聖週間によせて

現在、キリスト教世界では「聖週間」つまりキリストの復活を待つ準備の1週間となっています。キリスト教国にとって復活祭(イースター)は、クリスマスとならびとても大切なお祭りで、日本でいうとどちらがお盆でどちらがお正月か、ちょっと断定できないほど。(実際に、この時期に人々は日本の年の暮れのように大掃除をします)
敬虔なキリスト教徒ならば、灰の水曜日から40日間の潔斎期間(肉などを食べずにキリストの苦難を思う)はずなのですが、少なくとも私の周りにはそこまで敬虔なキリスト教徒はいないみたいです。それでも例えばカトリックの多いポルトガルなどでは、この時期はバカリャウ(ポルトガル人の大好きな干し鱈)がたくさん食卓に上ると聞いたことがあります。
そして、いよいよ復活祭の近づいてきた聖週間には、敬虔に過ごす、または、少しギョッとするような外見の行列の祭儀を執り行ったりする地域があるようです。ちなみに、我が家の近くには、なにもありません。
今年は、どのキリスト教国も、カトリックもプロテスタントも、復活祭を大きく祝うことはできません。平素はガラ空きの教会もクリスマスと復活祭には満杯になるのが普通だったのですが、それも禁じられて異様な祭日になっています。
去年の復活祭は、ロックダウンで誰もいないミラノの街をドローンで撮影したアンドレア・ボチェッリの「Music For Hope」が話題になりました。
今年もまた、ヴァチカンのミサは縮小して行われるそうですし、こちらの地域の教会もみな集まらないように、歌わないように、抱き合ったり握手をしたりしないようにと、異様な状態で迎えます。
昨年「たった1年のことだ、いま耐えればきっとすぐに元通りになる」と、口々に言っていた人たちが、いま長引く厄災に疲弊しながらこの1年のことを考えています。
そういえば、イエス・キリストが磔刑にされたのはユダヤ教の大切な祭り「過越祭」の時でした。神に与えられた疫病が世間を覆い尽くす間、それが通り過ぎるのをひたすら待ち生きながらえさせてもらったことへの感謝の祭りです。ですから、現在でもユダヤ教信者は、キリスト教の復活祭と同じ時季(春分後最初の満月の後の祝日)に過越祭を祝います。
いまは、全世界のあらゆる人々が、禍が通り過ぎるのを待っています。それがいつになるのか、どんな形で終わるのか、私にはわかりませんが、少しでも早い事を祈る復活祭になりそうです。
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ホットサンドが好き
さて、本日の話題は、相変わらずの食いしん坊系です。

ホットサンド、私は大好きで15年以上前から無名メーカーの電気式ホットサンドメーカーを使っていたのですが、ちょっとした不満がありました。そのマシンがどうというのではなく、単純に私はプレスしてパンがぺっちゃんこになるのがあまり好きではなかったのです。
そして、最近の日本のネット界では、「ホットサンドメーカー活用」「ワッフルメーカー活用」が話題になっていて、単にパンやワッフルを作るだけでなくいろいろな料理をつくるのに使っているようなので、私もいろいろと試してみたくなったのです。そして、以前から狙っていたTefalのSnack Collectionシリーズに心がどんどん動いて買ってしまいました。
これ、残念ながら日本のT-falでは販売していないみたいなのですけれど、似たような製品が日本にもあるみたいですね。要するに鉄板の部分をさまざまなパーツに変えて、ホットサンド、ワッフル、ドーナツ、パンケーキなど12種類のメニューを作れる機械です。実際に買ったのはSnack Collectionの安価互換モデルであるTefalのSnack Timeです。で、はじめからついていたパーツは、普通の三角のホットサンドメーカー用とワッフル用でした。

なのですが、考えるところがあり、すぐにフレンチトースト用のパーツも買い足しました。理由の1つが上記のパンを押しつぶして食べるのが、あまり好みでないということでした。加えて、たとえば揚げないコロッケなどをつくるときに、少し空間が足りなくてぺちゃんこになってしまうという理由もありました。フレンチトースト用のパーツは、空間がとても広いのです。

結果は大成功で、現在一番多く使っているのがこのパーツです。普通のホットサンドはもちろん、揚げないコロッケ類や、スイス名物ロシュティなどもこれでつくっていますよ。(こうした本来的でない活用法については、またいつか別の記事で触れますね)
潰さないホットサンドを作るときの注意点は1つだけ。パンをカットするのは加熱する前に。加熱後に切るとカット面の見た目が悪くなることもそうですけれど、それ以上に先に切る方が力を入れるときにずっと楽なのです。
すっかり氣をよくして、現在パニーニ用のパーツも注文中。こちらも楽しみです。
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【小説】Filigrana 金細工の心(10)迷宮
はじめにお断りしておきますが、今回の更新、おそらく読んでくださる方にはドン引きされると思います。だから、開示をダラダラ引き延ばしていたわけではないんですけれど……。第1作のヒロイン、マイアはお子様だったのでこういう展開は全くなかったんですけれどねぇ。
![]() | 「Filigrana 金細工の心」をはじめから読む あらすじと登場人物 |
Filigrana 金細工の心(10)迷宮
わずかな軋みが、彼の前頭葉に刻み付けられている。それは過去に確かに耳にしたものであるが、記憶の音なのかそれとも現在響いているものなのか、彼は確認したくなかった。
あの時、アントニアは19歳だった。彼女がいつからその悪夢に迷い込んでしまったのか、彼は知らない。ただ、その夜、彼はその軋みで目を覚ました。好奇心など起こすべきではなかった。使用人たちが全て去り、誰もいないこの館の夜の時間、それから3千以上の夜を、いや、これからどれほどになるかわからぬ夜を、許されぬ幻影に苦しめられると知っていたら、彼は何も聞かなかったことにしてそのまま眠りについただろう。
どこからか聴こえてくるのかを想像することは容易かった。若い娘にも生命の営みに関する衝動があることくらい知っていたし、そのままにしておけばよかったのだ。けれど、彼は足音を忍ばせて、彼女の部屋の前まで行ってしまった。そして、漏れてくる彼女の悩ましい声を耳にしてしまったのだ。アントニアは、彼を呼んでいた。
その衝撃に、彼はしばし立ちすくんだ。それから、黙って踵を返した。だが、アントニアの部屋から漏れてくる声は突然止んだ。
その夜のことを彼は口にしなかった。アントニアも話題にしなかった。けれど、それを秘め事にしてしまって以来、2人の間には従叔父と従姪の関係だけではなく、後ろめたく苦しい感情が常に流れることになった。彼は、アントニアが彼に対して何を願っているのかを知ってしまった。そしてアントニアは、それが一時の夢物語であるとも、新たに愛する男が出来たとも語る事はなかった。それどころか、次から次へと《監視人たち》が持ってくる、青い星を持つ貴公子たちとの出会いを片っ端から断った。
彼の夢を支配していたのは、それまでマヌエラ1人だった。人生の中で唯一手が届きそうだった女神。彼女を腕の中に抱き、その柔らかい唇を夢中で吸った記憶、肌に触れることもなく、欲望を受け入れてもらうこともなかった彼女との愛の営みの続きを、彼は夢の中で幾度も続けた。
格子の向こうから横目で眺めた彼女の腹が、少しずつ膨らんでいった時、彼は憎しみと嫉妬に苦しみながらも、夢で続けている彼の愛の衝動が彼女を孕ませているという想いからも自由になれなかった。アントニアは、そうして生まれてきたマヌエラの娘だった。現実には、憎み続けたカルルシュの血を引いた女であり、その一方で、彼の幻影の中での彼自身の娘でもあった。
だが、その夜から、彼の夢は乱れた。彼の女神は、彼の愛し続けたマヌエラは、その柔らかい金髪と灰色の瞳で優しく彼を愛撫していたはずなのに、時には黒髪で彼を締め付け、挑むようにその水色の瞳で覗き込む。それがマヌエラではないと意識にのぼっても、彼はその夢から離れることができなかった。
目が覚め、汗を拭き、シャワーで穢らわしい夢を洗い流す。普通に立って生活している時には、彼の夢はこのようにおぞましい罠は仕掛けてこなかった。目の前にいる美しい娘は常に彼の従姪であり、愛する女の娘だった。たとえ、彼を見つめるアントニアの水色の瞳に、叔父に対する愛をはるかに超えた強い想いを感じても、彼の心は動かなかった。
それは、アントニアが若いからではなかった。その事を今の彼は、痛いほどわかっている。マヌエラ1人を憎みつつも変わらずに愛しているからでもない。ひとつの愛を信じる事のできた数ヶ月前に彼は戻りたかった。
カルルシュがこの世を去った後も、彼がマヌエラを愛しその手を求める事は許されなかった。黄金の腕輪を嵌めていない男であれば、彼女の2人目の夫となる事が許されるが、彼はインファンテだった。そして、マヌエラだけでなく、どの黄金の腕輪を付けた女も、たった1人の《星のある子供たち》である男としか関係を持つ事を許されない。それが宣告1つで子供を産む事を強制され続ける悲劇から《星のある子供たち》である女を守るドラガォンの掟だった。
彼が望めば、おそらくドラガォンはありとあらゆる彼の好みそうな《星のある子供たち》である女たちを彼に引き合わせただろう。そして、彼は、カルルシュの実の父親がそうしたように、次々と無垢な娘を楽しんでは放り出す事も許されたはずだ。だが、彼はそれを望まなかった。マヌエラにこだわったまま、1人でこの歳まで過ごした。血脈をつなぐ事を拒み、ただの1人の女にも触れようとしなかった。
それなのに、マヌエラを失って以来はじめて興味を持ち、心と体の両方を得たいと願った娘もまた、1度《星のある子供たち》に選ばれた、彼が触れてはならない女だった。しかも、我が子であってもおかしくないアントニアよりもさらに若かった。
ライサ・モタに惹かれている事に氣づいた時、彼はひどく混乱した。それが単なる欲情の対象ではなく、恋をしているのだと認めざるを得なくなったので、身勝手で残酷な己れに身震いした。彼のアントニアの想いに応えるつもりのないことに使ってきた理由は、全く意味をなさなかった。
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2021年空見の日

今日3月20日は、春分の日です。そして、同時に「2021年の空見の日」です。これはブログのお友達もぐらさんが毎年主催されているイベントです。
「お花見」 があるんだから 「空見」 があってもいいんじゃないかと。
「空見」 の日を決めて、何時でもいいので 空を見上げる。そして 深呼吸する。
そのとき 見上げた空の写真を撮って 自分のブログに載せてもらう。
そうすればその日は 参加してくださったみなさんと同じ空を見上げた 「空見の日」。ブログ「土竜の只今 準備中」の記事から引用
いろいろな意味で、自信をなくしたり不安に思ったりすることの多い日々。今日から休暇として行くはずだったポルト行きも、今年もキャンセル。しかたありません。しかも、暦の上ではとっくに春なのに、ここしばらくやたらと寒い。そんな中、Apple Watchの運動リングを閉じるために30分以上の散歩を続けています。
私や人類がイマイチな日々を過ごそうと、空は変わらずに広がっていて、世界は変わらずに美しい。ちっぽけな存在であることは、間違いないけれど、それは別に悲しむことでもなくて。とにかく今日も美しい世界にいることを感謝して、てくてく歩いて行こうと思います。
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【小説】皇帝のガラクタと姫
今回の舞台は『ウィーンの森』です。静岡県の小さな街にあるウィーン風のこだわりカフェ、ということになっている店です。この話、もともとはシリーズ化する予定は皆無だったのですけれど、猫又がやって来たあたりからなんとなく使い勝手がよくなって時おり登場していますね。

【参考】
「ウィーンの森」シリーズ
皇帝のガラクタと姫
ひらひらと白い花片が舞っていくのを、真美は目で追った。あれはなんだろう。桜にしては早いから、桃かしら。
子供の時に住んでいたこの地域は温暖で光に満ちている。以前から抱いていた真美の印象は、久しぶりにこの街で暮らしてさらに強くなった。東京も思っているほど寒くなかったのかもしれない。こまかく氣温を記録していたわけではない。けれど、真美が通っていたオフィスはビル風が強いと有名なところで冬の厳しさは格別だったし、春の訪れも花見の頃まではあまり感じなかった。
結婚し住むことになった駅前のカフェの周りには高いビルはない。周りに柑橘類を植えている邸宅が多く、柔らかい陽光と実の暖色が近所一帯を視覚的に温めてくれている。カフェの裏手には白樺の林があり、その四季折々の表情も見飽きない。
土曜日。いつもより少し寝坊をしてしまったので、わずかに後ろめたく思いつつ、布団を干した。護は、もちろんとっくに起きて、開店準備をしているはずだ。真美が昨夜遅くまで月曜日のプレゼン資料を作成していたのを知っているので、起こさずにそっと店にいったのだろう。
つきあうことになってから、お互いに結婚の意思があることまではわりと早く明確になったのだが、それから具体的な話を決めるときに若干もたついた。護はこの店『ウィーンの森』の店長としての仕事をほぼ生きがいのように感じていたが、真美が東京の商社で任されていた仕事にやり甲斐を感じていることもよく理解していてくれた。
実際に、真美は長距離通勤や単身赴任なども考えたが、最終的には退職して近くで再就職をする道を選んだ。『ウィーンの森』のスタッフとして働くという考えもあったのだが、護は反対した。それはいつでもできることだし、365日24時間ずっと一緒に居るよりも、お互いに自分の空間と時間、そして知りあいを持つほうがいいと。
真美はなるほどと思った。この土地と店をずっと続けている護はともかく、17歳で東京に移住した真美にこの街の人々との付き合いはほとんどない。自分の世界を持ち、見聞を広めるのは大切なことだ。
そんなわけで、真美は県内の少し大きな街の不動産会社に勤めている。土日は護の店を手伝うことも多いが、「休みの日はゆっくりしろ」と言ってくれるので、こちらは重役出勤になってしまうことが多い。
洗濯や部屋の掃除をひと通り済ませてから階下に降りていった。コーヒーだけでなく、甘いケーキを焼くような香りがしている。店内を見回すと、いつも入り浸る近所のご老人たちの他、買い物帰りのようなご婦人方が楽しく話していた。
そして、窓際に1人、非常に目立つ服装の女性が座っている。薄紫色のワンピースを白いレースとリボンが覆いつくしている。髪はきれいにセットされた縦ロールでヘアーバンドのように濃淡さまざまの紫の造花と白いレースが彩っている。あれは確か「姫ロリィタ」というジャンルの服装じゃないかしら。真美は思った。
東京の原宿あたりにいれば、さほど珍しい服装ではないが、このあたりで電車に乗ればかなり注目の的になるだろう。だが、ウィーンのカフェをコンセプトにしたこの店ではそれなりに絵になる。
白樺の木立に面した広い窓から入ってくる柔らかい陽光が彼女のワンピースや艶やかな髪に注がれ、おそらく化繊であろう衣服の人工的な輝きをもっと柔らかな印象に変えている。カフェのインテリア、柱や床も家具も濃い茶色だ。護は、エスプレッソメーカーからから食器に至るまで本場で使われているのと遜色のないこだわりの店作りをしていた。おそらくそれが彼女がここにやって来た理由でもあるのだろう。
でも、1人なんだろうか。こういう人たちって、集まってお茶会をしたりするんだと思っていた。真美は、護がその女性のところに何かを運んでいくのを眺めた。
「お待たせいたしました。メランジェとカイザーシュマーレンです」
女性は、目の前に置かれた皿を見て硬直した。それから震える手で置かれたフォークとナイフに手を伸ばし掛けたので、護は軽く頭を下げて「どうぞごゆっくり」と言った。
カウンターに戻って来ようとする護は、真美に氣がついて軽く笑った。真美も小さく「遅くなってごめん」と言った。ところがその言葉を遮るように、窓際の女性が「待ってください」と声をかけた。
護は、戻って「いかがなさいましたか」と訊いた。
「あの、これ、どうしてこんなに崩れているんですか」
女性は、わずかに批難するようなトーンで言った。真美は遠くからだがその皿を見て、彼女の苦情ももっともだと思った。皿の上には、パンケーキをぐちゃぐちゃに潰したような欠片がたくさん置かれ、それに粉砂糖がかけられている。その横にガラスの器に入った赤い実のソースが添えられていた。
護は、慌てた様子もなく答えた。
「カイザーシュマーレンをご注文なさるのは初めてですか?」
「はい」
「そうですか。シュマーレンというのは、ガラクタ、めちゃくちゃなものといった意味で、焼いたパンケーキを、あえてスプーンで崩して作るお菓子なのです」
それを聞くと、女性ははっとして、恥じるように下を向いた。
「そうだったんですか。ごめんなさい、失礼なことを言って……」
護は首を振った。
「見た目が特殊で、お客様のようなお申し出が多いので、あえてメニューには載せず、口頭でご注文いただいたお客様だけにお出ししているのです。どちらでこのメニューのことを耳になさいましたか」
女性は、しばらく下を向いていたが、やがて顔を上げてから少し悲しそうに答えた。
「友だち……いいえ、知りあいに言われたんです。私にふさわしいお菓子があるからって」
店内はシーンとしていた。おしゃべりに明け暮れていたご婦人方も、興味津々で成り行きを伺っている。
「私、ずっと友だちがいなくて。同級生たちと話も合わなくて。こういう服が好きって言ったら、みんな遠巻きにするようになってしまって。だから、普段は、この趣味のことは言わずに、ネットで同じ趣味の仲間を探したんです。でも、みんな都会にいて。行けない私はお茶会の話題にもついていけないんです。今日は、みんなウィーン風のカフェでお茶会をするっていうので、せめてここで同じように過ごそうと思って、どんなお菓子がいいかって訊いたら、これをすすめられて……」
ウィーンのカフェっぽいお菓子といえば有名なザッハートルテやシフォンケーキ、若干マニアックだけれどピンクのプチケーキ・プンシュクラプフェンなどを思い浮かべるけれど、カイザーシュマーレンなどというデザートは初耳だった。真美は、そのネット上の「姫ロリィタ」仲間たちの意図がわからず戸惑った。
「遠くても、ようやく趣味の合う友だちができたと思っていました。年齢も離れているみたいだけれど、それでも受け入れてもらっているのかと。でも、私、歓迎されていなかったみたい」
それだけ言うと、彼女は悲しそうにカイザーシュマーレンを見つめた。
護は、小さく首を振って答えた。
「そういうおつもりで薦めてくださったのではないかもしれませんよ」
女性は不思議そうに護を見た。彼は、続けた。
「カイザーシュマーレンのカイザーとは、皇帝という意味なんです。このデザートの由来にはいくつか説があるのですが、一番有名なのは皇帝フランツ・ヨーゼフ1世が氣に入ったからというものなんです。あの、シシィの愛称で知られるエリーザベトを皇后にした皇帝です。オーストリアでは、同様にしてつくられるシュマーレンの中でももっとも洗練されたデザートとして愛されています」
彼女は、皿の中をじっと見つめた。明るいパステルイエローが粉砂糖の中から顔を見せ、甘い香りが漂ってきている。遠くで眺めながら真美はあれを食べてみたいと思った。
「ひと口だけでも召し上がってみてください。ウィーンでは何軒ものカフェでそれぞれのカイザーシュマーレンを食べましたが、こちらはそのどこにも負けない味だと自負している自信作です。日本の方の舌に合うように生地の甘さを控えめにして、ソースの方で甘さを調節できるようにしてあります」
護の言葉に小さく頷くと、彼女はそっとフォークとナイフを手に取った。
「あ……」
小さい欠片はナイフを使うまでもなかった。それぞれは切るほど大きくないし、見た目は脆そうでもカラメリゼがきいているのでフォークからこぼれ落ちることもない。
ひと口食べてみた彼女は少し顔を赤らめた。
「おいしい……」
それから護を見て頭を下げた。
「食べもしないで、文句を言ってごめんなさい。とても美味しいし、それに、他のお菓子のように、食べるときに服を汚さないか、きれいに食べられるか心配しなくていいデザートなんですね」
護は頷いた。
「お氣に召して嬉しいです。どうぞごゆっくり」
カウンターに戻ってくる護を、ご婦人方が止めた。
「ねえ。私たちもあれを食べてみたいんだけれど」
カウンターに戻ってきた護は真美に卵を出してくれと頼んだ。真美は、テキパキと冷蔵庫から卵を取りだした。
「そういえば、ザッハートルテ、大好きだけれど、フォークだけで切るのはけっこう難儀よね、かなり固いし」
真美が言うと、護は頷いた。
「君は、苦労していたよな、たしか」
そういえば初めて食べたのはここ、高校生の時のことだ。ナイフを使わない横着をしてケーキの小片を飛ばしてしまった。そして、ジーンズにアプリコットジャムがベッタリとついた。真美は当時も今も、この店ではラフな格好しかしないので特に問題はなかったが、あんな素敵な格好をしていたら、そんな失敗は怖いだろうと思った。
女性の着ている紫のワンピースもそうだが、「姫ロリィタ」のワンピースにはボリュームパニエが必須で、座るとスカートが机の真下まで広がることになる。加えてたくさんのレースやリボンがついているので、その分普通の服装よりもスカートを汚すことも多いのだろう。その点、カイザーシュマーレンならずっと食べやすいだろう。
「真美、これを頼む」
護は、できあがったカイザーシュマーレンを2つカウンターに置いた。それから自分も2皿持ち、ご婦人方のところに持って行く。真美はその皿を一緒に運びながら厨房奥に小さな皿が残っているのを見た。ひと言も口にしなかったのに味見用を用意してくれたのだろう。そんなに物欲しげな顔をしていたかしら。
はじめて食べたカイザーシュマーレン。中はふんわり外はカリッとして美味しい。真美はフレンチトーストなどを茶色く色づかせるのが好きだがいつも焦がして苦くしてしまう。こんな風にカリッとするまで焼くのは、単にレシピを見て作るだけでなく、かなり研究を重ねて作り込んだはずだと思った。
「真美。そんなに喜んでくれるのは嬉しいけれど、顔が緩みすぎだぞ」
厨房で堪能していると、そういいながら護は、コーヒーを淹れてくれた。
食べ終わってから店内を見ると、ご婦人方が窓際の女性に話しかけていた。
「あなたのその服、とても綺麗ね。手作りなの?」
「えっと……。買ったものに少し自分で手を加えています。レースやリボンなどを……」
「まあ、そうなの。とても素敵よ」
「へえ。自分でなんて偉いわね。うちの娘は家庭科の宿題すら全部わたし任せなのよ。材料は、手芸用品のお店で買うのかしら」
女性は、困ったように言った。
「私、この前引っ越してきたばかりで、この辺りのお店は知らないんです。前いたところは、大きい手芸屋さんも知っていたんですけれど……」
「あら。隣の駅だけれど、とても充実していて安いお店を知っているわよ。ちょっとまって、地図を書いてあげる」
ほんの30分前までは完全に浮いていた「姫ロリィタ」ルックの女性は、すっかりご婦人方に可愛がられている。そして、彼女自身も打ち解けて自然な笑顔を見せるようになった。ご婦人方だけでなく、別の席のご老人グループも、見てはいけないものを怖々みるような態度はなくなり、遠くから見守っていた。
「このお店、そういうお衣装にはぴったりよね」
「はい。こういう素敵なカフェ、東京みたいな大都会じゃないとないんだと思っていました」
「うふふ。インテリアも、メニューも、店長がこだわっているからねぇ。本場ウィーンにいるみたいでしょう?」
「せっかくだから、写真を撮ってあげるわよ。同じ趣味のお友達に自慢するといいわ」
真美はカウンターの後ろで護と顔を見合わせて笑った。この店は、彼の思い入れと研究の成果であると同時に、こうしてお客さんたちが支えてくれるので続けられているのだと思う。都会にあればもっとたくさんの人が足を運んでくれるかもしれないが、こんな風に客同士が楽しく触れ合うこともそうそうないだろう。
ご老人方やご婦人方に続き、きっとこの「姫ロリィタ」ルックの女性も常連になってくれるだろう。もしかしたら、彼女が同じ趣味の人たちを連れてくるかもしれない。真美は、カイザーシュマーレンを正式にメニューに入れることを、護に提案しようと思った。
(初出:2021年3月 書き下ろし)
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【小説】皇帝のガラクタと姫
今日の小説は『12か月の店』の3月分です。このシリーズでは、このブログで登場するさまざまな飲食店を舞台に小さなストーリーを散りばめています。
今回の舞台は『ウィーンの森』です。静岡県の小さな街にあるウィーン風のこだわりカフェ、ということになっている店です。この話、もともとはシリーズ化する予定は皆無だったのですけれど、猫又がやって来たあたりからなんとなく使い勝手がよくなって時おり登場していますね。

【参考】
「ウィーンの森」シリーズ
皇帝のガラクタと姫
ひらひらと白い花片が舞っていくのを、真美は目で追った。あれはなんだろう。桜にしては早いから、桃かしら。
子供の時に住んでいたこの地域は温暖で光に満ちている。以前から抱いていた真美の印象は、久しぶりにこの街で暮らしてさらに強くなった。東京も思っているほど寒くなかったのかもしれない。こまかく氣温を記録していたわけではない。けれど、真美が通っていたオフィスはビル風が強いと有名なところで冬の厳しさは格別だったし、春の訪れも花見の頃まではあまり感じなかった。
結婚し住むことになった駅前のカフェの周りには高いビルはない。周りに柑橘類を植えている邸宅が多く、柔らかい陽光と実の暖色が近所一帯を視覚的に温めてくれている。カフェの裏手には白樺の林があり、その四季折々の表情も見飽きない。
土曜日。いつもより少し寝坊をしてしまったので、わずかに後ろめたく思いつつ、布団を干した。護は、もちろんとっくに起きて、開店準備をしているはずだ。真美が昨夜遅くまで月曜日のプレゼン資料を作成していたのを知っているので、起こさずにそっと店にいったのだろう。
つきあうことになってから、お互いに結婚の意思があることまではわりと早く明確になったのだが、それから具体的な話を決めるときに若干もたついた。護はこの店『ウィーンの森』の店長としての仕事をほぼ生きがいのように感じていたが、真美が東京の商社で任されていた仕事にやり甲斐を感じていることもよく理解していてくれた。
実際に、真美は長距離通勤や単身赴任なども考えたが、最終的には退職して近くで再就職をする道を選んだ。『ウィーンの森』のスタッフとして働くという考えもあったのだが、護は反対した。それはいつでもできることだし、365日24時間ずっと一緒に居るよりも、お互いに自分の空間と時間、そして知りあいを持つほうがいいと。
真美はなるほどと思った。この土地と店をずっと続けている護はともかく、17歳で東京に移住した真美にこの街の人々との付き合いはほとんどない。自分の世界を持ち、見聞を広めるのは大切なことだ。
そんなわけで、真美は県内の少し大きな街の不動産会社に勤めている。土日は護の店を手伝うことも多いが、「休みの日はゆっくりしろ」と言ってくれるので、こちらは重役出勤になってしまうことが多い。
洗濯や部屋の掃除をひと通り済ませてから階下に降りていった。コーヒーだけでなく、甘いケーキを焼くような香りがしている。店内を見回すと、いつも入り浸る近所のご老人たちの他、買い物帰りのようなご婦人方が楽しく話していた。
そして、窓際に1人、非常に目立つ服装の女性が座っている。薄紫色のワンピースを白いレースとリボンが覆いつくしている。髪はきれいにセットされた縦ロールでヘアーバンドのように濃淡さまざまの紫の造花と白いレースが彩っている。あれは確か「姫ロリィタ」というジャンルの服装じゃないかしら。真美は思った。
東京の原宿あたりにいれば、さほど珍しい服装ではないが、このあたりで電車に乗ればかなり注目の的になるだろう。だが、ウィーンのカフェをコンセプトにしたこの店ではそれなりに絵になる。
白樺の木立に面した広い窓から入ってくる柔らかい陽光が彼女のワンピースや艶やかな髪に注がれ、おそらく化繊であろう衣服の人工的な輝きをもっと柔らかな印象に変えている。カフェのインテリア、柱や床も家具も濃い茶色だ。護は、エスプレッソメーカーからから食器に至るまで本場で使われているのと遜色のないこだわりの店作りをしていた。おそらくそれが彼女がここにやって来た理由でもあるのだろう。
でも、1人なんだろうか。こういう人たちって、集まってお茶会をしたりするんだと思っていた。真美は、護がその女性のところに何かを運んでいくのを眺めた。
「お待たせいたしました。メランジェとカイザーシュマーレンです」
女性は、目の前に置かれた皿を見て硬直した。それから震える手で置かれたフォークとナイフに手を伸ばし掛けたので、護は軽く頭を下げて「どうぞごゆっくり」と言った。
カウンターに戻って来ようとする護は、真美に氣がついて軽く笑った。真美も小さく「遅くなってごめん」と言った。ところがその言葉を遮るように、窓際の女性が「待ってください」と声をかけた。
護は、戻って「いかがなさいましたか」と訊いた。
「あの、これ、どうしてこんなに崩れているんですか」
女性は、わずかに批難するようなトーンで言った。真美は遠くからだがその皿を見て、彼女の苦情ももっともだと思った。皿の上には、パンケーキをぐちゃぐちゃに潰したような欠片がたくさん置かれ、それに粉砂糖がかけられている。その横にガラスの器に入った赤い実のソースが添えられていた。
護は、慌てた様子もなく答えた。
「カイザーシュマーレンをご注文なさるのは初めてですか?」
「はい」
「そうですか。シュマーレンというのは、ガラクタ、めちゃくちゃなものといった意味で、焼いたパンケーキを、あえてスプーンで崩して作るお菓子なのです」
それを聞くと、女性ははっとして、恥じるように下を向いた。
「そうだったんですか。ごめんなさい、失礼なことを言って……」
護は首を振った。
「見た目が特殊で、お客様のようなお申し出が多いので、あえてメニューには載せず、口頭でご注文いただいたお客様だけにお出ししているのです。どちらでこのメニューのことを耳になさいましたか」
女性は、しばらく下を向いていたが、やがて顔を上げてから少し悲しそうに答えた。
「友だち……いいえ、知りあいに言われたんです。私にふさわしいお菓子があるからって」
店内はシーンとしていた。おしゃべりに明け暮れていたご婦人方も、興味津々で成り行きを伺っている。
「私、ずっと友だちがいなくて。同級生たちと話も合わなくて。こういう服が好きって言ったら、みんな遠巻きにするようになってしまって。だから、普段は、この趣味のことは言わずに、ネットで同じ趣味の仲間を探したんです。でも、みんな都会にいて。行けない私はお茶会の話題にもついていけないんです。今日は、みんなウィーン風のカフェでお茶会をするっていうので、せめてここで同じように過ごそうと思って、どんなお菓子がいいかって訊いたら、これをすすめられて……」
ウィーンのカフェっぽいお菓子といえば有名なザッハートルテやシフォンケーキ、若干マニアックだけれどピンクのプチケーキ・プンシュクラプフェンなどを思い浮かべるけれど、カイザーシュマーレンなどというデザートは初耳だった。真美は、そのネット上の「姫ロリィタ」仲間たちの意図がわからず戸惑った。
「遠くても、ようやく趣味の合う友だちができたと思っていました。年齢も離れているみたいだけれど、それでも受け入れてもらっているのかと。でも、私、歓迎されていなかったみたい」
それだけ言うと、彼女は悲しそうにカイザーシュマーレンを見つめた。
護は、小さく首を振って答えた。
「そういうおつもりで薦めてくださったのではないかもしれませんよ」
女性は不思議そうに護を見た。彼は、続けた。
「カイザーシュマーレンのカイザーとは、皇帝という意味なんです。このデザートの由来にはいくつか説があるのですが、一番有名なのは皇帝フランツ・ヨーゼフ1世が氣に入ったからというものなんです。あの、シシィの愛称で知られるエリーザベトを皇后にした皇帝です。オーストリアでは、同様にしてつくられるシュマーレンの中でももっとも洗練されたデザートとして愛されています」
彼女は、皿の中をじっと見つめた。明るいパステルイエローが粉砂糖の中から顔を見せ、甘い香りが漂ってきている。遠くで眺めながら真美はあれを食べてみたいと思った。
「ひと口だけでも召し上がってみてください。ウィーンでは何軒ものカフェでそれぞれのカイザーシュマーレンを食べましたが、こちらはそのどこにも負けない味だと自負している自信作です。日本の方の舌に合うように生地の甘さを控えめにして、ソースの方で甘さを調節できるようにしてあります」
護の言葉に小さく頷くと、彼女はそっとフォークとナイフを手に取った。
「あ……」
小さい欠片はナイフを使うまでもなかった。それぞれは切るほど大きくないし、見た目は脆そうでもカラメリゼがきいているのでフォークからこぼれ落ちることもない。
ひと口食べてみた彼女は少し顔を赤らめた。
「おいしい……」
それから護を見て頭を下げた。
「食べもしないで、文句を言ってごめんなさい。とても美味しいし、それに、他のお菓子のように、食べるときに服を汚さないか、きれいに食べられるか心配しなくていいデザートなんですね」
護は頷いた。
「お氣に召して嬉しいです。どうぞごゆっくり」
カウンターに戻ってくる護を、ご婦人方が止めた。
「ねえ。私たちもあれを食べてみたいんだけれど」
カウンターに戻ってきた護は真美に卵を出してくれと頼んだ。真美は、テキパキと冷蔵庫から卵を取りだした。
「そういえば、ザッハートルテ、大好きだけれど、フォークだけで切るのはけっこう難儀よね、かなり固いし」
真美が言うと、護は頷いた。
「君は、苦労していたよな、たしか」
そういえば初めて食べたのはここ、高校生の時のことだ。ナイフを使わない横着をしてケーキの小片を飛ばしてしまった。そして、ジーンズにアプリコットジャムがベッタリとついた。真美は当時も今も、この店ではラフな格好しかしないので特に問題はなかったが、あんな素敵な格好をしていたら、そんな失敗は怖いだろうと思った。
女性の着ている紫のワンピースもそうだが、「姫ロリィタ」のワンピースにはボリュームパニエが必須で、座るとスカートが机の真下まで広がることになる。加えてたくさんのレースやリボンがついているので、その分普通の服装よりもスカートを汚すことも多いのだろう。その点、カイザーシュマーレンならずっと食べやすいだろう。
「真美、これを頼む」
護は、できあがったカイザーシュマーレンを2つカウンターに置いた。それから自分も2皿持ち、ご婦人方のところに持って行く。真美はその皿を一緒に運びながら厨房奥に小さな皿が残っているのを見た。ひと言も口にしなかったのに味見用を用意してくれたのだろう。そんなに物欲しげな顔をしていたかしら。
はじめて食べたカイザーシュマーレン。中はふんわり外はカリッとして美味しい。真美はフレンチトーストなどを茶色く色づかせるのが好きだがいつも焦がして苦くしてしまう。こんな風にカリッとするまで焼くのは、単にレシピを見て作るだけでなく、かなり研究を重ねて作り込んだはずだと思った。
「真美。そんなに喜んでくれるのは嬉しいけれど、顔が緩みすぎだぞ」
厨房で堪能していると、そういいながら護は、コーヒーを淹れてくれた。
食べ終わってから店内を見ると、ご婦人方が窓際の女性に話しかけていた。
「あなたのその服、とても綺麗ね。手作りなの?」
「えっと……。買ったものに少し自分で手を加えています。レースやリボンなどを……」
「まあ、そうなの。とても素敵よ」
「へえ。自分でなんて偉いわね。うちの娘は家庭科の宿題すら全部わたし任せなのよ。材料は、手芸用品のお店で買うのかしら」
女性は、困ったように言った。
「私、この前引っ越してきたばかりで、この辺りのお店は知らないんです。前いたところは、大きい手芸屋さんも知っていたんですけれど……」
「あら。隣の駅だけれど、とても充実していて安いお店を知っているわよ。ちょっとまって、地図を書いてあげる」
ほんの30分前までは完全に浮いていた「姫ロリィタ」ルックの女性は、すっかりご婦人方に可愛がられている。そして、彼女自身も打ち解けて自然な笑顔を見せるようになった。ご婦人方だけでなく、別の席のご老人グループも、見てはいけないものを怖々みるような態度はなくなり、遠くから見守っていた。
「このお店、そういうお衣装にはぴったりよね」
「はい。こういう素敵なカフェ、東京みたいな大都会じゃないとないんだと思っていました」
「うふふ。インテリアも、メニューも、店長がこだわっているからねぇ。本場ウィーンにいるみたいでしょう?」
「せっかくだから、写真を撮ってあげるわよ。同じ趣味のお友達に自慢するといいわ」
真美はカウンターの後ろで護と顔を見合わせて笑った。この店は、彼の思い入れと研究の成果であると同時に、こうしてお客さんたちが支えてくれるので続けられているのだと思う。都会にあればもっとたくさんの人が足を運んでくれるかもしれないが、こんな風に客同士が楽しく触れ合うこともそうそうないだろう。
ご老人方やご婦人方に続き、きっとこの「姫ロリィタ」ルックの女性も常連になってくれるだろう。もしかしたら、彼女が同じ趣味の人たちを連れてくるかもしれない。真美は、カイザーシュマーレンを正式にメニューに入れることを、護に提案しようと思った。
(初出:2021年3月 書き下ろし)
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チェリー入りのデザート

いつだったかも記事にしたと思いますが、去年の夏、大量のサクランボを収穫し食べきれなかった分を冷凍して少しずつ使っているのです。まだ終わっていません(笑)
1.5キロずつ冷凍してあるので、それをコンポートにしたりケーキに混ぜたりして使います。で、定番はクラフティーなどの黄色いクリームでつくるお菓子なのですが、1度冷凍したせいなのか、赤い色が黄色いクリームにマーブル状に混ざることが多くて、見た目がいまいちなのですよね。
それで、色が氣にならないお菓子を探していて、チョコレートケーキに混ぜるレシピを見つけました。いわゆるガトーショコラに埋め込むわけです。ただ、そのガトーショコラのレシピは卵黄だけを使うものだったので、全卵で代用できるレシピを探してつくりました。
結果としては正解で、色の問題だけでなく、チェリーの味のなじみ方も一番好みのデザートになりました。合わせたクリームは砂糖を入れずに泡立て、ガトーショコラの甘さを抑えるようにし、ついでにチェリーのコンポートを添えることで色を少し華やかに。
連れ合いも氣に入ったのでこれはまたリピートしようと思います。
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【小説】冬のパラダイス
今回の舞台は『ニューヨークの異邦人たち』シリーズのたまり場《Sunrise Diner》です。もちろん働いているのはおなじみキャシー。そして、出てくるコンビはケニアで新婚生活をはじめたあの人たちです。

【参考】
![]() | 「郷愁の丘」を読む |
![]() | 「霧の彼方から」を読む |
![]() | 外伝集「ニューヨークの異邦人たち」 |
冬のパラダイス
寒波のひどい朝は、出勤がとても憂鬱になるものだが、来てよかったとキャシーは思った。懐かしい友人が朝から訪ねてきてくれたのだ。
「びっくり。いつ着いたの? しばらく滞在?」
ドアを開けてジョルジアを通してから入るグレッグの姿を見て、ずいぶんと夫らしくなったなとキャシーは思った。以前は、何をするのにもジョルジアの機嫌を損なわないかおどおどしているようなところがあったのだが、半年の新婚生活でジョルジアが自分の妻であることに慣れたのだろう。
ジョルジアは、手慣れた様子でコートをハンガーに掛けながら答えた。
「6時に着いたのよ。荷物だけ置いて、まっすぐここに来たの」
ニューヨーク、ロングアイランドのクイーンズとの境界のすぐ側の海岸を臨んで、大衆食堂《Sunrise Diner》がある。キャシーが新装開店のスタッフとしてこの店に勤めだして、3年半が経った。開店してすぐに朝食を食べる常連になってくれたジョルジアは、当時は近所に住んでいた。
感じはいいのに、めったに口もきかず、いつもカウンターに1人で座っていた彼女が、他の常連たちと打ち解けだして、自然と輪の中に入っていけるようになるまで、しばらく時間が必要だった。それが、どうしたことだろう、1年後の秋に「アフリカで知り合った友人」を突然連れてきたかと思ったら、その1年後には、彼と結婚して、ケニアに移住すると言い出した。
常連たちは、そのニュースを聞いてもひどくは驚かなかった。もちろん、キャシーも。むしろ、なぜあれから1年も「ただの友人」だと言い張っていたのか、みな理解できなかったのだ。
4月の結婚式は、彼女の家族のたっての希望でニューヨークで行われたが、大きなホテルを貸し切りたいという兄の意向に断固反対して彼女たちがパーティー会場に選んだのが《Sunrise Diner》だった。家族の他、常連や、ジョルジアが専属フォトグラファーとして働く《アルファ・フォト・プレス》の社員たちが集まり、盛大かつアットホームなパーティーだった。
キャシーはもちろん、夫のボブも招待された。アメリカ有数の富豪であるマッテオ・ダンジェロと、もとスーパーモデルのアレッサンドラ・ダンジェロのデュエットに合わせて、ダンスを踊るなどという経験は、そうそうできるものではない。もっとも、主役の2人は盛り上がりすぎに居心地が悪かったのか、パーティーの後半からは会場の隅に大人しく座っていたので、後から常連たちの語り草になった。
その後、すぐに2人はケニアで新生活をはじめたのだが、ジョルジアはニューヨークでの住まいを完全には引き払わなかった。《アルファ・フォト・プレス》との契約で年に数ヶ月はニューヨーク暮らしをする必要があるので、同じフラットの、少し小さな部屋に引っ越して、渡米中の住まいを確保したのだ。
また、グレッグも援助をしてもらっているプロジェクトの報告のため、年に1度ニューヨークに報告に行く契約を結んでいる。つまりこの夫婦は少なくとも年に1度ニューヨークに揃ってやってくるのだ。
今どき報告なんてEメールで何でも済ませられるのだから、その契約は、引っ込み思案な2人をニューヨークまで引っ張り出したいマッテオ・ダンジェロの策略なのだろうとキャシーは思っている。そして、その第1回目が今回の渡米なのだろう。
「あら。手編み?」
キャシーは、グレッグがカウンターに置いた手袋に目を留めた。それは、グレーの毛糸をベースに、黄色や赤や緑の文様が編み込まれた、ゴム編みの大きなものだ。機械編みかもしれないと思うくらいに目はきちんと揃っているが、最近ではめったに見ない田舎っぽいデザインだ。彼のオーソドックスでシックなコートとマッチしていないし、ジョルジアやその家族が、こんな野暮ったい物を贈ることはないだろう。
実際に、ジョルジアが外した手袋は、茶色いヌメ革に黒い革のラインが走っているもので、ダンジェロ兄妹の家族らしい洒落たチョイスだ。
グレッグは「ああ」とだけ答えた。
「お母様の手編みなのよね」
ジョルジアが言い添えたので、キャシーはなるほどと思った。
「学生の頃にもらったんだ。アフリカに引っ越してから、1度もこの手の手袋を使う必要がなかったから、ここに虫食いの穴があった」
彼は右手袋の内側を見せた。確かに、繕った跡が見える。手袋のいらない生活ね。数年に1度、1週間ほどニューヨークに来るためだけならば、確かに新しいのを買う必要もないだろう。
「冬のニューヨークは初めてなの?」
キャシーが訊くと、グレッグは頷いた。
「ジョルジアから聞いていたから覚悟していたけれど、とても寒いね」
「僕が初めてここに来たときも、やっぱり冬だったけれど、あまりの寒さに仰天したものですよ」
いつもの窓際の席ではなく、やはりカウンターに座ったクライヴが言った。彼のイギリス的な美意識、つまりカウンターなどではなく、テーブル席で優雅に紅茶を飲む習慣も、今日のウインドー越しに襲ってくる冷氣には勝てなかったらしい。
キャシーは黙って、ヴィクトリア朝のブルーウィロー・ティーポットに、安物のティーバッグをポンと入れた。このポットは、クライヴが店長を務めている骨董店から持ち込んで預けているのだ。彼のためにいちいち茶葉を用意してやることはないが、少なくともポットを熱湯で温めたり、沸騰させたお湯を入れてやるくらいのことはしている。そして、他の客とは違い、同柄のカップとソーサーに淹れて悦に入っているクライヴの伝票に「紅茶1」とかき込むのだ。
「で、新婚さんたちのご注文は?」
キャシーは、ジョルジアたちに顔を向けた。ジョルジアは、もう心に決めていたようで即答した。
「ホットチョコレート。『キャシー・スペシャル』で。こんなに寒いんですもの」
「それは、どんな飲み物?」
グレッグは、用心深く訊いた。かつて、キャシーに奨められて、とんでもない大きさのチョコレートサンデーが運ばれてきた衝撃を忘れていないのだろう。
「チリペッパーが入っているの。辛いのが苦手じゃなければ、いけると思う」
キャシーはウインクした。ジョルジアが続けた。
「とっても体が温まるのよ」
「じゃあ、僕にもそれをおねがいします」
グレッグが言った。
「はーい」
キャシーは、テキパキとチョコレートを用意した。
オープンした当時、この《Sunrise Diner》で出すホットチョコレートは、粉末ココアに熱湯を入れる薄めのものだった。だが、常連にどういうわけだかヨーロッパからの移民の割合が多く、しかも、ホットチョコレートに関してはひと言もふた言もある輩が多かったおかげで、もう1つのホットチョコレートがメニューに登場することになった。ダーク系の固形チョコレートを刻んだものに熱いお湯と加熱したミルクを混ぜて作る、フランスやイタリアタイプだ。
さらに、常連たちがあれこれと改良に腐心した結果、チリペッパー入りの《Sunrise Diner》特製ホットチョコレートが誕生したというわけだ。いまでも粉末ココア式のホットチョコレートもメニューにあるのだが、注文が入るのは圧倒的に『特製』だった。そして、常連はたいてい『キャシー・スペシャル』とそれを呼ぶのだ。
グレッグは、厚手のカップが目の前に置かれるのをじっと眺めた。彼の知っている粉末ココア製の飲み物と違い、それは真っ黒なクリームのように見えた。キャシーはスチーマーで加熱したミルクをその上からかけてドリンクを完成した。隣でジョルジアがミルクとチョコレートをかき混ぜて飲みやすい粘度にしているのをまねてから、湯氣の上がるカップをそっと口元に運んだ。
もっと辛いのかと思ったが、チョコレートの甘い味だけを感じた。だが飲んでいるうちに、だんだん喉元にヒリヒリとした刺激が訪れてくる。それに氣がつく頃には、体がもうぽかぽかしている。
「なるほど。確かに、暖まるね」
「初めて来たときには、ぞっとしましたよ。なんだってこんな寒いところが大都会になったんだろうって」
クライヴは、紅茶を優雅に飲みながら言った。ケニアで育ったグレッグにしてみたら、ロンドンだって、十分に寒かったのだが、クライヴにとっては、大きな違いがあるらしい。
「早く春になって欲しい?」
ジョルジアが問いかけると、クライヴは大きく頷いた。
「ちょっと待ってよ。それは困るわ。冬を待ちかねていた人だって、ここにちゃんといるんですから」
キャシーが口を尖らせた。
首を傾げるグレッグに、ジョルジアがそっと解説をした。
「キャシーは、アイススケートが好きなの。フィギュアの選手も顔負けってくらい、とても上手いのよ」
キャシーは、肩をすくめた。
「ま、いまだにウォールマン・リンクで滑りながら、スカウトが来るのを待っている身だけどね」
それは冗談なんだろうか、それとも本当に? グレッグは、どう反応していいのかわからなかったので、チョコレートのカップを口元に持っていき、チリペッパーの刺激を待つことにした。
「アリシア=ミホにも教えているの?」
ジョルジアが訊いた。キャシーの娘アリシア=ミホは、そろそろ5歳になる。彼女は母親の顔になり、重々しく頷いた。
「うん。ようやく1人で滑れるようになったの。滑るのが楽しくなってきた頃かな。もっとも動物園の方が好きみたいだけど」
「きみの子供時代とは違ってかい?」
クライヴが訊くと、キャシーは「そうねぇ」と考えた。
「私が子供の時は、動物園どころかウォールマン・リンクにも入れなかったもの。ママはシングルマザーで時間もお金もなかったしね。で、私は凍った家の近くの池で1人で滑っていたなあ。動物園とか、暖かい家でするゲームとか、そういう別の選択肢はなかったのよね。ま、おかげでスケートに夢中になれたんだから、それはそれでよかったのかも」
「こんなに寒いのに、そんなにしてまでよく滑ったねぇ」
クライヴは、ぞっとするという顔をして、紅茶を飲み干した。
「滑っていると、ワクワクしてくるの。スピンしているうちに、嫌なことも忘れちゃう。新しい技に成功したときは、天に昇る心地よ。こればっかりは子供の頃から変わらないなあ。それにね、スケートリンクと違って、ただの池はめちゃくちゃ寒くないと危険で滑れないの。だから、毎年もっともっと寒くしてって神様におねがいしたなあ」
「なんてお願いをするんですか! だから、こんなに寒いんじゃないでしょうね!」
クライヴの抗議に、その場の皆が楽しく笑った。
「寒くなると、嬉しくて、踊り出しちゃうけどなあ。冬のニューヨークは、パラダイスだよ」
キャシーは、譲らなかった。
「キャシーが、あんなに冬が好きなんて、意外だったな」
外に出てから、グレッグはつぶやいた。アフリカから来た彼には、この寒さはこたえるだろうなとジョルジアは思った。
ジョルジア自身は、さほど冬は好きではない。スケートはもちろん、スキーにもほとんど行ったことがないから、長すぎる秋や、早すぎる春に文句を言いたくなったことなど1度もない。とはいえ、例えばクリスマスに30℃近くあるというのも、落ち着かない。また『キャシー・スペシャル』は、やはりとびきり寒い日に飲むほうがしっくりくる。
海を見たいと言ったのはジョルジアだった。まだ低く弱い日差しが作り出す光を見たかったのだ。
そして、彼女は、街路樹の枝に育った氷の結晶が煌めくのをそのままにはできなかった。しばらく時間を忘れてシャッターを切った。グレッグは、大人しく彼女が満足するまで待った。
「もういいのかい?」
振り向いて申し訳なさそうに見つめた彼女に、彼は微笑みながら問いかけた。
「ごめんなさい。つい夢中になってしまって」
「いいんだよ。ほんの5分くらいじゃないか。僕が君を忘れてしまった時間に比べたら……」
「あの時は、こんなに寒くなかったわ」
暖かいフラットに戻ろうと歩き出したとき、ジョルジアは困ったように辺りを見回した。
「どうしたんだい?」
グレッグも、止まった。
「手袋。どこに落としたのかしら」
右手の手袋が見つからない。
「最後に見たのはどこかい?」
「《Sunrise Diner》で2つ揃っていたのは憶えているんだけれど」
「じゃあ、通った道を戻ろう。落ちているかもしれないし」
「そうね」
「せっかくだし『キャシー・スペシャル』をもう1杯飲もうよ」
シャッターを押しているときには感じなかった冷たさが急に指を襲ってきた。ポケットがないデザインのコートは大失敗だったわ。彼女は所在なさげにストールに手を絡めた。
グレッグは、近づいてくるとそっと彼女の凍えた手を握った。ウールの手袋が暖かく指先を包んだが、それがそのまま彼のコートのポケットにするりと収まった。ジョルジアは、必然的にとても近くなった彼の顔を見上げた。はにかんだ彼の瞳が、こんなことをしてもいいのかと確認するようにこちらを見ている。彼女は、微笑んだ。
キャシー、あなたのいう通りね。冬のニューヨークは、パラダイスだわ。
(初出:2021年3月 書き下ろし)
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ご飯つくりたくない時
それはそれでしかたないというか、イタリアやイギリスなど家からも出られないキツいロックダウンではないだけマシだろうという話もありますし、さらにいえば中世のペスト禍などと比べたら恐怖や先行きの暗さもぜんぜん違うだろう、もしくは東日本大震災など大きな災害に遭っていまだに日常生活に戻れない方からしたら「文句言うな」であることはよくわかっている上でのぼやきです。

コロナ前の私の生活には、いろいろな息抜きがあったんだなあと思うのです。忙しいときもありましたけれど、週末や休暇に日常から離れる時間がけっこうあったんですよね。
こんなことを言うのは、こんなにずーっと、「ご飯何つくろう」ばかりじゃなかったと思うんですよ。私は、もともと料理は嫌いじゃありません。でも、1日に2回作るのって面倒くさい。
かつては、週に4回は会社で食べていました。基本は残飯のお弁当です。なので、平日の料理は週に1度のお昼ご飯と週に5度の夕ご飯。週末はレストランに行くことも多かったので、料理は週に6回くらいで済んでいたのです。なんとなくレパートリーを考えずに回してもなんとかなりました。でも今は在宅勤務なので昼ご飯も自宅なんですよね。週に14回メニューを考えているんですよ。
こんな文句を言っているのは私だけかと思ったら、オンラインで久しぶりに会った知りあいも同じことを言っていました。せめてレストランが開いていればいいんですけれど、本当にどこにも行けないので家にいるか散歩するかだけです。で、やはりメニューを考えるのがキツいと……。
昨日は、「1日ぐらい料理のストをしたい」宣言をして、昼にはサンドイッチを食べましたが、そうしたら夜にお腹がすいてしまったので、結局ラーメンを作ることに。はあ、早くレストラン開かないかなあ。日本の都会みたいに美味しい買い食いがいくらでもできるところは、こんな苦労はないだろうなあとちょっと羨ましいです。
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【小説】樋水龍神縁起 東国放浪記 約定
「scriviamo! 2021」の第9弾、ラストの作品です。TOM-Fさんは、「天文部シリーズ」シリーズの掌編でご参加いただきました。ありがとうございます!
TOM−Fさんの書いてくださった「この星空の向こうに Sign04.ライラ・アークライト オブ ザ スカイ」
TOM-Fさんは、胸キュンのツイッター小説、日本古代史からハイファンタジーまで 幅広い小説を書かれるブログのお友だちです。フィジックス・エンターテイメント『エヴェレットの世界』は、無事完結、現在は次の長編に向けて、準備中とのこと楽しみですね。
「scriviamo!」には皆勤してくださり、毎回趣向を凝らした名作でご参加くださっています。そして、毎回めちゃくちゃ難しいのですけれど、今年の難しさは例年と違うところにありまして……。最愛のキャラの渾身のエピソードでご参加なのですよ。いや、他にも大切なキャラでご参加くださったことは多々あるのですけれど、今回の作品は最愛のキャラをここまで痛めつけるかという、TOM−FさんのドSぶりを遺憾なく発揮されていて、いや、これに適当なキャラでお茶を濁すお返しはナシでしょう……みたいな。
それで、こちらも最愛キャラ(の前世だけど)を持ってくることにしました。しかも、同じくらい虐めている……ええと、いや、そうでもないか。しかし、TOM−Fさんがご自分の作品について「イタい」とおっしゃっている以上に、めっちゃイタい仕上がりになっています。あと、男が病で死んじゃうのと、男が死んだ女に囚われているのもあちらの作品と同じ。
いや、合わせてそう書いたのではなく、もともとそういう構想でして。今回のこれ、バリバリの本編で、しかも終わりから2番目くらいのところにあるべき話をいきなり書いてしまいました。ええ、TOM−Fさんのお話を読んでから「いきなり(ほぼ)最終回」を書くことにしたんです。
最終回の手前ですから、主要キャラたちの行く末が全バレです。ここまでとんでもないネタバレはさすがに普段はしませんが、この話に限ってははじめから主人公が野垂れ死にすることを公表しているので、これでいいかなと。この話、いずれ途中を書いたら、記事の順番を調整してこれがちゃんとおしまいの方に来るようにしたいと思っています。でも、ほら、もう書かないかも知れませんしね〜。(根の国のシーンが大変そうで筆が進まないという説も)

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樋水龍神縁起 東国放浪記
約定
——Special thanks to TOM−F-san
開け放たれた鳥居障子の向こうに垂れ込めた雲が見えた。萱は、平伏する次郎から眼をそらし、その雲間より逃れた一条の光が、若狭の海に差して煌めくのを眺めた。
安達春昌の忠実な従者である次郎が、ひとりでこの若狭を訪れるということが意味することは一つだった。久しぶりに次郎の顔を見て喜んだ三根もまた、その意を解して泣きながら萱に伝えに来た。
訊けば、春昌はここ数年東国を彷徨い、伊勢の近くで流行り病で亡くなったという。廃寺の境内に主人を埋め、次郎は生まれ故郷の奥出雲へ戻る途上であった。
かつて春昌は、いま次郎が座る位置のすぐ後ろの廂板間に座っていた。あれは何年前のことだろう。昨日のことのように鮮やかに脳裏をよぎるが、昔語りになってしまった。
「わざわざ報せにきてくれたこと、礼を申します。春昌様は、何かおっしゃられたのか」
萱は、頭を上げるように言ってから問うた。次郎は、わざわざ人払いを願い出た。何か伝えることがあるのだろう。
「お隠れになる二日ほど前のことでございました。こちらでお世話になったことを語られたとき、こうおっしゃいました。『誓いは果たしたと、萱どのに伝えてほしい』と」
萱は、こみ上げるものを押さえつけた。神罰に全てを捨てて彷徨うかつての陰陽師を、それまで以上に苦しめることになった約定を、萱もまた忘れたことはなかった。これからも生き続ける限り忘れないだろう。
それは、あの月夜のことだった。春昌は廂の板間に座り、若狭の海に揺れる月影を眺めていた。次郎は三根のもとに行き、佐代や岩次も下がり、萱はひとり春昌の杯を満たしていた。
献上品となる濱醤醢を造る『室菱』の元締めとして、女だてらに重責を担う萱は、長らくふさわしき婿取りを期待され続けてきた。父に婿になることを所望された若衆が海難に遭い、間もなく父も急死したため、図らずも若くして元締めになった萱には、これまで婿探しをしている時間などなかった。
何年か前より子細ありげな貧しい貴人、安達春昌とその従者次郎が滞在するようになって以来、古くからの使用人たちはこの貴人と萱との縁組みを期待するようになった。特に、萱の従妹である夏姫を巻き込んだ怪異を、春昌がみごとに祓い、かつて殿上すら許されていた陰陽師であったことが知れると、彼らの期待はさらに強くなった。それどころか若狭小浜の商い人たちも、もはやそれが決まったことのように噂するようになっていた。
ところが、当人同士が話を進める兆しを全く見せないので、業を煮やした使用人たちがあえて場を離れ、次郎を主人から引き離して、春昌と萱がふたりきりになるよう骨を折っていたのである。
萱は、彼らの願いは十分に承知していたものの、そのようなことは到底あるまいと心を定めていた。他の者らは、春昌と樋水龍王神社の御巫瑠璃媛の死にまつわる因果を知らなかったし、萱と播州屋惣太との深い因縁を春昌が承知していることも氣づいていなかったのである。
萱と春昌はもはや、釣り合う似合いの男女、もしくは惚れた腫れたの始まりを探り合うがごとき浅い仲ではなかった。影患いの果てに生成りとなった惣太の妻に萱代わりに祟られた夏を救うため、萱は春昌と共に、根の国を訪れることとなった。ふたりはそこでこの世ならぬものと対峙した。そして、そこで不本意ながら、もっとも知られたくない心の一番奥にある悼みを晒すことになってしまった。
十六夜の月は穏やかに輝き、若狭の海はいつになく凪いでいた。微かな風が、春昌の鬢からこぼれた髪をそよがせている。根の国で亡者に囲まれ二度と現し世に戻れぬことを覚悟したとき、彼は萱を守らんと全霊を尽くし半ば鬼と化した。その彼の姿は夢のように遠く想われた。
彼は、萱が生涯をかけて愛し求めた男ではない。そして、彼にとってたったひとりの宿命の女は萱などではない。彼が奥出雲の地で禁忌を犯し、そのために名聞はなれ彷徨い生きていることも知っている。けれども、そうした全ての情状は現し世にのみ存り、根の国の在り様とは何ひとつ関わりなきことであった。萱は、神意も天罰も愛欲も恩讐も全て手放し、ただ彼と共に、かの黄金に輝く七色の光の中に溶け込んで消えていきたかった。
こうして現し世に舞い戻り、またそれぞれの情状を抱えた者に分かれて座っていることに、違和感が拭えない。夢の続きのごとく、合うさきるよそ事に思える。春昌様も、同じように感じておられるのであろうか。萱は、穏やかな彼の横顔を見ながら考えた。それとも、この方にとって、あのような神事象の見聞は、明暮のことなのやもしれぬ。
誰よりも近く、誰よりも頼りになると感じられた男が、現し世ではこれほどに遠く感じられる。身分と立場が、そして、お互いの持つ深い業と過去が、ふたりの間に大きな楔を打ち込んでいる。『室菱』の者らにも、おそらく春昌を知り尽くした次郎にも見えてはいない、まがう事なき隔たりを萱は感じている。この男とひとつになれるのは、あの七色の光の中でだけなのだと。
ふたりとも、言葉にしてその様な語りは何もしない。ただ、周りの期待には応えられないことを、お互いが誰よりもわかっていた。怖ろしいほどに穏やかな月夜だった。
「そういえば、弥栄丸から便りがございました。来月、夏と共にこちらに参るそうでございます。ふたりとも一日も早く春昌様にお目にかかって御礼を申し上げたいと、心はやっている様子でした」
萱は、丹後の屋敷に戻っている夏の様子を知らせた。あのふたりが夫婦になることを夏の父親もついに許したらしい。
春昌は、夏の話をするときにいつも見せる幼子を愛おしむような微笑みを見せて答えた。
「夏どのがこちらに戻られる頃には、私はもう居りませぬ。よろしくお伝えください」
「どうしてですか」
「月が明ける前に、出立する心づもりでおります」
これから冬になるというのに、なぜいま苦しい旅に出ようとするのだろう。
「春昌様。春をお待ちください。これからの山越えはおつらいでしょう」
彼は、顔を向けて萱に冷たい一瞥を与えた。ひどい冷氣が下りたかと思うほど空氣が変わった。春昌の全身が例の青紫の氣焰に覆われていた。
「だから行くのだ。ここで心地よい冬を過ごしたりせぬように」
はじめてその氣焰を感じたとき、萱は何か禍々しきものに触れたのかと、ひどく怖れたものだ。だが、彼女はもうそれに恐れを感じることはなかった。それは、癒やされることのない痛みと己れすらを許さぬ怒りが生み出す彼の業そのものだからだ。彼女は、彼の心の痛みに耐えかねて、思わずその掌を彼に向けた。
すると、不思議なことが起こった。あの根の国で見たのと同じ、彼女自身の黄色い氣焰が掌で暖かい色に輝きぶつかった彼の氣焰の色を変えたのだ。
萱は長いこと、自らの氣焰も含めて、この世ではないものを見ることをやめていた。自分にはその様なことはできないのだと思っていた。かつて媛巫女瑠璃に、樋水龍王神の御前に連れて行かれたときも、偉大なる巫女の権能が彼女に特別なものを見せたのだと思い込んでいた。
だが、それは、萱自身の『見える者』としての力だった。春昌と共に訪れた根の国で、彼女は再び樋水龍王神の御姿を拝し、禍つ神を浄める媛巫女に比肩する伎倆を手にしたのだ。
全ては収まるべきところに収まった。萱は現し世に戻り、商いには不要なその特別な力はもう使うこともないと思っていた。
それなのに、なんということであろう。かつて己をあれほど怖れおののかせたあの氣焰を、自ら触れるだけで消している。
掌はまだ服の上にも達していないが、萱の掌から溢れる暖黄色の光は、春昌の外側に纏いつく青紫の氣焰を、触れたところから次々と春の若萌え草のような明るく心地よい氣に変えていった。
だが春昌は、萱がしようとしていることを見て取ると、身を引き、苦しそうに顔をゆがめて言った。
「やめてくれ、浄めるな。頼む」
萱は、動きを止め、わずかに後方へ下がった。青紫の氣の焰はまだ春昌の周りに燃えていた。若緑に変わりだしていた氣も、やがて再びその青紫に打ち消されて消えていった。
「すまぬ」
春昌は、絞り出すように言った。
「無駄なのだ。一刻、すべてを浄めても、またこの業が勝る。奥田の秘め蓮の池も、権現の瀧も、若狭姫大神の神水も、どうすることもできなかった。私が生き続ける限り、これは消えはせぬ」
「春昌様」
「夏どのを救うためには、そなたの力を借りる他はなかった。だが、そなたの眠れる力をあのような形で目覚めさせたのは、忌むべき咎だ。ましてや、そなたをこの呪われた業に巻き込むわけにはいかぬ。呪われ黄泉へ引きずり込まれるべきはこの身だったのだ。媛巫女ではない。憐れな次郎でもない。そして、そなたでもないのだ」
「想ってはならぬ方を想うことが呪われた業ならば、この身はとうに奈落に落ちております」
萱は、わずかに震えながらも、はっきりと口にした。
惣太の妻を恨みの鬼にし、影患いに追い込んでしまったのは、他でもない自らの業だ。たとえ全てが終わった今となっても、神罰を受けることはなくとも、その事実を変えることはできない。
春昌は、わずかに顔の険しさを緩めた。否定しないことが、彼が萱の言い分を認めていることを示している。
「春昌様。苦しまれるあなた様を、同じ浄めの力を持つ私の元へと導かれたのは、媛巫女様だとお思いになりませぬか」
夏のように、三根のように、すべてを投げ打ち想いのままに慕う相手の胸に飛び込むことは、萱にはできない。自らが媛巫女に立ち替わる存在だとうぬぼれているわけでもない。だが、せめて一刻でもかまわない。私にできることをさせてくださいませ。萱は祈るように春昌を見つめた。
「媛巫女の真似事はそなたの本分ではない。その様なことを度々すれば、すぐに周りにこの世ならぬものが集い、身動きが取れなくなる。心を煩わさずに、そなたの定めを生きよ」
「そして、あなた様おひとりで、全ての苦しみを背負われるおつもりですか。せめて、ここにおられる間だけでも、重荷を下ろして楽におなりくださいませ」
春昌は、月から視線を移し萱を見た。
「楽になどならなくていいのだ。ここで安らぎを得るのも過ちだ。私は赦しの道を探しているわけではないのだから」
揺るぎのない強い光を放つ瞳を見て、彼女はこの男が彷徨いながら探しているものが何かを理解してしまった。嘆きせめぐその魂は、もはやなんの希望をも持っていなかった。
萱は彼を救うことができない。彼の願いはひとつだけなのだ。呪われた身を横たえ二度と目覚めぬこと。罪に穢れた屍を受け入れてくれる土地神を探すこと。
「そのようなことを、おっしゃらないでくださいませ」
絶望に打ちひしがれて、萱は伏した。
彼は女の涙には揺るがなかった。一刻も早くここを去ろうとするのは、大きくなりすぎた萱との縁を断ち切るためなのだ。
「萱どの。そなたは、私と次郎に善く尽くしてくれた。その恩に報いることのできるものを私は何ひとつ持たぬ。だが、もし、私の力でそなたの恩に報いることができるのならば、どんなことでも願い出てほしい」
萱はたったひとつの願い事をした。それが、春昌が果たしたという約定だった。
萱は、紙に包まれた一房の髪を手に取った。別れ際に見た彼の髪にこれほど白いものは目立っていなかった。伊勢にたどり着くまでに、どれほどの新たな苦しみを抱いたのであろう。目の前の次郎もまた、少し歳をとった。だが、故郷へ戻る彼の氣焔には、以前よりも朗らかで暖かいものがにじみ出ている。
「次郎どの。春昌様のお言葉をお伝えくださり、誠にありがとう存じます。また、大切なご遺髪をお譲りいただき、謝するにふさわしき言葉もございません」
次郎は、声を詰まらせながら、萱の心を慮った言葉を綴った。この春昌と媛巫女に忠実な侍者が、わざわざ伝えに来たのだから、春昌が我が身を忘れなかったのもまことであろうと思った。次郎や、他の者が思っているのとは違うとはいえ、確かに彼と萱は特別な縁で結ばれていた。
そして、次郎もまた、この若狭で、長く苦しい旅に値する縁を見いだしたのだろう。
「次郎どの。あなた様と三根のこと、私に一切遠慮をなさらぬように。三根の恩義はもう十分に返してもらいました。どこへ行こうとあの者の心のままです」
次郎は、萱に許しを願い出る時機を迷っていたのであろう。顔を真っ赤にして、また畳に何度も頭をこすりつけた。
遠からず、次郎は新しい旅の道連れと、奥出雲への旅路に出るであろう。たち止まり根を張ることも、赦され安らかに生きることもない、終わりの見えなかった旅は終わろうとしている。誤って大切な媛巫女を死なせた苦しみは、彼の主人が全て背負い、伊勢の弔うものもない廃寺で朽ちていこうとしている。
次郎が下がった後、萱はかの板間に座り、春昌の遺髪を今ひとたび見つめた。それはすでに魂なき物であった。青紫の氣焔も、若緑のそれも、もはや感じることはなかった。彼の願い、せめぎ苦しんでいた魂の渇望は、ようやく成就したのだ。萱が言霊で縛り付けた、長い苦しみの果てに。
萱が彼に願ったのはたった一つだった。
「生き続けてくださいませ。決して自尽はなさらないでくださいませ」
彼は、萱の残酷な願いを了承した。流行り病で命を落とすまで、彷徨い生き続けた。そして、いま萱は、彼のいない現し世に虚しくひとり立っている。
忙しく働く使用人たちの声が耳に入る。萱は、遺髪の包まれた紙をそっと胸元にしまうと、立ち上がり表へと向かう。もう一度若狭の海を振り仰いでから襖戸を閉めた。
(初出:2021年3月 書き下ろし)
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9周年です

ううむ、1桁ラストですか。感慨深いですね。1年続くか心配していたのは、まるで昨日のことのようなのに。
ほぼ開設当時から遊んでくださっているお友達、途中で新たにお友達になっていただいた方、途中でブログおやめになったけれどまた復活なさった方、ブログとは別の形でコンタクトをくださり応援してくださった方、いろいろな方とのご縁を通して、たくさんの小説と記事を書く楽しみとモチベーションを保ち続けてきました。
その間に、自分にも、そして世界にも、あれこれがありましたし、これからもあるのでしょうが、「なんとかなる」と信じてもう少しこのブログを続けていきたいと思っています。
それから、ここのところ考えることがありまして、完全な長編の完成にこだわるのはやめようかなと思っています。書き渋っている間に、書けなくなってしまうことも多いので、たとえ断片でも発表してしまえる物はしちゃえと。まずは、明日の小説から(笑)
それで、「書く書く詐欺」の解消というわけではありませんが、この世は何があるかわからないもの、ある日いきなり更新がぷっつり途絶えても、「ま、いっか」と思えるような感じにしておくのも悪くないかなと思うのです。
というわけで、今日からまた10周年に向けて、のんびりと更新を続けたいと思います。今後とも、おつきあいのほど、どうぞよろしくお願いします。
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