のどかに見えますが

ついでに写真に映っているのは、せっかくだから木立の下でピクニックをした証拠写真。かなり暑い一日でした。自家製のホルンデルシロップとサンドイッチ、それにスティック野菜という簡単なメニューでしたが、緑豊かな庭で食べるとそれだけで五割増くらい美味しくなるようです。
ピクニックの後はさくらんぼとの戦いが待っていました。10kgぶんの種をとりのぞき、1.5kgをジャム、1kgをシロップ漬け、1.5kgをラム酒漬けにして、残りは冷凍です。
さて、今年のさくらんぼは去年のと違って、かなりの確率で中に白いなんかの幼虫がいたのですよ。洗っているうちにびっくりして自主的に出てくるのはいいとして、種をとっても残ってしまったヤツもいて、これが茹でたりお酒に漬けたりすると出てくるのですね。で、それを必死で取り除きます。濃い赤の中で白いヤツはすぐに目につきます。
日本の方、とくに女性で「虫が入っていたさくらんぼなんか捨てる」ってスタンスの方いらっしゃいますよね。そういう方は、田舎では暮らさない方がいいと思います。農薬を一切使わない有機栽培の植物で、虫が触っていないものはほとんどありません。虫や傷んだところを取り除き、加熱やアルコール消毒して食べるのが古来の人間のあり方ってものです。「ハエがとまった皿は下げてもらう」なんて潔癖性ではここでは暮らせません。(これでもアフリカよりずっと清潔です。そのアフリカでも私はお腹も壊しませんでした)
「スイスの田舎って、のどかで素敵なところよね。私もそっちで暮らしたい」と友人に言われる(これがまたよく言われるんだ……)と、心の中で思うことがあります。「いや、あなたには無理だよ」と。「アルプスの少女ハイジ」の干し草のベッドや美しいマッターホルンの写真に憧れている人には見えない部分です。放物線を描いてまき散らされる堆肥(つまりウン○)の横を平然と通り過ぎ、一度に数匹のハエを叩き潰せるようになり、雨後に大量のミミズとナメクジを避けながら道を歩く世界です。レストランにハエがいたと苦情を申し立て、つり革につかまったくらいで滅菌が必要と騒ぐ清潔好きな方々には想像もできない世界だと思います。
そういえば、もっと別の次元でも「それは無理」と思ったことがありました。昔の同僚が私がスイスに暮らしていると知ってメールを頻繁にくれたことがあるのです。その人は繊細なところがあって、職場の人間関係で悩みうつ病を発症してしまったということでした。そして、日本社会は暮らしにくいので夫婦でスイスに移住したいと相談してきたのです。二人ともスイスとは縁もゆかりもないドイツ語もできない日本人のカップルです。
できるだけ傷つけないように、けれども率直に話しましたが、日本人が日本社会の人間関係で生きにくいと思うなら、スイスで生きやすいということはまずありません。日本人のように相手のきもちを慮って言葉を選ぶような人びとではありません。ドイツ語系スイス人は、礼儀正しく距離を置いてくれるタイプの人が比較的多いですが、言いたいことはびしっと言います。その他に口よりも先に手が出る移民系の人びと、アジア人を見ると無条件で馬鹿にする子供たち、外国人にかなりつれないお役人など、日本に住む日本人が滅多に経験しないようなショックな対応にいろいろと晒されます。そういう時に「ま、いっか」と流せない繊細な神経をお持ちの方はひどく傷つくことになります。
スイスは外国の中ではいろいろな意味で過ごしやすいいい国だと思っていますが、ユートピアではありません。裸足で山羊を追い回しているのどかな世界ではないのです。
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うちのキャラで分野別No.1を選んでみた
◆名前が長い No.1
アーデルベルト・ヴィルフリード・フォン・エッシェンドルフ from「大道芸人たち Artistas callejeros」
カタカナで書くの異様に面倒くさいです。おとーちゃんも名前長いし。第二部でのフルネームはさらに長くなる予定。ちっ。
ところで先日書いた冗談作品の中で出した
◆人氣 No.1
四条蝶子 from「大道芸人たち Artistas callejeros」
他にも摩利子とか真耶とか、女傑系の人氣が高いように思うんだけれど、主役を張っているのはこの人。あと、美人のヒロインが極端に少ない私の小説群で、好き嫌いが別れるものの一応美人。性格に難ありだけれど。
◆胡散臭い No.1
団長ロマーノ・ペトルッチ from 「夜のサーカス」
見かけもだけれど、やることのすべてが胡散臭い。そして、打たれ強い、私のキャラの中では随一のしょーもないお方。
◆一番位が高い
グランドロン国王 レオポルド二世 from 「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」
まだ登場していないけれど、国王だから。まだ皇帝ってのは書いたことがないので、人間では王様が最高位です。さっさと本編を終わらせて、この人のお話を書きたいけれど、本編ではまだ登場もしていないんですよね〜。
人間以外を含めると、ああ、樋水龍王神だろうな。
◆最も悪いヤツ
ミハエル・ツィンマーマン from 「夜のサーカス」
名前だけで登場しなかった人だけれど、極悪人キャラでした。主人公を殺そうとしていたしね。
◆「おいおい」度 No.1
ジュリア・ド・バギュ・グリ from 「森の詩 Cantum Silvae」
断片小説でしか出てきていないのに、トンデモぶりでは群を抜いているお姫様。身持ちは悪いわ、態度は偉そうだわ、遁走しちゃうわ……。
◆上から目線 No.1
俺様ネコ from 「タンスの上の俺様」
もともとは招き猫。上から目線で高飛車だけれど、特に何かが出来るわけではない。
◆へたれヒロイン
高橋瑠水 from 「樋水龍神縁起 Dum Spiro Spero」
いろいろと迷走してくれました。連載中も流されまくって読者をヤキモキさせたダメなヒロイン。
◆今年脚光を浴びた人
谷口美穂 from 「マンハッタンの日本人」
去年書いたまますっかり忘れていた所、今年の「scriviamo!」でポール・ブリッツさんに掘り起こしていただいたのを皮切りになぜか起用が相次いだ。
◆謎のキャラ、ここだけは首位が二人
斉藤専務 from 「リナ姉ちゃんのいた頃」
名前は出てくるけれど、未だにどんな人だかよくわからない。主人公の母親に言わせると「あの人には逆らわない方がいい」らしいけれど。
ファナ・デ・クェスタ from 「ヴァルキュリアの恋人たち」
本人が出てこない。ビゼーの「アルルの女」みたい。「神話系お題」シリーズのために書いたけれど、設定すらない謎のキャラ。
◆出てきてすぐに死んだ人
瑠璃媛 from 「樋水龍神縁起」 (この小説は別館に隔離中)
平安時代の有名な御覡(巫女)なのだけれど、悲恋の末、たった一章の中で死んでしまいました。小説はその生まれ変わりがヒロイン。
◆最高齢者
アントニオ from 「狩人たちの田園曲」
79歳のお爺ちゃん。成り行きで結婚したけれど、60年も添い遂げてけっこう幸せみたいです。
◆甘い物が好き
クリストフ・ヒルシュベルガー教授 from 「教授の羨む優雅な午後」
日本に来てあまりのスイーツのレベルの高さに狂喜乱舞していました。ひげを生やした厳格な教授、のはず。
あ、よかったら、みなさまのキャラでも遊んでみてくださいませ。っていうか、みなさまのを読みたいなあ……。
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夕暮れのドウロ河

作品の中でドラガォンの館が建っているということになっている場所は、現実には空き地です。連れ合いの友達がかつて住んでいたという場所で、三年前にはじめてポルトに行った時に連れて行ってもらいました。写真はどうやってもあの光景を映し出せなくて、「ふ〜ん」という出来になってしまっていますが、実際には声もでないような絶景でした。
連れ合いがはじめてこの場所に立ったのは二十年も前でした。彼の人生でもあまり幸福とは言えない時期でした。それから時間が経ち、道連れも出来て、世界遺産となってきれいになったポルトを歩き、全く違う光景に見えると言っていました。
風景は同じようにそれぞれの視界に入りますが、それを見てどう感じるかはその時の心のあり方によって違います。小説の中で、登場人物たちが同じ光景を見つめるシーンを何度も書いています。季節と心のあり方と状況とが少しずつ動いていく様子を、風景を眺めるという記述で描き出そうと決めたその原点が、連れ合いと眺めたこの光景にあります。

この記事を読んで「Infante 323 黄金の枷」が読みたくなった方は……
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【進捗状況】
まだ若干残っているところがあるのですが、八割五分くらい書き終えました。この話、今年の三月まで存在してもいなかったなんて、自分でも信じられないですね。ここ数ヶ月、こればっかり書いていたから、なんか一年くらいつき合っているような印象あり。
書き出した頃と比較すると、脇役のエピソードがいっぱい出来ているのだけれど、本編ではそれを全部隠して、時々数行くらいチラッと書くぐらいにしています。そうしないと、話がぶれる。
でも、そのエピソードが後ろにあることが、主人公たちの行動のもとになっているので、もうちょっと開示した方がいいかなあと、若干調整中。
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【小説】Infante 323 黄金の枷(2)腕輪をした子供たち
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Infante 323 黄金の枷(2)腕輪をした子供たち
十歳だったマイアは泣きながら細い路地を歩いた。坂の多いこの街の、華やかな川岸とは対照的な灰色の小路だ。宿無したちのぬくもりが残っているような、抜け殻のように見えるボロボロの毛布が、壁のくぼみに見えていた。そこは小便臭い一角で、マイアは息を殺して足速に通り過ぎる所だった。でも、今日はそこに辿りついた事すらも氣がつかなかった。
左の手首にしっかりと巻き付いた金の腕輪を外したかった。全てはその腕輪のせいで、それさえ外せたなら何もかも妹たちと同じようになれるのならどんなにいいだろう。けれど、マイアにはもうわかっていた。それは腕輪のせいではなかった。マイア自身が妹たちとは違っていて、その違いをはっきりとわかるようにするためにこの腕輪を付けられているのだと。
マイアの母親、やはり金の腕輪をしていたテレサが亡くなったのは三年前だった。マイアが忘れられないのは、葬儀の前に黒い服を着た男たちが来て、母親の黄金の腕輪を外した事だった。その腕輪は誰にも外せないと言われていたのに、かちゃっと言う音がして外れた。マイアは男たちに自分の腕輪も見せた。
「これもはずして」
男たちは笑いもせずに言った。
「まだ、だめだよ」
「でも、妹たちはしていないよ」
「その通りだ。妹たちは星を持たない子、君は紅い星を一つ持つ子なんだ」
男たちのいう意味はよくわからなかった。でも、マイアの手首にぴったりとついた腕輪には赤い透き通った石が一つついていた。亡くなった母親の腕輪には同じ石が二つ付いていた。
母親が生きていた頃、マイアにわかる妹たちとの違いはそれだけだった。それから三年経って、父親の態度が変わったのではない。父親はマイアと妹たちとに違った愛情を注いだわけではなかった。たとえマイアだけが彼の本当の娘ではなかったとしても。けれども、彼はマイアにわかりやすく説明する事ができなかった。
――なぜ、マイアだけ学校の遠足に行ってはいけないのか。
――なぜ、マイアだけ船に乗ってはいけないのか。
――なぜ、マイアだけ金の腕輪をしなくてはいけないのか。
納得できるような理由は誰も言ってくれない。葡萄畑の広がるのどかな渓谷。D河を遡る遊覧船に乗って明日級友と妹たちを含む学校の生徒は遠足に行く。隣国との国境を超えるので、子供たちは皆パスポートを用意させられた。二年前に行けなかったマイアは、今度こそ行けると喜んでいた。それなのに、妹たちが手にして見せあっているパスポートを、マイアだけがまたもらえなかったのだ。
「ごめんな。マイア。父さんが提出した書類に間違いがあったらしいんだ。それでお前の申請書だけ戻ってきてしまったんだよ」
マイアは泣きながら街を歩いた。海からの風がマイアの頬に触れて通り過ぎていく。カモメは高く鳴いて飛んでいく。理不尽な事ばかりだ。
暗くて冷えた石造りの壁。明かりの入ってくる窓には彼の手首ほどもある太い鉄格子が嵌まっている。彼はその錆臭い格子をつかんで外を見た。停まっていたカモメがさっと飛び立った。どこまでも続く赤茶けた屋根の上を悠々と飛んでいく。彼の目はその飛翔をずっと追っていたが、やがて格子をつかんでいるみっともなくやせこけた自分の手に視線を移した。左の手首にぴったりと嵌まった金の腕輪だけが、キラキラと美しく輝いていた。D河の向こうを目指してゆっくりと沈んで行く太陽の投げかけた光が、腕輪にあたり鋭く目を射た。彼は格子に額を押し付けて瞳を閉じた。
マイアは坂道を上りきった。車や人びとが行き交い、華やかなショウウィンドウが賑わう歴史地区の裏手に、D河とその岸辺の街並に夕陽のあたる素晴らしい光景が広がっている。ここは貧民街の側でもあるが、どういうわけか街でも一二を争う素晴らしい館が建っていて、その裏庭に紛れ込むと夕景を独り占めできるのだった。
その館が誰のものであるのか、幼いマイアはよく知らなかった。父親は「ドラガォンの館」と言っていた。門の所に大きな竜の紋章がついているからだ。竜はこの街の古い紋章でもあるので、マイアはこの館は昔の王族の誰かが住んでいるのだろうなと思っていた。テレビで観るようにまだ王様が治めている国もあるが、この国は共和制でもう王様はいない。だから大きな「ドラガォンの館」が何のためにあるのか、マイアにはよくわからなかった。
彼女は四つん這いになって、生け垣の間の小さな穴を通って、館の裏庭に侵入した。生け垣のレンギョウは本来なら子供が入れるほど間を空けずに植えられているのだが、ここだけは二本の木が下の方で腐り、それを覆い隠すように隣の木の枝が繁っていて大人の目線からは死角になった入口になっていた。ここを見つけたのは秋だった。自分だけの秘密。見つかれば二度とあの光景を独り占めできないことはわかっていた。
緑と黄色のトンネルを通って下草のある所に出た。手のすぐ近くに草が花ひらいていた。三色すみれだ。マイアはまた少し悲しい顔をした。

このイラストの著作権はユズキさんにあります。ユズキさんの許可のない使用は固くお断りします。
花弁の一番上だけ、他の花びらと異なっている。父親の出稼ぎ先であるスイスで生まれ育ったジョゼが言った。
「この花ってさ。ドイツ語だと継母ちゃんっていうんだぜ」
「どうして?」
「ほら、みろよ。同じ花の中に、三つは華やかで上だけ地味な花びらだろ。この派手なのがいい服を来た継母とその実の娘たちで、地味でみんなと違っているのが継子なんだってさ」
ジョゼはマイアのことを当てつけて言ったわけではない。彼は転校してきたばかりで、マイアの家庭の事情には疎かった。それに彼女は継母にいじめられている継子ではなかった。妹たちとは同じ母親から生まれたし、実子でないからと言って父親に差別されたりいじめられたりしたこともなかった。単純に母親が死んでから、マイアの周りには腕輪をしている人間が一人もいなくて、それがマイアを苦しめていただけだった。
マイアは三色すみれを引き抜いてレンギョウの繁みに投げ込んだ。花に罪はないのはわかっていたが、理不尽に憤るまさにこの夕方に彼女の前に生えていたのがその花の不運だった。
彼女は涙を拭うと、忍び足で裏手の方へと向かった。空はオレンジ色に暮れだしている。カモメたちの鳴き声も騒がしくなってきた。きっと今日はとても綺麗な夕陽が観られるに違いない。明日の船旅には行けないのだ。明日だけではない。きっとマイアはずっと船に乗せてもらえないだろう。どこまでも続く悠々たるD河を遡って、それとも、大きな汽船に乗って、いつかどこか遠くに行きたい。一人で夕闇に輝くPの街を眺めるとき、マイアはいつもそう願った。
大きく豪華な館の側を通る時は、見つからないように慎重に通り抜けた。けれどしばらく行くと、ほとんど手入れもされていない一角があり、みっともない石造りの小屋が立っていた。きっと昔は使用人の住居だったのだろう。けれど今は廃屋になっているようだった。その石の壁に沿って進み、小屋の裏側に出ると、思った通り空は真っ赤だった。そしてD河も腕輪の黄金のようにキラキラと輝いていた。
「わあ……」
マイアは自分の特等席と決めている放置されている大理石の一つに腰掛けると、足をぶらぶらさせた。
「お前、誰だ?」
突然声がしたので、マイアは飛び上がった。
怖々後ろを振り返ると建物の下の方に小さな窓があった。錆びた鉄格子が嵌まっている。誰もいないと思っていたのに、しかも薄暗い地下室のような所に誰かいる。その声からすると子供のようだった。マイアはそっと目を凝らして中を覗き込み、それから顔をしかめた。浮浪者の子供かしら。黒いボサボサの髪はずっと洗っていないようだったし、薄汚れた服や肌から何とも言えない悪臭を漂わせていたのだ。
「お前、誰だ」
その少年は問いを繰り返した。マイアは闖入者であったが、その少年を同じように侵入して閉じこめられた浮浪者だと思ったので、謝ろうというつもりはなくなった。
「夕陽を観に来たの。泥棒じゃないわ」
少年は「そんなことを訊いているわけじゃないのに」という顔をしたが、マイアが立ち去ろうとすると慌てて言った。
「夕陽を観てから帰れよ。これからもっと綺麗になるぜ」
マイアはそういわれると、余裕ある氣もちになって、つんとすまして自分の定位置に座った。けれど、そうすると少年に背を向けることになったので、一分もすると落ち着かなくなって、少年の方を振り返った。
「なんで、そこにいるの?」
「いなきゃいけないから」
少年は口を尖らせた。マイアよりもずいぶんと年上のようだった。もう中等学校に行くぐらいだろうか。でも、こんなに臭くて汚い子がクラスにいたらみんな迷惑だろうなと思った。
「ここに来たのははじめてじゃないんだろう?」
少年が訊くと、マイアはこくんと頷いた。
「今まで誰もここにいなかったし、見つからなかったの」
それから二人は黙って夕陽を眺めていた。カモメが何羽も連なって、水面に近づいたり高く舞ったりしている。樽を運ぶ小舟ラベロがゆっくりと行き来している。鉄製の美しいドン・ルイス一世橋が夕陽に照らされていた。あたりが少しずつ涼しくなっていき、憤っていたマイアの心が少しずつ落ち着いてきた。この街は美しい。泣きたくなるほど美しい。遠足に行けなくて、一日一人でいられる時間ができたのだから、また街を探検しようかな。
「俺、誰にも言わないから、また来いよ」
少年は突然言った。マイアははっとして鉄格子の中を再び見た。そして、格子をつかむ彼の左手首に黄金の腕輪があるのに氣がついた。
「あ」
マイアの視線で彼は格子から彼の左手首をさっと隠したが、同時にマイアの左手首にある同じ腕輪を眼にして目を見開いた。
「腕輪……」
マイアはそっと少年の方に近づいて自分の左手を差し出して彼によく見えるようにした。すると彼もまた、その手首をマイアに見せた。それはまったく同じ黄金の腕輪だったが、彼の方には青い石が四つついていた。マイアはつぶやいた。
「腕輪している子、はじめて見た……」
それを聞くと少年は口元を歪めた。
「たくさんいるんだよ。普段は見ないけれどね」
「この腕輪のこと、知っているの?」
少年は黙って頷いた。とても悲しそうだったので、マイアはきっと彼も腕輪を外したくて苦しんでいるのだと思った。
「教えてくれる?」
彼は唇を噛んで少しだけ考えていたが、やがて言った。
「……長くなるよ」
マイアははっとした。いつもよりも遅くなっている。
「それはダメ。今日はもう帰らなきゃ。でも、また来たら教えてくれる?」
「またっていつ? 明日?」
マイアは目を見開いてから頷いた。
「うん、いいよ。明日は一日暇だから、昼から来られるよ」
それから少し眉をひそめて続けた。
「明日来るとき、大きな石けん、もってきてあげる。あなた、汚すぎるもの」
少年の顔は真っ赤になった。マイアは悪い事を言ったかなと思い取り繕うように言った。
「あたし、マイア。あなたは?」
少年は小さい声で言った。
「23」
「……」
マイアは馬鹿にされたのだと思った。そんな名前があるわけないでしょう。腹が立ったので、さよならも言わずに大股で歩み去った。少年は懇願するように後ろから言った。
「明日、来るだろう? ちゃんと洗うから……」
マイアは戸惑って、後ろを振り返った。格子にぶらさがるようにこちらを見ている少年の目はとても悲しそうだった。その目を知っていると、マイアは思った。左手首の腕輪が目に入った。思い直して、小さく頷いた。
「うん。たらいも持ってくるね。髪を洗うの、手伝ってあげる」
彼が笑ったので、嬉しくなってマイアも笑った。小さく手を振ると、彼女は建物の角を曲がって急いで出口である生け垣へと急いだ。辺りはどんどん暗くなっている。早く帰らないとお父さんが心配する。家出したと思われちゃう。
生け垣の所でかがむと別の三色すみれが目に入った。先ほどみたいには悲しくなかった。色の薄いすみれの花弁は、もう自分だけではない。あの汚い子とはきっといい友達になれるだろうな。そうだ、家にあるとても大きいすみれの香りの石けんを持ってきてあげよう。マイアは、そう思った。
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【小説】大道芸人たち 番外編 白い仔犬 - Featuring「ALCHERA-片翼の召喚士」
フェンリルは、ユズキさんが連載中の異世界ファンタジー「ALCHERA-片翼の召喚士-」に出てくる白い狼の姿をした神様です。本当の姿を現わすと一つの街がつぶれちゃうくらい大きいので、普段は白い仔犬の姿に変わって常にヒロインの側にいます。本文の描写の中でも可愛いのですが、ユズキさんご本人の描かれる挿絵の仔犬モードフェンリルも、とってもキュート!
大好きなフェンリルを貸していただいたので、どうしようかなと悩みましたが、こんな感じでわずかな時間だけ四人につき合っていただくことにしました。舞台は、フランスのモン・サン・ミッシェルです。どなたもお氣になさっていないかと思いますが、「大道芸人たち Artistas callejeros」は2045年前後の近未来小説なので、モン・サン・ミッシェルに関する記述の一部もそれを意識したものになっています。
【追記】なんとユズキさんがご紹介記事を書いてくださり、その中にフェンリルを隠しているヴィルを描いてくださりました!嬉しい! ものすごく男前(だけど笑える)なのです。みなさま、いますぐユズキさんのブログにGO!
【大道芸人たちを知らない方のために】
「大道芸人たち Artistas callejeros」は2012年に当ブログで連載していた長編小説です。興味のある方は下のリンクからどうぞ


あらすじと登場人物
大道芸人たち Artistas callejeros 番外編
白い仔犬 - Featuring「ALCHERA-片翼の召喚士」
潮が引いた。朝もやの中に城塞のように浮かび上がるのは大天使ミカエルを戴いた島だ。その優雅な佇まいを見て稔は感慨深くつぶやいた。
「これがモン・サン・ミッシェルか……」
天使の砦を覆っていた霧が晴れ四人を誘うように隠れていた橋が浮かび上がった。かつては常にこの島へと渡れるように道が造られていた。ところがこの道のせいで堆積物が押し寄せ、海に浮かんでいた幻想的な島はただの陸続きの土地となってしまった。再び工事をして道を取り除き海流が堆積物を押し流すまでかなりの時間がかかったが、今では潮の満ち引きで完全に島となる時間がある。
「行くぞ」
荷物を肩に掛けた。蝶子もベンチから優雅に立ち上がった。残りの二人が後ろから続いてくる様子がないので振り向くと、レネがぽうっとした様相でバス停の方を見ている。
「何よ。また美人でもみかけたの?」
「ええ、パピヨン。いまそこに、本当に素敵な女性がいたんですよ。長い金髪で青空のような澄んだブルーのワンピースを着ていて……」
「はいはい、わかったから。ここにいたなら、その女性も間違いなくあの島に行くだろうから、早く行きましょ。ところでヴィルはどこに行っちゃったのかしら」
「え。さっきまでここにいたのに。あれ?」
レネはキョロキョロとドイツ人を探した。二人は同時に少し離れたところでかがんでいるヴィルを見つけた。
「何してるの? 早く行きましょうよ」
蝶子が覗き込むと、ヴィルは顔を上げた。それで、彼の足元にいた白い仔犬が見えた。
「ひゃっ。可愛い!」
レネが叫ぶ。つぶらな目をまっすぐに向けたその仔犬は、ヴィルが背中を撫でるままにさせていたが、レネの賞賛に嬉しそうにするわけでもなく、蝶子の「あら」という冷静な反応に反発するようでもなかった。つまり、尻尾も振らなければ、唸りもしなかった。
「ここにいたんだ。親犬か飼い主とはぐれたのかもしれない」
ヴィルが無表情のまま言った。レネと蝶子は顔を見合わせた。人間の赤ん坊が泣き叫んでいても、いつものヴィルなら無視して横を通り過ぎるだろう。その彼が、仔犬の心配をしている。びっくりだ。
「おい、お前ら、いったいいつ来るんだよ」
先を歩いていた稔も戻ってきた。そして、ヴィルが仔犬から離れられないでいるのを見て目を丸くした。
「意外でしょ? 犬の方は、そんなに困っているようには見えないんだけれどね」
蝶子がささやいた。稔は宣言した。
「いいから犬ごと来い。早くしないといつまでも島に行けないぞ」
その言葉がわかったかのように、白い仔犬はすっと立ち上がり、稔の側まですたすたと歩いてからヴィルの顔を見上げて「早く行こう」と言わんばかりに頷いた。ヴィルが呆然としているので蝶子とレネはくっくと笑った。
カトリックの聖地として、サンチャゴ・デ・コンポステラへの巡礼地の一つにもなっているモン・サン・ミッシェルだが、もともとここはケルト人たちが「墓の山」と呼ぶ聖地だった。ここから遠くないブルターニュ地方では、今でも人びとはケルト系の言語を話している。
遠くから見るとまるで一つの建物のように見えるが、実際には頂上に戴くゴシック様式の尖塔を持つ修道院へと旋回して登っていく門前町だ。路地は狭く、そこに観光客がひしめくので曜日と時間帯によってはラッシュアワーのパリの地下鉄のような混雑になってしまう。幸いまだ朝も早いので、それほどの混雑ではなかった。
四人と一匹は朝靄が晴れたばかりの清冽な時間をゆっくりと進んでいった。島内のホテルに宿泊した観光客たちはまだ朝食にも降りてきておらず、普段は観光客でごった返す名物のスフレリーヌを提供する「la Mère Poulard」の店の前にも誰もいなかった。とはいえ、そんなに朝早く食べる類いのオムレツでもなく、それに観光客が大挙して押し寄せるところを毛嫌いするヴィルとレネに配慮して、蝶子と稔は目を見合わせて肩をすくめるだけで前を素通りした。
人出の少ない石造りの道は、どこか中世を思わせ、サン・マロ湾から吹く潮風が時の流れすらも吹き飛ばしていくようだった。一番前を行くヴィルの足元を時には追い越し、時には後ろになりトコトコと歩いていく白い仔犬は静かだった。
「ねぇ、妙な組み合わせじゃない?」
蝶子が囁くと、レネは頷いた。
「犬好きだなんて今まで一度も聞いたことなかったですよね」
それが聞こえたのかヴィルは立ち止まって三人を見た。それから仔犬を抱き上げて頭を撫でながら言った。
「子供の時に唯一の友達だった犬に似ているんだ」
「うわっ。やめてくれ。何だよその暗いシチュエーションは」
稔がびびった。ヴィルは肩をすくめた。
「なんて名前だったの、そのお友だちは?」
蝶子が訊いた。
「クヌート。シロクマの子供みたいだったからな」
「じゃ、この子もシロクマですかね」
レネが仔犬を覗き込んだ。わずかに馬鹿にしたような顔をされたように感じたが、氣のせいだろうと思った。
「シロクマじゃないだろう。どっちかって言うと、白い狼って感じだぜ。それにしても小さくて可愛いのに変わった目してんな」
稔が首を傾げる。
「変わっている?」
犬に詳しくない、というよりもほとんど興味がないために近寄ったことのない蝶子が訊き返した。
「うん。なんかさ、目だけ何もかもわかっている老犬みたいだ。今もテデスコに甘えているっていうよりは、撫でさせてやってる、苦しうないって風情だろ」
「ふ~ん。あれじゃないの。大天使ミカエルが化けているのかも」
「パピヨン、妬けますか?」
「ふふん。そんなわけないでしょう」
そういいつつ、蝶子は仔犬を肩に乗せて歩いていくヴィルをちらりと見てから、ぷいっと別の方向を見た。
修道院についた。中を見学しようと入口に行くと、ペット持ち込み禁止のサインがついていた。三人は黙ってヴィルを見た。ヴィルはまったくの無表情のまま白い仔犬をつまみあげると自分の上着の中に入れてファスナーを閉じた。蝶子はしょうもないという顔をして頭を振った。仔犬はまったく抵抗していない。稔とレネは肩をすくめて何も見なかったことにした。
修道院の中はゴシック式のアーチの連なりが美しく、天井に近い窓からこぼれる光が射し込んで荘厳な雰囲氣を創り出していた。今のように観光客のアトラクションとなる前は、多くの人びとが祈りを捧げてきたのだろう。その前は、ケルトの民が海に浮かぶ特別な山に祈りを捧げてきたはずだ。信仰や歴史のことはわからなくても、特別な場所に立っていることだけはわかる。
「天使か……」
蝶子はぽつんとつぶやいた。
「多くの人たちが祈りを捧げてきたんでしょうね」
レネが並んで上を見上げた。
「後で、外で奉納演奏していくか、いつものように」
稔が言うと、ヴィルも横に並んで黙って頷いた。
外に出ると、ヴィルは上着を脱いで、白い仔犬を外に出してやった。仔犬は黙って四人を見つめていた。稔はギターを、蝶子とヴィルはフルートを取り出して、モンの頂上に立つ剣と秤を持った大天使ミカエルを見上げてから息のあったタイミングでフランクの「パニス・アンジェリクス」の伴奏をはじめた。レネが澄んだテノールで朗々と歌い上げる。
白い仔犬は体を伏せて両前足の上に頭を載せ、目を閉じて四人の奏でる楽の音にじっと耳を傾けていた。
「敬愛する神よ、どうか私たちを訪れてください。あなたの道へ私たちを導いてください。あなたの住みたもう光の許へ私たちが行き着くために」
いつの間にか、彼らの周りには人垣ができていた。人びとは天使の砦に捧げられた「天使の糧」のメロディに心とらわれて立ちすくんでいた。レネが最後の繰り返しを歌い終え、三人が静かに演奏を終えると、しばらくの静寂の後に拍手がおこった。
四人はお辞儀をした。人びとがアンコールを期待して拍手を続けるので顔を見合わせた。
「どうしましょうか」
レネが稔をつついた。
「さあな。その仔犬も期待しているらしいな。しっぽ振ってるぞ」
蝶子は片眉を上げてヴィルに言った。
「ですって。あなた、『こいぬのワルツ』でも吹けば?」
それを聞いて、レネと稔も笑いながらヴィルを見た。ヴィルは肩をすくめてからフルートを持ち上げると、ショパンの「こいぬのワルツ」を吹いた。
仔犬はじっとヴィルの顔を眺めながら流れるような調べに耳を傾けていた。
その曲が終わると、人びとが再び拍手をした。ヴィルは仔犬に手を伸ばしたが、仔犬は観客の後ろかに聞こえてくる別の声に耳を傾けていた。
「フェンリル? どこ?」
白い仔犬はさっと立ち上がるとその声のする方に猛スピードで走り出した。びっくりした観客がさっと道をあけた。すると道の向こうに青空色のワンピースを身に着けたほっそりとした美しい女性が見えた。
レネが「あっ、あのひと」と言った。稔と蝶子は顔を見合わせた。ブラン・ベックのいつものビョーキが始まった、と無言で確認したのだ。
女性めがけて一目散に走り、途中まで行ったところでフェンリルは振り向いた。手を伸ばしたままで無表情に見つめているヴィルのところに戻ってくると、その手をそっと舐めた。それから再び全力で女性の許に走っていき、その細い腕の中に飛び込んだ。
去っていく女性に見とれているレネと寂しそうに立っているヴィルを、稔がぐいっと引っ張った。
「ほら。飯食いにいくぞ」
「お腹空いた。わたし、ブルターニュ風のそば粉のクレープが食べたい。シードルつきで」
蝶子の声で我に返った二人は顔を見合わせて頷くと、荷物を肩に掛けて、女性とフェンリルが去っていったのと反対側にあるレストランに向かって歩き出した。
尖塔のてっぺんのミカエル像は微笑んでいるようだった。
(初出:2014年6月 書き下ろし)
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【小説】半にゃライダー 危機一髪! 「ゲルマニクスの黄金」を追え
ええと、「半にゃライダーって何?」という方、いらっしゃいますよね。もともとはlimeさんのイラストに彩洋さんがつけたお話にちらりとのせた番組名に、私が食いついて8888Hitの記念作品を書いていただき、それがいつの間にか、「スイスを舞台にした新シリーズ、半にゃライダー2」が始まるってことになっていて……。詳しくは彩洋さんのこの作品とその解説をお読みくださいませ(説明放棄の丸投げですみません)
そしてですね。リクエストのお答えしてのこの作品ですが、スイスを舞台にした「半にゃライダー2」という番組という設定の掌編です。100%内輪受けの冗談作品になっています。「半にゃライダー」「大道芸人たち Artistas callejeros」「日本の時代劇」のうち、少なくとも二つはご存じないと意味不明だと思います。また、おちゃらけた冗談作品、内容のない小説は苦手という方もお氣をつけ下さい。
半にゃライダー 危機一髪!
「ゲルマニクスの黄金」を追え
ニゲラの花のように青くて雲ひとつない晴天。子供たちの歓声を受けながら一人の仏蘭西人が手品を披露していた。
「子供たちと親しくなり、情報を得よ」
お上からの命を受け、彼はアルプを見上げる平和な村ドルフリの噴水広場にやってきた。
彼の本当の名前はレネ・ロウレンヴィルというのだが、移住した極東の国の風習に倣い今では楠麗音と名乗ることになった。手妻師は世を忍ぶ仮の姿、彼の正体は隠密同心である。永らく足を踏み入れていなかった欧羅巴に渡ることになったのも隠密支配、内藤勘解由の命によってであった。
同じ頃、ライン河を越えた保養地バート・ラガッツの高級ホテルの温泉浴場では二人の日本人がやはり隠密捜査をしていた。この保養地には、欧羅巴中から多くの富豪が治療のために訪れる。たとえばつい先日も、フランクフルトに住むとある裕福な商人の娘が訪れ、歩けるようになって帰ったという。
「で、なぜ、いきなりこんな際どい入浴シーンがあるわけ?」
黒髪を頭の上にまとめあげ、通常のものよりも布の面積が少ないように思われるビキニを着用して胸の谷間が見える絶妙の位置にまで湯に浸からされ、ぶつぶつ文句を言っているのは篠笛のお蝶と呼ばれる隠密同心。
「あん? 予算がなくて三十分番組なんだってさ。だから、お約束のシーンは出し惜しみしないでガンガンいくんだそうだ」
同僚である三味線屋のヤスは、ニヤニヤと笑いながら役得を楽しんでいる。
「そういうわけで、時間がないので話を進めるぞ。内藤様が事前にキャッチした情報によると、問題が起こっているのはあのアルプだそうだ」
「あの山の上? 山羊や牛が食べる草原以外は何もないところじゃない」
「そう見えるだろ。それなのに干し草づくりをしていた牧人や、チーズ職人たち、それに貧しい山羊飼いたちが、次々と強制退去させられ、断った者たちは事故にあった」
「きな臭いわね」
「そうだろう。で、怪しいとされているのが、あの男だ、ロマーノ・ペトルッチ」
ヤスがそっと示した先には、確かに異様に怪しい男がいた。赤と青の目立つ縦縞の上着を羽織り山高帽をかぶった男だ。プールサイドだというのに。くるんとした髭が自慢らしくしきりにひねり、いくつものプールが見渡せるバーに座っていた。
「何者なの?」
「ドルフリの会計係だ。だが、
「じゃ、ちょっとその会計係を揺さぶってみましょ」
お蝶は勢いよくプールから上がると、係員にバスローブを着せてもらい、さりげなくロマーノの隣に座ってテキーラ・サンライズを注文した。ロマーノは「ほう」という顔をして神秘的なアジアの女を頭から足先まで眺めた。
「泳がないんですか?」
お蝶は魅惑的に微笑みながら訊いた。
「私は眺める専用でして。例えばあなたのように美しい方を」
「まあ、お世辞が上手ですこと」
「お世辞ではありません。実をいうと、私がここにいるのはスカウトのためなのですよ」
「なんのスカウトですか?」
「修道女です」
お蝶は目を丸くした。何もプールでそんなスカウトをしなくても。ロマーノはくるんと髭をしごきながら笑った。
「ご心配には及びません。修道女というのはあくまで形式でして、実をいうと大司教様のお世話をする美しい女性が必要なのです。その、おわかりですね、特別なお世話です」
「まあ、そういうお世話ですか。そういうお仕事なら興味がないわけではありませんわ」
お蝶は納得したという風情で艶やかに微笑んだ。ロマーノは彼女の手をしっかりと握り、「それでは」と言った。
「ところで、どちらの大司教様?」
「クール大司教、ハインリヒ・フォン・エッシェンドルフ様ですよ」
へ~え。それが黒幕ってことかしら……。
「パピヨンは、あんなところで何をしているんですか?」
やってきた麗音がそっとヤスに話しかけた。
「色仕掛けだよ。ところで子供たちの方はどうだった?」
「はい。どうやらあの村の伝説によると、あの山のてっぺんにはラエティア族からローマの将軍ゲルマニクスが奪ったとされる『ゲルマニクスの黄金』が埋まっているみたいです。たぶん、それを狙っているんでしょう」
「なるほど。だから、あんな何もないところを。それで立ち退きはほとんど終わっているのか?」
「いいえ。どうやら偏屈者のアルムオイヒという爺さんとその孫娘がどうしてもどかないらしいです。こちらに情報を提供してくれたヨーゼフという山羊飼いは、どうやらその孫娘のボーイフレンドのようです」
「で、立ち退きを進めさせているのは?」
「村の会計係ペトルッチです。どうやらクール大司教の後ろ盾があるらしく、抵抗した者の娘たちはみな修道女にされてどこかに連行されたとか」
その時、どこからともなくヨーデルが響いてきた。遥か先、川向こうのドルフリからのようである。その響きは何か訴えかけるような痛々しいものだった。
「あれは、なんだ?」
隠密同心たちは、急いで更衣室に向かう。水着では駆けつけられないので。
同じ頃、件のアルプにいたヨーゼフもまたそのヨーデルを耳にした。彼はその意味をはっきりとわかっていた。SOSだ。そして、そのそれを発している女性は、アルムオイヒの孫娘であり、村長の娘でもあるマルガレーテであった。度重なる修道女スカウトをにべもなく断っていたのだが、好色な大司教が実力行使に出たに違いない。いますぐ助けにいかなくては。三十分番組は展開が早すぎる。
しかし、アルプに散らばった山羊をそのままにはしていけない。狼に食べられてしまう。ヨーゼフは必死で口笛を吹き山羊たちを集める。そのヨーゼフを見て助けに立ち上がったものがいた。ずっと登場していなかったが、この番組のヒーローである飼い猫ペーターだ。彼は半にゃライダーの伝統にふさわしい茶色い虎柄の仔猫で、普段はカラスが来ても逃げる。けれども、伝家の宝刀である般若面を被るとちょびっと強くなるのだった。一割増程度。
「変っ身!」
時間が押しているのでサクサクと変身すると、一頭の山羊にまたがり、ドルフリに向かって駆けていった。ヨーゼフは祈るようにその後ろ姿を目で追う。
「頼むぞ、半にゃライダー! 僕もすぐに追いかける!」
ヨーゼフと隠密同心の四人がドルフリに駆けつけた時、半にゃライダーの姿はなかった。そして、村の老人たちが号泣していた。
「マルガレーテと、全ての若い娘たちは修道院に連行されてしまった。それに、あの変な猫も捕まって、クールに連れて行かれてしまい……」
「遅かったか!」
「許せん!」
いつの間にか正装に着替えた四人とヨーゼフは、横に一列に並び、ついでに山羊の群れも道路を占領しつつ片道四時間およそ五里(19km)を徒歩でクールに向かった。
「隠密同心 心得の条 我が命我が物と思わず 武門の儀、あくまで陰にて 己の器量伏し、ご下命いかにても果すべし なお 死して屍拾う者なし 死して屍拾う者なし 死して屍拾う者なし」
「めええ」
クールの大司教館ホーフでは、マルガレーテが民族衣装ドリンデルを脱がせようとするハインリヒ大司教に抵抗していた。
「やめてください! あなたは聖職者ではないですか」
「よいではないか、よいではないか(注)。抵抗しても無駄というもの。お前も、お前の爺さんの小屋の下に眠る黄金もワシのもの。あのお宝さえあれば、枢機卿の座はもちろん、賄賂次第では次の教皇となることも……」
「ふふふ。大司教様も悪ですなあ」
「そういうペトルッチ、お前もな……」
「話は聞いた!」
「だ、誰だっ」
「めええ」
隠密同心たちと山羊の群れは豪華な広間になだれ込む。山羊の匂いにハインリヒは顔を歪める。だがペトルッチは少し安心した顔になった。
「なんだ、さっきの尻軽女たちか。お前も大司教様の愛人にしてやるから、さっさとこちらに来い」
だが、ハインリヒの目は
「そこにいるのは……数年前に家出をしたわが息子、アーデルベルト……なぜお前がサムライの格好をしているのだ」
「げっ。大司教さま! カトリック聖職者のあなた様が隠し子がいることをここで認めちゃ、まずいんじゃ……」
ロマーノが小声で囁く。
「その通り! この俺がお前の悪行の動かぬ証拠だ!」
「徳と祈りによってではなく『ゲルマニクスの黄金』で、枢機卿の座を買おうとする腐りきった性根、言い逃れはできませんよ!」
「さらに、罪のない娘たちを修道女に仕立てて愛人化したことも教会に背く大罪よ」
「それだけではない。村長の座を狙うペトルッチの言葉に載せられてドルフリ村長一家を陥れんとし、あまつさえ一人娘を誘拐したこと、許しがたい! 教皇猊下にありのまま報告する故おとなしくご沙汰を待つがよい」
二人は青くなる。
「な、なんだと? 貴様ら一体何者だ!」
「ローマ教皇猊下の密命を受け、わざわざスイスまでまかり越した。我は隠密同心、
「同じく、手妻師 楠麗音!」
「同じく、篠笛のお蝶!」
「同じく、三味線屋ヤス!」
「そして、この私、山羊飼いのヨーゼフこそ、隠密支配・内藤勘解由!」
「隠密同心に異人が三人もいるのって、どうよ……」
ヤスが小さい声でお蝶に囁く。お蝶は肩をすくめる。
「最近は助っ人異人なしではどの業界も成り立たないって話よ。とくにうちは労働条件が劣悪だからなかなかなり手がねぇ」
「まあな。葬儀代くらい支給してくれないとなあ」
「ううむ。もはやこれまで。こうなったら貴様らもろとも、死んでもらうだけだ。ものども、出あえ、出あえ~!」
後ろの扉をばたんと開くと、その場に全くそぐわない、チープな黒タイツに白い骨のような柄のついた集団が大量に躍り出た。
「イー」
「ちょっと、何なの? あのへんな集団は」
「ショッカーだよ! この番組、半にゃライダーだから」
ヤスが三味線から取り出した仕込み刀を手にショッカーたちに飛びかかっていく。忍者風の衣装なので身軽だ。
「え? 大江戸捜査網じゃないの?」
お蝶は呆然とした。主演ではなく別番組ということは、その他大勢とやり合わなくてはならないというわけだ。不満を表明しても聞いてくれる人がいるわけでなし、諦めてやはり笛の形をした仕込み短刀を取り出してショッカー退治に取りかかった。芸者の衣装は動きにくいことこの上ない。
「この変な集団と殺陣をやるために、俺はこのアバンギャルドな髪型にされたのか……」
「イー」
抵抗することもなく、バタバタと倒れていくショッカーたちに呆れている。
黒地のサテンの衣装に赤い帯を絞めた麗音は、懐からしゅるしゅると取り出した赤い長い絹を投げかける。ショッカーたちはくるくると巻かれて意識を失っていく。
「いいですね~。僕、正義の味方役、好きになりそうです」
「ところで、主役はいつ出てくるんだよ。あと残り8分だぜ?」
ヤスが叫ぶ。すると大司教ハインリヒが「ふっふっふっ」と笑い出した。
「何がおかしい!」
「世を忍ぶ仮の姿なのはお前たちだけではない。我こそ、仮面ライダーの本番組でも活躍した、ハインリッヒ博士よ! 変っ身!」
ハインリヒが自分の大司教の衣装の胸の辺りをつかんで引っ張ると、それは簡単に剥がれて、いつの間にか白衣を来た似ても似つかぬオヤジが立っていた。その手にはケーキが四つ入る程度の四角い箱を持っている。
「ふふふ。ライダーが密室ではエネルギーを作り出せない弱点はこのわしが発見したのだ」
箱の中からはみーみーいう猫の鳴き声が弱々しく響いている。見ないと思ったら、ペーターはそこに捕まっていたらしい。
「なら、箱を開ければいいんでしょ!」
お蝶が肩をすくめた。
「その通り!」
ヤスが三味線のバチをハインリッヒ博士に向けて投げた。それは箱の蓋に引っかかり、バチに括り付けられた三味線の弦をヤスが引っ張ると、簡単に博士の手から離れて空を飛んだ。
「えいっ!」
麗音が懐から取り出したハトが空を飛んで、箱をキャッチし、五人のもとに運んできた。稲架村が箱を開けると、中から般若面を付けたペーターが顔を出した。
「にゃー」
「おい。残りあと五分だから、さっさと決め技を出せ」
ヤスが話しかけるとペーターは「にゃ?」と首を傾げたが、はっと思い出したかのように語りだす。
「ひとちゅ、ヒトのよにょ、いきちをすすり……」
「すみません。もう押しているんで、セリフはカットってことで」
ディレクターの指示が聞こえたので、四人は一斉に駆け出すとハインリヒとロマーノをボコボコにして簀巻きにした。ペーターはまだ続けてセリフを言っていたが、大音響でかかっていた「大江戸捜査網のテーマ」にかき消されてしまった。
五里の道のりを再び徒歩で山羊を連れて帰る集団は、明らかに周囲から浮いていた。服装も変だったが、周りの迷惑も省みずに横に広がって歩くので、後ろには大変な渋滞が連なっていた。
「海外ロケ、面白かったよな。来週もスイスなんだっけ?」
三味線屋のヤスが訊いた。
「残念ながら、これで最終回みたいです」
手妻師 麗音が申しわけなさそうに答えた。
「ええっ、なんで?」
篠笛のお蝶には寝耳に水だったらしい。
「半にゃライダーが目立たなすぎるんで、怒りの投書が殺到しているらしい。日本からだけでなく、ヨーロッパからも前の番組の復帰を願う電話が鳴り止まないんだそうだ。それにロケと役者の飲食代に金がかかり過ぎだそうで」
歌舞伎役者
隠密同心たちは肩を落として、帰国の準備をした。まだチーズフォンデュを食べていないのだ。もっともペーターは半にゃライダーとしての重荷から開放され、ごく普通の飼い猫に戻ることを喜んだ。彼は、「半にゃライダー3」の放映を誰よりも楽しみにしているらしかった。
(初出:2014年6月 書き下ろし)
(注)山西サキさんのご指摘により、このセリフも入れてみました。サキさん、ありがとうございました。
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森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架
(8)水車小屋と不実な粉ひきの妻 -2-

朝になって、マックスは奇妙なくらい愛想よくする亭主に何事もなかったかのように対応した。歓待に礼をいい、旅籠に泊まる時の相場を渡して水車小屋を後にした。
あの二人は悔い改めたりはしないだろう。彼は思った。ヒヨスは歯の痛みをとるためにも使われているし、持っている事を問われる毒物ではない。量を間違えれば死にいたるが、経験豊かなあの二人はそんなヘマはしないつもりだろう。
皆がいつも騙すと蔑むと本当にそういう人間になってしまう。あの時の女の言葉は彼の怒りを鎮めた。粉ひき夫婦が誠実なはずはないとマックスですらどこか思っていた。その偏見が彼らをやはり不実な粉ひきにしてしまう。彼らのやっている事が罪であるのは間違いない。だが、それを裁くのは一介の旅人である自分でなくてもいいはずだ。僕は裁判官でもなければ、神の奇跡でもない。毒が効かない男でしかない。
「またか。かわいそうに」
兄弟子たちのひそひそ声が甦る。暗い召し使い部屋で何度めかの苦しみに悶えた後だった。マックスを苦しめているものが、ディミトリオスに定期的に飲まされる様々な薬のせいだという事は、屋敷中の誰もが知っていた。時には激しい嘔吐、時には腸がねじれるような痛み、またある時は体中におぞましい湿疹が出た。割れるような頭痛や呼吸が出来なくなる事もあった。
「なぜあの子にあんなことを?」
「王太子さまのためだよ」
ひそひそ声は続いた。少年が眠っているのだと思って。
「王太子さまに毒耐性をつけるために、老師は少しずつ毒を飲ませていらっしゃるのだ。だが、大人と違ってどのくらいの量を飲ませていいか確かでないものだから、マックスで実験をしているのだ。彼は王太子さまより小さいし、あの子が耐えられた半分の量なら安全だっていうんでな」
「なっ……。じゃあ、必要もないのにマックスみたいな子供を雇ったのは……」
「そうだよ。このためだ」
高熱が引いてきた後のだるくて力の入らない体をそっと動かすと、彼は兄弟子たちに泣いている事を悟られないように壁の方を向いた。《黄金の貴婦人》とマックスが呼んでいた、あの美しい女性にお茶を運ぶ度に、お菓子をもらうのを見過ごしてくれた主人。もしかしたら、自分を氣に入ってくれているのではないかと思っていた。けれど、自分の存在意義はそんな事だったのかと悲しくなった。両親がこの事を知っていたのかどうかはわからなかったが、もはや逃げだして帰る事も出来ないのはわかっていた。
耐えられたのは、やはり《黄金の貴婦人》の存在があったからだった。ある夜、激しい下痢の後でぐったりして、ようやく痛みが治まってうつらうつらとしていた時、屋根裏の小さな部屋に主人に案内されて、かの貴婦人がやって来たことがあった。マックスはびっくりしてディミトリオスを見た。
「いつもお茶を運んでくれるあの少年はどうしたとおっしゃるので、病に臥せっていると申し上げたらどうしてもお見舞いにとおっしゃるのだ」
主人は苦虫を噛み潰したような顔をしてこっそりと言った。
「奥方さま、他の使用人の手前というものもありましてな」
「それが何だというのでしょう。こんなに小さいのに、けなげに働いているんですもの。まあ、弱ってかわいそうに」
その優しい声と、心から心配してくれている美しい顔を見て、彼の遣り切れない心持ちはすっとほどけていった。
「大丈夫です。もう、治ってきましたから」
マックスがそう言うと、《黄金の貴婦人》はしばらく片手で彼の頬を、もう片方の手でその弱々しく差し出した手を優しくしっかりと握りしめていたが、やがて自分の首から十字架を外すと少年の首にかけた。
「あなたを神様が守ってくださいますように」
マックスは、この女性はなぜ自分がこのような目に遭っているのかを知っているのだと思った。ディミトリオスの様子や、一目で分かる高貴さから、この方はもしかすると王太子の縁者なのかもしれないと思った。王太子のために自分がこのような苦しみを受ける事を知っていて、それでいつも格別に優しくしてくれるのかもしれないと。そうだとしたら、このひどい役目に選ばれた事も悪い事ばかりではないのだと思った。
馬を進めながら、マックスは子供時代の想い出に浸っていた。《黄金の貴婦人》のくれた十字架の効果かどうかはわからないが、彼は無事に生き延びた。老師に飲まされる毒にも次第に体が慣れて、かなり強いものを飲まされても何ともなくなってきた。
マンドレイク、ウェラトゥルム、絹の道のナッツ(ストリキヌス)、ドゥルカマラ、オピウム、ヒヨス、ヘレボルス(クリスマスローズ)、つる草の毒野瓜(コロキンテ)、毒ニンジン(コニウム)、去痰に使われるブリオニア、ベラドンナ、ハエ殺しのキノコ(アガリクス)、毒矢草(トリカブト)、踊蜘蛛(タレンテュラ)、クロタロス(ガラガラヘビ)、蜂、南の玉虫(カンタリス)。どれを使ってももはや彼を簡単に殺す事は出来ない。本来は現在の国王であるレオポルド二世を毒殺から守るための老師の策が、マックスを粉ひき夫婦の奸計から救った。皮肉な事だなと彼は笑った。
あの女はよりにもよってこの十字架を盗ろうとしたのだ。彼は黄金の十字架に手をやった。《黄金の貴婦人》の優しい手の感触が甦る。あなたがいつも私を守ってくださるのですよね。彼は馬を進めて行った。
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お願いしてみた

この間、イタリア側(スイス)に行ったんですよ。で、別に珍しくもないんですが放し飼いになっている羊たちがいて、のどかな風景だったのでカメラを向けました。
そうしたら番犬が飛んできました。そして私に吠えまくり。いや、そういう役目だから、それが正しいんですけれどね。
でも、ちょっと写真を撮りたいだけだったので「写真だけ撮らせてくれませんか」と頼んでみました。そうしたら、自分がポーズ撮ってくれました。あ、羊を……と思ったけれど、その間に羊は向こうへ行ってしまいました。
ま、いいんですけれどね。しかも、この犬、なんか「にやっ」て笑っているんですけれど。
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【小説】リナ姉ちゃんのいた頃 -7- Featuring 「Love Flavor」
刹那さんは紗那さんの『Love Flavor』に出てくる主要キャラのお一人で、コラボで使わせていただくのは、ええと、何度目だろう。リナは『Love Flavor』の方にも出演させていただいていますしね。
今回も頼まれもしないのに出てきた当方のオリキャラ東野恒樹は刹那さんに報われない片想いをしているという設定で『Love Flavor』の二次創作のためだけに作ったキャラです。だから、しつこく出します。紗那さん、すみません。前半が恒樹の語りで、後半はミツです。念のため。
「リナ姉ちゃんのいた頃」をご存知ない方のために。このシリーズの主人公は日本の中学生の遊佐三貴(もともとのリクエストをくださったウゾさんがモデル)とスイス人高校生リナ・グレーディク。日本とスイスの異文化交流を書いている不定期連載です。前の分を読まなくても話は通じるはずですが、先に読みたい方は、下のリンクからどうぞ。
リナ姉ちゃんのいた頃 をはじめから読む
リナ姉ちゃんのいた頃 -7-
— Featuring 「Love Flavor」
携帯電話が鳴った。ちょうどビッグベンが午前九時を報せたところだった。表示されているナンバーには今ひとつ憶えがない。「+41」で始まっているところを見ると、ヨーロッパのどこか、ああ、スイスか。スイスから俺にかけてくるといったらあの女の他にはいない。
「リナか。何の用だ」
俺は首を傾げた。あいつ日本に行くと言っていなかったか? やめたのかな。耳に飛び込んできたのはありえない声だった。
「ホントに東野くんの声だ……」
「えっ?」
俺の頭はまさにホワイトアウト。このハスキーな声は……。
「ハッロ~? ねっ、驚いた? セツナと私が知り合うなんて思わなかったでしょ」
けたたましく聞こえてきたのは、電話番号から俺が予想していたチェシャ猫女だ。
「おっ、おい! 今のはどういうことだ! 今の、まさか、本物の白鷺刹那かよっ!」
ここはロンドン、ウェストミンスター。日本人観光客が横をぞろぞろ歩いているようなところで、白鷺の名前を出すのはためらわれる。なんせあいつは超有名モデル。あ、もとモデル、か。
俺、東野恒樹は混じりっけのない大和民族特有の顔立ちで、日本人であることはどこから見てもバレバレだ。加えて日本語訛りの抜けない英語でケータイに向かって叫ぶ羽目に陥った。だが、そんなことを構っている場合ではない。
「そうなの。今、友達になったのよね。ミツと一緒に火浦学園に来てるの」
「ミツって誰だ」
「ん? あ、ホームステイ先の子だよ。エージは知っているでしょ? ミツはエージの弟なの」
ちょっとまて。エージってまさか……。
「お前、もしかして遊佐栄二の家にホームステイしてんのか?」
「そうよ。昨日、偶然コーキの話になって、それなら、ぜひセンパイ紹介するからって。ねえ、この学校、面白いね。私もここに留学したかったな~」
俺は頭痛がしてくるのを感じた。
「さっきのが本当に白鷺なら、悪いが、もう一度代わってくれ……」
「いいよ、もちろん」
「東野くん? そっちはどう?」
「あ。うん。元氣にやってるよ。お前は?」
「相変わらず、かな。もっとも、来週からは大学だから、相変わらずじゃなくなるけれど」
「ああ、そうだよな。進学おめでとう。蓮も一緒にだろう?」
日本にいる友達の中で、俺が一番親しい(と俺は思っている)蓮の名前を白鷺に語る時だけは複雑な氣分になる。
蓮は白鷺にとって一番親しい友達だ。幼なじみでもある。俺だって二人を小学生の頃から知っているけれど、この二人ほどの近さではない。そして、俺がかつて白鷺に告白して玉砕したのは、蓮の存在があるからじゃないかと今でも思っている。白鷺は「そんなんじゃない」と言ったけれど。
「もちろん一緒だよ。でも、一緒に大学に上がるのはボクたちだけじゃないし」
相変わらず、見かけとまったく一致しない一人称だ。蜂蜜色の髪に琥珀色の瞳、完璧な美貌に女性らしいスタイルのくせに、親しい人間の前だとこうなってしまう。氣を許してもらっているのだと思うと嬉しいが、こいつを諦めようと決めてこっちに来てからそろそろ一年だって言うのに、未だにダメだ……。ここで声なんて聴いちまったからまた振り出しじゃんか。
「東野くんのハガキ、ときどき蓮が見せてくれる。彼、楽しみにしているみたい。ボクもだけど」
「お前も?」
「だって、東野くん、ボクには一枚も送ってくれないし」
「え……。それは、そんなの送ったら、迷惑かと……いや、送ってもいいなら、送るけど……」
俺が真っ赤になりながらしどろもどろ答えている横を、日本人観光客が怪訝な顔をして通り過ぎていく。が、その(あくまで俺にとってだけだけど)甘い会話は突然打ち切られた。
「ちょっと! コーキったらいつまで話してんのよ。私もセツナと話したいのよ!」
「リナ……。俺とじゃないのかよ」
「コーキには、スイスに戻ってから幾らでも電話してあげるわよ」
俺は慌てた。
「ちょっと待て。白鷺の前で、誤解されるような発言はするなよ!」
「あん? ああ、なるほど。セツナ、心配しないで。私とコーキは恋愛関係じゃなくてただの友達だから」
い、いや、そういういい方されると……。デリカシーのない女め。迷惑そうな顔をしている白鷺の姿が目に浮かぶ。ちくしょう。もともと1%もない奇跡の起こる確率をゼロにすんなよ、チェシャ猫女め。俺は無情にも切られた電話を眺めながら、嘘みたいなあいつとの会話を心の中で繰り返していた。
あれ? そういえばこの会話、リナのスイスの携帯からだったな。スイスの番号で。っていうことは、あいつ、日本からスイスにローミングしていて、その電話でさらにロンドンの俺の携帯まで国際電話かけてきたんだ。通話料、一体いくらになったんだろう……。
「ありがとうございました。通話料、かなりかかったんじゃないですか。失礼でなかったら支払いたいと思いますが」
刹那さんは柔らかいけれどきちんとした調子でリナ姉ちゃんに訊いた。姉ちゃんは笑って手を振った。
「そんなの氣にしないでいいわよ。わたし、いつもヨーロッパにかけまくっているから。それより、コーキが喜んで嬉しいわ。さっ、ご飯食べにいきましょう!」
刹那さんはきれいな微笑みを見せた。白鷺刹那さんとご飯を一緒に食べるなんて、ラッキーだなあ。栄二兄ちゃん、すごい人を知っているんだって改めて思ったよ。
「どんなものを食べたいですか? この時間だとまだどこも混んでいないから何でも」
刹那さんは腕時計を見て言った。五時十五分か、そうだね、まだ早いよね。
リナ姉ちゃんは即答した。
「『ラーメン大将』!」
刹那さんは目を丸くした。僕は思わず叫んだ。
「姉ちゃん! 刹那さんにラーメンなんてっ」
「なんで? ラーメン、美味しいよ。豚肉二倍、替え玉、餃子つき〜」
「リナ、そんなにラーメンが食べたかったら、明日連れて行ってやるからさ……。刹那センパイとはもう少し小洒落たところに……」
事なかれ主義の栄二兄ちゃんすらが説得に走ったが、意外なことに刹那さんがそれを止めた。
「いいわよ。そこに行きましょう。しばらくそういうところに行っていないし」
天下の白鷺刹那ともなると、ラーメンを食べるのすらスタイリッシュだ。へえ、こんな風に格好よく食べられるんだ。周りの視線が熱い。だってこの店、むさ苦しいオヤジしかいないのに、やたらと目立つ女が二人もいるんだもの。リナ姉ちゃんは名前は知られていないけれどド派手な玉虫色のタンクトップを着て額にシャネルのサングラスを引っ掛けたガイジンだし、その向かいには有名モデルが座っている。同席している栄二兄ちゃんと僕は、周りの好奇と羨望の視線を一身に浴びて、食欲もそがれがち。でも、リナ姉ちゃんの食欲は全くそがれないみたいだった。
「リナ。よく食べるな」
栄二兄ちゃんが男性でも残しそうなラーメンをいつの間にか食べ終えて二皿目の餃子に手を出した姉ちゃんを白い目で見た。
「だって美味しいんだもの。セツナも食べなさいよ」
「ありがとう」
刹那さんは優雅な箸使いで餃子を一つ食べた。この人が食べると、ラーメン屋の餃子も「点心」って風情になる。
「東野くんとはどこで?」
刹那さんはアフタヌーンティーでも楽しんでいるかのような調子で話しかける。
「去年の春にロンドンで。日本のことを知りたくて話しかけたの。だから、私の最初の日本人の友達ね」
「もう、ロンドンに慣れたんでしょうね」
「そうね。馴染んでいるのは間違いないけれど、でもねぇ」
「何か?」
「心残りが日本にあるみたいね」
と、刹那さんの方を見て大きな口をにっと開けた。
「リナ姉ちゃんっ!」
僕と栄二兄ちゃんは姉ちゃんが何を言いだすのかとドキドキしっぱなし。
刹那さんは琥珀色の瞳を少し揺らした。けれど、それについては何も答えなかった。
姉ちゃんは「ふ~ん」という顔をした。僕はいつだったか姉ちゃんが言った言葉を思い出した。
「日本人って、複雑よね。でも、それがいいところなのかも。私にはとても真似できないけど」
今の姉ちゃんは、きっとそう思っているに違いない。
「それはともかく、セツナ、わたしあなたが大好きになっちゃった。いつかスイスにも来てよ。そのレンって子も一緒に。その時はコーキもロンドンから呼びつけるから」
僕たちがさらにオロオロするのを目の端で捉えながら、刹那さんは全く動じずにふっと笑った。
「ええ、ぜひ。楽しみにしていますね」
さすがだ。僕と兄ちゃんはただひたすら刹那さんに尊敬のまなざしを向けていた。
(初出:2014年6月 書き下ろし)
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シュニッポ

カツレツは「コートレット」の音訳だと思いますが、ドイツ語だとシュニッツェルです。スイスでよく見るものは豚肉が多いのですが、ウィーナー・シュニッツェルのように子牛肉で作ったり、鶏やターキーで作ることもあります。作り方はカツとほとんど同じですが、最初に肉を叩いて薄くしてあるのが普通です。
シュニッツェルにポムフリット(フライドポテトのことです)を添えるのがお約束みたいになっていまして、これを略して「シュニッポ」ということがあります。どこのレストランにもたいていあるポピュラーなメニューです。
いつだったか、社会生活に疲れて失踪し、山の中に何年も籠っていた女性が発見されて保護されたことがありました。その方がテレビでのインタビューの「戻って最初に食べたい料理は何ですか」に「シュニッポ」と答えたことが今でも忘れられなかったりします。私も時々無性に食べたくなります。
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【小説】森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架(8)水車小屋と不実な粉ひきの妻 -1-
今回も二回に分けての更新です。後編は来週になります。
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森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架
(8)水車小屋と不実な粉ひきの妻 -1-

失敗したなと思った。宿を探すのが遅すぎた。当てにしていた宿屋がいっぱいだと断られたので、他の旅籠がないかと馬を進めた。だが、どうやら町から遠ざかってしまったようだ。農村で日がとっぷり暮れてしまったので、農家にでも泊めてもらおうかと思ったが、断られてしまった。一軒で上手くいかないと、隣でも上手くいかなくなる。他の奴らが断ったのは何か理由があるからだと思い、人びとの警戒心が強くなる。
川の水音と、水車の音が聞こえてきた。ああ、ここなら村の住民と違う反応をしてくれるかもしれない、そう思った。水車小屋に住む粉ひきは、村の農民たちから距離を置かれるのが普通だったからだ。
「誠実な粉ひきはいない」「粉ひきは悪魔の友達」と散々ないわれようをしている原因が、領主の都合による水車小屋利用強制であることをマックスは理解していた。人びとの暮らしの中心にはパンがあり、小麦粉があった。農民は年間を通して汗水たらして働き小麦を自ら育てた。それを自らの挽き臼で粉にすれば手間はかかっても金はかからないのに、挽き臼の使用を禁止され水車小屋で使用料を払って挽くように決められていた。年貢の他にこうして搾り取られることを農民たちは快く思っていなかった。だが、その怒りの矛先は見た事もない領主さまではなく、水車小屋を借りて中間手数料でがっぽり儲ける粉ひきに向けられるのだった。
どうしても関わらざるを得ないけれど憎悪のある関係がどの農村でも見られたので、もめ事に巻き込まれたくないマックスは出来るだけ水車小屋には近寄らないようにしていた。農民たちの肩をもつわけではないが、感じが良くて親切そうな粉ひきにはこれまでに出会ったことがなかったのだ。だが、今晩は背に腹は変えられない。彼は明かりと水音、水車の動く木のきしむ音を頼りに馬を進めた。
「水車小屋に泊めてもらおうなんて、あんた、よっぽどの世間知らずなの?」
出てきた女房は皮肉っぽく言った。若くこぎれいな女だった。町で流行っているデコルテがかなり開いた上衣を着て、しゃれた上履きも履いていた。
「そうとも思えないが、でも、水車小屋に一晩の宿を頼むのはこれがはじめてだ。嫌なら断ってくれればよそをあたるよ」
その返事に興味は全くなさそうだったが、値踏みするように着ているもの、馬などをじろりと見た。
「旅籠より安く泊れるなんて思わないでおくれ。もっとも大した料理は出せないけれどね」
「今夜休めれば、それでいい。助かるよ」
「亭主は、領主さまの所に出かけていて不在なんだ。今夜遅くか、明日の朝には戻ると思うけれどね」
脳裏に「不実で美しい粉ひきの妻」というお決まりの文句が浮かんだが、何もそこまで地で行くこともないだろうと思い返した。女は彼を水車に近い階段を上がった半二階の小部屋に案内して、荷物を置いたら食事に降りてくるように言った。
マックスは小部屋を見回した。こざっぱりとした木の床と壁の部屋で、小さな寝台と物を置けるようになっている台、それに小さい椅子が一つあった。窓からは星が覗けて、水と軋む車輪の音が常にしていた。
食事に降りて行くと、女はスープとパン、それにいくらかの干し肉やチーズを並べ、木の盃にワインを入れて出した。同じものを食べるのに、自分は水を飲んでいた。
「僕だけワインを出してくれなくてもいいのに」
女は笑って言った。
「金を取るだけとって、ワインも出てこなかったと言いふらされると困るからね。私たちは何も悪い事をしないのに粉屋だというだけで人びとは悪口を言うんだ。これ以上悪く言われるのはごめんさ」
彼は盃を口に運び、少し口に含んでから、盃の中を見た。ワインらしくない風味を感じたのだ。女がじっとその様子を見ていた。何も悪い事をしていないのに、か。そう思いながら、そのまま飲み込んだ。
マックスが寝台に横たわってから、小一時間が経った。月の光に青白く照らされた女の腕がゆっくりと伸びた。彼の衣類をそっと触り、目をつけていたものを探していたがそこにはなかったのでもう少し側に寄ると肌掛けをそっとずらし、淡い月の光にきらりと光る黄金の十字架につと触れた。
それと同時に、それまで動かなかった彼の右手がはっしとその女の手首をつかんだ。
「まさか! 動けるのか」
粉挽きの妻は思わず叫んだ。彼は寝台から起き上がった。
「毒入りのワインをありがとう」
「飲まなかったのか」
「飲んだよ。ヒヨスだったね。残念ながら、僕にはこの程度の量では効かないのだ」
女は、唇を噛んで小さな椅子に座り込んだ。
「どうするつもりだったんだ。毎回、泊った客に毒を飲ませて、命を取っても、死体の処理に困るだろうに」
「殺しはしないさ。でも、目が覚めても数日間は頭がはっきりしないから、たぶんここで盗られたと思っても、騒ぐ事は出来ない。いつもうまくいったんだ。毒の効かないヤツがいるとはね。あれを飲んでもなんともないなんて、あんたは何者だい、悪魔に魂でも売ったのか」
「悪魔に魂を売ったのはそっちだろう。君は、何も悪い事をしないのに粉屋だというだけで人びとが悪口を言うと言っていたね。なのに、なぜ……」
「皆がいつも騙すと蔑むと、いつの間にか本当にそういう人間になってしまうんだよ。どんなに真面目にやって、仲良くしたくても全然受け入れてもらえない。そのうちに、だったらやってやると思うようになっちまうんだよ。うちの人だってそうだ。村の奴らや、あんたみたいにいつも敬意を持たれているヤツにはわからない」
彼は首を振った。
「いつも敬意なんてもたれたりしていないさ。そうだったら毒の効かない体になんかなるわけないだろう」
女は薄氣味悪そうに見た。
「あたしをどうするつもりだい」
「どうもしないさ。遅く帰って来た旦那に誤解されないように、さっさと自分の寝床に帰ってくれ。それに、明日発つまで二度と僕を襲わないでくれればそれでいい」
「なぜ……」
「僕は一夜の宿が欲しかったんだ。それ以上の大騒ぎはごめんだし、足止めもされたくない。ただ、忠告しておくよ。こんな事を続けると、そのうち必ず痛い目に遭う。今回の事が天からの忠告だと思って、足を洗うといい」
女は何も言わずに部屋を出て行った。彼はしばらくうとうとしたが、再び物音で目が覚めた。どうやら亭主が帰って来たらしい。女とひそひそ話をしているのが聞こえた。マックスをどうするか二人で話しているらしかったが、やがて、余計な事をしない方が身のためだと結論づけたのか、二人は寝室に消えて静かになった。マックスは、ようやく安堵して眠りに落ちた。
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「Meu Fado Meu」
今日は、Marizaというファドの歌い手の「 Meu Fado Meu」とその歌詞(ならびにその和訳)をご紹介しようと思います。
「Infante 323 黄金の枷」の作中にはファドを歌ったり聴いたりするシーンは全く出てきません。書こうとしている世界といわゆるファドの色調が少し違うので、あえて避けているのです。それでいて、この作品の裏テーマ曲にしているのがこの曲です。いわゆるファドよりも少し大衆歌謡の薫りが少なく、それでいて、ファドで歌われている代表的なモチーフが含まれており、さらに、歌詞の中に、私の作品で扱っているモチーフがバンバン入っているのです。この歌に合わせて書いたわけではないし、見つけたのも偶然です。こういう奇跡みたいなめぐり合わせは大好きです。ポルトガル語の歌詞の下に、私による和訳を載せました。ポルトガル語は出来ませんので、英語、ドイツ語に訳されたものの助けを得て、なんとか訳しました。ですから、大体の意味がこういうものだという理解でお願いします。
ポルトガル語と和訳を対比していくとわかるように、ポルトガルの国民的歌謡の名称である「ファド」とは「運命」のことを意味します。つまり、歌のことと運命のこと、両方を表すのです。「サウダージ」は通常は「郷愁」というように訳されることが多いのですが、「懐かしみ、想いを馳せる」と訳しました。この言葉は「望郷」だけではなく「叶わない願い」「手に入らぬものへの憧れ」「もうなくなってしまったものを懐かしむ」というような感情を表す時にも使われます。作品中でも、サウダージが何度か現れるのです。ひと言で説明するのが難しい、ポルトガル語の概念を、ぜひMarizaの素晴らしい歌声で感じていただければと想います。
Meu Fado, Meu
Trago um fado no meu canto
Canto a noite até ser dia
Do meu povo trago pranto
No meu canto a Mouraria
Tenho saudades de mim
Do meu amor, mais amado
Eu canto um país sem fim
O mar, a terra, o meu fado
Meu fado, meu fado, meu fado, meu fado
De mim só me falto eu
Senhora da minha vida
Do sonho, digo que é meu
E dou por mim já nascida
Trago um fado no meu canto
Na minh'alma vem guardado
Vem por dentro do meu espanto
A procura do meu fado
Meu fado, meu fado, meu fado, meu fado
Copyright: Writer: Paulo Carvalho
Copyright: S.p.a.(Sociedade Portuguesa De Autores)
わがファド
私の歌には宿命がある
宵に歌う、夜が明けるまで
聴く人びとから涙を絞る
ムーア人の地を歌って
私自身を懐かしみ
何よりも大切な愛へ想いを馳せる
国境のない国を歌い
海を、大地を、そして、わが宿命を歌う
わが運命、わが定め、わが宿命、わがファド
私に欠けているのは私自身
わが人生の女神
夢は、それは私のもののはずだと言う
そして、もう私のために生まれているのだと
私の歌には宿命がある
魂で抱きしめている
私の怖れの中から生まれてくる
運命を探しもとめながら
わが運命、わが定め、わが宿命、わがファド
全く関係ないことですが、このブログの検索キーワードのトップ2が、二年前に記事にした「アレグリア」の歌詞和訳です。この和訳はどのくらいの方が興味を持ってくださるのか、ちょっと今から楽しみです。
この記事を読んで「Infante 323 黄金の枷」が読みたくなった方は……
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イチゴシロップとジャム
今日は、トラックバックテーマ関連にするはずだったのですが、44444Hitになりそうなので、別の記事にすることにしました。
最近、シロップづくりばかりしている私です。もちろん、私がやるからにはウルトラ簡単なものばかりなんですが。

近くの有機農家では、イチゴやラズベリー、それにブルーベリーなどを自分で摘ませてくれるのです。で、今はイチゴの季節。
大体週に一度、1.5キロくらい摘んできます。1200円くらいです。今の時期はもう甘くなりだしたので、半分は生で食べて、半分をシロップやジャムにします。もう少し前のは生食にはちょっと、という味だったので(スイスの普通のイチゴは大抵そういう味です。近所の有機農家のイチゴはかなりおいしい方です。日本のほどは美味しくありませんが)全部シロップ化していました。

作り方は簡単。イチゴを洗って同量の砂糖をまぶします。(砂糖の量に驚いてはいけません、カロリーのことを考えるのも止めましょう)レモンを適当にしぼり、そのまま放置します。水分を何も入れないのに、翌日には浸透圧でイチゴから出てきた赤いジュースにイチゴが浮くようになります。一日一回かき回して七日放置したら、もう一度かき回して、ざるで水分と残ったイチゴにわけます。水分のほとんどを二分間沸騰させます。それがシロップになります。
残りの若干ミイラ化したイチゴをミキサーで滑らかにします。ほんの少し残しておいた水分と一緒に沸騰させるとそれがジャムになります。保存料が入っていないので熱湯消毒した瓶に詰め、出来るだけ早くに飲みきり、食べきります。
かなりの量を作っていますが、連れ合いが客と一緒にどんどん飲んじゃうのですよね。でも、そろそろイチゴシロップはやめよう。生で食べるのと、冷凍にしようと思います。次はイチゴを小切りにして冷凍しておくと、客が来た時に生クリームと砂糖と混ぜるだけで即席でアイスクリームも出来るのです。
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【小説】森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架(7)狩り
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森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架
(7)狩り

シャーッという音がして、何か大きいものが横を通り過ぎた。
「きゃっ」
アニーは頭を抱えて座り込んだ。里下がりから戻り、一刻も早くラウラのもとに戻ろうとしていた所だった。
元服を迎える少年が手を広げたくらいの翼を広げて颯爽と飛び過ぎたのは王の鷹だった。顔を上げると、数間先に鷹匠が立っていた。獰猛で氣性の激しい鷹を自由に操る鷹匠は冷酷で氣位が高く、取っ付きにくい男であった。目つきが鋭くにこりともしない。ましてや侍女とは言え、もう少しで怪我をさせそうになった女に対して謝罪をしようとは全く考えていないようであった。
鷹匠は高位ではない。「青い血の流れている」つまり貴族の生まれのものはほとんどいない。けれど、鷹は狩りの楽しみの半分以上を占めていたので、鷹の持ち主にはできない訓練をする鷹匠は必要不可欠な存在であった。
たいていの人間の人生や待遇は、生まれとともに決定する。貴族として生まれれば、毎日召使いに傅かれ毎日のパンの事を心配する必要はない。土地に縛られた農民として生まれた者は、どれほどの努力や忍耐をもって朝から晩まで働いても肉の入ったスープを毎日口に入れる事など望む事すら許されない。
だが、特別な職業があった。僧侶、教師、薬剤師、写本師のように、王侯貴族でも手にできない知識を持ち、それを極めたものはその出自を問われなかった。同様に優秀な鷹匠ともなると個人的な性格がどうであれ、たとえ王に対する態度が横柄でも問題はなかった。いま目の前に立っているのは、この城でももっとも無愛想な、つまりもっとも高い報酬で迎えられた男ブゼだった。
彼は肘まである革の分厚い手袋の上に鷹を停まらせるとアニーの方を見た。雌鷹の厳しい黄金の瞳とブゼの冷酷な瞳に見つめられてアニーはぞっとした。鼠や小さな鳥たちのようなひどい目に遭わぬうちに、頭を下げてさっさと逃げだした。
城の中庭には「鷹の館」と呼ばれている建物がある。ここには、ブゼを始めとする鷹匠とその見習いたち以外の立ち入りは禁じられている。暗い部屋には猛禽たちの種類に合わせてたくさんの止まり木が、小さな森のように設置されていた。砂利が敷き詰めてあり、その高い天井の建物の中を猛禽たちは自由に飛び回る事ができた。鳥らはここで寝泊まりし、保護されていた。優秀な鷹やハヤブサはその卵の大きさの宝石よりも価値があると考えられていたからだ。
鷹たちほどの価値は認められていなかったが狩猟犬も、丁重な扱いを受けて飼われていた。鹿狩りや猪狩りは王侯貴族たちの大切な楽しみで、鹿や猪の習性を知り尽くした猟師たちも重宝されていた。鷹匠と違って彼らは城には住まず、大切な犬たちとともに《シルヴァ》の森にある王侯貴族たちの豪華な狩猟用別荘の近くに住んでいた。このように狩りのためには多くの専門家と動物が関わっていて、年間を通して大層な手間と金品が費やされていた。
アニーは、国王の狩猟用別荘の一つのあるヴァレーズ地域の出身であった。両親とも健在だが鼠のように貧しく、父親は長男のマウロと長女のアニーのことを妹に頼んだ。妹は裕福な寡婦で、その亡くなった夫は王家直属の森林管理官として財を成した。その縁で兄妹は王城での召使いとして雇われ、里下がりのときもこの叔母の所に滞在するのが常だった。アニーは叔母にはラウラが用意してくれた手当金で買った王都でしか手に入らないレース編みや装飾品を贈り、そしてわずかな時間を見つけては実家へも足を運んでは幼い妹や弟にやはりラウラが持たせてくれた菓子や果物を持っていってやった。その道すがら王家の狩猟用別荘の横を通る。王城とは較べ物にはならないとは言え、この地域では他にはない豪華で立派な屋敷で、子供の頃その中に入る事を夢みていた事を思い出した。
この大きな別荘の隣には森林管理役場が建っている。森番の長としてフランソワ・ド・ジュールという名の下級貴族が任命されていて、国王の森林保護の名のもとに大きな権威を振りかざして領民たちに毛嫌いされていた。《シルヴァ》で行われる狩りとは国王の持ち物である鹿や猪をゲームとして捕まえる行為でありその獲物を他の人間が横取りするのは犯罪であった。けれど、近隣に住む人びとにとっては森に入り薪や家の修理に使う木材を手に入れ、食べられる植物や動物を得るのは死活問題だった。農村では天候によって収穫に大きな差が出た。飢饉の年は年貢を納めると自分たちが食べるものもほとんど残らぬこともあり、人びとは森の豊かな恵みに頼る他はない事もあった。
森は深く、秘密に満ちている。その奥には、大小異なる多くの生きものの他、まだ人の子が見た事もないような大きな鹿や、荒ぶる猪、大人が五人で囲んでも手が届かない大木、そして、たくさんの食べられる木の実などがあるといわれている。だが、人びとが関わる事のできるのはほんの周辺部分だけで、その奥深くへ進めば、道を失いもう戻ってくる事ができないと畏れられていた。狼や熊に襲われる危険を冒してようやくわずかな森の恵みを手にして帰ってくると、それを横取りしようとする不届きものもいた。
かくして森の盗賊が横行し、森番は取り締まりを強化した。不幸にも捕まって罰せられた領民たちに対する監督責任として大量の罰金を課される貴族がいる一方で、密猟を組織的にしているのにジュールに袖の下をつかませる事で検挙を避けている集団もあった。その不公平とあからさまな蓄財ぶりに、ヴァレーズ地方ではジュールを快く思う者はなかった。
だが、アニーが城に来て驚いた事に、ルーヴの宮廷ではジュールを悪くいう者はほとんどいなかった。ジュールは別荘に現れた王侯貴族に実にそつなく対応したし、王は鹿や猪を追う楽しみと素晴らしい狩猟料理にしか興味がなかったからだ。彼女はその事にひどく落胆したが、一度だけ「おや」と思う事があった。
その日、ラウラは森林管理に関わる審理に同席するために広間にきていた。本来はもちろん世襲王女であるマリア=フェリシアが同席すべき所なのだが、新しい絹織物を持ってきた商人と会う時間を割かれるのは惜しいと思った姫は、彼女だけを広間へと送ったのだ。アニーはその供をしていた。登城していたジュールが恭しく美辞麗句を述べて森林管理が何の支障もなく行われていると報告するのを、うつむきながら苦々しく思っていたのだった。ラウラは、わかっていますというようにアニーの方に目配せをしてくれた。それだけで彼女の氣持は少しは慰めたられたのだが、午餐をとるため王や廷臣たちがジュールとともに食堂に去ったあと一人残った《氷の宰相》ザッカが小さな声で「狐め」とつぶやいたのを耳にしたのだった。
アニーは、ラウラも意外そうに宰相を眺めているのを見た。
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今年も生まれた

通勤路が変わって二度目の初夏です。いつも通る池でまたマガモの雛が生まれていました。去年より少なくてまだ五羽です。でも、ほかのメスから生まれるかもしれませんしね。経過を見守りたいと思います。
野生なので当然ですが、近づくと逃げます。でも、近づかないと写真は撮れません。もちろん望遠という手もあるのですが、望遠で動くものを追うのはかなり難しい。だから、このくらいそれらしく映る写真を撮るのは本当に難しいのですよ。一日中、池の側に陣取ってればいいかもしれませんが、仕事にも行かないと(笑)
こうやって、可愛いと騒いでおきながら、つい最近、鴨肉のローストなんてメニューを書いたような……。すみません。実は好物です。ごめんなさい!
【お報せ】
44444Hitが近づいてきました。代わり映えしませんが、みなさまからの記念リクエストを募集しようと思います。過ぎてからの早いもの順で三名様から承ります。やり方はいつもと同じで、「お題」「指定キャラ」「(リクエストをくださった方の)オリキャラとのコラボ」などをご指定ください。
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