きなくひっくり返す。子爵はこの男も再び熱病に苦しめられているのだなと思う。アメリカ人や日本人も同じだろう。
「おかしいと思わないか。ファナは八年前に、あの女に殺されたはずでは……」
ベルンシュタインが声を潜める。
「あの女というのは、私の事かしら」
そこに立っていたのは、深紅の輝くスパンコールで覆われたドレスを着て、漆黒の髪を高く結い上げた女、エトヴェシュ・アレクサンドラだった。そう、この中ではファナの最後の恋人。ハンガリーの裕福な商人の妻だが、当時から夫と共に住む事もなく世界中を旅していた。
「期待を裏切って悪いけれど、私は人を殺した事もないし、最後に逢った時ファナは生きていたわ」
「では今どこに」
四人の男が同時に発言した。
アレクサンドラは真っ赤な口元を妖艶に歪め、頭を振った。
「知らないわ。でも、今宵わかる事でしょう。私たちにこのオペラの招待状を送りつけてきたんだから」
ファナ・デ・クェスタ。いくつもの顔を持つ謎の女だった。本当の髪と瞳の色を知るものもいなかった。完璧なプロポーションが天からの贈り物なのか医学の粋を極めたものなのかも。誰もそんな事は氣に留めていなかった。ただ彼女がいるだけで世界が変わった。男を、そして女をも、成功と野心へと駆り立てる、魔のヴァルキュリア。その栄光を極めているときに必ず姿を消してしまう不思議な女だった。姿は消えても、一度彼女を知ったものは、生涯その毒牙から自由になる事は出来ない。
ベルンシュタインがシャンパンをオーダーした。
「クリスタルでしょうか?」
バーテンダーが訊いた。
「ブリュット・プルミエにしてくれ。グラスは五つだ」
ルイ・ロデレールの最高級シャンパンなど飲んだ事のないハーストは下品にも口笛を吹いて子爵に睨まれた。
「我らが女神に」
クリスタルグラスが尖った音を響かせる。五人はお互いに瞳を見つめあいながら、かの女のために乾杯した。黄金の泡が踊る。甘美なキュヴェが過ぎ去りし時のようにほんのひととき喉を酔わせる。ワーグナーの無限旋律のごとく終わりのない心の迷宮の中の一服。
開演を知らせる鐘の重い響きがする。五人はゆっくりと顔を見合わせる。どんな芝居が始まるのか誰にもわからない。だが、彼らは『ヴァルキューレ』の招待を拒む事は出来ない。シャンデリアの煌めく巨大なホールを抜け、螺旋状にカーブした大理石の階段を昇り、オーケストラの調音が響く大ホールへと向かって行った。
(初出:2013年6月 書き下ろし)
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「撮影した写真はどうしてる?」

写真を撮影して自宅に戻ると、Macに接続します。すると自動的にiPhotoが立ち上がって読み込むか訊いてくるので読み込みます。でカメラの方は消去します。
旅行の写真など、人びとに見せるものは、スライドショーを作成してDVDに落とす事もあります。これはテレビで観るためです。それ以外は、ほぼそのままです。
以前はHDを圧迫するので二年くらい前のものはCD-Rに移していたのですが、最近のMacは動画の読み書きもする方のために十分な容量があるので、写真程度なら入れっぱなしにしておいても大丈夫。反対に前の写真を探す時に面倒なので以前の分もMacに読み込むようにしました。
時おり「あの写真どこだっけ」と長い事探して、最後に「ちっ。デジタルじゃなくてフィルムだったか」という事もあります。そう、以前は全部フィルムだったんで……。
はじめまして!FC2ブログトラックバックテーマ、初担当いたします西内です今日のテーマは「撮影した写真はどうしてる?」です。最近は、お手軽なトイカメラから本格的な一眼レフカメラまで数え切れないくらいたくさんのカメラ が販売されていますよね私はデジタル一眼レフがほしくて、お財布と相談しては諦めて、やっぱりほしくて相談しては諦めて・・・かれこれ2年は経っていますなので、写真を撮るときは、携帯電話のカメ...
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「神様限定! 創作バトン」だそうです……
再び創作系バトンをいただいてきちゃいました。今回もTOM-Fさんからです。回す相手が神様限定というバトンらしいですが、回されていない人間も自由にやっとけという事なので、やっときます。昨日の今日。がんばっちゃいました、うっしっし。
では、いきます。
【壱・ではまず呼び出す人に語らせてやってください。 なんというタイトルのお話から来ましたか?】
(ス)ステラです。イタリア人です。性別は女で16歳、「Stella」で連載中の『夜のサーカス』からやってきました。
(ヨ)ヨナタンです。26歳の男性です。同じく『夜のサーカス』からきました。
【弐・その世界では主にどんな生活をしていますか?】
(ス)私はサーカス「チルクス・ノッテ」でブランコ乗りをしています。キャラバンで移動しながらイタリア各地をまわっています。
(ヨ)僕はジャグラー(複数のボールを投げる演目をする人)で道化師です。仲間たちと共同生活をしながら、技術の鍛錬と公演を繰り返す日々です。サーカスには危険が伴うので日々の安全確認と規則的な生活を心がけています。
【参・暮らしの中で嬉しい事ってありますか?】
(ス)毎日、大好きなヨナタンと一緒にいられる事です。あと、雄ライオンのヴァロローゾにお肉をプレゼントしたらゴロゴロと喉を鳴らしてくれました。
(ヨ)(未回答)
【四・辛いことってありますか?】
(ス)レッスンかな。辛いってほどではないのですが、先生のジュリアは厳しいです。あと、虫の居所の悪いブルーノに演目の事で嫌味を言われるとちょっとがっかりします。
(ヨ)(未回答)
【伍・ぶっちゃけ、自分の扱いや境遇についてどう思っていますか】
(ス)私はサーカスに入ったばかりなので、まだ教えてもらう事が多い状態なのですがちゃんとお給料をくれるので嬉しいです。あと、料理人のダリオの作ってくれるご飯はものすごくおいしいです。一番嬉しいのは、毎日ヨナタンと一緒にいられる事です。
(ヨ)満足しています。
【六・好きな異性のタイプを教えてください】
(ス)ヨナタンです。私が六歳の時に、おとぎ話と同じように赤と白の花をくれた運命の人なんです。普段も優しくてとても親切です。狼に襲われた時にも真っ先に駆けつけてきてくれたんですよ。
(ヨ)(未回答)
【七・得意な歌はなんですか?】
(ス)「いこう、いこう、火の山へ~、フニクリ、フニクラ、フニクリ、フニクラ~」
(ヨ)ステラ、歌わなくていいから。すみません、次の質問へ行ってください。
【八・どうしても許せない事ってありますか?】
(ス)どうしても許せないっていうか……。よくブルーノがポールの上に登って悩んでいるみたいで、団長に嫌な事をされているみたいなんですけれど、それを何とかしてあげたいなと。
(ヨ)ありますが、ネタバレになりますので、ここでいうわけにはいきません。最終回まで読んでいただければと思います。
【九・こちらについて質問はありますか?】
(ス)前の質問の件、団長にちくっちゃいます?
(作者回答)そういうことはいたしませんのでご安心を。ヨナタンはなにかありますか。
(ヨ)(黙って首を振る)
【拾・最後に、今後の予定ややりたいことがあれば】
(ス)えっと~、ヨナタンがいっぱい薔薇を持って「好きです。結婚してください」って、私にひざまずくシーンがあると嬉しいかなあ。
(ヨ)そういう変なシーンは書かないでいただきたいです。キャラ違いますし。
【お疲れさまでした。最後に、回したい神様を5人選んでください】
(作者)樋水龍王神社の樋水龍王神、媛巫女神瑠璃比売命、背神安達春昌命、招き猫神タンスの上の俺様、それに団長ロマーノがヨナタンには手を出さないと誓った神様でお願いします。
(人間の皆さんも、ご自由にお持ち下さい)
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かたづける
山西左紀さんの小説「アスタリスク」の中に、几帳面な男性が出てきました。って、主人公ですけれど。
大ざっぱなヒロインが適当に散らかしたものを、黙ってもとの場所に収めていく。う〜む。こういうパートナー欲しい。
ご想像の通り、私はかなり大ざっぱな性格です。大雑把が服を着て歩いていると思っていただいて構いません。連れ合いは、私に輪をかけて「散らかす」タイプ。ホンの数日ですごい事になります。
結婚して所帯を持ってからは、私も一応女なので、最低限の事は何とかせねばと思って暮らしています。たとえば脱いだ服を床に放置しないとか、新聞などは読み終えたらすぐに所定の位置に集めるとか、台所だけは毎日ちゃんと片付けるとか、その程度の最低限ルールです。
で、週に一度だけ、きちんと片付けます。拭き掃除をして、掃いて、掃除機かけて……。部屋の中が「お客さんがきても大丈夫」ぐらいちゃんと片付いた瞬間はとても気持いいです。これをさぼると本格的にダメになっていくので、一生懸命死守しています。
片付けるのは、整理整頓と健康のためだけでなく、心にもいい効果があります。部屋が汚いとなんとなくイライラしがち。すっきりと片付いた部屋ではいろいろな事がクリアーに考えられるようになります。だったら毎日そうやって暮らせと言われそうですが、大雑把人間にはマメな事を求めないでください。
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【小説】さよならなんて言えない
「十二ヶ月の歌」はそれぞれ対応する歌があり、それにインスパイアされた小説という形で書いています。五月はtrainの“50 ways to say goodbye”を基にした作品です。この曲、日本でも流行ったのでしょうか。メキシコのマリアッチ風の演奏がとても印象的で、スイスでは一時期毎日かかっていました。
「なんで俺をふって、いっちまうんだよ。ちくしょう、だったらみんなにこう言ってやる」と負け惜しみ的に騒ぐ歌。今回は、おなじみのキャラを使って、イメージを表現してみました。歌のYoutube動画と一緒にどうぞ。

さよならなんて言えない
Inspired from “50 ways to say goodbye” by train
冗談じゃない、聞いていない。信じられないよ。ドミニクはスクーターを思いっきり吹かしてカンポ・ルドゥンツ村へと向かった。スイスの春、かつ夏ははじまったばかりで、全ての樹々は若葉に覆われているけれど、若くて柔らかい若緑はあっさりと風になびく。強い陽射しに、香り高くライラックが揺れている。こんないい日に聞かされるべきじゃないニュースだ。彼はぶつくさつぶやいた。しかも、チャルナー家のおしゃべりババア、俺が知らないと知ったら、さも面白そうに笑いやがった。
リナ。なんで、この俺に内緒にしたんだよっ。
カンポ・ルドゥンツ村の大通り(といっても普通乗用車がようやくすれ違える広さしかないけれど)を猛スピードで北に向かうと、ラシェンナ村へ続く小道へと曲がる。このあたりは日当りがよく村の金持ちが住んでいる。グレーディク家は中でも丘の礼拝堂に一番近い広い敷地に立っている。ドミニクは、その敷地内に入るとエンジンを切った。
窓がぱーんと開いて、リナが顔をのぞかせた。
「ドミニク、どうしたの?」
初夏の陽射しを受けて、そのヘーゼルナッツブラウンの髪が硬質に煌めいた。ドミニクの、(彼の意見によると)彼女である美少女は、ヘルメットを投げ捨てた少年の剣幕に驚いている様子だった。
「どうしたも、へったくれもあるか。リナ、留学するってのは本当か?」
リナは肩をすくめてあっさりと答えた。
「ええ、本当よ。八月からね」
ドミニクは叫んだ。
「なんで、俺に隠すんだよっ」
リナは、大きな口を開けて、にかっと笑ってから言った。
「下に降りるから待っていて」
それから、顔を引っ込めた。彼女の消えた窓には白いレースのカーテンがそよ風に揺れている。爽やかな午後だ。
玄関がぱたんと音を立てて、リナが出てきた。家でもこんな派手なかっこをしているのかよっ。ドミニクは眼を剥いた。シマウマ柄のカットソーに赤い革のミニスカート。長い足がにょきっと出ている。ドミニクが夢中になっている十六歳の超絶美少女だ。
「ドミニクったら、知らなかったのね。私、言わなかった? 一年間の交換留学制度に応募したこと」
「どこに行くんだよ」
「東京。日本よ」
「な、なんだって~? なぜ、あんな極東の島国に行かなくちゃいけないんだ」
「なぜダメなのよ。面白そうだったし、応募者が少なかったからチャンスが増えるでしょ」
「だいたい、なぜ留学しなくちゃいけないんだ。俺たち、再来年には卒業試験を受けて、一緒に大学に行こうって話していたじゃないか」
「まあね。一年くらい遅れても、別にいいかなって思うけれど。日本で一年過ごすなんて、めったにない経験じゃない?」
「いつ決めたんだよ」
「願書を出したのは二月ね。決定したって言われたのは四月よ。ほら、ロンドン旅行に行ったりしてバタバタしていたでしょう。まだ、みんなにもちゃんと話していないのよね」
だけど、俺たちの仲なのに。ドミニクは心の中で叫んだ。実をいうと、二人の仲はまだ完全なステディとは言いがたかった。二回くらい一緒に映画に行って、バーでワインを奢ったりはしたけれど、まだ手を握る所までは行っていないのだ。リナのことを狙っている同級生はいくらでもいるけれど、二人きりのデートに成功したのは自分だけだと自負していた。今週末こそ、なんとか自分の部屋に連れて行き、次のステップに進む予定にしていたのだ。
それだというのに、チャルナー婆さんに指摘されるまで、彼女の留学のことすら知らなかったなんて。
「日本なんか行くとゲイシャとして金持ちに売られちまうぜ。どうせ、一人のサムライに十人くらい妻がかしずかなくちゃいけない、ひどい風習の国だろ」
リナは呆れた様子で答えた。
「ドミニク。あなた中東あたりのハーレムのある国と、日本とをごっちゃにしていない? ゲイシャとサムライって、いつの時代の話よ。今の日本は、ハイテクとカルチャーの国よ」
「ハイテクとカルチャーだって? そんな世界の果てに、スイス以上のハイテクがあるかよ。それに文化だって、ヨーロッパの方が……」
「バッカねえ。あなたのパパの車だって、あなたのスマホの部品だって、心臓部はみんな日本製じゃない。それに、家に帰ったら、「日本のアニメ」や「日本のゲーム」で少し検索してみなさいよ。びっくりするわよ」
「バッカねぇはないだろ。なんだよ。向こうでひどい目に遭って、ごめんねドミニク、私が悪かったわ、迎えにきてほしいのと、泣いて頼むことになるんだぜ」
「はいはい。何とでも言いなさいよ。とにかく、私は行くんだから。楽しいだろうなあ」
怒りにまかせてスクーターにまたがったドミニクは、またしてもスピード違反をして通りをぶっ飛ばした。けれど、家に帰ると少しだけ冷静になった。
日本だって。知ってるさ。ポケモンと、ニンテンドーとユードー(柔道)の国だろ。そんな所に行ったって、一年の無駄じゃないか。ニーハオとか言うんだっけ。それは中国だっけ? ドミニクはそもそも日本人と中国人の違いがよくわからなかった。片っぽが大陸の大きな国土を持った国で、もう一つが島国だという事ぐらいは知っていたが、そのぐらいだった。それでPCの電源を入れると、リナに言われたように、少し日本や東京のことを調べようと検索をはじめた。
ふむ。国土。人口。えっ。6800以上の島ってマジかよ。スイスより大きな島もあるのか? ええっ。東京だけで全スイスの人口より多いじゃんか。しかもこの本州って島、スイスの五倍以上の面積で人口が一億人以上いるって? どこが島なんだよっ。
プレートテクトニクス? ええっ。火山が、こんなにあるのかよっ。大丈夫か、リナっ。あ、まあ、一億人以上が生きてんだから、そこまでサバイバルじゃないかもな。
ふう。落ち着いて写真でも見るか……。げっ。なんなんだ、こりゃ。すっげえ人間の数だ。し、渋谷ね。女の子のスカートがやけに短いぞ。
ドミニクは、次々と日本と東京に関する情報を検索していった。「日本のアニメ」って言っていたよな。ふむふむ。ええ~っ。「アルプスの少女ハイジ」も「みつばちマーヤ」も日本のアニメだったのかよっ。知らなかったぜ。それに、あれ、なんだこりゃ、なんか色っぽい?
それは主題歌の入ったロールプレイングゲームのプロモーション動画だった。詳細に描き込まれた背景や人物の衣装、そして切ないが意味のさっぱり分からない歌が三分ほど続いた。ドミニクは半ば放心して、関連動画をクリックした。今度は東洋風の衣装に身を包んだ男女が剣で闘っている。打ち合う剣からは閃光がほとばしり、雷鳴が轟く。異様な怪物が現われてスタイル抜群で美しい女をさらっていく。次の動画では、ロボットのようなものに乗った男女がすごいスピードで戦闘を繰り広げていた。何がなんだかわからなかったが、とにかくその映像美はただ事ではなかった。
なんだこりゃ~。
翌朝、学校でリナを見かけた。寝不足のドミニクの顔を見ると彼女はほらねとでも言いたげに大きく口を開けてにやりと笑った。ドミニクは明け方の三時まで、ヨーロッパのジャパン・オタクたちの投稿したありとあらゆる日本アニメやゲームに関する動画をみていた。ついでにアイドルの妙な歌と踊りや、クロサワアキラや、日本料理やキョウトや、シャラクやホクサイの絵まで検索で知ってしまった。全く知らない世界だった。この世に、おもちゃ箱みたいなすごい国があるらしい、日本……。
「どう? これでも、私が日本に行くの、時間の無駄だって思う?」
リナは勝ち誇ったように言った。ドミニクは上目遣いで小さな声で言った。
「なんで黙っていたんだよ」
「え。まだこだわっているの? わざとじゃなくって、本当に言うのを忘れていたんだってば」
リナは困惑していった。
「留学のことじゃねぇよ。日本があんなに面白い国だって、なんで俺に隠していたんだよ!」
それを聞くと、リナは大きな口を開けてニカッと笑った。
「だって、それを先に言ったら、あなたが留学したがったでしょ。ライバルは一人でも少ない方がいいもの」
ちくしょう。こうなったら学校の休みにでも押し掛けてやる。憶えていろよ! リナと日本。
(初出:2013年6月 書き下ろし)
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ベートーヴェンが好き
さて、今日の話題はまたしても唐突です。以前ラファエロが好きって記事を書いたと思うのですが、今度はその音楽編。
この写真はウィーン旅行で「田園」を作曲したと言われる地域を訪れた時のものです。

もちろん、他にもたくさん好きな作曲家はいるのですが、ほとんどは好きなのは音楽だけで、作曲家本人の人生にまで深く共感してしまうのは、このお人だけです。ルードヴィヒ・ファン・ベートーヴェン。(日本語表記だと通常はヴァン・ベートーヴェンですが、ドイツ語でvはFの発音なので、ヴァンには聞こえないのです)
モーツァルトの肖像を見ていただければわかるように、この時代は人前に出る時などはみんな白いカツラを冠っていたわけですよ。それなのに、あの個性的な姿。音楽室に掲げられた肖像の、どういうわけだか一人だけ悪い目つき。(音楽室の怪談は、たいていベートーヴェンが動くだの、目がぎょろりとするだのでしたね)この個性派ぶりにまずはぐらっときます。浮浪者と間違えられて逮捕されたり、70回も引っ越ししたり、変人ですね。
それだというのに、意中の女性に熱烈な恋文を送ったりして、そのギャップにもしびれますし、作曲家としては最大の苦悩と言ってもいい聴力を失う悲劇。愛した甥には背かれ、なんだか、もう、いますぐタイムマシンで駆けつけていってぎゅっと抱きしめて上げたくなる人生ですよ。
そして、その中で生まれた、あの素晴らしい音楽の数々。
夕食のときに、我が家ではクラッシック音楽を流すラジオ局をつけているのですが、彼のピアノソナタや交響曲が流れる度に「すばらしいなあ」「すごいなあ」としみじみ聴き入るのです。
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たぶん、イメージが違う
ウゾさんのお題から連想して神話系お題をいくつか並べたんですが、その中に北欧神話のものがけっこう混じっていました。私の予想では、ギリシャ神話は一般常識でも北欧神話はそこまで知られていないだろう、つまり「ロキ? 何それ」「テュールって誰?」になるはずだったのです。
ところが皆さんの反応を読むかぎり、「ああ、ロキね」「テュール好きっ」という感じで「知らない」という方はいらっしゃらない。ああ、ゲームかアニメだなと納得しました。そして、画像検索を書けてみたら、出てくる、出てくる。はあ。
私が日本を中心に活動していた頃、つまり90年代の前半まではそこまで北欧神話はメジャーではありませんでした。ギリシャやローマ神話の例えばゼウスやヘラ、アフロディテやアテナという名前は、一般常識として口にする事が出来ましたが、ユグドラシルとかラグナロクといって通じると思うのは大きな間違いでした。
私は、97年に発表した「夜のエッダ」の構想を91年にはじめていたのですが、北欧神話の「バルドルの死」をモチーフとしているので大学の図書館で調べたのです。当時はインターネットなんてありませんでしたから。「バルドルの死」に関する、当時発見できた一番詳しい資料は「和歌山大学紀要」に載っていた論文でした。「世界の神話総解説」みたいな本にはちょっとは載っていましたけれどね。とにかく、そのくらいマイナーだったのです。
で、私の中での北欧神話のイメージは、まだそのままです。学術論文に記述されている感情を排した叙述。英雄や美男美女はいても、それはアニメ顔をしていません。たぶん、彼らが何をしたかも、日本の皆さんが思い浮かべる内容とはかなり違っているのではないかと思います。
何が言いたいかというと、私が北欧神話をモチーフに何かを書いても、たぶん皆さんが期待しているものは書けないだろうなということです。同じ名前、同じ性格、同じ世界観でもかなり違うイメージなんだろうなと思うのです。
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【小説】その色鮮やかな、ひと口を -2 - ~ Featuring「海に落ちる雨」
彩洋さんの作品(の一部) 【幻の猫】(6) 世界で一番美しい広場
さて、そういうわけで、ご紹介だけで記事を終わらせてもよかったのですが、せっかくの雨の土曜日、前から書きたかったこの作品を書いちゃう事にしました。彩洋さんの小説「海に落ちる雨」から、小道具として使われていた雑誌を一つお借りしています。そう、雑誌の表紙に映っている魅惑的な男性こそ彩洋さんの小説の主人公のお一人です。そして、私の方は「scriviamo!」の時に登場させたあの二人が頼まれもしないのに再登板です。前の話は読まなくても通じると思いますが、一応リンク貼っておきます。
【小説】その色鮮やかなひと口を
その色鮮やかな、ひと口を -2-
~ Featuring「海に落ちる雨」
六月の風は爽やかだった。梅雨入りしたばかりだが晴れたその朝は、樹々の若葉がことさら瑞々しく煌めき、昨夜の雨で水打ちしたかのように湿るアスファルトが涼しげだった。怜子は「石倉六角堂」に向かう道すがら、ソフトクリームを買うか少し悩んでやめた。今朝はルドヴィコが仕込みをしているはずだから、何かを試食させられる可能性が高かったからだ。
怜子は大学生だ。学費の足し、というよりは仕送りだと少し足りないお小遣いを稼ぐために和菓子屋「石倉六角堂」で週に三度ほどアルバイトをしている。土曜日に朝から入る事は少なかったが、今日は石倉夫人に所用があって販売員が足りないので入る事にしたのだった。
石橋のかかった堀の先で、いつもの書店の角を曲がる時、ふと店頭に山積みにされた雑誌が目に入った。「PREDENTIAL」というタイトルが踊っていた。経済誌に関する怜子の興味は皆無と言ってよかった。でも、その雑誌には惹き付けられた。思わず首を傾げながらひとり言をいった。映画雑誌かと思った。その雑誌には金髪碧眼の麗しい外国人が微笑んでこちらを向いていたのだ。同じ外国人でも、ずいぶん違うなあ……。
彼女が比較して思い浮かべたルドヴィコは日本に憧れて移住し、どういうわけかこの地方都市で和菓子職人になった。彼と怜子の関係は友達以上恋人以下だった。つまり、二人で展覧会に行ったり、彼の家で食事をご馳走になったりするけれど、特に「彼女になってほしい」と告白された事もなければ、そうなりたいと切望しているわけでもない、そんな関係だ。社内旅行での彼の発言が怜子への愛の告白だったというのが「石倉六角堂」での共通見解だったし、それを知って以来、怜子がちょっと意識しているのは間違いないが、あいかわらず進展もなく、そのまま「仲のいい試食係」のポジションに甘んじている。そこはかなり心地がよかった。彼女は雑誌の事は頭から追い出すと、そのまま角を曲がった。
「おはようございます」
怜子は店に入るとすぐに自分のエプロンと三角巾を身につけて、対面ケースの方に向かった。ケースの前にはすでに小夜子と千絵が立っていてキャーキャー言っていた。ふと目にすると、彼女たちが見ているのは先ほどの雑誌の外国人だった。経済誌「プレデンシャル」とこの二人は、怜子以上に意外な組み合わせだったから、彼女たちがこの雑誌を購入した目的は、あきらかにその外国人だろう。横からちらりと見ただけだが、並んでいる写真はどれもプロの映画俳優かモデルのように決まっていた。なぜ経済誌にこの人がと怜子が首を傾げていると千絵が笑った。
「この人ね、イタリア人なのに、日本名も持っているんだって。ねえ、本当にかっこいいでしょ? でも、芸能人じゃなくて経済人なのよ~。大金持ちみたいよ。しかもレストランとギャラリーの経営しているだけじゃなくて、美術の修復師なんだって! 天は二物を与えずっていうけれど三だの四だの五物ならありなのね~」
そういって怜子の顔の前に表紙を持ってきた。表紙には目立つフォントで書いてあった。
——銀座の有名ギャラリーおよびレストランのオーナー、稀代の修復師『大和竹流(36) 』
その時、奥の作業場からひょいと巨大な男が顔を出した。
「あ、怜子さん、おはようございます。試食用の練りきり、怜子さんの意見を取り入れて作り直しました」
流暢な日本語を使うこの大男もまたイタリアからやってきた。雑誌で魅力的な笑みを魅せるイタリア人と違って、このルドヴィコを映画に使うとしたらかなりの脇役になるだろう。表紙に載せても雑誌の売り上げを飛躍的に伸ばしたりはすまい。やけに大柄で、金髪に水色のきれいな瞳をしている。確かに目は日本人よりも奥にくぼんでいるし、鼻も高いが、だからといって美男かと訊かれると微妙な線だ。もちろん醜くはないけれど、眉のバランスか、もしくは顔のパーツのついている位置というのか、とくに黄金比率ではないようだ。個性的な顔立ちと言っておくのが一番無難かもしれない。でも、怜子はそれを惜しいと思った事はなかった。所詮彼はアイドルではないのだから。
怜子は、ちょっとだけ顔をルドヴィコに向けて「おはよう」と言った。ルドヴィコが手にした練りきりを見てほんの少し眉をひそめた。だから、白あんじゃなくて、黒ごま餡の方が美味しいってアドバイスしたのに。そしたら、色がどうのこうのと言って反論してきた。で、結局白あんでつくったわけね。色が同じだもの。むかつく。
「後で食べるわ」
そして、それから再び雑誌のインタビュー記事に戻った。
千絵と小夜子はクスクス笑って言った。
「今はダメよ。怜ちゃん、ちょうど記事を読みはじめたところだもの」
ルドヴィコが少し失望した様子で奥に引っ込むのを片目でちらりと追ったが、白あんに腹が立っていたのでそのままにした。こっちの外国人の話を読んじゃうもんね。
二人の言ったことは大げさではなかった。ちゃんと書いてある。へえ~。この人も日本語ペラペラなんだ。和食もプロなみに上手くて、しかも恋人があちこちにいっぱいいるとはねぇ。こんな人がこの世の中にいるのねぇ。その雑誌の記事を読み終える前に、客が続けてやってきたので怜子はあわてて接客に集中した。
その日はとても忙しくて、客が途切れる事はなかった。大きなお茶会がお城で開催され、小夜子は途中からルドヴィコも含めた職人らが作る製品を包装するように言われて奥に引っ込む事となった。それで怜子と千絵は表での販売にてんてこ舞いになった。
ろくにお昼ごはんを食べる時間も得られずに立ちっぱなしで働いたので、夕方にはぐったりしてさっさと帰宅の路についた。怜子がルドヴィコに頼まれていた試食をすっかり忘れた事を思い出したのは翌日の午後に出勤したときだった。
「怜ちゃん、ちょっと」
出勤するなり石倉夫人が小さく手招きした。
「はい、なんでしょう」
怜子は奥の作業場に入って、石倉夫人が示す台の上を見てはっとした。その台の上には、昨日の忙しさの中ですっかり忘れていたあの雑誌と、横にきっちりと並べられた小さな練りきりが四種類載っていた。怜子がダイエットに差し支えるので四分の一サイズでないと食べないというので、わざわざ小さくした怜子限定試食品だった。その一つに昨日彼女は眉をひそめたのだった。そうだ、その後は例の雑誌を読んでいた時にお客さんが来て忙しくなってしまって……。
「ルドヴィコは?」
少し後ろめたくなって訊いた。石倉夫人はため息をついた。
「今日は休んでいるわ。昨日ね、私が帰ってきたらここで一人で餡を練っていたのよ。なんか様子がおかしいと思ったら、熱でフラフラしていたわ。誰も氣もつかないで帰ってしまったのね。他の職人は帰ってしまって、仕込みをする人がいないからと無理して残っていたらしいけれど。だから、すぐに帰って寝ろって言ったの」
具合が悪かったなんて、ひと言もいわなかった。でも、言うチャンスもなかったのかも。私は一度も奥に入らなかったし。ああ、もし私があの時に試食していたら……。
「これ、食べてあげなさいね。もう、固くなっていると思うけれど、治って出てきた時にこのままだったら、ちょっとかわいそうでしょう?」
石倉夫人は言った。怜子は、真っ赤になって下を向いた。
夫人は雑誌の表紙を軽く叩いた。
「あななたち若い女の子の氣持ちもわかるわよ。こういう素敵な人に憧れ、キャーキャー騒ぐのもまったく他意のない事でしょう。ルドちゃんもそんなことに目くじらを立てるほど子供じゃないと思うけれど。でもねぇ」
夫人は少し遠い目をした。
「ルドちゃんだって、異国で頑張って生きているのよ。具合が悪くても歯を食いしばって働いている時に、誰にも氣づいてもらえないのはねぇ」
怜子はそれ以上聴いていられなかった。
「ええと、あの……今日、すごく忙しいんでしょうか」
石倉夫人はにっこりと笑った。
「店の事ならいいわよ。行ってきなさい」
三角巾とエプロンをもどかしげに畳むと、急いで出ていこうとしてから怜子は慌てて引き返し、台の上に起きっぱなしになっている四つの練りきりをバックにつっこんで走って出て行った。
ルドヴィコが借りている家は、「石倉六角堂」から見るとお城の裏手にあり、堀沿いに歩いて15分ほどのところにある。怜子がルドヴィコに夕食をご馳走になる時には二人でゆっくりライトアップされた城郭やお堀の水に映る月を眺めながら歩いた。その道を怜子は小走りで急いだ。
明治時代に建てられた民家なので、玄関は引き戸だ。鍵が閉まっているかと思ってちょっと引いたら簡単に開いた。寝ているはずなのに、不用心だなあ。
「ルドヴィコ? 入るね」
「ああ、怜子さん、どうしたんですか?」
奥から弱々しい声が聞こえたので、怜子は靴を脱ぎ捨てるようにして上がった。
「どうしたって、熱があるって聞いたから。大丈夫?」
奥の畳の部屋、いつも怜子がご飯を食べさせてもらう、庭の見える部屋でルドヴィコは横になっていた。汗をかいて赤い顔をしているが、例によってちゃんと浴衣を着ていた。Tシャツやパジャマで寝たりしないんだ。こだわるなあ。
「すみません、お店は大丈夫でしたか」
彼は少し起き上がって心配そうに訊いた。
「うん。ちゃんと義家さんが来てくれていた。奥さまが店の事は氣にしないでゆっくり休んでいいって」
それをきくと、ルドヴィコはほうっと息をついてまた枕に頭をもどし、それから瞼を閉じた。
「ダメですね。皆さんに迷惑をかけて」
怜子は言った。
「具合の悪いときくらい、甘えていいんだよ。ルドヴィコはいつも頑張っているじゃない」
「……」
ルドヴィコは何も言わなかった。怜子の言葉に納得した様子も全くなかった。
「あ。ルドヴィコ、何か食べたの? あたし、おかゆでも作ろうか?」
「……怜子さん、料理できるんですか?」
ルドヴィコの疑問はもっともだった。以前、ご馳走になった時に手伝おうと思って申し出て、キャベツの千切りを頼まれた事があった。そのできばえと時間のかかりように呆れたルドヴィコが残りをやってくれて、あまりの違いに落ち込んだ事を思い出した。
「おかゆくらいなら……。あ、冷ご飯から作るのでよければ……」
ずっと苦しそうだった彼も、その時は少し笑顔になった。そして冷蔵庫の中にご飯があると言った。
慣れない台所でなんとか鍋や必要なものを見つけると、いんちきお粥を作った。待っている間にふと思い出して、鞄を開けると練りきりが見えた。すこし固くなっていたけれど、怜子はそっとそれを口に入れた。
「あ」
彼女は、台所から顔を出して、寝ているルドヴィコを眺めた。汗をかいてふうふう言っているけれど、来たときよりも不安の色が減っているように見えた。そうだよね、弱っている時に一人って不安だよね。ここは家族も一人もいない異国なんだよね。でもルドヴィコはこんなに頑張っている。その存在が当たり前すぎて、その事を忘れていたんだ、私。
こみ上げる何かをこらえて、彼の好きな一人用の土鍋にお粥を移すと、こぼさないようにゆっくりと彼の布団の側に持っていった。
「ルドヴィコ。起きられる?」
赤い顔をして起き上がった彼に羽織をかけてやると、感謝してレンゲでお粥をすくっている姿を眺めながら、怜子は小さい声で言った。
「ごめんね」
「何がですか?」
「練りきり。昨日すぐに食べないで」
「いいんですよ。昨日はみんな、とても忙しかったし」
「そうじゃないの。昨日、私勝手にまた白あんだと思っていやな顔したでしょ。ルドヴィコ、変えてくれていたのに」
「固くなった、あれを食べたんですか?」
ルドヴィコは言った。怜子は下を向いて涙を拭った。
それは胡麻餡だった。でも、色彩が醜くならないように、白ごまを色がでないようにそっと炒って作った白い胡麻餡だった。黒ごまよりも上品で優しい味がした。怜子が胡麻味が好きだと騒いだから、工夫を重ねて作ってくれたのだ。
「怜子さん、泣かないでください」
「だって……」
「いいんですよ。あんなに素敵で何でも出来る、しかもヴォルテラ家の御曹司の記事があったら、誰だって夢中になりますよ」
「ヴォル……?」
ぽかんとしている怜子を見て、ルドヴィコはいいんです、と言って首を振った。
怜子は大きな声で言った。
「ねえ、ルドヴィコはそのヴォルなんとかの、なんとかオーナーとは違うよ。全然違うよ」
「わかってます」
空色の瞳が哀しそうに畳に落ちた。
「そういう意味で違うって言っているんじゃないの。ルドヴィコは雑誌の中にはいない。東京や京都みたいな遠いところにいるわけでもない。そのなんとかって人は、同居人のためにすごい和食を作っているらしいけれど、私のために胡麻餡入り練りきりを作ってくれるのはルドヴィコ一人だけだもの。本当だよ」
ルドヴィコが怜子を見た。青い瞳は熱のために潤んでいた。怜子はドキッとした。昨日、あんなに素敵な男性のグラビアを見ても、こんなにときめいたりはしなかったなと思った。今度こそ、この人といい雰囲氣になれるといいなと思いつつ、怜子は優しく訊いてみた。
「大丈夫? ルドヴィコ、何かしてほしいことある?」
すると彼は少しほっとしたように答えた。
「ええ、お粥にちょっと塩を入れてくれませんか」
怜子は、味を付けるのをすっかり忘れていた事を思い出して、慌てて台所に塩をとりに走っていった。
(初出:2013年6月 書き下ろし)
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シリーズ用アイテムの話
たとえば「大道芸人たち」だったら、旅先の街。「次はミラノに行こう」「その次はコモ」という具合に都市を核にしてそこへストーリーを動かす事象を付け加えていきます。「十二ヶ月の組曲」は最初に題名がシリーズで決まっていました。「ロンド」「プレリュード」などですね。「十二ヶ月の歌」シリーズはもっと明確で、核になる歌と歌詞があってそこからイメージして話を作り上げていきます。
「夜のサーカス」では一見、関係のなさそうな「色」でつなげています。「今度はどの色にしよう」と最初に決めてそれからの連想でモチーフが決まり(「孔雀色のソファ」「極彩色の庭」など)、大枠のストーリーに絡めていくのです。
「リナ姉ちゃんのいた頃」シリーズは異文化交流がテーマですので、それにあたるアイテムをメインに話をつくっていきます。
つい先日なりゆきで創り出してしまった「バッカスからの招待状」シリーズのアイテムはお酒です。毎回、カクテルを出して、それとバー『Bacchus』に集う客たちの人生を書いていけるといいななどと考えているのです。
こういう縛りがあると書きにくいんじゃないかと思われるでしょうがその反対です。主題だけだと観念的な話になってしまうのですが、アイテムがあると主題に即して具体的なエピソードを思いつきやすいのです。で、連想でいろいろと出てきますし。
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