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scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012


Posted by 八少女 夕

絲原記念館のこと

日本に帰ったときの旅行の話を。「出雲と伊勢の参拝はどうしたんだ」という声が聞こえてきそうですが、こっちを放っておくと完全に季節外れになると思ったので、まずこの話題から。

絲原記念館

絲原記念館というのは、奥出雲にあります。江戸時代にたたら(「もののけ姫」でおなじみの製鉄ですね)で財を成した絲原家の邸宅を博物館として開放したものです。たたらに関する陳列の他、松江藩との関わりの深い絲原家の美術工芸品が展示されていて、それだけでも見応えがありますが、紅葉の名所でもあるのです。じつは、敷地の一部には現在も絲原家の方がお住まいになっているとのことでした。こんなところに住めるのはいいなあと思いながら素晴らしいお庭を眺めてきましたよ。

紅葉

奥出雲は「樋水龍神縁起」のモデルにした所なので、私にはものすごく重要なのです。そういう思い入れのない方でも、もし島根に行く事があったらぜひ奥出雲を訪れて見てください。美しい牧歌的な光景、意外と知られていないグルメの数々、それに温泉、さらにとても重要なのですが、観光客に荒らされていない静かな感じが素晴らしいのです。

実は、この斐伊川(樋水川のモデルですよ〜)沿いには木次線というマイナーなJR線が通っているので、車でない方でも訪れる事が出来るのです。ただし、一日四便しかないので、乗る方はよくスケジュールをお確かめくださいね。

さて、肝心の絲原記念館ですが、たたらの説明のコーナーは、体験コーナーがあったり、とてもわかりやすく興味深い説明されていました。撮影禁止だったので写真はありません。ここで長々と説明するのはなんなので、そのうちに小説に取り入れてご紹介しようと思います。(いつだ?)

そして、お庭。とても広くて、本当に美しかったです。しかも、紅葉の季節だというのに独り占めですよ。今年は霜が降りなくてあまり紅くならなかったと、地元の方が残念そうにおっしゃっていましたが、私には十分きれいな紅葉でした。四季折々に素晴らしい花の観られる庭園らしいので、春から秋まで楽しめるようです。

紅葉
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Posted by 八少女 夕

【小説】夜のサーカスと純白の朝

月末の定番「夜のサーカス」です。前半はちょっと前向きになったステラの話、そして後半はアントネッラが少しずつ安楽椅子探偵の役割を果たしだす話になっています。

山西左紀さんのところのエスに再び助っ人をお願いしています。アントネッラは実は機械音痴。苦手なことをブロとものエスに助けてもらっているという設定です。左紀さん、大事なキャラを快く貸してくださり、本当にありがとうございます。


月刊・Stella ステルラ 12月号参加 掌編小説 シリーズ連載 月刊・Stella ステルラ


「夜のサーカス Circus Notte」を読む「夜のサーカス」をはじめから読む
あらすじと登場人物





夜のサーカスと純白の朝


夜のサーカスと純白の朝


 橋の欄干が湿っていた。早朝にびっしりと覆っていた霜の華が燦々と輝く陽光で溶けたのだ。ステラは白いダッフルコートの襟を合わせてふうと息を吐いた。フェイクのウサギ毛皮風の縁飾りのついたこのコートはステラのお氣に入りだった。学校に通っていた最後の年のクリスマスに母親のマリが買ってくれたのだ。通販「Tutto Tutto」ではこういう可愛い服がお手頃価格で揃う。

「あっ。《イル・ロスポ》のおじさん!」
橋の向こうから歩いてきたのは、ひきがえるに酷似しているために誰にでも《イル・ロスポ》と呼ばれてしまう大型トラック運転手バッシ氏だった。

「おや、ブランコ乗りのお嬢ちゃん。今日はオフなのかい?」
「ええ。私の出番はないの。それで講習会に参加してきたのよ」
自分から団長夫妻に提案して、エアリアル・ティシューの訓練を始める事にしたのだ。テントの上に吊るされた布にぶら下がったり、包まれたり、回転したり、一連の動きを見せる空中演技だ。

 紅い薔薇とシングルのブランコにこだわってぐずぐすするのはやめようと思った。泣いていてもマッダレーナとヨナタンが親しくなっていく事は止められない。だったら少しでも自立した演技の出来るサーカスの演技者となって、マッダレーナのように自身の魅力で振り向いてもらえるようにしたい。

 ジュリアとロマーノは賛成してくれた。新しい試みは新しい演目に繋がる。興行を続けていくためには、目先の事だけでなく常に新しい挑戦が必要だ。

「そうか。熱心で偉い事だね」
《イル・ロスポ》に褒められてステラはとても嬉しくなった。
「あ。そういえば、私おじさんにお願いがあるんだけれど」
「なんだい?」

「あのね。この間の設営の時にTutto Tuttoのカタログを見せてくれたでしょう。あそこにあったセーターがとっても素敵だったの。ヨナタンへのクリスマスプレゼントにしたいんだけれど……」
「けれど……?」

 ステラは少し顔を赤らめた。
「ほら、私、これといった住所がないでしょう?」

《イル・ロスポ》は笑った。
「大丈夫だよ。Tutto Tuttoの商品は定期的にワシが運んでいるのさ。ちょうど今度の月曜日はこのコモ地区の担当だから、テントに運んであげよう」

 月曜日に約束通りに彼はテントに商品を持ってきてくれた。ちょうどステラが食事当番で共同キャラバンで準備中だったので、マッテオが案内して連れてきた。

「まあ、素敵にラッピングまでしてくれたのね。どうもありがとう!」
ステラは大喜びだった。
「ねえ。ダリオに頼んであげるから、お昼ご飯食べていかない?」

 《イル・ロスポ》は首を振った。
「とても残念だけれど今日はアントネッラに招待されているんだ」
「アントネッラって誰?」
「ヴィラに住んでいる物好きなお客さんさ。いろいろ話を聞きたがるんだ。趣味で小説を書いているらしくてね。今夢中になっているのはこのサーカスだよ」
「サーカスの何が面白いの?」
「人間関係の話さ。ブランコ乗りの乙女の恋愛話や謎の道化師の素性なんかだろう」
ステラはくすくす笑った。

「ちょっと待てよ」
横で聴いていたマッテオが口を挟んだ。《イル・ロスポ》とステラは顔を見合わせた。
「なあに?」
「それって、個人情報に関わる事じゃないか。どんな小説を書いているのか調べないと。なあ、《イル・ロスポ》。そのアントネッラのヴィラを教えてくれよ」



 マッテオはその日の夕方にもうアントネッラを訪ねて行った。《イル・ロスポ》にあらかじめ言われなかったらとても人が住んでいるとは思えないほど荒れ果てたヴィラに、彼はずんずんと入っていった。中はもっと驚きで、まるで廃墟、蜘蛛の巣だらけで人が住んでいるなんて信じられなかった。《イル・ロスポ》に言われた通りに屋根裏まで辿りつくと確かにそこだけは居室になっていたが、その乱雑さは目を覆うばかりだった。どこに立っていいのやら。

「あなたがマッテオね。個人情報の心配をしているってバッシさんから聞いたわ」
アントネッラが言うと、マッテオは首を振った。
「あれはステラの前だから、そういっただけ。個人情報なんてどうでもいいよ。僕には前からあんたと共通の興味があってさ。その事について意見を交わしてみたいと思ったのさ」
「何に?」
「あの道化師の正体」
アントネッラは吹き出した。ブランコ乗りに横恋慕した青年が行動を起こしたって訳ね。ますます小説が面白くなりそう。

 マッテオはアントネッラの態度なんかおかまいなしに続けた。
「まずは、僕の推理から話させてもらうよ。つまりね、ヨナタンはなんか犯罪組織に関係あるんじゃないかと思うんだよ」
アントネッラはその色眼鏡をかけた言い回しに多少警戒する。
「証拠もなしにそんな事決めつけるものじゃないわ」

 マッテオはムキになった。
「何があろうと絶対に自分の事を話そうとしないんだぜ。団長に拾われた時に、絶対に何も話さないと頑張ったって話は有名なんだ。びしょ濡れで飢えてたからかわいそうだと親切に奢ってくれたって言うのにさ」

「あら。雨の日に拾ってもらったのね」
「違うよ。これも大きな謎の一つなんだぜ。雨不足で濡れる理由なんかなかった六月にびしょ濡れだったって言うんだから」
「それは……どういうことかしらね。何か……ひっかかるんだけれど」
アントネッラは、考え込んだ。何か具体的なアイデアがあるわけではないのだが、ものすごく重要な何かを忘れているような、そんなもどかしさがあった。十年くらい前、夏、びしょ濡れの少年……。

「まあいいさ。僕、もう行かなくちゃ。夜の興行があるからね。コーヒーをありがとう。おせっかいかもしれないけれど、この部屋、もうちょっと片付けた方がいいと思うよ。じゃ、また来るから」
マッテオは一人で言いたい事だけ言うと、階段を駆け下りていった。途中で「わっ」と言う声がしたので、二階あたりで土埃に滑って転んだのだろう。

 アントネッラは、すっかり自分の中に入り込んで、それから五時間もあれこれ考えていたが、どうしてもどこに引っかかっているのかわからずに、あきらめてハンモックの上の寝床に横たわった。

 ハンモックの上からは大きく育った樹に遮られずに、コモ湖がはるかに見渡せた。夜の水面に月が静かに映り込み、チラチラと黄金の光を揺らめかせていた。その揺らめく光を見ていたアントネッラは突然がばっと起き上がるとハンモックから飛び降りた。そうよ、湖だわ、夜の湖!

 そして、電灯をつけると、「顧客情報整理ノート」の束を取り出して、デスクの上に載せた。探しているのは「シュタインマイヤー氏」の秘密に関するノート。ドイツ警察の未解決事件に関する告白だ。
「どこだったかしら、例の事件のノートは……」

 半時ほどして、アントネッラはノートを見つけた。シュタインマイヤー氏の告白に興味を持って自分で切り抜いた新聞記事も一緒に挟まっていた。十二年の時を経てわずかに黄ばんでいる記事には、少々センセーショナルな題名が踊っていた。思った通り、それも六月だった。
「両親を殺害後、罪の意識に耐えかねて自殺か? ー ボーデン湖」

 ドイツとスイス、オーストリアの国境に横たわるボーデン湖の遊覧船から、一人の少年が身を投げた。警察の調べによると、彼は遊覧船に知り合いの男と一緒に乗った。口論から自分の両親を殺害したと告白してきた少年を自首のために警察に連れて行く途中だったと言う。知り合いの男の制止を振り切って錯乱した少年が夜の湖へ飛び込むところを何人もの乗客が目撃していた。以上が新聞記事の内容だった。

 少年の遺体は見つからなかった。元警察幹部で、現在は政治家であるシュタインマイヤー氏は、当時この事件の責任者だった。湖に飛び込んだのはイェルク・ミュラーという15歳になる少年で、新聞記事にあるようにその日、両親はナイフで刺されて殺害されていた。少年には多少変わった経歴があったが、目撃者の談から当初は警察も新聞記事で伝えられているように事件を被疑者行方不明のまま処理する方向でいた。だが、「少年は同乗していた男に拳銃で脅されていた」と匿名の情報者が電話をかけてきてから、シュタインマイヤー氏はこの事件を疑いだした。

「イェルク少年は、事件の四年ほど前から、ミュンヘン郊外のアデレールブルグ城に引き取られていた……未成年である当主のゲオルク・フォン・アデレールブルグ伯爵の遊び相手として……」
アントネッラは、殴り書きされた自分の字を読んだ。
「このボーデン湖事件の二日後に……伯爵は病死(享年16)……アデレールブルグは財団に……」

 船に同乗していた知り合いの男とは、伯爵の叔父で、遺言によって設立されたアデレールブルグ財団の理事長に納まったミハエル・ツィンマーマンの腹心の部下だった。シュタインマイヤー氏は、二人の少年が突然死亡する事になったのをただの偶然とは思えなかった。本当にイェルク少年は両親を殺害したのか。彼は自殺に見せかけて殺されたのではないか。だが、名家アデレールブルグ家と、黒い噂は絶えないが政治家として活躍しているツィンマーマンを証拠もなしに疑う事はできない。事件の匂いがぷんぷんするのに、調べる事はできない不満を、彼はアントネッラに滔々と述べ立てたのだ。

 アントネッラは時計を見た。二十二時半だった。顧客に電話をするような時間ではない。ましてや、アントネッラの仕事は電話を受ける事であって、顧客に電話をかける事ではない。彼女はコンピュータの電源を入れて、インターネットで十二年前のチルクス・ノッテの興行記録を検索する。彼女の常として、検索すると全く関係のないつまらない情報しか出てこない。十五分ほど頑張った後、彼女はため息をついた。そして、チャットアプリをダブルクリックした。

 あ、ログインしている! ブログ上の親友、エスの名前の横に緑色のアイコンがついていた。
「エス、今、邪魔していい?」

カタカタカタ。現在、エスさんが書き込み中です。
「あら、マリア。あなたがログインしてくるなんて珍しい。どうしたの?」
「また困っているの。今から十二年前に、チルクス・ノッテというサーカスがミラノで興行していた日にちを調べられる?」
「ちょっと待ってて」

 アントネッラは、ぼうっと画面を見ていた。五分ほどすると、再び画面が動き始めた。エスさんが書き込み中です。カタカタカタ。

「わかったわよ。ここをどうぞ」
書かれたURLをクリックすると、それはミラノ市エンターテーメント広報委員会の「今月の催し物一覧」のアーカイブページだった。ドンピシャ。日程表の中にチルクス・ノッテの名前も見える。イタリア語ネイティヴではないエスにこんなに早く検索できるってのはどういう事なんだろう。やっぱり、私はネット社会に向いていないのしら。

「ありがとう。それと、もしかして、その月のヨーロッパの各都市の天候なんてのも調べられるものなの?」
「待ってて」

 今度は二分だった。カタカタカタ。パッ。URLをクリックしたらヨーロッパ主要都市の天候と気温、降水量が一覧になったページだった。すごい、こんな統計、どうやって検索するんだろう。
「ありがとう、エス。とても助かったわ」
「どういたしまして。作品ができたら、きっと読ませてね」

 ミラノ興行は六月九日から十日間だった。そしてボーデン湖の事件があったのは六月十一日。合致する。そして、五月十九日から六月十四日まで、ドイツ、スイス、オーストリア、北イタリアは毎日晴天だった。

(初出:2013年11月 書き下ろし)
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Category : 小説・夜のサーカス
Tag : 小説 連載小説 月刊・Stella

Posted by 八少女 夕

【小説】ヨコハマの奇妙な午後

33333Hit記念小説です。旅行中でたくさんの時間がかけられないという理由で、今回は三名の方のリクエストをまとめて一つの小説にするというブログのお友だち栗栖紗那さん形式で作品を作ってみました。

リクエストはこの三点でした。


さてさて、こんな難しいお題をどう調理するか、けっこう悩みましたが、結局こんな風になりました。それぞれの作品から、もう一人ずつ助っ人に来てもらっています。


ヨコハマの奇妙な午後

「君に言いたいことがあるんだが、フラウ・ヤオトメ」
クリストフ・ヒルシュベルガー教授は自慢の口髭をもったいぶった様子で捻りながら、よく通るバリトンの声で宣言した。

 夕はこういう教授に慣れていたので、彼の芝居がかった様式美を100%無視してアスファルトの道を前を向いて進んだ。

「私が事前に知った情報によると、君の国の女性は男性の後ろ三歩半を静々と歩み、その影を踏まないようにするのではないかね」

 ヒルシュベルガー教授は歩き疲れていたし、夕の無関心な様相にも断固として異議を唱えるのが筋だと感じていた。

「お言葉ですが、先生」
夕はくるりと振り返ると両脚を肩幅に開き、腰に手をおいて胸を張った。
「確かに私はあなたの秘書ですが、現在は休暇中で、私費で日本に帰っているんです。偶然あなたが私の後ろを歩いているからって、知ったことじゃないでしょう⁈」

 ヒルシュベルガー教授は夕が日本へ帰国することを聞きつけると、自分も休暇を取って、同じ飛行機に乗りこみ、澄まして同じホテルにチェックインした。前回松坂牛の鉄板焼きに連れて行かなかったことを未だに根に持っているらしい。

「そうはいっても既知の二人が異国を歩くんだ。それらしい優雅な会話を拒否するのはどういう了見かね」
「拒否じゃありません! 考え事で頭いっぱいなんです」

「また例のくだらない趣味かね?」
「くだらないですって? 小説は私のライフワークなんです。放っておいてください。それに今度のお題は本当に難しくて大変なんです。サイエンスフィクションが私に書けると思います?」

「知らんね。無理じゃないか? ところでここはどこかね?」
彼は夕のプライドを瞬時に粉々にすると、周囲を見回して訊いた。
「横浜です。港町として栄えたところです。1868年の開国の際……」
夕が説明している横を男女が英語で話しながらすれ違った。

「おかしいわね。地図によるとこの辺なんだけど」
「もう、いいですよ。パピヨン。僕がケーキの食べ放題なんて行きたがったのが間違いでした。もうホテルに帰りましょう」

「ケーキの食べ放題!」
ヒルシュベルガー教授が叫び、夕は頭を抱えた。よしてよ、このスイーツ狂が……。

「不躾に申し訳ないが、スイーツの食べ放題とおっしゃいませんでしたか?」
教授がにこやかに格調高く質問すると、切れ長の目の東洋女性はにこやかに紙を見せた。
「ええ。ホテルで見たこのチラシによると、この辺りの洋館で食べられるはずなんです。それで、来てみたんですが」

「そうですか。では私の秘書にもぜひ食べさせたいので、ご一緒させてください」
ちょっと! 私をだしにしないでよ! 夕は心の中で叫んだ。けれど、ここでスイーツの食べ放題に行かなかったら、スイスに帰国後、職場でどれだけネチネチ言われるかわからないので、大人しくついて行くことにした。

 氣がつくと教授は勝手に自己紹介をしている。
「私はクリストフ・ヒルシュベルガーと言います。チューリヒで教鞭をとっている者で、こちらは秘書のヤオトメ・ユウです」
「はじめまして。私たちはヨーロッパの各地を大道芸をして回っているんです。私は日本人で四条蝶子、こちらはレネ・ロウレンヴィル、フランス人です」

 夕は二人を観察した。大道芸人かあ。面白そうな人たち。小説のネタになるかも。でも、今はSFのネタの方が切実に必要なんだけど。

「おや、これじゃないのかね。いい感じに寂れた洋館があるぞ」
教授とレネが嬉々としてスタスタ近づいて入って行ったが、蝶子と夕は顔を見合わせて眉を顰めた。それは洋館には違いなかったが、少々、いやひどく傷んでいて使われているようには見えなかったのだ。

「先生、待ってください。ちょっと違うんじゃ……」
「ブラン・ベック、ちょっと! そんなに慌てて行かないでよ」

 スイーツ狂の二人が勇み足で中の重い木の扉を開けるとそこは大広間で、長いテーブルと臙脂の天鵞絨の椅子がたくさん見えた。そして眩しいシャンデリアの光の下に二人の人間が居た。二人は向き合って話をしていたが、闖入者の氣配にグレーのマーメイドスカートのワンピースを着た女が振り向いた。

 レネは言葉を失った。片方にまとめられた黒髪が光を反射していた。細くカーブする眉の下に黒曜石のような瞳。赤い唇も形のいい鼻も、全てが鋭利な印象だ。それはレネにスイーツ食べ放題を忘れさせる充分な効果があったが、一方ヒルシュベルガー教授には全く何の作用も引き起こさなかった。東欧の女か、そう思っただけである。

「あんた達が俺たちを呼び出したのか?」
アメリカ訛りの英語を口にしたのは、女といた屈強な男だ。緊迫している口調からすると、スイーツの食べ放題とは縁がなさそうである。あら、いい男ねえ。蝶子はニンマリと笑った。

「すみません。私たち間違って入ってきたみたいで、すぐに出て行きますから……」
夕が慌てて言ったが、扉を開けようとした蝶子が囁いた。
「ヤオトメさん、扉、開かない……」

「俺たちがどうやっても開けられなかったのに、簡単に入ってきたから驚いたが、やっぱり外からしか開けられないらしい」

「パピヨン、僕たち……」
「とじこめられたみたいね」

 ヒルシュベルガー教授は憮然として訊いた。
「スイーツの食べ放題は?」
「ここじゃないみたいです」
「では、何が食べられるのかね?」

「さあな。爺さん、あんたいい肝っ玉しているな。氣に入ったぜ」
アメリカ人が言った。
「それは何より。私は君の態度を全く氣に入っていないが」

 東欧風の美女が笑った。
「この人は礼儀も知らない山猿なの。おわかりでしょうけれど」
「それはそれは。私はスイス人でプロフェッサー・ドクター・クリストフ・ヒルシュベルガーと申します。お名前を伺っても差し支えないでしょうか、マダム?」

「はじめまして。エトヴェシュ・アレクサンドラ、ハンガリー人よ。こっちはブロンクスの類人猿マイケル・ハースト」

 教授は礼儀正しく差し出されたアレクサンドラの手にキスをしてから夕と二人の大道芸人を紹介した。

「さて、これから何が起こるのか。俺たちを呼び出したのは誰で、脱出できるのか」
マイケルはポケットから手榴弾を取り出した。夕たちがギョッとしているのを見て、アレクサンドラがたしなめた。

「およしなさい。東京で戦争ごっこなんかやると、後始末が面倒になるわ」
「だけどさ、アレックス」
「その下品な呼び方、やめてって言ってるでしょ! 大体なんで私が東京なんかに来なきゃいけないのよ。日本人のユキヒコが来ればいいのに」
「そりゃ無理だろ。あいつ日本じゃ顔を知らない奴いないくらい有名だからさ。そこら中にあいつが携帯持って笑ってる広告が貼ってあるじゃないか。隠密になんて動けやしないだろ」

「あの、あなた達はいったい……」
レネが勇氣を振り絞りアレクサンドラに話しかけようとした時だった。全員が入ってきたのとは反対側の扉がバンッと開いて冷たい風が入ってきた。そして、奥には真っ赤でとても強い光が放たれ、六人は思わず眼を手や腕で庇いながらそちらを見た。

 光を遮るように何人もの人影がこちらへ向かって来ていた。そして食べ物のとてもいい香りがしてくる。

 マイケルがゆっくりと手をジャケットのポケットに忍ばせる。銃の安全装置を外すカチという音がする。だが、ヒルシュベルガー教授の顔は先ほどより朗らかになっている。

「どうやら事態は好転したようだね。フラウ・ヤオトメ」
どこが! 夕は思う。
「ほら、君の待ち望んでいたSF式の事態になり、私はあの鶏の丸焼きを食べられるってわけだ」

 確かにSF調ではある。執事の制服を着たリトル・グレイに給仕してもらうのは生まれて始めての体験だ。でもこんなストーリーじゃシュール過ぎて編集に却下されるに決まっている。全然参考にならないよ!

 リトル・グレイ給仕達は手際良くテーブルを整えていく。食器はどうやらマイセンのものらしい。カトラリーはピカピカ光る銀だ。グラスはバカラ。

 ヒルシュベルガー教授だけでなく六人全員がもう少しここにいてもいいかなと思い出したのは、グラスに1970年代のドゥロの赤が注がれた時だった。

 ふと目を上げると、いつの間にか向かいの席に誰かが座っていた。

 それは明らかに生きた人間ではなかった。いや、生きてはいるようだが、ヒューマン・ビーイングとは違う種属に見えた。リトル・グレイのお仲間にも見えなかった。男か女かもわからない。ただ人型のようで、ほとんど透けているので、椅子の臙脂色が見えていた。

 その誰かは、声帯を使わず六人の脳に直接話しかけてきた。
「ようこそ、横浜ゴーストホテルへ! 大変お待たせしましたが、歓迎の準備が調いました。今夜は皆様を愛と恐怖のめくるめくホーンテッドワールドへと誘わせていただきます」

 六人は顔を見合わせた。ホテル? 泊まることになっている?

 透けている謎の人物は続けた。
「ちょっと形式的な手続きで興醒めですが、ここで会員証をご提示いただきたいのですが」

「会員証?」
六人の声が同時に響いた。
「ほら、あれです。アルデバランの当クラブの本部で入会手続きをしてくださった時にお渡しした、ヒヒイロカネ製の小さなカードです」

「アルデバラン?」
「行きましたよね?」
六人とも首を振った。

「なんですって?」
透けた人物は立ち上がった。

 入り口の扉がバーンと開いて横浜の町が見えた。
「それでは、大変恐縮ですが、今晩の御予約は取消させていただきます。ここは会員制なんですよ。まずはアルデバランに行っていただかないと」

※ ※ ※


「あーあ。ひと口だけでも飲んでおけばよかったな」
蝶子が後ろを振り向きながら言った。
「パピヨン。今晩帰れなかったら、テデスコとヤスが心配しますよ」
「そうね。でも、それもスリルがあっていいじゃない」

「それで私たちは何が食べられるんだね。フラウ・ヤオトメ」
「ちょっと待って下さい。あれ、その角に洋館がある。もしかしたら」

「ああ! パピヨン、ありましたよ! ケーキ食べ放題が」
四人が向かうのを見ていたアレクサンドラとマイケルは顔を見合わせた。

「寄って行く?」
「いいけれど、そもそも情報の受け渡しは?」
「食ってから考えようぜ、アレックス」
「だから、その呼び方やめてよ!」

 六人が隣の洋館に消えたのを確認してから、執事の服を着たリトル・グレイたちはオドオドとハイパースペースへの通路を閉じ、会員証の確認をせずに部外者を入れたことへの小言をきくために上司の部屋へと向かった。

(初出:2013年11月 書き下ろし)
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Tag : 小説 読み切り小説 リクエスト キリ番リクエスト

Posted by 八少女 夕

再びスイスです

日本国旗

三週間の休暇を終えて、スイスに戻ってきました。

いつも同じことを思うのですが、最初の一週間はゆったりと過ぎる休暇も二週間目くらいから駆け足になり、最後は「え?」と言っている間に終わってしまいます。

今回の帰国は私にとってはちょっといつもと違うものでした。

一つ目は、ブログのことを何となく氣にしながらの帰国だったこと。二年前の帰国のときには、ブログを始めていなかったので、メールで友人と連絡するために日本にあるMacを少しは使っていたのですが、今回は、ブログのコメント返しや訪問のためにもMacの存在がとても大切になっていたことです。とくに、休暇中とはいえ「あの人のブログでは今日が小説の更新日」とか「あそこでしたコメントにお返事来たかなあ」もしくは「あ。いま通ったここは、ブログのお友達の○○さんが近くにいるはずのところだ」なんて、かなりブログ中心の生活になっていることを実感させられました。まあ、加えて、休暇中なのに仕事のために会社と連絡を取ったりもしなくてはならず、さらに老いた母親がiPadを使える環境を整えるべく頑張ったりもしていたのです。

二つ目。これは後々、写真入りでご紹介するつもりなのですが、今回の日本国内旅行は出雲と伊勢の両方を参拝してきました。別に私はもともとそれほど神道に帰依している方ではなく、というか、じつはカトリックの幼児洗礼も受けている身だったりするのです。にもかかわらずこうなってしまったのは、やはり「樋水龍神縁起」という自作小説の影響が強いと思います。自分の小説に影響されてどうする。

三つ目。いや、これはとても個人的なことで読者のみなさまにはかなりどうでもいいことですが(というか、上の二つももちろんどうでもいいことなんでしょうけれど)、今回、衝撃の事実が判明し、かなり動揺しています。この二十年間の根底を揺るがすような話で、歴史に「IF」は存在しないとはいえ、二十年前にその事実を知っていたら、みなさまがここで読んでいるこのブログも、スイスに住んでいる私も、「大道芸人たち」もへったくれもなかったかもしれない、そんな事実。

とはいえ、「銀の舟に乗って」という小説でも書いたように、時間は一方向に流れ、人間は過去の「もしあの時」の時点には絶対に戻れないのが現実です。私は、スイスのリュシアン(仮名)の元に戻り、この二十年間築いてきた人生を全肯定しつつ次に進むことになるのでしょう。

ですから、親しいみなさまのブログ生活の中には、あいもかわらず「scribo ergo sum」が存在し続け、小説やら、旅行記やら、しょーもないグルメ日記などが何もなかったかのようにアップされ続けることになります。これからも当ブログをよろしくお願いいたします。
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Posted by 八少女 夕

【小説】樋水龍神縁起 Dum Spiro Spero (15)真実のとき

そして、瑠水です。どうしようもないヘタレっぷりで読者の皆様をイライラさせ続けてきたヒロインも、ようやく自分の道を見つけて戻ってきました。

「樋水龍神縁起 Dum Spiro Spero」を読むこのブログではじめからまとめて読む
あらすじと登場人物


この作品は下記の作品の続編になっています。特殊な用語の説明などもここでしています。ご参考までに。
「樋水龍神縁起」本編 あらすじと登場人物



樋水龍神縁起 Dum Spiro Spero
(15)真実のとき


「せっかく帰ってきたんだから、出雲に行ってきなさい」
摩利子が言った。瑠水は、真樹のことを言われているのかと思ったが、いくら勘の鋭い摩利子でも、いきなりそんなことには氣がまわらないだろうと首を傾げた。

「次郎先生が、総合医療センターに入院しているのよ。あんまりよくないみたいだから、早くお見舞いに行ってきなさい。この五年間、いつもあなたがどうしているか訊いていたからね。大切な『あたらしい媛巫女さま』なんだから」

 知らなかった。次郎先生が病氣だったなんて。

 瑠水は、あの『必死のお願いごと』以来、次郎に連絡を取っていなかった。自分の恩知らずぶりに少し後ろめたさを感じながら、瑠水はバスに乗った。

 樋水川はいつものように輝いていた。『水底の二人』の至福の風も同じように、瑠水の心に入り込んできた。東京では、樋水を忘れて生きるのが定めだと諦めていた。そうじゃない。樋水は、出雲は一度だって私を拒まなかった。私が勝手にそう思っていただけだ。

 松江への転勤を申し出たことを聞いて、同僚の田中は言った。
「この空調の利いた快適な職場が懐かしくて泣くぞ。地方はきついからね。僕は長崎でしばらく働いたけれど、人手が足りないから、半分以上フィールドワークに駆り出されていたよ。真夏に灼熱の海岸でボーリングしたり、真冬に足場の悪い所で路頭調査したり。変な虫や蛇も出るし、おかしな村では伝統の風習を盾に調査の邪魔をされたりさ」

「そういうことをしたいんです」
瑠水は微笑んだ。田中は目を丸くした。

 瑠水はそれ以上のこと説明しなかった。空調の利いた快適なオフィスではなくて、苦労して地面に触れてこそ、樋水に、出雲に、島根に貢献できる。私は、変わりたいのだ。自動的に安易に与えられる幸福を弄ぶのではなくて、あの池の底で感じたみたいに苦しみを通して幸福を獲得したいのだ。瀧壺にではなく私自身の中にあの至福の風を見つけるために。

 風。瑠水は泣きたくなった。真樹の運転するバイクの後ろで感じた幸福の風。真樹が与えてくれた全てのこと。それを全て置いて逃げた自分。どれほどの遠回りをして、結局は自分の心の中にあった答えを見つけることになったのだろう。真樹に再び会えるかどうか、瑠水にはわからなかったが、どうしても会って伝えたかった。自分が間違っていたことを。ようやくわかった自分の心を。受け身に愛を望むのではなく、自分が愛し続けるということを。


 痩せて肩で息をする次郎を見て、瑠水は瞳に涙を溜めた。こんなになってしまったなんて。
「悲しむことはない。僕は大丈夫だ」
「次郎先生……」

「休暇かい?」
「いいえ。松江に転勤にしてもらいました。樋水から通えるように」
「よく決心したね。嬉しいよ」

 瑠水は寂しそうに笑った。
「ずっと、樋水から追い出されたんだと思っていました。みんなに厄介者にされたんだと」
「どうして?」
「みんな不自然に東京に行けって、そのあとも誰も帰ってこいといわなかったから。それに……」
「それに?」

 瑠水は初めてあの『龍の媾合』の宵のことを話した。『水底の二人』の至福に加わりたくてどんどん潜っていったこと、あそこでは歓びと苦しみが同じものだと悟ったこと。龍王が現れて瑠水を阻んだこと。

「ずっと、龍王様に拒まれたんだと思っていました。でも、やっとわかったんです。龍王様は私に『生きろ』とおっしゃっていたんだってことを。幸せであり苦しみであるものは、水の底にではなくて、私の人生の中にあるのだということを」

 瑠水はもう次郎の小さなお媛様ではなかった。
「そこまで、わかったなら、そろそろいうべきだな」
「何のこと?」

「ずっと君に本当のことを伝えたかった。嘘を墓場まで持っていきたくなかった」
「嘘って?」

「あのとき、シンくんは大事故に遇っていたんだ。命に別状はなかったが、彼は仕事も失い、障害も負った。だが、彼に君には絶対に報せないでくれと頼まれた。だから君には彼は何ともないと言った」

 瑠水は、青くなって、椅子に倒れ込んだ。
「どうして……」

「君のためだ。シンくんは、君の幸福と将来を何よりも大切に思っていた。君の選んだ未来の邪魔をしたくないってね。支えが必要な時期だったが、一人で堪えるといっていた。そして実際耐え抜いた。消防の仕事はできなくなったが、深刻な障害も残らず、新しい仕事もはじめて、生き抜いている」

「いま、どこでどうしているか、ご存知ですか」
「勾玉磨きや、石の彫刻で食べているよ。前と同じ所に住んでいる。年賀状をくれるんだ」
次郎は肩で咳をしながら、サイドボードから、何年か前の年賀状を探し出して、瑠水に渡してくれた。石材工場の住所が添えてあった。あの日飛び出したアパートのすぐ近くだった。

「シンの携帯が通じなくなったのも、素っ氣ない返事しかもらえなかったのも、嫌われたからだと思っていました。ずっと、東京でもう終わったことだと自分に言い聞かせていました。でも、わかったんです。シンのことは私には生涯終わらないって。樋水に帰りたいという氣持ちと同じで、もう私の一部になってしまっているんだって。だから帰ってきたんです。遅すぎても、届かなくても構わない。どうしてももう一度逢って、氣持ちを伝えたいんです」

 次郎は目を閉じた。そして、苦しそうに言った。
「君たちには、お互いに思っている以上の深い縁と絆がある。僕と君のご両親はそれを知っていた。知っていたからこそ君を樋水から遠ざけようとした。君のことが大切で守りたかったから」

「……守りたいって、シンから?」
「違う。樋水と龍王様からだ」

 瑠水は、次郎の顔を黙って見つめた。
「君たちが向かっていたのは、『水底の二人』と同じ道だ。私と妻もそこを目指すはずだったが果たせなかった。だが、君はひとりでそこにたどり着いたようだ」

「どの道ですか?」
「龍王様の池で、それから東京でたどり着いた道だよ。至福と究極の苦しみが同じものになる世界だ。君はもう大人の女性だ。どんなに大切でも、我々が隠し守ることは出来ない。君は樋水に属すことを選んだが、もともとそこに属していたんだ。『水底の二人』の世界に、そしてシンくんへの愛にね」

 瑠水はそっと目を閉じて、次郎の言ったことを考えた。正しいことがわかった。

「次郎先生、『水底の二人』をご存知なんですか」
「とてもよく知っている。君のご両親も二人を家族のようによく知っている。二人がどれほど苦しんであそこに至ったのかも。だから、君を樋水から引き離そうとしたことを、悪く思わないでくれ。僕たちはみな、とても君のことを大切に思っていたんだ」
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Posted by 八少女 夕

小説にちなんだ詩を書いていただきました

ブログのお友だちakoさんが、私の写真をつかってとても素敵な詩を書いてくださいました。(サムネイルをクリックするとakoさんの作品へ飛べます)

akoさんの書いてくださった詩 「宇宙(そら)のまばたき 」
宇宙(そら)のまばたき by akoさん
この詩の著作権はakoさんにあります。無断引用は固くお断りします。携帯待ち受画面など個人でご使用なさることはOKのようです。くわしくはakoさんのブログで

この詩は、先日発表した私の「終焉の予感」にインスパイアされて書いてくださったのだそうです。

いやはや、なんとももったいない。小説を発表するときに、「もしかしてこの話、読者に呆れられるかなあ」とちょっと心配だった私です。「なんなんだこの設定は」なんて。でも、思いのほか反響をいただき、感情移入してくださった方がいて、私としてはとても嬉しかったのです。そして、作品にインスパイアされてこれほど透明で優しくて美しい言葉を書いていただけるなんて、夢にも思っていませんでした。ああ、書いてよかったな、発表してよかったなと、一人で飛び上がりたくなっておりました。

そういうわけで、akoさんにお願いして(強奪したともいう)持ち帰らせていただき、ご紹介させていただくことにしました。

akoさん、本当にありがとうございました! 大切にさせていただきます。
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Posted by 八少女 夕

オリキャラリアクションバトンで女傑対決!

今日はですね。オリキャラリアクションバトンはバトンランドさまのバトン。で、本当はキャラ一人だけを紹介するのでしょうが、今回は当「scribo ergo sum」で人氣の高めの女傑たちを比較させていただきます。

【オリキャラリアクションバトン】 

次の状況でのオリキャラさんの反応は?

指定:
比較するのはこの四人です。

◆四条蝶子 from 「大道芸人たち」
 当ブログの看板ヒロインでございます。冷たい美人できつい性格。ヨーロッパで大道芸人やってます。
◆高橋(広瀬)摩利子 from「樋水龍神縁起」シリーズ
 本編のサブキャラながら完全にヒロインを食ったと評判の女。平凡な顔立ちだが化粧で絶世の美女に。
 どんな男でも落とせる恋愛のプロだが、結婚後は自慢の料理の腕を生かし奥出雲で小料理屋を経営。
◆園城真耶 from 「樋水龍神縁起 Dum Spiro Spero」「大道芸人たち」
 こちらも「Dum Spiro Spero」のヒロインを食ったサブキャラ。そしてなぜか蝶子の親友。
 稔曰く「超美人。お蝶なみの氣の強さ。究極のお嬢様。ヴィオラの天才」
◆リナ・グレーディク from「リナ姉ちゃんのいた頃」シリーズ
 唯一の未成年、態度だけは上の三人に匹敵。何をするかわからない爆弾娘。 
 交換留学で日本にやってきた超絶美少女。でも笑うとチェシャ猫に酷似。


◇お酒を飲んだ時

(蝶子)いくらでも飲みます。変わらず。
(摩利子)多少陽氣になる。でも、自分が飲むより人に飲ませるのが得意。
(真耶)全く変わらない量までしか飲まない。
(リナ)いつもより饒舌になりもっと注いでくれるよう頼む。未成年ですがスイスでは飲酒は合法です。


◇朝、たたき起こされた時

(蝶子)しばらく寝ぼけている。いつものキレがでるまでには30分かかる。
(摩利子)超不機嫌。触らぬ神に祟りなし。
(真耶)たたき起される事などありません。必要な時間の十分前に自然と目覚める。
(リナ)起こした人を罵って再び寝る。


◇激辛料理を食べた時

(蝶子)○ィル(蝶子に惚れている男です)に黙って譲る。
(摩利子)おかわりを頼む。激辛料理好きなので。
(真耶)黙ってナフキンで口元を拭い、ウェイターに下げてもらう。
(リナ)「辛い〜! 水、水!」と騒ぐ


◇記憶にない相手に親しげに声をかけられた時

(蝶子)「どこで会いましたか」と訊く。いつものことです。顔を憶えないので有名。
(摩利子)適当に挨拶してから夫の一に「あれ誰?」と訊く。
(真耶)「いつも応援ありがとうございます」という。CMに出ているので有名人。
(リナ)知っているか知らないか関係なく親しげに喋りまくる。


◇好きでない人に告白をされた時

(蝶子)「興味ないわ」
(摩利子)「顔を洗って出直してきなさい。百年早いわよ」
(真耶)誠実に断る。
(リナ)「とりあえずつきあってみる?」


◇恋人に別れを告げられた時

(蝶子)そういえば○○ルに殴り掛かろうとする稔を止めていましたね。
(摩利子)「私を振るなんて生涯後悔するわよ」と捨て台詞。
(真耶)冷静に理由を訊く。ありましたね、そういう小説。
(リナ)大泣きしてから「くよくよしてもしかたないか、次いこう」と忘れる


◇カツアゲされた時

(蝶子)何があろうとも一銭も渡さない。
(摩利子)一喝。
(真耶)かつあげされるような所に行ったことがないかも。
(リナ)「助けて〜」と騒ぐ


◇幽霊を見たとき

(蝶子)三十六計逃げるにしかず。逃走。
(摩利子)普通。「見える人」ですから、日常茶飯事。
(真耶)瞳を閉じて十数え、冷静になろうとする。
(リナ)写真が撮れないかトライする


◇宝くじが大当りした時

(蝶子)銀行に預金する。大道芸人生活は何があるかわからないので。
(摩利子)自分には新しい指輪、そして一のワードローブを一新。
(真耶)全額老人ホームに寄付。ノブレス・オブリージュです。
(リナ)百円ショッブで豪遊。


◇お疲れ様でした。次に回す人&オリキャラさんを指定。

やりたい方、どうぞご自由にお持ちくださいませ!


--------------------------
このバトンのURL:
http://www.baton-land.com/baton/1129

バトン置場の『バトンランド』:
http://www.baton-land.com/


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Posted by 八少女 夕

【小説】樋水龍神縁起 Dum Spiro Spero (14)時間

今回からチャプター3、出雲編です。今回登場するのは、お忘れかもしれませんがもう一人の主人公だったはずの生馬真樹です。短いんですが(チャプターそのものも短いです。三章しかありませんし)瑠水が東京に行っている間に、真樹はどうしていたのか、覗いて見てください。

「樋水龍神縁起 Dum Spiro Spero」を読むこのブログではじめからまとめて読む
あらすじと登場人物


この作品は下記の作品の続編になっています。特殊な用語の説明などもここでしています。ご参考までに。
「樋水龍神縁起」本編 あらすじと登場人物



樋水龍神縁起 Dum Spiro Spero
(14)時間


 火花が散り、回転砥石で少しずつ石が滑らかになっていく。勾玉磨きは氣の遠くなる作業だ。縁結びのお土産として誰かに買われ、直に忘れ去られてしまうには、惜しい量の仕事だった。真樹は黙々と石を磨く。午前中に、勾玉やペンダントなどの大量注文品を次々と片付ける。そして午後は、置物など大きい石の加工をする。

 真樹の作品はここのところよく売れたので、オーナーは前よりも注文を増やした。最初はネコの手でも借りたかったので雑用係を兼ねて石を加工させていたが、最近は雑用を頼むことはかなり稀になった。仕事にムラがなく、また、プライベートの時間を考慮する必要もなかったので、無理な注文がくればここ二、三年はいつも真樹が駆り出された。

 事故の後、真樹が松葉杖で外に出られるようになるには三ヶ月ほどかかった。不屈の意志でリハビリを繰り返し、なんとか歩けるようになったが、左足はもう元のようには動かなかった。だが、脊髄が損傷していなかっただけでも、ありがたいと思わなくてはならなかった。

 やがて、真樹は仕事を探した。消防士としてはまったく役に立たなかったので退職した。自動車工場のライン生産の仕事も試したが、長く立っていられないことがわかり続けられなかった。事務関係の仕事は真樹の性格には向かなかった。特に電話をとるのが苦痛だった。

 暗い顔をして帰宅途中、アパートから一ブロックしか離れていない所で求人の張り紙を見つけた。それはこの辺りには多い石材加工の工房だった。事務の仕事とほとんど変わらない給料で、黙々と石を磨くだけ、また時にはオーナーに頼まれた雑用をするという仕事内容が氣に入った。歩いて数分でアパートに帰れるというのもありがたかった。

 オーナーはやり手で、パワーストーンブームにのってあちこちの土産物屋に勾玉やアクセサリーを売り込み、ネット販売もいちはやく手掛けていた。中には妙な石で勾玉を作ってほしいという依頼もあるので、いわれたことを黙々とこなす真樹は便利な存在だった。

 一人で加工の工程をこなせるようになり、先輩のチェックを必要としなくなってから、しばらく真樹の勾玉が上手く売れない時期があった。勾玉は型があっても手作りのため、最終的には作り手の癖が出る。真樹の勾玉は、どこがどうというのかわからないが、比較的選ばれにくい形になっていた。

 オーナーは真樹に一日に二回、出雲大社に行くように言った。意味がわからなかったが、真樹はいう通りにした。手水をとり、参拝し、帰る。それだけだが、季節のめぐる大社に通ううちに、真樹の心のわだかまりが融けていった。

 事故に遭って以来、真樹は神社に行かなくなっていた。それまでの正月の吉兆さんといわれる神事では、仲間達と高さ10メートルの「吉兆幡」を担いでいたが、消防署を辞めて以来、観にもいかなくなった。

 神社にいくと、樋水龍王神社を思い出す。そして、その記憶は高橋瑠水に繋がる。忘れられない遠い記憶が、敗北感をいっそう強める。白い病室で、アパートの暗い部屋の中で、瑠水の姿が幾度も浮かんだ。事故の時に壊れた携帯とともに、連絡する可能性も絶たれた。そして時間が経ち、真樹は瑠水に忘れられたのだと諦めた。幸せな大学生活を送っているのだろう。東京というところは刺激的で楽しいところだという。新しい出会い、友人があり、恋もしているだろう。

 神社に通い始めた頃は、避けていた痛みが疼き、苦しかったが、しつこく繰り返すうちにそれにも慣れてきた。瑠水を想うことも日常になり、尖った神経は和められてきた。次郎に年賀状も出すようになった。もしかしたら瑠水のことを知らせる返事が来るかもしれないと期待した。次郎からは暖かい言葉の返事が届くが、瑠水に関することは何も書いていなかった。

 真樹の暗い後ろ向きな精神は、人びとを遠ざけた。消防士時代の同僚とも、幼なじみとも疎遠になった。新しい恋をする氣にもならずひたすら仕事だけに打ち込む日々が続いた。

 オーナーは満足だった。少しずつ穏やかになっていく真樹は売れる勾玉を作れるようになっていた。口数が少なく、人付き合いはなかったが、仲間といざこざを起こすようなこともなかった。一人で音楽をイヤフォンで聴きながら石に向かっている。何を聴いているのかと訊いたらよりにもよってクラッシックだった。だが、それでいい仕事ができるならオーナーに異存はなかった。見合いの話がきたこともあったが、子供でも出来たら今のようには働かせられない。握りつぶしてしまった。

 やがて真樹は、もう少し大きくて創作的なものも作ってみたいと言ってきた。オーナーはそれを許した。最初はとても売れるようなものではなかったが、少しずついい作品を作るようになった。真樹には石の中に潜むもとからある形を読み取る能力があった。自分の好きなものを彫るのではなく、生まれこようとするものを見つけて手助けする力だった。あるときは石はイルカになり、果物の溢れる籠になり、月になった。最初に高い値段で売れた作品は、海の中から走ってくる馬だった。

 一度、記憶にある瑠水の横顔を彫ろうとしたことがあった。だが、石はそれを望まなかった。真樹はその石を砕いて勾玉にしてしまった。
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Posted by 八少女 夕

愛 燦々と〜

ええとですね。33333Hit記念です。ふだんなら皆様にリクエストなどを伺うのですが、旅行中ゆえ、まずはこんなものでお茶を濁させていただきます。ちなみに帰ってからになりますが、リクエストにもお応えしたいと思っています。

33333Hit リクエスト要項
この記事のコメント欄に早い者勝ち3名様でお申し出ください。
当ブログのオリキャラ1名+お題一つを指定してください。
ご要望をもとに掌編小説を書きます。ただし、いただいた3名様分を一緒にした大集合小説になります。キャラの出自作品は揃えなくていいです。そして、時間・空間的矛盾も無視します。当方のオリキャラの代わりにご自身のブログのオリキャラをご指定いただいても構いません。

追記 : 三名さまからのリクエストいただきましたので、締め切りました。


さて、ここからが本日の本題です。いつぞやの大流行したバトンで小説書きの皆様が「ラブラブは苦手」とおっしゃっていたので、あえて相思相愛カップルを集めて座談会決行です。



(三)こんにちは。司会に任命された遊佐三貴です。「リナ姉ちゃんのいた頃」シリーズから来ました。
(リ)同じく「リナ姉ちゃんのいた頃」出身のリナ・グレーディクよ。今日は、よ・ろ・し・く〜。
(三)なんで未成年の僕たちが司会なんだろう。
(リ)いいじゃない。ここ飲み放題なんでしょ。ワインをお願いっ。
(三)ねえちゃんっ!

(田)ああ〜、座談会ではすっかりお馴染みになりました『Bacchus』のバーテンダー田中です。司会が慣れていないみたいなんで、ご紹介しますと、未成年司会の監督役としてクリストフ・ヒルシュベルガー教授、それから、恒例の消去役の神様として招き猫神タンスの上の俺様に来ていただいています。(と、カウンターを示す)
(ヒ)勝手にやってくれたまえ。ヘル・タナカ。この牛肉のカルパッチオは絶品だね。もう少し出してくれないか。

(リ)なんで招き猫が神様なの?
(三)旧暦神在月は日本の神様はみな出雲に行っているんだよ。手が空いているのはその猫だけだったんじゃないの?
(俺)失敬なことを言うな。俺様に来てもらってありがたいと思え。

(田)あの、全然進まないので、参加者の皆さんの紹介を。

(三)あ、そうですね。まずは「大道芸人たち」から四条蝶子さんとアーデルベルト・ヴィルフリード・フォン・エッシェンドルフさんです。
(蝶子とヴィルが会釈する)
(三)「夜のサーカス」からはジュリア&ロマーノ・ペトルッチ夫妻です。
(団長ロマーノが頷き、ジュリアは手を振る)
(三)「カンポ・ルドゥンツ村」シリーズを代表しての登場は、トーマス・ブルーメンタールさんとステファン・バルツァーさんです。このお二人の男性、普段はトミーとステッフィで通っています。『dangerous liaison』というバーの経営者だそうです。
(トミーがニッコリと笑い、ステッフィは黙って頷く)
(三)最後は「樋水龍神縁起」シリーズから高橋一・摩利子夫妻です。
(摩利子がワイングラスを持ち上げ、一は立ち上がって一礼)

(三)ええと、今回はラブラブなみなさんに存分に無駄な熱々ムードを振りまいてもらおうと言う変な企画で、最初のテーマですが……。
(リ)私にも言わせて! ええと、恋に落ちた瞬間について語ってくださいっ。まずは蝶子さんたちから。

(蝶)え。落ちた瞬間って、いつの間にかよねぇ……。
(ヴ)(無表情で黙るが、ちょっと顔が赤い)

(三)トミーさんたちは……。
(ト)あたしは他の男にフラレてやけ酒を飲んでつぶれていたのよ。そしたら、ステッフィが革ジャンを脱いでかけてくれて、ねぇ、憶えてる?
(ス)(サングラスで表情はわからないが素直に頷く)

(リ)そっちのお二人は?
(一)う〜ん。摩利ちゃんが僕の勤めている店に買い物に来たんだよね。すごくきれいだったから、見とれちゃったんだよなあ。
(摩)あら、私は私の方が先に好きになったんだと思っていたけれど。何度デートしても手も握ってこなかったから脈がないのかとイライラしちゃったっけ。
(リ)この二人の話は参考になりそう。メモメモ。

(ロ)そして、私たちだね。私がはじめて愛しのジュリア、私の小鳥さんを見た瞬間、世界が曙色に染まったのだよ。それは、穏やかな春の日のようにではなく、真夏の灼熱の太陽のごとく私の心を燃え立たせ、世界が突如として七色の総天然色に輝きだしたのだ。私の心はヒバリのように高く叫び、私の足はカモシカのごとき軽やかさで真実の愛のもとに急いだのだ。

(ト)(白けた顔で、手を振る)もう、その辺にしておきなさいよ。あんた達が仮面夫婦なのは誰だって知っているんだから。純真な中学生に嘘八百を吹き込むのはやめなさい。
(ロ)うるさい。ところで、ステッフィくん、あとで電話番号教えてくれる?
(ト)ステッフィに手を出さないでっ。キ〜!

(三)えっと、次のテーマです。思い出ぶかい愛のエピソードをお願いします。(誰だ、こんなテーマ考えたの)

(蝶)う〜ん。告白した時かなあ、フランスのディーニュの駅だったわよね。いなくなっちゃうかと思って必死になっちゃった。
(ヴ)ずっと離れていて、再会した時。
(蝶)あの時って……よくも騙してくれたわね!
(ヴ)来るなと言ったのにあんたがノコノコやってきたからだろう!

(三)ケンカしないでください。高橋さんたちは?
(摩)そうねぇ、一がブルブル震えながらプロポーズしてくれた時かなあ。
(一)まさか、あんなにあっさり摩利ちゃんがOKしてくれるとは思わなかったからびっくりしたよ。
(摩)もうちょっとじらせば良かったかな。でも、嬉しかったんだもの。

(ロ)私たちは……
(ジ)だれも私たちのラブラブエピソードなんて期待していませんよ、あなた。でも、私、あなたと一緒にロウソクの光でディナーを食べる時間がとても好きよ。
(ロ)ああ、私のひな菊さん。あなたはなんて素晴らしい人なんだ。

(ト)私は、ステッフィが『dangerous liaison』を一緒にやろうと言ってくれた時。「ずっと一緒にいよう」って言ってくれたのよね。
(ス)(黙って頷く)
(リ)ステッフィさん、話をする事もあるのね。
(ト)ほとんど話さない分、言ってくれた事の重みが増すのよ。(チラッとロマーノを見る)

(三)だんだんばからしくなってきたなあ。最後に、ラブラブエピソードをこれからも演じたいですか。

(蝶)別にそういうシーンは書かないでくれてもいいけれど、でも、もう書いちゃったんだっけ?
(ヴ)(ものすごく迷惑そうに)俺に訊くな。この間も変な「彼女のために生きている」って歌を歌わされたんだ。

(ト)私は書いてくれなくてもいいわ。二人だけの時にこっそりとラブラブするから。
(ス)真っ赤になって頷く。

(一)僕は書いてくれてもいいけれど、もう大きな子供が二人もいるしなあ。
(摩)初老の日向ぼっこみたいな仲良しシーンっていうのも悪くないわよね。もちろん『龍の媾合』は別だけど。

(ロ)私たちはこれからも熱々ぶりを猛アピールするよね、私のダイヤモンドさん。
(ジ)(にっこり)あなたは本当に私の事を深く愛してくれているのね。嬉しいわ。

(リ)大人って大変なのね。
(三)うん。なんか、大人になる自信がなくなってきた。

(俺)心配はいらぬ。この俺様が記憶を消してやるので、何もかも忘れて心置きなく大人になるがよい。
(ヒ)記憶は消してもいいが、このティラミスはお持ち帰り用に包んでくれたまえ。

(田)ため息。読者の皆様、今後とも「scribo ergo sum」をよろしくお願いします。

この記事には追記があります。下のRead moreボタンで開閉します。

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ここからは旅日記です。昨夜再び松江にやってきました。樋水チームやルドヴィコ系の小説の舞台なので自分の故郷でもないのに親近感持ちまくりです。



TOM-Fさんに教えていただいた松江の皆美に行ってきました。鯛めしを食べるはずがどういうわけか島根牛に心惹かれてしまい……。
美味しかったです〜。TOM-Fさん、ありがとうございました!
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Tag : キリ番リクエスト リクエスト

Posted by 八少女 夕

『小説バトン』もらってきました

TOM-Fさんと山西左紀さんのやっていらっしゃった小説バトンをいただいてきました。あいかわらずあまり面白くありませんが、興味のある方はどうぞ〜


Q1 書くならパソコン? 携帯? パソコンなら使っているツールを教えて下さい。

A1 基本はMacです。「Macで小説」この話題だけはどいうわけか毎回すごい勢いで検索されています。もう一度書きます。ツールはScrivenerというエディタです。基本英語ですが、日本語化もできるようです。もちろん英語メニューのままでも日本語の小説は問題なく書けますよ。設定も、必要な資料や写真もすべてこのエディタの書類の中に突っ込んでおけます。そして、小説部分を書けたところまでe-Pub形式に書き出してiPhoneに突っ込み、iBookで推敲をしています。もっとも一度、旅行中にiPhoneのメモ帳だけで一本書いたことがあります。「夜のサーカスと紅い薔薇」ですね。


Q2 下書きはしますか?

A2 しません。もともと、頭の中で何度も何度も場面が再生された後、それを書き取っているような感じなので。で、勢いに任せて書くと、順番がおかしかったり、てにをはが狂っていたりするので、それを推敲で整えていきます。


Q3 執筆は早い方?

A3 ええと。早いと思います。というか、「速いだけが取り柄」かもしれません。ただ、それは書くモードになっているときだけで、書くつもりがないと十年で二本なんて寡作なこともあります。


Q4 今まで何作書きましたか?

A4 ……。わかりません。デジタルで残っているものだけなら数えられますが、昔の手書きのものを含めるといったいいくつになるやら。このブログ(およびfc2小説)で発表した小説は読み切りが43、中編が4、長編が3、外伝系読み切りが12くらいあります。(きちんと数えられなかった)う〜む、やけに多いぞ。


Q5 尊敬する作家、影響を受けた作家は?

A5 これもしつこいくらい書いているのだけれど、思想の面でヘルマン・ヘッセ。それから小説家たるもの、あそこまでいろいろなことを知っていなくちゃいけないんだと心から感心しているのがマイクル・クライトン。どちらの作品も大好きです。


Q6 書くにあたって気をつけてること、自分ルールは?

A6 奇をてらった文章はできるだけ書かないようにしています。具体的には、例えば、たいていの方が辞書を引かなくてもわかるような平易な単語を用い、一息で読める程度の長さで文を切るようにしています。それから、ブログのお友達の作品の二次創作やコラボをするときの自分ルールですが、お借りしたキャラの設定を動かさない(勝手に愛の告白させたり、くっつけたり、抹殺したりしない)というのと、お借りした世界で勝手に増やしたキャラは一掃するようには氣をつけています。


Q7 キャラ設定は細かくする方?

A7 するときと、全くしないときがあります。長編はかなり細かく設定しているはずです。基本的に、私の小説はまず私の脳内で映像化してから書き始めるので、私の中ではすべてのキャラは何らかの視覚イメージを持っています。だから外見の設定はしていますよね。ただ、どこで生まれたかとか、好物は何とか、そこまではしないこともありますね。


Q8 ここだけの秘密、あのお話の裏設定を聞かせて。

A8 本編とはまったく関係ないのですが、「大道芸人たち」のヒロイン蝶子の妹の名前は華代といいます。そう、「蝶よ花よ」から来ています。以前は第二部には蝶子の姪がヨーロッパ留学をしてきて、そこでヴィルに疑似横恋慕してという話があったのですが、馬鹿っぽいのでやめました。そうでなくてもいろいろと(親子問題で)複雑なので。


Q9 自分で執筆した作品は好きですか?

A9 ええと。はい。しょーもないくらい好きですね。一番繰り返し読んでいる小説の作者はという質問があったら自分をあげなくてはならないという痛いことになっております。


Q10 今後書いてみたい設定など教えてください。

A10 時代物ですかね。ひとつは平安時代のお話。「樋水龍神縁起」の安達春昌と郎党次郎の二人旅の話。もうひとつはだいぶ前に発表した「明日の故郷」のアレシアとボイオリクスの話。どっちも勉強が足りていなくて……。ま、そのうちに。


Q11 このバトンは……

A11 えっと、物書きのみなさんで、まだやられていらっしゃらない方、いかがでしょうか。

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Tag : 小説

Posted by 八少女 夕

【小説】大道芸人たち 番外編 〜 Séveux 芳醇

今週は「樋水龍神縁起 Dum Spiro Spero」のチャプター3を発表する予定でしたが、ちょっと予定を変更して「大道芸人たち Artistas callejeros」の番外編をアップします。と言ってもですね。今回の主役は拓人&真耶です。「Dum Spiro Spero」の番外編でもあるんですが、そのカテゴリはないので。

このストーリーは、いつも素敵な「Dum Spiro Spero」の挿絵を描いてくださる羽桜さんに捧げます。ちょびっと、羽桜さんのご希望の方向に寄っています。

途中で「大道芸人たち」の話が出てきます。この外伝はちょうど第一部が終わる直前くらいの話です。お読みになった方は拓人の推測に「違うよ」と心の中でつっこんでくださいませ。そして、お読みでない方は、この外伝とはまったく関係ありませんのでご心配なく。心置きなくスルーしてくださいね。



【大道芸人たちを知らない方のために】
「大道芸人たち Artistas callejeros」は2012年に当ブログで連載していた長編小説です。興味のある方は下のリンクからどうぞ

「大道芸人たち Artistas callejeros」を読む このブログで読む
縦書きPDF置き場「scribo ergo sum anex」へ行く 縦書きPDFで読む(別館に置いてあります)
あらすじと登場人物



大道芸人たち Artistas callejeros 番外編 〜 Séveux 芳醇
羽桜さんに捧ぐ



「拓人。今夜はデートなの?」
真耶から電話があった。
「昨夜が遅かったら、今日はオフにしてある。何故?」

「あなたが飲みたがっていたアマローネ、昨夜お父様が開けたのよ。まだ三分の二残っているの。今から来るなら残しておくけれど」

 アマローネの赤ワイン、2003年もの。これを逃したら一生飲めないだろう。
「行く! それならデートをキャンセルしてでも行くって」
「あなたって、本当にどうしようもない人ね」
真耶は少し笑って電話を切った。

 デートをキャンセルしてでもなんて本音を言える女は真耶だけだろう。話の途中で急に今かかっている曲の数小節のことが氣になって指を動かしだしても怒ったりもしない。それどころか、一緒に口ずさみ意見を交わしてくれる。面倒が何もないのは子供の頃からの信頼関係ゆえだろう。

 だが、女とのつきあいでは多少の面倒さも一種のスパイスだ。だから必要があるのかないのかわからないままに、次々と女とつきあう。ずっと同じ女とは一度だけというルールを自分に課していた。もう何年も前になるが、ちょっと本氣になったことがあって、彼女にふられてから少し真面目に女性たちと向き合おうとした事もあった。つまり二回か三回めになるまでつき合ってみて、相手の興味対象やそれまでの事を知ろうとした事があった。でも、いろいろと面倒になってしまって、結局、前のやり方に戻した。

「無理して恋をしなきゃなんて思う事はないわ。あれはしようと思ってするものじゃないでしょう」
真耶のいう事ももっともだと思ったので、自分の生活スタイルを保つ事にしたのだ。そもそも、食事をしたり、話をするだけなら真耶に匹敵する女なんかいない。どこに連れて行っても恥ずかしくないし、周りも当然のように受け入れる。マスコミだって同じだ。真耶と僕が一緒にいてもスキャンダルにもなりはしない。もっとも僕と女との付き合いもスキャンダルにはならない。どっちにしろ長続きしないのはマスコミもその読者も知っているのだ。知らないヤツは、そもそも僕の名前すら知らないから、同じ事だ。

 園城の家に着くまでには七時を少し越えた。ああ、愛しのアマローネちゃん、残っていてくれよ。
「遅かったじゃないか、拓人くん」
そう声を掛けたのは園城のおじ様、真耶の父親だ。この家で会うのは久しぶりのような氣もするが、つい先日ブラームスのコンチェルト第一番で一緒したばかり。日本でも有数の高名な指揮者として、音楽に対する姿勢は厳しいが、プライヴェートで逢うと子供の頃から親しく出入りしていた従叔父としての優しさが前面に出る。

「これでも急いだんですよ。電話を受けたときは大船にいたんですから」
「君が来ないと、真耶がボトルに指一本触れさせてくれないんだ。いったい誰のワインなんだか……」
僕は真耶を拝んだ。やっぱり、真耶は最高だ。

 透明なムラノ製のクリスタルグラスにワインが注がれる。通常の赤ワインよりもずっと混濁した不透明な葡萄色が重たげにグラスの底に沈んだ。そっとグラスを右の掌に置くとゆっくりと揺らしながら香りを楽しむ。ああ、それは味に対する期待をぐっと盛り上げる芳醇たる幽香だ。揺れて酒に触れたグラスには、透明に輝くアーチが残る。真耶と園城氏が微笑みながら見守る中、待ち望んでいたひと口を嗜む。

 口蓋に薫りが広がる。それは薔薇のように華やかであり、熟したベリーのような甘く若々しいものだ、けれど、その印象を覆すようにもっと深く複雑な薫りが続く。甘い葡萄そのものが一瞬感じられ、極上の蜂蜜を口にしたときのような濃厚な一撃が続く、そして、それは薫りではなくて味覚なのだと自覚する間もなく、喉の奥を通って灼熱の何かが消えていく。鉄、それとも、血潮? なんて深い……。

 瞼を開けると、二人はまだ僕を見ていた。が、その微笑みはもっとはっきりしている。
「感想も出ないってわけね」
真耶が自分のグラスを持ち上げると、僕はたっぷり五秒くらい使ってようやく口を開いた。
「ああ、真耶。このお礼に、何でもいう事をきくよ」
親娘は顔を見合わせて吹き出した。

「だったら、再来月、つき合ってもらおうかしら」
「何に?」
「ボランティアでミニ・コンサートを企画しているの。テレビ局の密着取材つき。で、伴奏者が必要なんだけれど、絵になる方がいいって言われちゃったのよ。一週間くらいスケジュール開けて」

「再来月? イギリス公演と北海道コンサートツアーがあるんだぜ。一週間!」
「なんとかしてくれるでしょう、私のためなら」
僕は頭を抱えた。この僕に、こんな無茶をしかけてくるのも真耶一人だけだ。いや、それをなんとかしてしまおうと思わせる、特別なやり方を心得ているのはって意味だが。

「なんとかって。せめて、初見の曲を弾かせたりしないでくれよ。本当に時間がないんだ」
「大丈夫よ。シューマンの『おとぎ話の絵本』」

 それならちょっとは安心だ。この曲ははじめて二人でやったミニ・コンサート以来、何度もやっているから、大して合わせなくてもなんとかなる。頭の中で素早く予定調整をしながらぶつぶつとつぶやいた。
「お前って、例のドイツ人に難題をふっかける蝶子そっくりだ」

 その言葉を聞いて、真耶の眉が少し顰む。彼女は立ち上がって、ライティング・デスクに置かれていたハガキを持ってきた。ガウディのサクラダ・ファミリア、つまりバルセロナから届いたんだな。

「また三人の名前しかないのよ」
僕は真耶から葉書を受け取る。

「どうしている? キノコが美味しい季節になったので食べてばっかり。また太っちゃう。蝶子」
「タレガのすげー欲しい楽譜見つけたんだけど高過ぎ。買うか三日悩んでる。稔」
「日本で食べた黄身餡そっくりなお菓子を見つけたんですよ。また日本に行きたくなりました。レネ」

 あのドイツ人の名前がない。真耶が心配している事情。僕には予想がつく。あの男は三人のもとを去ったのだろう。蝶子が事実を知り、受け入れられなかったのだろう。無理もない。だが、それは推測に過ぎない。そして、その推測の元になる事実、僕が偶然知った事を口にする事は出来ない。あのドイツ人と約束したのだから。このハガキの様子だと、蝶子の精神状態はそんなに悪くなさそうだ。だったら、早く事情を真耶に言ってくれよ! 真耶に、この僕が秘密を持ち続けなくてはならないこの苦悩を察してくれ!

 僕はもうひと口、アマローネを飲む。真耶の瞳を避けるために酔ってしまいたいと思うが、この酒は僕を全く酔わせない。たまにこういう酒があるものだ。アルコールは強いはずなのに頭に向かわず、喉から体の中、たぶんハートに向かって消えていく。何本飲んでもなんともないはずだ。残念な事に、二本めは存在しないので確かめようがないが。

「ほら。感想はまだなの?」

 そういわれても、適当な言葉が出てこない。豊かなボディー。薫りが口の中に広がる。そんなありきたりの言葉で表現するのは冒涜のように感じられる。
「たったひと言で表現できるはずなんだけれどな。この、深く複雑なのに明瞭に突き抜けた感じ。ぴったりする何かを知っているはずなんだ」

 真耶がそっと微笑む。例の化粧品のCMで見慣れた、最上級の微笑みだ。熱烈なファンの男たちが見たら、僕を殺したくなるに違いない。

「それはそうと、真耶」
園城のおじ様が咳払いをした。
「お前、結城先生から回ってきた縁談の報告はしたのか?」

 僕は、もう少しで何よりも大切なアマローネを吹き出す所だった。
「どうしたのよ、拓人」
「い、今、なんて?」
親子は顔を見合わせた。

「拓人ったら知らなかったの?」
「君のお父さんが縁談を持ってくるなんて珍しいから、私はてっきり君が裏で糸を弾いているのかと……」
「んなわけ、ないでしょう。そんなことをしたら、真耶に叱り飛ばされるに決まってんのに。親父のヤツ、何を考えて」

「いやあ、さすが結城先生が紹介してくださるだけあって、すごい方だったよな、真耶」
僕は恐る恐る真耶の顔を見た。真耶はワインを優雅に飲むとそっと赤い唇を開いた。

「そうね。申し分のない方ね。本物の紳士で、驚くくらい見識が深いの。それに素晴らしい人格者なのよ。スポーツも万能みたいだったし」
「なんだよ、それ。胡散臭いじゃないか。女たらしじゃないのか」

 真耶は声を立てて笑った。
「あなたにそんな事を言われるなんてお氣の毒だわ。本人は女性とつき合った事が少なくてとても緊張するっておっしゃっていたのよ」
けっ。どうだか。

「で、どうするんだ?」
父親の言葉に真耶は肩をすくめた。
「どうするって、お断りしたわよ」
「何故?」

 困惑する父親に真耶はきっぱりと言った。
「他の事はすべて申し分なかったんだけれど、結婚したら家庭に入ってほしいって言われたの。それって、演奏活動をやめろってことでしょう。無理よ。結城の叔父さまには先ほど謝罪の電話をした所なの」

 どこかホッとしている事を自分でも意外に思っていた。僕も真耶も、お互いに自由に生きながら、何でも話し、ときどき一緒に演奏する、子供の頃から変わっていない関係はずっと続くんだと思っていた。でも、それは本当は永遠ではない。そして、だからこそ、どんな存在にも分たれる事のない僕たちのこの芳醇なひと時は何にも増して愛おしいのかもしれない。

 もうひと口、アマローネを口に含んで、不意に思い当たった。正統的で誰にでも好まれるのに単純ではない味わい。濃厚でありつつ、突き抜けた明快さ。文句のつけようのない最高の存在。
「真耶。お前のヴィオラの音だ」

 文脈が飛んだので、一瞬わからないという顔をした後、アマローネの形容だと得心して、彼女はもう一度、例の最高の微笑みを見せた。

(初出:2013年10月 書き下ろし)
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Posted by 八少女 夕

『北人伝説』

前回の記事と「霧」つながりで、霧が重要なモチーフになっている作品の話。

先日、「くり返し見ている映画や本はありますか?」というトラックバックテーマで紹介したけれど、ベストセラー作家の作品なのに、誰も知らなかったみたいなので、ちょっと紹介します。

「北人伝説 (Eaters of the Dead)」は、「ジュラシック・パーク」や「アンドロメダ病原体」で有名なマイクル・クライトンの小説です。彼にしては珍しく時代物で、西暦900年頃の実在したバグダットの官僚イブン・ファドランがひょんなことから北欧のバイキングに混じって旅をし、恐ろしい敵と戦うストーリーです。小説ですからフィクションなのです。でも、手法がすごい。学術論文風なんですよ。当時の風俗や考え方を巧みに取り入れた論文風の語りを読んでいるうちに、どれが事実でどれがフィクションか全くわからなくなってくる。そして、いつの間にかストーリーに完全に引き込まれているのです。

この作品、アントニオ・バンデラス主演「13ウォーリアーズ」として映画化されています。私はバンデラス大好きですが、この作品に関しては小説を愛し過ぎているので一人であちこちにつっこんでいました。

映画ではかっこいいのは当然イブン・ファドラン役のアントニオ・バンデラスです。でも、違うんです。この小説で惚れるのは、バイキングの首領ブリウィフです。この男のためなら、殺されて一緒に薪の上で焼かれてもいい〜、と思うくらいいい男です。

この小説、あまりに好きなので、ボロボロになった愛読版と保存版の二冊の文庫を持っているのです。

残念ながら、私の愛している表紙絵バージョンだけでなく、アントニオ・バンデラスの表紙のものも絶版のようですが、図書館や古本でもし見かけたら、ぜひ読んでみてくださいませ!

北人伝説
『北人伝説』

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Posted by 八少女 夕

霧の季節

霧の季節

ブログのネタ探しにこの時期の写真を歳をまたいで見てみたら、氣付いた事があります。霧の写真が多いのです。

実は、スイスの他の地域に住んでいたら霧なんて珍しくないし見たくもないと思うのですよ。この時期から春になるまでずっとどんよりしょっちゅうスープみたいに深い霧に覆われるというのがふつうのパターンらしいからです。でも、私の住んでいるグラウビュンデンは違うのです。スイス中が霧の中でも、ここだけは真っ青な空というパターンが多い。基本的に私にとって霧とは写真に撮りたくなる珍しい光景なのです。

山道で霧だなあと思いながら通り過ぎたらしばらく下った所で「ああ、あれは雲だったんだ」と認識する事がよくあります。霧の中にいるのと、雲の中にいるのは、その場にいる者にとっては違いがなくて、自然現象としても同じものなんですよね。その事から、霧が出ると「ああ、私は山に住んでいるんだった」と思い出すわけです。

それでも、珍しいので写真を撮ってしまう。そして、ふいに認識する。これってこの季節の特徴的な現象なんだと。

フランス革命の時に設定された暦でも、この時期はBrumaire ブリュメール(霧月)というのですよね。
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