【小説】Filigrana 金細工の心(18)カーサ・ダ・ムジカ -2-
ライサを2度目のデートに誘ったチコ。モデルにしたポルトのカーサ・ダ・ムジカ、まるで宇宙船の中かと思われるような独特の現代建築なのですが、コーヒーを飲んでいるテラスは、ポルトガルの伝統的なタイル・アズレージョが美しい、ほっとする空間になっています。チコは話しながら、ライサについて客船の旅で妹マリアに聞いた不思議な話を想起しています。ちなみに、リスボンの話題も出てきていますが、私はいったことがありません(泣)
このデートの話、まだまだ続きます。
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Filigrana 金細工の心(18)カーサ・ダ・ムジカ -2-
2人は、上階の明るいテラスでコーヒーを飲んだ。ライサは訊いた。
「首都にも音楽ホールはあるでしょう? こういうホールはないの?」
「そうだね。サン・カルルシュ国立劇場は歴史的建築でもある劇場で格式が高いな。その他に最近はMEOアリーナなどでもよくオーケストラのコンサートをしているよ。まあ、ポップスのコンサートの方が多いと思うけれど。少なくともここのように音楽会でないときにも訪れてみたくなるところではないかな」
そう言ってから、チコはライサが首都には行ったことがないのだと思い至った。
「サン・カルルシュ国立劇場の客席に座ってあの内装を視界に捕らえながら聴くのも格別だよ。行ってみたらどうだい?」
自分が陸の上に住んでいたらすぐにでも案内するのにと思った。
ライサは、少しだけ顔を曇らせた。
「素敵だけれど、私は遠くには……」
その答えの意味がよくわからなくてチコは「え?」と訊き返した。するとライサははっとしてから視線を自分の左手首に移した。チコは、それで船の上でライサの妹が教えてくれたことを思い出した。
「みて、ライサの左手首」
あの時マリアは、ささやくようにそう言った。甲板は室内よりもうるさくて、声はチコにしか届かなかった。
ライサの左手首には何かで線を引いたような細い痕があった。
「あれね。腕輪の痕なの。日焼けせずに残った肌の色」
おかしなことを言うなと思った。腕時計をしなくなった人に、そういう痕が残ることは知っているけれど、しばらくすればそこもまた日に焼けて目立たなくなるものだろう。マリアはそんなチコの考えを見過ごしたかのように微かに笑ってから続けた。
「私の記憶にある限り、常にライサには金の腕輪がつけられていたの。子供の頃からずっと」
「つけられていた? つけていたじゃなくて?」
マリアは、じっとチコを見て、区切るようにはっきりと言った。
「つけられていたの。金具もないし、自分では、絶対に取れない腕輪よ。誰がそんな物をつけたのか、どうしてそれをつけているのかも、ずっと彼女は知らなかったの」
チコは、マリアに訊いた。
「君のご両親も知らないのかい? 自分の娘に知らないヤツが取れない腕輪をつけたり外したりするなんてこと……」
マリアは頷いた。
「両親は、私よりは知っていると思う。ライサは養女なの。彼女を引き取ったときにはもう腕輪はついていたし、彼女の成長の過程や、腕輪を交換しなくてはいけないときに仲介者と連絡をとったから。でも、その仲介者は、私の両親にはほとんど何も教えてくれなかったわ。引き取るときに、ライサには国内旅行すらさせないという契約書を書かされて、何年か経ってから両親がそれを変えようと交渉したことがあったの。その直後に、父の会社経営が急激に悪化して、私たちは休暇旅行なんてとても行けるような状況じゃなくなってしまったの。それから、ライサに関することで仲介者に何か文句を言うたびに両親は苦境に陥ることになって、それで2人は抵抗をやめたの」
チコは、なんといっていいのかわからずマリアを見つめた。マリアはふっと笑った。
「そんな小説の陰謀みたいなことあるわけないって思っているでしょう? そうね。わたしもずっと、ただの偶然かもしれないって思っていたわ。でも、今は偶然だなんて思わない。証拠があるもの」
「証拠?」
マリアは、大きなガラスの向こうの特別船室を目で示した。
「ねえ、チコ。どうして私たちがこんな豪華客船で旅をできるのか、知りたいって言ったわね。私も知らないけれど、でも、1つだけはっきりしていることがあるの。それは、あの腕輪をつけたり外したりできる人たちが、払ってくれたのよ」
チコの心は、再び現実、優しく光の差し込むカーサ・ダ・ムジカのテラスに戻ってきた。目の前のテーブルに置かれたライサの左手首には、やはり黄金の腕輪などはついていない。そして、その痕も船の上で見たときよりもずっと薄くなっていた。
「いいえ。そうじゃないわ。もう、行こうと思えば、どこにも行けるんだったわ。行こうとしなかっただけで……」
ライサは左手首を見たまま、ぽつりとつぶやいた。
「そうだよ。だっても君は、あの船で世界旅行にも行ったんだよ」
「そうだったわね」
チコは急いで付け加えた。
「いつか、サン・カルルシュ国立劇場にも一緒に行こうよ。ものすごくいい席はプレゼントできないけれど。もちろん、桟敷席にはしないつもりだけれど……」
ライサは、顔を上げて微笑んだ。
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ラジオに出演

オリンピックの是非は別として、開催されるというのでここスイスでもいろいろなメディアが日本を特集しています。そのうちの1つであるとある国営系のラジオ局からの依頼で日本語についてインタビューを受けてきました。
もちろん私よりもずっとふさわしい日本からいらした方がいるのは百も承知なんですが、このラジオ局、若干準備がギリギリというのか、人材を探し始めるのがとても遅かったのだと思います。そして、たまたま私に依頼が回ってきたのですね。
開会式の1週間前に打診が来て、こちらも仕事をしているし、準備もあるので収録は開会式前日の木曜日でした。
で、間に合うようにちゃんと家は出たのですが、なんと高速道路で交通事故が発生して、塩漬けになってしまいました。先方に電話して事情を話したら、さすがラジオ局でどこでどうなっているかまでもう把握していました。幸い、30分ほどの遅刻でなんとか到着。すぐに収録が始まりました。
ラジオ局って日本も含めて初めて足を踏み入れたので、とても面白くてお上りさん状態になってしまいました。
事前準備の甲斐あって普段よりはまともに話したと思うのですが、それでもかなりひどいドイツ語で、後ほど少し落ち込みました。でも、しかたないよね、能力がここまでなんだもの。
先方はとても親切で、収録はとても楽しかったです。
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話はライサとチコに戻っています。チコはライサにもう一度会ってもらうために、Pの街にある有名な音楽ホールへの案内を頼みました。そして、無事に2度目デートにこぎ着けました。
今回も2回に切ってお送りします。
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Filigrana 金細工の心(18)カーサ・ダ・ムジカ -1-
その日もまた、素晴らしい快晴だった。チコはドキドキしながら、今度はライサのアパートの前まで彼女を迎えに行った。その一画を見回して、改めて不思議に思う。
そこはチコに馴染みのある階層の人々が住んでいる一画だ。古い家のタイルは所どころ欠けているし、石畳には安価な菓子の包み紙が落ちている。錆びたバルコニーからはためく洗濯物もくたびれている。少なくともこの一画に住むほかの住人が、豪華客船の35万ユーロの客室に泊まることはないだろう。
あの船旅が終わりに近づいた頃、ライサに夢中のチコに、仲間のオットーは言った。
「悪いことを言わないから、諦めろよ。多少の格差は愛で埋められるかも知れないけれど、このスイートと俺たちの船室の違いくらい、わかるだろ?」
だからこそ、この庶民的な一画で彼女が暮らしていることを確認して、彼の心は躍った。諦める必要なんてない。今日だって、彼女は会ってくれるじゃないか。とはいえ、カーサ・ダ・ムジカへ行きたいと彼が言ったときの、一瞬の反応が気になった。時おり心を泳がせいてる彼女の様子は、チコにわずかな不安を抱かせた。
妹のマリアにすら決して打ち明けないという秘密の向こうに、彼女は心を置いてきている。それが誰か特別な相手でないことを彼は祈った。
「ごめんなさい。待たせてしまった?」
声がして振り向くと、戸口にライサが立っていた。
「おはよう。いま来たところだよ。やあ、その服、船で着ていたね! とても君に似合っていて素敵だと、あの時から思っていたんだ」
それは水色と薄紫の半袖ワンピースで、ライサはその上に白いカーディガンを羽織っていた。
「ありがとう。あの旅で、たくさん洋服や装身具をもらったの。でも、ほとんど使わないし場所もないから大半をマリアが売ってくれたのよ。これは好きだったから残した数着のうちのひとつなの」
ライサは、地下鉄駅にチコを案内した。タクシーを呼んだりすることがないのも、やはり庶民の感覚からだろう。とても優美な振る舞いと静かなもの言いなので、高価なドレスを身につければどこかの姫君と言われても誰も疑わないが、こうして同じような社会階級の地域で歩いているのも全く違和感がない。むしろ、時おり存在を疑ってしまうほど、この世から身を引いて見える。チコは、彼女が消えてしまうのではないかと、地下鉄の中でも何度もその姿を確かめた。
もちろん、彼女は消えてしまったりはしなかった。カーサ・ダ・ムジカ駅で降りると、慣れた足取りで地上への出口へと向かった。1度もカーサ・ダ・ムジカに入ったことがないと言っていたが、この駅には慣れているようだ。そういえば通りの名前をすぐ口にしていたなと彼はおぼろげに思った。
カーサ・ダ・ムジカは少し変わった外見をしているコンサートホールだ。旧市街が19世紀までの伝統的建築を残し、その調和に見慣れた人々には、その不均衡な現代建築は奇妙に感じられる。広い開放的な空間に巨大な四角い岩をドンと置き、その角を誰かが無造作に削り取ったようだ。
しかし、いったん中に入ると無数の窓から入ってくる光が内部を美しく彩ることを緻密に計算して設計したことに感心することとなる。黄色や白い壁にガラスの間しきりから入り込むさまざまな光が内部を彩っている。日光の強さ、太陽の高度によって光と遊ぶように設けられたいくつものガラスのオブジェにさまざまな表情を見せる。平行でない直線で形成された不安定な空間と階段が続き、別世界に紛れ込んだかのような非現実的な印象を醸し出していた。
「圧巻だな。夜の演奏会のためだけに来たら、この素晴らしい光景は見られなかったな」
チコがいうと、ライサは頷いた。
「そうね。素晴らしいから1度は行ってみなさいとマリアが何度も言っていたわけがわかったわ」
差し込む光がライサの横顔に当たっている。ワンピースの布の表面は白くぼやけて、彼女が輝いているかのように見えた。もう長いこと足を踏み入れていない、故郷の教会を思い出した。ステンドグラスから入った光が祭壇脇の聖母木像に届いていたのをぼんやりと眺めた幼い日々がそこに戻ってきたかのようだった。
あの特別客室やシャンデリアの煌めく大広間で見た《悲しみの姫君》と、くたびれた洗濯物がはためく薄暗い街角に住む内氣な女性が、同じ女性だという事実にチコはどこかまだ納得がいっていなかったのだが、今ここに立つライサは、そうした社会的レッテルやいくつもの謎をすべて取り去り立ちすくんでいた。チコが惹かれてやまない、クリスタルガラスのように繊細で透明な彼女の存在感は、彼女がどこの誰かという社会的属性には関わりなかった。
この人が誰でも構うものか。チコは、胸の奥でそっとつぶやいた。
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フライパン新調

ずっと前に州都のある店で見て狙っていた商品がありました。取っ手のとれるTefal(日本ではT-falですが、同じ会社がヨーロッパではTefalなんです。念のため)のフライパンセットで、たしかフライパンが2枚とお鍋が1つという組み合わせだったと思います。でも、それを初めて見たときは、まだ使っているフライパンがわりと新しかったので「次回でいいか」と見逃したのです。
そうしたら、次のシーズンから何度行っても取っ手のとれるシリーズがないんです。ショックでした。便利さが段違いなんですよ。特に私はコンロで焼き色をつけてからそのままオーブンに入れて仕上げることが多いので、取っ手がとれることは譲れません。さらに食洗機に入れて洗うこと、また、場所の問題などからやはり取っ手のとれるテフロン加工のものがベストで、これは近場の店では買えないのです。
先日、愛用の24㎝のフライパンと深めのフライパンがいよいよ駄目になってしまったので、諦めて新しいのをネット経由で買うことにしました。そして、いろいろと検討した結果、やはりTefalの「Ingenio Essential」を買うことに決めたんです。
いや、本当は24㎝くらいのフライパンと、20㎝くらいの深めのフライパンの2つだけでもよかったのですが、そういう組み合わせでは売っていないので、じゃあ、このセットにしようかと思ったわけです。そして、スイスのサイトで申し込むつもりだったのですけれど、ちなみにフランスではいくらなんだろう、別の組み合わせもあるのかなと調べてみたら、買おうとしていたものが半額で売られているのを発見してしまいました。これなら送料を取られてもさらに安いと思って確認したらなぜか送料が込みになっています。そんなことってある、海外ですよ?
恐る恐る買い進んだら本当に送料も込みでした。そして、数日後には手元に届いてしまいました。スイスで買う半額で、しかも送料もなく。仕組みはよくわかりませんがこういうのって、よくないんだろうなあ、誰かがやたらと損をしているんじゃないかしら。ただ今回は、販売元は製造元なのでおそらく型落ちでなんとしてでも売りたかったのだろうと思い込むことにしました。
届いた製品は、期待通りでした。
フライパンは、24、26、28㎝の3枚。それにお鍋が18、20㎝の2つ。お鍋にはそのまま冷蔵庫にしまえるように蓋がついています。取っ手がとれるシリーズのいいところの1つですが、例えばシチューが余ったら蓋をして冷蔵庫にしまえるんですね。取っ手が外せるので変なところにつっかえることもありません。
以前から持っていたもので残っているのが、取っ手と28㎝のフライパンなので、今後はこれらを自由に使い回そうと思います。ちなみに、フライ返しとお玉はいらなかったです。木のフライ返しと無印良品のシリコン製調理スプーンを愛用しているので。
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【小説】天国のムース
今回の舞台は『黄金の枷』シリーズの舞台であるPの街にある『マジェスティック・カフェ』です。Pの街というのは、私が大好きなポルトがモデルで、『マジェスティック・カフェ』も実在する有名カフェをモデルにしています。
今回出てくる男性3人(うち1人は名前しか出したことがなかった)は、おもに外伝に出てくる、つまり、本編のストーリーにはほぼ関わらない人たちです。もちろんこの作品の内容も本編とは全く無関係です。

【参考】
小説・黄金の枷 外伝 | |
![]() | 『Infante 323 黄金の枷 』 |
![]() | 『Usurpador 簒奪者』 |
![]() | 『Filigrana 金細工の心』 |
黄金の枷・外伝
天国のムース
マヌエル・ロドリゲスは坂道を登り切ると汗を拭いた。この季節にサンタ・カタリーナ通りへ向かうのは苦手だ。それも、いつもの動きやすい服装ではなくて、修道士見習いらしく茶色い長衣を着てきたものだから暑さは格別だった。
生まれ故郷に戻ってきて以来、彼は実に伸び伸びと働いていた。神学にも教会にも興味もないのに6年ほど前に信仰の道に入ったようなフリをしたのは、家業から逃れ海外に行ってみたかったからだ。だが、その苦肉の策を真に受けた親戚が猛烈な後押しをし、よりにもよってヴァチカンの教皇庁に行くことになってしまった。そして、頭の回転の速さが目にとまりエルカーノ枢機卿の個人秘書の1人にさせられてしまったのだ。もちろん彼がある特殊な家系の生まれであることも、この異常な抜擢と大いに関係があった。
枢機卿には「早く終身誓願をして司教への道を歩め」との再三勧められていたが、「家業から逃れたいがための方便で神学生になっただけで、本当は妻帯も許されないような集団に興味はありません」とは言えず、のらりくらりと交わしていた。頃合いを見てカトリック教会から足を洗い、イタリアで同国人相手の観光業でも始めようかと思案していた頃、彼は生家が関わる組織に所属していた女性クリスティーナ・アルヴェスに出会った。
すっかり彼女に心酔した彼は、彼女が組織の中枢部で働くことになったのを機に共に故郷に戻ることに決めた。それも、あれほどイヤで逃げだそうとしていた組織に深く関わる決意までして。とはいえ、クリスティーナには未だ仲間以上の関係に昇格させてもらえないし、教会にいろいろとしがらみもあるので、修道士見習いの身分のまま故郷の隣町の小さな教会で地域の独居老人の家を回り手助けをする仕事を続けている。
今日、珍しく修道服を着込んでいるのは、よりにもよってエルカーノ枢機卿がPの街を訪問していて、マヌエルに逢いたいと連絡してきたのだ。訪問先の教会にでも行くのかと思ったら、呼び出された先は『マジェスティック・カフェ』だ。Pの街でおそらくもっとも有名で、つまり観光客が殺到するような店だ。なぜそんなところで。マヌエルは首を傾げた。もちろん、サン・ジョゼ・ダス・タイパス教会の奥で面会すれば、終生誓願はまだかとか、現在はどんな祈りを捧げているのかとか、あまり話題にしたくないことを延々と訊かれるのだろうから、カフェで30分ほど適当につきあって終わりに出来るのならばいうことはない。
彼は、予定の時間よりも30分も早くそのカフェに着いた。観光客に好まれる美しい内装が有名なので、席に着くまで外で何十分も経って待つのが普通なのだが、まさかヴァチカンから来た枢機卿を観光客たちと一緒に並ばせるわけにもいかない。とはいえ、お忍びなので特別扱いはイヤだといわれたので、特別ルートで予約することもできない。つまり、彼が先に行って席についておく他はないのだ。面倒くさいなあ、あの赤い帽子を被って立っていてくれれば、みな一斉に席を譲ると思うんだけどなあ。
大人しく並んでいると、テラス席の客にコーヒーを運んできた帰りのウェイターが「おや」とこちらを見た。
「ロドリゲスさんじゃないですか!」
名札に「ジョゼ」とある。顔をよく見ると、知っている青年だった。マヌエルが担当地域でよく訪問している老婦人の孫娘と結婚した青年だ。たしか組織の当主夫人の幼なじみで、結婚祝いを贈ったのだが、それを老婦人と顔なじみのマヌエルが届ける役割をしたのだ。
「ああ、こちらにお勤めでしたか」
「ええ。その節は、どうもありがとうございました。今日は、おひとりでご利用ですか」
マヌエルは首を振った。それから声をひそめて打ち明けた。
「実は、イタリアから枢機卿がお忍びできていましてね。並んで待たせるわけにはいかないので、こうして先に並ぶことになったんですよ」
「おや。そうですか。じゃあ、お2人さまのお席でいいんですね。奥が空いたらご案内しましょう」
ジョゼ青年が店内に入って行く背中を見送っていると、通りから聴き慣れた声がした。
「おや、マヌエル。待ちきれずに早く来てしまったのは私だけではないようだね」
「
つい大声を出して、エルカーノ枢機卿に睨まれた。
「困るよ。今日はそんな呼び方をするなといっただろう」
「はあ、すみません」
前後で並んでいる観光客たちのうち、呼びかけの意味がわかった者も多少はいるらしく、響めいていた。この居たたまれなさを何とかしてほしいと思ってすぐに、先ほどのウェイター、ジョゼが戻ってきて「ロドリゲスさん、どうぞ」と言ってくれた。列の前に並んでいた4人の女性たちは、イタリアから来たカトリック教徒だったらしく、恭しく頭を下げて通してくれた。順番がどうのこうのと絡まれることもなく先を譲ってもらえたのでマヌエルはほっとした。
Pの街に住んでいながら、『マジェスティック・カフェ』に入ったのは3回目くらいだ。コーヒー1杯飲むのに、コインでは足りないような店に入る習慣がないからだが、たとえもっと経済的な値段だったとしても、この店にはなかなか入りにくい。20世紀の初頭に建てられたアールヌーボー様式の装飾が施された店内があまりにも華やかすぎて落ち着かないのだ。
ピーチ色の壁、壁面に飾られた大きな鏡、マホガニーと漆喰の華々しい彫刻、そして古き良き時代を思わせる暖かいランプ。どれもが晴れがましすぎる。エルカーノ枢機卿は、マヌエルとは違う感性の持ち主らしく、当然といった佇まいで座っていた。普段ヴァチカンの宮殿やサン・ピエトロ大聖堂を職場として行き来している人だから、この程度の豪華さではなんとも思わないのだろう。
「久しぶりだね。先ほどファビオと話していたんだが、君は地道な活動を嫌がらずにやってくれて助かると言っていたぞ」
帰国以来、彼の上司であるボルゲス司教には、目をかけてもらっているだけでなく便宜も図ってもらっている。マヌエルはサン・ジョゼ・ダス・タイパス教会付きの修道士見習いという立場だが、ボルゲス司教は彼と同じ役割を持つ家系の出身であり、マヌエルが教会の仕事の他にドラガォンの《監視人たち》中枢部としての仕事を行う後ろ盾にもなってくれているのだ。それゆえ、マヌエルは修道士見習いとしては異例ながら、Gの街の小さな分教会での閑職と、地域の老人たちを訪問する業務だけに従事し、宗教典礼の多くから解放されて通常は伸び伸びと暮らしていた。
エルカーノ枢機卿は、この国の出身ではなくドラガォンとは直接的な関係はないが、役割上この秘密組織のことを知り、時に《監視人たち》中枢部の黒服やドンナという称号を持つ女性たちと面会をすることもあった。どうやら今回の来訪はドンナ・アントニアとの面会のためだったらしい。ヴァチカンにいた頃は、もちろんマヌエルがやって来た黒服ソアレスを人払いされた枢機卿の書斎に案内したものだ。だが、今回の来訪では幸いにも彼は蚊帳の外の存在でいられた。橋渡しをしたのはボルゲス司教だろう。
「それで。君は、いまだにそんな身分なのか。一体いつ終生誓願をするつもりかね」
あららら。この話題を結局出されたか。枢機卿はまだ彼が司祭になんかまったくなりたくないと思っていることを嗅ぎつけてくれないようだ。
「まあ、そのうちに……。それより、何を頼まれますか、ほら、お店の方が待っていますよ」
会話の邪魔をしないように立つジョゼの方を示しながら、彼はメニューを開けてエスプレッソが5ユーロもすることに頭を抱えたい思いだった。いつもの立ち飲みカフェなら10杯飲めるな。
「うむ。このガラオンというのは何かね」
枢機卿は、ジョゼに対して英語を使った。
「そうですね。ラッテ・マッキャートみたいなものです」
「じゃあ、それにしよう。……それからデザートなんだが」
枢機卿はしばらくメニューのデザートのページを眺めていたが、小さく唸りながら首を傾げた。
「おや、ここではなかったのかな」
「何がですか?」
「いや。いつだったか、この街に来たときに食べたムースが食べたかったんだが、それらしいものがないなと思ってね」
「どんなお味でしたか?」
ジョゼが訊いた。
「砕いたビスケットが敷いてあって」
枢機卿は考え考え言った。
「はあ」
「甘くて白いクリームと層になっていて……」
「それは……」
マヌエルはもしやと思う。
「それに、名前が確か天国のなんとかという……」
「「
マヌエルとジョゼが同時に言った。
「おやおや。有名なデザートなのかね」
「そうですね。この国の人間ならたいてい知っていますね」
マヌエルは、枢機卿のニコニコとした顔を見ながら言った。
ナタス・ド・セウは、砕いたビスケットと、コンデンスミルクを入れて泡立てた生クリームを交互に重ねて作るデザートだ。たいていは一番上の層に卵黄で作ったクリームが載る。
「そういえば、以前、メイコのところで美味しいのをいただいたっけ」
マヌエルが言うと、ジョゼは「ああ」という顔で頷いた。
「メイコというのは?」
「私の担当地域にお住まいの女性ですよ。よく訪問しているんです。で、この方の奥さんのお祖母さんです」
「ほう」
「そういえば、明日また訪問する予定になっていたっけ」
それを聞くと、枢機卿は目を輝かし身を乗りだしてきた。
「訪問すると、そのデザートが出てきたりするのかね?」
「いや、そういうリクエストは、したことはないですけれど……」
「してみたらどうかね? なに、私は以前から、こちらでの君の仕事ぶりを見てみたいと思っていたのだよ」
何、わけのわからないことを言い出すんだ。いきなり枢機卿なんかがやって来たらメイコが困惑するに決まっているじゃないか。同意を求めるつもりでジョゼの顔を見ると、彼は肩をすくめて言った。
「差し支えなければ、彼女に連絡しておきますよ。明日、猊下がいらっしゃるってことと、ナタス・ド・セウを作れるかを……」
そんなことは申し訳ないからとマヌエルが止める前に枢機卿は立ち上がってジョゼの手を握りしめていた。
「それは嬉しいね。どうもありがとう、ぜひ頼むよ! 親切な君に神のお恵みがありますように!」
遠くからそのやり取りを眺めていたジョゼの上司がコホンと咳をした。そこで3人は未だにこのカフェでの注文が済んでいなかったことに思い至った。
「あ〜、猊下、何を頼みますか」
「うむ。そうだな。明日のことは明日に任せて、今日もなにかこの国らしいデザートを頼もうか。君、この中でどれがこの国らしいかね?」
ジョゼは、メニューの一部を指して答えた。
「このラバナーダスですね。英語ではフレンチ・トーストと呼ばれる類いのお菓子なんですが、シナモンのきいたシロップに浸してから作るんです」
枢機卿は重々しく頷いた。
「では、それを頼もうか。それも、このタウニー・ポートワインとのセットで」
「かしこまりました。そちらはいかがなさいますか?」
マヌエルは、メニューを閉じて返しながら言った。
「僕は
頭を下げてから奥へと去って行くジョゼの背中を見ながら、マヌエルはため息を1つついた。やれやれ。ここで30分くらいお茶を濁して逃げきろうと思っていたけれど、明日もこの人にひっつかれているのか。メイコの
マヌエルは居心地悪そうに地上の天国のような麗しい内装のカフェを見回した。
(初出:2021年7月 書き下ろし)
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パスタの新調理法

先日、連れ合いの育った村に行った時のことです。連れ合いの幼なじみの家に招かれて夕ご飯をご馳走になったのです。その時に、奥さんが見たこともない調理法をしていたのです。
油をフライパンで熱して、茹でていない固いパスタ(ものすごく細い、こちらでは中国風と呼ばれているパスタです)をそりまま焼いているのです。油でパスタには焦げ目がついていきます。それからごく少量のお湯とチキンブイヨン顆粒を入れて蓋をして蒸します。それでかなりあっという間に茹でてから焼き色をつけたようなパスタが出来上がってしまったのです。それからチーズを混ぜて、別に焼いた茄子と合わせていました。
最後の過程はともかく、この調理法は目からうろこでした。聞いたところによると、彼女のお祖母さんがしていた調理方法だそうです。で、自宅に戻ってから自宅でもやってみました。簡単でしかも美味しいです。茹でてからパスタに焼き色をつけるのは結構難しくてグズグズになってしまったり、油っぼくなってしまったりします。それにけっこう時間がかかります。でも、この方法だと、油も水もあまり使わずにかなり短時間で、香ばしいパスタができるんです。
ポイントは、ゆで時間が短いタイプのパスタを使うことで、それ以外は難しい工程はほとんどありません。味をしめたので、付け合わせ系のパスタは、これからはこの方法で作ることに決めました。
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【小説】Filigrana 金細工の心(17)《Et in Arcadia ego》 -2-
アントニアは祖母であるアナと共に葬儀すらもなく祖父インファンテ321の埋葬された場所に立つことになりました。第1作をお読みでない方のために書きますが、存在しないことになっているインファンテたちは、死後この小さな四角い石の下に埋められることになっています。
![]() | 「Filigrana 金細工の心」をはじめから読む あらすじと登場人物 |
Filigrana 金細工の心(17)《Et in Arcadia ego》 -2-
それから、1年も経たずに、祖父は亡くなった。ペドロ・ソアレスをはじめとする《監視人たち》の報告から、彼らしく、最後まで不満と怒りを周りにぶつけ、傲慢で不幸な日々を過ごし、心の平和を持たないまま逝ったことを知った。祖母アナは、黙々と年老いた病人に寄り添い、彼の放つ怒りと不満の相手をし、最後は他の者たちよりは信頼されて、感謝の言葉も時折かけてもらっていたと聞いた。
この家を訪れる時にいつも苛立ちを感じた、神経質に高い祖父の声が、今は全く聞こえない。ただ静かな陽の光が、中庭に射し込んでいる。喪服に身を包んだ祖母が触れいてる小さな石には、ラテン語が刻まれていた。《Et in Arcadia ego》(そして、
「お祖母さま。心からお悔やみ申し上げます」
アントニアの言葉に、アナは、黙って首を振った。
「何に対してだい。存在していない者が、もはやスペアとしての意味すらもなくなった者が、それでも生き続けなければならないことが、彼をあれほど苛つかせていたんだ」
アントニアは息を呑んだ。おそらくその言葉は正しい。祖父は不快に振る舞う以外に存在を主張する術がなかったのだ。
「誰もがホッとしている。お前も、《監視人たち》も、そして私もだ。それでいいのだよ、アントニア。己の冷たさに対しても、システムの非情に対しても『なぜ』と考えてはならない。それは心を落ち込ませるだけだ。アントニア、私たちは、運命を受け入れて、運命と和解しなくてはならない。そうでなければ、私たちの心は苦しみから逃れられないのだから」
アナとともに家を出、ガレリア・ド・パリ通りで待機していた車に乗った。それから、祖母を住まいへと届けると、運転手に『ドラガォンの館』へ行くように告げた。「ドン・アルフォンソ」に報告しなくてはならない。いや、報告自体は、ソアレスからメネゼスを通して逐一行われているはずだから、必要はないだろう。だが、祖母アナの言葉は、「トレース」に伝えたいと思った。
『なぜ』と考えてはならない―。
祖母の言葉は、アントニアに重くのしかかる。父親カルルシュや祖父21だけでなく、兄アルフォンソももうどこにもいない。ドラガォンの不調和は、いや、その言葉がふさわしくないとしたら「凪いだ海に立った波」は、いつの間にか始めからなかったかのように均されて見えなくなっている。病弱な当主やトレースはいなくなり、クワトロのもとで苦しんだ女たちもいなくなり、新しい世代の誕生を待つ希望だけが白い泡のように表を覆っている。
その覆い隠された波の合間に、1つの愛がまた潰されてしまったことについて、アントニアは胸を痛める。あれもまた、ドラガォンの掟に則ったことだった。そうであっても、その決定の裏には自分の存在があり、妹の心を思う亡くなった兄の思いやりがある。残された自分は、その罪の意識を永久に持ち続けるのだろうかと思った。
『なぜ』と考えてはならない―。
もし彼女が、まだ誰からも選ばれていなければ。もし彼が、自分の想いをはっきりと口にしていれば。それとも、側にいるだけでよかったのかもしれない。自分がそうであるように。たとえ手は届かなくても。
アントニアが、叔父22とライサの間に起きた心の異変を知ったのは、ちょうどアナと初めて逢った日だった。『ドラガォンの館』には、新しい召使いマイア・フェレイラが勤めはじめていて、弟23の様子にも明らかな変化があった頃だ。ライサが24の居住区から救い出され『ボアヴィスタ通りの館』に預けられてから1年近く経っていた。
車から降りた時に、開けはなれた窓から聴こえてきたピアノのメロディにアントニアは驚いた。優しい旋律は、ずっと禁じられていた曲だった。
数年前に、リストの『3つの演奏会用エチュード』の第3曲『ため息』を弾きたいと頼んだ時の、彼の苦悩の表情はずっとアントニアの心に刺さっていた。
「だめだ。あれは聴きたくない。2度と弾きたくもない。あの曲の話はしないでくれ」
彼の見せる冷笑と憎しみには慣れていたアントニアが、まだ1度も見たことのなかった悲痛。すぐにわかった。これは、彼女の母マヌエラとの思い出がある曲なのだと。彼が幸せの絶頂にあった頃、彼が心から愛した女性との時間を呼び起こしてしまう旋律なのだと。
一体なぜ、この曲を弾いているの、叔父さま。アントニアは、急いで玄関を通り、もどかしげに上着をモラエスに渡すと、階段を駆け上がり、居間へと急いだ。ドアは開かれていて、グランドピアノの前に腰掛けている22の姿が見えた。雪解け水が走りだすように、メロディは彼の指先からこぼれだしていた。優しく暖かく、とても繊細な響きだった。
彼の表情は穏やかで、微笑んですらいた。その微笑みは時折、ピアノの傍らに立ち、扉に背を向けているライサに向けられていた。彼が女性に対してこんな風に微笑むとは、考えたこともなかった。それに、ライサが、彼女を苦しめた男によく似ているが故にあれほど怖れていた22に、ここまで近づいたのかという驚きもあった。
この2人は、心を通わせているのだ。出会ってわずか数か月だというのに、アントニアが10年かけても果たせなかった以上に。彼を閉じこめていた、マヌエラという名の黄金の枷は、アントニアがいつかは自分の手で彼を自由にしてやりたいと思っていた牢獄は、自ずから開いて彼を自由にしていた。
そして、それがアントニアの苦悩の始まりだった。愛する男を喜ばせること。それは彼女がこの10年間ずっと追究してきたことだった。彼女は、たとえどんな小さいことでも彼の願いを叶えたかった。決して自ら口にしない願いを見つけ出し、片っ端から叶えてみせることに、この上なき喜びを抱いていた。彼女は、彼のほしいものを即座に理解し、そして自らの2つの願いに引き裂かれた。
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KFCが来た

このブログをよく読んでくださる方は、もしかしたら憶えていらっしゃるでしょうか。今年の2月に「チキンをめぐる挑戦」という記事でKFCが近くにないので苦悩しているという話をしたのを。
その舌の根も乾かぬうちに、来たのですよ、KFCが我が家から20分ほどの州都に! 20年も出店がなかったのでもう生涯KFCは身近では食べられないんだと諦めていたのが嘘のようです。
もともと去年開店する予定だったらしいのですが、コロナ禍のロックダウンで延び延びになり、この初夏にようやくオープンした模様です。で、私も行ってきました。
で、買ったものは写真のようにオリジナルチキン2つとナゲットみたいに見えるクリスピーチキンなる商品。しょぼいな、ポテトもつけないのかよ、とお思いになった方、スイスの物価をご存じないですね。このささやかな買い物だけですでに日本円にして1200円を超えているんですよ。それも、クリスピーチキン4個入りはアンケートに回答したお礼みたいなもので1フランで購入したので、オリジナルチキン2つだけで日本円で1000円超えている計算になります。高っ。
なので、ポテトだとか、コールスローだとか、そうした自分で作れるものはこの際無視して、チキンだけを買ってきました。
帰宅途中の車の中は、夢にまで見たKFCの香りで満ちていたので極楽。そして、我が家に戻ってからかぶりついたチキンは間違いなく子供の頃から大好きだったあの味でした。
持ち帰ってきたのにはわけがあり、肉だけ買ってその場で食べるというのがイヤだっただけでなく、我が家で四苦八苦しているチキン用スパイスを完成するために実物の香りを嗅ぎながら調合したいと思ったのですね。
結果として、やはり全く同じ香りは無理そうなんですけれど、それでも「これならわりと近いかな」という調合をみつけました。
それはそれとして、やはりKFCのチキンは美味しいですね。じゅわっとした肉汁のでる調理法も、皮に絡みつく衣とスパイスも本当においしい。これから州都で「自分へのご褒美」を買うときは、KFCのオリジナルチキンが第1候補になる予感大です。
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