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scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012


Posted by 八少女 夕

サン・ジョアンの祭り

サン・ジョアンの祭り

昨夜、無事に自宅に帰宅しました。いつもは春に行くのに、六月にポルトへ行ったのは、ひとえにサン・ジョアンの祭り(正確には前夜祭)を体験してみたかったからです。着いた翌日の日曜日なのですけれど、22日の土曜日にはもうパレードがあったり、すぐに楽しむことができました。

作品では、それなりに調べて書いたのですけれど、実際に体験して「ちょっと違ったかな」と思ったこともいくつかありました。でも、まあ、許容範囲かな。

夏至の直後なので、この写真くらい暗くなるのは夜の十時過ぎです。

空に星のように煌めいて見えるのは、紙風船です。禁止されているらしいのですが、構っちゃいないという感じで、みんなどんどんと飛ばしていました。

左手前に少しだけ映っている丸いもの、わかりますか? ニンニクの花です。ピコピコハンマーよりも、少し入手が難しいのですけれど、かなり早めにゲットしたのですよ。なぜこれを私が欲しがったのかは……おわかりですよね?

(……わかるわけないですよね。作品に出てくる重要アイテムだからです)


「Infante 323 黄金の枷」「Infante 323 黄金の枷」をはじめから読む
あらすじと登場人物

小説・黄金の枷 外伝
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Category : 黄金の枷 とポルトの世界

Posted by 八少女 夕

【キャラクター紹介】萱

普段、水曜日は小説を発表しているのですが、現在旅行中につき、一週お休みすることにしました。で、久しぶりのキャラクター紹介の記事です。発表済みの作品や、まだ発表していない作品のキャラクターをちょこちょこっと紹介して、作品に親しみを持ってもらおうかな、という姑息な企画ですね。

今回は「scriviamo! 2019」でフライイングで一瞬出てきた「樋水龍神縁起 東国放浪記」の重要女性キャラ、萱をご紹介します。


【基本情報】
 作品群: 「樋水龍神縁起 東国放浪記」
 名 前: 萱 (かや)
 居住地: 若狭国小浜
 年 齢: 二十代後半
 職 業: 濱醤醢(はまひしお)造りの元締め

* * *


すでに外伝「能登の海」で、登場していますが、本来は「樋水龍神縁起 東国放浪記」のメインキャラです。

萱は濱醤醢の元締めの娘として生まれました。

濱醤醢とは、ニョクマクなどと同じタイプの、魚で作った発酵食品で魚醤です。この話の設定では、朝廷への献上品にもなる極上の濱醤醢づくりの秘伝を受け継ぐ特殊な職人の家系があることになっています。

父親は萱に優秀な若衆の一人を婿に取るつもりでいましたが、その青年は海難で亡くなっています。そして、萱自身には恋仲になっていた商家の男がいて、恋と家業の間で悩んでいた時期がありました。

若衆の事故死に続き、元締めであった父親も数年後に亡くなってしまったため、萱は女の身で元締めになり、家業か自分かの選択を迫った恋人とは別れを選びました。

まだ父親が生きていた頃、その名代として奥出雲の樋水龍王神社へ赴いたことがあり、当時「当代きっての御巫」として名を知られていた媛巫女瑠璃と知り合い親交を深めたことがあります。瑠璃媛の郎党であった次郎とも顔見知りでした。その縁で、若狭国にたどり着いた安達春昌と次郎を自宅に滞在させしばらく養生させることになります。

萱の従姉妹で大領の渡辺氏の落胤である夏と共に、この後、寄る辺なき春昌たちの唯一の湊のような役割を果たすことになる女性です。

* * *


こちらは、私が「大道芸人たち Artistas callejeros」の稔の脳内イメージによくしている上妻宏光の一曲ですが、このイメージでお月見シーンを書く予定。素敵ですよね、この曲。

上妻宏光 風林火山~月冴ゆ夜~

そして、なぜフランス語なんだとツッコミ必至の妄想テーマ曲はこちら。しかも、書こうとしているシーンには、この曲を題材にしたとは到底思えない、日本的メンタリティの筆致で書こうと画策中です。きっと誰にもわからないだろうなあ。

Lara Fabian - Je t'aime


【参考】
「樋水龍神縁起 東国放浪記」をまとめて読む 「樋水龍神縁起 東国放浪記」
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Tag : キャラクター紹介 BGM

Posted by 八少女 夕

サン・ジョアンの祭り!

さて。「黄金の枷」シリーズを書き始めて幾年。ようやく念願叶って,サン・ジョアンの祭りのポルトに来ることができました。なんと、今年は日曜日なのですよ。

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ポルトガルの守護聖人である洗礼者ヨハネの祝日は、6月24日。その前夜祭が、とんでもないお祭り騒ぎなのですが、この日はもともと夏至祭が転じたものでもあるのですよね。私は,この手の古い信仰と新しい宗教が融合した「とにかく祭りなの!」がすきなんですよ。

バジルの香りとイワシの塩焼き、それにピコピコハンマーに,踊りの行列と花火。自作小説に書き込んだ、あれこれ。

「Infante 323 黄金の枷」で、マイアと23がこっそりデートしたあちこちを楽しんでこようと思います。
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Category : 黄金の枷 とポルトの世界

Posted by 八少女 夕

【小説】燃える雨

「十二ヶ月の歌」の六月分です。うかうかしていたら七月になってしまいますね。

月刊・Stella ステルラ 9月号参加 オムニバス小説 stella white12
「月刊Stella」は小説、イラスト、詩等で参加するWEB月刊誌です。上のタグをクリックすると最新号に飛びます。


「十二ヶ月の歌」はそれぞれ対応する歌があり、それにインスパイアされた小説という形で書いています。六月はAdeleの”Set Fire to the Rain”にインスパイアされて書いた作品です。

この曲も歌詞は特に書きません。ものすごく有名な曲ですし、ネットには日本語和訳が山のように転がっていますので。Adeleといったら、やはり失恋ソング……なので、オマージュして、そのまんまの失恋ストーリーを作ってみました。オチはないので、悪しからず。

六月といったら梅雨、といったら雨、という単純な思考で選んだ曲ですが、日本ではなく三月に遊びに行ったロンドンを舞台にしてみました。一年中、雨の降っている印象のある国ですね。


短編小説集「十二ヶ月の歌 2」をまとめて読む 短編小説集「十二ヶ月の歌 2」をまとめて読む



燃える雨
Inspired from “Set Fire to the Rain” by Adele

 しばらく待って、やはり出て行くことを決めた。座っていたティールームの入り口には、濡れる前にと駆け込んできた客たちが、早く出て行って欲しいという視線を投げつけてくる。こんな時に、「それがどうした」と跳ね返して、粘れるような強い精神力をリサは持っていなかった。

 次々と入ってくる客たちの対応に追われている店員はなかなか勘定を済ませてくれなかった。ようやく戸口から出た時には、雨は更にひどくなっていて、冷たい風が吹き付けてくる。

「ちゃんと閉めてよ。隙間風が寒いじゃない!」
出てきたばかりの店から、不機嫌な注意を浴びせられ、リサはこの店には二度と来たくないと思った。かつては、あんなに好きだったのに。

 彼と大英博物館で数時間を過ごすと、いつも足が棒になった。世界中から訪れた観光客でごった返す博物館内のカフェではなく、少し歩いてこの店で休んだ。手作りのタルトやスコーン、丁寧に淹れた上質の紅茶、それらを楽しみながら見てきたばかりの博物館の展示に関する話題で盛り上がった。

 ある日は、古代アッシリアやエジプトの展示を中心に観て当時の王権の強大さや発掘品がイギリスに運ばれた経緯について語ったし、また別の日にはジャパニズム・ブームで集められた浮世絵や鎧などについて、リサの方が熱弁を振るった。

 違う日に別の展示の前で、この前と同じ人と偶然であった、そんなきっかけで始まった付き合いは、やがてティールームからパブへ、それから送ってもらったリサの部屋へと移動した。はじめから誘われたわけでもなければ、彼女がを狙って近づいたわけでもなかった。ごく普通に恋に落ちただけだ。彼は、自分のことを多く語らず、友人にもまだ紹介してもらっていなかったけれど、そうなるのにはまだ時間が掛かるのだと思っていた。

 一日で全てを経験できると教えられた天候の変わりやすさは同じでも、希望に満ちてこの街に遷ってきた十年前には、濡れるほどの雨が降ることは珍しいと言われていた。けれどここ数年は、傘を持っていないと憂鬱になるような降り方をすることが多い。

 彼女は、軒下から軒下へと小走りに伝いながら、ニュー・オックスフォード・ストリートを目指した。屋根つきのバス停に駆け込んで一息ついていると、目の前を一台のメルセデスが派手に水をかけていった。

 助手席に座っていたのは、あの令嬢だ。財閥の跡取りを父親に持ち、高級デパートのはしごをして時間を潰していると評判だった。料金を全く考えずに毎晩携帯電話で国際電話をかけまくっているという噂を伝えたら、彼は「金があるだけが取り柄の人間もいるさ。いちいちやっかむ必要はないよ」と笑った。

 でも、今は、やっかむ正当な理由ができたじゃない。彼女は、俯いて唇を噛んだ。メルセデスのボルドーがかったブラウンは、発売当時に人氣がなかったために非常に台数が少ない稀少カラーだ。彼が自慢にするだけあって、同じ車を見たことはまだ一度もない。だから、車を見ただけで運転席に彼が乗っていることをすぐに予想できた。通り過ぎる瞬間に彼の姿を目に留めて、リサは水たまりに注意して身を引くのを忘れた。

「忙しくてしばらく会えない」
その言葉と共に連絡が途絶えたのを、信じようとしていた。飽きられて捨てられたなんて、認めるのが苦しかった。

 電話をかけても出てもらえないことも、メールに返事がないことも、疑惑を大きくしたけれど、それでも決定的な言葉を投げつけられたわけではないと、自分を納得させ続けてきた。

 彼の言葉が、真実ではなかったと知るのも嫌だった。知らなければ、まだ夢を見て彼の誠実さを大人しく待ち続けることができたのだから。

 彼は知的だったし態度も優しかった。氣後れするほどの一流レストランに連れて行ってくれたわけではないけれど、食事をする時には決して吝嗇ではなかった。将来に関する約束などをしたわけではないから、欺されたということもできないだろう。

 どうしようもなく惹かれ、期待して、夢を見たのは彼女の方だった。令嬢などではないだけでなく、誇れる学歴も、輝かしいキャリアも、何一つ手にしたことがない。日々の生活に追われるだけの生活。

 彼を愛するようになり、何かを期待していなかったかといえば嘘になる。磨き抜かれた、一目で高価だとわかる内装のメルセデス。言葉遣いや服装からも、彼女よりもずっと上の社会に属している人だと感じていた。愛と未来の両方を彼が授けてくれることを願っていた。

 その虚しい期待は裏切られ、すげなく水たまりの飛沫を跳ねかけられた。助手席には、美しく彼のビジネスや人生にもっと有用な助けもできるあの令嬢が座り、リサは一人でここで濡れている。

 雨は、どんどん激しくなった。ドラムを叩くようにアスファルトを打つ。濡れている表面は、雨と風で凍るように冷たくなっている。けれど、彼女の内部は、ひどく熱くなっていった。もはや呼ぶことを許されない彼の名前を叫び、惨めな嘆きが届くように願っている。

 美しくない自分、富豪の娘ではない自分、愛されていない自分、顧みられずにびしょ濡れになった自分。そんな自分を戯れに弄び心を奪っていった男に向けていいはずの、怒りや憎しみはそこにはなかった。未だに抱擁を求めて、リサの心は美貌の令嬢を乗せた彼の車を追っている。

 雨と涙でにじむニュー・オックスフォード・ストリートの街灯を、もう見えなくなった車を探しながらリサは立ちすくんでいた。赤い二階建てバスが、静かに停まり、ドアが開いた。待っていた他の客を乗せると、動かない彼女に運転手が声をかけることなく、ドアは再び閉まった。

 バスが行ってしまうと彼女は、深いため息を一つだけついた。冷たく燃える雨に濡れたまま、トッテナムコートロード駅までの道のりを歩き出した。


(初出:2019年6月 書き下ろし)

この記事には追記があります。下のRead moreボタンで開閉します。

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Adele - Set Fire To The Rain (Live at The Royal Albert Hall)
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Tag : 小説 読み切り小説

Posted by 八少女 夕

サルサ・ディ・ピッツァ

今日の記事は、ちょっと備忘録っぽいですね。

私の住んでいる地域は、アルプス以北のドイツ語圏ではあるのですけれど、イタリアからあまり離れていないこともあって、イタリアの影響もそこそこあるのです。イタリア人もけっこう住んでいて、彼らを満足させるようなちゃんとしたピッツァを出すレストランもあります。

日本みたいに30分で確実にお届け、みたいなチェーンのピザ屋はないのですけれど、届けてくれる店もあります。まあ、ちゃんとしたお店との味の差が激しいので,私は配達してもらおうとは思いませんけれど。

で、我が家で食べるときは、自分で作ります。もちろん、ピッツァ窯の味とは違いますけれど、家庭の味としてはOKレベル。どのスーパーでも売っているピッツァ用生地を買ってくれば、さほど難しくはないです。

ピッツア用ソースを作る

具は何でもいいんですけれど、大切なのはサルサ(ソース)です。これさえ手を抜かなければ、かなりちゃんとしたピッツァに近い味になります。

量はいつも適当なのですが、トマトピュレ、アンチョビー(ともにチューブ状のものを常備)、オリーブオイル、塩、ニンニク、胡椒、オレガノを混ぜ合わせるのです。

天板に生地を広げて,このソースを塗り、適当な具を載せ(なくてもいい)、薄く切ったモツァレラチーズ(なければそこら辺にあるチーズ)を散らして230℃程度のオーブンで10分ぐらい焼けばできあがり。私は薄いピツツァが好きなので「極薄」の生地があればそれで作ります。

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Category : 美味しい話

Posted by 八少女 夕

【小説】霧の彼方から(4)彼の問題 - 3 -

「彼の問題」の続き、三回に切ったラストです。

前回、予定を変更しアメリカへ行く前にイギリスを訪ねたいと提案したグレッグ。この小説では、彼が今まであまり語りたがらなかった子供時代や青年時代の話などを、口にしているのですが、今回はその最初です。既に前作を含めていろいろな方から、ご感想をいただいているのですけれど、実の親子にしては距離のありすぎる奇妙な関係です。ただ、親に虐待されていたというような形ではなく、あくまでかみ合っていない関係だったというのがスタンスです。

上手くいっている親子関係はもとより、親に虐待されている子供も、現実にこの世界にはありますが、そうした親子関係ではなく、この特殊な親子関係を選んだのは、関係そのものよりも結果としての彼の存在のあり方が私の小説テーマに上手くはまったからなのですね。

次章はようやくプロローグで着いたイギリスに話が戻ります。あ。もっとも来週は、別の小説を発表します。


霧の彼方から「霧の彼方から」を読む
あらすじと登場人物




霧の彼方から(4)彼の問題 - 3 -

 彼は、すまなそうな顔をして彼女を見た。
「母は、正直言って僕のことにはほとんど関心がないから、そんなトピックに触れられるほど長く話ができるかわからない。だから、行く甲斐があるかも疑問なんだ。それに、アフリカだけでなくアメリカに対しても偏見があるので、もしかしたら君に失礼な態度をとるかもしれない」

 ジョルジアは首を振った。
「構わないわ。どうってことないわ。それに、お母様と話す時に、私が行かないほうがいいなら、一人で観光していてもいいし。あなたの育った街を見るのも楽しみだもの」

 彼は、チェストに置かれた写真立てを眺めた。以前《郷愁の丘》に滞在した時にはなかったもの。それは亡くなった父親スコット博士の生前の姿だ。

「本当は、母と話すのが必要なことか、よくわからないんだ。でも、父との関係を何とかしようとしたこと、あの行動を起こしたことは、僕の人生を大きく変えたんだと思っている。その、想いだけが空回りしていて、結局一人では彼と上手く話せなかったけれど。でもあの時、君が側に来てくれて、レイチェルも骨を折ってくれて、最後には彼に嫌われていたわけではないことを知ることができた。あの数日間に、『僕は誰からも嫌われる存在』ではないのだと始めて思えたんだ」

 ジョルジアは、思いやりを込めた瞳で頷いた。
「あなたもお父様のことを慕っていたんでしょう」

「わからない。ケニアに戻ってくるまで、僕にとって父は肉親というよりも養育費を払ってくれる他人みたいな存在だったんだ。どんな感情を持っていいのか、わからなかった。手紙もなかったし電話もしなかったから、銀行の振込金額でしか存在が確認できなかった。ずいぶん前にレイチェルが、僕と父の顔は似ているって言って、ドキッとしたよ。その時にようやく肉親として意識した感じなんだ。君は父に実際に会って僕と似てると思った?」

 ジョルジアは病床のスコット博士を思い出そうとした。
「ご病氣でとても痩せて、それに瞼を閉じていらしたから、確かじゃないけれど、マディとあなたの目元の辺りはとてもよく似ているから、それはお父様から受け継いだんじゃない?」

「いわれてみるとそうかもしれないな。母からは、父は僕には自分に似た所が全くないと、我が子かどうか疑っていたって言われてたから、レイチェルの言葉を聴いて、嬉しかったんだ。本当のところは、わからないけれどね。もっとも、母は僕によく言ったよ。『お前は本当に父親とそっくりだ』ってね」

「大きくなって似ているところが際だってきたのかしら」
「多分違うな。外見よりも、振る舞いが彼女の氣に入らないと、そう言ったんだ。こんな振る舞いをするのはあの男の血のせいだって言いたかったんだろうね」
「……」

「僕は、父の記憶がなかったから、そうなのかと思っていたけれど、成人してから再会した父は、僕みたいにぐずぐず考えてばかりではなくて、有言実行の人だったよ。だから、僕は少しがっかりしたんだ。本当に父から受け継いだところがあって欲しかったって」

「あるわ。あなたもお父様と同じように立派な動物学者じゃない」
「父は確かに一流の学者だったけれど、僕は違う。でも、怒り任せだった母の言葉は、僕に根拠のない自信を抱かせたのかもしれない。父に似ているのならば僕も立派な動物学者になれるだろうと、大学を卒業するまでなんとなく思っていた。そうじゃなかったら、もっと早くに諦めてしまったただろうね」

「お父様は、あなたが自分と同じ動物学者になってくれて、嬉しかったんじゃないかしら」
「どうだろうね。でも、彼が祖父のトマス・スコットを心から尊敬し誇りを持って同じ職業についたいたことは知っている。だから、僕が同じ道に進むのを嫌がらないでくれてありがたかったよ」

「あなたはお母様にも似ている?」
ジョルジアが訊くと、彼はわずかに間を空けてから口を開いた。
「似ている所はいくつかある。髪の色が同じだし、あまり背が高くないのも母の方からもらったかな」

 だが、彼は氣質の相似点については、全く口にしなかった。


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Posted by 八少女 夕

楽して旨味

ここ数年、日本で流行った調味料をいろいろと試してきました。ただし、ずっと遅れて。

きっかけは、数年前に体重がドンと増えてしまい、ダイエットを敢行したことに始まります。ダイエットはそこそこ成功し、今は増えそうになるのをなんとか食い止めている状況。

で、その時に、単に量を減らすだけでなく健康に美味しく食べなくては(しかも楽に)と、ネットで調べて日本で流行ったいろいろな調味料を試すことになったというわけです。

いろいろと試した後に、我が家にあった常備がわかってきました。たとえば、塩麹、塩レモン、マッサ・ド・ピメンタオン、チャツネなども一通り自作しましたが、使用頻度があまり多くないので今は作らなくなりました。

現在、作って常備しているのは、塩麹の粉末、甘酒、醤油麹、かえし(蕎麦つゆの素)、ネギ油、ブールマニエ(バターと小麦粉で作ったホワイトソースの素)、食べる醤油です。

先にネギ油の話を書いてしまいますが、これは買ってきたネギの捨てる青い部分を使って油に香りを移すのですね。この油を使うと、料理がはじめから美味しそうな香りになるのです。日本には、普通に売っているので、忙しい方はわざわざ作ることはないかもしれませんが、こちらではもちろん作るしかありません。でも、作る甲斐ありますよ。

それから乾燥麹を使った調味料の話です。

会社の九時の休憩に朝食として、穀類、チアシード、ヘンプシードと一緒にヨーグルトを毎朝カップに半分くらい食べているのですけれど、日本より発酵食品が少ないこともあって、それだけじゃ足りないかなと、乾燥麹を日本から持ってきたのです。

麹から作るものでは、塩麹と醤油麹と甘酒があるのですけれど、塩代わりに振るという目的では、液体の塩麹よりも塩と乾燥麹を粉砕した粉状のものの方が使いやすいことがわかりました。液体の塩麹を使いたい時には甘酒に塩を入れるのでもOKです。そして、醤油麹は旨味が多くて美味しいのと、味噌と合わせて中華で使う海鮮醤の代わりにもなるのですよね。そして、かえしは、本当に便利で和風料理にはほとんどこればかり使っているのですけれど、ここにも醤油麹を混ぜて旨味を増やしています。

ちなみに、かえしは、醤油と砂糖とみりんで作るものなんですが、みりんがないので白ワインとメープルシロップで代用しています。代用してもちゃんとそれらしい味になるんですよ。

食べる醤油は、日本で市販のものが美味しかったので、自作するようになりました。スパイスコーナー売っている乾燥タマネギを、胡麻、塩、かえし、小麦胚芽、ニンニク、オリーブオイルなどと一緒に粉砕してペースト状にするのですね。

もちろんご飯と一緒に食べても美味しいのですけれど、スパゲッティの隠し味にしたり、肉料理のソースに入れたり、便利に使っています。
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Posted by 八少女 夕

【小説】霧の彼方から(4)彼の問題 - 2 -

「彼の問題」の続き、三回に切った二つ目です。この話、前作「郷愁の丘」よりもずっと短い中編で、章は全部で九しかないのですけれど、四までが導入部……。

単に疲れていたのか、ボーッとしていたのか、アレの最中に妙な行動をしてしまい自分でショックを受けていたグレッグ。「なんとかしなくては」と思った模様です。

前作に続き今作でも、マサイ族の長老がでてきて重要な役割を果たしています。このキャラクターは、私がアフリカに行くきっかけとなった本、ライアル・ワトソンの「アフリカの白い呪術師」に出てくる長老へのオマージュです。私の小説には、いわゆるファンタジー要素はなく、物事を魔法で都合よく説明・解決する存在や設定は皆無です。でも、現実の世界にあるように「これ、単なる偶然? それとも、何かものすごい未知なる力が働いている?」的な、ギリギリどっちともとれる話はよく出てきます。長老はいわゆるウィッチドクターですが、前作での発言にしろ、今回にしろ、本当に何もかも見えて導いてくれているのか、適当に言っていることが偶然グレッグの人生に大きな導きの光になっているのか、その辺は読者の判断にお任せします。


霧の彼方から「霧の彼方から」を読む
あらすじと登場人物




霧の彼方から(4)彼の問題 - 2 -

 それから一週間ほど経った。二人は夕食の後、いつものようにテラスで星を眺めながらワインを飲んでいた。ニューヨークへ出発する便の予約のことを話していた時に、不意に彼が言葉を切った。ジョルジアは、どうしたのだろうと彼の顔を見つめた。

「今日、長老に会ったんだ」
彼は、戸惑いながら話しだした。ジョルジアは、首を傾げた。
「あの、マサイの?」

 彼は頷いた。彼女が初めて《郷愁の丘》に滞在した時に、連れていったマサイの集落。今日は、大学での講義の帰りに一人で寄ってきたのだ。
「外国人の依頼でライオンの密猟をしているレンジャーがいるという噂があって、情報をもらいにいったんだ」

「密猟? 本当にそうだったの?」
「ああ、本当だった。ちょっと有名な雄ライオンが狙われていたんだ。でも、そのキクユ族のレンジャーは、失敗しただけでなく、反対に夜中に狙ったライオンに襲われて命からがら逃げ出したそうだ。怖がって都会へ引っ越したので、もう過去の話になったと教えてくれた」
「そう。よかった」

「うん……」
彼の話は、まだ終わっていないらしい。彼の少し沈んだ表情が氣になった。
「どうしたの、グレッグ」

「長老が、僕の顔を見て、心に重石があるだろうと」
「まあ」
「長老は、部族の精神的指導者でもあるんだ。悩みを見抜かれたのはこれが初めてじゃない」

「相談してみたの?」
「具体的にじゃないけれどね。どうしようか思いあぐねていることがあるって言ったよ」
「それで?」

 グレッグは、小さく笑った。
「重々しく言われてしまった。……答えは、お前とともにあるってね」

 ジョルジアは、首を傾げた。
「どういうこと?」
「どうすべきか、自分でわかっているだろうって意味だと思うよ。帰り道に、僕はどうしたいんだろうか考えていたんだ」

 彼女は、何も言わずに彼の顔を見つめた。彼が心を決めたのは、その表情からわかった。彼は、ワイングラスをテーブルに置いて、彼女の方に向き直った。

「ジョルジア。予定を変えても構わないだろうか」
「変えるって?」
ジョルジアは、まさか結婚を取りやめたいと言い出すのではないかと不安になって訊いた。

「二週間ニューヨークに滞在する予定を、例えば一週間にして、イギリスに寄っても構わないか」
グレッグは、とても済まなそうに訊いた。

 ジョルジアは、はっとした。
「ええ、もちろんよ。いいアイデアだと思うわ。どちらにしてもヨーロッパでトランジットしなくちゃいけないんですもの。一週間滞在するのはまったく問題無いわ。十日でもいいのよ。なんといっても、イギリスにはお母様がいらっしゃるんですものね」

 彼は頷いた。
「僕の例の異常行動は、おそらく母との歪んだ関係が原因じゃないかと思うんだ。子供の頃と違って、そのことは氣にしていないつもりだった。でも、父の時もそうだったけれど、僕はその問題に直面するのを避けていただけなんだ。だから、今になって鬱屈していた想いが表面化してきてしまったのかもしれない」

 ジョルジアは、二ヶ月ほど前に、結婚式の話をした時のことを思い出していた。「お母様を招待しなくていいの」と訊いたが、彼の返事は「必要ない」だった。彼自身がクリスマスカード以外の連絡をしていないと言っていたので、彼が会いたくないのだろうと思った。だから、その件には敢えてそれ以上は触れないようにしてきた。

 ニューヨークにケニアの知り合いを全て招ぶことは難しいため、リチャードとアウレリオがヴォイでのパーティも計画してくれている。そちらは、主賓がレイチェルなので、彼女を毛嫌いしているというグレッグの母親を招待するというようなことは考えられなかった。

 それでも、グレッグにとっては実の母親だ。やはり何も言わずに結婚したくないのだろうと思った。ジョルジアも、義理の娘になる以上、できることなら会ってみたいと思っている。
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Tag : 小説 連載小説

Posted by 八少女 夕

Joseph Josephのコンポスト用容器

今日の記事は、またしても買っちゃった話です。ただし、今回は日本ではなくてヨーロッパ間の個人輸入。

なんて書いていますが、欲しいと思ったきっかけは日本の情報でした。私はiPhoneアプリで日本のニュースをチェックしているのですけれど、その生活のコーナーにときどき「これは便利!」というような商品があって、どうしても欲しい場合は日本から送ってもらう手間をかけても購入しているのです。そして、最近「これはほしい!」と思ったのがこのコンポスト用容器でした。

コンポスト用容器

正確には「Compo™ 4 Food Waste Caddy」という商品です。

コンポスト用容器というのは、説明が少し難しいのですけれど、要するに生ゴミを入れておくバケツだと思ってください。私の住んでいる地域では、野菜関係の生ゴミは農家の肥料とするべく特別のコンテナに出しそれを週に一度回収してもらうシステムになっているんですね。一軒家だと子供が一人ぐらいは入れるサイズのコンテナで、集合住宅だと大人が入れるくらいのサイズのコンテナが道路に置かれるわけです。

で、各家庭は、そこまでコンポストを持っていくのです。つまり、料理する度に外まで生ゴミを置きに行くことも可能なのですけれど、やはり少し面倒なので、台所にコンポスト用の生ゴミを一時期保管しておく容れ物を用意することになります。一番多いのは緑色で四角い容器なのですけれど、外に出しておくのはいまいち美しくなく、シンク下に置いている人が多いです。

これ、実際にやってみるとわかるのですけれど、少しずつストレスがたまるのです。シンクのところで生ゴミが出る。土がついていたり濡れている状態で、シンク下の扉を開ける。かがんでバケツの蓋を開けて生ゴミをしまう。手を洗い直して扉やバケツ周りをきれいにする。ほんのわずかの行為なのですけれど、料理の度にこれをやるわけです。

かといって、シンク横にずっと置いておくのは見た目が悪すぎるんですね。

で、このコンポスト容器を見た時に、私は飛びついたわけです。「理想だ!」って。

写真や下の動画を見るとわかりますが、これは横に細長い容器で、指で持ち上げるだけで蓋が開きます。そして、野菜の切りくずも、お皿の残り物もさっと入るのです。そして、窓辺においても違和感のないデザインであることもポイントです。個人的にとても重要なのが、スイスのどこでも買えるコンポスト用の袋(ビニールに見えますが、後に土の中で分解するのでそのままコンポストに捨てられる)5リットル用がピッタリ収まるのです。

購入してしばらくして、その便利さを実感したのは、なんとこれに替えてから、連れ合いが自分の出した果物の皮やパンくずなど、今までどんなに口を酸っぱくしても放置していたコンポスト類を自らこの容器に入れるようになってくれたんですよ。「面倒を感じさせなくする便利な商品」の偉大さを改めて噛みしめました。

私は直接買いましたが、Joseph Josephはスイスにもどういうわけか送料なしで送ってくれました。日本にもこの会社の製品は入っているようです。おしゃれなだけでなくかゆいところに手の届く有用なデザイン、おすすめですよ。

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