いつの間にか大人になってた

最初に黄色い子に氣がついたのが7月9日。この写真だと左上ですね。生まれて数日だと思うんです。それから右下の姿の写真を撮ったのが9月20日なので80日もしないうちに、成鳥になっちゃうんだとびっくりです。
どうですか、堂々たるカモになりましたよね。もはや、大きさでもお母さんとあまり変わらないんですよ。来年もまた次世代の黄色い子が生まれるのかな。茶色い子たちも、無事に大人になったようです。自信がないのは、黄色かった子たちほど周りのカモと見分けがつかなくて……。
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あなたにとって小説とは?バトン
「あなたにとって小説とは?バトン」
- 1.物書き歴を教えてください。
- うっ。長いです。物語を作っていた歴は年齢−3年。小説として文字で書き出したのは、年齢÷2くらいでしょうか。あ、もう少し長いかな。小説の技法そのものは、最初の頃からほとんど進化していません。長けりゃいいってものではないの典型です。
- 2.あなたが小説を書く「手順」をくわしく説明してください(ストーリー構成・世界観・登場人物・書き出し・伏線・エピソード・台詞・エンディング・推敲・テンポ・タイトルの決め方等)。
- 短編と長編では違うんですが、ここでは長編の場合を説明しますね。
最初に妄想をします。ここで何度も何度も繰り返しているうちに主要シーンが決まります。違うパターンが出てこなくなるまで妄想します。最後の方は既に映像みたいな感じ。最短で一ヶ月、長いと半年くらいこれをやっています。この段階で駄作と判断したものはお蔵入りです。
scrivernerというMac用の小説書ツールで、その小説用のファイルを作ります。最初に「あらすじと登場人物」を書き出します。主要人物の妄想映像で固定した設定を、ここで書き込んでおきます。主要な脇役の容姿などは大体それまでは決まっていないので、ここで決めます。タイトルもこの時点で決めることが多いですね。仮称とすることもありますが、後から変わることはあまりないです。
章ごとにページを作っていって、もう決まっている主要シーンを、文章または説明用の短文で書き込んでいきます。そして、決まっている所から文章にしていきます。最初に書くのは最終回のことが多いですね。何回か開示していますが、小説全部を鉄道にたとえると、まずは特急の停まるような主要駅にあたるシーンから書いていきます。その間に急行駅、それから各駅停車駅にあたるシーンを順次埋めていくわけです。
もともとの骨格が固まっているので、ストーリーの結末が違うものになったり、伏線の回収忘れなどはほとんどないと思います。新たに伏線を張る時は、回収する予定の章のページに箇条書きで書いておきます。ついでに必要になる資料(画像、地図、用語、祭儀の詳細など)も集めては同じファイルにどんどん保存していきます。
あとは、書き上がった章と章の間を埋めていくだけ。scrivernerには、各種ファイルへの書き出し機能があるので、epub形式に書き出して、iPhoneに移します。iBookで読みながら推敲・校正をします。書き終わってからではなくて、少しでも書いたらその日のうちに書き出します。で、翌日新しい部分を書き出す前に、前日の推敲部分を変える所から始めるというわけです。 - 3.小説を書く際に心がけていることは何かありますか?
- これも何度か書いていますが、「わかりやすい」を基本にしています。
辞書を使わないとわからないような言葉を多用しないこと。少しならいいということにしていますが。
「何がいいたいのかよくわからない」と文頭に戻って読み直すような複雑怪奇な文章を書かないこと。
自分の常識が読者の常識ではないので、あまりメジャーでない言葉や事項は登場人物が質問するシーンをはさむなど説明を入れること。
反対にストーリーにもキャラの心象にも関係のないどうでもいいことは極力短く描写すること。一度しか出てこないし本筋とも関係のない描写までいちいち細かくやっていると、煩雑になるだけなので。
重要なことをさせるキャラクターは、他のキャラと区別がつくような個性を持たせること。
一つの長編に二つ以上の大きな主題を書かない、どうしても書きたいなら続編や番外編にしてすっきりさせること、などです。
あ、「わかりやすい」とは関係ありませんが、一年ぐらいで廃れそうな流行語は入れないことも心がけています。 - 4.あなたの小説のなかでの「風景描写:心情描写:台詞」の比率を教えてください。
- え〜っと。意識していません。でも、どれもゼロにはならないようにはしています。単調にならないように。
- 5.影響を受けた作家さんは居ますか?
- 純文学だけでなくて、こういう小説も書くんだ! と嬉しくなって、自分の壁を取り外すきっかけになったのは福永武彦の「風のかたみ」
それから小説と歴史の違いがわからなくなるような書き込み方を教えてくれたのはマイクル・クライトンの「北人伝説」
小説とは自分の伝えたいことを語るためにあると教えてくれたのはヘルマン・ヘッセの多くの作品。とくに「デミアン」 - 6.そもそもあなたが小説を書き始めたきっかけは何ですか?
- 最初の創作はマンガだったんですが、絵を書く才能のなさ、文で書く方がずっとまともに表現できることに氣がついた。
- 7.あなたが小説を書くときの環境は?
- 自宅の自分の机。
雑音に関してはさほどナーバスではありませんが、日本語の歌詞の曲は消します。日本語の放送もダメです。ドイツ語やフランス語やイタリア語は聞き流せるので氣にしません。 - 8.小説を書くときの必需品等はありますか?
- Macとその周辺機器だけかな。調べ物もほとんどネットでしています。あ、でも、「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」のように時代物を書く時はやはり参考書が必要になりますので、買いそろえますね。Amazonで検索購入して、スイスに送ってもらいます。
- 9.作成ツールはケータイ派? PC派? それとも紙と鉛筆派?
- コンピュータはMac。アプリはscriverner。それをiPhoneのiBookに入れて推敲校正。
出先などで思いついたアイデアは取り急ぎそこら辺の紙に書き込みますが、帰宅したらscrivernerのファイルに打ち込んでなくならないようにします。
紙への下書きはしません。一度書いたものを再び書くような時間がないから。あと、急いで書く時の自分の文字が汚くて、思考と同じスピードで文字を書くと、後で判読できなくなるから。 - 10.あなたの文章に、こだわりや特徴と言えるものはありますか?
- 冗談作品やリクエスト作品を除いて、常に何を伝えたいのか、テーマを念頭において書いています。全体を流れるマイ・テーマと、各作品ごとの主要テーマがあります。それと自分の信条と相容れないものはテーマには据えませんね。(あたりまえか)
それと二次創作(私の場合は、ブログのお友だちの作品の二次創作しかしませんが)をする時には、原作の主要設定を変えるようなことをしないこと、勝手に増やすキャラは原作者様の邪魔にならないように一過性(二度と出てこないのが自然に見える)の設定にすること、それと、原作を全く知らない方でも一つの作品として読めるようなものにすることを意識して書いています。 - 11.ズバリ、あなたの小説は面白いと思いますか? その理由も教えてください。
- 面白いかな。自分ではわかりません。私自身にとっては面白いです。でも、これって主観的なものなので他の人にとってはどうなのかわかりません。
- 12.「小説」において最重要事項は何だと思いますか? また、その理由も述べてください(文の精巧さ、面白さ、ストーリー構成、等々)。
- 伝わること。例えばエンターテーメントとして書くならストレートに面白いことだし、テーマがあるならそのテーマについて読者が想いをめぐらせられること。作者の意図が読者に伝わらなければ書く意味はないと思うから。
- 13.あなたが「読みたくない」と思う小説はどんな小説ですか?
- 生理的嫌悪感のある内容の小説。具体的にいうとエログロシーンばかりが書いてあったり、精神的に歪んだ思想で埋められているもの。それと、何を伝えたいかもわからない内容の全くない小説も苦手。
- 14.あなたの小説で、読む際に読者に注意してほしい点や見てもらいたい点はありますか?
- ないです。読者はどんな風に読むのも自由だと思います。
そりゃあ、終わりまで読んでくれたらいいなと思いますし、最後まで読まないと意図が伝わらない書き方をしているものもあるんですが、それでも「こんなの読みたくない」と放棄するのも読者の自由なんですよね。最後まで読んでもらえるように書けない作者本人の落ち度でしょう。 - 15.これからも小説は書き続ける予定ですか?
- どうでしょう。たぶん書き続けると思います。今のペースでずっと書くとは思いませんが、また、いつまで発表し続けるかはわかりませんが、物語を作り続けことは死ぬまでやめないでしょうし、形にできる環境(Macだな)がある限り書くように思います。
- 16.いずれにしろ頑張ってくださいね。……では最後に。あなたにとって小説を書くこととは?
- 自己表現、でしょうね。それに生き甲斐でもあるかな。
これをやっていれば、かなり幸せです。いろいろな人生を歩めるようなものですし。日常生活に不満がたまらないのは、小説を書いているからじゃないかなと思います。
そういうわけで、おしまいです。もし、まだでやってみたいという方がいらっしゃいましたら、どうぞご自由にお持ち帰りくださいませ。あ、TOM-F大臣のバトンには、テンプレートもついていましたよ!
・TOM-Fさんのバトン
【おまけ】

先日の旅行中の一枚。この仔猫、とある小さな村の道のど真ん中を歩いていました。「げっ、あぶない!」と我々もオロオロしましたが、でっかいトラクターに乗ったおじさんが、わざわざ停まって飼い主を探しにいき「おい、なんとかしろ」と叫んでいました。かわいかったな。
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【小説】森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架(14)白薔薇の苑 -2-
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森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架
(14)白薔薇の苑 -2-

その日の午後は授業がなかったのだが、マックスは進捗状況をザッカに報告するために登城した。簡単に報告をしている間、向かいの広間で矮人である道化師に滑稽な踊りをさせているマリア=フェリシア姫とその仲間たちの馬鹿げた笑いが聞こえてきた。マックスもザッカもそのためにわずかに言葉を切った。彼は不快感が顔に出ないように骨を折ったが、ザッカは隠そうともせずに首を振った。
「まったく……」
報告を終えると退出するために彼はザッカの為政室を出て、王女のいる広間の前を通らないように裏庭に近い方の階段を使った。そこは大きなバルコニーヘと続いていた。こちらに来ることは滅多になかったので、彼はゆっくり歩くことにした。
バルコニーから眺める景色はなかなか美しかった。すぐ下には中庭となっている白薔薇が咲き乱れる苑があった。見事に手入れされており、その手間は大変なものであろうが、王女や取り巻きの女官たちは全く見向きもしていないようで、人影もなかった。おや、そうでもないな。彼はつる薔薇の間をゆっくりと進む深緑のドレスに目を留めた。そう、午前中に教えていた生徒の片方だ。
あの娘は、いつもあのように一人なのだろうか。マックスは、後ろから響く王女たちの騒がしい笑い声の方を振り返って見た。こんなひどい騒ぎに加わりたがらずに薔薇を眺めている娘がいることが好ましくて、彼はそっと微笑んで階段を降りていった。
上から見ていた時にはわからなかったが、降りてみるとその苑は薔薇の香りに満ちていた。香りは体を浮かせるような効果があった。きちんと歩いているにもかかわらず、足元が軽く地面から離れているように感じるのだ。広間から聞こえる馬鹿騒ぎに苛ついていた神経があっという間に静まっていった。
そのまま歩いていると、緑色のドレスが目に入った。
「バギュ・グリ殿」
ラウラははっとして振り向いた。
「先生……」
「上から姿を見かけたので。邪魔をしたでしょうか」
「いいえ、とんでもない。ただ、歩いていただけですから」
「こんなに美しい苑がこの城にあったとは知りませんでしたね」
マックスが見回しながら関心するのを見てラウラは小さく笑った。
「お城にずっと住んでいても花の時期をご存知ない方が多いのです。ここはあまり人が来ないので。そのほうがいいんです。独り占めできますから」
マックスは一人の若い娘がここにいるとはじめて感じた。それはとてもおかしな言い草だが、彼の実感だった。この職を得てから彼の意識はずっともう一人の生徒に注がれていた。マリア=フェリシア姫が類いまれな美女であるからだけではなかった。彼の仕事の評価は姫が何を習得したか、本人と国王がどう満足したかにかかっていた上、その仕事が大変困難であったからだ。
姫の頭脳は格別ほかの者に劣っているというほどではないと思うのだが、進歩は遅かった。何よりも彼女は非常に怠惰だった。課題を熱心にこなすよりも、ほんのわずか魅力的に微笑んで課題そのものをなかったことにしてもらうのを好んだ。それはどうやら常に成功してきたメソッドらしかった。実際、マックスが何度か彼女のこの抵抗に屈してしまった。形のいい口元と緑の輝く瞳の魅力に屈したのか、権力に屈したのか、まだ判断が難しい所だった。だが、このままでは彼の教師としての評価に差し支えるということを忘れるほどにはその微笑の虜になっているわけではないのが幸いだと思っていた。
彼の頭にある生徒はマリア=フェリシア姫一人だった。たとえ常にもう一人の娘が授業に参加して、同じ課題に挑戦していたとしても。マックスがその存在をしばしば忘れてしまうのは、ひとえに彼女が全く手のかからない生徒だったからだ。彼女は出した宿題を必ずやってきた。授業中に課題を与えると、やろうとしない姫の方に意識を集中して手助けをしているだけでかなりの時間が過ぎてしまう。氣がついてラウラの課題に意識を向けると、それは既に終わっており、さらに訂正すべき箇所もどこにもなかった。彼女は賞賛を求めるような表情も見せず、それゆえ彼は本来ならば全く褒めたくない姫の情けない回答に与える賞賛の五分の一もラウラを褒めたことがなかった。
姫がいない、そして授業でもないこのわずかな時間、マックスははじめて添え物の生徒としてではなくラウラその人に氣をとめた。品はいいが相変わらず地味な色合いの長袖のドレスに身を包んで、長い髪をきっちりと後ろで縛りまとめ、小さい真珠の飾りのついたネットで覆っている。どこにも隙がないその立ち姿は、親しい語らいを拒否しているような印象を与えるが、マックスが話しかけても立ち去ろうとしない所を見るとそういう訳でもないらしい。
「私の授業の教え方はいかがですか。なかなかあなたの意見を伺う機会がないのは残念です、バギュ・グリ殿」
ラウラは驚いたように顔を上げて、それからわずかに嬉しそうな表情になった。
「とてもわかりやすくて、素晴らしいと思いますわ。題材も広範囲に渡っていて、毎回新しいことを学ぶのが楽しみです」
「そうですか。それはよかった。私の質問に驚かれたようですが……」
マックスがそういうと、ラウラはわずかに微笑んだ。
「今までどの先生も、私が授業をどう思うかなんて氣になさらなかったものですから」
マックスはぎくっとした。自分自身もつい数分前まで同じだったからだ。
「あなたのような熱心な生徒に失礼なことですよね」
「いいえ、授業料を払う方にとって大切なのは、私が何を学んだかではありませんから。私は、最高の教育を受ける機会を得られてありがたいと思っています」
彼女の表情はわずかに憂いに満ちたように感じられた。
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「歴史上で好きな人物は誰?」
大して詳しくないんですが、何人かいますので挙げてみましょう。
世界史だと、イブン・スィーナー。ラテン名だとアウィケンナですね。十世紀ペルシアに生まれた万能の知識人。哲学者で医者で科学者で。その著書はイスラム世界だけでなく、中世ヨーロッパにも大きな影響を与えました。二十一歳で百科事典を書いてしまうって、すごすぎます。そんなすごい人だけれど、ワインが好きで、王侯貴族にも氣兼ねしない大ざっぱな性格で、とても親しみももてます。
日本史だと、大塔宮護良親王。後醍醐天皇の皇子で、鎌倉倒幕と建武の新政に寄与したにも拘らず政争に破れ、父親である天皇に殺害されてしまった方です。そう、私はかなりの判官びいき。でも、本家の義経はさほど好きじゃなくて、平知盛でもなくて、なぜか護良親王。高校時代、日本史の授業でほとんど名前も出てこないでスルーされてしまったのがとても残念でした。
古代日本史だと持統天皇が好きだったな。近代史だとチェ・ゲバラとか、この間まで生きていたけれどネルソン・マンデラとか。音楽界では既に何度かカミングアウトとしているけれどベートーヴェンがトップ。あ、音楽の話ではなくて、その人生のあり方でのトップですね。
こんにちは!FC2ブログトラックバックテーマ担当河本です今日のテーマは「歴史上で好きな人物は誰?」です。皆さん、歴史は好きですか?私は授業を聞くのは好きでしたが、テストはかなり苦手でした。笑とにかく人の名前を覚えるのが苦手で、地理的感覚もなく歴史はもちろん、社会系のテストは残念な結果が多かったですそんな私がすぐ覚えたのは、源義経です源義経がチンギス・ハンという説があるというのを授...
FC2トラックバックテーマ 第1882回「歴史上で好きな人物は誰?」
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風景の中の城

中世ヨーロッパをイメージしている小説を連載中だから行ったわけではないのですが、この休暇中はどうも中世の街と縁が深かったようです。そのうちの一つ、Bardiという北イタリアの街にあるお城からの風景です。
このお城に入ったのはこれが初めてだったのですが、塔の外を眺めたら、ちょうど私がイメージしていた「ヒロイン・ラウラの憧れていた」のに近い光景が広がっていました。
日本だとお城から眺める世界にはどうやってもビルやら新幹線やら、とにかくどう転んでもサムライの時代の風景とは明らかに違う光景が広がってるのですが、ヨーロッパではこのように(よく見なければ)当時とあまり変わらないように見える光景に出くわす事が多くあります。もともとの人口の違いなのか、たまたま私が日本では都会にしかいかないからなのか、理由はわかりません。
もちろんこの光景も、中世ヨーロッパとは大きく違うでしょう。こんなに開墾されていなかったでしょうし、舗装された道路もあるし、川もよく見ると自然のままではありません。お城にも電灯があるし、窓にはガラスがはめられています。それでも、私はラウラが「あの森を越えて、いつか遠くへ自分の足で歩いていきたい」と願った広大な自然を目にしたような錯覚を憶え、町と一体になった要塞のような城に「そうそうこんな感じ!」とつぶやく事ができるのです。
こうした街の中を歩くと、どこか孤独を感じます。石の壁に囲まれた空間は外界から、自然の脅威から人びとを守っています。けれど、それは便利で快適な現代社会とは違い、暗く冷んやりとした硬質で素朴な世界です。閉じられているからこその限界も強く感じます。食事のバラエティは少なく、生活のトーンもある種の単調さに支配されます。
中世の人びとは、さらに限られた世界に住んでいた事でしょう。完全な再現ではないとはいえ、こうした世界にわずかでも身を置くと、その閉塞感を感じ取る事ができました。
たぶん私が描きたかったのは、本来のエビソードの根底に流れるこのどことない不安、閉塞感、外界への憧れと怖れ、そんなものだったのかもしれないと感じた旅でした。
本編はようやく本題に入ってきています。
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【小説】森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架(14)白薔薇の苑 -1-
今回も少し長いので来週と二つに分けました。切るとしたらここだなという所が大体半分だったのでよかったのですが、ここには白薔薇の苑は出てきませんでしたね。まあ、いいや。
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森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架
(14)白薔薇の苑 -1-

それからマックスはほぼ毎日城へやってきた。城内に住居を用意すると言われたが、わざわざ断り、『カササギの尾』に留まる費用だけを王家に払ってもらうことにした。
王家としてはその事には異存はなかった。サン・マルティヌス広場は王宮から近くいざという時にはいつでも呼び出せたし、『カササギの尾』の一日の滞在費用は王家にとって午餐の一人分にも当たらぬものであったから。王宮では、一日三食の食事が出された。比較的簡素な朝食、それからたっぷりの酒とご馳走のでる昼食と夕食である。スープが出た後、豚肉、羊肉、牛肉、家禽などを二種類から三種類、それぞれ別の調理法で煮たり焼いたり冷製にしたりして合計で九種類ほどの料理として次々と提供する。これに豆類や様々なフルーツなどが加わり、大量のパンとともに提供された。食事時間は二時間以上に及び、マックスには退屈だった。立派な服装で食卓につかなくてはならないのもうんざりだった。
宮廷を一歩出ると、もっと簡素な食事が待っていた。豆や野菜や穀物のごった煮スープや、わずかな肉を干したり刻んだりした食事だ。それに『カササギの尾』には常連としてマウロや親友のジャックが《肉まな板》をよく運んできたので、人びとはこれを楽しんだ。《肉まな板》とは、王宮で肉を切る時のまな板代わりに使われる固いパンで、食事の後には貧民や動物に与えられていたのだ。肉汁をたっぷり吸っているため、肉を食べられない貧しい客たちにも好評だった。
マウロやジャックとは、宮廷でも『カササギの尾』でも、よく顔を合わせた。ジャックは召使いで、主に広間で顔を合わせる事が多かった。もちろん宮廷では「ティオフィロス先生」に召使いが声をかけるなどということは許されないので、目礼をするだけである。馬周りの仕事をしているマウロも同様だ。だが、二人と『カササギの尾』で親しく話をするうちに、マックスはマウロが、バギュ・グリ侯爵令嬢ラウラに使える召使いアニーの兄であることや、そのアニーの親友である姫の召使いエレインとジャックが恋人同士であることも知ることになった。それで、彼は表立っては訊けない姫君の評判や、ラウラの立場についても少しずつ知ることとなったのである。
「ねえ。レオポルド様って、サルのように醜くて、矮人のように背が低いの?」
マリア=フェリシア姫は、極楽鳥の羽で出来た大きな扇で左右から侍女に風を送らせていた。その妖艶で自信に満ちた笑顔は、明らかに容姿の劣る存在を馬鹿にしている事を示していた。マックスはその言葉の奥に込められた自分の出身国の支配者に対する侮辱に腹を立てたりはしなかった。国力の違いは誰の目にも明らかであるし、容姿にしか興味のない多少資質に問題のある王女が担う予定のこの国の未来にもさほど興味がなかったからだ。
「姫様がお話になっておられるのは、現国王であるレオポルド二世陛下の事ではなく、かのブランシュルーヴ王女と結婚なさったレオポルド一世陛下の事でございますね」
「あら、違うわ。そっちがサルみたいに醜い小男だったのは百も承知よ。私が言いたいのは、なぜ前国王がよりにもよってそんな醜い男と同じ名前を付けたのかってことなの。生まれた時にあまりに醜かったからそうしたのかなって思ったのよ」
いくらか常識を心得ている女官たちはあまりの無礼な物言いにぞっとしたが、マックスがそれに構う様子もなかったのでホッとした。間もなく実現するはずのグランドロンからの使者との謁見で王女が何を言いだすかと思うと彼女たちの心は重くなった。
「前国王陛下は、容姿の事でお名前を付けられたのではないと思われます。現に国王陛下はレオポルド一世陛下の再来と言われるほどに力強く版図を拡大され、国内の事業を勇猛に進められています。その意味で、ブランシュルーヴ王女の再来との評判高き美姫である姫様とは真にお似合いかとお喜び申し上げます」
全世界でかつて存在した事がなく、これからも存在しないであろうと謳われる美女、ブランシュルーヴ王妃と比較するとは我ながらおべっかにも程があると思ったが、姫の方はまんざらではないと思ったらしい。
「じゃあ、そんなにみっともないお姿じゃないと期待していいわけ?」
彼は微笑みながら答えた。
「私めは女性ほどには男性の容姿に興味を持つ方ではありませぬが、わが君主はなかなかの男丈夫かと思われます。背は私よりも頭半分ほど高く、まっすぐ艶やかな長い黒髪をしておられます。大変な自己克己の持ち主でおられ、日々剣の鍛錬も怠られぬため、しっかりとした胸板と肩幅、甲冑を身に着けられたお姿は惚れ惚れするほどでございます。ただし、これは私めの意見、目の肥えられた姫様がご自身で判断なさるとよろしいでしょう」
姫は複雑な顔をしていた。縁談の進んでいる相手が醜いサル同様の容姿でない事は歓迎すべきニュースのように思われたが、そのように屈強で粗野な男が、自分の美しさを本当に理解して大切にするつもりがあるのかどうか不安だったのだ。王の女遊びの噂についても真偽が確かめられていないし、出来る事ならばこの話をどうにかして断りたいと思っていた。その一方で、実際に有名なグランドロン国王に会い、「何と美しい姫君だ」と言わせてみたいとも思うのだった。
マリア=フェリシア姫が執拗にグランドロン国王の容姿について問いただしている間、側に控えていたラウラは窓の方へと顔を向けていた。彼はその様子に氣がついて、《学友》の娘をそっと観察した。ラウラには容姿がどうこうという以前に、グランドロン王レオポルド二世に対しての不快感があるように見受けられた。
センヴリで働いている時にもそうだったが、グランドロンとその国王に対して好意的に受け止められていることは少なかった。ルーヴランでも、センヴリでも、グランドロンという国は面白みのない冷たい人間の住んでいる土地という印象が強いらしい。加えてここ数世代のグランドロンの版図拡大と戦争の記憶からか、恐ろしい人びとと思われていることすらある。この数十年の間にマールとノードランドを実際に失ったルーヴランの王宮でグランドロン国王がよく思われているはずはないと思っていた。
けれど、それを差し引いても、ラウラの不快そうな表情にはひっかかる。結婚の話が進んでいるのは姫の方なので、そのことを氣にする必要はないのだが、他のことには理性的なものの見方をするこの娘らしくないと訝った。
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イタリアから帰ってまいりました
旅行中も変わらずに訪問くださったみなさま、また再び訪問して下っているみなさま、ありがとうございます。通常モードに戻りましたので、またどうぞよろしくお願いします。
今回の旅行は、北イタリアをバイクで廻ってきました。写真もずいぶんと撮ったのですが、どのくらいみなさん興味があるかわからないし、とりあえずこの三点だけ。

特にテーマを決めていったわけではないのですが、宿泊場所を探しているうちにどうもどこへ行っても中世と関連のある場所に泊る事になりました。最初の写真はBobbioというはじめて行った街の大聖堂です。全然知らなかったのですがウンベルト・エーコが「薔薇の名前」を書く時にモデルにしたといわれている街だそうです。1000年以上の伝統のある修道院があります。あ、とくにおどろおどろしくはありませんでしたよ。

こちらはもう少しピアチェンツァに近いヴィゴレーノという城下町で、ここだけは宿泊予約をしていきました。古城に泊れるのです。しかも、そこら辺の宿と変わらぬお値段、一泊二人の朝食付きで一部屋80ユーロって激安だと思います。

北イタリアのこのあたりには、石を投げればあたるといいたくなるくらいお城がたくさんあります。でも、見学できるのが週末に限られていたり、車がないと行けなかったり、若干の不便さがあって、だからこそ当時をイメージしやすい雰囲氣が残っているのです。今回は、その中世っぽさを楽しんできました。
この夏はイタリアでも天候がひどかったらしいのですが、たまたま私たちが旅した二週間だけはどこでもいいお天氣でした。曇りの日もありましたが、雨に降られてずぶ濡れということは皆無のラッキーな日々でした。
また、もう少ししたら、別の写真をご紹介しますね。
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【小説】ピアチェンツァ、古城の幽霊
(イラスト)妄想らくがき・羽根のある君と

このイラストの著作権はlimeさんにあります。使用に関してはlimさんの許可を取ってください。
で、せっかくですから行ってきたばかりの北イタリアの古城のイメージを使い、さらにポール・ブリッツさん流の「省エネ」作戦で、自分の企画した「地名系お題」シリーズにも加えてしまう事にしました。
ピアチェンツァ、古城の幽霊
サルヴァトーレ・フィジーニは満足げに黒檀の机の上の書類に署名をしようとした。目の前にいるベージュのスーツを着たビアンコとかいう男はサルヴァトーレが古城の所有者となろうとしているのに、大した感銘を受けた様子もなかった。不動産会社の社員なんてものは、古城の所有などとは生涯無縁なのだろう。だがこの私は違う。ミラノのビジネス界で成功し、ついにここまで登り詰めたのだ。次のビジネス・ディナーではなんでもないように口にする事ができる。
「城を購入して住みはじめたばかりなのですが、まだ、全ての部屋を確認し終えていないのですよ」
この城は、実のところミラノから日帰りできる範囲で買えるどの城よりも格安だった。ピアチェンツァに点在するたくさんの城のほとんどが廃墟か個人所有になっている。売り出される事自体はそんなに多くない。フィジーニはマッジョーレ湖沿いのヴィラの購入も考えたが、この城ほど格安で人びとを感嘆させる新居は手に入らなかった。
古城とは言え、二十五年ほど前にきちんと改築され、どの部屋も改装の必要なく住むことが出来そうだった。もちろんネットの配線などの工事は必要だろうが、城にふさわしい高価な家具も食器類も揃っているうえ快適な現代生活が送れそうだった。
マウリッツィオ・ビアンコは登記済み証や、城の平面図などを機械的に確認し、フィジーニの用意した書類を書類ばさみに入れていきながら付け加えた。
「こちらにあるのが、全ての部屋の鍵です。そうそう、この鍵だけは使うことはないと思いますが」
いわれた鍵は一つだけ錆臭く黒ずんでいる大型のものだ。
「どこの鍵かね」
「アロイージアの部屋です。屋根裏の一つ手前です、ご存知ですよね」
「アロイージア? 誰だそれは」
「ご存じないのですか。この城の幽霊です」
「幽霊だって?」
ビアンコはちらっとフィジーニを見た。
「ええ、幽霊です。古城なんですから、居るに決まっているでしょう」
「決まっているって、君、何を言っているのかね。今は二十一世紀で、そろそろ一般人が宇宙旅行をしようっていう時代だぞ。幽霊だなんて、ちゃんちゃらおかしい」
ビアンコはため息をついた。
「やれやれ。最近は学校でも教えないんですかね。昔は幽霊がいる事も知らない一般常識のない人が古城を買うなんてことはなかったものですが」
フィジーニはドキッとした。馬鹿馬鹿しいおとぎ話だが、上流階級との会話には幽霊の話も必須なのかもしれない。とても信じるつもりにはなれないが、ここでそのアロイージアとやらの情報も仕入れておいた方がいいかもしれない。
「どんな幽霊なんだね。老婆か、それとも妙齢の女性か」
「少女の姿をしているそうです。他のお城の幽霊と違って、氣難しくはないそうですが、一番嫌がるのが自分の部屋に勝手に鍵をかけられる事。もちろん彼女は鍵かかかっていようがいまいが、自由にこの城のどの部屋にも出入りできます。ああ、それから、ヴェルディよりもプッチーニの方を好むとか」
「ええっと、ラップ・ミュージックは?」
ビアンコはその発言をしたフィジーニをじっと見つめた。なんだなんだ、ポップスはダメなのか、それは参ったな。フィジーニはドギマギしてきた。
「それから、携帯電話はお使いにならない方がいいかもしれません」
「なぜだ」
「いえ、前の所有者が、アロイージアの機嫌を損ねたのですが、携帯電話会社の経営者でしたから」
やめてくれ! フィジーニは泣きそうになった。いくら古城に住むと言っても、普通の生活ができないと困るじゃないか。
「私の方からは、以上です。契約は成立いたしました。どうぞ新しい我が家を存分にお楽しみください」
マウリッツィオ・ビアンコは頭を一つ下げると、書類を集めて、古ぼけた白いフィアットに乗って去っていった。フィジーニはとにかく新しい我が家に慣れるため、用意しておいたスプマンテを開けてリラックスする事にした。
フィジーニが24km先にあるビアンコの事務所の前にアルファ・ロメオを乗りつけたのは二週間後の事だった。
「城を買い戻してもらいたい」
「なぜですか。契約書にあるいかなる条項にも反している所はないと思いますが」
「君のいう通りだ。部屋の状態も、インフラも、家具も、日当りも、全て住む前に確認した状態だった。だが、君のいう幽霊の件は契約書になかったじゃないか」
「なんですって。二十一世紀だというのに、幽霊のせいで契約が無効だとおっしゃるんですか。今のミラノでは、そういう戯れ言がビジネスとして通用するんですか」
「いや、そうではなくて……」
「何が問題なんですか」
「その、つまり、何もできないんだ。ネットには接続できない。電話もできない。恋人と食事をしようとすると、休みなくドアが開いたり閉まったりする。ラップ・ミュージックをかけると水が降ってくるし、プッチーニにすると今度は大音響にされて会話もできなくなる」
ビアンコは馬鹿にしたように肩をすくめた。わかっている。フィジーニは屈辱を感じた。どうやっても証明できない。ドアのたてつけは悪くないし、ネット接続機器や音響設備が故障しただけだといわれたらそれまでの事だ。彼は諦めて購入価格の三分の二ほどの金額を提示した。ビアンコは粘り、ついに半額で買い戻してもらう事が出来た。フィジーニはアルファ・ロメオのリースを解約する事を考えつつ、契約書に泣く泣くサインをした。
「二週間で追い出すとはずいぶん急いだじゃないか、アロイージア。いったいどうしたんだ?」
フィジーニの忘れていったグラッパを開けて、マウリッツィオは食堂の心地のいい椅子に腰を沈めた。
「だって、明日はスカイ・チャンネルで『名探偵登場』を放映するのよ。絶対にあなたと一緒に観ようって思っていたんですもの」
アロイージアは、マウリッツィオの肩越しにくすくす笑うと、パンっとラップ音を立ててエロス・ラマゾッティのラブ・バラードをかけだした。
「おい。古城の幽霊らしくないものをかけるなよ」
「そう? 私はラマゾッティだけでなくって、エミネムも、シャキーラも、スイスのヨーデルもそんなに嫌いじゃないわよ。今どき、クラッシックだけなんて、そんな幽霊がいると思う?」
「ふん」
マウリッツィオはグラッパを飲み干すと、ポケットからiPhoneを取り出して、メール受信を終えるとエアプレーン・モードにした。
「新しいカモが連絡してくるかもよ?」
アロイージアが訊くと、マウリッツィオは興味なさそうにiPhoneを机の上に放り出した。
「今回の取引でたっぷり儲かったからな。半年くらいはここでお前とゆっくりするさ」
小さな幽霊は歓声を上げて、マウリッツィオの首にかじりついた。
(初出:2014年9月 書き下ろし)
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名前の話 キャラ編 その2
私の小説での命名のルールやら、クセなどについて書こうと思います。
日本人の登場人物を書く時と、外国人とでは若干命名のルールが違います。なぜかというと、実際の命名ルール、その自由度が違うからなんですね。日本語の場合は人名漢字表にあればどんな漢字、どんな読みでもいいということになっていますよね。で、自分の大事なキャラだから特別な名前にしたいと思うわけです。キラキラじゃなくてもいいですが、ちょっと特別な感じに。
でも、たいてい考え直します。「名は体を表す」ので地味なキャラは地味な名前にすべきだと思いますし、派手なキャラでもあまりに奇抜な名前はよくないと思うから。それが作品やキャラの個性(コンプレックス)に直結しているなら、それもしますけれど。
私の小説の書き方ルールとして、「わかりやすいことが大切」というのがあります。文体を読みやすいものにする事、時代物以外では難解な熟語などをできるだけ使わないなどもマイ・ルールに入れているのですが、「不必要に難解な人名を使わない」というルールもあります。「この名前なんて読むんだっけ」と出てくる度に読者を止まらせることのないように。作者である自分は30回も書けば慣れるでしょうが、読者は毎回忘れますから。
冗談作品で使った「
「瑠水」はかなりアウトに近いセーフだと自分で思っています。ルビは付けませんでしたが初登場時に幼い姉が片言(ひらがなで表現)で母親に喋り「るみ」という読みを口にするという苦肉の策を使いました。一度わかればそれほど忘れるような読みではないかと思ったので。
外国人の場合は、別の点に注意します。まず、ありえない名前を付けようとしない事。いや、ファンタジーやSFなら、実際にありえない名前こそがリアリティを増すと思うのですが、私はそういうものはほとんど書かないので。
日本と命名のルールが違いますので、「ありえない」名前をわざわざつけるならきちんとした根拠が必要だと思っています。例えば女なのに男の名前なら、なぜその名前をわざわざ付けられたのかという設定が必要なのです。
響きがかっこいいからというような理由で、(人名ではなくてただの名詞のような)ありえない名前はつけません。(例:ライオンがかっこよくても「ローヴェ」というドイツ語の人名はつけられません。もちろんあだ名としてならアリですし、ライオン起源の「レオンハルト」はれっきとしたドイツ語の人名です)また、貧民なのに貴族みたいな名前を付ける、その逆も妙です。設定している言語と合わない名前もひっかかります。
「23(Infante 323)」は例外です。でも、このおかしな呼称には重要な設定があります。読者にも「なんでそんな名前?」と思ってもらえてこそ正解なので、これでいいのです。
さらに細かくいうと、日本の男子名で「猛」というのと「涼」というのでキャラクターのイメージが変わってくるように、「ブルーノ」と「アンリ」もキャラのイメージが違います。もちろん子供が生まれた時に、大きくなったらこうなるとわかって命名するわけではないので、実際には逆のイメージの実在人物もいますが、わざわざ混乱するような命名をする必要はないと思っています。これもマイ・ルール「わかりやすい事が大切」につながります。
しかし、ここまで偉そうに語ってきておいてなんですが。何よりも「なんだかなあ」になってしまったのは、自分のペンネームです。これ、小学生の時に使っていたもので、漢字としては全く難しくない上、画数も悪くなかったので採用したんですが。一発で漢字変換されない苗字でした(orz)今さら変えられないんですけれど、ええ、コメントをくださる方の半分以上が「八乙女」と書かれるんですよね。で、あとで氣づかれて平謝りされてしまったりするのですが、すみません、悪いのはこちらです。変えようのない本名でもないくせに変換されにくい漢字を選んだのが敗因です。どちらで書かれても、私は喜んで返事をしますので、みなさまお氣になさいませんよう。「変換が面倒くさいけれど間違えるのは嫌」という方は、どうぞ苗字はつけず、ただ「夕」とだけお呼びください。
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【小説】森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架(13)グランドロンからの教師
さて、普通は主人公とヒロインの出会いというのは、電撃的に恋に落ちないまでも、もう少し好印象なものだと思うのですが、なんだか、そんな感じはほとんどありませんね。
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森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架
(13)グランドロンからの教師

日の長さが明らかに夜よりも長くなってきた頃、王太女マリア=フェリシアには新しい教師が付けられる事になった。グランドロンの言葉、宮廷の作法ならびに歴史に詳しい教師を探していた所、グランドロンの王の教育を担当した当代一の賢者ディミトリオスの門下の者を迎える事が出来たのだった。
七十五歳はとうに超えたと言われる賢者の弟子にしてはあまりにも若く見えたので、ザッカは驚いたが、少し話してみれば、何を訊いても的確な答えが帰ってくる。これほどの才を持つ者であれば、なるほど賢者が最後の弟子に選ぶのも納得がいくと思い直した。
「それで、ティオフィロス殿、そなた、歳はいくつになる」
ザッカは訊いた。
「先月、二十六となりました」
柔らかい栗色の髪と深い海のような瞳を持つ若者は、有名な《氷の宰相》の前にも臆する事がなかった。
「賢者殿にはどのくらいついたのだ」
「私が十になった時に、屋敷に引き取られ、二年前に国を出るまで教えを受けました」
ザッカは多少驚いた。
「賢者殿は、そのように若い者の教育までするのか」
「私が最初で最後でございました。何かと手がかかりましたので、懲りたのでありましょう」
賢者と十四年も寝食を共にしたとあっては、そこらの学生上がりとは違うはずだ、ザッカは黙って頷いた。
「そなたに期待される役目であるが……」
宰相は髭をしごきながら言った。職を得た事を知った青年は微笑みながらかしこまった。
「期間は三か月、可能な限り多くのグランドロンの知識を伝えていただきたい。学問だけではなく、作法や宮廷で踊られるダンスなど、姫があちらの宮廷でグランドロン人のごとく振る舞えるようにしていただきたい。生徒は二人だ。当然ながらグランドロン国王とのご縁組みが進んでいるマリア=フェリシア王太女殿下。そしてもう一人は姫の《学友》と呼ばれる女官だ」
「《学友》……。ああ、こちらの宮廷にはその習慣がございましたね」
マックスは頷いた。
これは、対照的な。これが二人の生徒に対するマックスの最初の印象だった。この二年間、旅をしながら各国の貴族の家庭で教師を勤めてきた彼は、一目で王女が簡単な生徒でない事を見て取った。王女は噂に違わず美しかった。燃え盛る炎のような輝く赤毛に明るい緑の瞳がよく映えた。丸く白い顔にきりっとした小さめの鼻、赤く少し突き出た薄い唇が駄々っ子のようで魅惑的だった。男としてはその顔に魅力を感じても、教師としては手強さを感じた。太い眉や少し尖った顎は、生来の強情さを示している。その瞳の輝きは誰であっても見下し馬鹿にしてきた、王女ならではの傲慢さに満ちていた。
一方、その後ろに控えるバギュ・グリ侯爵令嬢と紹介された娘の方は、とても令嬢には見えなかった。どこかの、具体的に言えば深く神秘に満ちた《シルヴァ》の森で、何十年も隠遁生活を送ってきた隠者か、戦争と飢饉に苦しむ辺境地からようやく戻ってきた兵士のような、悲しみをたたえた瞳が印象的だった。王女とさほど変わらぬ、質のいい衣装に身を包んでいるが、色目が全く違った。
王太女のドレスは明るい朱の地色にクレマチスの文様が浮かび上がっている。金と緑をねじらせた縁飾りが広く露出したデコルテラインを強調していた。《学友》のドレスは熟成したワインの色だった。わずかに光沢のある綾織りで、細かい菩提樹の葉の柄だった。首の付け根近くまで覆われた丸衿で、肌の露出は最低限だった。しかも彼女は長袖を着ていた。冬の終わりの椎の葉の色をした髪はきっちりと後ろで結わえられ飾りは最小限だった。つまり、こちらの娘は全く華やかさに欠けていた。よく見れば、整った弓形の眉と焦げ茶色の意志の強そうな瞳、そして聡明そうな優しい額など、美しいと判断していい素材を持ち合わせていたが、礼儀正しすぎる程の佇まいが堅く、女性としての魅力はほとんど感じられなかった。
二人はほぼ同じ歳だと聞いていたのだが、マックスには十年以上の歳の開きがあるように思えた。
「本日より、特にグランドロンに関する事をご講義いただくティオフィロス先生です」
宮廷奥総取締のベルモント夫人が紹介した時に、マリア=フェリシア姫はことさら馬鹿にしたような顔になった。
「馬鹿みたい。私と結婚したいならグランドロン王がルーヴランの言葉を憶えればいいじゃない」
ベルモント夫人はコホンと咳をしたが、マックスは全く物怖じせずに答えた。
「我が師の言葉によればレオポルド二世陛下は私以上にルーヴランの言葉をお話しになれるそうですよ。ただ、宮廷の者のレベルはそれほど高くないんです。あちらで王太女殿下が命令をお下しになるおつもりならば、グランドロンの言葉を習われるのは、そう無駄にはならないと思いますね」
部屋にいる姫以外の全ての者は、国の力の差を全く認識していない浅薄な王女がグランドロンでどれほど馬鹿にされるか薄ら寒く思ったが、それを全く感じ取っていない当人は、この教師の言葉に一理を見いだしていた。
マックスは授業を始めるにあたって二人の生徒にグランドロン王国とレオポルド二世に対する印象を訊いた。
「国土は広いけれど、寒かったり辺境が多いんでしょう。殺風景なお城と、軍隊が強いけれど粗野な廷臣たち。違う?」
マリア=フェリシア姫は容赦がない。マックスは苦笑した。
「ルーヴのお城の華やかで装飾の美しいこと、それに比較するとヴェルドンの城は確かに装飾は少ないことかと思います。ただ殺風景というほどの簡素さでもないのでご安心くださいませ。廷臣の方々も、詩歌やリュートの腕前は存じませんが、殿下の前で醜態は見せないほどには礼儀作法を心得ているものかと思われます」
それからラウラの方を見た。
「バギュ・グリ殿。あなたはどのような印象をお持ちですか」
ラウラは困ったように答えた。
「厳格で、秩序を重んじ、曖昧さを許さないという印象がございます。先の国王陛下も、レオポルド二世陛下も、どちらかというと好戦的であられると伺っていました」
「なるほど。確かに現在のグランドロン王国では、体系だった軍事訓練に非常に力を入れ、さらに新しい技術の開発にも余念はございませんが、とくに他国に対して好戦的ということではないかと思われます。むしろ守りを強固なものとするために、以前よりも王国内で国王への求心力を高める努力をしているのでしょう。これは国王が多くの廷臣よりも年若いということもあるのでしょうね」
「でも、レオポルド様って、政治なんてそっちのけで、女遊びが尋常じゃないんでしょう?」
姫の質問にマックスはどきりとした。姫だけでなく控えている女官たち、そしてラウラも眉をひそめている。若いご婦人がたには許しがたいことなのであろう。マックスの目は宙を泳いだ。
尋常でないかは別として、グランドロン現国王が何人もの下賎な娘たちを城に呼び騒いでいるという話は、一度ならず聞いたことがあった。それも、噂ではなく、国王の教育責任者をずっと務めているディミトリオスの口からだ。
老師ディミトリオスは若き国王の女遊びに諸手を挙げての賛成ではなかったが、それでもやめさせようとは思っていなかった。
「何故ですか?」
まだ初な少年だったマックスには、それはとても軽はずみで馬鹿げた振舞いに思えた。もしかしたら国王は暗君であるのかと心配すらした。しかし、ディミトリオスは笑った。
「臣下が憂慮すべき事態というのは、そういうものではない。もし、王が宮廷女官の一人に懸想し、その女や親族に地位や領地を与えたりしだしたら、それこそ由々しき問題だ」
レオポルドが呼ばせている女たちは彼の個人的な好みとは関係がなかった。ベフロアという女の仕切る高級娼館が恥ずかしくない程度の口を利ける女たちを適宜選んで派遣しているだけだった。同じ女がくりかえし来る事もなかった。
マックスは旅に出てから女遊びを覚えた。仕事が終わった後には居酒屋に行き、女たちと楽しく恋の駆け引きをする。寝室に連れ込む事に成功し、しばらく短い恋の花を咲かせる。その土地を離れるまでの楽しいゲームだ。だから、国王が女と遊ぼうと特に悪い事だとは思わないようになった。彼は居酒屋には行けないから城に呼んでいるだけだ。
だが、すべての人間がマックスと同じような寛容な意見を持っているわけではない事も彼は知っていた。女性、とくにこれからその男の妻になるやも知れぬ女にとっては、そのような噂は聞き捨てならぬであろう。彼にとってこの際重要なのは、自分の意見でこの話が破談になったりしない事であった。それはとりもなおさず彼自身の失業を意味するから。
「畏れながら、私はその噂の真偽については存じませぬ。少なくとも政を疎かにしてまでということはございますまい。それに、どのように女癖の悪い男であろうと、姫のようにお美しい貴婦人を一目見たが最後、二度とくだらぬ遊びはしなくなるものでございます」
我ながらひどい戯言だ。マックスは心の中で思った。彼はその場にいたもう一人の娘の眉が、悲しげに歪んだ事には氣がつかなかった。
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旅行の最中です
スイスでは、どんな田舎でも携帯の通信網はかなり整っているので、まさかお城のある街で、ほとんど通じないなんて想像もしていませんでした。
今いるのは、ステラの故郷に設定したBardiです。写真はアップできるようなところに着くまでお預けです(^^)
(追記)
ようやくWIFI見つけました。


中世のお城に泊まってます。
(更に追記)

ちょっと、マックスのいるところのイメージ

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音楽による作品への誘い
こちらはBGMにはしていませんが、この時代の空気を感じていただきたいという事で。「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」(連載中)は中世ヨーロッパ風の仮想世界の話です。といってもドラゴンや小人や魔法は全く出てこないです。あくまで実際の中世に可能だった事しか書かないというのがこの作品のポリシー。劇中歌の「Cantum Silvae」は、この音楽のような中世風のトーンだったという設定です。(ちなみにBGMはTOM-Fさんおすすめのブルックナーの第四交響曲「ロマンティック」を使わせていただいています)
Medieval Music

中編小説「夜想曲(ノクターン)」(完結)のイメージを生み出したのは、ヨーヨー・マのチェロが美しいボリングの「ロマンティーク」。「アイデンティティ・プロブレム」をテーマに据えたこの作品、私の小説群の中では、一番バランスがとれているように思うのですが、どうでしょう。この曲がなければ生まれてこなかった話です。
Suite for Cello & Jazz Piano Trio - Romantique | Claude Bolling

「樋水龍神縁起 Dum Spiro Spero」(完結)の紹介用音楽は、フォーレの「レクイエム」からイントロ。この曲を「龍の媾合」の晩にヒロイン瑠水が勝手に龍王の池に潜っちゃったシーンのBGMにしていました。ちなみに「樋水龍神縁起」本編のほぼ最後のシーンではモーツァルトの「レクイエム」のイントロがBGMでした。
Faure - Requiem (Introit et Kyrie)

こちらはバリオスの「最後のトレモロ」、クラッシックギター曲です。「大道芸人たち Artistas callejeros」の第二部で一番重要になる曲です。こちらは現在執筆中なのでこれ以上語るのはやめます。リンクはこのブログで一番ポピュラーな第一部(完結)へのものです。
David Russell, guitar - El Ultimo tremolo (A. Barrios Mangoré)

「Infante 323 黄金の枷」(連載中)はこの曲がなければ生まれてきませんでした。ベートーヴェンのピアノ協奏曲「皇帝」の第二楽章。これから浮かんできたシーンが最終章になっています。主人公でタイトルロールである23のモデルは二人います。一人がポルトで実際に観たポルトガル・ギター奏者。もう一人がベートーヴェンです。ごついヴィジュアルと、紡ぎだす音楽の、つまり魂の叫びとのギャップにやられている私です。
Excerpt from Piano Concerto No. 5 in E-flat Major, Op.73 ("Emperor Concerto")

最後にご紹介するのは、フィービッヒの「詩曲」です。私の作品とは関係ありません。大好きで、勝手に自分の「愛のテーマ」に設定している曲。こう書くと痛いなあ。単純に、こういう風に生きたいなあって思っているんです。
Z.Fibich: Poem
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【小説】オーツくんのこと

オーツくんのこと
なんて大きな月だろう。黒い墨のような空にわずかにたなびく薄い雲が、その光を受けて輝いていた。月の中にはくっきりと文様が浮かび上がり、あれはウサギが楽しく餅をついているのではなくて、暗く空氣の薄い世界に広がる孤独なクレーターの集合なのだと訴えてくる。
私は自転車を停めて、麦畑の前に立った。風がそよぐ。麦たちが行儀良く右へ左へと傾いで、さわさわと語りかける。すっかり涼しくなった。九月。ここにいない人の事を想って立ちすくむ。ごめんね、オーツくん。私は今も月を見ているよ。
中学一年生のとき、私は背が低かった。整列するときはいつも一番前で、隣にいたのはやはり小柄な大津くんだった。もの静かであまり目立たない少年。彼と最初に話をしたのは、一学期も終わる頃だった。体育祭でフォークダンスを踊る事になって、身長順で彼と組まされる事になったのだ。
そのフォークダンスは、学年中で不評だった。男子と女子とにはなんらかの身体的違いがあって、小学生だった頃のようにただの同級生として分け隔てなくつき合えなくなりかけていた。二年生の不良っぽい佐野先輩が、高校生とつきあっているという噂があって、それをクラスの女子たちが補導された生徒に対するようにひそひそと非難していた。山下くんが美弥ちゃんのスカートをめくってからクラスの女子の大半に避けられるようになったのもこの頃だった。
小学校の頃は何とも思わなかったのに、横に並んで手をつないで右や左に動くだけの事が、とても苦痛になっていたのは、たぶん男子も女子も同じだったに違いない。もう五年も経てば「あれっぽっちのことで」「むしろ羨ましい」になったことだったけれど、私たちは微妙な顔をして嫌々練習をしていた。
大津君は乾いた手をしていた。手に触れる時に、強すぎる事も弱すぎる事もなく、とても自然に、まさにフォークダンスを踊っていたのだと思う。私と手を繋がなくてはならなくても、嫌な顔もしなかったし、反対に嬉しそうでもなかった。彼は目立たないけれど、クラスの子たちに信頼されているちゃんとした少年だった。
英語を習いはじめた私たちは、ちょっとでも知っている単語を使いたかった。誰かがオートミールに使われている燕麦を「オーツ」と呼ぶのだと聞きつけて、彼の事を「よう、麦!」と呼ぶようになった。私は麦君とは呼ばなかったけれど、私の中では彼の名前の表記が「オーツくん」に変わってしまった。
あの夏休みに、私は初めて一人で新幹線に乗った。お母さんは新横浜まで送ってくれて、おばあちゃんが浜松の駅で待っていてくれたので、私のする事といったら間違わずにこだまに乗って、浜松到着のアナウンスを聞き逃さないだけだったのだが、秘境探検に出かけるかのようにドキドキしていた。そうしたら新横浜駅のホームで突然呼び止められたのだ。
「佐藤!」
オーツくんが手を振っていた。隣にいたのはたぶんお父さん。背は高いけれど、彼にそっくりだった。
「オーツくん、どこに行くの?」
「岡山のおじいちゃんの所。佐藤は?」
「浜松。おばあちゃんのとこ」
「一人なのか? すごいな」
「うん。えへへ」
私はちょっと誇らしかった。
「でも、オーツくん、岡山までこだまで行くの?」
「ううん、名古屋まで。名古屋からはひかりの指定がとれたんだ。浜松までだったら、僕たちと一緒に行こうよ」
私は頷いた。やはり一人で乗ったら、乗り過ごさないか不安だった。オーツくんのお父さんがちゃんと浜松を教えてくれると思ったらほっとした。
新幹線の中で、オーツくんのお父さんが、オレンジジュースやお菓子、それにさきいかや笹かまぼこなどを奨めてくれた。そして、何かと話しかけてくれたので、私は学校でほとんど話した事のなかったオーツくんともたくさん話す事になった。オーツくんが寡黙ではなかったのでびっくりした。
夏休みの自由研究のために春からワタを植えていたこと。どうやら夏休みが終わるまでに綿の実ができそうだと嬉しそうに語った。それから、彼の田舎は吉井川の流域にあって、親戚は農家、秋になると稔った麦穂であたりがみごとな金色に染まるのだと教えてくれた。
「え。じゃあ、本当にオーツくんだったんだ」
私がそういうと、お父さんも彼も楽しそうに笑った。
「満月の夜に麦畑に立つと、すごく幻想的なんだぜ。佐藤にも見せてあげたいな」
私は、いつかきっとオーツくんと満月の麦畑を見るのだと、その時に思ったのだ。フォークダンスを踊らされていた時の、居心地の悪さはどこかへと消えていた。オーツくんは「クラスの男子」の一人ではなくて、ちゃんと話のできる友達になっていた。
次が浜松だとオーツくんのお父さんが教えてくれたとき、私はとても残念だった。できることならこのままオーツくんの田舎に行って、満月の麦畑に立ちたいと思ったのだ。
「二学期にまた逢おうな」
網棚の荷物をお父さんに降ろしてもらっている時にオーツくんは言った。
「うん」
「そうだ。真成寺の裏手に、ススキがいっぱい生える所があるの知っているか?」
突然彼は言った。私は知らなかったので首を振った。
「じゃあ、中秋の名月の頃は早すぎるけれど十三夜の頃に一緒に行こうよ。月見団子持ってさ」
金色の麦畑のかわりに、たくさんの銀のススキ。月明かりでどんな風に見えるのか、楽しみだった。私は大きく頷いて、二人に手を振った。
宿題をたっぷりと残したまま夏休みは終わった。オーツくんと違って自由研究も全く準備をしていなかったので、高校野球が始まった頃に私は泣きべそをかいた。看護師で忙しい母は手伝ってくれなかったし、その年も間に合わせの情けない研究でお茶を濁したのだと思う。どういうわけか、私はどんな研究をしたのかまるで憶えていないのだ。オーツくんの綿の観察の事は憶えているくせに。
いたたまれない二学期の始まりをなんとかこなし、授業に、体育祭の準備に、忙しい日々を過ごしているうちに台風が過ぎて、秋らしくなっていった。
体育祭の二日前に、私は風邪を引いた。ただの鼻風邪ではなくて、高熱が出て、母は職業的権威を振りかざし私が体育祭に出るのは不可能だと宣言した。私は運動音痴で体育祭なんか大嫌いだったので、いつもなら大喜びする所だった。でも、私が休んだらフォークダンスでオーツくんはどうなるんだろう。あんなに真面目に練習していたのに。
「だって、フォークダンスが……」
「何言っているのよ。そんなフラフラでダンスなんか踊れるわけないでしょう。だいたい、あんな文句言っていたくせに」
今ごろみんな踊っているかな。ごめん、オーツくん、わざとじゃないんだよ。私は布団の中でつぶやいた。そしてそのまま眠ってしまった。
「真美。お友だちがお見舞いにきたわよ」
母の声で目を覚まして部屋の入口を眺めると、そこにオーツくんが立っていた。
「オーツくん!」
「佐藤、休んでいる間のノート、持ってきた。あと、体育祭で全員に配られた景品」
「え。ありがとう。ごめんね。フォークダンス、あんなに練習したのに」
「大丈夫。山下も休みだったから、残りもの同士で組んだよ」
「そっか、美弥ちゃんも踊る相手がいてよかったんだね」
「それより、熱は大丈夫?」
「うん、体の痛いのも、だるいのも治ってきたみたい。きっと下がってきたんだね。明日か明後日にはまた学校に行けると思う」
「そうか。十三夜は一週間後だし、それまでに元氣になるといいな」
「うん。そうだね。ありがとう」
オーツくんがお見舞いにきてくれた事にも驚いたけれど、新幹線での約束を憶えていた事にもびっくりした。私はそのことが確かに嬉しかったのだ。
でも、学校に出て行ったら、状況が全く違っていた。教室に入ったら、山下くんたちが「ひゅーひゅー」と囃し立てた。
「麦! 奥さんが来たぞ~」
「よっ。麦夫人。旦那が待っていたぞ」
オーツくんの親切がクラスのみんなに知られて、私たちは相合い傘を書かれる仲にされてしまっていた。私はそれを笑い飛ばせる心の余裕がなかった。ただ慌てふためき、クラスで非難される穢れた存在ではないことを証明しなくてはならない氣になっていた。
「ち、違うよ! 私、オーツくんとはなんでもないもん!」
そう言ったとき、オーツくんの表情がわずかに歪んだように感じた。彼だって、こんな風に囃し立てられて迷惑に違いないと思っていた私は、彼の傷ついた表情にズキリとした。でも、私がやってしまったことはこれだけではなかったのだ。
十三夜が大雨になる事を願っていたのに、これ以上ないほどの晴天だった。私は真成寺の裏手に行くかどうか、夕方からずっと悩んでいた。でも、もしオーツくんといる所をクラスの子に見られたら、本当につき合っている事にされてしまう。それに、オーツくんだってそれを心配してこないかもしれないし。学校ではできるだけ彼と話さないようにしていたので、待ち合わせなどはまったくしていなかった。私は晩ご飯を食べ終えると、布団をかぶって寝てしまった。
次の日、オーツくんが学校を休んだ。夜中まで外にいて風邪を引いたと男子たちが話をしていた。
「夜中まで何をしていたんだろうな。おい、麦夫人、お前知らないのか?」
私は知っていた。オーツくんがしてくれたように、ノートを持って見舞いにいき、「ごめんね」と言った方がいいと思った。なのに、私にはその勇氣がなかった。クラスのみんなに囃し立てられるのがなぜそれほど嫌だったのかわからない。学校に出てきたオーツくんは、二度と私の方を見なかった。卒業するまで、一度も話しかけてくれなかった。私は、彼を怒らせてしまった事と、クラスのみんなの噂が怖くて、ついに彼に謝る事ができなかった。
そして、二十年の月日が経った。私は異国に嫁いだ。パンが主食で、燕麦もたくさん食べる国。秋になると小麦畑が金色に染まる。麦の穂が頭を垂れだすのは、たぶん日本よりも早い。さわさわと音を立てて、風が寂しい秋の訪れを告げる。夏至の頃と違い、日暮れも早くなった。
今日は中秋の名月。冷たい待宵の月が天空にぽつりと浮かんでいる。大きい、明るい月だ。オーツくん、あなたは今、どこにいるの。結婚して幸せになったかな。奥さんと一緒に月を眺めているかな。ごめんね、オーツくん。私は人の心をわかっていない、嫌な子供だったよね。あの時に行けなかったお月見を、私は生涯し続けると思う。今宵も風が冷たいね。
(初出:2013年9月 書き下ろし)
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休暇です

ちょっと遅い夏休みの旅に出かけました。
これはマッジョーレ湖です。アルプスの南側にはまだ夏が残っていました。
二週間ほどのんびりバイクの旅を
たのしみます。
ブログの方は予約更新と旅先からの便りになります。
反応が鈍くなりますがご了承ください。
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