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scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012


Posted by 八少女 夕

フォスのあれこれ / O Infante

「Infante 323とポルトの世界」カテゴリーの記事です。オリジナル小説「Infante 323 黄金の枷」にはモデルとなったポルトの街が時々登場しますが、フィクションの部分と現実との混同を避けるためにあくまでも「Pの街」として書いています。そういうわけで、本文中には挿入できなかったポルトの写真をこのカテゴリーにてお見せしています。

作中で、マイアと23が出かけたドウロ河ならびに大西洋に面したフォス(河口)と呼ばれる場所は、光に満ちた美しい一画です。かつては郊外、田舎に属し追いはぎなどを怖れなければならなかった場所ですが、いつの間にかお金持ちたちがリゾートとして利用する賑やかな場所になったそうです。

路面電車

ポルト市内からは、普通のバスでも行く事ができますが、この路面電車で行くのはかなりのおすすめです。レトロで素敵ですし、周りがよく見えます。さらに、いつ降りるのかとびくびくしなくても済みます。23とマイアは《監視人たち》に見つからないように交通公共機関は避けました。「午餐の後で」で彩洋さんちの詩織が乗りたがったのはこれです。たぶん彼らは乗ったのでしょう。

漁師たちの舟

河口、大西洋の始まるところには、今でも漁師たちが小さな舟で伝統的な漁業を行っています。ポルトガルの人たちの海に対する強い想いはかなりのものです。だから、魚もとても身近。日本人がポルトガルでホッとするのはこういう所にあるのかなと思ってしまいます。

チーズのお城

これは「Castelo do Queijo(チーズのお城)」と呼ばれている城塞です。形が平ぺったくてチーズみたいに見えるからですね。フォス周辺にはこのような城塞がいくつもあり、ここが防衛上とても大切な場所だった事がわかります。

パーゴラ

そして、ここがクリーム色のパーゴラ。「恋人たちのデートスポット」ときいて「絶対に本編に登場させるぞ!」と誓った場所です(笑)実際にも、幸せそうな恋人たちが楽しく歩いているのも見ましたが、普通にジョギングしたり、散歩している人たちも。あたりまえですね。

海は、ポルトガル第二の都会であるポルトから数キロなのに、とても綺麗です。魚釣りをする人もいました。私が行ったのは四回とも三月でさすがに泳いでいる人はいませんでしたが、夏は賑わうのでしょうね。

ドウロ河岸のレストラン

なお、このドウロ河沿い並びに大西洋に面したフォス地区には、対岸を眺められる素敵なレストランがたくさんあります。夜もなかなか素敵。ポルトにいらしたら、一度はこういう所でお食事もいいですよ。

* * *


最後に、ここで一曲ご紹介しましょう。「マイアと大西洋」に関するイメージソングは、ボサ・ノヴァの「Brisa do mar (海のそよ風)」で、これが章のタイトルにもなっているのですが、その曲は最終回に取っておくとして、今回は、「23たちインファンテと大西洋」に関するイメージソングにしている曲で、私の大好きなファド歌手ドゥルス・ポンテスが、ポルトガルを代表する詩人フェルナンド・ペソアの「Mar Português, (ポルトガルの海)」から「I. O INFANTE」に作曲して歌った「O Infante」です。

ポルトガル語の「O」とは定冠詞、つまりこの題名は英語でいうと「the prince」つまりエンリケ航海王子の事を示していると思われます。世界が一つになるという事は、彼と彼を支える人たちには「大ポルトガル帝国の完成」を意味していたと思われますが、もはや大ポルトガル帝国はなくなってしまいました。けれど、神が彼らを欺いたのではなく、たった一つの大きな青い惑星がひとつ存在している、その意味を彼らがわかっていなかったのではないでしょうか。ペソアの詩、ドゥルス・ポンテスの哀愁ある歌声が訴えかけてくる世界と、「誰かが始めて、もはや意味を失ってしまったのに、誰にも止められないシステムがあり、その中に生きる人びとの悲哀がある」という小説の設定がどこか重なるのです。だから、この曲は、この「黄金の枷」シリーズの裏テーマとしてBGMにしているのです。



歌・作曲:ドゥルス ポンテス Dulce Pontes
詩:フェルナンド・ペソア Fernando Pessoa

この下に、ペソアによる詩と、拙いながら私の調べて訳した和訳を置いておきます。

O infante

Deus quer, o homem sonha, a obra nasce
Deus quis que a Terra fosse toda uma
Que o mar unisse, já não separasse
Sagrou-te e foste desvendando a espuma
E a orla branca foi
De ilha em continente
Clareou correndo até ao fim do mundo
E viu-se a terra inteira, de repente
Surgir redonda do azul profundo
Quem te sagrou, criou-te português
Do mar e nós em ti nos deu sinal
Cumpriu-se o mar e o império se desfez
Senhor, falta cumprir-se Portugal
E a orla branca foi
De ilha em continente
Clareou correndo até ao fim do mundo
E viu-se a terra inteira, de repente
Surgir redonda do azul profundo

神は望み、男は夢み、その事業は生まれた
神はこの地球が一つになることを望んでいた
そして海は繋がり、もはや隔てられなくなった
お前は祝福されて、そして泡を取り除くために出かけて行った

白い海岸線は
島から大陸へと消えながら
世界の果てまで走っていった
そして、お前がこの全ての地を見ると
突如として、深く青い球体が現れた

誰がお前を祝福し、ポルトガル人にするのか
海と私たちは、お前に神の徴を与えた
その海は満たされ、そして帝国は崩壊した
わが主よ、まだポルトガルは完成していません

白い海岸線は
島から大陸へと消えながら
世界の果てまで走っていった
そして、お前がこの全ての地を見ると
突如として、深く青い球体が現れた




この記事を読んで「Infante 323 黄金の枷」が読みたくなった方は……

「Infante 323 黄金の枷」「Infante 323 黄金の枷」をはじめから読む
あらすじと登場人物




【次回予告】「Infante 323 黄金の枷」 (16)休暇

「休暇中はたぶんお前の家の近くの《監視人たち》が観察をするだろう。怪しまれるような行動は避けた方がいい」

 言われてみればその通りだった。マイアはひどくガッカリした。23は失望しているようには見えなかった。それまで作っていた靴を脇にどけると、作業台の引き出しから型紙を探し出した。忙しそうだなとマイアは思った。洗濯物の籠を持って退散することになった。落ち込んだように去っていくマイアの後ろ姿を、23はじっと見つめていた。


マイアは、二ヶ月に一度の一週間の休暇を貰える事になりました。せっかくの休みなのに、23に逢えなくなる事にがっかりするマイア。誓約に縛られながら過ごす長い一週間が始まります。

来月末に発表予定です。お楽しみに!
関連記事 (Category: 黄金の枷 とポルトの世界)
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Category : 黄金の枷 とポルトの世界

Posted by 八少女 夕

【小説】Infante 323 黄金の枷(15)海のそよ風

月末の定番「Infante 323 黄金の枷」です。

知られずに館の外に出られることがわかった23を、マイアは外出の度に誘い出します。現金を持つ事のできない彼と、お金がないとできない経験を一緒にして回るのです。二人の時間、秘密の共有、それに、自分だけが彼のためにしてあげられる事、マイアの一途な想いはまだ空回りぎみですが、23も十分に楽しんでいる模様。今回は徒歩では行けないほどの遠出に挑戦します。

そういえば、今回書いた、キリスト教騎士団の話やドラガォンが誰の血を守っているのかについての噂などは、本当はここで読者を「ええ〜!」と驚かせるような箇所だったのですが、すでに外伝でガンガン似たような事を書いてしまっていて、きっと皆さん「今さら」ですよね。

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「Infante 323 黄金の枷」「Infante 323 黄金の枷」をはじめから読む
あらすじと登場人物





Infante 323 黄金の枷(15)海のそよ風

 マイアは鉛筆を削った。愛用のハガキサイズの画用紙を取り出して窓辺に座った。椅子に置いた靴を丁寧に写生していく。丸みを帯びたシェイプ。革の柔らかさを感じられるように艶を表現していく。大好きなパンプス。この素晴らしい靴を履き、幸せな人は他にもいるが、それを作った職人を個人的に知っている持ち主はほとんどいない。

 出来上がったスケッチを持ってマイアは23の工房に入っていった。
「見て。23」
 
 彼は驚いた。
「お前が描いたのか?」
「うん。どう?」
「こんな才能があるとは思わなかったな。称賛に値するよ」

 マイアは意氣込んだ。
「これから、23の作る靴、私にスケッチさせて」
「なぜ?」
「だって、靴は納品されたら、ここからなくなっちゃうでしょう? あなたが作った靴の記録を残したいの。公式には誰も知らなくても、あなたがこんなに素晴らしい靴を作っていたって証を残そう。いいでしょう?」

 23は驚いた顔のまま黙っていたが、しばらくすると目を細めて微笑んだ。
「ありがとう。マイア」

 マイアは、嬉しかった。私にも何かができる。ドンナ・アントニアのように存在だけで彼を幸福にすることはできないけれど。彼が自分のことを誇りに思える何かを残すことができる。

「ところで、なぜエプロンをしていないんだ?」
23は訊いた。

「あ、奥様に用事を頼まれて、これから街に出かけるの。カステロ・サン・ジョアンの側にあるお友だちのお家に花を届けるんですって」

「それは、確か河口のあたりだな?」
「うん。あ、23、あっちの方も行った事ある?」
「いや。さすがにそこまで遠くには足は伸ばしていない。徒歩だとかなり時間がかかるしな」

 マイアは目を輝かせた。
「じゃあ、抜け出して一緒に行こうよ。路面電車に乗ったらすぐだよ」

 23は首を振った。
「乗り物は出入り口でコントロールがあるだろう。近いから場合によっては腕輪の星の数も見える。運転手が《監視人たち》だったら確実に見つかってしまう」

 彼の言うことはもっともだったが、それで諦めるのは残念だった。海を見た事がないなんて。
「海、見たくない?」
「見たいよ」

 マイアは少し考えた。いい案が浮かんだ。
「わかった。じゃあ、私が自転車を借りるよ」
「自転車?」
「うん。ボルサ宮殿の先の河岸で待っていて。一緒に行こう」

 マイアは花屋で花束を受け取ると、リベイラに向かった。そのあたりにある貸し自転車屋を知っていた。その店は主に観光客用に営業しているのだが、置いている自転車のタイプが古いので、よほどのことがない限り出払わない。

 前に籠がついていて、後ろの荷台にもう一人座れるタイプの自転車は二つ残っていた。
「君なら、こっちの小さい方だね」
店主は言った。マイアは少し考えた。23は私と同じくらいの身長だから、これでいいのか。あれ、そもそも、23は自転車に乗れるんだろうか。

 自転車で河岸を少し進むと、ベンチに座っている23が簡単に見つかった。すーっと前に乗りつけたマイアを興味深そうに見ていた。
「なるほど」

 ああ、この口ぶりでは、やっぱり乗れるはずはないよね。マイアは納得して後ろの荷台を示した。
「ここに座って。私に掴まっててね」

 そういっている横を二人乗りをした少年たちがすっと通り過ぎていった。それを見て納得した23は荷台に座るとマイアの腰に手を回して掴まった。マイアは赤くなった。掴まれと自分で言ったのだから、そうなるに決まっているのに、この状況をまるで考えていなかった。アイロンのかけ方を習った時よりも近い。
 
 D河はカステロ・サン・ジョアンの側で大西洋に流れ込む。聖ニコラス教会の近くからレトロな路面電車が河沿いに走っている。その脇は自転車用に整備された道になっていて、カステロ・サン・ジョアン、ブラジル通りを通ってカステル・デ・ケージョまで行くことができる。その一帯は河口を意味するフォスと呼ばれている。

 カステル・サン・ジョアンに着くと、マイアは自転車と23を残して、急いで花を届けにいった。ドンナ・マヌエラの友人の家の近くまで二人で行くと、《監視人たち》の目につくかもしれないと考えたからだ。出てきたのは優しそうな婦人で、よかったら上がってコーヒーでも飲まないかと訊かれたが、「勤務中ですので」と断って急いで城塞ヘと戻った。

 戻ると23が一人で自転車に乗る練習をしていた。まだふらついているが、なかなか筋がいいとマイアは思った。私のときは、何日間もかかったのに。
「23、すごいね。次に遠出する時にはきっともう乗れるよ」
彼は得意そうに笑った。

 再びマイアが運転して、もう少し先まで走った。左手に漁をしている小舟がたくさん見えてきて、それから砂浜や岩で覆われた海岸が続く。人びとは釣りをしたり、ジョギングをしたりして、海にキラキラと反射する眩しい光を楽しんでいる。
「ほら。これが海。波がすごいでしょう?」
「ああ、本当だ。こんな風に打ち寄せるんだ」

 生まれてはじめて海を見た時のことを、マイアは憶えていない。繰り返す波の満ち引き、大きな音、湿った風、潮の薫り、果てしなく続く水平線。はじめて見た時はさぞかし驚いたのだろうと思う。23はテレビやネット上の写真でしか海を知らなかった。どれだけ違って感じられるのだろう。

 しばらく行くとクリーム色のパーゴラ柱廊が見えてきた。海を眺めるバルコニーのようだ。
「ここは?」
「素敵でしょう。とてもロマンティックなので、恋人たちのデートスポットなの。いつも一人で来ていたから、いつかはきっとって思っていたわ」

 彼がほんの少しきつく掴まったように感じて、マイアは心が痛くなった。勘違いしちゃダメ、この人にはドンナ・アントニアがいるんだもの。本当に恋人同士としてここにいられたら、どんなにいいだろう。自転車に乗っているからではなくて、ただ抱きしめてもらうのって、どんなきもちだろう。

 マイアはもう少し先で自転車を停めた。海を見渡すカフェがあって、その脇に砂浜へと降りる階段があった。23は少し沈んでいく感触に慣れるまで砂の上を慎重に歩いた。マイアは波打ち際まで来ると、裸足になった。23も同じようにした。波が足元の砂を運び去っていく、そして二人をも運び去ろうとする感覚をしばらく楽しんだ。

 23の方を見て笑いかけた時に、その後ろ、波止場にはためいている二つの旗に氣がついた。一つは赤と緑の国旗で、もう一つはやはりこの国でどこでも見られる白地に赤い十字の旗だった。その視線を追って、やはり旗を見た23は「どうかしたのか」と言いたげにマイアの顔を見た。
「あの十字、お屋敷の門の所にもついているわよね。竜の持っている盾の中に。ドラガォンって、王家かなにかと関係あるの?」

 23は笑って首を振った。
「この国では、王家とは関係なくあの十字を多用しているよ。あれが何を意味するシンボルなのかは知っているだろう?」
「大統領がああいう勲章を付けているわよね。サッカー連盟のマーク、ホテル、それに空軍も……。でも、もともとはキリスト教の何かよね」
「そうだ。キリスト騎士団のシンボルだ。大統領は共和国の元首であると同時にキリスト騎士団の総長でもある」

「キリスト騎士団ってそもそも何?」
「もともとは1119年に創設されたテンプル騎士団だ。第一回十字軍が終了した後、エルサレムへの巡礼者を保護するために創設された騎士修道会だが、巡礼者のために現在で言うトラベラーズチェックのようなものを発行する財務機関として力を持った」

「それで?」
「富めるものはさらに富み、だよ。テンプル騎士団は多くの人びとや国家の債権者になっていた。十四世紀のはじめにフランス国王は最大の債権者であるテンプル騎士団に借金を返す代わりにその財産を没収してしまおうと思ったのさ。そして、フランス人の教皇と結託してテンプル騎士団総長ジャック・ド・モレーを反キリスト・悪魔崇拝の異端に仕立てて生きたまま火あぶりにして処刑した。そして、その資産を自分たちの息のかかった聖ヨハネ騎士団に移すように命令したんだ」
「そんな、勝手な……。みんな、フランス王の言うなりになったの?」

「いや、ならなかった。当時の教皇クレメンス五世もフランスに加担したていたから、テンプル騎士団はローマ教皇庁により弾圧禁止されたが、ドイツでは裁判で証拠不十分のため無罪とされたし、スペインでも弾圧はされなかった。教皇の決定に真っ向から反対したのが、わが国の国王ディニス一世で、逮捕を拒否しキリスト騎士団の名前のもと存続を認め、資産と財産を継承する権利を次の教皇ヨハネス二十二世に交渉して認められたんだ。だから、現在でも教皇庁では聖ヨハネ騎士団の後継であるマルタ騎士団を親任しているのに対し、わが国ではキリスト騎士団を支持し、王制がなくなった今でも大統領が総長となってテンプル騎士団の伝統を引き継いでいるんだ」

「わからない。その騎士団の伝統を守る事が、二十一世紀の今でもそんなに大切なの?」
「守っているのは伝統だけじゃないんだ。多くの人の関心の中心にあるのはむしろその莫大な資産なんだよ」
「あ」

「キリスト騎士団の指導者となったエンリケ航海王子は、その経済的バックアップのもと大航海時代の幕を開いた。わが国が植民地としたブラジルで発見された黄金は、わが国を富ませた。その栄華の名残は、この街に残る豪奢な建物に見られるだろう?」
「……」

「さて。この街に大きな館を構え、働きもしないで豪奢な生活を続ける一族がいる。街の中に数百人の黄金の腕輪をした人間がいて、それを監視するためだけに二万人近い人間が配置されている。そのとんでもない人件費をまかなう財力はなんだと思う?」
「まさか……」

「テンプル騎士団が解体された後、キリスト騎士団に受け継がれた資産と財産はほんの一部だった。フランスや教皇庁が没収した財産もそんなに多くはなかった。では消えてしまった莫大な財産はどこに行ってしまったんだろうか。フリーメーソンなどの秘密結社に受け継がれたとも言われているし、確かな事は今でもわからない。だが、俺たちをここで飼うためだけのために遣われる恐るべき経費を考えるとき、テンプル騎士団の財産の多くを受け継いだのがドラガォンだと考えても不思議ではないと思う」
「だとしたら、ドラガォンが受け継ごうとしている血脈って言うのは、もしかして……」

「お前の示唆している人が誰かわかるよ。どうだろうな。その可能性がないわけじゃない。真偽のほどは別として、神の子であると定義されている特別な一人の男の子孫を守り続けていると信じている人間がいても不思議ではない。だが、別の仮説もある」
「別の仮説?」

「この地には、もともとケルト人が住んでいたんだ。そして、この街の象徴でもある竜はケルト人の神獣だ。だから、ケルトの伝説の英雄か王の子孫を守り続けているのかもしれない。たとえばアーサー王、ユーサー・ペンドラゴン……」

「23はインファンテなのに、誰の子孫か教えてもらっていないの?」
「もちろん、いない。俺はスペアであると同時に危険分子だからな。トップシークレットを明かしてもらえるような立場にはない。知っているとしたら、アルフォンソか、《監視人たち》の中枢組織だけだろう。それに誰だろうと、それは名目に過ぎない。本人の遺体でもない限り、本当に直系なのかは誰にも証明できないのだから」

 23はいつものように突然話題を変えた。
「ここによく来るのか?」

「ええ。前はよく来たわ。悲しいことやつらいことがあると、ここに来て海を眺めたの。繰り返す波をずっと見ていると、ちっちゃなことはいいかな、って思えてくるの。そして、叶わない夢のことを考えていた」

「それは?」
23がマイアの横顔をじっと見つめた。彼女は沖をゆっくりと進む大きな船を指差した。
「いつか腕輪を外してもらって、自由になったら、ああいう船に乗ってね。どこか遠くに行きたいって」

 マイアがまっすぐに伸ばした左の手首には黄金の腕輪が光っていた。彼女は23の顔を見て無理に笑おうとした。
「叶わない夢なんて、見てもしかたないわよね」

 彼はしばらく答えなかった。マイアを見つめ、それから打ち寄せては砕ける波に視線を遷した。何かを言おうと、何度か口を開きけれど言わなかった。

 マイアには彼の背中が一層丸く見えた。彼にとって残酷なことを言ってしまったのだと感じた。自由になりたいのは彼も同じ、それどころか、ずっと痛烈に願っているのだろうから。

 悲しくなって謝ろうと思った時に、マイアをもう一度見てはっきりと言った。
「夢は夢だ。願い続けていれば叶うこともある。お前は星一つだから、チャンスはある」

 でも、私は叶わない別の夢を抱いてしまったんだけれど。マイアは心の中でつぶやいた。
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Tag : 小説 連載小説 月刊・Stella

Posted by 八少女 夕

60,000Hitのリクエストについて

いつも「scribo ergo sum」をお訪ねいただき、ありがとうございます。

さて、遠からず当ブログは60,000Hitとなります。あんまりしょっちゅう企画をやっているので、新鮮味はないかもしれませんが、日頃から訪問してくださる方への感謝を込めて、リクエスト企画をまたやろうと思います。

サイクリングの途上で


ルールは、いつもとほとんど同じです。カウンターが、60,000を過ぎてからの先着順で、6名様分のリクエストを受け付けます。リクエストは、短編小説のお題(テーマ)もしくは書いてほしいキャラクターのご指定という形でお願いします。その両方でも構いません。キャラクターは複数でも構いませんが、お題は一つでお願いします。リクエストをくださる方のオリキャラとの場合に限り、コラボもOKです。

リクエストは、この記事へのリクエスト欄(もしくはその時点のトップ記事へのリクエスト欄)に書いてください。記念リクエストに限り、他の方が「いつ、誰が、どんな、そして何人目のリクエストをしたのか」を確認しづらい方法(メッセージ、PIYOのコメント欄、もしくは鍵コメなど)でのご連絡はなさらないようにお願いします。ご協力をよろしくお願いします。

六つの個別の作品にするか、それとも、いくつかのリクエストをまとめての作品にするか、その判断はこちらにお任せください。また、そのため、発表順についても、リクエスト順ではなくなる事がありますのでご了承ください。

この企画では、リクエストをする方も作品を書けというような縛りは一切ありませんので、どなたでもお氣軽にどうぞ。あまり交流のない方や初コメの方でも、どうぞご遠慮なく。また、常連の皆様からいつも鬼のように難しいリクエストをいただいて慣れていますので、お氣遣い無用で容赦なくどうぞ(笑)

作品の発表時期は、「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」の完結後、次の通常連載「ファインダーの向こうに」が始まる前を予定しています。

皆様の奮ってのリクエストをお待ちしています。

【リクエスト】(最終決定)
お名前お題キャラクター指定
1.TOM-Fさん--園城真耶
2.山西左紀さんそばめし左紀さんのオリキャラ任意
3.栗栖紗那さん異世界--
4.けいさん『八少女 夕』に密着取材!複数のブログの複数のキャラ
5.ふぉるてさん時間ふぉるてさんのオリキャラ任意
6.limeさん植物limeさんちの玉城
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Posted by 八少女 夕

「 好きな麺類 」 / 食卓に関する考え方

小説、週一に戻したからそんなに連投じゃないと思うんだけれど、それでも読まされる方が疲れるほど出しすぎている、という想いを拭えない……。以前は、やむを得ず一日置きに小説なんて事もやったのになあ。というわけで、本日は、トラックバックテーマでも。お題は「好きな麺類」だそうです。

そうですね。「蕎麦かうどんか」と訊かれると、うどん派ですかね。子供の頃にたまに店屋物を取る事があって、私はいつも「卵とじうどん」を頼んでいました。東京のうどんですから、汁はかなり濃い色。それに、初めて高松に行って食べた「讃岐うどん」の衝撃的な美味しさには敵いませんでしたが、それでも、こしがあって美味しかったですね。

それから、きしめんも好きです。これももちろん名古屋で食べると絶品ですね。東京で食べても美味しいと思いますが。

パスタでもフェットチーネは好きです。平ぺったいつるつるの喉ごしが好きなのかな。フェットチーネは、サーモン生クリーム系で食べるのが一番好きです。

外で食べるときは、特に氣にしませんが、家でパスタ類を購入する時は、セモリナ粉を精製したいわゆる普通のパスタはできるだけ買わないようにしています。精製した小麦を食べる量が増えると、ちょっと膨満感がキツい感じがするのです。アレルギーというほどでもないんでしょうけれど。だから、ふだんは少し高いのですが「ディンケル小麦」のフェットチーネや全粒粉のスパゲッティを購入しています。

ディンケルというのは、小麦の原種にあたる古代穀物で、日本だと英語風にスペルト小麦というようです。グルテンアレルギーの方にはどちらにしても向きませんが、精製小麦粉で具合の悪くなる人によく奨められる穀物で、しかも、古代穀物で虫にも強いので、ほとんど無農薬でも育てられるのだそうです。いわゆる皮に当たる部分がないので、精製という事が出来ず、全粒粉状態で食べるしかない穀物のようです。そのためグレーがかった茶色いパスタしかできないのですね。

色も濃いですし、普通の小麦よりも麺そのものに味と歯ごたえがありますので、最初は「え」と思ったのですが、慣れるとその味わいと噛みごたえがないと、少し物足りなくなってきます。白米と玄米の違いのようなものでしょうか。

さて、こちらでは蕎麦やうどんは言うに及ばず、いわゆる中華生麺も手に入りません。(もちろん都会は別)

で、蕎麦やうどん、それに冷や麦などは日本の母や知り合いが送ってくれたもの以外は食べないのですが、たま〜に焼きそばなどは食べたくなる時があります。そういう時には、最近売り出されたNI●SINの焼きそば乾麺を使うこともありますが、こちらで「中華用」として普通に売られているただのイタリアパスタの細いものを使うことが多いです。こだわりの強い方には「無理」でしょうが、私としては「こういうのもあり」です。

こういうのに「まいっか」と、思える適当な神経が、海外在住でホームシックにかからない秘訣なのかなと思います。

こんにちは!FC2ブログトラックバックテーマ担当の森です本日のテーマは「好きな麺類」です好きな麺類と言えばやはりラーメンですね朝昼晩三度の食事がラーメンでも行けてしまいます旅行にもよく行くのでご当地ラーメンを食べるが至福の時ですみなさんの好きな麺類はなにですかぜひトラックバックで教えて下さいたくさんの回答お待ちしておりますトラックバックテーマで使っている絵文字はFC2アイコン ( icon.fc2...
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え〜と、食と健康についてさらに語っちゃいますが、ホメオパシーやマクロビオティックやその他の健康にいいといわれている食の話のお嫌いな方もいるので、追記につっこみます。

この記事には追記があります。下のRead moreボタンで開閉します。

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で、ここからが、追記です。さらに、ちょっと語っちゃいます。

世の中には、例えば「マクロビ女」などを毛嫌いされる方もいるんですよね。私は、いわゆる「マクロビオティック信者」ではありません。それにビーガンどころかラクト・ベジタリアンを目指した事もありません。ここに書いてある単語のわからない方は、そのまま素通りしても構いませんし、氣になって眠れない方はWEBで検索をかけてください。

私は、西洋医学の対処療法的なものよりもいわゆる東洋医学の「心も身体も全てが繋がっていて、総合的に健康になったり病んだりする」という考え方に沿って自分の健康に留意している、それだけです。例えば、私は頭が痛いから頭痛薬を飲むということはしません。風邪を引いても風邪薬を飲んで押さえつけて仕事に行くのではなく、爆睡して治します。

ショウガ紅茶、葛湯、日本酒入りのお風呂なども使います。同様に西洋にも古くから伝わるハーブティーなども飲みますよ。その上で、日本の方には「プラセボ効果だ」「インチキ科学だ」と散々ないわれようのホメオパシーも使います。私には効きます。

もちろん、それではダメな時もあります。外科手術をしなくちゃ出血多量で死んでしまうこともあれば、抗生物質を飲まないと命に関わる時もあります。だから、全ては程度の問題です。

さて、そういう健康の維持を考えていると、食にも同じ意識がいきます。で、人によっていろいろな主張があるのは知っていますが、古今東西のいろいろな事例を私なりに解釈すると、こんなふうな食生活を送る事になるのです。

  • 全粒穀物(精製していない穀物)を出来るだけ食べる。(白米より玄米、白パンより茶色いパン)
  • 旬の野菜を中心に食べる
  • ミネラルの事も考える
  • 豆や茸、海藻、ナッツなども組み合わせる
  • 動物性タンパク質は家禽の肉や白身魚を中心に少しだけ
  • 抗生物質や化学薬品が使われていないオーガニックの食品を
  • 保存料などがたくさん含まれている出来合いの食品は最低限にする
  • 食べ過ぎない
  • 砂糖の摂り過ぎに留意する、可能な限りブラウンシュガーに


これが、結局いわゆるマクロビオティックやベジタリアンの方の主張する食べ方や、ホメオパシーで推奨している食事のとり方と近くなるのです。で、実際に、体調がよくなるのですよ。肩から上に手が挙がらなくなっていた連れ合いのひどい関節炎は、一切薬を飲まずに、この食事のし方だけで治りました。だから、実際にこういう食事をした方がいいのだと思います。

私自身は、おいしいステーキも好きですし、ご存知のようにスイーツにも目がありません。だから、普段の自宅での食事は、出来る限り上記のような私の考える健康食に近いものを食べ、外食ではどんなものを食べてもいい、楽しむぞ! という事にしているわけです。
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Posted by 八少女 夕

【小説】森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架(30)失われた伯爵

さて、今回は「影の薄い主人公」マックスの再登場です。本文では全く触れられていませんが、彼が今いる部屋は、かつてルーヴランから嫁いできた伝説の王妃ブランシュルーヴが、一時期レオポルド一世に幽閉されていた場所です。この二人が現国王レオポルド二世の先祖です。そして、この部屋には、ブランシュルーヴについてグランドロンへとやってきたマックスの先祖男姫ヴィラーゴ ジュリアもしばらく通っていたのです。

微妙な長さで、二つに切るかどうか悩んだんですけれど、来週は月末で他の連載が入るので、今回は一つで行っちゃう事にしました。まだこれでは完結ではありません。念のため。


「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」を読むこのブログではじめからまとめて読む
あらすじと登場人物




森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架
(30)失われた伯爵


 今から一週間ほど前の事だった。レオポルドは逮捕されて牢で一晩を過ごしたマックスを訪ねた。

 牢の中から半ば敵意をもち、半ば絶望したように見る彼に、国王はなんと声をかけるべきか迷った。ずっと探していた従兄弟がここにいる。よく見れば叔母の面影がある。叔父フロリアンにもよく似ている。

「そなたは何者か、名乗れ」

 ようやく口を開いた国王の声が、前日のような怒りや憤りの感じられぬ戸惑ったものだったので、マックスは拍子抜けした。それから格子の方に近づくと膝まづいた。

「マックスと申します。鍛冶屋の次男でございます。陛下と同じくディミトリオス様に師事し、二年前ティオフィロスの姓を頂戴しました。それから教師として生計を立てております」

 手元に十字架がない今、自分が本当はフルーヴルーウー伯らしいと言っても通じない。自分自身でも信じられない話をどうやって自分を懲らしめようとしている国王に信じさせられるというのだろう。

「その両親は息災か」
「存じませぬ。十歳の時に、ディミトリオス様に引き取られて以来会う事を禁じられておりました。独立してから会いに参りましたが、何処ともなく立ち去ったとの事でございました」
「老師に聞いたが、そなたは黄金の十字架を持っているそうだな」

 マックスは驚いて顔を上げた。真剣な目で見下ろしている国王と目が合った。ディミトリオスが十字架を取り戻す前にその話を国王にしたとは夢にも思っていなかった。
「いいえ。十字架はラウラが持っているはずです。もし、彼女が手放していなければ」

「その十字架を、そなたはどうやって手に入れたのだ」
「ある貴婦人が……ディミトリオス様を訪ねてこられた《黄金の貴婦人》とお呼びしていた方が、私にくださいました。この十字架だけは、決して手放すなと、いつの日か心を込めて国王陛下にお仕えするようにと、おっしゃいました。私は、誰よりも大切に思っていたあの方との約束を二つとも破る事になってしまいました。それでも、どうしてもラウラを救いたかったのです」

 国王はサーベルを抜くとゆっくりとマックスの後ろにまわした。マックスは頭をもっと下げる事になり、後ろの首があらわになった。そして、王はそっと首筋にかかっている襟を更に下にずらした。そこには斜めにならんだ二つの黒子が、少し薄くなった色できちんと残っていた。子供の頃に従兄弟の首筋に見たのと全く同じだった。

 レオポルドは小さく息をつくと、後ろに控えていたヘルマン大尉に言った。
「縄を解き、牢から出して、ブランシュルーヴの間に連れて行け。客人として扱え」
「陛下! ご乱心あそばれたのですか?」
「いいか、誰にも知られてはならぬ。ここにいるのはフルーヴルーウー伯爵だ」

 ヘルマン大尉は腰を抜かすかと思った。マックスも証拠もなしに国王が自分を受け入れた事を意外に思って何かを言おうとした。レオポルドは静かに言った。
「黄金の十字架は他の者でも持てる。伯爵を殺して奪えばいいのだ。だが、叔母の腕に抱かれた赤子をこの目で見た余の目は誰にも誤摩化せぬ。そなたが本物である事は余が証し、それを覆せる者はおらぬ。だが、今は余計な事をするな。そなたが誰であるかをまだ誰にも告げてはならぬ。もし、そなたが未だにラウラの命を救いたいと思っているのならば」

「彼女は、どうなるのです。無事なのでしょうか。私はどうなってもいい。差し出せるものがあるならばどんなものでも差し出します。どうか、彼女を……」
「言ったであろう。余計な口はきくなと」

 それからの一週間、マックスは食事もろくに喉を通らなかった。

 ブランシュルーヴの間と呼ばれる客間は、青空に向かう美しい天使たちを描いた豪華な天井画と、たくさんの窓のある広い部屋だった。中央にある天上の高い白亜の居室の他に寝室の小部屋と、召使いの控える小さな空間など五つほど備えていた。しかし優雅に見えるのは内側だけであり、バルコニーに出ればそこが200フィートほどの掴まるもののない塔の上に備えられている事がわかる。飛び降りれば死ぬ他はない。

 彼に付けられた召使いは三人ほどの若い娘たちだったが、部屋の中には常に二人の屈強な男たちがいてマックスが余計な事をしないか監視をしていた。

 ラウラがどこにいるのか知りたくて、召使いの女たちのおしゃべりに必死で耳を傾けた。

 女たちはおかしな事を話していた。ルーヴランの謀が明らかになり、その日のうちに偽の王女は殺されて、血塗れた衣装と侍女が送り返されたと。

 だが、それでは話が合わない。レオポルド二世はまだ彼女が生きているような事を言っていた。そんな嘘をつく理由がどこにあるのか、それを彼に隠し通せるはずなどないのになぜそんな事を言ったのか。ましてや、この口の軽い女たちがペラペラと喋るままにさせておくとはどういうことか。

 女たちはマックスが誰か本当に知らないようだった。彼女たちは「旦那様」と言った。一般的な貴人に対する呼称だ。彼が誰であるかを隠し、彼に報せるべきでない情報は隠さない。それを考えあわせると、どうやらラウラはまだ死んでいないと考える方が自然だった。

 露見したあの場で、王は即座にラウラの処刑を申し渡さなかった。それどころか誰であるかわからぬよう、自分から誰であるかも言わないように口止めして引き離した。どういうことなのだろう。

「旦那様」
召使いの声にはっとして振り向くと、一番年長の女が戸惑ったように側で声を掛けていた。

「すまない、考え事をしていた」
彼は謝った。
「あの、これから国王陛下がお見えになるそうです。それでお召しかえを……」

 彼は、肩をすくめた。いま着ている白いシャツも、質のいい黒いズボンも、自分の給料で買った、王侯貴族の前に出るための一張羅よりもずっと質のいいものだった。だが、どうやらこれは普段着らしい。彼は頭を振った。
「わかった、着替えよう」

 小部屋に用意された服は、上質の絹で肌触りは最高だった。セルリアンブルーのしっかりとした緞子の上着は少し重かったが、どうやってこれほどぴったりくるものを誂えたのだろうと驚くほど彼の体に馴染んだ。

 上着の袖から出たレースの白い袖を見て、彼はやれやれと思った。未だに自分がフルーヴルーウー伯爵であることがよく把握できていない。当分慣れないだろう。一介の教師の方が肌に合っているのに。

 がちゃがちゃと、護衛の一団が階段を上がってくる音が響き、マックスは本当に国王がここにやってくるのだと思った。

 開かれた扉の向こうにレオポルド二世その人とヘルマン大尉、それにその部下たちが続いているのが見えて、彼は頭を下げた。

「久しぶりであったな、伯爵。ごきげんいかがかな」
国王にそういわれて、彼は頭を下げたまま、なんなんだとひとり言を飲み込んだ。

「お氣づかい、おそれいります。国王陛下に於かれましては、ご健勝の事とお慶び申し上げます」
教師時代の王侯貴族に対するセリフはスラスラと出てくる。これからどうなるのかと考えつつも。
「余は元氣だ。そなたに用意した伯爵夫人も息災だ」

 それを聞いて、彼は反射的に顔を上げた。再び反感の混じった目つきを見てレオポルドは嬉しそうに笑った。
「そなたの母が死の床で余に頼んだのだ。そなたを助け、支えてほしいとな。余が伯爵家にふさわしい貴婦人を妻として贈るのも、そのひとつだ」

「恐れながら、陛下。私には将来を誓った……」
彼がいい募ろうとするのをレオポルドは止めた。
「まあ、そういうな。先に娘を見てから言うがいい」
そう言って、扉の所で控えているヘルマン大尉に目配せをすると、大尉はドアを開けて、そとから水色のドレスを着た女を中にいれた。

 マックスは自分の目が信じられなかった。
「ラウラ……」
「マクシミリアン様……」
ラウラは目に涙を溜めて、そこに立ち尽くしていた。彼が手を差し伸べると、レオポルドは彼女の背中を押した。彼女はそのまま夢にまで見た男の腕の中に飛び込んだ。

「そう。これで、真のフルーヴルーウー伯爵と、その証の黄金の十字架、そして伯爵夫人が揃ったというわけだ」
国王の言葉に、召使いの女たちが思わず驚きの声を漏らした。その三人を見て、国王は厳しい顔をして言った。

「まだ伯爵夫妻がここにいる事を場外にもらしてはならぬ。そなたたちは、しばらくこの塔から外に出る事を禁じる。余がいいと言うまでな」

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Posted by 八少女 夕

【キャラクター紹介】Infante 322

単なる思いつきですけれど、発表済みの作品や、まだ発表していない作品のキャラクターをちょこちょこっと紹介して、これから発表する作品に親しみを持ってもらおうかな、という姑息な新企画。第一回目は、いま書いている「Filigrana 金細工の心」の主人公である22について(開示しても構わない事や既出の事のみ)書いてみようと思います。

【基本情報】
 作品群:「黄金の枷」シリーズ
 名前:Infante 322 (略称は、22またはドイス)
 居住地: Pの街(モデルはポルトガルのポルト)
ボアヴィスタ通りのドラガォン所有の館
 年齢:「Filigrana 金細工の心」(未発表)では50歳
「Usurpador 簒奪者」(未発表)では20歳
「格子の向こうの響き」では34歳
 職業:バルセロスの雄鶏(Galo de Barcelos)絵付け職人



既に発表した作品の中では、「格子の向こうの響き」と「午餐の後で」に登場しています。そして本編には関係のない短い描写として「Infante 323 黄金の枷」の中で名前だけサラッと語られています。

現在連載中の「Infante 323 黄金の枷」の主人公であるInfante 323(23、またはトレース)の叔父で、外伝「格子の向こうの響き」では、えらく感じの悪い態度で登場しています。「Filigrana 金細工の心」では、歳をとって、かなり丸くなっていますが、基本は感じの悪いヤツです。主人公なのに。「午餐の後で」では、ベートーヴェンの「スプリング・ソナタ」をしつこく練習している謎の人物としてだけ登場しました。

名称が示すように、この人はインファンテ(「黄金の枷」シリーズの独自設定です)で腕輪についた青い星の数は四つ、《星のある子供たち》の一人です。父親は「Infante 323 黄金の枷」の現当主ドン・アルフォンソの二代前の当主ドン・ペドロです。22は、頭がよく、要領もよく、さらに健康と容姿にも恵まれながら、インファンテという存在故にそのどの利点をも活用する事ができなかった残念な人生を送っている人です。

「星?」、「その変な名前はなんだ」、または「ドラガォンって何?」という詳細がわからなくて氣になる方は、申しわけありませんが「Infante 323 黄金の枷」を読むか、下のリンクのアイコンをクリックして出てくる「あらすじと登場人物」コーナーをお読みください。用語集などもあります。このシリーズの設定はあまりにも特殊で複雑なので、ここでは全ては語れません。すみません。

インファンテは、簡単にいうと全人生「飼い殺し」の特殊な存在なのですが、あまりにも暇なので伝統的に「世間の人間が、誰が作ったんだろうかと疑問を持たないような何かを製造する」という仕事を持っています。この人の場合はポルトガルの伝統的なお土産「ポルトガロ」正しくは「バルセロスの雄鶏」という木製の土産物に彩色するという仕事をしています。

バルセロスの雄鶏

安価な土産物なのでそこまで完璧に彩色する必要もないのですが、この人はある種の完璧主義。家事などをする必要はないし、時間はたっぷりあるので、妙に熟練しています。

その他に、ピアノとヴァイオリンはプロ並に上手いということになっています。実は、その他にヴィオラとチェロ、コントラバスまではそこそこ弾けます。なぜそんなにいろいろと弾きたがったかというと、一人では演奏できる曲が限られるので、室内楽のパートをそれぞれ弾けるようになり、それを録音して一つの作品を演奏しようと思ったからなのですが、なかなか上手くいかなくて挫折しました。

その試みの途中に、ドンナ・アントニアという上記でリンクした作品すべてに出てくる女性が、ピアノを習って一緒に共演するようになったので、現在は一緒に住んでいるドンナ・アントニアとヴァイオリン・ソナタなどを演奏する事が多いです。


Rondo a Capriccio In G Major, Op. 129 "Die Wut über den verlorenen Groschen"

この曲はベートーヴェンのピアノ曲「ロンド・ア・カプリッチョ ト長調 作品129」通称「失われた小銭への怒り」です。「なぜこんな通称がつくんだ」という曲ですが、「Filigrana 金細工の心」の中では「なぜこの場面でそれを弾く」という変なシチュエーションで22が演奏します。そう、私の中では、彼はかなり皮肉っぽい男性です。それから、音楽の修得にはとても大切な事ですが、執拗なほどに一つの事に集中するタイプ。しつこいというか、執念深いというか……。

外見ですが、子供の頃は見事な金髪でしたが、成人するまでには明るい茶色の髪に変わり、50歳の時点ではかなり銀髪がまじっています。短めの髪をきちんとオールバックに撫で付けています。瞳は青く、端正な顔立ち。美青年で洒落者という設定の24ことInfante 324とよく似ているというとある人物のセリフが「格子の向こうの響き」に出て来ることから、美形です。50歳の時点では、それなりに歳は取っていますが、体型もスリムなままで、ロマンスグレーの麗しいおじ様、とイメージしています。

という設定の人物を中心に、「Filigrana 金細工の心」を執筆中です。この作品は、「Infante 323 黄金の枷の完結後に、たぶん別館に隔離して公表する事になると思います。今後ともこのシリーズに興味を持っていただけたら、こんなに嬉しい事はありません。

【参考】
「Infante 323 黄金の枷」Infante 323 黄金の枷
黄金の枷・外伝集
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Posted by 八少女 夕

捨てられないノートの話

「どこが断捨離だ」と言われそうですけれど。捨てられないものもあるんですよ。

そのうちの一カテゴリーが、カセットテープの一山。カセットプレーヤーがないんだから捨てればいいんだけれど、まだためらっています。中学生の頃、買い食いのおやつも含めて月1000円だったお小遣いを貯めて貯めて買ったポール・モーリアのベストアルバムなんてのもあるんですよ。ま、最近、CDやデジタルで集められるものは集めましたんで、これは単なるノスタルジーだな。

そして、もう一つが「黒歴史」でもある、子供の頃から大学生の頃まで(社会人になってからはデジタル化しました)の各種の作品集です。マンガとも恥ずかしくて言えないようなお絵描きと、それから小説の類い。いま残っているのは、中くらいの段ボール一箱分くらいでしょうか。大海彩洋さんとコメント欄でお話ししてましたが、当時はデジタル化なんて一般人がするものじゃなかったので、全部手書きですよ。

私の最初のデジタル化はワープロでした。もちろんワープロという機械はもっと早く売り出されていましたが、個人、しかも食いぶちも稼げない学生に買い与える親はかなり稀だったと思います。私は、大学の卒業論文を書くのに必要になったので、バイト代を貯めて買いました。それが自分の小説が活字で打たれているのを見た最初。感動でした。活字になると五割り増しはいい文章のように思えたものです。ま、今の若い子は、小学校に上がる前からキーボード叩いているんだろうな。いや、書けないか。でも、クリックなどはできるんですよね、きっと。

私の話に戻しますが、そんな時代だったので、コクヨのA5サイズの厚めのノートに書いていた時期がありました。今の作品で言うと「十二ヶ月の○○」シリーズみたいな、読み切り連作を構想して書いていたのですね。デジタルじゃないんで、後ろにずらしたりなんてできませんから、一つはこのくらいの分量と枚数で決めて、書きたい所から書いていくスタイルでした。今とほとんど同じだな、最初から順番に書いたりしないんですよね。

それから、原稿用紙を買ってきて、それを書く前に分厚く製本して書いたこともありました。結局、原稿用紙は紙の分量が増えるし、縦書きが書きにくかったのですぐにやめました。自分一人の趣味だったので、原稿用紙でなくてはならない理由は皆無だったのです。

入試の準備期間は、小説や絵で遊んでばかりいて、全然勉強しないことに我ながらまずいと思って、「全部一緒くたノート」を作った事もありました。浮かんでくる作品の構想が消えないうちに書き留めたり、これこそ今は読み直したくもない「詩」なんかも書き綴ったりしていますが、いちおう大半は歴史のお勉強や英語の書き取りなどがびっしりでした。最終的に七、八冊は分厚いノートがありました。これを捨てるにあたって、主に一年間の構想や詩などを別に書き写した総集編なんかも作りました。(そんなことやっているから浪人したんだな)

そんなこんなで、誰にも言わずにため込んだ秘かな趣味の紙媒体は、一度は大きな収納ボックス一つ分くらいにはなっていたでしょうか。自由帳、それから「葉○明の白い本」系のノート。こういう事を子供の頃からず〜っとやっていたので、他に自由時間などはなく、乙女っぽく書いた日記帳のようなものは皆無です。

で、スイスに引越すにあたって、船便とはいえかなりコストがかさむので、普通の引越ではありえないほど厳選した荷物を送ったのです。最初の数年は、これらの「八少女 夕作品集」は実家の私のもといた部屋に放置していましたが、さすがにいつまでも置いておくのはまずいかなと思って、数年後の帰国時に怖々例のボックス収納を開けてみました。

実家もいつまであるかわかりません。親が引越すかもしれないし、その時に開けられて人目にさらされるのは死んでも嫌です。でも、こんなに送ったらいくらになる事か。それで、心を鬼にして三分の二くらい捨てました。その時、捨てられなかったものだけスイスに送り、現在物置に置いてあります。(連れ合いに見つけられたってへっちゃら。読めませんからね。私の作品だって事すらわからないでしょう、きっと)

厳選した分ですら、先日「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」の当時の設定の確認のために開けたら、恥ずかしくてのたうち回りました。つまり、捨てちゃった分は、相当ひどかったに違いありません。でも、「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」の基本ストーリーは今でも同じなのですよ。でも、自分で読み直してものたうち回らないのは、なんでだろう。表現の違いなのか、中世の事をきちんといれたからなのか、それとも面の皮が分厚くなっただけなのか、なんだかよくわかりません。

この「パンドラの箱」の中にある作品で、いずれはリライトしてもいいかなと思っているのは、「バイフリート・シリーズ」(ヘルムート・バイフリート・アリトンという青年が主人公なので)と勝手に呼んでいるイギリスの田舎の村のお話。それに「ジグゾーパズル・ロマンス」という情けない題名のついているこれもイギリスのお話。それから「森の詩 Cantum Silvae」のジュリアと馬丁ハンス=レギナルド(マックスのご先祖様ですな)の話は短編かなんかに改編してもいいかなと思っていたり。それから、短編集は、よほど行き詰まったらアイデア探しに使おうかなと。

というわけで、ここはまだ捨てずに閉じておこうと思っています。
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Posted by 八少女 夕

【小説】森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架(29)国王と貴婦人 -2-

二回にわけた「国王と貴婦人」の後編です。前回、ラウラは国王に命を助けられたことと、ルーヴランならびにセンヴリとの戦争が回避されたことを知りました。そして、自分を助けたいと願った人間のひとりが「フルーヴルーウー伯爵」だと国王に告げられ戸惑います。

また、今回は「マックスはやめて国王にしちゃいなよ、ラウラ」同盟(そんな同盟あるんか)の読者の皆様には、要のエピソードかと思います。ちなみに、私なら、どっちにするかですって? あ、どなたも訊いていらっしゃいませんね。


「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」を読むこのブログではじめからまとめて読む
あらすじと登場人物




森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架
(29)国王と貴婦人 -2-


 ラウラは首を傾げた。
「それは、行方不明になられている方ではありませんか?」
「そうだ。見つかったのだ。ただ、本物の証だけが欠けている。別の人物の手に渡っているのだ」
「……誰の?」

 王はラウラの襟元に光る黄金の十字架に手を伸ばした。
「そなたの首にかかっている、これだ」

 彼女は、黙って考えた。それから、ゆっくりと息をつくと十字架を外し、王の手に載せた。王はその十字架を裏返し、双頭の馬の文様とその間に収められたルビーを確認した。間違いなく、かつて叔母が触らせてくれたフルーヴルーウーの家宝だった。彼女はそのレオポルドの手の中にある十字架を見つめていたが、やがて黙って下を向いた。

「どうした。誰の事を言っているのかわかっているのだろう?」
「つまり、ティオフィロス先生がお話しになっていた《黄金の貴婦人》とは、王妹マリー=ルイーゼ殿下だったのですね」

「そうだ。余の大切な叔母、前フルーヴルーウー伯爵夫人だったマリー=ルイーゼだ。命を付けねらう狡猾なジロラモ・ゴーシュから守るために、伯爵マクシミリアン・フォン・フルーヴルーウーは密かに賢者のもとでマックス・ティオフィロスとして育てられたのだ。そなた、嬉しくないのか?」

 一度氣のない様子で首を縦に振ったラウラは、やがて横に振りなおした。
「なぜ?」
「あの方のために、お喜びしとうございます。でも……。陛下はお笑いになるでしょうね。これでも私にも夢があったのです」

 王は黙って先を促した。彼女は窓の側に寄り、深い《シルヴァ》の森を眺めた。
「かつて、《学友》を勤め上げて自由になったら、自分の足でこの森を歩いていきたいと、そう夢みて生きてきました。姫が二十歳になれば、わたしは自由になれるはずでした……」

「自由になったなら?」
「街から街へ、国から国へ、ティオフィロス先生の向かう街で一番美味しい食事処の女給となって、働いて暮らそうと」

「待て。それがそなたの夢なのか? なぜ、女給なのだ」
「あの方が足を向け食事にいらっしゃり、その日のことを話してくださるのを待つことができますから」

 国王は大きなため息をついた。
「随分ささやかな夢だな」

「振り向いてくださらなくてもいい。ただお目にかかってお話が出来ればいい。生まれた身分が違うから、それ以上の期待はしていませんでした。でも……」
ラウラは一筋の涙をこぼした。
「身分の違いなどない、鍛冶屋の次男だとおっしゃってくださった。どこか遠くで一緒になろうと。それが叶わぬのならば、せめてこの身の終わる時まで側にいてくださると。それがとても嬉しかったのです」

 けれど、彼はマクシミリアンだった。フルーヴルーウーの伯爵、しかも王妹の血を引く、王位継承権一位の貴人だった。ルーヴランの孤児との結婚はおろか、もう二度と氣ままな旅などはしないだろう。街の食事処や居酒屋などにも顔は出すこともなければ、囚人を訪れることもないだろう。
「終生罪を償わねばならぬ身で、何を馬鹿な話とお笑いくださいませ」

「言ったであろう。ルーヴランの送ってきた偽物の姫は、既に処刑された。この世には、その罪を問われる者はもうどこにもいない。かといって、そなたが女給になるという案には賛成しかねるが」
「陛下?」

 レオポルドは、しばらく黙ってラウラの顔を見ていた。それから視線を逸らすと《シルヴァ》の奥で羽ばたく鳥を目で追いながら言った。
「何度も考えた。他に道はないのかと。どこか辺境の貴族の娘ということには出来ぬか、バギュ・グリ侯爵に正式に申し込むのはどうか、ただ、このまま森の中に生涯隠し通すことは出来ぬか」
「おっしゃる意味が……」

 ラウラの唇に人差し指をあてて、王はそれを制した。
「余は、そなたと結婚して共にこの国を治めていきたいと真剣に願ったのだ。だが、国王にもどうすることも出来ないことがある」
「陛下」

「余が権力でもってそなたを我がものにすれば、マクシミリアンは余を憎むようになる。危険な存在になり、取り除かねばならなくなる。だが、死の床で息子のことを頼むと懇願した叔母との約束は違えられない。女のために臣下を殺した暗君とみなされれば、国を治めるのも楽ではなくなる。味方にすれば博学で信頼に足る従兄弟を失うのも馬鹿げている。それに、そうまでして奪ったとしても、そなたの愛は得られない、そうだろう?」

「陛下。私は、陛下のような主君を戴く国に生まれとうございました。心から尊敬申し上げております」
ラウラは真剣に言った。

 王は目を閉じると、しばらく黙っていたが、やがてしっかりと頭を持ち上げて、ドアの方へと向かい扉を開けて控えの間にいる女たちを呼んだ。

「お呼びでございますか、陛下」
女たちは小走りに部屋に入ってきた。

「奥方様の外出の用意をするように。半刻後に、外の馬車に乗せるのだ」
ラウラは驚いて、レオポルドの方を見たが、王は振り返らずに部屋から出て行った。

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Posted by 八少女 夕

あれこれ断捨離

別に足の踏み場もない部屋に住んでいるわけではないのですが、やはり十年以上も住んでいるといろいろとため込んでしまって、少し整理がしたいなと思っているのです。

で、最近見つけて、こまめに見るようにしているのが「一緒にお片づけcataso」というサイト。要するに片付けのアイデアがいろいろとのっているわけです。もちろん全部を実行するのではなくてちらりと眺めて意識を新たにするくらいなのですけれど。

それで、最近トライしようとしているのが「一日10個の不要品を捨てる」という項目。これね。難しいんですが、やると利点がいろいろあるんです。

一週間もやってみると、簡単に捨てられるものってなくなってくるんですけれど、でも、それを探してあちこち開けるんですよ。すると「いつかは使える」と取っておいたもので忘れていたものがいっぱいでてくるんです。「え。こんなの持っていたんだ」って感じで、それを使おうとするんです。例えば新品のTシャツは捨てられません。でも、おろして使えば、いつかは雑巾代わりになってなくなるんです。それをしないと、新しいTシャツを買っちゃったと思うんですよね。

* * *


似たようなことなのですが、時々「ひとことコーナー」で書いていますが、デトックスを兼ねたダイエットを敢行中です。●△年前と較べると体重が8キロも増えていたのです。いちおう標準体重にはおさまっていますが、せめて5キロ減らそうかなと思い立ち、10日経った時点で目標の半分くらいです。

で、いろいろな方が「食べたいでしょう」とくださったけれど、全く使うことのなかったジャパニーズな食材をガンガン消費しております。すき昆布とか、切り干し大根とか、海苔のお買い得パックとか、そういった類いですね。捨てるのは忍びないけれど、乾物だっていつかは賞味期限が来ます。大抵は無視ですが、それでもさらに数年過ぎたら美味しくなくなります。だから美味しいうちに食べられればベストですよね。で、スイスに来てからなかったほどに和食を作っています。

ただし、白米抜きで。食べているのは玄米。それも粉にして玄米クリームにしています。単に、長時間水につけて用意して炊くというよりも続けやすいので。で、朝ご飯を抜いて水をいっぱい飲み、お昼に玄米クリームと和食のおかずを少し食べているのです。量にして全部で200ccくらい? 何故かお腹いっぱいになります、それっぽっちで。夜は普通に軽く夕食。パンとか、サラダとか。そんな食事、お腹空くに決まっているじゃないと思っていましたが、全然問題ありません。どれだけ備蓄があるんだか! で、挫折しないように、時々幸せのための美味しいもの(甘かったり、こってりしていたりするダイエットの敵)も食べています。あ、和食もおいしいですよ。やはり日本人だから。

で、なんだかわかりませが、元氣だし、ダイエットも成功しているのでもう少しこの状態を続けてみようと思います。
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Posted by 八少女 夕

大好きな季節

寒さがぶり返して「明日は雪」予報が何度か繰り返され(結局里には降りませんでしたが)、ようやく春らしい光景が見られるようになりました、と書こうと思ったら、もう初夏みたいになってきました。

林檎とタンポポのある光景

なんどかこのブログでは書いていますが、スイスの春というのは感覚的にとても短いのです。日本のように少しずつ少しずつやって来て数ヶ月のあいだ「早春、春、晩春」と春を楽しむというよりは「まだ冬、かなりゆるめの冬」の後に、突然やってきて即座に終わる感じです。冬が七ヶ月、春は一ヶ月、夏が二ヶ月、秋が二ヶ月、そんな感じです。

もっとも、ここ数年に限って言えば、夏が夏らしくなくて、冬も冬らしくない感じなので、冬が七ヶ月という感じではなかったのですが。

それはそうと、本格的に春がやってくると、世界はほぼ一週間でがらりと変わります。我が家のダイニングの窓から眺めると、冬の間には敷地の向こうを歩く人がよく見える(つまり向こうからもこちらは丸見えな)のですが、この「春が来た」一週間の後には新緑で壁ができます。その緑の鮮やかなこと、本当に自然とは力強くて美しいものだと、毎年同じように感動しています。

通勤路の半分以上が牧草地です。こちらも新緑とタンポポで満ちます。桜、リラ、林檎、その他の数々の美しい花が咲き乱れています。「生きていてよかった」なんて感想を書くと「大袈裟な」と思うかもしれません。でも、実際にそのくらい心が昂揚します。

自然界には特別なエネルギーが満ちわたっているようです。それが、その間を通って行く私に影響しているといったら伝わるでしょうか。都会にも自然はありますが、この圧倒的な自然の驚異、西洋美術でよく見る春の女神の息吹が一瞬で世界に春をもたらすイメージは、やはり田舎ならではだと思います。

二頭の仔牛

で、草原には家畜たちが放牧されるようになりました。牛、山羊、羊、馬。新鮮な草とぽかぽかの日だまりの中、のんびりと草を食べてから寛いでいる姿を見かけます。

私は、つい声を掛けながら通ってしまうのです。たぶん傍目から見たら、ちょっと怪しい人でしょうね。
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Posted by 八少女 夕

【小説】森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架(29)国王と貴婦人 -1-

さて、前回更新分から、小説内での時間も一週間経っています。その間にグランドロンで何が起こり、そしてルーヴランの奸計や戦争はどうなったのか。たぶん、「えっ」というような肩すかしかと思いますが、こうなりました。

完結も近いのですが、急いでもしかたないので2000字程度で二つに分けました。一度は、五月中に頑張って完結させて、こっちをアルファポリスの「歴史・時代小説大賞」に出そうかとも思ったんですが、「歴史・時代」というには、架空の国設定ですからねぇ。というわけで、こちらは通常運転のままで行きます。


「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」を読むこのブログではじめからまとめて読む
あらすじと登場人物




森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架
(29)国王と貴婦人 -1-


 昼の時間を十分ほど過ぎてから、ハイデルベル夫人は暇を告げて御者が扉を開けて待つ華奢な馬車の中へと消えて行った。最後まで昼食を出すべきか迷っていた使用人たちはほうっと息をついた。
「ここのところ、毎日ですものねぇ」
「宮廷奥総取締の女官長が仕事もそこそこに何を話されているのかしら」

 ハイデルベル夫人は宮廷奥総取締を二十年近く勤めていた。王太后や、十年前に薨去したマリー=ルイーゼ前王妹殿下の信頼も厚く、彼女に会いたい人間は自分から王宮に行くのが筋だった。けれど、この森にわざわざ通い詰めている。使用人たちが首を傾げるのも不思議はなかった。

「どうしてもわからない。奥方様はいったいどこの誰なのかしら?」
野菜の皮を剥きながら下働きの娘がつぶやけば、床を掃除していた下男はニヤニヤとして言った。
「そりゃ、国王陛下の大事なお方でしょう。ここは陛下の持ち物なんだから、他にはあり得ないよ」
「でも、それにしては陛下は一度もお見えになっていないじゃない」

 奥方様と呼ばれている女は、一週間ほど前にヘルマン大尉が馬車で連れてきたのだ。朽ち葉色をした艶のある髪を、後ろできっちりと結わえ、飾りの少ないが質のいい灰色のドレスを着ていた。へルマン大尉はこの女を貴婦人として扱い、丁寧に世話をするように申し付けたが、こうも付け加えた。
「奥方様が外出したいと申し出られたら丁重にお断りするように」

 つまり、この女はこの《シルヴァ》にある国王の狩猟用別荘に軟禁されているのだった。

「するってえと、あれかな。ヘルマン大尉の愛人かな?」
下男の想像はますますおかしな方向に向かっていた。

 午後になると、再び馬車が向かってくるのがわかった。
「なんと、今度は王家の馬車だな。王太后様か?」
使用人たちは緊張して入り口に並んだ。中から飛び降りるようにして出てきたのは、国王その人だった。足取り軽く、貴婦人のいる居間に入ると、使用人たちを人払いした。女中たちは、やはりというように目を合わせると控えの部屋へと出て行った。

「しばらくであった。ラウラ。足りていぬものはないか」
「おっしゃる意味が分かりません。私はなぜこのようにもてなされているのでしょうか」
「なんだ、知らぬのか。ハイデルベル夫人に訊かなかったのか」
「ヘルマン大尉がここへ私をお連れになった時に、陛下以外にこの待遇の意味を質問してはならぬとおっしゃいましたので」
「ああ、そうか」

「私は、いつ処刑されるのでしょうか。結婚式の予定だった昨日だと思っていましたが、何も起こりませんでしたので、ぜひお伺いしたいと思っておりました」
「ああ、それも知らぬのか。ルーヴランが送り込んだ偽物の姫なら、あの翌日に処刑した。血塗れた婚礼衣装と縛り付けた侍女を送り返したら、翌日にはセンヴリの奴らが寝がえって贈り物をしてきた。ルーヴランはこちらが宣戦布告をする前に、勝手に直轄領の一部と《シルヴァ》の四分の一を差し出してきた」

 ラウラは眉をひそめて訊き返した。
「どなたを処刑なさったのですか」
「豚だよ」
「まあ」
彼女は大きく目を見開いた。それから視線を落とし、しばらく迷っていたが、やがて思い詰めた様子で国王を見た。

「ティオフィロス先生は……」
レオポルドは、きたかという表情をした。
「氣になるか?」
「もちろんでございます。罪のないあの方を巻き込んでしまったのは全て私の咎でございます。あの方には、お国に対しての叛心はまったくございません。どうか……」

 国王は、言い募るラウラを制した。
「心配はいらぬ。そなただけを助けたのではない。そもそも彼が情報をもたらしてくれたので、我らは速やかにルーヴランの奸計に対処することができた。動機はどうあれ、彼のその行動が国を救ったことは事実だからな。それに、老師の助命嘆願を無碍にして、そなたの命だけを救うのは公平ではないだろう」

 彼女はほうっと息を一つついた。
「なぜ、私をお救いくださったのですか?」
「そなたを死なせたくない人間が三人いたからだ」
「三人?」
「一人はハイデルベル夫人だ。つい先日までは、何を隠しているのかわからず怪しいと言っていたくせに、そなたの境遇を聴いて以来、同情でいても立ってもいられないと」

 彼女は困ったように笑った。
「先程もご親切にもお見えになりましたわ。お忙しいでしょうと申し上げたのですが……」

「あれは極端な女でな。毎日戻ってきては、どれほどそなたの知識が豊富で宮廷の奥のことに精通しているか、延々ときかされているのだ。数年後に宮廷奥総取締職を辞す時に代わりを託せるのはそなたしか考えられぬと言い出している」
「ルーヴランの、肉屋の孤児に、ですか?」
「まあ、身分はなんとかせねばならんだろうな。いずれにしても現在そなたには名がない」

「……私を死なせたくないとおっしゃっている後の二人は?」
「余と、それから余の従兄弟のフルーヴルーウー伯爵だ」

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Category : 小説・貴婦人の十字架
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Posted by 八少女 夕

「創作系バトン」いただきました

トップのお知らせにも書きましたが、これまで投票専用アカウントだったアルファポリスではじめて大賞ものにエントリーしました。「第一回 歴史・時代小説大賞」が6月から開催されるので、短編「明日の故郷」で参加してみることにしたのです。少しでも多くの方にこの小説と、それからこのブログに足を運んでいただけることを願って。投票期間になりましたらまたお願いするかと思いますが、みなさまに応援していただけると嬉しいなと思っています。
「明日の故郷」を読む
「明日の故郷」へはこちらから

さて、本日はバトン大臣のTOM-Fさんからいただいたバトンです。


「創作系バトン」

1 あなたのユーザー名とその由来を教えてください。

八少女 夕(やおとめ・ゆう)です。小学生の時に使っていたペンネームです。使える漢字が限られていたのがよくわかりますね。実は、当時、天平時代が好きでして「天つ風 雲のかよひ路 吹きとじよ をとめの姿 しばしとどめむ」を意識してつけていたりします。「夕」の方は、本名のファーストネームが「源氏物語」の登場人物由来なので、その息子の名前からとりました。

2 小説を書くにあたって一番得意なジャンルは?

え。不得意なジャンルならはっきり言えるんだけれどな。得意? なんだろう。あ〜、オチも救いもない日常もの? それ、得意って言わないか。

長編を書く時には、恋愛は絡みますね。「恋愛小説」が得意かと言われると「う〜ん」だけれど。個人的な執筆テーマ(読み方を限定したくないので公言していません)がはっきりとあって、それは「恋愛」ではないのです。でも、そのテーマを具体的に描き出す時に、わかりやすい題材として「恋愛」があるんですよね。基本的には、人間とその心の動きがメインとなる小説を題材を取っ替え引っ替えして書いています。でも、いくら書いても「得意」にはならないんですよね……。

3 主人公の性別はどちらが得意?

女。男性は、よくわかりません。でも、ウケるのは男性キャラの方が圧倒的に多いような。じゃ、女は得意じゃないのかしら?

4 執筆した中で一番思い入れのある作品は?

う〜ん。TOM-Fさんと同じで、今書いているのが一番かも。ということは、題名を書いても読んだことのある人は私しかいないんだよな〜。でも書いちゃお。「ファインダーの向こうに」と「Filigrana 金細工の心」。あ、リンクを探しても無駄ですよ。まだ公開していませんから。(2015年5月現在)

猛プッシュしている割に知名度も読者数もいっこうに上がらない作品ということでは「樋水龍神縁起」です。別館からどうぞ。

5 自作キャラで一番好きな子は?

これもけっこうよく変わる。寵愛は長く続かないかも。今は23かな。比較的新しいキャラだからだけれど。基本的に物量を書けば書くほど、特定キャラへの思い入れは減りますよね。そもそも私、キャラのための長編小説は書かないんで。

「好き」ということではないのですが、若い子よりも歳いったキャラのほうに氣合が入る傾向はあります。比較的若くても苦労していたり屈折していると同じ扱いになりますけれど。なんていうのかなあ。人生の酸いも甘いも経験して、その人生哲学がにじみ出るような人物は書き甲斐があります。「大道芸人たち Artistas callejeros」のカルロスや、「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」のザッカ、それに「樋水龍神縁起」の朗、「夢から醒めるための子守唄」のホルヘなんかは、書き甲斐がありました。あれ? 男ばっかりじゃん。

6 小説を書くときに特に意識することは?

実は、何も考えていません。浮かんできたストーリーを形にしているだけだから。あ、起承転結は疎かにすることかはあるけれど、テーマ(いいたいこと)は、意識しながら書くかな。でも、テーマが後付けで、むりやりってこともあります。

7 執筆に行き詰まった場合の対処法は?

別のものを書く。もしくは推敲校正をして、足りないものを検討する。でも、基本的に流れが決まった状態から書き出しているので、続きが湧いてこないということはない。単純に面倒くさくなったとか、飽きたとかで投げ出したくなるか、それ以前に「駄作」スタンプを押されて忘却の彼方に押しやっているだけだから。

8 いつか書いてみたいストーリーは?

あ〜「書く書く詐欺」のリストのことでしょうか。追い打ちはかけないでください(しくしく)

9 小説の構想で何か参考にするものはありますか?

構想ではないですね。自然と浮かんできたものが構想になるので。

参考にしているわけではないですが、たまたまラジオで流れてきて、好きになってしまった音楽がイメージの源流になってある章や、短編が丸々生まれてくることはあります。クラッシック音楽などだと作品中で「この曲」と書くこともありますが、映画音楽などだと「え。その曲でなぜこの話が?」という意外な作品だったりもします。

10 どんな場面を書いている時が一番楽しいですか?

最終回や、人間関係の緊張が高まって盛り上がるシーン。でも、基本的にかなりはじめの頃に最終回や書いていて楽しいシーンから書いてしまうので、最後の方は「ち。この場面、必要なんだけれど面白くないんだよな」と思いつつイヤイヤ書いていることが多い。

11 書いてみたい一場面を教えてください。

「終焉の予感」で、本当に世界が終わりそうになる終末っぽい描写。無理そうだな。

それに、「ヴァルキュリアの恋人たち」という長編のオープニングっぽいのに実は何の設定もないハードボイルド風短編がありまして。もし、その続きがちゃんと書けるのならば、主要登場人物五人のうち、冗談作品によく出てくるマイケル・ハーストという筋肉塊のアメリカ人と高飛車ハンガリー美人アレクサンドラが、恋のライバルのはずなのに何故かデキてしまう、というシーンは何となく書いてみたい。でも、この作品はどうやっても私の手には負えそうもないので、書くことはないだろうな。

12 お疲れさまでした。指名、フリー、地雷、お好きなコースを選んでください。

「地雷」ってなんですか? よくわかりませんが、まだやっていらっしゃらない方はよかったら拾ってくださいませ。

この記事には追記があります。下のRead moreボタンで開閉します。

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と、これだけで終わりにしてもよかったんですが、せっかく創作について答えたので、関連してここ数日思ったことを。

創作って、誰でも始められるし、お金もかからないし、こうやってブログで公開すれば読んでくださる奇特な方や、またいい刺激をくださる素敵な仲間に出会える素晴らしい時代になったなと思うんです。

その一方で、一年、二年、三年とある年数を続けて、そのお付き合いを続けて行くのには、二つのファクターが必須だなと思うようになったのです。それは「時間」と「熱意」。どちらが欠けても創作とその交流は続けられないんだなと思います。

私にとっては、自分の創り出した物語を完結させることは、たぶん仕事や家庭と同じか、それよりもほんのちょっとだけ大切なことです。だから「時間」は創り出します。それに、たぶん私は何万人もいるだろうアマチュア小説書きブロガーの中でも、かなりヒマな方です。

でも、多くの方にとっては、仕事や学業や、恋愛や友情や、社会関係の中での様々なシチュエーション、他の趣味、健康問題など、「創作よりずっと大切なこと」に意識が向いたり、向かざるを得なくなった時点で、あっさり中断もしくは終わってしまう一趣味なんだなあと思います。

自分がブログを始めるまで、こんなにたくさんの方が小説を書く趣味を持っているということを知らなかったのですが、もっと驚いたのは、ものすごい量の小説、それも複数の読者が続きを待っているとコメントをくれている作品が、キリもへったくれもない所で中断したまま二度と発表されなくなるということでした。

誰にだって事情がありますから、どうしてそうなるかなんて論じてもしかたのないことですし、一年や二年も間の開いてしまった話の続きが読めるとはほとんど期待していませんが、残念なことは間違いありません。

だからこそ、長くつき合ってくださっているブログのお友だちのありがたさを思うのですよ。その方達だって、死ぬほど忙しいことだってありますし、創作はともかく「ブログめぐりなんてやっていられない」と思われることだってあると思うのです。でも、コンスタントに書いて読者としての私を喜ばせてくださり、私が書いて発表すれば、時間を取って読んでくださるし、「かまってちゃん」のオーラを醸し出せば「はいはい」とつき合ってくださる。

私のリアルの友達で、この趣味を知っているのは数人です。その人たちはこのブログのURLも知っています。が、たぶんブログのお友だちの1/50も作品を読んでくださっていないでしょう。個人的に知っている人であっても、それが普通なのです。そういう意味では、ブログのお友だちが、ご自身の作品やブログ運営に加えて、私の作品と私との交流にかけてくださっている「時間」と「熱意」は大変なもので、そのことには感謝してもしきれません。この交流こそが、私がブログで小説を発表し続ける原動力です。かけていただいた「時間」と「熱意」が、私自身の「熱意」に変換されるのです。

つまり、私の創作とブログにかけられるエネルギーは、いま、この長い記事を最後まで読んでくださっているあなたからいただいているのです。

本当にありがとうございます。これからも仲良くしていただけると嬉しいです。
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Posted by 八少女 夕

カフェに行こう

「Infante 323とポルトの世界」カテゴリーの記事です。オリジナル小説「Infante 323 黄金の枷」にはモデルとなったポルトの街が時々登場しますが、フィクションの部分と現実との混同を避けるためにあくまでも「Pの街」として書いています。そういうわけで、本文中には挿入できなかったポルトの写真をこのカテゴリーにてお見せしています。

ポルトガルと切っても切り離せないのが、カフェの文化でしょう。もちろんヨーロッパ中でそうなんですが、ポルトガルのカフェ文化は、私の琴線に触れまくりです。

理由の一つが、この人たち「黄色いお菓子が好きすぎる!」というところにあります。日本でもおなじみのエッグタルト(パスティス・デ・ナタといいます)に代表される卵黄と砂糖を多用したお菓子のオンパレード。それが、カフェに山積みになっているので、やはり「黄色いお菓子」が大好きな私の目は釘付けになってしまうというわけです。
カフェにて

カフェは至る所にあります。小さい鰻の寝床のようなお店もたくさんあって、エスプレッソカップ一杯だと1ユーロぐらいのお店が多いです。パスティス・デ・ナタもつけて2ユーロなんてところもあります。そんな看板を見てしまうと素通りできません。

そして、ポルト滞在中にカフェに入りたくなってしまう理由のもう一つが、素敵なカフェがとにかく多いということなのですよ。代表されるのは、スピンオフで活躍しているジョゼというオリキャラが働いていることにしている「マジェスティック・カフェ」ですが、ここは別格です。それだけで観光名所みたいになってしまっていますからね。

Majestic Café

そこまで行かなくても、以前にご紹介したマクドナルドをはじめ、ポルトにはインテリアが素晴らしくて、そこにいるだけで満足してしまう空間がとても多いのです。

さて作中で、23とマイアが待ち合わせした喫茶店は、できるだけ目立たない所でということでしたので、「マジェスティック・カフェ」のような有名な所は使えません。名前は一切出しませんでしたが、私がモデルにしたのは、「Armazém do Caffé」というコーヒーチェーンのお店の一つです。こんな外観の所ですね。

Armazém do Caffé

中に入ると、こういう黄色いインテリア。チェーン店ですが、インテリアとしては23好みだろうなと。他ではあまり出てこないラッテマッキャートのような飲み物もある専門店で、値段は他の店とマジェスティック・カフェのような有名店の間ぐらいでしたね。ケーキも充実していました。もっとも作中の二人はケーキは食べていませんでしたが。

Armazém do Caffé

ちなみに、私のイメージの《監視人たち》は、ここにいるおじさんたちみたいな人たち。朝っぱらからカフェに入り浸って何しているんだろうと思う人が沢山いたのです。


この記事を読んで「Infante 323 黄金の枷」が読みたくなった方は……

「Infante 323 黄金の枷」「Infante 323 黄金の枷」をはじめから読む
あらすじと登場人物




【次回予告】「Infante 323 黄金の枷」 (15)海のそよ風

「23はインファンテなのに、誰の子孫か教えてもらっていないの?」
「もちろん、いない。俺はスペアであると同時に危険分子だからな。トップシークレットを明かしてもらえるような立場にはない。知っているとしたら、アルフォンソか、《監視人たち》の中枢組織だけだろう。それに誰だろうと、それは名目に過ぎない。本人の遺体でもない限り、本当に直系なのかは誰にも証明できないのだから」


マイアは、自転車を二人乗りして23を海へと連れて行きます。生まれて始めて海を見る23。はしゃぐマイア。そして、彼は彼女の質問に答え、この国とテンプル騎士団との関わりについて語りだします。

来月末に発表予定です。お楽しみに!
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