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scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012


Posted by 八少女 夕

日本で買った便利なモノ (8)エコバックShupatto

さて、今日は日本で買った便利グッズを紹介するコーナーです。8回目の今回は、日本でも必要性がアップしているエコバッグの話です。

Shupatto

スイスでは、もともと買い物袋はほとんど有料(めちゃくちゃお高い店は別)で、エコバッグは必須でした。ちなみに袋詰めなんかも誰もしてくれないので、レジでは自分でサクサク袋詰めをする能力も鍛えられたのですけれど、ずーっと、エコバッグのある点が苦痛でした。たたむのが面倒くさい。

週に一度のお買い物の時はいいのです。基本的に大きなたたまないエコバッグを持って行きますから。そうではなくて外に出るときには必ず持ち歩いているコンパクトなエコバッグ。そうなるとたたむときには1度机の上に置いてちゃんとたたまないと外袋に入らない。でも、その一手間がめちゃくちゃ面倒だったのです。

こういう時に、頼りになるのが日本の商品。「エコバック たたむの面倒」などで検索すれば、絶対に何か出てくるはず。で、思った通り出てきましたよ。検討した結果、Shupattoという、エコバックのDrop型のものをゲットしたのです。



動画では、シュパッと縦長にした後、机に置いてたたんでいますが、手に持ったままでも簡単にたためて、ゴムで留めるので袋に入れる必要すらありません。前に持っていた常時携帯用エコバッグより少し大きめになってしまいましたが、この便利さには代えられません。
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Posted by 八少女 夕

【小説】Filigrana 金細工の心(3)出逢い

『Filigrana 金細工の心』の3回目です。

追記に動画を貼り付けておきましたが、今回主人公が弾いているベートーヴェンのピアノ曲『ロンド・ア・カプリッチョ ト長調』は奇妙な俗称がついています。『失われた小銭への怒り』と。これはベートーヴェン自身が付けたわけではないのですが、本来の題名よりもずっと有名になっています。そして、とても難曲なのだそうです。

少なくとも今回のシチュエーションで弾くような曲とは思えませんが、当の奏者はかなり皮肉っぽい性格。アントニアは「なぜこれをいま弾く」と心の中で突っ込んでいたに違いありません。



『Filigrana 金細工の心』を読む「Filigrana 金細工の心」をはじめから読む
あらすじと登場人物





Filigrana 金細工の心(3)出逢い

 ライサは追われ、必死で逃げていた。いつもの悪夢、血まみれの赤ん坊、そして、笑いながら彼女を犯す狂った金髪の男から。目が醒めて、暗闇の中に放り出された。彼女は、光と音を探した。それは夜で、彼女の求めるものはどこにもなかった。

 ピアノが聞こえなければ、彼女は安心できなかった。シンチアやルシアなど使用人たちもいなかった。ピアノの聞こえるところ、光の見えるところまで、彼女は逃げなくてはならなかった。彼女は、パニックに襲われ、ベッドから抜け出した。1度も出た事のない部屋から出て、階段を転げるようにして降りた。

 いくつかのドアを開けて周り、ようやく探しているものを見つけた。サロンの真ん中に、グランドピアノがあり、月光に浮かび上がっていた。彼女はそれに近づき蓋を開けて、めちゃくちゃに鍵盤を押した。みじめな不協和音が響くだけで、彼女を悪夢から救い出す、あの響きは創り出せなかった。

「こんな時間に、何をしている」
男の声がした。ライサが振り向くと、月の光の中に男が立っていた。明るい月の光に照らされて、柔らかく光沢のある髪が見えた。背の高いすっきりとした体格も。

 ライサは悲鳴を上げた。彼女が怖れている悪夢の男がここまで追いかけてきた。陽の光で見てもよく似ている2人を、暗闇の中で錯乱したライサが見分けられるはずはなかった。

「いや! やめて! 助けて!」
「私は、何もしない。落ち着きなさい」

 混乱したライサは、部屋の隅へと向かい泣き叫んだ。男の後ろから何人かの人々と共に飛び込んできた女性が側に駆け寄った。
「ライサ!」

 アントニアだった。現実の世界にいるはずの、彼女に安全を約束してくれる女性。ライサは、彼女に抱きついて泣き叫んだ。
「いや! 助けて! ピアノが聞こえない! ピアノが!」

 アントニアは、男に向かって叫んだ。
「叔父さま、何かを弾いてちょうだい」
「なんだって?」
「何でもいいから、弾いて! お願い!」

 彼は憮然とすると、ライサが倒した椅子を起こして座り、月の光の中で弾きだした。ベートーヴェンのピアノ曲『ロンド・ア・カプリッチョ ト長調』だ。このシチュエーションには唐突な、明るく軽快な曲だが、俗に『失われた小銭への怒り』と呼ばれているので、夜中にたたき起された上に野獣扱いをされた事への抗議も含まれているのかもしれないとアントニアは思った。

 アントニアの腕の中で、ライサは自分の耳を疑った。流れるようなトリル。力強く自信に満ちた連打。目の前で演奏されているのは、まさに彼女の望んでいた響きだった。ピアノの弾き手、ライサをいつも安全な現実の世界へ連れて行ってくれていた人物は、アントニアではなかった。この男だったのだ。

 やがて、それが誰だかわかった。彼女にトラウマを与えたインファンテ324ではなく、その叔父のインファンテ322、アントニアとともにこの館に住んでいる、もう一人の「メウ・セニョール」なのだと。

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Beethoven - Rondo 'Die wut  über den verlorenen groschen'
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Posted by 八少女 夕

【キャラクター紹介】マヌエル・ロドリゲス

久しぶりのキャラクター紹介の記事です。発表済みの作品や、まだ発表していない作品のキャラクターをちょこちょこっと紹介して、作品に親しみを持ってもらおうかな、という姑息な企画ですね。

今回は連載中の「黄金の枷」シリーズから外伝にしか出てこない脇キャラ、マヌエル・ロドリゲスの紹介です。現在連載中の『Filigrana 金細工の心』はもちろんのこと、それ以外にも今後活躍する予定は全然ないのですけれど、なんかたまには全く重要でもないお気楽キャラの紹介もいいかなーと思って。


【基本情報】
 作品群: 「黄金の枷」シリーズ
 名 前: マヌエル・ロドリゲス(Manuel Rodrigues)
 居住地: Gの街(D河を挟んでPの街の対岸にある。モデルはVila Nova de Gaia)
 年 齢: 初登場の「追憶のフーガ — ローマにてでは28歳
 職 業: 修道士見習い 兼 《監視人たち》中枢部つき

* * *


マヌエルは、Pの街で《監視人たち》の家系の1人として生まれました。子供の頃から運命づけられた家業(《星のある子供たち》たちの監視ならびに掟の強要)に疑問を持ち、その枠組みから逃げ出すために、神学にも教会にも興味もないのに神学生となることを選びました。

しかし、女の子は大好きなので、妻帯の許されない司教になるつもりははじめから皆無でした。予想に反して送られたのがカトリックの総本山であるヴァチカンで、しかもドラガォンとつながりの深いエルカーノ枢機卿の秘書にされてしまいます。早く司教になるための終生誓願をするようにとつつかれていたので、どうやって逃れようかと画策していたところ、ローマで以前に監視したことのあるクリスティーナと出会います。実は、クリスティーナはもともと《星のある子供たち》生まれで亡くなったドラガォンの最重要人物の恋人でした。そして、システムの例外救済措置で自由になったばかりでした。

後に、ドラガォンで発生したある事件を解決するために、クリスティーナは《星のある子供たち》である別の人物と入れ替わり再びPの街に帰ることになりました。クリスティーナを崇拝するマヌエルは、彼女の側にいるために、《監視人たち》中枢組織の一員として働くことを了承しPの街に戻りました。

帰国後しばらくは『ドラガォンの館』のすぐ近くにあるサン・ジョゼ・ダス・タイパス教会付きの修道士見習いでした。ボルゲス司教の計らいではじめた地域の独居老人を定期的に訪問する仕事にやり甲斐を感じるようになります。現在は新しく担当になったGの街の小さな教会に住み、地域住民の便利屋のような仕事を続けています。

一方で、ドラガォンからの依頼で、イタリアやスペインから来た客人を案内する仕事や、クリスティーナの通訳兼ボディガードを任されることもあります。とくに前の経歴やヴァチカンの要職にある人物と親交があることから、ヴァチカンがらみの訪問者があるときは、クリスティーナやアントニアの通訳を優先的に任されています。

あっけらかんとしたお調子者で、フットワークはとても軽いです。クリスティーナには仕事相手としか認識されていませんが、なにかとペアで仕事ができるので今のところ満足しています。

ちなみにクリスティーナのマヌエルに関する第一印象がこれです。ひどすぎ(笑)

 ふと視線を感じて横を見ると、先ほど彼女がタラップを降りる時にちょうど後ろにいた、若い青年がいた。どちらかと言えば貧相なタイプで、茶色い髪は少し伸び過ぎで、黒いシャツに灰色のジャケットはフランス資本のスーパーマーケットで揃えたような安物だった。




【参考】
小説・黄金の枷 外伝
「Infante 323 黄金の枷」『Infante 323 黄金の枷 』
『Usurpador 簒奪者』を読む『Usurpador 簒奪者』
『Filigrana 金細工の心』を読む『Filigrana 金細工の心』
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Tag : キャラクター紹介

Posted by 八少女 夕

【小説】Filigrana 金細工の心(2)悪夢

『Filigrana 金細工の心』の2回目です。

ええと。この回はR18指定すべきかなと思う内容なので、読みたくないという方はお氣を付けください。とはいえ、この記述をしないで書くのは、ぼんやりした話になってしまうので、あえてこうなりました。前作では、23がマイアにソフトに語るという形で説明した24のやっていたことが、少し具体的に記述されます。

ここまで具体的な描写は、今後ほとんどないと思いますので、ご安心を。



『Filigrana 金細工の心』を読む「Filigrana 金細工の心」をはじめから読む
あらすじと登場人物





Filigrana 金細工の心(2)悪夢

「……ママ。ママ。かわいそうなママ……。あいつがあなたを苦しめているんだね」
その声はすぐ近くで聴こえた。終わりのない悪夢は彼女を休ませなかった。疼痛よりも針が近づいてくるその瞬間が怖かった。ベッドに縛り付けている手錠に電流を近づけてくる時の、狂った笑顔が恐ろしかった。どれほど懇願しても、絶対に逆らわないと誓っても彼は信用しなかった。声が出ないようにかまされた猿ぐつわに手をやり「このなめらかな肌に食い込む枷が美しい」と囁いた。

 乳房をねじ上げられ、苦痛に歪む顔を見て、青い瞳は輝いた。それから彼は欲望のままに、抵抗できない彼女に覆い被さり激しく腰を動かして囁いた。
「ああ、ママ。かわいそうな、ママ。あなたは、あいつに犯されて、苦しんでいる。いますぐに、僕があなたを救ってあげる。こうして、あなたの中からあいつの穢れた体液を搔き出してあげる……僕の存在で満たしてあげる……」

 その声が、次第に大きくなると、彼女の膨れ上がった腹がめきめきと割けて、中から血まみれの赤ん坊が顔を出した。口が裂けて、尖ったギザギザの歯を見せて奇声を発した。彼女は声にならない悲鳴をあげた。

 いつの間にか彼女は自由になっていて、必死で逃げた。暗闇の中、足が縺れ、何度も怪物につかまりそうになり、滑る足元によろけながら、彼女は走った。どこからか、ピアノの音色が響いてきた。彼女は、音のする方へと走る。そこへ辿りつければ、彼女は怪物から逃れられるのだと、そう信じて走った。

 彼女はベッドから起き上がった。体中が強張り、震えていた。喘息の発作のように激しく呼吸をしていた。ピアノの音色はしていなかった。

 汗でネグリジェは、ぐっしょりと濡れていた。ドアがノックされて、妹マリアの声が聞こえた。
「ライサ? どうかした? うなされていたみたいだけれど……」

 ライサは、息を継ぐと答えた。
「……夢を見たの。ごめんなさい、大丈夫」
「そう。わかったわ。おやすみなさい」

 マリアの足音が去り、隣の部屋のドアが閉められたのとを聞くと、ライサは首の付け根に手をやり、汗を拭った。夢……。夢だとわかるようになるまでにどれほどの時間が流れたか、彼女の記憶は欠けていた。ピアノの音色が彼女の救いとなったのもいつだったか憶えていない。

 あの悪夢は、かつては現実だった。彼女が愛し、自身で望んで一緒になった男が、もう1つの顔を見せたとき、その悪夢が始まったのだ。それがあまりにも長く続き、救いが見えなかったので、彼女の精神は現実と夢の境界を失った。肉体の痛みと精神の痛みは交錯してねじれた。胎内の奥深くに挿入された電動の器具が、彼女に快楽を強要しても、彼女には苦痛との違いを感じ取れなくなった。薬品が彼女の現実を壊した。昼と夜は逆転し、愛と憎しみも入れ替わった。

 悪夢は、常に彼女を襲い続け、それが終わる希望など持っていなかった。けれど、そのピアノの音が聴こえるようになって以来、明らかに何かが変わっていた。悪夢にインターバルが訪れるようになっていた。誰かが、優しく彼女の肌や髪を洗っていた。女性の明るい笑い声が近くですることもあった。食事に味がする。時には熱く、ライサは吐き出した。それを誰かが片付け、優しく口元を拭いてくれていた。それが悪夢の男とあまりにも違うのでライサは混乱した。

 やがて、彼女はベッドに座り、誰かが彼女に食事をさせてくれていることに氣がついた。そこはとても居心地がよかった。誰もが優しく、彼女を傷つけたりしなかった。どこからか、ピアノやヴァイオリンの音色がしていた。それを耳にしながら、ライサはここは安全な世界だとゆっくりと理解したのだ。

 それから、ある女性がよくベッドの側に座るようになった。その女性の落ち着いた声は、ライサには心地よく響いた。言葉の意味が分かるまでにはやはり長くかかった。長い心地のいい夢を見ているようだった。ゆっくりと、ぼやけていた画像のピントが合っていくように、ライサはその女性のいる心地いい夢が現実なのだとようやく信じられるようになった。その頃から、その女性にどこかで逢った事があるように思いだした。

「ライサ。今朝の氣分はどう?」
女性は、穏やかに訊く。親しげで優しい。それが自分の名前だと、ある朝、突然わかった。この人は、私に問いかけているのだ。そう思って、ライサは女性の顔を見た。彼女の表情が、つかの間、驚きに変わり、それから笑顔になった。
「ライサ?」

「あなたは……誰?」
ライサは、声を絞り出した。かすれていた。自分の声なのだと、後からわかるほど現実味がなかった。いや、しようと思った事が、できる事、声を出し質問したら、その通りに聞こえた事が驚きだった。

 女性は、微笑んだまま答えた。
「アントニアよ」

 アントニア? 知っている誰かの名前。どこで聞いたのだろう。アントニア。……ドンナ・アントニア……。

 突然、世界が回りだした。石造りの重厚な建物、どっしりとした家具、輝くシャンデリア。『ドラガォンの館』に集う、高貴なる一族。そして、恐ろしい悪夢。震えて泣き出しそうになるライサに、女性ははっとして、それから首を振った。
「心配しないで。あなたは、もう安全な所にいるの」

 その言葉が、ライサを現実に戻した。「安全な場所にいる」心で確認したがっていた言葉を、彼女が口にした。
「ここは……ここはどこ?」

 ライサが、『ドラガォンの館』から連れ出されて、アントニアの住む『ボアヴィスタ通りの館』で療養していることを理解するまでにはまだしばらくかかった。彼女の精神の混乱は、それほどに根深かった。だが、やがて彼女は、朝になり目が醒めると、必ず同じ場所にいて、悪夢が襲いかかってこなくなるという事を信じられるようになった。怖いのは夜眠っているときだけだった。そして、彼女を朝の安全な世界に導いてくれるピアノの音は、『ボアヴィスタ通りの館』で実際に奏でられているのを知る事となった。

 ライサは、ずっと同じ部屋にいた。彼女を世話してくれる使用人が、シンチアという名前で、ライサ自身と同じくドラガォンに雇われている存在である事も理解できるようになった。時々もっと若いルシアという女性が代わる事もあった。ライサは、自分でスプーンやフォークを持って食事をしたり、タオルで顔や手を拭く事もできるようになった。1人で浴室を使えるようになるまでは、もう少しかかったが、やがて、密室に1人でいても、眠らない限り悪夢は襲ってこない事が理解できるようになった。

 階下から聞こえてくるヴァイオリンとピアノの2重奏についてシンチアに質問した。
「ああ、あれはメウ・セニョールのヴァイオリンにドンナ・アントニアが伴奏なさっているのですよ」

「メウ・セニョール?」
その響きに彼女が怯えているのを見て、シンチアは、急いで言った。
「ドンナ・アントニアの叔父上です。亡くなられたドン・カルルシュの弟の Infante322です」

 それが24ではないとわかって、彼女は安堵した。それから、あのピアノを弾いていたのは、ドンナ・アントニアだったのねとひとり言をつぶやいた。
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Posted by 八少女 夕

プリンが好き

プリン

唐突な話題ですが、私はプリンっぽい食感の食べ物が好きです。正統派のカスタードプリンも好きだし、「プッ●ンプリン」のような、安価なプリンも別物として大好き、それに卵豆腐や茶碗蒸しにも目がありません。

実は卵そのものも大好きで、卵かけご飯も、すき焼きに入れる溶き卵も、卵サンドイッチも好きです。そういえば、子供の時に店屋物で麺を頼むとなると必ず卵とじうどんを食べたがっていましたね。

さて、プリンに話を戻しますが、東京のようにそこら辺のどこでも美味しいプリンを買えるわけではありません。なので、「超絶美味しいプリンが食べたい!」と思ったら自分で作ることが前提です。「面倒くさい」にどのくらい打ち勝てるかにより、ゼラチンで固める簡易プリンにするか、それともオーブンで蒸す本格的なプリンになるかが決まります。

写真は、もうだいぶ前に過ぎてしまいましたが、誕生日にレストランに行ったらプレゼントで出してくれたプリンです。そこのウェイターさん、私がプリン好きでいつも食べるのを憶えていてくれたみたい。嬉しいサプライズでした。


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Posted by 八少女 夕

【小説】プレリュード

今日の掌編は、『黄金の枷』シリーズの外伝です。連載を開始したばかりの『Filigrana 金細工の心』とも関わりの強い作品なのですが、視点が(よくわかっていない)マイアで進むので、外伝として本編からは外しました。『Filigrana 金細工の心』本編で後にこの話で使われた曲がもう1度使われます。

【参考】
小説・黄金の枷 外伝
「Infante 323 黄金の枷」『Infante 323 黄金の枷 』
『Usurpador 簒奪者』を読む『Usurpador 簒奪者』
『Filigrana 金細工の心』を読む『Filigrana 金細工の心』




黄金の枷・外伝
プレリュード


 マイアは、いつものように白いブラウスに黒い絹のサーキュラースカートを身につけた。どんな服でも自由に注文していいと言われ、通信販売のカタログをいくつも渡してもらったのだが、以前買っていたようなTシャツやチノパンなどを買うのはためらわれた。そんな服を午餐や晩餐に着ていくことはできなかったし、23と話をするためにいつドンナ・マヌエラやメネゼスたちが入ってくるかわからなかったので、居住区内用の服も体には楽だけれども見た目はカジュアルすぎないものを選んで買ってもらった。

 いま着ている服は、宣告を受けた翌朝に23がその日の晩餐に間に合うようにメネゼスに用意させた2着のうちの1つだった。白いフリルの多いブラウスと、似ているけれど僅かに違うふくらはぎ丈の全円スカートで、どんな状況でも、たとえマイアが上流社会の振舞に慣れていなくても、違和感なく馴染めるスタイルだった。

 その初めての晩餐で、マイアは23がいつも座る席の隣に案内された。前日までは給仕する立場だったのが、してもらう立場に変わっていた。メネゼスが椅子を引き「どうぞ」と言った。23の顔を見ると、黙って頷いたのでマイアは小さく会釈して座った。

 あの食事では、誰も特別なことを言わなかったが、みながマイアの様子に注目していた。突然の宣告で23の居住区に閉じこめられた彼女がどんな反応をするのか誰も予想がつかなかった。ショックを受け、泣き叫び助けを懇願しても不思議はないとみな思っていた。それはこの館では既に何度か繰り返された光景だった。

 マイアが何をするのにも23の顔を伺い、それに対して彼がそっと小さくアドバイスすると、彼女が黙って頷く。時おり嬉しそうに23の方を見て笑いかけたりしているのを見て、心配していた家族や使用人は一様に安堵した様子を見せた。特に、ドンナ・マヌエラは食事が終わると、わざわざマイアの側にやってきて、両手で彼女の手を包み優しく「ありがとう」と言った。マイアは何にに対してそう言われているのか全くわからなかった。

 唯一違う反応を見せたのが24だった。23のことを全く嫌がっていない、むしろ一緒にいられるのが嬉しくてたまらない様子のマイアを見て「なぜ」と言った。24が一緒に一夜を過ごした娘たちは、そんな反応は絶対に見せなかった。必ず一晩にして24への愛は消え去り、怯えながら逃げ惑うようになったからだ。

 その日から、ドラガォンの家族が集まる時には、必ずマイアも同席することとなった。毎日の晩餐、日曜日の午餐、それにその前に行われる礼拝にも、マイアはこれまでの召使いたちの場所ではなく、ご主人様の1人である23の隣に座ることになった。そして、そうした機会に身につけるべき服で悩みたくなかったので、マイアは23がそうするように、新たに用意してもらう服も全て白いブラウスと黒いスカートにしてもらった。そうすれば23のいつも着ている服と釣り合うし、難しいことを考えずに済むからだ。

 日曜日の礼拝と午餐に、ボアヴィスタ通りに住んでいるドンナ・アントニアがやってくるときは、午餐の後に家族がサロンに集まり団らんをする習慣があった。召使いだった頃のマイアは、このサロンでの団らんの場に居合わせたことはなかった。

 母屋3階にあるサロンは、マイアにとってなじみが薄く畏怖すら感じる空間だった。もちろん、本来ならばインファンテの居住区であっても親しみやすさを感じる要素はないのだが、23がラフに接してくれたお陰で屋敷の中でもっとも寛げる一角になっていた。しかし、ドンナ・マヌエラやドン・アルフォンソの部屋の掃除をすることもなかったマイアにとって、母屋3階はよほどのことがない限り足を踏み入れない場所になっていた。

 宣告後、居住区の中で暮らすことになったマイアは、鍵を開けられて呼ばれたときだけ居住区からでることができた。23と一緒に居られるだけで幸福なマイアにとっては、特に差し障りがなかったが、23はマイア1人を居住区に残すことを嫌がった。一家団らんの場に行って何をすればいいのかはわからなかったが、ただ座っていればいいのだと言われて、黙ってついていった。

 おそらくそれは、館の中の多くの人間を安堵させたことだろう。少なくともこちらの居住区では、人知れず娘が長期にわたる虐待を受けたりはしていないことが、誰の目にも明らかだったのだから。

 サロンは広く明るい部屋で、寄せ木張りの床の上に非常に大きな絨毯の敷かれている。年代物に違いない大きなシノワーズの壺や、金箔飾りの施された黒檀の調度が置かれている。この集まりには、メネゼスの他、ジョアナとクリスティーナが同席するのが常だった。

 瑠璃色と金の装飾を施したコーヒーセットが置かれ、マイアは割ったりしたくないなと思いながら邪魔をしないように座るのだった。

 23とマイアが部屋に入ってきたとき、既にドンナ・マヌエラとドンナ・アントニア、そして、2人に挟まれて24がゆったりと座っていた。彼は、午餐の時とは違う服を着ていた。午餐の時は、クリーム色の光沢のあるシャツにグレーのベストを合わせたスタイルだったが、今は昔の人が着ていたようなスイカ色のフロックコート姿だ。時代めいているとはいえ、豪奢なひじ掛け椅子に座っている彼は、場違いという印象を全く与えなかった。落ち着いた菖蒲色のロングドレスを身に纏っているドンナ・マヌエラや、赤紫に黒で縁取りされたスペンサージャケットと対のタイトスカートを見事に着こなしているドンナ・アントニアに挟まれているからかもしれない。

 この部屋に置かれているアームチェアはヴィクトリアン・スタイルで、重厚なマホガニーに装飾華美にならないギリギリの装飾が施されている。おそらく何百年単位で使われているものだろうが、定期的にメンテナンスを施されているのだろう、どの家具もつい先日納品されたものと変わらない状態を保っている。

 マイアは、高そうな椅子に座ることにもまだ慣れていない。そっとサーキュラースカートを広げ、メネゼスに案内された席に怖々と座った。

 23とマイアが入ってきたのを全く意に介さずに、得意の詩作について蕩々と述べていた24だったが、最後にドン・アルフォンソがゆっくりと入ってきて座ると、嬉しそうに立ち上がって言った。

「やあ、兄さん。やっと来ましたね。僕が、生み出した最高傑作、すぐにでも聴いてもらわなくちゃ。ビリヤードのピンク球と釣りブレード針のさる環に関する形而上学的考察に基づく詩なんです」

 ドン・アルフォンソは、全員にコーヒーや茶菓が行き渡っているのを見て取ると、メネゼスに合図をして立っているジョアナやクリスティーナが背後で座れるように配慮をしてから、待ちわびている24に聴いている者には意味がさっぱりわからない詩の暗唱を許可した。

 24の詩を聴くのはこれが初めてではなかったけれど、今回の詩は格別に意味不明だった。そもそもマイアはビリヤードもしたことがないし、釣りの方はさらに興味がなかった。だが、たとえその両方に詳しい者が聴いても、この詩の内容に共感することは難しいだろう。少なくとも韻の踏み方が完璧なのは、マイアでもわかった。新参者の分際であくびをするわけにはいかないので、マイアは23と一緒に街に出かけた日のことを考えて時間をやり過ごした。

 ようやく暗唱が終わったらしい。母親であるドンナ・マヌエラがにこやかに微笑みながら言った。
「お前の詩作に対する情熱は、非凡な才能を開花させたのね。釣り具が美しく思える描写を初めて知りましたよ、メウ・クワトロ」

 氣をよくした24が、ではもう1つと言い出すのを察知したドン・アルフォンソは、急いでドンナ・アントニアに話しかけた。
「アントニア。今日は、お前も何か聴かせてくれるのだろう?」

 マイアは思わずほっとした表情をしたが、横にいた23に氣付かれてそっと肘でつつかれた。ドンナ・アントニアは、微笑みながら立った。
「むしろ私は、トレースに聴かせてもらうことを期待してきたんだけれど」

「ギターラは持ってきていない」
23は短く答えた。23が何かを弾き、それをドンナ・マヌエラが褒めたりしたら、また24が対抗意識で新しい詩を吟じ出したりするかもしれない。だったら、ここでは弾かないでほしいと、マイアは密かに願った。

 ドンナ・アントニアは、それ以上特に23のギターラには触れずに、グランド・ピアノに向かった。
「じゃあ。ここしばらくずっと練習していた曲を……バッハの平均律を元に書かれたシロティの『前奏曲』よ」

 彼女は、ゆっくりと弾き始めた。マイアは、ドンナ・アントニアはピアノを弾けるんだと感心した。思えば、この女性のことを私は何も知らないんだなと思った。ずっと23の恋人だと思い込んでいて、姉だということも知らなかった。ようやく知ったことといえば、成人してから『ボアヴィスタ通りの館』に移り住んでいるが、近年はドンナ・マヌエラに代わって、ドラガォンの対外的な仕事をこなしていることぐらいだった。

 ドン・アルフォンソや23と同じ黒髪は、亡くなったドン・カルルシュ譲りだという。とても美しいが、柔らかい印象の強いドンナ・マヌエラにはほとんど似たところがなかった。
「顔もドン・カルルシュに似ているの?」
マイアが訊くと、23は笑った。
「まさか。俺が父上そっくりなんだ」

 マイアは、ピアノを弾くドンナ・アントニアの横顔を眺めた。いつも快活で華やかな彼女が、どことなく違って見える。静かな旋律が囁きかけるように始まったが、少しずつクレッシェンドをして近づいてきたように感じた。その旋律は再びディクレッシェンドして、遠ざかった。

 右手の旋律は同じように繰り返したが、左手が先ほどとは違いずっと強く分散和音を奏でた。それは、まるでずっとそこにいたけれど視界に入っていなかった誰かが、急にいることに氣付いたときのようだった。

 娘の演奏を聴いているドンナ・マヌエラは、先ほど息子の詩を褒めたときのような柔らかな微笑みを浮かべていなかった。瞳は、娘を通してもっと遠くの別のものを見つめていた。そして娘の紡ぎ出す音色から、憂いと痛みを聴き取っているようだった。マイアの知らない誰かが、ドンナ・アントニアの陰でピアノを弾いている。誰も口にしようとしない重い存在が、サロンに満ちていた。

 短い曲はすぐに終わった。最後の和音が空中に解け、ドンナ・アントニアが静かに手を鍵盤から離して静寂に沈んだ。

 サロンの空氣は先ほどとは全く変わっていた。24だけが派手な拍手をし、ドンナ・アントニアはいつもの快活な笑顔を見せて椅子に戻ってきた。ドンナ・マヌエラも柔らかい微笑を取り戻していたが、マイアはみなの瞳の中に憂いが残っているように感じた。平和な午後の語らいはいつも通り2時間ほど続いた。そして、暇乞いをしてドンナ・アントニアが館を去ると同時に、マイアたちも居住区に戻った。

 あれは何だったんだろう。マイアは、先を歩く23の背中を見ながら考えた。訊いたら教えてくれると思うけれど、軽々しく訊かない方がいいのかも。

 23は、いつもと違って静かなマイアの様子を変に思ったのか、振り向いた。
「どうした?」

 マイアは、笑って首を振った。
「なんでもない。ねぇ、23。さっきリクエストできなかったから、今からギターラ、弾いて」

(初出:2020年8月 書き下ろし)

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Emil Gilels plays the Prelude in B minor (Bach / Siloti)
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Tag : 小説 読み切り小説

Posted by 八少女 夕

乳製品の海で

つい先日、レアチーズケーキを作りました。レシピは日本のものだったのですが、室温で柔らかくしたクリームチーズの他にヨーグルトを水切りしたものを使うと書いてありました。

レアチーズケーキ

しかし、わざわざ水切りヨーグルトを使う必要があるのかと首を傾げてしまったのです。

スイスは酪農国ですから、乳製品がやたらと多いのです。おそらくこの研究家が目指したものと同じ味をもっと簡単に再現できるのではないかとおもったんですよね。

調べてみたところ、「低脂肪クワルクが手に入らないときの代用品として水切りヨーグルトが使える」というブログ記事を発見、つまり水切りヨーグルトは低脂肪クワルクで代用できるということです。ということは、「室温で柔らかくしたクリームチーズ+水切りヨーグルト」を何か他の商品で代用できないか……。というわけで、これまで面倒で避けていた、スイスの乳製品についてざっと調べてみたのでした。

結論としては、クリームクワルク(Rahmquark)を、冷蔵庫から出してそのまま突っ込むという荒技で美味しいレアチーズケーキができました。日本だと洋菓子作りは非常に手間のかかる工程が入っていることがあるのですけれど、もしかして、これは本来は簡単な工程なのに、材料が手に入りにくいことで苦労なさった研究者の方の努力の結晶なのかなあと、しみじみと思った1件でした。

おまけに、普段よく見かける(クリーム状の)乳製品の種類と、その乳脂肪分を並べてみますね。

牛乳の仲間
*全乳(Vollmilch)3.5%
*牛乳風ドリンク(Milchgetränk/Teilentrahmte Milch)2.5%

生クリーム(Rahm)の仲間
*生クリーム(Vollrahm)  35%
*半生クリーム(Halbrahm )12%
*2倍生クリーム(Doppelrahm) 45%

*サワークリーム(Sauerrahm) または クレーム・フレッシュ(Crème fraiche) 15%
*サワー半クリーム(Sauer Halbrahm)  6%
*サワーミルク(Sauermilch) 12%

クワルク(Quark)の仲間 
 フロマージュ・フレ(Fromage Frais)、凝乳、カードともいう。
*半脂肪クワルク(Halbfett Quark)9%
*脱脂肪クワルク(Margenquark) 0.5%
*クリームクワルク(Rahmquark) 15 - 36%

発酵乳の仲間
*ヨーグルト(Joghurt)9%
*ギリシャヨーグルト(Griechischer Jogurt) 10%
*ビフィズスヨーグルト(Bifidus) 8%
*ケフィア(Kefir)3.5%

チーズの仲間
*マスカルポーネ(Mascarpone)20-40%
 ティラミスでおなじみイタリアの濃厚なクリームチーズ。クセがないので使いやすい。
 生クリームを泡立てる代わりに使うこともあり。
*リコッタ(Ricotta) 20%
 同じくイタリアのチーズだがずっとあっさりしている。舌触りが少しざらっとしている。
*フレッシュチーズ(Frischkäse) 11- 15%
 チーズケーキによく使うのはこれ。ただし、冷蔵庫から出してすぐだと扱いにくい。
*ダブルクリーム・フレッシュチーズ(Doppelrahm-Frischkäse) 32%
*カッテージチーズ(Hüttenkäse または Cottage cheese) 6%
 粒状になっているので、クリームとしての使用は要注意。

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Posted by 八少女 夕

心の黎明をめぐるあれこれ(8)今もいつも

本日は、クリストファー・ティンの『Calling All Dawns』というアルバムにちなんだエッセイ連作『心の黎明をめぐるあれこれ』の8作目です。

第8曲は『Hymn do Trójcy Świętej』使われている言語はポーランド語です。


『心の黎明をめぐるあれこれ』を読む
『心の黎明をめぐるあれこれ』を始めから読む




心の黎明をめぐるあれこれ
(8)今もいつも
 related to 'Hymn do Trójcy Świętej'


 何度かこのエッセイ集でも書いているが、私はカトリック信者の家庭で育った。カトリックのミサには、典礼と呼ばれる公式の祈祷文がある。「キリエ」や「サンクトゥス」といったよくクラッシック音楽のミサ曲の題名は、この典礼に基づく。

 典礼で三位一体に対する賛美歌および祈祷文は(カトリックでは)『栄唱』と呼ばれ、ミサや『ロザリオの祈り』といった祈祷時に唱えられる。私が日本で礼拝に行っていた頃は、次のような文語体だった。(訳は時おり変わる)

ラテン語
Gloria Patri, et Filio, et Spiritui Sancto.
Sicut erat in principio, et nunc, et semper, et in saecula saeculorum. Amen.

願わくは父と子と聖霊とに栄えあらんことを。
初めにありしごとく今もいつも世々にいたるまで、アーメン。



 今回、『Calling All Dawns』第8曲で使われている詩『Hymn do Trójcy Świętej』はポーランド語による『三位一体の讃歌』、つまり『栄唱』である。

 日本にいたとき、私はポーランドを含む世界各国の歴史や民族事情に鈍感だった。世界史は好きだったけれど、それは小説を読む感覚とあまり変わらなかった。もしくは、映画のあらすじと似た、つまり、現実にその歴史の延長線上に誰かが生きていることをほとんど考えていなかったと思う。

 ポーランドという国があるのはもちろん知っていたけれど、とても遠い国だった。

 首都はワルシャワ。ショパンと、キュリー夫人、それにヨハネ・パウロ2世の出身国。社会主義の国(当時)だから、ソビエト連邦の子分のようなもの。ひどく雑な理解だけれど、当時はインターネットはなかったし、私自身にも受験勉強の合間を縫い、わざわざこの国のことをもっと理解したいと思う熱意もがなかった。

 ヨーロッパの人々が、中国と日本を混同する程度に、私の東ヨーロッパに対する興味も薄かったのだ。そして、おそらく私の周りにいた同年代の多くが、その程度の理解だったのではないかと思う。

 現在、スイスの私の住む地域、車で10分くらい走ったところにある村には「ポーランドの小径」という地名がある。第2次世界大戦中ポーランド人の戦争捕虜たちが多く住んでいた場所なのだそうだ。彼らは、国を略奪された後、フランスに逃れ対ドイツの抵抗をしていたグループだそうで、フランスがドイツの侵攻を受けたときに、そのままドイツ軍に捕まるよりはマシだという判断で、スイスに入ってきて投降し捕虜となったらしい。

 捕虜なので、労働をさせられたり、居住の自由などはなかったが、少なくとも迫害されることもなく戦時中を過ごし、戦後にもそのまま村の娘と結婚して残った者もいたとのことだ。時おり出会うポーランド由来の苗字をもつ人が、この時にスイスに住みついた人の子孫である確率も高い。

 ポーランドは、スイスが「たどっていたかもしれない」歴史を歩んだ。どちらもヨーロッパの中央部にあり、周りの強国たちに何度も国を狙われた。ポーランドの方は、1度ならず分割され、1795年には国が消滅する憂き目に遭っている。その同じ近隣諸国は、ほぼ同じ時期にスイスにも触手を伸ばしていた。スイスは多くの血の代償を払い、独立を守り切ったが、1つ間違えばポーランドと同じような目に遭ったかもしれない。

 スイスに住んでから、非常によく感じるようになったのが、日本を取り巻く海の存在のことだ。いくつかの島をめぐる領有争いは別として、基本的に一般的日本人は国境線は守られて当然と思っているようだ。本州、北海道、九州、四国のあるあの地図上の姿が、万葉の時代から今まで変わらなかったのだから、これからも変わらないだろうという感覚だ。

 海という越えがたい垣根に守られて、日本は長らく大きな努力もせずに1つの国であり続けた。300年前に測量した地図と、現在の地図には測量技術の違い以外の大きな差異はない。(日本内部で複数の民族による支配・被支配はおこったけれど)

 ヨーロッパの歴史地図は、そうはいかない。国境線は常に動く。昨日の自国と外国が、明日も同じであるとは限らない。国境は、為政者を信頼していれば守られる揺るぎない壁ではない。

 ましてや、何度も祖国をケーキのように分割されてしまった歴史を持つ人々たちにとっての国境線は、戦い勝ち取ってようやく手にした冷酷な隣人との間に立てた垣根だ。

 だからポーランドの人びとが祈りで口にする「初めにありしごとく今もいつも世々にいたるまで」は、おそらく私のそれとは重みが違う。

 現在は、ポーランドもスイスも、その他のどのヨーロッパの国も、宗教はかつてほど大きな意味を持たなくなった。たとえば、洗礼を受けたのがカトリックかプロテスタントかということで、職業や結婚に差し障りが起こるというようなことはなくなった。ムスリムでも、無神論でもいいのだ。

 だが、ほんの50年ほど前まではそうではなかった。どの国の、どの地域がカトリックか、プロテスタントか、もしくはロシア正教かというようなことが、もしくは社会主義により信教が禁じられるというようなことが、人びとの生活や行動に大きく関わっていた。

 ポーランドは、社会主義時代にもカトリックの信仰が強く、国境の封鎖に関しても他の社会主義国とは違っていたようだ。たとえば東ドイツから西ドイツへ一般人が旅行することは不可能だった時代に、ポーランド人は国の許可があればスイスに海外旅行をすることが可能だった。

 体制と実際のあり方が矛盾していようと、彼らは周りの国に合わせることなかった。苦難の中にあったとき、信仰を保ち続け、彼らに苦難を強いる存在から開放されることを諦めなかった。

 旧約聖書の詩編30章に「夜はよもすがら泣きかなしんでも、朝と共に喜びが来る」という1節がある。旧約聖書を聖典としたユダヤ民族も、長い苦難の歴史を歩んだが、国がなくなり迫害を受けた年月に民族を1つに結びつけていたのは、やはり信仰だった。ポーランド人もユダヤ人も、再び国土を持ち、迫害されることがなくなった今、若い人たちの信仰離れが進んでいるというのは、時代の流れがあるにしても興味深い事実だと思う。

 そういえば、私自身が『栄唱』を唱えていたのは、ずいぶんと昔のことになった。子供の頃、父親が双極性障害にかかった。今から思えばそれは病であり、しかも父が亡くなるまでの有限の困難であったが、当時の私にとってそれは永遠に続く逃れようのない苦難だった。ある程度ものごとがわかるような年齢になってから、一時期まじめに教会に通いロザリオを繰っていた。聖母マリアの加護を祈る『ロザリオの祈り』には、最後の方に『栄唱』を唱える。

 スイスに来てから、たとえ教会に行っても典礼で使われている言葉はドイツ語になり、自ら『ロザリオの祈り』でもしない限り『栄唱』を唱えることはない。そして、私は、もう長らくその祈りを唱えていない。私は、自由になり、困難も過ぎ去ってしまったから。

 切実でなくなれば忙しさに紛れて忘れてしまう、なんとも自分勝手で適当な信仰だ。人間のありがちなさが を、自ら見事に体現しているといっていい。だが、それだけでなく、私の中で信仰に対する姿勢が変わったことも、この変化に影響しているだろう。

 既にこのエッセイ集で何度か書いているように、私の信仰は、カトリックの教義からかなり外れてしまっている。もっともその教義そのものも時代によって揺れる。たとえば有名な免罪符は、もちろん現在では誤りだったというのが公式見解だし、布教目的の戦争も現在でははっきりと否定されている。同性愛や妊娠中絶などをめぐっては見解が揺れている真っ最中だ。

 少なくとも「自分たちの信仰だけが絶対の正義で、他は全部間違い」という偏狭な理屈は、教会にもなくなってきている。

 私の育った日本には、元来、他の信仰に寛容な風土がある。神道と仏教を同時に祀るおおらかさだし、その上で教会に連れて行き「賛美歌を歌え」といわれれば抵抗なく歌う人が多いと思う。「我が家のご本尊とは違うけれど、来たからにはこちらのお寺でも手を合わせておこう」に近い感覚で。

 一神教の原理主義を奉じている人たちには、これらは許されざる大罪だろう。神は唯一で、他のものを信じるのは偶像崇拝なのだから。

 でも、カトリックでは、「父(神)」と「子(イエス・キリスト)」そして「精霊」と3つも存在を同時に崇めている。それが『三位一体』という教義だ。(さらに聖母マリアや聖人たちにも取り次ぎを願うという形式をとっているが、ほとんど信仰しているに近い態度で祈る人が多い)

 子供の頃に、カトリック系の小学校に通っていた。宗教の時間、『三位一体』についてシスターから受けた授業のことは、今でもよく憶えている。こんな内容だった。
「『三位一体』とは、マヨネーズのようなものです。成分は油と酢と卵ですが、マヨネーズになると切り離せない1つのものになるのです。私たちは3柱の神を信じているのではなく、唯一の神を信仰しているのです」

 小学校低学年に説明するため、こうなったのだとは思う。だが、『三つ子の魂百まで』のことわざの通り、私の中での『三位一体』はいまだにマヨネーズのイメージだ。

 ギリシャ神話に出てくるような人間くささ全開の神は別だが、私は世界にあるどの宗教で信じられている存在もが、同じ『神』のみせる別の一面なのだと捉えている。大日如来像に手を合わせるときも、出雲大社で手を合わせるときも、バチカンのサン・ピエトロ寺院の中で手を合わせているときと同じ存在に手を合わせているのだと。

 マヨネーズをわずかにとりだして、油をみつける者も、酢の成分を見いだす者も、もしくは卵を見いだす者もいるだろうが、それはとりだした側の認識違いにすぎず、そこにあるのはマヨネーズという1つの存在。子供の頃に受けた教えを勝手に解釈を広げて、私は、世界の宗教や神の存在をそんな風に説明している。

 それゆえ、人間の作ったどの建物に、どれだけの頻度で通うのか、そのことに対してはあまり重要性を見いださなくなっている。その建物に通いその時だけ祈祷文を唱えるよりも、すべての生活においてどんな心を持って『善く』生きているかの方が大切なのだと思う。しかも、世界が自分にとって都合の悪いときだけでなく、都合がよくて楽しいときにも、『善く』生きることが大切なのだと信じている。

 それを願いながら見上げる空は、日本で見たのと同じように青い。風もまた同じように心地よい。「初めにありしごとく今もいつも世々にいたるまで」……。

(初出:2020年8月 書き下ろし)

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Hymn Do Trojcy Swietej (feat. Frederica Von Stade)

【歌詞はこんな意味です】

聖なる三位一体への賛美歌

燃える太陽が昇る
聖三位一体よ、汝は分かちがたい一つのもの
われらが心の中にある永遠の光
思いもよらぬほどの愛を放つ

われらは朝に汝を崇め
夕に汝にひれ伏さん
われらを汝のもとに召したまえ
天の聖人たちとともに

願わくは父と子と聖霊とに栄えあらんことを。
初めにありしごとく今もいつも世々にいたるまで、
アーメン。

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Posted by 八少女 夕

野良ニンジン

健康のため歩いていて、わかったことがあります。スイスの野の花は初夏から秋までほぼ同じものが咲くと思っていたのですけれど、そうではありませんでした。ずっと咲いている花もあるのですけれど、やはり順番があるのですね。

にんじん?

現在、一番咲き誇っているのが、今回話題にしている「ノラニンジン」です。英語では「Wild carrot」または「Queen Anne's Lace」というのだそうです。私は、iPhoneに植物の名前を同定するためのアプリを入れているのですけれど、それで初めて知りました。「ニンジンか! たしかに葉っぱはニンジンっぽいわ」

どうやら食卓でおなじみのニンジンの原種のようですが、ものすごい繁殖力で牧草地一帯に広がっています。

しばらく経つと農家が根こそぎ刈っていくのですけれど、私は少しだけ採って母の写真の前に供えます。他の野の花よりもずっと花持ちがいいのも、実際に採ってみて初めて知りました。
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