【小説】大道芸人たち 2 (5)ミュンヘン、弔いの鐘 -3-
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大道芸人たち Artistas callejeros 第二部
(5)ミュンヘン、弔いの鐘 -3-
ヴィルは大きく頷いた。
「俺の住所はここに移さなくてはならなくなる。必然的に蝶子もそうなるだろう。よかったら、あんた達二人も、一緒にしておかないか」
「僕に異議はありません。ドイツでもスペインでも」
「あんたがヴィザを用意してくれるなら、俺にも異存はないぜ」
「すぐにスペイン人と結婚するんじゃないの?」
蝶子がちゃかした。
「ヴィザやパスポートのために色仕掛けはしないって言っただろう」
稔が混ぜっ返した。
「パスポートといえば、俺とあんたのは書き換えになる」
ヴィルが蝶子に言った。
「なんで、またパスポートを書き換えるの? 先々週、書き換えたばっかりじゃない」
蝶子は訊いた。
「名前に称号が加わるんだ」
「は?」
「相続するとなると、領土やこの館だけでなくて、爵位もまとめてなんだ」
「え? ただのお金持ちじゃなくて、本当に貴族だったの?」
蝶子は驚いて言った。
「大した称号じゃない。イダルゴのと変わりない。ただ、パスポートにはそう書かれるんだ」
「なんて?」
「あんたは蝶子・フライフラウ・フォン・エッシェンドルフになる」
「あら。教授についてたフライヘルってのは三つ目の名前じゃなかったのね」
「フライヘルってなんだ?」
稔が訊いた。
「英語でいうとバロン、男爵だ」
「へえ、男爵に男爵夫人かよ。すげえ」
「だから、フランス警察が慌てたんですね」
レネも感心していった。
「そういう称号を持った人間が大道芸人なんてしていいわけ?」
蝶子が疑わしそうに訊いた。
「ダメだという法律はないと思うが、ミュンヘンではおおっぴらに公道には立たない方がいいだろうな」
「やっぱり」
「そうだよな。俺たちはこれからでもいつでも英国庭園で稼げるけれど、お前はもう絶対に無理だよな」
「そうね。ちょっと残念。そうと知っていたら例のパーティの前にでもやっておいたのに」
「そんなにあそこで稼ぎたければ、そのうちに『銀の時計仕掛け人形』をやればいい」
ヴィルはすましてワインを飲んだ。
三人はにやりと笑った。広大な領地を相続しようが、男爵様になろうがヴィルは変わる氣はまったくなさそうだった。
「さてと。今朝の新聞に死亡広告が出たからそろそろ弔問客がぞろぞろやってくる。あんたと俺は、好奇の目にさらされるだろう。覚悟しておいてくれ」
「わかっているわ。こうなったら隠れているわけにいかないもの。私も喪服に着替えてこなくちゃ。まだあるといいけれど」
蝶子は、逃げる時に置いて行った喪服のことを考えた。
「あんたのものはみんな残っている。例の真珠は金庫の中だ。今すぐいるか?」
「まさか。あんなすごい真珠は、葬儀の日だけで十分よ」
結局、教授にもらったプレゼントを再び使うことになっちゃうわね、蝶子は複雑な心境だった。
「俺たちは、どうしている方がいい? さっさとスペインに帰った方がいいか、葬儀までここにいてなんか手伝いをするか」
「ここにいるといい。あんたたちがいるほうが、蝶子も氣が楽だろうから」
ヴィルはそういって出て行った。マイヤーホフが指示を待っているので、のんびりとはしていられなかった。
「大変だなあ。ただの葬式だって、てんてこまいなのに、男爵様の葬式だもんな」
「しかも、失踪していたのに突然呼び出されてですからねぇ。こんな複雑な事情のお葬式、滅多にないかもしれませんね」
稔とレネはひそひそと話した。
あのヴィルがワインを空にしないで行ってしまった。もったいないから、飲んでしまおう。稔とレネは勝手に解釈して、応接室に残って飲んでいた。
ヴィルはすぐにミュラーに頼んで仕立て屋を呼んでもらった。仕立て屋は、目を丸くしている稔とレネの寸法をさっさと測り、翌日には二人分の喪服が届けられた。
弔問客の中には、市長夫妻をはじめ、あのパーティに招待されていた人々がいた。再び失踪したという噂のアーデルベルトが館に帰っている事には驚かなかった。上流社会ではそういう話は珍しくない。しかし、そのアーデルベルトが、「あの女」と結婚していたという事実には驚愕した。それだけでなく、あの時にアーデルベルトに殴り掛かりそうになっていた、「あの女」の連れの日本人が、喪服を着て葬儀の手伝いをしている。市長夫人は、しばらく瞬きも忘れ、用意してきたお悔やみの美辞麗句を思い出す事も出来なかった。
「わざわざお越しいただきましてありがとうございます、市長夫人。こちらは妻の蝶子です」
アーデルベルト・フォン・エッシェンドルフは、まったくの無表情で妻を紹介した。蝶子は悪びれた様子もなく「はじめまして」と手を出した。それで、市長夫人は、我に返って態度を取り繕った。
「それから、こちらは私どもの親しい友人で、安田氏とロウレンヴィル氏です」
「はじめまして」
稔とレネも英語で澄まして挨拶した。パーティにいた客たちの呆け面が、判を押したようだったので、彼らが帰る度に稔は別の部屋に隠れて身をよじって笑った。
ヴィルは、葬儀の厳粛で沈痛な雰囲氣のうちに、蝶子を出来るだけ多くの人間に紹介してしまうつもりだった。ただの社交の中では意地悪い扱いをしようとする人たちも、弔問中には攻撃の手を緩めざるを得ない。この場で優しく「よろしく」と言わせてしまえば、あとはこっちのものだ。
ヴィルは社交界に積極的に進出するつもりはなかったが、まったく関わらないままでいる事も出来ないのをよくわかっていた。稔とレネも、この際に社交デビューさせてしまえば、あとで彼らが常に側にいる事を、使用人たちを含め、誰にも文句を言わせずに済む。それがヴィルの狙いだった。
市長夫人はゴシップ女だったらしく、翌日からどう考えても教授と親交があったとは思えないご婦人方が興味津々の心持ちを喪服に包んで、弔問に押し掛けた。教授の音楽の知り合い、弟子たちも次々とやってきた。中には教授に婚約者として蝶子を紹介された事のある人たちもいた。蝶子もヴィルも平然と好奇の目に耐えた。
「僕にはとても我慢できないでしょうね」
レネはヤスミンに打ち明けた。
「そうね。きっとある事ない事言われるんでしょうね。頑張っているわ、二人とも」
ヤスミンは喪服を持参して手伝いにきていた。
「でも、これをやっちゃった方がいいっていうテデスコの判断は間違っていないよな」
稔はようやく慣れてきたアクアヴィットをちびちびとなめながら言った。
受け取るのは銀行預金だけじゃない。あのときのヴィルの言葉は、こういう事も含んでいたのだ。稔やレネにとってはなんのデメリットもないヴィルの相続だった。だが、こうなってみてはじめて、稔は蝶子とヴィルが戦わざるを得ない事を知った。二人ともそれに耐えうる強靭な神経を持ち、自分たちの人生を切り開けることも。
「フロイライン・四条」
マイヤーホフが、つい以前呼んでいたままの呼び名で蝶子を呼んだとき、ヴィルははっきりと訂正した。
「フラウ・フォン・エッシェンドルフだ」
その調子が珍しく厳しく、それを感じたマイヤーホフは、平謝りして氣の毒なほどだったので、蝶子は言った。
「蝶子と呼んでくださっていいのよ」
マイヤーホフはヴィルに対してはファーストネームで呼んでいるのを知っていたからだ。けれど、マイヤーホフは蝶子に親しみを示そうとしなかった。蝶子はそれでマイヤーホフにわだかまりがあるのを知った。ミュラーもそうだった。
マリアンは蝶子に同情を示していた。いずれにしてもマリアンはエッシェンドルフ教授よりもヴィルの方がずっと蝶子にお似合いだと昔から思っていたのだ。二人が出会うずっと前から。
いつの間にか、マイヤーホフとミュラーは蝶子を「フラウ・シュメッタリング」と呼ぶようになった。ヴィルは二人の前ではいつも蝶子と呼んでいたので、彼らにしてみれば教授の呼び方を踏襲した嫌みな呼び方のつもりだったのかもしれないが、かつてはヴィルが、今はヤスミンが「シュメッタリング」の呼び方を使っていたので、蝶子にはなんともなかった。
葬儀には、たくさんの弔問客が来た。二人を力づけようと、ヤスミンはアウグスブルグ軍団に連絡を取り、劇団員が山のようにやってきた。カルロスとサンチェス、それにイネスとマリサ、カデラス氏やモンテス氏もやってきた。稔とレネももちろん二人の近くにいた。
マイヤーホフや教授と親しかった人たちは、エッシェンドルフが変わり、これまでとは違っていることをはっきりと知った。アーデルベルト様は亡くなられた旦那様のコピーでいるつもりはまったくないのだ。
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実りの秋

夏を惜しんで、「この寒さは何かの間違い」と念仏を唱え続けていましたが、やはりとっくに夏は終わっていたらしいです。暦の上でももう堂々たる秋で、9月の頭からは狩りのシーズンが始まっているので、レストランでもスーパーでもジビエ料理推し(笑)
周りの植生もどんどん秋色になっていて、そろそろ今年のワインが準備される頃になってきました。
普段なら、こういう本格的な秋になる前に遅い夏休みを取って旅行に行くんですが、今年は日本に行く予定があるためにまだ休暇を取っていません。その日本行きも、まもなく。
せっかくですから日本の秋を存分に楽しもうと思っています。
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【キャラクター紹介】番外編・人間以外
なんですが、今回はちょっと趣向を変えて、人間じゃないキャラクターを並べてみましょう。そんなのほとんどいないと思っていましたが、意外とあちこちにいました。ここでは、かなり重要な役割を果たすキャラクターだけ並べてみました。
【基本情報】
作品群: 「夜のサーカス」シリーズ
名前: ヴァロローゾ
種: ライオン
居住地: イタリア
年齢: 本編中では4歳。

サーカス「チルクス・ノッテ」で曲芸用に飼われている。何匹か居る中で、ライオン使いのマッダレーナとの相性が一番いい雄ライオンとして登場。ヒロイン、ステラが狼に襲われた時に吠えて追い返してくれた他、ストーリー上のここぞという時に大事な役割を果たす。
【基本情報】
作品群: 「タンスの上の俺様」シリーズ
名前: ニコラ(俺様ネコ)
種: 猫
居住地: 日本
年齢: 不詳。主に仔猫として登場。

もともとは、招き猫だったが、天命を全うしたので願い通りに猫として生まれ変わったという設定。特に何かができるわけではないのだが、どういうわけだかウルトラ上から目線で、態度が悪い。おそらく、ブログ小説界でもっとも感じが悪く愛されないタイプの猫。意外とグルメ。
【基本情報】
作品群: 「ニューヨークの異邦人」シリーズ「郷愁の丘」(未発表)
名前: ルーシー
種: 犬、ローデシアン・リッジバック
居住地: ケニア
年齢: 2歳

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現在執筆中の「郷愁の丘」に出てくる。ヘンリー・G・スコット博士の飼い犬で、ケニア中部の「郷愁の丘」とは呼ばれる地域に住んでいる。ルーシーという名前は、1974年に発見された人類の祖先アウストラロピテクス・アファレンシスの化石の愛称から。ローデシアン・リッジバックはライオンにも立ち向かう勇猛な犬で、ルーシーも例に漏れず優秀な番犬。普段は飼い主以外には懐かない。ただし、ヒロインであるジョルジアにははじめから懐いた。すみません、一生懸命書いています。もう少々お待ちください。
【基本情報】
作品群: 「樋水龍神縁起」シリーズ
名前: 樋水龍王神
種: 龍、もしくは、川
居住地: 島根県奥出雲樋水村
年齢: 不詳
ここに並べるのはどうかと思ったけれど、ついでに。島根県奥出雲にある架空の樋水村にある樋水龍王神社の主神で樋水川の神格化。神社の奥にある龍王の池と呼ばれる池の誰も見た事がないという瀧壺にとぐろを巻いていると言われている。神出鬼没で水のあるところには自在に出没できるらしい。その辺の川にいることもあれば、ほうれん草やパスタを茹でているお湯の中にもいる一方、どこにもいない空の存在でもある。
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多数決で即決していくのに慣れていて、今回も大切なことをあっさりと決めています。人生には、時おりこういうことがあります。本当はもっとじっくり考えて決めたいけれど、そういう大問題ほど急いで決めなくてはならないのですよね。そして、後で「あの時がターニングポイントだったんだな」と思ったりするのかもしれません。
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大道芸人たち Artistas callejeros 第二部
(5)ミュンヘン、弔いの鐘 -2-
「ヴィル? ああ、よかった。連絡がこないので心配していたのよ」
「蝶子。あんたと早急に話をしなくてはならない。だが電話で話せるようなことじゃない。葬儀まではやることがありすぎて、俺はスペインには戻れない。たぶん、あんたはここには来たくないだろうが、ミュンヘンか、それとも少なくともゲルテンドルフあたりにでも来てくれないか」
「いいわよ。明日、そっちに行くわ。平氣よ。迎えなんかいらないわ。道はわかっているもの」
そう答える蝶子を横目で見て、稔とレネは顔を見合わせた。
「行くのかよ」
電話を切った蝶子に稔が問いかけた。
「なにかとても大切な話があるんですって」
「なんだよ、それ。大丈夫なのか?」
「危険があるようには聞こえなかったけれど」
蝶子の答えに、レネは心配そうに眉をひそめた。稔はじっと考えていたが、やがて言った。
「俺たちも行こう。もしかしたら助けが必要かもしれないし。もし、俺たちに用がなければ、俺たちはミュンヘンで稼げばいいじゃないか」
レネも力強く頷いた。蝶子はほっとして笑った。
「またサンチェスさんに予約をお願いしてくるわね。すぐ出られるようにしてね」
「今度は、三味線持っていくぞ」
「ミュンヘンに行くって、ヤスミンに電話してこようっと」
三人はばたばたと行動に移った。
翌日の午前の便が取れたので、二時にはもう三人はエッシェンドルフの館の前にいた。
館に行くこと自体は怖くなかった。教授がもういないなら恐れるものはなかった。けれど、使用人たちの前にどんな顔をして入っていっていいのか、蝶子にはわからなかった。
「いいか。俺たちは外で待機している。三十分経ってもお前が戻ってこなかったら、突入するから」
蝶子の緊張の面持ちを見て、稔は言った。蝶子は笑った。
「心強いわ。行ってくるわね」
以前と同じように手入れの行き届いた石畳の小道を通って、蝶子は玄関に向かった。意を決して呼び鈴を鳴らす。出てきたのは喪服を着たマリアンだった。
「まあ、蝶子様。ようこそ。アーデルベルト様がお待ちですわ」
「ありがとう、マリアン」
「あの、こんなときですけれど……」
「え?」
「ご結婚、おめでとうございます」
蝶子は困ったように笑った。マリアンは皮肉ではなくて本心から言っているようであった。
「ありがとう」
そうやって話している時に、階段の上からヴィルが降りてきた。やはり喪服を着ていた。
「蝶子。悪かったな。呼び出したりして」
蝶子はヴィルに耳打ちした。
「あのね。ヤスとブラン・ベックも来ているの。私が三十分以内に安全に姿を現さない場合、強行突入するって手はずになっているの」
ヴィルは少しおかしそうに顔を歪めて、そのまま玄関に向かい、外の二人を呼び寄せた。
「大丈夫だ。何の危険もない。今回は丁重に扱ってもらえるぞ。俺たちの待遇は改善されたんだ」
二人は肩をすくめて、中に入ってきた。
「俺たち、心配だったから一応ついてきたけれど、なんでもないなら英国庭園あたりで稼いでいるぜ」
稔の言葉にレネも頷いた。だがヴィルは頭を振った。
「いや、あんたたちにも一緒に聞いてもらいたい話なんだ。とにかく俺たちの今後のことに大きく関わってくる話だから」
そういうと、ヴィルは三人を連れて応接室に向かった。途中で、マリアンに声をかけた。
「この二人のために、寝室を二つ用意しておいてくれないか」
「わかりました。二階の東の二部屋の準備をしておきます」
「ありがとう」
応接室は広く、優雅な調度が置かれていた。がっしりとした座り心地のいいルイ十六世様式の椅子や重厚な飾り棚が、いかにもドイツという感じで、同じ裕福な館でも華やかで異国的な要素の強いバルセロナのコルタドの館とは好対照だった。
ヴィルは重い扉を閉じると、棚からアクアヴィットの瓶と小さいグラスを四つ取り出してきた。
「一ダースも注文したのに、あの晩俺が一口飲んだだけで誰も手をつけていないんだ」
レネがにっこりと笑った。
「まだ、飲んだことないんですよ」
「販売しているのにか?」
「あれが最初で最後の販売だったんで」
四人はグラスを合わせて、その透明の酒を飲んだ。
「うげ。強い」
稔は目を白黒させた。レネは咳き込んだ。
「これ、12本もあるわけ?」
蝶子も氣が遠くなる思いがした。ヴィルだけが平然と飲んでいたが、一杯でやめて、代わりに白ワインを持ってきた。
「それで?」
蝶子がヴィルの顔を見た。
「俺は今、選択を迫られている。つまり、相続するか放棄するか」
「お蝶はともかく、俺とブラン・ベックに相談する必要はないだろう?」
稔はあっさりと言った。
「そういうわけにはいかない。Artistas callejerosの今後にも関係がある」
ヴィルは答えた。
「それはつまり、相続したら、お蝶とテデスコが抜けるってことか?」
稔の言葉に蝶子はびっくりしてヴィルの顔を見た。
ヴィルは即座に首を振った。
「抜けるわけはないだろう。だが、活動には影響が出る。もらうのは単なる銀行預金ではないので、受け取るだけ受け取って、年中ほっつき歩いているわけにはいかなくなる」
「というと?」
「コモやバロセロナ、それにマラガの仕事をするぐらいは問題ない。また、秋にピエールを手伝うのも問題なくできる。だが、それ以外は半分くらいになるだろうな。月に一度、数日間はここに戻らなくてはならないだろうし、お偉方とつきあわなくてはならないことも増えると思う」
蝶子はほっとした。思ったほど悪くないじゃない。
「相続したほうがいいと思う理由もあるんでしょう?」
蝶子の言葉にヴィルは頷いた。
「以前、大道芸人は若くて健康でなければできないという話をしただろう。今は自由で氣ままな旅さえできればそれでいいが、そのうちに体が利かなくなる。その時に四人とも安心していられる」
「カルちゃんにたかってばかりいる状況も改善できるわね」
「そうだ、それが二つ目だ。彼の事業に協力することも可能になる」
蝶子はそんなことは考えたこともなかったが、確かにそうかもしれないと思った。
「それから、三つ目だ。俺はあんたたちの才能を街角の小銭集めだけで終わらせるのは残念だと常々思っていた。俺が相続すれば、俺たちの活動の可能性がもっと広がる」
ヴィルは稔、レネ、それから蝶子の顔を順番に見た。
「だったら、どうして相談する必要があるんだ?」
稔が訊いた。
「これは俺の考えで、あんた達がどう考えるかはわからないからだ。もしこの相続で、Artistas callejerosが壊れるなら、俺は相続を辞退するつもりだ。それほどの価値はないからね」
「いまのところ、壊れるようなことは考えられないよな。先のことはわかんないけれど、俺たちの氣持ち次第で続きもするし、壊れもするんじゃないかな。とくにマイナス要因はないよ。相続すればいいんじゃないか?」
稔が言った。レネも手を挙げて賛成の意を表した。
ヴィルは蝶子の方を見た。
「あんたには、反対する他の理由があるだろう。ここに関わるのはイヤなんじゃないか?」
蝶子は少し間を置いてから首を振った。
「日本の諺に『毒を食わらば皿まで』っていうのがあるのよ。こうなったらどんな恥を上塗りしても同じだわ。利点の方が大きいもの、私は意義なしよ」
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鳴らしちゃダメ

他の国はよくわかりませんが。
もしスイスのレストランで、こういうベルを見かけたら、不用意に鳴らすのはやめましよう。
これを鳴らした人は、その場にいる客の分の全ての代金を払うという伝統があるんだそうです。
あ、もちろん払いたければどうぞご自由に。かなりの確率でクレジットカードの限度額を超えてしまうと思いますけれど。
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なくてもなんとかなる

日本の友達や親戚に会う度に「和食の材料がなくて困るでしょう。私は海外では暮らせないわ」というようなニュアンスのことを言われます。
でも、そうでもないんです。まあ、私自身があまり純和食にこだわらないタイプな上、さほど舌が肥えていないということもあって、まったく困っていません。
少なくともキッコーマンの醤油は、どんな田舎でも買えるんですよ。なんとか醸造の特別なお醤油じゃないと食事ができないって方は別ですけれど、和食と中華料理を作りたい時は、醤油さえあれば、あとはなんとでもなると思っています。
日本酒や紹興酒はありません。白ワインで代用しています。みりんもありません。白ワインとお砂糖、もしくはメープルシロップ、もしくはトカイワインなどで代用します。味噌は都会に行った時に購入した八丁味噌か赤味噌を冷凍庫に入れてあります。この味噌をつかうと豆豉醤や舐面醤などに近い味も作れます。
ここ数年近くのスーパーではオイスターソースを扱わなくなってしまいましたが、ネットで知ったキノコで作る「ベジ・オイスターソース」を使えば同じくらい美味しくなることが判明、わざわざオイスターソースを探しまわるのはやめました。
米酢もないんですが、和洋中どれにも違和感なく使える「ホワイトバルサミコ酢」を使っています。まあ、リンゴ酢でもいいんでしょうが、上質の「ホワイトバルサミコ酢」はまろやかでどんな料理をも邪魔しないのです。
それから鶏ガラスープの素のかわりに、自分で茹でた鶏のスープや粉末の鶏スープの素が使えますし、椎茸が切れていてもポルチーニ茸の乾燥したものを使います。
という具合に、どんな調味料もなんらかの代用品があるんですよね。カレールーや、シチューのルー、調味済みのソースのレトルトパックの類いは手に入りませんので、インスタントのような楽さはありませんが、自分で作った方が奇妙な添加物も摂取せずに済みますよね。
もちろん例えば松茸のお吸い物が食べたければ、代用できるものなどありませんけれど、そこまで限定される食材ってあまりないんですよね。
例えばカツ丼がどうしても食べたくなったとします。こちらでは、いくつかのハードルがあります。例えば日本風のパン粉がない。揚げ物をするとオイルの処理が面倒などなど。材料が揃ったとしても、ヒレ肉を叩くところからやっているとカツ丼一杯のために何時間かかってしまうことか。
でも、こちらにあるシュニッツェルを使って、甘辛いお醤油を使っただし汁で煮込んで卵でとじてしまえばかなりすぐできるし、満足もします。簡単に作れれば、また時々やろうと思いますよね。
調味料や食材もそうですが、日本ではないと購入できない調理器具も、なくてもなんとかなります。
例えば私は炊飯器を持っていません。日本にいた頃から鍋でも炊けたので、最初はそうやって炊いていましたが、途中からシャトルシェフを使って炊くようになりました。実はオーブンでも炊けるのです。時間はかかりますが。
電子レンジも持っていません。これは売っていますけれど、連れ合いが「体に悪い」と嫌がったので使わずに工夫したら問題なく生活できるので、逆らわずに無しの生活を続けています。
都市ガスが走っていないので、調理は電氣コンロです。だから火加減などが東京にいたときと違います。魚焼きグリルなどもないです。でも、「これがないから、これは作れない」というように不満に思ったことは一度もないので、どんな台所でも、自分のお城なら何とかなるものだと思っています。
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【小説】大道芸人たち 2 (5)ミュンヘン、弔いの鐘 -1-
今回も、長いので、3つに分けています。
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大道芸人たち Artistas callejeros 第二部
(5)ミュンヘン、弔いの鐘 -1-
サンチェスの持ってきた電報をじっと見ていたヴィルに、蝶子が心配そうに声をかけた。
「どうしたの?」
ヴィルは黙って、電報を蝶子に渡した。差出人はエッシェンドルフ教授の秘書のマイヤーホフだった。蝶子の電報を持つ手が震えた。
「チチウエ シス シキュウ レンラクサレタシ」
ヴィルはカルロスに電話の使用許可を求めた。そして、マイヤーホフにではなく、ミュンヘンのシュタウディンガー博士という医者の診療所に電話をかけた。またしても父親の策略ではないかと思ったからだ。
「アーデルベルト・フォン・エッシェンドルフです。シュタウディンガー先生とお話ができませんか」
博士は不在だったが、診療所の指示で博士の携帯電話にかけ直した。
「アーデルベルト君か。よく電話してくれた。いま、私はちょうど君のお父さんの館にいるんだ。そうだ。本当にお父さんは亡くなった。心臓発作だ。マイヤーホフ君がどうしても君と連絡を取りたがっている。ここにいるから話してくれないか」
「替わってください」
ヴィルはしばらくマイヤーホフと話していたが、電話を切ってから蝶子に言った。
「ミュンヘンに行かなくてはならない」
「わかったわ」
「向こうに着いたら、すぐ連絡する。あんたはここにいるんだ」
「連絡がこなかったらまた迎えに行くから」
ヴィルは蝶子の頬に手をやって頷いた。
「で、行っちゃったのかよ?」
マリサとのデートから帰ってきた稔は驚いて言った。
「そうなんです。ミュンヘン行きの飛行機をサンチェスさんがすぐ手配してくれたんで」
レネがイネスの作ったチュロスを食べながら言った。
「大丈夫なのか? またしてもカイザー髭がなんか企んでいるんじゃないのか?」
稔はとことんエッシェンドルフ教授を信用していない。蝶子はそれももっともだと思った。
「信頼できるお医者さんが、本当に亡くなったっておっしゃったみたいなの。でも、連絡がこなかったら、迎えにいかなくちゃいけないでしょうね」
「おいおい。二ヶ月に三回もバイエルンとバルセロナ往復かよ」
「ごめんなさいね。私たちのことで振り回して」
「いいけどさ。だけど、テデスコは複雑な心境だろうな。いくら逃げ出したとは言え父親だからな」
「パピヨンも、大丈夫ですか?」
レネが蝶子を心配した。
「ショックなのは確かだけれど、でも、ヴィルの方が心配だわ」
「まあ、アーデルベルト様」
家政婦のマリアンが半ば泣いているように迎えでた。
「マイヤーホフはここにいるのか」
「はい。先ほどから応接室で顧問弁護士のロッティガー先生と一緒にお待ちです」
「そうか」
ヴィルは応接室に向かった。
「お待たせしました」
「ああ、アーデルベルト様、お待ちしていました」
マイヤーホフは心底ほっとしたようだった。
「二度と戻ってくるつもりはなかったんだが」
ロッティガー弁護士とマイヤーホフのお悔やみの言葉を、ヴィルは軽くいなして、先を続けさせた。
「先日、フロイライン・四条あてに招待状を送ったときの指示メモが残っていたのが幸いでした。アーデルベルト様がみつからなかったら、葬儀も今後の使用人の身の振り方もお手上げなんですよ。他に取り仕切る権限のある方がまったくいませんからね」
「あんたがすればいいじゃないか」
「私は単なる使用人です。法的にも全く何の権限もないんです。たとえば、もう銀行預金が凍結されているので葬儀の準備も私どもでは手配できません。かといって先生ほどの方の葬儀をしないわけにもいきません。また、月末までこういう状態だと、全使用人が給料をもらえませんしね」
マイヤーホフの言葉に頷いてロッティガー弁護士は続けた。
「アーデルベルト君。君は、お父様の死で自動的にこのエッシェンドルフの領主になったんですよ。わかりますか」
「俺は、親父が遺言状をとっくに書き換えたと思っていましたよ」
弁護士は首を振った。
「エッシェンドルフ教授があなたが十四歳の時に作成した遺言状は一度も変更されていません。つまり、あなたを跡継ぎとしたその遺言が有効なのです。もちろん、あなたには相続を辞退する権利もありますが、少なくとも葬儀並びにすべての手続きが終わり、彼ら使用人の身の振り方が決まるまでは、煩雑な義務の山からは逃れられないんですよ、残念ながら」
「もちろん、このまま我々が新しい職場を探さずに済むなら、それに超したことはないのですが……」
マイヤーホフが小さく付け加えた。ヴィルはため息をついた。
「わかりました。とにかくすべきことをしましょう」
「なぜこんな急に親父は死んだんだ? 心臓が悪かったのか」
弁護士が帰ると、ヴィルはマイヤーホフに訊いた。
「いいえ。時々不整脈がある程度でしたが、もともと大きな発作があったわけではないのです。それが……」
マイヤーホフは言いにくそうにしていたが、意を決したように顔を上げた。
「申し上げておいた方がいいでしょうね。どうぞこちらへ」
そういって教授の書斎にヴィルを案内した。そして、デスクの上にあった一枚の書類を見せていった。
「実は、遺言状のことをもう一度きちんと検討したいとおっしゃって、私にいくつかの書類を用意するようにお申し付けになったのです。それで、言われたように準備してお渡ししたところ、これをご覧になって非常にショックを受けられ、それで発作を……」
それはヴィルの、つまりアーデルベルトの家族証明書だった。結婚したばかりの妻、蝶子の名前が記載されていた。ヴィルは黙ってそれを見ていた。つまり、これが原因で命を落としてしまったというわけか。
「じゃあ、親父は遺言状を変えるつもりだったんだな」
「検討したいとおっしゃっただけです。どうなさるおつもりだったかはロッティガー先生も私も伺っていません」
「だが、あんたたちは、俺が相続するのは腹立たしいだろう。そんな事情では」
「どういたしまして。代わりに私を相続人に指定すると言われていたなら悔しいでしょうが、そんなことはあり得ませんからね。私としては、見知らぬ方に放り出されるよりは、これまでのことを知っているあなたに公正な処遇をしていただくのを期待したいわけでして」
「とにかく、葬儀を進めよう。相続については、いますぐは決められない。もちろん、あんたたちの給料が出ないままなんかにはしておかないから安心してくれ」
「それを聞いて安心しました」
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メフィスト・ワルツ
先週の月曜日、チューリヒのトーンハレで行われた津田理子氏のピアノ・コンサートに行ってきました。いろいろとご縁あって、出不精な私がたくさん聴かせていただいている方なんです。いやあ、すごいコンサートでした。
で、難しい曲目がたくさん並んでいたのですが、中でも「ひえ~」と思ってしまったのが、リストの「メフィスト・ワルツ 第一番」でした。
この曲、もちろん録音では聴いた事はありましたが、生で聴くのは初めて。どんな風に弾いているのか目にすると「ありえない」と思ってしまう曲でした。(というか、コンサートで弾くような曲はどれも人間業には見えないですけれどね)
名前が示すように、この曲は「ファウスト伝説」をモチーフに作曲されていて、「村の居酒屋での踊り」といわれるこの第一番は、「農民たちが踊る居酒屋をファウストと訪れた悪魔メフィストフェレスが、ヴァイオリンを弾き始めて農民たちを陶酔に巻き込む」情景を表しているとのこと。
聴いているうちに引き込まれてしまうメロディもすごいのですが、このピアニスト泣かせの超絶技巧の嵐、弾いている人は「あんたが悪魔だよ、リスト」って言いたくならないのかなあと、ちょっと思ってしまいました。
私はピアニストではないので、人ごとで堪能できるんですけれど。
そして、この曲、頭の中で回り続けます。一週間もぐるぐるしています。
どんな曲かご存じない方のために、Youtubeで拾ってきた演奏を。演奏はトリフォノフ氏。この方、すごいですね。
Trifonov, Liszt mephisto-valse
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主人公とヒーローとヒロインと
このブログでは、長編のはじめに、「あらすじと登場人物」を出来るだけ置くようにしています。これは連載の始めに来訪者に「あれ、こんな話なら読んでみようかな」と興味を持っていただくための仕掛けであると同時に、連載途中で「こいつ何者だったっけ」と思われた方が簡単に思い出せるように常にリンクをしておく役割も持たせています。
で、もちろん最初は主要な役割をする人物から書いていくわけですがそこでいつも筆が止まります。
「この作品のヒロイン」はさらっと書けるんですが、「この作品のヒーロー」と書こうとすると「そうか?」と首をひねってしまうんですね。
話をわかりやすくするために過去に連載した長編の話で書きますね。「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」の主人公はマックスです。(異論があろうとなかろうと、マックスなんです。レオポルドじゃありません・笑)でも、あの人のことを「ヒーロー」と書けるであろうか、いや、書けない(漢文翻訳調)
ヒーローという言葉には「英雄」という意味が含まれているように思うんです。でも、うちに出てくる主人公的男、英雄が少なすぎ。というか、ゼロ? 英雄とまでいかなくても、主体的に問題を切り拓いて、少なくともヒロインを救い出していれば「ヒーロー」と書いてもいいように思うんですけれど、そんなことやっている人もほとんど見当たりません。ほとんどじゃないか、全然いません。
「ヒロイン」というのは「ヒーロー」の女性形ですが、別に英雄的役割が期待される単語ではないと思いますし、一般的なヒロインのお約束のように外見的美しさと内面の美しさの両方を兼ね備えているタイプのキャラクターはうちにはいないんですけれど、それでも「ヒロイン」という言葉に疑問を持つほどではないかなと思います。そう思うと「ヒロイン」という言葉のさす範囲は「ヒーロー」よりずっと広いのかもしれませんね。
私が「この作品の主人公」と「この作品のヒロイン」という言葉を遣うのは、「この作品の主人公」が二人いると奇妙かなと思うからで、実は主要な役割を女が持つ場合でもこうやって書くことが多いです。
「大道芸人たち Artistas callejeros」は別で、この話だけは主人公は「Artistas callejeros」と呼ぶグループ4人全員という位置づけになっています。
さて、どうして私の小説のメインキャラクターに、こんなタイプばかりが来るのかなと考えてみました。
おそらく書こうとしているものが「憧れ」を発端としての小説ではないからなのではないかと思います。小説の書き方をものすごく乱暴に二つに分けると「自作小説くらいは好きなものやこうあってほしい世界で構成したい」という方と「自分がみて考えている世界を投影したい」に分けられるように思うんですよ。で、私の小説はきっと後者なんですね。頑張って前者を目指して書き出しても、必ず後者に寄って書き上がってしまうのです。
私は例えば「水戸黄門」の世界も好きです。週に一度、悪代官と悪役商人が懲りずに悪いことをして、それをバッタバッタの殺陣と印籠で制して世界を平和に導く、あのわかりやすい物語性にスカッとします。同様に職業作家や多くのブログのお友だちの書かれる上でいう前者タイプの小説を読むのも好きです。でも、それは私の書きたい物ではないんですね。
私が書いているのは、もしかすると、一種のセラピーなのかもしれません。誰に対してではなく、自分に対しての。
特定のジャンルに分けられる作品を書きたいのではなく、面白い物を書きたいのでもなく、起承転結にあたる完璧な構成の物を書きたいのでもない。ましてや私が愛している人格のことを書きたいわけでもないようなのです。
男でも女でも、私の書く主要人物は美点よりも弱さや欠点、欠点というのが言いすぎならば抱える問題の方が目につきます。
私が書き続けている全ての作品を貫くメインテーマ(漢字で二文字の「○○」)は、私自身に対する客観的なアプローチです。私はそれを私自身の抱える問題とは呼びません。全ての物事にいい面と悪い面があるように、私の対峙する大テーマにもいい面と悪い面があります。私はそれを、自分の生涯に寄り添うパートナーとして、ありのままに受け入れたいと思っているのです。
私小説のように現実の具体的な出来事に対するアプローチではなく、もっと多角的に新しい世界を作り出す楽しみの中で、常に同じテーマに対してそのいい面とよくない面、もっというなら様々な選択と受容を提示しつつ書いているのだと思います。
話は戻ります。こういうタイプの小説の主要人物を語るのにちょうどいい単語って、「主人公」「ヒーロー」「ヒロイン」に他にないんでしょうかね。
今一番メインで書いている小説、どうひっくり返しても「ヒーロー」と「ヒロイン」の物語じゃないんですよね。
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【小説】秋、まつり囃子
今日発表するのは、読み切り短編集「四季のまつり」の第3回、秋の話で「秋祭り」を題材にした掌編です。
第1回と、第2回が両方とも既に書いた作品の外伝だったのですが、この作品は完全な読み切りにしました。モチーフは祭のお囃子で、イメージしたのは「葛西囃子」ですが、すみません、よくわかっていません。
それと、モーリシャスの密輸話が出てきますが、これは連れ合いの友人に起こった実話をモデルにしています。その人は、未だに服役しているみたいです。うまい話には氣をつけましょうってことで。
秋、まつり囃子
西陣織の袋の紐を回して解いた。それはまるで茶道のお点前のように、定められた動きだ。どうしてもそうしなくてはならないわけではないけれど、誠也がそうしていた姿を忘れないために、私も同じようにする。
甲斐のご隠居が、じっと私を見つめている。秋祭りは明後日に迫っている。約束の10年。私は誠也の代わりにこの伝統を受け継ぐのだ。
子供の頃から、秋になると加藤誠也の付き合いは極端に悪くなった。彼だけでなく彼の家族全員の関心が
私の通っていた小学校は、M区の11番目の学区にあった。隣のS区との境界が変則的で、一度S区に入ってそれから再びM区に入る通学路のせいで、同じ通学路を使うのは私と誠也だけだった。誠也は、祭が好きなだけあって氣っ風のいい江戸っ子で2つ歳下の私の面倒をよく看てくれた。帰宅時には待っていてくれたし、クラスのいじめっ子に上履きを隠された時も、談判して取り返してくれた。
私は、孵ってすぐに犬を見てしまったアヒルみたいに、誠也の後について歩いていれば安心する変な子供になってしまった。
でも、今、周りの人たちが思い込んでいるような、甘い想いを誠也に抱いたことはない。誰もが私が篠笛を吹くようになったのは、誠也に恋をしているからだという。でも、本当にそんなことじゃないのだ。
私は残業をしない。「腰掛け女め」とあからさまに嫌味を言う男もいる。言いたければ言えばいい。私には営業時間中にダラダラと暇をつぶし、5時近くなってからようやく仕事を始めているような時間がないのだ。
可能な限り定刻で上がり、甲斐のご隠居の家に急ぐ。そして、「とんび」つまり篠笛を習う。「屋台」「昇殿」「鎌倉」「四丁目」曲目はこの4つだが、まともに吹けるようになってきたのはここ3年ほどだ。
私が甲斐のご隠居に教えてほしいと頭を下げたとき、誰もが「冗談もたいがいにしろ」と言った。女の私がお囃子に加わるなんてとんでもないとも言われた。誠也があそこまで吹けたのは6年も精進していたからであって、そんな簡単に代わりができると思うなんて思い上がりだとも言われた。
最終的に味方をしてくれたのは、他でもない甲斐のご隠居だった。
「今の時代、男だ女だと言っていたら、お囃子の伝統は途切れてしまう。やりたいと言うからには、弱音は吐かないだろう。10年精進できたらわしに代わらせよう。どっちにしても、わしがくたばるまでに他の志願者はもう出てこんだろう」
私が「とんび」を習い始めて2ヶ月くらい経った頃、誠也のお母さんが私を訪ねてきた。
「秋絵ちゃん。話しておかなくてはいけないことがあるの」
私は、静かな喫茶店で誠也のお母さんと向かい合った。彼女は、しばらく何でもない世間話をしていて、私は彼女が話を始めるのを待った。やがて、彼女は決心したように私を見た。
「ねえ、秋絵ちゃん。あなたがお囃子の笛を習いだしたことだけれど、誠也の代わりにと思ってくれたんじゃない?」
「はい」
「その……あなたと誠也は……何か約束をしていたの?」
私は首を振った。
「いいえ。誠也はお祭りのことやお囃子のことは、何も」
「ううん。そういう意味ではなくて、その……」
私は、お母さんが示唆していることがわかって、大きく首を振った。
「いいえ。つき合っているとかそういうことはなかったです。それに、誠也にはユキさんという彼女がいますよね」
「そう」
誠也のお母さんはため息をついた。それから、またためらいがちに訊いた。
「あの子がどうしていなくなったか、知っている?」
「いいえ。いろいろな事を言う人がいますけれど……」
そう。誠也は死んだとか、ユキさんと駆け落ちしたとか、伝染病で隔離されているとかみんなが勝手なことを言っていた。でも、お葬式もなかったし、ご家族が泣いているような様子もなかった。
お母さんは、声を顰めた。
「全部違うの。あの子はね、モーリシャスで逮捕されたのよ」
私は心底驚いた。逮捕? モーリシャス?
その後、誠也のお母さんが話してくれたことは、私の想像を大きく超えていた。誠也は、インターネットで知り合った誰かから特別なバイトを引き受けた。それは南アフリカ共和国からモーリシャスにダイアモンドの原石を運ぶだけの簡単なものだった。ただでモーリシャスに行けると知って彼は喜んだ。けれど、その箱にはダイヤの原石ではなくて麻薬が入っていたのだ。
「弁護士さんが言うには、誠也は囮に使われたみたいなの。あらかじめリークして、わずかな量の麻薬を持った人の捕り物をさせておき、その後からもっと大量の麻薬を持った目立たない人間を通らせる手口があるんですって。でも、誠也は現行犯で逮捕されてしまったので、どうにもならないの。彼には懲役20年が求刑されているの」
私は言葉を失った。お母さんは申しわけなさそうに言った。
「その……もし、秋絵ちゃん、あなたが誠也の帰ってくるのを待っているんだとしたら……ちゃんと話してあげた方がいいと思ったの。待っているうちにあなたの人生を無駄にしてしまうから」
私は首を振った。
「それは私じゃなくて、ユキさんにおっしゃることじゃありませんか」
お母さんは悲しそうに肩をすくめた。
「ユキさんね、別の方と婚約したんですって。誠也の自業自得とはいえ、落ち込んでいるあの子に言いにくくて、まだ言っていないんだけれど」
お母さんは後に、彼が本当に懲役刑になったことを教えてくれた。いつの間にか誠也がどうしたのか噂をする者はいなくなった。人間は簡単に忘れられてしまうんだなと、悲しくなった。私は一度だけ誠也に手紙を書いて、お母さんに送ってもらった。誠也が跡を継ぐはずだった甲斐のご隠居の「とんび」を私が習い始めていること、戻ってきたらいずれ一緒にお囃子をやりたいということを。
返事はもらわなかった。
そして、あっという間に10年が経った。甲斐のご隠居は、ようやく私に今度の鷲神社秋祭りのお囃子で演奏することを許してくれた。法被を作り、他の演奏者たちと1年にわたり入念な練習を重ねてきた。はじめは女だからと反対していた大太鼓の長さんも、鉦の大二郎さんとも息のあったお囃子が演奏できるまでになってきた。
私は日本のお祭りの伝統を受け継ぐのだ。甲斐のご隠居が守ってきた、誠也が夢見ていた、失われてはいけない日本の文化を未来に受け継いでいくのだ。女であろうと、誰かの恋人ではなかろうと、そんなことは関係ない。私は
祭礼当日。昨日から少しずつ始まったお祭りの設営は、昼前には全て終わった。射的の屋台ではきれいに並べられた景品を手に入れようと銃を打つ音が聞こえだした。水色の浅いプールには金魚が泳いでいる。それにゴムのヨーヨー同士がこすれる音。風船を膨らます音。カルメ焼きや綿飴の屋台からは砂糖が焦げるいい香りがして、それにイカ焼き、焼きそば、トウモロコシ、今川焼などのたまらない香りが漂う。
その全てにノスタルジックな祭らしさを加えるのがお囃子だけれど、それをいま演奏している社中にこの私が加わっているのだ。去年までは、脇に控えて甲斐のご隠居の演奏を聴いていた。今年はその位置にいて私たちを見ているのがご隠居だ。
もちろん夜までずっと私が吹くのではなくて、朝、昼、夜と1回ずつの出番で、残りは今まで通り甲斐のご隠居が吹く。なんといっても「とんび」はお囃子の主導的な役割を担っていて、私のような若輩者が僭越ながらベテランの長さんたちを率いるのだ。
十年もずっと練習してきただけのことがあって、指の動きも音色も滑らかにできた。それでも、祭の雰囲氣はいつもの練習とは違って、心が昂揚しているのがわかる。通りかかった親子が楽しそうに眺めていく。
父親と母親は、心配そうに朝一番で見にきたが「思ったよりまともなお囃子になっているぞ」と失礼な驚き方をして帰っていった。
去年まで実行委員で忙しくしていた誠也のご両親の姿は、今年は見ていなかった。一昨日のリハーサルの時に誠也のお母さんが少しだけ見にきて、何かを言いたそうにしていたけれど、時間がなかったのかそのまま帰ってしまった。
もしかして、加藤のおばさんは、私が誠也の代わりにここで吹いているのを見るのがつらいのかな。そんな風に初めて考えた。モーリシャスの監獄で20年も過ごすなんて。その間の青春もキャリアも、みな無駄になってしまって。ユキさんと結婚でもしていたら子供はもう小学校に入る頃だ。
今夜の最後の出番を終えた。「屋台」を威勢良く吹き終えて、五人揃ってお辞儀をした。笛を西陣の袋に収めて神楽殿から退出する。脇で待っていた甲斐のご隠居が「よくやった」と笑って褒めてくれた。
「ありがとうございました」
私は、ようやくほっとして、それから肩がひどく凝っていることに氣がついた。
「練習と違って、本番は、緊張するだろう」
「はい」
「来年は、もう少し出番を増やすからな」
「はいっ。この後は、ご隠居のお囃子を聴いて勉強しますね」
そういうと、ご隠居は首を振った。
「今日はもういい。お前を待っていた人がいるから、屋台めぐりでもしてくるがいい」
誰だろう? 私が今夜お囃子で演奏することを知っている人なんてそんなにいないはずなのに。ご隠居が示した方を見たら、ありえない人が立っていた。
「誠也!」
モーリシャスの監獄にいるはずの幼なじみが、立っていた。昔とあまり変わらないジーンズと、チェックのシャツを着ていたけれど、痩せて日に焼け、それにかなり白髪が交じっていた。でも、少なくとも彼はわずかに笑顔を見せていた。
「どうして? 帰って来れたの?」
「うん。判決では15年の実刑だったんだけれど、品行方正のせいか早く出してもらえた」
「いつ帰って来たの?」
「3日前」
だから今年は加藤家が誰もお祭りの運営にいなかったんだ。息子が帰ってくる準備でそれどころじゃなかったから。
「よかった」
私は、ほっとしてパイプ椅子に座り込んだ。誠也はポケットに手を突っ込んだまま肩をすくめた。
「立派なお囃子デビューだったな、秋絵」
誠也の言葉に、私は顔を上げた。
「そう思う? 私は10年前の誠也の方が上手かったと思うけれど、でも、頑張ったんだよ」
誠也はポケットからくたびれた封筒を取り出した。見憶えがあった。私が書いた手紙だ。
「これ読んでから、母に頼んで笛を差し入れてもらった。自由時間に練習したよ。何もかもダメになったと思ったけれど、少なくとも帰ったらまた、お前や社中のみんなとお祭りで演奏するんだって、励みになった」
私は大きく頷いた。嬉しくてしかたなかった。
「来年のお祭りには出られるといいね」
「そうだな。なんか食いにいこうぜ。お祭りの屋台を見たら、ようやく本当に帰って来たんだって実感したよ」
「何が食べたい? 好きなものおごるよ。振興会のみなさんからデビューのお祝いももらったし」
「じゃあ、焼きそばから行くか。それから、お前の好きなりんご飴……」
「うん。でも、その前に神様にお参りしよう。お願い叶えてくれたお礼」
「お願い?」
「誠也が早く無事に帰って来ますようにって。たぶん、みんなが同じお願いして、うるさかったんじゃないかな、
誠也は笑った。
「だから早く出て来られたのか。じゃ、もう一度お参りするか」
私たちは、
(初出:2016年9月 書き下ろし)
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芝生のお手入れ

日本と違って、スイスでは雑草がボウボウ生えているという光景はあまり見ません。ないわけではないんですが、氣がつくときれいに刈られています。
例えば公道でも数週間に一度芝刈りの車が通って刈っていきます。でも、すぐに回収しません。しばらく放置して乾かしています。そうなんです。刈った草は干し草にして家畜の冬のご飯にするんですね。
そういうわけで、わざわざ生やしてから一斉に刈り取るときもありますが、果樹園などそう簡単には刈り取れない所もあって、そんな時は夏の動物たちのレストランとなるわけです。
果樹の方も家畜の糞が肥料になるので一石二鳥。有機農法になるわけです。
ここのところ毎朝みかけるこの三頭の羊たち。キュートなので停まって眺めてしまいます。
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人生のポイント獲得
私のように普段まったくゲームをやらない人でもポケモンGOはやっているタイプは、確かにいるようで、「なぜその人たちはハマるのか」というような記事を読んだんですよ。うろ覚えですけれど、要は、「目の前に出現した何かを自分のものにできるチャンスを逃すのががまんならない人間の性質に上手く訴えたゲームだ」というような論調でした。
そうかもしれません。それに、つまらないスズメや芋虫みたいなポケモンでもコツコツと捕まえることで、経験値が上がっていき、レベルアップするってことも。それが普段の生活と直結しているというのも大きいかもしれません。けっこう忙しい生活の中で、ずっとゲーム機の前に座っているわけにはいきませんが、通勤はいずれにせよ毎日するわけでその時間内で楽しめるわけですから。
で、話はようやくこれから本題です。
ゲームにしろ、趣味にしろ、仕事にしろ、人間関係にしろ、「ポイントを獲得してステージが上がる」っていうのは、誰もが求めることなんじゃないかなと思ったんですよ。
ゲームは、簡単ではないかもしれませんが、リセットもできるし放り投げることもできます。趣味もまあ、そうですね。どちらもどのくらいの生き甲斐になっているかによって、その人生における重要性は変わってきますけれど。
職業や家族・人間関係などは、「選択を失敗した」「思ったようにはレベルアップ不可能」と思ってもそんな簡単には放り投げられなくて、ずっと深く悩んだりすることになります。
だからこそ、その代替としての別の「ポイント獲得&ステージ向上」をそれぞれに求めるのかもしれないなと思ったりします。
例えば、Twitterやインスタのフォロアー数、SNSの友達数や「いいね!」の獲得に夢中になってしまうことや、戻りますけれどポケモンの捕獲に目の色を変えてしまうこと、果てはおつき合いする異性の獲得数やステータスをその舞台に選ぶことも。もうひとつ例を挙げると、ブログで小説を発表して、「読んでもらえるか」「感想をいただけるか」「拍手をもらった!」と一喜一憂することもそういう行為なのかもしれません。
いや、反対に小説の方がメインの願いで、代替行為が仕事やら家事だったりする場合もあります。それのどれがよくてどれが悪いというわけではありません。基本的には。誰かに迷惑をかけていない限り、それはその人の人生ですから。
そして、どこかでポイントがたくさん獲得できて、さらにステージがどんどん上がると、他のことはどんどん念頭から追い出されていく、そんな風に感じます。婚外恋愛にうつつを抜かして、家族をないがしろにするなんとこともあるでしょうし、ポケモンGOに夢中になりすぎて仕事が疎かになることもあるでしょう。どこかでは小説がガンガン更新されるようになり、また別のどこかでは連載途中なのに広告が出っぱなしになる。
では、自分はどうなのかなと考えると、まだポケモンGOは仕事や家族や旅行や、そして何よりも小説ほどの価値は持っていないようです。SNSの「いいね!」がなくても焦ることもないですし、異性にモテるなんてことはハナから勝負しようと思ったことも無し。
結局のところ、私は実人生でやりたいことをやって、そこそこのポイントを獲得し、レベルアップしてきて、上にはずーっと上がいようとも氣にせずに暮らせる、かなり恵まれた幸せな状態にいるのかもしれないなと思いました。
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