お題で遊べる? 2014
といっても、今回は神話系ではありません。地名で行こうかと思っています。しかも、お題は地名でも実際には地名と関係のない話でも大丈夫。たとえば、こんなの。
・ブルーハワイ ← ハワイが入っているのでセーフ。カクテルの話にしてもOK
・アグリジェントの鷹 ← ハードボイルド?
・三つの伊予柑 ← 伊予が入っているのでセーフ
・愛と憎しみのマンハッタン ← これで掌編書けるのか?
・僕とカーネルの泳いだ道頓堀 ← なんかが優勝すれば……
・樋水龍神縁起 ← 架空の土地だけれど樋水村が出てくるストーリーなのでセーフ
・霧のロンドン殺人事件 ← 探偵ものは書けないんだけれどなあ
・三宮恋情 ← 神戸の話でもいいし、三番めの宮様の恋話でもOK。
・静かの海 ← 月にそういう地名があるのでセーフ。本文が地名と関係なくてもOK
こんな感じで、お題に実際のまたは架空の地名が入っていれば、あとはなんでもいいというルール。もしよかったら、もの書きのみなさま、ぜひ一緒に遊んでくださいませ。(上に書き出したのはあくまでも例です。どんな地名でもOKです)
それと同時に、次のキリ番、50000Hit。たぶんあと六週間くらいでくると思うんです。ちょっと大きいキリ番だし、いつもと違う趣向でいこうかなあと思っています。
つまり、50000Hitの時は、この地名入りお題を考えてリクエストしていただくよう、お願いしたいと思っています。奇抜なものもOK。ただし、全く同じお題で競作していただきたいな〜と。つまり、書くのは私だけではなく、出していただいた同じお題で掌編なり、イラストなり、旅行記なり、ただの雑文の記事なり、何でもいいので出題者にも書いていただくプチscriviamo!を期待しております。(過去に地名の入ったお題の何かを発表済みの場合は、それを使っていただいてもOK)私はお題をいただいてから10日以内に掌編を書きますが、出題者にはとくに締切はありませんのでブログをやめるまでに発表していただければ。
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【小説】Infante 323 黄金の枷(6)《監視人たち》
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Infante 323 黄金の枷(6)《監視人たち》
マイアはついに意を決して、ライサのことをマティルダに訊いてみた。簡単に教えてくれるとは思わなかったが、開け広げで人好きのする彼女とは、すっかり仲良くなっていたし、案外あっさり教えてくれるかもしれないと思ったのだ。だが、マティルダの答えは単純明快だった。
「ライサ? 知らないな。私ここに来てからまだ半年だもの。アマリアに訊いてみれば? 彼女は十年以上勤めているし」
それもそうか。マイアは頷いた。
翌日、洗濯室でアマリアに訊いた。それは明らかに不意打ちだったらしい。いつもの穏やかで優しい表情が戸惑い、伏し目がちになった。マイアはアマリアが何かを知っていることを確信した。
「その……」
けれど、アマリアが答える前に、ジョアナが通りかかった。つかつかと二人の所に歩み寄ってきて厳しい顔を向けた。
「マイア。仕事に関係のない質問をしてはなりません」
「……すみません」
「ここに来たのは働くため? それとも探偵ごっこをするため?」
マイアは下を向いて黙り込んだ。
「誓約を忘れないように」
それだけ言って、再び去っていった。アマリアを見るとほんの少しだけ表情を緩めて洗濯機に衣類を入れはじめた。一切話はせずに。
アマリアには教えてもらえないんだな、と思ってがっかりした。ジョアナが教えてくれないのは当然のこととして、もう一人いる召使いのクリスティーナも、主にジョアナと組んで母屋の方の掃除を担当しているので、話をしたことが少なく質問はしにくかった。男の使用人たちとも仕事上の会話しかしたことがない。まず親しくなる所からはじめなくちゃダメか。長期戦になっちゃう。ああ、前途多難だなあ。
友達を作る。マイアが一番苦手なことだった。マティルダはマイアが努力する必要もなくあっという間に親しくなってくれたので問題はなかったが、誰ともこう上手くいくとは思えない。そう言えば、いつもそうだった。友達といえる仲になれた人は、いつも向こうから声を掛けて近づいてきてくれたのだ。幼なじみのジョゼも、マリア・モタも。それも親友もしくは心友と言えるほどではなかった。ジョゼにはマイアよりも親しい友達が何百人もいるだろうし、マリアもマイア個人というよりも姉のライサとの共通点に興味をおぼえて話しかけてくれたのだから。マティルダも同室でなければ親しくなることはできなかっただろう。
マイアにとってのたった一人の心友は、十二年前に出会った少年の幻影だった。悲しいこと、理不尽なことがあると、いつも心の中で話しかけてきた。23はその少年その人で、マイアを忘れずに話しかけてくれたけれど、心の友達であり続けた少年とは同じではない。一緒にすべきではないと、自分に言い聞かせていた。
仕事が終わって部屋に戻ってくるとマティルダはベッドに腰掛けて雑誌をめくっていた。彼女はいつも機嫌が良くて楽しそうだった。人間関係で悩んだことなど皆無のように見えたし、物事の飲み込みが早くて、どんな仕事でもこなせそうだった。そういえば、どうして召使いの仕事をしようと思ったんだろう。
「ねえ。マティルダ。あなたはどうしてここで働こうと思ったの?」
「え……」
「あ、訊いちゃダメだった?」
「そんなことないけれど、ちょっと恥ずかしい」
「どうして?」
マティルダはウィンクをした。
「パパとママみたいな恋愛結婚をしたかったのよね」
「?」
マイアがまったくわかっていない様子なので、マティルダはおかしそうに笑った。それから、丁寧に説明してくれた。
「パパとママはここで知り合ったの。ほら、私が《星のある子供たち》でない人と恋愛結婚をするとなると、その前に星のある男と子供を作らなくちゃいけないじゃない? だったらはじめから星のある相手と恋愛がしたくて。でも、街にいるとそんなに星のある相手に遭えないでしょ?」
「本当に、そうなんだ」
「何が?」
「星のある子供を生まないかぎり、誰とも結婚できないって」
「うん。それはそうよ。過去にいろいろな人が抵抗したらしいけれど、成功したって話は聞いたことがないなあ」
マイアはそれじゃ私には生涯無理だなと思った。男の人と親しくなることなんてこれまで全然なかった。街中にあれだけたくさんの男性がいたにも関わらず。同年代の仲間たちが集まる時に、数合わせのように混ぜてもらう時にも、周りにいくらでもカップルができたが、マイアは空氣のような存在に終始することになった。そんな体たらくなのだから、街では全然見たこともない、つまりほんのわずかの数しかいない腕輪をしている男性とそんな関係になるなんて不可能だ。
あ、だからマティルダはここに働きにきたんだっけ。確かにここには結構な数の腕輪をしている男性がいるもんね。
「そうなんだ。それで、半年経って、いい人見つかった?」
「ふふふ。まあね。片想いなんだけれど」
「誰?」
「わかると思うけどな。かっこいいから」
「かっこいいって、もしかして、24?」
そうマイアが言うと、マティルダは大きく首を振った。
「よしてよ! インファンテだなんて、そんな高望みしていないわよ」
「あ、だったら……。誰だろう?」
「ミ・ゲ・ル。かっこいいと思わない?」
「あ、うん、そうね。背が高くて印象的よね」
「う~ん、マイアがライバルにならないといいな」
「え。私は、そんな、別に。マティルダ、あなたアタックしたの?」
「まあね。振られたわけじゃないけど、なんか煮え切らないのよね」
悪いこと訊いちゃったみたい。マイアは慌てて話題を変えた。
「ところでさ。外にいたら、星のある子供なんて産めるわけないと思わない? 今まで腕輪をしている人、外で一度も遭ったことないよ?」
「ん? 《監視人たち》がオーガナイズしてくれるらしいわよ。私はそういうのがイヤでここに来たんだけれど」
「《監視人たち》って何?」
マティルダは目を丸くした。そんな質問は想像もしていなかったらしい。
「知らないの?」
「うん。監視しているって人がいるって話は聞いたことある。みんな、お父さんかお母さんにそういう話、教えてもらうんだよね」
マティルダは納得した顔をした。
「マイアのお母様、小さい時に亡くなったのよね。それじゃ、一度誰かにちゃんと説明してもらわなくちゃね」
それから立ち上がってマイアの腕を取った。
「そういう話こそ、ミゲルに訊くのがベストよ」
と言って、マイアを部屋から連れ出した。マイアは何がなんだかわからなかったがついていくことにした。
「ミゲル。ちょっと、ちょっと」
マティルダは小部屋で燭台を磨いていたミゲルをの所に行って話しかけた。
「なんだ?」
「マイアったら《監視人たち》のこと、全く知らないみたいなの。説明してあげてよ」
ミゲルは目を丸くした。
「は? しょうがないなあ。ま、いいや、教えてやるか。《監視人たち》と呼ばれる人たちがいるんだよ」
「腕輪を付けたり外したりする黒服の男たち?」
「あ? そうだよ。でも、それは中枢部にいる特別な人たちさ。大多数の《監視人たち》は普通の人たちと同じ格好をしているし、腕輪みたいな目印もないから、誰が《監視人たち》なのか僕たちにはわからない」
「どうやって《監視人たち》になるの?」
「親から子供に引き継がれるんだ。そういう一族があるのさ」
「でも、同じ人がいつも見ていたら、あの人かってわからない?」
「一人が特定の一人を常時監視しているわけではないから、尾行みたいな事はしない。歩いている時にたまたますれ違った人が、こちらを観察しているかどうかなんてわからないだろう? この街にはたくさんいて、腕輪をした《星のある子供たち》を見かけると、観察して上に報告するんだ」
「そんなにたくさんいるの?」
「《星のある子供たち》よりずっと多いはずだ。詳しい数は知らないけれど、一万人か二万人くらいいるんじゃないか」
「《星のある子供たち》ってどのくらいいるの?」
マイアは小さな声でマティルダに訊いた。
「え? 数百人くらいじゃない? ミゲル、違う?」
「多分そのくらいだと僕も思うな」
「その中枢部っていうのはどこにあるの?」
マティルダはミゲルに問いかけた。彼は首を振った。
「知らない。下っ端はほとんど誰も知らないんじゃないか。もちろんドン・アルフォンソやドンナ・マヌエラは知っているはずだ。それにメネゼスさんや運転手のマリオは星を持たない者なのにここに勤めているということは《監視人たち》組織の中枢に属するのだと思う。だから彼らは知っていると思うよ。訊いても教えてくれるはずはないけどね」
「なぜあなたは《監視人たち》のことをよく知っているの?」
マイアが訊くと、ミゲルはマティルダと顔を見合わせて笑った。それから彼は答えた。
「僕が預けられたのが《監視人たち》の一家だったからさ」
「え?」
「僕の両親にはどちらにも星のない恋人がいて、結婚するためにとにかく子供を作ってしまいたかったんだそうだ。そのためだけだから、試験管で。で、どちらも生まれてきた僕を引き取りたがらなくてね」
マイアは淡々と語るミゲルの様子に驚いた。
「傷ついたって、状況は変わらないさ。そういう定めで生まれてきたなら、受け入れるしかないだろう?」
「その……親がいない星のある子供は、みな《監視人たち》の所に引き取られるの?」
「皆じゃないけれど、当然、《監視人たち》の目の届く所に置かれる。一つには養父母に星のある子供が虐待されてないか監視するためでもある。もう一つは適齢期になったときに勝手に《星のある子供たち》同士でない子供を作られたりしないように」
「じゃあ、私の家の近くにも《監視人たち》がいるのかな」
マイアはどの家族だろうと考えたが、全く思いつかなかった。
「マイアもお母さんが亡くなっているのよね」
マティルダがミゲルに補足をした。
ミゲルは断言した。
「なら住んでいるところから三ブロック以内にいたはずだ。街にも常に配置されている。カフェで仲間とおしゃべりに興じていたり、新聞を読みながらビールを飲んでいたりするけれど、近くに《星のある子供たち》が通りかかれば、細かく観察して必要があれば報告しているんだ。でも、別に困ったことはないだろう? 普通の《監視人たち》は無害なんだ」
「有害な《監視人たち》もいるの?」
マティルダが訊いた。
「有害っていうのは語弊があるな。《星のある子供たち》の行動にはレベルがあるんだ。街で普通に生活しているのはレベル1。通勤を見かけたとか、喫茶店でコーヒーを飲んでいたとかさ。日常的に繰り返される場合は、報告書を作る必要すらない。レベル2は腕輪をしていない特定の異性とグループでよく逢っているとか、境遇を家族以外に話して助けを求めたりしている場合とかさ。こんなことでも、《監視人たち》は報告するだけで何もしないんだ。ただ、レベル3以上になると、中枢部から黒服が派遣されてくる。彼らは行動がレベル4に達した時には実力行使で止めることを許されているんだ」
「レベル4って?」
「この国から逃げだしたり、腕輪のことを街の外の人間に話したり、《星のある子供たち》と子供を作る前にそれ以外の異性と性的関係を持ったりすること」
マイアはため息をついた。結局そういうことなんだ。
マティルダは、その話題には飽きたらしく、別の質問をした。
「ところで、どうしてミゲルはここで働こうと思ったの?」
ミゲルは肩をすくめた。
「星のある女を紹介するのをやめてほしかったからさ」
「?」
マイアは首を傾げた。マティルダとミゲルは顔を見合わせた。これも知らないのかと無言で確認しているようだった。
「星のある女と子供を作れと言われても、そこら辺にはいないから作れないじゃないか。だから、《監視人たち》が上手く星のある二人が上手く出会うように操作するんだ」
「たとえば?」
「コンサートのチケットに当選しましたとかさ。誰かからサッカーの当日券をもらったりなんてこともある。そうやって普段いかない所にいくと、偶然隣に腕輪をした女が座っていたりするのさ」
「あ!」
マイアは小さく叫んだ。
「心当たりあるだろ?」
「うん。応募もしていなかったコンサートの抽選に当たったって、送られてきた……」
「で?」
「えっと。人のいる所、苦手だから行かなかった」
それを聞いて、ミゲルとマティルダは楽しそうに笑った。
「とにかく、この女はちょっと違うなと、手を出さないでいると、次々そういうアプローチが来てさ。そうやって操作されているみたいなのが嫌だったんだよ。ここで働くとなると、星のある女との出会いもへったくれもないから、その手のアプローチはなくなるんだ。自分で探したいし」
そういって、ミゲルはちらりとマティルダを見た。マティルダは天井の方を見上げて素知らぬ顔をした。マイアは、なんだ、ミゲルの方も十分に脈ありじゃないと思った。マティルダのために上手くいくといいなと思った。
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またしても「キャラに関するバトン」
登場するのは、現在連載中の長編の主人公二人。むさ苦しくなってしまったのですが、ヒロイン二人も地味な上、この質問への回答は大きなネタバレ問題ありなので、こうなりました。すみません。
この回答には若干のネタバレも含まれています。大したネタバレではないですが。
「キャラに関するバトン」
- 1:まずは自己紹介をどうぞ!
23「インファンテ323、通称23です。『Infante 323 黄金の枷』という作品で主人公やっています。職業は靴職人です」
マ「マックス・ティオフィロスです。『森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架』の主人公ってことになっています。職業はお金持ち専門の教師です」
23「ずいぶん昔っぽい服装だけれど、いつの、どこの国の人かい?」
マ「ヨーロッパ中世風の空想世界。一応ドイツをモデルにしたグランドロンって国の出身。君は?」
23「小説上では伏せ字になっているけれど、ポルトガルのポルト出身だ。ちなみに現代のストーリーだけれど、存在しない設定が入っている」
マ「ところで、君の名前だけれどさ。それ、本名?」
23「それをここでツッコむか?! その話題はしない方がいいんじゃないか、お互いに」
マ「すまない。反省」- 2:好きな食べ物はなんですか?
23「何でも好きだけれど、魚介類は好きだな。タコのグリルとか。それからカルネ・デ・ポルコ・ア・アレンテジャーナ」
マ「なんだよ、それ。聞いた事もない料理だな」
23「『アレンテージョ風の豚肉料理』という名称のハマグリと豚肉の炒め物だ。君の時代は何を食べていたんだ? トマトもないしジャガイモもなかったんだろう?」
マ「うん。大量のパンと、それから肉やタマネギをたっぷりと。あ、ワインはあるよ」
23「ワインは俺も好きだ。ドウロ河流域で穫れるドウロワインやポートワインを毎日飲んでいる」
マ「いいなあ。作品代わってくれない?」
23「閉じこめられているけれど、それでもいい?」
マ「えっ。それはやだ。僕、自由が好きなんだ」- 3:ご趣味はなんですか?
マ「据え膳食っちゃう事。うそうそ。読者のみなさん引かないで!」
23「それ、本音だろう」
マ「違います。ええと、旅は好きだけれど趣味じゃないな。あ、あえて言うならリュートを弾く事」
23「へえ。似ているな。俺の趣味はギターラ(ポルトガルギター)」
マ「入浴は? 僕たち、沐浴シーンをこなしたキャラ繋がりだよね」
23「いや、別に趣味じゃないから。それに俺の方のそのシーンはまだ後」- 4:意中の人はいますか?
マ「今のところ、いない。君は?」
23「いる」
マ「明言したね。それは誰?」
23「それは最高機密(超ネタバレ)なので言わない」- 5:パートナーをどう思いますか?
23「パートナーって、どういう意味だ」
マ「ヒロインって事じゃないの?」
23「だとしたら、う〜ん」
マ「最高機密関連はいいからさ、彼女の仕事ぶりに関してはどう?」
23「それについては言いたい事はかなりある。彼女は我が家に新しく勤めだした召使いなんだが、新人とは言えかなりダメな方だと思う。君の所のヒロインは?」
マ「まだ出逢っていないからさ。知らないってことになっているんだけれど」
23「ここだけの話だと?」
マ「仕事はできるらしいよ。宮廷女官の仕事をしているんだけれど、超優秀らしい。そのかわり、女性としては今ひとつ面白みに欠けるってところかな」
23「二人とも、この会話を聴いたら怒るだろうな」
マ「いや〜、このブログの他の小説のヒロインたちと違って、自己主張はあまりしないタイプじゃないか、二人とも」
23「それは言える」- 6:バトンご指名っていうことで誰を指名しますか!?
23「指名すると負担かけるからな」
マ「そういうこと氣にするんだ」
23「ああ。君は氣にしないのか」
マ「全然。でも、空氣は読むタイプなんで、指名はやめとく」- そういうわけで、まだやっていないみなさん、ご自由にどうぞ。
あ、このバトン、質問は変えていませんが、勝手にアレンジしていますので本来の形が見たい方は、TOM-Fさんのオリジナルとサキさんのバトンをお読みください。
おまけ。
昨日、コモ湖へ行っておりました。峠は寒かったけれど、陽光を浴びたコモ湖はやっぱり素敵でしたよ〜。

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カーサ・ダ・ムジカと間口の狭い家
今回の章で意識的に取り上げたのは、「ポルトと建築」。ポルトには美しい光景がいっぱいあって、どこを観てというよりも街のすべてが素晴らしいのです。でも、今回ストーリーの中でわざわざ取り上げたのは以下の二点です。

章の前半に出てきたのは、カーサ・ダ・ムジカ。旧市街から海へと向かうボアビスタ通りの始まる所に建っている現代建築です。一度見たら忘れられない変な形をしています。
伝統的な建物がとても美しい街に突然こういう建物があると「う〜ん」と思います。作品中でもマイアは最初はちょっと批判的でしたよね。ところがどっこい、中に入るととても素敵らしいのです。らしいというのは、私はまだ入った事がないからなんですが、下の動画をちょっとご覧ください。光と陰影が創り出す美しい空間ですよね。伝統的な美の作り方とは違いますが、「単純に音楽が聴けて、大人数を収容できればいいんだろう」という効率的な考えとは対極にある建築物になっています。
さて、ポルトの旧市街を印象的にしてるのは大聖堂や豪邸だけではありません。ごく普通の人びとが住んでいる家もとても印象的。ご覧のように一つひとつの家の間口はとても狭くて、日本でいう鰻の寝床のようになっています。日本でも同じ理由だったように記憶していますが、税金が家の幅ごとに決まっていたらしく、奥に細長く建てた伝統があったようです。

キューバのカストロ議長がポルトに来た時にピカピカにしたというリベイラ、世界遺産の威信をかけて作り直したアリアドス通りなどは、本当に美しくて絵になりますが、ちょっと裏手に入ると「あ、ユーロ危機もポルトガルの現実よね」と感じる、若干手入れの行き届いていない家々もたくさんあるのです。でも、その古くなったタイル、ペンキの剥がれかけたドアなどが、ここはテーマパークではなくて年季の入った本当の街だと再認識させてくれるのです。
私は、壮大で美しいポルトも好き、ファドの歌声のようにもの悲しくもたくましい庶民の息づくポルトも好きです。
この記事を読んで「Infante 323 黄金の枷」が読みたくなった方は……
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【小説】Infante 323 黄金の枷(5)占いをする女
そういえば、この小説ようやく全て書き上げました。まだ若干直す所が出てくるかもしれないですが、並行して外伝の方に入ろうかなと思っています。
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Infante 323 黄金の枷(5)占いをする女
マイアがライサ・モタの妹であるマリアと知り合ったのは、二年ほど前だった。
マイアはカサ・ダ・ムジカという大ホールに行った。クラッシックのコンサートに定期的に行っている知人が急用が入ったのでとチケットを譲ってくれたからだった。マイアはクラッシック音楽を聴く趣味はなくて、しかもその時の演目は現代音楽でちっとも興味がなかったのだが、美しいと評判のこのホールそのものに入ってみたかった。
この国の伝統的建築を好きなマイアは現代建築が嫌いだった。カーサ・ダ・ムジカは、Pの街を代表する現代建築で、四角い白い箱をあちこち削り取って放置したように見える。その様式が周りの街とは相容れないため、バスで横を通る時にマイアはいつも顔をしかめていた。けれど、一度でもそこへ行ったことのある人は「美しい」と絶賛するのだ。だから、マイアも機会があったらその中に入ってみたいと思っていた。
そして、人びとの言っていたことは間違いではなかった。黄色や白い壁にガラスの間しきり、光と遊ぶように設けられたいくつものガラスのオブジェや、平行でない直線に形成された空間と階段が続く。緩やかな曲線を描く平面が光と遊び、内部に様々な陰影を作り出している。それは労力を削ぎ取るためではなく、伝統という枠を取り払いながらも、機能が遊びや美しさと共存することを示した魅惑的な空間だった。マイアは心が開放されるのを感じた。光の射し込んでくるガラスの窓を見上げてしばらく動かずに立ちすくんでいた。
「とてもきれいよね」
そういって話しかけてきたのがマリア・モタだった。赤い鮮やかなジャケットを身につけてブルネットが所々混じる綺麗な金髪をラフにシニヨンにしていた。マイアは戸惑いながらも頷いた。学校を出たばかりで、公式の場に一人で行くことも少なかったマイアは、コンサートホールに一人でいるというだけで、少し冒険をしている氣分だった。一方のマリアは堂々としていてとても眩しく感じた。実際にはマリアの年齢はマイアと一つしか離れていなかった。
マリアに誘われて、マイアはホール内にあるレストランへと行った。マリアは白ワインを炭酸飲料で割るように頼み、マイアも同じものを試して、それを機会にその飲み物の虜になった。人付き合いが苦手でなかなか新しい友だちのできないマイアが、マリアに対して警戒を持たずに新しい友だちになれたのは、カーサ・ダ・ムジカの非日常性のおかげだったのかもしれない。
その日、マリアは何も言わなかったが、彼女は出会ったその日からマイアの金の腕輪に氣がついていた。というよりは、たぶんそれでマイアに声を掛けたのだ。
「姉のライサもその腕輪をしているの。姉以外でそれをしている人、はじめて見たから、どうしても声を掛けたくなってしまって」
マリアは何回目かにあった時にそう告白した。
「お姉さんは、いまどこに?」
「ドラガォンの館で働いている。たまに帰ってくるけれど。今度帰って来たら、マイアと友達になったって話すわね」
ドラガォンの館と聞いて、マイアはどきりとした。子供の頃の思い出が甦った。あの建物の中には、あの悲しい瞳をした少年が今もいるんだろうか。それとも、とっくに追い出されてどこかに行ってしまったんだろうか。わかっていることは一つだった。あの館は昔から変わらずにあの美しい街の夕闇をのぞみ続けている。
「ねえ。マリアのお母さんもこの腕輪しているの?」
マイアは氣になっていたことを訊いてみた。自分の境遇がやはり同じ腕輪をしていた亡き母親と関係があるのかわかると思ったから。
「いいえ。どうして?」
「私の母はしていたの。そうか、それとは関係ないのかな」
「わからないわ。だって、ライサはパパともママとも血がつながっていないもの」
「え?」
「養女なの。でも、腕輪のことを知りたいなら、いい人を知っているわ」
マリアは地下鉄のトリンダーデ駅の近くへと連れて行った。銀行や郵便局など大きくて立派な建物のある裏手に細い路地があった。バルコニーに洗濯物が翻るカラフルだが古いタイルに彩られた細い建物が身を寄せあうように建っている。時おりショウウィンドウがあって、金物屋や洗濯屋それに肉屋などが見えた。マリアは脇目も振らずにその奥の小さな何の看板も出ていない入り口に入って行った。カラフルな布切れがかかっているので表からは家の中は見えないようになっている。表は日差しが強くて汗ばむほどだったが、家の中はとても涼しかった。
「何か用かい」
下の方から声がした。暗闇に目が慣れていなかったマイアは目を凝らした。マイアが座っている老婆を見つけたのと、マリアが声を掛けたのがほぼ同時だった。
「こんにちは。以前《星のある子供たち》の一人である私の姉が訪ねて来たことがあるんだけれど、憶えているかしら」
老婆はゆっくりとマリアを見たが、首を振った。
「私は何も憶えていないよ。世界の深淵を覗き見るために、占いをするだけさ」
マリアは老婆のもってまわったいい方に慣れているらしくマイアの左腕をつかむとぐいと老婆の顔の前に金の腕輪を見せつけた。老婆はまったく動じたふうもなく、ただ頭の上のショールを少しずらして顔を隠そうとした。その時にマイアには老婆の左腕にも赤い星のついた金の腕輪が嵌まっているのがわかった。マイアは急いで言った。
「あの……。この腕輪のことについて、教えていただけないでしょうか」
老婆はマイアの戸惑ったような瞳を覗き込むと言った。
「お前さん、母親は?」
「私が七歳の時に他界しました」
「それでその歳だというのに何も知らないわけだね」
「はい」
それから老婆はマリアを指してマイアに言った。
「腕輪を買い取るようなことはしていないよ。この娘と帰りなさい。そして、一人の時にまた来るんだね。お前の悩みについて占ってやることもできるだろう」
マリアには聞かせたくないという意味だと思った。だから二人は大人しく帰り、翌日にマイアは一人出直してきた。
「おや、赤い星を持つ子がまた来たのかね」
「先日、IDカードの申請に行ったんです」
「IDカードとはなんだね」
「身分を証明してくれる小さなカードです。クレジットカードを作ろうとしたり、大きい企業に勤めようとすると必ず提示を求められるんです。それにそれを持っていれば、パスポートなしのヨーロッパ旅行もできるんです」
「それで」
「書類が不備だっていうんです。もう五回も行ったんです。言われた通りに書類を用意して。行く度に違う不備を指摘して申請を受理してくれないんです」
「役所とはそういうところだろう」
「でも……いつも私だけそうなるんです。同じことを妹たちのために申請すると大丈夫なんです。子供の時からずっとそうでした。パスポートも作ってもらえない、自動車の仮免ももらえない。絶対に変です」
「それで」
「この腕輪のせいなんじゃないかと思って」
「お前さん、頭は確かかね。腕輪なんてただの装飾品を見てお役所が意地悪をしているとでも」
はぐらかす老婆を見てマイアは悲しくなってきた。この老婆は同じ腕輪をしている。亡くなった母親のことを訊いた時に、マイアが知っていなくてはならないことを知らないことを指摘した。だったら教えてくれてもいいのに。
涙を浮かべたマイアを見て、老婆は人差し指を口に当てるとそっと座るように指示した。それからどこからかロウソクを取り出してくると火をつけて、表の扉を閉めにいった。暗闇の中、ロウソクの炎だけがオレンジ色に浮かび上がった。
「お前さんの母親の星はいくつだったか憶えているかい」
「二つでした。これとまったく同じ腕輪で赤い石だけ一つ多かったんです」
「そうかい。すると、お前の父親は青い星ひとつだったんだね」
老婆は何でもないように言った。マイアにはさっぱり意味が分からなかった。
「この腕輪はだね。この街に住む、特別な血筋の子供であることを示す証なんだよ。こういうことは、ある程度の年齢になったら親がわかるように説明するものなんだがね。中にはお前さんや、お前さんを連れてきたあの娘の姉のように、話してくれる人間が一人もいないってこともあるわな」
「誰の血筋なんですか」
「知らないよ。知っている人間がいるかどうかも怪しいね。だが、これを付けているということは、私とお前さんはどこかで血がつながっているということだ」
「なぜ腕輪を付けなくちゃいけないんですか」
「その血筋を絶やさないようにするためさ。しかもできるだけ濃いままね」
「?」
「青い星の腕輪を持つ男は、赤い星を持つ女のうち一人以上を選び自分の子供を産むように強制できる。そのかわり星のある子供を得る前に《星のある子供たち》でない女と交わることや、一度他の星を持つ男に選ばれた女に触れることは許されない。そして生まれた子供は親の星と同じか少ないものとなる。両親の星の組み合わせによって子供の星の数が決まるんだ。星をもつ女は星を持つ男の子供を一人でも産めば、その男のもとを去ることが許される。もちろん、その男と一緒にいたければいても構わないがね。《星のある子供たち》を生まないかぎり腕輪をしていない男との結婚は許されない。《星のある子供たち》はどこにいるかが管理され、この街から出て行くことは許されない」
「赤い星一つでも?」
「そうだとも。だが、二つ以上の星を持つ者たちと違う点もある。他の《星のある子供たち》の腕輪は生涯外してもらえないが、星一つの場合は役目が終わった時点で外してもらえるのさ。パスポートだのIDカードだのももらえるようになる。それに相手が青い星ひとつだった場合には、子供は《星のある子供たち》にはならない。そこまで薄くなった血は不要ってことだ」
「でも、今は二十一世紀なのに、なんでそんなおかしなことが続いているの? 本人たちがみんなでイヤだって言えば……」
「イヤなんて言えないようになっているのさ。《星のある子供たち》は監視されている。その義務を遂行するように、それだけを忠実に守るように定められた星を持たない人たちもいるんだよ。《監視人たち》っていうんだ。彼らのトップには大きな権力が与えられていて、連絡が来るとすぐ問題を修正に来るのさ」
マイアは母親の葬式の前にやってきた黒服の男たちを思い出した。同じような男たちは、マイアが十三歳の時にもやってきた。
マイアの記憶にあるかぎり常に付いていた金の腕輪は、マイアの成長とともにきつくなってきた。ある時からはその締め付けが痛くて我慢できなくなってきたので、家庭医であるサントスのところにいって訴えた。するとサントス医師はどこかに電話をした。すぐに2人組の黒服の男たちがやってきて、マイアの腕輪を外し、ひと回り大きいものに嵌め替えて帰って行った。
「お前の申請書類を毎回却下しているのも同じ人たちだ。この街から出て行かないように。それも法的には問題がないように巧妙にね。私たち《星のある子供たち》は、どこに《監視人たち》がいて、誰が監視しているのかを知ることはできない。確かなのは、常に監視されているってことさ。私たちがこうして話しているのもきっと知られているだろう」
「いいんですか」
「別にお前さんの海外逃亡の算段をしているわけじゃないからね。私はただ、本来ならお前さんの母親が伝えるべきだったことを話しているだけさ。悪いことは何もしていない」
「竜の血脈の源は、あそこだよ。ドラガォンの館。あそこの代々の当主は青い星を五つ持っているのさ」
マイアははっとした。あの少年の腕輪には青い石が四つ付いていた。
「青い石が四つ付いているのは?」
老婆は少し驚いたようにマイアの顔を見た。
「そりゃ、インファンテだよ」
「インファンテ?」
「当主の子供か、兄弟だ。そこらへんで逢うはずはないんだが。お前さん、どこかで逢ったのかい?」
マイアはあわてて首を振った。
「いいえ、そういうわけじゃないんです」
一年以上も前の老婆の言葉が甦る。23と24はつまり、ドン・アルフォンソの弟なのだ。でも、なぜ数字の名前なんだろう。マイアは訝った。
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続報・黄色かった子

ずいぶんと大きくなりました。黄色い子は白くなるんですね。だいぶ白くなってきました。元氣に毎日動き回っていますよ。お母さんカモは、この白い子に近い感じの色。池に数匹だけいるのです。白いカモ。残りはいわゆるデコイという感じの茶色と緑のマガモ、メスは茶色ですね。
毎朝、近くの農家のおじさんがパン屑を撒くんですが、わーっとよってきて食べる様子が可愛いです。
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あわてて撮ってみた / 平和を想う

でも、寝る寸前に諦め悪く見上げたら、本当に一瞬だけ雲間に浮かび上がったのですよ。この写真を撮ったらもう次の瞬間にはまた曇ってしまいました。
なんだかラッキーだと思った一瞬。
さて。
昨日は終戦記念日で、多くの方が戦争と平和について言及していらっしゃいましたね。実をいうと、昨日のわたしは69年前のことよりも一日前に家から車で15分の所で起こった列車事故で頭がいっぱいだったのです。
それでも終戦記念日で追悼式典があったり、他の方の記事を読んでやっぱり思う事があります。
戦争はよくないこと。これは私の動かせない意見です。どの国にも国益があり言い分はあるでしょうが、それを武力で解決すると必ず誰かが傷つきます。それをどんな理由をつけても「必要」という考え方をすることはできません。でも、今日はそのことを書きたかったわけではありません。
69年間の戦争と無縁な時間を過ごしてきて、日本人があの頃とは変わってきているなと思うのです。日本人だけでなくてスイス人やドイツ人もですけれど、特に日本人は兵役もないので「関係ない」ことで、戦争や戦闘というのはファンタジーの一部みたいになっていますよね。
近年、戦艦を可愛い女の子で擬人化するゲームがありますよね。それに小説では戦闘ありきなバトルファンタジーがジャンルとして確立しています。それが悪いというのではありません。楽しんでいる人たちに「戦争で亡くなった方の身になれ」などというつもりもありません。そうではなくてつくづく平和なんだなあと思うのです。
一方、スイスやドイツでもティーンエイジャーが「子供の人権」を振りかざしてかなりモンスター化している話をよく聞きます。そんな時にナチスドイツの時代にSSの前で子供が口答えなんかしたら、その場で射殺されて文句も言えなかった、なんて話を聞くと、ヨーロッパも全く時代が変わって平和になったんだなあと思うのですよ。
69年前の方がよかったなんて事ではありません。でも、人びとはこの平和で自由な時代にいられる幸せをわかっているのかなあと思う事があります。「あたりまえ」なんかではありません。
のんきに月の写真を撮って「スーパームーンだ」なんて言っていられるのも、私みたいな一庶民が年に二回も海外に行ったりできるのも、小説を書いてアップしたりしているのも、すべて過去の誰かが苦しんで学んだ歴史の上に成り立つ裕福で平和な世界に暮らしているからなのだと思うのです。そして、それを「当然の権利」だなんて驕ってはならないと思うんですよね。
そんな事を考えた終戦記念日でした。
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【小説】森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架(12)『カササギの尾』 -2-
今回は、下層社会に馴染みながら旅をしてきたマックスが、上流階級に自らを合わせていくための変身といったところでしょうか。実際には、こんな風にいくつかの階層を自在に生きた人間は少なかったと思います。でも、いなかったとは言いきれません。
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森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架
(12)『カササギの尾』 -2-

「いらっしゃい、マウロ!」
奥から声がして女主人がこちらへやってきた。
「マリアンヌ! お客さんだ。心地が良い宿をお探しなんだと。部屋はあいているかい?」
「ああ、もちろんだとも。まだ日も高いからね」
「マックスの旦那、部屋を見られますか? その間、私が馬を見ていますよ」
マックスは首を振った。
「部屋は見なくてもいい。君が保証するなら、清潔に決まっている」
二人のルーヴラン人は顔を見合わせてから、満足そうに笑った。グランドロン人がルーヴラン人に嫌われるのは、すべてを自分の目で見てコントロールしたがり、あらゆることにケチを付けたがるからだ。だいたいにおいて、ルーヴランの宿はグランドロンのそれほど清潔ではないことが多い。だが、それを指摘して何になるのだというのだろう。多少しわのよったシーツと、このいい香りのする料理を天秤にかけなくてはならないなら、マックスは喜んでルーヴランの平均的旅籠を選ぶだろう。
「ところで、マックスの旦那。ずいぶん荷が軽いようですが、後からお荷物が着くんですか?」
マウロが馬から外した荷物を運び入れながら訊いた。
マックスは少し微笑んで答えた。
「いや、荷は届かない。その代わりに、僕はまともな服装を揃えなきゃならないだろうな。マウロ、いい仕立て屋と靴屋を知っているかい?」
旅籠の女主人マリアンヌとマウロは再び笑った。こうしているうちに、彼らと以前からの友人のようにすっかりと親しくなってしまったのだった。
旅籠『カササギの尾』には、母屋の上にごく普通の客室もあったが、流行っている居酒屋ゆえ毎晩の酒盛りで安眠が妨げられる怖れがあるとマリアンヌは告げた。マックスは長期滞在するつもりだったので、離れの部屋を借りる事にした。居酒屋の裏の小路を少し進んだ奥にあって、通りの喧噪からわずかに離れただけなのに驚くほど閑静に感じられた。寝室兼居室は暖炉で暖かく、もう一部屋はその火で簡単に食事なら自分で煮炊きもできる小さい台所のようになっていた。これなら朝、暖かい湯で顔を洗う事もできる。マックスはこの新しい住居がたいそう氣にいった。
とはいえ、自分で料理するつもりには全くなれず、『カササギの尾』に早速戻って、親爺の自慢のスープを頼んだ。この居酒屋がいつも混んでいるという理由はすぐにわかった。ここにいる間に太ってしまうかもしれない。マックスは思った。
二日明けた朝、マックスは公衆浴場へと向かった。都市の浴場は貴族から乞食まで広く開放されている。もちろん乞食が自分で代金を払えるわけではない。公衆浴場は月に一度、開放されて貧民や乞食など普段は入れない人びとも自由に入場できる。この費用は貴族や街の富豪たちの喜捨でまかなわれており、入場する時には主には既に死亡している寄進者の魂の救済の祈りを唱えることになっていた。開放日は浴場は汚れて得体の知れない者でいっぱいになるので、自分で払って楽しみたい客は行かない。そして、その翌日も、まだ前日の奇妙な臭いが残っているという理由で、ひどく空いているのだった。彼がわざわざ選んだのはこの朝だった。
「変わったお客さんだね。わざわざ今日を選んでいらしたんですかい」
浴場の親父は目を丸くした。
「そうだ。少し念入りにしてもらいたいんでね、君たちに時間がたっぷりある方がいいんだ」
「なるほど。それでは、まずこちらからどうぞ」
親父はトビアスという名の青年にマックスを案内するように言った。トビアスはかしこまって彼を奥へと連れて行った。
脱衣室で衣服を脱ぎ、まずはトビアスにカミツレの入った灰汁をかけてもらってからマッサージを受ける。全身をくまなく揉み解してもらい旅の間に強ばった筋肉を弛緩させる。それから小部屋の寝台に横たわる。すぐ側の真っ赤に熱せられた石に水が掛けられると、部屋は蒸氣でいっぱいになる。しばらくはそうしてサウナで汗を流す。トビアスはその間も白樺の細い枝を束ねたものでマックスの全身の皮膚を叩いていた。乾燥しささくれ立った手足の皮膚も丁寧に削ってもらう。
サウナの次は洗い場だ。上級のコースを頼みさらに割増賃も払ったので、トビアスは高級な石けんを使い、身体と髪を丁寧に洗っていく。
「ずいぶん絡まっていますね、旦那さま」
「悪いが貴族の頭みたいにしてくれ」
マックスは頼んだ。トビアスは無理難題を言われると奮い立つ性質らしく、絡んだ客の髪を狂ったように梳いて、丁寧に洗い、どこに出ても恥ずかしくない状態にしてくれた。そういう訳で、彼がさっぱりして階下に降りて行くと風呂屋の親父すら驚くほど清潔で綺麗になっていた。
浴場の次に訪れたのはマウロとマリアンヌに薦められた仕立て屋で、マックスはここで何着かの登城用の服をこしらえた。彼は一点は式典の時にも着用できる袖がふくらみ、襞もたっぷりある絹織物で、色は深い青にしてもらった。本来はもう少し明るい青が好きなのだが、式典ともなると服装にもうるさい輩が多いだろうから、わずかでも高貴に見える色合いにしてもらったのだ。当然染色の手間がかかるので値段も張る。残りの数着は少し色合いの違う明るい青の上着と、流行のスカーレットの毛織物の上着。これに脛までの麻のズボン、白いシュミーズ、絹のタイツに、滑稽なほど先の尖って反り返った靴など、宮廷で必要な服装を取り揃えた。
こうした馬鹿げた服装は値段も張るが、とにかく布の量が多くて持ち運びが不便だ。だから彼は旅の間中持ち歩くことよりも、こうして必要な時に仕立てることを好む。これらの金額があれば、旅では一ヶ月以上楽しい思いが出来るだろう。だが、しかたがない。この衣装なしでは王女の教師の職は手に入らないだろうから。彼は王宮を訪ねる段取りについて考えはじめた。
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訪問してくださる方がたを思う
その一方で、昔からのブログのお友だちは、少しずつ減っていますね。いや、fc2の方で足跡を残してくださる方しか把握していないので、実際には思っているよりもいらしてくださっているかもしれません。たまにコメをいただいたりすると飛び上がって喜んでいます。とはいえ、訪問者数は大体一定しているので、新しい方がいれば、いらっしゃらなくなる方もあるという事なんだろうなと冷静に考えています。
これは私のブログの魅力や人間関係の他に、訪問してくださる方のライフスタイルが変わるという事もあります。リアルの生活がヒマな方である私も思いますもの。いつまでこれ続けられるかなって。小説は生涯書き続けると思いますが、ブログは数年、長くて十年ですかね。
ブロともや相互リンク先だった方が、長期の広告表示の後、突然アカウント解消なさる事が増えています。どうなさったのかなと思います。興味がなくなった、時間がなくなったという事だけでなく、事情があってどうしても痕跡を消したいなんて事もあるでしょう。理由はわかりませんが、リアルの人生でのお幸せとご活躍をお祈りします。
そういえば、かつてかなり親しかったけれど交流の途絶えてしまったブログのお友だちがいました。私は今でもその方の事を嫌いではないのですが、私がした失礼をたぶんその方は許せなかったのだと思います。連絡をしてくださいとメッセージしましたが、全く何もなかったので訪問をお互いにしないまま一年以上の時間が経ちました。でも、その方はずっとブロともを解消しないままいてくださったのです。つい最近、そのマークが消えている事に氣がつきました。毎日確認しているわけじゃないので、その削除がいつだったかは全く不明です。まあ、これだけ交流がなければ整理するのも当然だなと思います。むしろそれで私の痛みがまったくないほど長く切らずにいてくださった、その思いやりに驚いて感謝しています。たぶんこれを読む事はないと思いますが、これからのご活躍とブログのますますの発展をお祈りしています。
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【小説】樋水龍神縁起 東国放浪記 - 秘め蓮
月に一度発表する読み切り短編集「十二ヶ月の野菜」の八月分です。このシリーズは、野菜(食卓に上る植物)をモチーフに、いろいろな人生を切り取る読み切り短編集です。八月のテーマは「蓮根」です。というのは、ちょっとこじつけ。じつは「ユズキさんのイラストにストーリーつけてみよう」企画の方がメインです。今回お借りしたのは、美しい蓮の花。
ユズキさんの記事 「蓮の花絵フリー配布 」
六月に拝見したときから、ぜひ使わせていただきたいと思っていたんですが、蓮は難しいですね。「桜」と「三色すみれ」のときのように氣軽には使えず、悩みに悩んでこの話を創り出しました。この作品は、「樋水龍神縁起」のスピンオフです。平安時代編。男の二人旅の話。行き詰まっていた時に、助け舟を出してくださったのは、ウゾさん。「大和高田市奥田の蓮取り」という素晴らしいヒントをくださいました。本当にありがとうございました。
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樋水龍神縁起 東国放浪記
秘め蓮
蓮の葉が広がる池だった。風が細かい水紋を起こした。次郎は故郷を思い出した。遠く離れ、戻るあてもない。深い森の奥に俗世界から守られるようにして記憶の中の池はあった。正面に瀧があり、常に清浄な氣に溢れていた。彼はそこに住む神聖なるものを見ることができた。それは、常にそこにいた。彼が生まれる前から。
神社付きの郎党であった次郎は生まれてからずっと出雲国から出たことがなかった。今、彼が仕えている主人が彼の住んでいた神域にやってくるまで。次郎は馬の手綱を握り直して、馬上の主人を見上げた。主人は何も言わずに目の前の池に目をやっていた。彼もまた思い出しているに違いない。樋水の龍王の池と、その池のほとりに住んでいた御覡を。彼のせいで命を落とした媛巫女を。
「春昌様。あちらに小さい庵がございます。そろそろ今宵の宿を探した方がようございます」
次郎が話しかけると、安達春昌は黙って頷いた。
池のほとりにある庵は村から離れて寂しく建っていた。よそ者を快く泊めてくれるかどうかはわからぬが、そろそろ陽は傾きだしている。次郎は庵の戸を叩いた。
「もうし」
誰かが出てくる氣配はなかった。中から苦しそうな咳が聞こえる。次郎はどうしようかと迷い、馬上の春昌を見上げた。主人が次郎に何かを言おうとしたとき、馬の後ろから声がした。
「何かご用でございますか」
二人が振り向くと、泥だらけの誰かがそこに立っていた。声から推測すれば娘のようだが、そのなりからは容貌もほとんどわからなかった。
「旅の者でございます。一夜の宿をお借りできないかとお願いに参りました」
次郎が丁寧に申し出ると、娘はそっと馬上の春昌を見上げた。
安達春昌の服装は、大して立派とは言えなかった。かつて次郎がはじめて春昌に逢った時は、右大臣の伴をして奥出雲にやってきただけあり、濃紺の立派な狩衣を身につけた堂々たる都人であった。が、道を踏み外し流浪の民となってから数ヶ月、狩衣の色は褪せ、袴もくたびれていた。もっとも、都を遠く離れたこのような村では狩衣を身に着け郎党を従えた男というだけで、十分に尊い貴人であった。そして、娘が驚いたのはまだ年若いと思われるその男の何もかも見透かすような鋭い目つきであった。
娘は慌てて春昌から眼を逸らすと、頭を下げて「ばば様に訊いてまいります」と中に入っていった。娘の抱えている緑色の束から、微かに爽やかな香りがした。
ほんのわずかの刻を立ち尽くしただけで、二人は再び娘が玄関に戻ってくる音を聞いた。娘は狭い土間にうずくまり頭を下げた。
「病に臥せっている者がおり、狭く、おもてなしが十分にできませぬが、それでよろしければどうぞお上がりくださいませ」
「お心遣い、感謝いたします」
春昌が言うと、次郎も深々と頭を下げた。
次郎が馬をつなぎ、荷を下ろしてから家の中に入ると、春昌は案内された小部屋ではなく、隣の媼が伏せている部屋にいた。
「春昌様」
次郎が声を掛けると春昌は振り返った。
「次郎、頼まれてくれぬか」
「なんでございましょう」
「林の出口付近に翁草が生えていた。あれを三株ほど採ってきてほしい。汁でかぶれるので直接手を触れぬようにいたせ」
「はい。しばしお待ちくださいませ」
娘は、目鼻がわかる申しわけ程度に顔と手を洗って媼の横たわる部屋にやってきたが、先ほどまで苦しそうにしていた老女のひどい咳が治まっているのに驚いた。客は媼の手を取り瞳を閉じて何かの念を送っているように見えた。
半時ほどすると、馬の蹄が聞こえて、次郎が戻ってきたのがわかった。郎党は足早に上がってきて、部屋の入口に座り懐から紙に包まれた翁草を取り出して主人に手渡した。春昌は立ち上がって娘に言った。
「これを煎じたい」
「でも、それは……」
娘は困ったように春昌を見つめた。
「わかっている。この草には毒がある。毒を薬にする特別な煎じ方があるのだ」
娘は頭を下げると春昌を竃の側に案内した。娘は春昌が慣れた手つきで翁草をさばき、花や根を切り捨てるのを見た。それから何かをつぶやきながら、今まで見たこともない方法で葉と茎を煎じるのを不思議そうに見た。彼はそれから煎じ液の大半を捨て、水を加えて再び煮立てた。それを何度か繰り返し、見た目には白湯と変わらぬ煎じ薬を茶碗に入れると、再び媼のもとに戻った。
「さあ、これをお飲みなさい。今宵は咳に悩まされずに眠れるでしょう」
媼は黙って薬を飲んだ。娘は再び驚いた。翁草には毒があるので触ったり食べたりしてはいけないと教えたのは他ならぬ老女自身だったから。普段一切よそ者を信用しないのに、今日に限り従順になったのはなぜだろうと訝った。老女は春昌に耳を近づけてようやく聴き取れるほどの声で礼を述べると横になり、次の瞬間にはもう眠りについていた。春昌は何もなかったかのように立ち上がり、自分たちにあてがわれた小さな部屋に戻った。
娘は若い蓮の実とできはじめたばかりの蓮根を洗って調理を始めた。そしてわずかに残っていた粟とともに粥にした。それから二人のもとに運んで言った。
「こんなものしかございませんが、どうぞ」
春昌は手を付けずにその粥をじっと見ていた。
「いかがなさいましたか」
「この蓮は目の前の池のものですか」
「はい」
「春昌様?」
次郎が不思議そうに見た。主人は不安がる郎党を見て少し笑った。
「素晴らしい蓮だ。次郎、心して食しなさい」
それから娘を見て言った。
「明朝、この蓮を穫った場所へご案内いただけますか」
娘は「はい」と答えて粥をかき込んだ。春昌が椀に手を付けたので、次郎もほっとして箸に手を伸ばした。娘は客人を待たずに食べだしたことにようやく氣がつき赤くなった。次郎は貧しく泥まみれの娘を半ば氣の毒そうに、しかし半ば軽んじて見やった。
明け方に次郎は隣の間から聞こえてくるバタバタした音で目を覚ました。身を起こすと、春昌はすでに起きて身支度をし夜が明け白んでくる蓮池を見やっていた。
「もうしわけございません」
慌てて次郎が起き上がると春昌は振り返った。
「よい。あの蓮が効き、よく休めたのであろう」
急いで身支度をしながら次郎は主人に訊いた。
「あの蓮は何か特別なのでしょうか」
陰陽師である主人はわずかに微笑みながら答えた。
「そなたもあの波動は感じたであろう。五色の氣は見えなかったか」
「五色? いいえ。普通の蓮よりも強い氣を発しているのは感じましたが。穫れたて故、あれほど美味なのかと思っておりました」
次郎が袴の紐を絞ると同時に、部屋の外から娘の声がした。
「お目覚めでしょうか」
次郎が破れかかった障子をそっと開けると、昨日の汚れが乾いたままの様相をして、娘は頭を下げた。
「お早うございます。よくお休みになれたでしょうか」
「ああ。礼を申す」
そういって春昌は娘が横に置いた籠に目をやった。
「池にいくのか」
「はい。もし、よろしければどうぞご一緒に」
「ぜひ見せていただこう」
立ち上がった春昌の後を、次郎は慌てて追った。
ようやく昇りかけている朝日を浴びて、蓮池は霧を少しずつ晴らしている所であった。樋水の龍王の池にも劣らぬ清浄な氣を感じて、次郎は身震いをした。昨夕は全く感じなかったのに一体どうしたことであろう。
娘が庵と反対側にある非常に多くの蓮の葉が集中している所に来て、そっと薄鴇色の花を指差した。

このイラストの著作権はユズキさんにあります。ユズキさんの許可のない使用は固くお断りします。
それは明らかにただの蓮の花ではなかった。二輪の花が並んで咲いている。その花の周りに次郎にもはっきりとわかる強い氣の光輪が広がっていた。赤、青、黄、紫、そして白。よく見るとその二輪の花は一つの茎からわかれ出ていた。次郎は思わず息を飲んだ。春昌は何かを小さくつぶやいていた。
「奥田の香華……」
「春昌様?」
「わが師は賀茂氏であった。大和国葛城に戻られる時にはよくお伴をしたものだ。一度、奥田の捨篠池に私を伴われたことがあった。その時に、かの役行者と縁深き一茎二花の蓮花は、失われたのではなくいずこかに今でもあるはずだとお話しくださったことがあったのだよ」
「役行者の蓮でございますか?」
「かつて尊き五色の霧をともなった神の蓮がかの池を覆っていたというのだ。言い伝えでは役行者の母君が金の蛙に篠萱を投げつけて、その目を一つ射抜いてしまい、それ以来、一茎二花の蓮も普通の蓮になってしまったということになっている。わが師は、珍しくて尊い花ゆえ人びとが競って朝廷へ献じたために、失われてしまったのであろうとおっしゃっていた」
「いま見ているこの蓮が、その尊き花なのですね」
「そうだ。最後の花の種はどこか、都人の口の端に上らぬ所に隠されたとおっしゃっていた。あれはここのことだったのだ。見よ、何と美しいことか」
「朝廷に奏上した方がいいのでしょうか」
次郎がいうと、娘は怯えたように二人を見た。
春昌は首を振った。
「同じ間違いを犯してはならぬ。私は師の期待を裏切り、慢心し、決して失われるべきではない尊い神の宝を死なせてしまった。神がここに咲かせた花は、ここで咲かせるべきだ。そうではないか」
娘は泥池の中に入り、蓮根と、花の終わった青い花托をいくらか収穫してきた。泥に汚れ、またしても男だか女だかわからなくなってしまった娘を、次郎は少し呆れた様子で眺めていた。だが、特別な蓮の花托を抱えているせいなのか、次郎にもわずかに見えている娘の氣は、朝の光の中でやはり五色にうっすらと輝いて見えた。次郎は思わず目をこすった。春昌は口先でわずかに笑った。
庵に戻り、出立の支度をしていると、再び娘がやってきた。
「ばば様が目を覚まし、旦那様にお礼を申し上げたいそうです。お邪魔してもよろしいでしょうか」
「まだ起きるのはつらいであろう。私がそちらへ行こう」
隣の間で布団の上に起き上がっていた媼が、春昌の姿を見てひれ伏した。
「何とお礼をもうしていいやら。息をするのも苦しく、幾晩も眠ることもできませんでしたのに、嘘のように咳も苦しさも治まりました」
「呪禁存思にてそなたの体内に流れていた風を遮った。翁草は滅多にしない荒療治であったが効いたようで何よりだ。そなたたちが同じことをすると危険ゆえ、代わりに大葉子を煎じて一日に三回飲むようにするとよいだろう」
「あなた様は、いったい……」
「道を踏み外し、名を捨てた者だ。だが、心配はいらぬ。わが呪法は京の陰陽寮で用いられているものと同じ。暖かきもてなしと、神の蓮に逢わせていただいた礼だ」
それを聞いて媼はびくっとした。春昌は媼をまっすぐに見据えて続けた。
「尊き蓮を守られるご使命をお持ちですね」
「はい。私は、かの蓮をさるやんごとなきお方よりお預かりし、時が来るまでここで泥の中に隠すように申しつかっております」
「賀茂氏のご縁のお方か」
「はい」
「では、蓮を受け取りにこられる時に、安達春昌より心からの恭敬と陳謝の意を伝えていただきたい」
「承知いたしました。必ず」
媼と娘に別れを告げて、二人は森を通りさらに東に向かった。
「春昌様。お伺いしてもいいでしょうか」
次郎は馬上の主人を見上げた。
「なんだ」
「いずれはあの蓮の花を、陰陽寮の方がお引き取りにお見えになるということなのですか?」
次郎は、媼と春昌の会話の意味が半分も分かっていなかった。
「蓮の花ではない」
「え?」
春昌は次郎を見て笑った。
「そなたも氣がついたと思ったのだが」
「え? 何をでございますか」
春昌は前を向いた。
「あの娘だ。あれは特別な女。おそらく三輪の神にお仕えする斎の媛にするつもりなのであろう。師も苦労の絶えぬことだ。蓮のように泥の中に隠さねばならぬとは」
「泥の中に隠す?」
「あの娘を湯浴みさせ、髪を梳き、それなりの館にて育てたら、その美しさにたちまち噂が広がり、やれ我が妻に、やれ皇子様の后にと大騒ぎになるはずだ。あれは
「ぱどみに? それは何でございますか」
「天竺では女を四つに格付けしているのだ。下から
次郎は目をしばたたかせた。なぜそれを昨夜教えてくれなかったかと、つい言いそうになったが寸での所で留まった。
次郎も、もう一人の至高の女を知っていた。やはり神に捧げられた尊い媛だった。ひと言も口にせずとも、主人が何を想っているかがわかる。春昌にとって生きることと旅をすることは、償いであり神罰でもあった。彼はいくあてもなく彷徨うしかない存在だった。
「ゆくぞ」
木漏れ日の中を馬上にて背筋を伸ばし進んでいく主人の色褪せた狩衣を追い、次郎は再び歩き出した。
(2014年8月書き下ろし)
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【小説】樋水龍神縁起 東国放浪記 - 秘め蓮
ユズキさんの記事 「蓮の花絵フリー配布 」
六月に拝見したときから、ぜひ使わせていただきたいと思っていたんですが、蓮は難しいですね。「桜」と「三色すみれ」のときのように氣軽には使えず、悩みに悩んでこの話を創り出しました。この作品は、「樋水龍神縁起」のスピンオフです。平安時代編。男の二人旅の話。行き詰まっていた時に、助け舟を出してくださったのは、ウゾさん。「大和高田市奥田の蓮取り」という素晴らしいヒントをくださいました。本当にありがとうございました。
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樋水龍神縁起 東国放浪記
秘め蓮
蓮の葉が広がる池だった。風が細かい水紋を起こした。次郎は故郷を思い出した。遠く離れ、戻るあてもない。深い森の奥に俗世界から守られるようにして記憶の中の池はあった。正面に瀧があり、常に清浄な氣に溢れていた。彼はそこに住む神聖なるものを見ることができた。それは、常にそこにいた。彼が生まれる前から。
神社付きの郎党であった次郎は生まれてからずっと出雲国から出たことがなかった。今、彼が仕えている主人が彼の住んでいた神域にやってくるまで。次郎は馬の手綱を握り直して、馬上の主人を見上げた。主人は何も言わずに目の前の池に目をやっていた。彼もまた思い出しているに違いない。樋水の龍王の池と、その池のほとりに住んでいた御覡を。彼のせいで命を落とした媛巫女を。
「春昌様。あちらに小さい庵がございます。そろそろ今宵の宿を探した方がようございます」
次郎が話しかけると、安達春昌は黙って頷いた。
池のほとりにある庵は村から離れて寂しく建っていた。よそ者を快く泊めてくれるかどうかはわからぬが、そろそろ陽は傾きだしている。次郎は庵の戸を叩いた。
「もうし」
誰かが出てくる氣配はなかった。中から苦しそうな咳が聞こえる。次郎はどうしようかと迷い、馬上の春昌を見上げた。主人が次郎に何かを言おうとしたとき、馬の後ろから声がした。
「何かご用でございますか」
二人が振り向くと、泥だらけの誰かがそこに立っていた。声から推測すれば娘のようだが、そのなりからは容貌もほとんどわからなかった。
「旅の者でございます。一夜の宿をお借りできないかとお願いに参りました」
次郎が丁寧に申し出ると、娘はそっと馬上の春昌を見上げた。
安達春昌の服装は、大して立派とは言えなかった。かつて次郎がはじめて春昌に逢った時は、右大臣の伴をして奥出雲にやってきただけあり、濃紺の立派な狩衣を身につけた堂々たる都人であった。が、道を踏み外し流浪の民となってから数ヶ月、狩衣の色は褪せ、袴もくたびれていた。もっとも、都を遠く離れたこのような村では狩衣を身に着け郎党を従えた男というだけで、十分に尊い貴人であった。そして、娘が驚いたのはまだ年若いと思われるその男の何もかも見透かすような鋭い目つきであった。
娘は慌てて春昌から眼を逸らすと、頭を下げて「ばば様に訊いてまいります」と中に入っていった。娘の抱えている緑色の束から、微かに爽やかな香りがした。
ほんのわずかの刻を立ち尽くしただけで、二人は再び娘が玄関に戻ってくる音を聞いた。娘は狭い土間にうずくまり頭を下げた。
「病に臥せっている者がおり、狭く、おもてなしが十分にできませぬが、それでよろしければどうぞお上がりくださいませ」
「お心遣い、感謝いたします」
春昌が言うと、次郎も深々と頭を下げた。
次郎が馬をつなぎ、荷を下ろしてから家の中に入ると、春昌は案内された小部屋ではなく、隣の媼が伏せている部屋にいた。
「春昌様」
次郎が声を掛けると春昌は振り返った。
「次郎、頼まれてくれぬか」
「なんでございましょう」
「林の出口付近に翁草が生えていた。あれを三株ほど採ってきてほしい。汁でかぶれるので直接手を触れぬようにいたせ」
「はい。しばしお待ちくださいませ」
娘は、目鼻がわかる申しわけ程度に顔と手を洗って媼の横たわる部屋にやってきたが、先ほどまで苦しそうにしていた老女のひどい咳が治まっているのに驚いた。客は媼の手を取り瞳を閉じて何かの念を送っているように見えた。
半時ほどすると、馬の蹄が聞こえて、次郎が戻ってきたのがわかった。郎党は足早に上がってきて、部屋の入口に座り懐から紙に包まれた翁草を取り出して主人に手渡した。春昌は立ち上がって娘に言った。
「これを煎じたい」
「でも、それは……」
娘は困ったように春昌を見つめた。
「わかっている。この草には毒がある。毒を薬にする特別な煎じ方があるのだ」
娘は頭を下げると春昌を竃の側に案内した。娘は春昌が慣れた手つきで翁草をさばき、花や根を切り捨てるのを見た。それから何かをつぶやきながら、今まで見たこともない方法で葉と茎を煎じるのを不思議そうに見た。彼はそれから煎じ液の大半を捨て、水を加えて再び煮立てた。それを何度か繰り返し、見た目には白湯と変わらぬ煎じ薬を茶碗に入れると、再び媼のもとに戻った。
「さあ、これをお飲みなさい。今宵は咳に悩まされずに眠れるでしょう」
媼は黙って薬を飲んだ。娘は再び驚いた。翁草には毒があるので触ったり食べたりしてはいけないと教えたのは他ならぬ老女自身だったから。普段一切よそ者を信用しないのに、今日に限り従順になったのはなぜだろうと訝った。老女は春昌に耳を近づけてようやく聴き取れるほどの声で礼を述べると横になり、次の瞬間にはもう眠りについていた。春昌は何もなかったかのように立ち上がり、自分たちにあてがわれた小さな部屋に戻った。
娘は若い蓮の実とできはじめたばかりの蓮根を洗って調理を始めた。そしてわずかに残っていた粟とともに粥にした。それから二人のもとに運んで言った。
「こんなものしかございませんが、どうぞ」
春昌は手を付けずにその粥をじっと見ていた。
「いかがなさいましたか」
「この蓮は目の前の池のものですか」
「はい」
「春昌様?」
次郎が不思議そうに見た。主人は不安がる郎党を見て少し笑った。
「素晴らしい蓮だ。次郎、心して食しなさい」
それから娘を見て言った。
「明朝、この蓮を穫った場所へご案内いただけますか」
娘は「はい」と答えて粥をかき込んだ。春昌が椀に手を付けたので、次郎もほっとして箸に手を伸ばした。娘は客人を待たずに食べだしたことにようやく氣がつき赤くなった。次郎は貧しく泥まみれの娘を半ば氣の毒そうに、しかし半ば軽んじて見やった。
明け方に次郎は隣の間から聞こえてくるバタバタした音で目を覚ました。身を起こすと、春昌はすでに起きて身支度をし夜が明け白んでくる蓮池を見やっていた。
「もうしわけございません」
慌てて次郎が起き上がると春昌は振り返った。
「よい。あの蓮が効き、よく休めたのであろう」
急いで身支度をしながら次郎は主人に訊いた。
「あの蓮は何か特別なのでしょうか」
陰陽師である主人はわずかに微笑みながら答えた。
「そなたもあの波動は感じたであろう。五色の氣は見えなかったか」
「五色? いいえ。普通の蓮よりも強い氣を発しているのは感じましたが。穫れたて故、あれほど美味なのかと思っておりました」
次郎が袴の紐を絞ると同時に、部屋の外から娘の声がした。
「お目覚めでしょうか」
次郎が破れかかった障子をそっと開けると、昨日の汚れが乾いたままの様相をして、娘は頭を下げた。
「お早うございます。よくお休みになれたでしょうか」
「ああ。礼を申す」
そういって春昌は娘が横に置いた籠に目をやった。
「池にいくのか」
「はい。もし、よろしければどうぞご一緒に」
「ぜひ見せていただこう」
立ち上がった春昌の後を、次郎は慌てて追った。
ようやく昇りかけている朝日を浴びて、蓮池は霧を少しずつ晴らしている所であった。樋水の龍王の池にも劣らぬ清浄な氣を感じて、次郎は身震いをした。昨夕は全く感じなかったのに一体どうしたことであろう。
娘が庵と反対側にある非常に多くの蓮の葉が集中している所に来て、そっと薄鴇色の花を指差した。

このイラストの著作権はユズキさんにあります。ユズキさんの許可のない使用は固くお断りします。
それは明らかにただの蓮の花ではなかった。二輪の花が並んで咲いている。その花の周りに次郎にもはっきりとわかる強い氣の光輪が広がっていた。赤、青、黄、紫、そして白。よく見るとその二輪の花は一つの茎からわかれ出ていた。次郎は思わず息を飲んだ。春昌は何かを小さくつぶやいていた。
「奥田の香華……」
「春昌様?」
「わが師は賀茂氏であった。大和国葛城に戻られる時にはよくお伴をしたものだ。一度、奥田の捨篠池に私を伴われたことがあった。その時に、かの役行者と縁深き一茎二花の蓮花は、失われたのではなくいずこかに今でもあるはずだとお話しくださったことがあったのだよ」
「役行者の蓮でございますか?」
「かつて尊き五色の霧をともなった神の蓮がかの池を覆っていたというのだ。言い伝えでは役行者の母君が金の蛙に篠萱を投げつけて、その目を一つ射抜いてしまい、それ以来、一茎二花の蓮も普通の蓮になってしまったということになっている。わが師は、珍しくて尊い花ゆえ人びとが競って朝廷へ献じたために、失われてしまったのであろうとおっしゃっていた」
「いま見ているこの蓮が、その尊き花なのですね」
「そうだ。最後の花の種はどこか、都人の口の端に上らぬ所に隠されたとおっしゃっていた。あれはここのことだったのだ。見よ、何と美しいことか」
「朝廷に奏上した方がいいのでしょうか」
次郎がいうと、娘は怯えたように二人を見た。
春昌は首を振った。
「同じ間違いを犯してはならぬ。私は師の期待を裏切り、慢心し、決して失われるべきではない尊い神の宝を死なせてしまった。神がここに咲かせた花は、ここで咲かせるべきだ。そうではないか」
娘は泥池の中に入り、蓮根と、花の終わった青い花托をいくらか収穫してきた。泥に汚れ、またしても男だか女だかわからなくなってしまった娘を、次郎は少し呆れた様子で眺めていた。だが、特別な蓮の花托を抱えているせいなのか、次郎にもわずかに見えている娘の氣は、朝の光の中でやはり五色にうっすらと輝いて見えた。次郎は思わず目をこすった。春昌は口先でわずかに笑った。
庵に戻り、出立の支度をしていると、再び娘がやってきた。
「ばば様が目を覚まし、旦那様にお礼を申し上げたいそうです。お邪魔してもよろしいでしょうか」
「まだ起きるのはつらいであろう。私がそちらへ行こう」
隣の間で布団の上に起き上がっていた媼が、春昌の姿を見てひれ伏した。
「何とお礼をもうしていいやら。息をするのも苦しく、幾晩も眠ることもできませんでしたのに、嘘のように咳も苦しさも治まりました」
「呪禁存思にてそなたの体内に流れていた風を遮った。翁草は滅多にしない荒療治であったが効いたようで何よりだ。そなたたちが同じことをすると危険ゆえ、代わりに大葉子を煎じて一日に三回飲むようにするとよいだろう」
「あなた様は、いったい……」
「道を踏み外し、名を捨てた者だ。だが、心配はいらぬ。わが呪法は京の陰陽寮で用いられているものと同じ。暖かきもてなしと、神の蓮に逢わせていただいた礼だ」
それを聞いて媼はびくっとした。春昌は媼をまっすぐに見据えて続けた。
「尊き蓮を守られるご使命をお持ちですね」
「はい。私は、かの蓮をさるやんごとなきお方よりお預かりし、時が来るまでここで泥の中に隠すように申しつかっております」
「賀茂氏のご縁のお方か」
「はい」
「では、蓮を受け取りにこられる時に、安達春昌より心からの恭敬と陳謝の意を伝えていただきたい」
「承知いたしました。必ず」
媼と娘に別れを告げて、二人は森を通りさらに東に向かった。
「春昌様。お伺いしてもいいでしょうか」
次郎は馬上の主人を見上げた。
「なんだ」
「いずれはあの蓮の花を、陰陽寮の方がお引き取りにお見えになるということなのですか?」
次郎は、媼と春昌の会話の意味が半分も分かっていなかった。
「蓮の花ではない」
「え?」
春昌は次郎を見て笑った。
「そなたも氣がついたと思ったのだが」
「え? 何をでございますか」
春昌は前を向いた。
「あの娘だ。あれは特別な女。おそらく三輪の神にお仕えする斎の媛にするつもりなのであろう。師も苦労の絶えぬことだ。蓮のように泥の中に隠さねばならぬとは」
「泥の中に隠す?」
「あの娘を湯浴みさせ、髪を梳き、それなりの館にて育てたら、その美しさにたちまち噂が広がり、やれ我が妻に、やれ皇子様の后にと大騒ぎになるはずだ。あれは
「ぱどみに? それは何でございますか」
「天竺では女を四つに格付けしているのだ。下から
次郎は目をしばたたかせた。なぜそれを昨夜教えてくれなかったかと、つい言いそうになったが寸での所で留まった。
次郎も、もう一人の至高の女を知っていた。やはり神に捧げられた尊い媛だった。ひと言も口にせずとも、主人が何を想っているかがわかる。春昌にとって生きることと旅をすることは、償いであり神罰でもあった。彼はいくあてもなく彷徨うしかない存在だった。
「ゆくぞ」
木漏れ日の中を馬上にて背筋を伸ばし進んでいく主人の色褪せた狩衣を追い、次郎は再び歩き出した。
(2014年8月書き下ろし)
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海外旅行で病院に入ることになったら
久しぶりになってしまうくらい、あまり代わり映えのない生活なのです。平日は会社に行って、プログラムして、ほぼ定時に帰るだけの生活。土日も、音楽会や展覧会といった面白そうな催しもほとんどない田舎暮らしなので、いつものレストランに行った、ドライブしたもくらいしかしていません。ブログに書くにしても一度記事にすれば十分、ですよね。だからリアルの話は、最近ほとんど書けなくて。
で、久々に起こった非日常。
8月1日金曜日はスイスの建国記念日で休みでした。でも、天候がいまいちなので三連休なのに家でぼーっとしていたらですね。電話が鳴ったのです。有名観光地で急病になった日本人観光客がいる、急遽通訳が必要になったので行ってくれないかって。
ちなみに私は通訳を生業としているわけではなく、さらにその手の緊急事態のための要員でもないただの住人です。ロンドンやパリなら、専門の人がたくさんいるかもしれませんが、私の周りで次に近くてこの仕事ができそうな人は数百キロ離れた人しかいないと言われて、とにかく行くことにしました。
電車を待っていたらいつ着くかわからないので、片道1.5時間の道のりを車で飛ばしました。向こうについたら患者さんは思っていたよりお元氣でした。でも、通訳がいないと検査もできないし、検査をしないと退院させてもらえないということになっていたようで、結局五時間くらい通訳して、無事退院手続きまでこぎつけ、無事にツアーの他の方と一緒にご帰国できた模様。そう、私の到着が半日遅れたら、帰国に間に合わなかったのです。
その方も簡単な英語などは問題なくお話になれるのですが、やっぱり病院や薬局での会話というのはそんなに簡単にはいかないようです。私も言葉はわかるけれど、保険会社、ツアー会社、ツアーコンダクターと入り乱れての連絡や、運転したり、トラブルに対処したりとかなりくたくたになりました。(結局移動含めて8時間くらい働き、お昼ご飯食べ損ねたし)

思ったのですが、これって日本語とドイツ語がわかるだけじゃダメなんですよね。その方のために何ができるか自分で判断して、最善のことをパキパキと進められないと。ご本人は右も左も分からないわけです。ツアー会社の人も側にはいないから、一々電話して判断を仰ぐわけにも行かない。マニュアルなんかありません。患者さんが自分の顧客ではないからといっても、関わっている人にとっては大切なお客様なので失礼もないようにしなくてはなりません。また、ただでさえ不安な方を無駄に怖がらせることも避けなくてはなりません。病院側、薬局も人間ですから、ムッとさせないようにして、機転も訊かせて話をスムースに動かす必要もあります。スイス人と日本人と両方の言っている事がわかるのは、その場では私一人だけ。誰にも頼れないのです。
私はみなさんご存知のようにけっこう歳を食っています。そして、日本でもこちらでも社会人として働き、それなりの即戦力があります。人生においてトラブルを乗り越えてきた回数も多いので、いざという時には柔軟性とスピードが何にも優先するのだということもわかっています。「つべこべ言う前に動け」これです。
それができるか、できないかは、もちろん人生経験も関わっていますが、性格の問題も大きいと思うのです。だから、これからもこういう話が来た時には、どうしてもできない時以外はやろうと思いました。だって、もともとそんなに日本人いませんから。このド田舎に。
さて、日本から海外へ行かれる方へのおすすめは、語学や健康管理も大切ですが、何よりも保険加入。どんなにピンピンな人でも、助けなんかなくても私は平氣って人でも、掛け捨ての保険をかけましょう。特にスイスに来られる方、保険なしで病院に入ることになったら、請求書でショック死します。ちなみに保険のかかっていない方は即金で払わされます。クレジットカードの限度額なんて瞬時に超えますよ。
余談ですが、このドタバタで連休中はブログどころではありませんでした。こういう時に限って、あちこちで面白い記事や小説が発表されているし、ずっと狙っていたキリ番企画は見逃すし。その後、乗り遅れた波に乗ることができず、反応が異様に遅くなってしまっています。その間にも新しい小説や面白い記事や新企画が目白押し。こうなると完全にデッドロック状態。コメントご無沙汰のみなさん、本当にごめんなさい。こんな状態です。
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【小説】森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架(12)『カササギの尾』 -1-
この章でマックスが出会う青年マウロは、ラウラの侍女であるアニーの兄です。今回も長いので二回に分けます。
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森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架
(12)『カササギの尾』 -1-

今日の午後にはルーヴにお着きになるでしょう、そう言われてマックスは大きく息をした。
旅、それはいつも危険と隣り合わせだった。今回も何度か下手すれば命を落としかねない目に遭ってきた。街道の十字路では多くの人びとが捧げものをして旅の無事を祈るのに倣ってきた。十字路の精霊への捧げものとはいくつかの矛盾をはらんでいる風習だ。唯一の父なる神とその御子に無事を祈るなら十字路ではなくて聖堂で祈ればいい事だ。それに、たとえ捧げものをしても多くの旅人があいかわらず危険に晒されている。
だが、十字路の精霊や森に棲む何かは、救世主がこの世に送られてくるずっと以前から贈り物を強要し、人びとはそれに丁寧に応えてきた。捧げものをしても、神に祈っても、危ない目には遭う。それすらもしなかったらどんな事になるやら。ギリシャ的演繹法を叩き込まれたマックスですら、十字路や聖堂では祈り、わずかな捧げものをする。人とはそういうものだ。彼は自嘲した。だからこそ、ひとつの旅が無事に終わる事を彼は喜ぶ。
安全な街で、心地よい城で、運良く仕事をもらえれば、何ヶ月かに渡って贅沢で楽な日々が約束されるだろう。彼はしばらくそれを幸福に思うに違いない。けれど、だからといってどこかの土地に未来永劫留まりたいとは思わなかった。しばらくすると彼の心は再びあの《シルヴァ》、暗く危険な森へと誘われて行く。リュートの優雅な響きや饒舌な男たち、浅はかで贅沢な女たちとの退屈な時間に疲れてくるのだ。もっと遠くに行きたい。もっと他のものが見たいと。それを知りつつ、彼は次第に往来を増す道を急ぐ。馬は主人の逸る心を感じるのか小走りになる。
やがて馬は開けた丘の上に飛び出した。彼は眼下に広がる壮麗な光景に思わず息を飲んだ。赤茶色の屋根瓦の家々の向こうに立派な城が堂々とそびえ立っていた。薄緑の花崗岩の壁、オレンジ色の屋根瓦にたなびく王家の旗。ルーヴラン王国の王都ルーヴだった。
彼はすぐに王城を訪ねたりはしなかった。長旅で疲れ、持ち物と自分自身がみすぼらしくなっているのはわかっていた。仕事をもらう時に大切なのは、相手に足下を見られない事だ。仕事が欲しくて仕方のないように見られてはならないし、重要でない人物と判断されてもならなかった。というのは、彼がそうでなくても年若く軽く見られがちであったからだ。それに王城に住んでいる人たちというのは、経験や知識など人の内部にあるものよりも、衣装やどれだけ有名な人を知っているかなどの表面的な事に囚われている事が多い。今マックスに必要なのは、旅籠と公衆浴場で休み、それからルーヴランで流行しているしゃれた衣装を購入する事だった。
大通りを進むと、ちょうど外壁と城との真ん中ぐらいのところに大きな広場があった。サン・マルティヌス広場である。ここを起点に旅籠探しを始めるのが効率的だろうと思った。彼はまず城を正面に見て右手の道を進んでみることにした。
その道は袋小路になっていて、しかも狭く複雑な迷路のようだった。彼は歩きながらいぶかしげに小さな家の間を覗き込んでいたが、ついには馬の両脇についた荷物の幅が道幅ぎりぎりとなってしまい、もと来た道へと引き返すことに決めた。が、実のところその頃には自分がどこにいるのかまったくわかっていなかった。
「旅のお方。どちらへいらっしゃるのかね」
声に振り向くと、質素ながらもわりときちんとした服装をした青年が立っていた。
「初めてルーヴに来たんだ。心地が良くてあまり高くない旅籠を探しているんだが、どうやら間違ったところを探して迷ってしまったみたいだ」
率直にマックスが答えると青年はからからと笑った。
「ここでよかったですね。もう少し向こうにはぞっとしない光景の貧民窟があって、とんでもない病をもらうことだってありますからね。もっともここにも旅籠はありませんが」
そういうと、すっと馬の手綱をとり、右側の道へと誘導した。その動きがとても自然で、馬もおとなしく従ったので、マックスはこの男が馬を扱いなれた、多分従僕のような仕事をしている人物なのだろうとあたりをつけた。
「市場からさほど遠くないところに、私どものいきつけている『カササギの尾』という旅籠がありましてね。面倒見のいい人好きのする女将と、無口だがうまいものを食わせてくれる主人は、旦那のお氣に召すと思いますよ。まずはそこに言って、ご自分の目で確かめられてはいかがですか」
マックスは頷いた。長い旅の間に身につけた勘によって、彼は自分をだまそうとする人間の誘い方と、好意のある人間の誘い方をだいたい見分けられるようになっていた。その『カササギの尾』がいい旅籠かどうかも実際に自分で見てみればだいたいわかる。もし二三日逗留してよくないと思ったら、それから別に移ればいいことだ。そう思って、まずは青年についていくことにした。
「ありがとう。マックスと呼んでくれ。君は立派な家に勤めている従僕のように見えるけれど、僕の予想はあたっているかな」
そう訊くと青年はにっこりと笑った。
「その通りです。私はマウロと申しまして、お城の召使い、主に馬周りの仕事をしているんでさ」
「ほう。だったら、僕がうまく仕事をもらえたらまたお城で再会できるかもしれないね。ときに僕はどんな人間に見えるかい?」
マウロはじっと彼を上から下まで見た。お城で仕事をもらうと言っていたけれど、自分のような召使いの仕事をするようには見えない。
「難しい問いですな。旦那は商人には見えないし、遍歴職人でもなさそうだ。かといって、王宮の騎士に加えていただこうとするお金持ちの貴族さまならこんなところにいないでしょうし」
彼は笑った。
「実は、王女さまの教師を探しているという話を聞いて、やってきたんだ」
マウロはぎょっとした顔をした。
「旦那が? そんなにお若いのに王宮の教師の資格をお持ちなんですか?」
「ああ、実はそうなんだ」
「でも、だったら『カササギの尾』なんかじゃなくて、貴族さまのお泊まりになる『白鷲亭』にご案内しないと」
「いや、そういうところには行きたくないんだ。もし、仕事をいただいたらその手の連中とばかりつきあうことになるだろう? 僕はどちらかというともっと街の実際に生活を支えている人々の間で、この国のことを見聞きしたいんだ」
マウロはマックスのことをじっと見た。
「変わった旦那だ。達者に話されていますが、ルーヴランのお方ではないのでしょう。どこからおいでなさった」
「僕はグランドロン人だ」
「というと、姫さまとご縁談の進んでいる王様をご存知なんで」
「まあ、接見はしたけれど、話をしたことがあるって訳じゃない。師の付き添いで祭儀の数合わせで行ったけれど、ずっと頭を下げていただけさ」
「率直なお人ですね。いくら自慢しても私にはわかりませんのに」
「僕は口先の嘘で世の中を渡ったりすることが嫌いなんだ。必要があれば、若干のはったりは使うけれどね」
そんな話をしている間に、二人は迷路のような小路を抜けてサン・マルティヌス広場に出た。市場が立っていて騒がしかった。肉や魚の血の臭いがして、足下には野菜の切れ端や犬の糞が転がっていた。人々は喧噪に負けないように大きな声で怒鳴り合っていた。
彼はマウロと馬について市場を横ぎり、別の小路へと入っていった。すぐに黒と白の尾の長い鳥の看板が目に入った。賑わっている料理屋からはスープのいい匂いがしていた。マウロは扉から顔を突っ込んだ。
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インテリアのイメージ

「Infante 323 黄金の枷」は今年の三月のポルト旅行中に生まれた話です。中でも一番大きな影響を及ぼしたのがこの二枚の写真を撮影した場所です。二枚目はすでに「靴職人の王子様」という記事でご紹介済みですが、とある博物館。でも、もともとは監獄だったそうです。

一番上の写真は「Hotel Infante De Sagres」のロビー。王侯貴族も泊る格式あるホテルで、二晩だけ泊ってしまいました。エンリケ航海王子にちなんだホテルなのです。興味のある方はリンク先のオフィシャルサイトでご覧ください。町中が美しいポルトですが、このホテルの中に入るとさらに別世界。私はじつはかなりの贅沢好きです。普段はできませんが、年に二晩くらいなら、いいですよね。
優雅さと格式のあるポルトの建物をじっと見ているうちに、このような豪奢な場所に閉じこめられた主人公たちのキャラクターが少しずつ固まりだし、ホテルの便箋の後ろに最初のメモが書き出されていきました。話の骨格は旅行中に完成していました。もっともこんなに早く全部書いてしまうとは、考えてもいませんでしたけれど。
ちなみにこのホテルで使っていた石鹸。「おおっ、いい香り」と感動していたら、連れ合いも同じ事を言っていました。男性にも女性にも好まれる香りの石鹸。しかも、Made in Portugal. 少し調べたら100%植物性の原材料にこだわって作っているReal Saboariaという会社の製品でした。23が愛用しているのはFiligrana(ポルトガルの伝統工芸品であるフィリグラーナという装飾品をモチーフにした石鹸)で、VerbenaやVerveineを配合した爽やかな香り。
そうなんです。この作品はあまり知られていないけれど良質な製品をたくさん生み出しているポルトガルへのオマージュなんです。うるさすぎるので本文には出てこないけれど、そのつもりで書いています。

本日はブログをはじめてから三回めの(ブログではなくて私の)誕生日。今年は特に自分へのプレゼントはないんですが、(というか、こちらの習慣で職場でおやつを振る舞うことになっています)せっかくなので一年間頑張った自分のためにポートワインで乾杯しようと思います。
この記事を読んで「Infante 323 黄金の枷」が読みたくなった方は……
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カオスだった私の中のヨーロッパ
だからというわけでなくて、語りたいことが出てきたので久々に。

何度かお話ししているように「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」は高校生の時に私が描いていた手書きマンガ的ストーリーのリライトです。当時の「森の詩 Cantum Silvae」はおよそ200年くらいのアバウトな期間中の三つの王子様&お姫様ストーリーを書いた連作で、中でも現在発表しているこの二部が一番どうでもいい扱いでした。なぜか。ヒロインとヒーローが地味だから。(うん、今でも地味だし)
ところが、二年くらい前に「あの話をリライトして作品にしてみようかな」と思いついた時に、第一部と第三部は即却下して、この第二部だけが使えると思ったのです。当時から私の物語に対する姿勢が大きく変わったのですね。この話だけが、ストーリーとして意味があったということです。(いい話とか素晴らしいストーリーというのではなくて、残りの二つが意味不明すぎただけです)
そして改めて物語の設定を考え直した時に、自分で頭を抱えました。当時のストーリーは今もそのまま使っていますが、背景はほとんどスカスカでした。そのスカスカな枠組みがひどかったのです。
ご存知のように、中世ヨーロッパをモデルにした仮想世界として三つの王国(グランドロン=ドイツ風、ルーヴラン=フランス風、センヴリ=イタリア風)を設定していますが、その「モデルにした」私の中のヨーロッパ観がろくでもなかったのです。現在グランドロンと呼んでいる国は、地理上で西にあり「フランクライヒ」といいました。それ、ドイツ語でフランスのこと……。人名はドイツ風とフランス風が入り乱れていました。ファーストネームは主にフランス風。で、設定では今のグランドロンに近い、つまり民族的なイメージとしてはドイツに近い。そして対応するルーヴラン(当時の国名がどうしても思い出せない)の人名はなぜか英語風。でも、やっていることはどう考えてもラテン。つまり、当時私の中でのヨーロッパのイメージはそれほどにカオスだったのです。
現在、ヨーロッパに住んでいて、ドイツやフランスやイタリアやもちろんスイスのことを身近に見ている自分としてはそのままにできないトンデモ設定が多すぎました。
ああ、ダメだ、ダメだ〜と、まずは設定した全ての地名と人名を捨てて新しいものに変更することからはじめました。そんなの大した事ないじゃないと思うでしょう。でも、私の頭のなかにある名前と、入れ替えた名前がいつまでも一致しなくて錯綜するのです。こんな混乱した執筆ははじめてでした。
ラウラや《男姫》ジュリアはもともとグラウリンゲン侯爵家(なぜこれだけ英語系ではなくてドイツ風なのかも不明)に属していました。現在の設定をチェックしていただくとおわかりのように、この家名は現在グランドロン王家の苗字として使っています。そして、ラウラが養女となった侯爵家はバギュ・グリに変えました。どちらも同じ意味なので、もしかすると親戚である可能性もあるかもと、一人でかってにほくそ笑んでおります。あ、ストーリーにはこの辺は全く関係のないことです。そういえばハンス=レギナルドはこの話とは関係ないので名前を変えませんでしたが、これまたドイツ風ですね。ジュリアはそのままでよくて、ただし、この方はグランドロンではユリアと呼ばれることになります。
当時から一切変えていない名がフルーヴルーウー伯爵家(領)。現在の設定でのモデルはスイスとアルザス。もともとは誰も欲しがらなかった辺境なのに途中で重要性が変わり、今ではルーヴランも狙っている領国で、第一部のジュリアとハンス=レギナルドの奇妙な物語のために創り出した名前です。ドイツ風でもフランス風でもない珍妙な名前でやめようかとも思ったのですが、メインストーリーに関係のない山のような固有名詞の中で、ここまで変だったらかえって読者の記憶に残るかなと思ったので、これだけは昔のままにしました。
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