ご挨拶

【創作とブログの活動】
2021年は下記のような作品を発表しました。
長編・『Filigrana 金細工の心』 (完結)
短編集・『12か月の店』(完結)
企画もの・『scriviamo! 2021』の作品群
企画もの・『創作語ろう』のエッセイ
「書く書く詐欺」がストレスになっていた作品群のうち、『黄金の枷』3部作がついに完結しました。大風呂敷を広げてしまった「書く書く詐欺」は全部で4つあったのですが、そのうちの2つが無事に完結したので少しだけホッとしています。ただ、残りはあいかわらず進んでいないので頑張りたいと思います。
コロナ禍が始まると同時に(コロナ禍とは別の原因で)実生活が忙しくなった(これについては下で触れます)ので、執筆がほとんど進まなかったのですが、これから少しずつ遅れを取り戻したいです。
さて、2022年の活動ですが、既に始まっている「scriviamo! 2022」(皆様のご参加をお待ちしています)、3月からは『森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠』の連載を始めますが、明らかに見切り発車なので今からかなり不安が……。ま、なんとかなるでしょう。これまでも何とかなったし。(なっていないとも言う)『12か月の○○』シリーズは、『12か月の楽器』で、今ごろ1月分を書いております。
【実生活】
・休暇旅行は国内のみ
6月に1度だけ、レマン湖沿いの連れ合いの故郷に行きました。久しぶりのバイクの旅でした。いいタイミングで行けたと思います。天候にも奇跡的に恵まれましたし。連れ合いの幼なじみたちとの交流がメインでした。
・仕事関連
2019年末にレイオフされてから、1年半にわたり半分求職、半分細かなアルバイトというような生活を続けました。幸い、今年の6月から再び定職に就くことができ、2020年の7月から始めた日本語教師の仕事(パートタイム)も2足わらじで続けることになりました。
日本語教師を完全に辞めるという選択肢もあったのですが、世界の先行きが不透明ですし、いつまた2019年と同じように放り出されるかわからないので、ある程度の可能性をキープしておきたいというのが1つ。また、生徒たちが「やめないでほしい」と強く要望してくれたのが嬉しかったのも別の理由であります。
さらには、クラスで紹介している日本の文化、「何となく」の知識を言語化していくことが、私自身にとってもとても身になっているということがあります。日本から離れて20年経ちますが、よその文化に身を置くことで自分の日本人としてのアイデンティティーを常に意識しています。この仕事は、その確認作業にとても近いので、収入は少なくても続けていきたいと思ったんですよね。
再就職したメインの方の仕事はIT会社でまたプログラマーなのですが、2021年いっぱいは60%勤務(週3日換算)でしたが、新年からは80%になります。かつてのように自転車では行けませんが、車で10分という立地な上、おそらく来年からしばらくはホームオフィスになりそうです。
・家庭
家庭の方は、大きな動きもない1年でした。今年1年、連れ合いも私も風邪1つ引かず、健康に過ごしました。おちおち風邪も引けない世界というのも異常なんですけれど、これが現実なのでしかたないですよね。秋以来レストランにも行けないので、以前よりもさらに料理ばかりしている感があります。今年のブログもそんな記事が多かったですよね。
・猫(追記)
そういえば、あまりに慣れすぎて書き忘れましたが、猫が連れ合いの工場を住処に決めたのも2020年の秋でしたね。今は、冬休みなので1日数回のお世話(一緒の散歩やマッサージなど)をさせていただいています(笑)小さくてかわいい、自分の都合に合わせては動いてくれない存在がいるのはなかなかいいものです。
・機械周り
旧Mac miniとMac OS Big Surの相性が悪く、何度も再インストールを繰り返した末に完璧に壊してしまいました。1ヶ月半ほどMacBook Airだけでお茶を濁した末にM1のMac Miniを購入。その後はとても快適に使っています。
そんなわけで、今年も慌ただしかった割にはあまり代わり映えのない生活で過ごし、このまま2022年に突入する予定です。
2021年にこのブログを訪れ小説や記事に関心を持ち励ましてくださった皆様に、心から御礼申し上げます。2022年もさらなるご指導をお願いすると共に、また皆様との楽しい交流があることを心から祈っています。引き続き「scribo ergo sum」を、どうぞよろしくお願いいたします。
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「scriviamo!」というのはイタリア語で「一緒に書きましょう」という意味です。
私、八少女 夕もしくはこのブログに親近感を持ってくださるみなさま、ずっと飽きずにここを訪れてくださったたくさんの皆様と、作品または記事を通して交流しようという企画です。この企画、毎年年初に行ってきて、なんと今回で10回目を迎えました。創作関係ではないブログの方、コメントがはじめての普段は読み専門の方の参加も大歓迎です。過去の「scriviamo!」でも参加いただいたことがきっかけで親しくなってくださった方が何人もいらっしゃいます。特別にこの企画のために新しく何かを用意しなくても構いませんので、軽いお氣持ちでどうぞ。
では、参加要項です。(例年と一緒です)
ご自身のブログ又はサイトに下記のいずれかを記事にしてください。(もしくは既存の記事または作品のURLをご用意ください)
- - 短編まはた掌編小説(当ブログの既発表作品のキャラとのコラボも歓迎)
- - 定型詩(英語・ドイツ語・または日本語 / 短歌・俳句をふくむ)
- - 自由詩(英語・ドイツ語または日本語)
- - イラスト
- - 写真
- - エッセイ
- - Youtubeによる音楽と記事
- - 普通のテキストによる記事
このブログや、私八少女 夕、またはその作品に関係のある内容である必要はありません。テーマにばらつきがある方が好都合なので、それぞれのお得意なフィールドでどうぞ。そちらのブログ又はサイトの記事の方には、この企画への参加だと特に書く必要はありません。普段の記事と同じで結構です。書きたい方は書いてくださってもいいです。ここで使っているタグをお使いになっても構いません。
記事がアップされましたら、この記事へのコメント欄にURLと一緒に参加を表明してください。鍵コメでも構いません。「鍵コメ+詩(短歌・俳句)」の組み合わせに限り、コメント欄に直接作品を書いていただいても結構です。その場合は作品だけ、こちらのブログで公開することになりますのでご了承ください。(私に著作権は発生しません。そのことは明記します)
参加者の方の作品または記事に対して、私が「返歌」「返掌編」「返画像(絵は描けないので、フォトレタッチの画像です。念のため)」「返事」などを書き、当ブログで順次発表させていただきます。Youtubeの記事につきましては、イメージされる短編小説という形で返させていただきます。(参考:「十二ヶ月の歌シリーズ」)鍵コメで参加なさった方のお名前は出しませんが、作品は引用させていただくことがあります。
過去に発表済みの記事又は作品でも大丈夫です。(過去の「scriviamo!」参加作品は除きます)
また、「プランB」または「プランC」を選ぶこともできます。
「scriviamo! プランB」は、私が先に書いて、参加者の方がお返事(の作品。または記事など)を書く方式のことです。
「プランB」で参加したい方は、この記事のコメント欄に「プランBで参加希望」という旨と、お題やキャラクターやコラボなどご希望があればリクエストも明記してお申し込みください。
「プランB」でも、参加者の方の締め切り日は変わりませんので、お氣をつけ下さい。(つまり遅くなってから申し込むと、ご自分が書くことになる作品や記事の締切までの期間が短くなります)
「プランC」は「何でもいいといわれると、何を書いていいかわからない」という方のための「課題方式」です。
以下の課題に沿ったものを150字から5000字の範囲で書いてください。また、イラストやマンガでの表現もOKです。
*ご自分の既出のオリキャラを一人以上登場させる
メインキャラ or 脇役かは不問
キャラクターであれば人どころか生命体でなくてもOK
*季節は「春」
*飲み物を1つ以上登場させる
*「好きなもの」(人・動物・趣味など何でもOK)に関する記述を1つ以上登場させる
(注・私のキャラなどが出てくる必要はありません)
期間:作品のアップ(コメント欄への報告)は本日以降2022年2月28日までにお願いします。こちらで記事にする最終日は3月10日頃を予定しています。また、「プランB」でのご参加希望の方は、遅くとも1月31日(日)までに、その旨をこの記事のコメント欄にお知らせください。
皆様のご参加を心よりお待ちしています。
【注意事項】
小説には可能なかぎり掌編小説でお返ししますので、お寄せいただいてから1週間ほどお時間をいただきます。
小説以外のものをお寄せいただく場合で、返事の形態にご希望がある場合は、ご連絡いただければ幸いです。(小説を書いてほしい、エッセイで返してくれ、定型詩がいい、写真と文章がいい、イメージ画像がいいなど)。
ホメロスのような長大な詩、もしくは長編小説などを書いていただいた場合でも、こちらからは詩ではソネット(十四行定型詩)、小説の場合はおよそ3,000字~10,000字で返させていただきますのでご了承ください。
当ブログには未成年の方もいらっしゃっています。こちらから返します作品に関しましては、過度の性的描写や暴力は控えさせていただきます。
他の企画との同時参加も可能です。その場合は、それぞれの規定と締切をお守りいただくようにお願いいたします。当ブログのの締め切っていない別の企画(神話系お題シリーズなど)に同時参加するのも可能です。もちろん、私の参加していない他の(ブログ等)企画に提出するのもOKです。(もちろん、過去に何かの企画に提出した既存作品でも問題ありません。ただし、過去の「scriviamo!」参加作品は不可です)
なお、可能なかぎり、ご連絡をいただいた順に返させていただいていますが、準備の都合で若干の前後することがありますので、ご了承くださいませ。
この記事には追記があります。下のRead moreボタンで開閉します。
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フォンデュ・シノワーズ食べた

多くの日本の方にとっては「なにそれ」だと思いますが、直訳すると「中国風のフォンデュ」です。ただ、中国や日本の鍋料理とは全く違う「それっぽいけれど別物」ですね。
野菜ブイヨンに肉をつっこんで火を通し、ソースをつけて食べる。付け合わせはポムフリット(ポテトフライ)一択みたいです。そして、チーズフォンデュ同様、他のものは食べないことが多いです。

でも、日本人の私としては、さすがに肉と芋だけでご飯というのはアレなので、横にいろいろと付け合わせと前菜を並べてみました。
付け合わせは、マッシュルームのガーリック焼き、にんじんとブロッコリー、ツナと野菜のライスサラダ、それに瓶詰めのピクルスなど。前菜には、サーモン、ゆで卵、偶然見つけた日本風の梨、チーズ、干し肉、ナッツなど。
でも、スイス人は結局、肉とポムフリットばかり食べていましたね。というわけでいっぱい余った野菜は、今日の食事です。
あ、もぐらさん主催の「クリスマスのちいさなお茶会」に参加しています! よかったら聴きに行ってくださいね。
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クリスマスに関する作品を集めてみました

今日は、発表する作品がない代わりに、このブログで以前に発表したクリスマスに関する作品をあれこれ集めてみました。
いや、新作連載を開始してもよかったんですけれど、すぐに3か月の「scriviamo!」で中断だし、年内はこんな感じでお茶を濁そうかと。すみません。
そんなにないだろうと思っていたのですが、探してみたらかなりありました(笑)
もし読んだことがない作品があったら、この機会にぜひどうぞ。
【小説】大道芸人たち (10)バルセロナ、 フェリス ナビダー
『大道芸人たち Artistas callejeros』内のクリスマスストーリーの1つです。
【小説】大道芸人たち 番外編 — アウグスブルグの冬
こちらは番外編。ドイツのアウグスブルグのクリスマスをモチーフに書いています。
【小説】二人きりのクリスマス
バレエ『くるみわり人形』をモチーフにして書いた話。大海彩洋さんの企画で書いた作品です。
【小説】冬、やけっぱちのクリスマス
これは日本的クリスマスに無縁で地味な紗英と、モテるお隣の歳下坊や宙の色氣のないクリスマスの話。
【小説】君の話をきかせてほしい
『いつかは寄ってね』『バッカスからの招待状』『ウィーンの森』という3つのシリーズのコラボ作品? 舞台は『でおにゅそす』で涼子がクリスマス風和装をしていますよ。(話にはその和装は全く関係ないですが)
【小説】バッカスからの招待状 -7- アイリッシュ・アフタヌーン
こちらは『Bacchus』が舞台で『いつかは寄ってね』『バッカスからの招待状』のコラボです。田中が涼子の想いに氣づかぬ朴念仁ぶりを発揮中。
【小説】バッカスからの招待状 -15- ブランデー・エッグノッグ
『Bacchus』が舞台の作品をもう1つ。つい先週発表したばかり。そういえば私もバブルの頃のバーは足が向きませんでしたね。まあ、まだ学生でしたし。入社したらもう弾けていたんだよなあ。
【小説】クリスマスの贈り物 (前編) / (後編)
『郷愁の丘』の外伝で、絶賛片想い中のさみしい中年主人公・グレッグのクリスマスを描いています。
【小説】帰りを待っているよ
読み切り短編で、子供のクリスマスの話。モチーフはリボンです。
【小説】追憶の花を載せて
こちらもよみきり。ポール・ブリッツさんのキャラクターをお借りして書いた作品。クリスマスそのものはあまり関係ありませんが、クリスマスローズが使われています。
【定型詩】孤独な少年のためのクリスマスソネット
これは『夜のサーカス』の世界観を使って書いたドイツ語のソネット(14行定型詩)ですね。
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猫中心の日々

FC2の管理画面に出てくる「トラックバックテーマ」のおすすめに「11月22日はペットたちに感謝する日!あなたの飼っているペットについて教えてください!」なるテーマが出ていました。ええ? いい夫婦の日じゃないんだ? っていうか、もう12月も後半だし、とっくに過ぎていますよね。でも、猫の話題なので、ま、いっか。
きちんと「猫を飼う」と決めて買いだした家庭と違い、我々はなし崩しに生活に侵入された口なので、いつから飼いだした、何がきっかけ、みたいなものはありません。「植木の皿の水、飲んでるから邪魔しないようにしよう」「なんか飢えているみたいなので、セルブラソーセージでも分けてやるか」「こんなに食べるなら、やっぱりキャットフード飼ってこよう」「うちで寝ちゃったよ」「トイレ買ってくるか」みたいな感じで、どんどん連れ合いの工場にいる時間が増えて、現在は完全に本拠地とされています。
最初はガリガリに痩せて、お腹のあたりに大きな禿が3つくらいあり、触るのも躊躇してしまうくらいに汚れていたのですけれど、居着かれて可愛がっているうちに毛はふさふさツヤツヤに、肉づきもよくなって美猫といってもいい見かけになりました。
可愛がってくる大人に躊躇せずにすり寄る性格ですが、少年たちとは嫌な思い出があるらしく遠くから子供たちを見かけるだけで逃げ出します。木に登るのは好きだけれど降りられなくなることも多く、1度は消防庁のお世話になったこともあるらしいです。(これは我が家での出来事ではなく、過去の話で隣人の証言です)
私が誘うと散歩に一緒に出かけますし、膝の上に載って毛繕いを要求するのもだいたい日課ですし、私も仕事が終わって帰宅するとまず猫は何をしているか確認してしまいます。連れ合いも生活の時間配分の大半を猫基準に変えてしまいました。
コロナ禍で長期の旅行に出かけなくなってから登場した猫ですが、きっとそれまでの生活だったら「旅行の間、猫の世話どうしよう」と悩んだでしょうね。私たちはこれまでペットを飼ったことがなかったので、いくらでも家を空けられたのです。そして、旅行が好きだからペットを飼おうと考えたこともなかったのです。
この生活はまだずっと続きそうなので、しばらくはこの猫中心の生活を続けそうです。
こんにちは!FC2トラックバックテーマ担当の一ノ瀬です今日のテーマは「11月22日はペットたちに感謝する日!あなたの飼っているペットについて教えてください!」です今日は11(ワンワン!)22(ニャンニャン!)ということで、ペットたちに感謝する日「THANKS PETS DAY」だそうです!私は昔家族で犬を2匹飼っていたのですが、どちらもとても愛らしくて大好きな子たちでした。親に怒られて悲しい気持ち...
FC2 トラックバックテーマ:「11月22日はペットたちに感謝する日!あなたの飼っているペットについて教えてください!」
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【小説】バッカスからの招待状 -15- ブランデー・エッグノッグ
『12か月の店』のラストを飾る舞台は、『Bacchus』です。うちのブログで飲食店といったら、やはりここかなと思い12月まで待ちました。店主の田中はもちろん、常連3人組も登場です。なぜ下戸ばかりが……。

【参考】
![]() | 「バッカスからの招待状」をはじめからまとめて読む |
バッカスからの招待状 -15- ブランデー・エッグノッグ
店の奥に背の高い棚がある。小さな脚立に載って箱をいくつかとりだした。普段使わない季節の飾りは箱に詰めてしまってある。今年もカウンターにクリスマスツリーを飾る季節がやって来た。
そのバーは、大手町のビル街にひっそりと隠れるようにあった。飲食街からは離れているので夜はほとんど人通りのないとあるビルの地下。知っている人でないと見過ごしてしまいそうな小さな濃い紫色の看板に白い字で小さく『Bacchus』と記してある。
バーテンダーでもある田中佑二がほぼ1人で切り盛りするこの店には、目立たない立地ゆえ、クリスマスだと浮かれて入ってくるタイプの客はまずいない。だが、老若男女の常連たちは、店の装飾が変わることを歳時記のように捉えて話を弾ませる。
田中は、ハロウィンが終わるやいなや街がクリスマスの飾り付けだらけになるのを静観し、自分の店は12月に入ってから飾りつけることを常としていた。
カウンターの一番入り口に近い場所にツリーを据える。金と赤の2種類の小さい飾り玉をバランスよく吊していく。赤い飾り玉には、虹のような光沢がある。カウンターの角とテーブル席には小さいポインセチアを飾る。
最後の鉢を奥の席に置いているときに、ドアが開いた。落ち着いたオーバーコート姿の年配男性が伺うように立っている。
「いらっしゃいませ」
「まだ準備中かな」
「いいえ、開店しております。どうぞお入りください」
「1人なんだが、いいかね?」
「もちろんです。テーブルとカウンターと、どちらがよろしいでしょうか」
「カウンターにしようかな、ここ、いいかね?」
彼は、入り口に近い端の席を見ていた。初めての客がよく選ぶ席だ。コート掛けや出入口に近くて落ち着くのだろう。田中は頷いた。
「どうぞおかけください」
田中は、彼がコートをハンガーに掛けて、カウンターの下に紙袋をしまい、座って落ち着くのを待ってからおしぼりとメニューを手渡した。
「どうぞ」
「ありがとう。……その、僕はこの手の店に入ったことがなくてね。勝手がわからないんだが」
謙虚で率直な物言いには好感が持てる。
「そうですか。特別なルールはございません。お好きなお飲み物や肴をお選びください。また、こんな飲み物がほしいといったご要望をおっしゃっていただければ、お奨めのカクテルなどを提案させていただきます」
「そうか。じゃあ、ちょっとメニューを見せてもらうよ」
「どうぞごゆっくり」
また入り口が開く音がした。朗らかな声がした。
「こんばんは」
「ああ、久保さん。いらっしゃいませ。今晩はお早いですね」
「そうなの。残業を頼まれる前に逃げ出してきちゃった。あ、夏木さんと近藤さんも、来たみたい」
久保すみれの言葉通り、いつもの常連仲間が階段を降りてきた。この下戸3人組は、火曜日にはたいてい早くからここに集う。
「いらっしゃいませ。夏木さん、近藤さん」
「こんばんは。田中さん、皆さん。お、久保さんに負けたか」
夏木は、慣れた様子でコートを脱いでからカウンター席の奥、すみれが手招きするいつもの椅子に向かった。
「こんばんは、田中さん。ああ、ここの飾り付けが始まったか。クリスマスが近いもんなあ」
近藤は、少し大仰な動きで中折れ帽を脱ぎ、コート掛の上に置いた。コートの下は相変わらずイタリアブランドの洒落たスーツを着こなしている。好んで座るほぼ真ん中のカウンター席に座ると、勿体ぶった様子で眼鏡を持ち上げた。
すみれは、わずかに聞こえる程度に、クリスマスの定番ソングをハミングしながらメニューをめくった。
「あ。これにしようかなあ。『青い珊瑚礁』。クリスマスの飾り付けが始まるまで我慢していたし……」
隣の夏木が「どれどれ」とのぞき込んだ。
「ああ、なるほど、きれいなクリスマスカラーだね」
緑のペパーミントリキュール、赤いマラスキーノチェリーがカクテルグラスに沈み、まるで逆さクリスマスツリーだ。ジンベースなので、アルコール度数は高めだ。田中は静かに言った。
「お2人とも、そちらをいつものようにお作りしますか?」
2人とも、ぱっと顔を上げて嬉しそうに頷いた。「いつものように」というのは、アルコールにあまり強くないすみれには、規定よりもずっと少ない量のジンを使い、1滴のアルコールも飲めない夏木用にはノンアルコールで作るということだ。
近藤は笑いながら言った。
「じゃあ、僕は久保さんと同じバージョンで」
近藤もまた、強いアルコールを受け付けない体質だ。田中は「かしこまりました」と頷いた。
入り口近くに座る年配客は、若い常連客たちが楽しそうにカクテルを注文する様子をじっと見ていた。
「お決まりですか?」
田中が訊くと、彼は首を振った。
「いや、洋酒の名前はさっぱりわからなくてねぇ。さっきも行ったように、ここみたいなお店に無縁で生きてきたもんだから」
「私も、1年くらい前まではこういうお店、怖くては入れなかったんですよ。田中さんが親切なので、何でも質問できるようになって、すっかり図太くなりましたけれど」
すみれが話しかけた。
「僕も、アルコールが飲めないので、こういう店は敬遠していた口ですけれど、ここは居心地がよくて通っています」
夏木が続けた。
年配の客は笑い返した。
「私が若かった頃、こういう店に入ることに、その……なんというか変に浮ついていてイヤだという想いがあって、頼まれても入ろうとしなかったんだよね。バブルが弾けてからは、こちらも経済的に苦しくてそれどころじゃなかったし、結局、来そびれたままこの歳になってしまってね」
「今日、ここに足を運んだのはどうしてですか?」
近藤の質問は、他の3人も訊いてみたいことだった。
「何だろうねえ。ああ、東京駅でクリスマスの買い物をして、昔のことを思いだしたんだよな。バブル時代につきあっていた女性が、クリスマスくらいバーでカクテルを飲むようなデートをしたいと言い出して、喧嘩して別れたんだよなあ。そんなことを考えながら歩いていたら、ここの看板が目に入ってね」
「僕は、反対の方向に肩肘張って失敗しましたよ。でも、今では、ここでだけはほっとひと息しながら寛げているなあ。ね、お2人さん?」
近藤が、それでもまだ十分にキザっぽいもの言いで問うと、慣れているすみれと夏木は頷いた。
「なぜ、あれっぽっちのことで意地になったんだろうなあ。まあ、それから彼女も誰かと結婚して幸せになったらしいですし、こちらも今ではそこそこの隠退生活にたどり着けましたからねえ。そんなわけで、過去にできなかったことや、しなかったことを、1つずつやり直しているんですよ」
田中は先ほどこの客が百貨店の紙袋を大切そうに持っていたことを思い出した。
「クリスマスのお買い物にいらしたのですね」
「ああ。田舎に住む姉の孫がね、なんだかアニメのキャラクターに夢中らしくてね。東京駅の地下にあるショップで買ってきてほしいと頼まれたんだよ」
「あ、知っています。東京キャラクターストリートですよね」
すみれが頷いた。
「何だ、そりゃ?」
夏木が訊く。
「アニメやマンガの公式ショップがずらっと並んでいる商店街みたいなところなの」
「へえ? 知らなかったな。そういうものは、秋葉原にあるのかと思っていた。東京駅にねぇ」
「おや、この近くに勤めているのにあれを知らないのかい? ずいぶん前からあるよ」
近藤が若干からかうような調子で訊いた。夏木は口を尖らせる。
「僕は、日本橋駅を使うから、東京駅は新幹線に乗るときぐらいしか行かないし」
年配客が、取りなすように行った。
「僕も全然知りませんでしたよ。丸の内側の地下は行ったことがあったんですが、八重洲側があんな風になっていたのには仰天しました。そもそも八重洲側に来ることはほとんどなくて」
田中は言った。
「東京のことは、地方の方が案外よくご存じですよね」
「そうだな。姉は、僕を乗せるのが昔からうまくてね、田舎でもよくお使いに出されたものだけれど、その度に珍しい店などを知るきっかけになったよなあ。そういえば、ここもそうか。八重洲側に来なければ通らなかった道だし」
彼は、嬉しそうに言うとメニューを閉じ、田中を見て言った。
「ここはひとつ、姉にちなんだお酒でも見繕ってもらおうかな」
「それはいい。田中さんのお任せカクテルは、美味しいですよ。ま、僕のはノンアルコールだけれど」
夏木が笑う。
「何かお姉さまの思い出か、格別お好きなお味はありますか?」
田中は、少し身を乗りだして訊いた。
年配客は、少し首をひねってから、はたと思いついたように顔を上げた。
「そうそう、寒い日は、風邪をひいたわけでもないのに予防よ、なんて言って卵酒を作ってくれたなあ。僕はあれが好きでね。卵をつかったお酒なんてありますか?」
田中は頷いた。
「エッグノックという飲み物がございます。欧米では卵酒と同じように、寒い日や眠れない夜、それにクリスマスのマーケットなどで身体を温めるために飲まれているドリンクですが、ブランデーやラムなど各種のスピリッツを入れたカクテルとしてもよく飲まれています。お好みよっては、マデイラ酒やシェリーといった酒精強化ワインを使う場合もあれば、アドヴォカートという卵のリキュールで作る場合もございます」
年配客は、頭をかいた。
「ブランデーやラムはわかるけれど、あとはよくわからないな。強くてもいいけれど、甘すぎない感じの、よくある感じで作ってもらおうかな」
「かしこまりました。それではブランデー・エッグノックをお作りしましょう」
田中はいくつかのブランデーをブレンドして作る、野性味が強くコクのあるアルマニャックの瓶を手に取った。
ノン・アルコールの、または非常に弱いジンのカクテルグラスを持ち上げて、若い3人は「乾杯」と言った。
「今年も、何もしないまま1年通り過ぎちゃった感じね」
「健康で、この店に通えただけでも、大した偉業じゃないかい?」
「それは、言えるな」
年配客は、カクテルを待つ間に、若者たちの様相を眺めていた。グループではなく、ここでよく会う常連客らしい。他の客を無視して騒ぐこともなく、かといって立ち入る様子もない。居酒屋などで見慣れたグループ客たちとも違うし、彼が毛嫌いしていたバブル時代によく見たスノッブなバーの常連客のイメージとも全く違う。
カウンターでこの落ち着いたバーテンダーを囲みながら過ごす時間は、確かに心地よさそうだ。
「お待たせいたしました。ブランデー・エッグノックでございます」
淡黄色のタンブラーがすっと置かれる。これまでの彼なら「女コドモの好きそうな色だな」と言いそうなパステルカラーだが、姉に作ってもらった卵酒を思い出したので、妙に懐かしく心も躍った。
「あれ、暖かい」
カクテルというのは冷たいものだと思っていたので、思わず声が出た。
「冷たいブランデー・エッグノックをお出しすることが多いのですが、今回はお姉さまの思い出にちなみ、ホットでお作りしました。いかがでしょうか」
湯氣にわずかにスモーキーで芳醇なブランデーの香りがする。会社勤めの頃、接待をした時にホテルで飲んだ高いブランデーのことを思い出した。無理してストレートで飲んだけれど、馴染みのない味と行き慣れない場に緊張して楽しむこともなかったな。
だが、卵とホットミルクに包まれたこのブランデーの香りは、なかなかいい。我が家に居るときの懐かしさや温かさとは違うが、落ち着く。あえて言うなら、接待で飲んだブランデーは高層ビルで夜景を眺めるような場違いさを伴っていたが、このホットカクテルに隠れているブランデーは、古い民家で暖炉に暖まりながら座るような落ち着きをもたらす。
ひと口、含むと見た目ほどの甘さはなく、ふんわりとした味わいに包まれながら、ブランデーのわずかな焰が喉を通過していく。
「これは、美味いね。卵酒は甘さが強く、大人になってから飲もうと思ったことはなかったし、ブランデーはストレートがさほど美味しいと思っていなかったから、これが最初で最後のつもりで注文したんだが、これなら冬はいつでも行けそうだ」
田中は「恐れ入ります」と微笑み、3人の客はわっと喜んだ。
「じゃあ、僕も次はそれにしてもらおうかな」
近藤が言うと、残りの2人も続く。
バブルっぽの浮かれた客や小洒落た店が嫌いか。十分に洒落たバーのカウンターで、いまだにバブル期を継続している感のある言動の近藤を横で見ながら、年配客は心の中で笑った。そんなに毛嫌いする理由はどこにもなかったな。
クリスマスに洒落たバーに行きたいと主張する昔の恋人は、レッテルに縛られた可哀想な女だと思っていた。だが、レッテルに縛られていたのは自分もそうだったのだ。楽しそうな若者を横目で見ながら思う。
この冬は、ときどきここに来て、エッグノックで温まるのも悪くない。
ブランデー・エッグノッグ(brandy eggnog)
標準的なレシピ
ブランデー - 45ml
(うち15ml分をダーク・ラムにすることもあり)
シロップ - 1tsp
卵黄 - 1個
牛乳 - 適量
ナツメグ
作り方
1. 牛乳以外の材料をしっかりとシェイクする。
2. 氷を入れたタンブラーグラスに注ぎ、牛乳を加えてステアする。
3. ナツメグを使うときは仕上げに振る。
(初出:2021年12月 書き下ろし)
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師走の日々

あっという間に12月も半ば、本来やらなくてはならないことが、まだいくつも終わっていないのですけれど、「まあ、いいか」という投げやりな心持ちでいるこの頃です。
本来の心象風景は、どちらかというと下の写真に近いのですけれど、それがいきなり表示されるのもアレなので、とりあえず青空の写真を上に掲げました。

いずれにしても今年はクリスマス前に雪がとても多くて参ります。雪そのものはきれいですけれど、自動車通勤している身としては、かなり厄介なのですよ。とくに夜はつらい。先日の大雪は、たまたまオンライン業務の日にあたり助かりましたが。現在、仕事の引き継ぎ中なので無理してでも出勤しなくてはいけない日が多く雪には困ります。
若干、滅入っているのは、もちろん冬のせいだけではありません。世界(ではなくて人間社会ですかね)が、かなり終焉に近づいてきている感じがして、最初に吹き飛ばされるモブキャラ系小市民としては、ため息しか出ないのです。
数年前までは「また流しているよ」と思っていた、この時期限定で流れるヒット曲も、まるで映画『猿の惑星』でながめた自由の女神像みたいな場違いさを感じながら耳にしています。クリスマスにお祖父ちゃん、お祖母ちゃんを訪ねる娘息子夫婦と孫たちが、ワクチン接種証明を提示してマスクをして語り合うって、どんなディストピアだよとクラクラします。
世界はもう元通りにならない、電子監視社会に組み込まれる、言論の自由もなくなる、反対する者は否応なく罰される、そんな恐れの中で、「春になれば楽しい日々がまた来る」「このパンデミックが収まればまた普通の日々が戻ってくる」とは思えずに寒さと暗さに耐えるのは、なかなか厳しいものがあるのです。このあたりの感覚は、感染も少ないし、特に行動制限もされていない日本の方たちにはなかなか理解してもらえないと思います。あえて言うなら、1937年くらいにドイツ国内に住んでいた貧乏なユダヤ人の不穏な思いは、こんな感じだったのかなと思うのです。
とはいえ、今日の私は食べるものもあるし、スーパーマーケットには入れるし、雪道でスリップ事故を起こさないように氣をつけながら、ごく普通の毎日を過ごす他はないのかなと思います。
心の癒やしのために猫の毛繕いをし、来年発表しようと思っている作品を書き、今年いっぱいの週休3日制を満喫(ダラダラしつつ)して過ごしています。
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【創作 語ろう】隠れて書いていた頃の話
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隠れて書いていた頃の話

私が最初に創作をしたのは、おそらく3歳です。ようするに記憶のある最初のころからずっと「空想のお話を考える」事ばかりをしてきた、ということです。最初はもちろん文字も絵もまともに書けませんので、脳内であれこれ考えるだけ、内容も単なるおとぎ話の作り替えみたいなものでした。最初は1つの世界観をかなり長く維持していたという記憶があるのですが、肝心のストーリーはとっくに忘れてしまいました。なので、その話について恥ずかしく感じることはまったくありません。
妄想ではなくて、少なくとも手を使って何かを具現させたはじめは、小学生の4年生くらいです。クラスで一番仲のよかった女の子と、どういうきっかけでか交換日記をはじめたのですよね。あ、今の若い方は「交換日記?」とお思いになるでしょうね。今から●十年前の女子の間では、親しい子にノートに何かを書いて渡し、翌日は相手が書いて渡してくれるという謎の行為がよく行われていたのです。今ならスマホのメールでしょうけれど、同時はそんな物はなく、すべて手書き&手渡しの時代。書いたばかりなのに瞬時に返信が届いたり、既読スルーを氣にするなんてこともなく、悠長な世界でした。
たぶん、私も友人も毎日書くトピックがなかったと思われ、すぐに単なる創作マンガしりとりみたいなことしか描かなくなりました。私立学校でフランス語の授業があったのですが、そこでは固有のフランス語名をつけてもらっていたので、それぞれがその名前と同じ名前の女の子(私のところのキャラはナナ、友だちの方はリーヌでしたっけ)を主人公に(エセ外国人の)どうでもいい日常を綴るだけの作品(?)でした。鉛筆画で、几帳面だった友だちはともかく、私はコマ割りに定規も使わないズボラスタイルでした。
で、その交換日記の傍ら、自分だけでもう1つ別の(マンガ風)作品をノートにコソコソと作り始めました。思えば、あれが本当の意味での私の作品だったのかもしれませんね。内容は語るも恥ずかしい輪廻系タイムトラベラーものでした。いいんです、子供なんだし、何を描いたって!
それ以来、現在まで1度も途切れずに(妄想だけで実際には書かなかった時期は何回かありましたが)創作を続けているのですけれど、小学校の終わりから、大学に入るくらいまでは「そんなことを口にしてはいけない」と思っていました。なぜ頑なに隠していたかというと、おそらく「見せろと言われないため」でしょうね。自分のレベルが低いという自覚があって、見せたくなかったのです。
家の近くに遊ぶような友だちが居なかったことと、内向的な性格(今のかまってちゃん体質は当時はなかった)から、自由時間のほとんどを自室でゴチャゴチャと創作に使うことには何の抵抗もありませんでしたし、その時間が大好きだったのですけれど、あくまでひとり遊びでした。
これ、創作力の向上にとっては、あまりいいことではありません。この時代の私の作品は、構成、内容、技術のどれをとってもほとんど向上というものがみられませんでした。やっぱり恥ずかしい思いをして、よりいいものを書こうと努力しないと上手にはなりませんよね。
それでも、途中でマンガには見切りをつけて文章一本に絞っただけでも、マシな判断力はあったのかもしれません。
さて、この「コソコソ時代」は、いくつかの外からの働きかけで、終わりを告げました。
海外旅行に同行した友人に、電車の中やホテルでコソコソ書いていた作品が日記ではないとバレて、しかたなく読ませたのが大学2年の春休みでした。大学の文芸部に進学した高校時代の友人に誘われて、初めて同人誌に作品を投稿したのもほぼ同時期でしょうか。この頃から、ようやく「人に読まれることも意識して書く」ようになりました。
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ポケ森、まだやっています
ずいぶん前のことですが「ポケ森」こと「どうぶつの森 ポケットキャンプ」というスマホゲームをやっていると書いて、多くの方に驚かれました。ゲームなどに疎くて、専用ゲーム機やゲームセンターなどのゲームは全くやらなかった(というより、トロくてついていけず)人なので、意外に思われたのでしょうね。
で、まだやっています。かわいい服や家具をゲットしてはニヤニヤしている程度ですけれど、挫折せずに続けています。
実は専用のインスタアカウントまであって、そちらのフォロワーの方が本アカのフォロワーよりも多いという体たらく。
インスタでは普段は上の画像のごとく、ゲットしたてのかわいい家具などを使ったレイアウトも載せているのですが、私の小説の読者が見たら「これ、あれだろ」的なレイアウトもちらほち。

例えばこちらは『Infante 323 黄金の枷 』の23の庭に立つマイアをイメージしたレイアウトです。

そして、こちらはアメリカンなダイナー。つまり《Sunrise Diner》のイメージですね。
しょうもないことをやっていますが、それが楽しかったりします。
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【小説】Filigrana 金細工の心(26)スプリングソナタ -2-
サブタイトルとなっている『スプリングソナタ』は、本文中に出てくるベートーヴェンのピアノソナタのことです。後書きとともに追記でご紹介しています。
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Filigrana 金細工の心(26)スプリングソナタ -2-
窓の外を眺めると、予想していた通り、彼女が立ってこちらを眺めていた。
ライサが、きょう午後にこの街から去ることや、どこへ行こうとしているかを《監視人たち》は,もちろん把握していたが、それを彼に知らせる必要は全くなかった。だが、アントニアはそれでも、昨晩わざわざその話題を持ち出した。
傍らには小さな旅行鞄がある。その取っ手に添える左手首に金の腕輪がないことを確認して、彼の心はわずかに痛んだ。
23は、いや、当主ドン・アルフォンソは、わざわざ希望を訊きにきてくれたではないか。それだけでも十分に異例だったはずだ。自分で決めたことでもある。22は瞳を閉じた。
これで最後かと思うとひどく感傷的になった。ライサ……。お前は私の想いを決して知ることがないだろう。
それから想いを断ち切るために、大きく窓を開けた。そして窓を離れてヴァイオリンを手にとり力強く弓を引いた。明るく朗らかな響き。ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第5番ヘ長調『春』。
「珍しいのね、その曲を1人で弾きはじめるなんて」
アントニアがドアから顔を出した。外出するつもりらしい。この服装なら、私用だろう。
大きな黒い縁どりをした白いつば広の帽子を斜めに被っている。白地に大きな黒い水玉のタイトなワンピース。下手をすると下品にしか見えない柄が、これほどエレガントに見えるとは。彼はわずかに眉を上げたが、賞賛の言葉は発しなかった。いつものごとく。
「そう思うならば、外出はやめて、ここに来て伴奏しなさい」
アントニアは、この帽子を満足いく角度に傾けるために使った20分の努力のことをちらりと考えたが、引き止めてまで彼が一緒に演奏したがることは滅多にないことを思いだして、潔く帽子を脱いだ。ピアノの前に座ると、彼が時間をかけて教え込んだ、彼の信じる最高の演奏で鍵盤の上に指を滑らせた。
自由に伸びやかに弓が踊る。象牙と黒檀の上を走る指先はその音色を追い、追い越して、笑って立ち止まる。2つの楽器が軽やかに楽しく会話を広げる。
窓の外、どれほど近くても足を踏み入れられぬ、もう1つの世界に立ちすくみながら、ライサは2人の演奏を聴いていた。
メウ・セニョール。人生の時計の針を戻すことが出来たなら、私はあなたの側で静かに暮らす人生だけを目指したことでしょう。でも、そうしたとしても、あなたが私を選んでくださることはないでしょう。あなたに2人のドンナ・アントニアは必要ないのだから。
これからライサの生きていく世界はここではなく、世界中から集まったクルーが、世界各国から集まる乗客をもてなす、あの船だ。誰ひとりとしてこの街に、黄金の枷にとらわれた竜の一族が存在することを知らず、そのことが重要だとは思わないだろう。
船の上で眺めた大海原とどこまでも続く空を思いだした。どこへ行っていいのかまったくわからないほど広い空間だった。黄金の腕輪のない世界にライサは立っていた。
さようなら、メウ・セニョール。
ピアノの響きは階段を駆け上がる。ヴァイオリンはそれを追い越し、勝利を宣言する。2つの音は絡み、笑い、幸せを誇っていた。自由に、何にも制限されずに。伝統も、血縁も、許されぬ愛も、運命も、音楽だけは縛ることが出来なかった。
決して叶わぬそれぞれの愛を抱えた3つの魂が、空の彼方へと想いを羽ばたかせていく。春らしい高い空に、雲の彼方を目指して、その響きは消えていった。
(初出:2021年12月)
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