スイスで見かけるポルトガル
今回の更新で、ヒロイン、マイアの幼なじみジョゼの話題が出ました。彼には、産まれてから小学校に入るくらいまでの時期を、出稼ぎに行っていた両親とともにスイスで過ごしたという設定があります。
実際に、スイスに出稼ぎに来ているポルトガル人、とても多いのです。ポルトに通うようになってから、スイスで出会うポルトガルの人たちに対しても、特別に好意的な想いを持つようになった私です。
どういうわけか、私が出会うポルトガル人は、ポルトや北ポルトガル出身の人たちがとても多いのです。そして、彼らはとても感じがよくて勤勉です。ポルトはとても美しくて素敵だけれど、若い人たちにとっては、ユーロ危機の影響なども厳しくて、食べていけるだけの仕事を見つけるのはとても難しいと聞きます。だから、彼らは外国に行って一生懸命働いている模様。でも、ドイツ語圏スイス人の社会は、ラテン系の彼らの社会とは違うので、馴染むのが難しいという話をよく聞きます。
もともとスイスは外国人がとても多い国です。住民の七人に一人の割合です。その中には帰化した外国人は含まれていませんから、本当はもっと多いと思います。
日本で見る欧米人や有色人種のように、ネイティブと外見がものすごく違っている訳ではないので、普段はそんなに感じないのですが、例えば、サッカーのワールドカップの時期など、ああ、ここの家はポルトガル人だったんだと意識することが増えます。みな自分が応援する国の国旗を掲げるからです。

外国人のなかでも、とくに人口の多いイタリアやユーゴスラビアの国々の典型的な食べ物や調味料などは、Coopなどの普通のスーパーに常備されていたりするんですが、ポルトガルの調味料などはさすがにそんなにありません。ワインもスイスのものの他、イタリアやスペイン、フランスなどがメインで、さすがにポートワインはどこでも買えますが、ドウロワインやヴィーノ・ヴェルデのようなマニアックなワインとなると、田舎のスーパーで簡単に買える訳ではありません。

でも、日本食料品店が、チューリヒやジュネーヴなど大きい都市にしかないのと比較すると、ポルトガル食料品店はとても多いのです。そこそこの規模の村にはたいていあります。やはり、必要とする人が多いからだと思います。
ポルトガル専門店を覗くと、やはり目につくのはバカリャウという大きな干し鱈、タコなどの魚介類の冷凍品、それにポルトガルのワインなど。きっと、ないと普段の生活困るんだろうな、これって、日本人にとってのお米やお味噌みたいなソウルフードなんだろうな、と微笑ましく思います。

私は、海の塩は、できるだけポルトガルのものを使うようにしているのです。というのは、同じようなものがフランス産というだけで有り難がられて、とても高く売られていたりするので、なんとなく軽んじられがちなポルトガルを応援したくなってしまうのです。スイスで普通に売っている塩は、たいてい山で採れる岩塩で、ちょっと塩みがキツくて苦手なのです。海の塩は、いろいろとミネラルが含まれているせいか、だいぶまろやかなのですよ。素朴なポルトガル産海塩をポルトで買おうかと思ったんですが、重いのでやめて、こちらに帰って来てからポルトガル食料品店で買いました。

また、近くのポルトガル人の経営するレストランでは、たまに本格的なパスティス・デ・ナタ(エッグタルト)が入荷するのです。これが美味しい。ポルトで食べるのも美味しいけれど、ポルトを思い出しながら地元で食べるのも美味しい。きっとスイスで働いているポルトガル人も、故郷を思い出しながら、ポルトガルの味を楽しんでいるんじゃないかなと思います。
この記事を読んで「Infante 323 黄金の枷」が読みたくなった方は……
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【次回予告】「Infante 323 黄金の枷」 (20)船旅
マリアは、ハガキを書き終えると、切手をとりに自分の部屋へと行き、一分もかからずにリビングに戻ってきた。そして、デスクに置いたはずのハガキを探した。
「ない……」
窓際のソファに腰掛けて外を見ているライサに訊こうと目を移すと、彼女の手の中に切り裂かれて紙吹雪のようになったハガキが見えた。
「ライサ……?」
連絡の取れなくなっていた姉を心配していたマリア。突然帰って来たライサは多くを語ろうとはしません。
来月末に発表予定です。お楽しみに!
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- ポルトと橋 (05.12.2015)
- サン・ジョアンの祭りとポルト (03.10.2015)
- ドウロ川を遡って (22.08.2015)
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【小説】Infante 323 黄金の枷(19)幸せなマティルダ
マイアの休暇は終わり、またドラガォンの館での仕事の日々がはじまりました。彼女にとっては、仕事というより、誰かさんに逢えるルンルンな日々という方が近そうですが。前回、とても近くなった二人ですが、ここでもっと近くなるなんて親切な作者ではありません。ジェットコースターは、登ったらまた落ちる、これ鉄則ですものね。何の話だ。
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Infante 323 黄金の枷(19)幸せなマティルダ
一週間ぶりの制服とエプロンにマイアは身の引き締まる思いがした。昨夜戻ってくるとマティルダが満面の笑顔で迎えてくれた。自分のベッドとマグカップも「おかえり」と言ってくれているように感じた。厨房で朝番のメンバーと一緒にいつものコーヒーと菓子パンの朝食をとった。皆が口々に「おかえり」と言ってくれたのが嬉しかった。
朝食の給仕の時に、ドン・アルフォンソが「お」という顔をしてくれたのも、ドンナ・マヌエラが微笑んでくれたのも、嬉しかったが、何よりも待ち望んでいたのは、掃除をするために23の居住区に入って行くことだった。といっても、彼に逢うのは丸一日と数時間ぶりだったが。
23はマイアの顔を見るとなんでもないように「おはよう」と言って、エスプレッソマシーンに向かった。工房の奥にある木の丸テーブル。マイアはいつもの椅子に座った。何も言わないのに、マイア好みの砂糖とミルクが入った大きいカップがそっと前に置かれる。
「礼拝では怪しまれなかった?」
マイアが訊くと彼は微笑んで首を振った。
サン・ジョアンの前夜祭での昂揚した想いが甦る。彼の腕の中にいたことや、頬にされた親愛のキス。まるで夢の中の事のようだけれど、あれは紛れもない事実だった。それに、こうして向かい合って座っている事も。
彼は休暇前と全く変わらない。いや、違う。ひげを剃った。数日に一度彼が無精髭を剃ると、急に年相応の若さになる。数日経てばまたいつものようになる。剃っても剃らなくても、彼は彼だと思った。あ、23が一昨日言った事と同じ。髪を縛っていてもおろしていても、私は私。
23は周りを見回してから、小さい声でライサの件について話しだした。
「まだしばらくかかるだろうけれど、心配せずに探さずに待っていてほしいというようなメッセージをライサの妹にうまく渡せないか」
マイアは頷いて考えた。
「私がマリアと直接逢うのはダメよね」
「それはやめてくれ。監視しているやつらにすぐにわかってしまう」
「じゃあ、23がマリアに会うのは?」
「お前、頭がおかしくなったのか。マークされているマリアと逢ったりしたら、俺が外に出ていることがすぐにわかってしまうじゃないか」
当然だった。マイアは顔を赤くした。
「マリアがマークされているなら、ドンナ・アントニアが逢いに行くのも危険すぎるわよね」
23が頷いた。
「あ、こうしよう。ジョゼに頼むのよ」
「ジョゼ?」
「私の幼なじみ。マジェスティック・カフェでウェイターをしているの。私が行くと、話しかけてきちゃうから誰か他の人に言ってもらう必要があるけれど、誰かが客として彼にチップを渡す時にマリア宛の小さいメモを渡せば、きっと上手にマリアに届けてくれるわ。彼はモタ家とは接点がないし、監視されていないと思うの」
「そのジョゼは信用できるのか」
「もちろん」
「そうは見えなくても《監視人たち》に属しているかもしれない」
「そんなことないと思うな」
「なぜ」
「だって、《監視人たち》はこの街にいて《星のある子供たち》を監視していなくちゃいけないんでしょ。一家でスイスに出稼ぎに行ったりする?」
「しない。海外で暮らしていたと言うなら、《監視人たち》の一家ではないな」
「大丈夫よ。私の名前がなくても、字だけで私からだってわかるはずだし、頭の回転がいいから余計なことをしないでやってくれるわ」
「ずいぶん親しいんだな」
「えっ? だって、子供のときからの友達だから」
「そうか。だったら、そのジョゼに頼む手紙を書け。アントニアにマジェスティックに行ってくれるように頼むよ」
23はそういうと、テーブルをすっと離れて作業机に向かうと、置いてあった靴を手に取った。それからマイアの方を見もせずに、靴の裏に釘を打ちはじめた。その激しい音にマイアはびくっとした。
彼が不機嫌になったような氣がした。やきもちを焼いたみたいに。けれどマイアは、それは自分がそうあってほしいと願っているだけで、もう用が終わったので仕事に戻っただけかもしれないとも考え直した。ドンナ・アントニアの姿が浮かんで、彼女はまた悲しくなった。
秋になった。ライサがどのくらいよくなったか、時々23が教えてくれていたが、マイアに最終的なことがわかったのは、ある日曜日の午餐の給仕をしている時だった。普段は明るく冗談ばかり言っている24が、笑顔も見せずにドン・アルフォンソに問いただしたのだ。
「ライサはいつ戻る」
「もう戻らない。腕輪を外された」
ドン・アルフォンソは今日のメニューを読み上げるのと変わらない口調で答えた。一緒に給仕していたホセ・ルイスとアマリアがはっとした様子を見せた。マイアは水を注いでまわっている時で、ちょうど座っている全員の顔が見回せる位置にいた。23は表情を変えなかった。ドンナ・マヌエラは視線を落とした。この二人は知っていたのだなと、マイアは思った。24は大きくショックを受けているようだった。明らかに知らされていなかったのだ。
「病が癒えたら戻るって言ったじゃないか。あれは嘘だったのか。僕とライサは合意の上で一緒になり、それで妊娠したんだぞ。腕輪を外される理由なんかないだろう」
ドン・アルフォンソは右手を上げて、24の言葉を遮った。
「24。ライサの治療は完全には終わっていない。医者が長期にわたってお前との接触を禁止している以上、腕輪をしている意味はもうない。彼女は家に帰る」
「僕との接触を禁止? なぜ。流産は僕のせいじゃない」
ドン・アルフォンソは黙って24を見た。普段、ものも言わずに食べてばかりいる当主の姿ばかり見ていたマイアは、彼がこれほど威厳のある強い目つきをできるとは思ってもいなかった。彼は何も言わなかった。マイアは23から聞いていたから知っていたけれど、24がライサに心的外傷を与えた忌むべき行為のことは、たぶん使用人たちには公にされていないのだろう。しかし、マイアはホセ・ルイスもアマリアもそれを知っているのだと感じた。
24は多少変わった感覚はしているが、非常に無害な青年に見えた。容姿を誇り、ナルシストで自分のセリフに酔ったような言動をし、デザインや詩作にはその言動と合わない凡才ぶりを見せるので、どちらかというと愛すべき好青年の印象を与えるのだ。だが、いったん密室に籠ると医者が接触を禁止するほどの強いトラウマを与えるようなことをする。そしてそれを悪いとも思っていないような口ぶりだ。ドン・アルフォンソが黙って非難しているのはそれなのだと思った。24はこの日はそれ以上は言い募らなかった。
けれどマイアには、それから24が変わったように思えた。掃除の時に居住区に入ると、今までのように朗らかに話しかけたりせずに、黙ってテレビゲームに興じていることが多くなった。それに、それまでは戸棚にしかなかったポルノ雑誌などが堂々と放り出されていることもあった。仕事部屋は何週間も入った形跡すらなく、同じデザイン画が放置されて埃をかぶりだしていた。
氣のせいかもしれないが、マイアに対して距離をとっているように感じられることがあった。24の居住区の掃除は必ず二人一組なので、アマリアと行くか、マティルダと一緒なのだが、マイアにはほとんど話しかけない。私が警戒していること、顔に出ちゃっているのかな。それとも、私が23のところにばかり話しに行くので、ご機嫌が悪いのかな。その一方で、以前にも増して、マティルダに優しく話しかけることが多くなったように思われた。
「なんか変よね?」
掃除用具を持って、バックヤードに戻りながら、マティルダが首を傾げた。
マイアは足を止めた。
「何が?」
「24よ。妙に猫なで声なんだけれど、なんでだろう。前はそんなことなかったのにな」
「あ、私もそう思った。氣のせいじゃなかったんだね」
「うん。23も親切になったし、変なことばっかりよね。ま、いいか」
ライサに何があったかをマティルダに伝えて氣をつけるように言った方がいいのかと迷ったが、それを口にしたら自分がなぜ知っているかを話さなくてはならない。まわり回って23とドンナ・アントニアに迷惑をかけるように思った。23は、24とライサはもともとは恋仲だったと言った。つまり、ライサも24と一緒にいることを強要されたわけではないのだろう。マティルダがミゲルのことを好きな以上、そんなに危険はないように思う。それとも23にだけは言っておいた方がいいのかな。
「さっきから何を考え込んでいるんだ?」
想いに沈んでいたマイアははっとした。晩餐の給仕の最中だった。メインコースの皿を下げてデザートをとりに厨房へ向かう道すがら同じく当番にあたっていたミゲルが訊いたのだ。
「うわ。ごめん。また何か失敗した?」
マイアはドキドキしたがミゲルは笑って首を振った。
「それもわからないほど真剣に考え込んでいたのか。よく失敗しなかったな。大丈夫か」
マイアはそうか、ミゲルに話せばいいのかと思った。
「うん、ちょっと氣になることがあるの」
「何? 僕は訊かない方がいいこと?」
「あら、そんなことないよ。実はね。ここしばらく24の様子が前と違って見えるのよね」
ミゲルは意味ありげに笑って言った。
「それ、23の間違いじゃないのか」
そう言われてマイアは少し赤くなったが、ここで話をそらされている場合ではない。
「え。いや、それもそうかな。でも、いま氣になっているのは24」
「どう違っているんだ?」
「うん。なんかマティルダにご執心って感じなのよね……」
「なんだって」
ミゲルの声の調子ががらりと変わった。そうよ、そうこなくちゃ。マイアは心の中でつぶやいた。よく考えてみれば、ミゲルはライサが流産をしてから館を離れた時期にもこの館にいたのだ。たとえ詳細は知らされていないとしても、ライサが24に受けた仕打ちについては薄々わかっているはずだ。ミゲルとマティルダは仲がいいのだから、きっと彼から忠告をしてくれるはず。
ミゲルはマイアのようにぐずぐず考えたりしていなかった。その日の仕事が終わるともう行動に移したらしかった。というのはシャワーを浴びてマイアが部屋に戻ってくると、マティルダが半ば踊りながらマイアに抱きついてきたのだ。
「マイア、マイア、ありがとう!」
何がなんだかわからずマイアはマティルダの顔を見て、首を傾げた。
「なんのこと?」
「ミゲルがプロポーズしてくれたの!」
「えええっ! よかったじゃない! おめでとう」
「うん。突然だからびっくりしたの。だから、どうしてって訊いたら、マイアが24の事を話してくれて、氣が氣でなくなったって」
マティルダはライサの事を知らないからミゲルが何を心配しているのがわからず、単純に24に心移りするのではないかと思われたのだと信じていた。けれどマイアは何も言わないでおこうと思った。二人が結婚するなら、きっとミゲルがいずれは話すだろう。
「明日ね。二人でドン・アルフォンソのところに行くことにしたの」
「ドン・アルフォンソ?」
「そうよ。ほら、許可を得ないといけないでしょ」
「そうなんだ」
「そうよ。そうしたら、マイアとはしばらくお別れだな」
「え? どうして?」
マティルダは笑って説明してくれた。
「《星のある子供たち》が一緒になるときは、一年間《監視人たち》の監視下で暮らさなくちゃいけないの。《監視人たち》と同じ屋根の下に住んで、外出時もずっとついてくるのよ。そうやって《星のある子供たち》以外の子供ができないようにするのね。もっともその間に妊娠したらまた普通の生活に戻れるんだって」
あ。そういえば、ライサも24の所に閉じこめられたんだったっけ。そうか、本当に徹底して《星のある子供たち》だけの血脈を守ろうとしているのね。
「この部屋、マイアが独り占めできるよ」
マティルダは笑ったが、マイアは首を振った。
「独り占めなんてできなくていい。あなたがいなくなると寂しいよ」
マティルダは、マイアをぎゅっと抱きしめた。
「ありがとう。でも、友達をやめるわけじゃないから。ねえ、マイア。結婚式の証人になってよ」
マイアは心からびっくりした。
「私なんかがなっていいの?」
「私なんか、なんて自分を卑しめる事を言っちゃダメ。マイアは私の大好きな、とても大切な友達だよ」
そのマティルダの言葉を聞いて、マイアは涙をこぼした。
ドン・アルフォンソは二人の結婚をすぐに承認した。本来ならば二人は未知の《監視人たち》の家庭に住むことになるのだが、ミゲルの養父母が《監視人たち》の一族のため、ミゲルの生家に住むことになった。三ヶ月間だけ完全監視下におかれるが、その後はまずはミゲルだけ通いで仕事に復帰する事になった。遅くとも一年の監視期間が終わればマティルダもまた戻ってくると聞いてマイアは嬉しくなった。
マイアは早速23に報告に行った。結婚式の証人を務めるなんて生まれてはじめてだ。
「自分のことみたいに嬉しい」
「ん?」
「彼女、夢みていたんだもの。仕方なしに腕輪のあるもの同士で子供を作るんじゃなくて、本当に好きな人と結ばれるのが一番だって。マティルダ、ずっとミゲルのことを想っていたの。私、心から応援していたの。片想いのつらさ、よくわかるから」
「お前も、片想いしたことがあるのか」
「……」
本人に言われても困る……。マイアは黙ってうつむいた。
「すまない。訊くべきじゃなかった」
「ううん、いいの。その人ね、私にはどうやっても手の届かない人で、お似合いの恋人もいるの。だから、もうずいぶん前に諦めたんだ」
23のは口を一文字に結んでマイアを見た。いつか海を見ながら話したときのように、言葉を探しているようだった。無理して慰めてくれなくてもいい。こんなことであなたを困らせたくないよ。
「大丈夫だよ、心配しないで。私ね、一人でも大丈夫だと思う。そういうタイプなんだよ、きっと」
「伝えなくていいのか」
やっと言葉を見つけたように、彼は言った。マイアは首を振った。
「好きになってもらえないのに、そんなことを言ったら距離を置かれちゃうでしょう。数少ない大事な友達の一人だから、そんなことをして失いたくないの」
23はカップをもって立ち上がった。エスプレッソマシーンの前でしばらく佇んでいた。マイアには彼の表情が見えなかった。少し間を置いて低く小さいつぶやきが聞こえた。
「その感情は、よくわかるよ」
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ハギ副将軍ご一家です

このイラストの著作権はユズキさんにあります。無断使用は固くお断りします
いつも仲良くしてくださるブログのお友だちユズキさんの「夢の時間(とき)」が八月に20,000Hitを迎えられたのですが、その記念リクエスト権を滑り込みでゲットしまして、描いていただいたのですよ。
って、「ユズキさんには他の方も描いていただきたいと思っているのに、しょっちゅう描いてもらってるお前がリクエストすんな!」って、怒られそうです。すみません。そうなんです。キリ番リク以外にもいっぱい描いていただいているのです。「大道芸人たち Artistas callejeros」や、「森の詩 Cantum Silvae」系で、本当にたくさん描いていただいているのです。でも、どうしてもリクエストしたかったんです。
お願いしたのは、ユズキさんのメイン連載小説「ALCHERA-片翼の召喚士-」から、大好きなサブキャラの一人であるハギ副将軍の一家団欒です。
私は、ファンタジー小説というジャンルにとても疎くて、間違ってしまっているかもしれませんけれど、このハギさんは、パンダに見える、でもパンダそのものではなくて「トゥーリ族」という種族なのだそうです。だから、人間のように見える種族のヒロインたちと、普通に会話も出来ますし、お仕事もするというわけです。
で、ハギさんは、ブルーベル将軍(シロクマさんに見えるお方)の副官を務めている偉い軍人です。だから副将軍ですよね。世が世なら印籠を持てちゃうくらい偉いんです。(全然違う!)
そんな彼には、奥さんと三人のお子さんがいる、というお話をコメントだったかどこかで聞いて以来、「ああ、見てみたい、ハギたんご一家!」といつも思っていたのですよ。
そして、今回、その願いがやっと叶いました。季節に合わせて、ハロウィン仕様になっていますよ! 徹夜明けに無理して描いてくださったユズキさん、本当にありがとうございました。 あまり可愛いので、お願いしていただいてきました。という訳で自慢を兼ねて、お披露目です。
詳しい設定や、制作秘話などは、下のリンクから。今なら大きなトップ絵になっていますよ。
第二回キリ番リクエストイラスト:八少女さんへ
ご存知の方や熱烈なファンの方には、よけいな説明ですけれど、ユズキさんの「ALCHERA-片翼の召喚士-」は、世界観やストーリーはもちろんのこと、キャラクター設定まで緻密に設定された本格的ファンタジーで、現在物語が佳境にさしかかっています。
ユズキさんのブログと「ALCHERA-片翼の召喚士-」のますますのご発展をお祈りしています!
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- 「バッカスからの招待状 ブラッディ・マリー」を朗読していただきました (22.10.2017)
- 「大道芸人たち」の四コマ、いただきました (23.07.2016)
- ステラを描いていただきました (12.07.2016)
- Artistas callejeros、描いていただきました (03.02.2014)
- 最後は二人で (07.12.2013)
- 小説にちなんだ詩を書いていただきました (18.11.2013)
【小説】彼岸の月影 — 赫き逡巡
この66666Hit企画は、六名の方から出していただいた名詞をそれぞれ一つ以上使うというルールがあります。使った名詞は順不同で「ピラミッド」「赤い月」「マロングラッセ」「マフラー」「いろはうた」「楓」「鏡」「金魚鉢」の八つです。かなり無理矢理感がありますが、お許しください。
参考: 「彼岸の月影」
彼岸の月影 — 赫き逡巡
晃太郎は、赤に囚われている。
彼は怖れている。かつては、盆と正月のどちらかだけに訪れるだけだった故郷の村に、ことあるごとに戻ってくるようになったことを、家族に訝られはしないかと。だが、彼の母親は、一人息子の帰郷を純粋に喜び、老いてめっきり弱った祖父を心配していると、都合よく解釈していた。
彼が帰郷すると、祖父の芳蔵の酒の相手は晃太郎の役目だった。それは、取りも直さず、芳蔵が竹馬の友である村長の北村の家に飲みに行くときの付き添いとなることをも意味していた。北村は、子供のころからよく知っている晃太郎をやはり実の孫のように可愛がってくれるが、晃太郎の方はもっと複雑な想いを持っていた。
「佐竹様、ようこそおいで下さいました。まあ、今日は、晃太郎さんもおいでですのね」
北村の年若い後添い燁子が、艶やかに挨拶をする。蒸栗色の小紋に黒い帯を締めているが、帯締めが鮮やかな緋色だ。それは唇の濡れたような紅と対を成している。村はずれの地獄沼の北側に一斉に生える曼珠沙華の色だ。
三年ほど前、地獄沼のほとりに立つ阿弥陀堂で、晃太郎は名も知らなかったこの若い女と秘密の逢瀬を持った。祖父の友人の妻だとは夢にも思わず。誰も訪れぬ崩れかけた阿弥陀堂。鏡のごとく静まり返った水面に映った十六夜の月。噎せ返るような曼珠沙華の赫さ。それ以来、彼はこの村の赤に囚われている。
今宵も美味い肴を食べながら、芳蔵と北村は吟醸酒を酌み交わした。晃太郎は、二人の昔語りに相づちを打ちながら、三人に酌をする美しい女を凝視しないように苦労していた。
「晃太郎よ、今宵が月見の宴というのを知って帰って来たのか」
北村は、縁側にしつらえられた薄と月見団子を目で示した。
「いえ。でも、十五夜は、だいぶ前ではありませんでしたか」
自信なく彼が訊くと、一同は笑った。
「旧暦八月十五日が中秋の名月。今宵は、旧暦九月十三日、十三夜じゃよ。十五夜だけ月見をするのは片見月といって縁起が悪いので、十三夜も祝うのだ。お前の家でもそうだっただろう?」
北村が訊くと、祖父の芳蔵は肩を揺すって笑った。
「もちろんじゃ。だが、こいつは子供の頃、団子を食べることしか興味がなかったらしく、それも憶えていないらしい」
燁子は、備えてある漆の盆の一つを取って、晃太郎の前に持ってきて薦めた。金色の紙に包まれたマロングラッセがきれいなピラミッドとなって積まれていた。
「今宵は、別名栗名月とも言われております。お嫌いでなかったら、どうぞ」
女は白い指先で優雅に金の小粒を取り、もう片方の手を添えながら晃太郎に手渡そうとする。彼が手のひらを差し出すと、菓子を置く時にその指がわずかに触れた。あの夜と同じように、ひんやりと冷たかった。そのまま、その手を取って引き寄せたいのを、必死で思いとどまる。
視線が合うと、女の紅い唇がわずかに微笑んだ。秘密めいた視線はすぐに逸らされて、女は優雅に立ち上がると、二人の老人のもとに盆を運んで行った。彼は、その女の後姿を目で追った。
彼は、酔った祖父を助けて家に戻り寝かせてから、いつものように一人で地獄沼に向かった。廃堂となった阿弥陀堂の縁側に腰掛けて、女を待つ。決してやってこない燁子を。
なぜだ。ならば、なぜあの時に誘った。いつもの問いを繰り返す。故郷に戻っては、この半ば崩れかけた阿弥陀堂にやってきて、縁側に腰掛ける。すぐ側の畳の上で確かに起こったことに想いを馳せる。
東京で出会う女たちとも、この三年間まともな関係を築こうとしていなかった。あの夜のせいだけではないが、この村を訪れる機会を失うことへの抵抗があることはまちがいなかった。
それに、翔のことがある。二歳になったばかりの燁子の息子だ。そろそろ八十に手の届く北村に子供を作る能力があったことも驚きだったが、かつて北村と祖父が冗談まじりに語っていた言葉が、心の隅に引っかかっている。
「翔は、奇妙なことに、お前の小さい頃にそっくりだ。お前、わしの知らない間に、燁子に手を出したか」
「くっくっく。わしまでお前のように、この歳でそんなことができると? もう三十年も前に引退したわい」
晃太郎が、燁子を正式に紹介された時には、もう翔は産まれていたので、晃太郎を疑う者はいない。だが、彼の胸には憶えがある。たった一度とは言え、計算も合う。だが、北村の前でしか燁子と会えない晃太郎には、疑惑について彼女に問いただす機会がない。少なくとも女は、そのことについて晃太郎に何かを示唆しようとするつもりも全くないようだった。
彼は、前回の帰郷の時、北村の家の近くを通った。いろはうたを歌う燁子の声が聞こえて、思わず垣根の隙間から覗き込んだ。
縁側に、大島紬に珊瑚色の帯をした燁子の側で、黄色いダッフルコートを着て橙色のマフラーをした幼子は、金魚鉢を覗き込んでいた。楓のような小さな手のひらが、金魚鉢をつかんでいる。秋の陽射しが水に反射して、赤い金魚は舞っているようだった。母親に合わせて、歌を口ずさもうとしている子のことを、晃太郎は確かに北村よりは自分に似ていると思った。
子供は、金魚と歌に夢中になっていたが、その母親はそうではなかった。生け垣の向こう側に黙って立っている晃太郎に目を留めると、紅い唇を動かしてわずかに微笑んだ。だが、話しかけることはせずに、すぐに我が子に視線を戻し、まるで誰も見なかったかのように振るまった。
晃太郎に出来るのは、真夜中に地獄沼のほとりの阿弥陀堂に行くことだけだった。彼は、この沼の畔に咲く曼珠沙華に囚われている。真実が知りたいのか、それとも、ただ女に逢いたいだけなのか、自分でもわからない。一晩中、それについて想いを巡らし続ける。冷え込む栗名月の夜を。
明け方の赤い月は、西に沈んで行く。晃太郎は、女がやってはこないことに失望して、阿弥陀堂を後にするほかはなかった。
(初出:2015年10月 書き下ろし)
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- 【小説】彼岸の月影 (08.03.2013)
【小説】ファインダーの向こうに(5)撮影 -1-
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ファインダーの向こうに
(5)撮影 -1-
「さあ、準備はできた。どんな風にでも撮ってくれ」
白いバスローブを着たマッテオは、おどけてジョルジアの前に立ちふさがった。胸元に黄金の鎖が光っている。白く光の溢れたキッチン。まるで安っぽい映画の一シーンだ。
彼の後ろには、新しいおもちゃだと思われるマシンがあった。カリフォルニアオレンジがコロコロと転がって、カットされ、ジューサーを通って、香り高いジュースとなって注がれた。彼はできたてのジュースをジョルジアに手渡し、もう一杯作るとウィンクして飲み干した。
彼のペントハウスの玄関より奥に入るのは何ヶ月ぶりだろう。ここに来るといつも氣後れする。イギリス人の貴族に仕えていたことがあるのかと思うくらい、顔の表情を変えない使用人のハリスに「ようこそ」と言われるのも苦手だったし、次々と変わるガールフレンドたちの名前を憶えられなくて睨まれるのも好きではなかった。
彼女たちは、ニューヨークで最も成功した独身の一人であるマッテオ・ダンジェロに年貢を納めさせようと必死だったし、未来の義妹と険悪にはなるまいとは思っているのだろうが、もう一人の妹アレッサンドラ・ダンジェロと較べるといかにも見劣りのするジョルジアのことを「取るに足らない女」と思っているのが顔に出てしまっていた。
幸い、今朝は女は一人もいなかった。兄のところには寄りつかず、しょっちゅうかかってくる電話も可能な限り短く切ってしまうジョルジアは、最近の彼のプライヴェート事情をゴシップ誌並にも知らない。余計なコメントは避けようと思い、黙ってジュースを飲んだ。
「ジョルジア。少し痩せたんじゃないか」
マッテオは、彼女の頬から顎にかけてそっとなぞった。こうやって女の子たちを簡単にポケットに入れちゃうのかしら。考えながらジョルジアは兄の瞳を見つめ返した。彼は子供の頃から全く変わらない。これは女をたらし込む詐欺師的演技ではなくて、彼の素の振舞いなのだ。
彼は、優しくて、明るくて、そしてセクシーだ。その笑顔に夢中になったのは女たちだけではない。小さな健康食品会社を若くして買い取った彼が、多くのビジネスパートナーを得て、ベストセラーのダイエット商品を立て続けに発売し、アメリカ全土に店舗をチェーン展開するほどに成功をした。それは、彼が多くの幸運と、機を読む賢さと、積極的なビジネスマインドを備えていたからだけでなく、この魅力的な性格で多くの味方を作ったからだ。
「心配いらないわ、兄さん。ここの所、少し忙しかっただけ。『太陽の子供たち』のプロモーションもあったし、あの写真集の撮影の間できなかった会社の仕事を、集中的にこなしたから」
「そうなのか。大事な妹をあんまりこき使わないでくれと、社長に電話しておかなくちゃな」
「そんなことをしたら絶交よ」
彼は切なそうに笑うと、「おいで」と彼女を自分の寝室に連れて行った。そこはスイートになっていて、更に奥にはウォークインクローゼットがあった。
「何を着てほしい? スーツ? それとも、スポーツウェア? もちろん、このガウンのままでもいいけれど。その場合は、ベッドの上に寝そべってとか?」
ジョルジアは、「ゴシップ誌の仕事じゃないんだから」と笑って、カジュアルウェアを着てくれるように頼んだ。掃除の行き届いたリビングで、リラックスしてオレンジジュースでも飲んでいる姿を撮ってみよう。そんな風に考えながら。
NIKONのファインダー越しに覗いたその姿は、見慣れたいつものマッテオ・ダンジェロだった。前にどこかの雑誌で見たのと同じポーズのように思った。会話は、親しい兄と妹の会話なのに、兄は写っていない、そう感じた。疑問を感じながら、ジョルジアはシャッターを切った。
「ジョルジア。アレッサンドラのお前に対する印象は正しいんじゃないかと、僕も思うよ」
ソファの上でポーズをしながら、マッテオは突然言った。
「何のこと?」
「お前は疲れているのか。それとも、何かの壁にぶつかっているのか?」
ジョルジアは、カメラをテーブルに置いて、兄の顔を見た。
「兄さんまで、手術をしろって言うんじゃないでしょうね。そして、どこかのセレブと結婚でもしなくちゃ、ダンジェロ兄妹の顔に泥を塗ると思っている?」
「まさか。僕もアレッサンドラも、お前の幸せにしか関心がないことくらいわかっているだろう」
「ねえ。私は、今のままで十分幸せだわ。仕事も、私生活も」
「ジョルジア。僕がどれだけ長い間、お前を見つめてきたと思っている? お前が心から幸せだと思っているときの顔を知らないとでも?」
ジョルジアは、言葉に詰まった。
「結婚が幸せの最終形だなんて、僕だって思っていないさ。それに、お前の作品が世に認められだしていて、それが一般で言う成功の一歩だっていうのも正しい。でも、今、僕を撮っているお前の姿は、したくてたまらない事をしていようには見えない。お前はひたすら仕事をこなしている、そうなんじゃないか?」
「兄さん……」
「お前の作品は素晴らしい。技術的にも、心を打つモチーフも、全く大したものだ。だが、お前がはじめて、父さんのカメラを持たせてもらった時の、それで僕とアレッサンドラを撮りまくった時の、あの情熱を持ってカメラを構えているようには見えない」
ジョルジアは、兄の指摘に愕然となった。
「あの男のせいで、お前の心が壊れてしまったんじゃないかと、ずっと思っていた。だが、そうだったら、あんな写真は撮れないだろう。お前は心を込めて、選んで写真を撮っている。だが、お前が撮っているのは、お前自身が撮りたいものなのか? それとも、会社や世界がお前に撮るようにと求めているものなのか? なぜ、あんなに明るい色で、楽しそうな子供ばかり撮るんだ。そんなに青ざめて、苦悩を刻んだ顔をして」
「兄さん……。私、あなたがそんなに私のことをよく見ているなんて、知らなかった……」
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66666Hit記念企画の発表です

この画像の著作権はけいさんにあります。けいさんに無断での使用はご遠慮願います。
先日お願いした66666Hit記念企画での出題希望六名様の考えてくださった名詞が揃いました。

というわけで、企画の方を説明させていただきます。おそらく予想なさっている方もおありかと思いますが、私一人が何かを書いても面白くないので、皆さんにそれぞれ楽しく書いて(描いて)いただこうと思います。
スイスだけでなく、日本も秋めいてきました。あ、南半球は春から夏へですけれど。で、この時期は、みなさん放っておいても季節物の作品を書かれる事が多いので、それを書かれる時に、ついでにこちらの企画にもご参加いただけると嬉しいな、ということです。
例えば、ご自分のメイン連載の息抜きに、「ハロウィン」や「食欲の秋」「芸術の秋」「クリスマス」それに「お正月」などをモチーフにスピンオフや、掌編、もしくはイラストやマンガ、詩作などを書かれますよね。そこに、ゲーム感覚で下に書いた出題していただいた名詞を散りばめていただきたいのです。エッセイなど普通の記事でも参加可能です。
基本は、六名様の出された名詞の中からそれぞれ一つ以上、つまり6個(以上)の名詞を使ってください。一人の出題名詞の中から6個ではなく、六名様の出題された名詞それぞれからでお願いします。(例・「中国」「赤い月」「アルファロメオ」「遊園地」「にんじん」「モンブラン」)ただし、赤字は、私が独断と偏見で決めた「使うのが難しい名詞」なのでこれを使う場合は、ついている数の分、他の名詞の数を減らしても構いません。(例・「飛行船 グラーク ツェッペリン」と「進化論」ならこれだけで6個分コンプリートと認定)
出題された名詞に別の文字を足して、別の意味にするのはアリ(例・「羽」→「羽ペン」はOK)ですが、減らして別の意味にするのは不可(例・「桃の缶詰」→「蟹の缶詰」はダメ)です。もちろんその言葉は作品中に使ってもいいですが、規定の名詞を使ったとカウントすることは出来ません。
イラストやマンガなどで使う場合は、セリフでも絵で表現しても文字で書いてもOKです。エッセイなど普通の記事で参加される場合は、写真に映っているのでもOKです。
何作品も参加していただいても構いません。また、35名詞、全部使いたいというチャレンジャーな方は、どうぞご自由に。私ですか? あ〜、氣長にお待ちいただければ、何作品かで35名詞制覇、目指します。(本当か?!)
この企画に参加しているよという目印に、作品のどこか(リードか追記か、リンク付きの別記事か)に「scribo ergo sum 66666企画参加」もしくはそれに準じることと、どの名詞(誰のは不要です)を使ったかを明記してください。
また、この記事に参加してくださった方の作品へのリンクを貼り付けて行こうと思いますので、私が氣がついていないと思われるときは、この記事に「この作品で参加しましたよ」とコメントを入れてくださるとありがたいです。
というわけで、たくさんの創作者ならびにブロガーさんのご参加をお待ちしています。(出題者や企画もの常連の皆さんは……参加してくださいますよね)
お名前 | お題 | |
1. | ポール・ブリッツさん | 「テディーベア」 「天才」 「禁煙」 「ピラミッド」(2) 「バンコク」 「中国」 |
2. | ウゾさん | 「飛行船 グラーク ツェッペリン」(4) (タイプミスとのことなので「飛行船 グラーフ ツェッペリン」もありにします) 「桃の缶詰」 「名探偵」 「蚤の市」 「赤い月」 |
3. | TOM-Fさん | 「マロングラッセ」 「エリカ」(花) 「オクトーバーフェスト」(2) 「ロマンティック街道」(2) 「ピアノ協奏曲」 「アルファロメオ」 |
4. | limeさん | 「進化論」(2) 「彗星」 「野良犬」 「マフラー」 「博物館」 「遊園地」 |
5. | 吉川蒼さん | 「羽」 「いろはうた」 「鏡」 「シャープ」(#) 「にんじん」 「モンサンミッシェル」(2) |
6. | 栗栖紗那さん | 「ガラス細工」 「楓」 「金魚鉢」(2) 「古書」 「WEB」 「モンブラン」 |
【ブログのお友だちの参加作品】
けいさん
◆月一です

この画像の著作権はけいさんにあります。けいさんに無断での使用はご遠慮願います。
ウゾさん
◆再び 此処に
「飛行船 グラークツェッペリン」「中国」「ロマンチック街道」「モンサンミッシェル」「進化論」「楓」
◆ロマンチックハロウィン
「天才」「ピアノ協奏曲」「楓」「金魚鉢」「マロングラッセ」「鏡」「いろはうた」「野良犬」「マフラー」「赤い月」「遊園地」
limeさん
◆「悲しい出来事」--『RIKU』番外--ついに彼の名前が!
「ピラミッド」「禁煙」「蚤の市」「エリカ」「羽」「博物館」「ガラス細工」「金魚鉢」
TOM-Fさん
◆『花心一会』 第九.五会「ロマンティッシュ・シュトラーゼ」
「バンコク」「WEB」「中国」「進化論」「古書」「天才」「飛行船グラークツェッペリン」「蚤の市」「野良犬」「ガラス細工」「楓」「金魚鉢」「鏡」「羽」「彗星」「シャープ」「ピラミッド」「マフラー」「禁煙」「テディーベア」「にんじん」「遊園地」「アルファロメオ」「モンサンミシェル」「ロマンティック街道」「ピアノ協奏曲」「博物館」「マロングラッセ」「モンブラン」「桃の缶詰」「名探偵」「エリカ」「いろはうた」「赤い月」「オクトーバーフェスト」
ダメ子さん
◆桃太郎
「古書」「進化論」「桃の缶詰」「モンサンミシェル」「天才」「アルファロメオ」
ポール・ブリッツさん
◆シュタイナ中佐の幻想
「テディーベア」「天才」「禁煙」「ピラミッド」「中国」「バンコク」「飛行船 グラーフ ツェッペリン」「桃の缶詰」「名探偵」「蚤の市」「赤い月」「マロングラッセ」「エリカ」「オクトーバーフェスト」「ロマンティック街道」「ピアノ協奏曲」「アルファロメオ」「進化論」「彗星」「野良犬」「マフラー」「博物館」「遊園地」「羽」「いろはうた」「鏡」「シャープ」「にんじん」「モンサンミッシェル」「ガラス細工」「楓」「金魚鉢」「古書」「WEB」「モンブラン」
cambrouseさん
◆あるサラリーマンの独白(その2)
「ピラミッド」「名探偵」「ピアノ協奏曲」「マフラー」「シャープ」「モンサンミッシェル」「ガラス細工」
山西左紀さん
◆絵夢の素敵な日常(初めての音)Augsburg
「マフラー」「中国」「ロマンティック街道」「博物館」「天才」「にんじん」「ガラス細工」「赤い月」
ふぉるてさん
◆動画:ブログ誕生日&イベント参加動画
「ピラミッド」「赤い月」「エリカ」「彗星」「羽」「古書」
栗栖紗那さん
◆魔女と魔導書の約束 -とある本編に続く小さな物語-
「テディーベア」「天才」「ピラミッド」「バンコク」「中国」「飛行船 グラーク ツェッペリン」「名探偵」「ロマンティック街道」「アルファロメオ」「彗星」「モンサンミッシェル」「金魚鉢」「古書」「WEB」
大海彩洋さん
◆【奇跡を売る店・番外】しあわせについて~懺悔の値打ちもない~
「テディーベア」「天才」「禁煙」「ピラミッド」「バンコク」「中国」 「飛行船 グラーク ツェッペリン」「桃の缶詰」「名探偵」「蚤の市」「赤い月」 「マロングラッセ」「エリカ」(花)「オクトーバーフェスト」「ロマンティック街道」「ピアノ協奏曲」「アルファロメオ」 「進化論」「彗星」「野良犬」「マフラー」「博物館」「遊園地」 「羽」「いろはうた」「鏡」「シャープ」(#)「にんじん」「モンサンミッシェル」 「ガラス細工」「楓」「金魚鉢」「古書」「WEB」「モンブラン」
【私の関連作品】
◆彼岸の月影 — 赫き逡巡
「ピラミッド」「赤い月」「マロングラッセ」「マフラー」「いろはうた」「楓」「鏡」「金魚鉢」
◆「ファインダーの向こうに」外伝 — パリでお前と
「テディーベア」「天才」「中国」「古書」「蚤の市」「モンブラン」「アルファロメオ」「野良犬」「遊園地」「モンサンミッシェル」
◆バッカスからの招待状 -3- ベリーニ
「バンコク」「桃の缶詰」「名探偵」「エリカ」「進化論」「にんじん」「WEB」
◆大道芸人たち 番外編 — アウグスブルグの冬
「禁煙」「飛行船 グラーク ツェッペリン」「オクトーバーフェスト」「ロマンティック街道」「ピアノ協奏曲」「彗星」「博物館」「羽」「シャープ」「ガラス細工」
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ゴミ丸くん

生ゴミ、みなさんはどうしていらっしゃるでしょうか。スイスの、私の住むあたりでは、生ゴミはゴミとして捨てません。ゴミは決められた収集用の大きい穴みたいなところに放り込むことになっているのですが(専用の収集量込みの有料ゴミ袋に入れる決まりがあります)、そこには「生ゴミは入れないでください」となっています。
で、どうするかというと、別に緑色の収集バケツがあって、そこに入れると農家が持っていってコンポストとして使うという仕組みなのです。で、以前は小さい容器に数日分ためていたのです。一見ビニール袋に見えるのですが、後に分解して土になるというコンポスト専用の袋があって、それを容器の中に敷いて、持っていくときはその袋を抜いて……という手順でした。
でも、生ゴミは水分が出てくるので、その専用袋が分解しはじめるのか、場合によっては一晩で水が漏れていることもありました。しかも、そのミニ容器の中は、けっこう臭うのですよ。
何とかならないかなと思っていた時に見つけたのが、この、日本で発売されていた「ゴミ丸くん」でした。
これは蓋付きの三角コーナーだと思ってください。ステンレス製のボールの下に穴があいています。そして、中蓋と外蓋がついているのです。中蓋を押すと、中のゴミが絞られる形になって水分が下から出て行きます。だから生ゴミの水がたまることがなくて、ほとんど臭わなくなったのです。
で、捨てる時に、専用コンポスト袋に移し替えるので、水漏れすることもありません。ステンレスなのでぬめりもなくきれいに洗えて清潔な状態を保てます。我が家には、とてもいい買い物でした。
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イギリスにいます
木曜日の夜から、イギリスに来ています。リアル友で、小説友達でもあるうたかたまほろさんが、二年間だけロンドン暮らしをしているのです。そして、来年には帰ってしまうというので、遊びに来たという訳です。
せっかくここまでくるのだからと、いつかは行ってみたかったこんなツアーにも参加してみました。
Small-Group Day Trip to Stonehenge, Glastonbury and Avebury from London
アーサー王伝説ゆかりのグラストンベリー、ヨーロッパ最大のストーンサークルであるエーヴベリー、それにいわずもがなのストーンヘンジをまとめて一日で見てしまおうという欲張りな一日ツアーです。
最初は電車で行こうかと思っていたんですけれど、そうするとあと三泊ぐらいしないと見られないんです。二週間くらいの旅ならいいんですけれど、今回は有休一日つけただけの長めの週末で来ているので、手っ取り早く日帰りツアーにしてみました。まほろさんも一緒に参加してくれました。

これは誰でもご存知のストーンヘンジ。某Tさんの小説では吹っ飛んでいるはずですが、無事に復元(?)されていました。
この他、色々と興味深いところを巡ったのですが、それはまた帰ってから。
あと2日、楽しんできます。
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【小説】ファインダーの向こうに(4)陰影
ヒロインの仕事仲間であり、最も親しい友人でもあるベンジャミン・ハドソンがメインの回です。おそらくある読み手の方にとっては「やっぱり」で、他の方にとっては「それはないよ」な事情かもしれません。
![]() | このブログではじめからまとめて読む あらすじと登場人物 |
ファインダーの向こうに
(4)陰影
ベンジャミン・ハドソンは、彼の家の門についた。ライトが自動的につく。眩しくて眉をしかめる。金属製のフェンスを白く塗らせたのは妻のスーザンの趣味だ。汚れやすくなるからしばらくしたらまた塗り直さなくてはならないと言ったが、彼女は聞かなかった。窓辺にペチュニアを飾ることや、安っぽい黄色い滑り台を設置することも。仕事で飛び回る彼の代わりに、家の用事と息子の面倒を一手に引き受ける妻と小さな諍いを積み上げることを彼は好まなかった。
「ただいま」と言って、玄関を開ける。以前のようにスーザンが駆け寄ってきて、キスをすることはない。だが、彼はそれに不満を持っているわけではない。焔はいつまでも激しく燃え上がらない。それよりもじっくりと炭が熾り続ける時間の方が長いのだ。結婚や人生とはそういうものだ。
居間には、スーザンとジュリアンがいた。彼女は息子をパジャマに着替えさせている所だった。
「おかえりなさい。早かったのね」
「ただいま。今夜は間に合ったな」
そう言うと、彼は六歳になる息子を抱き上げた。嬉しそうな笑い声が居間に響いた。
「お願いしていい?」
スーザンの言葉に頷くと、彼はそのまま息子をベッドへと連れていった。
息子の部屋は、青に白い水玉の壁紙が貼ってある。ベッドに息子を降ろしてキスをすると、横に巨大な熊のぬいぐるみがあった。昨日まで抱えていた虎のぬいぐるみは、寵愛を失ったらしく床に横たわっていた。
「パパ、見て! ジョルジアから貰ったんだよ」
ジュリアンは熊のぬいぐるみを嬉しそうに抱きしめた。
「あのぬいぐるみ、どうしたんだ?」
居間に戻って訊くと、妻のスーザンは嬉しそうに笑った。
「さっき、届いたのよ。スキーウェアが欲しいと言ったこと、忘れないでくれたのね。それを着ているみたいな格好で、あの大きなぬいぐるみも一緒に入っていたの。二人で歓声を上げたんだから。次に逢ったらお礼を言っておいてね」
「さっき逢ってきたばっかりだけれど、これから彼女は撮影旅行だから、次に逢うのはおそらく来週の火曜日だよ。メールでも入れておくか」
「そうしてね。ねぇ、あたしの名付け親ってあんなに親切じゃなかったわ。写真もそうだけれど、彼女、本当に子供が好きなのね」
ベンジャミンは、ちらりと妻を見たが、肯定も否定もしなかった。確かにジョルジアは、子供をモチーフにした写真で有名になった。《アルファ・フォト・プレス》がプロモーションを展開しているのもその路線だ。
十年前、彼女の主なモチーフは花や水辺などの自然だった。透明で、光を感じる作風は、四ヶ月前に出版した写真集『太陽の子供たち』にも通じるものがあった。だが、あの頃の彼女の写真から、彼が今ほどの影を感じることはなかった。
ジョルジアがここ数年撮り続け、彼女の名前を有名にしたのは、子供たちの笑顔の写真だった。鮮やかな色づかいの天然色、溢れる光の中で幸せに溢れる子供たち。草原の中で、アフリカの赤茶けた土の上で、一面の雪の前で、小さい子供たちが笑い転げる。
優しい愛情に満ちた数々の写真は人氣を呼んで、『フォトグラフ・オブ・ザ・イヤー』の一般投票部門で入賞が狙えるほどの売り上げを記録した。もちろん弱小出版社である《アルファ・フォト・プレス》では、はじめての快挙だ。
誰もが、ジョルジアのことを子供好きな幸せな女性だと思っている。子供は嫌いではないだろう。ジュリアンと話している時の微笑みや、敏感な息子が彼女にくっついて離れない様子、それにカメラを構える時の情熱を見ても、それを疑うような兆候はどこにもない。
けれど、彼女の瞳には、いつもどこか諦めに似た哀しい光が宿っている。被写体の子供には微笑みかけても、両親には距離を持って立っている。幸せそうな恋人たちを見かける度に、判で押したように現れる固い微笑み。それは、自分には手に入れられないものに対する讃辞のように見える。
一緒に仕事をしはじめた頃には、彼女のその憂いの意味が分からなかった。あの頃のジョルジアは、今よりももう少し髪が長く、有名になりはじめたアレッサンドラとの類似に氣がつく人も多かった。彼自身もそうだったが、彼女を通して美しい妹と知り合いになりたがる人は多かった。
彼は、世界中の他の多くの男と同じく、手の届かない所にいるアレッサンドラに漠然と憧れていただけだったし、そのことでジョルジアを傷つけるつもりなど毛頭なかった。
彼女は、ずっと静かに傷ついていた。子供から娘へと変わる過程で、妹との外見と内面の違いについて意識し、比較され、劣ると判断されることが繰り返された。そして服を着ている時には誰にも氣づかれない肉体のコンプレックスも彼女を僅かずつ蝕んだ。
ベンジャミンが、友人だったジョンをジョルジアに紹介したのは、純粋に彼らが上手くいくと信じていたからだ。だが、彼は彼女を深く傷つけて去った。
「あんなおぞましいモノを見てまともにヤレる男なんていないさ」
ジョンの言葉は、未だにベンジャミンの耳に残っている。彼自身は、ジョルジアの脇腹にひろがる生まれつきの痣、そして、治療の失敗でもっとひどくなってしまった醜い肌を見たことはない。だから、愛が褪めてしまうほどひどいものなのか判断することはできない。
ジョンはジョルジアにアレッサンドラを重ねあわせていただけだろう。そして、姉と妹が同一人物ではないことを確認しただけのつもりだったのかもしれない。だが、それで愛する男に捨てられたことは、彼女のトラウマになってしまった。
それから彼女は、人づきあいが極端に悪くなった。仕事以外では外に出ない。パーティにも行かない。新しい友だちを作ろうともしない。有名な妹や、成功者である兄の棲む華やかな社交界から一切身を引き、マンハッタンを離れ、ロングビーチに引越した。
二年ほど彼女は人物写真が撮れなかった。その後は決められた仕事では、割り切って人物を撮ることもできるようになった。が、写真集など彼女の作品としての被写体に大人を選ぶことはなく、動物や子供、もしくは自然や無機質なものにしかカメラを向けない。それも不必要に明るい色彩の晴れやかな写真ばかり。それがかえって彼の目には痛々しく映る。幸せに笑う、苦しみをまだ知らない子供たちとファインダーを隔てて対峙するジョルジア自身の心に落ちた影を感じる。光が強ければ強いほど、影も濃くなる。
だから、あの写真を見たときは、本当に驚いた。
暗室に貼られた、男の横顔。モノクロの柔らかい光の中に佇むその姿。他の人間が見たら、まったくジョルジアらしくないと思うだろう。だが、そうではないことを彼は感じた。それは、ベンジャミンが入っていくことのできない世界だった。音もなく、ただ陰影だけが存在していた。カメラを構えた者と、被写体との静かな時間。ジョルジアに何が起こったのかを、彼はその時にはもうわかっていたのだ。
彼はネクタイを緩め、水を飲むためにキッチンへと向かった。いつものあたり前の夜だったが、我が家の光景はどこかが違って見えた。違っているのはキッチンではなくて、彼自身の心なのだと氣づく余裕はなかった。
寝室へ行くと、スーザンはもうベッドにいた。アプリコット色のシルクのナイトドレスを身につけている。彼は、妻の月経周期のことを考えた。そうでなければ彼女が誘ってくることは全くなかったからだ。お互いに強い情熱がなくなった後も、求められた時には拒否をしないのが暗黙の了解のようになっていた。
「ねえ。どうかしら。私、ジュリアンを一人っ子にしたくないの」
彼は、義務を果たすために、その氣になる努力をした。頭の中に、もう何年も前の男性写真誌の特集ページを飾った、アレッサンドラ・ダンジェロのなめらかな肌を思い浮かべた。シーツでわずかに前方を隠したその艶かしいポーズは、ベンジャミンだけでなくたくさんの男たちの想像をかき立てたことだろう。長い足、豊かな黄金の髪、形のいい唇を思い描いた。
彼は、暗闇の中で、スーザンの声をしたアレッサンドラを堪能した。やがて、彼の女神は次第にメイクを落とし、小悪魔から憂いのある女へと変貌を遂げる。長く豊かな金髪は、ブルネットのショートヘアに変わっている。それが誰だか彼にはよくわかっている。彼は「彼のアレッサンドラ」と彼自身を絶頂に導いた。
満足して、寝息を立てるスーザンの横で、彼は今日のジョルジアのことを考えていた。あの告白が、相当ショックだったんだな……。彼は、心の中でつぶやいた。会社のジョルジア専用となってしまっている暗室で、あの写真を発見した時に感じた落ち着かなさの意味が、今の彼にはよくわかっている。彼女の心を占めている他の誰かに対する、抑えられない怒りと妬み。
君は、一度だって僕を撮りたいと言ってくれたことはないよな。僕は、いつだって君のファイダーの中には入れないんだ。
ジョルジアは壁の前に立っていた。それは暗室を後にして帰る前の儀式となっていた。モノクロの写真が壁に貼ってある。佇む男の横顔。その瞳は、眼鏡を通してまっすぐに墓を見ている。振り向いて彼女を見てくれることはない。それでも、彼女は彼を見つめている。ゆっくりと視線で彼を覆う光と影をなぞっていく。その陰影は、彼女の心そのままだった。
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66666Hitについて
だんだん近づいてきました。何って66666Hitです。「何かやろうか迷っている」ってことまでは時々piyoで呟いていましたが、ようやくどうするかはっきりすることにしました。
今回は、お題を募集します。ただし、私がそれに合わせて書くリクエスト小説というのは、なんだか常にやっている感があって「またかよ」だと思うので、ちょっと別の企画を考えています。どんな企画かは、リクエストが出揃ったあとに発表します。前に書くと、期待しているようなバラエティに富んだお題がでないと思うんで。
で、お題募集のしくみですが、66666Hitになってからの先着順で六名様に権利があるものとします。(「お題は後から考えるから、とりあえずリクエスト権利だけ確保」というのもありです)
お題は名詞(例:「山」「イワトビペンギン」「相対性理論」「ウニいくら丼」「団長ロマーノ」「(出題者のオリキャラの具体名)○○」など)を、一つ以上六個以内でお願いします。具体的な名詞のみ有効です。また七個以上書かれた場合、七つ目からは無効になりますのでお氣をつけ下さい。また、他の方が既に書かれたものとは違うものをお願いします。方向性が全く違った方が面白くなると思うので、空氣は読まずに好きな名詞を書いてください。
なお、他の方に出題希望者数と出したお題がわからなくなると困るので、この記事のコメント欄のみに書いてください。また同じ理由から、この記事にはどんな内容であっても鍵コメ(管理者にだけ表示を許可するコメント)は入れないようにお願いします。(表示されたくない内容のコメントをしたい場合は、別の記事へのコメントにしてください)この記事につけられた表示できるコメントのみが有効になります。
皆様のご理解とご協力ならびにご参加をお待ちしています。
【リクエスト】
お名前 | お題 | |
1. | ポール・ブリッツさん | 「テディーベア」 「天才」 「禁煙」 「ピラミッド」 「バンコク」 「中国」 |
2. | ウゾさん | 「飛行船 グラーク ツェッペリン」 「桃の缶詰」 「名探偵」 「蚤の市」 「赤い月」 |
3. | TOM-Fさん | 「マロングラッセ」 「エリカ(花)」 「オクトーバーフェスト」 「ロマンティック街道」 「ピアノ協奏曲」 「アルファロメオ」 |
4. | limeさん | 「進化論」 「彗星」 「野良犬」 「マフラー」 「博物館」 「遊園地」 |
5. | 吉川蒼さん | 「羽」 「いろはうた」 「鏡」 「シャープ(♯)」 「にんじん」 「モンサンミッシェル」 |
6. | 栗栖紗那さん | 「ガラス細工」 「楓」 「金魚鉢」 「古書」 「WEB」 「モンブラン」 |
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「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」座談会
この回答には若干のネタバレも含まれています。大したネタバレではないですが。
「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」座談会
- まずは自己紹介から、名前と立ち位置をお願いします。
マ「マックス・ティオフィロスです。主人公ってことになっています。サレア河の東にあるグランドロン王国出身でお金持ち専門の教師でした」
ラ「ラウラ・ド・バギュ・グリです。サレア河の西に位置する王国ルーヴランの都、ルーヴの王宮で女官兼《学友》をしていました」
レ「余は、レオポルドII・フォン・グラウリンゲン。グランドロン国王だ。後半まで全然出てこなかったが」
ザ「ルーヴランの宰相だったイグナーツ・ザッカです。もとはセンヴリ王国出身の聖職者でしたが、志あって政治の道に入りました」
フ「ルーヴランの世襲王女マリア=フェリシア・ド・ストラスよ。絶世の美女なの。なぜあたしがヒロインじゃないのよ」
ヴ「あんたの性格が悪すぎるからでしょ。私はヴェロニカ。グランドロンの王都ヴェルドンで高級娼館を経営しているの。普段はマダム・ベフロアで通っているわ」
フ「何よ。グランドロン人のくせに、なんでルーヴラン風に名乗っているのよ。文化コンプレックスなんじゃないの」
ザ「殿下。みっともないので言い合いはおやめください」- いきなり険悪なムードが漂っていますが、本作について少しお話しください。
マ「ヨーロッパ中世をモデルにしたストーリーで、前半は僕が旅をしながら様々な民俗を見聞するスタイルだったね」
レ「そして、ラウラのパートでは貴族の風習や生活について語られていたな」
ラ「はい。それに、ストーリー上必要となる二国間の情勢なども……」
レ「後半は、余の治めるグランドロンと、ライバル関係にある大国ルーヴランとの、政略結婚の話および政治的陰謀が軸になっていたな。(ザッカに)余はもっとそなたと政治的な駆け引きをするシーンが欲しかったんだが」
ザ「私は全くしたくありませんでしたがね。突然、ルーヴランにやってきたり、予測不能な行動ばかりなさる方ですな」
マ「でも、ザッカ殿。本当はグランドロン王国に仕えた方がよかったんじゃないですか?」
フ「どういう意味よ。私たちに仕えるのが不満とでも? グランドロンなんて、お洒落じゃないし、グルメじゃないし、つまんない国でしょ」
レ「(ラウラに)そなた、よくこんな女に十年以上も仕えたな」
ラ「(否定せず)……」- 大変だったことはなんですか。
レ「主人公マックスに問題解決能力がないんで、余が全部解決しなくちゃならなかったことだな。それに、せっかくグランドロンまで行って、いい嫁を見つけたと思ったのに……」
ラ「あの時は、騙すことになってしまい申しわけありませんでした」
マ「君は悪くないよ。謝んなきゃいけないのは(ザッカと姫を見る)」
ザ「ルーヴランの財政を劇的に改善するためには、ああするほかはなかったのだ。他にもいろいろと試したが、できることには限りがあった」
フ「私は、もっと見せ場が欲しかったわ。舞踏会の衣装も、婚礼衣装も、結局ラウラが着ちゃったし。私が着た方がずっと綺麗だったのに」
ヴ「あんたね。敵役で出演していること、わかっていないわね。首が飛ばなかっただけ、感謝しなさいよ」
フ「なんですって。娼婦の分際でよくもそんな口がきけるわね。そっちこそクビをちょん切るわよ」
マ「君は、本当にヒドい目に遭ったよね。よく頑張ったと思う」
ラ「いいえ。それに見合ういい思いもさせていただきましたし……」- 続編準備中らしいですが、今後の抱負や希望などがありますか
レ「無事主役の座をもぎとったからな。ふさわしい活躍をしたいものだ」
マ「え? そうなんですか。じゃあ、僕はお役御免か。ラウラとのんびりしようかな」
レ「そうはいかん。そなた達も出ずっぱりだぞ」
マ「そうなんですか。今度も特に見せ場はないと思いますが、マイペースで頑張ります」
ザ「私もまだ死んでいないという設定ですので、前作で再登場を希望してくださった方のご期待に沿いたいものです」
マ「新キャラクターもいるんですかね?」
ヴ「ええ。グランドロンとルーヴランだけでなく、他の王国からも重要キャラが出演予定なの。もちろん私やヘルマン大尉も、前よりも活躍する予定よ」
レ「で、いつ発表されるんだ?」
ラ「それが、まだ全然書いていないらしいので、未定です。忘れないうちに書くべきですよね。」
マ「できたら、また読んでくださいね」
この記事を読んで「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」を読みたくなった方へ
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【小説】ファインダーの向こうに(3)新企画 -2-
実は、墓地のくだりは、TOM-Fさんの小説の一シーンから思いつきました。正にその時だったのか、他の墓参のときだったのかまではわかりませんけれど。ジョセフも、まさか激写されていたとは知らなかったであろう、ということにしてあります。これも一種のパパラッチ行為かしら?
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ファインダーの向こうに
(3)新企画 -2-
ジョルジアは、眉をしかめてソファに座り込んだ。それからぽつりと言った。
「笑いたければ、笑うといいわ。でも、言いふらさないでよね」
「そんなことするわけないだろう。でも、知り合ってもいないのに、どうやって?」
「最初は、ただの会心の出来の写真だったの。光の具合も、佇まいも完璧だった。誰だかも氣がついていなくて、夢中でシャッターを切ったわ。望遠で追っているうちに、彼が匿名の誰かではなくて、よく見知っている人だとわかったの。誰だかわかるまで時間がかかったけれど」
それはウッドローン墓地だった。とある追悼詩に使う墓石の写真を撮る仕事だった。できるだけ色彩を排除して撮りたかったので、普段は一切使わないILFORD PAN Fのモノクロフィルムが入っているカメラを構えていた。
そうやって、離れたところから墓地を撮っていたジョルジアは、偶然に墓参りをしている男の写真を撮ることになった。人物が映り込んでいたら仕事には使えないとわかっていながら、ファインダーの向こうの絵の魅力に捕らえられて、立て続けにシャッターを切った。
秋の柔らかい陽射しが、彼の前方から射し込んでいた。トレンチコートに落ちた木立の影も完璧だった。彼は背筋を伸ばして墓の前で佇んでいた。誰だかはっきりわかったのは、しばらくしてCNNのニュースでその顔を見てからだ。
それから再びウッドローン墓地へ行き、彼が見つめていた墓標を探した。ほとんど興味のなかったジャーナリストの経歴を調べて、彼がユーゴスラヴィアの内戦で家族を失っていることを知った。調べ、知ってしまったことで、特別な存在になった。
彼が担当の日にCNNニュースを観るのが習慣になった。レポートを読むために雑誌も買った。冷静ながら弱者に対しての暖かい視線に共感した。
ただのファンという意識に留まれなかったのは、あの写真のせいだった。馬鹿げたことだとわかっていながら、想いを持て余すことになった。
仕事には使えなかったそのモノクロームのポートレートは、ずっと暗室に貼られたままだった。揺れる現像液の中から、ぼんやりと、やがてはっきりと浮かび上がってきた、横顔の明暗。誰にも知られずに、その佇まいを見ているだけ。それでよかったのに。
「だったら、なおさら、この仕事を受けろよ」
「無理よ! 冷静に撮れるわけないでしょう」
「冷静である必要なんかあるものか。君の人生の転機だろう」
「転機って何のことよ」
「僕は君にジョンを紹介したことを、後悔しているんだ」
突然ベンジャミンは話題を変えた。ジョルジアは、口を一文字に結んで彼を見た。
「あれから、もう十年だ。君は、このままでいいのか?」
ジョルジアは、一度足元を見てから、顔を上げて仕事の大切なパートナーであると同時に、長い間支えてくれている大切な友でもある男に向かってはっきりと言った。
「私がこうなったのは、ジョンのせいじゃないわ。もちろん、あなたのせいでもない。世の中には、一人でいた方がいい人間もいるのよ。それだけのことだわ」
ベンジャミンは、黙って彼女の顔を見つめた。青ざめた肌に黒い髪が影を落としている。人付き合いが悪くても、心を許した人間の前では、笑顔も見せるし冗談も言うようになった。意見もはっきりと言ってのける。だから、誰も彼女のことを前のようには心配していない。
だが、彼は「これでいい」とはとても思えなかった。
彼女は、すぐに心のブラインドを閉めてしまう。その先には誰も踏み込ませようとはしない。助けはいらないと頑張るのだ。彼には、それが虚勢だとわかっていても、それ以上踏み込むことはできない。それに、彼女の瞳にじっと見つめられると、その頼みを断ることもできないのだ。
ジョルジアは、ジョセフ・クロンカイトの写真を撮るのは他の写真家に頼んでくれと懇願し、代わりにマッテオ・ダンジェロの写真を撮ることに渋々同意した。
「どんな写真になっても、文句は言わないでね」
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女の運転は……

これ、先日ドイツのコンスタンツのとある駐車場で見かけた標識です。女性専用パーキング。あるっていうのは聞いたことがありましたが、目にしたのははじめてです。ドイツだけではなく、スイスにもあるらしいです。
普通のパーキングよりも広くなっています。「女は車の操作が下手だから狭いと上手く停められない」という発想のもとに作られているんです。
よくみると「男の運転者は使用禁止」「男の同乗者がいる場合も使用禁止」マークがついています。つまり「男がいれば、まともに停められるはず」ということらしいです。
感心しちゃいました。いやあ、運転や駐車の下手な女性がいるのは間違いないです。たぶん、数で言ったら、下手な男より下手な女の方が多いように思います。私だって下手ですから。でも、こんなにあからさまに制度化して、フェミニストからよく文句が来ないな~って。
私は、怒りませんよ。もし、うちの近くにこういうスペースがあったら、進んでそこに停めます。東京に住んでいたときよりずっと上手くなって、あまり切り返さないで縦列駐車もできるようになりましたし、普通の駐車場にも停めますけれどね。でも、下手なのは間違いないし、広い駐車スペースが空いていたら嬉しいんですもの。
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サン・ジョアンの祭りとポルト
今回の更新で、マイアと23が楽しんだサン・ジョアンの前夜祭。ポルトではとても大切なお祭りです。
サン・ジョアンというのは、洗礼者ヨハネのことで、6月24日は彼の聖誕祭に当たる祝日です。ポルトで大騒ぎする23日の夜は、だから前夜祭なのですね。
アーチや色とりどりの風船で飾られた町中に、スイートバジル、イワシの焼く匂いに満ちた通りは人びとで溢れかえり、彼らは食べたり飲んだり踊ったりして楽しい時を過ごすんだそうです。
普段は、とても勤勉でまじめなことでよく知られるポルトの人びとが、一年に一度無礼講で楽しむのです。
私は、三月にしかポルトに行ったことがないので、まだ一度もこのお祭りを見た事がないのです。だから、今回はネットで拾ってきた動画をご紹介しましょう。
São João do Porto 2015
この下のリンクからは16分にわたって、花火が楽しめます。
16 minutos de fogo de artifício no São João do Porto
このお祭りがポルトにとってとても特別だと聞いたときから、作品で最も盛り上がるシーンは、この祭りの日にしようと決めていました。だから、人びとの一年に一度の狂騒や、ピコピコ鳴るおもちゃのハンマーで、みんなを叩くかわいい伝統や、花火をストーリーのエッセンスに使ってみたのです。
このストーリーの裏テーマは「五感で恋するポルト」。食べて、飲んで、歌や踊りを見て、ピコビコして、花火見て、ハグして、ほっぺたキスして、イワシ焼く煙やバジルの香りを感じて、このお祭りは、まさに五感コンプリートですよね。これで盛り上がらなかったら恋じゃない!
なお、本文でマイアが言っていますが、24日の朝の露が体にかかるまで、夜通し外にいると、一年間を無病息災で過ごせるという言い伝えがあるそうです。だから、マイアは「ふたりで夜通したいな」と思ったらしいのですが、それは23に断られてしまいましたね(笑)
私も徹夜じゃなくていいから、行きたいなあ、サン・ジョアンのお祭り。いずれは、きっと。
この記事を読んで「Infante 323 黄金の枷」が読みたくなった方は……
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【次回予告】「Infante 323 黄金の枷」 (19)幸せなマティルダ
「私がマリアと直接逢うのはダメよね」
「それはやめてくれ。監視しているやつらにすぐにわかってしまう」
「じゃあ、23がマリアに会うのは?」
「お前、頭がおかしくなったのか。マークされているマリアと逢ったりしたら、俺が外に出ていることがすぐにわかってしまうじゃないか」
当然だった。マイアは顔を赤くした。
館に戻って、再び働きだすマイア。いつもと変わらぬ日常が戻ってきますが、それでもいろいろな事情が少しずつ動いています。ライサのことを、妹のマリアに知らせるために、《監視人たち》にわからない方法を考える二人。そして、マティルダとミゲルの関係も新展開が。
来月末に発表予定です。お楽しみに!
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