fc2ブログ

scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012


Posted by 八少女 夕

二代目・ブラウン マルチクイック

以前(2014年でした)、「なくては困るもの」という記事でご紹介した事がありますが、私の料理で本当に「なくては困る」状態で活躍しているのがブラウンのマルチクイックというハンドブレンダーです。

ブラウン マルチクイック5

ミキサー、チョッパー、泡立て器の機能を全て一つのモーターにアタッチメントを付け替える事で実現するのですが、これが本当に便利なのです。上の写真のように、モーター部分は小さくて、大きめのマグカップにぽんと入れておくだけで場所はとりません。重くて水がかかってほしくないモーター部分が取れる事で、他の部分を洗うのがとても楽なのがこの商品の何よりもの強みです。あまり使わないけれど、アイスクラッシャーもついていました。そして、去年からは新たに野菜のスライサーとパンの生地もこねられるアタッチメントも購入して、とても便利に使っていました。

ところが、先日、モーターがお釈迦になってしまったのです。おそらく犯人は私です。刃が引っかかっているのに、無理して回していたせいだと思います。しくしく。困りましたよ。モーター部分がなければ、全てのパーツが役に立ちません。そして、私の料理のかなりの部分はこのマシンに頼っていたので、ものすごく不便になってしまいました。速攻でネットで同じマシンのモーター部分のみを探しました。ありませんでした(笑)

ブラウンの公式ページを見ると、現在売っているのは同じマルチクイックでも9というシリーズ、私のマルチクイックは5です。新しい方が新機能などがあるのは間違いないのですが、こんなにあるアタッチメントがみんなゴミになるのは嫌です。それにまた一から揃えると結構な出費に。

それで同じパーツが使えるものは売っていないか探すと、ありました。同じ5のシリーズで、私の持っていたものは600Wだったのが750Wに変わり色も変わっていますが、そんな些細な事は全く問題なし。モーターだけの販売はありませんでしたが、一番簡単なパーツがついているだけのものがあって、値段もOK。即ポチッと注文しました。

ブラウン マルチクイック5

三日ほどして新しいモーターが届いてから、早速毎日便利に使っています。今度は壊さないように無理して回し続けたりしないようにしなくちゃ。
関連記事 (Category: 生活のあれこれ)
  0 trackback
Category : 生活のあれこれ

Posted by 八少女 夕

【小説】あの人とお茶会に

「郷愁の丘」の連載中ですが、今週と来週はお休み。今週は「十二ヶ月のアクセサリー」四月分を発表します。四月のテーマは「和装小物」です。

アクセサリーと言うならば、正確には帯留めの飾りぐらいかなと思ったんですが、もう少し幅広くアクセサリーという事にして、乱暴ですが、帯締め、帯揚げ、伊達衿までを含めてしまいます。

和装は、日本人の民族衣装なのですが最近ではほとんど着ないという方も多いですよね。コストが高い、一人で着られるようになるまでのハードルが高い、決まり事が多くてどうしていいかわからないなど、理由はいろいろとありますが、知れば知るほど奥の深い世界で、世界に誇る民族衣装としてもっと普及してほしいなあと思います。


短編小説集「十二ヶ月のアクセサリー」をまとめて読む 短編小説集「十二ヶ月のアクセサリー」をまとめて読む



あの人とお茶会に

 桜が終わり、藤の若緑が次々と公園を彩りはじめると、結花はしょっちゅうため息をつくようになった。月末の日曜日が永久に来なければいいのに。

 去年始めたお茶のお稽古。もともと茶道にはまったく興味はなかったけれど、同じ課に配属された一瀬美弥子が通っているというので興味半分で習い始めたのだ。美弥子がおっとりとして立ち居振る舞いも洗練されているのは、噂の通りお嬢様だからだと思っていたけれど、一緒にお稽古に通いだしてあの動きは茶道の決まった動きで鍛えられたのかと納得した。

 もっとも一年程度、お稽古に通ったからといって、美弥子のような洗練されたお嬢様らしい様相に変わるわけはなく、そもそものお茶の方もお菓子を食べてお茶を飲む動作はまあまあと言える程度になったぐらい。そして、今月末に初めてお茶会に参加する事になったのだけれども。

「はあ」
結花は、また、ため息をついた。なんで洋服で行っちゃいけないんだろうなあ。

 お茶会では、付下か訪問着、もしくは一つ紋以上のついた色無地を着るように宗匠に言われた。去年就職したばかりの結花はお稽古代やお茶会の費用を捻出するのが精一杯で、和服を新調するどころかレンタルする金額すら出せない。だから、叔母に相談したら三つ紋のついた色無地を譲ってくれたのだが、それがどうも思っていたような物とは違った。とはいえ、今さら別の物を用意したら叔母が傷つく。それ以来、お茶会に行くのが嫌になってしまったのだ。

「結花さん、どうしたの?」
お稽古の帰りに美弥子が話しかけてきた。

「え?」
「今日のお稽古、いつもよりもずっと憂鬱そうで、身が入っていなかったから。何かあったのかと思って」

 美弥子はおっとりとしているけれど、同僚や後輩にいつもきちんと心配りをして、心配事があるとすぐに声を掛けてくれる。きれいで、お金持ちのお嬢様なのに、誰からも妬まれたり嫌われたりしないのは、こういう天性の人のよさが自然と溢れ出ているからだろう。

 結花は、この際、いじけた思いを吐き出してしまおうと思った。
「お茶会に着ていく色無地の事なの。叔母が若いころに作ったものをくれたんだけれどね。なんかちょっとくすんだ黄土っぽい色なの。お婆さんみたいじゃない? この若さでそんなの着てくる人いないだろうし、季節にも合わないから借り物っぽいって嗤われるかもしれないって、今から恥ずかしくって」

 美弥子は「まあ」と目をみはった。それからニッコリと笑って言った。
「紋付の色無地はいろいろなシーンで着られるし、きっと長く使えるからその色になさったんじゃないかしら。大丈夫よ。着物は、組み合わせで全く違った印象にできるの。よかったらこの週末にでも、そのお着物を持ってうちに遊びに来ない? 私の持っている小物を組み合わせてみましょうよ。貸してあげられる物がたくさんあると思うわ」

 結花は驚いたけれど、大喜びでその提案を受け入れた。都心にある豪邸に住んでいると噂で聞いていた美弥子の家に行くのは初めてだったし、小物の合わせ方などにも自信がなくてそれも着物でお茶会に行くのが憂鬱な理由の一つになっていたからだ。

 土曜日に、なんとか一瀬家にたどり着いた結花は、都心だというのにまるでお寺の境内のような立派な庭園に囲まれた大きな日本家屋を見て圧倒された。呼び鈴を押して出てきたのが使用人だというのにも怯んだけれど、美弥子は応接間で優しく迎えてくれて、お手伝いさんが持ってきてくれたケーキとお茶を楽しんだ。

 その後に、彼女の案内で二階の広い和室に向かった。その部屋には和簞笥がいくつも並んでいた。美弥子の指示で、結花は畳の上で持ってきた着物のたとう紙を開いた。

「まあ、素敵な色じゃない」
「ババ臭くない?」
「全然。黄土色じゃないじゃない。花葉色か淡黄色っていうのよ。秋から春までの三シーズン使えるわよ。それに、いまでもミセスになってもおかしくない、オールマイティな一枚だと思うわ。帯はどんなのをいただいたの?」

「これ」
もう一枚のたとう紙を開き、朱色の帯を見せる。

「いいと思うわ。名古屋帯だけれど、金糸が入っているからかなり格も上がるし。結婚式だと袋帯の方がいいけれど、今回のお茶会ならこれでもいいと思うわ。じゃあ小物を合わせていきましょうよ」
そういうと、美弥子は嬉しそうにいそいそと、簞笥の引き出しを開けてたくさんの箱を取り出した。

 それはまるでおもちゃ箱をひっくり返したようだった。つやつやと輝きのある鮮やかな組紐、絹の美しい布が次から次へと出てくる。

「洋服だと、えっというような色の組み合わせも、和服だと素敵に見えるのよ。それに、小物の組み合わせ方で、清楚にも、大正ロマン風にも、現代っぽくもなるの。でも、宗匠は少し反動的だから、あまりアバンギャルドにはしないようにしましょうね」

 白にオレンジの混じった組紐の帯締め、鮮やかなひわ色に金糸の混じった帯締め、きれいな黄色の組紐、やさしい桃色の羽二重の帯揚げ、絞りで出来たオレンジと緑の帯揚げ、白地にちいさな花が刺繍された半襟などが次々と出てきて、着物の上に置かれた。

「さあ、どうしましょう。春らしい感じを出すならこのあたりよね」
美弥子がひわ色の帯締めを帯に合わせる。

 結花は黄色には黄色を合わせるのかと思っていたが、言われてみるとそうやって若草のような色を合わせると春のイメージが強くなる。
「へえ。こういう組み合わせもありなのね。帯揚げは? このオレンジと緑の?」

「そうね。そうするとわりと大人っぽくなるかしら。この薄桃色だと花霞のイメージだから若さを強調する感じ?」
美弥子が、それぞれを合わせてみる。言われてみるとその通りだ。同じ着物と帯なのにずいぶんと印象が変わる。

「でも、実際に着る人の顔に合わせてみるとまた感じが変わるのよ。この組み合わせで鏡の前で合わせてみましょうよ」
美弥子の言葉に、結花の心はワクワクしてきた。つまらないと思っていた色無地は、素敵な着物に思えてくる。

「帯が変わるとまた全く違った印象になるのよ。このあたりが和装の面白さなの。この着物も帯もオーソドックスだからいろいろな組み合わせに使えるわ。次に着物や帯を買うときにもきっと使えるわ」

 お茶会の日、結花は再び美弥子の家に行き、着付けを手伝ってもらった。一人では上手く着られないけれど、美容院で着付けてもらうとさらに出費がかさむからどうしようと悩んでいたのを、美弥子が察してくれて提案してくれたのだ。その分、結花は着付けに便利な専用の腰パッドや襟元が崩れないようにするゴムベルトを、美弥子のアドバイスで購入し、一人でそれなりの着付けが出来る手順を習った。

 柳の若葉が芽吹きだし、八重桜と藤の瑞々しい房が一斉に花ひらいた庭園に、それぞれの春の装いをした和装の女性が集まった様子は壮観だった。

 美弥子の訪問着は、サーモンピンクの地色に桜や藤などが描かれた優しい御所車柄の加賀友禅で、白金の無地の帯を合わせていた。朱色の帯締めやオレンジに近い帯揚げが柔らかい彼女の装いにきれいなアクセントとなっている。

 その彼女にぴったりとくっついている結花自身は、淡黄色の色無地に合わせた朱色の帯と、美弥子が見立ててくれた若草色の帯締めに薄桃色の帯揚げが、庭園の花爛漫と合っているようで嬉しくてしかたなかった。

 宗匠みずからのお点前をいただく時も、洋服でお稽古をしているときよりも少しだけ背筋が伸びて、優雅にいただけているような心地がした。

「美弥子さん、どうもありがとう」
後で二人で庭園を散歩している時に結花は言った。美弥子は、不思議そうに彼女を見つめた。
「改まって、どうしたの?」

「私ね、着物の件でこのお茶会が憂鬱で、お稽古までもが嫌になりかけていたの。でも、今日こうして晴れ晴れしいお茶会に参加できて、本当によかったなと思って。もともと私には敷居の高い世界だと思っていたけれど、ちょっとでも垣間みる事が出来たのと、尻尾を巻いて退散するのは大きな違いだもの」

 美弥子は、静かに笑った。花ひらく庭園がとても似合う優しい笑顔だった。彼女は、所作も歩き方も、結花よりずっと慣れていて洗練している。優美で惚れ惚れとする。

 彼女が素敵なのは、お稽古の成果である事は間違いないだろう。お金持ちの家に生まれて、そういう躾を受けてきた事もきっと影響している。でも、それだけではないと思った。暖かくて押し付けがましさのない思いやりは、たぶん彼女特有の人の良さだ。いろいろな意味で追いつけない事があるし、比較してもダメなんだろうけれど、それよりもこういう人と親しくなれた事、仲良くなっていろいろ教えてもらえるようになった自分もラッキーなのだと結花は思った。


(初出:2017年4月 書き下ろし)
関連記事 (Category: 短編小説集・十二ヶ月のアクセサリー)
  0 trackback
Category : 短編小説集・十二ヶ月のアクセサリー
Tag : 小説 読み切り小説

Posted by 八少女 夕

葬儀の希望

今日は、三月頃に考えていたことを。なんかいろいろと記事がたて込んでいて、アップできなかったんですよね。

父が鬼籍に入ったのはもうじき二十年も前の事になります。「亡くなるには早すぎる」といわれる年齢でした。私はまだしばらくありますが、連れ合いはそろそろそんな年齢になる頃で、それだけ歳をとってくれば当時わからなかった事もわかってくるし、なるほどなあと思う事もあります。

父の葬儀の時に「昔、葬儀ではこれをかけてほしいと言っていました」と母が伝えて、出棺の前のお別れの時にモーツァルトの「フリーメイソンのための葬送音楽(Maurerische Trauermusik)」をループでかけてもらいました。

私の父は、プロテスタントの家庭で育ったのに、私が三歳の時にカトリックに改宗するという変わった事をした人(それを欧米の人に話すとみな驚愕します。改宗の方向が普通と反対なので)で、葬儀ももちろんカトリックの教会でしたが、これ仏教のお葬式だったりしたら「かけてくれと言われても」と困るんじゃないかなあと思います。それに父のチョイスは、さほど悪くはなかったと思いますが、たとえば「ヴェルディのレクイエム。怒りの日をループで」などと遺言されたら実行する方は困るだろうなあと、いろいろと想像してしまいます。

また、ある別の方の話ですが、とある共同体の中でいろいろとトラブルがあって「●●さんにだけは葬儀に来てほしくない」と言い残されたそうです。ところがお嬢さんがそれを共同体のトップの方に申し出てみたところ「そんなことは言うべきではありません」と拒否されてしまったそうで、結局「来ないでほしい」とは言えないままだったらしいのです。そのご本人は堂々といらして目立つところに座っておられたそうで、お嬢さんは悶々とされたとか。

またあるかなり名のある方が、お子さんのご負担を減らそうと「密葬で、四十九日が明けるまで誰にも知らせなくていい」と言い残されたらしいのですが、実際にそうしたところ、結局亡くなられた事が公にわかって、それから引っ切りなしの弔問が始まり大変なことになってしまったんだとか。お通夜やお葬式では、ご記帳やお香典の受け取りも含めてシステム化されていて、それに乗っていればお香典返しも含めてかなり楽にできるようになっているのですが、個別の弔問だけだとそうもいかず、ご家族は悲しむ暇もなくひたすら対応に追われる事になりました。

「結婚式を希望通りにしたくてあれこれ夢見る」というのは、本人がいることで、希望通りに行かなくても本人が納得すればそれで済みますが、お葬式は「そうはいっても」になってしまうこともあるし、しかも本人はもういないのですから、よほどの事でなければあまり希望は言わない方がいいのかもなあと思ってしまいました。

でも、なんか言っちゃうんですよね。「この曲いいなあ。私のお葬式で流して」とか「お葬式しなくていいから南太平洋かなんかで散骨してよ」とか。それを言い残された人があとで困るかどうかなんて全く考えずに。私何回そういうことを言ったかしら?
関連記事 (Category: 思うこと)
  0 trackback
Category : 思うこと

Posted by 八少女 夕

【小説】郷愁の丘(3)動物学者 - 2 -

第三回目「動物学者」、長いので三回に分けると前回書いて、三分の一に切ったんですが、この後に二つほど別の小説が入って間が空くので、この話はさっさとここで発表する事にします。ああ、行き当たりばったりだとこういう事に。いつもより長いですが、五千字程度なので、お許しください。すみません。

今回は、いろいろな設定上の情報がたくさん出てきます。(あ、無理に憶えなくても、必要になったら「あらすじと登場人物」を読めばいいのでご安心ください)それに、ようやく主人公の二人が「スコット博士」「ミズ・カペッリ」と呼び合うのを脱出します。やれやれ。でもまだ先は長い……。


郷愁の丘「郷愁の丘」を読む
あらすじと登場人物




郷愁の丘(3)動物学者 - 2 -

 給油を済ませ、小さな村が遠ざかっていくのを振り返り、後方座席のメグとルーシーがともに寝いっているのを目にして彼女は微笑んだ。

「マニャニというのは大きい街ですか?」
ジョルジアが訊くと、彼は笑った。

「ニューヨークと比較したら村以前で集落と言った方がいいでしょうね。それにレイチェルは、少し街から離れた所に住んでいるんです。彼女は、ゾウの研究をしていて、裏庭にゾウが登場するような所に家を買ったんです」

 ジョルジアは、ふと思いついたように言った。
「じゃあ、ミセス・ブラスのお母様はもしかして……」

「ご存知かもしれませんね。レイチェル・ムーア博士です」
アフリカの動物研究者として、彼女は有名人だった。まだ五十代だが、ゾウの権威として認められる研究成果も知られていた。『夕陽の沈むさきに』と題した本人の半伝記映画に出演していたので、さほど動物学にも詳しくないジョルジアでもその名前を知っていた。

「あなたの義理のお母様でもあるんですよね」
ジョルジアが確認すると、彼はわずかに戸惑いを見せた。

「これから引き合わせるから、説明しておいた方がいいでしょうね。父の家はナイロビ郊外にあって、レイチェルの住む家とは別です。父ジェームス・スコットとレイチェルは、表向きはただの親しい友人ということになっています。もちろん同業者やこの辺りの人びとは、誰がマディの父親か知っていますし、二人はお互いの家を行き来しているのですが」

「ジェームス・スコット博士……あの映画にも出ていらっしゃいましたよね。確か、ライオンの権威で、大学の名誉学長をなさっていらっしゃる……。あの方があなたのお父様だったんですか」
「はい。でも、この世界でも僕と彼が親子であることを知らない人の方が多いでしょうね」

「どうして? ご自宅で他の研究者の方と顔を合わせたりはなさらないのですか?」
「僕は、八歳の時から彼とは別に暮らしているんです。今でも彼と会うのは年に一、二度、それも学会で遭う方がずっと多いんです」

 ジョルジアは、もしかしたら悪いことを訊いたのかと不安になって彼を見つめた。彼は顔を向けてまた微笑んだ。
「氣にしないでください。父と喧嘩しているわけではないのです。ただ、あまりにも僕の人付き合いが悪くて、家族ともまともにつき合えないし、父も自分から息子に歩み寄ろうというタイプではないんです。それで氣をもんだマディとレイチェルの方が、機会を作っては僕を家族の会と学会を含めた社会に引っ張りだしてくれているくらいなのです。あの二人には、感謝しています」

 ジョルジアは、また同じことを感じた。この人は、なんて私によく似ているんだろう。家族が嫌いなわけではないし、社会を憎んでいるわけでもないけれど、氣がつくと一人こもってしまう感覚は、彼女にはとても馴染みがあった。

「あなたが住んでいる所は、安心できる居場所なんですね?」
ジョルジアが訊ねると、彼は少し驚いたように彼女の顔を見た。揶揄でもなく、疑惑でもない、真摯な表情を見て、彼は少し間を置いてから力づよく答えた。
「ええ。あそこで僕は初めて安らぐことを知りました。《郷愁の丘》は、僕にとっての約束の地なんです」

「《郷愁の丘》ですって? なんて素敵な名前なの」
ジョルジアが言うと、彼は笑った。
「誰がその名前を付けたのかわかりません。前の持ち主はそんな三流ドラマみたいな名称は恥ずかしいから変えてもいいと言っていましたが、僕はそのままにしたかったんです」

「シマウマがたくさんいるんですか?」
ジョルジアは、訊いた。象の権威のムーア博士は、ゾウの生息地の近くに家を買ったというのだから、彼の自宅の側にも研究対象がいるのかと思ったのだ。

「ええ。シマウマも、ガゼルも、ヌーも。でも、彼らは留まりません、タンザニアヘ行き、それからまた次の年になると帰ってきます。研究には向いています。それに哲学者になるにもいい所かもしれません。あなたも、きっと数日間でしたらお氣に召すでしょう。写真に撮りたい景色がたくさんあるはずですから」

「どうして数日間なんですか?」
「ニューヨークと較べるまでもなく、とても退屈な所と思われるでしょうから。一番近い街まで一時間近くかかるんです。テレビやラジオの電波もよく途切れてしまうし、電氣や水道のといった公的ライフラインも通っていないんです。幸い、敷地内に泉があるので、ガスボンベと発電用のオイルを買うだけでなんとか生活はできますが」

「行ってみたいわ」
「本当ですか?」
「ええ。マリンディよりも、ずっと」

「じゃあ、お連れしましょう。今夜は、レイチェルの所に泊って、明日にでもあなたをムティト・アンディの駅にお連れしようと思っていました。でも、本当は、あなたにお見せしたいと思っていたんです。忘れられない風景や、心をつかむ瞬間を切り取る特別な目をお持ちのあなたなら、なぜあそこが《郷愁の丘》と名付けられたのか、きっとわかるでしょう」

 ジョルジアは遠くを見ている彼の横顔を見つめた。不思議だった。全幅の信頼としか言いようのない心の凪が、朝の砂漠のように鮮烈な陰影を持って横たわっていた。それは論理的ではなく、おかしな安心感だった。これまで独身男性の自宅に行こうとしたことは一度もなかった。ましてや街まで車で一時間も離れている陸の孤島に行くなど、考えたこともなかった。

 もちろんジョルジアは、彼もまた男性であることを忘れるほどナイーヴではなかった。けれど、彼女には失うものもなかった。片想いの相手には存在すらも知られておらず、かつてつき合った相手には女性としての存在を否定された。守る価値のないもののために、疑心暗鬼になる必要などないのだ。

 反対に、スコット博士のことは、もっと良く知りたかった。お互いのことをまだよく知りもしないのに、それでもこれほど近く感じる相手だ。一緒にいると心が安らぐだけではなく、話にも興味が尽きなかった。

 モンバサからマリンディへと向かう二時間、ジョルジアは彼といろいろな話をした。シマウマの縞の現れ方の話から、写真の印画と人間の虹彩に関する話題まで、お互いの専門を交えながら語り合った。

 彼の家族の話は、その二時間にはほとんど出てこなかった。その時は家庭があると思っていたので不思議だったけれど、今は納得していた。彼が独身だと知っていたら、マリンディの別荘への招待にどう答えただろうと彼女は考えた。異母妹マデリンの家族が常に一緒にいるとしても、おそらく彼女はイエスと言わなかったに違いない。

 でも、今、彼と同じ狭い空間を共有しても、彼女は彼に対して他の男性、例えばリチャード・アシュレイに対するような煩わしさや警戒心をまったく抱かなかった。モンバサからマリンディへと向かった二時間の後、彼はジョルジアにとってよく知らない男性ではなくて、ニューヨークで十年来の公私ともに強い信頼関係で結ばれている同僚のベンジャミン・ハドソンと同じような存在に変わっていた。

 マデリンの入院騒ぎを挟んで、再び彼の車で今度はマニャニへと向かうことになった時も、彼女は彼ともっと長い時間を過ごすことになることに躊躇いを感じなかった。彼の家である《郷愁の丘》へ行くことは、それとは少し意味合いが違うが、ジョルジアはこの成り行きに不安は全く感じなかった。彼はマリンディの別荘に誘っただけで、それ以降の行き先の変更は全てジョルジア自身が望んだことだ。

 彼は真面目で紳士的だった。そしてどういうわけだか、彼女が心地よいと感じる距離を知っていた。

 これ以上一センチでも近づけば、彼女が不安に感じる心理的な、もしくは物理的なテリトリーを、多くの人は無自覚に侵す。同僚であるベンジャミン・ハドソンのように長年知っている人や、《Sunrise Diner》のキャシーのように親しくしている人ですら、ジョルジアは時おりそれを感じて身を強張らせた。それが不必要な怯えだと思考ではよくわかっていても、反射的にびくついてしまうのだ。

 その一方で、彼女にはどうやっても近づけない類いの人たちがいる。ジョルジアの方から関心を持ちもう少し親しくなりたいと感じる時に、徹底的な無関心を示して近寄らせない人たちだ。自分からその距離を縮めなければ、親しくはなれないとわかっていても、その見えない壁や遠さを感じてわずかな一歩を踏み出すことが出来ないことが多くあった。

 彼がジョルジアとの間に置く距離は、その二つの距離の間にあった。どんな時でも。ジョルジアは、だから、自分が望む時に少しずつ彼に近づいていくことが出来た。いくつもの窓からそっと覗いてみると、心地よくて興味深い世界が存在している。そして、その世界は決して素っ氣なく扉を閉めて拒否したりはしない。どんな風に覗き込んでも優しく穏やかに歓迎してくれるのだ。

 そして、ジョルジアは新しく知り合う人から逃げるばかりだったこれまでと対照的に、むしろその場に留まり、彼の話をもっと聴き、自分のことを知ってもらいたいと思うようになっていた。

 それまで撮り続けていた子供たちの笑顔の写真を撮るのをやめて、モノクロームの人物写真を撮るようになったきっかけも、ニューヨークの知り合いにはほとんど話せなかったのに、彼には正直に話していた。

 秋の柔らかい陽が射し込む墓地で、彼女は一人の男の姿を偶然撮った。その横顔に浮かび上がった陰影は、自分の心を見つめ直すきっかけとなり、世間の喜ぶ子供の明るい笑顔ばかりを撮り続けていた彼女にとって、作品の方向転換のきっかけとなった。そして、彼女は有名キャスターであったその男に恋をした。

「一度も知り合っていない人にそんな感情を持つなんておかしいと、自分でもわかっているんです。でも、私の作品を創り上げるためには、その感情を無視することは出来ませんでした。自分と向き合わない限りはそれまでの殻を打ち破ることはできなかったんです」

 彼は、彼女の片想いについて、肯定してくれた。
「あなたはちっともおかしくなんかありません。あなたはそのニュースキャスターに迷惑をかけたわけではないんですから、そのことを恥じる必要はありませんよ。それに、恋とは論理ではないでしょう。いつの間にか身動きが取れないほど好きになってしまっている。僕にも似た経験があります」

「知り合ってもいない人に恋をしたことがあるんですか?」
「いや、知り合ってはいます。でも、二度と逢う機会もない程度の知り合いだったから、あなたのケースとほとんど変わりありませんよ」

「その女性への想いは、自然消滅したんですか?」
ジョルジアは訊いた。叶わない想いがいつかは解消された事例があれば、彼女自身が今の虚しい渇望に耐えることも楽になるかもしれないと思ったのだ。

 彼は、しばらく答えるのをためらっていたが、やがて首を振った。
「いいえ、まだ。いつか消えてくれればいいと思っています」

 ジョルジアは、彼が見せた表情の翳りに、悲しさをおぼえた。手の届かないものを想い続けることは苦しい。けれど、それを手放し失うことも、決して心躍ることではないのだ。それは人生に新たに刻まれる静かな敗北だった。それも、とても惨めな。自らを嘲笑して吹き飛ばそうとすれば、もっと激しい痛みとして心の奥に疼きだす、やっかいな感情の嵐。彼女のよく知っている世界だ。

「ミズ・カペッリ。まもなくマリアカニに着きます。給油を兼ねてまた少し休憩しますが、どのくらいお腹が空いていますか」
彼がそう言うと、ジョルジアは笑った。

「メグはとっくに名前で呼んでくれているのに、いつまで礼儀正しくミズ・カペッリなんですか」

 それを聞くと、彼は困ったように口ごもった。
「それは……親しくもない僕に馴れ馴れしくされたら、あなたは嫌だろうと……」

「でも、この数時間で、ずいぶん親しくなったと思うし、私はジョルジアと呼んでいただけたら嬉しいわ。私もスコット博士ではなくて、ヘンリーと呼んで構わないのかしら。そして、堅苦しい話し方をお互いにしないようにしません?」

 彼は、例のはにかんだような笑顔を見せた。ジョルジアはまた一歩彼に近づけたように感じて嬉しかった。彼は、少しの間黙っていたがためらいがちに口を開いた。
「その……もし嫌でなかったら、グレッグと呼んでくれないか」

「グレッグ?」
「ミドルネームがグレゴリーなんだ。とても小さかったとき、可愛がってくれた祖父にそう呼ばれていて……。もちろん、違和感があるならみんながそう呼ぶヘンリーでもいいんだが……」

 ジョルジアは微笑んだ。
「喜んで、グレッグ」
関連記事 (Category: 小説・郷愁の丘)
  0 trackback
Category : 小説・郷愁の丘
Tag : 小説 連載小説

Posted by 八少女 夕

パスタソースの話

本当は「トラックバックテーマ」カテゴリーに入れるべきなんでしょうけれど、たぶん後で「美味しい話」で探しそうな氣がしたので、こっちに入れておきます。トラックバックテーマで「好きなパスタソースは何ですか?」というのがあったので書く氣になった話です。

パスタ

よく「スイスでは普段何を食べているの?」と訊かれます。日本人が毎日スシを食べているわけではないように、スイスでも毎日チーズ・フォンデュを食べるわけではないのです。で、「肉を焼いて、付け合せにポテトを」なんて回答が多くなるんですけれど、よく考えたら、パスタはものすごくよく食べます。イタリアが近いってこともあるんですけれど、やはり手頃ですから。

で、私がよく作るパスタソースの話。実を言うと、特別なものは何もないです。それにびっくりするくらい工程が簡単なものばかりですね。こういうものじゃないと、なかなか普段の食卓には並べられませんよね。パスタはほぼ一品で完結できる料理なので、お昼ご飯などにもよくしますし、それに、我が家のようにノーアポの客が多い家庭では、いざという時にこれで誤摩化せるので重宝します。

では、よく作るパスタソースをいくつかご紹介しましょう。

(1)ボロネーゼ
ミートソースと言っちゃうと身も蓋もないですけれど、ひき肉とトマトのソースです。前は市販のものをメインに使っていましたが、今は手作りしています。

現在連載中の「郷愁の丘」でもボロネーゼのスパゲティの話が何回か出てきます。ヒロインはイタリア系アメリカ人で、家族の中で(ティーンの時に暇だった)彼女だけがイタリア人の祖母から先祖伝来のボローニャ風ソースの作り方を習ったという設定です。このソースの一番のファンは彼女の兄で、このソースの事になると理性が吹っ飛ぶという設定もあります。

私が作る場合は、このヒロインが作っているものほどの本格的なものではないです。玉ねぎ、ニンニク、人参、セロリ、ポルチーニ茸のみじん切りとひき肉を炒めてからトマトの水煮の瓶詰めを投入、塩こしょう、ワイン、ローリエなどを加えて三十分くらい煮込む程度です。

(2)海老入りジェノヴェーゼ
ジェノバ風ソースというのは、バジルとニンニクと松の実とオリーブオイルで作ります。もちろん市販品も買えますが、私は年に一度手作りします。夏の間窓辺の家庭菜園としてサラダやカプレーゼに使ったバジルを秋に全部刈って、ミキサーでまとめてソースを作った後、ビニール袋に入れて薄く伸ばして冷凍させます。これがいろいろと使えるのですよ。

何も入れずにソースだけで和えたタリアテッレを、料理の付け合せとして出す事もあるのですが、海老ととてもよく合うので、海老を具にしてメインのパスタとしてお昼ご飯にする事も多いです。

(3)カルボナーラ
これも日本ではおなじみのパスタですよね。普通は卵黄だけを使うんでしょうが、私は卵白を捨てるのが嫌だし、かといって卵白だけをちょうどよく使うという事もないので、全卵で作ります。

ソースを作る前にベーコンと卵白を炒めてパスタと一緒にしてしまいます。それから生クリームを入れた後に塩胡椒で味を付け、最期に火を止めてから卵黄を絡めます。チーズは焦げるのでお皿に盛ってから各自で好きなだけかけます。

(4)チンクエP
「五つのP」で出来たソース。Pomodoro(トマト)、Panna(生クリーム)、Parmigiano(パルミジアーノ・レッジャーノ・チーズ)、Prezzemolo(パセリ)、Pepe(胡椒)です。

見た目は具のないサーモンピンク色のパスタですけれど、これがこってりしてなかなか美味しいのです。パルミジアーノは、常備していないので、代わりにパダーノを使いますが、これでもちゃんとしたPです。

(5)和風キノコ&バター
普通和風パスタだと刻み海苔がつきものだと思いますが、我が家は連れ合いが海藻を嫌がるので、そこまで和風にはしません。キノコを白ワインで蒸し焼きにしてから、醤油バターで味を付けます。これだけで結構いけるし、連れ合いも喜んで食べます。同じような味が続いて飽きた時に、醤油バターは使えますよ。

こんにちは!トラックバックテーマ担当の梅宮です今日のテーマは「好きなパスタソースは何ですか?」です麺類が好きな方は多いかと思いますが、今回はパスタですパスタってイタリアンなのに和風にアレンジできたり味のバリエーションが豊富ですよね梅宮は魚介がたっぷり、トマト味のペスカトーレが好物です作るのはペペロンチーノが好きですがみなさんが好きなパスタソースは何ですかたくさんの回答、お待ちしておりますトラックバ...
FC2 トラックバックテーマ:「好きなパスタソースは何ですか?」

関連記事 (Category: 美味しい話)
  0 trackback
Category : 美味しい話

Posted by 八少女 夕

Baba Yetu

今日は、最近買った音楽の話を。

アフリカが舞台の話を連載中なんですけれど、マイ・サントラ(あ、痛たたた……)代わりにしているiPhoneのプレイリストには、あまりアフリカっぽい曲は入っていません。でも、これだけは別。超アフリカ。めいっぱいケニアです。

もっともこの曲、もともとはゲームのサントラとして作られたらしいので、そのゲームを知っている方からすると「どこがアフリカ?」なのかもしれませんね。


Baba Yetu (The Lord's Prayer in Swahili)-Alex Boyé, BYU Men's Chorus & Philharmonic; Christopher Tin

この曲の歌詞は、スワヒリ語(ケニアの公用語)による「主の祈り」なのです。「主の祈り」はキリスト教で一番大切な祈祷文です。

「Baba Yetu」には、ゲームのオリジナルバージョンをはじめとして、いろいろなアーティストによる動画がありますが、私が一番好きで購入したのがこのアレックス・ボエがリードボーカルを歌っているもの。この方、アメリカでモルモン教の宣教師もしている方のようですが、「あなたは神を信じますか」といきなり言われるよりも、こうやってアフリカの大地でキリスト教とかアニミズムとか関係なく見せて聴かせてくれる方がその偉大さが伝わります。

バックで歌って演奏しているBYU Men's Chorus & Philharmonicの欧米的な合唱と演奏、それにアレックス・ボエのアフリカ的な歌い方がミックスして、私の作品のイメージとしては理想的な曲になっているのです。なんというのでしょうか。黒人の声帯や歌い方は、いわゆるクラッシックな合唱の歌い方とは全く違うのです。これはいいとか悪いとかではなく単純に違うのです。私はどちらも好きなのですが、この曲のリードボーカルとしてはやはりこの歌い方が一番しっくり来ます。

「ライオン・キング」のメイン・テーマである「Circle of Life」もこれに近い音楽ですが、あちらは天下のディ○ニーの映画音楽ですし、そのイメージが強すぎます。歌詞も英語ですし、「欧米によって理想化されたアフリカ」の印象が強すぎて、私には少し「コレじゃない」なんです。

「Baba Yetu」は「主の祈り」ですので「天にまします我らが父よ。願わくは御名の尊まれんことを、御国の来たらんことを、御旨の天に行わるる如く地にも行われんことを」と祈っているわけです。

私がアフリカに行ったとき、果てしない大地を動物たちが悠々と移動して行き、生と死の神秘が目の前で展開され、これでもかと荘厳な光景を目にしました。普段はほとんど意識しない偉大な何かの存在を感じる体験でした。おそらく通勤電車に揺られたり、リア充競争のためにインスタグラムに小洒落たカフェごはんの写真をアップしたり、芸能人の挙動に一喜一憂したりしていると、なかなか感じにくくなっていく、特別な何かです。もちろん「だから人はアフリカに行くべき」と言いたいわけではないのですが。

私の作品「郷愁の丘」では、ニューヨークで生きる一人の女性が、ケニア中部のサバンナに行きます。話の中心はアフリカ体験そのものではないのですが、サバンナで見聞きした事が、彼女の心境に大きく影響する、その切り離せない関係を描きだせたらいいなと思っています。

私の脳内イメージでは、この曲は作品の途中で野生動物がいっぱい出てくるサバンナのシーンと、それから最期のエンディングのクレジット部分にかかる感じです。(映画じゃないって)



【参考】
郷愁の丘「郷愁の丘」
関連記事 (Category: BGM / 音楽の話)
  0 trackback
Category : BGM / 音楽の話

Posted by 八少女 夕

【小説】郷愁の丘(3)動物学者 - 1 -

タイトルにもなっている《郷愁の丘》という地名は、イタリアのポップグループ、マティア・バザールの歌「Amami」の邦題からイメージして命名しました。かなり年長の方でないとご存知ではないと思いますが、ずっと昔に三菱ギャランという車のCMにこの曲が使われていて、日本で発売された時の邦題は「郷愁の星」というものだったのです。イタリア語の歌詞そのものには、一度も「郷愁の星」という言葉は出て来ないのですが。この歌のイタリア語の歌詞からイメージしたモチーフは、この作品のあちこちに散りばめられています。

という話はさておき、第三回目「動物学者」です。長いので三回に分けます。こうやって分けていると、全然終わらないような氣がしてきたけれど、しばらくこれで行こうと思います。もしかしたら途中から巻くかもしれませんが……。


郷愁の丘「郷愁の丘」を読む
あらすじと登場人物




郷愁の丘(3)動物学者 - 1 -

「お疲れじゃないですか」
ジョルジアは、訊いた。彼はモンバサにジョルジアを迎えに来てマリンディから往復しているので、既に四時間も運転しっぱなしだった。これから四時間再び運転して、こんどはツァボ国立公園内のマニャニまで行かなくてはならない。

 彼は穏やかに微笑んだ。
「慣れていますから。この辺りで運転するとなると、たいていこんな距離になるんですよ」

 スコット博士と二人では絶対に行かないと泣き叫んだメグは、結局、二十分も経たないうちに彼の愛犬ルーシーにもたれかかって寝てしまったので、ジョルジアは再び助手席に座って彼と静かに話をすることになった。

 道は舗装されているものの、状態はよくなかった。アメリカの都市部であればおそらく三十分もあればついたのではないかと思われる距離を、ランドクルーザーは二時間近く使って走っていた。海岸部を離れ、森林部を抜けた頃になって、ようやく空氣が乾いてきた。モンバサやマリンディは興味深いところだったので、ほとんど何も見ないまま去ったのはある意味残念だったが、あの猛烈な湿氣と暑さから解放されたことに、ジョルジアはほっとしていた。マラリアの恐怖も去ったのだろう。

 広大な赤茶けたサバンナの間に時おり現れて、休憩と給油を繰り返す小さな街をジョルジアは見回した。カラフルな建物と看板。アルファベットで書かれているが、スワヒリ語の固有名詞で占められている。そして、半分はアラビア文字だ。特に東部はイスラム教徒が多いので、街ごとにモスクが目立つ。異国にいるのだと強く印象づけられる景観だ。

 癖の強い英語を話す黒人たちは、白人が乗っている車に給油する時に必ず法外な値段をふっかけてくる。スコット博士は穏やかに彼らと交渉して相場の値段を払っていた。これはこの人たちの日常なのだとジョルジアは思った。

 人種のるつぼであるニューヨークの、比較的有色人種が多い地域に住むジョルジアは、親しい友達であるキャシーをはじめとして多くの黒人たちを知っていたが、白人たちと比較してつきあうのにエネルギーを消耗すると思った事はなかった。だが、ここでは全てがニューヨークとは違う。人種差別や人類愛とは関係ないのだ。

 スコット博士が、彼らに対して怒ったり悪態をついたりしない事に、ジョルジアは強い印象を受けた。二年前にジョルジアたちを連れて回ったリチャード・アシュレイは五分に一度は悪態をつくか、冗談を交えながらも不平を漏らしていた。今も状況がわかる度にジョルジアはまたかとため息をつきたくなるのだが、対応している彼自身は繰り返されるジョルジアにとっては試練とも言える状況を黙々と受け入れていた。

 このように、氣候も人びとも文化風俗も違う国で、先祖はヨーロッパから来たという人びとは一種独特のテリトリーの中に生きていた。植民地時代には宗主国から来た彼らは特権階級でアフリカ大陸を根に持つ人びとを奴隷や家畜のように見下して快適な暮らしをしてきた。国が独立し政権が黒人たちの手に渡ると、あからさまな支配は終わったものの私有地の権利やその他の経済的優位性が残ったために、あいかわらずプール付きの豪邸に住む白人と貧しい黒人という構図は消えていない。

 現地で生まれた二世三世以降の白いアフリカ人たちは、今も独特のコミュニティを形成している。そこにあたらしく移住してきた白人たちも加わる事が多い。中には、そういった白人ムラを嫌い、現地の黒人たちの中に一人飛び込む人もいるが、そのまま上手く受け入れてもらえる、もしくは本人が欧米社会とはかけ離れた観念を持つ部族の生活に順応する事はまれで、大抵は失意のうちに欧米に戻る事になる。

 ヘンリー・スコット博士は十九世紀に移住したイギリス人の血を引いているが、自己紹介をする時には「ケニア人です」と言った。ジョルジアが彼と知り合ったのは二年前で、マサイマラ国立公園の近くで撮影をした時に、オーガナイズしたリチャード・アシュレイが連れてきた。

「彼はヘンリー・スコット博士といって、大学で講師もしている動物学者です。サバンナの事をよく知っていてマサイ族との交渉も慣れているんで来てもらいました。普通の観光なら僕一人でも問題ないけれど、子供たちを撮影するなら、マサイ族の長老と交渉しなくちゃいけないんです。で、こればっかりは彼がやった方が成功率が高いんですよ」

 口から生まれてきたようなリチャードよりも交渉のうまい人とはどんな人かと思ったが、スコット博士はまったく弁が立つ人間ではなかった。そうではなくて、長年の付き合いから、彼はマサイの長老たちに信頼されていたのだ。

「彼の本来のフィールドはツァボ国立公園のあたりなんですが、マサイマラでも、アンボセリでもマサイ族の連中と知り合いになっているらしいんです。白人たちの共同体では名前を知らない人もいるくらいに目立たない存在だというのに。パーティにも全然顔を出さないし」

 リチャードがそう話を振ると、当時彼は言葉少なく答えた。
「マサイ族の長老と酒を飲んでゴシップの交換するためににいっているわけじゃない。研究のことで話さなくてはいけないことがあるから。彼らは僕らの知らない事をたくさん知っているんだ」

 ジョルジアが、この人は私の同類だと初めて思ったのは、二年前に出会ったこの時だった。
関連記事 (Category: 小説・郷愁の丘)
  0 trackback
Category : 小説・郷愁の丘
Tag : 小説 連載小説

Posted by 八少女 夕

スイスにも春が来た

お花見 2017

我が家は賃貸なのですけれど、結構大きい前庭があって、その一部に桜の樹があります。日本のソメイヨシノなどと違って、花見のための木ではなくて果樹なんですけれど、やはり桜が咲くのは嬉しい。

今年は、新しいカメラで撮ってみました。ボケ具合にちょっとドヤ顔な私は、やはり素人だよなあ。でも、思った通りに必要なところにフォーカスが当たって、背景のボケた写真が撮れると、ちょっと嬉しくありません?

お花見 2017

もう一枚。こちらは土曜日にアルプスを越えたイタリア側スイスで撮った一枚。この日はイタリア側は27℃にもなるちょっとした夏日でした。

ああ、いい季節になったなあ。冬が終わると本当に嬉しいです。これから数ヶ月、ヨーロッパはいいですよ。
関連記事 (Category: 写真と日々の出来事)
  0 trackback
Category : 写真と日々の出来事

Posted by 八少女 夕

キャラクターバトンもらってきました。

今日は、TOM-Fさんからいただいたバトンです。昨日、サキさんもなさっていらっしゃいましたね。誰でやろうかなと悩んだのですが、せっかく連載を始めたばかりなので宣伝を兼ねて「郷愁の丘」がらみがいいなと。

でもねぇ。主役二人が、このバトンで笑いを取るにはあまりにもアレでして。すみませんが、どうでもいいのがおまけで登場します。



「キャラクターバトン」

1、自己紹介

(ジ)ジョルジア・カペッリ。ニューヨーク在住の写真家です。年齢は33歳。独身です。前作「ファインダーの向こうに」に続いての出演です。

(グ)ヘンリー・グレゴリー・スコットです。つい最近登場したばかり、ケニア在住で動物生態学研究者です。38歳、独身。大学の講師などもして糊口を凌いでいますが、普段はサバンナでシマウマの生態調査をしています。

(キ)私はキャシー。ニューヨークの《Sunrise Diner》のウェイトレス。23歳だけど、ボブという夫がいて、一児の母よ。「ニューヨークの異邦人シリーズ」は第一作の「ニューヨークの日本人」から出演している古参です。いつ私が主役になるのかしら?


2、好きなタイプ

(ジ)そういうのは別に……。(作者ツッコミ:TOM-Fさんところのキャラ、某著名ニュースキャスターに惚れているんでしょ!)

(グ)えっ。す、好きなタイプ? そ、それをここで言うのは……。(オタオタしている)

(キ)あなたたちねぇ。別にいま好きな人を告白しなくてもいいんだから、適当な人をあげとけばいいでしょ。私はねぇ。有名人でたとえると、NBAのシャキール・オニールかな?


3、自分の好きな所

(ジ)う〜ん、あえて言うなら一人でいても困らないところ?

(グ)好きなところ……。特別そういうのはないのですが、強いて言うなら人にあまり迷惑をかけないところかな。

(キ)前向きなところ! 誰とでもすぐに友達になれるところも。わりと努力家だし、仕事熱心。子煩悩だけど、いい母親のはず。それに、結構ナイスバディ。あと、面倒見もいいかな。それにね……(あと20分間続く)


4、直したい所

(ジ)世間受けのいい写真ばかり撮ってきたので、いま、もう少し正直に自分の撮りたい物に挑戦しています。「きっとわかってもらえない」と諦めるのをやめたいです。

(グ)あまり人とうまくいかないので、少しは人と上手につきあえるようにしたいと思っています。

(キ)直したいところなんてないわ! 今のままの私を私が愛してあげなくてどうすんのよ!


5、何フェチ?

(ジ)フェチっていわれても。レンズ沼にどっぷりハマり中かな。

(グ)縞しまフェチ……あ、これはジョークです。

(キ)あなたがいうとジョークに聞こえないよ。私はラテックスと鞭! あ、これもジョークだけど、笑えない?


6、マイブーム

(ジ)郊外へのドライブ。一人で行きます。景色のいいところでリラックスしてワインを頼むのが好き。

(グ)灌木の新芽を植木鉢で育てる「マイ・ボンサイ」。愛犬のルーシーにかじられてダメになる事が多いのですが。

(キ)マカロン! 最近美味しいお店を見つけたの。仕事の後に口に放り込むと疲れも取れちゃう。


7、好きな事

(ジ)写真を撮る事かな。

(グ)シマウマの観察記録。

(キ)なんなのよ、あなたたちったら。それは仕事じゃないの。私はスケート! 早く冬にならないかな。今年は娘のアリシア=ミホにも教えはじめるわ。


8、嫌いな事

(ジ)パーティに行くこと。

(グ)会合一般。

(キ)本当になんなの、あなたたち?! 私? 不意の残業。お客さんとお喋りしてつい時間が経っちゃって時間超過するのは好きだけど。


9、読者に一言

(ジ)前回に続き、私がヒロインという地味な小説ですが、暇つぶしにでも読んでいただけると嬉しいです。

(グ)作者がアフリカで経験したことがあちこちに散りばめられた最初の小説です。雰囲氣を感じていただけたらありがたいです。主人公の片割れが僕というのは、なんですけれど……。

(キ)この二人が主役って、先が思いやられるけれど、私に免じて読み続けてくれると嬉しいなあ。「ぐるぐる系」と「ザ・生殺し」がお好きな方には、おすすめの小説よ。(褒めていない)
いつかは、私が主役の話も書いてほしいけれど、あの作者の好みがねぇ……。


10、次を指名する。

(ジ)指名……したいけれど、皆さんいろいろとお忙しいんですよね。

(グ)ご迷惑になったら申し訳ないし。

(キ)あ〜! この人たち、超イライラする! つべこべ言わずに指名するの! この作品と一番縁が深いのはTOM-Fさんだけど、そこからもらったバトンだからね。というわけで、外伝で競演したから彩洋さん。やってね!



キャシーは、あんな事を言っていますが、彩洋さん、お忙しいと思いますので、ご無理なさらずに。で、やりたい方は、どなたでもどうぞ!



「郷愁の丘」に興味のある方はこちらから。
郷愁の丘「郷愁の丘」


【関連作品】

「ファインダーの向こうに」を読む「ファインダーの向こうに」

「ニューヨークの異邦人たち」
「ニューヨークの異邦人たち」
関連記事 (Category: 構想・テーマ・キャラクター)
  0 trackback
Category : 構想・テーマ・キャラクター

Posted by 八少女 夕

【小説】郷愁の丘(2)海の街 - 2 -

先週から連載を再開した「郷愁の丘」今回は「海の街」の後編です。モンバサに来たのは、特に理由があったわけではなく、パーティの誘いから逃げたかっただけなのですが、実はジョルジアはほとんどケニアの海岸の観光をしないまままたサバンナに向かう事になります。

とくにスコット家所有の別荘内には、足も踏み入れていないという事態に。ブログのお友だちの彩洋さんのところのキャラは宿泊もしているのに(笑)でも、この別荘の事は、いずれ別の作品(外伝かな?)でちゃんと描写しようと思います。いろいろと設定はあるんですよ。


郷愁の丘「郷愁の丘」を読む
あらすじと登場人物




郷愁の丘(2)海の街 - 2 -

 ひと通り写真を撮り終えて振り向くと、彼は新しいよく冷えたペットボトルの口を緩めてから手渡した。ジョルジアが礼を言って受け取り飲むのを待ってから、彼は愛犬にやった残りのペットボトルから飲んだ。この人は、どこまでも紳士だと彼女は思った。一連の動きには全くわざとらしい所がなく、評価してもらおうと意識しての行動でもないことが感じられた。

「なんて美しい海かしら。私の育ったところも海辺だったけれど、こんなに鮮烈な青じゃなかったわ。素晴らしい所に別荘をお持ちなんですね」
ジョルジアは感心して言った。彼は笑った。

「別荘を持っているのは父です。でも、彼はほとんど来ません。マディに薦められて投機の代わりに買ったようです。使うのはマディばかり。僕はよく運転手兼、鍵の管理人として駆り出されるのです」

 奥様の名前はマディとおっしゃるのですか、そうジョルジアが訊こうとしたときに、携帯電話の呼び出し音が鳴り響いた。ポケットから取り出してちらりと見てから「マディだ、失礼」と言って彼は電話を受けた。

 すぐに緊迫した様相になった。
「なんだって。わかった、大丈夫だ。あと五分もかからない、すぐに行く。メグは? わかった。玄関にいてくれ」

「どうなさったんですか」
ジョルジアは、ペットボトルの蓋を閉めると、ルーシーの水のボールを空にして車に戻った。ルーシーはついて来て、開けられたドアにさっと飛び乗った。エンジンをかけながらスコット博士は説明した。
「マディは、いま妊娠七ヶ月なんですが、急な腹痛に襲われたんだそうです。切迫流産の怖れがあるので、すぐに病院に運ばなくてはならないらしいんです」

 ジョルジアはぎょっとした。
「奥様がそんな大変なときに、迎えにきていただいたりして、済みませんでした」

 すると、スコット博士は首を振った。
「マディは、僕の妻ではありません。それに、夫のアウレリオも今朝はマリンディにいたんですよ。もっとも彼は肝心なときにどこかに行ってしまう才能があって、それをわかっているマディが、最近はマリンディに来る度に僕を呼びつけているんです」

「ご家族っておっしゃっていたので、奥様やお子さんといらしているんだと思っていました」
ジョルジアが言うと、彼はジョルジアの方を見て微笑んだ。

「僕は独身で、マディは妹です。正確に言うと、腹違いの妹ハーフ・シスター です。夫は、ミラノの実業家でアウレリオ・ブラス。娘のメグは五歳になります」

 そう話している間に、車は白い壁と藁葺きの屋根の大きい家の門に入っていった。玄関の所にぐったりと女性が座っていて、その足元に金髪をポニーテールにした少女がいた。

 スコット博士は急いで車から降りると、彼女の方に駆け寄った。ジョルジアも降りると、椅子の脇にあった荷物を持って、車に運び込んだ。荷物と反対側に少女が来て、ジョルジアの手を握った。ジョルジアがその目の高さに屈むとぎゅっと抱きついてきた。母親の危機を感じてよほど怖かったのだろう。

 博士が妹を運転席のすぐ後に座らせ、それからジョルジアからメグを受け取って母親の隣に座らせた。ジョルジアから離されるときに少女は少し抵抗した。

「メグ」
スコット博士が咎めると、彼女は泣きそうな顔をした。ジョルジアは荷物を最後部座席、ルーシーの腰に当たらないようにそっと置いた。そっと撫でると、不安そうな犬はクーンと鳴いた。

 車が出ると、マディは苦しそうに言った。
「はじめまして、ミズ・カペッリ……ごめんなさいね」
「こちらこそ……ミセス・ブラス」

 病院はさほど遠くなく、彼女は玄関で待っていた担架に乗せられて診察室に入った。廊下で抱きついて離れないメグと一緒に待っていると、車を駐車してきたスコット博士が、紐に繋いだルーシーと一緒に入ってきて、謝った。
「ミズ・カペッリ。本当に申し訳ない。せっかくの休暇なのに……」
「そんなことをおっしゃらないでください。先生が中でお待ちです」

 スコット博士は、ノックをして診察室に入っていった。ルーシーはジョルジアの足元に踞った。彼女は、うとうとしだしたメグをさすりながら廊下のベンチでしばらく待っていた。

 やがて、携帯電話で話しながらスコット博士が診察室から出てきた。
「そうですね。それが一番だと僕も思います。アウレリオは、明日直接ここに来るそうです。はい。このままそちらに向かえば夕方にはそちらにつきます。そうするしかないと思います」

 彼は電話を切ると、苦悩に満ちた顔で切り出した。
「ミズ・カペッリ。何とお詫びをしていいのかわからない。僕は、これからメグをここから四時間かかるマディの母親の所に届けなくてはいけないんです。彼女はアンボセリから急いで戻ってきますが、ここに彼女を引き取りにくるには遠すぎるのです。あなたをこれ以上引きずり回すわけにはいかないし、一人で放っておく訳にもいかない。どこかホテルへとご案内しようと思いますが……」

 ジョルジアは、自分でなんとかするので氣にしないで欲しいと言おうとしたが、その前にメグが泣き出した。
「いや! ヘンリーと二人でなんか行かない! ジョルジアと一緒にここにいる! ママはすぐに元氣になるもん」

「メグ! マディはしばらく入院しなくちゃいけないんだ。病院はホテルじゃないし、ミズ・カペッリにお前の世話をさせるわけにはいかないだろう」
「いや!」

 必死になって抱きついてくるメグと、困り果てているスコット博士を見ていたジョルジアは口を開いた。
「私も一緒に行きましょうか。特に予定はないですし、道中の子守りくらいのお役には立てると思います」

 スコット博士と、メグが同時にジョルジアを見た。ルーシーも、黒い鼻を持ち上げて、騒ぎの収まったらしい人間たちを見あげた。

 前よりもさらに強くジョルジアに抱きついている少女を見て、彼はため息をついた。しばらく、言葉を探していたが、やがて済まなそうに頭をさげた。
「そうしていただけたら、助かります」
関連記事 (Category: 小説・郷愁の丘)
  0 trackback
Category : 小説・郷愁の丘
Tag : 小説 連載小説

Posted by 八少女 夕

ポルト旅行から帰って来ました

ポルト

土曜日に無事に自宅に帰り着きました。もう五回目のポルト。何度行ってもいい街だなあ。たぶんまた来年も行ってしまうと思います。向こうの人たちも「また来年」と言うし(笑)

そもそもポルトに行くようになったきっかけは、連れ合いが20年前にかつて行った事があってその話を聴いて「私も一度行きたいな」と。それからまさか毎年通う事になるとは思いませんでしたが。

これだけ通うようになったのは街自体を大好きというのもあると思いますが、どう考えても旅行中に出来てしまった独自世界「黄金の枷」ワールドのロケ地なので行くだけでワクワクしてしまうというのもあると思うんです。あ、痛たたた。でも、いいんです。本当の事だもの。

でも、よく考えるとこの街からインスピレーションをもらっているのは実は「黄金の枷」シリーズだけではなく、一見何の関係もないはずの「郷愁の丘」の原イメージも……。本人もすっかり忘れていたのですが、最初にイメージしたヘンリー・グレゴリー・スコットの立ち居振る舞いのモデルにした人がいて、その人を見ながら「あ、こんなところにいた」と思いました。そうか。あの作品の原案もここだったかと……。ま、読者のみなさまには、そんなことは関係ないですけれど。

戦利品

今回は、日本で購入したものすごく使いやすいソフトスーツケースを持っていきました。機内持ち込み可能サイズで、実際に行きは持ち込みました。なんせそのサイズの半分を空けていったんですもの。8キロなかったって事です。帰りは結構重くなりました。

帰りには、空港の免税店でも少し買ったりしたので、チューリヒで預けた荷物を受け取ってからその免税品も突っ込んだら本当にパンパン、そして重くなりました。でも入ってしまったので驚きです。

写真を撮るために買ってきたお土産を並べたのですが、その量に自分でのけぞりました。そんなに買った記憶はないんですけれど。(毎回これだ)

ほとんどは自分用です。いつもの「(オリキャラ・インファンテ323御用達の)Real Saboaria」の石鹸がたくさん右手に見えています。ポートワインの小瓶は、LBV(Late bottled vintage)もので、いわゆるヴィンテージと同じ味なのにお買い得なのです。それに何本かの各種ポルトガル産アルコールの小瓶。CDは今回は4タイトル。二つは自分で狙っていったもので、二つは現地の友達のおすすめです。それに革の小銭入れも見えています。カニの爪のタパスと、作品上で何回か使っているお菓子オヴォシュ・モーレシュも。

戦利品・指輪

これはフィリグラーナ細工の指輪。私は服装はかなり無頓着なんですが、アクセサリーはわりと好きで、今回も何か小さいものを買いたいなと思っていました。初日に見つけて一目惚れして買ったのがこの指輪。銀細工に24金でコーティングしてあります。

以上、戦利品の報告でした。
関連記事 (Category: 黄金の枷 とポルトの世界)
  0 trackback
Category : 黄金の枷 とポルトの世界

Posted by 八少女 夕

スポンサーサイト

広告


上記の広告は1日以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。




この記事は、2017年のエイプリルフール記事です。

なんだか広告が出てしまっているようなので、広告消しのために記事を書こうと思います。

といっても、なかなかネタもなく……。あまり興味がないかもしれませんが、ちょっとした創作秘話でもここに載せておきますね。

その1。「scriviamo!」をやろうと思ったきっかけ。
2013年3月2日にブログの一周年を迎えるにあたって、何かやらなくちゃって思ったんですよね。当時、すでにいくつかリクエストも受けていたことがあって、「リクエストを受けて書くのはなんとかなる」とわかっていたんです。でも、なんだか私だけがいっぱい書いても、みなさんはあまり興味ないんじゃないかなって思ったんです。あの当時から交流しているブログのお友だちはご自分で創作する方がほとんどでしたし、そういう方は読むだけじゃなくて参加型の方が面白がるんじゃないかなと。

で、こわごわ立ち上げたんです。どなたも参加してくださらなかったら、それはそれでショックだったろうし、反対に対処できないほど多かったらきっと匙を投げてしまっただろうし、最初の年は本当に「賭け」でしたね。

幸い、1年目に17人の方に参加していただいて、それをやり遂げることが出来たので自信がつきました。というわけで、毎年やることになったんですけれど。毎年、皆さんがパワーアップしていらっしゃる(笑)もう、最初から張り合うのは無理だからやめようとは思っているんですが、そのみなさんのパワーに飲み込まれるみたいにして、私自身の作品も、おそらく一人で書いているよりはいいものになっているように思います。

といっても、普段の作品が上手になるわけでもないんですけれどね。

その2。キャラはいつ生まれるか。
キャラクターは、基本的に勝手に生まれます。「こういう話が書きたい」「主人公を設定しなくちゃ」という形で組立てたことは……おそらくないかも。「リゼロッテと村の四季」は少しだけそう言うところはありますが、それ以外の作品は、勝手に話が出来てしまってから、あとから「あ~、文章にするか」という形で書き留めるのですね。

よくあるパターンが、旅行中に何かを見ていて、そこから勝手に妄想が動き出すパターン。最初のものはとても断片的なんですけれど、だんだん本人も信じられないような物語になってしまうことがあります。「黄金の枷」シリーズなどはそのパターンですね。最初は「Infante 323 黄金の枷」のラストシーンがぼんやりと浮かんだだけだったのですが、氣がついたら読者の方々がついていけないようなとんでもない世界観が出来ていました。

その3。BGMはいつ用意するか。
これは、なんか「痛たたた」という話ですけれど。ご存知の方も多いかもしれませんが、私は長編作品を書くとたいていその作品に合わせた音楽をプレイリストにして、通勤中などに聴きまくり創作モードにするんですね。だから、音楽がインスピレーションの元になって生まれたエピソードなどもあります。

作品中に「何でここの描写、こんなに力入れて書いてんの? 大した展開でもないのに」というようなときは、かなりの確率で音楽に合わせて脳内で展開してしまったシーンをひたり切って書いたところだったりします。

基本的には、構想の段階、つまり大雑把にストーリーが決まって、主要シーンがイメージできたのと同じ頃にプレイリストを作ります。後から曲が増えることもありますけれど。

私はどちらかというとインストルメンタル系の曲をよく聴きます。まあ、数曲は歌詞入りのものもありますが、歌詞があるとストーリーがその言葉に引きずられるので、そうならないような曲を無意識に選ぶことの方が多いみたいです。

と、これだけ書いたら、広告は消えるかな?
なんせ、広告が出ちゃったのって初めてなんですよ。本当に新しい記事を書いたら消えるんでしょうか?

この記事には追記があります。下のRead moreボタンで開閉します。

read more




おわかりでしょうが、これはエイプリルフールのジョークです。
もちろん、この広告はfc2の広告じゃありませんよ。クリックしても占いは始まりません。

広告用のGIFに使わせていただいた「森の詩 Cantum Silvae」シリーズ用キャラクターのイラストの著作権はうたかたまほろさんにあります。無断使用は固くお断りします。
関連記事 (Category: その他いろいろ)
  0 trackback
Category : その他いろいろ
Tag : エイプリルフール